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明細書 :細胞を培養する担体及び培養細胞を用いたタンパク質又はペプチドの生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成28年7月28日(2016.7.28)
発明の名称または考案の名称 細胞を培養する担体及び培養細胞を用いたタンパク質又はペプチドの生産方法
国際特許分類 C12N   5/071       (2010.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C04B  35/628       (2006.01)
C04B  35/26        (2006.01)
FI C12N 5/00 202A
C12P 21/02 A
C12Q 1/02
C04B 35/00 B
C04B 35/26 Z
国際予備審査の請求
全頁数 46
出願番号 特願2014-531635 (P2014-531635)
国際出願番号 PCT/JP2013/072178
国際公開番号 WO2014/030641
国際出願日 平成25年8月20日(2013.8.20)
国際公開日 平成26年2月27日(2014.2.27)
優先権出願番号 2012181690
優先日 平成24年8月20日(2012.8.20)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ
発明者または考案者 【氏名】笠井 智成
【氏名】妹尾 昌治
【氏名】高田 潤
【氏名】橋本 英樹
【氏名】鈴木 智子
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
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Fターム 4B063QA18
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4G030GA08
4G030GA11
4G030GA26
要約 真核細胞を三次元培養する際に有効に用いられる添加剤を提供する事を目的とする。
微生物由来のセラミックスを有効成分とする、真核細胞の三次元培養用添加剤の提供によって、斯かる目的が達成される。
特許請求の範囲 【請求項1】
微生物由来のセラミックスを有効成分とする、真核細胞の三次元培養用添加剤。
【請求項2】
微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、請求項1に記載の三次元培養用添加剤。
【請求項3】
微生物由来のセラミックスが、更にリンを含む、項1又は2に記載の三次元培養用添加剤。
【請求項4】
微生物由来のセラミックスの形状が、中空チューブ状、中空繊維状鞘状、螺旋状、枝分かれしたチューブ状、枝分かれした糸状、ハープ状、扇状、短幹状、カプセル状、及び球状からなる群より選択される何れかである、請求項1~3の何れか1項に記載の添加剤
【請求項5】
微生物由来のセラミックスの形状が、中空チューブ状又は螺旋状である、請求項1~4の何れか1項に記載の添加剤。
【請求項6】
微生物由来のセラミックスの長さが、0.1~3000μmである、請求項1~5の何れか1項に記載の添加剤。
【請求項7】
微生物由来のセラミックスが、磁性体である、請求項1~6の何れか一項に記載の添加剤。
【請求項8】
酸化鉄が、α-Fe、β-Fe、γ-Fe、Fe、α-FeOOH、β-FeOOH、γ-FeOOH、及びフェリハイドライトからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2~7の何れか1項に記載の添加剤。
【請求項9】
真核細胞が、哺乳類細胞及び/又は昆虫細胞である、請求項1~8の何れか1項に記載の添加剤。
【請求項10】
真核細胞が、幹細胞及び/又は肝細胞である、請求項1~9の何れか1項に記載の添加剤。
【請求項11】
微生物が、トキソシリックス属菌、レプトスリックス属菌、クレノシリックス属菌、クロノシリックス属菌、ガリオネラ属菌、シデロカプサ属菌、シデロコッカス属菌、シデロモナス属菌、及びプランクトミセス属菌からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~10の何れか1項に記載の添加剤。
【請求項12】
微生物が、レプトスリックス属菌及び/又はガリオネラ属菌である、請求項1~11の何れか1項に記載の添加剤。
【請求項13】
スフェロイド又は又は細胞塊形成用である、請求項1~12の何れか1項に記載の添加剤。
【請求項14】
三次元培養が、フィーダー細胞を使用しない、請求項1~13の何れか1項に記載の添加剤。
【請求項15】
真核細胞の三次元培養方法であって、培地に真核細胞及び微生物由来のセラミックスを添加する工程を含む方法。
【請求項16】
微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
微生物由来のセラミックスと、其れに担持された真核細胞とを含むスフェロイド又は又は細胞塊。
【請求項18】
請求項15又は16に記載の方法によって得られる、請求項17に記載のスフェロイド又は又は細胞塊。
【請求項19】
タンパク質又はペプチドの製造用である、請求項17又は18に記載のスフェロイド又は又は細胞塊。
【請求項20】
薬剤又は脂質のスクリーニング用である、請求項17又は18に記載のスフェロイド又は又は細胞塊。
【請求項21】
疾病の悪性度鑑別用である、請求項17又は18に記載のスフェロイド又は又は細胞塊。
【請求項22】
再生医療用である、請求項17又は18に記載のスフェロイド又は又は細胞塊。
【請求項23】
真核細胞の三次元培養用添加剤としての使用のための、微生物由来のセラミックス。
【請求項24】
微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、請求項23に記載の微生物由来のセラミックス。
【請求項25】
真核細胞の三次元培養用添加剤を製造するための、微生物由来のセラミックスの使用。
【請求項26】
微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
タンパク質又はペプチドの製造方法であって、培地に真核細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、及び前記細胞を三次元培養する工程を含む、製造方法。
【請求項28】
微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、請求項27に記載の製造方法。
【請求項29】
薬剤又は脂質のスクリーニング方法であって、培地に真核細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、前記細胞を三次元培養する工程、及び前記三次元培養で得られたスフェロイド又は又は細胞塊と、薬剤又は脂質の候補物質を接触させる工程を含むスクリーニング方法。
【請求項30】
微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、請求項28に記載のスクリーニング方法。
【請求項31】
疾病の悪性度の鑑別方法であって、培地に生体から採取した組織片又は腫瘍片に由来する細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、前記細胞を三次元培養する工程、及び前記三次元培養で得られたスフェロイド又は細胞塊を評価する工程を含む鑑別方法。
【請求項32】
微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、請求項31に記載の鑑別方法。
【請求項33】
人工組織の製造方法であって、培地に生体から採取した細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、前記細胞を三次元培養する工程、及び前記三次元培養で得られたスフェロイド又は細胞塊を、患者又は治療を要する動物に直接的又は間接的に注入する工程を含む製造方法。
【請求項34】
微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、請求項33に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞と微生物が生成した酸化鉄とを含む細胞培養物、及び細胞培養物を用いたタンパク質又はペプチドの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スフェロイド形成を促進する技術として、特許文献1及び特許文献2には、特定のパターンを有する培養基材上で細胞を培養する方法が開示されている。特許文献3及び特許文献4には、マイクロ流路あるいはナノスケールの流路を用いて細胞を培養する方法が開示されている。培養液を取り込むようにスフェロイドを形成させる方法として、特許文献5では培養液中にガドリウム化合物を用いており、特許文献6では培養液中に粘膜質の体表皮を有する魚類の体液を用いている。また、特許文献6の背景技術には、中空糸膜上で単層培養する方法、糖鎖高分子を用いる方法、及び動物肝臓由来のプロテオグリカンを利用する方法が記載されている。
【0003】
一方、有用タンパク質の生産技術として、特許文献7-10には、大腸菌又は酵母、特にピキア属酵母及びサッカロマイセス属酵母の組換え体を用いたヒト血清アルブミン(human serum albumin,HSA)の生産方法が記載されている。また、遺伝子組換え体を用いない方法として、特許文献7の背景技術に記載されているように、HSAは血液の分画産物として製造されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2010-233538公報
【特許文献2】特開2010-22366公報
【特許文献3】特開2011-172533公報
【特許文献4】特開2009-242495公報
【特許文献5】特開2012-65555公報
【特許文献6】特開2011-062129公報
【特許文献7】特開2005-312463公報
【特許文献8】特開2009-298783公報
【特許文献9】特開2004-242678公報
【特許文献10】特開2003-153697公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1-6では、形成されるスフェロイドはマイクロメートルスケールであり、大きく成長したスフェロイドは内部で壊死を起こすためにスフェロイドが崩壊、分裂する可能性が高いという問題があった。また、培養細胞を用いたタンパク質の生産においては特許文献5及び特許文献6のようにヒト以外の生物由来タンパク質や糖鎖が混入するとヒトの体内で抗原となり、アレルギー反応やアナフィラキシーショックを生じる危険性がある。特許文献7-10についても、組換え体を用いることで内毒素又はパイロジェン等の外因性物質の混入の危険性があり、また莫大なGMP設備投資が必要である。特許文献7の血液を原料に製造する方法は、原料の安定した供給が困難である上、ウイルス混入等の問題がある。
【0006】
従って、本発明の一つの目的は、巨大なスフェロイドを提供することにある。
本発明の別の目的は、生産量が上昇されたタンパク質又はペプチドの生産方法を提供することにある。
【0007】
更に本発明は、真核細胞を三次元培養する際に有効に用いられる添加剤を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題の解決のために鋭意検討し、真核細胞を微生物が生成した酸化鉄、すなわち微生物由来のセラミックスと共に培養すると、三次元培養が可能となることを見出した。本発明は斯かる知見に基づいて完成されたものであり、下記に示す広い態様の発明を包含する。
【0009】
項1 微生物由来のセラミックスを有効成分とする、真核細胞の三次元培養用添加剤。
【0010】
項2 微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、項1に記載の三次元培養用添加剤。
【0011】
項3 微生物由来のセラミックスが、更にリンを含む、項1又は2に記載の三次元培養用添加剤。
【0012】
