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明細書 :難聴が生じにくいモデル動物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成28年8月18日(2016.8.18)
発明の名称または考案の名称 難聴が生じにくいモデル動物
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
A01K 67/027
C12Q 1/68 Z
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
G01N 33/68
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 16
出願番号 特願2014-535613 (P2014-535613)
国際出願番号 PCT/JP2013/074940
国際公開番号 WO2014/042262
国際出願日 平成25年9月13日(2013.9.13)
国際公開日 平成26年3月20日(2014.3.20)
優先権出願番号 2012202027
優先日 平成24年9月13日(2012.9.13)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ
発明者または考案者 【氏名】鈴木 淳
【氏名】大隅 典子
【氏名】高田 雄介
【氏名】大和田 祐二
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000176、【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B024
4B063
Fターム 2G045AA29
2G045AA40
2G045DA36
4B024AA11
4B024BA80
4B024CA02
4B024HA12
4B063QA05
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ43
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
要約 本発明は、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子のノックアウト動物を作製することによって、難聴が生じにくいモデル動物を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
難聴が生じにくいモデル動物であって、
脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子のノックアウト動物であることを特徴とするモデル動物。
【請求項2】
前記難聴が加齢性難聴であって、
加齢性難聴の発症または進行が遅延する、請求項1に記載のモデル動物。
【請求項3】
前記難聴が騒音性難聴であって、
騒音性難聴が低減する、請求項1に記載のモデル動物。
【請求項4】
請求項1に記載のモデル動物において、加齢に従って聴力を測定する方法。
【請求項5】
請求項1に記載のモデル動物において、音響暴露後に聴力を測定する方法。
【請求項6】
加齢性難聴に関与する遺伝子のスクリーニング方法であって、
請求項1に記載のモデル動物において、正常な加齢性難聴を生じる動物と異なる発現を示す遺伝子を検索する工程を含む方法。
【請求項7】
騒音性難聴に関与する遺伝子のスクリーニング方法であって、
請求項1に記載のモデル動物において、正常な騒音性難聴を生じる動物と異なる発現を示す遺伝子を検索する工程を含む方法。
【請求項8】
転写レベルでの発現、又はタンパク質レベルでの発現を指標に検索することを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
加齢性難聴のマーカーとなる物質のスクリーニング方法であって、
請求項1に記載のモデル動物において、正常な加齢性難聴を生じる動物と異なる量または濃度を示す化合物を検索する工程を含む方法。
【請求項10】
騒音性難聴のマーカーとなる物質のスクリーニング方法であって、
請求項1に記載のモデル動物において、正常な騒音性難聴を生じる動物と異なる量または濃度を示す化合物を検索する工程を含む方法。
【請求項11】
加齢性難聴の発症または進行が遅延するモデル動物の作製方法であって、
動物個体において、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子の発現を抑制することを特徴とする作製方法。
【請求項12】
騒音性難聴が低減するモデル動物の作製方法であって、
動物個体において、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子の発現を抑制することを特徴とする作製方法。
【請求項13】
ヒト以外の脊椎動物において、加齢性難聴の発症または進行を遅延させる方法であって、
前記脊椎動物において、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子の発現を抑制することを特徴とする方法。
【請求項14】
ヒト以外の脊椎動物において、騒音性難聴を低減させる方法であって、
前記脊椎動物において、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子の発現を抑制することを特徴とする方法。
