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明細書 :高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6214006号 (P6214006)
登録日 平成29年9月29日(2017.9.29)
発行日 平成29年10月18日(2017.10.18)
発明の名称または考案の名称 高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子
国際特許分類 G02F   1/361       (2006.01)
G03H   1/02        (2006.01)
FI G02F 1/361
G03H 1/02
請求項の数または発明の数 9
全頁数 23
出願番号 特願2014-534252 (P2014-534252)
出願日 平成25年8月6日(2013.8.6)
権利譲渡・実施許諾 特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
国際出願番号 PCT/JP2013/071190
国際公開番号 WO2014/038332
国際公開日 平成26年3月13日(2014.3.13)
優先権出願番号 2012193773
優先日 平成24年9月4日(2012.9.4)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年5月26日(2016.5.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
発明者または考案者 【氏名】堤 直人
【氏名】木梨 憲司
【氏名】新開 啓令
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】林 祥恵
参考文献・文献 特開2011-158721(JP,A)
特表2011-519072(JP,A)
藤原隆、他,”暗電流制御によるフォトリフラクティブポリマーの高速化”,第73回応用物理学会学術講演会講演予稿集,2012年 8月27日,p.12-102
X-D. Sun, et al.,"Enhanced current in nematic liquid crystal cell using alkanethiol self-assembled monolayer",Journal of Physics D: Applied Physics,2007年 8月30日,Vol.40,p.5691-5695
S. Tsujimura, et al.,"High-Speed photorefractive response capability in triphenylamine polymer-based composites",Applied Physics Express,2012年 6月 4日,Vol.5,p.064101-1 - 064101-3
調査した分野 G02F 1/35-1/361
G02F 1/00-1/061
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
IEEE Xplore
特許請求の範囲 【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の片面上に形成された透明電極と、
前記透明電極の内表面に形成されると共に、単一層の単分子膜又は複数層の単分子膜であり、かつ前記透明電極のフェルミ準位を制御して暗電流を抑制する暗電流制御層と、
前記絶縁基板上で前記透明電極及び前記暗電流制御層を介して設けられ、
下記式(1)で表されるフォトリフラクティブポリマーを主成分としているフォトリフラクティブ複合材料と、
を備えることを特徴とする高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子。
【化1】
JP0006214006B2_000017t.gif

