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明細書 :嚥下補助装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5775972号 (P5775972)
登録日 平成27年7月10日(2015.7.10)
発行日 平成27年9月9日(2015.9.9)
発明の名称または考案の名称 嚥下補助装置
国際特許分類 A61N   1/36        (2006.01)
FI A61N 1/36
請求項の数または発明の数 10
全頁数 20
出願番号 特願2014-534281 (P2014-534281)
出願日 平成25年8月22日(2013.8.22)
国際出願番号 PCT/JP2013/072452
国際公開番号 WO2014/038390
国際公開日 平成26年3月13日(2014.3.13)
優先権出願番号 2012197483
優先日 平成24年9月7日(2012.9.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年5月14日(2015.5.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506208908
【氏名又は名称】学校法人兵庫医科大学
発明者または考案者 【氏名】越久 仁敬
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100111383、【弁理士】、【氏名又は名称】芝野 正雅
審査官 【審査官】井上 哲男
参考文献・文献 特開平09-215757(JP,A)
特開2007-151736(JP,A)
特表2009-522059(JP,A)
特表2010-512843(JP,A)
特表2008-544832(JP,A)
特表平11-500339(JP,A)
特許第5353479(JP,B2)
調査した分野 A61N 1/36
A61B 5/08
特許請求の範囲 【請求項1】
嚥下を補助するための嚥下補助装置において、
呼吸を検出する呼吸検出部と、
前記嚥下を促進させる刺激を付与するために対象部位に付設される付与ユニットと、
前記付与ユニットを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記呼吸検出部からの検出信号に基づき検出される呼息期間において、前記対象部位に対する前記刺激の付与を開始するとともに、当該呼息期間において、前記対象部位に対する前記刺激の付与を終了するよう、前記付与ユニットを制御する、
ことを特徴とする嚥下補助装置。

【請求項2】
請求項1に記載の嚥下補助装置において、
前記制御部は、前記対象部位に対する前記刺激の付与を開始するタイミングが呼息相の前半部分に含まれるよう、前記付与ユニットを制御する、
ことを特徴とする嚥下補助装置。

【請求項3】
請求項2に記載の嚥下補助装置において、
前記制御部は、前記呼吸検出部からの検出信号に基づき呼息相の開始を検出し、呼息相が開始した直後に前記対象部位に対する前記刺激の付与を開始するよう、前記付与ユニットを制御する、
ことを特徴とする嚥下補助装置。

【請求項4】
請求項2に記載の嚥下補助装置において、
前記制御部は、前記呼吸検出部からの検出信号に基づき呼息がピークとなるタイミングを検出し、呼息がピークとなるタイミングにおいて前記対象部位に対する前記刺激の付与を開始するよう、前記付与ユニットを制御する、
ことを特徴とする嚥下補助装置。

【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載の嚥下補助装置において、
前記制御部は、前記対象部位に対する前記刺激の付与を終了するタイミングが呼息相の前半2/3のタイミングよりも早期となるよう、前記付与ユニットを制御する、
ことを特徴とする嚥下補助装置。

【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一項に記載の嚥下補助装置において、
前記刺激の付与を開始するタイミングから前記刺激の付与を終了するタイミングまでの時間は、100ms~1000msに設定される、
ことを特徴とする嚥下補助装置。

【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の嚥下補助装置において、
前記制御部は、当該嚥下補助装置の作動時に、前記呼息期間において前記対象部位に刺激を付与する動作を行う動作期間と、前記呼息期間において前記対象部位に刺激を付与する動作を行わない非動作期間とを、交互に設定する、
ことを特徴とする嚥下補助装置。

【請求項8】
請求項7に記載の嚥下補助装置において、
前記動作期間と前記非動作期間の設定を受け付けるための受付部をさらに備える、
ことを特徴とする嚥下測定装置。

【請求項9】
請求項1ないし8の何れか一項に記載の嚥下補助装置において、
前記付与ユニットは、プラスの極とマイナスの極を対とする電極を備え、上喉頭神経に電気的な刺激が付与されるよう、皮膚に付着される、
ことを特徴とする嚥下補助装置。

