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明細書 :シクロヘキサノンの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6090740号 (P6090740)
公開番号 特開2014-136680 (P2014-136680A)
登録日 平成29年2月17日(2017.2.17)
発行日 平成29年3月8日(2017.3.8)
公開日 平成26年7月28日(2014.7.28)
発明の名称または考案の名称 シクロヘキサノンの製造方法
国際特許分類 C07C  45/33        (2006.01)
C07C  49/403       (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07C 45/33
C07C 49/403 A
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 3
全頁数 8
出願番号 特願2013-004792 (P2013-004792)
出願日 平成25年1月15日(2013.1.15)
審査請求日 平成28年1月5日(2016.1.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】山本 豪紀
個別代理人の代理人 【識別番号】110001612、【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
審査官 【審査官】井上 千弥子
参考文献・文献 特開平04-009344(JP,A)
調査した分野 C07C 45/00-49/92
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
原料シクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させて酸化反応させるシクロヘキサノンの製造方法であって、
前記原料シクロヘキサンに、コバルト化合物を触媒として用いてシクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させる酸化反応条件に供する工程により得られた混合物の一部を触媒として加え、前記混合物の一部は、原料シクロヘキサンに対する体積比で1/500~1/1であることを特徴とするシクロヘキサノンの製造方法。
【請求項2】
前記混合物の一部は、コバルト化合物を触媒として用いてシクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させて酸化反応させた反応混合物の一部であることを特徴とする請求項1記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【請求項3】
コバルト化合物を触媒として用いてシクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させて酸化反応させる第1の工程、及び
新たなシクロヘキサンに、前記酸化反応による反応混合物の一部を触媒として加え、新たなシクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させて酸化反応させる第2の工程
を備え、前記反応混合物の一部は、新たなシクロヘキサンに対する体積比で1/500~1/1であることを特徴とするシクロヘキサノンの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロヘキサンの酸化反応によりシクロヘキサノンを製造する方法に関し、特に、副生成物を抑制し、効率的にシクロヘキサノンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ε-カプロラクタムは、ナイロン6の原料であり、その主要製造方法の一つとして、下式に示す方法が挙げられる。
【0003】
【化1】
JP0006090740B2_000002t.gif

