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明細書 :水晶振動子用コーティング液、ガス検出素子、エチレン検出素子およびガス検出素子の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5476632号 (P5476632)
公開番号 特開2011-237295 (P2011-237295A)
登録日 平成26年2月21日(2014.2.21)
発行日 平成26年4月23日(2014.4.23)
公開日 平成23年11月24日(2011.11.24)
発明の名称または考案の名称 水晶振動子用コーティング液、ガス検出素子、エチレン検出素子およびガス検出素子の製造方法
国際特許分類 G01N   5/02        (2006.01)
FI G01N 5/02 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 14
出願番号 特願2010-109270 (P2010-109270)
出願日 平成22年5月11日(2010.5.11)
審査請求日 平成25年4月5日(2013.4.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
発明者または考案者 【氏名】中澄 博行
【氏名】大松 繁
【氏名】前田 壮志
個別代理人の代理人 【識別番号】100064746、【弁理士】、【氏名又は名称】深見 久郎
【識別番号】100085132、【弁理士】、【氏名又は名称】森田 俊雄
【識別番号】100083703、【弁理士】、【氏名又は名称】仲村 義平
【識別番号】100096781、【弁理士】、【氏名又は名称】堀井 豊
【識別番号】100109162、【弁理士】、【氏名又は名称】酒井 將行
【識別番号】100111246、【弁理士】、【氏名又は名称】荒川 伸夫
【識別番号】100124523、【弁理士】、【氏名又は名称】佐々木 眞人
審査官 【審査官】東松 修太郎
参考文献・文献 国際公開第2007/114192(WO,A1)
特開平09-241008(JP,A)
特開2010-071716(JP,A)
特開2003-035647(JP,A)
特開平08-094510(JP,A)
特開2001-013055(JP,A)
調査した分野 G01N 5/02
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
金属アルコキシド、前記金属アルコキシドの部分加水分解物および前記金属アルコキシドの縮合物からなる群から選択される一種以上よりなる主成分と、前記主成分を溶解する有機溶剤と、水とを含有し、
前記金属アルコキシドの少なくとも一部の化合物は、フッ素元素を構成元素として含む、水晶振動子用コーティング液。
【請求項2】
さらに酸性触媒を含有し、前記有機溶剤はアルコールである、請求項1に記載の水晶振動子用コーティング液。
【請求項3】
水晶振動子と、水晶振動子用コーティング液を用いて前記水晶振動子表面に形成されたガス吸着膜と、を有し、
前記水晶振動子用コーティング液は、金属アルコキシド、前記金属アルコキシドの部分加水分解物および前記金属アルコキシドの縮合物からなる群から選択される一種以上よりなる主成分と、前記主成分を溶解する有機溶剤と、水とを含有し、
前記金属アルコキシドの少なくとも一部の化合物は、フッ素元素を構成元素として含む、ガス検出素子。
【請求項4】
水晶振動子と、水晶振動子用コーティング液を用いて前記水晶振動子表面に形成されたガス吸着膜と、を有し、
前記水晶振動子用コーティング液は、金属アルコキシド、前記金属アルコキシドの部分加水分解物および前記金属アルコキシドの縮合物からなる群から選択される一種以上よりなる主成分と、前記主成分を溶解する有機溶剤と、水とを含有し、
前記金属アルコキシドの少なくとも一部の化合物は、フッ素元素を構成元素として含む、エチレン検出素子。
【請求項5】
水晶振動子用コーティング液を用いて水晶振動子の表面にコーティング膜を形成する工程と、
前記コーティング膜を焼成しガス吸着膜を形成する工程と、を有し、
前記水晶振動子用コーティング液は、金属アルコキシド、前記金属アルコキシドの部分加水分解物および前記金属アルコキシドの縮合物からなる群から選択される一種以上よりなる主成分と、前記主成分を溶解する有機溶剤と、水とを含有し、
前記金属アルコキシドの少なくとも一部の化合物は、フッ素元素を構成元素として含む、ガス検出素子の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子用コーティング液に関し、具体的には水晶振動子表面のガス吸着膜の形成に用いられるコーティング液に関する。また、本発明は、水晶振動子用コーティング液により形成されたガス吸着膜を表面に有する水晶振動子からなるガス検出素子、およびエチレン検出素子に関する。さらに、かかるガス検出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質の種類または濃度の検出を行なうセンサは、食品、医薬、化学工業、環境測定などの種々の分野において必要とされている。このようなセンサとして、水晶振動子を用いたセンサが知られている。
【0003】