【請求項10】
請求項9に記載の嚥下補助装置において、
前記付与ユニットには、前記電極の対が2つ設けられ、
前記制御部は、これら2対の電極に対して異なる周波数の電気信号を印加する、
ことを特徴とする嚥下補助装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下を補助するための嚥下補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾患による死亡原因として、肺炎が急激に増加している。また、死亡原因となる肺炎の多くは、いわゆる「誤嚥」によって引き起こされる誤嚥性肺炎であり、特に、高齢者における誤嚥性肺炎が深刻な問題となっている。「誤嚥」とは、適切に嚥下を発生させることができず、飲み込まれたものが食道ではなく気管に入る病態のことである。特に高齢者において、誤嚥を予防して誤嚥性肺炎を防ぐことが、重要な課題となっている。
【0003】
一般に、誤嚥は、食事の際よりも、むしろ、就寝時に、唾液を飲み込むことによって起こることが多く、この際に、唾液に付着した病原菌が気管に入ることにより、誤嚥性肺炎が引き起こされると考えられる。誤嚥性肺炎の患者は、嚥下の誘発閾値が高いこと、すなわち、嚥下の反射が起こりにくいことが知られている。したがって、誤嚥性肺炎を抑制するためには、嚥下の反射を誘発させ、適正に嚥下を行わせることが効果的であると考えられる。
【0004】
嚥下の反射を誘発させるための装置として、たとえば、患者の咽頭に電気刺激を与えることにより、嚥下を促進させるための装置が知られている(たとえば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】WO97/15349号公報
【特許文献2】WO2008/076646号公報
【特許文献3】特許第4526472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誤嚥性肺炎を抑制するためには、たとえば就寝の期間等、比較的長い期間に亘って、患者に電気刺激を与え続ける必要がある。しかしながら、その間、患者に単調かつ連続的に電気刺激を与え続けると、たとえば、患者が息を吸っている吸息相においても、電気刺激が与えられ嚥下が誘発されることとなる。しかしながら、吸息相において嚥下が起こると、嚥下により飲み込まれたものが吸気とともに気管に入る危険性が高まり、却って誤嚥が引き起こされ易くなってしまう。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、適切なタイミングで嚥下を促進させることにより誤嚥を効果的に抑制することが可能な嚥下補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主たる態様は、嚥下を補助するための嚥下補助装置に関する。本態様に係る嚥下補助装置は、呼吸を検出する呼吸検出部と、前記嚥下を促進させる刺激を付与するために対象部位に付設される付与ユニットと、前記付与ユニットを制御する制御部と、を備える。前記制御部は、前記呼吸検出部からの検出信号に基づき検出される呼息期間において、前記対象部位に対する前記刺激の付与を開始するとともに、当該呼息期間において、前記対象部位に対する前記刺激の付与を終了するよう、前記付与ユニットを制御する。
【0009】
本態様に係る嚥下補助装置によれば、息を吐く呼息期間において嚥下が促進されるため、促進された嚥下によって誤嚥が生じる可能性が低く抑えられる。よって、誤嚥を効果的に抑制することが可能な嚥下補助装置を提供することができる。
【0010】
本態様に係る嚥下補助装置において、前記制御部は、前記対象部位に対する前記刺激の付与を開始するタイミングが呼息相の前半部分に含まれるよう、前記付与ユニットを制御する構成とされ得る。この構成例によれば、以下の実施の形態において説明するように、促進された嚥下によって誤嚥が生じる可能性を、より効果的に抑制することができる。
【0011】
この場合、前記制御部は、前記呼吸検出部からの検出信号に基づき呼息相の開始を検出し、呼息相が開始した直後に前記対象部位に対する前記刺激の付与を開始するよう、前記付与ユニットを制御する構成とされ得る。以下の実施の形態において説明するように、呼息相が開始した直後において嚥下が起こると、その後、吸息が起こるまでの期間が特に長くなる。また、次の吸息相が開始するまでの時間が長いため、刺激の時間を十分に確保しながら、刺激の期間が吸息相に掛かることを防ぐことができる。よって、このように呼息が開始した直後において、前記嚥下を促進させることにより、促進された嚥下によって誤嚥が生じる可能性を、さらに効果的に抑制することができる。
【0012】
あるいは、前記制御部は、前記呼吸検出部からの検出信号に基づき呼息がピークとなるタイミングを検出し、呼息がピークとなるタイミングにおいて前記対象部位に対する前記刺激の付与を開始するよう、前記付与ユニットを制御する構成とされ得る。この場合も、以下の実施の形態において説明するように、呼息がピークとなるタイミング付近において嚥下が起こると、その後、吸息が起こるまでの期間が特に長くなる。よって、このように呼息がピークとなるタイミングにおいて、前記嚥下を促進させることにより、促進された嚥下によって誤嚥が生じる可能性を、さらに効果的に抑制することができる。
【0013】
本態様に係る嚥下補助装置において、前記制御部は、前記対象部位に対する前記刺激の付与を終了するタイミングが呼息相の前半2/3のタイミングよりも早期となるよう、前記付与ユニットを制御する構成とされ得る。以下の実施の形態において説明するように、呼息相においては、呼息相の約2/3のタイミングにおいて嚥下が起きた場合に、次の吸息までの潜時が最も短くなる。よって、呼息相の前半2/3のタイミングよりも早期に刺激の付与を終了するようにすることにより、促進された嚥下によって誤嚥が生じる可能性を、より効果的に抑制することができる。
【0014】
また、本態様に係る嚥下補助装置において、前記刺激の付与を開始するタイミングから前記刺激の付与を終了するタイミングまでの時間は、100ms~1000msに設定されるのが望ましい。こうすると、以下の実施の形態において説明するように、上喉頭神経が十分に刺激されるようになり、また、呼息相の開始直後または開始から短い期間の内に電気信号の印加が開始される場合に、上喉頭神経が刺激される期間を呼息相の前半部分に収め易くなり、電気刺激により誤嚥が誘発されることを効果的に抑制することができる。
【0015】
また、本態様に係る嚥下補助装置において、前記制御部は、当該嚥下補助装置の作動時に、前記呼息期間において前記対象部位に刺激を付与する動作を行う動作期間と、前記呼息期間において前記対象部位に刺激を付与する動作を行わない非動作期間とを、交互に設定する構成とされ得る。こうすると、刺激による患者の負担を軽減できる可能性がある。また、上喉頭神経が刺激により順化することを抑制し、刺激による嚥下の促進効果が高められる可能性がある。
【0016】
この場合、本態様に係る嚥下補助装置は、前記動作期間と前記非動作期間の設定を受け付けるための受付部をさらに備える構成とされ得る。こうすると、患者の嚥下機能に応じて、動作期間と非動作期間を任意に設定することができる。
【0017】
本態様に係る嚥下補助装置において、前記付与ユニットは、プラスの極とマイナスの極を対とする電極を備え、上喉頭神経に電気的な刺激が付与されるよう、皮膚に付着される構成とされ得る。こうすると、付与ユニットを、簡便に、対象部位に付設することができる。
【0018】
この場合、前記付与ユニットには、前記電極の対が2つ設けられ、前記制御部は、これら2対の電極に対して異なる周波数の電気信号を印加する構成とされ得る。これにより、深部にこれら周波数の差に応じた低周波の干渉波が発生し、この干渉波によって上喉頭神経が刺激される。そして、上喉頭神経を経由して咽頭・喉頭から脳幹へ伝達される求心性信号が増強され、嚥下反射が促進される。このように2対の電極による干渉波を用いると、皮膚の痛みや不快感を抑えながら、効果的に、嚥下を促進させることができる。
【0019】
なお、付与ユニットに電極の対が2つ設けられる場合、これら2対の電極が、甲状軟骨を中心としてX字状に位置付けられるよう、付与ユニットが皮膚に付着される構成とするのが望ましい。こうすると、2対の電極に印加される電圧を調整することにより、痛みなく、効果的に、上喉頭神経に電気刺激を与えることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のとおり、本発明によれば、適切なタイミングで嚥下を促進させることにより誤嚥を効果的に抑制することが可能な嚥下補助装置を提供することができる。
【0021】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態により何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態に係る嚥下補助装置の外観構成を示す図である。
【図2】実施の形態に係る制御ユニットの構成を示す図である。
【図3】実施の形態に係る電極ユニットの変更例を示す図である。
【図4】実施の形態に係る呼吸相における若年層と高齢者の嚥下の頻度を示す図および嚥下の起きるタイミングと嚥下から次の吸息までの潜時との関係を示す図である。
【図5】実施の形態に係るΔTを取得するための処理を示すフローチャートおよび電極ユニットの制御を示すフローチャートである。
【図6】実施の形態に係る呼吸量の変化を示す図である。
【図7】変更例に係る電気刺激の付与タイミングの設定方法を説明する図である。
【図8】変更例に係るΔTとΔIを取得するための処理を示すフローチャートおよび電極ユニットの制御を示すフローチャートである。
【図9】変更例に係る電極ユニットの制御を示すフローチャートである。
【図10】変更例に係る電極ユニットの駆動タイミングを模式的に示す図である。
【図11】変更例に係る電極ユニットの制御を示すフローチャートおよび制御ユニットの表示部と入力部を示す図である。