【請求項2】
前記絶縁基板に略平行状に配置された他の絶縁基板と、
前記他の絶縁基板の内面上に形成された他の透明電極と、
前記他の透明電極の内表面上に形成された単一層の単分子膜又は複数層の単分子膜であり、かつ前記透明電極のフェルミ準位を制御して暗電流を抑制する他の暗電流制御層と、
をさらに備え、
前記フォトリフラクティブ複合材料が前記一対の絶縁基板間で前記各透明電極及び前記各暗電流制御層を介して挟持されていることを特徴とする請求項1に記載の高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子。
【請求項3】
前記暗電流制御層は、前記透明電極の表面で自己組織化する自己集積化単分子膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子。
【請求項4】
前記自己集積化単分子膜は、前記透明電極の表面にシラン化合物を化学修飾して形成されたものであることを特徴とする請求項3に記載の高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子。
【請求項5】
前記シラン化合物は、3-アミノプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項4に記載の高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子。
【請求項6】
前記自己集積化単分子膜は、前記透明電極が前記絶縁基板上に形成された透明電極基板を、アンモニア水及び過酸化水素の混合溶液中、又はピラニア溶液中に浸漬させて親水化し、この親水化電極基板を、3-アミノプロピルトリメトキシシラン混合溶媒中に浸漬させて集積化前駆体を生成し、この集積化前駆体の表面をアルコールで洗浄して余剰分子を除去することによって形成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子。
【請求項7】
前記自己集積化単分子膜の膜厚はシラン化合物の1分子分の厚みであることを特徴とする請求項3~6の何れか1項に記載の高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子。
【請求項8】
前記フォトリフラクティブ複合材料は、非線形光学色素と、増感剤と、可塑剤と、を含んでいることを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子。
【請求項9】
前記フォトリフラクティブポリマーが10~50重量%、前記非線形光学色素が20~50重量%、前記増感剤が0.1~3重量%、前記可塑剤が10~40重量%含まれていることを特徴とする請求項8に記載の高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリフラクティブポリマー素子に関し、詳細にはホストポリマーにトリフェニルアミンポリマーを用いた高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の物質は、良好な電荷輸送能を有することが知られており、その応用事例として次に示すフォトリフラクティブ効果がある。フォトリフラクティブ効果とは、非線形光学効果の1つであり、物質が光を吸収して屈折率が変化する現象のことである。フォトリフラクティブ効果の発現機構を説明する。光導電性及び2次の非線形光学特性を有する媒体中で2本のレーザー光を干渉させると干渉縞が形成される。この干渉稿の明部において光励起による電荷キャリアが生成され、外部印加電界により正電荷キャリアが媒体中を移動し、暗部にトラップされる。その結果、明部で負、暗部で正、に帯電した電荷密度の周期的な分布ができ、空間電界が形成される。この空間電界は、1次の電気光学効果であるポッケルス効果を引き起こし、周期的な屈折率格子が形成される。この屈折率格子と光干渉稿との間には空間的にφの位相差が生じるため、2光波間で非対称なエネルギー移動が観測され、光増幅(光学利得)が得られる。
【0003】
このようなフォトリフラクティブ効果を用いることで、位相共役や、歪曲した媒体からのイメージング、実時間ホログラフィー、超多重ホログラム記録、3Dディスプレイ、3Dプリンター、さらには光増幅、光ニュートラルネットワークを含む非線形光情報処理、パターン認識、光リミッティング、高密度光データの記憶等への応用が期待されている。
【0004】
上記効果を発現するフォトリフラクティブ材料として、従来、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等の無機結晶材料が用いられていた。しかし、この無機結晶材料では、加工性が乏しいという問題点があった。そこで、近年、有機物からなるフォトリフラクティブ材料の開発が活発になっている。
【0005】
有機フォトリフラクティブ材料は、無機フォトリフラクティブ材料に比べて多くの利点がある。その利点とは、組成比率の最適化が容易、高い加工性の他、例えば、大きな光学非線形性、低誘電率、低コスト、軽量、可撓性などである。また、用途に応じて望ましいものとなり得る他の重要な特性には、記録データの長い貯蔵寿命、光学品質、及び熱安定性がある。このような有機フォトリフラクティブ材料は、高度な情報通信技術にとって重要な材料となりつつある。その中でも、カルバゾール類(例えば、特許文献1参照)、トリフェニルアミン類が知られている。
【0006】
ホログラフィックを連続的に書き込み、表示させる装置として、各種のホログラフィック表示装置が知られており、当該表示装置には、上記のようなフォトリフラクティブ材料を備えたフォトリフラクティブ素子が用いられる。例えば、特許文献2には、フォトリフラクティブ材料を含んだ層と、電子・イオン混合伝導体を含んだ層と、を2枚の透明電極基板で挟んだフォトリフラクティブ素子が記載されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2003-322886号公報
【特許文献2】特開2011-158721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2のフォトリフラクティブ素子を構成するフォトリフラクティブ材料は、ニオブ酸リチウム等の無機結晶材料や高分子材料からなり、電子・イオン混合伝導体は硫化銀からなる。しかし、かかるフォトリフラクティブ素子を用いた場合、ホログラムの書き込み・表示の応答性が低く、連続的に変化する表示対象物のホログラム像を鮮明に映し出すことが困難であるといった問題がある。従って、高性能のホログラフィック表示装置に適用するための十分な表示性能を得ることができない。
【0009】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、応答性を格段に向上させた高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するべく、鋭意検討を行った。応答性の改良には、フォトリフラクティブポリマー素子を構成するための高い応答性が得られる化合物の選択、及びこの化合物の選択に伴う暗電流の発生を抑えることが重要であると考え、この点に着目した。その結果、フォトリフラクティブポリマーとしてトリフェニルアミンポリマーを選択し、さらには自己集積化単分子膜を構成に含ませることで上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明の高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子は、絶縁基板と、この絶縁基板の片面上に形成された透明電極と、この透明電極の表面に形成された暗電流制御層と、前記絶縁基板上で前記透明電極及び暗電流制御層を介して設けられたフォトリフラクティブ複合材料とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子は、前記絶縁基板に略平行状に配置された他の絶縁基板と、前記他の絶縁基板の内面上に形成された他の透明電極と、前記他の透明電極の内表面上に形成された他の暗電流制御層と、をさらに備え、前記フォトリフラクティブ複合材料が前記一対の絶縁基板間で前記各透明電極及び各暗電流制御層を介して挟持されていることを特徴とする。
【0013】
上記本発明によれば、透明電極の表面に形成された暗電流制御層と、絶縁基板上で透明電極及び暗電流制御層を介して設けられたフォトリフラクティブ複合材料とを備えることから、フォトリフラクティブ複合材料によって高い応答性を発現しつつ、暗電流制御層によって暗電流の発生を抑えることができる。これにより、応答性が格段に向上したフォトリフラクティブポリマー素子を得ることができる。
【0014】
前記暗電流制御層は限定されないが、前記透明電極の表面に形成された単一層の単分子膜又複数層の単分子膜であることが好ましい。単一層の単分子膜又複数層の単分子膜を透明電極とフォトリフラクティブ複合材料との間に設けることによって、透明電極のフェルミ電位を浅くし、例えばフォトリフラクティブポリマーの選択に伴う暗電流の発生を効率的に抑えることができる。
【0015】
前記単一層の単分子膜又複数層の単分子膜は限定されないが、前記透明電極の表面にシラン化合物を化学修飾して形成されたものであることが好ましい。このシラン化合物は限定されないが、3-アミノプロピルトリメトキシシランであることが好ましい。シラン化合物として、3-アミノプロピルトリメトキシシランを選択することで暗電流の発生を最小限度まで抑えることが可能となる。
【0016】
前記単一層の単分子膜又複数層の単分子膜は多様な方法で形成することができる。当該単分子膜が3-アミノプロピルトリメトキシシランを化学修飾したものである場合には、次の方法によって形成することが好ましい。即ち、前記透明電極が前記絶縁基板上に形成された透明電極基板を、アンモニア水及び過酸化水素の混合溶液中、又はピラニア溶液中に浸漬させて親水化し、この親水化電極基板を、3-アミノプロピルトリメトキシシラン混合溶媒中に浸漬させて集積化前駆体を生成し、この集積化前駆体の表面をアルコールで洗浄して余剰分子を除去する方法である。
【0017】
上記方法を用いて単一層の単分子膜又複数層の単分子膜を形成すれば、整然と並んだ単分子膜が得られ、暗電流の抑制効果を向上させることができる。
【0018】
前記単一層の単分子膜又複数層の単分子膜の膜厚に関し、暗電流の高い抑制効果を得るにはシラン化合物の1分子分以上の厚みであることが好ましい。
【0019】
前記フォトリフラクティブ複合材料は、下記式(1)で表されるフォトリフラクティブポリマーを含んでいることが好ましい。
【0020】
【化1】
JP0006214006B2_000002t.gif

