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明細書 :電気泳動による物質の相互作用の分析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-138881 (P2016-138881A)
公開日 平成28年8月4日(2016.8.4)
発明の名称または考案の名称 電気泳動による物質の相互作用の分析方法
国際特許分類 G01N  27/447       (2006.01)
G01N  33/566       (2006.01)
FI G01N 27/26 331F
G01N 27/26 331H
G01N 27/26 331K
G01N 33/566
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2016-007834 (P2016-007834)
出願日 平成28年1月19日(2016.1.19)
優先権出願番号 2015012255
優先日 平成27年1月26日(2015.1.26)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】宮部 寛志
出願人 【識別番号】300071579
【氏名又は名称】学校法人立教学院
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100101373、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 茂雄
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100129311、【弁理士】、【氏名又は名称】新井 規之
審査請求 未請求
要約 【課題】簡便で客観的な解析が可能な電気泳動による物質の相互作用の分析方法を提供する。
【解決手段】相互作用する物質Aと物質Bのいずれか一方を含む泳動液が充填された管状流路を準備する工程と、流路に、もう一方の物質を導入する工程と、流路に電圧を印加し、AまたはBを電気泳動または電気浸透流により移動させる工程と、物質AとBとの結合体ABを流路内で停止させる工程、ならびに物質A、物質B、または結合体ABを検出する検出工程、を含む、物質の相互作用を分析する方法。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
(1)相互作用する物質Aと物質Bのいずれか一方を含む泳動液が充填された管状流路を準備する工程、
(2)前記流路に、もう一方の物質を導入する工程、
(3)前記流路に電圧を印加し、AまたはBを電気泳動または電気浸透流により移動させる工程、
(4)前記物質AとBとの結合体ABを流路内で停止させる工程、ならびに
(5)前記物質A、物質B、または結合体ABを検出する検出工程
を含む、前記物質の相互作用を分析する方法。
【請求項2】
前記工程(3)が、AまたはBと、前記結合体ABと、を電気泳動または電気浸透流により移動させる工程、
前記工程(4)が、前記流路中の結合体ABの動きに対向する外力を作用させて結合体ABを流路内で停止させる工程、である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(I)相互作用する物質Aと物質Bのいずれか一方を含む泳動液が充填された管状流路を準備する工程、
(II)前記流路に、もう一方の物質を導入する工程、
(III)前記流路に電圧を印加し、前記物質AとBとの結合体ABと、AまたはBとを電気泳動または電気浸透流により移動させる工程、
(IV)前記流路中の結合体ABの動きに対向する外力を作用させて結合体ABを流路内で停止させるか逆流させる工程、
(V)前記流路中の結合体ABの動きと同じ方向に外力を作用させて結合体ABの移動を促進させる工程、
(VI)前記物質A、物質B、または結合体ABを検出する検出工程、ならびに
(VII)前記工程(III)~(VI)で得た溶出挙動から、結合体ABの移動速度が0となる作用条件を求める工程、
を含む、前記物質の相互作用を分析する方法。
【請求項4】
前記物質A、物質B、あるいは結合体ABの溶出曲線を取得する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項5】
物質Aと物質Bの結合速度定数、解離速度定数、または異相界面透過速度定数を取得する工程をさらに含む、請求項1~4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項6】
前記工程(3)または工程(III)が、前記結合体ABを電気泳動により一方の電極へ電気泳動させ、かつ泳動液を電気浸透流により他方の電極へ移動させる工程である、請求項2~4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項7】
前記工程(3)または工程(III)が、前記結合体ABを電気泳動により陽極へ電気泳動させ、かつ泳動液を電気浸透流により陰極へ移動させる工程である、請求項2~4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
前記工程(3)または工程(III)が、前記結合体ABを電気泳動により陰極へ電気泳動させ、かつ泳動液を電気浸透流により陽極へ移動させる工程である、請求項2~4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項9】
前記物質Aが包接化合物であり、前記物質Bがこれに包接される化合物である、請求項1~8のいずれかに記載の分析方法。
【請求項10】
前記物質Aが分子集合体であり、前記物質Bが当該分子集合体の内部に可溶化または分配される化合物である、請求項1~8のいずれかに記載の分析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は電気泳動による物質の相互作用の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二分子間の相互作用の平衡特性(親和性)や速度特性(反応速度)を測定することは化学、バイオ分野において重要であるため、表面プラズモン共鳴センサー等種々の分析法が確立されている。しかし、これらの分析法では一方の分子が担体等に固定化されている、あるいは一方または双方の分子が化学的に修飾(蛍光標識化等)されているため、真の相互作用情報を測定できているか疑問がある。
【0003】
