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明細書 :神経細胞ネットワークの形成及びその利用、並びに神経細胞播種デバイス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6047579号 (P6047579)
登録日 平成28年11月25日(2016.11.25)
発行日 平成28年12月21日(2016.12.21)
発明の名称または考案の名称 神経細胞ネットワークの形成及びその利用、並びに神経細胞播種デバイス
国際特許分類 C12M   3/00        (2006.01)
C12N   5/0793      (2010.01)
C12M   1/34        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
G01N  27/416       (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
G01N  27/28        (2006.01)
FI C12M 3/00 A
C12N 5/0793
C12M 1/34 B
C12M 1/00 A
C12M 1/00 C
G01N 27/416 300M
G01N 37/00 103
G01N 21/64 F
G01N 27/28 P
請求項の数または発明の数 8
全頁数 38
出願番号 特願2014-536618 (P2014-536618)
出願日 平成25年3月21日(2013.3.21)
国際出願番号 PCT/JP2013/057976
国際公開番号 WO2014/045618
国際公開日 平成26年3月27日(2014.3.27)
優先権出願番号 2012205561
優先日 平成24年9月19日(2012.9.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年2月4日(2015.2.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】宇理須 恒雄
【氏名】ワン ツーホン
【氏名】宇野 秀隆
【氏名】西藤 美穂
【氏名】長岡 靖崇
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087871、【弁理士】、【氏名又は名称】福本 積
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100117019、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 陽一
【識別番号】100150810、【弁理士】、【氏名又は名称】武居 良太郎
【識別番号】100166165、【弁理士】、【氏名又は名称】津田 英直
審査官 【審査官】高山 敏充
参考文献・文献 国際公開第2005/001018(WO,A1)
特開2004-166692(JP,A)
国際公開第2005/116242(WO,A1)
特開2009-204407(JP,A)
国際公開第2007/116978(WO,A1)
特開2009-156572(JP,A)
特表2011-500119(JP,A)
特許第4567936(JP,B2)
特開平07-075547(JP,A)
特開2010-227012(JP,A)
特開2010-227087(JP,A)
特開2011-193758(JP,A)
PNAS,2001年,Vol. 98, No. 18,pp.10457-10462
調査した分野 C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
貫通孔を有する電気絶縁性基板と、当該電気絶縁性基板の第一表面側に形成された第一液溜部と、その反対側である第二表面側に形成された第二液溜部と、第一液溜部及び第二液溜部に導入される導電性液体に対してそれぞれ通電可能に配置された電極部を含む、神経細胞ネットワーク用培養型プレーナーパッチクランプ装置であって、
電気絶縁性基板の第一表面側の貫通孔の周縁に複数の突起部で囲まれた細胞定着部を備え、ここで、複数の突起部が、神経細胞の細胞体を通過させない間隔を有し、そして
電極部が、以下の(a)~(c)
(a)前記液溜部に導電性液体が導入された際にその導電性液体に接することとなる容器壁の少なくとも一部が無機多孔質材料で構成されている電極容器;
(b)上記の電極容器内に収容された、貴金属Nmの表層部にその貴金属の塩化物NmCl層を形成した電極;
(c)上記の電極容器内に充填された、前記貴金属の塩化物NmCl及びアルカリ金属塩化物が飽和濃度で溶解した電極溶液;
を備えることを特徴とする、前記神経細胞ネットワーク用培養型プレーナーパッチクランプ装置。
【請求項2】
前記複数の突起部により規定される細胞定着部の内径が、1~数個の神経細胞の細胞体を収容できるサイズである、請求項1に記載の神経細胞ネットワーク用培養型プレーナーパッチクランプ装置。
【請求項3】
前記細胞定着部を構成する基板面に、細胞外マトリクス形成物質がコーティングされている、請求項1又は2に記載の神経細胞ネットワーク用培養型プレーナーパッチクランプ装置。
【請求項4】
前記電気絶縁性基板上に、複数の貫通孔及び細胞定着部を備え、神経細胞ネットワークの形成を可能にする間隔で細胞定着部が配置される、請求項1~3のいずれか一項に記載の神経細胞ネットワーク用培養型プレーナーパッチクランプ装置。
【請求項5】
前記神経細胞ネットワーク用培養型プレーナーパッチクランプ装置が以下(A)~(C)のいずれかの目的に使用されるものであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の神経細胞ネットワーク用培養型プレーナーパッチクランプ装置。
(A)神経細胞ネットワークにおける神経細胞イオンチャンネル電流の計測・解析に用いる。
(B)少なくとも、Caイメージング解析、前シナプス部位のマーカーであるsynaptophysin又は synapsinの標識によるイメージング解析、樹状突起のマーカーであるMAP2の標識によるイメージング解析、及び、エンドソームやエキソソームを標識するFM1-43又はFM4-64によるイメージング解析を包含するイメージング解析に用いる。
(C)神経細胞ネットワークのハイスループットスクリーニングシステムに用いる。
【請求項6】
前記神経細胞ネットワーク用培養型プレーナーパッチクランプ装置が請求項5の(B)に記載のイメージング解析に用いるものである場合に、更に下記(D)~(F)の1以上の要素を備えることを特徴とする請求項5に記載の神経細胞ネットワーク用培養型プレーナーパッチクランプ装置。
(D)前記基板の上部に、神経細胞が発する光の受光装置を設置している。
(E)前記基板の上部に、神経細胞あるいは基板表面に光を照射する照射装置を設置している。
(F)上記(E)の照射装置は、所定の単一の神経細胞にのみ光を照射するための集光系を装備している。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の神経細胞ネットワーク用培養型プレーナーパッチクランプ装置を用いて、任意の研究目的のもとに培養下の神経細胞ネットワークを形成させる方法であって、
(1)細胞培地充填下の前記板上に神経細胞を播種する工程と、
(2)細胞定着部の細胞外マトリクス形成物質により、及び/又は、細胞定着部の底面の微細貫通孔から液体培地を吸引することにより、一つの細胞定着部ごとに1~数個の神経細胞を配置・定着させる工程と、
(3)細胞定着部に定着した神経細胞の移動を複数の突起部により制約しつつ、複数の突起部の間隔部分により相互に相手の神経細胞の存在を認識させて軸索又は樹状突起による神経細胞間のシナプス接合を形成させる工程と、
を含むことを特徴とする神経細胞ネットワーク形成方法。
【請求項8】
前記神経細胞ネットワーク形成方法において、(1)の工程で神経細胞を播種する際、併せてグリア細胞を細胞定着部以外の部分に播種することを特徴とする請求項7に記載の神経細胞ネットワーク形成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は神経細胞ネットワークの形成及びその利用、並びに神経細胞播種デバイスに関する。更に詳しくは本発明は、神経細胞の軸索と他の神経細胞の樹状突起によるシナプス接合を介した神経細胞ネットワーク(neural network)を培養下に形成させる神経細胞ネットワーク形成用培養装置と、同装置を用いてそのような神経細胞ネットワークを形成する方法に関する。更に本発明は、このような神経細胞ネットワークを用いたハイスループットスクリーニング(high throughput screening)技術、プレーナーパッチクランプ(planar patch-clamp)技術、神経細胞イメージング技術等に関する。
【0002】
更に本発明は、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はこの培養装置を利用したプレーナーパッチクランプ装置における多数の選択領域(細胞定着部)に効率的に神経細胞を播種するための神経細胞播種デバイスに関する。
【0003】
本発明において、「神経細胞」とは、第1に、中枢神経細胞、末梢神経細胞等の各種の神経細胞を包含する。神経細胞としては、未だ軸索や樹状突起を突出させていない状態のものが好ましい。又、「神経細胞」とは、第2に、例えばiPS細胞やES細胞のように神経細胞に分化可能な細胞、より好ましくは、iPS細胞やES細胞から神経細胞への分化の完成途上にある神経幹細胞等の状態にあるものを包含する。更に、「神経細胞」とは、第3に、細胞相互間にネットワークを形成する性質を持つ細胞、及び、細胞相互間にネットワークを形成する性質を持つ細胞に分化が可能な細胞も包含する。
又、「神経細胞の細胞体」とは、神経細胞における軸索や樹状突起のような突出部分を除いた細胞の本体部分を言う。
【0004】
更に、「選択領域」又は「細胞定着部」とは、神経細胞ネットワーク形成の中心となり、又はイオンチャンネル電流計測や各種イメージングにおける電流/電圧印加等の対象となるべき神経細胞が配置される基板上の領域を言い、「選択細胞」とは、選択領域(細胞定着部)に配置される神経細胞を言う。
【背景技術】
【0005】
従来、研究目的あるいは実用目的から、培地(特に液体培地)中に神経細胞を保持して、神経細胞が生きたままの状態で神経細胞ネットワークをin vitroで構成しようとする提案がなされている。
【0006】
例えば下記の非特許文献1では、図2に示すようにトランジスターを配置したSi基板上に複数の突起部で囲まれた領域を設け、ここに巻貝(stagnalis)の末梢神経細胞集合体である大きな神経節(ganglion)を配置して、神経細胞の電位変動を検出している。下記の非特許文献2では、基板上に図3に示すような「ケージ」と称する略円盤形の囲い(高さ約9μm)を複数形成し、各ケージの中央部のスペースに神経細胞を配置すると共に、ケージに設けた幾つかのトンネルを通じて神経細胞の軸索等を隣接のケージ中の神経細胞に向かって伸長させるニューロチップを開示している。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】G.Zeck, et al., PNAS 98 (2001) 10457-10462
【非特許文献2】J.Erickson, et al., J. Neurosci. Methods, 175 (2008) 1-16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者の研究によれば、例えば哺乳動物の神経細胞を用いた神経細胞ネットワークの形成には、次のような問題点がある。
【0009】
即ち、良好な網目状の形態を有する神経細胞ネットワークを構成するためには、神経細胞を所定の選択領域(網目の結節点となる領域)に定着させておく必要がある。しかし液体培地中で生きた状態にある哺乳動物の神経細胞は能動性を持ち、ランダムに移動する恐れがあるため、移動を制約する必要がある。
【0010】
ところが、例えば図1に示すように、基板上に、軸索の伸長をガイドするための細い溝によって連絡された円形の凹部(深さ5μm)を設け、これらの凹部中に神経細胞を配置する構造を用いたところ、神経細胞の移動を制約できた反面、凹部中に配置した神経細胞の多くが2~3日後に死滅し、良好な神経細胞ネットワークを構成できないと言う問題が判明した。
【0011】
この問題に関して、神経細胞は培養条件や細胞付近の状況に敏感であり、神経細胞ネットワークの形成に当たっては、隣接する神経細胞との間で相互に相手の神経細胞の存在を容易に認識できる状態にあることが必要であろうと推定される。上記の試作構造においては、各神経細胞が凹部中に収容されており、隣接する神経細胞との間に基板表面の5μmの段差があるため相互に相手細胞を確認し難い。そのため、神経細胞ネットワークの形成が阻害され、神経細胞の死亡率の増大、シナプス形成の未成熟等の不具合を生じると考えられる。
【0012】
非特許文献1は、複数の突起部で囲まれた領域に神経組織を配置するものの、対象は、能動的な移動性を有しない巻貝の巨大な神経節である。そして、複数の突起部の相互間隔は優に50μmを超え、通常の神経細胞の移動を全く制約できない。しかも5μmの高さを超える凹凸に富んだトランジスター基板上に構成されるものである。
【0013】
次に非特許文献2では、各ケージ中の神経細胞は相互に高さ約9μmのケージと称する凹凸構造に囲まれている。そしてケージには、幅10μm、高さ1μmの軸索伸長用のトンネルを設けているが、このような狭いトンネルを通じてケージ中の神経細胞が互いに相手の神経細胞を認識するは困難である。従って、非特許文献1、2においては上記の問題点を解決できず、その解決手段の示唆もない。
【0014】
更に、ハイスループットスクリーニング応用を前提とした神経細胞ネットワークの形成方法としては、いかにして神経細胞を播種するかという点も重要な技術である。例えば、測定点を100点とし、測定点の周囲に細胞定着部を25点有するネットワークを形成する場合、合計で2500点の細胞定着部に所定の数の神経細胞の細胞体を短時間に、通常は1時間以内に播種する必要がある。
【0015】
しかし、非特許文献1、2では多数の細胞定着部に効率的に神経細胞を播種するための神経細胞播種システムを開示しない。又、通常のピペットや、計量機能付きのピペット、あるいはマイクロインジェクター等の器具を用いて、手作業により個々の細胞定着部に神経細胞を播種すると言う方法では、第1に極めて微小な細胞定着部に正確に播種することが困難であり、第2に播種効率が極端に劣るため、非現実的である。
【0016】
従って、多数の細胞定着部に、短時間で、かつほぼ同時に無損傷で細胞を播種することができる神経細胞播種用のデバイスが求められる。このデバイスは、装置基板上における平面方向への神経細胞ネットワークの形成を阻害しないように構成されなければならない。
【0017】
そこで本発明は、上記の問題点を解決できる神経細胞ネットワーク形成用の培養装置と神経細胞ネットワーク形成方法を提供することを、解決すべき第1の課題とする。更に、このような神経細胞ネットワークを利用するプレーナーパッチクランプ装置、ハイスループットスクリーニング技術、神経細胞イメージング技術等を提供することを、解決すべき第2の課題とする。
【0018】
更に、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はこの培養装置を利用したプレーナーパッチクランプ装置における多数の細胞定着部に効率的に神経細胞を播種するための神経細胞播種デバイスを提供することを、解決すべき第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための第1発明の構成は、細胞培地を充填可能な平坦な基板上に、複数の突起部で囲まれた細胞定着部を形成し、この細胞定着部が下記(1)~(3)の条件を備えている、神経細胞ネットワーク形成用培養装置である。
(1)細胞定着部を構成する複数の突起部間には、神経細胞の細胞体を通過させない限りにおいて広い間隔が設定されている。
(2)複数の突起部により規定される細胞定着部の内径が、1~数個の神経細胞の細胞体を収容できるサイズである。「数個」とは、2~10個、より好ましくは2~6個、更に好ましくは3~5個である。
(3)細胞定着部の底面を構成する基板面には、以下の(ア)及び(イ)の内の少なくとも一方の要素を備える。
(ア)細胞外マトリクス形成物質をコーティングしている。
(イ)前記基板面の下部に設けた吸引装置による培地吸引用の微細貫通孔であって、神経細胞を通過させない孔径のものを設けている。
なお、上記の第1発明において、「1~数個の神経細胞の細胞体」とは、1個以上で10個以下、より好ましくは1個以上で5個以下の神経細胞の細胞体を意味する。
【0020】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための第2発明の構成は、前記第1発明に係る培養装置が以下(1)~(3)のいずれかに該当する、神経細胞ネットワーク形成用培養装置である。
(1)前記基板上に選択領域としての細胞定着部が形成され、この細胞定着部に選択細胞としての神経細胞が1~数個配置されると共に、他の神経細胞は単に基板上に播種される。
(2)前記基板上に複数の細胞定着部が適宜な相互間隔をもって形成され、これらの細胞定着部には神経細胞が1~数個配置されると共に、その内の1の細胞定着部が神経細胞を配置した選択領域として用いられる。
(3)前記基板上に上記(1)又は(2)に該当する神経細胞ネットワークのユニットを複数ないし多数形成できるように、上記の細胞定着部を適宜な位置に分散して形成させた、神経細胞ネットワークのハイスループット解析用培養装置。
【0021】
上記の第2発明について、その概念図である図4(a)及び図4(b)に基づいて説明する。図4(a)は第2発明の(1)に係る培養装置における基板上の要部の平面図を示し、中央に図示した神経細胞11(実際には1~数個の神経細胞)は複数(6本)の円柱状の突起部12で囲まれた細胞定着部13である選択領域中に配置され、その周囲の神経細胞11は単に基板上に播種されている。そして、これらの神経細胞11によってネットワークが形成される。
【0022】
一方、図4(b)は第2発明の(2)に係る培養装置における基板上の要部の平面図を示し、基板上に複数の細胞定着部13が適宜な相互間隔をもって形成され、これらの細胞定着部13にはそれぞれ神経細胞11(実際には1~数個の神経細胞)が配置されると共に、その内の1の細胞定着部13が選択領域として用いられる。そしてこれらの神経細胞11によってネットワークが形成される。
【0023】
なお、第2発明の(3)に係る培養装置においては、図4(a)又は図4(b)に示すような神経細胞ネットワークのユニットが、相互に独立したネットワークのユニットとなるように、基板上の適宜な位置に分散して複数ないし多数形成される。
【0024】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明において、神経細胞ネットワーク形成用培養装置が神経細胞ネットワークを対象とするプレーナーパッチクランプ装置であって、
(1)前記基板が電気絶縁性基板であって、その電気絶縁性基板の細胞定着部の底面を構成する基板面の両側の表面を連通させる前記微細貫通孔を設け、(2)微細貫通孔の第一表面側である神経細胞ネットワーク形成側と、その反対側である第二表面側にはそれぞれ、前記細胞培地である導電性液体を保持するための液溜部と、該液溜部の導電性液体に対して通電可能に配置された電極部とを設け、(3)第一表面側の液溜部が前記細胞定着部に定着された神経細胞用の液溜部とされている、神経細胞ネットワーク形成用培養装置である。
【0025】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための第4発明の構成は、前記第3発明に係るプレーナーパッチクランプ装置において、前記第一表面側及び第二表面側の電極部が以下の(a)~(c)の要素を備える、神経細胞ネットワーク形成用培養装置である。
(a)前記液溜部に導電性液体が導入された際にその導電性液体に接することとなる容器壁の少なくとも一部が無機多孔質材料で構成されている電極容器。
(b)上記の電極容器内に収容された、貴金属Nmの表層部にその貴金属の塩化物NmCl層を形成した電極。
(c)上記の電極容器内に充填された、前記貴金属の塩化物NmCl及びアルカリ金属塩化物が飽和濃度で溶解した電極溶液。
【0026】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための第5発明の構成は、前記第1発明~第4発明のいずれかにおいて、神経細胞ネットワーク形成用培養装置が以下(A)~(C)のいずれかの目的に使用されるものである、神経細胞ネットワーク形成用培養装置である。
(A)神経細胞ネットワークにおける神経細胞イオンチャンネル電流の計測・解析に用いる。
(B)少なくとも、Caイメージング解析、前シナプス部位のマーカーであるsynaptophysin又は synapsinの標識によるイメージング解析、樹状突起のマーカーであるMAP2の標識によるイメージング解析、及び、エンドソームやエキソソームを標識するFM1-43又はFM4-64によるイメージング解析を包含するイメージング解析に用いる。
(C)神経細胞ネットワークのハイスループットスクリーニングシステムに用いる。
【0027】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための第6発明の構成は、前記第5発明において、神経細胞ネットワーク形成用培養装置が(B)に記載のイメージング解析に用いるものである場合に、更に下記(D)~(F)の1以上の要素を備える、神経細胞ネットワーク形成用培養装置である。
(D)前記基板の上部に、神経細胞が発する光の受光装置を設置している。
(E)前記基板の上部に、神経細胞あるいは基板表面に光を照射する照射装置を設置している。
(F)上記(E)の照射装置は、所定の単一の神経細胞にのみ光を照射ための集光系を装備している。
【0028】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための第7発明の構成は、第1発明~第6発明のいずれかに記載の神経細胞ネットワーク形成用培養装置を用いて、任意の研究目的のもとに培養下の神経細胞ネットワークを形成させる方法であって、
(1)細胞培地充填下の前記平坦な基板上に神経細胞を播種する工程と、
(2)細胞定着部の細胞外マトリクス形成物質により、及び/又は、細胞定着部の底面の微細貫通孔から液体培地を吸引することにより、一つの細胞定着部ごとに1~数個の神経細胞を配置・定着させる工程と、