項4 微生物由来のセラミックスの形状が、中空チューブ状、中空繊維状鞘状、螺旋状、枝分かれしたチューブ状、枝分かれした糸状、ハープ状、扇状、短幹状、カプセル状、及び球状からなる群より選択される何れかである、項1~項3の何れか1項に記載の添加剤。
【0013】
項5 微生物由来のセラミックスの形状が、中空チューブ状又は螺旋状である、項1~項4の何れか1項に記載の添加剤。
【0014】
項6 微生物由来のセラミックスの長さが、0.1~3000μmである、項1~項5の何れか1項に記載の添加剤。
【0015】
項7 微生物由来のセラミックスが、磁性体である、項1~項6の何れか一項に記載の添加剤。
【0016】
項8 酸化鉄が、α-Fe、β-Fe、γ-Fe、Fe、α-FeOOH、β-FeOOH、γ-FeOOH、及びフェリハイドライトからなる群より選択される少なくとも1種である、項2~項7の何れか1項に記載の添加剤。
【0017】
項9 真核細胞が、哺乳類細胞及び/又は昆虫細胞である、項1~項8の何れか1項に記載の添加剤。
【0018】
項10 真核細胞が、幹細胞及び/又は肝細胞である、項1~項9の何れか1項に記載の添加剤。
【0019】
項11 微生物が、トキソシリックス属菌、レプトスリックス属菌、クレノシリックス属菌、クロノシリックス属菌、ガリオネラ属菌、シデロカプサ属菌、シデロコッカス属菌、シデロモナス属菌、及びプランクトミセス属菌からなる群より選択される少なくとも一種である、項1~項10の何れか1項に記載の添加剤。
【0020】
項12 微生物が、レプトスリックス属菌及び/又はガリオネラ属菌である、項1~項11の何れか1項に記載の添加剤。
【0021】
項13 スフェロイド又は細胞塊形成用である、項1~12の何れか1項に記載の添加剤。
【0022】
項14 三次元培養が、フィーダー細胞を使用しない、項1~項13の何れか1項に記載の添加剤。
【0023】
項15 真核細胞の三次元培養方法であって、培地に真核細胞及び微生物由来のセラミックスを添加する工程を含む方法。
【0024】
項16 微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、項15に記載の方法。
【0025】
項17 微生物由来のセラミックスと、其れに担持された真核細胞とを含むスフェロイド又は細胞塊。
【0026】
項18 項15又は項16に記載の方法によって得られる、項17に記載のスフェロイド又は細胞塊。
【0027】
項19 タンパク質又はペプチドの製造用である、項17又は項18に記載のスフェロイド又は細胞塊。
【0028】
項20 薬剤又は脂質のスクリーニング用である、項17又は項18に記載のスフェロイド又は細胞塊。
【0029】
項21 疾病の悪性度鑑別用である、項17又は項18に記載のスフェロイド又は細胞塊。
【0030】
項22 再生医療用である、項17又は項18に記載のスフェロイド又は細胞塊。
【0031】
項23 真核細胞の三次元培養用添加剤としての使用のための、微生物由来のセラミックス。
【0032】
項24 微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、項23に記載の微生物由来のセラミックス。
【0033】
項25 真核細胞の三次元培養用添加剤を製造するための、微生物由来のセラミックスの、使用。
【0034】
項26 微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、項25に記載の使用。
【0035】
項27 タンパク質又はペプチドの製造方法であって、培地に真核細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、及び前記細胞を三次元培養する工程を含む、製造方法。
【0036】
項28 微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、項27に記載の製造方法。
【0037】
項29 薬剤又は脂質のスクリーニング方法であって、培地に真核細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、前記細胞を三次元培養する工程、及び前記三次元培養で得られたスフェロイド又は細胞塊と、薬剤又は脂質の候補物質を接触させる工程を含むスクリーニング方法。
【0038】
項30 微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、項28に記載のスクリーニング方法。
【0039】
項31 疾病の悪性度の鑑別方法であって、培地に生体から採取した組織片又は腫瘍片に由来する細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、前記細胞を三次元培養する工程、及び前記三次元培養で得られたスフェロイド又は細胞塊を評価する工程を含む鑑別方法。
【0040】
項32 微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、項31に記載の鑑別方法。
【0041】
項33 人工組織の製造方法であって、培地に生体から採取した細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、前記細胞を三次元培養する工程、及び前記三次元培養で得られたスフェロイド又は細胞塊を、患者又は治療を要する動物に直接的又は間接的に注入する工程を含む製造方法。
【0042】
項34 微生物由来のセラミックスが、酸化鉄及び/又はシリカを含む、項33に記載の製造方法。
【0043】
更に本発明には以下に示す態様の発明も包含される。
項A1.細胞と、微生物が生成した酸化鉄とを含む細胞培養物。
項A2.前記細胞が初代肝細胞、肝細胞由来細胞株、初代癌細胞、又は癌細胞由来細胞株
である項A1に記載の細胞培養物。
項A3.前記細胞が幹細胞である項A1に記載の細胞培養物。
項A4.前記細胞がスフェロイドである項A1~項A3のいずれか一項に記載の細胞培養物。
項A5.前記微生物が生成した酸化鉄が、レプトスリックス属又はガリオネラ属が生産する酸化鉄である、項A1~項A4のいずれか一項に記載の細胞培養物。
項A6.前記微生物が生成した酸化鉄が、中空チューブ状の酸化鉄である、項A1~項A5のいずれか一項に記載の細胞培養物。
項A7.項A1~項A6のいずれか一項に記載の細胞培養物を用いた、タンパク質又はペプチドの生産方法。
項A8.前記タンパク質又はペプチドは血清タンパク質、ホルモン、酵素、免疫調節因子、リンホカイン、モノカイン、サイトカイン、糖タンパク質、ワクチン抗原、抗体、成長因子、増殖因子、又は液性因子である項A7に記載の方法。
項A9.前記タンパク質又はペプチドはアルブミンである項A7に記載の方法。
項A10.微生物が生成した酸化鉄を用いて細胞を培養することからなる、スフェロイドの製造方法。
項A11.前記スフェロイドが初代肝細胞、肝細胞由来細胞株、初代癌細胞、又は癌細胞由来細胞株から培養されたスフェロイドである項A10に記載の方法。
項A12.前記細胞が幹細胞である項A10に記載の方法。
項A13.前記微生物が生成した酸化鉄が、レプトスリックス属又はガリオネラ属が生産する酸化鉄である、項A10~項A12のいずれか一項に記載の方法。
項A14.前記微生物が生成した酸化鉄が、中空チューブ状の酸化鉄である、項A10~項A13のいずれか一項に記載の方法。
項A15.前記培養することは、細胞非接着性の内底面を有する培養皿に、細胞と微生物が生成した酸化鉄とを含む培地を入れることにより細胞を培養することからなる、項A10~項A14のいずれか一項に記載の方法。
項A16.項A10~項A15のいずれか一項に記載の方法により得られたスフェロイドの、薬剤又は脂質のスクリーニングのための使用。
項A17.微生物が生成した酸化鉄の、スフェロイド形成のための使用。
【発明の効果】
【0044】
本発明により、細胞と、微生物が生成した酸化鉄とを含む細胞培養物が提供される。かかる細胞培養物により、巨大なスフェロイドの形成が促進されると共に、かかる細胞培養物はアルブミンを初めとするタンパク質又はペプチドの生産、及び薬剤又は脂質のスクリーニングに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】L-BIOXに接着及び凝集する細胞。図1A-1Cはヒト乳癌由来MDA-MB-453細胞の接着の走査型電子顕微鏡写真を示し、図1D-1Fはヒト肝臓癌由来HepG2細胞の接着の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図2】L-BIOXの存在下又は不在下で培養されたHepG2細胞のスフェロイドの光学顕微鏡写真。図2A-CはL-BIOX上で形成される培養6日目、9日目、及び10日目のHepG2細胞のスフェロイド、図2D-EはL-BIOXがない場合の培養4日目及び14日目のHepG2細胞のスフェロイドを示す。細胞は倒立型光学顕微鏡で観察し、顕微鏡用デジタルカメラ(DP71、オリンパス株式会社製)を用いてMetaMorphソフトウェア(Version 7.7.3.0モレキュラーデバイスジャパン株式会社製)で画像を取り込み、スフェロイド直径を測定した。以下、図3-10も同様に倒立型光学顕微鏡で観察し、スフェロイド直径を測定した。
【図3】培養1ヶ月目の、磁性L-BIOX上でスフェロイド形成したMDA-MB-453細胞の光学顕微鏡写真(対物40倍)。
【図4】L-BIOX上で培養したmiPS-LLCcm細胞のスフェロイド直径。
【図5】L-BIOX上で7日間培養したmiPS-LLCcmの明視野観察(BF)(図5A)、蛍光(GFP)観察(図5B)及びMerge写真(図5C)。
【図6】L-BIOX上で形成されたmiPS細胞塊(図6A-C)と非接着性培養皿で培養したmiPS細胞(図6D-F)。
【図7】L-BIOX及びG-BIOXがHepG2細胞のスフェロイド形成に与える効果を示すグラフ。図7AはL-BIOXに関するグラフ、図7BはG-BIOXに関するグラフ。
【図8】L-BIOXの存在(■)又は不在下(▲)で培養されたHepG2細胞のスフェロイド径を示すグラフ。
【図9】HepG2細胞のスフェロイド形成における培養5日目のL-BIOXと他の担体粒子との比較。図9A:L-BIOX、図9B:担体なし、図9C:Aerosil 300、図9D:市販の酸化鉄。
【図10】HepG2細胞のスフェロイド形成におけるL-BIOXとマイクロキャリアビーズとの比較。図10A,B:L-BIOX、図10C,D:マイクロキャリアビーズ。
【図11】HepG2細胞によるヒト血清アルブミン生産。図11Aはウェスタンブロッティングにおけるアルブミンの発現を示す。図11Bは図11Aの発現量をシグナル強度で示したグラフ。
【図12】L-BIOXの形状の影響を検討した実験結果。(A)はチューブ状のL-BIOXを用いてmiPS細胞を三次元培養した結果を示す顕微鏡写真像。バーは100μmを示す。(B)はチューブ状のL-BIOX粉末状に粉砕したものを用いてmiPS細胞を三次元培養した結果を示す顕微鏡写真像。バーは100μmを示す。(C)は(A)拡大像。バーは20μmを示す。(D)は(A)を三次元再構成した像。
【図13】L-BIOXを用いて三次元培養したmiPS細胞における遺伝子の発現量を検討した結果を示す図。(A)は内在性発現遺伝子、(B)は総発現遺伝子を示す。グラフの縦軸は、接着ディッシュ上でフィーダレス培養したmiPS細胞での発現量を基準(値を1)とした相対発現量を示す。
【図14】L-BIOXを用いて三次元培養したガン幹細胞モデル細胞(miPS-LLCcm)細胞における遺伝子の発現量を検討した結果を示す図。グラフの縦軸は三次元培養で得られた細胞塊の直径(μm)を示し、横軸は培養日数を示す。グラフ中の四角は、L-BIOX及びPurimycinを添加したもの、グラフ中の丸は、L-BIOXを添加せず、Purimycinを添加したものを示す。また、横軸の矢印はPurimycinを添加した日を示し、グラフ中の写真像は、それぞれ三次元培養した際の細胞塊の写真像を示すものである。バーは500μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕
本発明の真核細胞の三次元培養用添加剤は、微生物由来のセラミックスを有効成分とする。すなわち、本発明における微生物由来セラミックスは、真核細胞の三次元培養用添加剤に使用することができる。そして、前記微生物由来のセラミックスは、真核細胞の三次元培養用添加剤の製造に使用される。