【0021】
前記フォトリフラクティブ複合材料は、さらに非線形光学色素と、増感剤と、可塑剤とを含むことが好ましい。これらの含有量に関し、前記フォトリフラクティブポリマーが10~50重量%、非線形光学色素が20~50重量%、増感剤が0.1~3重量%、可塑剤が10~40重量%含まれていることが好ましい。
【0022】
上記式(1)で表されるフォトリフラクティブポリマーと、非線形光学色素と、増感剤と、可塑剤とよりなるフォトリフラクティブ複合材料を用いた場合、非常に高い回折効率、利得係数が得られる。これにより、安定で均一な膜中での電荷輸送を効率よく利用でき、従来では達成できなかった非常に高度なフォトリフラクティブ効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
上記の通りの本発明によれば、透明電極の表面に形成された暗電流制御層と、絶縁基板上で透明電極及び暗電流制御層を介して設けられたフォトリフラクティブ複合材料とを備えることから、フォトリフラクティブポリマーによって高い応答性を発現しつつ、暗電流制御層によって暗電流の発生を抑えることができる。これにより、応答性が格段に向上したフォトリフラクティブポリマー素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子の模式断面図である。
【図2】フォトリフラクティブ複合材料にPTAAを選択する場合の問題点を説明するための図である。
【図3】フォトリフラクティブ複合材料にPTAAを選択する場合の問題点を解決する方法を説明するための図である。
【図4】ITO電極基板上に自己集積化単分子膜を形成する際の概念図である。
【図5】回折効率を測定するための4光波混合法を説明するための概略図である。
【図6】実施例1の電界強度と回折効率の関係を表すグラフである。
【図7】実施例1の回折効率の時間応答性を表すグラフである。
【図8】印加電界と暗電流の関係を表すグラフである。
【図9】増感剤であるPCBMの濃度と外部回折効率及び格子形成速度との関係を表すグラフである。
【図10】増感剤であるPCBMの濃度と感度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態に係る高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子1(以下、フォトリフラクティブポリマー素子という)の模式断面図である。本実施形態のフォトリフラクティブポリマー素子1は、図1のように互いに略平行状に配置された一対の絶縁基板2、2と、これら一対の絶縁基板2、2の内面上2a、2aに形成された透明電極3、3と、各透明電極3の内表面3aに形成された暗電流制御層4、4と、一対の絶縁基板2、2間で各透明電極3及び各暗電流制御層4を介して挟持されたフォトリフラクティブ複合材料5と、このフォトリフラクティブ複合材料5の周囲に設けられたスペーサー6とで構成されている。なお、図1の模式図では説明のため各層を実際よりも厚く図示している。

【0026】
各絶縁基板2と、これら各絶縁基板2の内面上2aに形成された各透明電極3によって、互いに平行状に配置された一対の透明電極基板7、7が構成されている。絶縁基板2は限定されず、当該絶縁基板2の具体例として、例えば、ソーダ石灰ガラス、シリカガラス、ホウケイ酸ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、サファイア、石英ガラス、ポリエチレンテレフタレート、及びポリカーボネート、これらを適宜組み合わせた複合基板が挙げられる。

【0027】
各絶縁基板2の内面上2aに形成された各透明電極3は導電膜であり、金属酸化物膜、金属膜、及び有機膜などから選択できる。本実施形態では透明電極3として、酸化インジウムスズ(ITO)を選択しITO電極として構成しているが、これに限定されない。透明電極3の他の具体例として、酸化スズ、酸化亜鉛、ポリチオフェン、金、銀、白金、銅、アルミニウム、ポリアニリン、リチウム、マグネシウム、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-リチウム合金、カーボンナノファイバー等の炭素及びそれらの組み合わせからなるものが挙げられる。

【0028】
本実施形態のフォトリフラクティブ複合材料5は、主成分であるフォトリフラクティブポリマーに、増感剤、非線形光学色素、及び可塑剤を加えることによって得ることができる。かかる組成を有することで、非常に高い回折効率、利得係数が得られる。これにより、安定で均一な膜中での電荷輸送を効率よく利用でき、従来では達成できなかった非常に高度のフォトリフラクティブ効果を得ることができる。

【0029】
(増感剤)
増感剤は、電子受容体としての性能を有しており、フォトリフラクティブ性を高めるために配合されるものである。増感剤が配合されると、当該増感剤とフォトリフラクティブポリマーとにより、電荷移動錯体が形成され、有用なフォトリフラクティブ性が発現される。

【0030】
本実施形態では、増感剤として下記式(2)で表される[6、6]-フェニルC61ブタン酸メチルエステル(PCBM)を用いている。

【0031】
【化2】
JP0006214006B2_000003t.gif

【0032】
増感剤の他の具体例として、(2、4、7-トリニトロ-9-フルレニィリデン)マロニトリル(TNF-DM)、2、4、7-トリニトロ-9-フルオレノン(TNF)、フラーレンC60、フラーレンC70、テトラシアノベンゼン(TCBN)、テトラシアノキノジノメタン(TCNQ)、ベンゾキノン(BQ)、及びその誘導体、2、6-ジメチル-p-ベンゾキノン(MQ)、2、5-ジクロロ-p-ベンゾキノン(ClQ)、2、3、5、6-テトラクロロ-p-ベンゾキノン(クロラニル)、2、3-ジクロロ-5、6-p-ベンゾキノン(DDQ)等が挙げられる。これら具体例のうち、ホストマトリックスであるフォトリフラクティブポリマーに対する溶解性の点で、上記PCBMの他、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン(TNF)が好ましい。なお、増感剤は、一種のものを単独で使用してもよく、2種類以上のものを併用しても良い。

【0033】
増感剤の含有量としてはフォトリフラクティブ複合材料:100重量%に対して、下限値としては0.1重量%が好ましく、0.3重量%がさらに好ましい。上限値としては3重量%が好ましく、1重量%がさらに好ましく、0.6重量%が最も好ましい。増感剤の最適な含有量は0.5重量%程度である。増感剤の含有量が、0.1重量%以下であるとフォトリフラクティブ性が低くなる。増感剤の含有量が3重量%よりも多いと、増感剤による電荷移動錯体の濃度が高くなるため、光の吸収の増大が招来されて光の透過度が顕著に低下してしまう。

