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明細書 :抗菌活性増強剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-117665 (P2016-117665A)
公開日 平成28年6月30日(2016.6.30)
発明の名称または考案の名称 抗菌活性増強剤
国際特許分類 A61K  31/438       (2006.01)
A01P   3/00        (2006.01)
A01N  43/90        (2006.01)
A01N  43/16        (2006.01)
A01N  25/00        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
A61K  31/7036      (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  36/18        (2006.01)
A61K  36/00        (2006.01)
FI A61K 31/438
A01P 3/00
A01N 43/90 103
A01N 43/90 106
A01N 43/16 A
A01N 25/00 101
A61P 31/04
A61K 31/7036
A61K 37/02
A61P 43/00 121
A61K 35/78 C
A61K 35/78 X
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2014-256974 (P2014-256974)
出願日 平成26年12月19日(2014.12.19)
発明者または考案者 【氏名】黒田 照夫
【氏名】波多野 力
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C086
4C088
4H011
Fターム 4C084AA02
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB35
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB29
4C086EA09
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB35
4C086ZC75
4C088AB39
4C088AC13
4C088BA08
4C088BA09
4C088BA10
4C088BA11
4C088BA21
4C088BA31
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA07
4C088CA14
4C088NA14
4C088ZB35
4C088ZC75
4H011AA01
4H011BA02
4H011BB08
4H011BB10
4H011BC10
4H011DA13
4H011DF04
要約 【課題】バンコマイシン耐性菌等のグリコペプチド系抗菌薬耐性菌に対するグリコペプチド系抗菌薬の抗菌活性増強剤を提供すること。
【解決手段】セスキテルペン二量体チオアルカロイドを含有する、グリコペプチド系抗菌薬耐性菌に対する、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の抗菌活性増強剤。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
一般式(1):
【化1】
JP2016117665A_000013t.gif
[式中、Rは水酸基を示し、Rは水素又は水酸基を示す]
で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイド、及び/又は一般式(2):
【化2】
JP2016117665A_000014t.gif
[式中、R及びRは独立して水素又は水酸基を示す。但し、RとRは、水素を示すことはない]
で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイドを含有する、
グリコペプチド系抗菌薬耐性菌に対する、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の抗菌活性の増強剤。
【請求項2】
一般式(1)で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイドを含有し、且つ前記Rが水酸基である、請求項1に記載の増強剤。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイド及び/又は前記一般式(2)で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイドを含有するコウホネ属植物抽出物を含有する、請求項1又は2に記載の増強剤。
【請求項4】
対象となる前記グリコペプチド系抗菌薬耐性菌が、グリコペプチド系抗菌薬の最小生育阻止濃度が16μg/mL以上の菌である、請求項1~3のいずれかに記載の増強剤。
【請求項5】
グリコペプチド系抗菌薬の抗菌活性増強剤である、請求項1~4のいずれかに記載の増強剤。
【請求項6】
対象となる前記グリコペプチド系抗菌薬耐性菌が、アミノグリコシド系抗菌薬に対しても耐性を有する菌である、請求項1~5のいずれかに記載の増強剤。
【請求項7】
対象となる前記グリコペプチド系抗菌薬耐性菌が、アミノグリコシド系抗菌薬の最小生育阻止濃度が4μg/mL以上の菌である、請求項6に記載の増強剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の増強剤、並びにグリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬を含有する抗菌剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌活性増強剤、より具体的にはグリコペプチド系抗菌薬耐性菌に対する、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の抗菌活性増強剤に関する。さらに、本発明は、これらの抗菌活性増強剤を含有する抗菌剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
細菌感染症に対しては、通常、抗菌薬の作用により原因菌(黄色ブドウ球菌、腸球菌、緑膿菌、病原性大腸菌等)を静菌又は殺菌するという治療方法が採られる。ところが、抗菌薬を用いることによって、その抗菌薬に対する薬剤耐性菌が出現することとなる。例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、抗菌薬が頻用される病院において出現し、集団感染の起因菌となることが知られている。
【0003】
MRSAに対する第1選択薬としてはバンコマイシンが知られているが、近年、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)等のバンコマイシン耐性菌の出現が報告されている。そこで、例えばバンコマイシン耐性菌に対するバンコマイシンの抗菌活性を増強することができれば、この耐性菌に対抗する有効な手段になると考えられる。
【0004】
一方、スイレン科コウホネ属植物に含まれるセスキテルペン二量体チオアルカロイドは、発毛作用(特許文献1)、がん細胞浸潤抑制作用(特許文献2)、マラリア原虫増殖抑制作用(特許文献3)等の作用を有すること、さらには抗菌作用(特許文献4)を有することが報告されている。しかしながら、バンコマイシン耐性菌に対するバンコマイシンの抗菌活性を増強できることについては未だ知られていない。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2002-47146号公報
【特許文献2】特開2003-252779号公報
【特許文献3】特開2007-204450号公報
【特許文献4】特開2014-148495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、グリコペプチド系抗菌薬(バンコマイシン等)耐性菌に対するグリコペプチド系抗菌薬の抗菌活性増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意研究した結果、スイレン科コウホネ属植物に含まれるセスキテルペンン二量体チオアルカロイドが、グリコペプチド系抗菌薬耐性菌に対するグリコペプチド系抗菌薬の抗菌活性を増強できることを見出した。さらに、このアルカロイドが当該耐性菌に対するアミノグリコシド系抗菌薬の抗菌活性をも、顕著に増強できることを見出した。これらの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1.一般式(1):
【0010】
【化1】
JP2016117665A_000002t.gif

