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明細書 :面発光レーザ装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6019522号 (P6019522)
登録日 平成28年10月14日(2016.10.14)
発行日 平成28年11月2日(2016.11.2)
発明の名称または考案の名称 面発光レーザ装置
国際特許分類 H01S   5/183       (2006.01)
FI H01S 5/183
請求項の数または発明の数 5
全頁数 18
出願番号 特願2014-531512 (P2014-531512)
出願日 平成25年1月24日(2013.1.24)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 『2012年春季第59回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集』、05-075、公益社団法人応用物理学会、平成24年2月29日 「刊行物等」 『2012年春季第59回応用物理学関係連合講演会』、公益社団法人応用物理学会、平成24年3月17日
国際出願番号 PCT/JP2013/051498
国際公開番号 WO2014/030361
国際公開日 平成26年2月27日(2014.2.27)
優先権出願番号 2012183539
優先日 平成24年8月22日(2012.8.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年10月28日(2015.10.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】河口 仁司
【氏名】片山 健夫
【氏名】池田 和浩
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査官 【審査官】佐藤 俊彦
参考文献・文献 特開2009-295904(JP,A)
若林佑 他,サブ波長グレーティングを利用した広帯域ミラーの反射特性,電子情報通信学会技術研究報告 OPE 光エレクトロニクス,2011年,110巻, 437号 ,p.7-12
河口仁司,偏光双安定VCSELと光バッファメモリへの応用,レーザー研究,2008年 8月,第37巻 第8号,p.608-613
Il-Sug Chung 他,Silicon-photonics light source realized byIII-V/Si-grating-mirror laser,Applied Physics Letters,2012年 5月,Vol. 40, No. 5,p.369-374
河口仁司,双安定半導体レーザによる光信号処理,レーザー研究,2012年 5月,第40巻 第5号,p.369-374
調査した分野 H01S 5/00-5/50
特許請求の範囲 【請求項1】
半導体基板と、該半導体基板上に形成された下部反射鏡、該下部反射鏡の上に配置された光を発生する活性層、及び該活性層の上に形成された上部反射鏡、からなる共振器と、を具備する面発光レーザ装置であって、
少なくとも前記下部反射鏡として、第1屈折率を有し平面状に広がる領域を占める低屈折率層と、前記半導体基板上に形成されている一つの半導体層に形成されるとともに、前記低屈折率層の一方の面に接するように配置され、前記第1屈折率よりも大きい第2屈折率を有する材料からなり、該低屈折率層に直交する軸に対して90°の回転対称性を有する井桁状の2次元格子構造体と、を有し、前記軸の方向に沿って入射される任意の偏光を有する光に対し、目的とする波長帯域に亘り反射率が所定以上であるように、前記第1屈折率、前記第2屈折率、前記低屈折率層の厚さ、前記2次元格子構造体の厚さ、該2次元格子構造体の格子のピッチ、及び格子幅を含むパラメータが調整されてなる高屈折率差グレーティング構造による反射鏡が用いられ、
前記2次元格子構造体が形成されている前記半導体層に光を導くための光導波路が、該2次元格子構造体が交点に位置するように井桁状に配設され、
該2次元格子構造体を含む共振器から、互いに異なる振動方向の偏光をそれぞれ異なる方向へと延伸する前記光導波路へと送出可能としたことを特徴とする光導波路結合型の面発光レーザ装置
【請求項2】
請求項に記載の面発光レーザ装置であって、
前記上部反射鏡としても前記高屈折率差グレーティング構造による反射鏡が用いられ、該反射鏡に含まれる2次元格子構造体と活性層との間に位置する低屈折率層が空気層であるエアブリッジ構造を有してなることを特徴とする面発光レーザ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の面発光レーザ装置であって、
前記共振器に閉じ込められた光の偏光を切り替えるための光制御信号を、前記上部反射鏡の外側から前記軸の方向に沿って入射するようにしたことを特徴とする面発光レーザ装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の面発光レーザ装置が2次元アレイ状に配置され、各面発光レーザ装置に含まれる2次元格子構造体が交点に位置するように光導波路が井桁状に配設されてなる面発光レーザユニットであって、
前記光導波路にあって直線状に延伸する光導波路上に配置された複数の面発光レーザ装置を光結合し注入同期させることで、その複数の面発光レーザ装置で発振する特定偏光の波長を揃えて高出力レーザを取り出すようにしたことを特徴とする面発光レーザユニット。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の面発光レーザ装置が2次元アレイ状に配置され、各面発光レーザ装置に含まれる2次元格子構造体が交点に位置するように光導波路が井桁状に配設されてなる面発光レーザユニットであって、
共振器に閉じ込められた光の偏光を切り替えるために各面発光レーザ装置に入射される光制御信号により、前記光導波路にあって直線状に延伸する光導波路上に配置された複数の面発光レーザ装置のうちの一部の面発光レーザ装置で発振している偏光を切り替えることで、該光導波路上で強く結合する面発光レーザ装置の数を変化させて、取り出される光の出力を変化させるようにしたことを特徴とする面発光レーザユニット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光の共振方向が基板面に対して垂直である垂直共振器面発光レーザ(VCSEL=Vertical Cavity Surface Emitting LASER)と、該レーザに用いられる反射鏡とに関する。本明細書では、慣用に従って垂直共振器面発光レーザを単に面発光レーザ又はVCSELと呼ぶこととする。
【0002】
近年、インターネット等のネットワークを通して伝送されるデータ量の増加は著しく、現在使用されているシステムよりも大幅に高速である光ファイバ通信システムの開発が急務となっている。こうした次世代の光ファイバ通信システムにおいては、現在、電気的に行われているIP(Internet Protocol)パケットのルーティング等の処理や制御を、光信号のままで行うことが想定されている。こうした電気信号を介さないフォトニックパケットネットワークが実現されれば、単に通信や伝送の高速化・大容量化が図れるのみならず、大幅な低消費電力化や装置の小型化が可能となると見込まれる。
【0003】
フォトニックパケットネットワークを実現する上で、不可欠で且つ基本的なデバイスが、全光型の光スイッチ、光バッファメモリ、光フリップフロップなどである。光バッファメモリとしては様々な構成のものが提案されているが、その一つとして、特許文献1、非特許文献1、2などに記載された、偏光状態を切替え可能である偏光双安定面発光レーザを用いた光バッファメモリがある。また、それら文献には、個別の偏光双安定面発光レーザ、光アイソレータ、光ゲート、及び偏光子などにより構成された全光型シフトレジスタや、多数の偏光双安定面発光レーザを2次元アレイ状に集積化し、空間的に並列に光を入出力するようにした全光型シフトレジスタなども開示されている。さらにまた、特許文献2には、2次元アレイ状に配置された偏光双安定面発光レーザの出力光が隣接する別の偏光双安定面発光レーザに垂直に入力されるように光路を形成するべく光学素子の空間的配置等が工夫された、全光型シフトレジスタが開示されている。
【0004】
いずれにしても、光バッファメモリや全光型シフトレジスタなどのデバイスにおける基本的な構成要素は、偏光双安定面発光レーザである。一般に、面発光レーザは、半導体基板上に形成された活性層と、該活性層を挟み込むようにその下部及び上部にそれぞれ設けられた反射鏡とから構成される、基板に垂直な方向の共振器、を備える。面発光レーザにおいて、或る方向に振動している偏光を発している共振器に対して該偏光と振動方向が直交する偏光を入力すると、発振している偏光の振動方向が入力光と同じ方向に切り替わり、入力光がなくなっても発振している偏光状態は維持される、という偏光双安定性を示す場合がある。偏光双安定面発光レーザは、この偏光双安定性を有した面発光レーザである。
【0005】
面発光レーザにおいて高効率のレーザ発振を生じさせるためには、反射鏡が目的とする波長帯域に対し高い反射率を有している必要がある。そこで、従来の面発光レーザでは一般に、反射鏡として半導体多層膜による分布ブラッグ反射鏡(DBR=Distributed Bragg Reflector)が利用されている。例えば、非特許文献1のFig.8に開示されている偏光双安定面発光レーザにおいても、反射鏡として、InAlAs/InAlGaAsによるDBRが使用されている。
【0006】
しかしながら、DBRは半導体薄膜を多数積層させて形成したものであるため、充分に高い反射率を達成しようとすると或る程度厚くなることが避けられない。一般に面発光レーザでは活性層はかなり薄いため、DBRの厚さが面発光レーザの薄形化の制約要因となることが多い。即ち、従来のDBRを反射鏡として使用すると、偏光双安定面発光レーザを薄形化することは難しく、該レーザを利用した光バッファメモリ等のデバイスの小形化も難しいという問題がある。
【0007】
また、従来の偏光双安定面発光レーザでは、双方向に偏光を切り替えるための光制御信号を共振器からの光の出力方向と同軸で入射する必要があり、全光型シフトレジスタなどのデバイスにおいては、偏光双安定面発光レーザが形成された半導体基板の上方空間に多数の光学素子を精度良く配置する必要があった。そのため、偏光双安定面発光レーザ自体を薄形化・小形化することができたとしても、全光型シフトレジスタ等のデバイスが大形化することは避けられない。さらにまた、このように多数の光学素子を空間的に配置した構成は、機械的振動に対する信頼性の点でも問題がある。
【0008】
ところで、近年、面発光レーザ用の反射鏡として、サブ波長オーダの厚さでありながら広い波長帯域に亘って高い反射率を実現できる高屈折率差サブ波長グレーティング(HCG=High-index Contrast subwavelength Grating)が注目され、盛んに研究されている。例えば非特許文献3には、半導体基板上に形成された低屈折率層の上に高屈折率物質によるストライプ状構造体が形成されてなるHCGが開示されている。非特許文献3には、こうした構造のHCGによれば、ストライプ状構造体の延伸方向に直交する方向(つまり幅方向)に振動する偏光に対して高い反射率を実現できることが記載されている。また、非特許文献4には、上述したようなストライプ状構造を有するHCGを活性層の下側の下部反射鏡として用いた面発光レーザが開示されている。
【0009】
しかしながら、非特許文献3に記載されたHCGは一つの直線偏光に対してのみ高い反射率が達成されるものであり、異なる方向の複数の直線偏光を扱う必要がある偏光双安定面発光レーザには適用することができない。また同様に、非特許文献4に記載の面発光レーザは、単に一つの直線偏光を有するレーザ光を出射するものであり、異なる方向の複数の直線偏光に対応したものではない。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特許第4369573号公報
【特許文献2】特開2008-262122号公報
【0011】

