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明細書 :B型肝炎ウイルス感染症治療剤及びB型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-149669 (P2017-149669A)
公開日 平成29年8月31日(2017.8.31)
発明の名称または考案の名称 B型肝炎ウイルス感染症治療剤及びB型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物
国際特許分類 A61K  31/445       (2006.01)
A61P  31/20        (2006.01)
A61P   1/16        (2006.01)
C12N   9/99        (2006.01)
C12N   7/00        (2006.01)
C12N   9/26        (2006.01)
FI A61K 31/445 ZNA
A61P 31/20
A61P 1/16
C12N 9/99
C12N 7/00
C12N 9/26 Z
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2016-033156 (P2016-033156)
出願日 平成28年2月24日(2016.2.24)
発明者または考案者 【氏名】村上 善基
【氏名】早川 路代
【氏名】梅山 秀明
出願人 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
【識別番号】500431689
【氏名又は名称】梅山 秀明
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
【識別番号】100139686、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 史朗
審査請求 未請求
テーマコード 4B050
4B065
4C086
Fターム 4B050DD11
4B050GG02
4B050LL03
4B065AA96X
4B065BB13
4B065BC12
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA75
4C086ZB33
要約 【課題】疎水性が高く、ウイルス皮膜の糖鎖形成阻害作用による効果的な抗B型肝炎ウイルス作用を有する治療剤を提供する。
【解決手段】本発明のB型肝炎ウイルス感染症治療剤は、下記一般式(1)で表される化合物、又はその薬学的に許容できる塩を有効成分として含有することを特徴とする。
[化1]
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(式中、R、R、R及びRは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子、水酸基又は炭素数1~10のアルキル基であり、Zは一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)で表される基である。)
[化2]
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【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物、又はその薬学的に許容できる塩を有効成分として含有することを特徴とするB型肝炎ウイルス感染症治療剤。
【化1】
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(式中、R、R、R及びRは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子、水酸基又は炭素数1~10のアルキル基であり、Zは一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)で表される基である。)
【化2】
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(式中、R21は炭素数1~10のアルキル基であり、R31は水素原子又はハロゲン原子であり、R32は水素原子又は炭素数1~10のアルコシキ基であり、R41はハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、n41は0~7の整数であり、n41が2以上である場合、複数個のR41は互いに同一でも異なっていてもよい。式中、アスタリスクは結合部位を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)中、Zがp-tert-ブチルシクロヘキシル基である請求項1に記載のB型肝炎ウイルス感染症治療剤。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物が、1-(4-tert-butylcyclohexyl)oxy-3-(2,6-dimethylpiperidin-1-yl)propan-2-ol又は1-[3-(4-tert-butylcyclohexyl)oxy-2-hydroxypropyl]-2,2,6,6-tetramethylpiperidin-4-olである請求項1又は2に記載のB型肝炎ウイルス感染症治療剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のB型肝炎ウイルス感染症治療剤、並びに薬学的に許容できる担体及び希釈剤のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とするB型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルス感染症治療剤及びB型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国におけるB型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus;HBV)感染者は全人口の1.5%程度と推定される。HBVに感染すると、高率に慢性化し、年余の経過を経て、肝硬変又は肝細胞癌に至る。現状の慢性B型肝炎におけるウイルス除去率は満足するものではないが、これはウイルス感染後の宿主の免疫応答及び持続感染のメカニズムが十分に明らかでないためである。そのため、慢性B型肝炎の安全で有効な薬剤の開発が急務である。
【0003】
慢性B型肝炎の治療法としては、例えば、HBVの複製を阻害する逆転写酵素阻害剤である核酸アナログ製剤を投与する方法と、直接ウイルスを殺すのでなく、ウイルス増殖を阻害する酵素を合成し、抗ウイルス作用を発揮させるインターフェロン(interferon;IFN)療法が挙げられる。大まかには、IFN療法は一般に年齢が35歳程度までの若年者で、肝炎の程度の軽い(肝硬変になっていない)患者に対して適用され、核酸アナログ製剤を投与する方法は 35才以上の非若年者、35才未満であっても肝炎の進行した患者に対して適用される。
【0004】
HBVはDNAウイルスであり、宿主の核内でcccDNAと呼ばれる中間複製体を形成する。核酸アナログ製剤は、ウイルスがcccDNAをもとにprogenomic RNA(プレゲノムRNA)に転写され、その後逆転写酵素によってウイルスDNAに転写されるポイントを阻害する(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
一方、IFN療法は、IFNによって自己免疫力を強めて、激しい肝炎を起こしやすいHBe抗原陽性のHBVを、比較的おとなしいHBe抗体陽性のHBVに変えることが治療の主な目的である。HBe抗原とは、HBVの外殻の内部に存在し、HBVを構成するタンパク質の一つであるHBc抗原の一部が切り離されてできた抗原であり、宿主の肝細胞から血管中へ放出される可溶化タンパク質である。また、HBe抗体とは、HBe抗原に対する抗体であって、HBVの感染を防御する働きはなく、ウイルス量と増殖が落ち着いている状態で、感染力が弱いことを示す指標となる。
【0006】
IFN療法では、治療終了後のHBe抗原セロコンバージョンやHBs抗原量の低下又は消失が期待できることから、治療中のHBV DNA量低下という目標を設定せず、一定期間(24~48週)の治療を完遂することが望ましい(例えば、非特許文献2参照。)。セロコンバージョン(Seroconversion;Sero=血清、conversion=転換又は変更)とは、HBe抗原がマイナスであって、HBe抗体がプラスになった状態であり、B型肝炎ウイルスの活動が抑え込まれた状態を意味する。また、HBs抗原とは、HBVの外殻を構成するタンパク質の一つであって、HBV感染の有無を判定する際に調べられる抗原である。
