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明細書 :高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂及び高級脂肪酸アルキルエステルの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5637484号 (P5637484)
登録日 平成26年10月31日(2014.10.31)
発行日 平成26年12月10日(2014.12.10)
発明の名称または考案の名称 高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂及び高級脂肪酸アルキルエステルの製造方法
国際特許分類 C11C   3/10        (2006.01)
C11C   3/00        (2006.01)
FI C11C 3/10
C11C 3/00
請求項の数または発明の数 7
全頁数 11
出願番号 特願2011-521981 (P2011-521981)
出願日 平成22年7月9日(2010.7.9)
国際出願番号 PCT/JP2010/061723
国際公開番号 WO2011/004897
国際公開日 平成23年1月13日(2011.1.13)
優先権出願番号 2009163535
優先日 平成21年7月10日(2009.7.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年5月17日(2013.5.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】福永 公寿
【氏名】籔内 友里恵
個別代理人の代理人 【識別番号】100092820、【弁理士】、【氏名又は名称】伊丹 勝
【識別番号】100103274、【弁理士】、【氏名又は名称】千且 和也
審査官 【審査官】富永 久子
参考文献・文献 英国特許出願公開第2148897(GB,A)
YUE, Kun et al.,Synthesis of biodiesel from frying oil catalyzed bysolid acid catalyst,中国油脂(Zhongguo Youzhi),中国,2006年,Vol.31, No.7,p.63-65
調査した分野 C11C3/00-3/10
C07C67/02;67/03;67/08
特許請求の範囲 【請求項1】
高級脂肪酸アルキルエステルを製造する際に、塩基性触媒の存在下、一価の低級脂肪族アルコールとエステル交換反応される原料油脂であって、
硫酸水素ナトリウム・1水和物を触媒として、一価の脂肪族アルコールによって、遊離脂肪酸を除去する前処理をされていることを特徴とする高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂。
【請求項2】
廃食油又は非食用油脂に前記前処理が施されたことを特徴とする請求項1記載の高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂。
【請求項3】
前記前処理された高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂の酸価が2.5KOHmg/g以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂。
【請求項4】
前記塩基性触媒は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は酸化カルシウムであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂。
【請求項5】
塩基性触媒の存在下、請求項1乃至4いずれか記載の高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂と一価の低級脂肪族アルコールとをエステル交換反応させて高級脂肪酸アルキルエステルを製造することを特徴とする高級脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項6】
原料油脂、一価の脂肪族アルコール、及び触媒として硫酸水素ナトリウム・1水和物を前処理槽に供給し、遊離脂肪酸を除去する前処理を行う前処理工程と、
該前処理槽から排出した被処理液から、前記触媒残渣を分離する工程と、
触媒残渣が分離された被処理液を主反応槽に供給し、前記主反応槽に一価の低級脂肪族アルコールと塩基性触媒とを加えてエステル交換反応を行う工程と、
該主反応槽から排出する反応液から、高級脂肪酸アルキルエステルを分離回収する工程と
を含むことを特徴とする高級脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項7】