(3)細胞定着部に定着した神経細胞の移動を複数の突起部により制約しつつ、複数の突起部の間隔部分により相互に相手の神経細胞の存在を認識させて軸索又は樹状突起による神経細胞間のシナプス接合を形成させる工程と、
を含む、神経細胞ネットワーク形成方法である。
【0029】
(第8発明の構成)
上記課題を解決するための第8発明の構成は、前記第7発明の神経細胞ネットワーク形成方法において、(1)の工程で神経細胞を播種する際、併せてグリア細胞を細胞定着部以外の部分に播種する、神経細胞ネットワーク形成方法である。
【0030】
(第9発明の構成)
上記課題を解決するための第9発明の構成は、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はこの培養装置を利用したプレーナーパッチクランプ装置における細胞培地を充填可能な平坦な装置基板上に設置して、装置基板における複数の突起部で囲まれた多数の細胞定着部に神経細胞を播種するための神経細胞播種デバイスであって、
前記装置基板上への設置が可能なボード状のデバイス本体が、その設置状態において前記多数の細胞定着部を覆う広さを持つと共に、その平坦な底面が多数の細胞定着部における複数の突起部の頂端に接するようになっており、
デバイス本体には、(1)神経細胞を一定密度で懸濁させた神経細胞懸濁液を外部から供給するための懸濁液供給口と、(2)デバイス本体の内部において前記懸濁液供給口から分枝状に延設させた多数の微細な懸濁液流路と、(3)前記各懸濁液流路の端末においてデバイス本体の底面に開口した、神経細胞懸濁液を前記各細胞定着部に注入するための懸濁液注入口と、
を設けた、神経細胞播種デバイスである。
【0031】
(第10発明の構成)
上記課題を解決するための第10発明の構成は、前記第9発明に係る神経細胞播種デバイスにおいて、多数の前記懸濁液流路が実質的に同一の長さに設定され、かつ、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板上に前記神経細胞播種デバイスを設置した際に個々の前記懸濁液注入口が個々の前記細胞定着部に正確に対応して位置するように設計されている、神経細胞播種デバイスである。
【0032】
(第11発明の構成)
上記課題を解決するための第11発明の構成は、前記第9発明又は第10発明に係る神経細胞播種デバイスにおけるボード状のデバイス本体が、前記懸濁液供給口を設けた上部ボードと前記懸濁液注入口を設けた下部ボードとを密着状態で接合させてなり、かつ、上部ボードと下部ボードの少なくとも一方の接合面に前記懸濁液流路を構成する溝を形成している、神経細胞播種デバイスである。
【0033】
(第12発明の構成)
上記課題を解決するための第12発明の構成は、前記第9発明~第11発明のいずれかに係る神経細胞播種デバイスにおける神経細胞ネットワーク形成用培養装置が第1発明に記載の神経細胞ネットワーク形成用培養装置であり、及び/又は、前記第9発明~第11発明のいずれかに係るプレーナーパッチクランプ装置が第3発明に記載のプレーナーパッチクランプ装置である、神経細胞播種デバイスである。
【0034】
(第13発明の構成)
上記課題を解決するための第13発明の構成は、前記第9発明~第12発明のいずれかに係る神経細胞播種デバイスにおけるデバイス本体が、前記神経細胞ネットワーク形成用培養装置又は前記プレーナーパッチクランプ装置の装置基板における前記細胞定着部以外の領域に対して前記神経細胞懸濁液を注入するための第2懸濁液流路を更に備えている、神経細胞播種デバイスである。
【発明の効果】
【0035】
(第1発明の効果)
第1発明の神経細胞ネットワーク形成用培養装置においては、平坦な基板上に形成された、複数の突起部で囲まれた細胞定着部を備えるので、ここに配置された神経細胞は、複数の突起部によりランダムな移動を制約される。従って、神経細胞のランダムな移動が制約される。
【0036】
但し、細胞定着部の内側と外側とは同一の平坦な基板面上にあり、その間に段差(凹凸)はない。しかも、細胞定着部における複数の突起部間には神経細胞の細胞体を通過させない限りにおいて広い間隔が設定され、この間隔部分は上方が開放された空間であって、前記非特許文献2に開示するような狭いトンネル空間ではない。従って、細胞定着部に配置された神経細胞はネットワークを形成すべき相手の神経細胞を互いに容易に認識することができ、突起部間の間隔を利用した軸索と樹状突起とのシナプス接合の形成に基づく良好な神経細胞ネットワークを構成することができる。
【0037】
更に、複数の突起部により規定される細胞定着部の内径が、1~数個の神経細胞の細胞体を収容できるサイズであるため、細胞定着部には1~数個の神経細胞の細胞体が配置され、定着される。一般的に神経細胞(特にiPS細胞等)は数個程度の集合体(クラスター)の状態である方が、長期間にわたり安定に生存できる。反面、細胞定着部に単一の神経細胞が配置されている方が、神経細胞間の信号伝達が単純化されてネットワーク機能の解析が容易となる。第1発明では細胞定着部に1~数個の神経細胞の細胞体が配置・定着されるので、上記の双方の要求をバランス良く満足させることができる。
【0038】
第1発明の神経細胞ネットワーク形成用培養装置を用いた場合、4週間以上の長期にわたり神経細胞を生存させ、活性な神経細胞ネットワークを維持することが可能である。
【0039】
更に第1発明では、細胞定着部の底面を構成する基板面には神経細胞に対する接着力を示す細胞外マトリクスをコーティングし、及び/又は、基板の下部に設けた吸引装置による細胞培地吸引用の微細貫通孔であって、神経細胞を通過させない孔径のものを設けている。従って、神経細胞の播種時において網目状の神経細胞ネットワークでの網目の結節点となる細胞定着部には、1~数個の神経細胞の細胞体が確実に配置され、かつ定着される。以上の点から、第1発明によれば、前記した本発明の課題を解決できる。
【0040】
(第2発明の効果)
第2発明によって、図4(a)に示すような神経細胞ネットワークや、図4(b)に示すような神経細胞ネットワークを形成するための神経細胞ネットワーク形成用培養装置が提供され、更に、基板上には、これらの神経細胞ネットワークのユニットを複数ないし多数形成できる。従って、神経細胞ネットワークのハイスループット解析用培養装置も提供される。
【0041】
(第3発明の効果)
プレーナーパッチクランプ装置とは、シリコンチップのような電気絶縁性の固体基板上に複数のパッチクランプ装置を構成して多点計測を可能にし、各パッチクランプ装置の細胞配置部位にはそれぞれ、イオンチャンネル電流を計測するための微細な貫通孔を設けたものである。第3発明のプレーナーパッチクランプ装置においては、前記第1発明における(3)の(イ)に規定する「基板の下部に設けた吸引装置による細胞培地吸引用の微細貫通孔」が、イオンチャンネル電流計測用の微細な貫通孔として用いられる。
【0042】
又、第二表面側の細胞培地に、神経細胞を誘引する効果を有するアデノシン5-βチオ二リン酸、ウリジン5-三リン酸三ナトリウム塩水和物、EGF等の物質を混入して神経細胞を第二表面側の細胞培地に誘引すると、神経細胞が微細貫通孔に誘導されるので、培養期間中、神経細胞をより確実に微細貫通孔上に留めることができる。
【0043】
従来のプレーナーパッチクランプ装置は、細胞培養の機能を有しないため、神経細胞のような培養を必要とする細胞に適用できないと言う問題があった。即ち、測定対象とする細胞の寿命が非培養条件下では1時間ないしは30分以下と短いため、創薬スクリーニング等の限られた応用しかできず、ピペットパッチクランプが活用されている細胞の機能解析等への応用が困難であった。更に、基板に設けた微細な貫通孔の部位に細胞をうまく運んでトラップすることが困難であった。
【0044】
しかし、第3発明によれば、第1発明又は第2発明に係る神経細胞ネットワーク形成用培養装置を神経細胞ネットワークを対象とするプレーナーパッチクランプ装置として用いることで、培養を必要とする神経細胞の神経細胞ネットワークを対象とし、かつ、測定対象とする神経細胞の寿命が著しく延長されたプレーナーパッチクランプ装置を提供できる。そして、第2発明の(3)に規定する神経細胞ネットワーク形成用培養装置を利用すれば、神経細胞ネットワークについてハイスループットなスクリーニングを行うことができる。
【0045】
(第4発明の効果)
ところで、上記第3発明のようなプレーナーパッチクランプ装置においても、次に述べるような課題がある。
【0046】
即ち、前記第1発明における(3)の(ア)のように、イオンチャンネル電流を計測する微細貫通孔の周縁(細胞定着部)に細胞外マトリックス形成物質を付着させている場合、神経細胞の細胞膜と微細貫通孔周縁の基板表面との間に僅かな隙間ができ、いわゆるシール抵抗が低下してしまう。この隙間を流れる電流は、イオンチャンネル電流に対してリーク電流として加わり、これが変動するとノイズとして寄与することになる。従ってシール抵抗が低下した状態においては、僅かの印加膜電位の変動に対してもノイズ電流が大きくなり、イオンチャンネル電流の正確な計測が困難になる。
【0047】
細胞のイオンチャンネル電流の正確な計測を図る上で、上記のようにプレーナーパッチクランプ装置のシール抵抗が低い場合はもちろんのこと、シール抵抗が低くない場合でもノイズ電流対策を施しておくことは有効かつ重要である。ノイズ電流対策としては、シール抵抗の増大以外に、電極側の印加膜電位の変動を抑制することも効果的である。
【0048】
そして、プレーナーパッチクランプ装置の電極として貴金属Nm(例えば銀Ag)の表層部にその貴金属の塩化物NmCl層(例えばAgCl層)を形成した電極を用いる場合、上記のような印加膜電位の変動は、主としてAgCl/Ag電極の表面とそれを取り囲む溶液との間の界面電位の変動や、液-液界面電位の変動によるものである。
【0049】
そこで第4発明のように、電極部の電極容器内においてAgCl/Ag電極をAgCl及びアルカリ金属塩化物(例えばKCl)の飽和溶液である電極溶液(KCl濃度は百数十ミリモル程度)に浸し、これらを無機多孔質材料で構成された容器壁を介して細胞培養液のような導電性液体(KCl濃度は数ミリモル程度)に接触させておくと、電極容器の内部と外部が電気的に導通した状態となる。しかし、液体そのものは無機多孔質材料の細孔を余り通過できないため、電極容器内部の電極溶液と電極容器外部の導電性液体との混合は無視できる程に小さい。その結果、電極容器の内部と外部におけるKClの大きな濃度差が一定に保たれ、AgCl/Ag電極の界面電位や、液-液界面電位が一定となり、印加膜電位の変動が起こらないのである。
【0050】
(第5発明の効果)
第5発明によれば、第1発明~第4発明の神経細胞ネットワーク形成用培養装置を、(A)神経細胞ネットワークにおける神経細胞イオンチャンネル電流の計測・解析、(B)少なくとも、Caイメージング解析、前シナプス部位のマーカーであるsynaptophysin又は synapsinの標識によるイメージング解析、樹状突起のマーカーであるMAP2の標識によるイメージング解析、及び、エンドソームやエキソソームを標識するFM1-43又はFM4-64によるイメージング解析を包含するイメージング解析、(C)神経細胞ネットワークのハイスループットスクリーニングシステム、のいずれかに用いることができる。
【0051】
(第6発明の効果)
第6発明によれば、前記第5発明の神経細胞ネットワーク形成用培養装置が(C)に記載のイメージング解析に用いるものである場合に、更に上記した(D)の受光装置、(E)の照射装置、(F)の集光系の1以上の要素を備えるので、第1に多くの場合に非接触かつ非破壊での計測が可能となるため神経細胞ネットワーク機能を阻害することなく解析でき、第2に光計測であるため高速で解析でき、第3に細胞定着部に複数の神経細胞(細胞クラスター)が配置されていても(F)の集光系により正確に単一の神経細胞を励起して精密に解析できると言う効果が得られる。
【0052】
(第7発明の効果)
第7発明の神経細胞ネットワーク形成方法によれば、第1発明~第6発明のいずれかに記載の神経細胞ネットワーク形成用培養装置を用いて、前記した(1)~(3)の工程を行う。
【0053】
従って、細胞培地を充填した平坦な基板上に神経細胞を播種する際、各細胞定着部の細胞外マトリクス形成物質により、あるいは細胞定着部の底面の微細貫通孔から細胞培地を吸引することにより、その細胞定着部に1~数個の神経細胞の細胞体を確実に配置させ、定着させることができる。より具体的には、細胞定着部の微細貫通孔上に細胞体を配置、定着させることができる。
【0054】
又、その際、各細胞定着部の内径が1~数個の神経細胞の細胞体を収容できるサイズとほぼ対応するので、各細胞定着部には確実に1~数個の神経細胞が配置される。そしてこれらの神経細胞は、細胞定着部を構成する複数の突起部によりランダムな移動を制約される。しかも細胞定着部の内側と外側とは同一の平坦な基板面上にあり、その間に段差(凹凸)はないため、細胞定着部に配置された神経細胞は、細胞定着部を構成する複数の突起部の間隔を通して、ネットワークを形成すべき相手の神経細胞を互いに容易に認識することができる。従って、神経細胞は活性な生存状態に維持されつつ、突起部間の間隔を利用した軸索と樹状突起とのシナプス接合の形成に基づく良好な神経細胞ネットワークを構成することができる。
【0055】
以上の点から第7発明によれば、各細胞定着部に配置・定着させた1個の神経細胞あるいは数個の神経細胞クラスターの相互間に神経細胞ネットワークを良好に形成させることができる。この方法による場合、ほぼ100%の確率で神経細胞が安定なネットワークを形成し、4週間以上の長期にわたって培養を継続することができる。従って、神経細胞ネットワークのハイスループットスクリーニング素子制作にきわめて有用な技術である。
【0056】
(第8発明の効果)
第8発明によれば、上記第7発明の(1)の工程で神経細胞を播種する際、神経細胞を選択領域内と選択領域外とに播種すると共にグリア細胞を選択領域外に播種する。よって「F.W. Pfrieger et al., Science 277(1997)1684-1687」等の文献により知られるように、シナプスの近傍にグリア細胞が存在し神経細胞に接触することになるので、神経細胞ネットワークの成熟度が高まり、時空間的に機能がより均一な神経細胞ネットワークを構成できる。
【0057】
(第9発明の効果)
第9発明によれば、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はこの培養装置を利用したプレーナーパッチクランプ装置における多数の細胞定着部に効率的に神経細胞を播種するための神経細胞播種デバイスが提供される。よって、ハイスループットスクリーニング応用を前提とした神経細胞ネットワークの形成において、いかにして神経細胞を播種するかという重要な問題の解決手段が提供される。
【0058】
このデバイスのボード状のデバイス本体には、(1)神経細胞懸濁液を外部から供給するための懸濁液供給口と、(2)この懸濁液供給口から分枝状に延設させた多数の微細な懸濁液流路と、(3)各懸濁液流路の端末においてデバイス本体の底面に開口した懸濁液注入口とを設けている。従って、装置基板上に設けた細胞定着部が例えば数百ケ所と言う極めて多数であっても、これらのすべての細胞定着部に短時間で神経細胞懸濁液を供給できる。
【0059】
なお、懸濁液供給口への神経細胞懸濁液の供給方法は限定されないが、多数の微細な懸濁液流路における流体摩擦抵抗を考慮すれば、懸濁液供給口に液体を圧入することができる器具や装置(例えば、インジェクターやマイクロシリンジ、あるいは小さなポンプ式の圧入装置等)によって、加圧状態下で神経細胞懸濁液を供給することが好ましい。その際、液体圧入の器具や装置の注口のサイズが懸濁液供給口の内径よりも大きい場合が多いので、そのような場合には、先端側が縮径された接続用パイプを液体圧入器具/装置の注口に装着し、その縮径された先端側を懸濁液供給口に差し込むことができる。接続用パイプにおける先端側の縮径された部分として、例えば、ステンレス製の小さなノズル状のパイプ体を取り付けることができる。
【0060】
細胞定着部に注入された神経細胞は、細胞定着部の複数の突起部により細胞定着部からの流出を阻止されて細胞定着部内にとどまる。一方、懸濁媒体液は、細胞定着部の複数の突起部の間から流出する。そのため、神経細胞がストレスの小さな無傷の状態で細胞定着部に播種される結果となる。しかも、このような神経細胞の播種が一斉に行われるので、装置基板上の多数の細胞定着部に対する神経細胞の播種が、ほぼ同時に、かつ非常に短い時間内(数十秒程度)に完了する。
【0061】
更に重要な点として、この神経細胞播種デバイスは、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置における、細胞培地を充填可能な平坦な装置基板上に設置するものである。従って、細胞定着部に対して、上方から神経細胞懸濁液を注入する構造である。よって、装置基板上における平面方向への神経細胞ネットワークの形成の障害とならない。
【0062】
なお、神経細胞播種デバイスを神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板上に固定的に設置することも可能であるが、これを着脱可能に設置する場合、神経細胞播種後に取り外しておけば、播種後の神経細胞の培養において、酸素や炭酸ガスの供給の妨げとならないほか、ネットワークを上部から観測したり、薬液を投与するうえでも妨害とならない。
【0063】
(第10発明の効果)
第10発明によれば、多数の前記懸濁液流路が実質的に同一の長さに設定されているので、装置基板上の多数の細胞定着部に対する神経細胞の播種が正確に同時に完了する。このことは、換言すれば、神経細胞懸濁液における神経細胞の分散密度を調節した上で、懸濁液供給口から供給する神経細胞懸濁液の液量を制御すれば、個々の細胞定着部への神経細胞懸濁液の注入量(ひいては播種される神経細胞の個数)をほぼ正確にコントロールできると言う効果を意味し、しかも、多数の細胞定着部において播種される神経細胞の個数をほぼ均一に制御できると言う効果も意味する。これらの効果は、ハイスループットスクリーニング応用を前提とした神経細胞ネットワークの形成において、重大な効果であると言うことができる。
【0064】
又、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板上に前記神経細胞播種デバイスを設置した際に、個々の懸濁液注入口が個々の細胞定着部に正確に対応して位置するように設計されているので、多数の細胞定着部に対する神経細胞の播種が正確に行われる。なお、この点に関しては、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板上に神経細胞播種デバイスを設置する際の、両者の位置合わせ用の標識マークを、装置基板とデバイス本体の少なくとも一方に設けておいても良く、デバイス本体が透明度の高い材料からなる場合、このような標識マークを透視できるので、特に有効である。
【0065】
(第11発明の効果)
第11発明によれば、ボード状のデバイス本体が懸濁液供給口を設けた上部ボードと懸濁液注入口を設けた下部ボードとを接合させてなり、両者のボードの少なくとも一方の接合面に懸濁液流路を構成する溝を形成しているので、デバイス本体の内部に微細かつ屈曲された形態の懸濁液流路を多数構成するための加工が容易である。但し、懸濁液流路を構成するための加工方法は、このようなものに限定されない。
【0066】
(第12発明の効果)
第12発明によれば、神経細胞ネットワーク形成用培養装置が第1発明に記載のものであり、及び/又は、プレーナーパッチクランプ装置が第3発明に記載のものであると言う、神経細胞播種デバイスの具体的かつ好適な実施形態が提供される。
【0067】
(第13発明の効果)
神経細胞ネットワーク形成用培養装置やプレーナーパッチクランプ装置の装置基板における細胞定着部のみに神経細胞を播種したのでは、装置基板における神経細胞の全体的な固体数が不足するため、神経細胞ネットワークが良好に形成されないことも多い。この問題を解決するため、第13発明によれば、デバイス本体が、装置基板における前記細胞定着部以外の領域に対して神経細胞懸濁液を注入するための第2懸濁液流路を更に備えている。そのため、装置基板における細胞定着部以外の領域に対しても適宜に神経細胞懸濁液を注入して神経細胞を播種することができるので、神経細胞ネットワークが特に良好に形成される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本願発明者が試作した基板上の凹部構造(比較例)を示す。
【図2】非特許文献1に開示されたSi基板上の構造を示す。
【図3】非特許文献2に開示されたケージの構造を示す。
【図4】第2発明の(1)、(2)に係る神経細胞ネットワーク形成用培養装置の要部の概念化した平面図を示す。
【図5】第1実施例の断面図を示す。
【図6】第2実施例の概要を示す。
【図7】第3実施例の概要を示す。
【図8】第4実施例の概要を示す。
【図9】第5実施例の概要を示す。
【図10】第6実施例の概要を示す。
【図11】第7実施例における神経細胞播種デバイス本体の概要を示す。
【図12】第7実施例における第1、第2懸濁液流路系の概要を示す。
【図13】第7実施例における第1懸濁液流路系の要部の詳細を示す。
【図14】ラット海馬の神経細胞における播種時のサイズを示す。
【図15】ラット海馬の神経細胞における培養時のサイズを示す。
【図16】ラット海馬の神経細胞で行った別の実験を示す光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0069】
1 基板
2 細胞定着部
3 神経細胞
4 微細貫通孔
5 電流増幅器
6 マイクロピペット
7 上部電極
8 下部電極
9 細胞外マトリックス形成物質
11 神経細胞
12 突起部
13 細胞定着部
14 基板
15 微細貫通孔
16 スペーサー
17 スペーサー
18 培養スペース
19 切欠き部
20 プレート
21 プレート
22 主液溜
23 液溜部
24 通液路
25 副液溜
26 導入用通液路
27 排出用通液路
28 電極部
29 電極部
30 細胞外マトリックス形成物質
31 電極容器
32 電極溶液
33 AgCl/Ag電極
34 無機多孔質材料
35 電極ピン
36 外側細胞定着部
40 デバイス本体
41 上部ボード
42 下部ボード
43 懸濁液供給口
43a 第2懸濁液供給口
44 懸濁液流路
44a 第2懸濁液流路
45 懸濁液注入口
45a 第2懸濁液注入口
46 注入口設定部
【発明を実施するための形態】
【0070】
次に本発明の実施形態を、その最良の形態を含めて説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されない。