【0023】
ただし、図面はもっぱら説明のためのものであって、この発明の範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施の形態は、適切に嚥下を発生させるための嚥下補助装置に本発明を適用したものである。以下、本実施の形態に係る嚥下補助装置1について、図面を参照して説明する。

【0025】
以下に示す実施の形態において、圧力センサ24は、請求項に記載の「呼吸検出部」に相当する。表示部26と入力部27は、請求項に記載の「受付部」に相当する。電極ユニット4は、請求項に記載の「付与ユニット」に相当する。ただし、上記請求項と本実施の形態との対応の記載はあくまで一例であって、請求項に係る発明を本実施の形態に限定するものではない。

【0026】
図1は、本実施の形態に係る嚥下補助装置1の外観構成を示す図である。嚥下補助装置1は、制御ユニット2と、鼻カニューレ3と、電極ユニット4から構成されている。

【0027】
制御ユニット2は、表示部26と入力部27を備えており、患者が常時装用できるように、小さく且つ軽量に構成される。ユーザは、表示部26の表示を確認しながら、入力部27により制御ユニット2に指示を入力する。入力部27は、ボタンや調整つまみにより構成される。

【0028】
鼻カニューレ3は、一対の筒状部材を有する装着部31と、装着部31の両端に接続されたチューブ32と、チューブ32の先端に設置された接続部33を備えている。装着部31の一対の筒状部材は患者の鼻腔に挿入され、接続部33は制御ユニット2に接続される。これにより、患者が呼吸を行うとチューブ32内の空気が流動し、チューブ32内の空気の流動が、制御ユニット2内の圧力センサ24(図2参照)により、圧力として検出される。なお、患者が口で呼吸している場合でも、鼻腔と口腔は繋がっているため、チューブ32内の空気が流動し圧力が変化する。

【0029】
電極ユニット4は、薄型で柔軟性を有するパッド41と、ケーブル42と、パッド41に設置された電極43を備えている。電極43は、薄型で柔軟性を有すると共に、プラスとマイナスの極からなる(図2参照)。電極43は、ケーブル42を介して制御ユニット2に接続されている。制御ユニット2によって電極43が駆動されると、電極43のプラスとマイナスの極の間に電流が流れ、嚥下反射が促進される。

【0030】
図2は、制御ユニット2の構成を示す図である。

【0031】
制御ユニット2は、図1に示した表示部26と入力部27に加え、制御部21と、記憶部22と、接続部23と、圧力センサ24と、ドライバ25を備えている。

【0032】
制御部21は、記憶部22に記憶されているコンピュータプログラムを実行し、制御ユニット2の各部を制御する。記憶部22は、制御部21によって実行されるコンピュータプログラムが記憶されており、制御部21によって行われる処理の作業領域としても利用される。

【0033】
接続部23には、鼻カニューレ3の接続部33が接続される。接続部23は、鼻カニューレ3のチューブ32内の空気を圧力センサ24に伝導する。圧力センサ24は、接続部23により伝導された空気の流動を、圧力として検出する。圧力センサ24の検知信号は制御部21に送信される。ドライバ25は、制御部21の制御に基づいて、電極ユニット4の電極43を駆動する。

【0034】
なお、図2の電極ユニット4を用いて電気刺激により嚥下反射を促進させる方法として、上咽頭神経に電気刺激を与える方法や、嚥下筋肉に電気刺激を与える方法等、従来周知の種々の方法を用いることができる。また、図2では、パッド41に一対の電極43が配置されているが、パッド41に配置される電極43の数は、これに限られるものではなく、たとえば、図3(a)に示すように、プラスとマイナスの電極を二対、パッド41に配置する構成を用いることもできる。

【0035】
以下、図3(a)に示すパッド41を用いた嚥下促進方法について説明する。

【0036】
図3(a)を参照して、電極ユニット4のパッド41には、薄型で柔軟性を有すると共に、プラスとマイナスの極(一対の極)からなる電極44と、プラスとマイナスの極(一対の極)からなる電極45が設置されている。パッド41は、電極44、45のプラスとマイナスの極が、甲状軟骨を中心としてX字状に配置されるよう、皮膚に貼着される。電極44、45は、何れも中周波数となるよう駆動され、且つ、電極44、45の周波数の差が低周波数となるよう駆動される。これにより、深部にこれら周波数の差に応じた低周波の干渉波が発生し、この干渉波によって上喉頭神経が刺激される。

【0037】
図3(b)、(c)は、電極44、45の周波数が、2000Hzと2050Hzに設定された場合の、電極44、45に印加される電圧の正弦波信号を模式的に示す図である。このとき、図3(d)の破線に示すように、電極44、45の周波数の差に応じて50Hzの干渉波が発生する。これにより、上喉頭神経を経由して咽頭・喉頭から脳幹へ伝達される求心性信号が増強され、嚥下反射が促進される。このように二対の電極による干渉波を用いると、皮膚の痛みや不快感を抑えながら、効果的に、嚥下を促進させることができる。

