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明細書 :処理装置及び薄膜の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-155088 (P2016-155088A)
公開日 平成28年9月1日(2016.9.1)
発明の名称または考案の名称 処理装置及び薄膜の製造方法
国際特許分類 B01J  19/12        (2006.01)
FI B01J 19/12 G
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2015-035121 (P2015-035121)
出願日 平成27年2月25日(2015.2.25)
優先権出願番号 2015031822
優先日 平成27年2月20日(2015.2.20)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】越田 信義
【氏名】白樫 淳一
【氏名】須田 隆太郎
【氏名】八木 麻実子
出願人 【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000877、【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
審査請求 未請求
テーマコード 4G075
Fターム 4G075AA24
4G075AA61
4G075BA06
4G075CA39
4G075DA02
4G075DA18
4G075EC21
4G075EC25
4G075FB04
要約 【課題】ナノ結晶シリコン層を有する処理装置及び薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】弾道電子を放出するナノ結晶シリコン層を備える電子源と、弾道電子が照射される処理対象を載置するステージと、電子源における弾道電子の放出面と処理対象の処理面とが対向し、且つ、放出面と処理面とが非接触となるように電子源とステージとの相対位置を制御する位置制御部とを備える処理装置、及びステージ上に処理対象を載置する工程と、処理対象上に、物質イオンを含む電解質を塗布する工程と、ナノ結晶シリコン層を有する電子源と電解質とが対向し、且つ、電子源と電解質とが非接触となるように電子源とステージとの相対位置を制御する工程と、電子源の放出面から弾道電子を放出する工程と、弾道電子により物質イオンを還元して、処理対象上に還元物質を成膜する工程とを備える薄膜の製造方法を提供する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
弾道電子を放出するナノ結晶シリコン層を備える電子源と、
前記弾道電子が照射される処理対象を載置するステージと、
前記電子源における前記弾道電子の放出面と前記処理対象の処理面とが対向し、且つ、前記放出面と前記処理面とが非接触となるように前記電子源と前記ステージとの相対位置を制御する位置制御部と
を備える処理装置。
【請求項2】
前記電子源は、前記放出面に形成された放出電極を更に備え、
前記放出電極は、第1の厚さを有する放出領域と、前記第1の厚さよりも厚い第2の厚さを有する非放出領域とを有し、または放出領域とそれ以外をマスクパターンで覆った非放出領域とを有し、
前記弾道電子は、前記放出領域から放出される請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記放出電極は、前記放出面以外の領域が露出している請求項2に記載の処理装置。
【請求項4】
物質イオンを含む電解質を前記処理面上に塗布するディスペンサ、スピンナーまたは印刷システムのいずれかを更に備え、
前記位置制御部は、前記放出面が前記電解質の表面と対向し、且つ、前記放出面と前記電解質とが非接触となるように前記電子源と前記ステージとの相対位置を制御し、
前記電子源は、前記物質イオンを還元して前記処理面上に還元物質を成膜する請求項1から3のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項5】
前記電子源及び前記ステージを収容する収容部を更に備え、
前記位置制御部は、前記収容部内の気圧に応じて前記放出面と前記処理面との間隔を制御する請求項1から4のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項6】
前記位置制御部は、前記収容部内が大気圧である場合に、前記放出面と前記処理面との間隔を500nm以下に制御する請求項5に記載の処理装置。
【請求項7】
前記処理対象の電位を制御する電位制御部を更に備え、
前記電位制御部は、前記収容部内の気圧に応じて前記処理対象の電位を制御する請求項5又は6に記載の処理装置。
【請求項8】
前記位置制御部は、前記電子源の位置を、前記ステージに対して相対的に走査する請求項1から7のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項9】