【0034】
(非線形光学色素)
非線形光学色素とは、2次の非線形光学特性を示すドナーアクセプター型分子、即ち、電場によって屈折率が変化する材料(2次非線形光学材料)のことである。本実施形態では、非線形光学色素として下記式(3)で表される[[4-(ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)フェニル]メチレン]プロパンジニトリル(7-DCST)を用いている。

【0035】
【化3】
JP0006214006B2_000004t.gif

【0036】
他の好ましい非線形光学色素として、下記式(4)で表される4-ピペリジノベンジリデン-マロノニトリル(PDCST)、下記式(5)で表される2-(4-(アゼパン-1-イル)-2-フルオロ-ベンジリデン)-マロノニトリル(FDCST)が挙げられる。

【0037】
【化4】
JP0006214006B2_000005t.gif

【0038】
【化5】
JP0006214006B2_000006t.gif

【0039】
非線形光学色素の他の具体例として、2,5-ジメチル-4-(p-ニトロフェニルアゾ)アニソール(DMNPAA)、4-アミノ-4‘-ニトロアゾベンゼン(ANAB)、s-(-)-1-(4-ニトロフェニル)-2-ピロリジン-メタノール(NPP)、4-(ジエチルアミノ)-(E)-β-ニトロスチレン(DEANST)、(ジエチルアミノ)ベンツアルデヒドジフェニルヒドラゾン(DEH)、AODCST、TDDCST、DCDHF-6等のアミノシアノスチレン類が挙げられる。なお、非線形光学色素は、一種のものを単独で使用してもよく、2種類以上のものを併用しても良い。

【0040】
非線形光学色素の含有量としては、フォトリフラクティブ複合材料:100重量%に対して、下限値として、20重量%が好ましく、25重量%がさらに好ましく、上限値として、50重量%が好ましく、40重量%がさらに好ましく、30重量%が最も好ましい。非線形光学色素の含有量が20重量%よりも少ないと、フォトリフラクティブ効果に必要な回折効率や利得係数が得られない場合がある。非線形光学色素の含有量が、50重量%よりも多いと、他の成分との量比にアンバランスが生じて、フォトリフラクティブ複合体の設計に悪影響を及ぼす場合がある。

【0041】
(可塑剤)
可塑剤は、マトリックスのガラス転移温度を低下させる役割を果たす。本実施形態では、増感剤として下記式(6)で表されるエチルカルバゾール(ECz)を用いている。

【0042】
【化6】
JP0006214006B2_000007t.gif

【0043】
他の好ましい可塑剤として下記式(7)で表される(2、4、6-トリメチルフェニル)ジフェニルアミン(TAA)が挙げられる。

【0044】
【化7】
JP0006214006B2_000008t.gif

【0045】
可塑剤の他の具体例として、プロピオン酸カルバゾイルエチル(CzEPA)、トリフェニルアミン(TPA)、フタル酸ベンジルブチル(BBP)、フタル酸ジシクロヘキシル(DCP)リン酸トリクレジル(TCP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、N -メチル- 1 -ピロリドン、N -オクチル- 1 -ピロリドン、N-ドデシル-1-ピロリドンなどのN -アルキル- 1 -ピロリドン類、ならびに 2 - (1、2-シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルプロピオネート (AX22)、2-(1、2-シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルブチレート、2-(1、2-シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルベンゾエート、2-(1、2-シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルアクリレート、2-(フタルイミド)エチルプロピオネート(AX23) などのイミド化合物等が挙げられる。

【0046】
可塑剤の含有量としては、フォトリフラクティブ複合材料:100重量%に対して、下限値として、10重量%が好ましく、15重量%がさらに好ましく、上限値として、40重量%が好ましく、30重量%がさらに好ましく、20重量%が最も好ましい。可塑剤の含有量が、10重量%よりも少ないと、フォトリフラクティブポリマーのガラス転移温度が低下せず、フォトリフラクティブ効果に必要な回折効率や利得係数が得られない場合がある。可塑剤の含有量が、40重量%よりも多いと、他の成分との量比にアンバランスが生じて、フォトリフラクティブ複合体の設計に悪影響を及ぼす場合がある。

【0047】
(フォトリフラクティブポリマー)
フォトリフラクティブポリマーは限定されないが、本実施形態で用いる下記式(1)で表されるトリアリールアミン系非結晶質高分子のポリトリアリールアミン(PTAA):Poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine]が好ましい。これは、ポリトリアリールアミン半導体(Polytriarylamine Semiconductors)ともよばれる。

【0048】
【化8】
JP0006214006B2_000009t.gif

【0049】
ポリ[ビス(4-フェニル)(2、4、6-トリメチルフェニル)アミン]は、高いキャリア移動度を有するアモルファスP型半導体である。その移動度は、10-2~10-3cm/Vsを示し、フォトリフラクティブポリマー素子1に用いた場合、非常に高い応答性を発現させることができる。他のフォトリフラクティブポリマーとして、テトラフェニルジアミノビフェニル部位を有するフォトリフラクティブポリマーでも高い応答性を発現する。

【0050】
上記式(1)で表されるフォトリフラクティブポリマーの含有量としては、フォトリフラクティブ複合材料:100重量%に対して、下限値として10重量%が好ましく、20重量%がさらに好ましく、30重量%が最も好ましく、上限値としては、50重量%が好ましく、40重量%がさらに好ましい。上記含有量が10重量%よりも少ないと、ガラス転移点の低下が十分に起こらない場合があり、当該含有量が50重量%よりも多いと、他の成分(非線形光学色素、増感剤、可塑剤)との量比にアンバランスが生じて、フォトリフラクティブ複合材料の設計に悪影響を及ぼす場合がある。