【非特許文献1】河口、「偏光双安定VCSELと光バッファメモリへの応用」、レーザー研究、社団法人レーザー学会発行、第37巻第8号、2009年8月、pp.608-613
【非特許文献2】河口、「双安定半導体レーザーによる光信号処理」、レーザー研究、社団法人レーザー学会発行、第40巻第5号、2012年5月、pp.369-374
【非特許文献3】カルロス(Carlos)ほか、「ウルトラブロードバンド・ミラー・ユージング・ロー-インデクス・クラデッド・サブウェイブレングス・グレーティング(Ultrabroadband Mirror Using Low-Index Cladded Subwavelength Grating)」、アイトリプルイー・フォトニクス・テクノロジー・レターズ(IEEE Photonics Technology Letters)、Vol.16、2004年、pp.518-520
【非特許文献4】チャン(Chung)ほか、「シリコン-フォトニクス・ライト・ソース・リアライズド・バイ・III-V/Si-グレーティング-ミラー・レーザ(Silicon-Photonics Light Source Realized by III-V/Si-Grating-Mirror Laser)」、アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters)、Vol.97、No.15、2010年、pp.15113
【非特許文献5】若林ほか、「サブ波長グレーティングを利用した広帯域ミラーの反射特性」、信学技報、電子通信情報学会発行、Vol.110、No.437、2011年3月、pp.7-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その第1の目的は、偏光双安定面発光レーザを薄形化・小形化することができ、また作製も容易である、レーザ用の反射鏡を提供することである。
【0013】
また、本発明の第2の目的は、例えば光スイッチや全光型シフトレジスタなどのデバイスを小形化することができ、機械的振動に対しても高い信頼性を確保することができる面発光レーザ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者らは、非特許文献3、4に記載されているようなHCGが広い波長帯域に亘り高い反射率を達成できることに着目し、偏光に依存せずに高い反射率を実現可能なHCGによる反射鏡の研究・開発を鋭意進めている。その中で、本願発明者らは、従来の1次元周期構造を有するHCGを2次元周期構造に拡張する手法に想到し、さらに実際の面発光レーザへの実装の容易性やコストを考慮した上で、シミュレーション計算などによる検討を重ねて本発明をするに至った。
【0015】
即ち、上記課題を解決するために成された本発明に用いられるレーザ用反射鏡は、面発光レーザにおいて光を発生する活性層とともに共振器を形成するために用いられる高屈折率差グレーティング(HCG)構造による反射鏡であって、
a)第1屈折率を有し平面状に広がる領域を占める低屈折率層と、
b)前記低屈折率層の一方の面に接するように配置され、前記第1屈折率よりも大きい第2屈折率を有する材料からなり、該低屈折率層に直交する軸に対して90°の回転対称性を有する井桁状の2次元格子構造体と、
を有し、前記軸の方向に沿って入射される任意の偏光を有する光に対し、目的とする波長帯域に亘り反射率が所定以上であるように、前記第1屈折率、前記第2屈折率、前記低屈折率層の厚さ、前記2次元格子構造体の厚さ、該2次元格子構造体の格子のピッチ、及び格子幅を含むパラメータが調整されてなることを特徴としている。