【0071】
〔本発明の技術分野〕
本発明の技術分野は、神経細胞を安定した状態で培養しつつ神経細胞ネットワークを形成させる技術分野に関する。又、細胞表面のイオンチャンネル電流を計測する技術分野に属する。更に、細胞に電流注入あるいは電圧印加により刺激を与えることを行う分野に関する。更に、イオンチャンネル電流を計測あるいは細胞に電流を注入し、あるいは電圧を印加して刺激を与えるタイプのハイスループットスクリーニング技術分野にも属する。更に、神経細胞あるいは神経細胞ネットワークを対象とするCaイメージングその他の種々のイメージング技術分野にも属する。

【0072】
〔神経細胞、神経細胞ネットワーク〕
神経細胞は、細胞の本体である細胞体とこの細胞体から伸長される軸索及び樹状突起からなる。神経細胞の種類は限定されないが、第1に、中枢神経細胞、末梢神経細胞等の各種の神経細胞が例示され、特に、未だ軸索や樹状突起を突出させていない状態のものが好ましい。又、第2に、例えばiPS細胞やES細胞のように神経細胞に分化可能な細胞、より好ましくは、iPS細胞やES細胞から神経細胞への分化の完成途上にある神経幹細胞等の状態にあるものが例示される。更に、第3に、細胞相互間にネットワークを形成する性質を持つ細胞、及び、細胞相互間にネットワークを形成する性質を持つ細胞に分化が可能な細胞が例示される。神経細胞としては、動物の神経細胞、特にヒトを包含する哺乳動物の神経細胞が好ましい。これらの神経細胞における細胞体のサイズは、通常は20μm未満であり、より具体的には3~18μm程度である。