硫酸水素ナトリウム・1水和物を触媒として、一価の脂肪族アルコールと遊離脂肪酸とを反応させることを特徴とする高級脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離脂肪酸を含む油脂と一価の低級アルコールとから高級脂肪酸の低級アルキルエステルを製造する方法に係る。特に廃食油又は非食用油脂から、ディーゼルエンジン等に利用し得る軽油代替燃料となる高級脂肪酸アルキルエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の枯渇が懸念されることや、炭酸ガス排出による環境の悪化から、石油に代わる燃料が種々検討される中で、動植物油脂、特に植物から得られる燃料が着目されている。すなわち、植物は、その生育時に炭酸同化作用により、空気中の炭酸ガスを固定して育つため、これを燃焼させても大気中の炭酸ガスの増加には繋がらない。
【0003】
このため、すでにバイオマスを原料とする、所謂バイオ燃料に関する研究が多くなされている。
【0004】
これらの中で、主として、トウモロコシや、大豆を用いて発酵法によりアルコールを生産する方法と油脂(トリグリセリド)自体を用いる方法が提案されている。しかし、前者は、食糧となるトウモロコシや大豆を原料とするため、食糧の高騰を招くなどの問題があり、後者は、例えばディーゼルエンジン等においてフィルターの目詰まりやピストンの固着などの不都合を生じる。
【0005】
そこで高級脂肪酸のグリセリンエステル(トリグリセリド)である油脂のグリセリンを一価の低級脂肪族アルコールとのエステル交換により、高級脂肪酸の低級アルコールエステルを得る、所謂アルコリシスにより、燃料とする方法が提案されている。
【0006】
アルコリシスとしては、一般に油脂に10~20%(重量)の一価の低級アルコール、例えばメタノール又はエタノールを加えて、塩基性触媒、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化カルシウム等の強アルカリ等、を用い30℃乃至使用する一価の低級アルコールの沸点温度で加熱し、エステル交換反応を行い、高級脂肪酸のアルコールエステルを得た後、これを副生するグリセリン、水、未反応アルコール及び触媒残渣から分離回収する方法である。
【0007】
かかる方法を用いることにより、多少の不純物が含まれている油脂、例えば、廃食油や食用に適さないヤトロファ油等の油脂等も利用することができる。
【0008】
しかし、油脂のアルコリシスによる燃料製造の一つの問題点は油脂中に多かれ少なかれ遊離の脂肪酸(フリーの脂肪酸ともいう)を含んでいることである。特に廃食油等の劣化が進んだ油脂には比較的多くのフリーの脂肪酸が含まれている。
【0009】
このような油脂を前記の如く、塩基性触媒を用いるエステル交換反応に供した場合、フリーの脂肪酸のアルカリ金属塩(所謂石けん)を副生するため、触媒のロスとなるばかりでなく、石けんの乳化作用により、得られた高級脂肪酸アルキルエステルと副生するグリセリンや水との分離が困難になる。
【0010】
このため、原料油脂として、例えば酸価が3KOHmg/gを越えるような高い値を示す油脂は原料として敬遠される傾向がある。
【0011】
そこで前処理により、油脂中のフリーの脂肪酸や水分を除去することが提案されている。
【0012】
例えばアルカリ触媒の存在下に油脂とメタノールを反応させたとき副生する廃液(これは、主としてアルカリ触媒を含むグリセリンである。)と原料油脂とを接触させ、該廃液中に存在するアルカリによりフリーの脂肪酸をケン化し、油脂を中和した後、前記油脂とケン化により生成した石けんを、前記廃液から分離して、次の主反応であるアルコリシスに供する方法(特許文献1)、カチオン交換樹脂に、原料油脂とメタノール(又はエタノール)とを共に供給し、フリーの脂肪酸をエステル化した後、主反応として、陰イオン交換樹脂を触媒とするアルコリシスに供する方法(特許文献2)、同様に前処理段階を陽イオン交換体として、スルホン酸基を導入した無定形炭素を用いる方法(特許文献3)、或いは、前処理に硫酸とメタノールによりフリーの脂肪酸をメチルエステル化する方法(非特許文献1)等が提案されている。
【0013】
これらの方法のうち、副生するグリセリン廃液を用いる前処理では、副生する石けんのために処理後の廃液が分離し難いこと及びフリーの脂肪酸の多くが石けんとして除去されるため原料のロスとなる。またイオン交換樹脂を用いる方法は、分離の問題や石けんの生成の問題はないが、反応率が低く、十分な効果が得難いし、樹脂の再生が容易でない。また硫酸によるフリーの脂肪酸のエステル化は、一定の効果は期待できるものの硫酸は酸化力が強い劇薬であるため、取扱いに危険があるうえ、装置の腐食の問題から、高価な材料の使用を余儀なくされる。
【0014】
そこで、油脂のアルコリシスによるバイオ燃料の製造において実に有効で、低コストの方法の開発が待たれている。
【先行技術文献】
【0015】