また、キャピラリー電気泳動法を用いて、両分子が化学的に未修飾かつ遊離した状態での二分子間の相互作用の平衡および速度特性を測定する方法も知られている(非特許文献1~3)。例えば、管状流路内全体に物質Aを存在させ、そこへ物質Bを連続的に導入する。物質Bの検出器方向への電気泳動速度が物質Aの電気泳動速度よりも速い場合には、物質Bが物質Aを追い越す際に両者が反応して結合体ABを生成する。検出器方向へは、最初に物質A、次に結合体AB、その後物質Bが移動する。この順番で各物質が検出され、溶出ピーク(溶出曲線)が記録される。その溶出曲線やピークの検出位置と形状的特徴は物質Aと物質Bの間の相互作用の平衡および速度特性に依存するため、溶出曲線やピーク形状を解析して分子間相互作用に関する平衡情報(結合平衡定数Kや解離平衡定数K)および速度情報(結合速度定数kや解離速度定数k)を得ることができる。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Anal. Chem., 2004, 76, 1507~1512.
【非特許文献2】Anal. Chem. 2014, 86, 1298~1305.
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 17104~17110.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の非特許文献に記載の方法では分子間相互作用の平衡および速度特性を解析する際に、数値解析法により求めた計算結果(計算溶出曲線)を実測溶出曲線にカーブフィッティングすることが必須である。しかしこの方法では、得られる実測溶出曲線が複雑な形状となる場合が多く、計算溶出曲線をそれにカーブフィッティングすることが難しい。このためこの方法には、平衡および速度パラメータの数値の決定が主観的になりやすい、またその正確な解析結果を得ることが難しい、さらに解析が数学的に複雑である等の問題があった。かかる事情を鑑み、本発明では、簡便で論理的な解析が可能な電気泳動による物質の相互作用の分析方法を提供することを課題とする。さらに本発明では、カーブフィッティング等の試行錯誤的なアプローチを利用することなく、実験データから分子間相互作用の平衡および速度情報、ならびに異相界面における物質の透過速度情報を解析理論に基づき解析的に、かつ一義的に求めることができる解析法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は鋭意検討した結果、結合体ABを流路系内で停止させる工程を設けることで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
[1](1)相互作用する物質Aと物質Bのいずれか一方を含む泳動液が充填された管状流路を準備する工程、
(2)前記流路に、もう一方の物質を導入する工程、
(3)前記流路に電圧を印加し、AまたはBを電気泳動または電気浸透流により移動させる工程、
(4)前記物質AとBとの結合体ABを流路内で停止させる工程、ならびに
(5)前記物質A、物質B、または結合体ABを検出する検出工程
を含む、前記物質の相互作用を分析する方法。
[2]前記工程(3)が、AまたはBと、前記結合体ABと、を電気泳動または電気浸透流により移動させる工程、
前記工程(4)が、前記流路中の結合体ABの動きに対向する外力を作用させて結合体ABを流路内で停止させる工程、である、[1]に記載の方法。
[3](I)相互作用する物質Aと物質Bのいずれか一方を含む泳動液が充填された管状流路を準備する工程、
(II)前記流路に、もう一方の物質を導入する工程、
(III)前記流路に電圧を印加し、前記物質AとBとの結合体ABと、AまたはBとを電気泳動または電気浸透流により移動させる工程、
(IV)前記流路中の結合体ABの動きに対向する外力を作用させて結合体ABを流路内で停止させるか逆流させる工程、
(V)前記流路中の結合体ABの動きと同じ方向に外力を作用させて結合体ABの移動を促進させる工程、
(VI)前記物質A、物質B、または結合体ABを検出する検出工程、ならびに
(VII)前記工程(III)~(VI)で得た溶出挙動から、結合体ABの移動速度が0となる作用条件を求める工程、
を含む、前記物質の相互作用を分析する方法。
[4]前記物質A、物質B、あるいは結合体ABの溶出曲線を取得する工程をさらに含む、[1]または[2]に記載の分析方法。
[5]物質Aと物質Bの結合速度定数、解離速度定数、または異相界面透過速度定数を取得する工程をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の分析方法。
[6]前記工程(3)または工程(III)が、前記結合体ABを電気泳動により一方の電極へ電気泳動させ、かつ泳動液を電気浸透流により他方の電極へ移動させる工程である、[2]~[4]のいずれかに記載の分析方法。
[7]前記工程(3)または工程(III)が、前記結合体ABを電気泳動により陽極へ電気泳動させ、かつ泳動液を電気浸透流により陰極へ移動させる工程である、[2]~[4]のいずれかに記載の分析方法。
[8]前記工程(3)または工程(III)が、前記結合体ABを電気泳動により陰極へ電気泳動させ、かつ泳動液を電気浸透流により陽極へ移動させる工程である、[2]~[4]のいずれかに記載の分析方法。
[9]前記物質Aが包接化合物であり、前記物質Bがこれに包接される化合物である、[1]~[8]のいずれかに記載の分析方法。
[10]前記物質Aが分子集合体であり、前記物質Bが当該分子集合体の内部に可溶化または分配される化合物である、[1]~[8]のいずれかに記載の分析方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により簡便で論理的な解析が可能な電気泳動による物質の相互作用の分析方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本願発明の一態様を示す概要図である。
【図2】本願発明の別の態様の一工程を示す概要図である。
【図3】溶出曲線である。
【図4】印加圧力とモーメント値の相関図である。
【図5】印加圧力と結合体の移動速度の相関図である。
【図6】溶出曲線である。
【図7】溶出曲線である。
【図8】印加圧力とモーメント値の相関図である。
【図9】印加圧力と結合体の移動速度の相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X~Y」は両端の値、すなわちXとYを含む。「XまたはY」は、XおよびYの一方、または双方を意味する。