【0038】
なお、図2に示すように一対の電極43を用いた場合でも、電極43に印加される駆動信号の波形を調整して、バースト変調交流波とすることにより、図3(a)に示すパッド41を用いる場合と同様の干渉波を上喉頭神経に印加することができる。

【0039】
ここで、図3(a)に示す構成では、電極44、45の周波数は、それぞれ2000~2050Hzに設定される。周波数が500Hzより低く設定されると、皮下の侵害受容器が強く反応して痛みが中枢に伝わり易くなる。他方、周波数が8000Hzより高く設定されると、各々の刺激パルスに対して筋収縮が追随できなくなり、筋収縮が継続した状態となる。このため、電極44、45の周波数は、上記範囲に設定される。

【0040】
また、図3(a)に示す構成では、電極44、45の周波数の差は、10~50Hzに設定される。このように電極44、45の周波数の差が設定されると、嚥下に関連する受容器が強く反応するようになるため、電極44、45による刺激が、有効な求心性(咽頭・喉頭から脳へ向かう)の神経刺激となる。

【0041】
また、図3(a)に示す構成では、電極44、45に対する出力電流は、1~3mAに設定される。このように電極44、45に対する出力電流が設定されると、出力電流が1mAより低く設定される場合に比べて、上喉頭神経まで電流が到達し易くなり、出力電流が3mAより高く設定される場合に比べて、上喉頭神経に対して過剰な刺激が与えられることが抑制される。

【0042】
また、嚥下促進のために図3(b)、(c)に示す電気信号を電極44、45に印加する時間は、100ms~1000msに設定されるのが望ましい。電気信号の印加時間を100ms以上に設定することにより、上喉頭神経が十分に刺激されるようになる。また、電気信号の印加時間を1000ms以下とすることにより、電気信号の印加時間を、呼息相の半分以下の期間に留めることができる。すなわち、一般に、人の呼吸の周期は3秒であり、そのうち、2秒が呼息相、1秒が吸息相であると言われている。したがって、電気信号の印加時間が1000ms(1秒)である場合には、呼息相の略半分の期間において、上喉頭神経が刺激されることになる。このように、電気信号の印加時間の上限を1000msとすると、呼息相の開始直後または開始から短い期間の内に電気信号の印加が開始される場合に、上喉頭神経が刺激される期間を呼息相の前半部分に収め易くなる。これにより、電気信号による刺激により誤嚥が誘発されることを効果的に抑制することができる。なお、電極ユニット4(電極44、45)の駆動制御については、追って図5(b)を参照して説明する。

【0043】
次に、上記電極ユニット4によって嚥下を促進させる場合に、どのようなタイミングで、嚥下を誘発させるのが望ましいかについて、検討する。

【0044】
図4(a)は、呼吸相における若年者と高齢者の嚥下の頻度(%)を示す図である。図4(a)には、臥位と坐位のそれぞれについて、若年者と高齢者における嚥下の発生傾向が示されている。

【0045】
図4(a)を参照すると、若年者では、息を吐いている期間である呼息相において、大半の嚥下が行われていることが分かる。これに対し、高齢者では、若年者に比べて息を吸っている期間である吸息相において嚥下が行われる頻度が顕著に高まることが分かる。このように、高齢者では、吸息相において嚥下が行われる頻度が高まるため、若年者に比べて誤嚥が起こり易くなる。このため、高齢者において、誤嚥による肺炎、すなわち、誤嚥性肺炎に罹るリスクが高まると言える。

【0046】
一般に、誤嚥性肺炎の患者は、嚥下の誘発閾値が高いこと、すなわち、嚥下の反射が起こりにくいことが知られている。したがって、誤嚥性肺炎を抑制するためには、嚥下の反射を誘発させることが効果的であると考えられる。

【0047】
しかしながら、就寝の期間等において、患者に単調に嚥下を誘発させ続けると、たとえば、患者が息を吸っている吸息相においても、嚥下が誘発されることとなる。しかしながら、吸息相において嚥下が起こると、嚥下により飲み込まれたものが吸気とともに気管に入る危険性が高まり、却って誤嚥が生じるリスクが高まることも考えられ得る。したがって、患者に嚥下を誘発させる場合には、息が吐かれている呼息相において、嚥下を誘発させる必要がある。

【0048】
さらに、嚥下の誘発タイミングを決定するにあたり検討を要する事項として、嚥下が開始されてから吸息が開始されるまでの時間が挙げられる。すなわち、息が吐かれている呼息相において嚥下が誘発されても、嚥下が開始されてから吸息が開始されるまでの時間が短いと、嚥下と吸息とが連続し易くなり、誤嚥が生じる可能性が高まることとなる。したがって、患者に嚥下を誘発させる場合には、さらに、嚥下開始から吸息開始までの時間に基づいて、嚥下を誘発させるタイミングを設定する必要がある。

【0049】
図4(b)は、嚥下の起きるタイミングと、嚥下から次の吸息までの潜時との関係を示す図である。

【0050】
図4(b)を参照すると、呼吸相のどのタイミングで嚥下が生じたかによって、嚥下が生じてから次の吸息までの時間が異なることが分かる。呼息相においては、吸息相から呼息相に切り替わるタイミングにおいて嚥下が起きた場合に、次の吸息までの潜時が最も長くなり、呼息相の約2/3のタイミングにおいて嚥下が起きた場合に、次の吸息までの潜時が最も短くなることが分かる。したがって、嚥下を誘発させる場合には、呼息相の2/3付近を除くタイミングで嚥下を誘発させるのが望ましい。

【0051】
以上の検討から、誤嚥が起こりにくい嚥下誘発のタイミングは、呼息相前半であると考えられる。この検討結果に基づいて、本実施の形態では、呼息相前半の所定のタイミングにおいて、電極ユニット4による電気的な刺激が患者に付与されるよう、電極ユニット4が制御される。ここでは、呼息相前半に含まれる呼息がピークとなるタイミングにおいて、電気的な刺激が患者に付与されるよう、電極ユニット4が制御される。

【0052】
以下、図5(a)、(b)と図6を参照して、電極ユニット4の制御について説明する。図5(a)、(b)の制御処理では、呼息相の前半に含まれる呼息がピークとなるタイミングにおいて、電極ユニット4による電気的な刺激が患者に付与され、嚥下が誘発される。

