TOP > 国内特許検索 > 水銀汚染物の浄化法 > 明細書

明細書 :水銀汚染物の浄化法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3227488号 (P3227488)
公開番号 特開平11-128904 (P1999-128904A)
登録日 平成13年9月7日(2001.9.7)
発行日 平成13年11月12日(2001.11.12)
公開日 平成11年5月18日(1999.5.18)
発明の名称または考案の名称 水銀汚染物の浄化法
国際特許分類 B09C  1/10      
A62D  3/00      
C02F  3/34      
C12N  1/21      
C12N 15/09      
C12R  1:40      
FI A62D 3/00 ZAB
C02F 3/34
C12N 1/21
C12R 1:40
B09B 3/00
C12N 15/00
請求項の数または発明の数 3
全頁数 5
出願番号 特願平09-302007 (P1997-302007)
出願日 平成9年11月4日(1997.11.4)
審査請求日 平成9年11月4日(1997.11.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591025163
【氏名又は名称】国立環境研究所長
発明者または考案者 【氏名】岩崎 一弘
【氏名】矢木 修身
【氏名】内山 裕夫
【氏名】田中 秀夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100078994、【弁理士】、【氏名又は名称】小松 秀岳 (外2名)
審査官 【審査官】光本 美奈子
参考文献・文献 特開 平10-229873(JP,A)
PLASMID 27 p.4-16(1992)
Biosci.Biotechnol.Biochem.57(8)p.1264-1269(1993)
調査した分野 B09B 3/00
C12N 15/00
C12N 1/21
特許請求の範囲 【請求項1】
水銀汚染物を、水銀化合物還元酵素遺伝子群を導入した組換え微生物により浄化する方法であって、前記組換え微生物がシュードモナス プチダ PpY101/pSR134であり、かつその系中にチオール化合物を共存させることを特徴とする水銀汚染物の浄化法。

【請求項2】
チオール化合物がチオグリコール酸、その塩またはメルカプトエタノールである請求項1に記載の水銀汚染物の浄化法。

【請求項3】
水銀汚染物が水銀汚染土壌である請求項1または2に記載の水銀汚染物の浄化法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明が属する技術の分野】本発明は、組換え微生物を利用する水銀で汚染された水や土壌などを浄化する方法に関する。

【0002】

【従来の技術】水俣湾等全国各地で、水銀による環境汚染が見出されており、その浄化方法が検討されている。環境浄化のためには、汚染の原因である水銀化合物を分解除去することが根本的な解決には必須である。従来、水銀化合物によって汚染された環境の修復は、汚染土壌を掘削し非汚染土壌を客土する、あるいは水俣湾のように埋め立てる方法が用いられてきた。しかし、掘削あるいは埋め立てによる方法は多大な費用を要する上に、これらの方法によっては水銀化合物が分解除去されるわけではないので、抜本的な解決ではない。

【0003】
一方、微生物の働きにより水銀化合物が分解されて金属水銀に還元されることが知られている。

【0004】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような微生物による水銀化合物の還元処理能力では、水銀汚染水や水銀汚染土壌中の水銀化合物を効率的に分解除去するには不十分である。このため、水銀化合物の分解除去能力をより高めた処理法が要望されている。

【0005】
本発明は、こうた実情の下に、効率的な微生物利用による水銀汚染物の浄化法を提供することを目的とするものである。

【0006】

【課題を解決するための手段】本発明者は、鋭意検討した結果、大腸菌由来の水銀化合物還元酵素遺伝子群を組み込んだ微生物を、チオール化合物と共に利用することが有効であることを見出し、本発明に至った。

【0007】
すなわち、本発明は、
(1)水銀汚染物を、水銀化合物還元酵素遺伝子群を導入した組換え微生物により浄化する方法であって、前記組換え微生物がシュードモナス プチダ PpY101/pSR134であり、かつその系中にチオール化合物を共存させることを特徴とする水銀汚染物の浄化法、
(2)チオール化合物がチオグリコール酸、その塩またはメルカプトエタノールである前記(1)に記載の水銀汚染物の浄化法、
(3)水銀汚染物が水銀汚染土壌である前記(1)または(2)に記載の水銀汚染物の浄化法に関する。

