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明細書 :並列反応用懸濁液、並列反応方法、スクリーニング方法および検査方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-143783 (P2017-143783A)
公開日 平成29年8月24日(2017.8.24)
発明の名称または考案の名称 並列反応用懸濁液、並列反応方法、スクリーニング方法および検査方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12Q 1/68 ZNAA
C12P 21/02 C
請求項の数または発明の数 19
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2016-027804 (P2016-027804)
出願日 平成28年2月17日(2016.2.17)
発明者または考案者 【氏名】市川 創作
【氏名】児玉 康平
【氏名】杉浦 慎治
【氏名】佐藤 琢
【氏名】金森 敏幸
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】100085257、【弁理士】、【氏名又は名称】小山 有
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B063
4B064
Fターム 4B024AA11
4B024AA20
4B024CA01
4B024DA20
4B024HA11
4B024HA20
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QQ79
4B063QR01
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR42
4B063QR49
4B063QR50
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS25
4B063QS36
4B063QX02
4B064AG01
4B064CA50
4B064CC24
4B064CC30
4B064CD13
要約 【課題】 並列反応用の懸濁液、この懸濁液を用いた並列反応、並列反応を利用したスクリーンニング法及び検査方法を提供する。
【解決手段】
ゲルビーズ3内にはラテックスなどを材料とする微粒子4が多数分散している。各微粒子4の表面はアフィリティリガンド(PCR用プライマー及びNTA)で修飾されている。具体的には、核酸増幅反応プライマーとして機能する長さが15~50塩基の範囲に含まれる1本鎖DNAで表面が修飾された微粒子4と、NTA(ニトリロ三酢酸)で表面が修飾された微粒子4がゲルビーズ3内に分散している。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
ゲルビーズが液体中に分散した並列反応用懸濁液であって、前記ゲルビーズ内にはアフィニティリガンドが表面に固定された微粒子が分散していることを特徴とする並列反応用懸濁液。
【請求項2】
請求項1に記載の並列反応用懸濁液において、前記アフィニティリガンドが、DNA(デオキシリボ核酸)であることを特徴とする並列反応用懸濁液。
【請求項3】
請求項1に記載の並列反応用懸濁液において、前記アフィニティリガンドが、特定のタグ配列を持つタンパク質を認識する物質であることを特徴とする並列反応用懸濁液。
【請求項4】
請求項1に記載の並列反応用懸濁液において、この並列反応用懸濁液中にはDNA(デオキシリボ核酸)が表面に固定された微粒子が分散するゲルビーズと、特定のタグ配列を持つタンパク質を認識する物質が表面に固定された微粒子が分散するゲルビーズとが分散していることを特徴とする並列反応用懸濁液。
【請求項5】
請求項2または4に記載の並列反応用懸濁液において、前記DNAは核酸増幅反応プライマーとして機能する長さが15~50塩基の範囲に含まれる1本鎖DNAであることを特徴とする並列反応用懸濁液。
【請求項6】