【0004】
触媒存在下での炭化水素、特にシクロアルカンの酸素による直接酸化は、長きにわたって研究されてきた方法である。このような酸素による接触酸化方法の多くにおいて、最も推奨される触媒は、コバルトである。例えば、特許文献1には、塩基性水溶液中でメソポーラスシリカに担持した酢酸コバルト四水和物を触媒として用いた気相系での酸化反応が例示されている。また、特許文献2には、コバルト触媒及びN-ヒドロキシイミド化合物触媒を共に用いた液相系での酸化反応(空気3MPa,105℃,45min)が例示されている。
【0005】
このように、コバルト触媒を用いた多くのシクロヘキサノンの製造方法が例示されているにも拘らず、一般的にはシクロヘキサンの転化率は低く、また、酸化途中のシクロヘキサノールやシクロヘキシルペルオキシド、酸化され過ぎたアジピン酸などを副生する場合が多く、シクロヘキサノンの選択性が低いという問題がある。そのため、事業化プロセスにおいてシクロヘキサノンの選択性を80%以上に保つために、シクロヘキサンのワンパス転化率を3~6%に抑える必要があるといわれている。
【0006】
そこで、本発明者は、先に、シクロヘキサンの空気による直接酸化において、コバルト触媒のみを用いて、副生成物の生成を抑制して効率良くシクロヘキサノンを製造する方法を既に提案した(特願2011-147917)。具体的には、シクロヘキサンを硝酸コバルト六水和物もしくはアセチルアセトナトコバルトと共に、酸素/窒素(21:79)混合ガスを10MPa充填したオートクレーブ中で135℃で24時間加熱撹拌することで、シクロヘキサンの転化率10~11%、シクロヘキサノンの選択性100%でシクロヘキサノンを製造できる。この方法は、特別な反応溶媒を用いないこと、コバルト以外の共触媒を用いないこと、及びシクロヘキサノンの選択性が高いことなどの利点を有している。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2010-208962号公報
【特許文献2】国際公開第2006/095568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり特許文献1に記載の製造方法では、シクロヘキサンの転化率及びシクロヘキサノンの選択性は低く、特許文献2に記載の方法も、シクロヘキサンの転化率17.3%、シクロヘキサノンの選択性11.2%と共に低いという問題がある。また、本発明者が先に提案した方法(特願2011-147917)においては、触媒として使用可能なコバルト化合物が限られており、触媒の選択性の幅が狭いという問題がある。また、反応ごとに新たなコバルト化合物を触媒として用いる必要があるため、製造コストが高くなる問題もある。
【0009】
本発明は、上記のような問題を鑑みてなされたものであって、シクロヘキサンの酸化反応を行うにあたり、シクロヘキサンの転化率及びシクロヘキサノンの選択性を向上させ、副生成物を抑制するとともに、広範なコバルト化合物を触媒として用いて、効率的に且つ安価にシクロヘキサノンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、シクロヘキサンの酸化反応において、コバルト塩を用いて酸化反応を行った後の反応混合物の一部を新しいシクロヘキサンに添加することで、新たなコバルト塩を追加する必要なく、シクロヘキサノンを効率良く製造することができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様は、原料シクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させて酸化反応させるシクロヘキサノンの製造方法であって、前記原料シクロヘキサンに、シクロヘキサンの酸化反応条件に供されたシクロヘキサンとコバルト化合物との混合物を触媒として加えることを特徴とするシクロヘキサノンの製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明の第二の態様は、コバルト化合物を触媒として用いてシクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させて酸化反応させる第1の工程、及び新たなシクロヘキサンに、前記酸化反応による反応混合物の一部を触媒として加え、新たなシクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させて酸化反応させる第2の工程を備えることを特徴とするシクロヘキサノンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、シクロヘキサンの酸化反応を行うにあたり、シクロヘキサンの転化率及びシクロヘキサノンの選択性を向上させ、副生成物を抑制するとともに、広範なコバルト化合物を触媒として用いて、効率的に且つ安価にシクロヘキサノンを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明では、コバルト化合物を触媒として用いてシクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させ、その反応混合物の一部を次の反応の新たなシクロヘキサンに加え、酸素又は酸素含有ガスと接触させて酸化反応させた場合に、次の反応は新たなコバルト化合物を触媒として加えることなく、効率よくシクロヘキサンの酸化反応が進行し、副生成物を生ずることなく、シクロヘキサンの転化率及びシクロヘキサノンの選択性が向上する。
また、この場合、触媒活性が低いコバルト化合物を触媒として用い、最初の酸化反応が進行しなかった場合にも、反応混合物の一部を次の反応の新たなシクロヘキサンに加えることにより、後の酸化反応は効率よく進行し、副生成物を生ずることなく、シクロヘキサンの転化率及びシクロヘキサノンの選択性が向上する。
さらに、後の酸化反応の反応混合物の一部を、順次、次の反応の新たなシクロヘキサンに加える操作を、複数回(複数世代)行った場合にも、シクロヘキサンの転化率はそれほど低下しない。

【0015】
本発明は、このような知見に基づきなされたものである。
即ち、本発明の一実施形態に係るシクロヘキサノンの製造方法は、原料シクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させて酸化反応させるに際し、前記原料シクロヘキサンに、シクロヘキサンとコバルト化合物との混合物であって、シクロヘキサンの酸化反応条件に供されたものを触媒として加えることを特徴とする。
この場合、前記シクロヘキサンとコバルト化合物との混合物は、コバルト化合物を触媒として用いてシクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスと接触させて酸化反応させた反応混合物の一部とすることができる。前記シクロヘキサンとコバルト化合物との混合物は、実際に酸化反応が進行するしないにかかわらず、酸化反応条件に供された混合物、即ち、所定の温度及び圧力下で酸素又は酸素含有ガスと接触された混合物とすることができる。

【0016】
本実施形態に係るシクロヘキサノンの製造方法において、上記シクロヘキサンとコバルト化合物との混合物が供される酸化反応条件(以下、第1工程の酸化反応条件という場合がある。)とは、具体的には以下の条件が挙げられる。