【0047】
上述の微生物由来のセラミックスとは、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明する「微生物が生成した酸化鉄」に該当する。より具体的には、
(i)微生物が生成した酸化鉄に加熱処理を施すことにより磁性セラミックスとしたもの、
(ii)微生物が生成した酸化鉄を酸処理しFe成分を溶解除去することにより多孔質アモルファスシリカとしたもの、及び
(iii)微生物が生成した酸化鉄、磁性セラミックス、又は多孔質アモルファスシリカの有機基で化学修飾し得る部分(例えば、Fe原子及び/又はSi原子に結合した酸素原子)の少なくとも一部を有機基で化学修飾して得られた有機・無機材料
が、本発明の微生物由来のセラミックスに包含される。

【0048】
本発明の三次元培養用添加剤に有効成分として含有される微生物由来のセラミックスには、酸化鉄及び/又はシリカを含有される。さらに、リンを含有することもできる。そして、後述する本発明の微生物をコバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属元素やネオジウム等の希土類元素等が存在する環境化で培養することにより、微生物由来のセラミックスにこれらの元素を含有させ得る。これらの元素を含有させれば、鉄以外の物質に由来する磁性を本発明の磁性セラミックスに付与できる。また、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウムのような軽元素も含有させることもできる。

【0049】
また、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明する国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号に記載のように、上述のセラミックスの構成成分として、鉄、シリカ、及びリンの元素比率は原子数%(at%)で、通常は、66~87:2~27:1~32程度である。

【0050】
上述の酸化鉄とは、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明の詳細な説明、及びこれを説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号に記載の「酸化鉄」であることができる。

【0051】
なお、上記「酸化鉄」にて示されるフェリハイドライトとは、低結晶性の酸化鉄を意味し、X線回折パターンに現れるピークの数によって2-line ferrihydriteや6-line ferrihydrite等と呼ばれている。2-line ferrihydriteの組成はFe(O,OH,HO)で、6-line ferrihydriteの組成はFe4.6(O,OH,HO)12とされている(R.A.Eggleton and R.W.Fitzpatrick,“New data and a revised structural model forferrihydrite”,Clays and Clay Minerals,Vol.36,No.2,pp111-124,1988)。

【0052】
また、上記「酸化鉄」にて示されるレピドクロサイトとは、結晶系は斜方晶系、空間群はBbmm、格子定数はa=0.3071,b=1.2520,c=0.3873Å,α=β=γ=90°であり、化学式がγ-FeOOHで表される結晶性の酸化鉄である。

【0053】
上述のセラミックスの形状は、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明の詳細な説明、及びこれを説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号に記載のように、中空チューブ状、中空繊維状鞘状、鞘状、らせん状、枝分かれしたチューブ状、糸状(糸状が集まって構成されたハープのような形状、扇状等も含む)、短幹状、カプセル状、球状、マイクロチューブ状、ナノチューブ状、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状、ロッド状等とすることができる。前記セラミックスの形状は、一次粒子径が、通常は、3~5nm程度の微粒子が集合して形成される。

【0054】
上述の微生物由来のセラミックスの長さは、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明の詳細な説明、及びこれを説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号に記載のように、通常は、0.1~3000μm程度である。

【0055】
好ましくは、上述のような微生物由来のセラミックスが鞘状、らせん状、枝分かれしたチューブ状、糸状、及び短幹状であれば、通常は、直径0.1~5μm程度、長さ5~3000μm程度;カプセル状であれば、通常は、長さ1.2~24μm程度;球状であれば、通常は、直径0.1~1μm程度;マイクロチューブ状であれば、通常は、直径0.3~4μm程度、長さ5~200μm程度;ナノチューブ状であれば、通常は、直径300~450nm程度、長さ5~200μm程度;中空ひも状であれば、通常は、長さ3~10μm程度;カプセル状であれば、通常は、長径1.5~7μm程度、短径0.5~3μm程度;ひも状であれば、通常は、長さ0.5~5μm程度;ロッド状であれば、通常は、長さ5~30μm程度である。

【0056】
上述の微生物とは、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明の詳細な説明にて「鉄酸化細菌」と説明される微生物であることができる。好ましくは、レプトスリックス属菌又はガリオネラ属菌である。

【0057】
上述の微生物由来のセラミックスは、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明する「微生物が生成した酸化鉄」に包含される(i)に示すように、磁性体であることができる。この様な磁性体(以後、本明細書において磁性セラミックスともいう。)は、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、例えば、Fe及びγ-Feからなる群から選ばれる少なくとも1種の磁性酸化鉄を含有する。

【0058】
また、本発明の磁性セラミックスの形状は、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、通常は、原料である上述の微生物由来のセラミックスの形状とほぼ同じとすることができる。

【0059】
具体的には、本発明の磁性セラミックスの形状は、鞘状、らせん状、枝分かれしたチューブ状、糸状(糸状が集まって構成されたハープのような形状、扇状等も含む)、短幹状、カプセル状、球状、マイクロチューブ状、ナノチューブ状、中空ひも状、カプセル状、ひも状と球状の凝集体、ひも状、ロッド状等が挙げられる。

【0060】
また、本発明の磁性セラミックスの大きさは、通常は、0.1~3000μm程度である。より具体的には、例えば、鞘状、らせん状、枝分かれしたチューブ状、糸状、短幹状であれば、通常は、直径0.1~5μm程度、長さ5~3000μm程度、好ましくは直径0.3~3μm程度、長さ5~1000μm程度、より好ましくは直径0.5~2μm程度、長さ5~200μm程度である。また、カプセル状であれば、通常は、長さ1.2~24μm程度;球状であれば、通常は、直径0.1~1μm程度;マイクロチューブ状であれば、通常は、直径0.3~4μm程度、長さ5~200μm程度;ナノチューブ状であれば、直径300~450nm程度、長さ5~200μm程度;中空ひも状であれば、通常は、長さ3~10μm程度;カプセル状であれば、通常は、長径1.5~7μm、短径0.5~3μm程度;ひも状であれば、通常は、長さ0.5~5μm程度;ロッド状であれば、通常は、長さ5~30μm程度である。

【0061】
さらに、本発明の磁性セラミックスがFeを含有する場合と、γ-Feを含有する場合とは、表面形状にはほとんど差がない。また、本発明の磁性セラミックスは、望ましくは超高分解能SEM像による表面の形状が微細凹凸構造である。

【0062】
本発明の磁性セラミックスにおいて、前記微生物由来のセラミックスに、鉄原子に加えて、ケイ素及びリンが含有される場合、その組成比は、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、原料である前記微生物由来のセラミックスの組成とほぼ同じとすることができる。すなわち、本発明の磁性セラミックスに鉄、ケイ素、及びリンが含有される場合、鉄、ケイ素、及びリンの元素比率は原子数%(at%)で、それぞれ、通常は、66~87:2~27:1~32程度、好ましくは70~77:16~27:1~9程度である。

【0063】
なお、本発明の磁性セラミックスの構成成分は、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、原料となる前記微生物由来のセラミックスの構成成分によって変化する。上述の通り、例えば、微生物由来のセラミックスを生成する微生物をコバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属元素やネオジウム等の希土類元素等が存在する環境化で培養することにより、微生物由来のセラミックスにこれらの元素を含有させることができる。これらの元素を含有させることで、鉄以外の物質に由来する磁性を本発明の磁性セラミックスに付与できる。また、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム等のような軽元素を含有させてもよい。

【0064】
また、本発明の磁性セラミックスが鉄に加えて、ケイ素及びリンを含有する場合、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、通常、磁性セラミックスに含有されるFe及びγ-Feと、ケイ素及びリンとは固溶しておらず、鉄、ケイ素及びリンはそれぞれ相分離したものとすることができる。なお、ケイ素及びリンを含む場合、本発明の磁性セラミックスのX線回折(XRD)パターンにケイ素及びリンに起因する明瞭なピークが確認されないことから、ケイ素及びリンはアモルファス構造の酸化物を形成したものとすることができる。この様なアモルファス相の主成分は、アモルファスシリカであることが好ましい。

【0065】
本発明の磁性セラミックスの結晶子サイズは、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、通常は、5~100nm程度である。

【0066】
また、本発明の磁性セラミックスに含有される酸化鉄がFeの単一相である場合、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、磁性セラミックスに含有される鉄の、通常は、約6割程度がFeであり、約4割程度が常磁性のFe2+及びFe3+である。一方、本発明の磁性セラミックスに含有される酸化鉄がγ-Feの単一相である場合、磁性セラミックスに含まれる鉄の、通常は、約7割程度がγ-Feであり、約3割程度が常磁性のFe2+及びFe3+である。

【0067】
なお、常磁性のFe2+及びFe3+が、前記のアモルファス相を構成するFe成分であると仮定して、メスバウアー分光法(Mossbauer分光法)の結果と原料である前記微生物由来のセラミックス中の鉄、ケイ素、及びリンの組成比から、アモルファス相の組成を計算することができる。