請求項3または4に記載の並列反応用懸濁液において、前記タグ配列を持つタンパク質を認識する物質は、ニトリロ三酢酸(NTA)、抗体、グルタチオン、マルトースの何れかであることを特徴とする並列反応用懸濁液。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の並列反応用懸濁液において、前記微粒子の大きさ(平均径)は0.1~10μmであることを特徴とする並列反応用懸濁液。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の並列反応用懸濁液において、前記ゲルビーズがアガロースであることを特徴とする並列反応用懸濁液。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の並列反応用懸濁液において、前記ゲルビーズの大きさ(平均径)は1~500μmであることを特徴とする並列反応用懸濁液。
【請求項10】
アフィニティリガンドが表面に固定された微粒子を含んだゲルビーズが液体中に分散した並列反応用懸濁液を用いた並列反応方法であって、複数種のDNAが含まれる溶液を限界希釈または所定の濃度とし、この複数種のDNAが含まれる溶液を液体中に分散することで前記ゲルビーズとし、1つのゲルビーズ中に1分子のDNAを固定し、次いでゲルビーズ中に核酸増幅反応を行うのに必要な物質を導入し、個々のゲルビーズ中で個別の核酸増幅反応を同時に並行して行うことを特徴とする並列反応方法。
【請求項11】
請求項10に記載の並列反応方法において、前記アフィニティリガンドが、核酸増幅反応プライマーとして機能する長さが15~50塩基の範囲に含まれる1本鎖DNAであることを特徴とする並列反応方法。
【請求項12】
請求項10に記載の並列反応方法において、前記アフィニティリガンドが、特定のタグ配列を持つタンパク質を認識する物質であることを特徴とする並列反応方法。
【請求項13】
請求項10に記載の並列反応方法において、前記複数種のDNAが所定の濃度で含まれる溶液は核酸増幅反応を行うのに必要な物質を含有することを特徴とする並列反応方法。
【請求項14】
請求項10乃至13の何れか1項に記載の並列反応方法において、ゲルビーズ中にタンパク質を合成するのに必要な物質を導入することで、前記個々のゲルビーズ中で核酸増幅反応を行った後に、タンパク質合成反応を個々のゲルビーズ中で同時に並行して行うことを特徴とする並列反応方法。
【請求項15】
請求項10乃至請求項14の何れか1項に記載の並列反応方法において、前記核酸増幅反応およびタンパク質合成反応を水と混じり合わない液体にゲルビーズを懸濁させて行うことを特徴とする並列反応方法。
【請求項16】
請求項10乃至請求項14の何れか1項に記載の並列反応方法において、前記タンパク質合成反応に必要な物質はアミノ酸と酵素であることを特徴とする並列反応方法。
【請求項17】
請求項10乃至16に記載された並列反応に続いて、個々のゲルビーズ内に固定されているタンパク質の特性を検査し、目的のタンパク質をコードするDNAを選別することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項18】
請求項17に記載のスクリーニング方法において、前記DNAの選別は蛍光を発するゲルビーズを分取することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項19】
請求項10乃至16に記載された並列反応に続いて、個々のゲルビーズに固定されているDNAの量を評価することで、元のテンプレートDNA中の特定の配列を検査する検査方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、多数のゲルビーズ内で複数の化学反応、生化学反応を同時並行的に行うための懸濁液、この懸濁液を用いた並列反応方法、この並列反応を用いたスクリーニング方法およびこの並列反応を利用した検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ランダムに変異が入った多くの候補タンパク質の中から、目的の活性を有する酵素を探索したり、多くの候補物質の中から目的の活性を持つ触媒を探索する手法は、創薬や新規化学物質の探索においてしばしば用いられている。
【0003】
例えば非特許文献1には目的のタンパク質を発現する細胞をクローニングする際に、限界希釈法により1つの容器に1つの細胞が入る濃度から細胞を培養し、目的のタンパク質を発現するクローンを取得する方法が提案されている。
【0004】
また非特許文献2及び非特許文献3には、ある酵素の一部のアミノ酸をランダムに置換してライブラリーを作製し、このライブラリーから産業上有用な活性を有する酵素を探索することが開示されている。