【0007】
また、HBs抗原は宿主の肝細胞内において、核から小胞体(endoplasmic reticulum;ER)に移行する際に、α-グルコシダーゼにより糖鎖を付加することが知られている。インフルエンザやC型肝炎の治療では、このポイントを阻害するα-グルコシダーゼ阻害剤(α-glucosidase inhibitor;αGI)の開発が注目されていた(例えば、非特許文献3及び4参照。)。また、αGIは、糖尿病薬として広く用いられており、小腸粘膜で糖の過剰な吸収を抑制することを目的としている(例えば、非特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Levrero M., et al., “Control of cccDNA function in hepatitis B virus infection” , J. Hepatol., 51(3), 581-592, 2009.
【非特許文献2】日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会、「B型肝炎治療ガイドライン」、2014年。
【非特許文献3】Chapel C., et al., “Reduction of the infectivity of hepatitis C virus pseudoparticles by incorporation of misfolded glycoproteins induced by glucosidase inhibitors”, J. Gen. Virol., 88, 1133-1143, 2007.
【非特許文献4】Saito T., et al., “Effect of Glycosylation and Glucose Trimming Inhibitors on the Influenza A Virus Glycoproteins”, Virology, 62(6), 575-581, 2000.
【非特許文献5】日本糖尿病対策推進会議、「糖尿病治療のエッセンス」、2012年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
核酸アナログ製剤は、ウイルス複製抑制効果は高いが、核内の中間複製体に対する影響がないため、核酸アナログ製剤による単独療法では、治療中断後に再発率が高くなる傾向がある。そのため、核酸アナログ製剤の長期投与が余儀なくされる。
また、IFN療法では、HBVが増殖せず肝炎が沈静化する症例もあるが、IFNが効かずにHBe抗原が陰性化しない症例、IFNを中止するとHBVが再度増えて肝炎が再燃する症例も多く、IFN療法の奏功率は30~40%と低い。
【0010】
また、インフルエンザやC型肝炎の治療では、αGIよりもウイルスタンパク質分解阻害剤やウイルスRNA合成酵素阻害剤等が臨床的に奏功するため、αGIの開発が進まなかった。さらに、従来のαGIは、糖尿病において、小腸粘膜で薬剤が作用しやすくなるように親水性の構造をとっているため、HBVの治療では細胞内へ薬剤が移行しにくい。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、疎水性が高く、ウイルス皮膜の糖鎖形成阻害作用による効果的な抗B型肝炎ウイルス作用を有する治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、疎水性が高く、α-グルコシダーゼ阻害作用を有する低分子化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]下記一般式(1)で表される化合物、又はその薬学的に許容できる塩を有効成分として含有することを特徴とするB型肝炎ウイルス感染症治療剤。
【0014】
【化1】
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【0015】
(式中、R、R、R及びRは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子、水酸基又は炭素数1~10のアルキル基であり、Zは一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)で表される基である。)
【0016】
【化2】
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【0017】
(式中、R21は炭素数1~10のアルキル基であり、R31は水素原子又はハロゲン原子であり、R32は水素原子又は炭素数1~10のアルコシキ基であり、R41はハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、n41は0~7の整数であり、n41が2以上である場合、複数個のR41は互いに同一でも異なっていてもよい。式中、アスタリスクは結合部位を示す。)
[2]前記一般式(1)中、Zがp-tert-ブチルシクロヘキシル基である[1]に記載のB型肝炎ウイルス感染症治療剤。
[3]前記一般式(1)で表される化合物が、1-(4-tert-butylcyclohexyl)oxy-3-(2,6-dimethylpiperidin-1-yl)propan-2-ol又は1-[3-(4-tert-butylcyclohexyl)oxy-2-hydroxypropyl]-2,2,6,6-tetramethylpiperidin-4-olである[1]又は[2]に記載のB型肝炎ウイルス感染症治療剤。
[4 ][1]~[3]のいずれか一つに記載のB型肝炎ウイルス感染症治療剤、並びに薬学的に許容できる担体及び希釈剤のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とするB型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明のB型肝炎ウイルス感染症治療剤によれば、HBVを効率よく排除し、慢性B型肝炎を安全かつ効果的に治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus;HBV)の複製機序を示す概略図である。
【図2】(A)実施例1におけるαGI5のα-グルコシダーゼへのドッキング構造をシミュレーションした模式図である。(B)実施例1におけるαGI5のα-グルコシダーゼへの結合サイトを分子表面で表示したドッキング構造をシミュレーションした模式図である。
【図3】(A)実施例1におけるαGI6のα-グルコシダーゼへのドッキング構造をシミュレーションした模式図である。(B)実施例1におけるαGI6のα-グルコシダーゼへの結合サイトを分子表面で表示したドッキング構造をシミュレーションした模式図である。
【図4】(A)実施例1におけるαGI7のα-グルコシダーゼへのドッキング構造をシミュレーションした模式図である。(B)実施例1におけるαGI7のα-グルコシダーゼへの結合サイトを分子表面で表示したドッキング構造をシミュレーションした模式図である。
【図5】(A)実施例1におけるαGI13のα-グルコシダーゼへのドッキング構造をシミュレーションした模式図である。(B)実施例1におけるαGI13のα-グルコシダーゼへの結合サイトを分子表面で表示したドッキング構造をシミュレーションした模式図である。
【図6】(A)実施例1におけるαGI14のα-グルコシダーゼへのドッキング構造をシミュレーションした模式図である。(B)実施例1におけるαGI14のα-グルコシダーゼへの結合サイトを分子表面で表示したドッキング構造をシミュレーションした模式図である。
【図7】(A)~(E)実施例1における各αGIを投与したPXB細胞でのHBV DNAを定量した結果を示すグラフである。
【図8】(A)~(E)実施例1における各αGIを投与したPXB細胞でのcccDNAを定量した結果を示すグラフである。
【図9】(A)~(E)実施例1における各αGIを投与したPXB細胞でのHBs抗原(HBsAg)を定量した結果を示すグラフである。
【図10】(A)比較例1における糖尿病薬として用いられているαGIを投与したPXB細胞でのHBV DNAを定量した結果を示すグラフである。(B)比較例1における糖尿病薬として用いられているαGIを投与したPXB細胞の各培養日数での細胞毒性を評価した結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<<B型肝炎ウイルス感染症治療剤>>
一実施形態において、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物、又はその薬学的に許容できる塩を有効成分として含有するB型肝炎ウイルス感染症治療剤を提供する。