【0010】
1.準備工程および導入工程
本工程では、相互作用する物質Aと物質Bのいずれか一方を含む泳動液が充填された管状流路を準備する。実験系が安定した後、もう一方の物質を含む試料溶液(試料パルス)を管状流路内に注入する。本工程には圧力法や電気的方法等、当該分野で通常用いる方法を適用できる。

【0011】
相互作用する物質AおよびBの組合せの例としては、限定されないが、シクロデキストリン、クラウンエーテルやカリックスアレーンのようなホスト分子を利用する包接反応系、界面活性剤ミセル、リポソームやベシクル等の分子集合体やソフトマターを利用する反応系、バイオアフィニティー系(タンパク質-タンパク質相互作用、タンパク質-核酸相互作用、タンパク質-低分子相互作用、タンパク質-糖および脂質相互作用等)、光学異性体分離系、イオン対生成系、金属錯体生成系等が挙げられる。本発明の適用分野としては、一般に弱い相互作用が重要な役割を果たしているバイオアフィニティー系が特に好ましい。

【0012】
泳動液とは物質A、物質B、結合体ABを溶解させるための液であり、通常、キャピラリー電気泳動法に用いられる液であれば特に限定されない。例えば泳動液として、リン酸塩緩衝液、ホウ酸塩緩衝液等、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等の有機系緩衝液等が挙げられる。物質Aおよび物質Bは化学量論的に適当な量とすることが好ましい。具体的な濃度範囲としては、それぞれが数~数十mMとなる程度が好ましい。泳動液には、電気浸透流(EOF)を検出するためのEOFマーカーを添加してもよい。EOFマーカーとしては通常当該分野で使用できるものであれば限定されず、またその使用量も公知の量としてよい。

【0013】
管状流路とは管状体により設けられた流路であり、例えばキャピラリー、チューブ、ミクロ流路等が挙げられる。その内径は特に限定されないが、通常のキャピラリー電気泳動法で使用する程度の内径である10~200μm程度が好ましく、50~100μm程度がより好ましい。管状流路の長さも特に限定されず、通常、キャピラリー電気泳動法に用いる長さであることが好ましいが、有効長にして20~100cm程度がより好ましい。

【0014】
キャピラリー等の管状体の材質も限定されないが、溶融シリカキャピラリーが最も一般的である。内壁が未修飾の溶融シリカキャピラリーを用いる場合、電気浸透流は陽極から陰極へ向かって流れる。また、キャピラリーの内面を表面処理することで電気浸透流の流れを逆に陰極から陽極方向とすること、あるいは発生させないこともできる。

【0015】
2.移動工程
本工程では、前記キャピラリーに電圧を印加して物質Aまたは物質Bを電気泳動または電気浸透流によって移動させる。物質Aおよび物質Bの双方が移動してもよいし、一方のみが移動してもよい。また、結合体ABが移動してもよい。これらは電気泳動、電気浸透流、あるいはこの両方によって移動する。印加する電圧は物質A、物質B、結合体ABの電気泳動のしやすさによって適宜調整できる。例えば、シクロデキストリンとこれに包接される化合物を用いる場合、電圧勾配は100~400Vcm-1程度とすることができる。

【0016】
本工程では、物質A、物質Bおよび結合体ABにおいて電気泳動挙動に差が存在する。例えば、物質Aと物質Bが無電荷の結合体ABを形成する場合は、結合体ABは電気泳動しないので物質Aまたは物質Bとの挙動に差が生じる。また本工程では結合体ABが電気泳動してもよいが、この場合は、結合体を形成していない物質は電気泳動しない、あるいは結合体ABと同方向または逆方向に移動するケースが存在する。いずれの場合も物質AとBの一方の物質は流路系内全体に化学量論的に適当な量を存在させるため、流路系内におけるその物質の濃度は一定とみなしてデータ解析を行うことができる。
本工程においては、電気浸透流により泳動液を移動させることもできるし、電気浸透流を発生させないこともできる。

【0017】
3.停止工程
本工程では結合体ABの動きを停止させる。前述のとおり、結合体ABが無電荷であり電気泳動しない場合は、物質AとBを結合させることで結合体ABを停止できる。ただし、電気浸透流が発生している場合はこれにより結合体ABが移動するが、電気浸透流を停止するか、あるいは以下に述べる外力を作用させる方法により結合体ABを停止できる。

【0018】
前記流路中の結合体ABの動きに対向するような外力を作用させて結合体ABを流路内で停止させる方法について説明する。当該工程について、物質Aおよび結合体ABが一方の極(第一極)へ電気泳動し、物質Bは電気泳動せず、かつ泳動液が電気浸透流によりもう一方の極(第二極)へ移動する場合を例にして説明する。

【0019】
図1に概要を示す。図中、1は第一極、2は第二極、Aは物質A、Bは物質B、10は結合体、20は電気浸透流、30は結合体の電気泳動、40は外力、50は検出器である。