【0005】
非特許文献2及び非特許文献3に示す手法では、一般的に96穴ウェルプレートなどの数百μlから数ml程度の容積の反応器を使用している。
【0006】
例えば、目的の細胞を含む細胞懸濁液を96穴ウェルプレートに分注し、抗体などを含む分析用試薬類を順次添加して細胞表面に発現した物質若しくは細胞から分泌される物質の量を定量する。また、多様なアミノ酸置換を含む酵素を発現するライブラリーの中について、96穴ウェルプレート等の反応器の中で酵素を発現させ、酵素の反応基質等を添加することにより酵素の活性を測定して活性の高い酵素を発現するクローンを選択する。
つまり96穴ウェルプレート等を用いる場合には、多数の反応器(穴)に順次複数の試薬を分注する必要があり、分析対象となる酵素や細胞の数の増加に伴い必要となる反応器数が増大し、それに伴う溶液・試薬の分注操作が煩雑となる。
【0007】
非特許文献4には、半導体加工技術を利用して微小な反応容器を作製することが提案されているが、分注操作の問題は解消されていない。そこで、反応容器を更に小さくし且つ分注操作等も不要とする提案が特許文献1~4及び、非特許文献5~10に提案されている。
【0008】
本発明者らが2011年に提案した特許文献1には、懸濁液中の多数のゲル粒子(ゲルビーズ)の3次元網目構造の部分に、核酸増幅反応プライマーとして機能する長さが15~50塩基の範囲に含まれる1本鎖DNAを多数固定し、また前記ゲル粒子には限界希釈することによって1分子のテンプレートDNAを含ませ、核酸増幅反応によって前記テンプレートDNAを増幅して多数の同一DNAを1つのゲル粒子内で生産し、更にゲル粒子内にタンパク質合成に必要な物質を供給することで各ゲル粒子内の多数の同一DNAによって特定のタンパク質を合成することが開示されている。
【0009】
また前記特許文献1では、核酸増幅反応プライマーとは別に、NTA(ニトリロ三酢酸)などの特定のタンパク質を認識する物質をゲル粒子(ゲルビーズ)の3次元網目構造の部分に固定することも開示されている。
【0010】
特許文献2には、W/O型エマルションを構成する水滴中に、親水性分子と酵素などの機能性分子を別々に封じ込め、これら水滴を融合させることで、特異的な反応を誘導する内容が開示されている。また、この特許文献2にはDNAを封じ込めることも開示されている。
【0011】
特許文献3には、一方の荷電を有するベシクルに反応性物質を内包させ、他方の荷電を有するベシクルに前記反応性物質と反応する物質を内包させ、これら2つのベシクルを融合させ、融合した1つのベシクル内で反応を起こさせるようにしたことが開示されている。
【0012】
特許文献4には、エマルションの水相(水滴)内にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)用のプライマーが結合した固相担体を含ませ、水滴内でPCRを行い固相担体に核酸複合体を連結させ、この後エマルションを破壊して固相担体-核酸複合体の結合体を回収し、この固相担体-核酸複合体を用いて無細胞タンパク質合成を行うことが開示されている。
【0013】
非特許文献5にはエマルションの水相中(水滴)内にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)用のプライマーを含ませ、この水滴を酵素分解したゲノムDNAを含む水滴とマイクロ流体デバイス内で合一させ、この後水滴内でPCRを行い、ゲノムDNA中の特定の部分を増幅する方法が開示されている。また非特許文献6には、エマルションの水相(水滴)内にタンパク合成用の酵素及び基質を含ませ、水滴内でタンパク合成反応を行う方法が開示されている。
【0014】
非特許文献7には、リン脂質二重膜により構成される閉鎖小胞であるベシクルに目的とする分子を封じ込め、これらベシクルをレーザにより移動させて融合させる技術が開示されている。
また非特許文献8には、ゲル粒子内でタンパク質合成反応を行わせるために、ゲル粒子表面の高分子皮膜を通してゲル粒子内に基質を供給する内容が開示されている。非特許文献9にはゲル粒子を反応容器として用いてPCRを行う方法が開示されている。
更に非特許文献10には、高効率の遺伝子増幅プロセスとして、微小ビーズ内にプライマーDNAを固定し、このビーズ内にPCRに必要な物質を含ませ、ビーズ内でPCRを行わせることが開示されている。
【先行技術文献】
【0015】