【0021】
【化3】
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【0022】
(式中、R、R、R及びRは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子、水酸基又は炭素数1~10のアルキル基であり、Zは一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)で表される基である。)

【0023】
【化4】
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【0024】
(式中、R21は炭素数1~10のアルキル基であり、R31は水素原子又はハロゲン原子であり、R32は水素原子又は炭素数1~10のアルコシキ基であり、R41はハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、n41は0~7の整数であり、n41が2以上である場合、複数個のR41は互いに同一でも異なっていてもよい。式中、アスタリスクは結合部位を示す。)

【0025】
本実施形態のB型肝炎ウイルス感染症治療剤によれば、HBVを効率よく排除し、慢性B型肝炎を安全かつ効果的に治療することができる。

【0026】
本明細書において、「B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus;HBV)」とは、ヘパドナウイルス科オルソヘパドナウイルス属に属するDNAウイルスであって、B型肝炎の原因ウイルスを意味する。図1は、HBVの複製機序を示す概略図である。HBVは細胞に感染するとまず、自分のDNAを宿主細胞の核に送り込む。そこで、プラス鎖のDNAを修復して完全な二重鎖のスーパーコイルDNA(以下、cccDNAと略記することがある。)になるとこれを鋳型として宿主細胞由来のRNAポリメラーゼを使ってprogenomic RNA(プレゲノムRNA)を合成する。そこから、ウイルスDNAポリメラーゼにある逆転写酵素活性を用いて、このプレゲノムRNAからマイナス鎖のDNAを合成する。この過程ではRNAのプライマーが次々に転移し、全長のマイナス鎖DNAを完成させる。その後、DNAポリメラーゼにより、プラス鎖が合成されるが、合成が全て終わる前に小胞体内腔に出芽したウイルス外殻を構成するタンパク質の一つであるHBsに覆われ、細胞外に放出される。

【0027】
本発明者らは、従来の核酸アナログ製剤と異なるウイルスの複製ポイントを阻害する薬剤の開発を目指し、ウイルス外殻表面の糖鎖形成が小胞体(endoplasmic reticulum;ER)で行われることに着目した。この糖鎖形成ステップを阻害するneutral α-glucosidase AB isoform(GANAB)の三次元構造解析を元に、in silico screening(イン・シリコ・スクリーニング)によって、α-グルコシダーゼ阻害剤(α-glucosidase inhibitor;αGI)候補を低分子化合物ライブラリーより探索し、疎水性の高い低分子化合物をピックアップした。ピックアップした低分子化合物について、後述の実施例に示す通り、HBVを感染させた肝細胞を用いた評価系により、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」と略記することがある。)が優れた抗HBV効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。