【0008】
本発明に使用する微生物は、水銀化合物還元酵素遺伝子群を広宿主域ベクターpSUP104に組み込んだ組み換えプラスミドpSRをシュードモナス プチダ PpY101株などシュードモナス属に属する微生物に導入したものである。 この組換えは、例えば次のような方法で行うことができる。すなわち、まず水銀化合物分解酵素遺伝子群merオペロンがコードされている、Escherichia coli JE51などの大腸菌由来のプラスミドNR1を単離し、制限酵素EcoRIで部分消化してmerオペロンがコードされているDNA断片を含む試料を精製する。次いでこれを広宿主域ベクターpSUP104のEcoRIサイトに組み込んで組換えプラスミドpSR134を作製する。この組み替えプラスミドをシュードモナス属に属する微生物、例えばシュードモナスプチダ PpY101株に電気パルス法などにより導入する。こうして100mg/l塩化第二水銀を含む平板培地においても増殖できる著しく水銀化合物分解能の高い組換え微生物を作成することができる。そして、この組換え微生物は、100ppmの高濃度の塩化第二水銀を1日でほぼ完全に分解する能力を有している。なお、この組換え微生物シュードモナス プチダ PpY101/pSR134に関してはBiosci.Biotech.Biochem.,57(8),1264~1269,1993に開示されている。

【0009】
同様にして、シュードモナス プチダ PRS 2000株、P.フルオレッセンス(fluorescens)LB303株、P.アルギノーザ(aeruginosa)PA01株、エスケリチアコリー(Escherichiacoli)HB101株、等シュードモナス属に属する微生物に前記のpSR134を電気パルス法などによって導入することができ、実際下記に示すような方法で本発明者はこれら宿主への導入を確認している。

【0010】
組換えプラスミドpSR134は、細胞の外に存在する塩化第二水銀を細胞内に取り込み、金属水銀へと分解する能力を有している。このとき生じた金属水銀は蒸気となり系外へ除去される。各種組換え体がこの能力を有しているかは、x線フィルム法により定性的に確認することができる。

【0011】
供試微生物をマイクロプレートにいれ、上からX線フィルムをかぶせる。金属水銀蒸気が生じるとx線フィルムの乳剤(銀)と反応し、感光する。この方法により各種組換え体とその宿主の水銀換元能を比較した。その結果、組換えプラスミドpSR134を導入した株では明らかにx線フィルムの感光が認められ、これらの株が水銀換元能を有することを確認した。しかし、非組換え体では感光が認められなかった。

【0012】
得られた各種組換え体の性質の変化を確認するため、組換え体とその宿主との比増殖速度,塩化水銀耐性能及び塩化水銀分解能についても比較を行った。その結果を表1に示す。増殖速度はいずれの菌株においても組換え体の方が若干遅いことが認められた。また、組換えプラスミドpSR134に由来する塩化水銀およびテトラサイクリン耐性能を調べた結果では、いずれの組換え体もこれらの耐性能が高まったことが示された。

【0013】
本発明者らは、本発明の微生物利用による水銀還元機構について以下のように推論している。すなわち、まず、水溶液中で塩化第二水銀など無機水銀化合物から生じる2価の水銀イオンにSH化合物が結合し、この水銀-SH化合物複合体が菌体内の水銀還元酵素の働きにより代謝されて、金属水銀へと分解される。従って、チオール化合物はここで利用している微生物による水銀還元反応に必須である。一方、土壌中の塩化第二水銀は土壌粒子に吸着しており、微生物によって浄化するためには、水銀イオンを脱離させなければならない。上記のチオール化合物は、微生物による水銀化合物の分解反応を促進するだけでなく、土壌から効果的に水銀を離脱させる作用をも有する。

【0014】
得られた各種組換え体とその宿主の比増殖速度、塩化水銀耐性能及び塩化水銀分解能の比較を行った。増殖速度はいずれの菌株においても組換え体の方が若干遅いことが認められた。組換えプラスミドpSR134に由来する塩化水銀およびテトラサイクリン耐性能を調べた結果、いずれの組換え体もこれらの耐性能が高まったことが示された。