【特許文献1】WO2013/024821
【特許文献2】特開2000-271475号公報
【特許文献3】特開2008-29952号公報
【特許文献4】特開2009-178067号公報
【0016】

【非特許文献1】バイオ実験イラストレイテッド,6,128-130
【非特許文献2】AISTToday 5(4), 18-19 (2005)
【非特許文献3】生化学,vol.72(12), 1430-1433,2000
【非特許文献4】Analytical Chemistry, 77(24), 8050-8056 (2005)
【非特許文献5】Nature Biotechnol., 27, 1025-1031 (2009)
【非特許文献6】Nature Biotechnol., 16, 652-656 (1998)
【非特許文献7】Langmuir, 19(20), 8206-8210 (2003)
【非特許文献8】Journal of Biotechnology, 143, 183-189 (2000)
【非特許文献9】Lab Chip, 10, 2841-2843 (2010)
【非特許文献10】Analytical chemistry.2008,Vol.80, No.10, p3522-3529
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献2~4或いは非特許文献5~9に開示されるような、ベシクル、エマルション或いはゲル粒子を反応容器とすることで、反応容器を小さくでき、多数の並列反応が可能になる。しかしながら、ゲル粒子などの微小容器内でタンパク質合成反応を起こさせ目的のタンパク質を得たとしても、タンパク質が容易にゲル粒子などの微小反応容器から溶出してしまう問題がある。
【0018】
また、ベシクル、エマルション或いはゲル粒子を反応容器として用いる場合には、反応試薬を反応容器に導入する際には、非特許文献5,9に開示されるようなマイクロ流体デバイスがしばしば用いられるが、これらの加工は非常に複雑で高価である。
更に非特許文献9にはアガロースを分散相とし油相を連続相としたエマルションの当該アガロース滴中にプライマーDNAを含ませ、アガロース滴中でPCRを行うことが開示されているが、タンパク質の合成と合成したタンパク質を固定することについての開示がない。また、多段階の生化学反応に応用する方法は開示されていない。また、マイクロ流体デバイスを用いてDNAを含ませる方法が用いられているが、マイクロ流体デバイスの加工は非常に複雑で高価である。
【0019】
また、ゲル粒子等を用いた懸濁型の並列反応において、核酸増幅反応(PCR)とタンパク質合成を連続して行おうとすると、PCRの二本鎖DNAを一本鎖DNAに熱変性(denaturation)させる工程において、熱(94℃)で、タンパク質合成酵素が失活してしまう問題がある。
【0020】
上記した幾つかの問題は特許文献1或いは非特許文献1によって解消される。しかしながら特許文献1にあっては、ゲル(微小ビーズ)の材料としてPCRを阻害しないアガロースやデキストリンを用い、ゲル(微小ビーズ)内にプライマーDNAなどを固定している。
【0021】
ゲルの網目構造にプライマーなどを固定するには、一般にゲルを構成する高分子の官能基を利用して固定するが、アガロースやデキストリンは反応活性の高い官能基を有していない。このため、ヒドロキシラジカル基を用いてゲルの網目構造に修飾することになるが、ヒドロキシラジカル基の反応活性はそれほど高くないため、十分な量のプライマーDNAなどをゲルビーズ内に導入できない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため本発明に係る並列反応用懸濁液は、ゲルビーズが液体中に分散し、前記ゲルビーズ内にはアフィニティリガンドが表面に固定された微粒子が分散した構成である。
【0023】
前記アフィニティリガンドとしては、例えばDNA(デオキシリボ核酸)或いは特定のタグ配列を持つタンパク質を認識する物質が挙げられ、DNAとしては、核酸増幅反応プライマーとして機能する長さが15~50塩基の範囲に含まれる1本鎖DNAを具体例として挙げることができ、DNAがコードするタンパク質としては、プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ等の酵素や蛍光タンパク質が考えられる。
特定のタグ配列を持つタンパク質を認識する物質としては、ニトリロ三酢酸(NTA)、抗体、グルタチオン、マルトースを具体例として挙げることができる。
【0024】
また、微粒子の分散形態としては、1つのゲルビーズ内にDNAを固定した微粒子または特定のタグ配列を持つタンパク質を認識する物質を固定した微粒子のうちの一種類が複数分散したもの、或いは1つのゲルビーズ内にDNAを固定した微粒子または特定のタグ配列を持つタンパク質を認識する物質を固定した微粒子の両方が分散した形態が考えられる。
【0025】
ゲルビーズの大きさ(平均径)としては、1~500μmが好ましい。またゲルビーズ中に分散させる微粒子の大きさ(平均径)としては0.1~10μmが好ましい。また微粒子の具体例としてはカルボキシル化ラテックス粒子が挙げられる。
【0026】