【0016】
このレーザ用反射鏡において、低屈折率層は第2屈折率よりも小さい第1屈折率を有する様々な材料からなるものとすることができる。例えばSiO2(酸化シリコン)など半導体プロセスでごく一般に用いられる材料のほか、より屈折率の小さな空気を材料とすることもできる。低屈折率層を空気からなる層とする場合、反射鏡はスペーサ層を用いたエアブリッジ構造となる。

【0017】
このレーザ用反射鏡において、低屈折率層の一方の面に接するように配置された井桁状の2次元格子構造体は、その低屈折率層に直交する軸に対して90°の回転対称性を有する。そのため、該軸に沿って入射する光が偏光Ex(0°)、又はこれに直交する偏光Ey(90°)のいずれであっても入射条件は等しく、同等の反射特性が得られる。つまりは、偏光に依らずに高い反射率が達成される偏光無依存の反射鏡となる。

【0018】
このレーザ用反射鏡と同様に、非特許文献3、4などに開示された1次元周期構造を有するHCGを2次元周期構造に拡張したHCGとして、非特許文献5に記載のものが知られている。しかしながら、非特許文献5に記載の2次元周期構造を持つHCGは、低屈折率層の上に、高屈折率材料からなる多数の正四角柱体が2次元格子状に配置された構造を有する。そのため、低屈折率層を空気層としたエアブリッジ構造を採ることはできない。HCGにおいて反射率を高めるには、低屈折率層を構成する材料の屈折率(第1屈折率)と2次元格子構造体を構成する材料の屈折率(第2屈折率)との差が大きいほうが有利である。空気はSiO2等、空気以外で考えられる材料に比べて屈折率がかなり小さい。したがって、面発光レーザへの実装、特に面発光レーザの活性層の上側に配置される上部反射鏡への適用を考えた場合、エアブリッジ構造を採り得ることは大きな利点である。

【0019】
上記課題を解決するために成された本発明は、上記レーザ用反射鏡を用いた面発光レーザ装置であって、
半導体基板と、該半導体基板上に形成された下部反射鏡、該下部反射鏡の上に配置された光を発生する活性層、及び該活性層の上に形成された上部反射鏡、からなる共振器と、を具備する面発光レーザ装置であって、
少なくとも前記下部反射鏡として、第1屈折率を有し平面状に広がる領域を占める低屈折率層と、前記半導体基板上に形成されている一つの半導体層に形成されるとともに、前記低屈折率層の一方の面に接するように配置され、前記第1屈折率よりも大きい第2屈折率を有する材料からなり、該低屈折率層に直交する軸に対して90°の回転対称性を有する井桁状の2次元格子構造体と、を有し、前記軸の方向に沿って入射される任意の偏光を有する光に対し、目的とする波長帯域に亘り反射率が所定以上であるように、前記第1屈折率、前記第2屈折率、前記低屈折率層の厚さ、前記2次元格子構造体の厚さ、該2次元格子構造体の格子のピッチ、及び格子幅を含むパラメータが調整されてなる高屈折率差グレーティング構造による反射鏡が用いられ、
前記2次元格子構造体が形成されている前記半導体層に光を導くための光導波路が、該2次元格子構造体が交点に位置するように井桁状に配設され、
該2次元格子構造体を含む共振器から、互いに異なる振動方向の偏光をそれぞれ異なる方向へと延伸する前記光導波路へと送出可能としたことを特徴としている。

【0020】
第2発明に係る面発光レーザ装置では、好ましくは、下部反射鏡、上部反射鏡ともに上記レーザ用反射鏡を用いるとよいが、下部反射鏡として該レーザ用反射鏡を用い、他方にはDBRなどの他の構造の反射鏡を用いてもよい。HCG構造による反射鏡はDBRと比べて薄いため、発明に係る面発光レーザ装置によれば、共振器を薄形化することで当該面発光レーザ装置自体を薄形にすることができる。

【0022】
本発明に係る面発光レーザ装置は、共振器が光導波路に直結された光導波路結合型の面発光レーザであり、共振器内で生成され、共振器に閉じ込められた光を上部反射鏡を通して上部空間へと出射させる以外に、下部反射鏡を通してこれに結合された光導波路へと光を送り出すことが可能である。そのため、例えば、光導波路を介して複数の面発光レーザを接続する構成を採ることで、或る一つの面発光レーザの共振器に閉じ込められた光を、上部空間を通してではなく光導波路を通して別の面発光レーザに伝搬し、該面発光レーザの共振器に移送することができる。即ち、複数の面発光レーザ間で光出力を伝送する際に、上部空間を利用する必要がない。