【0073】
神経細胞ネットワークは、信号を発信するトリガー細胞とそれを受けるフォロワー細胞の一対の神経細胞が構造上の基本単位である。本願発明者は、トリガー細胞とフォロワー細胞の存在する面の高さに細胞の大きさ程度の段差があると、細胞の死亡確率が増大することを見出した。

【0074】
〔神経細胞ネットワーク形成用培養装置〕
本発明の神経細胞ネットワーク形成用培養装置は、細胞培地(特に好ましくは液体培地)を充填可能な平坦な基板上に、複数の突起部で囲まれた細胞定着部を形成している。

【0075】
「細胞培地を充填可能な平坦な基板」とは、例えば、後述するプレーナーパッチクランプ装置に関して説明するような構成である。細胞定着部は、前記の第2発明の(1)~(3)の構成に準じて基板上に複数ないし多数設定される。但し、神経細胞ネットワークにおいてはトリガー細胞とフォロワー細胞の一対の神経細胞が基本単位であるため、神経細胞の自然発火をトリガーとしてイオンチャンネル電流をフォロワー細胞で受信する構成の場合には、選択領域としての細胞定着部が一ケ所でも、機能解析素子として動作し得る。選択領域としての細胞定着部の相互間隔は、神経細胞ネットワークの種類に応じて異なるので一律に規定できないが、例えば、50~500μm程度とすることができる。

【0076】
細胞定着部を構成する複数の突起部の形状は限定されないが、例えば柵又は杭状の突起が好ましい。突起部の高さも限定されないが、一般的に神経細胞のランダムな移動を有効に制約し得る10μm程度の高さが好ましく、例えばマウス大脳皮質や海馬の神経細胞では5~10μm程度の高さが好ましい。

【0077】
次に、上記の細胞定着部は下記の(1)~(3)の条件を備えている。

【0078】
(1)細胞定着部を構成する複数の突起部間には、神経細胞の細胞体を通過させない限りにおいて広い間隔が設定されている。突起部の間隔は、3~18μm程度というバラツキを持つ哺乳動物神経細胞の細胞体の大きさに対応して決定されるものであり、一律に絶対値を定めることは困難である。1つの基準として、細胞体の大きさをXμmとしたとき、間隔の上限値は0.9Xμm以下、特に0.7Xμm以下であることが好ましく、間隔の下限値は0.3Xμm以上、特に0.5Xμm以上であることが好ましい。複数の突起部の上端部が相互に連結されていると、実質的にトンネル構造となるため、好ましくない。又、トンネル構造においては、トンネル内でシナプス形成が可能であるとしても、このシナプスでのイメージング観察が不可能となってしまう。

【0079】
(2)複数の突起部により形成される細胞定着部の内径は、1~数個の神経細胞の細胞体を収容できるサイズである。細胞定着部の内径は、神経細胞の細胞体の大きさ、及び細胞定着部における細胞体の個数に対応して適宜に設定される。例えば、細胞定着部における細胞体が哺乳動物神経細胞の細胞体であって、その個数が1個の場合、細胞定着部の内径は10~25μm程度であることが好ましい。細胞定着部の内径が細胞体のサイズよりも過剰に大きいと一つの選択領域に多すぎる個数の細胞体が配置される恐れがあり、細胞定着部の内径が細胞体の大きさよりも50%以上小さいと、細胞体が細胞定着部に安定的に配置されなくなる恐れがある。

【0080】
(3)細胞定着部の底面を構成する基板面には、以下の(ア)及び(イ)の内の少なくとも一方の要素を備える。

【0081】
(ア)細胞外マトリクス形成物質をコーティングしている。

【0082】
(イ)前記基板面の下部に設けた吸引装置による培地吸引用の微細貫通孔であって、神経細胞を通過させない孔径のものを設けている。

【0083】
このような(3)の条件の内、(ア)の細胞外マトリックス形成物質は、神経細胞に対する接着力を示すことにより、神経細胞を細胞定着部の底面に定着させるものであり、その構成材料としては、ポリリジン、コラーゲン(I型、II型、IV型)、フィブロネクチン、ラミニン、プロテオグリカン(バーシカン、デコリンなど)、プロテオグリカン(アグリカン)、リンクタンパク質、エンタクチン、テネイシン、プロテオグリカン〔コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(パールカンなど)、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン〕、ヒアルロン酸(グリコサミノグリカンの一種)、エラスチン、フィブリン、ゼラチン、マトリゲルなどが例示される。

【0084】
(イ)の細胞培地吸引用の微細貫通孔は、基板下部側の吸引装置で細胞培地を吸引することにより、細胞定着部に配置された1~数個の神経細胞を細胞定着部の底面に定着させるものであり、その孔径は、神経細胞を通過させない程度の、例えば1~3μm程度とすることができる。

【0085】
〔プレーナーパッチクランプ装置〕
神経細胞ネットワーク形成用培養装置の有効な利用例の一つが神経細胞ネットワークを対象とするプレーナーパッチクランプ装置である。

【0086】
(一般的なプレーナーパッチクランプ装置)
生命体を構成する細胞の表面には種々の膜タンパク質が配置されており、細胞表面の特定サイトへの化学物質(リガンド等の信号伝達物質)の結合や電気あるいは光の刺激(ゲートトリガー)により膜タンパク質の開口部であるチャンネルが開閉し、細胞膜の外側と内側の間でのイオンや化学物質の輸送が制御されている。この制御を行うイオンチャンネルは生体系の信号伝達に関わる重要な膜タンパク質であり、その機能計測や機能に関連する薬品の開発においてはチャンネルタンパク質の電気的変化、即ちイオンチャンネル電流の計測が求められる。

【0087】
この要求に対して、これまでにピペットパッチクランプやプレーナーパッチクランプ等の技術が開発されている。ピペットパッチクランプは多点計測によるハイスループットスクリーニングに応用できないという弱点がある。これに対して、プレーナーパッチクランプは、シリコンチップのような固体基板上に複数のパッチクランプ装置を構成して細胞イオンチャンネル電流の多点計測を可能にした平面基板型のパッチクランプ装置であり、各パッチクランプ装置の細胞配置部位にはそれぞれ、イオンチャンネル電流を計測するための微細な貫通孔を設けている。

【0088】
しかし、従来の一般的なプレーナーパッチクランプ装置は細胞培養の機能を有しないため、神経細胞のような培養を必要とする細胞に適用できないと言う問題があった。即ち、測定対象とする細胞の寿命が非培養条件下では1時間ないしは30分以下と短いため、創薬スクリーニング等の限られた応用しかできず、ピペットパッチクランプが活用されている細胞の機能解析等への応用が困難であった。更に、基板に設けた微細な貫通孔の部位に細胞をうまく運んでトラップすることが困難であった。

【0089】
(本発明のプレーナーパッチクランプ装置)
これに対して、本発明のプレーナーパッチクランプ装置は、上記した一般的な構成のプレーナーパッチクランプ装置に比較して、更に神経細胞の培養機能を持ち、イオンチャンネル電流計測時における雑音電流の有効な抑制と細胞の安定的な位置決めが可能な装置である。即ち、この装置の特徴的な構成は、基板に設けた微細な貫通孔における神経細胞定着用開口部に細胞固定力を付与し、かつ、基板における貫通孔の両側の表面部には電極に通電可能な液溜部を設け、この液溜部に導電性液体(例えば細胞培養液)を充填できる点にある。このプレーナーパッチクランプ装置によれば、神経細胞を微細貫通孔の位置に容易にトラップすることができ、しかも、細胞の培養条件下において十分な時間をかけてイオンチャンネル活性の測定を行うことができる。

【0090】
具体的には、本発明のプレーナーパッチクランプ装置では、前記神経細胞ネットワーク形成用培養装置が、以下の(1)~(3)のように構成される。

【0091】
(1)前記基板が電気絶縁性基板であって、その電気絶縁性基板の両側の表面を連通させる前記微細貫通孔を設けている。

【0092】
(2)微細貫通孔の第一表面側である神経細胞ネットワーク形成側と、その反対側である第二表面側にはそれぞれ、導電性液体を保持するための液溜部と、該液溜部の導電性液体に対して通電可能に配置された電極部とを設けている。

【0093】
(3)第一表面側の液溜部が、前記細胞定着部に定着された神経細胞用の液溜部とされている。

【0094】
(本発明のプレーナーパッチクランプ装置における主な構成)
従って、本発明に係るプレーナーパッチクランプ装置では、その電気絶縁性の基板における両側の表面である第一表面側(細胞を配置する表面側)と第二表面側とを連通させる微細な貫通孔を設けている。

【0095】
電気絶縁性の基板として、ガラス製、セラミックス製、プラスチック製等の基板を好ましく使用することができる。一例として、シリコン基板を用いる場合、第一表面側のシリコン層と、中間の酸化シリコン層と、第二表面側のシリコン層とが順次に積層された構造を有するシリコン基板(SOI基板)が好ましい。このような積層構造のシリコン基板においては、極めて絶縁性の高い中間層が二つのシリコン層間に存在するので、測定対象細胞のイオンチャンネル閉鎖時に高抵抗状態を確立でき、バックグラウンドのノイズを低減できる。

【0096】
基板に設ける貫通孔の個数は限定されないが、複数個~多数個であることが好ましく、例えば、2個~数十個、あるいはそれ以上とされる。微細な貫通孔の内径は、液体を通過させるが神経細胞を通過させない程度の内径(例えば1~3μm程度)であることが好ましいが、これらの内径に限定されない。

【0097】
又、プレーナーパッチクランプ装置においては、前記貫通孔の第一表面側と第二表面側にそれぞれ、導電性液体を保持するための液溜部と、該液溜部の導電性液体に対して通電可能に配置された電極部とを設けている。

【0098】
液溜部の構成は、「導電性液体を保持し、かつ導電性液体に対して電極部を通電可能に配置できる」と言う要求を満たす限りにおいて構成を限定されないが、例えば第1実施例に示すように、基板の第一表面側と第二表面側にそれぞれスペーサー部材やプレート部材を重ね、スペーサー部材には基板の貫通孔に対応する領域に切欠き部を設けることで形成することができる。

【0099】
必ずしも限定はされないが、第一表面側のスペーサー部材及びプレート部材は光不透過性の材料からなることが好ましく、第二表面側のスペーサー部材及びプレート部材は光透過性の材料からなることが好ましい。

【0100】
液溜部は、それ自体が液密に構成されると共に、導電性液体(神経細胞を分散させた細胞培地である導電性液体)を導入したり排出したりするための通液路または開閉可能な開口部を備える。基板の第一表面側の液溜部は、その液溜部の上部をカバーグラスのような蓋用部材で塞ぎ、必要により蓋用部材を取り外して液溜部を開口させることもできる。

【0101】
プレーナーパッチクランプ装置においては、第一表面側及び第二表面側に新規な構成の電極部を備えるが、この点は「プレーナーパッチクランプ装置における電極部構造」の項において後述する。

【0102】
更に、プレーナーパッチクランプ装置においては、前記第一表面側の液溜部を、それぞれ光不透過性の材料によって構成された、細胞を配置するための主液溜と、第一表面側の電極部が配置された副液溜と、これらの液溜を連通させる狭い通液路からなる構成とすることも好ましい。又、前記第二表面側の液溜部が導電性液体を導入及び排出するための通液路と連通され、かつ、この通液路に第二表面側の電極部が配置されている構成とすることも好ましい。

【0103】
そして、前記第一表面側の液溜部が前記した神経細胞の選択領域に相当する。従って、第一表面側の液溜部は適宜な2次元方向の相互間隔をもって基板上に複数ないし多数設定され、これらの第一表面側の液溜部中にそれぞれ、複数の突起部で囲まれた細胞定着部が構成される。

【0104】
第二表面側の液溜部も、第一表面側の液溜部に対応する位置にそれぞれ設定され、第一表面側と第二表面側の液溜部は基板の微細貫通孔により連絡される。そして第二表面側の液溜部が液体吸引デバイスに連絡されており、この液体吸引デバイスによって第二表面側の液溜部に陰圧を負荷すると、微細貫通孔を通じて第一表面側の液溜部にも陰圧が負荷される。この微細貫通孔が、(イ)として前記した細胞定着部の底面の細胞培地吸引用の微細貫通孔に相当する。又、微細貫通孔における第一表面側の開口部周縁に細胞固定力を持つ細胞外マトリックス形成物質を付着させている。これが(ア)として前記した細胞定着部の底面の細胞外マトリクス形成物質のコーティングに相当する。