【請求項15】
加齢性難聴の発症または進行を遅延させる化合物のスクリーニング方法であって、
候補となる化合物が脂肪酸結合タンパク質7型の発現を阻害するかどうかを検出する工程を含むスクリーニング方法。
【請求項16】
騒音性難聴を低減させる化合物のスクリーニング方法であって、
候補となる化合物が脂肪酸結合タンパク質7型の発現を阻害するかどうかを検出する工程を含むスクリーニング方法。
【請求項17】
加齢性難聴のマーカーである、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子であるマーカー。
【請求項18】
騒音性難聴のマーカーである、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子であるマーカー。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、難聴が生じにくいモデル動物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸結合タンパク質7型(fatty acid binding protein7:Fabp7)は、DHAなどの不飽和脂肪酸に結合し、脂肪酸の細胞内輸送を行う脂肪酸結合タンパク質の一つである(Nature reviews Drug discovery. 2008;7(6):489-503.)。Fabp7は、脳で高レベルに発現し、神経幹細胞の増殖や維持に関与しているとされる(Stem Cells. 2012;30(7):1532-43.)。また、内耳の蝸牛(cochlea)では、蝸牛神経節(spiral ganglion)における衛星細胞(satellite cell)、コルチ器(organ of Corti)における支持細胞(supporting cell)、らせん板縁(spiral limbus)やらせん靭帯(spiral ligament)における線維細胞(fibrocytes)で発現が検出されているが、これらの組織におけるFabp7の機能は明らかではない(Annals of anatomy. 2010;192(4):210-4.)。
【0003】
一方、これまで、加齢性難聴の遺伝学的研究においては、特定の遺伝子の欠損により先天性の難聴をきたす、または加齢性難聴の進行が加速するという表現型を示す報告は数多く存在している。一方、ある特定の遺伝子を欠損させたノックアウトマウスで加齢性難聴の発症や進行が遅れたという報告は非常に珍しく、アポトーシス促進タンパクの一種であるBak遺伝子のノックアウトマウスで加齢性難聴の発症が有意に予防された(Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Nov 17;106(46):19432-7.)という報告など少数である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、難聴が生じにくいモデル動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、Fabp7遺伝子のノックアウトマウスの表現型を解析している時、このマウスでは、加齢性難聴の発症及び進行が遅延することを見出した。組織学的には、老化に伴う蝸牛の変性が軽度な状態に留まり、神経細胞や線維細胞、有毛細胞の脱落が抑制されていた。その上、このノックアウトマウスは、音響暴露にも耐性があり、野生型マウスで生じるような音響暴露後の一過的な聴力閾値の上昇が低減していた。このようにして、本発明者らは、以下の発明を完成させた。
【0006】
本発明の一実施態様は、難聴が生じにくいモデル動物であって、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子のノックアウト動物である。前記難聴が加齢性難聴であって、加齢性難聴の発症または進行が遅延するモデル動物であってもよい。あるいは、前記難聴が騒音性難聴であって、騒音性難聴が低減するモデル動物であってもよい。
【0007】
本発明の他の一実施態様は、上記モデル動物において、加齢に従って聴力を測定する方法である。さらなる一実施態様は、上記モデル動物において、音響暴露後に聴力を測定する方法である。
【0008】
本発明のさらなる一実施態様は、加齢性難聴に関与する遺伝子のスクリーニング方法であって、上記モデル動物において、正常な加齢性難聴を生じる動物と異なる発現を示す遺伝子を検索する工程を含む方法である。さらなる一実施態様は、騒音性難聴に関与する遺伝子のスクリーニング方法であって、上記モデル動物において、正常な音響暴露による難聴を生じる動物と異なる発現を示す遺伝子を検索する工程を含む方法である。これらの方法において、転写レベルでの発現、又はタンパク質レベルでの発現を指標に検索してもよい。
【0009】
本発明のさらなる一実施態様は、加齢性難聴のマーカーとなる物質のスクリーニング方法であって、上記モデル動物において、正常な加齢性難聴を生じる動物と異なる量または濃度を示す化合物を検索する工程を含むスクリーニング方法である。さらなる一実施態様は、騒音性難聴のマーカーとなる物質のスクリーニング方法であって、上記モデル動物において、正常な騒音性難聴を生じる動物と異なる量または濃度を示す化合物を検索する工程を含むスクリーニング方法である。
【0010】