【0023】
なお、光導波路は面発光レーザ光出力の偏光を切り替えるための光制御信号の伝送にも使用することが可能である。各面発光レーザの光出力の伝送と光制御信号の伝送との両方に光導波路を使用すれば、面発光レーザの上方空間に光学素子を配置する必要がなくなり、装置の大幅な薄形化・小形化が図れる。その反面、光導波路の構造がかなり複雑になり、製造が難しくなる。そこで、光導波路は各面発光レーザの光出力の伝送に利用し、当該レーザ装置の共振器に閉じ込められた光の偏光を切り替えるための光制御信号は、上部反射鏡の外側から前記軸の方向に沿って入射するようにしてもよい。
【0024】
例えば偏光双安定面発光レーザを利用した光バッファメモリでは、各面発光レーザの光出力の偏光を切り替えるための光制御信号を共振器に対し入射する必要があるが、上記形態による面発光レーザを用いれば、光制御信号の入射は上部空間から行い、光出力の取り出しは光導波路を用いて行うことができる。それにより、光バッファメモリやこれを利用した全光型シフトレジスタなどのデバイスを構成する際に、上部空間に配置する光学素子を従来よりも減らすことができ、これらデバイスを小形化するのに有利である。また、空間的に配置される光学素子が減ることで、こうしたデバイスの機械的振動に対する信頼性も向上する。
【0027】
本発明に係る面発光レーザ装置では、光導波路上に複数の面発光レーザを配置した場合、各面発光レーザの共振器に閉じ込められている偏光の状態に応じて、複数の面発光レーザ間の光結合状態が変化する。したがって、例えば、直線状に延伸する光導波路上に配置された複数の面発光レーザを光結合し、注入同期させることで、各面発光レーザで発振する特定偏光の波長を揃え、高出力のアレイレーザを実現することができる。また、一部の面発光レーザに入射する光制御信号を切り替えて該面発光レーザで発振している偏光を切り替えることで、光導波路上で強く結合する面発光レーザの数が変わり、光導波路を通して取り出される光の出力(エネルギ)を変化させることもできる。

【0028】
また、本発明に係る面発光レーザ装置によれば、光制御信号の偏光に応じて、或る一つの面発光レーザから二つの方向に延伸する光導波路のいずれかに選択的に光を出力する光スイッチを実現することができる。さらにまた、光制御信号の偏光に応じて、或る一つの面発光レーザの共振器に閉じ込められている光を隣接する別の複数の面発光レーザのいずれかに転送するシフトレジスタ機能を実現することができる。

【0029】
また上述したように発明に用いられるレーザ用反射鏡は低屈折率層を空気層としたエアブリッジ構造を採ることが可能であることから、発明に係る面発光レーザ装置では、前記上部反射鏡として前記レーザ用反射鏡が用いられ、該反射鏡に含まれる2次元格子構造体と活性層との間に位置する低屈折率層が空気層であるエアブリッジ構造を有してなる構成とすることができる。

【0030】
半導体レーザの製造工程では、多数のレーザについて、一括で結晶成長させた層の一部を選択的にエッチングすることで、低屈折率層を空気層としたエアブリッジ構造を形成することは比較的容易である。そのため、コスト上昇を抑えながら上部反射鏡の反射率を高め、レーザの発振効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0031】
発明に用いられるレーザ用反射鏡によれば、従来のDBRに比べて薄形化しても、高い反射率の偏光無依存の反射鏡を実現することができる。また、発明に用いられるレーザ用反射鏡によれば、空気層を低屈折率層としたエアブリッジ構造を採ることができ、それによって高い反射率を示す反射鏡をより容易に製造することが可能である。さらにまた、発明に用いられるレーザ用反射鏡は、非特許文献5等に記載の2次元周期構造を持つHCGとは異なり、2次元格子構造体の全体にレーザ発振のための電流を流すことができるので効率的な発振に有利であり、その面積も広いため放熱が良好であるという利点を有する。

【0032】
こうしたレーザ用反射鏡を用いた本発明に係る面発光レーザ装置によれば、従来よりも薄形の偏光双安定面発光レーザを実現することができる。また、導波路結合型の構成であるので、面発光レーザの上方空間に配置される光学素子を少なくすることができ、該面発光レーザを用いた光バッファメモリ、全光型シフトレジスタなどのデバイスを薄形化、小形化することができる。また空間的に配置される光学素子が少なくなることで、機械的振動に対し強くなり、信頼性が向上する。また、複数の面発光レーザの光出力同士の光結合を偏光により制御することが可能であるので、高い集積度を実現しながら光のままでの様々な論理演算処理や安定的なバッファリングなどが可能となる。

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に用いられるレーザ用反射鏡の一実施例である偏光無依存HCGの概略斜視構造図。
【図2】図1に示した偏光無依存HCGの一例における反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図。
【図3】本発明に係るレーザ用反射鏡を用いた偏光双安定面発光レーザの一実施例の概略斜視構造図。
【図4】図3に示した偏光双安定面発光レーザを2次元的に配置した場合の概略斜視構造図。
【図5】図3に示した偏光双安定面発光レーザを1次元的に配置した構成における動作説明図。
【図6】図3に示した偏光双安定面発光レーザを2次元的に配置した構成における動作説明図。
【図7】図3に示した偏光双安定面発光レーザを用いた2次元シフトレジスタの構成の一例を示す図。
【図8】図3に示した偏光双安定面発光レーザを用いた2次元シフトレジスタの構成の他の例を示す図。
【図9】図3に示した偏光双安定面発光レーザを用いたシフトレジスタの1ビットメモリの動作タイミング図。
【図10】試作した偏光無依存HCGのSEM観察像。
【図11】試作した偏光無依存HCGの電力反射スペクトルの計算結果を示す図。
【図12】試作した偏光無依存HCGの反射率スペクトルの実測結果を示す図。
【図13】試作した偏光無依存HCGの、波長1.45[μm]、1.50[μm]及び1.55[μm]における反射率の偏光方向依存性を示す図。
【図14】光出力特性計算のために想定した偏光双安定面発光レーザの概略断面図。
【図15】図14中のMonitor X(及びMonitor Y)における光強度及び電磁界分布の計算結果を示す図。
【図16】レーザ発振状態での面発光出力に対する光導波路出力のパワー比をメサ部の中心点からの距離dに対して計算した結果を示す図。
【図17】距離d=6[μm]のときの計算領域全体の電磁界分布の計算結果を示す図(a)、及びSi層中央での電磁界分布(実線)とメサ部での0次モード分布との計算結果を示す図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、本発明に用いられるレーザ用反射鏡の一実施例について、添付図面を参照しつつ説明する。図1は本実施例のレーザ用反射鏡の概略斜視図である。

