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明細書 :新規タンパク質

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-158544 (P2016-158544A)
公開日 平成28年9月5日(2016.9.5)
発明の名称または考案の名称 新規タンパク質
国際特許分類 C12N   9/78        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/00        (2006.01)
C07K   7/08        (2006.01)
C12P   3/00        (2006.01)
C07K  17/14        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
FI C12N 9/78
C12N 15/00 A
C12N 15/00 ZNA
C07K 7/08
C12P 3/00 A
C07K 17/14
C12P 21/02 A
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2015-039222 (P2015-039222)
出願日 平成27年2月27日(2015.2.27)
発明者または考案者 【氏名】清水 克彦
【氏名】有馬 二朗
【氏名】天野 太郎
出願人 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B050
4B064
4H045
Fターム 4B024AA03
4B024AA05
4B024BA07
4B024CA04
4B024CA20
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA03
4B050CC01
4B050DD11
4B050FF13E
4B050LL05
4B064AA01
4B064AG01
4B064BA14
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA16
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA16
4H045CA50
4H045DA89
4H045EA01
4H045EA15
4H045EA34
4H045FA81
要約 【課題】シリカ形成活性を有する新規タンパク質を見いだし、それを用いてシリカおよびシリカに固定化されたタンパク質を製造する。
【解決手段】ガラス海綿類の骨格をフッ化水素処理して抽出することを特徴とする、シリカ形成活性を有するタンパク質の製造方法、ならびにシリカ形成活性を有するタンパク質であって、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される分子量が23kDaであり、シリカ形成の至適pHが6~8であり、トリプシン消化断片のアミノ酸配列としてLys His Asp His His Asp His His His Ser His Asp Proを生じるタンパク質。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ガラス海綿類の骨格から抽出することを特徴とする、シリカ形成活性を有するタンパク質の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により得られるシリカ形成活性を有するタンパク質であって、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される分子量が22kDa~24kDaであり、シリカ形成の至適pHが6~8であり、トリプシン消化断片のアミノ酸配列としてLys His Asp His His Asp His His His Ser His Ala Pro(配列番号:1)からなるペプチドを生じるタンパク質。
【請求項3】
下記のヌクレオチド配列:
(a)配列番号:10の55位~702位のヌクレオチド配列、
(b)(a)のヌクレオチド配列に対して90%以上のヌクレオチド配列同一性を有するヌクレオチド配列、
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするヌクレオチド配列
のいずれかを含むポリヌクレオチドであって、シリカ形成活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3記載のポリヌクレオチドによりコードされるシリカ形成活性を有するタンパク質。
【請求項5】
下記のアミノ酸配列:
(a)配列番号:11の19位~233位のアミノ酸配列、
(b)(a)のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列、
(c)(a)または(b)のアミノ酸配列において1個~数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列
のいずれかを含む、シリカ形成活性を有するタンパク質。
【請求項6】
請求項2、4または5のいずれか1項記載のタンパク質とケイ酸を反応させることを特徴とする、シリカの製造方法。
【請求項7】
請求項2、4または5のいずれか1項記載のタンパク質と目的タンパク質との融合タンパク質を作成し、次いで
融合タンパク質とケイ酸を反応させること
を特徴とする、シリカに固定化されたタンパク質の製造方法。
【請求項8】
請求項3記載のポリヌクレオチドを含む、シリカ形成活性を有するタンパク質を発現するベクター。
【請求項9】
請求項8記載のベクターを宿主に導入し、シリカ形成活性を有するタンパク質を発現させることを特徴とする、シリカ形成活性を有するタンパク質の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規タンパク質に関する。詳細には、本発明は、シリカ形成活性を有する新規タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカは二酸化ケイ素またはそれによって構成される物質のことである。地殻で最も多量に存在する物質であり、珪藻類や海綿動物類などの生物が生産するものもある。シリカは多くの分野において用いられている。例えば、シリカを原料として得られるシリカゲルは乾燥剤として医薬品、食品などに用いられている。また、シリカは濾過助剤としても広く用いられている。そのほか、石英ガラス、シリカゲル、アエロゲルなどが建材、絶縁体、研磨剤、充填材、消泡剤、添加剤として建築、エレクトロニクス、材料など幅広い分野で利用されている。
【0003】
シリカは土壌から大量に採取されている。そのまま利用あるいはさらに加工されて利用される。その工業的製法は、四塩化ケイ素を3000℃の高温で加熱、ケイ酸アルカリ塩を硫酸で中和する、ケイ酸エステルの加熱または酸やアルカリによる加水分解であり、いずれも少なからず環境に影響を及ぼす。酵素反応によってシリカを生成したという報告はあるが、大量生産には至っていない。
【0004】