【0105】
〔プレーナーパッチクランプ装置における電極部構造〕
更に、上記のプレーナーパッチクランプ装置においては、前記第一表面側及び第二表面側の電極部が以下の(a)~(c)の要素を備えることが好ましい。

【0106】
(a)前記液溜部に導入された導電性液体に接することとなる容器壁の少なくとも一部が無機多孔質材料で構成されている電極容器。

【0107】
(b)上記の電極容器内に収容された、貴金属Nmの表層部にその貴金属の塩化物NmCl層を形成した電極。

【0108】
(c)上記の電極容器内に充填された、前記貴金属の塩化物NmCl及びアルカリ金属塩化物が飽和濃度で溶解した電極溶液。

【0109】
上記の電極部構造における貴金属Nmの種類は限定されないが、銀Ag及び白金Ptが好ましく、特に銀Agが好ましい。従って、貴金属の塩化物NmClとしても、銀の塩化物AgCl及び白金の塩化物AgClが好ましく、特に銀の塩化物AgClが好ましい。又、アルカリ金属塩化物としては、限定はされないが、塩化カリウムKClであることが好ましい。容器壁の少なくとも一部を構成する無機多孔質材料は、好ましくは多孔質ガラス又は多孔質セラミックスである。

【0110】
更に前記電極部における電極が以下(1)又は(2)であることも好ましい。

【0111】
(1)電極容器内部に突出した棒状電極であって、貴金属Nmからなる芯材の表層部に貴金属塩化物NmCl層を形成している。

【0112】
(2)電極容器の壁部の内周面に形成した筒状電極であって、容器壁部側の底層が貴金属Nmの蒸着層であり、電極溶液に接する表面層が貴金属塩化物NmClの蒸着層である。

【0113】
〔神経細胞ネットワーク形成用培養装置を用いるイメージング解析〕
本発明に係る神経細胞ネットワーク形成用培養装置あるいはプレーナーパッチクランプ装置を用いて、少なくとも、Caイメージング解析、前シナプス部位のマーカーであるsynaptophysin又は synapsinの標識によるイメージング解析、樹状突起のマーカーであるMAP2の標識によるイメージング解析、及び、エンドソームやエキソソームを標識するFM1-43又はFM4-64によるイメージング解析等の各種のイメージング解析を行うことができる。

【0114】
(Caイメージング解析)
Caイメージングとは、神経細胞に予めCaプローブ(Caイオンと結合して蛍光を発する色素)を導入しておき、神経細胞に活動電位が発生した時に細胞体にCaイオンが流入する現象を蛍光として捉える方法であり、その細胞のイオンチャンネル電流を活動電位の発生時あるいは活動電位の伝搬時に生じる蛍光の観察により行い解析することができる。

【0115】
従って、Caプローブが導入された神経細胞を用いて神経細胞ネットワークを構成し、例えば、それらの内の単一の神経細胞に電流注入あるいは電圧印加することにより、複数ないし多数の神経細胞における前記Caイメージングによる測定を行うことができる。

【0116】
この方法によれば、神経細胞ネットワークを構成する単一の神経細胞(第1の神経細胞)を選択して、電流注入あるいは電圧印加により刺激して活動電位を発生させ、同時にその活動電位が神経細胞ネットワークを通じて隣接する周囲の神経細胞(第2の神経細胞)に伝搬し、更には第2の神経細胞からこれに隣接する第3の神経細胞に伝搬する様子をCaイメージングにより計測することができる。

【0117】
従来の技術として例えば電極刺激法があるが、この方法の場合、単一の神経細胞を選択的に刺激することが困難であり、解析が複雑となる。又、他の従来技術であるマイクロピペット電極による刺激では、単一の神経細胞を選択的に刺激できるが、ハイスループットスクリーニングに必要な多チャンネル化が困難である。本発明の手法によれば、計測部を非常に小型化できるので、多チャンネル化が容易である。

【0118】
(synaptophysin、synapsinによるイメージング解析)
Synaptophysinやsynapsinはシナプスベシクルの膜たんぱく質であり、前シナプス部位のマーカーであるが、これらの抗体に色素を結合させ、抗原抗体反応を利用してこれらのたんぱく質に色素を結合させることができる、これにより、シナプス部位を標識することができる。

【0119】
(MAP2によるイメージング解析)
MAP2は樹状突起のマーカーであるが、この抗体に色素を付加し、反応させることにより、樹状突起部位を標識することができる。

【0120】
(FM1-43、FM4-64によるイメージング解析)
FM1-43やFM4-64は細胞膜に可逆的に入り、細胞膜を透過せず、細胞膜に結合したときにのみ蛍光を発するという特徴を有し、エンドソームやエキソソームを標識することができる。細胞の生命機能を維持して標識できるという特徴を有する。

【0121】
(イメージング解析の光学系)
本発明に係る神経細胞ネットワーク形成用培養装置あるいはプレーナーパッチクランプ装置を用いて上記の各種のイメージング解析を行うに当たり、装置には以下の光学系要素を備えることが好ましい。

【0122】
まず、装置の基板の第1表面側の上部に、神経細胞が発する光の受光装置を設置する。又、装置の基板の第1表面側の上部に、神経細胞あるいは基板表面にレーザー光等を照射するための照射装置を設置する。この照射装置は更に、所定の単一の細胞にのみ光を照射するための集光系を装備していることが特に好ましい。

【0123】
以上の光学系要素を備えることで、非接触、非破壊での光計測が可能となり、神経細胞ネットワーク機能を阻害せずに解析できると共に、高速で解析でき、更に、集光系により正確に単一の神経細胞を励起して精密に解析できる。

【0124】
〔神経細胞播種デバイス〕
本発明に係る神経細胞播種デバイスは、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はこの培養装置を利用したプレーナーパッチクランプ装置における、細胞培地を充填可能な平坦な装置基板上に設置して、装置基板における複数の突起部で囲まれた多数の細胞定着部に神経細胞を播種するためのものである。

【0125】
ここで言う「神経細胞ネットワーク形成用培養装置」とは、細胞培地を充填可能な平坦な装置基板上に複数の突起部で囲まれた多数の細胞定着部を形成したものである限りにおいて、その構成を限定されない。又、「プレーナーパッチクランプ装置」も、神経細胞ネットワーク形成用培養装置を利用した装置であって、細胞培地を充填可能な平坦な装置基板上に複数の突起部で囲まれた多数の細胞定着部を形成したものである限りにおいて、その構成を限定されない。しかし、特に好ましくは、「神経細胞ネットワーク形成用培養装置」とは前記した実施形態に係る本発明の神経細胞ネットワーク形成用培養装置であり、「プレーナーパッチクランプ装置」とは前記した実施形態に係る本発明のプレーナーパッチクランプ装置である。

【0126】
本発明の神経細胞播種デバイスにおいては、そのデバイス本体が、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板上に設置が可能なボード状の形態を有している。一般的に、ボード状とは、薄板状又は厚板状であることを意味し、多くの場合には平面形状が矩形(正方形又は長方形)であることをも意味する。しかし本発明では、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板上に設置が可能な形態であって、底面が装置基板上の多数の細胞定着部における複数の突起部の頂端に接することとなるように、少なくとも底面が平坦であり、かつ上記の装置基板上に設置した際に、底面が多数の細胞定着部を覆う広さを持つ限りにおいて、「ボード状」の具体的形態は限定されない。

【0127】
「ボード状」のデバイス本体としては、基本的には、神経細胞ネットワーク形成用培養装置やプレーナーパッチクランプ装置の装置基板と対応する平面形状と広さ(面積)を持つものが便宜である。デバイス本体の平面形状は矩形のものに限らず、円形、楕円形、その他の不定形であっても良く、その厚さは、例えば、数mm~数cm程度とすることができる。デバイス本体の底面の面積は装置基板の面積と対応することが好ましいが、例えば、2~3cm程度のものから数十cm程度あるいは更に大きいものまで、自由に選択することができる。

【0128】
デバイス本体の面積やこれに対応する装置基板の面積は、装置基板における細胞定着部の個数や、デバイス本体における後述の微細加工の集積度等の要因を考慮して、適宜に設定することが好ましい。更に、デバイス本体の構成材料は限定されないが、ガラス等の無機材料やプラスチック等の有機材料を好ましく例示できる。特に、透明な材料を用いることが好ましい。

【0129】
ボード状のデバイス本体は、好ましくは、懸濁液供給口を設けた上部ボードと懸濁液注入口を設けた下部ボードとを密着状態で接合させてなり、上部ボードと下部ボードの少なくとも一方の接合面に懸濁液流路を構成する溝を形成している構成が好ましい。溝の断面形状は、半円形や矩形であり得る。この場合は、上部ボードと下部ボードとの接合後に、結果的に溝が懸濁液流路を構成する。上部ボードと下部ボードの双方に正確に対応する断面半円形の溝を形成した場合には、結果的に断面円形の懸濁液流路が構成される。

【0130】
しかし、ボード状のデバイス本体としては、その内部に多数の懸濁液流路を形成するための加工が可能である限りにおいて、単一のボードを用いることも可能である。光硬化性樹脂を用いた3次元光造形法(three-dimensional stereorithography)を用いれば、製造効率は劣るが、このような加工は可能である。

【0131】
デバイス本体には、(1)神経細胞を一定密度で懸濁させた神経細胞懸濁液を外部から供給するための懸濁液供給口と、(2)デバイス本体の内部において前記懸濁液供給口から分枝状に延設させた多数の微細な懸濁液流路と、(3)前記各懸濁液流路の端末においてデバイス本体の底面に開口した、神経細胞懸濁液を前記各細胞定着部に注入するための懸濁液注入口とを設ける。

【0132】
なお、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板上に神経細胞播種デバイスを設置した際に、個々の懸濁液注入口が個々の細胞定着部に正確に対応して位置することが必要である。又、前記したように、神経細胞播種デバイスの設置の際の懸濁液注入口と細胞定着部の正確な位置決めのために、透明材料からなるデバイス本体、あるいは神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板に、位置合わせ用の標識(マーカー)を表示しておくことも好ましい。

【0133】
上記(1)の懸濁液供給口は、デバイス本体の上面に開口させることが好ましい。しかし、デバイス本体の側面に開口させる場合でも、本体内部に向かって斜め下向きに傾斜した懸濁液供給口であれば、利用可能である。更に、神経細胞懸濁液を懸濁液供給口に加圧状態で供給することを前提として、神経細胞の播種操作の完了後における当該懸濁液供給口からの神経細胞懸濁液の漏出等を気にしない場合には、デバイス本体の側面に懸濁液供給口を水平方向に開口させても構わない。

【0134】
懸濁液供給口は、デバイス本体に1ケ所だけ設けても良いが、下記(2)の微細な懸濁液流路と、下記(3)の懸濁液注入口とをかなり多数に設定する場合には、それらに対して流路設計上で連絡させ易いと言う点から、デバイス本体に懸濁液供給口を適所に分散させて複数ケ所に設けることが好ましい。懸濁液供給口を複数ケ所に設ける場合、これらに対する神経細胞懸濁液の供給は、それぞれ別のインジェクター等を用いても良いが、基端側が単一のパイプで先端側が複数のパイプに分岐した接続用パイプの基端側を単一のインジェクター等に接続し、先端側の複数のパイプをそれぞれ複数ケ所の懸濁液供給口に接続することができる。

【0135】
いずれの場合でも、懸濁液供給口の内径は例えば数mm以下ないし数百μm程度の小さなものとなる場合が多いので、「発明の効果」の項で前記したように、先端側が縮径された接続用パイプをインジェクターやマイクロシリンジ等の液体圧入用器具の注口に嵌め、先端側の縮径された部分を懸濁液供給口に差し込むことができる。接続用パイプにおける「先端側の縮径された部分」として、例えば、先端に向かって次第に細くなるコニカルな形状に形成されたステンレス製の差し込み用ノズルを用いることができる。前記した「先端側が複数のパイプに分岐した接続用パイプ」を用いて複数ケ所の懸濁液供給口に神経細胞懸濁液を供給する場合にも、分岐した各パイプの先端部に上記の差し込み用ノズルを取り付けることができる。

【0136】
上記(2)の懸濁液流路は、例えば、内径が50μm~500μm程度の微細な流路とすることができる。懸濁液流路の断面形状は、円形であっても良いし、半円形や、矩形等であっても良い。この懸濁液流路は、基本的には、デバイス本体内におけるほぼ平面方向に沿って形成するものである。懸濁液流路は、上記の懸濁液供給口から多数、分枝状に延設させるが、その分枝の形態としては、懸濁液供給口から直接に多数の懸濁液流路を分枝して延設させる場合と、懸濁液供給口から1本又は2、3本の少数の幹線状懸濁液流路を分枝させ、これらの幹線状懸濁液流路から順次に多数の懸濁液注入口に連絡する支線状懸濁液流路を分枝させてゆく場合とがある。

【0137】
又、懸濁液供給口から個々の懸濁液注入口までの直線距離としては、懸濁液注入口の設定位置次第で、必ずしも同一にはならない。しかし、前記第10発明の効果に関して述べた理由から、多数の懸濁液流路における(1)の懸濁液供給口から(3)の懸濁液注入口に至るまでの長さを実質的に同一に設定することが、極めて好ましい。このような要求に対しては、例えば、特定の幹線である懸濁液流路において、及び/又は、特定の支線である懸濁液流路において、流路の長さを調節するための迂回路部分を意図的に設定することにより、対応することができる。