【0035】
この反射鏡10は、高屈折率材料からなる2次元周期構造が上面視井桁状である高屈折率差サブ波長グレーティング(HCG)である。具体的には、反射鏡10は、図1中のZ軸方向に、シリコン(Si)等の材料からなる半導体基板11と、該半導体基板11上の低屈折率材料(屈折率nL)からなる低屈折率層12と、該低屈折率層12上に形成された高屈折率材料(屈折率ng)からなる上面視井桁状の2次元格子構造体13と、を有する。低屈折率層12の厚さはTLであり、2次元格子構造体13の厚さはTgである。また、X軸方向、Y軸方向ともに、2次元格子構造体13の格子部の幅はW、格子部のピッチはΛである。即ち、2次元格子構造体13は半導体基板11に直交する軸(Z軸方向に延伸する軸)を中心に90°の回転対称性を有している。したがって、この反射鏡10は、図1中に示すように、上方からZ軸に沿って入射する光の偏光方向に依存しない反射特性を有する、つまりは偏光無依存のHCGであり、例えば、二つの直交する直線偏光Ex(X軸方向に振動)及びEy(Y軸方向に振動)で同じ反射率をもつ。

【0036】
図1に示した偏光無依存HCGの特性を確認するために、各パラメータを、Λ=556[nm]、W=178[nm]、Tg=270[nm]、TL=630[nm]、ng=3.5、nL=1、としたときの反射スペクトルを計算機シミュレーションにより求めた。その結果を図2に示す。ここで、計算には、代表的な有限差分時間領域(FDTD=Finite-Difference Time-Domain)法ソフトウエアであるMEEPを用いた。また、境界条件としては、面内方向に周期境界条件、面に直交する方向には吸収境界条件(PML=Perfectly Matched Layer)を用い、入射平面波は図1においてZ軸に沿って上方から入射するようにした。

【0037】
図2で明らかなように、波長0.97[μm]を中心として80[nm]程度の波長範囲で高反射率帯が存在している。これは、DBRで実現可能な高反射率帯幅と同程度である。また、高反射率帯での反射率は99.5%を超えており、面発光レーザ用の反射鏡として充分な反射特性であるといえる。一方、例えば非特許文献1に記載したDBRの厚さは6[μm]であるのに対し、上記例の2次元格子構造体13の厚さTgは270[nm]であって格段に薄い。即ち、本実施例のレーザ用反射鏡は、従来のDBRと同等の反射特性を実現しつつ、格段に薄くすることができる。

【0038】
次に、本発明に係る面発光レーザ装置の一実施例として、上述した偏光無依存HCGを用いた偏光双安定面発光レーザについて説明する。図3は本実施例の偏光双安定面発光レーザの概略斜視構造図である。この偏光双安定面発光レーザ30では、活性層を上下から挟む二つの反射鏡としていずれも偏光無依存HCGが用いられている。

【0039】
即ち、Si基板21と表面Si層23との間にSiO2層22が挿入された構造であるSOI(Silicon on Insulator)基板20にあって、その表面Si層23に、SiO2層22を低屈折率層として下側反射鏡を構成する2次元格子構造体37、つまりは偏光無依存HCGが形成されている。また、偏光双安定面発光レーザ30が形成されている個所以外の表面Si層23は部分的に除去され、その残された表面Si層23により、レーザ発振により生じた光を伝播させる、断面が略矩形状の光導波路24が形成されている。

【0040】
表面Si層23の上には、SiO2層31を間に挟んで、下から(Si基板21側から)順に、n型インジウム・リン(n-InP)層32、インジウム・リン/インジウム・ガリウム・ヒ素・リン(InP/InGaAsP)層33、p型インジウム・リン(p-InP)層34が設けられ、これにより、ごく薄い半導体層をそれよりもバンドギャップの大きい層で両側から挟み込んだMQW(Multiple Quantum Well)構造の活性領域を形成している。そして、p-InP層34の上にはp型インジウム・ガリウム・ヒ素・リン(p-InGaAsP)層35をスペーサとする空気層36が形成され、その上に該空気層36を低屈折率層として上側反射鏡を構成するp型インジウム・リン(p-InP)層による2次元格子構造体38が形成されている。

【0041】
図示するように、n-InP層32の下半分よりも上に設けられている各層は上面視で略正方形状になるように加工され、その側面はポリイミドからなる埋込み部39で被覆されている。そして、埋め込み部39よりも上部の2次元格子構造体38であるp-InP層が露出した個所にp電極40が設けられ、n-InP層32の露出した個所にn電極41が設けられることで、1個の偏光双安定面発光レーザ30が形成されている。このp電極40及びn電極41からMQW構造の活性領域中に電流を注入する。これにより、活性領域が光学利得を持ち、下側反射鏡である2次元格子構造体37と上側反射鏡である2次元格子構造体38との間でレーザ発振が生じる。

【0042】
この活性領域及び上下の反射鏡により形成される共振器において生成されたレーザ光は、振動方向がY軸方向である偏光Ey(90°)と振動方向がX軸方向である偏光Ex(0°)とのいずれかとなる。そして、上述したように、その偏光はZ軸に沿って上方から入射される別の光制御信号の偏光に応じて切り替わる。これは、従来の偏光双安定面発光レーザと同様である。本実施例の偏光双安定面発光レーザの特徴点の一つは、偏光双安定面発光レーザ30の共振器と光導波路24x、24yとが結合しているために、共振器に閉じ込められた光の一部である光出力がZ軸に沿って上方に射出されるとともに、その光出力が光導波路24x、24yにも射出されることである。

【0043】
この実施例では、光導波路24xはX軸方向に延伸するように、光導波路24yはY軸方向に延伸するようにそれぞれ形成され、その交点の位置に偏光双安定面発光レーザ30が設けられている。そこで、図6、図7及び図8に示すように、互いに直交する光導波路24x、24yを上面視井桁状に形成し、各交点位置にそれぞれ偏光双安定面発光レーザ30(図6では30A1、30A2、…)を配置した偏光双安定面発光レーザアレイ構造とすることができる。