【0020】
図1において物質Aと結合体10は第一極1へ電気泳動する。電気浸透流により泳動液全体は第二極2方向へ移動する。本発明では結合体10が停止するように第二極2から第一極1へ向かって(40で示す向きへ)外力を作用させる。この結果、電気浸透流20と、電気泳動30および外力40の合計とがつり合い、結合体10が停止する。このため、物質Bを検出器50で検出できる。物質Aは第一極1へ電気泳動するが、相互作用を解析する上で適当な量を流路内全体に存在させるため、結合体ABの微少量が生成あるいは解離しても流路系内におけるその濃度は一定と考えることができる。

【0021】
結合体ABが停止したかどうかは、実験的には検出成分(物質A、物質Bまたは結合体AB)の移動状況を、例えば熱レンズ検出器等を用いてモニターすることで確認できる。すなわち、物質A、物質Bまたは結合体ABの挙動をモニターしながら外力を調整することで、結合体ABを停止させることができる。

【0022】
また次のように結合体ABが停止したかどうかをデータ解析から確認することもできる。具体的には、バイオ関連の研究分野で常用されているScatchardプロット法、Hanes-Woolfプロット法やEadie-Hofsteeプロット法等により、先ず物質AとBの間の結合平衡定数K(=k/k)を求める。次に、一次モーメント式を用いてこのK値に対応する一次モーメント値(μ)を計算する。そして、物質Bの溶出ピークの実測μ値が計算値と一致するように実験条件を設定する。μの実測値と計算値が一致することは、結合体ABが停止した状態であることを意味している。このような条件で物質Bの溶出ピークを測定し、そのピーク形状をモーメント解析すれば目的の速度情報(kとk)を求めることができる。モーメント解析の詳細は後述する。

【0023】
図1において外力40を作用させる方法は特に限定されない。例えばコンプレッサーやボンベ等からのガス(窒素や空気等)の供給により加圧する方法、管状流路の両端の高さを変えてヘッド差を利用する方法、マノメーター(水柱や水銀柱等)を利用する方法、液体送液ポンプにより送液する方法、真空(減圧)ポンプを利用する方法等が挙げられる。この他に、磁場や光(レーザー光)等を利用する方法も挙げられる。後述する実施例では、気体用ピストンポンプ(シリンジ)により流路系に圧力を印加し外力40を結合体ABに印加している。

【0024】
4.検出工程
本工程においては、物質A、物質B、あるいは結合体ABを検出する。検出器は前述のとおりに設置すればよい。検出器としては当該分野で公知のものを使用できる。例えば、吸光光度法、レーザー励起蛍光法等を用いることができる。前述の各工程を実施する温度は特に限定されないが、通常のキャピラリー電気泳動実験を行う温度範囲(例えば、15~60℃程度)が望ましい。

【0025】
5.解析工程
本工程においては、前記検出結果を解析する。例えば、物質A、物質B、あるいは結合体ABの溶出曲線を取得して、当該曲線から物質AB間の相互作用を解析する。相互作用を解析するとは、例えば両物質の親和性、両物質が結合する速度等に関する化学情報(結合平衡定数、解離平衡定数、結合速度定数、解離速度定数等)を求めることである。相互作用を解析するとは、界面活性剤ミセルとその周囲のバルク溶媒相間の異相界面を物質が透過する速度情報(異相界面透過速度定数)を求めることでもある。

【0026】
本発明においては、実験データから解析的に速度定数を求めるためモーメント解析を行うことが好ましい。本発明では、計算溶出曲線の実測溶出曲線へのカーブフィッティングにより目的の速度定数を求めるような試行錯誤的な解析は行わない。実験的にはガウス分布曲線に近い単純な溶出曲線が得られるので、カーブフィッティングの必要がなくモーメント解析法をそのまま適用できる。モーメント解析法とは実験的に得られた曲線から一絶対モーメント(μ)(溶出曲線のピーク位置に対応)および二次中央モーメント(μ’)(溶出曲線のピークの分散の二乗に対応)を求め、物質の結合速度定数、解離速度定数、または異相界面透過速度定数等の具体的な値を求める解析法である。具体的には、以下のようにして、これらの速度定数を求めることができる。

【0027】
モーメント理論に基づく解析は種々の文献に記載されている。モーメント理論はクロマトグラフィー分離に関連する物質移動速度を解析する際によく利用されているが、電気泳動挙動の速度解析に適用された例はこれまでにない。電気泳動挙動の速度解析へのモーメント理論の適用について、以下にその要点を説明する。結合体ABが流路内で停止して物質Bだけが検出器側へ移動する場合(物質Aも移動するが、流路内全体にそれを適当量存在させるため物質Aの濃度一定と仮定できる)、流路系内における物質Bの物質収支、物質移動速度、および物質A-B間の反応速度(kとkを含む)を表わす基礎式は下記のとおりである。

【0028】
【数1】
JP2016138881A_000003t.gif

【0029】
式中Dは軸方向混合拡散係数(本発明の場合には、分子拡散係数)、Cは泳動液中の物質Bの濃度、uは物質Bの移動速度、Xは泳動液中の結合体ABの濃度、zは管状流路の長さ方向の位置、Lは物質Aの濃度、tは時間、kは結合速度定数、kは解離速度定数である。この式をラプラス変換し、溶出ピークの全体像を表わす解析解をラプラス域で求める。さらに、この解析解から実時間域における溶出ピークのμおよびμ’を表わすモーメント式を以下のように導出する。