【0011】
[式中、Rは水酸基を示し、Rは水素又は水酸基を示す]
で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイド、及び/又は一般式(2):
【0012】
【化2】
JP2016117665A_000003t.gif

【0013】
[式中、R及びRは独立して水素又は水酸基を示す。但し、RとRは、水素を示すことはない]
で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイドを含有する、
グリコペプチド系抗菌薬耐性菌に対する、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の抗菌活性の増強剤。
【0014】
項2.一般式(1)で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイドを含有し、且つ前記Rが水酸基である、項1に記載の増強剤。
【0015】
項3.前記一般式(1)で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイド及び/又は前記一般式(2)で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイドを含有するコウホネ属植物抽出物を含有する、項1又は2に記載の増強剤。
【0016】
項4.対象となる前記グリコペプチド系抗菌薬耐性菌が、グリコペプチド系抗菌薬の最小生育阻止濃度が16μg/mL以上の菌である、項1~3のいずれかに記載の増強剤。
【0017】
項5.グリコペプチド系抗菌薬の抗菌活性増強剤である、項1~4のいずれかに記載の増強剤。
【0018】
項6.対象となる前記グリコペプチド系抗菌薬耐性菌が、アミノグリコシド系抗菌薬に対しても耐性を有する菌である、項1~5のいずれかに記載の増強剤。
【0019】
項7.対象となる前記グリコペプチド系抗菌薬耐性菌が、アミノグリコシド系抗菌薬の最小生育阻止濃度が4μg/mL以上の菌である、項6に記載の増強剤。
【0020】
項8.項1~7のいずれかに記載の増強剤、並びにグリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬を含有する抗菌剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明の抗菌活性増強剤によれば、グリコペプチド系抗菌薬耐性菌に対する、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の抗菌活性を顕著に増強することができる。一般的に、細菌感染症の治療には、抗菌薬の最小生育阻止濃度が一定以下であることが求められるところ、本発明の増強剤を用いれば、上記耐性菌に対するグリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の最小生育阻止濃度を、細菌感染症の治療が有効な濃度にまで下げることも可能となる。
【0022】
また、セスキテルペン二量体チオアルカロイドは単独で抗菌活性を有することが知られているものの(特許文献4)、副作用の危険性をより低減する観点からはより低濃度での使用が好ましいという一般的知見に基づけば、より低濃度での使用が望ましい。本発明の抗菌活性増強剤は、セスキテルペン二量体チオアルカロイドの濃度が単独では抗菌活性を発揮できない濃度であっても、その抗菌活性増強作用を発揮できる。したがって、本発明の抗菌活性増強剤をグリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬と併用することによって、セスキテルペン二量体チオアルカロイドをより低濃度で使用しつつも、対象菌に対する抗菌作用を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】Nuphar japonicumからセスキテルペン二量体チオアルカロイドを抽出するフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.抗菌活性増強剤
本発明の抗菌活性増強剤は、一般式(1):