前記電子源と前記処理面との最短距離は、前記放出面と前記処理面との距離である請求項1から8のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項10】
前記電子源は、前記弾道電子を照射することで、前記処理対象のpHを制御する請求項1から9のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項11】
前記電子源は、前記弾道電子を照射することで、前記処理対象の表面を改質する請求項1から10のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項12】
ステージ上に処理対象を載置する工程と、
前記処理対象上に、物質イオンを含む電解質を塗布する工程と、
ナノ結晶シリコン層を有する電子源と前記電解質とが対向し、且つ、前記電子源と前記電解質とが非接触となるように前記電子源と前記ステージとの相対位置を制御する工程と、
前記電子源の放出面から弾道電子を放出する工程と、
前記弾道電子により前記物質イオンを還元して、前記処理対象上に還元物質を成膜する工程と
を備える薄膜の製造方法。
【請求項13】
前記電子源と前記ステージとの相対位置を制御する工程は、
前記電子源及び前記ステージを収容する収容部内の気圧に応じて、前記放出面と前記処理対象との間隔を制御する請求項12に記載の薄膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置及び薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノ結晶シリコン層が形成された電子源を備える成膜装置に関し、電子源からの弾道電子の強力な還元力を利用して還元物質を成膜する成膜装置が知られている。従来の成膜装置では、電子源が物質塩溶液中に配置され、電子源における弾道電子の放出面上に還元物質が成膜されていた(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特許第5649007号公報
特許文献2 特開2003-332265号公報
特許文献3 特開2007-288011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の成膜装置は、電子源の放出面上に還元物質が成膜されるので、還元物質を直接利用できず、その用途が限られていた。また、従来の成膜装置では、電子源が物質塩溶液中に配置されるので、電子源の構造に制約がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、弾道電子を放出するナノ結晶シリコン層を備える電子源と、弾道電子が照射される処理対象を載置するステージと、電子源における弾道電子の放出面と処理対象の処理面とが対向し、且つ、放出面と処理面とが非接触となるように電子源とステージとの相対位置を制御する位置制御部とを備える処理装置を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様においては、ステージ上に処理対象を載置する工程と、処理対象上に、物質イオンを含む電解質を塗布する工程と、ナノ結晶シリコン層を有する電子源と電解質とが対向し、且つ、電子源と電解質とが非接触となるように電子源とステージとの相対位置を制御する工程と、電子源の放出面から弾道電子を放出する工程と、弾道電子により物質イオンを還元して、処理対象上に還元物質を成膜する工程とを備える薄膜の製造方法を提供する。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】処理装置100の構成の一例を示す。
【図2】処理装置100を用いた処理対象20の処理フローの一例を示す。
【図3】処理装置100を用いた電解質22の塗布工程の一例を示す。
【図4】電子源10のマウント工程の一例を示す。
【図5】電解質22の処理工程の一例を示す。
【図6】還元物質23の堆積工程後の処理装置100の一例である。
【図7】図7(a)は、SiとCuの境界付近のAFM像を示す。一方、図7(b)は、SiとCuの境界付近の線分ABに沿った厚さプロファイルを示す。
【図8】図8(a)は、SiとCuとの境界付近のSEM画像である。図8(b)は、図8(a)の一部の拡大画像を示す。
【図9A】ポリシリコン層12の堆積工程を示す。
【図9B】ナノ結晶シリコン層13の形成工程の一例を示す。
【図9C】絶縁膜14の成膜工程を示す。
【図9D】放出電極15の形成工程の一例を示す。
【図9E】放出電極15のエッチング工程の一例を示す。
【図9F】裏面電極16の形成工程の一例を示す。
【図10】電子源10の構成の一例を示す。
【図11】電子源10の構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。