【0030】
【数2】
JP2016138881A_000004t.gif

【0031】
式中、τは試料溶液注入時間である。このようにして開発したモーメント式を用いて実測溶出曲線(ピーク)を解析し、μよりk/kの値を求める。また、μ’よりk/kの値を求める。さらに、両者の値(k/kとk/k)からkとk各々の値を求める。

【0032】
異相界面透過速度定数は以下のようにして求めることができる。異相界面透過速度とは、例えばミセル、リポソーム、ベシクル等の分子集合体やカプセル等の内部に他の物質を取り込める物質Aと物質Bの組合せにおいて、物質Bが物質Aの界面を透過して物質A内部に取り込まれる(可溶化または分配される)、あるいは物質A内部から外部に放出されるときの透過速度である。以下、物質Aが界面活性剤ミセル、物質Bが物質Aの内部に可溶化される場合を例にして説明する。
結合体ABが流路内で停止して物質Bだけが検出器側へ移動する場合(物質Aも移動するが、流路内全体にそれを適当量存在させるため物質Aの濃度一定と仮定できる)、流路系内における物質Bの物質収支、物質移動速度、およびミセル界面における物質Bの透過速度(透過速度定数kintを含む)を表わす基礎式は下記のとおりである。

【0033】
【数3】
JP2016138881A_000005t.gif

【0034】
式中Dは軸方向混合拡散係数(本発明の場合には、分子拡散係数)、Cは泳動液中の物質Bの濃度、uは物質Bの移動速度、Xは泳動液中の結合体ABの濃度、zは管状流路の長さ方向の位置、Aはキャピラリーの内容積に対するミセル界面の総面積の比、Nはミセル界面における物質移動の流束(単位面積、単位時間あたりの溶質の透過量)、tは時間、kintは異相界面透過速度定数、Kは分配平衡定数、Rはミセル半径である。この式をラプラス変換し、溶出ピークの全体像を表わす解析解をラプラス域で求める。さらに、この解析解から実時間域における溶出ピークのμおよびμ’を表わすモーメント式を以下のように導出する。

【0035】
【数4】
JP2016138881A_000006t.gif

【0036】
式中、Lはキャピラリー有効長、τは試料溶液注入時間である。このようにして開発したモーメント式を用いて実測溶出曲線(ピーク)を解析し、μよりKの値を求め、μ’よりkintの値を求める。

【0037】
6.本発明を応用したより高精度な解析方法
本発明において、結合体ABが流路内で停止するように外力40について微妙な調整を行うことは、実際は困難な場合がある。そこで、外力40を変化させて、外力と結合体ABの移動速度との関係を求め、かつ結合体ABが停止する作用条件を求めることで、結合体ABが流路内で停止する状態における物質Aおよび物質B間の相互作用を解析できる。具体的に当該方法は、以下の(I)~(VI)工程を備える。
(I)相互作用する物質Aと物質Bのいずれか一方を含む泳動液が充填された管状流路を準備する工程、
(II)前記流路に、泳動液に含まれないもう一方の物質(物質Aまたは物質B)を導入する工程、
(III)前記流路に電圧を印加し、前記物質AとBとの結合体ABと、AまたはBとを電気泳動または電気浸透流により移動させる工程、
(IV)前記流路中の結合体ABの動きに対向する外力を作用させて結合体ABを流路内で停止させるか逆流させる工程、
(V)前記流路中の結合体ABの動きと同じ方向に外力を作用させて結合体ABの移動を促進させる工程、
(VI)前記物質A、物質B、または結合体ABを検出する検出工程、ならびに
(VII)前記工程(III)~(VI)で得た溶出挙動から、結合体ABの移動速度が0となる作用条件を求める工程。

【0038】
(1)工程IおよびII
本工程はすでに述べた準備工程と同様にして行うことができる。
(2)工程III
本工程は、外力を作用させない点以外はすでに述べた移動工程と同等にして行うことができる。

【0039】
(3)工程IV
本工程は、結合体ABの動きに対向する外力を作用させて結合体ABを流路内で停止させるか逆流させる。図1を用いて本工程を説明する。結合体ABを流路内で停止させる場合はすでに述べたとおりである。一方、結合体ABを逆流させるには、図1において電気泳動30と外力40の合計を電気浸透流20よりも僅かに大きくすればよい。この場合、物質Bは電気泳動しないため、外力40を掛けた状態でも第二極2方向へ移動しうる状況となる。そして外力40の大きさを、物質Bが第一極1方向へ移動しない程度とすることで物質Bを第二極2方向へ移動できる。

【0040】
(4)工程V
本工程では、結合体ABの動きと同じ方向に外力を作用させて結合体ABの移動を促進させる。図2を用いて本工程を説明する。図2において物質Aと結合体10は第一極1へ電気泳動する。電気浸透流により泳動液全体は第二極2方向へ移動する。本工程では結合体10が電気浸透流の方向に向かってより移動しやすいように第一極1から第二極2へ向かって(40で示す向きへ)外力を作用させる。この結果、結合体10の電気浸透流の方向への移動が促進される。一方、物質Bは第一極1方向へ電気泳動しないため結合体10よりも速く第二極2方向へ移動する。この結果、物質Bが検出器50で検出される。図2は電気浸透流が存在する場合を示すが、電気浸透流が存在しない場合も同様である。