本発明のさらなる一実施態様は、加齢性難聴の発症または進行が遅延するモデル動物の作製方法であって、動物個体において、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子の発現を抑制することを特徴とする作製方法である。さらなる一実施態様は、騒音性難聴が低減するモデル動物の作製方法であって、動物個体において、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子の発現を抑制することを特徴とする作製方法である。
【0011】
本発明のさらなる一実施態様は、ヒト以外の脊椎動物において、加齢性難聴の発症または進行を遅延させる方法であって、前記脊椎動物において、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子の発現を抑制することを特徴とする方法である。さらなる一実施態様は、ヒト以外の脊椎動物において、騒音性難聴を低減させる方法であって、前記脊椎動物において、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子の発現を抑制することを特徴とする方法である。
【0012】
本発明のさらなる一実施態様は、加齢性難聴の発症または進行を遅延させる化合物のスクリーニング方法であって、候補となる化合物が脂肪酸結合タンパク質7型の発現を阻害するかどうかを検出する工程を含む。さらなる一実施態様は、騒音性難聴を低減させる化合物のスクリーニング方法であって、候補となる化合物が脂肪酸結合タンパク質7型の発現を阻害するかどうかを検出する工程を含む。
【0013】
本発明のさらなる一実施態様は、加齢性難聴または騒音性難聴のマーカーであって、脂肪酸結合タンパク質7型遺伝子であるマーカーである。
【0014】
==関連文献とのクロスリファレンス==
本出願は、2012年9月13日付で出願した日本国特許出願2012-202027に基づく優先権を主張するものであり、当該基礎出願を引用することにより、本明細書に含めるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例において、(A)生後2ヶ月の若年野生型マウス(Fabp7 (+/+))、(B)Fabp7ヘテロノックアウトマウス(Fabp7 (+/-))、(C)Fabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))における、Fabp7タンパク質の蝸牛における発現を調べた結果を示す図である。
【図2】本発明の一実施例において、(A)生後12ヶ月の老齢野生型マウス(Fabp7 (+/+))、(B)Fabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))における、Fabp7タンパク質の蝸牛における発現を調べた結果を示す図である。
【図3】本発明の一実施例において、生後12か月の(A~G)老齢野生型マウス(Fabp7 (+/+))、(H~N)Fabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))についての蝸牛の組織学的解析結果、ならびに(O~P)生後12か月および(Q~R)生後15-20ヶ月のFabp7 (+/+)マウス及びFabp7 (-/-)マウスにおける細胞の脱落レベルを示した図である。
【図4】本発明の一実施例において、生後12ヶ月の(A)野生型マウス(Fabp7 (+/+))、(B)Fabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))について、頂回転におけるコルチ器の外有毛細胞(outer hair cell:OHC)数の解析結果、ならびに(C)生後7ヶ月および生後12か月のFabp7 (+/+)マウスおよびFabp7 (-/-)マウスについて、細胞の脱落レベル(%)を示した図である。
【図5】本発明の一実施例において、生後7ヶ月(A)、12ヶ月(B)、15-20ヶ月(C)の野生型マウス(Fabp7 (+/+))、Fabp7ヘテロノックアウトマウス(Fabp7 (+/-))、Fabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))について、聴性脳幹反応(auditory brain-stem response:ABR)を用いて聴力閾値(Hearing threshold)を測定することによって、Fabp7ノックアウトマウスにおける加齢性難聴の発症および/または進行の遅延を示した図である。
【図6】本発明の一実施例において、生後2ヶ月の野生型マウス(Fabp7 (+/+))、Fabp7ヘテロノックアウトマウス(Fabp7 (+/-))、Fabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))について、音響曝露を行って一過性の難聴を引き起こした後、聴性脳幹反応(auditory brain-stem response:ABR)を用いて聴力閾値(Hearing threshold)を測定した結果を示した図である。Aは実験の模式図(ABRの後のアルファベットは、本図の対応するグラフを示す。)、Bは一過性閾値上昇(TTS)実験における音響暴露前の聴力閾値、CはTTS実験における音響曝露4時間後の聴力閾値変化、DはTTS実験における音響曝露7日後の聴力閾値変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。