【0009】
図1は、処理装置100の構成の一例を示す。処理装置100は、収容部50内に、電子源10、処理対象20、ステージ30及びピエゾアクチュエータ40を備える。

【0010】
電子源10は、半導体基板11、ポリシリコン層12、ナノ結晶シリコン層13、絶縁膜14、放出電極15及び裏面電極16を備える。電子源10は、放出面Emから弾道電子を放出する。放出面Emとは、放出電極15において弾道電子が放出される面を指す。弾道電子は、放出面Emの電極パターンで面放出されてよい。弾道電子とは、固体内であっても弾道的に走行する電子であって、エネルギー損失が少ない電子を指す。弾道電子のエネルギーは、数eV~十数eV程度であってよい。例えば、弾道電子のエネルギーは、5~10eVである。弾道電子のエネルギーは、電子源10に印加された駆動電圧に応じて変化する。

【0011】
半導体基板11は、Si、SiC、Ge、GaAs、GaN、GaP又はInP等の半導体材料の結晶を加工して形成された板状の基板である。本例の半導体基板11は、面方位(100)のn-Si基板である。

【0012】
ポリシリコン層12は、ノンドープで半導体基板11上に形成される。例えば、ポリシリコン層12の膜厚は、1.6μmである。ポリシリコン層12には、ナノ結晶化されたナノ結晶シリコン層13(nc-Si層)が形成される。ナノ結晶シリコンとは、粒径がおよそ数nm~数十nmの多結晶シリコンを示す。

【0013】
ナノ結晶シリコン層13は、ナノ結晶シリコン層13に印加された駆動電圧に応じて弾道電子を面放出する。ナノ結晶シリコン層13は、ナノ結晶シリコンが複数並んだ列が形成された電子ドリフト層である。ナノ結晶シリコンの列には、電子トンネル障壁を接続した列が形成され、当該障壁に電圧が印加されると、多重トンネル現象が生じる。ナノ結晶シリコンにおける多重トンネル現象により、電子が弾道的に走行し弾道電子が発生する。弾道電子は、放出面Emに垂直な方向に対するずれが約±10°以内の略垂直な方向に放出される。

【0014】
絶縁膜14は、電子源10の放出面Em以外の領域において、ポリシリコン層12と放出電極15との間を絶縁する。絶縁膜14は、熱酸化によって形成されたSiO膜等であってよい。また、絶縁膜14は、CVD法等によって成膜されたSiO膜又はSi膜であってよい。

【0015】
放出電極15は、電子源10が生成した弾道電子を所定の電極パターンで面放出する。放出電極15は、第1の厚さ及び第1の厚さよりも厚い第2の厚さを有する。放出電極15は、第1の厚さから弾道電子を放出し、第2の厚さを有する領域からは弾道電子を放出しない。即ち、放出電極15において、第1の厚さを有する領域は弾道電子がトンネル可能な放出領域となり、第2の厚さを有する領域は弾道電子がトンネル不可能な非放出領域となる。例えば、第1の厚さは10nm以下であり、第2の厚さは20nm以上である。また、放出領域以外をマスクパターンで覆って非放出領域とすることも可能である。その場合、放出電極はマスクの下部、上部いずれに形成してもよい。いずれの場合にも電子放出はマスクパターン以外の領域に限定される。放出電極15の材料は、Ni、Au、Cr、Ti、Al、Ta、Pd、Rh、Pt、Cu、Ru、In、Ir及び/又はMoを含んでよい。また、放出電極15の材料は、これらの材料を含む積層(例えばAu(10nm)/Ti(1nm))や2以上の材料の合金であってよい。放出電極15の材料はAuであることが好ましい。

【0016】
裏面電極16は、半導体基板11の放出面側と反対側の面に形成される。裏面電極16には、接地された放出電極15に対する電位差が負となる裏面印加電圧(-Vb)が印加される。裏面印加電圧(-Vb)の大きさを調整することにより、弾道電子の放出量を調整できる。裏面電極16の材料は、Ni、Au、Cr、Ti、Al、Ta、Pd、Rh、Pt、Cu、Ru、In、Ir及び/又はMoを含んでよい。また、裏面電極16の材料は、これらの材料を含む2以上の材料の合金であってよい。