【0068】
微生物由来のセラミックス中の鉄、ケイ素、及びリンの組成比が、上記のFe:Si:P=66~87:2~27:1~32である場合であって、本発明の磁性セラミックスに含有される酸化鉄がFeの単一相である場合、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、アモルファス相の組成(at%)は、通常は、およそFe:Si:P=36~66:5~55:2~60程度である。また、本発明の磁性セラミックスに含有される酸化鉄がγ-Feの単一相である場合、アモルファス相の組成(at%)は、通常は、およそFe:Si:P=39~69:4~51:2~56程度である。

【0069】
本発明の磁性セラミックスがFeを含有する場合には、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、磁性セラミックスの飽和磁化は、通常は、1~50emu/g程度、好ましくは30~50emu/g程度、より好ましくは40~50emu/g程度である。また、保磁力は、通常は、0~250Oe程度である。さらに、残留磁化は、通常は、0~20emu/g程度でる。なお、本発明の磁性セラミックスに含有される酸化鉄がFeの単一相である場合には、磁性セラミックスの飽和磁化は、通常は、50emu/g程度である。

【0070】
一方、本発明の磁性セラミックスに含有される酸化鉄がγ-Feを含有する場合、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、磁性セラミックスの飽和磁化は、通常は、1~40emu/g程度、好ましくは25~40emu/g程度、より好ましくは30~40emu/g程度である。また、保磁力は、通常は、0~60Oe程度である。さらに、残留磁化は、通常は、0~20emu/g程度である。なお、本発明の磁性セラミックスに含有される酸化鉄がγ-Feの単一相である場合、磁性セラミックスの飽和磁化は、通常は、40emu/g程度である。

【0071】
また、純粋なFe及びγ-Feは、それぞれ98emu/g及び81emu/gであることから、本発明の磁性セラミックス中に含有される1~50質量%程度の化合物が、Fe又はγ-Feの磁性酸化鉄微粒子となる。

【0072】
また、本発明の磁性セラミックス中の、Fe及びγ-Feからなる群から選ばれる少なくとも一種の磁性酸化鉄の含有量は、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、通常は、30~50質量%程度、好ましくは40~50質量%程度である。また、本発明の磁性セラミックス中のアモルファス相の含有量は、通常は、70~50質量%程度、好ましくは60~50質量%程度である。

【0073】
本発明の磁性セラミックスがケイ素及びリンの酸化物を含有する場合、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、磁性セラミックス中のケイ素酸化物の含有量は、通常は、10~30質量%程度、好ましくは15~25質量%程度である。また、磁性セラミックス中のリン酸化物の含有量は、通常は、1~20質量%程度、好ましくは1~10質量%程度である。

【0074】
本発明の微生物由来のセラミックスの多孔度は、特に限定はされないがBetの比表面積に換算して、通常は200~350m2/g程度、より好ましくは、260~300m2/g程度である。

【0075】
本発明の微生物由来のセラミックスに該当する「微生物が生成した酸化鉄」包含される、上記(iii)の、微生物が生成した酸化鉄の酸処理しFe成分を溶解除去することにより多孔質アモルファスシリカとしたものは、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明の詳細な説明にて説明される通りとすることができる。斯かる多孔質アモルファスシリカの多孔度は、特に限定はされないがBetの比表面積に換算して、通常は300m2/g程度以上、好ましくは400m2/g程度以上、より好ましくは500m2/g程度以上である。

【0076】
本発明の微生物由来のセラミックスに該当する「微生物が生成した酸化鉄」包含される、上記(iii)の、微生物が生成した酸化鉄、磁性セラミックス、又は多孔質アモルファスシリカの有機基で化学修飾し得る部分(例えば、Fe原子及び/又はSi原子に結合した酸素原子)の少なくとも一部を有機基で化学修飾して得られた有機・無機材料は後出の前記項A1~A17に示す態様の発明の詳細な説明にて説明される通りとすることができる。

【0077】
上記有機基とは、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号にて記載されるように、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、アミド基、イミド基、シアノ基、イソシアノ基、アルデヒド基、ケトン基、イミノ基、アミノ基、アジド基、ニトロ基、ヒドロキシ基、エーテル基、エポキシ基、イソシアナト基、イソチオシアナト基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、チオール基、スルフィド基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホキシド基、複素環、ハロゲン原子、ケイ素原子、チタン原子及びリン原子等の官能基を有する基が挙げられる。

【0078】
上述の微生物が生成した酸化鉄、磁性セラミックス、又は多孔質アモルファスシリカの有機基で化学修飾し得る部分と前記有機基を修飾する方法は、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明している国際公開第2010/110435号及び国際公開第2011/074587号に記載の方法で作製することが可能である。

【0079】
本発明の三次元培養用添加剤における上述の微生物由来のセラミックスの含有量は、特に限定することはないが、三次元培養用剤100重量部当たり、通常は0.001~100重量部程度である。すなわち、上述の微生物由来のセラミックスそのものを、本発明の三次元培養用添加剤であることができる。

【0080】
上述の真核細胞は、特に限定はされないが、例えば哺乳類細胞、昆虫細胞等が挙げられる。

【0081】
例えば、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明する細胞であることができ、中でも、幹細胞又は肝細胞が好ましい。

【0082】
本発明の三次元培養用添加剤は、スフェロイド又は細胞塊の形成用の添加剤であることができる。

【0083】
なお、三次元培養とは、平面的に単層で細胞を増殖させるものとは異なり、細胞同士を接着させながら増殖させ、立体的な細胞塊又はスフェロイドを形成させるものである。

【0084】
本発明の三次元培養用添加剤の使用量は、特に限定はされないが、適当な培地に対して、上述の微生物由来のセラミックスの量に換算した最終濃度が0.1~5mg/ml程度、好ましくは、0.5~3mg/mL程度、より好ましくは1.0~2.0mg/mL程度である。

【0085】
本発明の三次元培養用添加剤は、フィーダー細胞を用いることなく使用することが可能である。

【0086】
〔真核細胞の三次元培養方法〕
本発明の真核細胞の三次元培養方法は、培地に微生物由来のセラミックスを添加する工程を含む。

【0087】
真核細胞とは、上述の〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕に関する説明と同様であることができる。

【0088】
微生物由来のセラミックスとは上述の〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕に関する説明と同様であることができる。

【0089】
培地とは、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明と同様であることができる。

【0090】
培養条件、培養環境等に関する具体的な培養方法は、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明と同様であることができる。

【0091】
〔スフェロイド又は細胞塊〕
本発明のスフェロイド又は細胞塊は、微生物由来のセラミックスと、これに担持された真核細胞を含む。そして、本発明のスフェロイド又は細胞塊は、微生物由来のセラミックスに担持されている。すなわち、微生物由来のセラミックスは、真核細胞のスキャフォールドとしての機能を発揮する。

【0092】
微生物由来のセラミックスとは、上述の〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕に関する説明と同様であることができる。

【0093】
真核細胞とは、上述の〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕に関する説明と同様であることができる。

【0094】
本発明のスフェロイド又は細胞塊は、タンパク質又はペプチドの製造に関する分野に好適に用いることができる。本発明のスフェロイド又は細胞塊を用いた具体的な製造方法は、例えば〔本発明のタンパク質又はペプチドの製造方法〕にて後述する方法を採用すればよいが、これに限定はされない。

【0095】
本発明のスフェロイド又は細胞塊は、薬剤又は脂質のスクリーニングに関する技術分野に好適に用いることができる。本発明のスフェロイド又は細胞塊を用いた具体的なスクリーニング方法は、例えば〔本発明の薬剤又は脂質のスクリーニング方法〕にて後述する方法を採用すればよいが、これに限定はされない。

【0096】
本発明のスフェロイド又は細胞塊は、疾病の悪性度鑑別に関する技術分野に好適に用いることができる。本発明のスフェロイド又は細胞塊を用いた具体的な悪性度の鑑別方法は、例えば〔本発明の疾病の悪性度の鑑別方法〕にて後述する方法を採用すればよいが、これに限定はされない。

【0097】
本発明のスフェロイド又は細胞塊は、再生医療に関する技術分野に好適に用いることができる。具体的な再生医療分野での方法に関しては、例えば〔本発明の人工組織の製造方法〕にて後述する方法等にて製造される人工組織の使用方法を採用すればよいが、これに限定はされない。

【0098】
〔タンパク質又はペプチドの製造方法〕
本発明のタンパク質又はペプチドの製造方法は、培地に真核細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、及び前記細胞を三次元培養する工程を含む。

【0099】
タンパク質又はペプチドは後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明と同様であることができる。

【0100】
培地は、上述の〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕に関する説明と同様であることができる。

【0101】
真核細胞は、上述の〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕に関する説明と同様であることができる。

【0102】
微生物に由来するセラミックス並びにその添加量は、上述の〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕及び〔真核細胞の三次元培養方法〕に関する説明と同様であることができる。

【0103】
具体的な三次元培養の方法は、上述の〔真核細胞の三次元培養方法〕に関する説明と同様であることができる。

【0104】
また、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明に記載される各種のタンパク質又はペプチドの製造技術を適宜採用してもよい。この様なタンパク質ペプチド又は、予め前記タンパク質又はペプチドをコードする遺伝子が導入され、これらを発現する真核細胞から得られるリコンビナントタンパク質又はペプチドであることができ、真核細胞に起源的に発現している内在性のタンパク質又はペプチドであることもできる。

【0105】
〔薬剤又は脂質のスクリーニング方法〕
本発明の薬剤又は脂質のスクリーニング方法は、培地に真核細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、前記細胞を三次元培養する工程、及び前記三次元培養で得られたスフェロイド又は細胞塊と、薬剤又は脂質の候補物質を接触させる工程を含む。

【0106】
薬剤又は脂質とは、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明と同様であることができる。

【0107】
培地、真核細胞、及び微生物に由来するセラミックスとは、上述の〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕及び〔真核細胞の三次元培養方法〕に関する説明と同様であることができる。