【0017】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示または説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。

【0018】
==加齢性難聴の発症および/または進行が遅延するモデル動物==
本発明における難聴が生じにくいモデル動物は、脂肪酸結合タンパク質7型(fatty acid binding protein7:Fabp7)遺伝子のノックアウト動物である。ここで、難聴の原因は、特に限定されず、加齢による加齢性難聴であっても、騒音暴露による一過的・長期的・永久的難聴(本明細書では、総じて騒音性難聴と呼ぶ)であってもかまわない。なお、難聴とは、ある周波数の音に対し、有意に聴力が低下することを意味する。

【0019】
この動物においては、加齢性難聴の発症および/または進行が遅れるという表現型が観察されることから、加齢性難聴の発症および/または進行が遅延するモデル動物として用いることができる。なお、加齢性難聴(ヒトでは老人性難聴)とは、老化に伴い進行する両側性の感音難聴のことである。

【0020】
また、音響暴露による聴力閾値の一過的上昇が低減するという表現型が観察されることから、騒音性難聴が低減するモデル動物として用いることができる。

【0021】
<作製方法>
このモデル動物は、動物個体において、Fabp7タンパク質の発現を抑制することによって作製することができる。
ここで、動物の種類は、内耳の蝸牛を有するものであれば、特に限定されず、マウス、ラット、マーモセット、サルなどの実験動物を代表とする脊椎動物などが例示できる。
Fabp7タンパク質の発現を抑制する方法は特に限定されず、内在性遺伝子を破壊するノックアウト法や、siRNAなどを利用したノックダウン法等が例示できる。いずれの方法でも、ほぼ完全に発現を抑制することが好ましい。
Fabp7タンパク質の発現を抑制する組織は、体全体でもよいが、内耳の蝸牛においてのみ、発現を抑制してもかまわない。

【0022】
<利用方法>
このモデル動物を用い、聴覚を司る内耳の蝸牛を解析することにより、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴の発症メカニズムを解明することが期待できる。例えば、マイクロアレイ法によって、正常な加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴を生じる動物と異なる発現を示す遺伝子の候補を探索し、実際に、転写レベル、又はタンパク質レベルでの発現を詳細に調べてFabp7の下流の遺伝子を同定することによって、難聴を生じる遺伝子ネットワーク、とくに、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴の発症および/または進行における遺伝子ネットワークを明らかにすることができる。

【0023】
また、このモデル動物を用い、メタボロミクス解析によって、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴のマーカーとなる物質(特に脂質代謝産物)をスクリーニングすることができる。例えば、このモデル動物において、CE/MS(キャピラリー電気泳動質量分析)法、LC/MS(液体クロマトグラフ質量分析)法、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)法などによって、正常な加齢性難聴を生じる動物と異なる量または濃度を示す化合物を探索し、特定された各化合物について、その血清中の濃度などと加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴との相関を調べることによって、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴のマーカーを同定することができる。得られた化合物は、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴の発症や進行を促進または抑制する物質の候補にもなり得るため、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴の発症や進行を促進または抑制することを確かめることによって、そのような物質をスクリーニングすることができる。

【0024】
このように、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴の発症メカニズムを解明することができれば、そのメカニズムに基づいて、更に、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴の発症予防薬および/または進行遅延薬の開発も期待できる。

【0025】
==加齢性難聴を遅延させる方法==
Fabp7遺伝子のノックアウト動物においては、難聴が生じにくい、特に加齢性難聴の発症ならびにその進行が遅れる、音響暴露による聴力閾値の一過的上昇が低減するという表現型が観察される。従って、ヒトまたはヒト以外の動物において、Fabp7タンパク質の発現や機能を抑制することによって、難聴を生じにくくすること、特に加齢性難聴の発症および/または進行を遅延させることや、音響暴露による聴力閾値の一過的上昇を低減させることができる。ここで、脂肪酸結合タンパク質7型タンパク質の発現を抑制する方法は特に限定されず、siRNAなどを利用したノックダウン法等が例示できる。また、機能を抑制するには、Fabp7タンパク質の活性部位に結合する阻害抗体や低分子化合物などが考えられる。