【0017】
第1工程の酸化反応条件として、用いられるコバルト化合物は、例えば、硝酸コバルト、アセチルアセトンコバルト、塩化コバルト、酢酸コバルト、過塩素酸コバルト、テトラフルオロホウ酸コバルト、及び炭酸コバルト並びにそれらの水和物より選ばれる1以上であることが好ましく、中でも硝酸コバルト、アセチルアセトンコバルト、塩化コバルト、酢酸コバルト、及び炭酸コバルト並びにそれらの水和物がより好ましい。

【0018】
上記コバルト化合物の量は、シクロヘキサン1モルに対して0.00001モル~10モルが好ましく、シクロヘキサン1モルに対して0.005モル~0.1モルが特に好ましい。コバルト化合物の添加量が少ない程、反応効率が高いため好ましい。また、コバルト化合物の添加量を減じても、シクロヘキサン転化率は充分に高く、シクロヘキサノン選択性が高い。

【0019】
また、反応温度は特に限定されないが、反応温度が100℃以下の時には著しく反応が遅いため、100℃より高い反応温度が好ましく、110℃~180℃がより好ましい。反応圧力は、特に限定されないが、過度に低いと反応速度が低下するので、通常0.1MPa以上、好ましくは0.5MPa以上、特に2MPa以上が好ましい。また、反応圧力が過度に高い場合には、耐圧性を高めた特殊な反応装置が必要となることもあり、通常100MPa以下、好ましくは50MPa以下、特に30MPa以下が好ましい。

【0020】
また、第1工程の酸化反応条件として、用いられる酸素又は酸素含有ガスとしては、酸素ガス、空気、または酸素ガスもしくは空気を窒素、二酸化炭素、ヘリウム等の不活性ガスで希釈したものを用いることができる。シクロヘキサンと酸素又は酸素含有ガスとの接触は、例えば、シクロヘキサン及びコバルト化合物を含む液を、酸素又は酸素含有ガスの雰囲気下に置くことにより行ってもよいし、この液中に酸素又は酸素含有ガスを吹き込むことにより行ってもよい。

【0021】
本実施形態に係るシクロヘキサノンの製造方法では、触媒として、上記第1工程の酸化反応条件に供されたシクロヘキサンとコバルト化合物との混合物を用いればよく、上記混合物は、実際に酸化反応が進行しているかしていないかは限定されない。例えば、上記混合物の酸化反応が進行しなかった場合、すなわちシクロヘキサノンの生成が認められなかった混合物であっても、上記混合物の一部を次の反応の新たなシクロヘキサンに加えることにより、後の酸化反応は効率よく進行することができる。以下、第1工程の酸化反応条件に供されたシクロヘキサンとコバルト化合物との混合物を触媒として用いる新たなシクロヘキサンの酸化反応を第2工程といい、説明する。

【0022】
本実施形態に係るシクロヘキサノンの製造方法の第2工程において、上記混合物の新たなシクロヘキサンへの添加量(移動量)は特に限定されないが、過度に少ないと反応速度が低下するので、新たなシクロヘキサンに対して1/500体積量以上であることが好ましく、1/50~1/1体積量であることがより好ましい。

【0023】
本実施形態に係るシクロヘキサノンの製造方法では、高い選択性でシクロヘキサノンを製造することが可能であるが、反応終了後の反応混合物には、シクロヘキサノンのほかに、未反応の原料、副反応による生成物が含まれることもある。シクロヘキサノンを分離する方法としては、特に限定されず、蒸留、抽出など公知の方法が挙げられる。

【0024】
本実施形態に係るシクロヘキサノンの製造方法において、第2工程の酸化反応条件(反応温度及び圧力、並びに酸素又は酸素含有ガス)としては、上記第1工程の酸化反応条件と同様の条件を用いることができる。また、第2工程の酸化反応に用いられる触媒は、第1工程の酸化反応条件に供された混合物であるため、第2工程の酸化反応に新たなコバルト化合物を触媒として加える必要はない。

【0025】
また、本実施形態に係るシクロヘキサノンの製造方法においては、第2工程の酸化反応後の混合物の一部を、順次、次の反応の新たなシクロヘキサンに加える操作を複数回(複数世代)行うことも可能である。その場合において、シクロヘキサンの転化率は、世代を重ねてもそれほど低下しないため、反応を繰り返す際に新たなコバルト化合物を追加する必要がなく、製造コストの削減ができ好ましい。例えば、繰り返し回数が4回であってもシクロヘキサンの転化率はほぼ低下せずに酸化反応させることができる。