水晶振動子を用いたセンサの具体的な構成例を説明する。まず、薄く加工した水晶板の両表面に電極を形成する。電極の表面に分析対象を捕獲する感応膜を固定化しておく。両電極に交流電界を印加すると、逆圧電効果により一定の周波数の振動が励起されるが、感応膜に吸着する化学物質の質量増加に比例して、その共振周波数が変化することを利用している。
【0004】
水晶振動子は、発振回路に接続され、その周波数変化を周波数カウンタで測定して、データをコンピュータに転送し、センサの応答パターンをパターン認識することにより、吸着した化学物質を識別することができる。感応膜の種類によって様々な特性を持つガスセンサを得ることができる。
【0005】
例えば、塩化水素を検知対象として、塩化水素を吸着するアミン系の塩化水素検知膜を塗布した水晶振動子を用いたセンサが知られている(特許文献1参照)。また、ベンズアルデヒドを特異的に検出可能な抗ベンズアルデヒド抗体の単分子膜を設けた水晶振動子を用いたセンサが知られている(特許文献2参照)。さらに、特定の物質に対してのみ感受性を示すものではなく、比較的広い範囲の感受性を持つものとして、ポリエチレンブテン共重合体、ポリプロピレン共重合体またはポリスチレン共重合体を感応膜とした水晶振動子を用いたセンサが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2003-35647号公報
【特許文献2】特開平8-94510号公報
【特許文献3】特開2001-13055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の水晶振動子は、環境汚染現場で検出される塩化水素や、火災時特有のにおい物質であるベンズアルデヒドを特異的に検出可能なものであり、食品の腐敗度を検出したり、アルコールの種類を特定するなど、食品工業の分野においては不向きである。また、特許文献3に記載の水晶振動子においては、十分な膜強度を有し、高感度な検出が可能となるように高分子膜を形成することが難しい場合があった。十分な膜強度を確保すべく膜厚を調整すると、発振が不安定となりノイズが増加しやすかった。また、湿度の影響により検出感度が低下してしまう場合があった。
【0008】
本発明は、検出対象ガスを高感度で吸着可能なガス吸着膜を形成する水晶振動子用のコーティング液を提供することを目的とする。このようなコーティング液を用いてガス吸着膜を形成することにより、高感度・高精度でガスの検出が可能なガス検出素子、および高感度・高精度でエチレンの検出が可能であり、食品工業の分野において有用なエチレン検出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属アルコキシド、当該金属アルコキシドの部分加水分解物および当該金属アルコキシドの縮合物からなる群から選択される一種以上よりなる主成分と、当該主成分を溶解する有機溶剤と、水とを含有し、当該金属アルコキシドの少なくとも一部の化合物は、フッ素元素を構成元素として含む、水晶振動子用コーティング液である。
【0010】
上記水晶振動子用コーティング液において、好ましくは、さらに酸性触媒を含有し、上記有機溶剤はアルコールである。
【0011】
また、本発明は、水晶振動子と、上記水晶振動子用コーティング液を用いて当該水晶振動子表面に形成されたガス吸着膜と、を有するガス検出素子である。
【0012】
また、本発明は、水晶振動子と、本発明に係る水晶振動子用コーティング液を用いて当該水晶振動子表面に形成されたガス吸着膜と、を有するエチレン検出素子である。
【0013】
また、本発明は、上記水晶振動子用コーティング液を用いて水晶振動子の表面にコーティング膜を形成する工程と、上記コーティング膜を焼成しガス吸着膜を形成する工程と、を有するガス検出素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るコーティング液を用いることにより、水晶振動子表面に検出対象のガスを感度よく吸着するガス吸着膜を形成することができる。また、本発明に係るコーティング液を用いて形成したガス吸着膜は水を吸着しにくい。したがって、高感度・高精度でガスの検出が可能なガス検出素子、エチレン検出素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ガス検出素子の構成例を示す断面図である。
【図2】ガス検出センサの構成を模式的に示すブロック図である。
【図3】ニューラルネットワークを模式的に示す図である。
【図4】実験1おけるエチレンをサンプルガスとして用いた場合の周波数変化の測定結果を示す図である。
【図5】実験1におけるエタノールをサンプルガスとして用いた場合の周波数変化の測定結果を示す図である。
【図6】本発明に係るガス検出素子のAMF写真(a)と、ガス吸着膜の表面粗さの測定結果(b)を示す図である。
【図7】ガス吸着膜を有さないガス検出素子のAMF写真(a)と、ガス吸着膜の表面粗さの測定結果(b)を示す図である。
【図8】実験3におけるエチレン、エタノール、水をサンプルガスとして用いた場合の周波数変化の測定結果を示す図である。
【図9】実験3におけるサリチル酸メチル、チモール、トリエチルアミンをサンプルガスとして用いた場合の周波数変化の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について、具体的かつ詳細に説明する。