【0025】
【化3】
JP2016117665A_000004t.gif

【0026】
[式中、Rは水酸基を示し、Rは水素又は水酸基を示す]
で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイド、及び/又は一般式(2):

【0027】
【化4】
JP2016117665A_000005t.gif

【0028】
[式中、R及びRは独立して水素又は水酸基を示す。但し、RとRは、水素を示すことはない]
で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイドを含有する、
グリコペプチド系抗菌薬耐性菌に対する、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の抗菌活性増強剤である。

【0029】
一般式(1)中、Rは水酸基を示す。

【0030】
一般式(1)中、Rは水素又は水酸基を示す。Rは好ましくは例えば水酸基である。

【0031】
一般式(2)中、R及びRは独立して水素又は水酸基を示す。但し、RとRは、水素を示すことはない。

【0032】
本発明の抗菌活性増強剤に含有されるセスキテルペン二量体チオアルカロイドとして、好ましくは一般式(1)で表されるセスキテルペン二量体チオアルカロイドが挙げられる。

【0033】
セスキテルペン二量体チオアルカロイドは、公知の物質であり、その製造方法も知られているが(特許文献1~3)、特定の抗菌活性増強作用(すなわち、グリコペプチド系抗菌薬耐性菌に対する、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の抗菌活性増強作用)は、本発明者が新たに見出した性質である。セスキテルペン二量体チオアルカロイドは、例えば、コウホネ属植物から公知の手法に従って抽出することができる。したがって、本発明の抗菌活性増強剤には、このようにして抽出された、セスキテルペン二量体チオアルカロイドを含有するコウホネ属植物抽出物を含有する抗菌活性増強剤も包含される。コウホネ属植物としては、例えばコウホネ(Nuphar japonicum DC.)、ネムロコウホネ(Nuphar pumilum (TIMM.) DC.)のほか、Nuphar luteum、ベニコウホネ(N. japonicum DC. froma fubrotinctum (CASP.) Kitam)、ヒメコウホネ(N. subintegerrimum Makino)、オコゼコウホネ(N. pumilum DC. var. ozeense (MIKI) Hara)、オグラコウホネ(N. oguraense Miki)等が挙げられる。

【0034】
抗菌活性を増強させる対象抗菌薬は、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬である。これらの中でも、好ましくはグリコペプチド系抗菌薬が挙げられる。

【0035】
対象抗菌薬であるグリコペプチド系抗菌薬としては、例えばバンコマイシン、テイコプラニン等が挙げられ、好ましくはバンコマイシンが挙げられる。

【0036】
対象抗菌薬であるアミノグリコシド系抗菌薬としては、例えば、アルベカシン、アミカシン、ストレプトマイシン、カナマイシン、トブラマイシン、ジベカシン、ベカナマイシン、イセパマイシン、ゲンタマイシン、フラジオマイシン、リボスタマイシン、ネオマイシン等が挙げられ、好ましくはアルベカシン、アミカシン等が挙げられる。

【0037】
対象抗菌薬は、1種でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。

【0038】
上記対象抗菌薬の対象菌(以下、単に「対象菌」と示すこともある)は、グリコペプチド系抗菌薬耐性菌である。グリコペプチド系抗菌薬に対する耐性菌であるか否かは、公的な分類基準に基づいて、例えば米国のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)によって制定された分類基準に基づいて分類することができる。

【0039】
対象菌のグリコペプチド系抗菌薬に対する耐性の程度としては、グリコペプチド系抗菌薬の最小生育阻止濃度が、例えば16μg/mL以上、好ましくは64μg/mL以上、より好ましくは128μg/mL以上、よりさらに好ましくは256μg/mL以上であることができる。本発明の抗菌活性増強剤は、グリコペプチド系抗菌薬に対する耐性が上記のように高い場合に、抗菌活性増強作用をより顕著に発揮することができる。

【0040】
対象菌が耐性を有するグリコペプチド系抗菌薬としては、例えばバンコマイシン、テイコプラニン等が挙げられ、好ましくはバンコマイシンが挙げられる。対象菌は、これらの1種のみに対して耐性を有していてもよいし、2種以上に対して耐性を有していてもよい。