生物が作るシリカには微量の有機物が含まれていて、この有機物がシリカ生産に関わっていることが示されている。珪藻のシリカ骨格中からリジンとセリンに富むペプチドであるシラフィンが見出され、当該ペプチドはシリカ形成を促進することが確認された(非特許文献1)。シラフィンは、リジン残基がポリアミンで修飾され、セリン残基がリン酸化される複雑な構造を有しており、その生産過程はペプチド骨格を合成したのちに2種類の科学修飾を施すなど複雑である。海綿動物のシリカ骨格からはシリカ生成酵素シリカテインが見出されている(非特許文献2)。シリカテインはパパイン様システインプロテアーゼスーパーファミリーに属するタンパク質で、その活性は熱処理により失われることから、高次構造が必須である。このようにシラフィンやシリカテインの利用には課題が多く、実用化が困難である。
【0005】
海綿動物のうち、六放海綿類ではシリカがガラス繊維として生産され、光ファイバーと同様の構造を有し、実際光を伝播させる性質を有する(非特許文献3)。しかも海綿類のガラス繊維は光ファイバーよりも細く、強度的にも優れている。このような独特かつ優れた物性を有するシリカを生体触媒の作用により低温で製造できれば、環境に優しくエネルギー的にも有利なシリカの製造方法が確立される。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Nils Kroeger et al. Science, Vol.286, pp.1129-1132 (1999)
【非特許文献2】Katsuhiko Shimizu et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.95, pp.6234-6238 (1998)
【非特許文献3】Vikram C. Sundar et al. Nature, Vol.424, pp.899-900 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明が解決しようとする課題は、シリカ形成活性を有する新たなタンパク質を見いだし、そのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を同定すること、ならびに組換え法によってかかるタンパク質を得て、物性の優れたシリカをエネルギー的にも有利な低温条件で大量生産することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を重ね、ガラス海綿類であるカイロウドウケツおよびホッスガイのシリカ骨格中にpH6~8でシリカ形成を促進する新規タンパク質を見いだし、本発明を完成させるに至った。本発明者らは、このタンパク質をグラシンと命名した(本明細書および図面において、本発明のシリカ形成活性を有するタンパク質をグラシンと称することがある)。
【0009】
したがって、本発明は以下のものを提供する:
(1)ガラス海綿類の骨格から抽出することを特徴とする、シリカ形成活性を有するタンパク質の製造方法。
(2)(1)記載の方法により得られるシリカ形成活性を有するタンパク質であって、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される分子量が22kDa~24kDaであり、シリカ形成の至適pHが6~8であり、トリプシン消化断片のアミノ酸配列としてLys His Asp His His Asp His His His Ser His Ala Pro(配列番号:1)からなるペプチドを生じるタンパク質。
(3)下記のヌクレオチド配列:
(a)配列番号:10の55位~702位のヌクレオチド配列、
(b)(a)のヌクレオチド配列に対して90%以上のヌクレオチド配列同一性を有するヌクレオチド配列、
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするヌクレオチド配列
のいずれかを含むポリヌクレオチドであって、シリカ形成活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(4)(3)記載のポリヌクレオチドによりコードされるシリカ形成活性を有するタンパク質。
(5)下記のアミノ酸配列:
(a)配列番号:11の19位~233位のアミノ酸配列、
(b)(a)のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列、
(c)(a)または(b)のアミノ酸配列において1個~約40個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列
のいずれかを含む、シリカ形成活性を有するタンパク質。
(6)(2)、(4)または(5)のいずれかに記載のタンパク質とケイ酸を反応させることを特徴とする、シリカの製造方法。
(7)(2)、(4)または(5)のいずれかに記載のタンパク質と目的タンパク質との融合タンパク質を作成し、次いで
融合タンパク質とケイ酸を反応させること
を特徴とする、シリカに固定化された目的タンパク質の製造方法。
(8)(3)記載のポリヌクレオチドを含む、シリカ形成活性を有するタンパク質を発現するベクター。
(9)(8)記載のベクターを宿主に導入し、シリカ形成活性を有するタンパク質を発現させることを特徴とする、シリカ形成活性を有するタンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の新規タンパク質グラシンを用いることにより、シリカ、およびシリカに固定化されたタンパク質を容易に得ることができる。さらに、本発明によれば、グラシンを組換え法により製造することができ、シリカの大量生産が可能となる。本発明によるシリカの製造法は低温で行うことができ、エネルギー的に有利で環境に優しい方法である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、カイドウロウケツ(Euplectella aspergillum、レーン1)およびEuplectella sp.(レーン2)のシリカ骨格からのグラシン(やじり)の抽出結果を示す電気泳動ゲルの写真である。
【図2】図2は、グラシンのシリカ形成能(左パネル)および至適pH(右パネル)を調べた結果を示すグラフである。
【図3】図3は、エッペンドルフチューブ中でグラシンを用いてケイ酸からシリカを生産した場合の、チューブ底部にたまったシリカの写真である。
【図4】図4は、グラシン発現ベクターのスキームである。
【図5】図5は、組換え法によって得られたグラシンのシリカ形成活性を示すグラフである。左のバーは天然グラシン、右のバーは組換えグラシンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、1の態様において、ガラス海綿類の骨格から抽出することを特徴とする、シリカ形成活性を有するタンパク質の製造方法を提供する。ガラス海綿類は六放海綿綱ともいい、4つまたは6つのシリカでできた骨針を備えた骨格を有する海綿動物である。ガラス海綿類は2つの亜綱(両盤亜綱および六放星亜綱)、5つの目(両盤目、Aulocalycodia、六放目、Lychniscosidaおよびカイドウロウケツ目)に分類される。これらの目に属する海綿の種類は公知である。例えば、ホッスガイ科の海綿は両盤目に含まれ、カイドウロウケツ科の海綿はカイロウドウケツ目に含まれる。カイロウドウケツ科としては、カイロウドウケツ、オウエンンカイロウドウケツ、ヤマトカイロウドウケツ、マーシャルカイロウドウケツなどの種が挙げられる。