【0053】
図5(a)は、電極ユニット4を駆動するタイミングを決定するための値ΔTを取得する処理を示すフローチャートであり、図5(b)は、値ΔTを用いた電極ユニット4の制御を示すフローチャートである。図5(a)、(b)の制御は、並行して行われる。また、図6は、呼吸量の変化を示す図である。縦軸は、圧力センサ24の検出信号を示しており、正の値と負の値が、それぞれ呼気と吸気を示している。横軸は、時間の経過(秒)を示している。

【0054】
図5(a)を参照して、制御ユニット2の制御部21は、制御ユニット2による嚥下補助動作が開始されると、記憶部22に記憶した変数nの値を1に設定する(S11)。続いて、制御部21は、呼息相が開始したかを判定する(S13)。この判定では、たとえば、図6に示すように、検出信号が、マイナスのピークから次第に増加してゼロとなったことにより、呼息相が開始したと判定される。

【0055】
呼息相が開始すると(S12:YES)、制御部21は、呼息相の開始時刻Tn1を取得する(S13)。これにより、たとえば、変数nが1のときの呼息相の開始時刻T11(図6参照)が取得される。

【0056】
次に、制御部21は、検出信号がプラスのピークとなったかを判定する(S14)。検出信号がプラスのピークとなると(S14:YES)、制御部21は、検出信号がプラスのピークとなった時刻Tn2を取得する(S15)。これにより、たとえば、変数nが1のとき、時刻T12(図6参照)が取得される。

【0057】
こうして、時刻Tn1、Tn2が取得されると、制御部21は、時刻Tn1、Tn2の差分ΔTnを記憶部22に記憶する(S16)。これにより、たとえば、変数nが1のときの差分ΔT1(図6参照)が記憶される。

【0058】
次に、制御部21は、変数nの値が5以上であるかを判定する(S17)。変数nの値が5より小さいと(S17:NO)、制御部21は、S18をスキップさせ、変数nの値に1を加算する(S19)。こうして、処理がS12に戻され、S12~S19の処理が繰り返し行われる。

【0059】
これにより、変数nの値に1が加算されるごとに、変数nの値に応じた差分ΔTnが記憶される。たとえば、図6に示すように、時刻T21、T22の差分ΔT2と、時刻T31、T32の差分ΔT3と、時刻T41、T42の差分ΔT4と、時刻T51、T52の差分ΔT5が、順に記憶部22に記憶される。

【0060】
こうして、変数nの値が5に到達すると(S17:YES)、制御部21は、差分ΔTn-4~差分ΔTnの平均値ΔTを求め、求めた平均値ΔTを記憶部22に記憶する(S18)。そして、制御部21は、変数nの値に1を加算して(S19)、処理をS12に戻し、S12~S19の処理を繰り返し実行する。すなわち、変数nが5のとき、差分ΔT1~ΔT5の平均値ΔTが取得される。

【0061】
こうして取得された平均値ΔTは、現在の呼息相と、現在から4回前までの各呼息相とにおける、呼息開始から呼息がピークになるまでの時間の平均時間である。

【0062】
続いて、変数nの値が5より大きくなると、変数nの値に1が加算される毎に、S12~S18の処理により、平均値ΔTが再計算される。再計算された平均値ΔTは、その時の呼息相と、この呼息相から4回前までの各呼息相とにおける、呼息開始から呼息がピークになるまでの時間の平均時間である。こうして、各呼息相について、随時、平均値ΔTが取得される。

【0063】
図5(b)を参照して、制御ユニット2の制御部21は、記憶部22に記憶した変数nの値が5より大きいかを判定する(S21)。変数nの値が5より大きいと(S21:YES)、S22~S26の処理が開始される。

【0064】
変数nの値が5を超えると(S21:YES)、制御部21は、S12と同様にして呼息相が開始したかを判定する(S22)。呼息相が開始すると(S22:YES)、制御部21は、この時点で、図5(a)のS18において記憶された最新の平均値ΔTを用いて、呼息相の開始から平均値ΔTだけ時間が経過したか否かを判定する(S23)。この平均値ΔTは、この時点の呼息相の直前の呼息相から5回前までの呼息相の差分ΔTn(呼息開始から呼息ピークまでの時間)の平均値である。

【0065】
呼息相の開始から平均値ΔTだけ時間が経過すると(S23:YES)、そのタイミングにおいて、制御部21は、電極ユニット4の駆動を開始する(S24)。そして、制御部21は、その後、嚥下を促進するための時間として予め設定された所定時間が経過するまで、電極ユニット4の電極44、45に対し、たとえば、図3(b)、(c)に示す駆動電圧の印加を継続する。

【0066】
ここで、所定時間は、少なくとも、電気刺激が呼息相の終了時点よりも早く終了されるように設定され、より望ましくは、電気刺激が呼息相の2/3付近よりも早く終了するように設定される。本実施の形態では、所定時間は、呼息相の2/3付近よりも早く終了するように設定される。

【0067】
そして、所定時間が経過すると(S25:YES)、電極ユニット4の駆動を停止する(S26)。こうして、処理がS22に戻され、次の呼息相について、S22~S26の処理が繰り返し行われる。その後、同様に、随時到来する各呼息相に対して、S22~S26の処理が繰り返される。

【0068】
図5(a)、(b)のフローチャートでは、呼息相が開始してから、呼息がピークとなるタイミング(平均値ΔT)が、その時点から5回前までの差分ΔTnに基づいて予測される。たとえば、変数nが6の場合、図6に示すように、呼息相の開始時刻T61が取得されると、このタイミングから平均値ΔT(差分ΔT1~ΔT5の平均値)だけ時間が経過したタイミングが、呼息がピークとなるタイミングと予測され、そのタイミングにおいて電極ユニット4の駆動が開始される。