【0041】
本発明の抗菌活性増強剤の対象菌は、抗菌活性増強作用をより顕著に発揮することができるという観点からは、アミノグリコシド系抗菌薬に対しても耐性を有することが好ましい。アミノグリコシド系抗菌薬に対する耐性菌であるか否かは、公的な分類基準に基づいて、例えば米国のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)によって制定された分類基準に基づいて分類することができる。

【0042】
対象菌のアミノグリコシド系抗菌薬に対する耐性の程度としては、アミノグリコシド系抗菌薬の最小生育阻止濃度が、例えば32μg/mL以上、好ましくは64μg/mL以上、より好ましくは128μg/mL以上、よりさらに好ましくは256μg/mL以上であることができる。本発明の抗菌活性増強剤は、アミノグリコシド系抗菌薬に対する耐性が上記のように高い菌に対して、抗菌活性増強作用をより顕著に発揮することができる。

【0043】
対象菌が耐性を有するアミノグリコシド系抗菌薬としては、例えば、アルベカシン、アミカシン、ストレプトマイシン、カナマイシン、トブラマイシン、ジベカシン、ベカナマイシン、イセパマイシン、ゲンタマイシン、フラジオマイシン、リボスタマイシン、ネオマイシン等が挙げられ、好ましくはアルベカシン、アミカシン等が挙げられる。対象菌は、これらの1種のみに対して耐性を有していてもよいし、2種以上に対して耐性を有していてもよい。

【0044】
本発明の抗菌活性増強剤の対象菌の種(species)としては、野生株がグリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の抗菌作用を受け得る種である限り特に限定されず、グラム陽性菌、グラム陰性菌等を広く採用することができる。グラム陽性菌としては、例えば、ブドウ球菌属菌(例えば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)、腸球菌(例えばエンテロコッカス属菌)、レンサ球菌属菌(例えば双球菌、4連、8連球菌等、肺炎球菌、溶血連鎖球菌)、バシラス属菌(例えば炭疽菌)、クロストリジウム属菌(例えば破傷風菌、ボツリヌス菌)、コリネバクテリウム属菌(例えばジフテリア菌)、リステリア属菌、ラクトバシラス属菌、ビフィドバクテリウム属菌、プロピオニバクテリウム属菌(例えばニキビの原因となるアクネ菌)、放線菌等が挙げられる。グラム陰性菌としては、例えば、大腸菌、サルモネラ属菌、シュードモナス属菌(例えば緑膿菌)、ヘリコバクター属菌、インフルエンザ菌、ナイセリア属菌(例えば淋菌、髄膜炎菌)が挙げられる。これらの中でも、より確実に本発明の抗菌活性増強作用を発揮できるという観点から、好ましくはグラム陽性菌、より好ましくは腸球菌及び/又はブドウ球菌属菌、よりさらに好ましくは腸球菌が挙げられる。

【0045】
本発明の抗菌活性増強剤中の、セスキテルペン二量体チオアルカロイドの含有量は、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の抗菌活性を増強できる限り特に限定されない。例えば、0.000001~100重量%、好ましくは0.00001~80重量%であることができる。本発明の抗菌活性増強剤は、セスキテルペン二量体チオアルカロイドが単独で対象菌に対して抗菌作用を発揮できる濃度よりも低い濃度で使用されても、例えば対象菌が存在する領域におけるセスキテルペン二量体チオアルカロイドの濃度が対象菌に対するMIC以下となるように使用されても、その抗菌活性増強作用を発揮することができる。

【0046】
本発明の抗菌活性増強剤の使用分野は、細菌に対する抗菌を目的とするものであれば特に限定されない。例えば、医療分野、化粧分野、食品分野、洗浄分野、口腔分野、表面抗菌分野等の分野において用いることができる。

【0047】
本発明の抗菌活性増強剤の使用態様は、対象菌が存在する領域において、本発明の抗菌活性増強剤とグリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬とが共存状態になる限り、特に限定されない。例えば、本発明の抗菌活性増強剤を対象菌が存在する領域(例えば皮膚)に適用(例えば塗布)した後、該領域に上記抗菌薬を適用してもよいし、上記抗菌薬を対象菌が存在する領域に適用した後、該領域に本発明の抗菌活性増強剤を適用してもよいし、本発明の抗菌活性増強剤と上記抗菌薬を混合してから上記領域に適用してもよい。