【0041】
(4)工程VI
本工程は、すでに述べた検出工程と同等にして行うことができる。

【0042】
(5)工程VII
本工程では、まず前記工程(III)~(VI)で得た溶出挙動から、工程(III)~(V)における結合体ABの移動速度を求める。その移動速度は物質Bの移動速度や溶出時間(一次モーメント)等から結合平衡定数を求める手順を通して求めることができる。

【0043】
次いで、外力40と結合体ABの移動速度の関係から、結合体ABの移動速度が0となる作用条件を求める。例えば外力40が圧力である場合、結合体ABの移動速度が0となる圧力の大きさPsを求める。そして、Ps印加時の物質Aと物質Bの相互作用を解析する。例えば、圧力と、一絶対モーメントおよび二次中央モーメントとの関係をプロットし、Ps印加時の各モーメントを求め、結合体ABの生成と解離反応に関する速度定数を求めることで、当該相互作用にかかる情報を得ることができる。

【0044】
当該方法の効果を、説明を簡略にするため物質Bを検出する場合を例にして説明する。
当該方法では結合体ABが系内で停止している状態における両者の相互作用の情報を得ることができる。すなわち当該方法においては、物質Bが物質Aに結合したまま停止した状態で、結合体から遊離した物質Bを検出することとなるので、物質Bをクロマトグラフィーと同様の条件で分析しているともいえる。従来のクロマトグラフィー分析では固定相(物質Aに相当)が担体に固定化されているため、物質Aと物質Bの真の相互作用を解析しているかどうかが不確かである。また化学修飾(例えば、蛍光標識化)した物質Bを物質Aと反応させる解析法も利用されているが、この場合も物質Aと物質Bの真の相互作用を解析しているかどうか不確かである。一方、当該方法では固定相に相当する物質Aは担体に固定化されておらず遊離した状態にあり、かつ物質AとBは共に化学的に修飾されていない。このため、当該方法では物質Aと物質Bの真の相互作用の特徴を測定または解析できるという利点がある。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
以下のようにして分析を行った。測定は303K(30℃)にて行った。
(1)化合物
ゲスト分子:チモール(無電荷)(シグマアルドリッチ社製)
ホスト分子:硫酸化β-シクロデキストリン(負電荷)(シグマアルドリッチ社製)
【実施例】
【0046】
(2)装置
Beckman Coulter P/ACE MDQ(UV検出、波長200nm)
キャピラリー:内径75μm、外形375μm、全長60.2cm、有効長50cm
【実施例】
【0047】
(3)分析
泳動液としてリン酸緩衝溶液(30mM、pH6.9)/メタノール=80/20(v/v)を準備した。試料溶液中のチモール濃度は2mMであった。試料溶液には電気浸透流マーカーとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を混合した。また、濃度が8.9mMとなるように、硫酸化β-シクロデキストリンを泳動液に加えた。
前記泳動液をキャピラリー内に導入した後、加圧法(0.5psi(350Pa)、5秒)により試料溶液を導入した。電位勾配が250Vcm-1となるように電圧をかけ、電気泳動実験を行った。その際、陰極側からキャピラリーに0.1psi(70Pa)、また陽極側から0.1psi(70Pa)の圧力を加えた。本例では電気浸透流は陽極から陰極に向い、この陽極から陰極への向きを正の向き(+)、その逆を負の向き(-)とした。さらに、圧力を掛けない条件(0psi)においても実験を行い、チモールの溶出ピークを検出した。
溶出曲線を図3に示す。圧力を電気浸透流に対向して印加する場合をマイナス符号、また電気浸透流と同方向に掛ける場合をプラス符号で表し、図3では各々-0.1psi、+0.1psiと記載した。また、圧力を印加しない場合を0psiと記載した。2本のピークのうち、早く溶出するピークは電気浸透流の速度を測定するためのマーカーであるDMSOのピークである。後から溶出するピークがチモールのピークである。
【実施例】
【0048】
(4)解析
各圧力において得られたチモールの溶出曲線から、以下に示す各々の定義に基づいて一次絶対モーメント(μ)および二次中央モーメント(μ’)を求めた。さらに、それらのモーメント値から式(ii)に基づいてkとkを求めた。本例においてDは4.7×10-6cm-1、uは0.5~0.9mms-1、Lは8.9mM、τは5s、Zは50cmであった。Cは物質Bの濃度、Xは結合体ABの濃度、zはキャピラリーの長さ方向の位置、tは時間であり電気泳動の経過と共に変化するパラメータである。印加圧力とモーメント値の相関を図4に示す。
【実施例】
【0049】
各圧力におけるμおよび電気浸透流の速度等から結合平衡定数を求め、さらに結合体ABの移動速度(v)求めた。具体的には以下のようにして求めた。
溶出ピークの一次絶対モーメントは次のように定義される。
【実施例】
【0050】
【数5】
JP2016138881A_000007t.gif
【実施例】
【0051】
ここで、Ce(t)は溶出ピークの形状(濃度変化)を表わす時間(t)の関数である。dtは時間の刻みで、Ce(t)とdtの積は溶出ピークを細分化した微小短冊部分の面積を表わす。分母ではそれを全時間領域に渡って積分しているので、分母はピーク面積を表わす。また、分子は微小短冊部分の面積とt(試料注入時点からの時間)の積を積分しており、一次絶対モーメントは両者の比と定義される。