【0017】
処理対象20は、ステージ30上に載置される。処理対象20の処理面には、電子源10の放出した弾道電子が照射される。処理対象20は、電子源10と非接触となるように相対位置が制御される。そのため、処理対象20の材料は、半導体ウエハをはじめ、ガラス、プラスチック、柔軟性ポリマーシート等の任意の材料であってよい。また、処理対象20の構造は、平面的な構造だけでなく、曲面を有する構造及び三次元構造であってよい。例えば、処理対象20上には、レジスト21により囲まれた領域が形成され、当該領域には、電解質22が塗布される。この場合、電解質22は、入射した弾道電子によって還元される。電解質22の還元反応によって、処理対象20の処理面上に予め定められた薄膜が形成される。レジスト21の膜厚は、塗布される電解質22の膜厚より大きければよい。例えば、レジスト21の膜厚は500nm~2μmであり、電解質22の膜厚は300nmである。レジスト21は、熱酸化によって形成されたSiO膜等であってよい。また、レジスト21は、CVD法等によって成膜されたSiO膜又はSi膜であってよい。

【0018】
電解質22は、電子源10の放出した弾道電子により還元される物質イオンを含む。例えば、電解質22は、CuCl、SiClなどの物質塩溶液である。電解質22は、液体であっても、ゾルゲルであっても、コロイドであってもよい。電解質22は、電子源10の放出した弾道電子により還元される物質イオンを含むものであれば固体であってもよい。例えば、電解質22がCuClの場合、弾道電子が電解質22中のCu2+を直接還元しCu薄膜を自律成長させる。直接還元は、物質イオンの還元に必要なエネルギーと略同一なエネルギーを照射することによって生じる。つまり、直接還元は、物質イオンの還元に必要なエネルギーよりもはるかに大きなエネルギーを加えることにより生じる高速電子ビーム(EB)誘起還元と本質的に異なる反応である。物質イオンが直接還元されると、還元された原子の移動と、核成長が誘起され、物質イオンに応じた還元物質が堆積される。

【0019】
堆積される還元物質は、物質塩溶液を構成するものであれば特に制約はない。そのため、還元物質は、金属から半導体まで広範囲のものを含む。金属では、Cuなどの導電材料をはじめ、Ni、Coなどの磁性材料、Agなどの貴金属に及ぶ。半導体では、例えば、14族のSi、Geが対象となる。また、異種物質塩の混合液への電子照射により、合金又はSiGe等の混晶を堆積できる。混晶の組成は、異種物質塩の混合液の組成を調整することにより制御される。

【0020】
堆積される還元物質の線幅は、放出電極15の放出領域のパターンに応じて決まる。放出領域のパターンは、EB露光等の技術を用いることにより数nmオーダーで加工される。また、還元物質の膜厚は、弾道電子の照射電子流密度と照射時間との積、すなわち照射電荷量密度に応じて変化する。照射電荷量密度とは、単位面積当たりに照射される電荷量(C/cm)で定義される。処理装置100を用いた還元物質の堆積では、電子源10と処理対象20とが非接触であるため、堆積される膜厚の制限がない。

【0021】
ステージ30は、電子源10と処理対象20との相対位置を変更する。ステージ30は、処理装置本体32に形成されたガイドレール31上に設けられる。これにより、放出面Emと平行な方向における、電子源10と処理対象20との相対位置を変化させる。ガイドレール31は、少なくとも処理対象20が電子源10に対向する位置に移動できるように設けられる。

【0022】
ピエゾアクチュエータ40は、放出面Emと垂直な方向における、電子源10と処理対象20との相対位置を変化させる。電子源10と処理対象20との相対位置は、ピエゾ制御部41からピエゾアクチュエータ40に印加される電圧に応じて変化する。また、ピエゾ制御部41は、ピエゾアクチュエータ40から入力される信号に基づいて、電子源10と処理対象20との相対位置を算出する。例えば、当該相対位置は、電子源10とレジスト21が接触した場合に生じる圧力を検出することにより算出される。なお、電子源10と処理対象20との相対位置は、電子源10に接続されたアクティブマトリクス装置によって、放出面Emに対して平行な方向に操作されるとしてもよい。なお、本明細書において、電子源10と処理対象20との相対位置とは、厳密には、電子源10の放出面Emと処理対象20の処理面との相対位置を指して良い。