【0138】
上記(3)の懸濁液注入口に関しては、それぞれの懸濁液注入口は個々の細胞定着部に位置合わせして設定される。そして懸濁液注入口はデバイス本体の平坦な底面に下向きに開口させる。一方、前記したように、デバイス本体を神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板上に設置した際、デバイス本体の底面は細胞定着部における複数の突起部の頂端に接する。以上の点から、懸濁液注入口より注入される神経細胞懸濁液は、確実に細胞定着部の内側に注入される。この点から、懸濁液注入口の開口径は、複数の突起部により規定される細胞定着部の内径とほぼ同一か、それよりもやや小さい、あるいはやや大きい程度であることが好ましい。

【0139】
デバイス本体は、更に、神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板における細胞定着部以外の領域に対して神経細胞懸濁液を注入するための第2懸濁液流路系を更に備えることが、前記した第13発明の効果の欄で記載した理由から、好ましい。

【0140】
この第2懸濁液流路系としては、例えば前記(1)と類似した構成の第2懸濁液供給口を、ボード状デバイス本体の適数の箇所に設けることができる。この場合の第2懸濁液供給口は、微細な懸濁液流路系を介することなく、そのままデバイス本体の底面まで貫通するものであっても良いし、前記(2)と類似した複数の第2懸濁液流路に分岐された後に、デバイス本体の底面に開口した、前記(3)に類似した第2懸濁液注入口に連絡するものであっても良い。第2懸濁液流路系においては、複数の第2懸濁液流路が実質的に同一の長さに設定されなくても構わない。
【実施例】
【0141】
以下に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって限定されない。
【実施例】
【0142】
〔第1実施例〕
第1実施例に係る装置を図5に示す。この装置は、神経細胞ネットワーク形成用培養装置を、イオンチャンンネルバイオセンサーである培養型のプレーナーパッチクランプ装置として構成したものである。
【実施例】
【0143】
この装置における電気絶縁性の基板14として、シリコン基板を用いている。基板14には、その第一表面側(図の上側)と第二表面側(図の下側)を連通させる、直径1~3μmの微細貫通孔15を設けている。図5では微細貫通孔15を基板14の中央に1個設けているが、より大きな基板を用いて、複数ないし多数の微細貫通孔15を設け、これらの各微細貫通孔15に対してそれぞれ、以下のように構成しても良い。
【実施例】
【0144】
微細貫通孔15の第一表面側の開口部上の基板面には、複数の突起部12で囲まれた細胞定着部13が形成され、この細胞定着部13には1~数個の神経細胞11が配置されている(図示の便宜上、1個の神経細胞のみを示す)。
【実施例】
【0145】
基板14はその第一表面側と第二表面側を1対のスペーサー16、17で挟着されている。スペーサー16、17の構成材料は限定されないが、第一表面側のスペーサー16については、好ましくは、弾力性のある光不透過性の材料、例えばシリコンゴムやPDMS(polydimethylesiloxane)等を用いることができる。一方、第二表面側のスペーサー17については、好ましくは光透過性の材料を用いることができる。
【実施例】
【0146】
スペーサー16の中央部分には神経細胞ネットワーク構成用の大きな培養スペース18が切欠き形成され、この培養スペース18における基板14面上に、上記の神経細胞11を配置した細胞定着部13が1ケ所又は複数~多数ケ所、設けられている(図示の便宜上1ケ所の細胞定着部のみを示す)。又、基板14面における細胞定着部13以外の部分にも、神経細胞11が播種されている。
【実施例】
【0147】
スペーサー17においては、基板14の微細貫通孔15に対応する部分には例えば円形の切欠き部19が設けられているので、微細貫通孔15における第二表面側の開口部がこの切欠き部19に開口している。従って、この切欠き部19も、細胞定着部13及び微細貫通孔15に対応して、1ケ所又は複数~多数ケ所、設けられる(図示の便宜上、1ケ所の切欠き部19のみを示す)。
【実施例】
【0148】
そして、上記の基板14及び1対のスペーサー16、17の全体が1対の丈夫なプレート20、21で締め付けられた構造となっている。プレート20、21の材料としては、120℃程度でのオートクレーブ滅菌に耐えられる材料であれば特段に限定されない。しかし、第一表面側のプレート20については、好ましくは、光不透過性の材料を用いることができる。一方、第二表面側のプレート21については、好ましくは、光透過性の材料を用いることができる。
【実施例】
【0149】
以上の構成において、第一表面側のプレート20の中央部には、第一表面側のスペーサー16における上記培養スペース18に対応する位置に、培養スペース18と同様の大きさの、例えば円形の切欠き部が設けられる。この切欠き部の周縁には、プレートの厚さの薄い凹部状の段部を形成し、この段部にカバーグラスのような蓋用部材(図示省略)を設置することによって、上記のスペーサー16における切欠き部の開口を開閉可能に構成しても良い。こうして、第一表面側に主液溜22が構成される。
【実施例】
【0150】
一方、第二表面側のスペーサー17における切欠き部19の開口をプレート21により塞ぐことで、第二表面側の液溜部23を形成している。第一表面側の主液溜22と、第二表面側の液溜部23とは、微細貫通孔15を介して連通している。
【実施例】
【0151】
主液溜22は第一表面側の液溜部の第1の領域を構成する。この主液溜22は、スペーサー16に設けた狭い通液路24を介して、第一表面側の液溜部の第2の領域を構成する副液溜25と連通している。副液溜25は、スペーサー16及びプレート20に共通に設けた穴によって形成されている。副液溜25には、後述する第一表面側の電極部28を配置している。
【実施例】
【0152】
主液溜22、通液路24及び副液溜25によって構成される第一表面側の液溜部には導電性液体である細胞培地が導入され、保持される。導電性液体には神経細胞を分散させておくことができる。導電性液体としては、140mM NaCl、3mM KCl、10mM 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid (HEPES)、2.5mM CaCl2、1.25mM MgCl2 及び10mM glucose at pH 7.4 (with HCl)等の緩衝液、又は10%(v/v)FBS、1%(v/v)GlutamaxTM(Gibco)を添加したDulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM: Sigma)等の細胞培地を用いる。導電性液体の組成は、神経細胞の種類によって適宜に変更できる。
【実施例】
【0153】
第二表面側の液溜部23には、40mM CsCl、80mM CsCH3SO4、1mM MgCl2、10 mM HEPES、2.5mM MgATP、0.2mM Na2EGTA,(pH7.4)等のピペット溶液と呼ばれる緩衝液又は細胞培地などを導入する。液溜部23に対する導電性液体の導入はチューブ状の導入用通液路26によって行い、その排出は排出用通液路27によって行う。本実施例では、導入用通液路26及び排出用通液路27として外径1mm、内径0.5mmのPEEK製のチューブを用いたが、これらの通液路の構成材料についても、120℃程度でのオートクレーブ滅菌に耐えられる材料であれば、他の材料を用いても良い。
【実施例】
【0154】
排出用通液路27にも、第一表面側の電極部28と同様に構成された第二表面側の電極部29(1点鎖線により簡略化して図示する)を設置している。これらの電極部28、29の構成は後述する。通常、第一表面側の電極部28の電極を接地させ、第二表面側の電極部29の電極に膜電圧を印加する。
【実施例】
【0155】
神経細胞11を分散させた導電性液体を主液溜22に導入した場合において、排出用通液路27に連絡させた適宜な液体吸引デバイスによって液溜部23の導電性液体を吸引すると、微細貫通孔15を通じて主液溜22の導電性液体も吸引される。このような操作によって、神経細胞11を図5に示す細胞定着部13(即ち、微細貫通孔15の開口位置)に効果的に配置させることができる。
【実施例】
【0156】
更にこの場合、吸引圧によって微細貫通孔15に接する部分の神経細胞11の細胞膜に微細な穴を形成することができる。このような穴を神経細胞11に形成するには、他にも、nystatin やamphotericin B 等の細胞膜穿孔性の抗生物質の溶液を導入用通液路26から第二表面側の液溜部23に導入すると言う方法もある。このような穴を細胞膜に形成すると、神経細胞内と第二表面側の液溜部23が電気的に導通した状態となる。
【実施例】
【0157】
一方、神経細胞11を細胞定着部13(微細貫通孔15の開口位置)に配置させる手段として、基板14の微細貫通孔15における第一表面側の開口部周縁に、細胞固定力を持つ細胞外マトリックス形成物質30を付着させておくこともできる。
【実施例】
【0158】
以上の構成において、神経細胞11には所定のイオンチャンネルが発現されており、そのイオンチャンネルを開く刺激物質が第一表面側の液溜部に加えられると、イオンチャンネルが開き、第一表面側の電極部28と第二表面側の電極部29間に印加電圧に応じたチャンネル電流が流れる。このとき、神経細胞11の細胞膜と基板14との間に隙間があると、シール抵抗が低下してチャンネル電流にリーク電流が重畳する。
【実施例】
【0159】
膜電位は、電極間に実際に印加される電圧に加えて、空間に存在する電磁波による誘導電圧や、電極金属表面とそれをとりまく緩衝液との間の界面電位や、液/液界面電位が重畳されるので、誘導雑音や界面電位の変動によりリーク電流がそれに対応して変動する。そのため、イオンチャンネル電流に対しては、ベースラインの変動という雑音として現れる。
【実施例】
【0160】
詳細なデータの提示は省略するが、ギガオーム以上のシール抵抗を容易に得られるピペットパッチクランプにおいては、膜電位の変動が比較的大きくても、ベースライン変動雑音の影響は無視できるほどに小さい。しかし、シール抵抗が比較的小さな(~10MΩ)培養型プレーナーパッチクランプにおいては、この膜電位の変動を小さくする必要がある。そこで、本実施例では、膜電位の変動が小さく安定な電極を開発した。このような電極により、膜電位の変動を大幅に小さくし、シール抵抗が小さくても雑音電流を小さく抑えて、計測することができる。
【実施例】
【0161】
以下において、詳細な図示は省略するが、第一表面側及び第二表面側の電極部28、29の構造を説明する。内径1mmのパイレックス(登録商標)ガラスからなる筒状の電極容器31の内部は、KClとAgClが飽和濃度で溶解した電極溶液32で満たされている。KCl濃度は3.3M/L、AgClは約1.1mM/Lを添加している。なお、KClの場合、飽和濃度は常温で約3.3M/Lである。電極容器31内に収容されたAgCl/Ag電極33において、銀線の表面にはAgClがコートしてある。このようなAgCl/Ag電極33は、銀線の表面にAgCl粉末を塗布して形成したり、あるいは、次亜塩素酸ナトリウムを含む漂白剤などに銀線を浸しても製作できる。又、KCl溶液内での電気メッキによっても製作できる。
【実施例】
【0162】
電極容器31の先端部は、多孔質ガラスや多孔質セラミックス等の無機多孔質材料34で塞いでいる。無機多孔質材料34として、実際にはバイコールガラス(コーニング社)を使用した。このように電極容器31の容器壁の一部を構成している無機多孔質材料34は、その先端が導電性液体(細胞培養液や緩衝液)に浸漬される。導電性液体中のKCl濃度は数ミリモルであるが、無機多孔質材料34の効果で、電極容器31の容器内と容器外が電気的には導通した状態でありながら、電極溶液32と容器外の導電性液体との混合は無視できるほど小さいため、容器内と容器外での大きなKCl濃度差が一定に保たれ、これにより、AgCl/Ag電極33の界面電位や液/液界面電位が一定に保持される。電極容器31の基端部はシール材料でシールされ、そこから電極ピン35が突出している。
【実施例】
【0163】
光でチャンネルが開くイオンチャンネルを発現した細胞を用いてチャンネル電流を制御する場合において、以上の第一表面側及び第二表面側の電極部28、29を配置すれば、第一表面側の液溜部が光不透過性のスペーサー16やプレート20によって形成されるので、主液溜22に照射される照射光が、第一表面側及び第二表面側の電極部28、29のAgCl/Ag電極を照射することがない。又、主液溜22には神経細胞11が配置してあり、細胞の外部の導電性液体のカリウムイオン濃度は数mM程度と小さいので、微量とは言え電極部から漏れ出るKClの影響を抑える事が望ましい、そのため、第一表面側の液溜部については、主液溜22に加えて副液溜25を作り、これらの主液溜22及び副液溜25を幅1mm以下の狭い通液路24で連結している。
【実施例】
【0164】
〔第2実施例〕
第2実施例を図6に示す。この第2実施例及び次の第3実施例は第1実施例における要点を更に詳しく述べるものである。これらの実施例における部品番号は第1実施例とは異なるが、同じ部品名のものは実質的に同じ構成である。
【実施例】
【0165】
Si基板1の表面にネガテイヴフォトレジストSU8を厚み8~10μmでスピンナーによりコートし、あらかじめ用意したフォトマスクを用い通常の工程により現像して、図6(a)、図6(b)に一例として示す柵状の複数の突起部12からなる細胞定着部13を形成した。
【実施例】
【0166】
この場合の突起部は、底面10μm×10μm、高さ8~10μmの四角柱であり、突起部間の相互間隔は8~10μmである。マウスやラットの大脳皮質や海馬の神経細胞の細胞体の径は通常、播種時に10μm前後、定着時には15~20μmであるので、この複数の突起部からなる細胞定着部2中に配置された神経細胞3は、細胞定着部2の外には移動しない。しかし細胞培地は細胞定着部2の内外を移動し、細胞定着部2内の細胞の培養には問題ない。突起部の形状は円柱や楕円柱であっても、球状の固形物であっても構わない。
【実施例】
【0167】