【0028】
<化合物(1)>
本実施形態のB型肝炎ウイルス感染症治療剤は、化合物(1)を有効成分として含有する。

【0029】
【化5】
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【0030】
(式中、R、R、R及びRは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子、水酸基又は炭素数1~10のアルキル基であり、Zは一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)で表される基である。)

【0031】
【化6】
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【0032】
(式中、R21は炭素数1~10のアルキル基であり、R31は水素原子又はハロゲン原子であり、R32は水素原子又は炭素数1~10のアルコシキ基であり、R41はハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、n41は0~7の整数であり、n41が2以上である場合、複数個のR41は互いに同一でも異なっていてもよい。式中、アスタリスクは結合部位を示す。)

【0033】
化合物(1)は、ピペリジン骨格を有する化合物である。また、化合物(1)は疎水性が高い化合物である。

【0034】
一般式(1)中、R、R、R及びRは、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である。
炭素数1~10のアルキル基は、直鎖状のものでも分岐鎖状のものでもよく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、n-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
及びRのうち少なくともいずれか一つが炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが特に好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
同様に、R及びRのうち少なくともいずれか一つが炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが特に好ましく、メチル基であることが最も好ましい。

【0035】
一般式(1)中、Rは水素原子、水酸基又は炭素数1~10のアルキル基である。
又はRが炭素数1~10のアルキル基であり、R又はRが炭素数1~10のアルキル基である場合は、Rは水素原子であることが好ましい。
また、R、R、R及びRが炭素数1~10のアルキル基である場合は、Rは水酸基であることが好ましい。
また、R、R、R及びRが水素原子である場合は、Rは炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。
が炭素数1~10のアルキル基である場合、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素数1~3のアルキル基が特に好ましく、メチル基が最も好ましい。

【0036】
一般式(1)中、Zは疎水性の高い基であって、一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)で表される基(以下、基(2)、基(3)及び基(4)と略記することがある。)である。
すなわち、化合物(1)は、下記一般式(1-A)で表される化合物(以下、化合物(1-A)と略記することがある。)、下記一般式(1-B)で表される化合物(以下、化合物(1-B)と略記することがある。)及び下記一般式(1-C)で表される化合物(以下、化合物(1-C)と略記することがある。)に分類される。

【0037】
【化7】
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【0038】
(式中、R、R、R、R、R、R21、R31、R32、R41及びn41は、いずれも上記と同じである。)

【0039】
前記基(2)において、アスタリスクを付した結合は、Z中のシクロヘキサンのR21が結合している炭素原子のパラ位に位置する炭素原子と、Zの結合先である酸素原子と、の間で形成されている。
前記基(3)において、アスタリスクを付した結合は、Z中のベンゼン環のR31が結合している炭素原子と隣り合い、且つ、R32が結合している炭素原子とメタ位にある炭素原子と、Zの結合先である酸素原子と、の間で形成されている。
前記基(4)において、アスタリスクを付した結合は、Z中のナフタレン環のβ位の炭素原子と、Zの結合先である酸素原子と、の間で形成されている。

【0040】
一般式(2)中、R21は炭素数1~10のアルキル基である。
21における前記アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状でもよく、分岐鎖状が好ましい。R21における前記アルキル基は、炭素数3~8のアルキル基であることがより好ましく、炭素数3~5のアルキル基であることが特に好ましく、tert-ブチル基が最も好ましい。

【0041】
一般式(3)中、R31は水素原子又はハロゲン原子である。
31における前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。

【0042】
一般式(3)中、R32は水素原子又は炭素数1~10のアルコシキ基である。R32における前記アルコキシ基は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基が酸素原子に結合した構造であればよく、直鎖状のものが好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、tert-ペントキシ基、1-メチルブトキシ基、n-ヘキトキシ基、2-メチルペントキシ基、3-メチルペントキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、2,3-ジメチルブトキシ基、n-ヘプトキシ基、2-メチルヘキトキシ基、3-メチルヘキトキシ基、2,2-ジメチルペントキシ基、2,3-ジメチルペントキシ基、2,4-ジメチルペントキシ基、3,3-ジメチルペントキシ基、3-エチルペントキシ基、2,2,3-トリメチルブトキシ基、n-オクトキシ基、イソオクトキシ基、2-エチルヘキトキシ基、ノニノキシ基、デシロキシ基等が挙げられる。
前記アルコキシ基の炭素数は、1~8であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。

【0043】
また、R31が水素原子である場合、R32は炭素数1~5のアルコキシ基であることが好ましく、R31が塩素原子である場合、R32は水素原子であることが好ましい。

【0044】
一般式(4)中、R41はハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。
41における前記ハロゲン原子としては、R31における前記ハロゲン原子と同様のものが挙げられる。R41における前記アルキル基としては、R21における前記アルキル基と同様のものが挙げられる。
41における前記アルキル基は、直鎖状であることが好ましく、炭素数1~5の直鎖状のアルキル基であることが好ましい。