【0108】
具体的な三次元培養の方法は、上述の〔真核細胞の三次元培養方法〕に関する説明と同様であることができる。

【0109】
スクリーニング方法では、上述の薬剤又は脂質の候補物質と三次元培養で得られたスフェロイド又は細胞塊を接触させたのち、斯かる三次元培養でスフェロイド又は細胞塊における生体反応を指標として、薬剤又は脂質をスクリーニングすればよい。

【0110】
生体反応の指標とは、スクリーニングを所望する薬剤又は脂質が、スフェロイド又は細胞塊において発揮する作用を基に選択すればよく、特に限定はされない。

【0111】
また、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明に記載される各種のスクリーニング技術を適宜採用してもよい。

【0112】
本発明の薬剤又は脂質のスクリーニング方法として、例えば、がん治療薬の薬剤スクリーニングであれば、上述のスフェロイド又は細胞塊に候補となるガン治療薬を曝露して培養した後に、MTTアッセイ等による増殖抑制効果を測定してIC50を算出し、その数値が設定した基準値よりも低い結果を示すスフェロイド又は細胞塊に曝露したがん治療薬を所望のガン治療薬として選択する工程;上述の曝露後のスフェロイド又は細胞塊を染色して固定した後に、公知の方法を用いて生死判定を行い、死んだスフェロイド又は細胞塊に曝露させたガン治療薬を所望のがん治療薬として選択する工程;上記固定後のスフェロイド又は細胞塊にTUNEL染色法等によるアポトーシスの検出を行って、アポトーシスを引き起こしているスフェロイド又は細胞塊に曝露したガン治療薬を、所望のがん治療薬として選択する工程等を挙げることができる。

【0113】
また、脂質のスクリーニングでは、候補脂質をスフェロイド又は細胞塊に曝露して培養した後に、培養上清、スフェロイド、又は細胞塊から脂質代謝産物を測定し、測定した量が多い場合に所望の脂質として選択する工程を含む方法、蛍光ラベルした候補脂質のスフェロイド又は細胞塊内への取込みやスフェロイド又は細胞塊内での移行を評価し、所望の動態を示す脂質を選択する工程を含む方法等が挙げられる。

【0114】
〔疾病の悪性度の鑑別方法〕
本発明の疾病の悪性度の鑑別方法は、培地に生体から採取した組織片又は腫瘍片に由来する細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、前記細胞を三次元培養する工程、及び前記三次元培養で得られたスフェロイド又は又は細胞塊を評価する工程を含む。

【0115】
疾病とは、特に限定はされないが、例えばガン等が挙げられる。悪性度とは、例えば疾病の進行度合いを示すものであり、特に限定はされない。

【0116】
生体から採取した組織片又は腫瘍片とは、特に限定はされないが、疾病の悪性度を検討する上において、有用な部位から採取すればよい。また、生体とは特に限定はされないが、例えば後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明における哺乳類等を参照することができる。

【0117】
培地及び微生物に由来するセラミックスとは、上述の〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕及び〔真核細胞の三次元培養方法〕に関する説明と同様とすることができる。

【0118】
具体的な三次元培養の方法は、上述の〔真核細胞の三次元培養方法〕に関する説明と同様とすることができる。

【0119】
鑑別方法では、三次元培養によって得られたスフェロイド又は細胞塊を公知の方法にて解析又は観察することによって、公知の診断技術を採用し、疾患の悪性度を鑑別とすることができるが、特に限定はされない。

【0120】
また、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明に記載される各種の鑑別技術を適宜採用することができる。

【0121】
本発明の疾病の悪性度の鑑別方法として、例えば、in vitroでは、CD44タンパク質が高発現で、且つCD24タンパク質が低発現の上記スフェロイド又は細胞塊、又はCD133タンパク質が高発現するスフェロイド又は細胞塊の割合をフローサイトメトリーで測定する工程を含む方法;これらの遺伝子およびタンパク質のスフェロイド又は細胞塊における発現量を、qPCR法、ウエスタンブロッティング法、in situハイブリダイゼーション法、免疫染色法等を用いて検出する工程を含む方法等が挙げられる。

【0122】
また、上記スフェロイド又は細胞塊をWound healing assay法、トランスウェル等に供し、遊走能を評価する工程、マトリゲルを用いて浸潤能を評価する工程を含む悪性度の鑑別方法が挙げられる。

【0123】
更に、マウスに上記スフェロイド又は細胞塊を移植して担癌マウスを作製した後に、がん組織を摘出し、病理組織学的診断を行う工程を含む方法が挙げられる。この場合、さらに移植部位以外に転移が観察できれば悪性度は高い判断することもできる。

【0124】
〔本発明の人工組織の製造方法〕
本発明の本発明の人工組織の製造方法は、培地に生体から採取した細胞及び微生物に由来するセラミックスを添加する工程、前記細胞を三次元培養する工程、及び前記三次元培養で得られたスフェロイド又は又は細胞塊を、患者又は治療を要する動物に直接的又は間接的に注入する工程を含む。

【0125】
生体から採取する細胞又は組織とは、特に限定はされないが、疾病の悪性度を検討する上において、有用な部位から採取することができる。また、生体とは特に限定はされないが、例えば後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明における哺乳類等を参照することができる。

【0126】
患者又は治療を要する動物とは特に限定はされないが、例えば後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明における哺乳類等を参照することができる。

【0127】
直接的又は間接的に注入する工程とは、特に限定はされないが、再生医療分野にて用いられる公知の注入方法を適宜採用することができる。

【0128】
培地及び微生物に由来するセラミックスとは、上述の〔真核細胞の三次元培養用添加剤〕及び〔真核細胞の三次元培養方法〕に関する説明と同様であることができる。

【0129】
具体的な三次元培養の方法は、上述の〔真核細胞の三次元培養方法〕に関する説明と同様であることができる。

【0130】
また、後出の前記項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明に記載される各種の再生医療に用いられる技術を適宜採用することができる。

【0131】
本発明の人工組織の製造方法として、例えば骨芽細胞作製を目的とした場合であれば、特開2006-129734号公報、PlosOne,2013,Vol.8(1)e53771に記載の様に、上記スフェロイド又は細胞塊(特に、骨芽細胞を含むもの)に対してデキサメタゾン及びβグリセロフォスフェートなどを添加して培養する工程を含む方法が挙げられ、これによって人工組織(特に骨組織、軟骨組織等)を提供することができる。
また、三次元培養後して上記スフェロイド又は細胞塊を作成した後に、公知の方法を用いて酸化鉄を除去する工程に供した後に、Cell Reports,2012,Vol.2(5),1448-1460、特願2002-294071号公報等に記載の方法が挙げられ、これによって人工組織(心筋)を提供することができる。

【0132】
以下に、上述した項A1~A17に示す態様の発明を詳細に説明する。ただし、本発明が以下に説明される発明に限定されないのは言うまでもない。

【0133】
本明細書において、複数の細胞が凝集して三次元の球状細胞塊になったものを「スフェロイド」という。スフェロイドを形成及び/又は維持することは、スフェロイドの生理機能が生体組織により近いことを示す。

【0134】
本発明の細胞培養物は、細胞と、微生物が生成した酸化鉄とを含む。微生物が生成した酸化鉄は、細胞を増殖させるための担体又は支持体として機能し、細胞培養物中の細胞は、微生物が生成した酸化鉄を細胞間に取り込みながら細胞間で接着して増殖する。

【0135】
細胞
細胞は、培地中で増殖させることができる細胞であれば特に限定されず、動物細胞であることが好ましく、その中でもほ乳類由来の細胞であることがより好ましい。ほ乳類として、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ハムスター、モルモット、ラット、及びマウスなどが例示されるが、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ラット、及びマウスがスフェロイドの形成容易性の面から好ましく、ヒトが特に好ましい。

【0136】
ほ乳類由来の細胞を用いる場合の、細胞が由来する組織・臓器については、組織を形成する細胞に増殖能を有する細胞が存在しているか、或いは人為的に増殖能を付加することができる組織・臓器である限りに於いて特に限定されない。かかる組織・臓器としては、例えば、肝臓、角膜、皮膚、軟骨、大腸、小腸、膵臓、胃、筋組織、心臓、肺臓、食道、骨髄、腎臓、脾臓、精巣、卵巣、脂肪組織等の正常な組織・臓器の他、これらの細胞が癌化又は腫瘍化したものが例示される。その中でも、特に肝臓又は腫瘍由来の細胞若しくは癌細胞であることがスフェロイド形成のために好ましい。好ましい細胞の例は、初代肝細胞(ヘパトサイト)、肝細胞由来細胞株、初代癌細胞、及び癌細胞由来細胞株である。癌細胞由来細胞株には、例えば、ヒト肝癌細胞株HepG2、ヒト肝癌細胞株HuH-7、ヒト乳癌細胞株MDA-MB-453、ヒト神経膠腫由来細胞株A172、U251MG、マウスLewis肺癌(LLC)細胞、マウス胚性腫瘍P19細胞、及びマウス骨芽様細胞株MC3T3-E1等が挙げられる。

【0137】
また、細胞は幹細胞であってもよい。幹細胞には、成体幹細胞(組織幹細胞、体性幹細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)が含まれる。さらには細胞には、幹細胞から分化された細胞又はiPS細胞から誘導された幹細胞も含まれる。かかる細胞をスフェロイド培養することによって、再生医療への応用も期待できる。幹細胞の例には、例えば癌幹細胞(Cancer Stem Cells,CSC)及びiPS細胞から作製した癌幹細胞が挙げられる。iPS細胞から癌幹細胞を作製する方法は、例えば本願発明者らのChen L,Kasai T,Li Y,Sugii Y,Jin G,et al.(2012) A Model of Cancer Stem Cells Derived from Mouse Induced Pluripotent Stem Cells.PLoS ONE 7(4):e33544.doi:10.1371/journal.pone.0033544に記載されており、当該文献はその全体を本明細書に援用する。例えば、マウスiPS(miPS)細胞から作製されるがん幹細胞モデル細胞は、フィーダー細胞なし又は有りで、miPS培地とマウス癌細胞株から得られた条件培地との混合物中でmiPSを約4週間培養することにより得られる。