【0017】
(ガス検出素子)
図1は、本発明に係るガス検出素子の一つの構成例を示す断面図である。ガス検出素子1は、水晶振動子2と、水晶振動子2の両表面に貼着されている電極3と、水晶振動子2および電極3の表面に形成されているガス吸着膜4とで構成されている。なお、電極3は、ソケット部6を介してリード5と接続されている。

【0018】
ガス吸着膜4は、本発明に係るコーティング液を用いて水晶振動子2の両表面にコーティング膜を形成し、焼成することにより形成することができる。本発明に係るコーティング液は、金属アルコキシド、当該金属アルコキシドの部分加水分解物および当該金属アルコキシドの縮合物からなる群から選択される一種以上よりなる主成分と、前記主成分を溶解する有機溶剤と水を含有する。

【0019】
金属アルコキシドの溶液は、一定の条件下で攪拌することにより、後述する加水分解、縮重合が生じる。本発明に係るコーティング液が、金属アルコキシド、当該金属アルコキシドの部分加水分解物および当該金属アルコキシドの縮合物からなる群から選択される一種以上よりなる主成分を含むとは、溶液中の金属アルコキシドが、そのままの状態であってもよく、または加水分解、縮重合が進行した状態であってもよいことを言う。

【0020】
上記金属アルコキシドは1種の金属アルコキシドであることに限定されず、2種以上の金属アルコキシドが含まれていてもよい。金属アルコキシドが1種の金属アルコキシドからなる場合はその1種の金属アルコキシドが、2種以上の金属アルコキシドからなる場合は少なくとも1種の金属アルコキシドがフッ素元素を構成元素として含む金属アルコキシドである。

【0021】
金属アルコキシドは、一般式M(OR)で表される。ここで、Mは金属元素、Rは炭化水素基、Xは炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン元素であり、m+nはMの価数でmは1以上の整数、nは0を含む整数である。金属元素Mとしては、Si、Zn、Ti、Al、Fe、Co、Ni、Cuなどが例示される。炭化水素基Rとしては、炭素数が4以下のアルキル基が例示される。Xである炭化水素基としては、アルキル基、アリル基が例示され、Xであるハロゲン化炭化水素基としてはパーフルオロアルキル基が例示される。

【0022】
フッ素元素を構成元素として含む金属アルコキシドは、一般式M(OR)で表される上記金属アルコキシドの内、Xがフッ化炭化水素基またはフッ素元素である化合物である。具体的には、パーフルオロアルキルトリエトキシシラン、パーフルオロアルキルトリメトキシシランなどが好適に用いられる。また、フッ素元素を構成元素として含む金属アルコキシド以外の金属アルコキシドとしては、例えばCHSi(OR)が好適に用いられる。具体例としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトライソプロポキシチタニウム、テトラブトキシジルコニウム、トリイソプロポキシアルミニウムなどが好適に用いられる。

【0023】
金属アルコキシドの部分加水分解物は、金属アルコキシド中の一部のアルコキシド基が加水分解されて水酸基となった化合物であり、一般式M(OR)m-a(OH)で表される。ここで、aはm以下の整数であり、R、X、m、nは上述の通りである。金属アルコキシドの縮合物は、加熱などにより金属アルコキシドが脱アルコール、場合によっては脱水して2分子以上が縮合したダイマー、トリマー、テトラマー等である。部分加水分解物、縮合物の内、高度に加水分解されたもの、高度に縮合が進んだものは有機溶剤に不溶となるので、用いられる有機溶剤との関連で溶解性が認められる範囲で許容される。