複数の突起部12からなる細胞定着部13による神経細胞3の配置は、神経細胞ネットワークの形成と利用において有用性が発揮される。図6(c)に概念図を示すように、細胞定着部13の内側に神経細胞3を配置すれば、細胞定着部13の外側の神経細胞3とネットワークを形成する。このネットワーク形成において、神経細胞3は軸索の先端から神経伝達物質を放出しながら、結合する相手をもとめて軸索の伸長を行い、受ける側の神経細胞3もこの神経伝達物質を受けて樹状突起を伸ばして、シナプス接合を形成する。
【実施例】
【0168】
本発明の特徴は、細胞定着部13内の神経細胞3と細胞定着部13外の神経細胞3が基板1の同じ平坦面上に存在するため、神経細胞間でのコミュニケーションが妨害されることなく行われ、安定な培養が継続され、安定なネットワークが形成される点にある。本実施例の場合、細胞定着部2の内部に配置した神経細胞3は1ケ月以上の培養が可能であった。
【実施例】
【0169】
このように所定の神経細胞の位置を指定してネットワークを形成することは、いろいろな点で有用である。図5に示すような培養型プレーナーパッチクランプ装置に応用すると、その効果は特に大きい。
【実施例】
【0170】
細胞定着部13の内径は、図6(a)、図6(b)に示すように容易に変更できる。その内径は、神経細胞ネットワークの長期間の安定な培養を可能とするための複数個(比較的多数)の神経細胞3を配置できる内径とするか、ネットワークの機能解析が容易である1個ないし少数個の神経細胞3を配置できる内径とするか、という配慮に基づく最適の神経細胞の個体数(クラスターサイズ)により決まる。例えば、比較的丈夫なラット大脳皮質神経細胞では1~4個のクラスターが良いが、比較的脆弱なiPS細胞やこれから分化・誘導されるニューロスフェアーでは、安定的培養のためにより多くの細胞体からなるクラスターが好ましい。
【実施例】
【0171】
〔第3実施例〕
第3実施例を図7に基づいて説明する。同図において、図7(A)の右下部分の「c」の丸囲いに示す図は、細胞定着部2の中央部の微細貫通孔4付近の断面を拡大した部分図である。培養型プレーナーパッチクランプは、Siやプラスチック、セラミックス、ガラスなどの基板1に直径1~数μmの微細貫通孔4を形成し、この微細貫通孔4の上に神経細胞3を置き、基板1の上部、下部をそれぞれ所定の緩衝液で満たし、かつ上部電極7、下部電極8を設置した構成である。下部電極8は電流増幅器5に連絡されている。
【実施例】
【0172】
微細貫通孔4に接する神経細胞3の細胞膜に微細な穴をあけて、神経細胞3内と、基板1の下側の緩衝液溜めとが電気的に導通したホールセル状態を形成する。この神経細胞3に微細な穴をあける方法としては、第1実施例でも述べたように、下部液溜めに陰圧をかけて細胞膜を破る方法がある。又、ナイスタチンやアンフォテリシンなどの抗生物質を溶解した緩衝液を下部液溜めに流して、細胞膜にこれらの抗生物質を細胞膜に埋め込み、細胞内と下部液溜めとを電気的に導通した状態とすることを利用する方法もある。
【実施例】
【0173】
この場合、微細貫通孔4の周辺の基板1表面に細胞外マトリックス形成物質9を塗布しておくことが、神経細胞3を長時間生かしておく上で有効である。細胞外マトリックス形成物質9としては多くのものが公知であるが、ポリ-L-リジン、ラミニンなどがよく知られている。この系への神経細胞3の播種については、細胞定着部2の内部に単一細胞あるいは複数の細胞を間違いなく播種する必要から、図示するようなマイクロピペット6を利用して行うことが特に有効である。
【実施例】
【0174】
更に、この場合、図7(A)の右下の要部拡大図である「c」の丸囲いに示すように、マイクロピペット6から所定の速度で神経細胞3の懸濁液を細胞定着部2の上部に注入すると同時に、当該下部液溜めに所定の陰圧を印加し、図7(B)に示すように、微細貫通孔4の上に神経細胞3を効率よく配置することができる。但し、陰圧を大きくしすぎると神経細胞3が死んでしまうので、細胞種ごとに適切な圧力を設定する必要がある。図7(B)ではHEK293細胞を用いて吸引の実験を行い、2kPaの陰圧ならば神経細胞3が損傷を受けないことを確認した。5kPaの陰圧であると、8割の神経細胞3が損傷を受けないことを確認した。但し、吸引により神経細胞3が微細貫通孔4の上に配置された直後に吸引圧力の解除を始めると、損傷が少なくなることも確認された。
【実施例】
【0175】
本実施例においては、神経細胞3にはCaイメージング用のプローブ分子があらかじめ導入してある。また、神経細胞3には、レーザー光などの光で刺激ができるようチャンネルロドプシンなどの光受容体イオンチャンネルも遺伝子導入により発現されている。この場合、チャンネルロドプシンの励起波長とCaプローブ分子の励起波長が干渉しないよう十分に離れていることが重要である。本実施例で利用したチャンネルロドプシンの励起波長は470~480nmであり、Caプローブとしては、励起波長494nm、発光波長523nmのオレゴングリーンBAPTA-1を用いた。この第3実施例で実施した動作モードは以下の4種類である。
【実施例】
【0176】
(第一の動作モード)
微細貫通孔4の上の神経細胞3に所定の膜電位(通常-80~+80mV)を上部電極7、下部電極8により印加しておき、自然発火などにより神経細胞3内に流れるイオンチャンネル電流をホールセルモードにより観測する(図7(A)における矢印記号「a」)。この場合、周辺の神経細胞3の自然発火によるCaイオンの流入や、神経伝達物質を受けてのNa+、K+、Clなどのシナプス電流が観測され(K.S.Wilcox et al., Synapse 18 (1994) 128-151)、これにより軸索の状態や神経細胞3の状態に関する情報を得ることができる。
【実施例】
【0177】
(第二の動作モード)
微細貫通孔4の上の神経細胞3に上部電極7、下部電極8より所定の電流を注入し、あるいは電圧を印加(図7(A)における矢印記号「b」)して、神経細胞3に刺激を与え、活動電位を発生させる。これにより、刺激を受けた神経細胞3にCaイオンが流入する。そのため、Caプローブの蛍光(図7(A)における矢印記号「d1」)が観測されると共に、発生した活動電位が周辺の神経細胞3に伝搬して当該周辺の神経細胞3のCaプローブの発光(図7(A)における矢印記号「d2」)を生じさせる。この発光を観測することにより、信号の伝搬を確認することができる。すなわち神経細胞ネットワークの信号伝搬特性についての情報を得ることができる。
【実施例】
【0178】
(第三の動作モード)
微細貫通孔4の上(細胞定着部2内)の神経細胞3の付近に存在し、かつ、チャンネルロドプシンを発現している単一の神経細胞3に470~480nmのレーザー光を集光して照射(図7(A)における矢印記号「e」)して、この単一の神経細胞3に活動電位を発生させる。そうすると、この活動電位信号がネットワークを通して微細貫通孔上の神経細胞3に伝搬され、Caチャンネルが開いて、Caイオンの流入が誘起される。その結果、あらかじめホールセルモードとなっている微細貫通孔上の神経細胞3に膜電位を印加している上部電極7、下部電極8により、イオンチャンネル電流を観測できる。第三の動作モードによれば、神経細胞ネットワークの信号伝搬特性を単一細胞レベルで測定し詳細に解析できる。
【実施例】
【0179】
(第四の動作モード)
前記の第一~第三の動作モードにおいては、細胞定着部2と微細貫通孔4の組み合わせからなる図7(A)に示す構造は、最低で1ケ所あれば素子として動作する。そして、この構造を基板1上に多数構成すれば、ハイスループットスクリーニング装置として動作する。これに対して、以下の第四の動作モードでは、前記のトリガー細胞とフォロワー細胞に対応してそれぞれ一つ(合計二つ)の図7(A)に示す構造体をもって素子が構成される。
【実施例】
【0180】
基板1の上の複数ケ所に図7(A)に示す微細貫通孔4と細胞定着部2の組み合わせのシステムを形成する。その内の幾つかの微細貫通孔4上にある神経細胞3(トリガー細胞)の活動電位の発生を電流注入あるいは電圧印加で行う。そして、それ以外の微細貫通孔4上にある神経細胞3(フォロワー細胞)への活動電位の伝搬を、このフォロワー細胞におけるイオンチャンネル電流のホールセルモードでの記録により解析することが考えられる。これらの装置において、神経細胞3を位置を指定して配置することは極めて重要であり、位置を指定しながらも安定な神経細胞ネットワークを形成できる本発明が極めて有用であることは明白である。
【実施例】
【0181】
又、上記の第一、第三、第四の動作モードにおいて、微細貫通孔4でのイオンチャンネル電流だけでなく、基板1の上部でのCaイメージングの観測を同時に行うことにより、ネットワークの機能解析をより精密に行うことができ、極めて効果的である。
【実施例】
【0182】
〔第4実施例〕
第4実施例を図8(a)、(b)に示す。平面写真である図8(a)において小さな円形で示される、直径約10μm、高さ約8μmの円柱12本からなる細胞定着部2をSi基板の表面に形成し、17日齢のラット胎仔の大脳皮質から採取した神経細胞3を播種し、14日間培養後に神経細胞ネットワークの形成を蛍光顕微鏡により確認した。培地を所定の緩衝液に交換したのち、この緩衝液にオレゴングリーンBapta-1というCaプローブを混入し、約2時間後再び、緩衝液をCaプローブを含まない液に交換して蛍光顕微鏡で神経細胞3を観察した。
【実施例】
【0183】
細胞定着部2内に安定に数個の神経細胞3が設置されていることと、細胞定着部2内と細胞定着部2外の神経細胞がネットワークでつながっている様子が観察される。また、図8(b)は細胞定着部2内の神経細胞3の蛍光強度の時間変化を観察した結果であり、神経細胞3が活発に自然発火を繰り返し、神経細胞3内のCa濃度が変動している様子が観察される。本実施例では細胞定着部2は一組設置されているのみであるが、これを複数設置することにより、特定の細胞定着部2から別の細胞定着部2への信号伝搬の様子を観測することができ、ネットワークの機能解析を正確かつ安定に実施できる。
【実施例】
【0184】
〔第5実施例〕
第5実施例を図9に示す。Si基板を用いて構成した培養型プレーナーパッチクランプ素子の微細貫通孔を囲むように、複数の突起部からなる細胞定着部を、ネガティブホトレジストを用いて、第2実施例~第4実施例と同様の方法で形成した。ラット胎仔の大脳皮質から採取した神経細胞を第4実施例と同様な手法で播種し、培養14日後に細胞定着部の中の神経細胞が微細貫通孔の上に配置されていること、及び、当該神経細胞が周辺の神経細胞とネットワークを形成していることを確認した。
【実施例】
【0185】
その後、培地を基板の上側、下側でそれぞれ所定の緩衝液と交換し、下側の緩衝液にナイスタチン500μg/ml濃度で混入し、約10分間放置後、ホールセルモードの配置で基板1の下側に設置した電極に流入する電流を電流増幅器(Axopatch200B)により検出した。
【実施例】
【0186】
その結果を図9(A)に示す。図9(A)は、電流の膜電位依存性を示す。また、40mV—TTXは膜電位が40mVで、かつ上側の緩衝液にNaチャネルのブロッカーであるテトロドトキシン(TTX)を混入した時に観測された電流である。膜電位が-から+に変化すると電流の波形の向きも下(-)から上(+)に代わり、自然発火した神経細胞からの信号伝搬や、神経伝達物質の自然放出の場合のシナプス電流の特徴を示す。これらの波形はネットワークの特徴を反映しており、アンタゴニストやアゴニストの薬剤により、波形が変化する。細胞定着部と微細貫通孔の占める面積は非常に小さいので100点ほどの多点計測は容易であり、ハイスループットスクリーニングに必要な多点計測は容易に可能である。
【実施例】
【0187】
なお、図9(B)、図9(C)は、基板の上方部より、各神経細胞のCaイメージングによる蛍光強度の時間変化を計測した結果をまとめたものである。横軸が時間、縦軸が各々の神経細胞に付せられた番号である。円の大小はCa蛍光強度の強弱を表す。図9(B)に示す場合は神経細胞の密度が小さく、35mmデイッシュあたり2×10個であるため、神経細胞からの発光は完全にランダムである。
【実施例】
【0188】
これに対して、図9(C)に示す場合は神経細胞の密度が大きく、35mmデイッシュあたり2×10個であるため、Caイメージングによる発光が同期して起こるようになることが分かった。これらの結果は、基板の下側でイオンチャンネル電流を計測し、同時に上側でCaイメージングを行うことにより、より精密な計測と解析ができることを意味する。
【実施例】
【0189】
〔第6実施例〕
第6実施例は細胞定着部13の改良実施例に関する。図10に示すように、微細貫通孔の第一表面側の開口部上の基板面には、第1実施例の場合と同様に複数の突起部12で囲まれた細胞定着部13が形成され、この細胞定着部13には神経細胞11が配置されている。そして細胞定着部13をリング状に構成する複数の突起部12の外側に、更に多くの突起部12で囲まれた外側細胞定着部36が形成されている。即ち、第6実施例では、突起部12で構成されるリングが、細胞定着部13と、外側細胞定着部36との二重リング構造となっているのが特徴である。
【実施例】
【0190】
内側のリングで囲まれた領域である細胞定着部13には微細貫通孔があり、この領域に1ないし数個の神経細胞11が定着されており、神経細胞11が確実に微細貫通孔の上に存在する。そして同時に、内側のリングと外側のリングとの間の領域である外側細胞定着部36にも多数の神経細胞11が播種される。従って、細胞定着部13内部の神経細胞11間だけでなく、細胞定着部13の神経細胞11と外側細胞定着部36の神経細胞11との間にも神経細胞ネットワークが形成される。
【実施例】
【0191】
このような細胞定着部13と外側細胞定着部36からなる構成においては、例えばiPS細胞などのように、単一細胞では不安定で、多数の細胞が集合していないと安定的な培養ができない神経細胞について、確実に一個の神経細胞を微細貫通孔の上に定着させると共に、長期間、安定に培養できるというメリットがある。
【実施例】
【0192】
なお、第6実施例の場合において細胞定着部13と外側細胞定着部36にそれぞれ神経細胞11を播種する方法の1例については、次の第7実施例で簡単に述べる。
【実施例】
【0193】
〔第7実施例〕