【0013】
ガラス海綿類の骨格に付着する有機物を次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて除去し、得られた骨格をフッ化水素(例えばHF/NHF水溶液)にて処理してシリカ溶解液を得る。そして、シリカ溶解液を透析して透析内液を得て、必要に応じて透析内液を限外濾過等の手段により濃縮することにより、ガラス海綿類からグラシンを抽出することができる。グラシンの抽出方法は上記方法に限定されないことはいうまでもない。

【0014】
本発明のシリカ形成活性を有するタンパク質(グラシン)はシリカ形成活性を有する。シリカ形成活性は、ケイ酸からシリカを形成する活性である。シリカ形成活性は、例えば、過飽和ケイ酸水溶液にグラシンを添加して、生成するシリカ沈殿を定量することにより測定することができる。

【0015】
ガラス海綿類の骨格に由来するグラシンは、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される分子量が約20~約26kDa、典型的には約22kDa~24kDa、例えば23kDaであり、シリカ形成の至適pHが約5~約9、典型的には約6~約8であり、トリプシン消化断片のアミノ酸配列としてLys His Asp His His Asp His His His Ser His Ala Pro(配列番号:1)からなるペプチド、あるいは配列番号:1のアミノ酸配列において1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸残基が置換、付加または欠失したアミノ酸配列からなるペプチド、あるいは配列番号:1のアミノ酸配列に対して60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるペプチドを生じるタンパク質であると定義することもできる。

【0016】
本発明は、さらなる態様において、下記のヌクレオチド配列:
(a)配列番号:10の55位~702位のヌクレオチド配列、
(b)(a)のヌクレオチド配列に対して90%以上のヌクレオチド配列同一性を有するヌクレオチド配列、
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするヌクレオチド配列
のいずれかを含むポリヌクレオチドであって、シリカ形成活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドに関するものである。

【0017】
本発明のグラシンをコードするヌクレオチド配列の典型例は、配列番号:10に示すヌクレオチド配列の55位~702位のヌクレオチド配列からなるヌクレオチド配列であるか、あるいは配列番号:10に示すヌクレオチド配列の55位~702位のヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列である。かかるヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質(グラシン)は、シリカ形成活性を有するものである。