【0045】
一般式(4)中、n41は0~7の整数である。
41は、化合物(1-C)における(より具体的にはナフタレン環)におけるR41の結合数である。
41が1~7の整数である場合、化合物(1)(より具体的には化合物(1-C))において、R41は、ナフタレン環を構成している7個の炭素原子のいずれかに結合している。

【0046】
化合物(1)において、n41が2以上の整数である場合、複数個のR41は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、R41はすべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同一であってもよい。そして、これら複数個のR41の組み合わせは、特に限定されない。

【0047】
41は、0~3の整数であることが好ましく、0~2の整数であることがより好ましく、0又は1であることが特に好ましい。

【0048】
化合物(1)のうち、化合物(1-A)で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(1-A-1)で表される化合物(以下、化合物(1-A-1)と略記することがある)等が挙げられる。
化合物(1)のうち、化合物(1-B)で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(1-B-1)で表される化合物(以下、化合物(1-B-1)と略記することがある)、下記一般式(1-B-2)で表される化合物(以下、化合物(1-B-2)と略記することがある)等が挙げられる。
化合物(1)のうち、化合物(1-C)で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(1-C-1)で表される化合物(以下、化合物(1-C-1)と略記することがある)等が挙げられる。
なお、これら化合物は、好ましい化合物(1)の一例に過ぎず、好ましい化合物(1)はこれらに限定されない。

【0049】
【化8】
JP2017149669A_000009t.gif

【0050】
(式中、R、R、R、R及びRは、いずれも上記と同じである。)

【0051】
化合物(1-A-1)で好ましいものとしては、例えば、R及びRのうち少なくともいずれか一つがメチル基であり、R及びRのうち少なくともいずれか一つがメチル基であり、Rが水素原子又は水酸基であるもの等が挙げられる。
化合物(1-A-1)でより好ましいものとしては、例えば、R又はRがメチル基であり、R又はRがメチル基であり、Rが水素原子であるもの等が挙げられる。
化合物(1-A-1)でより好ましいものとしては、例えば、R、R、R及びRがメチル基であり、Rが水酸基であるもの等も挙げられる。

【0052】
化合物(1-B-1)で好ましいものとしては、例えば、R及びRのうち少なくともいずれか一つがメチル基であり、R及びRのうち少なくともいずれか一つがメチル基であり、Rが水素原子又は水酸基であるもの等が挙げられる。
化合物(1-B-1)でより好ましいものとしては、例えば、R、R、R及びRがメチル基であり、Rが水酸基であるもの等も挙げられる。

【0053】
化合物(1-B-2)で好ましいものとしては、例えば、R及びRのうち少なくともいずれか一つがメチル基であり、R及びRのうち少なくともいずれか一つがメチル基であり、Rが水素原子又は水酸基であるもの等が挙げられる。
化合物(1-B-2)でより好ましいものとしては、例えば、R又はRがメチル基であり、R又はRがメチル基であり、Rが水素原子であるもの等が挙げられる。

【0054】
化合物(1-C-1)で好ましいものとしては、例えば、R、R、R及びRが水素原子又はメチル基であり、Rがメチル基であるもの等が挙げられる。
化合物(1-C-1)でより好ましいものとしては、例えば、R、R、R及びRが水素原子であり、Rがメチル基であるもの等が挙げられる。

【0055】
化合物(1)のうち、化合物(1-A-1)で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(1-A-1-1)で表される化合物(以下、化合物(1-A-1-1)と略記することがある)等が挙げられる。
化合物(1)のうち、化合物(1-B)で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(1-B-1-1)で表される化合物(以下、化合物(1-B-1-1)と略記することがある)、下記一般式(1-B-2-1)で表される化合物(以下、化合物(1-B-2-1)と略記することがある)等が挙げられる。
化合物(1)のうち、化合物(1-C)で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(1-C-1-1)で表される化合物(以下、化合物(1-C-1-1)と略記することがある)等が挙げられる。
なお、これら化合物は、好ましい化合物(1)の一例に過ぎず、好ましい化合物(1)はこれらに限定されない。

【0056】
【化9】
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【0057】
化合物(1)は、Zが基(2)であるもの、すなわち化合物(1-A)であることが好ましい。化合物(1-A)の中でも、Zがp-tert-ブチルシクロヘキシル基であるもの、すなわち化合物(1-A-1)であることが好ましい。化合物(1-A-1)の中でも、1-(4-tert-butylcyclohexyl)oxy-3-(2,6-dimethylpiperidin-1-yl)propan-2-ol、すなわち化合物(1-A-1-1)、又は1-[3-(4-tert-butylcyclohexyl)oxy-2-hydroxypropyl]-2,2,6,6-tetramethylpiperidin-4-ol、すなわち化合物(1-A-1-2)であることが好ましい。