【0069】
以上、本実施の形態によれば、呼息相前半までの期間、すなわち、呼息相のうち誤嚥がより一層起こりにくいとされる期間において、電極ユニット4の駆動が行われ、嚥下が促進される。このように、誤嚥が起こりにくいとされる期間においてのみ電極ユニット4の駆動が行われるため、呼吸相の全体に亘って連続的に電極ユニット4の駆動が行われる場合に比べて、より効果的に誤嚥を防ぐことができる。また、この期間においてのみ電極ユニット4の駆動が行われるため、吸息相において嚥下が発生し易いために生じる高齢者の誤嚥を、効果的に防ぐことができる。したがって、本実施の形態によれば、誤嚥を防ぎながら、適切に、患者の嚥下を補助することができる。

【0070】
具体的には、本実施の形態によれば、以下の効果が奏され得る。

【0071】
呼息期間において電気刺激の付与が開始されるとともに、当該呼息期間において電気刺激の付与が終了される。これにより、息を吐く呼息期間において嚥下が促進されるため、促進された嚥下によって誤嚥が生じる可能性が低く抑えられるため、誤嚥を効果的に抑制することができる。

【0072】
また、電気刺激の付与を開始するタイミングが呼息相の前半部分に含まれる。これにより、図4(b)を参照して説明したように、誤嚥が生じる可能性を、効果的に抑制することができる。さらに、呼息がピークとなるタイミングにおいて電気刺激の付与が開始される。これにより、誤嚥が生じる可能性を、より効果的に抑制することができる。

【0073】
また、電気刺激の付与を終了するタイミングが呼息相の前半2/3のタイミングよりも早期となるように設定される。これにより、電気刺激の付与が行われる期間が、嚥下が起きたあと次の吸息までの潜時が最も短くなる時間に掛からなくなるため、促進された嚥下によって誤嚥が生じる可能性を、より効果的に抑制することができる。

【0074】
なお、上述したように、電気刺激の付与を開始するタイミングから電気刺激の付与を終了するタイミングまでの時間(所定時間)は、100ms~1000msとなるよう設定されるのが望ましい。これにより、上喉頭神経が十分に刺激されるようになる。また、呼息相の開始直後または開始から短い期間の内に電気信号の印加が開始される場合に、上喉頭神経が刺激される期間を呼息相の前半部分に収め易くなり、電気刺激により誤嚥が誘発されることを効果的に抑制することができる。

【0075】
また、本実施の形態によれば、図2または図3(a)に示す電極ユニット4は、プラスの極とマイナスの極を対とする電極を備え、上喉頭神経に電気的な刺激が付与されるよう、皮膚に付着される。これにより、電極ユニット4を、簡便に、対象部位に付設することができる。

【0076】
また、本実施の形態によれば、図3(a)に示す電極ユニット4のパッド41には、電極44、45が設置されており、電極44、45には、異なる周波数の電気信号が印加される。これにより、深部にこれら周波数の差に応じた低周波の干渉波が発生し、この干渉波によって上喉頭神経が刺激される。そして、上喉頭神経を経由して咽頭・喉頭から脳幹へ伝達される求心性信号が増強され、嚥下反射が促進される。よって、このように2対の電極による干渉波を用いると、皮膚の痛みや不快感を抑えながら、効果的に、嚥下を促進させることができる。

【0077】
また、本実施の形態によれば、電極ユニット4の駆動は、駆動が開始されてから所定時間が経過すると停止され、その後、次に呼息相が開始してからΔTだけ経過するタイミングまで停止された状態が維持される。これにより、電極ユニット4の駆動が呼吸相の全体に亘って連続的に行われる場合に比べて、電気的な刺激による違和感や苦痛が抑制され、患者の負担が低減される。

【0078】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も上記以外に種々の変更が可能である。

【0079】
たとえば、上記実施の形態では、呼息相の期間うち、呼息がピークとなるタイミングにおいて、電気刺激の付与が開始され、患者に嚥下を誘発させるようにしたが、電気刺激が付与されるタイミングは、これに限られるものではない。たとえば、図7(a)に示すように、呼息相の開始時点から、呼息相の期間P1のうち所定の割合α(たとえば1/3)に相当する時間ΔTαが経過したタイミングにおいて、電気刺激の付与が開始されても良い。この場合も、上記実施の形態と同様、現時点の呼息相に対し5回前までの各呼息相について求めた時間ΔTαの平均値が、現時点の呼息相に対する時間ΔTαとして用いられ得る。

【0080】
あるいは、図7(b)に示すように、呼息相の開始時点から、呼吸相の期間P2のうち所定の割合β(たとえば1/8)に相当する時間ΔTβが経過したタイミングにおいて、電気刺激の付与が開始されても良い。この場合も、上記実施の形態と同様、現時点の呼吸相に対し5回前までの各呼吸相について求めた時間ΔTβの平均値が、現時点の呼吸相に対する時間ΔTβとして用いられ得る。

【0081】
なお、図7(b)に示すように時間ΔTβが決定される場合には、呼息相の開始から時間ΔTβが経過したタイミングが、少なくとも、呼息相の期間に含まれるように、比率βが設定される。また、図7(a)、(b)に示すように時間ΔTα、時間ΔTβが決定される場合には、呼息相の開始から時間ΔTα、ΔTβが経過したタイミングが、呼息相の前半の期間に含まれるように、比率α、βが設定されるのが望ましい。

【0082】
また、上記実施の形態では、電気刺激が付与される時間は、予め設定された所定時間とされたが(図5(b)のS25参照)、これに限らず、吸息相が開始されるタイミングに基づいて決定されるようにしても良い。

【0083】
図8(a)、(b)は、この場合の電極ユニット4の制御を示すフローチャートである。この場合、上記実施の形態において、図5(a)、(b)の処理に代えて、それぞれ、図8(a)、(b)の処理が行われる。図8(a)は、図5(a)に対して、S101~S104が追加されており、図8(b)は、図5(b)に対して、S111が追加されている。

【0084】
図8(a)を参照して、制御部21は、差分ΔTnを記憶した後、吸息相が開始したかを判定する(S101)。この判定では、たとえば、図6に示すように、検出信号が、次第に減少してゼロとなったことにより、吸息相が開始したと判定される。吸息相が開始すると(S101:YES)、制御部21は、吸息相の開始時刻Tn3を取得し(S102)、時刻Tn1、Tn3の差分ΔInを記憶部22に記憶する(S103)。こうして、変数nの値が5に到達すると(S17:YES)、制御部21は、差分ΔIn-4~差分ΔInの平均値ΔIを求め、求めた平均値ΔIを記憶部22に記憶する(S104)。