【0023】
収容部50は、排出口51及び吸入口52を備え、収容部50内の気圧を調整する。収容部50の内部は、N、Ar等の不活性ガスが充填される。収容部50は、グローブボックス又はチャンバであってよい。収容部50内の気圧は、形成する薄膜の形状、処理対象20の性質に応じて変化されてよい。例えば、収容部50内を大気圧とした場合、利用する処理対象20の選択の幅が広がる。即ち、収容部50内が大気圧の場合には、処理対象20として固体以外の物質を利用することができる。一方、収容部50内の気圧を大気圧よりも低い低真空とした場合、電子源10から放出された弾道電子の平均自由行程が大きくなる。即ち、弾道電子の制御性が良くなるので、微細なパターンの薄膜を形成しやすくなる。

【0024】
以上の通り、処理装置100は、5~10eVの弾道電子を用いた電解質22の直接還元により還元物質を堆積する。一方、電子ビーム露光機に用いられるような数keV~数十keVの高エネルギー集束電子ビームを用いて電解質22を還元すると、電解質22の反応前駆体の分解反応が生じてしまう。つまり、本例の処理装置100を用いた直接還元反応では、分解反応が生じないので、副産物が生成されにくく、汚染の少ない還元物質が得られる。

【0025】
なお、本例では、還元物質を処理対象20上に堆積させる実施形態について説明した。しかしながら、処理装置100の実施形態はこれには限られず、処理対象20の改質にも用いられてよい。例えば、処理装置100は、弾道電子によって、処理対象20の表面を親水化若しくは疎水化する。また、処理装置100は、処理対象20のpHを弾道電子の照射前後で変化させてよい。

【0026】
図2は、処理装置100を用いた処理対象20の処理フローの一例を示す。まず、処理対象20上に電解質22を塗布する(S100)。次に、電子源10と処理対象20との相対位置を制御する(S101)。電子源10と処理対象20との相対位置は、収容部50内の気圧及び温度等に応じて制御されてよい。本例の電子源10は、放出電極15の放出領域に応じたパターンの弾道電子を面放出できるので、処理対象20をパターニングする必要がない。次に、電子源10から弾道電子を放出する(S102)。放出された弾道電子を処理対象20上の電解質22に照射する(S103)。次に、電子源10から照射された弾道電子により、電解質22の還元反応が生じる(S104)。このように、本例の処理装置100は、室温一貫プロセス技術として利用できる。

【0027】
なお、本例の処理フローでは、電解質22を1度のみ還元する場合について開示した。この場合、処理装置100によって、単独の薄膜が形成される。しかしながら、処理工程を適宜追加することによって、複数の薄膜を形成できる。例えば、処理装置100は、異種の物質塩溶液に対する逐次電子照射によって、異種金属の積層やSi/Geのような超格子薄膜構造の作製が可能である。また、処理装置100は、薄膜堆積及び酸化処理を連続的に実施し、適宜、アニール工程、不純物ドーピング工程等を組み合わせることにより、金属-絶縁体-金属(MIM)構造及び金属-酸化膜絶縁体-半導体(MOS)構造を作製できる。さらに、処理装置100は、異種の電解質22に対する選択的な電子照射により、半導体と金属からなる3次元構造を形成してもよい。

【0028】
図3は、処理装置100を用いた電解質22の塗布工程の一例を示す。本例の処理装置100は、ディスペンサ60及びディスペンサ制御部61を備える。塗布工程はディスペンサに限るものではなく、スピンコーティングまたは印刷なども含まれる。

【0029】
ディスペンサ60は、充填した電解質22を処理対象20上に塗布する。ディスペンサ60は、塗布する電解質22の量を適切に調整できるものであれば特にどのような構造であってもよい。ディスペンサ60の構造は、電解質22の状態及び性質に応じて適宜変化されてよい。ディスペンサ60は、収容部50内に配置されるのが好ましい。