【0024】
本発明に係るコーティング液中の、金属アルコキシド、当該金属アルコキシドの部分加水分解物および当該金属アルコキシドの縮合物からなる群から選択される少なくとも一種以上よりなる主成分の含有量は限定されないが、出発原料である金属アルコキシドは、初期配合時に溶液中において10~30重量%となるようにすることが好ましい。さらに、出発原料である金属アルコキシド中、フッ素元素を構成元素として含む金属アルコキシドの割合は0.1~4重量%であることが好ましい。0.1重量%より少ないと形成されるガス吸着膜が湿度の影響を受けやすいことがあり、また4重量%を超えるとゲル膜を均一に形成できない場合があるからである。

【0025】
有機溶剤は、主成分に対して溶解能があり、かつ水晶振動子の被加工層、平坦化層に影響を及ぼさないもの、水晶振動子の機能において有害な元素を含まないものが選ばれる。このような有機溶剤としてアルコールが好ましく用いられる。アルコールの具体的な例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノールなどの一価アルコール、エチレングリコール、1,3-ペンタンジオール、ヘキシレングリコールなどの多価アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールのモノエーテルが挙げられる。有機溶剤は一種単独でもよく、2種以上の混合であってもよい。

【0026】
本発明に係るコーティング液は、さらに水を含む。水は加熱段階で金属アルコキシドを加水分解し、縮合物の形成を円滑にさせる効果を有する。しかし、水の量が多すぎると、塗布液は調製直後に透明であっても、保存時にゲル化してしまい安定性に欠けることがある。したがって、塗布液中の水の配合量は安定性が確保される範囲内に制限される。

【0027】
また、本発明に係るコーティング液においては、加水分解を促進するために触媒が添加されることが好ましい。添加される触媒としては、酸性であることが好ましい。触媒が塩基性の場合には、塗布液がゲル化してしまうことがあり好ましくない。酸性触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸や酢酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸などの有機酸が使用できる。酸性触媒は、出発原料の金属アルコキシドに対して0.1~10重量%の範囲で添加される。0.1重量%より少ない場合は縮重合速度が遅くなり、10重量%より多い場合は、酸性が強くなりすぎ周辺の腐食を促進するので望ましくない。

【0028】
本発明のコーティング液は、金属アルコキシドと、有機溶剤とを少なくとも含む溶液を調製し、室温~80℃で攪拌して、金属アルコキシドの加水分解、縮重合を生じさせ、金属酸化物のコロイド状の粒子が生成したゾル状に調製することが好ましい。そして、ゾル状のコーティング液を用いて、ディップ法、スピンコート法等により、水晶振動子表面にコーティング膜を形成する。そして、コーティング膜を加熱して焼成することにより、多孔質のゲル薄膜またはガラス薄膜を形成し、これがガス検出素子のガス吸着膜となる。焼成時の加熱温度は、80~200℃が好ましい。

【0029】
ゾル状のコーティング液を用いて水晶振動子表面に形成するコーティング膜の膜厚は、0.1~0.3μmが好ましい。本発明に係るコーティング液は、0.1μm程度であっても、充分にガス吸着能を示し、一方0.3μmより厚くすると、ガス吸着膜にクラックが入ったり、水晶振動数の周波数検出の際にノイズが検出されやすくなったりするので好ましくない。

【0030】
水晶振動子の両面にコーティング膜を形成する場合には、作業が容易である観点から、好ましくはディップ法によりコーティング膜を形成する。ディップ法では、ゾル状のコーティング液に水晶振動子を浸漬し、引き上げることでコーティング膜を形成する。このとき、引き上げ速度は0.7~6mm/sであることが好ましい。この範囲内の引き上げ速度とすることにより、0.1~0.3μmのコーティング膜を形成しやすくなる。引き上げ速度は、さらに好ましくは1~3mm/sである。なお、コーティング膜は、溶液中の金属アルコキシド由来の主成分の濃度が高いほど、溶液の粘度が高いほど厚い膜になる。ディップ法では、ゾル状の溶液が低粘度であるために、引き上げ速度が速いほど厚い膜に製膜できる。

【0031】
(ガス検出センサ)
図2は、ガス検出センサの構成を模式的に示すブロック図である。ガス検出センサ10は、主に、キャリアガス(乾燥空気、Nなど)を充填したガスボンベ11と、パーミエータ12と、異なる複数種類のガス検出素子Sが設置されたサンプリングボックス13とを流路接続するようにして構成される。ガス検出素子Sとしては、上述の図1に示した水晶振動子からなるガス検出素子Sを用いる。ガス検出素子Sの個数は、測定対象により増減すればよい。