【0048】
本発明の抗菌活性増強剤は、使用用途及び態様に応じて、添加剤を含有する組成物であることができる。添加剤としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤、防錆剤、金属防食剤、消泡剤、防錆剤、極圧添加剤、金属防食剤、消泡剤、染料等が挙げられる。使用目的に応じて、これらの添加剤のうち、薬学的に許容される成分、香粧品学的に許容される成分を選択して使用することが好ましい。本発明の抗菌活性増強剤は、使用目的に応じて、慣用の方法により適切な剤形(錠剤、丸剤、散剤、液剤、注射剤、懸濁剤、乳剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤等)に調製して使用することができる。

【0049】
本発明の抗菌活性増強剤を医薬目的で使用する場合、又は医薬組成物に配合して使用する場合、投与方法や投与量等は、セスキテルペン二量体チオアルカロイドの含有割合、剤形、投与対象の年齢・体重などにより適宜選択される。

【0050】
2.抗菌剤
本発明は、本発明の抗菌活性増強剤、並びにグリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬を含有する抗菌剤(以下、「本発明の抗菌剤」と示すこともある)にも関する。

【0051】
対象菌、対象菌の種、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬、セスキテルペン二量体チオアルカロイド及びその含有割合、添加剤、剤形、投与方法、投与量等は、上記「1.抗菌活性増強剤」と同様である。