【0085】
図8(b)を参照して、呼息相の開始から平均値ΔTだけ時間が経過すると(S23:YES)、制御部21は、嚥下促進のため、電極ユニット4の電極44、45に対する駆動電圧の印加を開始し(S24)、その後、平均値ΔIに所定の割合Rを乗算した時間が呼息相の開始から経過するまでの期間、電極ユニット4の電極44、45に対する駆動電圧の印加を継続する(S111)。ここで、Rは、0<R<1として設定され、より望ましくは、電気刺激が呼息相の2/3付近よりも早く終了するように設定される。このように電気刺激が付与される時間が設定されると、誤って吸息相で電気刺激が付与されることを防止することができる。

【0086】
なお、ここでは、平均値ΔIの割合Rを乗じた時間が電気刺激の印加期間の終期とされたが、これに代えて、平均値ΔIから所定の時間Δtを減じた時間が電気刺激の印加期間の終期とされても良い。これによっても、電気刺激の印加時間が吸息相に掛ることが防止され得る。なお、この場合も、時間Δtは、電気刺激が呼息相の2/3付近よりも早く終了するように設定されることが望ましい。

【0087】
また、上記実施の形態では、現時点の呼息相に対し5回前までの各呼息相について求めた差分ΔTnの平均値が、現時点の呼息相に対する時間ΔTとして設定されたが、平均化の対象とされる呼息相の範囲は、現時点の呼息相に対し5回前までの呼息相に限られず、現時点の呼息相に対し10回前までの呼息相等、他の範囲に設定されても良い。また、時間ΔTを求める方法は、平均化に限らず、他の方法が用いられても良い。

【0088】
また、上記実施の形態では、5回前までの各呼息相における差分ΔTnに基づいて平均値ΔTが求められ、今回の呼息相の開始から平均値ΔTだけ時間が経過したタイミングで、電極ユニット4の駆動が開始された。しかしながら、これに限らず、今回の呼息相の開始から、図9(a)に示すように、固定の時間ΔTfだけ時間が経過したタイミングで、電極ユニット4の駆動が開始されるようにしても良い。この場合の時間ΔTfは、たとえば、一般的に呼息がピークとなるタイミングに基づいて、予め設定される。

【0089】
図9(a)は、この場合の電極ユニット4の制御を示すフローチャートである。この場合、上記実施の形態において、図5(a)の処理が省略され、図5(b)の処理に代えて、図9(a)の処理が行われる。図9(a)では、図5(b)の処理から、S21が省略され、S23に代えてS121が追加されている。この場合、呼息相が開始すると(S22:YES)、制御部21は、記憶部22に記憶している固定の時間ΔTfだけ時間が経過したかを判定する(S121)。呼息相の開始から時間ΔTfだけ時間が経過すると(S121:YES)、上記実施の形態と同様に電極ユニット4が駆動される(S24~S26)。なお、S25における所定時間は、上記実施の形態と同様、少なくとも、電気刺激が呼息相の終了時点よりも早く終了されるように設定され、より望ましくは、電気刺激が呼息相の2/3付近よりも早く終了するように設定される。また、この変更例においても、図8(a)、(b)の場合と同様、吸息相の開始タイミングに基づいて、電気刺激の終期が設定されても良い。

【0090】
また、呼息相が開始した直後に、電極ユニット4が駆動され、患者に対する電気刺激の付与が開始されても良い。

【0091】
図9(b)は、この場合の電極ユニット4の制御を示すフローチャートである。この場合、上記実施の形態において、図5(a)の処理が省略され、図5(b)の処理に代えて、図9(b)の処理が行われる。図9(b)では、図5(b)の処理から、S21、S23が省略されている。この場合、呼息相が開始すると(S22:YES)、制御部21は、すぐに電極ユニット4の駆動を開始する(S24)。そして、上記実施の形態と同様に電極ユニット4が駆動される(S25、S26)。

【0092】
なお、この変更例においても、S25における所定時間は、上記実施の形態と同様、少なくとも、電気刺激が呼息相の終了時点よりも早く終了されるように設定され、より望ましくは、電気刺激が呼息相の2/3付近よりも早く終了するように設定される。上述のように呼息相は一般に2000ms程度であるため、吸息相で電極ユニット4の駆動が行われないためにも、この場合のS25の所定時間は、少なくとも2000ms以下に設定される。さらに、この場合のS25の所定時間は、上述したように、100ms~1000msに設定されるのが望ましい。所定時間を1000ms以下とすると、呼息相の1/2付近よりも早く電極ユニット4の駆動が停止することになる。これにより、呼息相において次の吸息までの潜時が最も短い約2/3のタイミングを確実に避けることができる。また、所定時間を100ms以上とすることで、確実に上喉頭神経に刺激を与えることができる。なお、この変更例においても、図8(a)、(b)の場合と同様、吸息相の開始タイミングに基づいて、電気刺激の終期が設定されても良い。

【0093】
また、上記実施の形態では、呼息がピークとなるタイミングが、過去の差分ΔTnに基づいて予測されたが、これに代えて、呼息のピークを検出したタイミングで、電気刺激の付与が開始されても良い。

【0094】
図9(c)は、この場合の電極ユニット4の制御を示すフローチャートである。この場合、上記実施の形態において、図5(a)の処理が省略され、図5(b)の処理に代えて、図9(c)の処理が行われる。図9(c)では、図5(b)の処理から、S21が省略され、S22、S23に代えてS131が追加されている。この場合、制御部21は、検出信号がプラスのピークとなったか否かを判定する(S131)。検出信号がプラスのピークとなると(S131:YES)、直ちに電極ユニット4の駆動が開始される(S24)。そして、上記実施の形態と同様に電極ユニット4が駆動される(S25、S26)。なお、この変更例においても、S25における所定時間は、上記実施の形態と同様、少なくとも、電気刺激が呼息相の終了時点よりも早く終了されるように設定され、より望ましくは、電気刺激が呼息相の2/3付近よりも早く終了するように設定される。また、この変更例においても、図8(a)、(b)の場合と同様、吸息相の開始タイミングに基づいて、電気刺激の終期が設定されても良い。