また本発明に係る並列反応方法は、アフィニティリガンドが表面に固定された微粒子を含んだゲルビーズが液体中に分散した並列反応用懸濁液を用いて行う。即ち、複数種のDNAが含まれる溶液を限界希釈または所定の濃度とし、この複数種のDNAが含まれる溶液を液体中に分散することで前記ゲルビーズとし、1つのゲルビーズ中に1分子のDNA(テンプレートDNA)を固定し、次いでゲルビーズ中に核酸増幅反応を行うのに必要な物質を導入し、個々のゲルビーズ中で個別の核酸増幅反応を同時に並行して行う。
アフィニティリガンドの具体例としては前記と同様に、核酸増幅反応プライマーや特定のタグ配列を持つタンパク質を認識する物質が挙げられる。
【0027】
限界希釈しても1つのゲル粒子中に複数のDNA分子が包含されたり、1つのゲル粒子中に包含されるDNA分子がない場合も想定される。本発明における限界希釈の意味は、平均的に1つのゲル粒子に1つのDNAが包含される濃度である。
【0028】
前記複数種のDNAが含まれる溶液には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うのに必要な物質を予め含有させておいてもよい。また前記溶液から形成されるゲルビーズ中にタンパク質を合成するのに必要な物質(例えばアミノ酸と酵素)を導入することで、個々のゲルビーズ中でPCRによる核酸増幅反応を行った後に、個々のゲルビーズ中でタンパク質合成反応を同時に並行して行うことができる。
【0029】
反応物質がゲルビーズ間を相互移動したり、生成されたタンパク質がゲルから漏出するのを防ぐために、核酸増幅反応およびタンパク質合成反応は、水と混じり合わない液体にゲルビーズを懸濁させて行うことが好ましい。
【0030】
ゲルビーズとなる水溶液中に核酸増幅反応およびタンパク質合成に必要な物質を導入し、次いで、水と混じり合わない液体にゲルビーズを懸濁させることで、複雑で高価なマイクロ流体デバイスを用いずとも、個々のゲル粒子中でコンパートメント化された核酸増幅反応およびタンパク合成反応を実施することが可能となる。
【0031】
また、PCRでは熱変性して二本鎖DNAを一本鎖DNAにする際に高温(94℃)となり、タンパク質合成酵素が失活するため、核酸増幅反応(PCR)が終了した後にタンパク質を合成するのに必要なアミノ酸と酵素などを導入する。
【0032】
また、並列反応方法においては、反応中に反応物質がゲル粒子間を相互移動するのを抑制するために、核酸増幅反応およびタンパク質合成ともに水と混じり合わない液体にゲル粒子を懸濁させることが必要である。
【0033】
また本発明に係るスクリーニング方法は、前記した並列反応に続いて、個々のゲルビーズ内に固定されているタンパク質の特性を検査し、目的のタンパク質をコードするDNAを選別する。選別方法としては、蛍光を発するゲルビーズを分取する。
【0034】
また本発明に係る検査方法は、前記並列反応に続いて、個々のゲルビーズに固定されているDNAの量を評価することで、元のテンプレートDNA中の特定の配列を特定する。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る並列反応用懸濁液を用いることで、例えば、1012個の反応を同時並列して行うことができる。
また、ゲル粒子からのDNAやタンパク質の溶出を防止し、ゲル粒子内での反応が効率よく行われ、且つ反応生成物であるタンパク質の回収も効率よく行える。
【0036】
特に本発明にあっては、ゲルビーズの官能基(網目構造)にプライマーDNAなどのアフィリティリガンドを修飾(固定)するのではなく、微粒子表面の活性基にアフィリティリガンドを修飾するようにしたので、アフィリティリガンドの導入率を高めることができる。
その結果、DNAやタンパク質などの反応生成物の量が増加し、検出感度が向上し、生成物の評価・解析が容易になる。
【0037】
更に、捕捉或いは生成する目的物質に応じた微粒子の大きさやゲルビーズ中の微粒子の濃度の調製・最適化を容易に行うことができ、反応器の設計にも自由度が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る懸濁液を説明した図
【図2】微粒子へのプライマー修飾過程を説明した図
【図3】本発明に係る懸濁液を利用した、PCRを説明した図
【図4】水相内のみでタンパク質合成及びタンパク質捕捉を行う例を説明した図
【図5】(a)NTAによるHis-GFPの捕捉を説明した図、(b)はHis-FITCの捕捉を説明した図
【図6】プライマーDNA微粒子濃度を0.2g/リットルとし、(a)はテンプレートDNAがない(0copy/bead)場合、(b)は増幅されたDNAがある(1copy/bead)場合の明視野画像と蛍光画像
【図7】本発明に係る懸濁液を利用した、タンパク質合成を説明した図
【図8】NTAによるタンパク質の捕捉を説明した図
【図9】NTAによるタンパク質の捕捉を説明した図
【図10】本発明に係る懸濁液を利用した、PCRからタンパク質合成までを説明した図
【図11】図10と同様の図
【図12】(a)はテンプレートDNAがない(0copy/bead)場合、(b)は増幅されたDNAがある(1000copy/bead)場合の明視野画像と蛍光画像
【図13】本発明に係る並列反応用懸濁液を用いたスクリーニング方法を説明した図
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1に示すように、バイアル瓶内に収納される本発明に係る懸濁液は水相中にアガロース等からなるゲルビーズが分散している。ゲルビーズの数は105~106であるが、実験における懸濁液中のゲルビーズ濃度は65ビーズ/μLとした。またゲルビーズの平均サイズは38μm、CV値は11.8%とした。