【0032】
ガスボンベ11からの流路R1は分岐し、直接サンプリングボックス13に接続される第1流路R2と、パーミエータ12を介してサンプリングボックス13に接続される第2流路R3とに分かれる。流路R1には、圧力調整弁14、圧力計15が配置され、第1流路R2には、流量計16、ニードル弁17が取り付けられる。第2流路R3には圧力調整弁21、圧力計22、ニードル弁23、流量計24、ガスサンプルを接続するチューブホルダ25が取り付けられ、チューブホルダ25の下流側にサンプリングボックス13が接続されている。チューブホルダ25は、温度を一定にするために恒温水槽26内に設置されている。

【0033】
このガス検出センサ10では、ガスボンベ11内に充填されているキャリアガスでチューブホルダ25に接続されたサンプルガスをサンプリングボックス13に押し出すことにより、サンプルガスを各センサSに供給する。ニードル弁17,23は、センサSに供給するガスをキャリアガスのみにするか、サンプルガスにするかを選択するために用いる。キャリアガスのみを流すときは、ニードル弁17のみを開き、流量計16で注入するガス量を定める。サンプルガスを流すときは、ニードル弁23のみを開き、流量計24で注入するガス量を定める。

【0034】
水晶振動子からなる各ガス検出素子Sはそれぞれ水晶発振回路31に接続されている。水晶発振回路31の出力端は周波数カウンタ32に接続され、周波数カウンタ32はコンピュータ33に接続されている。

【0035】
ガス検出素子Sである水晶振動子は水晶発振回路31により印加される電圧により共振周波数で振動する。ガス物質が吸着すると、共振周波数が変化する。周波数カウンタ32は、水晶発振回路31からの信号を受けて、周波数値をカウントする。キャリアガスのみを流した状態の信号レベルを基準値にして、基準値からの出力信号(発振周波数値)の変化をセンサの応答としてコンピュータ33でデータ解析、表示を行なう。

【0036】
後述する実施例にも示すように、サンプルガスの種類によって発振周波数変化特性が異なる。例えば、最大周波数変化に達するまでの時間、波形の立ち上がりの勾配が異なっている。この特性の差を利用して、予め取得している既知のガスの特性と比較することによりサンプルガスの種類あるいは濃度を特定することができる。特に、本発明に係るガス検出素子は、エチレン、アルコールなどを感度よく検出することができるので、エチレン検出素子、アルコール検出素子として好ましく用いることができる。

【0037】
また、以下に説明するニューラルネットワークを用いて、さらに高度にサンプルガスの検出を行なうことができる。

【0038】
(ニューラルネットワーク)
複数の物質に対する比較的広い範囲の感応性をもったガス検出素子を複数種類組み合わせて使用することで、物質の検知を可能とする。すなわち、所定の特性を有する物質に対して、相互に異なる感応性を示す複数種類のガス検出素子を組み合わせた場合に、この感応性の相違に由来してこれらから得られる検出情報は同一でない複数の情報となり、しかも一の物質に対してこれらの検出情報の相互関係は常に一定の傾向を示す。また、別の物質に対しては別の一定の傾向を示す。

【0039】
そこで物質毎に異なって得られる特定のパターンを識別することで、該物質の定性、定量を行なうことができる。以上の観点から、図2に示すガス検出センサ10が、ニューラルネットワークを用いてガス検出を行なうシステムを構成する形態について以下に説明する。

【0040】
コンピュータ33は、学習機能を有し、かつ周波数カウンタ32で検出された複数の電気信号をパターン処理してパターンを識別するニューラルネットワークを構成している電子的判別手段と、該判別の結果を表示する表示手段とを備える構成である。コンピュータプログラムとして構成されるニューラルネットワークには従来公知のものを用いることができる。このようなニューラルネットワークの一例を以下に説明する。