【特許文献1】特開2008-024841
【特許文献2】特開2006-104316
【特許文献3】WO2007-00913
【0016】

【非特許文献1】Transactions of the ASAE,vol.44(6);1429-1436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、油脂を原料とし、エステル交換反応により、バイオ燃料となり得る高級脂肪酸低級アルキルエステルを製造するにあたり、特に油脂中に含まれるフリーの脂肪酸による不都合を解決し、低コストで効率よく高級脂肪酸の一価の低級アルキルエステルを製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、高級脂肪酸アルキルエステルを製造する際に、塩基性触媒の存在下、一価の低級脂肪族アルコールとエステル交換反応される原料油脂であって、硫酸水素アルカリ金属を触媒として、一価の脂肪族アルコールによって前処理されていることを特徴とする高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂である。
【0019】
前記第1の態様は、廃食油又は非食用油脂に前記前処理が施された高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂であることが好ましい。また、前記第1の態様は、前記前処理された高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂の酸価が2.5KOHmg/g以下であることが好ましく、1.0KOHmg/g以下であることがさらに好ましく、0.5KOHmg/g以下であることが特に好ましい。
【0020】
前記第1の態様は、前記硫酸水素アルカリ金属が、硫酸水素ナトリウムであり、前記塩基性触媒が、水酸化ナトリウム又は酸化カルシウムであることが好ましい。
【0021】
本発明の第2の態様は、塩基性触媒の存在下、前記前処理が施された高級脂肪酸アルキルエステル製造用原料油脂と一価の低級脂肪族アルコールとをエステル交換反応させて高級脂肪酸アルキルエステルを製造する高級脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
【0022】
本発明の第3の態様は、原料油脂、一価の脂肪族アルコール、及び触媒として硫酸水素アルカリ金属を前処理槽に供給し、前処理を行う前処理工程と、該前処理槽から排出した被処理液から、前記触媒残渣を分離する工程と、触媒残渣が分離された被処理液を主反応槽に供給し、前記主反応槽に一価の低級脂肪族アルコールと塩基性触媒とを加えてエステル交換反応を行う工程と、該主反応槽から排出する反応液から、高級脂肪酸アルキルエステルを分離回収する工程とを含むことを特徴とする高級脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
【0023】
本発明の第4の態様は、硫酸水素アルカリ金属を触媒として、一価の脂肪族アルコールと遊離脂肪酸とを反応させることを特徴とする高級脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
油脂は、高級脂肪酸のグリセリンエステル(グリセリド)であり、一般に多かれ少なかれフリーの脂肪酸を不純物として含んでいる。特に、廃食油等にあっては加熱等により劣化が進み、比較的多くのフリーの脂肪酸を含んでいる。そこで、エステル交換反応等により、グリセリンを除き、高級脂肪酸のアルキルエステルを製造するには、不純物であるフリーの脂肪酸を除去することが、製造上有利となる。
【0025】
すでに前処理により、この不純物を除く手段は提案されているが、いずれも十分とは言い難い。
【0026】
本発明は、安価で安全な硫酸水素アルカリ金属、好ましくは硫酸水素ナトリウムを触媒として用い、不純物であるフリーの脂肪酸を脂肪族アルコールを用いて、エステル化し、製品の一部に取り込むことができ、更に未反応のアルコールは回収して、そのまま主たる反応であるエステル交換反応に供することができる。また触媒は、固体であるため、濾過やデカンテーションにより容易に分離することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を実施するためのフローの一例を示すブロックダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、主反応として、グリセリドをエステル交換反応により、高級脂肪酸アルキルエステルを製造する場合において、原料油脂に不純物として含まれるフリーの脂肪酸を除去するための前処理を行うこと、特に該処理に際し、硫酸水素アルカリ金属を触媒として用いることが最大の特徴である。