【0040】
前記ゲルビーズ内にはラテックスなどを材料とする微粒子4が多数分散している。実験においては8000個/ビーズとした。各微粒子の表面はアフィリティリガンド(PCR用プライマー及びNTA)で修飾されている。図1に示す例では核酸増幅反応プライマーとして機能する長さが15~50塩基の範囲に含まれる1本鎖DNAで表面が修飾された微粒子と、NTA(ニトリロ三酢酸)で表面が修飾された微粒子がゲルビーズ内に分散している。

【0041】
微粒子へのプライマー修飾過程は、図2に示すように、カルボキシル化微粒子(フナコシ、東京、日本)表面に、アミノ基修飾を行ったプライマーをアミド結合により化学結合する技術を利用した(Kojima et al., 2005 Wittebolle et al., 2006)。
カルボキシル化微粒子を0.01NのNaOHで2回洗浄した。この時、遠心処理(10,000×gで10分)によりカルボキシル化微粒子と水相に分離し、上澄みの液交換により洗浄操作を行った。その後、3回脱イオン水で洗浄し、slufo-NHS(N-Hydroxysulfosuccinimide sodium salt:東京化成工業、東京、日本)とMES buffer(pH 5.3)を仕込み、30分間静かに撹拌し、EDC(1-エチル-3-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩:東京化成工業、東京、日本)を加えて15分間、活性エステル形成を行った。そこに(表1)に示すプライマー(eurfins、Luxembourg)を仕込み5時間反応させ、反応終了後は10mM TE buffer(pH 7.4)で4回洗浄し、TE buffer(pH 8.0)中に保存した。
また、それぞれのサンプル条件と試薬の導入量(反応スケールは300μL)を(表2)に示す。