【0041】
図3は、ニューラルネットワークを模式的に示す図である。図3に示すように、複数のユニットからなる入力層と、複数のユニットからなる少なくとも一層の中間層と、複数のユニットからなる出力層から構成される。そして、例えば、入力層の各ユニット41に、図示しないガス検出素子からの出力パターンが与えられた場合に、この入力ユニット41からの出力を入力とする中間層の各ユニット42は、所定の伝達関数で表される出力を生じる。この中間ユニット42の出力は、入力ユニット41の値の重み付け一次結合和を入力とする伝達関数として表され、各入力ユニット41に対する結合重みは中間ユニット42毎に各独立に定められる。同様に出力層の各ユニット43の出力値は、中間層の各ユニット42の出力値の重み付一次結合和を入力とする伝達関数により表される。

【0042】
各出力ユニットの出力値について、既知の物質について得られた複数の出力ユニットの出力パターンとの一致性をみることで、測定対象の試料に含まれる化学物質を検出することが可能となる。
【実施例】
【0043】
[実験1]
図2に示すガス検出センサを用いて、サンプルガスの発振周波数値変化を測定した。ガス検出素子Sとしては、ガス吸着膜が異なる3種類のガス検出素子(ガス検出素子1~3)を同時に用いて測定した。サンプルガスに反応した時点を基準とし、1秒毎に各センサの出力値を測定し、基準値からの変化量を記録した。サンプルガスとして、エチレン、エタノールを用いた。ガス検出素子1~3の形成方法を以下に示し、周波数変化の測定結果を図4、5に示す。図4はサンプルガスとしてエチレンを用いた場合の結果であり、図5は試料ガスとしてエタノールを用いた場合の結果である。
【実施例】
【0044】
(ガス検出素子1)
エタノール15g、メチルトリエトキシシラン2.5g、2-(パーフルオロオクチル)エチルトリエトキシシラン0.075g、水0.25gと30%の硝酸水溶液10μLを混合し、室温で1時間攪拌して、コーティング液を調製した。
【実施例】
【0045】
得られたコーティング液に電極を貼着した市販の水晶振動子(9MHz、ATカット)を浸漬し、引き上げ速度1mm/sでディップコーティングした後、100℃で15分間の焼成を行い、水晶振動子表面上に膜厚が0.1~0.2μmのゲル薄膜であるガス吸着膜を形成した。
【実施例】
【0046】
(ガス検出素子2)
エタノール9.6g、フェニルトリメトキシシラン1.5g、水1.0gと30%の硝酸水溶液20μLを混合し、室温で1時間攪拌して、コーティング液を調製した。あとは、水晶振動子1と同様にゲル薄膜であるガス吸着膜を形成した。
【実施例】
【0047】
(ガス検出素子3)
電極を貼着した市販の水晶振動子(9MHz、ATカット)にガス吸着膜を形成することなく、そのままガス検出素子として用いた。
【実施例】
【0048】
(実験結果)
図4および図5に示す実験結果から、フッ素元素を構成元素して有する金属アルコキシドである2-(パーフルオロオクチル)エチルトリエトキシシランを配合したコーティング液を用いてガス吸着膜を形成することにより、エチレンおよびエタノールに対して高い感度を示すことがわかる。したがって、フッ素元素を構成元素して有する金属アルコキシドを配合したコーティング液を用いてガス吸着膜を形成することにより、特にエチレンあるいはエタノールの検出用センサーとして高感度・高精度のセンサーを構成することができることがわかる。
【実施例】
【0049】
[実験2]
実験1で形成したガス検出素子1,3について、ガス検出素子表面のAMF写真(原子間顕微鏡写真)を撮像し、表面粗さを測定した。図6はガス検出素子1の結果を示し、図7はガス検出素子3の結果を示す。図6(a)はガス検出素子1のAMF写真であり、図6(b)はガス検出素子1の表面粗さの測定結果を示す図である。図7(a)はガス検出素子3のAMF写真であり、図7(b)はガス検出素子3の表面粗さの測定結果を示す図である。図6(b)、図7(b)において、横軸はガス検出素子表面の横方向の距離、縦軸は高さ(最も低い高さを0とした換算値)を表す。測定結果より、ガス検出素子1の表面の凹凸の高度差の平均値は46.7μmであり、ガス検出素子3の表面の凹凸の高度差の平均値は212μmであることが算出された。
【実施例】
【0050】
(実験結果)
図6、図7を対比すると、本発明に係るコーティング液によりガス吸着膜を形成したガス検出素子1の表面は、適度な凹凸を有するゲル膜で概ね均一に覆われていることが分かった。