【0051】
フォトリフラクティブ複合材料5の厚みは50~100μmが好適であり、厚みが50μm未満であればブラッグ回折条件を満たしにくく、100μmを超えると印加電圧の上昇や吸収の増大を招く恐れがあるからである。

【0052】
スペーサー6は、フォトリフラクティブ複合材料の厚みを保持できるものであれば、限定されず、耐薬品性、耐熱性などの点から例えば、ポリイミド、PTFEやPFAなどのフッ素樹脂が好適である。

【0053】
(暗電流制御層)
本実施形態の各暗電流制御層4は、各透明電極基板7(ITO電極基板)の内表面7aに形成されており、当該内表面7aを覆っている。従って、各透明電極基板7とフォトリフラクティブ複合材料5との間に各暗電流制御層4が介在しており、各透明電極3とフォトリフラクティブ複合材料5とは接触していない状態となっている。暗電流制御層4は、各透明電極基板7の双方に形成することが好ましいが、発現する性能に応じて何れかの透明電極基板のみに形成してもよい。

【0054】
暗電流制御層4を、透明電極(ITO電極)3とフォトリフラクティブ複合材料5との間に介在させる理由を説明する。図2はフォトリフラクティブ複合材料5にPTAAを選択する場合の問題点を説明するための図であり、図3はフォトリフラクティブ複合材料5にPTAAを選択する場合の問題点を解決する方法を説明するための図である。

【0055】
フォトリフラクティブ複合材料5と、各透明電極基板7の表面7aを覆う金属材料であるITOとの界面における性質上、ショットキー接合又は界面電気二重層を考慮しなければならない。高い応答性が得られるポリトリアリールアミン(PTAA)を選択した場合、電荷発生剤でもあるPTAAの最高被占軌道(HOMO)とITOとのフェルミ準位が近くなる。PTAAの最高被占軌道とITOフェルミ準位とが近くなると、熱励起によって電荷がITO電極から流れだして大きな暗電流を生じさせ、その結果、光導電性を阻害すると同時に、高電界で絶縁破壊を引き起こす。

【0056】
比較として、フォトリフラクティブポリマーに下記式(8)で表されるポリビニルカルバゾ-ル(PVCz)を用いた例で説明する。

【0057】
【化9】
JP0006214006B2_000010t.gif

【0058】
図2のように、PVCzとITOとの組み合わせの場合、同図の左に示すようにPVCzのHOMOが-5.9eVであり、ITOのフェルミ準位が-4.8eVであるため、エネルギー準位差(ΔEF-H)は1.1eVとなる。

【0059】
PVCzフォトリフラクティブポリマーを用いた場合、暗電流は発生し難い反面、その移動度が10-6-10-7cm/Vsと遅く、ビデオ速度(30s-1)の高速応答性を発現させることは困難である。

【0060】
一方、ビデオ速度をはるかに凌ぐ高速応答性を発現可能な本実施形態のPTAAと、ITOとの組み合わせの場合、図2の右に示すようにPTAAのHOMOが-5.2eVであり、ITOのフェルミ準位が-4.8eVであるため、エネルギー準位差(ΔEF-H)が0.4eVと小さくなる。そのため、PTAAを選択すると容易に大きな暗電流が発生する。

【0061】
本発明では、ITO電極3の表面3aに暗電流制御層4を形成することで、上述の問題点を解決するに至った。暗電流制御層4を形成すれば、図3の左図から右図に示すようにITO電極3のフェルミ準位が浅く(同図では上に)なる。ITO電極3のフェルミ準位が浅く(上に)なると、PTAAのHOMOと、当該フェルミ準位とのエネルギー準位差が大きくなり(同図では0.4eVから0.9eVになっている)、暗電流の発生を抑制することができる。

【0062】
この点に関し、金属清浄表面に成膜した有機薄膜の紫外光電子分光の結果から、金属と有機薄膜の界面では、ショットキー接合又は界面電気二重層の形成によって真空準位のシフトが起こることを利用している。シフト量は有機材料と金属の組み合わせによっては1eVにもなる。界面電気二重層の極性は多くの場合、有機材料が正で金属が負になる。

【0063】
その起源として、界面における電荷の移動や鏡像効果、界面準位の存在や永久双極子の配列などが提案されているが、実際の界面ではそれらが複雑に混ざっていると考えられ、シフト量を予測することは容易ではない。また、この原理は金属の表面に鎖状アルカン分子が吸着した系において、分子-電極の距離が重要な要因となっている。つまり第一層目の分子が金属と化学修飾することで電子状態が変化し、フェルミ準位のシフトが可能になる。

【0064】
暗電流制御層4として多様な形態のものが選択可能である。ITO電極3の表面3aに形成された単一層の単分子膜又複数層の単分子膜が、暗電流制御層4に好適である。単一層の単分子膜又複数層の単分子膜は、必ずしもITO電極3の表面3aの全面にわたって均一に形成されていなくてもよい。つまり、ITO電極3の表面3aに、単一層の単分子膜又複数層の単分子膜が形成されていない領域が部分的にあっても改善効果が認められた。ITO電極3の表面3aの一部が単分子膜であり、当該表面3aの他の部分が複数層の単分子膜となっていてもよい。ITO電極3の表面3aにおいて、単一層の単分子膜の複数の領域が形成され、それと共に複数層の単分子膜の複数の領域が形成されていてもよい。

【0065】
本実施形態の暗電流制御層4として、ITO電極3上で自己組織化する自己集積化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)を用いている。なお単一層の単分子膜又複数層の単分子膜は、自己集積化単分子膜には限定されない。自己集積化単分子膜は、透明電極3の内表面3aにシラン化合物を化学修飾して形成されたものである。かかるシラン化合物は限定されず、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)が最も好適である。他の自己集積化単分子膜としては、トリクロロシラン類、ジメチルクロロシラン類が挙げられる。