【0058】
本実施形態のB型肝炎ウイルス感染症治療剤は、化合物(1)の薬学的に許容できる塩を含んでいてもよい。

【0059】
本明細書において、「薬学的に許容できる」とは、被検動物に適切に投与された場合に、概して、副作用を起こさない程度を意味する。
塩としては、薬学的に許容できる酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。
酸付加塩としては、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸との塩;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸との塩が挙げられる。
塩基性塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウム等の無機塩基との塩;カフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジン等の有機塩基との塩が挙げられる。

【0060】
本実施形態のB型肝炎ウイルス感染症治療剤は、他の成分として、PBS、Tris-HCl等の緩衝液、アジ化ナトリウム、グリセロール等の添加剤を含んでいてもよい。

【0061】
本実施形態のB型肝炎ウイルス感染症治療剤を用いて、B型肝炎(特に、慢性B型肝炎)の治療方法を提供することができる。
治療対象として限定はされず、ヒト又はヒト以外の哺乳動物が挙げられ、ヒトが好ましい。

【0062】
<<化合物(1)の製造方法>>
化合物(1)は、例えば、Zの種類に応じて、原料となるピペリジン骨格を有する化合物に対して、公知の反応を行って形成することで製造することができる。また、化合物(1)は、市販のものを用いてもよく、例えば、ドイツのAKos社が製造したものを安価に入手することができる。

【0063】
また、化合物(1)の塩は、無機酸化合物、有機酸化合物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、遷移金属化合物、アンモニウム化合物等を化合物(1)に接触させることによって調製することができる。
いずれの反応においても、反応終了後は、有機合成化学における通常の後処理操作、および、必要に応じて従来公知の分離精製手段を施すことによって、目的物を効率よく単離することができる。
目的物の構造は、H-NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトルの測定や、元素分析等によって、同定及び確認することができる。

【0064】
<<B型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物>>
一実施形態において、本発明は、上述のB型肝炎ウイルス感染症治療剤、並びに薬学的に許容できる担体及び希釈剤のうち少なくともいずれかを含む、B型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物を提供する。

【0065】
本実施形態のB型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物によれば、HBVを効率よく排除し、慢性B型肝炎を安全かつ効果的に治療することができる。

【0066】
許容できる担体及び希釈剤としては、賦形剤、稀釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、添加剤等が挙げられる。これら担体及び希釈剤の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又はシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。

【0067】
被検動物(ヒト又はヒト以外の哺乳動物、好ましくはヒト)への、本実施形態のB型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物の投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等のほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、又は経口的に当業者に公知の方法により行い得る。
投与量は、被検動物の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
本実施形態のB型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物の投与量は、症状により差異はあるが、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から100mg、好ましくは約1.0から50mg、より好ましくは約1.0から20mgであると考えられる。
非経口的に投与する場合は、その1回の投与量は症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、通常、1日当り約0.01から30mg、好ましくは約0.1から20mg、より好ましくは約0.1から10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合であると考えられる。
投与回数としては、1日平均当たり、1回~数回投与することが好ましい。
注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類等)、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法等によって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。
本実施形態のB型肝炎ウイルス感染症用の医薬組成物を、被検動物に予防的に投与してもよいし、被検動物にB型肝炎ウイルス感染症の症状が表れたときに投与してもよい。