【0044】
図4は、X軸方向に延伸する光導波路24x上に2個の偏光双安定面発光レーザ30A、30Bが配置されている状態を示す概略斜視構造図である。図3、図4に示すように、光導波路24xは振動方向がY軸方向である偏光Ey(90°)と強く結合し、他方、光導波路24yは振動方向がX軸方向である偏光Ex(0°)と強く結合する。そのため、例えば図4において、偏光双安定面発光レーザ30Aの共振器内での偏光がEy(90°)であるとき、その偏光の一部は光導波路24xに大きなエネルギを有して出力されるのに対し、光導波路24yには殆ど出力されず無視できる程度である。逆に、偏光双安定面発光レーザ30Aの共振器内での偏光がEx(0°)であるとき、その偏光の一部は光導波路24yに大きなエネルギを有して出力されるのに対し、光導波路24xには殆ど出力されず無視できる程度である。

【0045】
即ち、X軸方向又はY軸方向の一方の軸方向に延伸する光導波路24x又は24yに着目すれば、偏光双安定面発光レーザ30Aから該光導波路24x又は24yへの光出力は偏光に応じてオン・オフされることになる。また、両方の光導波路24x、24yに着目すれば、偏光双安定面発光レーザ30Aからそれら光導波路24x、24yへの光出力は偏光に応じて切り替わることになる。上述したように、偏光双安定面発光レーザ30で発振する偏光は外部から供給される光制御信号の偏光により切り替わるから、上記のような光導波路24への光出力のオン・オフや光出力する光導波路24x、24yの切り替えは、偏光双安定面発光レーザ30に入射する光制御信号の偏光によって制御可能である。

【0046】
図5は、図3に示した偏光双安定面発光レーザを1次元的に配置した構成例における動作説明図である。この例では、複数の偏光双安定面発光レーザ30A、30B、…をX軸方向に延伸する1本の光導波路24x上に配置している。図5(a)に示すように、偏光双安定面発光レーザ30Aで発振している偏光がEy(90°)である場合には、偏光双安定面発光レーザ30Aから光導波路24xに光が出力され、隣接する偏光双安定面発光レーザ30Bに入力されることにより、該面発光レーザ30Bの偏光が前段の面発光レーザ30Aの偏光と同じEy(90°)に切り替わる。このような偏光スイッチングが順々に行われ、全ての偏光双安定面発光レーザ30A、30B、…の偏光が同一になる。一方、図5(b)に示すように、各偏光双安定面発光レーザ30Aの偏光がEx(0°)である場合には、偏光双安定面発光レーザ30Aから光導波路24xに光が出力されない。したがって、偏光双安定面発光レーザ30Aにおける偏光がEx(0°)である場合には、隣接する偏光双安定面発光レーザ30Bに光信号が伝送されないことになる。

【0047】
また、全ての偏光双安定面発光レーザ30A、30B、…における偏光を単にEy(90°)に揃えるだけでなく、全ての偏光双安定面発光レーザ30A、30B、…の偏光が揃うことにより注入同期現象が生じ、全ての偏光双安定面発光レーザ30A、30B、…の発振光の波長も同一にすることができる。各偏光双安定面発光レーザ30A、30B、…から光導波路24xに出力される光の波長が同一であると、各々の共振器からZ軸方向に(つまり自由空間に)出射される光が加算され、高出力のレーザ光を得ることができる。

【0048】
図6は、図3に示した偏光双安定面発光レーザを2次元的に配置した構成例における動作説明図である。この例では、X軸方向に延伸する光導波路24xとY軸方向に延伸する光導波路24yとの交点に複数の偏光双安定面発光レーザ30A1、30B1、…を配置している。図6(a)に示すように、X軸方向の1本の光導波路24x上に配置されている偏光双安定面発光レーザ30A1で発振している偏光がEy(90°)である場合には、光注入により他の偏光双安定面発光レーザ30B1、30C1、…が同一の偏光に切り替わる。このとき、Y軸方向の光導波路24yには光は出力されない。

【0049】
一方、図6(b)に示すように、Y軸方向の1本の光導波路24y上に配置されている偏光双安定面発光レーザ30A1で発振している偏光がEx(0°)である場合には、各偏光双安定面発光レーザ30A1、30A2、…の偏光がEx(0°)に揃う。このとき、X軸方向の光導波路24xには光は出力されない。したがって、この2次元アレイ構成では、1本の光導波路24x又は24y上に配置された全ての偏光双安定面発光レーザの偏光をいずれかに揃えることで、光信号の伝送方向を切り替えることができる。また、上記1次元アレイ構成と同様に、1本の光導波路24x又は24y上に配置された全ての偏光双安定面発光レーザの偏光をいずれかに揃え、発振波長を揃えることで、面発光レーザの共振器から自由空間に直接放射される光の位相を揃え高出力のレーザ光を得ることができる。

【0050】
図7及び図8は、図3に示した偏光双安定面発光レーザを用いた2次元シフトレジスタの構成例を示す図である。シフトレジスタを構成する1ビットのメモリは、データを保持するメモリ部を有し、該メモリ部へのデータ入力(Data(90°))と、メモリ部の記憶内容をリセットするリセット入力(Reset(0°))と、メモリ部の記憶内容をセットするセット入力(Set(90°))と、を有する。ここでは、偏光双安定面発光レーザは1ビットの情報(「0」又は「1」のデジタル二値情報)を偏光状態として記録する全光型のメモリ部として用いられる。図7に示した構成例は、データ信号光入力、リセット光入力、及びセット光入力がいずれも光導波路を通して行われるものであり、図8に示した構成例は、データ信号光入力及びリセット光入力は光導波路を通して行われ、セット光入力は偏光双安定面発光レーザの上部空間から与えられるものであり、基本的な動作は共通である。