【0138】
さらに、細胞は非組み換え細胞であっても、組み換え細胞であってもよい。非組み換え細胞を用いた場合には、細胞により生産されたタンパク質又はペプチドを応用する対象における内毒素又はパイロジェン等の外因性物質の混入が防止される。組み換え細胞を用いた場合には、タンパク質又はペプチドのより高効率な生産が可能となる。また、組み換え細胞を用いた場合には、必ずしも巨大スフェロイドを形成せずとも、細胞を浮遊培養系で培養し得る。

【0139】
細胞の培養方法、培養条件は、各細胞の種類に応じて一般的な培養方法、条件が採用できる。培地は、任意の細胞培養用の培地を用いることができ、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、グラスゴーMEM(GMEM)、EMEM、MEMα、RPMI-1640、ハムF-12、MCDB培地等が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、これらの培地には血清又は、各種の増殖因子もしくは分化誘導因子等が添加されてもよい。

【0140】
微生物が生成した酸化鉄
微生物が生成した酸化鉄及びその製造方法は、WO2010/110435及びWO2011/074587に記載されており、これらの文献全体を本明細書に援用する。微生物が生成した酸化鉄は、様々な微生物が菌体外に生産する酸化鉄であり、種々の形状のものが知られている。微生物が生成した酸化鉄は、「バイオジナス酸化鉄」とも称される。

【0141】
本明細書において、「酸化鉄」とはα-Fe、β-Fe、γ-Fe、Feなどに例示される狭義の酸化鉄、α-FeOOH、β-FeOOH、γ-FeOOHなどに例示されるオキシ水酸化鉄、フェリハイドライト(Ferrihydrite)に代表される非晶質に近い構造の水酸化鉄を含む、鉄と酸素とを主成分とする化合物の総称である。

【0142】
上記鉄酸化細菌としては、Fe、α-FeOOH、又はγ-FeOOH(レピドクロサイト)等を含む上記酸化鉄を形成するものであれば良く、特に限定されるものではない。上記バイオジナス酸化鉄を生成する鉄酸化細菌としては、たとえば、トキソシリックス属菌(Toxothrix sp.)、レプトスリックス属菌(Leptothrix sp.)、クレノシリックス属菌(Crenothrix sp.)、クロノシリックス属菌(Clonothrix sp.)、ガリオネラ属菌(Gallionella sp.)、シデロカプサ属菌(Siderocapsa sp.)、シデロコッカス属菌(Siderococcus sp.)、シデロモナス属菌(Sideromonas sp.)、及びプランクトミセス属菌(Planktomyces sp.)などを挙げることができる。

【0143】
レプトスリックス属細菌の一例としては、レプトスリックス・コロディニ OUMS1株が挙げられる。当該レプトスリックス・コロディニOUMS1株は、2009年12月25日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、受託番号NITE P-860として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はNITE BP-860である。

【0144】
微生物が生成した酸化鉄は種々の形状を取り、レプトスリックス・オクラセア(Leptothrix ochracea)が生産する酸化鉄は、中空繊維状鞘状構造をしており、ガリオネラ・フェルギネア(Gallionella ferruginea)を初めとするガリオネラ属は螺旋状、スフェロチルス属及びクロノスリックス属は枝分かれしたチューブ状又は糸状、トクソスリックス属は糸状(ハープのような形状、扇状)、シデロモナス属は短幹状、シデロカプサ属はカプセル状、シデロコッカス属は球状の酸化鉄を生産する。微生物が生成した酸化鉄の大きさは、その種類によって様々であるが、通常0.1~3000μm程度である。これらの酸化鉄は、例えば、浄水場の自然ろ過施設に溜まった堆積物中等に存在し、該堆積物に遠心分離、減圧乾燥等を施すことより、精製することができる。

【0145】
微生物が生成した酸化鉄は、鉄、酸素以外に微量のケイ素、リンを含むが、同一の微生物が作り出す酸化鉄であっても、酸化鉄に含まれる鉄、ケイ素、リン等の構成成分の種類や構成比は、微生物の存在する環境によって変化する。微生物が生成した酸化鉄は天然物由来であるため、かかる酸化鉄を担体として用いた培養上清から抗原成分が混入する可能性は非常に低い。

【0146】
本発明の微生物が生成した酸化鉄は、特定の実施形態に限定されないが、レプトスリックス・オクラセアが生成する酸化鉄は中空チューブ状であるため、スフェロイド内部にまで養分や酸素等の供給、培養液の交換がより効果的になされる点で好ましい。レプトスリックス・オクラセアが生成する酸化鉄を用いると、スフェロイドは大きく成長しても状態をより良好に維持することができる。

【0147】
さらに、本発明の“微生物が生成した酸化鉄”は広義に解され、微生物由来のセラミックスとすることができ、前記酸化鉄の他に
(i)かかる酸化鉄に加熱処理を施すことにより磁性セラミックスとしたもの、
(ii)かかる酸化鉄の酸処理しFe成分を溶解除去することにより多孔質アモルファスシリカとしたもの、ならびに
(iii)微生物が生成した酸化鉄、磁性セラミックス、又は多孔質アモルファスシリカの有機基で化学修飾し得る部分(例えば、Fe原子及び/又はSi原子に結合した酸素原子)の少なくとも一部を有機基で化学修飾して得られた有機・無機材料
も含まれる。

【0148】
磁性セラミックス及びその製造方法についてはWO2011/074587に記載されており、この文献全体を本明細書に援用する。上記酸処理は、バイオジナス酸化鉄を酸処理することによりFe成分を溶解除去し、結果として多孔質アモルファスシリカが得られるもので、酸処理に使用する酸としては、例えば、塩酸及び硫酸が挙げられる。酸処理の時間は、通常1時間~6日、特に2~4日である。酸処理工程の前に、微生物が生成した酸化鉄を乾燥する工程を有していても良く、酸処理工程の後に、酸処理工程で得られた多孔質アモルファスシリカを洗浄及び乾燥する工程を有していても良い。有機・無機材料及びその製造方法についてはWO2010/110435に記載されている。

【0149】
スフェロイド及びその培養
本発明の細胞は、担体である微生物が生成した酸化鉄と共に培養されると、微生物が生成した酸化鉄を細胞が取り込んで増殖することにより、スフェロイドを形成することができる。当業者には使用する細胞に合わせて好ましい培地を適宜選択して使用することが可能である。

【0150】
培養容器は、スフェロイド培養に適したフラスコ、シャーレ、ペトリディッシュ、プレート、組織培養用チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトル、又はホローファイバー等の任意の培養容器又は培養皿であってよい。1実施形態において、培養容器は細胞非接着性の内底面を有する培養容器である。ここで、細胞非接着性とは、培養細胞が全く接着しないという趣旨ではなく、本発明が目的とするスフェロイドの形成を阻害しない程度に、培養細胞が接着しないという趣旨である。

【0151】
細胞非接着性の内底面を有する培養容器は、任意の公知の又は市販の細胞非接着性の培養容器であってよく、例えば、ポリスチレン等の汎用プラスチックを射出成型した、特別な表面処理を行わない培養容器、不織布又は多孔性フィルムの足場を備えた培養容器、微細な凹凸面を備えたプラスチック成型の培養容器、ポリエチレングリコールやポリヒドロキシエチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体などの親水性の高い物質から形成された培養容器、容器の表面を、界面活性剤やリン脂質などの表面性能を親水性にし得る物質でコーティングした培養容器、プラズマ処理などの表面処理によって親水性を付与した培養容器が含まれるが、これらに限定されるわけではない。

【0152】
培養細胞の数は培養容器の容量、細胞の種類、最終的なスフェロイドの大きさ等を考慮して適宜決定されるが、例えば、培地1mL辺り10個~10個、好ましくは10個~10個の終濃度で培養容器に播種される。培養日数は特に限定されないが、通常、数時間~数ヶ月、好ましくは1日以上~約1ヶ月である。

【0153】
細胞は、細胞と微生物が生成した酸化鉄とを含む液体培地を、培養容器に入れることにより培養され得るが、細胞、微生物が生成した酸化鉄及び液体培地は、同じタイミングで培養容器に入れられてもよいし、別のタイミングで培養容器に入れられてもよい。

【0154】
スフェロイドの大きさは特に限定されず、直径が10μm以上あれば良いが、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μmを超える。従来技術の培養基材及び担体ではスフェロイドが成長すると内部で壊死が生じて大きさに限界があったが、微生物が生成した酸化鉄を用いることで、直径200μmをも超えるより大きなスフェロイドの形成が可能となる。一般に、スフェロイドの直径が大きいと、スフェロイドの状態が生体内での状態と近くなり、タンパク質又はペプチドの生産が増大する。

【0155】
本発明のスフェロイド及び細胞培養物は、創薬等の段階に於いて薬剤となる物質のスクリーニング又は代謝における脂質のスクリーニングに使用することができる。すなわち、細胞培養基材又は細胞培養容器に固着したスフェロイドに対して、化学物質、薬剤等を添加し、スフェロイドを形成する細胞に対して何らかの効果を有するものをスクリーニングすることができる。
また、本発明のスフェロイドは、疾病の悪性度鑑別のために使用することもできる。すなわち、生体から採取した組織片や腫瘍片を、細胞毎に分散させた後、本発明のスフェロイドとする過程において増殖能の評価を行ったり、或いはかかるスフェロイドからの遊離細胞の有無を評価することにより癌転移能の評価をすることができる。

【0156】
また、本発明のスフェロイドは、再生医療のために使用することもできる。すなわち、健常な組織より採取した細胞より本発明のスフェロイドを調製し、かかるスフェロイドを患者や治療を要する動物の該当組織に直接的又は間接的に注入することで、該当組織の機能の維持・再生に使用することができる。