【0026】
そして、脂肪酸結合タンパク質7型タンパク質の発現を抑制する発現抑制剤や、機能を抑制する機能抑制剤は、難聴特に加齢性難聴や騒音性難聴などの発症予防剤および/または進行遅延剤、として利用できる。具体的には、アンチセンス核酸、siRNA、miRNA、shRNA、アプタマー、機能阻害抗体などが例示できる。そして、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴が生じる前から投与することで、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴の発症を予防することができ、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴が起こっても、その時点から投与することで、加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴の進行を遅延させることができる。

【0027】
投与方法は、その予防剤や遅延剤の有効成分によって異なり、核酸製剤の場合は、注射などによる直接投与が好ましく、低分子化合物の場合は、経口投与などによる間接投与が好ましいが、適宜、投与者が適切な投与方法を選べばよい。

【0028】
==難聴の発症を予防および/または進行を遅延させる化合物のスクリーニング方法==
上述したような加齢性難聴や騒音性難聴などの難聴の発症予防剤および/または進行遅延剤は、Fabp7タンパク質の機能や発現を阻害する化合物をスクリーニングすることによって得られる。候補の化合物が、Fabp7タンパク質の機能または発現を阻害するかどうかを検出するためには、例えば、Fabp7タンパク質を発現している培養細胞に候補の化合物を投与し、Fabp7タンパク質の発現が低下することを検出すればよい。ここで、化合物としては、低分子化合物でもよく、核酸などの高分子化合物でもよい。

【0029】
==加齢性難聴のマーカー==
本発明にかかる加齢性難聴のマーカーは、Fabp7遺伝子である。すなわち、Fabp7遺伝子の発現量またはFabp7タンパク質の発現量を調べることによって、加齢性難聴の発症および/または進行が、正常より早く進むか、遅延するか、あるいは、どの程度、正常より早く進むか、遅延するか、が予測可能になる。また、本発明にかかる騒音性難聴のマーカーは、Fabp7遺伝子である。すなわち、Fabp7遺伝子の発現量またはFabp7タンパク質の発現量を調べることによって、騒音性難聴が、どの程度生じるか、が予測可能になる。