第7実施例は、本発明の神経細胞播種デバイスに関する。神経細胞播種デバイスのデバイス本体は、上記の実施例に係る神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板上に設置し、装置基板における複数の突起部で囲まれた多数の細胞定着部に神経細胞を播種するためのものである。
【実施例】
【0194】
図11(a)に斜視図を示すように、本実施例に係る神経細胞播種デバイスのデバイス本体40は、4~6mm程度の厚さと2×2cm程度の方形の平面形状を有する平坦なボード状であり、上部ボード41と下部ボード42からなる。上部ボード41と下部ボード42は、それぞれ、例えばプラズマ処理等で表面を清浄化したPDMS(ポリジメチルシロキサン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等の透明なプラスチック又はシリコンゴムからなり、これらは密着状態で加熱して接合された2層構造体を構成している。
【実施例】
【0195】
上部ボード41の上面の中央部の一端側には、神経細胞を一定密度で懸濁させた神経細胞懸濁液を外部から供給するための、第1懸濁液流路系を構成する懸濁液供給口43を開口させている。又、その上面の中央部の他端側には、第2懸濁液流路系を構成する第2懸濁液供給口43aを開口させている。以下において、まず、第1懸濁液流路系について説明する。第2懸濁液流路系に関しては、後述する。
【実施例】
【0196】
(第1懸濁液流路系)
第1懸濁液流路系は、前記の第9発明~第12発明に係る懸濁液供給口と、懸濁液流路と、懸濁液注入口からなる。
【実施例】
【0197】
まず図11(a)のX-X線に沿う断面図(一部省略)を図11(b)に示すが、図11(b)から分かるように、上部ボード41の下面(下部ボード42との接合面)には、懸濁液供給口43から分枝状に延設させた、内径と深さがそれぞれ50~500μm程度の微細な溝を形成している。そのため、上部ボード41と下部ボード42とを密着状態で接合させると、これらの溝と下部ボード42の上面とによって、神経細胞懸濁液を流通させるための複数の微細な懸濁液流路44が構成される。
【実施例】
【0198】
上部ボード41の下面図(底面図)を図12(a)に示す。図11(b)においては単一の懸濁液流路44のみを図示するが、実際には、図12(a)から分かるように、図の下側に示す懸濁液供給口43から複数の懸濁液流路44を分枝状に延設させている。これらの懸濁液流路44には、それぞれ適当な部位において余分な迂回路を設けることにより、それらの流路長が互いに近似するように調節している。
【実施例】
【0199】
なお、図12(a)において、懸濁液流路44は、図示の便宜上、単に太い実線で示している。これらの図で示す後述の第2懸濁液流路44aも単に太い実線で示している。
【実施例】
【0200】
次に、図12(b)は神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の基板1の上面図(平面図)を概念的に示し、基板1の上面には複数の突起部で囲まれた細胞定着部2(簡略化して単一のドットで示す)が集合的に多数設定された5ケ所の定着部設定エリアが図示されている。図12(b)には、併せて、後述する第2懸濁液注入口45aも示されているが、これらは、実際には下部ボード42に形成されたものであって、基板1に形成されたものではないが、上記の5ケ所の定着部設定エリアとの位置関係を明示するために、あえて図示したものである。
【実施例】
【0201】
基板1の上に神経細胞播種デバイスのデバイス本体40が設置された状態を仮定して、上記の図12(b)との関係で図12(a)に基づく説明を更に加えると、懸濁液供給口43から分枝状に延設させた複数の懸濁液流路44は、基板1上の細胞定着部2が集合的に多数設定された5ケ所の定着部設定エリアの真上にそれぞれ至り、その位置において、下部ボード42に設けた多数の懸濁液注入口45と連絡する5ケ所の注入口設定部46を形成している。
【実施例】
【0202】
この注入口設定部46の拡大図を図13に示す。それぞれの注入口設定部46においては、懸濁液流路44が縦向きの5条の流路に分枝され、それらの5条の分枝された流路は、それぞれ下部ボード42に設けた多数の懸濁液注入口45と連絡している。即ち、図12(b)に示すように、基板1上の5ケ所の定着部設定エリアには縦方向に5条の細胞定着部2が形成され、その各1条には5つの細胞定着部2が含まれているが、これら全ての細胞定着部2に完全に対応して、懸濁液流路44の縦向きの5条の流路が位置しており、かつ、下部ボード42にも、全ての細胞定着部2に完全に対応して、懸濁液注入口45が形成されている。
【実施例】
【0203】
懸濁液注入口45の内径は細胞定着部2の内部領域の大きさとほぼ同じか、やや大きく、但し、突起部12も含めた細胞定着2の外形よりは小さい。そのため、突起部12が懸濁液注入口45の内部に入り込まない構成となっている。
【実施例】
【0204】
従って、第1懸濁液流路系を構成する懸濁液供給口43に神経細胞懸濁液を例えば加圧状態で供給したとき、懸濁液流路44と懸濁液注入口45を通じて、基板1上の5ケ所の定着部設定エリアに設けた合計250ケ所の細胞定着部2の全てに対して、極めて短時間の内に、しかもほとんど同一量の神経細胞懸濁液が注入される。その結果、「発明の効果」の欄で述べたような好ましい形態で、細胞定着部2に対して神経細胞が播種される。
【実施例】
【0205】
(第2懸濁液流路系)
第2懸濁液流路系は、前記第13発明に係る、装置基板における細胞定着部以外の領域に対して神経細胞懸濁液を注入するための懸濁液流路系であって、図11(a)に示す第2懸濁液供給口43aと、この第2懸濁液供給口43aから図12(a)に示すように分枝状に延設させた複数の第2懸濁液流路44aと、これらの第2懸濁液流路44aの各端末において下部ボード42に形成した第2懸濁液注入口45aからなる。それぞれの第2懸濁液注入口45aは、図12(a)においては破線で示すが、図12(b)においては実線で示す。
【実施例】
【0206】
第2懸濁液供給口43a、第2懸濁液流路44a及び第2懸濁液注入口45aの構造的な関係は、第1懸濁液流路系に関して図11(b)に示した懸濁液供給口43、懸濁液流路44及び懸濁液注入口45の場合と同様である。但し、第2懸濁液流路系においては、複数の第2懸濁液流路44aの流路長は相違していても構わず、又、第2懸濁液注入口45aは、図12(b)に示すように、基板1上における細胞定着部以外の領域に対して開口している。
【実施例】
【0207】
従って、第2懸濁液流路系を構成する第2懸濁液供給口43aに神経細胞懸濁液を例えば加圧状態で供給したとき、第2懸濁液流路44a及び第2懸濁液注入口45aを通じて、基板1上における細胞定着部以外の領域に神経細胞が播種される。
【実施例】
【0208】
なお、第6実施例のように細胞定着部13と外側細胞定着部36が形成されている場合は、デバイス本体40には、外側細胞定着部36に神経細胞を播種するために、デバイス本体40に懸濁液流路44と第2懸濁液流路44aに加えて、外側細胞定着部36に神経細胞を播種するための第3懸濁液流路(図示を省略)を形成することができる。あるいは、基板1上のデバイス本体40の位置を僅かにズラした後、懸濁液流路44を利用して、外側細胞定着部36に神経細胞を播種することもできる。
【実施例】
【0209】
〔第8実施例〕
以上のように、神経細胞播種デバイスのデバイス本体40に設けた第1懸濁液流路系を利用し、各細胞定着部2に対して所定の濃度の神経細胞懸濁液を注入する。そして細胞定着部2の複数の突起部12の相互間隔が、播種時の神経細胞の細胞体の寸法より小さく、かつ、神経細胞懸濁液の媒体液(例えば神経細胞の培養液)が容易に流出できるよう十分に広いので、細胞定着部2に対して上部より神経細胞懸濁液を導入することで、媒体液が流出するも神経細胞は細胞定着部2の内部に留まり、そこに播種される。
【実施例】
【0210】
よって、多数の細胞定着部2に短時間で、かつ、ほぼ同時に無損傷で細胞を播種することができる。その結果、多数の細胞定着部(プレーナーパッチクランプ装置の多数のチャンネル電流計測点)からなる神経細胞ネットワークを安定かつ容易に形成することができる。
【実施例】
【0211】
このように、突起部12間に隙間があることを利用して播種をする場合、その隙間と細胞体の寸法との関係をより詳細に検討することが重要である。即ち、神経細胞の細胞体は播種時と培養中では形状が大きく異なる場合が多い。又、細胞体の形状も真円ではなく、細長い楕円状となる。
【実施例】
【0212】
従って、突起部12の相互間隔を、播種時の細胞体の寸法最小値(短軸方向の寸法)、及び、培養中の細胞体の寸法最小値の、いずれか小さいほうの値以下とし、かつ、神経細胞懸濁液の媒体液が容易に流出できるよう、あるいは神経細胞の軸索や樹状突起が容易に細胞定着部2に出入りできるようできるだけ大きな値となるように、形成されている必要がある。
【実施例】
【0213】
一例として、ラット海馬の神経細胞で実験を行った結果を図14、図15に基づいて述べる。図14においては、ラット海馬の多数の神経細胞体の播種時における寸法最大値(長軸方向の寸法)の分布を左側のグラフに示し、その寸法最小値(短軸方向の寸法)の分布を右側のグラフに示す。図14に示すように、播種時の細胞体の寸法最小値は約7.5μmであった。
【実施例】
【0214】
一方、図15においては、同上の細胞体の培養時における寸法最大値(長軸方向の寸法)の分布を左側のグラフに示し、その寸法最小値(短軸方向の寸法)の分布を右側のグラフに示す。図15に示すように、培養時では、細胞体が細長くなり、細胞体の寸法最小値は約8μmであった。
【実施例】
【0215】
更に、ラット海馬の神経細胞で行った別の実験について、図16に基づいて述べる。図16は培養4日目の神経細胞の様子を示す光学顕微鏡写真であって、写真中の4個の大きな円形は細胞定着部2を構成する4個の突起部12であり、白抜きの実線で示す輪郭が神経細胞を表している。図16に示すように、神経細胞が外部から突起部12間の隙間を通って細胞定着部2に侵入しようとしている。結果的に、この神経細胞は侵入することができず、しばらくしてから後退した。突起部12間の隙間は11μm、神経細胞の細胞体の短軸方向の寸法は8.5μmである。従って図16の場合、突起部12間の隙間をもう少し狭くした方が安全であることを示す。
【実施例】
【0216】
〔第9実施例〕
第9実施例は、播種に用いるラット神経細胞懸濁液の調製方法に関する。この懸濁液の調製は以下のように行った。即ち、17~18日齢のWistar Rat胎児の脳から大脳皮質または海馬を採取し、0.25%の Trypsin溶液を用いた酵素処理(37℃、20分間)を経て組織をばらばらにした。次に、Minimum Essential Medium (MEM)を基本培地とした血清含有の培地を用いて1.0×10cells/mlの細胞懸濁液を調製した。そして、この細胞懸濁液をマイクロ流路もしくはマイクロインジェクターを用いて細胞定着部に導入して播種した。
【実施例】
【0217】
〔第10実施例〕
第10実施例は、播種するiPS細胞の調製に関する。即ち、独立行政法人 理化学研究所(日本国)のCELL BANKよりヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)株である201B7を入手し、マイトマイシンCにより増殖能を不活性化処理したSTO細胞由来細胞(SNL)をフィーダー細胞として培養した。フィーダー細胞は、iPS細胞の自己複製を補助する役割を果たす他の細胞を意味する。
【実施例】
【0218】
培養液としては、代替血清であるKSR、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノールを含む哺乳動物細胞培養用培地(DMEM/F12培地)を用い、更に組み換えヒトbasic fibroblast growth factor(bFGF)を使用直前に添加した。フィーダー細胞を3×10cells/cm2の濃度として、フィーダー細胞に適したコーティングを施した6cmのデイッシュに播種し、その1日後にiPS細胞をフィーダー細胞上へ播種した。良い状態のiPS細胞は、コロニーの輪郭が明瞭で内部の細胞密度が高くなる。iPS細胞の継代は通常、3~4日に1回の頻度で継代を行う。3~4代の継代を行った後に、運動ニューロンへの分化誘導を目的として、オンフィーダー培養から、表面をゼラチンもしくはマトリゲルでコートした6cmのデイッシュに細胞を移し、フィーダーレス培養へ移行させた。
【実施例】
【0219】
フィーダーレス培養で3~4代の継代を行った後に、運動ニューロンへの分化誘導を開始した。フィーダーレス培養されたiPS細胞を、増殖因子の存在下で浮遊培養することによって、神経幹細胞へ分化誘導した。分化誘導培地は、グルコース、グルタミン、インスリン、トランスフェリン、プロジェステロン、プトレシン、塩化セレンを添加したDMEM/F12培地である。分化誘導の浮遊培養工程として5×10cells/mlの密度で2 日間浮遊培養を行った。その後、レチノイン酸(10-8 M)を添加した分化誘導培地に交換し、4
日間の浮遊培養を行った。更にその後、FGF2(20ng/ml)、SHH-N(30nM) を添加した分化誘導培地に交換し、7 日間培養した。この処理により細胞の形態は神経幹細胞となった。
【実施例】
【0220】
この神経幹細胞をバラバラにし、poly-L-lysineにてコーティングした培養ディッシュで接着培養を行うことで、接着培養開始5週間後に成熟した運動ニューロンへ分化した。センサー基板上に神経細胞ネットワークを形成する場合は、基板表面をpoly-L-lysineにてコーテイングし、その上にバラバラにした神経幹細胞を播種し接着培養開始5週間後に運動ニューロンを含むネットワークを形成した。基板上に神経細胞ネットワークを形成する場合に当り、基板表面をpoly-L-lysineにてコーティングし、その上にバラバラにした神経幹細胞を播種し、接着培養開始5週間後に運動ニューロンを含むネットワークを形成した。
【産業上の利用可能性】
【0221】
本発明によって、細胞培地中で生きた状態にある神経細胞の移動を制約しつつ良好な神経細胞ネットワークを構成できる神経細胞ネットワーク形成用培養装置と、その利用手段が提供される。
図面
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