【0030】
ディスペンサ制御部61は、ディスペンサ60を制御して、処理対象20上に電解質22を塗布する。ディスペンサ制御部61は、ディスペンサ60が電解質22を塗布するタイミング、位置及び塗布量を制御する。ディスペンサ制御部61は、ステージ30が予め定められた位置に移動した場合に電解質22を塗布するように制御してもよい。また、ディスペンサ制御部61は、ディスペンサ60が充填した電解質22が処理対象20上に塗布されるようにディスペンサ60の位置を制御する。ディスペンサ60の位置は固定であってもよい。

【0031】
図4は、電子源10のマウント工程の一例を示す。マウント工程では、電子源10の放出面Emが電解質22に対向するように、電子源10とステージ30との相対位置が制御される。

【0032】
初めに、ステージ30は、ディスペンサ60による電解質22の塗布位置から電子源10のマウント位置に移動される。但し、ディスペンサ60による電解質22の塗布位置が、電子源10のマウント位置と同じ場合は、ステージ30を移動する必要がない。この場合、ガイドレール31は不要である。ステージ30が電子源10のマウント位置に移動されると、ピエゾ制御部41は、電子源10と処理対象20の相対位置が近づくように、ピエゾアクチュエータ40を制御する。これにより、電子源10とレジスト21とが接触して、電子源10の放出面Emと電解質22とが予め定められた距離となる。電子源10の放出面Emと電解質22とが予め定められた距離になるとマウント工程は終了する。

【0033】
電子源10の放出面Emと電解質22との間隔は、接触しない範囲で収容部50の気圧に応じて決定されてよい。例えば、ピエゾ制御部41は、収容部50内が大気圧である場合に、放出面Emと電解質22との間隔を500nm以下に設定する。また、ピエゾ制御部41は、収容部50内が低真空の場合に、放出面Emと電解質22との間隔を1μmとしてよい。さらに、収容部50内の気圧が低下するに伴い、放出面Emと電解質22との間隔を1μm以上に大きくしてよい。このように、低気圧においては電子の自由工程増大に応じて放出面Emと電解質22との間隔を大きく設定することができるが、同時に溶液の蒸発が生じやすくなることから、これを抑えるため還元反応に影響しない溶媒を電解質溶液に混合させてよい。

【0034】
図5は、電解質22の処理工程の一例を示す。電子源10の裏面電極16には、裏面印加電圧(-Vb)が印加され、放出電極15は接地される。これにより、電子源10は、所定のパターンの弾道電子を放出する。電解質22は、所定のパターンに応じて還元反応が生じる。また、処理対象20は、電位制御部42に接続されてよい。

【0035】
電位制御部42は、電子源10と処理対象20との間の電位差を加速電圧Vaに制御する。加速電圧Vaは、放出面Emから放出された弾道電子を処理対象20の方向に加速する。電位制御部42は、加速電圧Vaの大きさを制御することにより、弾道電子の量とエネルギーを調整できる。加速電圧Vaの大きさは、少なくとも放出電極15に対する処理対象20の電位が正となるように決定される。

【0036】
なお、電子源10の構造は、電子源10と処理対象20とが接近した場合に邪魔にならないような構造であることが好ましい。即ち、電子源10と処理対象20の処理面との最短距離は、放出面Emと処理面との距離であることが好ましい。但し、電子源10と処理対象20との距離を予め定められた距離に近接できる構造であればこれに限られない。

【0037】
図6は、還元物質23の堆積工程後における処理装置100の一例である。本例の処理対象20は、電解質22の処理工程後に純水で洗浄処理される。純粋処理は、ステージ30上で行われてもよいし、ステージ30から処理対象20を取り外して行われてよい。

【0038】
還元物質23は、所定のパターンにより処理対象20の処理面上に堆積される。還元物質23は、電解質22の物質イオンの直接還元により堆積されるので、副産物が生成されにくく汚染が少ない。