【0030】
その発現量を調べるサンプルは、Fabp7遺伝子またはFabp7タンパク質が発現していれば特に問題なく、蝸牛であっても良いが、非侵襲性からは血液や尿であることが好ましい。
【実施例】
【0031】
(1)Fabp7タンパクの蝸牛における発現
生後2ヶ月(図1)ならびに生後12か月(図2)のFabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))、Fabp7ヘテロノックアウトマウス(Fabp7 (+/-))及び野生型マウス(Fabp7 (+/+))を4%パラホルムアルデヒドで灌流固定し、蝸牛を摘出した。同固定液で浸漬固定し、10%EDTAで脱灰の後、OTCコンパウンドに包埋し凍結切片を作成した。その後、抗Fabp7抗体(Kurtz et al., Development vol.120, p.2637-2649, 1994 )を用いて免疫染色を行った。
【実施例】
【0032】
過去の報告と同様に、Fabp7タンパク質は、蝸牛神経節(spiral ganglion:SG)における衛星細胞(satellite cells)、らせん板縁(spiral limbus:SLim)における線維細胞(fibrocytes)、コルチ器(organ of Corti:OC)における支持細胞(inner phalangeal cell:IPC、outer border cell of Hensen:OBCH)で発現が検出された。
【実施例】
【0033】
図1のA、B、Cは同一条件で染色・撮影したものであり、図1に示すように、Fabp7 (+/+)で認めたFabp7タンパクの発現が、Fabp7 (+/-)では半分程度に減弱し、Fabp7 (-/-)では消失していることが確認された。また、図2に示すように、老齢Fabp7 (+/+)の蝸牛では、若年マウスと同様にFabp7タンパク質が発現していたが、やはりFabp7 (-/-)ではその発現が消失していた。
【実施例】
【0034】
(2)Fabp7ノックアウトマウスにおける線維細胞及び神経細胞の残存
生後12ヶ月ならびに生後15か月のFabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))及び野生型マウス(Fabp7 (+/+))を4%パラホルムアルデヒド(生後12か月)またはブアン固定液(生後15か月)で灌流固定し、蝸牛を摘出した。同固定液で浸漬固定し、10%EDTAで脱灰の後、OTCコンパウンドに包埋し凍結切片を作成した。その後HE染色を行い、内耳形態を評価した。図3A~Nに、生後12ヶ月のマウスにおける全体像、及び、頂回転(apical turn)、中回転(middle turn)、基底回転(basal turn)の各拡大像を示す。
【実施例】
【0035】
生後12ヶ月のFabp7 (+/+)の蝸牛(図3A~G)においては、らせん板縁(spiral limbus:SLim)の線維細胞(fibrocyte)や蝸牛神経節(spiral ganglion:SG)の神経細胞(Neuron)の脱落を認めたが、Fabp7 (-/-)の蝸牛(図3H~N)では軽度であった。
【実施例】
【0036】
次に、ラセン板縁(SLim)における線維細胞及び蝸牛神経節(SG)における神経細胞の細胞数を計測した(図1O~R)。細胞数は、各回転につき1個体あたり3切片を計測し、単位面積(1mm2)当たりの細胞数としてその平均を算出した。ラセン板縁においては、生後12か月の頂回転と生後15か月の基底回転において、Fabp7 (-/-)の線維細胞の細胞数が、Fabp7 (+/+)の細胞数より有意に多く残存していた。蝸牛神経節においては、生後12か月の基底回転と生後15か月の頂回転・中回転で、Fabp7 (-/-)の神経細胞の細胞数が、Fabp7 (+/+)の細胞数より有意に多く残存していた。このように、Fabp7 (-/-)では、老化に伴う蝸牛の変性が軽度な状態にとどまり、神経細胞や線維細胞の脱落が抑制されていた。
【実施例】
【0037】
(3)Fabp7ノックアウトマウスにおける有毛細胞の残存
生後7ヶ月ならびに生後12か月のFabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))及び野生型マウス(Fabp7 (+/+))を4%パラホルムアルデヒドで灌流固定し、蝸牛を摘出した。同固定液で浸漬固定し、10%EDTAで脱灰した。ファロイジン・ローダミンにて有毛細胞を染色した後にコルチ器を摘出し、スライドガラス上にマウントした(surface preparation法)。頂回転における外有毛細胞(outer hair cell)数を測定し、予測される外有毛細胞数(内有毛細胞1個あたり、外有毛細胞は3個存在すると予測される)に対する欠損率を測定した。外有毛細胞10個×3列を一視野とし、3視野以上観察しその平均を算出した。図4Aに、生後12か月のFabp7 (+/+)、図4Bに生後12か月のFabp7 (-/-)マウスの外有毛細胞形態を示す。そして、図4Cに外有毛細胞の欠損率(OHC loss)を示す。
【実施例】
【0038】