【0066】
自己集積化単分子膜は、自己集積化又は自己組織化によって形成される単分子膜であり、有機分子の化学吸着過程で固体表面上に形成される分子会合体である。吸着分子同士の相互作用によって会合体の構成分子が密に集合する。このことにより、高度に規則的な分子配向及び分子配列を有する構造が自発的に形成される。

【0067】
自己集積化単分子膜を透明電極3上に形成するには、酸-塩基反応によるもの、シランカップリング反応によるもの、水素終端化シリコン表面によるもの等の多様な方法が挙げられ、次の方法によって形成することが好ましい。

【0068】
図4はITO電極基板7上に暗電流制御層4としての自己集積化単分子膜(SAM)を形成する際の概念図である。まず前処理として、ITO電極基板を、アンモニア水及び過酸化水素の混合溶液中、又はピラニア溶液中に、15分間浸漬させて当該ITO電極基板の表面を親水化する。続いてこの親水化ITO電極基板を、1%の3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)のメタノール溶液中に、30分間浸漬させて、図4中央に図示する集積化前駆体を生成する。さらに、この集積化前駆体膜の表面を2-プロパノールで洗浄し余剰分子を除去することによって、SAMを形成する。これにより、SAM被覆ITO電極基板を得ることができる。なお、SAMを形成する際の、親水化溶液中の各成分の混合比率、溶媒、浸漬時間、洗浄成分などの成膜条件は、透明電極の種類などに応じて適宜変更できる。上記方法を用いて自己集積化単分子膜を形成すれば、整然と並んだ単分子膜が得られ、暗電流の抑制効果を向上させることができる。

【0069】
SAMとなる集積化前駆体分子は結合部(head group)と末端基(terminal group)を持つ。これらの間は炭化水素鎖で結ばれている。これらを溶媒に溶かし、膜を形成したい表面を浸漬することにより、SAMが形成される。単純な表面への付着現象とは異なり、集積化前駆体分子が吸着表面に2次元的な細密構造を自発的に形成する所が、自己組織化単分子膜と呼ばれる所以である。また成膜方法として液体に浸漬する以外にも、高真空中で蒸発させ成膜する方法や、スプレーなどによる噴霧などもある。結合部としては3種類に分類でき、チオール系(主にHS-基)、シラン系(主にX3Si-基)、酢酸系(主にCOOH-基)がある。それぞれ吸着する物質が異なる。

【0070】
末端基によりSAM成膜後の表面の特性が変わる。末端基としてはメチル基(CH基)、アミノ基(NH基)、カルボキシル基(COOH基)の他に、フェロセン、キノン、ポルフィリンなどが用途に応じて様々に合成される。自己集積化単分子膜の膜厚に関し、暗電流の高い抑制効果を得るにはシラン化合物の1分子分の厚みであることが好ましい。

【0071】
次にフォトリフラクティブポリマー素子1を製作する方法を説明する。なお、ここで説明する方法は例示であり、他の方法、条件で製作することもできる。本実施形態のフォトリフラクティブポリマー素子1は、フォトリフラクティブポリマーを溶媒に溶解させる溶解工程と、この溶媒を留去する溶媒留去工程と、サンドイッチ型の素子を構成するサンドイッチ型素子作製工程とを含む製造方法により製造される。

【0072】
溶解工程では、フォトリフラクティブポリマー、非線形光学色素、可塑剤、及び増感剤を所定の割合にて溶媒に溶解する。この溶媒としては、特に限定されるものではなく、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、N-メチルピロリドン(NMP)やジメチルホルムアミド等が使用され、好ましくはTHFである。また、溶解温度としては、室温程度であればよい。必要に応じて溶液を撹拌してもよい。この溶液を撹拌する方法は限定されず、例えばスターラーチップ等を用いた方法で行う。

【0073】
溶媒留去工程では、溶媒を除去する。溶媒を除去する方法としては、特に限定されるものではないが、例えばキャストフィルムを得るようにすればよい。具体的には、ITO電極を絶縁基板上に形成してITO電極基板を得た後、このITO電極基板の表面に暗電流制御層であるSAMを形成してSAM被覆ITO電極基板を得る。そして、その表面に各成分が溶解された溶液を流延し、その後、室温で溶媒を蒸発させ、続いてこれを一晩自然乾燥後、約80℃で12時間減圧乾燥を行い、さらに溶媒を蒸発させる。

【0074】
サンドイッチ型素子作製工程では、溶媒を留去後、四隅にスペーサー(ポリイミド,厚み:50μm)を配置して、その後、別に製作しておいたもう一枚のSAM被覆ITO電極基板を上に乗せ、温度をかけながら真空プレス機で圧着して、サンドイッチ型のフォトリフラクティブ素子を作製する。素子中のフォトリフラクティブ複合材料の厚みは、50~100μmであることが好ましい。50μm未満であればブラッグ回折条件を満たしにくく、100μmを超えると印加電圧の上昇や吸収の増大を招く恐れがあるからである。

【0075】
上記製造方法によって得られたフォトリフラクティブ素子は、例えば、ビデオ画像のような動画の記録・再生、実時間ホログラム、光の波面や位相のマニュピレーション、パターン認識、光増幅、非線形光情報処理、超多重ホログラム記録、高密度光データ記録、光相関システム、光コンピュータ等への利用が可能である。

【0076】
上記本発明によれば、一対のITO電極基板7、7の内表面7a、7aに形成された暗電流制御層4、4と、PTAAを主成分とするフォトリフラクティブ複合材料5とを備えることから、PTAAによって高い応答性を発現しつつ、各暗電流制御層4によって暗電流の発生を抑え、絶縁破壊を起こさせることがない。これにより、応答性が格段に向上したフォトリフラクティブポリマー素子1を得ることができる。