【0015】

【表1】
JP0003227488B2_000002t.gif【0016】本発明は、上記水銀化合物の還元能を有する微生物を利用して水銀汚染物を浄化する際に、その還元能を高めるためにチオール化合物を共存させる点が重要である。

【0017】
このようなチオール化合物としては、チオール基を有するものであれば特に制限はないが、好ましいのは水溶性チオール化合物である。とくに好ましいのは水溶性チオグリコール酸、チオグリコール酸のアルカリ金属塩、メルカプトエタノール、システィンなどの含硫アミノ酸などである。本発明者らは、本発明の微生物利用による水銀還元機構について以下のように推論している。すなわち、まず、水溶液中で塩化第二水銀など無機水銀化合物から生じる2価の水銀イオンにチオール化合物が結合し、この水銀-チオール化合物複合体が菌体内の水銀還元酵素の働きにより代謝されて、金属水銀へと分解される。従って、チオール化合物はここで利用している微生物による水銀還元反応に必須である。なお、チオール化合物の作用機構については詳細には不明である。一方、土壌中の塩化第二水銀は土壌粒子に吸着しており、微生物によって浄化するためには、水銀イオンを脱離させなければならないが、上記のチオール化合物は、微生物による水銀化合物の分解反応を促進するだけでなく、土壌から効果的に水銀イオンを脱離させる作用も有する。

【0018】
下記表2は、塩化第二水銀54mgを含む土壌(固形分)10gを水100g(ml)中に分散させたスラリーに所定濃度のチオール化合物を添加したときのHg+2濃度の測定値である。表2から土壌粒子に吸着された塩化第二水銀がチオール化合物の添加により脱離して水銀イオンを放出されることを示している。

【0019】

【表2】
JP0003227488B2_000003t.gif【0020】
【発明の実施の形態】本発明に利用する微生物としては、すでに述べたように水銀化合物還元酵素遺伝子群を組み込んだ広宿主域ベクターを導入することにより、各種微生物の中から処理を行う土壌の生態系に適した微生物を選択することが可能であるという特徴を有し、さまざまな土壌環境への応用が可能となる。

【0021】
また、本発明の方法は、水銀汚染水の浄化にも勿論適用できるが、水銀汚染土壌の浄化にとくに好適である。

【0022】

【実施例】以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明する。

【0023】
組換え体の調製法
水銀化合物分解酵素遺伝子群merオペロンをがコードされている、Escherichia coli JE51由来のプラスミドNR1を単離し、merオペロンを精製する。次いでこれを広宿主域ベクターpSUP104に組み込んで組換えプラスミドpSR134を作製する。この組み替えプラスミドをシュードモナス プチダ PpY101株に電気パルス法により導入した
菌体の培養法
500mlの培養装置にL栄養培地を100ml加え、塩化第2水銀を20ppmの濃度で添加する。これに同上平板培地で生育させた組換え微生物シュードモナス プチダ PpY101/pSR134を接種する。30℃で20時間振とう培養を行う。培養後菌体を遠心分離により集菌し、水銀化合物の除去に用いる。

【0024】
汚染土壌の分解除去法
(実施例1)塩化第二水銀40ppmを添加したリン酸緩衝液に上記のようにして培養した組換え微生物シュードモナス プチダ PpY101/pSR134[寄託番号FERM P-16495]を緩衝液1ml当たり5×106個散布し、さらにチオール化合物としてチオグリコール酸を1mM添加したところ、24時間後に緩衝液中の塩化第二水銀が完全に除去された。一方、チオグリコール酸を添加していない系では、除去は認めれなかった。

【0025】
(実施例2)塩化第二水銀40ppmで汚染した水田土壌スラリーに上記のようにして培養した組換え微生物シュードモナス プチダ PpY101/pSR134を土壌1g当たり5×106個及びチオグリコール酸50μMを同時に散布したところ、4時間後に溶液中の塩化第二水銀が約90%除去された。一方、組換え微生物を添加していない系では、除去は認めれなかった。

【0026】

【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば無機水銀化合物など水銀化合物で汚染された土壌や水を効率的に浄化することができ、しかも利用する微生物としては、水銀化合物還元酵素遺伝子群を組み込んだ広宿主域ベクターを導入することにより、処理すべき土壌の生態系に適合した微生物を選択することができるから一層有利である。