【0095】
図9(c)の変更例では、実際に呼息がピークとなったタイミングと、処理により呼息のピークが検出されたタイミングとの間に、処理によるタイムラグ(遅れ)が生じることが想定され得る。このタイムラグが大きいと、たとえば、呼息相の後半において、電気刺激が開始され、嚥下が誘発されることが起こり得る。このため、このような事態を避けるためには、上記実施の形態のように、呼息がピークとなるタイミングを、過去の差分ΔTnに基づいて予測するのが望ましい。なお、このようなタイムラグが問題とならない場合、図9(c)に示すように電極ユニット4の制御を行うことにより、制御処理の簡素化を図ることができる。

【0096】
ところで、上記実施の形態では、患者に嚥下補助装置1が装着され、嚥下補助装置1が作動されると、作動後から作動が停止されるまでの全期間に亘って定常的に、電気刺激が患者に付与されることが想定されている。しかし、これに限らず、作動後から作動が停止されるまでの期間において、電気刺激が患者に付与される期間と、電気刺激が患者に付与されない期間とが交互に設定されるよう、電極ユニット4が制御されても良い。

【0097】
図10(a)、(b)は、この場合の電極ユニット4の駆動タイミングを模式的に示す図である。上記実施の形態では、図10(a)に示すように、呼息相の開始から平均値ΔTだけ時間が経過すると、所定の時間(図10(a)ではTa)だけ電極ユニット4に電圧が印加される。なお、時間Taに対応する期間においては、図3(b)、(c)を参照して説明したように、電極44、45に正弦波信号が印加される。そして、この変更例では、図10(b)に示すように、図10(a)に示す電気刺激が、時間Ts1だけ行われ、時間Ts1が経過すると、その後、時間Ts2の間は、電気刺激が停止される。なお、時間Ts1、Ts2は、それぞれ、たとえば60分と30分に設定される。

【0098】
図11(a)は、この場合の電極ユニット4の制御を示すフローチャートである。嚥下補助装置1が作動されると、制御部21は、電極ユニット4による電子刺激動作を開始する(S201)。これにより、電極ユニット4は、図5(a)、(b)に示すように制御される。そして、電極ユニット4による電子刺激動作が開始されてから時間Ts1が経過すると(S202:YES)、制御部21は、電極ユニット4による電子刺激動作を停止する(S203)。これにより、図5(a)、(b)に示す電極ユニット4の制御は停止される。そして、電極ユニット4による電子刺激動作が停止されてから時間Ts2が経過すると(S204:YES)、制御部21は、処理をS201に戻す。こうして、図5(a)、(b)に示すような電極ユニット4の駆動が、周期的に行われることになる。

【0099】
なお、時間Ts1、Ts2は、ユーザにより適宜設定されるようにしても良い。この場合、たとえば、図11(b)に示すように、制御ユニット2の表示部26に表示される設定画面に、時間Ts1、Ts2を設定するための入力ボックスが含まれ、入力部27のボタンを操作することにより、入力ボックスの時間Ts1、Ts2が変更される。こうすると、患者の嚥下機能に応じて、時間Ts1、Ts2を任意に設定することができる。

【0100】
また、この変更例では、時間Ts1、Ts2が、それぞれ、嚥下補助装置1の全作動期間において一定であったが、嚥下補助装置1が作動された後、時間Ts1、Ts2が変化するように制御が行われても良い。たとえば、嚥下補助装置1が作動された後、時間の経過とともに、電気刺激が印加される時間Ts1が減少するような制御が行われても良い。より詳細には、嚥下補助装置1が作動された直後の時間Ts1が60分に設定された場合、制御部21は、その後、電気刺激の付与期間が所定回数(たとえば3回)到来するまでは、時間Ts1を60分として電極ユニット4を駆動し、その後は、電気刺激の付与期間が到来する度に、時間Ts1を、所定時間(たとえば10分)だけ減少させて電極ユニット4を駆動する。こうすると、治療による患者の嚥下機能の回復に合わせて、電気刺激の度合いを減少させることができる。

【0101】
このように、電極ユニット4が、交互に、動作状態と非動作状態となるよう制御されると、電気刺激による患者の負担を軽減できる可能性がある。また、上喉頭神経が電気刺激により順化することを抑制し、電気刺激による嚥下の促進効果が高められる可能性がある。

【0102】
また、上記実施の形態では、嚥下補助装置1は、人間の患者に対して用いられたが、動物に対して用いられても良い。

【0103】
また、上記実施の形態では、患者の呼吸を検出するために鼻カニューレ3が用いられたが、これに限らず、チューブを有するマスク、口腔や気管に挿入されたカテーテル、呼吸による空気の流動を伝導するための他のデバイスであっても良い。また、患者の呼吸を検出するために、呼吸による空気の流動を検出するのでなく、患者の胸部の体積変化を検出するようにしても良く、患者の呼吸音により検出するようにしても良い。

【0104】
なお、上記実施の形態では、鼻カニューレ3が嚥下補助装置1の構成要素として含まれたが、特許請求の範囲に記載の嚥下補助装置は、必ずしも、鼻カニューレ等、呼吸を検出するために患者に直接装着される器具は必須の構成要素ではない。すなわち、特許請求の範囲に記載の嚥下補助装置は、鼻カニューレ等の器具を含む取引形態の他、鼻カニューレ等の器具を含まない取引形態にも、直接適用されるものである。

【0105】
また、上記実施の形態では、電極43が設置されたパッド41が、患者の頸部の皮膚表面に貼着されたが、これに限らず、電極43が頸部に対して皮下的に配置されても良い。

【0106】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明にかかる嚥下補助装置は、優れた嚥下促進機能を有しており、医療機器の分野において利用可能なものである。
【符号の説明】
【0108】
1 … 嚥下補助装置
21 … 制御部
24 … 圧力センサ(呼吸検出部)
26 … 表示部(受付部)
27 … 入力部(受付部)
4 … 電極ユニット(付与ユニット)
43~45 … 電極
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10