【0029】
本発明における主たる反応であるグリセリドのエステル反応は、従来知られている手段を、何等制限なく利用することができる。一般に塩基性触媒、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等無機強塩基、ナトリウムメトキサイドや強塩基性陰イオン交換樹脂等の有機塩基等を触媒に、トリグリセリドと、一価の低級脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ターシャリーブタノール等、好ましくは、メタノール又はエタノールとを、30℃乃至前記一価の低級脂肪族アルコールの沸点以下の温度下で接触させてエステル交換反応を行うことができる。

【0030】
反応は、一般に攪拌槽によりバッチ方式で行われるが塩基性触媒によるエステル交換反応は比較的容易に進行するので、触媒床中をトリグリセリドと一価の低級脂肪族アルコールとを向流又は並流で流通させる固定床方式や固体触媒を流動させる流動床方式などの流通方式で連続反応を行うこともできる。

【0031】
また主反応終了後は、反応器から排出する反応液から未反応アルコールを減圧蒸留等で分離し、製品である高級脂肪酸アルキルエステルと相分離しているグリセリン、水、触媒残渣をデカンテーション又は遠心分離等により分離し製品を回収する。製品は必要に応じて乾燥精製等を行うことができる。

【0032】
本発明にあっては、主反応に先立って原料油脂に含まれるフリーの脂肪酸(遊離脂肪酸)を減少させることにある。一般に油脂には、多少のフリーの脂肪酸を含んでおり、
そのため酸価として8KOHmg/g以上の値を示すこともある。特に廃食油等の劣化した油脂や非食用油脂は、酸価が10KOHmg/gを越える場合も少なくない。フリーの脂肪酸は、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸が挙げられる。非食用油脂とは、食用に適さない油脂であって、例えば、桐油、綿実油、ヒマシ油、クルカス油(ヤトロファ油、フィジックナット油)、ミフクラギ油、スナバコノキ油、非食用豚脂が挙げられる。

【0033】
一般に、酸価が3KOHmg/gを越えると触媒のロスばかりでなく、石けんの生成により、グリセリンの分離が困難になると言われている。

【0034】
そこで、本発明にあっては、原料油脂を硫酸水素アルカリ金属塩触媒の存在下に一価の脂肪族アルコールで前処理し、フリーの脂肪酸をエステル化することにより、除去し、酸価を2.5KOHmg/g以下、好ましくは0.5KOHmg/g以下の如く実質的にほぼ完全に除去することにある。原料油脂は、フリーの脂肪酸が含まれていればよく、このフリーの脂肪酸をエステル化することにより高級脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。原料油脂中のフリーの脂肪酸の割合が高い場合は、主反応を行わなくても高純度で高級脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。

【0035】
本発明における酸価とは、原料油1g中に存在する酸成分を中和するに必要な水酸化カリウムの量(mg)で表わされる値であり、この酸性物質は、実質的にフリーの脂肪酸である。

【0036】
本発明の前処理に用いられる硫酸水素アルカリ金属は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等であるが、特にナトリウム塩が一般的であり、以下硫酸水素ナトリウムを代表として説明する。またこれらは結晶水を含むものであってもよい。また、本発明にあっては、硫酸水素アルカリ金属は、主反応であるエステル交換反応に用いられる塩基性触媒とは区別して用いられる物質である。

【0037】
本発明の前処理に使用する触媒量は、原料油脂の酸価によって適宜選択される。一般にフリーの脂肪酸1モルに対し、触媒は0.1モル以上、好ましくは0.5~2モル程度用いればよい。しかしながら、油脂は一般に糖類の脂肪酸グリセリドであり、酸価を構成する脂肪酸も多種類に及ぶ。そこで触媒使用量の目安として、原料油脂重量×酸価を基準として、その1/1000乃至1/50程度が用いられるが、これに限定されるものではない。なお、触媒使用量を多くすることは、反応系内でエステルの分解、反応をも引き起こし、好ましくない。好ましい触媒使用量は、原料油脂重量×酸価を基準として、1/500~1/100程度である。