【0157】
培養細胞を用いたタンパク質又はペプチドの生産
上記のようにして製造されたスフェロイド及び細胞培養物により、糖又は糖鎖を含んでも含まなくてもよい有用なタンパク質又はペプチドを生産することができる。そのようなタンパク質又はペプチドとしては血清タンパク質、ホルモン、酵素、免疫調節因子、リンホカイン、モノカイン、サイトカイン、糖タンパク質、ワクチン抗原、抗体、成長因子、増殖因子、又は液性因子等が挙げられる。さらに具体的なタンパク質又はペプチドには、血清アルブミン、インスリン、アレルギー抑制因子、サプレッサー因子、細胞障害性糖タンパク質、細胞障害因子、腫瘍細胞由来因子、リンホトキシン類、腫瘍壊死因子(TNF-α、-β等)、カケクチン、形質転換増殖因子(TGF-α、-β)、あるいは造血因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、及びマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)等が挙げられる。かかるタンパク質又はペプチドの発現量は、タンパク質又はペプチドに対する特異的結合対(抗体、レセプター、及びレクチンなど当業者であれば適宜選択して使用することができる)を利用した免疫染色又はウェスタンブロッティング等で確認することができる。

【0158】
培養細胞株と、それにより分泌されるタンパク質との組み合わせの例としては、任意の公知のものが含まれる。例えば、ヒト肝臓癌由来HepG2細胞のスフェロイド培養により、血清アルブミンが生産される(特開2008-054521)、マウスの乳腺上皮細胞では、細胞が三次元の肺胞様球状構造を形成し、培養に伴い乳清酸性タンパク質遺伝子の発現量が上昇し、同タンパク質が分泌される(Chen et al.,Cell Regulation,Vol.1,45-54,1989)。ヒト脳腫瘍の癌幹細胞のスフェロイド培養では、がん幹細胞マーカーのCD133発現量が上昇している(Sheila K.,et al.,Cancer Research 2003,63 : 5821-5828, 2003)。ヒト小児血管腫細胞のスフェロイド培養によりVEGF(血管内皮細胞増殖因子)の発現レベルが増大する(Xu et al. Journal of Hematology&Oncology 2011,4:54)。いずれの場合も細胞のスフェロイド培養によりタンパク質の生産量が上昇している。よって、かかる培養細胞株を用いることにより、内毒素又はパイロジェン等の外因性物質の混入が防止され、酵母組換え体や血液の精製によらずとも、低コストで安全なタンパク質又はペプチドの生産が可能となる。