【0018】
本発明のグラシンは、上記ヌクレオチド配列の変異配列によってコードされていてもよい。上記ヌクレオチド配列の変異配列としては、配列番号:10に示すヌクレオチド配列の55位~702位のヌクレオチド配列に対して実質的なヌクレオチド配列同一性を有するものが挙げられる。本明細書において使用する「実質的なヌクレオチド配列同一性を有する」とは、複数(例えば2つ)のヌクレオチド配列を比較した場合に、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%、97%、98%又は99%以上のヌクレオチド配列同一性を有することをいう。なお、同一性の%は、複数(例えば2つ)のヌクレオチド配列間の同一性を演算する公知のソフトウェア(例えば、FASTA、BLASTなど)をデフォルトの設定で使用して算出した値をいう。上記の変異ヌクレオチド配列のさらなる例として、配列番号:10に示すヌクレオチド配列の55位~702位のヌクレオチド配列の5’末端に1個~約60個のヌクレオチドが付加され、3’末端に1個~約30個のヌクレオチドが付加されたヌクレオチド配列が挙げられ、その特別な例として、配列番号:10に示すヌクレオチド配列が挙げられる。これらの変異ヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質(グラシン)は、シリカ形成活性を有するものである。

【0019】
上記ヌクレオチド配列の変異配列のさらなる例としては、上で説明したグラシンをコードするヌクレオチド配列に対して、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列、あるいはかかるヌクレオチド配列からなるヌクレオチド配列が挙げられる。本明細書において使用する「ストリンジェントな条件」とは、これに限定されるものではないが、例えば以下のようなハイブリダイゼーションと洗浄の条件がある。ハイブリダイゼーション条件として、30℃~50℃で、3~4×SSC(150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム、pH7.2)、0.1~0.5%SDS中で1~24時間、洗浄条件としては、室温での0.2×SSCと0.1%SDSを含む溶液による室温での操作を挙げることができる。ただし、上記条件の組み合わせは例示であり、当業者であればハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記の又は他の要素(例えば、ハイブリダーゼーションプローブの濃度、長さ及びGC含量、ハイブリダイゼーションの反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。これらの変異ヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質(グラシン)は、シリカ形成活性を有するものである。

【0020】
本発明は、さらなる態様において、下記のアミノ酸配列:
(a)配列番号:11の19位~233位のアミノ酸配列、
(b)(a)のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列、
(c)(a)または(b)のアミノ酸配列において1個~約40個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列
のいずれかを含む、シリカ形成活性を有するタンパク質に関するものである。

【0021】
本発明のシリカ形成能を有するタンパク質(グラシン)は、典型的には、配列番号:11の19位~233位のアミノ酸配列を含むか、あるいは配列番号:11の19位~233位のアミノ酸配列からなるタンパク質である。

【0022】
本発明のグラシンは上記グラシンの変異体であってもよい。かかる変異体は上記アミノ酸配列の変異配列を含んでいてもよく、あるいは上記アミノ酸配列の変異配列からなるものであってもよい。上記アミノ酸配列の変異配列の例としては、配列番号:11の19位~233位のアミノ酸配列に対して実質的なアミノ酸配列同一性を有するものが挙げられる。本明細書において使用する「実質的なアミノ酸配列同一性を有する」とは、複数(例えば2つ)のアミノ酸配列を比較した場合に、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%、97%、98%又は99%以上のアミノ酸配列同一性を有することをいう。なお、同一性の%は、複数(例えば2つ)のアミノ酸配列間の同一性を演算する公知のソフトウェア(例えば、FASTA、BLASTなど)をデフォルトの設定で使用して算出した値をいう。かかる変異アミノ酸配列を含む、あるいはかかる変異アミノ酸配列からなる本発明のグラシンは、シリカ形成活性を有するものである。

【0023】
上記アミノ酸配列のさらなる変異配列の例としては、配列番号:11の19位~233位のアミノ酸配列において、1個~40個、好ましくは1個~30個、より好ましくは1個~20個、さらに好ましくは1個~数個(例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個)のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列が例示される。上記の変異アミノ酸配列の例として、配列番号:11に示すアミノ酸配列の19位~233位のアミノ酸配列のN末端に1個~約20個のアミノ酸が付加され、C末端に1個~約10個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列が挙げられ、その特別な例として、配列番号:11に示すアミノ酸配列が挙げられる。かかる変異アミノ酸配列からなる、あるいはかかる変異アミノ酸配列を含むグラシンの変異体もまた、シリカ形成活性を有するものである。なお、アミノ酸配列中のアミノ酸の置換、欠失または付加は、当業者に公知の方法で行うことができる。これらのグラシンの変異体もまた、シリカ形成活性を有するものである。