【0038】
また反応時間は特に限定されないが、原料油脂の酸価と、目的としてあらかじめ定めた最終酸価の差や触媒量及び反応時の設定温度等によって異なるので、実行に先立ってあらかじめ試行し、決定すればよい。一般には酸価10KOHmg/gの原料油の場合酸価を2.5KOHmg/gまで減ずるには上記触媒の使用範囲内で30~90℃にて15分乃至3時間程度である。

【0039】
なお、本発明の前処理に用いられる一価の脂肪族アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等であるが、一般に主たる反応に用いられる一価の低級脂肪族アルコールを用いるのが好ましい。この場合前処理によりエステル化された生成物は、次の主たる反応により得られる生成物と同種になるため、前処理時に比較的大量のアルコールを用い、未反応アルコールが残ったとしても次の主たる反応に供することができる。場合によっては主たる反応に必要な一価の低級脂肪族アルコールの全てを前処理時に供給することも可能である。このようにすることにより、主たる反応時には、単に塩基性触媒のみを供給すればよいのである。

【0040】
本発明の前処理における反応は、特に限定されない。一般に粉粒体状の触媒を原料である油脂とアルコールの混合液中に分散させて行う。このため攪拌器及び加温用ジャケット付反応槽を用いるが、触媒が固体であるため粒塊状触媒を用いた固定床又は粒状触媒を用いた流動床などの流通方式による連続反応方式も採り得る。

【0041】
前処理後の被処理液、或いは主たる反応により得られた高級脂肪酸アルキルエステルをケイ酸ナトリウム等のキレート能力やアルカリ能力を有する無機塩で処理することにより、被処理液や高級脂肪酸アルキルエステル中の金属含有量を低減し、また、酸価を低減させることができる。前記ケイ酸ナトリウム等の使用量は特に限定されないが、被処理液或いは得られた高級脂肪酸アルキルエステルの重量に対して、0.1~10%(重量)程度の量が好ましい。

【0042】
次に本発明の一例を図1により説明する。

【0043】
原料となる油脂、例えば廃食油と一価の脂肪族アルコール、例えばメタノール及び触媒である硫酸水素ナトリウムを、前処理槽に順次供給する。前処理槽は、適当な加温装置と攪拌器が付設されており、30~90℃程度に加熱し、前処理工程を行い、通常約1時間程度で、原料油脂の酸価は2.5KOHmg/g以下、好ましくは1KOHmg/g以下に低下した時、加温や攪拌を中止し、被処理液を排出させる。これらの排出液は、次の分離工程として触媒残渣を分離する。一般にフィルターにより触媒を分離するが、遠心分離機により、一層高速に分離することもできる。また、静置することにより触媒を沈澱させ上澄みとして、前処理された油脂を回収することもできる。かかる分離行程により触媒を除去された油脂は、一旦貯槽に保管することもできるが、更にエステル交換反応に供するため、主反応槽に供給する。主反応槽では、更に必要量すなわち、原料油脂のグリセリドをエステル交換するに必要な量の一価の低級脂肪族アルコール、一般にグリセリドに対して3倍モル以上となる量であればよいが、あまりに過剰に加えても未反応アルコールの回収量が増大するだけであるから、一般に原料油脂の10~20%(重量)程度の量を用いる。これらのアルコールは前処理工程において加えておくこともできる。

【0044】
主反応工程では、更に塩基性触媒を加える。塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は酸化カルシウム等が一般的に用いられるが勿論有機の塩基性化合物等を用いることもできる。

【0045】
かかる主反応工程は、従来周知のエステル交換反応の各条件が何ら制限されることなく採用し得る。一般にエステル交換反応は塩基性触媒を懸濁させた状態下に30℃乃至一価の脂肪族アルコールの沸点の温度、好ましくは40~90℃程度で反応させることができる。