Fabp7 (+/+)マウスでは、ランダムに生じる細胞死による細胞の欠損のため、外有毛細胞形態が崩れており(図4A)、Fabp7 (-/-)マウスでは、外有毛細胞形態が整然と並んでいる(図4B)ことが確認された。また、図4Cで示したように、定量的にも、生後7か月、12か月ともに、Fabp7 (-/-)の外有毛細胞の欠損率は、Fabp7 (+/+)の外有毛細胞の欠損率よりも少なかった。このように、Fabp7 (-/-)では、老化に伴う有毛細胞の脱落が抑制された。
【実施例】
【0039】
(4)Fabp7ノックアウトマウスにおける加齢性難聴の発症および/または進行の遅延
生後7ヶ月、12ヶ月、15-20ヶ月のFabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))、Fabp7ヘテロノックアウトマウス(Fabp7 (+/-))及び野生型マウス(Fabp7 (+/+))に対し、聴性脳幹反応(auditory brain-stem response:ABR)を用いて聴力閾値を測定した(図5A~C)。キシラジン・ケタミンにて麻酔を施行したのち、tone burstの刺激音を用いて、4, 8, 12, 16, 32kHzの5周波数で聴力閾値を測定した。
【実施例】
【0040】
生後7ヶ月では、図5Aに示すように、Fabp7 (+/+)では、32kHzという高音域の聴力閾値が上昇していたが、Fabp7 (-/-)では、聴力閾値の上昇は見られなかった。生後12ヶ月では、図5Bに示すように、Fabp7 (+/+)では、音の全域に渡って聴力閾値が上昇していたが、Fabp7 (-/-)では、聴力閾値の上昇は見られず、Fabp7 (+/-)では、野生型個体とホモノックアウト個体の中間レベルで聴力閾値が上昇していた。生後15-20か月では、図5Cに示すように、Fabp7 (-/-)の聴力閾値はFabp7 (+/+)の聴力閾値に比較し全体に低値であったが、特に16、32kHzでは有意に低値に保たれていた。
【実施例】
【0041】
生後12ヶ月の解析結果(図5B)と、Fabp7 (+/-)ではFabp7タンパク質の発現が半分程度に減弱していたという結果(図1A-C)をふまえ、正常なFabp7遺伝子座の数に比例して、聴力の低下を生じることがわかる。従って、Fabp7タンパク質は、加齢性難聴の発症および/または進行のレベルを示す量的マーカーになり得る。
【実施例】
【0042】
(5)Fabp7ノックアウトマウスにおける一過性聴力閾値上昇の低減
本実施例では、生後2ヶ月齢(9-12週齢)のFabp7ノックアウトマウス(Fabp7 (-/-))、及び野生型マウス(Fabp7 (+/+))に対し、音響曝露を行った後、聴性脳幹反応(auditory brain-stem response:ABR)を用いて聴力閾値を測定し、一過性閾値上昇(TTS)を調べた。具体的には、以下の通りである。
【実施例】
【0043】
まず、音響曝露については、無麻酔のマウスを防音箱(特注品、KAWAI)内に設置した金網ケージにいれ、騒音発生装置 (SF-06, RION)、周波数フィルター (3611, NF)、パワーアンプ (D-75A, Crown) およびスピーカー(2446H, JBL)で作成した過大音響を、8-10 kHzのバンドノイズを89 dB SPLの音圧で2時間曝露(A-D)するという条件で曝露した。
【実施例】
【0044】
ABRは、音響曝露前後にキシラジン・ケタミンにてマウスに麻酔したのち、tone burstの刺激音を用いて、4, 8, 12, 16, 32kHzの5周波数で測定した。一過性閾値上昇(TTS)を調べるため、ABRを音響曝露前(B)、曝露4時間後、曝露7日後に測定し、曝露前後の聴力閾値の変化を計算した(C, D)。
【実施例】
【0045】
図6Bに示すように、音響曝露前の状態では、生後2ヶ月齢(9-12週齢)の段階で、すでにFabp7 (+/+)で32kHzの聴力閾値が上昇していたが、Fabp7 (-/-)では、聴力閾値の上昇は見られなかった。その他の周波数では、聴力閾値の差を認めなかった。
【実施例】
【0046】
曝露4時間後においてFabp7 (+/+)の聴力閾値が全音域にわたって上昇していたが、Fabp7 (-/-)では、聴力閾値の上昇が8、12、16、32 kHzで有意に軽度であった(図6C)。曝露7日後においては、Fabp7 (-/-)では全音域にわたって聴力閾値が曝露前同等に改善していたが、Fabp7 (+/+)の32kHzでは聴力閾値の改善が乏しい傾向があった(図6D)。
【実施例】
【0047】
このように、Fabp7の欠損により音響暴露による一過性閾値上昇が低減する。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によって、難聴が生じにくいモデル動物を提供できるようになった。
図面
【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
3
【図3】
4
【図4】
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