【0042】
(表1)
JP2017143783A_000003t.gif

【0043】
(表2)
JP2017143783A_000004t.gif

【0044】
次に図3に基づき、PCR用プライマーDNAで修飾された微粒子を含んだゲルビーズが分散した懸濁液を用いたPCRを説明する。
先ず(a)に示すようにバイアル瓶内に上記の懸濁液を入れる。次いで(b)に示すように、懸濁液中にテンプレートDNAとPCRに必要な酵素(ポリメラーゼ)及び基質を添加し、これらをゲルビーズ内に導入する。
この後(c)に示すように、ゲルビーズを油相中に懸濁させ、(d)に示すようにゲルビーズ内でPCRを行う。

【0045】
図4は水相内のみで、タンパク質合成を行う例を示したものであり、表面がカルボキシル化された微粒子がゲルビーズ内に分散しており、微粒子表面にはDNAが結合されている。このような状態の懸濁液中に基質を供給することで、微粒子表面に結合されたDNAが特定のタンパク質を合成し、合成されたタンパク質は別の微粒子表面に結合しているNTAに捕捉される。

【0046】
PCRについて具体的に説明する。上記で作成した2種類のプライマー修飾微粒子(表2)を用いてPCRを行った。PCRにはExpand High Fidelity PCR System (Roche, Penzberg, Germany)を使用した。キット記載の組成液にはプライマー修飾を0.2g/L分散させた。DNAの検出を行うための蛍光試薬はSYBR Green Nucleic Acid Gel stain (Lonza, Basel, Schweizersche:以下サイバーグリーンと記す)を用い、2000倍希釈になるように導入した。サンプル調製後、Denaturation94℃ 2分、Denaturation94℃ 15秒、Annealing60℃ 1分、Elongation72℃ 1分を25サイクル、最後にElongation72℃ 7分のPCRの条件でThermal Cycler Dice(TP800,Takara)を用いてリアルタイムPCRを行い、蛍光増幅によるDNAの増幅挙動を観察した。リアルタイムPCR後、プライマー修飾微粒子を10mM Tris-HCl (pH7.4)buffer で2回洗浄して波長490nmの励起光を照射し、波長520nmで蛍光観察を行った。

【0047】
ゲルビーズ内でのPCRおよびタンパク質合成は以下の通りである。
PCRキット組成液に(表3)のようにテンプレートDNAおよびプライマー修飾微粒子およびカルボキシル化微粒子内包ゲルビーズを懸濁した。4℃で一晩ローテーターを用いて溶液を混合しながら、DNAおよびPCR用基質を供給した。その後、プライマー修飾微粒子およびカルボキシル化微粒子内包ゲルビーズを懸濁した水溶液50μLを油相200μLにピペッティングにより懸濁し、PCRを行った。DNAの増幅後、ヘキサンおよびクロロホルムを用いて油相の抽出による洗浄を行った。サイバーグリーンを仕込んだものと仕込まないものを用意し、サイバーグリーンを仕込んだサンプルについてはPCR後、油相を洗浄し、蛍光顕微鏡で観察を行った。

【0048】
(表3)
JP2017143783A_000005t.gif

【0049】
PCR後、サイバーグリーンを仕込んでいないプライマー修飾粒子およびカルボキシル化微粒子内包ゲルビーズを用いてタンパク質合成を行った。増幅DNAを捕捉していると考えられるプライマー修飾微粒子およびカルボキシル化微粒子内包ゲルビーズをタンパク質合成用の基質が溶解している水相に懸濁した。その後、4℃で一晩ローテーターを用いて溶液を混合しながら、タンパク質合成用の基質を供給した。タンパク質合成後、プライマー修飾微粒子およびカルボキシル化微粒子内包ゲルビーズを元液が106倍に希釈されるように4mMNiイオンを含む10mM Tris-HClで洗浄し、プライマー修飾微粒子およびカルボキシル化微粒子内包ゲルビーズの蛍光を観察した。

【0050】
図5はタンパク質がNTAに捕捉される過程を説明した図であり、(a)がHis-GFPの捕捉を、(b)がHis-FITCの捕捉を説明している。

【0051】
油中に懸濁したゲルビーズ内でのタンパク質合成は以下のように行った。
0又は1copy/beadになるように、各サンプルを調製し、前記したようにPCR基質の供給を行った。その後、プライマー修飾微粒子内包ゲルビーズが懸濁した水溶液15μLを油相200μLにピペッティング(200回)により油中に懸濁し、ゲルビーズ内PCRを行った。その後、油相の洗浄を行い、水相にゲルビーズを懸濁しタンパク質合成用の基質の供給を行った。その後PCR時と同様にゲルビーズを油中に懸濁してタンパク質合成を行った。タンパク合成後、蛍光顕微鏡により観察を行った。

【0052】
図6(a)はテンプレートDNAがない(0copy/bead)場合、(b)は増幅されたDNAがある(1copy/bead)場合の明視野画像と蛍光画像であり、(b)の画像からDNAが入っているゲルビーズはタンパク質を生産していることが分かる。