【0068】
また、本発明の一側面は、B型肝炎ウイルス感染症の治療のための前記一般式(1)で表される化合物又はその薬学的に許容できる塩を提供する。
また、本発明の一側面は、B型肝炎ウイルス感染症治療剤を製造するための前記一般式(1)で表される化合物又はその薬学的に許容できる塩の使用を提供する。
また、本発明の一側面は、前記一般式(1)で表される化合物又はその薬学的に許容できる塩の治療的有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、B型肝炎ウイルス感染症の治療方法を提供する。
B型肝炎ウイルス感染症の症状としては、全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、褐色尿、黄疸等が挙げられる。
本明細書において、B型肝炎ウイルス感染症の「治療」とは、B型肝炎ウイルス感染症患者に対して、B型肝炎ウイルス感染症治療剤を投与することにより、HBVにおける外殻の糖鎖の形成を阻害し、HBVの感染により引き起こされる肝炎及び上述の症状を抑制することを意味する。好ましくは、かかる治療によれば、HBVにおける外殻の糖鎖の形成を阻害し、HBVの感染により引き起こされる肝炎及び上述の症状を緩和することができる。さらに好ましくは、かかる治療によれば、B型肝炎ウイルス感染症(特に、慢性B型肝炎)を根本的に改善することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
[実施例1]
(1)in silico screening(イン・シリコ・スクリーニング)によるα-グルコシダーゼ阻害剤(α-glucosidase inhibitor;αGI)候補の選択
ウイルス外殻表面の糖鎖形成ステップを阻害するneutral α-glucosidase AB isoform(GANAB)の三次元構造は、現時点では解明されていない。そこでGANABの三次元立体構造はホモロジーモデリング法により構築することにした。GANABのアミノ酸配列はNCBIに登録されているQ14697.3を用い、その配列に対してFAMSDによりホモロジー検索を行った。ホモロジー検索の結果から、PDBに登録されている3L4UのA鎖(以下3L4U_Aと表示)を鋳型として用いることにした。GANABと3L4U_Aとの相同性は24.5%であるので十分な精度の立体構造モデルが構築することができる。GANABの三次元立体モデルは、鋳型である3L4U_A並びにそれと95%以上ホモロジーがある(95%NRの)PDBの中で複合体として登録されている9種のリガンド(3L4u_A_DSK(PDB ID 3L4uに含まれるリガンドDSKの意味)、2QMJ_A_ACR、3L4V_A_KTL、3L4W_A_MIG、3L4X_A_NR3、3L4Y_A_NR4、3L4Z_A_SSD、3L4Z_A_SSD、3L4T_A_BJ1)をすべて含めて構築した。スクリーニングにかけるα-グルコシダーゼ阻害剤(α-glucosidase inhibitor;αGI)候補化合物はドイツのAKos社の低分子化合物ライブラリーから、PDBに含まれる阻害リガンド9種、並びにChEMBLに登録されているα-グルコシダーゼに結合することが報告されている阻害剤(ChEMBL307429、ChEMBL307429、ChEMBL307429、ChEMBL421040)の化学構造と類似性が高い低分子化合物をTanimoto係数により探索し、3089個の低分子化合物を候補に選択した。ここで用いるイン・シリコ・スクリーニングchooseLDは独自のものであり、FingerPrintに指定したリガンドの化合物指紋と候補化合物の化合物指紋がなるべく一致するように、ボンドローテーション(回転可能な結合のねじれ角の回転)とシミュレーティドアニーリング(焼きなまし)の手法により構造変化させ、候補化合物のドッキング構造を推定するアルゴリズムからなるスクリーニングシステムである。続いて、ChEMBLから得たα-グルコシダーゼを阻害する4つの化合物のGANABモデルへのドッキング構造は、GANABモデルに含まれる9種のリガンドをFingerPrintに指定してchooseLDスクリーニングを行い、FPAscore(FPAスコア)を参考にして目視により最適のドッキング構造と思われる1つを選んだ。FPAスコアは、3次元座標空間を含むFingerPrintリガンドの化合物指紋と候補化合物の化合物指紋の一致度と、候補化合物の標的タンパク質GANABとの接触度ならびに衝突具合が含まれる関数で、数値が大きいほどFingerPrintリガンド化合物に似たドッキング構造になる関数である3089低分子化合物のchooseLDイン・シリコ・スクリーニングは、GANABモデルに含まれる9種のリガンドとChEMBLからの4種のリガンド、計13リガンドをFingerPrintに指定した系と、FingerPrintをChEMBLからの4種のリガンドだけにした系の2通りについて、それぞれ3回行った。続いて、それぞれの系においてα-グルコシダーゼとの結合度が高いと予測できる候補低分子化合物を、3回のスクリーニングにおける、FPAscore(FPAスコア)の平均値が高いものから順にランキング化した。さらに、前者の系ではランク上位128位まで候補の低分子化合物を、構造的類似性を考慮して20個のクラスターに分類した。後者の系でもランク139位までの候補化合物を、構造的類似性を考慮して17個のクラスターに分類した。それらの各クラスターの中からFPAスコアランキングが高い11種類の候補低分子化合物を選択し、AKos社より購入した。その中でα-グルコシダーゼ阻害活性を有する5種類の低分子化合物について、詳細を表1に示す。
【実施例】
【0071】
【表1】
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【実施例】
【0072】
また、上記5種類の低分子化合物について、各低分子化合物とα-グルコシダーゼとの結合シミュレーションを図2~6に示す。図2~6において、(A)は各αGIのα-グルコシダーゼへのドッキング構造であり、(B)はαGIのα-グルコシダーゼへの結合サイトを分子表面で表示したものである。いずれの低分子化合物においても、分子表面に衝突することなく、よくα-グルコシダーゼにフィットしていることが確かめられた。
【実施例】
【0073】
(2)αGIの抗HBV効果の評価
(2-1)PXB細胞の培養