一方、溶出ピークの二次中央モーメントは次のように定義される。
【実施例】
【0052】
【数6】
JP2016138881A_000008t.gif
【実施例】
【0053】
二次中央モーメントは微小短冊部分の面積と(t-μ)(一次絶対モーメントからの時間)の二乗の積の総和とピーク面積の比と定義される。一次絶対モーメントはピークの溶出時間、二次中央モーメントはピーク分散の二乗に各々対応する。
物質Bと結合体ABの双方が検出器方向へ移動する場合、一次絶対モーメントは次のように表わされる。
【実施例】
【0054】
【数7】
JP2016138881A_000009t.gif
【実施例】
【0055】
ここで、uは物質Bの移動速度、vは結合体ABの移動速度である。また、Kは結合平衡定数であり、k/kの比に等しい。結合体ABが停止する場合にはv=0となるため、前述の式(ii)と同じ形になる。また、この式から結合体ABの移動速度vは次のように求めることができる。
【実施例】
【0056】
【数8】
JP2016138881A_000010t.gif
【実施例】
【0057】
この式により計算して求めたvの値と印加圧力(Padd)との関係を図5に示した。図5に示すように、結合体が停止するためのPs圧力は-0.084psiであった。すなわち、陰極から陽極に向かって0.084psiの圧力を印加することにより結合体が停止することが明らかとなった。
【実施例】
【0058】
Ps(-0.084psi)におけるチモールの溶出曲線の一次絶対モーメント(μ)および二次中央モーメント(μ’)を図4のプロットから求めた。これらから結合体が停止した状態におけるチモール-硫酸化β-シクロデキストリン間の相互作用に関する平衡および速度情報を前述の式(ii)に基づいて以下のように求めた。
結合平衡定数(K):25M-1
結合速度定数(k):3.6×10-1-1
解離速度定数(k):14s-1
【実施例】
【0059】
[実施例2]
結合体が電気泳動しない場合について、解析を行った。
具体的には、正電荷を有する溶質(ナファゾリン)と負電荷を有するリガンド(コール酸)を用い無電荷のこれらの会合体(結合体)を形成して、電気泳動による会合体の移動を自動的に停止させた。さらに電気浸透流の発生を抑えることで管内での会合体の動きを停止させた。
【実施例】
【0060】
(1)化合物
溶質分子:ナファゾリン塩酸塩(正電荷)(シグマアルドリッチ社製)
リガンド分子:コール酸(胆汁酸)(負電荷)(和光純薬社製)
【実施例】
【0061】
(2)実験系
実施例1と同様の実験装置を用いた。ただし、UV検出波長は220nmとした。電気浸透流を発生させないようにキャピラリー内壁をポリマーコーティングしたニュートラルキャピラリーを使用した。その内径は50μm、外形375μm、全長30.4cm、有効長20.5cmであった。測定は298K(25℃)にて行った。
【実施例】
【0062】
(3)分析
泳動液としてリン酸緩衝溶液(30mM、pH7.4)を使用し、これにコール酸を濃度が8.1mMとなるように溶解した。試料溶液中のナファゾリン濃度は2.9mMであった。前記泳動液をキャピラリー内に導入した後、加圧法(0.5psi(350Pa)、5秒)により試料溶液を導入した。電位勾配が330Vcm-1となるように電圧をかけ、電気泳動させた。会合体は無電荷であるため自動的に電気泳動しない状況となった。このため、キャピラリーへの圧力印加を行わない条件(0psi)において実験を行い、ナファゾリンの溶出ピークを検出した。溶出曲線を図6に示す。コール酸が共存する場合にはナファゾリンがコール酸と会合体を形成するため、ナファゾリンの溶出時間が遅くなった。
【実施例】
【0063】
(4)解析
図6の溶出曲線から一次絶対モーメント(μ)および二次中央モーメント(μ’)を求めた。さらに、それらのモーメント値から式(ii)に基づいてkとkを求めた。本例においてDは5.9×10-8-1、uは6.1×10-4ms-1、Lは8.1mM、τは5s、Zは20.5cmであった。
【実施例】
【0064】
(5)結果
ナファゾリン-コール酸間の相互作用に関する平衡および速度情報を前述の式(ii)に基づいて以下のように求めた。
結合平衡定数(K):4.4M-1
結合速度定数(k):2.2M-1-1
解離速度定数(k):0.51s-1
【実施例】
【0065】
[実施例3]
界面活性剤ミセルと溶質の相互作用を解析した。具体的には、リガンドとして界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、SDS)ミセル、溶質としてチモールを用いた。チモールはは疎水性であるのでミセル内部に可溶化される。そのため、チモールの溶出ピーク形状を解析することにより、ミセルとその周囲のバルク溶媒相との間の異相界面におけるチモール分子の移動速度、すなわち異相界面(ミセル界面)透過速度が測定できる。測定は303K(30℃)で行った。
【実施例】
【0066】
(1)化合物
溶質分子:チモール(無電荷)(シグマアルドリッチ社製)
リガンド分子:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(シグマアルドリッチ社製)を臨界ミセル濃度以上の濃度に溶解し、SDSミセルを形成させた。このミセル(負電荷)をリガンドとして使用した。