【0024】
さらに、本発明のグラシンの変異体として、(a)配列番号:11の19位~109位のアミノ酸配列、(b)(a)のアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、例えば96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、あるいは(c)(a)または(b)のアミノ酸配列において1個~約20個、好ましくは1個~数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列、からなるあるいはかかるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、シリカ形成活性を有するタンパク質が挙げられる。さらに加えて、本発明のグラシンの変異体として、(d)配列番号:11の132位~227位のアミノ酸配列、(e)(d)のアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、例えば96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、あるいは(f)(d)または(e)のアミノ酸配列において1個~約20個、好ましくは1個~数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列、からなるあるいは含むタンパク質であって、シリカ形成活性を有するタンパク質が挙げられる。

【0025】
本発明は、さらなる態様において、グラシンまたはグラシン変異体とケイ酸を反応させることを特徴とする、シリカの製造方法を提供する。該方法は、例えば、ケイ酸溶液とグラシン水溶液またはグラシン変異体水溶液を混合して、該酵素の至適pHおよび至適温度にてインキュベーションし、シリカ沈殿を形成させることによって実施されうる。詳細な反応条件の具体例については実施例を参照のこと。

【0026】
本発明は、さらなる態様において、グラシンまたはグラシン変異体と目的タンパク質との融合タンパク質を作成し、次いで、融合タンパク質とケイ酸を反応させることを特徴とする、シリカに固定化された目的タンパク質の製造方法を提供する。目的タンパク質は、固定化担体としてのシリカに固定化される任意のタンパク質であってよい。融合タンパク質の製造方法は当業者に公知である。本発明のこの方法において、融合タンパク質とケイ酸とを反応させるだけで、シリカに固定化された目的タンパク質を簡単に得ることができる。

【0027】
本発明は、さらなる態様において、グラシンをコードするポリヌクレオチドまたはその変異体を含むベクターであって、シリカ形成活性を有するタンパク質(グラシン)を発現するベクターを提供する。かかるベクターは、公知の発現ベクター中にグラシンをコードするポリヌクレオチドまたはその変異体を組み込むことによって得てもよい。発現ベクター中へのポリヌクレオチドの組み込み方法も当業者に公知である。

【0028】
本発明は、さらなる態様において、上記ベクターを宿主に導入し、シリカ形成活性を有するタンパク質を発現させることを特徴とする、シリカ形成活性を有するタンパク質の製造方法を提供する。宿主としては、細菌細胞、動物細胞、昆虫細胞など、公知の細胞を使用することができる。細胞へのベクターの導入方法も当業者に公知である。かかる方法を用いて、グラシンまたはその変異体を大量生産することも可能である。