【0039】
本例の処理装置100を用いた還元物質23の堆積方法は、従来のドライプロセス及びウエットプロセスを用いた成膜方法と比較して多くの点で優れている。本例の処理装置100は、物理的気相堆積(PVD)、化学的気相堆積(CVD)等のドライプロセスと比較して、室温、クリーン、低コスト、低環境負荷の要件を兼ね備えている。例えば、処理装置100は、処理対象20の温度を、PVD法及びCVD法のように高温に設定する必要がない。また、処理装置100は、PVD法において必須の真空排気装置及び放電装置、及びCVD法において必須の引火性ガスを使用しなくてよいため付帯設備を簡略化できる。さらに、ウエットプロセスと比較しても、本例の処理装置100は、対向電極を使用しないため、対向電極で発生する気体の問題がないので、汚染されにくく、且つ、均一に薄膜成長できる。そして、処理装置100では、真空に引く必要がないので、処理対象20の大面積化も容易である。

【0040】
図7は、処理装置100により成膜された金属薄膜の原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)像を示す。この場合、還元対象の溶液には0.1mol/LのCuCl水溶液とエチレングリコールを3:1で混合した溶液を用い、気圧を1000Paとして電子源を駆動した。電子照射後、基板を純水に浸漬し残留する不要の溶液を除去した。この処理後に電子照射部分のSi基板上でCu薄膜の堆積を確認した結果が本例のAFM像である。図7(a)は、SiとCuの境界付近のAFM像を示す。一方、図7(b)は、SiとCuの境界付近の線分ABに沿った厚さプロファイルを示す。AFM像において、Cuが堆積されていない領域は弾道電子が照射されていない領域を示し、Cuが堆積された領域は弾道電子が照射された領域を示す。

【0041】
本例のAFM像より、電子源10の放出領域のパターンに応じて、SiとCuの境界が明確に形成されていることが観察された。また、AFM像の厚さプロファイルからおよそ7nmのCuが堆積されたことが分かる。

【0042】
図8は、処理装置100により成膜された金属薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像を示す。図8(a)は、SiとCuとの境界付近のSEM画像である。図8(b)は、図8(a)の一部の拡大画像を示す。本例のSEM画像から、処理装置100によって表面荒れのない均一なCuが堆積されていることが分かる。このように、処理装置100を用いれば高品質な薄膜を堆積できる。堆積された薄膜がCuであることは、エネルギー分散型X線分光法(EDX)及び光反射スペクトルの測定結果からも裏付けられた。

【0043】
図9Aから図9Fは、ナノ結晶シリコン層13を有する電子源10の製造工程の一例を示す。電子源10は、大気中で使用されることから構造上の制約が少ない。なお、電子源10の構造は、ナノ結晶シリコン層13から弾道電子を放出できる構造であれば、本例に限られない。

【0044】
図9Aは、ポリシリコン層12の堆積工程を示す。ポリシリコン層12は、半導体基板11上に形成される。ポリシリコン層12は、減圧化学気相成長(LPCVD)法により形成されてよい。本例のポリシリコン層12の膜厚は1.6μmである。

【0045】
図9Bは、ナノ結晶シリコン層13の形成工程の一例を示す。ナノ結晶シリコン層13は、ポリシリコン層12において半導体基板11と反対側に形成される。例えば、ナノ結晶シリコン層13は、ポリシリコン層12がHF溶液中で陽極酸化処理されることにより形成される。その後、ナノ結晶シリコン層13は、電気化学的酸化に加えて、超臨界状態のCOによる洗浄、及び乾燥等の処理が施される。

【0046】
図9Cは、絶縁膜14の成膜工程を示す。絶縁膜14は、ナノ結晶シリコン層13の放出面Emに対応する領域以外を被覆する。絶縁膜14は、ポリシリコン層12のエッチング後に成膜されてよい。ポリシリコン層12をエッチングすることによりナノ結晶シリコン層13の放出面Emが電子源10において突出する。