【0051】
図9はシフトレジスタの1ビットメモリの動作タイミング図である。データ信号光の中でメモリ部に記録したいビットに合わせて偏光Ey(90°)であるセット光を入力する。データ信号光は二値の「0」が偏光Ex(0°)、二値の「1」が偏光Ey(90°)である。データ信号光とセット光は合波され、その両者の光強度を加算した強度の光が偏光双安定面発光レーザの共振器に入力される。図9に示すように、いま、偏光双安定面発光レーザの発振偏光がEx(0°)である状態で、データ信号光の中のビットa4を記録したい場合、ビットa4の入力タイミングに同期してセット光を入力すると、合波された偏光Ey(90°)の強度は切替閾値を超える。これにより、発振偏光はEx(0°)からEy(90°)に切り替わる。即ち、データ値「1」が発振偏光Ey(90°)として記録される。

【0052】
切替閾値を超えるように光強度が設定された偏光Ex(0°)であるリセット光を入力すると、発振偏光はEy(90°)からEx(0°)に切り替わる。その状態で、データ信号光の中のビットb4を記録したい場合、ビットb4の入力タイミングに同期してセット光を入力すると、このときにデータ信号光は零であるから、合波された偏光Ey(90°)の強度は切替閾値を超えない。これにより、発振偏光はEx(0°)に維持され、データ値「0」が発振偏光Ex(0°)として記録されることになる。このようにして、データ信号光が「0」又は「1」のいずれであるかによって、偏光双安定面発光レーザの発振偏光がEx(0°)又はEy(90°)に定まる。

【0053】
図7及び図8に示した2次元シフトレジスタでは、偏光双安定面発光レーザが井桁状に組まれた光導波路の交点位置に配置され、さらに各偏光双安定面発光レーザに対しそれぞれ独立にセット光入力が可能となっているので、始めにデータが記録された偏光双安定面発光レーザ(図7、図8中の左上に位置するレーザ)から発振偏光の状態に応じてデータ値を選択的にX軸方向又はY軸方向に隣接する偏光双安定面発光レーザに転送することが可能である。

【0054】
なお、シフトレジスタ動作は図7、図8のいずれの構成でも共通であるが、図8に示すようにセット光入力を面発光レーザの上方から入力するほうが、光導波路が煩雑にならず集積度が向上し、また、光ゲートなどの他の素子を組み込み易いという利点がある。一方、装置の薄形化・小形化という点では図7に示すように、セット光入力を含め全ての光の入出力を基板上で行えるようにしたほうがよい。

【0055】
次に、本願発明者らが実際に試作した偏光無依存HCGの構造とその実測特性について説明する。試作した波長無依存HCGの構造上のパラメータを表1に示す。
【表1】
JP0006019522B2_000002t.gif
HCGの作製手順としては、まずSOI基板の表面に電子線レジストを塗布し、そのレジスト上に電子線描画装置を用いて所定のHCGパターンを形成した後、反応性イオンエッチングを行うことで2次元格子構造体の空隙部分を形成した。試作した偏光無依存HCGのSEM観察像を図10に示す。

【0056】
図11は、試作した偏光無依存HCGの電力反射スペクトルを、有限差分時間領域法を用いて計算した結果を示す図である。計算の境界条件としては、2次元格子構造体の面内方向には周期境界条件、この面に直交する面直方向には吸収境界条件を用いた。上述したように、偏光無依存HCGの構造は面に直交する軸を中心に90°回転対称性を有しているため、原理的には入射偏光に拘わらず、図11に示したような高反射率波長帯が実現できる筈である。

【0057】
図12は試作した偏光無依存HCGの反射率スペクトルの実測結果である。この実測では、波長帯域の広い光源からの光を直線偏光子を通した後、約100[μm]径に集光して偏光無依存HCGに入射した。そして、その反射光をInGaAsアレイ分光器に導入し、偏光無依存HCGを入射直線偏光に対して30°間隔で以て回転させながらそれぞれ反射率スペクトルを測定した。図12をみると、1.43[μm]~1.58[μm]の波長帯域において100%に近い高い反射率が得られていることが分かる。

【0058】
図13は、1.45[μm]、1.50[μm]及び1.55[μm]の各波長における反射率の偏光方向依存性をまとめた結果である。各波長において電力反射率には10%程度の変動がみられる。この変動は主に、偏光無依存HCGを取り付けた台の回転中心と試料の位置とのずれによるものと推測できる。なお、図12で観測される波長1.58[μm]より長波長側での反射率の低下は、測定に用いた分光器の感度の低下に起因するもの(つまりは測定上の制約)であって試作した偏光無依存HCG自体の電力反射率の低下によるものではないと推測できる。
以上の実測結果から、試作した偏光無依存HCGの反射率の偏光依存性は充分に小さいと結論付けることができる。これにより、1.55[μm]の波長帯において偏光無依存である広帯域高反射率特性を実現できることが確認できた。

【0059】
続いて、図3、図4に示したように、下側反射鏡を構成する2次元格子構造体を介して共振器が光導波路と結合している構造の偏光双安定面発光レーザの光出力特性のシミュレーション計算による検討結果について説明する。
図14はここで想定した偏光双安定面発光レーザの概略断面図である。この偏光双安定面発光レーザでは、下側反射鏡として上述したような偏光無依存HCGを用いる一方、上側反射鏡としてはDBRを用いている。図14には、図3、図4に示した構造における構成要素に相当する部分に同じ符号を付している。即ち、Si基板21と表面Si層23との間にSiO2層22が挿入された構造であるSOI基板20にあって、その表面Si層23に2次元格子構造体37つまり偏光無依存HCG及び光導波路24を形成し、その上にSiO2接合層31を介して活性領域(Active region)が配置されている。そして、その上にはHCGではなくDBRが配置されている。なお、SiO2接合層31と活性領域との間に配置されたDBRは、素子作製時に生じる活性領域の劣化を防止するためのものである。

【0060】
1個の偏光双安定面発光レーザに対応する偏光無依存HCGの格子の周期数は6、光導波路の幅は5.3[μm]である。そして、波長1.55[μm]において反射率が最大になり、共振波長が1.55[μm]になるようにそのほかの構造上のパラメータを最適化した。具体的には、偏光無依存HCGの各パラメータは、Λ=884[nm]、W=178[nm]、Tg=400[nm]、DC(HCGの1周期あたりにSi部分が占める割合)=0.32、TL1=1000[nm]、TL2=540[nm]である。活性領域は、InGa0.24As0.82P(5.4[nm])/InGa0.22As0.48P(8.6[nm])から成る9つの量子井戸及びInPスペーサで構成されており、ゲインは考慮していない。この活性領域下側のDBRは2.5組のInP/InGa0.34As0.74Pから成り、上側DBRは8.5組のInP/InGa0.34As0.74Pと6組のAl0.16GaAs/Al0.90GaAsから成る。さらに、入射光はEx(0°)直線偏光でガウス型の平面波であり、その強度が1/e2になる全幅を3[μm]とした。なお、図14の紙面に直交するy軸方向も、図14に示したものと同じ構造である。