【0052】
本発明の抗菌剤中の、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の含有量は、特に限定されない。例えば、0.000001~70重量%、好ましくは0.00001~50重量%であることができる。本発明の抗菌剤は、グリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬が単独で対象菌に対して抗菌作用を発揮できる濃度よりも低い濃度で使用されても、例えば対象菌が存在する領域におけるグリコペプチド系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬の濃度が対象菌に対するMIC以下となるように使用されても、その抗菌作用を発揮することができる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
実施例1:コウホネ抽出物の抗菌活性の測定、及び活性成分の同定
図1のフローチャートに従って、Nuphar japonicum(和名:コウホネ)の根茎を乾燥させた生薬であるセンコツ(高砂薬業(株)、Lot番号:061207)から抽出液を得て、該抽出液を分画した。さらに各画分の抗菌活性を測定した。図1のフローチャートの各ステップ(A、B、C)の詳細については下記のとおりである。
【実施例】
【0055】
実施例1-1:ステップA(アルカロイド画分の取得)
センコツ4.0 kgをミキサーで粉砕し、該粉砕物に1 kgにつき約20 Lの100% メタノールを添加し、室温で2時間静置することにより抽出を行った。得られた抽出液を減圧ろ過し、ろ液から溶媒を留去し、323 gの乾燥物(メタノール抽出液乾燥物)を得た。100% メタノール抽出物102 gをミキサーにより粉砕後、該粉砕物を約1 Lの1 M 塩酸に懸濁し、該懸濁液を分液ロートに移した。分液ロートにさらに約1 Lのクロロホルムを加え、撹拌して静置した後、クロロホルム層を除去した(クロロホルム層の着色が薄くなることを目安として、この操作を2回行った)。クロロホルム層が除去された後に残った水層をビーカーに移し、ここにアンモニア水を適量加えることによりpHを約10に調整した後、分液ロートに移した。分液ロートにさらに水層とほぼ同量の酢酸エチルを加え、撹拌して静置した後、酢酸エチル層を除去した(酢酸エチル層の着色が薄くなることを目安として、この操作を計8回行った)。なお、水層と酢酸エチル層のどちらにも移行しない不溶物を別途回収した。得られた各種有機溶媒層及び水層、及び不溶物を、それぞれエバポレーターによって溶媒留去し、乾燥させた。不溶物はデシケーターを用いて乾燥させた。その結果、クロロホルム層から10.1 gの乾燥物(クロロホルム画分乾燥物)、酢酸エチル層から9.0 gの乾燥物(酢酸エチル画分乾燥物)、水層から113 gの乾燥物(水画分乾燥物)、不溶物から64.3 gの乾燥物(不溶画分乾燥物)が得られた。
【実施例】
【0056】
各乾燥物のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する最小生育阻止濃度(MIC)を、微量液体希釈法により測定した。具体的には次のように行った。それぞれの乾燥物を培地(Mueller Hinton(MH)培地(Difco):肉抽出エキス2.0 g/L, カゼイン酸消化物 17.5 g/L, 可溶性デンプン1.5 g/L)で2倍ずつ希釈した希釈系列を作成し、各培地100μLに約104 CFU/wellとなるように被検菌を植菌した。植菌後、37℃で24時間静置した後、培地の懸濁の有無を評価した。培地の懸濁が無い(菌の生育が認められない)最小の濃度を最小生育阻止濃度(MIC)とした。結果を表1に示す。
【実施例】
【0057】
【表1】
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【実施例】
【0058】
表1より、酢酸エチル画分乾燥物に、抗菌活性が認められた。センコツから抽出された酢酸エチル画分は、互いに構造が非常によく類似したセスキテルペン二量体チオアルカロイド(6-ヒドロキシチオビヌファリジン、6,6'-ジヒドロキシチオビヌファリジン、6-ヒドロキシチオヌフルチンB、及び6'-ヒドロキシチオヌフルチンB)を多量に含むことが知られている。このことから、これらのセスキテルペン二量体チオアルカロイドが抗菌活性を有することが示唆された。
【実施例】
【0059】
実施例1-2:ステップB(アルカロイド画分の精製)
酢酸エチル画分乾燥物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。具体的には次のように行った。クロロホルムで膨潤させたシリカゲル (70-230 mesh, 60Å, SIGMA-ALDRICH Co.)約400 mlを、内径40 mmのオープンカラムに充填した。酢酸エチル画分乾燥物8.17 gを少量の混合溶媒1(クロロホルム:酢酸エチル:ジエチルアミン=20:1:1(v/v))に溶解し、該溶解液をシリカゲルが充填されたカラムに通液することにより、酢酸エチル画分乾燥物の成分をシリカゲルカラムに保持させた。その後、溶出液として、混合溶媒1を1200 ml通液し、次いで混合溶媒2(メタノール:ジエチルアミン=10:1(v/v))を1200 ml通液した。カラムから溶出された液を800 mlずつ3つに分けて回収し、溶出された順にfr. 1、fr. 2、fr. 3とした。各画分から、減圧下で溶媒を留去した。その結果、fr. 1から5.56 gの乾燥物(fr. 1乾燥物)、fr. 2から1.27 gの乾燥物(fr. 2乾燥物)、fr. 3から1.30gの乾燥物(fr. 3乾燥物)が得られた。
【実施例】
【0060】
各乾燥物のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する最小生育阻止濃度(MIC)を、実施例1-1と同様に測定した。結果を表2に示す。表2より、fr. 1乾燥物に最も強い抗菌活性が認められた。
【実施例】
【0061】
【表2】
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【実施例】
【0062】
実施例1-3:ステップC(アルカロイド画分の精製)