【0046】
反応終了後、主反応槽から排出する排液は、必要により、未反応の一価の脂肪族アルコールを蒸留により回収する。勿論、一価の脂肪族アルコールの使用量を少なくするとか或いは比較的沸点の高いアルコール、例えばプロパノールやブタノール等にあっては、高級脂肪酸アルキルエステルに溶解した状態のまま燃料とすることもできるため、アルコールの回収工程は省略することもできる。

【0047】
一般に主反応槽から排出された反応液は、アルコールを回収した後、副生グリセリン及び触媒残渣と製品であるエステルを分離し、製品を回収する。該回収工程は静置により下相にグリセリンと触媒残渣が生じ、上相がエステル相となるため下相のグリセリン相を抜き出すことにより容易に行われる。

【0048】
かくして得られた高級脂肪酸アルキルエステルは、そのまま製品として燃料とするか、或いは必要に応じて脱水等の精製工程を経て製品とする。

【0049】
以下に実施例を示す。
【実施例1】
【0050】
[原料油脂の前処理工程における触媒量と酸価について]
米油(築野食品工業株式会社製)19.0g、オレイン酸(日油株式会社製、純度99.5%)1.0g(3.55mmol)を混合したモデル廃食油(酸価10.02KOHmg/g)とメタノール10mlをナス型フラスコに入れ、触媒として硫酸水素ナトリウム一水塩(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、SAJ特級)を表1に示す量加え、還流冷却器を取り付けてマグネットスターラ—により攪拌しつつ還流温度(約70℃)で3時間前処理を行った。各処理後の酸価を表1に示す。
【実施例1】
【0051】
【表1】
JP0005637484B2_000002t.gif
表1に示す結果より、触媒量が過剰になると酸価は上昇する傾向にあることがわかる。触媒の使用量はフリーの脂肪酸の0.3~5倍モル程度で十分であることがわかる。
【実施例2】
【0052】
[原料油脂の前処理工程における処理時間と酸価について]
実施例1におけるモデル廃食油について、触媒量を1g(7.24ミリモル)に固定し、原料油中の酸価と処理時間との関係を検討するため、反応条件は、表2に示す通りとした。結果を表2に示す。
【実施例2】
【0053】
【表2】
JP0005637484B2_000003t.gif
表2より、15分程度の処理で十分に酸価を低下させることができる。なお5時間を越える程の長期間の処理によっても何等効果はないばかりか、かえって酸価は増大する傾向を示す。
【実施例3】
【0054】
[原料油脂としてヤトロファ油を適用した例]
実施例1におけるモデル廃食油に代えて、酸価8.92KOHmg/gのヤトロファ油(株式会社ホーライ製)40gを使用し、NaHSO・HOを触媒として4.0g、メタノールを20ml用いたほかは、実施例1と同様な条件で前処理を行った。その結果、30分後に酸価は、3.06KOHmg/gとなり、1時間後に酸価は、1.16KOHmg/g、3時間後に酸価は、1.25KOHmg/gであった。
【実施例4】
【0055】
[主たる反応により高級脂肪酸アルキルエステルを得る例]
米油に19対1の割合でオレイン酸を加えたモデル廃食油(酸価10.02KOHmg/g)にNaHSO・HOを触媒として2.0g用い、メタノール10mlを加え、還流温度で15分間前処理をした後、濾過し、メタノールを減圧留去し、触媒残渣を除去した。前処理後の酸価は1.75KOHmg/gであった。
【実施例4】
【0056】
この原油にメタノール20mlを加え、CaO触媒、0.14g(2.5mmol)を用い、還流温度で2時間反応を行った。
【実施例4】
【0057】