【0053】
図7は本発明に係る懸濁液を利用した、タンパク質合成を説明した図である。この実施例ではPCRは行っていない。
先ず(a)に示すようにバイアル瓶内に、NTA(ニトリロ三酢酸)で表面が修飾された微粒子がゲルビーズ内に分散した懸濁液を入れる。
次いで(b)に示すように、懸濁液中に所定のアミノ酸配列をコードしたDNAとタンパク質合成に必要な酵素及びアミノ酸を添加し、これらをゲルビーズ内に導入する。
この後(c)に示すように、ゲルビーズ3を油相中に懸濁させ、(d)に示すようにゲルビーズ内でタンパク質合成反応を行わせ、合成されたタンパク質をNTAで捕捉する。

【0054】
図8及び図9はNTAによる捕捉を説明したものであり、ゲルビーズ内で所定のアミノ酸配列をコードしたDNAは周知の過程を経てタンパク質(His)を合成する。合成されたタンパク質はゲルビーズ内に存在するNiイオンを介してNTAに捕捉される。

【0055】
図10及び図11は上記したPCRとNTAを利用したタンパク質の捕捉を組み合わせた実施例である。
この実施例にあっては、用意する懸濁液は、図11(a)に示すように、核酸増幅反応プライマーとして機能する1本鎖DNAで表面が修飾された微粒子と、NTA(ニトリロ三酢酸)で表面が修飾された微粒子の両方が分散した懸濁液とする。

【0056】
上記の懸濁液を図10(a)及び図11に示すように、バイアル瓶内に入れ、更に懸濁液にテンプレートDNA、酵素及び基質を添加し、これらテンプレートDNA、酵素及び基質をゲルビーズ内に導入する。

【0057】
次いで、図10(b)及び図11に示すようにゲルビーズ内で核酸増幅反応(PCR)を行い、更に図10(c)及び図11に示すように懸濁液にタンパク質合成用のアミノ酸と酵素を添加し、ビーズ内において37℃でインキュベーションすることでタンパク質合成反応を行う。この後、図10(d)に示すように、合成されたタンパク質をNTAにて捕捉する。

【0058】
図12(a)はテンプレートDNAがない(0copy/bead)場合、(b)は増幅されたDNAがある(1000copy/bead)場合の明視野画像と蛍光画像であり、(b)の画像からDNAが入っているゲルビーズはタンパク質を生産していることが分かる。

【0059】
次にDNAライブラリー懸濁液を用いた並列反応からスクリーニングまでについて図13に基づき以下に述べる。
先ずDNAライブラリーを限界希釈し、ゲルビーズを作製する。このゲルビーズ内には前記したように、プライマーDNAやNTAで表面修飾された微粒子が含まれている。
希釈濃度およびゲルビーズの大きさは、ゲルビーズ1つにDNAが1分子のみ入るようにする。現実にはゲルビーズの数は極めて多いため、すべてのゲルにDNAが正確に1分子含まれる分けではなく、中にはDNAが入っていないものや複数入っているゲル粒子も存在するが、並列反応を行うには問題とならない。

【0060】
次いで、前記したPCRにより、各ゲル粒子内で核酸増幅反応を行い、更にタンパク質合成に必要な物質をゲル粒子内に供給してゲル粒子内でタンパク質合成を行う。

【0061】
目的とするタンパク質が合成されているゲルビーズを他のゲルビーズと分けるため、FACS(登録商標)などのフローサイトメトリー(flow cytometry)を用いて分取する。具体的にはタンパク質が内部で合成されているゲル粒子を1個ずつシース流に送り出し、流路の途中でレーザ光を照射する。目的のタンパク質が内部で合成されているゲル粒子は蛍光抗体で染色され、他のゲルと区別されるので、そのゲル粒子を正に荷電し、下流側に負に荷電した偏向板によって他のゲルから分離して回収される。

【0062】
このようにして並行反応とスクリーニングを行うことで、目的のタンパク質を合成するDNAを特定することができる。

【0063】
また、並列反応に続いて、個々のゲルビーズに固定されているDNAの量を評価することで、元のテンプレートDNA中の特定の配列の転写量を検査することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る懸濁液は、多数の細胞の中から目的物質の分泌量の多い細胞を探索したり、ランダムに変異が入った多くの候補タンパク質の中から目的とする活性を有する酵素を探索する際の並列反応に利用できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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