【0047】
図9Dは、放出電極15の形成工程の一例を示す。放出電極15は、少なくともナノ結晶シリコン層13の放出面Emを覆うように形成される。また、放出電極15は、スパッタ又は蒸着等により、ナノ結晶シリコン層13及び絶縁膜14の全面に形成されてよい。本例では、放出電極15としてTi(1nm)とAu(10nm)の薄膜を積層する。

【0048】
図9Eは、放出電極15のエッチング工程の一例を示す。放出電極15における放出領域のパターンは、ドライエッチング又はウエットエッチングにより形成される。例えば、放出電極15における放出領域のパターンは、電子ビーム露光装置を用いてパターニングされる。なお、放出電極15は、電子源10が大気中で使用されるので、放出面Emに加えて、放出面Em以外の領域が露出して形成されてよい。

【0049】
図9Fは、裏面電極16の形成工程の一例を示す。裏面電極16は、半導体基板11のポリシリコン層12が形成される側と反対側に形成される。裏面電極16は、スパッタ又は蒸着により形成されてよい。本例では、裏面電極16として膜厚0.3μmのAlが堆積される。

【0050】
図10は、電子源10の構成の一例を示す。本例の電子源10は、マスク17を備える。マスク17は、ナノ結晶シリコン層13上にパターニングされて、ナノ結晶シリコン層13から弾道電子が放出されるのを制限する。即ち、マスク17の存在する領域からは弾道電子が放出されず、マスク17の存在しない電子放出領域18から弾道電子が放出される。弾道電子が放出される領域は、マスク17が完全に存在しなくてもよいし、弾道電子が放出される程度にマスク17が薄く存在していてもよい。マスク17上には、放出電極15が形成される。本実施形態では、放出電極15をパターニングする必要がない。放出電極15上には、外部と接続するためのパッド19が形成されてよい。

【0051】
図11は、マスク17を備えた電子源10の構成の一例を示す。本例のマスク17は、ナノ結晶シリコン層13を覆う放出電極15上に形成される。マスク17は、予め定められたパターンでパターニングされる。これにより、マスク17の存在する領域からは弾道電子が放出されず、マスク17の存在しない電子放出領域18から弾道電子が放出される。本例の電子源10では、マスク17を用いることにより、放出電極15の膜厚を第1の厚さ及び第2の厚さの2段階に制御しなくてよい。

【0052】
本明細書に開示した通り、処理装置100は、室温、クリーン、低環境負荷、超微細化、大規模集積アレイ化の要求を同時に満たす固体薄膜形成技術を実現する。処理装置100を用いて堆積された薄膜は、様々な分野に応用可能である。例えば、薄膜電子素子として、Si、Ge薄膜の堆積及び積層化技術を総合したナノワイヤ、MOS構造を基本とした薄膜トランジスタ、ヘテロ接合薄膜素子及びディスプレイ駆動素子に応用し得る。また、処理装置100により堆積された薄膜は、受光素子(フォトダイオード、フォトトランジスタ)、光電変換素子(薄型太陽電池、光導電素子)及び発光素子(近赤外~紫外)に応用し得る。

【0053】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。

【0054】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0055】
10・・・電子源、11・・・半導体基板、12・・・ポリシリコン層、13・・・ナノ結晶シリコン層、14・・・絶縁膜、15・・・放出電極、16・・・裏面電極、17・・・マスク、18・・・電子放出領域、19・・・パッド、20・・・処理対象、21・・・レジスト、22・・・電解質、23・・・還元物質、30・・・ステージ、31・・・ガイドレール、32・・・処理装置本体、40・・・ピエゾアクチュエータ、41・・・ピエゾ制御部、42・・電位制御部、50・・・収容部、51・・・排出口、52・・・吸入口、60・・・ディスペンサ、61・・・ディスペンサ制御部、100・・・処理装置
図面
【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図10】
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【図11】
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