【実施例】
【0051】
[実験3]
図2に示すガス検出センサを用いて、実験1と同様に発振周波数値変化を測定した。ガス検出素子Sとしては、以下に示すガス検出素子4を一つ用いて測定した。サンプルガスに反応した時点を基準とし、1秒毎に各センサの出力値を測定し、基準値からの変化量を記録した。サンプルガスとして、エチレン、エタノール、トリエチルアミン、水、チモール、サリチル酸メチルを用いた。ガス検出素子4の形成方法を以下に示し、周波数変化の測定結果を図8、9に示す。図8は、エチレン、エタノール、水を用いた場合の測定結果を示し、図9は、サリチル酸メチル、チモール、トリエチルアミンの測定結果を示す。
【実施例】
【0052】
なお、エチレンの検出は、食品の品質検査という観点から、植物性食物の腐敗を調べる上で有用である。水、エタノールは、食物の周りに一般的に存在する物質である。サリチル酸メチルは、一般の植物に含まれかつ揮発性である。トリエチルアミンは除草剤等に使用される。チモールは、防腐剤・殺菌剤等として使用される。
【実施例】
【0053】
(ガス検出素子4)
エタノール30g、メチルトリメトキシシラン2.5g、2-(パーフルオロオクチル)エチルトリエトキシシラン0.075g、水0.25gと30%の硝酸水溶液10μL、を混合し、室温で1時間攪拌して、コーティング液を調製した。
【実施例】
【0054】
得られたコーティング液に市販の水晶振動子を浸漬し、引き上げ速度1mm/sでディップコーティングした後、100℃で15分間の焼成を行い、水晶振動子表面上に膜厚が0.1~0.2μmのゲル薄膜であるガス吸着膜を形成した。このガス吸着膜が塗布された水晶振動子を用いて図2に示すガス検出装置により実験1と同様に周波数変化を測定した。
【実施例】
【0055】
(実験結果)
図8,9に示す結果から、上述の通り、各ガスの周波数変化の特性が異なることがわかる。例えば、最大周波数変化に達するまでの時間、波形の立ち上がりの勾配が異なっている。したがって、取得済みデータとの対比により、ガスの種類を特定することが可能となる。また、上述の通り、ニューラルネットワークで解析することにより、サンプルガスの種類あるいは濃度を識別することが可能となる。
【実施例】
【0056】
[実験4]
(ガス検出素子5~9)
エタノール15g、メチルトリエトキシシラン2.5g、、水0.25g、30%の硝酸水溶液10μLと、表1に記載の割合の2-(パーフルオロオクチル)エチルトリエトキシシランを混合し、室温で1時間攪拌して、コーティング液を調製した。表1に記載の2-(パーフルオロオクチル)エチルトリエトキシシラン割合は、具体的には、メチルトリエトキシシランの重量をW1、2-(パーフルオロオクチル)エチルトリエトキシシランの重量をW2とした場合に、{W2/(W1+W2)}×100で算出される値である。
【実施例】
【0057】
得られたコーティング液に電極を貼着した市販の水晶振動子(9MHz、ATカット)を浸漬し、引き上げ速度1mm/sでディップコーティングした後、100℃で15分間の焼成を行い、水晶振動子表面上に膜厚が0.1~0.2μmのゲル薄膜であるガス吸着膜を形成した。得られたゲル薄膜の均一性について目視で評価した。ゲル薄膜が均一であった場合を○、不均一であった場合を×として、表1に結果を示す。
【実施例】
【0058】
【表1】
JP0005476632B2_000002t.gif
【実施例】
【0059】
表1に示す結果から、2-(パーフルオロオクチル)エチルトリエトキシシランの割合が10重量%以上の場合、均一なゲル薄膜が形成されなかったことがわかる。
【実施例】
【0060】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
1 ガス検出素子、2 水晶振動子、3 電極、4 ガス吸着膜、5 リード、6 ソケット部、10 ガス検出センサ、11 ガスボンベ、12 パーミエータ、13 サンプリングボックス、14 圧力調整弁、15,22 圧力計、16,24 流量計、17,23 ニードル弁、25 チューブホルダ、26 恒温水槽、31 水晶発振回路、32 周波数カウンタ、33 コンピュータ、41 入力ユニット、42 中間ユニット、43 出力ユニット。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図8】
5
【図9】
6
【図6】
7
【図7】
8