放冷後、反応液は過剰のメタノールをロータリーエバポレーターで減圧留去し、反応液を静置して室温まで放冷後上層の高級脂肪酸メチルエステルを30μlサンプリングし、分液ロート中に入れた4mlのヘキサンに溶解させ、これを水5mlで洗浄し、その上層のヘキサン溶液を分離して無水硫酸ナトリウムで脱水した後、シンクロマトグラフ(イヤトロスキャン、株式会社三菱化学ヤトロン製MK-5型)を用いて、シンクロマトグラフィー(TLC-FID)により各成分(パルミチン酸メチル、リノール酸メチル、オレイン酸メチル、トリグリセリド、ジグリセリド及びモノグリセリド)の濃度を測定した。カラムにはchromarod-SIII(シリカゲル)、展開溶媒にはヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(体積比:97/3/0.5)を使用し、保持時間0.160~0.181分のパルミチン酸メチル、保持時間0.230~0.272分のリノール酸メチル及びオレイン酸メチルの合計の上記各成分の合計に対する割合を高級脂肪酸メチルエステルの収率とした。その結果、97.5%の反応収率が得られた。
【実施例5】
【0058】
実施例4と同様に実施した。但し触媒としてNaOH0.13g(3.3mmol)を用いた。この場合の高級脂肪酸メチルエステルの反応収率は98.2%であった。
【実施例6】
【0059】
〔酸価の極めて大きい油脂への適用例〕
糠脂肪酸20g(築野食品工業株式会社製、組成はパルミチン酸20.7%、ステアリン酸2.16%、オレイン酸41.11%、リノール酸32.94%、リノレン酸1.65%、その他1.41%:酸価201.7KOHmg/g)とメタノール175mL(4.32mol)をナス型フラスコに入れ、触媒として硫酸水素ナトリウム一水塩(キシダ化学株式会社製)を2.0g(14.5mmol)加え、還流冷却器を取り付けてマグネットスターラーにより攪拌しつつ60℃で3時間、前処理(メチルエステル化反応)を行った。過剰のメタノールを減圧留去した反応液を一日放冷・静置した後、触媒を減圧ろ去した反応液の酸価は1.6KOHmg/gで、高級脂肪酸メチルエステル含量は99.1%で水含有量は729.2ppmであった。
【実施例6】
【0060】
更に、この反応液の全量に再び硫酸水素ナトリウム一水塩を0.882g(6.4mmol)とメタノール78mL(1.93mol)を加え、初回と同様に反応(60℃、3時間)及び後処理を行い、酸価0.8KOHmg/gで高級脂肪酸メチルエステル含量は99.4%で水含有量375.0ppmの生成物が得られた。この反応生成物の全量にエコレイヤー1(株式会社トクヤマシルテック製)を3.37g添加して分散させ、遠心分離機(株式会社久保田製作所KUBOTA1130型)で12,500rpmで1分間遠心分離を行ったところ、上層の油の酸価は0.3KOHmg/gとなり、水洗工程無くして酸価、水分量ともEU規格を満たす極めて高純度のバイオディーゼル燃料が得られた。
【実施例7】
【0061】
[原料油脂としてヤトロファ油を適用した例]
実施例1におけるモデル廃食油に代えて、酸価8.92KOHmg/gのヤトロファ油(株式会社ホーライ製)20gを使用し、NaHSO・HOを触媒として2.0g、メタノールを10ml用いたほかは、実施例1と同様な条件で前処理を行った。その結果、1時間後に酸価は、0.57KOHmg/gであった。
【実施例8】
【0062】
[原料油脂として実廃食油を適用した例]
実施例1におけるモデル廃食油に代えて、酸価2.05KOHmg/gの廃食油A(山口大学生協)20gを使用し、NaHSO・HOを触媒として2.0g、メタノールを10ml用いたほかは、実施例1と同様な条件で前処理を行った。その結果、1時間後に酸価は、0.37KOHmg/gであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は油脂、特に廃食油や食用に適さない油脂を用いて軽油に代替し得る燃料を得る場合、効果的に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
(I) :前処理工程
(II) :触媒残渣分離工程
(III):主反応工程
(IV) :高級脂肪酸アルキルエステル回収工程
図面
【図1】
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