【実施例】
【0067】
(2)装置
Beckman Coulter P/ACE MDQ(UV検出、波長200nm)
キャピラリー:内径75μm、外形375μm、全長40.2cm、有効長30cm
【実施例】
【0068】
(3)分析
泳動液としてリン酸緩衝溶液(20mM、pH7.1)/メタノール=80/20(v/v)を準備した。試料溶液中のチモール濃度は2mMであった。試料溶液には電気浸透流マーカーとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を混合した。また、濃度が15.4mMとなるように、硫酸化β-シクロデキストリンを泳動液に加えた。SDSの臨界ミセル濃度およびミセル会合数(1個のミセルを形成するSDS分子数)を懸滴法により実験的に測定した結果、各々2.1mMおよび49であった。本実験系におけるSDSミセル濃度は0.27mMであった。
【実施例】
【0069】
前記泳動液をキャピラリー内に導入した後、加圧法(0.5psi(350Pa)、5秒)により試料溶液を導入した。電位勾配が370Vcm-1となるように電圧をかけ、電気泳動実験を行った。その際、陰極側からキャピラリーに0.1psi(70Pa)、また陽極側から0.1psi(70Pa)の圧力を加えた。本例では電気浸透流は陽極から陰極に向い、この陽極から陰極への向きを正の向き(+)、その逆を負の向き(-)とした。さらに、圧力を掛けない条件(0psi)においても実験を行い、チモールの溶出ピークを検出した。
【実施例】
【0070】
溶出曲線を図7に示す。圧力を電気浸透流に対向して印加する場合をマイナス符号、また電気浸透流と同方向に掛ける場合をプラス符号で表し、図7では各々-0.1psi、+0.1psiと記載した。また、圧力を印加しない場合を0psiと記載した。2本のピークのうち、早く溶出するピークは電気浸透流の速度を測定するためのマーカーであるDMSOのピークである。後から溶出するピークがチモールのピークである。
【実施例】
【0071】
(4)解析
前述の式(iv)を用いて解析を行った。本例においてDは6.0×10-10-1、uは0.6~1.0mms-1、τは5s、Lは30cmであった。Cは物質Bの濃度、Xは結合体ABの濃度、zはキャピラリーの長さ方向の位置、tは時間であり電気泳動の経過と共に変化するパラメータである。印加圧力とモーメント値の相関を図8に示す。
各圧力において得られたチモールの溶出曲線(図7)から、一次絶対モーメント(μ)および二次中央モーメント(μ’)を求めた。さらに、それらのモーメント値から式(iv)に基づいてkintを求めた。解析手順は実施例1と同様である。
会合体の移動速度vと印加圧力(Padd)との関係を図9に示した。図9に示すように、結合体が停止するためのPs圧力は-0.075psiであった。すなわち、陰極から陽極に向かって0.075psiの圧力を印加することにより結合体が停止することが明らかとなった。
【実施例】
【0072】
Ps(-0.075psi)におけるチモールの溶出曲線の一次絶対モーメント(μ)および二次中央モーメント(μ’)を図8のプロットから求めた。SDSミセルへのチモール分子の分配平衡定数(K)およびSDSミセル界面におけるチモール分子の透過速度定数(kint)を前述の式(iv)に基づいて以下のように求めた。
分配平衡定数(K):575
異相(ミセル)界面透過速度定数(kint):1.5×10-6ms-1
【実施例】
【0073】
従来法では、実測ピーク形状と数値解析による計算結果が一致するように試行錯誤的に速度定数(kとk)を決定する。しかし、両者の一致度の判断基準が曖昧であるため、実験データから最終的な解析結果を一義的に導出できない。すなわち、カーブフィッティングする際に着目するパラメータ(例えば、溶出ピークの位置や面積等)の種類が規定されておらず、さらに一致度の定量的な判断基準(どの程度一致すればよいと判断するのか)も明確ではない。また、カーブフィッティングする対象となる実測ピーク形状は、ガウス分布曲線のような単純かつ理論的根拠が明確なものではなく、非常に複雑で実験条件によっては複数のピークが検出される。このため、kとkの値を決定する際に実験者の主観が入る余地がある。また、そのデータ処理法は数学的に複雑・難解であり、現実的には多くの研究者がこの従来法を簡便に利用することができない。さらに、ある実験条件の場合には、流路系内における電気泳動挙動を表わす基礎式のある仮定の下での解析解を利用するが、この場合にはこの仮定が成り立たない条件下での実験データは解析できない。このように従来法には客観性および利便性の点で難があるのに対して、本発明は容易に利用できかつ客観性を備えているという利点を有する。さらに、同様に測定した溶出ピークの形状を異なるモーメント式を適用して解析することにより、異相界面における物質の透過速度定数をも測定することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 第一極
2 第二極
A 物質A
B 物質B
10 結合体
20 電気浸透流
30 結合体の電気泳動
40 外力
50 検出器
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8