【0026】
本実施形態に係るシクロヘキサノンの製造方法において、上記反応混合物は、長期保存が可能であり、21日以上放置した後も失活せず、好適にシクロヘキサノンの製造に使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
まず、本発明で用いた測定方法を以下に示す。
【実施例】
【0029】
(シクロヘキサノン及び未反応のシクロヘキサンの組成比)
H-NMRを用い、シクロヘキサノン及びシクロヘキサンのシグナルの積分比から算出した。
【実施例】
【0030】
(実験例1)
ステンレス製オートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社製、10ml)にシクロヘキサン(10mmol)、硝酸コバルト六水和物(1mol%)を加え、酸素:窒素(21:79)混合ガスを10MPaに充填した後に系を閉じ、135℃で24時間加熱撹拌した。その後、反応混合物をサンプリングし、H-NMRの測定を行い、シクロヘキサノン及び未反応のシクロヘキサンの組成比を算出した(第1世代)。
得られた酸化反応混合物の一部を新たなシクロヘキサンに加えて、同条件で加熱攪拌し、その後、反応混合物をサンプリングし、H-NMRの測定を行い、反応混合物の組成比を算出して評価・比較した(第2世代)。なお、酸化反応混合物と新たなシクロヘキサンとの混合物は、新たなシクロヘキサンの量を調整することにより、全体量を一定とした。この操作を繰り返すことで、第5世代までのシクロヘキサノン及び未反応のシクロヘキサンの組成比を算出した。酸化反応混合物の次世代の反応への移動量及び上記算出結果を下記表1に示す。
【実施例】
【0031】
【表1】
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【実施例】
【0032】
以上より、新世代の反応では新しいシクロヘキサンに反応混合物の一部を加えるだけで、新たなコバルト化合物を追加することなく酸化反応は進行し続け、反応後液のシクロヘキサノン/シクロヘキサン組成比が世代間で維持できた。
【実施例】
【0033】
(実験例2)
反応に用いられる触媒を炭酸コバルト(第1世代:1mol%)に変えたこと以外は実験例1と同様にして検討した。その結果を下記表2に示す。
【実施例】
【0034】
【表2】
JP0006090740B2_000004t.gif
【実施例】
【0035】
以上より、触媒として炭酸コバルトをそのまま1mol%使用した場合にはシクロヘキサノンは生成しないが、加熱後の反応混合物の一部を用いると、酸化反応は進行し(第2世代)、さらに順次反応混合物を用いることで酸化反応を進行させる(第3~5世代)ことができた。
【実施例】
【0036】
(実験例3)
反応に用いられる触媒を下記表3に示すコバルト塩(第1世代:1mol%)に変えたこと以外は実験例1と同様にして検討した。その結果を下記表3に示す。
【実施例】
【0037】
【表3】
JP0006090740B2_000005t.gif
【実施例】
【0038】
以上より、触媒活性の低いコバルト塩(炭酸コバルトや塩化コバルトなど)を用いた場合に、第1世代には酸化反応が進行していないにもかかわらず、その反応混合物の一部を用いた第2世代以降の反応が進行していることから、第1世代の反応において酸化反応の進行の有無は問題ではなく、すなわちシクロヘキサンの酸化反応条件に供された、つまり単にコバルト塩をシクロヘキサン中で加熱した混合物を、次世代の触媒として用いることも可能である。
【実施例】
【0039】
(実験例4)
反応混合物は常温で20日以上保存した後も、次世代の触媒として有効である。具体的には、反応に用いられる触媒を下記表4に示すコバルト塩(第1世代:1mol%)に変えたこと以外は実験例1と同様にして、第1世代の反応を行い、第1世代のシクロヘキサノン及び未反応のシクロヘキサンの組成比を算出した。次に、反応液を常温で下記表4に示す日数保存した後に、実験例1と同様にして、第2世代の反応を行い、第2世代のシクロヘキサノン及び未反応のシクロヘキサンの組成比を算出した。結果を表4に示す。
【実施例】
【0040】
【表4】
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