まず、48ウェルプレートに1.6×10cells/ウェルとなるようにdHCGM培地(参考文献;J. Hepatol. 44:749-757. 2006)に懸濁したヒト初代培養肝細胞であるPXB細胞を播種した。
【実施例】
【0074】
(2-2)HBVの感染
続いて、ヒトHBV感染症患者の血清から得られた20GEqのHBV DNAを4%PEG8000(MP Biomedicals社製)を含むdHCGM培地と混合し、播種したPXB細胞に加えて培養した。感染から2、4、5日後に培地を交換し、その後5日置きに培地を交換した。
【実施例】
【0075】
(2-3)αGI候補低分子化合物の投与
感染から12日後に各αGIを10nM、100nM、1μM、10μMの濃度となるようにdHCGM培地に混合し、PXB細胞に加えて培養した。また、ポジティブコントロールとして、HBV感染症において臨床で主に使用されている核酸アナログ製剤であるエンテカビル(Entecavir;ETV、商品名:バラクルード)を3.5nMとなるようにdHCGM培地に混合し、PXB細胞に加えて培養した。また、ネガティブコントロールとして、何も投与せずに培養を続けるサンプルも用意した。
【実施例】
【0076】
(2-4)HBV DNAの定量
感染から12日後、22日後に細胞上清100μLを回収し、SMI TEST EXR&D(Medical & Biological Laboratories社製)を用いて、HBV DNAを抽出した。続いて、抽出されたHBV DNAを50μLの精製水に溶解し、リアルタイムPCRによりHBV DNAを定量した。なお、HBV DNAを含むプラスミドであるHBV/C1.24(名古屋市立大学の田中教授より貰い受けたサンプル)を用いて検量線を作成した。使用したフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びにプローブの塩基配列を表2に示す。また、各αGI候補低分子化合物におけるPCRの定量結果を図7に示す。図7中、NT(Non treatment)は、何も投与していないネガティブコントロールを示し、ETVはETVを投与したポジティブコントロールを示す。
【実施例】
【0077】
【表2】
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【実施例】
【0078】
図7から、5種類のαGI候補低分子化合物全てにおいて、ETVと同等の抗HBV効果が認められた。特に、αGI7及びαGI14では、100μMで細胞毒性を示したが、10μMにてETVと同等の抗HBV効果が認められた。添加濃度を10nMまで低下した際の各αGI候補低分子化合物の抗HBV効果を調べたところ、αGI14はIC50が295.93nM程度で作用することが明らかとなった。
【実施例】
【0079】
(2-5)HBVのcccDNAの定量
感染から22日後に細胞上清100μLを回収し、SMI TEST EXR&D(Medical & Biological Laboratories社製)を用いて、HBV DNAを抽出した。続いて、抽出されたHBV DNAを50μLの精製水に溶解し、リアルタイムPCRによりcccDNAを定量した。なお、cccDNAを含むプラスミドを用いて検量線を作成した。使用したフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びにプローブの塩基配列を表3に示す。また、結果を図8に示す。
【実施例】
【0080】
【表3】
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【実施例】
【0081】
図8から、cccDNAはαGI14でわずかに濃度依存的に低下していたが、ほぼ変化が見られなかった。これは、HBVの複製機序における各αGI候補低分子化合物の作用ポイントが、宿主細胞の核内でのcccDNAの合成ポイントではないためであると推察される。
【実施例】
【0082】
(2-6)HBVのHBs抗原(HBsAg)の定量
感染から22日後に細胞上清100μLを回収し、Mycell II HBsAg検出キット(Institute of Immunology社製)を用いて、常法に則り、HBsAgを定量した。結果を図9に示す。
【実施例】
【0083】
図9から、HBV DNAの定量の結果と同様に、5種類のαGI候補低分子化合物全てにおいて、各αGI候補低分子化合物の濃度依存的にHBsAgが低下することが認められた。これは、HBVの複製機序における各αGI候補低分子化合物の作用ポイントが、HBsAgへの糖鎖形成ポイントであるためであると推察される。
【実施例】
【0084】
[比較例1]
(1)PXB細胞の培養
実施例1の(2-1)と同様の方法を用いて、48ウェルプレートにヒト初代培養肝細胞であるPXB細胞を播種した。
【実施例】
【0085】
(2)HBVの感染
続いて、実施例1の(2-2)と同様の方法を用いて、PXB細胞にHBVを感染させた。
【実施例】
【0086】
(3)従来のαGIの投与
感染から7日後に現在糖尿病薬として臨床で使用されているアカルボース(10μM)、ミグリトール(15μM)、ボグリボース(40nM)の3種を、dHCGM培地に混合し、PXB細胞に加えて培養した。
【実施例】
【0087】
(4)HBV DNAの定量
続いて、実施例1の(2-4)と同様の方法を用いて、HBV DNAを定量した。結果を図10(A)に示す。また、3種のαGIの各培養日数での細胞毒性を評価した結果を図10(B)に示す。○は細胞毒性が認められることを示し、×は細胞毒性が認められないことを示す。
【実施例】
【0088】
図10(A)から、現在糖尿病薬として臨床で使用されている3種のαGIを投与したPXB細胞では、抗HBV効果を認められなかった。上記3種のαGIは親水性が高く、PXB細胞内にうまく導入されなかったためであると、推察される。また、3種のαGIにおいて、いずれの培養日数においても、細胞毒性が認められた。
【実施例】
【0089】
以上のことから、本発明の低分子化合物は、優れた抗HBV効果を有することが確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のB型肝炎ウイルス感染症治療剤によれば、HBVを効率よく排除し、慢性B型肝炎を安全かつ効果的に治療することができる。
【符号の説明】
【0091】
1…αGI5、2…フィンガープリント、3…α-グルコシダーゼ、4…αGI6、5…αGI7、6…αGI13、7…αGI14。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9