【0061】
また、光導波路24の出力は、光導波路24の始点からX軸方向に10[μm]離して配置したMonitor X、及び軸方向に10[μm]離して配置したMonitor Y(図示せず)において観測した。一方、計算領域は図14中に太い一点鎖線で示した吸収境界条件で規定しており、計算メッシュの大きさは30[nm]である。ただし、量子井戸など30[nm]以下の領域では各膜層の厚さに相当するメッシュを配置している。そして、計算には、市販の3次元有限差分時間領域シミュレータであるSynopsys社製のFullWAVEを用いた。

【0062】
図15は、観測位置Monitor X及びMonitor Yにおける光強度及び電磁界分布の計算結果を示す図である。なお、光強度はMonitor Yにおける強度の最大値、電磁界振幅はMonitor YにおけるEx及びHzの最大値で規格化している。この図を見ると、Ex(0°)偏光が入力されたとき、Y軸方向の光導波路を伝搬する光強度はX軸方向の光導波路を伝搬する光強度よりも強いことが分かる。数値計算の結果では、このときX軸方向に比べてY軸方向の光導波路出力の方がパワーは4.5倍大きい。このパワーの差は、偏光によって出力する光導波路を選択できることを示している。また、このシミュレーションによって、両光導波路ともTEモードに近いモードで光が伝搬していることも判明した。

【0063】
なお、これに続く本発明者の検討によれば、光導波路を単一モードに近いものとすることによって、Y軸方向の光導波路出力とX軸方向の光導波路出力とのパワー比を1:4.5から1:12程度まで拡大可能なことが分かった。このような大きなパワー比を実現することで、Y軸方向の光導波路とX軸方向の光導波路との切り替えや選択を適切に且つ効率的に行うことができ、この偏光双安定面発光レーザがこうした切替えや選択を利用したデバイスに有効であるといえる。

【0064】
また、これに類似した構造の偏光双安定面発光レーザにおいて光導波路への結合効率も同じくシミュレーション計算により求めた。ここで想定した偏光双安定面発光レーザの構造は図14に示したものに類似しており、SIO基板のSi層の上にHCG及び光導波路を形成し、その上にSiO2接合層を介して活性領域を配置している。その上のDBRは20組の構造である。偏光無依存HCGのパラメータは、Λ=632[nm]、Tg=443[nm]、DC=0.6、TL1=1425[nm]、TL2=470[nm]、である。これら各パラメータは、波長1.55[μm]において反射率が最大になり、共振波長が1.55[μm]になるように最適化した結果である。活性領域は、In0.76Ga0.24As0.820.18(5.4[nm])/In0.78Ga0.22As0.480.52(8.6[nm])から成る7つの量子井戸及びInPスペーサで構成されており、屈折率はそれぞれ3.51、3.33及び3.17である。Al0.16Ga0.84As/Al0.90Ga0.10AsのDBR (屈折率はそれぞれ3.34、2.96)は最下層の5組を残して、上面視10[μm]□形状のメサ部を形成している。光導波路の始点は、このメサ部の中心位置からの距離dで定義している。

【0065】
また入射光源はメサ部の0次モードの強度分布を有するものとし、これを活性領域上に配置した。面発光レーザの面発光出力及び光導波路の出力は、図14と同様に、DBR上方でDBR最上層からZ軸方向に500[nm]だけ離れたMonitor Oの位置、及び光導波路の始点からX軸方向に5[μm]離れたMonitor Cの位置で観測している。計算領域は吸収境界条件で規定しており、計算メッシュの大きさは50[nm]である。ただし、量子井戸など50[nm]以下の領域には各膜層の厚さに相当するメッシュを配置している。計算には上記例と同様に、Synopsys社製のFullWAVEを用いた。

【0066】
図16はレーザ発振状態での面発光出力に対する光導波路出力のパワー比を距離dに対して示した図である。なお、各距離dにおいてゲインは閾値ゲインの1.3倍に設定している。発振モードと光導波路とが重なり始める5[μm]付近から短い距離dで光導波路の出力が大きくなっている。距離d=6[μm]ではメサ部と光導波路とは重なっていないものの、光導波路へ光が結合されていることが分かる。これは、レーザ発振モードがHCGの位置においてはX軸方向の閉じ込めが弱く、メサ部の幅よりもやや広がっているためである。

【0067】
図17(a)は距離d=6[μm]のときの計算領域全体の電磁界|Hy|2分布の計算結果、図17(b)はSi層中央でのHy分布(実線)と上面視10[μm]□のメサ部の0次モード分布(点線)の計算結果を示している。図17(b)から、HCG内部におけるHy分布がメサ部の0次モードよりもやや広がっていることが分かる。
これら結果から、ここで検討した光導波路結合型の偏光双安定面発光レーザでは、面直方向のレーザ出力と光導波路への出力と比は、光導波路の始点における共振モードの強度によって決まり、メサ部の端部と光導波路の始点の位置を1[μm]程度の精度で合わせることにより、1~2%程度の光導波路への出力が得られることが確認できた。これによっても、上述したような偏光双安定面発光レーザを利用したデバイスでは、光導波路を通して充分に出力を伝播可能であることが分かる。

【0068】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、追加などを行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0069】
10…反射鏡
11…半導体基板
12…低屈折率層
13…2次元格子構造体
20…SOI基板
21…Si基板
22…SiO2
23…表面Si層
24…光導波路
30…偏光双安定面発光レーザ
31…SiO2
32…n-InP層
33…InP/InGaAsP層
34…p-InP層
35…p-InGaAsP層
36…空気層
37、38…2次元格子構造体
39…埋め込み部
40…p電極
41…n電極
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図13】
9
【図14】
10
【図16】
11
【図10】
12
【図11】
13
【図12】
14
【図15】
15
【図17】
16