【0077】
暗電流制御層4をITO電極(透明電極)3とフォトリフラクティブ複合材料5との間に介在させることによって、ITO電極3のフェルミ電位を浅くし、PTAAの選択に伴う暗電流の発生を効率的に抑えることができる。暗電流制御層4を構成する自己集積化単分子膜は、ITO電極3の表面3aに3-アミノプロピルトリメトキシシランを化学修飾して形成されたものであることから、暗電流の発生を最小限度まで抑えることができ、絶縁破壊を確実に防ぐことができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例1~実施例6のフォトリフラクティブポリマー素子を製作した。実施例1~実施例6の暗電流制御層にはSAMを用いた。フォトリフラクティブ複合体の厚みは80~115μmに調整した。各実施例におけるフォトリフラクティブ複合体の成分は下記のとおりである。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
フォトリフラクティブポリマー:PTAA/44重量%
非線形光学色素:7-DCST/35重量%
可塑剤:ECz/20重量%
増感剤:PCBM/1重量%
【実施例】
【0080】
(実施例2)
フォトリフラクティブポリマー:PTAA/42重量%
非線形光学色素:PDCST/35重量%
可塑剤:TAA/20重量%
増感剤:PCBM/3重量%
【実施例】
【0081】
(実施例3)
フォトリフラクティブポリマー:PTAA/44重量%
非線形光学色素:PDCST/35重量%
可塑剤:TAA/20重量%
増感剤:PCBM/1重量%
【実施例】
【0082】
(実施例4)
フォトリフラクティブポリマー:PTAA/44.5重量%
非線形光学色素:PDCST/35重量%
可塑剤:TAA/20重量%
増感剤:PCBM/0.5重量%
【実施例】
【0083】
(実施例5)
フォトリフラクティブポリマー:PTAA/44.7重量%
非線形光学色素:PDCST/35重量%
可塑剤:TAA/20重量%
増感剤:PCBM/0.3重量%
【実施例】
【0084】
(実施例6)
フォトリフラクティブポリマー:PTAA/44.9重量%
非線形光学色素:PDCST/35重量%
可塑剤:TAA/20重量%
増感剤:PCBM/0.1重量%
【実施例】
【0085】
比較例1~比較例4のフォトリフラクティブポリマー素子を製作した。比較例2及び比較例3では暗電流制御層を設けず、比較例1及び比較例4では暗電流制御層であるSAMを設けた。フォトリフラクティブ複合体の厚みは80~115μmに調整した。各実施例におけるフォトリフラクティブ複合体の成分は下記のとおりである。
【実施例】
【0086】
(比較例1)
フォトリフラクティブポリマー:PTAA/45重量%
非線形光学色素:PDCST/35重量%
可塑剤:TAA/20重量%
増感剤:PCBM/0重量%
【実施例】
【0087】
(比較例2)
フォトリフラクティブポリマー:PTAA/45重量%
非線形光学色素:7-DCST/35重量%
可塑剤:ECz/20重量%
増感剤:PCBM/0重量%
【実施例】
【0088】
(比較例3)
フォトリフラクティブポリマー:PVCz(Mw:370000)/44重量%
非線形光学色素:7-DCST/35重量%
可塑剤:ECz/20重量%
増感剤:TNF/1重量%
【実施例】
【0089】
(比較例4)
フォトリフラクティブポリマー:PVCz(Mw:370000)/44重量%
非線形光学色素:7-DCST/35重量%
可塑剤:ECz/20重量%
増感剤:TNF/1重量%
【実施例】
【0090】
(回折効率の測定)
図5は回折効率(%)を測定するための4光波混合法(DFWM)を説明するための概略図である。回折効率(%)の測定は、フォトリフラクティブポリマー素子に電界を印加(45V/μm)した状態で4光波混合法によって測定した。測定には632.8nmのHe-Neレーザーを用いた。フォトリフラクティブ効果によって生じる回折効率(%)、即ち屈折率変化の大きさΔnは、ブラッグ回折の強度測定(回折効率測定)から評価することができる。書き込み光により屈折率格子を生じた試料フィルムに、ブラッグ条件で低出力のプローブ光を入射させて、屈折率格子により回折する光の強度を測定することによって、その回折効率を測定することができる。ここでは規格化回折効率ηnormについて示し、次式(1)により評価する。フォトリフラクティブポリマー素子(Sample)の法線Hと2本の干渉ビームの2等分線との間の角度θが50°となるように、フォトリフラクティブポリマー素子を傾けて回折効率を測定する。
【実施例】
【0091】
【数1】
JP0006214006B2_000011t.gif
【実施例】
【0092】
diffracted:屈折率格子による回折光の強度、Itransmitted:透過光強度を示す。規格化回折効率ηnormは、厚い媒体中でのクーゲルニックの結合波理論によって屈折率変化の大きさ:Δnと関連づけることができる。そして、規格化回折効率ηnormと屈折率変化の大きさΔnを近似的に1つの式で表わすことができ、規格化回折効率ηnormから屈折率変化の大きさΔnを評価することができる。なお、上記回折光の強度Idiffractedは、高速ベンチメーター(例えば、アジレント社製;34411型デジタルマルチメーター)を用い、上記透過光強度Itransmittedは、高速ベンチメーター(例えばアジレント社製;34411型デジタルマルチメーター)を用いて計測する。
【実施例】
【0093】
(応答時間の測定)
応答時間は、次式(2)に示すKohlrausch-Williams-Watts(KWW)式によるフィッティングで算出された値を用いた。η:回折効率、η:飽和回折効率、t:時間、τ:応答時間、β(0<β≦1):分散を示す。
【実施例】
【0094】
【数2】
JP0006214006B2_000012t.gif
【実施例】
【0095】
回折効率及び応答時間の測定結果を表1に示す。