【0029】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0030】
実施例1.カイロウドウケツからのグラシンの単離およびその遺伝子配列の決定
1)材料
カイロウドウケツ(Euplectella aspergillum)の骨格はフィリピンで採集されたものを入手して用いた。Euplectella sp.生体およびホッスガイ(Hyalonema sieboldi)の骨格は福江市沖東シナ海においてビームトロールにより採集された。
【実施例1】
【0031】
2)グラシンの抽出
カイロウドウケツ(Euplectella aspergillum)の骨格に付着する有機物を取り除くため、0.1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に1晩浸漬し、その後蒸留水で洗浄した。骨格2gを2M HF/8M NHF水溶液50mLに浸漬し、シリカを溶解させた。溶解液を10倍容の水に対し透析し、5~10時間おきに7回外液を取り替えた。その後、透析内液を回収して、10,000xg、20分間の遠心分離操作により水可溶性画分を得た。さらに水可溶性画分を限外濾過(Amicon Ultra-15 Ultracel (3,000 NMWL)、Millipore社)により0.2mLに濃縮した。DC protein assay kit(Bio-Rad, USA)によりタンパク質の定量を行い、1mg/mLの水可溶性画分を得た。
【実施例1】
【0032】
3)グラシンの同定
水可溶性画分のタンパク質1μgをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で展開し、クマシーブリリアントブルー染色により可視化すると、23kDaのタンパク質が主要なタンパク質として認められ、そのほかにはほとんどタンパク質は見られなかった(図1)。カイロウドウケツの骨格に含まれる水可溶性タンパク質はこの23kDaタンパク質が主要な成分であり、このタンパク質をグラシン(glassin)と命名し、水溶性画分はグラシン水溶液とよぶこととする。Euplectella sp.およびホッスガイの骨格から抽出した水可溶性画分においても、同様の結果を得た。
【実施例1】
【0033】
カイロウドウケツ(Euplectella aspergillum)およびEuplectella sp.のグラシンについて、トリプシン消化断片のアミノ酸配列としてLys His Asp His His Asp His His His Asp His Ala Proを得た。
【実施例1】
【0034】
4)シリカ形成促進
グラシンを100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH4、5、6、7または8)に溶解して、グラシン溶液(0.5、1、2.5、5または12.5μg/ul)を調製した。テトラメトキシシラン15μLと1mM塩酸85μLの混合液を5分間撹拌して調製した過飽和ケイ酸溶液1μLをグラシン溶液に添加し、5分後に遠心分離操作により沈殿を回収した。対照実験として緩衝液のみで同様の操作を実施したところ、いずれのpHにおいても沈殿は回収されなかった。沈殿を水で2回洗浄した。沈殿を0.1M NaOHに溶解してケイ酸の定量を行った(Iler RK (1979) The chemistry of silica : solubility, polymerization, colloid and surface properties, and biochemistry (Wiley, New York)に記載の方法に準じて行った)。図2に示す通り、pH6において、グラシン濃度に比例してシリカの沈殿が増加した(図2左パネル)。また、シリカの沈殿はpH6~8において見られ(相対活性50%以上)、pH4ないし5では見られなかった(図2右パネル)。走査型電子顕微鏡により形態を観察した(図3)。グラシンはpH6~8においてシリカ形成を促進することがわかった。上記性質は、カイロウドウケツ(Euplectella aspergillum)およびEuplectella sp.のグラシンに共通していた。
【実施例1】
【0035】
5)遺伝子の単離
オーウェンカイロウドウケツ組織より抽出したRNAを鋳型とし、oligo dT-3sites adaptor(タカラバイオ)をプライマーとしてRNA逆転写酵素を用いてcDNAを合成した。グラシンの部分アミノ酸配列から想定されるDNA配列に対するプライマー5’-ar cay gay cay cay gay cay c-3’(プライマー1)(配列番号:2)と5’-cay cay cay gay cay gcn c-3’(プライマー2)(配列番号:3)を設計した。上記の通り合成したcDNAを鋳型としてプライマー1とoligo dT-3sites adaptorの一部配列をプライマーとして、Taqポリメラーゼを用いてPCR法により、cDNA断片RT-PCR1を増幅した。増幅されたcDNA断片をpCR4ベクターに挿入してクローニングし、その塩基配列を決定した(配列番号:4)。得られた配列の一部をプライマーとして、5’-RACE法により5’部分の増幅を行った。その結果、3種類のクローン(配列番号:5、6、7)を得た。3種類のクローンに共通する配列(5’-tggtttctctggtccactac-3’(配列番号:8))をプライマーとして再度5’-RACEを行い、5’-RACE2/clone 1を得た(配列番号:9)。以上により、グラシンをコードするcDNA配列を得た。この配列がPCR法で増幅されることを確認し、得られたクローンをRT-PCR2と命名した。RT-PCR2の塩基配列を配列番号:10に、それがコードするアミノ酸配列を配列番号:11に示す。なお、すでに得られたトリプシン消化断片のアミノ酸配列はLys His Asp His His Asp His His His Asp His Ala ProではなくLys His Asp His His Asp His His His Ser His Ala Pro(配列番号:1)であることが判明した。
【実施例2】
【0036】
実施例2.組換えグラシンの生産
6)組換えタンパク質の生産
RT-PCR2の一部(配列番号:10の55位~702位)をpET100に挿入してグラシン発現ベクターを構築した(図4)。このベクターを大腸菌BL2 Star(DE3)株に導入し、0.1mM IPTG添加培地で37℃で4時間培養し、菌体を回収した。菌体をFastbreak cell lysis reagent(Promega社)で溶解し、His-tag タンパク質アフィニティカラム(HisGraviTrap, GE, USA)により、組換えグラシンを精製した。組換えグラシンは天然グラシンと同等のシリカ形成活性を示した(図5)。
【実施例2】
【0037】
RT-PCR2のDNA配列に人工的に変異を導入して(コードするタンパク質の配列に影響はない)、この変異配列を用いて生産した組換えグラシンがシリカ合成活性を有していることを確認した(データ示さず)。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、化粧品、医薬品、食品などの広範な分野において利用可能である。
図面
【図2】
0
【図5】
1
【図1】
2
【図3】
3
【図4】
4