fr. 1乾燥物をさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。具体的には次のように行った。混合溶媒3(ノルマルヘキサン:酢酸エチル:アンモニア水=75:25:1(v/v)))で膨潤させたシリカゲル(70-230 mesh, 60 Å,SIGMA-ALDRICH Co.) 約350 mLを、内径44mmのオープンカラムに充填した。fr. 1乾燥物 0.92 gを約2 mLの混合溶媒3に溶解し、該溶解液をシリカゲルが充填されたカラムに通液することにより、fr. 1乾燥物の成分をシリカゲルカラムに保持させた。その後、溶出液として、混合溶媒3を1000 ml通液し、次いで混合溶媒4(メタノール:アンモニア水=100:1(v/v))を700 ml通液した。カラムから溶出された液を、順次、順相薄層クロマトグラフィーで展開し、スポットのパターンによって10個の画分に分けた(fr. 1-I~fr. 1-X)。各画分から、減圧下で溶媒を留去した。その結果、fr. 1-Iから34.9 mgの乾燥物(fr. 1-I乾燥物)、fr. 1-IIから51.9 mgの乾燥物(fr. 1-II乾燥物)、fr. 1-IIIから91.8 mgの乾燥物(fr. 1-III乾燥物)、fr. 1-IVから36.4 mgの乾燥物(fr. 1-IV乾燥物)、fr. 1-Vから50.6 mgの乾燥物(fr. 1-V乾燥物)、fr. 1-VIから73.7 mgの乾燥物(fr. 1-VI乾燥物)、fr. 1-VIIから14.5 mgの乾燥物(fr. 1-VII乾燥物)、fr. 1-VIIIから159.9 mgの乾燥物(fr. 1-VIII乾燥物)、fr. 1-IXから167.5 mgの乾燥物(fr. 1-IX乾燥物)、fr. 1-Xから1276.3 mgの乾燥物(fr. 1-X乾燥物)が得られた。
【実施例】
【0063】
各乾燥物のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する最小生育阻止濃度(MIC)を、実施例1-1と同様に測定した。結果を表3に示す。表3より、fr. 1-VIII乾燥物に最も強い抗菌活性が認められた。
【実施例】
【0064】
【表3】
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【実施例】
【0065】
実施例1-4:活性成分の同定
薄層クロマトグラフィーの結果から、fr.1-VIIIは単一の化合物であると考えられたため、1H-NMR解析により構造を決定した。その結果、表4に示すケミカルシフト値が得られた。この値は、セスキテルペン二量体チオアルカロイドの一種である6,6'-ジヒドロキシチオビヌファリジン(6,6’-dihydroxythiobinupharidine)のものとほぼ一致した。また比旋光度も一致した。なお、表4中、6,6’-dihydroxythiobinupharidineのケミカルシフト値等は、Yoshikawa M. et al., HETEROCYCLES, 1997, Vol. 45, No. 9, pp1815-1824より抜粋した。以下の実験では、fr. 1-VIII乾燥物を6,6'-ジヒドロキシチオビヌファリジンとして用いた。
【実施例】
【0066】
【表4】
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【実施例】
【0067】
互いに構造が非常によく類似したセスキテルペン二量体チオアルカロイドを多量に含む画分に強い抗菌活性が認められたこと(実施例1-1)、及び現に該アルカロイドの一種である6,6'-ジヒドロキシチオビヌファリジンに抗菌活性が見出されたこと(実施例1-3、及び1-4)から、コウホネに含まれるセスキテルペン二量体チオアルカロイドは抗菌活性を有することが強く示唆された。
【実施例】
【0068】
実施例2:セスキテルペン二量体チオアルカロイドによる抗菌活性増強作用の解析
セスキテルペン二量体チオアルカロイドによる、各種抗生物質の抗菌活性増強作用を調べた。具体的には、バンコマイシン(グリコペプチド系抗菌薬)、アミカシン(アミノグリコシド系抗菌薬)、及びアルベカシン(アミノグリコシド系抗菌薬)の、バンコマイシン感受性腸球菌(VSE)及びバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する最小生育阻止濃度(MIC)を、セスキテルペン二量体チオアルカロイドである6,6'-ジヒドロキシチオビヌファリジン(DTBN)を単独では抗菌活性を示さない濃度(1 μg/mL)で加えた場合(+)、及び全く加えない場合(-)それぞれの場合について、実施例1-1と同様に測定した。さらに、測定値に基づいて、下記式に基づいて、FIC indexを算出した。FIC indexがより低い程、セスキテルペン二量体チオアルカロイドの増強活性がより強いことを意味する。FIC indexが0.5以下であれば相乗効果が発揮されているとみなすことができる。
【実施例】
【0069】
【数1】
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【実施例】
【0070】
腸球菌としてEnterococcus faeciumを用いた場合の結果を表5に、腸球菌としてEnterococcus faecalisを用いた場合の結果を表6に示す。表5及び6に示される株について、ATCC及びNCTCで始まる名称の株はATCC、NCTC、又は理化学研究所バイオリソースセンターより購入した株であり、その他の株は臨床分離されたものを譲り受けた株である。
【実施例】
【0071】
【表5】
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【実施例】
【0072】
【表6】
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【実施例】
【0073】
表5及び6に示されるように、6,6'-ジヒドロキシチオビヌファリジンは、バンコマイシン耐性菌に対する各種抗生物質(バンコマイシン、アミカシン、及びアルベカシン)の抗菌活性を顕著に増強した。
図面
【図1】
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