【表1】
JP0006214006B2_000013t.gif
【実施例】
【0096】
PTAAを用いた実施例1~6では回折効率0.9~24.5%、応答速度3.2~86.0ms、光学利得(利得係数)14.0~63.3cm-1を示した。比較例1では増感剤を含まないため応答時間が大きく、比較例2ではSAMを設けていないため暗電流が多く流れ、測定不能であった。光学利得(利得係数)は次式(3)又は(4)を用いて算出される。
【実施例】
【0097】
【数3】
JP0006214006B2_000014t.gif
【実施例】
【0098】
【数4】
JP0006214006B2_000015t.gif
【実施例】
【0099】
d:サンプル厚、γ0=ItA(IB≠0)/ItA(IB=0)、β=IB/IA、ItA、ItB:それぞれ書き込み光の透過強度を示す。
【実施例】
【0100】
比較例3と比較例4を比べると、SAMを形成することで性能が若干低下する程度であり、SAMの有無の差違はない。その理由は、元々暗電流の発生がなく、SAMの効果はないからである。
【実施例】
【0101】
以上の結果から、実施例1~実施例6で示されるPTAAの選択及びSAMの形成によって、ビデオ速度(30s-1)をはるかに上回る3.2~20.4ms(ビデオ速度にして49~312s-1)の応答速度を得ることができる。
【実施例】
【0102】
図6に実施例1の電界強度と回折効率の関係を表すグラフを示し、図7に実施例1の回折効率の時間応答性を表すグラフを示し、図8に印加電界と暗電流の関係を表すグラフを示す。図6から回折効率は25V/μmの時に6%を示した。図7は20V/μmの時間分解回折効率を示す。この時の応答速度は11.3msを示した(図中のβ値は分散を示す)。図8の印加電界と暗電流の関係を表すグラフでは、SAM無しでは電界印加に比例して大きな電流が流れるのに対して、SAM有りでは電流はほとんど流れていないことが認められる。
【実施例】
【0103】
図9は増感剤であるPCBMの濃度と外部回折効率及び格子形成速度との関係を表すグラフである。図10は増感剤であるPCBMの濃度と感度との関係を表すグラフである。フォトリフラクティブ性能の指標として次の数式(5)で表される感度Sを用いることができる。回折効率が大きく、単位面積当たりのレーザーエネルギーが小さく、応答時間が短くなると感度Sは高くなる。即ち感度Sが高くなることは、ホログラム像が明るくなり、ホログラム像を形成する速度が大きくなることを意味する。
【実施例】
【0104】
【数5】
JP0006214006B2_000016t.gif
(η:回折効率、I:単位面積当たりのレーザーエネルギー、τ:応答時間)
【実施例】
【0105】
図9から解るように、PCBMの濃度と、外部回折効率及び格子形成速度とには相関性が認められる。PCBMの濃度が高くなるに従って外部回折効率が低下し、格子形成速度が上昇することが認められる。図10から解るように、PCBMの濃度が0.5重量%程度で最も高い感度を示すことが認められる。
【実施例】
【0106】
上記で開示した実施形態、実施例は例示であり制限的なものではない。例えばフォトリフラクティブポリマー素子のフォトリフラクティブ複合材料には、上記各成分の他にフォトリフラクティブ性を損なわせない範囲内で、他の成分を含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、酸化防止剤や紫外線吸収剤等が挙げられる。
【実施例】
【0107】
上記実施形態では、2枚の透明電極基板を用いた例で説明したが、1枚の透明電極基板上に暗電流制御層、及びフォトリフラクティブポリマー複合体を形成してフォトリフラクティブポリマー素子を構成してもよい。即ち、かかる発明は、絶縁基板と、この絶縁基板の片面上に形成された透明電極と、この透明電極の表面に形成された暗電流制御層と、絶縁基板上で透明電極及び暗電流制御層を介して設けられたフォトリフラクティブ複合材料とを備えることを特徴とする高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子である。つまり、本発明は、透明電極基板上の透明電極とフォトリフラクティブ複合材料との間に、暗電流制御層が介在している高速応答性フォトリフラクティブポリマー素子であれば、どのような形態のものであってもよい。
【実施例】
【0108】
従来、ITO電極がフォトリフラクティブポリマー素子に用いられてきたのは、側鎖カルバゾールや、側鎖トリフェニルアミン系のHOMOがITOより十分深かったためである。今後、フォトリフラクティブポリマー素子には、更なる高速応答性が求められ、本発明のようにSAMを設けたフォトリフラクティブポリマー素子の需要が高まるものと思われる。一方、ITOの主成分であるインジウムはレアメタルであり安定供給が危惧され、その価格の高騰が予想される。そこで、産業化を考慮した場合、コストと環境といった側面からITO電極以外の透明電極の選択が要望される。
【実施例】
【0109】
ITOの代替材料として、上記にも一部挙げたが、ZnO:-5.8eV(フェルミ準位)、Ga/ZnO:-5.1eV、GaN:-5.5eV、MgO/C:不明、グラフェンシート:-4.4eV、PEDOT/PPS:-5.8eVなどが挙げられる。これらは、フェルミ準位がITO:-4.8eVよりも深く、従来の技術ではフォトリフラクティブポリマー素子には適していなかった。しかし、本発明を適用することで、かかるITO代替材料の選択も可能とすることができ、本発明は情報産業などへ大きく寄与するものと考えられる。
【符号の説明】
【0110】
1 フォトリフラクティブポリマー素子
2 絶縁基板
3 透明電極(ITO電極)
4 暗電流制御層(SAM)
5 フォトリフラクティブ複合材料
6 スペーサー
7 透明電極基板
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9