【0159】
本明細書中に引用されているすべての特許、特許出願及び文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【実施例】
【0160】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0161】
1.材料
非接着性培養皿としては、BD FalconTMペトリディッシュ(カタログ番号351007,60mm×15mm)又はアズノール滅菌シャーレ(アズワン製、品番1-7484-01、90mm×15mm)を使用した。接着性培養皿としては、TPP組織培養皿TPP93060又はTPP93100(いずれもSigma Aldrich社製)を使用した。
【実施例】
【0162】
MDA-MB-453細胞及びHepG2細胞はいずれも独立行政法人理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンター(筑波、日本)から得た(それぞれRCB1192及びRBC1886)。マウスiPS細胞(miPS;iPS-MEF-Ng-20D-17)は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(筑波、日本)から購入し、それぞれ終濃度が0.1mMのNEAA、2mMのL-グルタミン、0.1mMの2-メルカプトエタノールと50U/mlペニシリン、及び50μg/mlストレプトマイシンとなるように含むDMEM培地中にて維持した。マウスLewis肺癌(LLC)細胞はATCC(アメリカ合衆国)から購入し、10%のFCSを含むDMEM培地中に維持した。
【実施例】
【0163】
2.バイオジナス酸化鉄の調製
(2-1.L-BIOXの調製)
京都府城陽市の公共施設である文化パルク城陽に設置した鉄酸化細菌の培養槽から、微生物が生成した酸化鉄を含んだ地下水スラリーを回収した。この培養槽の優先種は鉄酸化細菌レプトスリックス・オクラセアであり、得られるバイオジナス酸化鉄は直径1μm程度の中空チューブ状である。このスラリーに28%NH水溶液を加えてpH10.5に調整し10分撹拌し、撹拌をとめて40分静置した。デカンテーションにより上澄みのみフィルタろ過し、4倍量の蒸留水で洗浄した。得られた含水ケーキをエタノールに分散し、15分撹拌した。懸濁液をフィルタろ過し、100℃で乾燥し、これをL-BIOXと命名した。 L-BIOXの直径は1μm程度、全体が多孔質、表面は粒子状であり、表面積が広く(280m/g程度、市販の酸化鉄は通常70m/g)、表面に水酸基(-OH)が多かった。
【実施例】
【0164】
(2-2.G-BIOXの調製)
岡山大学農学部に設置した鉄酸化細菌の培養槽から、微生物が生成した酸化鉄を含んだ地下水スラリーを回収した。この培養槽の優先種はガリオネラ・フォルギネアであり、得られるバイオジナス酸化鉄は螺旋状である。スラリーを上述と同様に処理し、得られたバイオジナス酸化鉄をG-BIOXと命名した。
【実施例】
【0165】
(2-3.磁性L-BIOXの調製)
レプトスリックス・オクラセア由来の上記L-BIOXを、WO2011/074587の[0113]の実施例1の手順(I)-(III)で加熱処理して、磁性L-BIOXとした。
【実施例】
【0166】
具体的な手順(I)-(III)は以下の通りである。
手順(I):原料セラミックスの乾燥粉末をアドバンテック社製の電気マッフル炉OPM-28Dを用いて、大気下、800℃で2時間焼成した。この操作は急熱急冷で行った。
手順(II):H3%-Arガス(1気圧)の存在下、手順(I)で得られた焼成後のセラミックスを電気炉(光洋リンドバーグ(株)社製のチューブ炉)で、550℃、2時間の条件下に水素還元した。電気炉のH3%-Arガス(0.1MPa)流入口の直前に酸除去カラム(ジーエルサイエンス(株)社製の大型オキシゲントラップ)を、原料セラミックスが入った電気炉の前後にPを設置することによって、ガス中の微量酸素、反応で発生する水分を除去しながら還元処理を行った。還元処理前に炉内を真空排気した後に、H3%-Arガスで満たした。反応中のガス流量は100ccmとした。昇温速度は10℃/minで冷却は急冷とした。
手順(III):実施例1の手順(II)で得られたサンプルを大気下、250℃で2時間、アドバンテック社製の電気マッフル炉OPM-28Dを用いて加熱した。この操作は急熱急冷で行った。
【実施例】
【0167】
3.スフェロイド形成
(3-1.HepG2細胞におけるスフェロイド形成)
10%-FBS,DMEM培地中にL-BIOXを1mg/mlの濃度で懸濁し、非接着性培養皿に注入後、MDA-MB-453細胞及びHepG2細胞をそれぞれ1×10個/mlの終濃度で播種して5%のCO,37℃で4日間培養するとL-BIOX上に細胞が接着して形成したスフェロイドが観察された(図1)。培地上清の交換は培養開始から2日後に行った。
【実施例】
【0168】
L-BIOXの存在下で形成されたHepG2細胞のスフェロイドは、培養10日後には1mmを超える大きさに成長した(図2A-C)。HepG2細胞はL-BIOX上に凝集して周囲のL-BIOXを取り込みながら成長する様子が観察された。このように、L-BIOXを用いて細胞をスフェロイド培養することで巨大なスフェロイドの作製に成功した。
【実施例】
【0169】
一方、L-BIOX無しで非接着性培養皿上に同濃度のHepG2細胞を播種した場合はスフェロイドの直径が大きくても約200μmであった(図2D-E)。培地上清の交換は培養開始から2日~3日毎に行い、培養7日目からは毎日行った。
【実施例】
【0170】
(3-2.MDA-MB-453細胞及びマウスLewis肺癌(LLC)細胞におけるスフェロイド形成)
HepG2細胞以外にも、MDA-MB-453細胞及びマウスLewis肺癌(LLC)細胞でもL-BIOX上での巨大なスフェロイドの作製が確認された(図示せず)。また、MDA-MB-453細胞は、磁性L-BIOX上でも巨大スフェロイドが形成された(図3)。
【実施例】
【0171】
(3-3.癌幹細胞におけるスフェロイド形成)
0.1mMのNEAA、2mMのL-グルタミン、0.1mMの2-メルカプトエタノール、50U/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン及びITSサプリメントを含むDMEM培地中にL-BIOXを1mg/mlの濃度で懸濁し、非接着性培養容器に注入後、マウスiPS(miPS;iPS-MEF-Ng-20D-17)より作製したがん幹細胞モデル細胞であるmiPS-LLCcm細胞(前掲のChen L,et al.の論文に記載)を1×10個/mlの終濃度で播種して5%のCO,37℃で7日間培養するとL-BIOX上に細胞が接着して形成したスフェロイドが観察された(図4)。培地上清の交換は行わなかった。
【実施例】
【0172】
図4に示す結果から、L-BIOXを添加した場合、2000μm近くの大きさスフェロイドが形成されるのに対し、L-BIOXを添加しない場合には200μm程度の大きさにまでしか成長しなかった。また、培養開始から18日目の結果からは、L-BIOXを添加した場合に得られるスフェロイドが、無添加の場合と比較して8倍程度もの大きさにまで成長することが明らかとなった。
【実施例】
【0173】
スフェロイドを前記の倒立型光学顕微鏡を用いて、水銀ランプとミラーユニットWIB(U-MWIB3(励起フィルタ:BP460-495、吸収フィルタBA510IF、OLYMPUS社製)で蛍光観察した結果からスフェロイドでGFP蛍光が一様に認められ(図5B)、Nanogの発現すなわち幹細胞としての性質が維持されていることが確認できた。
【実施例】
【0174】
(3-4.iPS細胞におけるスフェロイド形成)
0.1mMのNEAA、2mMのL-グルタミン、0.1mMの2-メルカプトエタノール、50U/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン及びITSサプリメントを含むDMEM培地中にL-BIOXを1mg/mlの濃度で懸濁し、miPS(miPS;iPS-MEF-Ng-20D-17)を1×10個/mlの終濃度で播種して5%のCO,37℃で7日間培養すると、L-BIOX上では細胞塊が形成され、GFPの蛍光が非常に強く観察された(図6B)が、L-BIOXなしではGFPの蛍光が観察されなかった(図6E)。培地は2日毎に交換した。L-BIOX上で培養を行うと、フィーダー細胞なしで多分化能を維持した培養が出来る可能性がある。
【実施例】
【0175】
4.バイオジナス酸化鉄の量がスフェロイド形成に与える効果
10%のFBSを含むDMEM培地中に添加するL-BIOX又はG-BIOXの量がスフェロイド形成に与える効果を評価する目的で、非接着性培養皿上にBIOXを0,0.1,0.5,1及び2mg/mlの最終濃度となるように濃度で懸濁した後、1×10個/mlの終濃度でHepG2細胞を播種し、5%のCO,37℃で培養を行い、培養2日後及び4日後にそれぞれ10個以上のスフェロイドを無作為に選択し、その直径を測定した(図7A-B)。それぞれの平均の値をグラフにした。培地上清の交換は培養開始から2日後に行った。L-BIOXを添加して培養すると、L-BIOXを添加しない非接着性培養皿上での培養に比べていずれの濃度でもスフェロイド形成が促進される傾向にあったが、特に1mg/mlの濃度でスフェロイド形成促進効果が顕著であった(図7A)。レプトスリックス・オクラセアが生成する酸化鉄は中空であるため、L-BIOXによりスフェロイド内部にまで養分や酸素等の供給、培養液の交換がより効果的になされ、G-BIOXの場合(図7B)に比べてスフェロイドの状態をより良好に維持できたと考えられる。
【実施例】
【0176】
5.培養日数とスフェロイド径の関係
1mg/mlの終濃度のL-BIOXを10%-FBS,DMEM培地中に添加してHepG2細胞を1×10個/mlの終濃度で播種し、5%のCO,37℃で培養を10日間継続すると、L-BIOXを添加しない非接着性培養皿上での培養と比較してスフェロイドの直径が6倍以上になった(図8)。培地上清の交換は2日~3日毎に行い、培養7日目からは毎日行った。
【実施例】
【0177】
6.バイオジナス酸化鉄と他の担体粒子との比較
L-BIOX、市販のアモルファスシリカ粒子(Aerosil 300、東新化成株式会社)、市販の酸化鉄粒子(αFe)をそれぞれ終濃度1mg/mlで10%-FBS,DMEM培地中に懸濁してHepG2細胞を1×10個/mlの終濃度で播種し、5%のCO,37℃で培養を5日間培養した。培地上清の交換は培養開始後2日目に行った。L-BIOX上のスフェロイドは直径が200μmを超える大きさに成長したのに対し、Aerosil、酸化鉄及び担体を添加しない非接着性培養皿上では大きいスフェロイドでも直径は200μm以下であった(図9A-D)。
【実施例】
【0178】
また、マイクロキャリアビーズ(HyQ Sphere Microcarriers, Fisher Scientific)を1mg/mlの終濃度で10%-FBS,DMEM培地に添加してHepG2細胞を1×10個/mlの終濃度で播種し、5%のCO,37℃で2週間培養した場合、ビーズ表面上に細胞が付着して増殖する様子が観察されたが、スフェロイドは形成されなかった(図10A-D)。
【実施例】
【0179】
7.HepG2細胞によるヒト血清アルブミン生産
HepG2は細胞分化の指標としてアルブミンタンパク質を分泌する。0及び1mg/mlの終濃度のL-BIOXを10%-FBS,DMEM培地中に添加してHepG2細胞を1×10個/mlの終濃度で播種し、5%のCO,37℃で培養を10日間培養した。培地上清の交換は2日~3日毎に行い、培養7日目からは毎日行った。培養10日後にFBSを含まないDMEM培地に交換して2日間、5%のCO,37℃でインキュベートした後、培地上清を回収した。また、接着性培養皿で10%-FBS,DMEM培地、5%CO,37℃で2日間培養したHepG2細胞の培地からFBSを含まないDMEM培地に交換して更に2日間、同様に培養して培地上清を回収した。回収した上清のそれぞれ10μlずつをウェスタンブロッティング(Western blotting)解析に供した。
【実施例】
【0180】
ウェスタンブロッティングは以下のように行った。つまり、培養上清各10μlをSDS-PAGEに供してセミドライ式ブロッティング装置を用いてPVDF膜にブロッティングした後、10%スキムミルクTBSTでブロッキングを行い、TBSTで洗浄後、一次抗体の抗ヒト血清アルブミン抗体(rabbit IgG,CSTジャパン製、#4929)を4℃で一晩反応させ、TBSTで洗浄後、二次抗体のHRP標識抗rabbit IgG抗体(goat, CSTジャパン製、#7071)を室温で30分反応させ、洗浄後、HRP基質Western Lightning Plus-ECL chemiluminescence reagent (PerkinElmer社製)を添加し、Light-Capture II cooled CCD camera system(ATTO社製)で撮影した。バンドの強度を画像解析ソフトNIH Image Jで定量した。
【実施例】
【0181】
接着性培養皿で培養した場合と比較して、L-BIOXを添加した培養物ではアルブミンの分泌量が約3倍に増加していることが分かった(図11A-B)。ウェスタンブロッティングによるバンド強度の比較から約140mg/Lのアルブミンが培地中に分泌されていた。このように、肝臓癌由来細胞をL-BIOXを用いてスフェロイド培養することにより、アルブミンタンパク質の生産量が著しく上昇した。アルブミンの分泌量が著しく上昇したことから、HepG2細胞において分化シグナルが促進されていると考えられ、従来技術よりも生体内に近い細胞を培養することができたと考えられる。
【実施例】
【0182】
8.スピナーフラスコでのHepG2細胞の培養及びヒト血清アルブミン生産
L-BIOXとHepG2細胞をそれぞれ10倍の濃度にして、すなわち10mg/mlの終濃度のL-BIOXを10%-FBS,DMEM培地中に添加してHepG2細胞を1×10個/mlの終濃度で播種した。20ml容のスピナーフラスコ内で撹拌しながら5%のCO,37℃で10日間培養した。培地上清の交換は2日~3日毎に行い、培養上清はそれぞれ回収した。培養10日後にFBSを含まないDMEM培地に交換して2日間、5%のCO,37℃でインキュベートした後、培地上清を回収した。培養期間内に回収した上清に含まれるヒト血清アルブミン量をイライザ法によって定量した。イライザ法は、市販のAlbumin human ELISA quantitation kit(Bethyl laboratories INC社製)を用いて製造業者のプロトコルに従って行い、96 well plateとしてEIAプレート(655061、Greiner bio-one社製)を用いた。
【実施例】
【0183】
その結果、1Lスケールの培養当り合計約200mgのヒト血清アルブミンが分泌されていることが判った。
【実施例】
【0184】
9.バイオジナス酸化鉄の形状の検討
上記3-4「iPS細胞におけるスフェロイド形成」の項で説明した条件と同様にして、チューブ状のL-BIOXを終濃度が1mg/mlとなるように培地に添加してmiPSを培養した。培養から3日目の蛍光顕微鏡による観察結果を図12Aに示す。すると、直径300μm程度の細胞塊が形成されることが確認された。
【実施例】
【0185】
一方で、上述のチューブ状のL-BIOXに代えて、これをボールミルで粉砕して粉末状にしたもの用いて培養した場合には、細胞塊の形成を確認することはできなかった(図12B)。
【実施例】
【0186】
次いで、チューブ状のL-BIOXを用いて培養して得られた細胞を、共焦点蛍光顕微鏡を用いてそれが発現するGFPを検出することにより観察した。得られた細胞の内部においても、GFPの発現が確認された(図12C)。また、これを三次元再構成した結果(図12D)から、より明確に細胞塊全体においてGFPの発現が確認された。GFPはNanogプロモーターの下流に配置されている。従って、GFPが著量発現していることから得られたmiPS細胞の細胞塊が未分化な状態維持していることが明らかとなった。
【実施例】
【0187】
チューブ状のL-BIOXを用いて培養して得られたmiPS細胞の細胞塊のmRNAを抽出し、内在性遺伝子の発現(Nanog、Oct3/4、Sox2、Kif4、c-Myc、Lefty-1、及びLefty-2)及び総遺伝子の発現(Nanog、Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc-Myc)の量を測定した。結果を図13A-Bに示す。
【実施例】
【0188】
この結果、各遺伝子の発現量において、内在性遺伝子と総遺伝子との間の発現量には大きな変化は認められず、miPS細胞が未分化な状態を維持していることが明らかであった。また、Klf4、Lefty1、及びLefty2の内在性遺伝子の発現量が僅かに増加していることから、活性型のガン抑制遺伝子の生産にも利用できる可能性を示唆している。
【実施例】
【0189】
10.ガン幹細胞モデルでの検討
上記3-4「癌幹細胞におけるスフェロイド形成」の項で説明した条件と同様にして、ガン幹細胞モデル細胞であるmiPS-LLCcm細胞を培養した。なお、この細胞は、未分化マーカーであるNanogプロモーターの下流にPuromycin耐性遺伝子が組み込まれているために、細胞が未分化状態を維持していれば、Puromycin存在下でも生存維持効果を発揮する。
そこで、培養開始7日目から毎日、培地にPuromycinを最終濃度が1μg/mLとなるように添加して、そのまま12日間培養を続けた。その結果を図14に示す。この結果、L-BIOXを添加なかった場合、miPS-LLCcm細胞の細胞塊は培養から1日目に崩壊してしまい100μm程度の大きさとなってしまった。
一方で、L-BIOXを添加した場合、miPS-LLCcm細胞の細胞塊は、その大きさを維持していることが明らかとなった。そして、大きさが維持された細胞塊は、Puromycin存在下で培養しても死滅することが無かったため、Nanog遺伝子を発現し、未分化な状態を維持していることも明らかとなった。これによって、均一な状態のがん幹細胞を一度に大量に培養できることが示唆される。これによって、生体内でがん幹細胞からがん細胞に分化する過程の解析やがん化誘導因子の解析、標的分子の解析に有効となることが考えられる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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