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明細書 :精子活性化剤およびそれを用いた活性化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6008336号 (P6008336)
登録日 平成28年9月23日(2016.9.23)
発行日 平成28年10月19日(2016.10.19)
発明の名称または考案の名称 精子活性化剤およびそれを用いた活性化方法
国際特許分類 C12N   5/076       (2010.01)
A61K  38/46        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  15/08        (2006.01)
FI C12N 5/076
A61K 37/54
A61K 37/02
A61P 15/08
請求項の数または発明の数 6
全頁数 16
出願番号 特願2014-536599 (P2014-536599)
出願日 平成25年9月19日(2013.9.19)
国際出願番号 PCT/JP2013/005538
国際公開番号 WO2014/045582
国際公開日 平成26年3月27日(2014.3.27)
優先権出願番号 2012206711
優先日 平成24年9月20日(2012.9.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年3月16日(2015.3.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
発明者または考案者 【氏名】杉原 一廣
【氏名】福田 道子
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100119183、【弁理士】、【氏名又は名称】松任谷 優子
【識別番号】100149076、【弁理士】、【氏名又は名称】梅田 慎介
【識別番号】100173185、【弁理士】、【氏名又は名称】森田 裕
審査官 【審査官】濱田 光浩
参考文献・文献 Journal of Cell Science, (2006), Vol. 119, p. 75-84
調査した分野 C12N 5/00
A61K 38/00
A61P 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
エンド-β-ガラクトシダーゼを含む、精子活性化剤。
【請求項2】
bFGFをさらに含む、請求項1に記載の精子活性化剤。
【請求項3】
エンド-β-ガラクトシダーゼとbFGFとの組合せであって、精子を活性化することに用いる組合せ。
【請求項4】
単離された精子にエンド-β-ガラクトシダーゼを添加するステップを含む、精子活性化方法。
【請求項5】
bFGFを添加するステップをさらに含む、請求項4に記載の精子活性化方法。
【請求項6】
単離した精子にエンド-β-ガラクトシダーゼを添加するステップが、bFGFを添加するステップよりも前に行われる、請求項5に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の精子の活性化剤および当該活性化剤を用いた精子の活性化方法に関する。詳しくは、体外受精や人工授精に使用する哺乳動物の精子の運動能を亢進させる、エンド-β-ガラクトシダーゼおよび/またはFGFを含む精子活性化剤、ならびにエンド-β-ガラクトシダーゼおよび/またはFGFを添加することを特徴とする精子活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類の精子は、射精の後、運動能獲得および受精能獲得のために活性化される。この活性化のプロセスは、先体反応前あるいは精子が卵に出会う前に起こる反応であり、精液中に含まれる受精能獲得抑制因子(decapacitation factor, DF)に依存した可逆的反応である。
【0003】
精子の運動能獲得は、精子の先体反応を可能とするのに必要な現象である。また、運動能獲得と受精能獲得は並行して生じ、これら2種類の精子活性化現象はいずれも受精に必須である。受精能獲得は、受精能獲得抑制因子の除去によって生じる一連の生化学的反応により定義されている。これら2種類の現象が生じるためには、カルシウムとグルコースが必要であると考えられている。
【0004】
また、ケトン体が精子を活発な運動状態へ誘導することや精子運動の維持にも重要な役割を果たしていることが見出されている(特許文献1)ほか、抗酸化剤等が精子の活性化に与える影響に注目した報告も多数存在する(特許文献2等)。
【0005】
過剰な活性酸素により精子の活力が阻害されることから、精子活性化剤として、抗酸化物質が注目を集めている。例えば、現在、グルタチオンやSOD、タウリンなどの活性酸素除去物質が添加されたり、活性酸素の抑制及び金属イオンの除去を目的としてEDTAが添加されたり、抗酸化剤としてコエンザイムQ10やカテキン等が用いられている。
【0006】
しかしながら、これらの精子活性化剤はその作用機序や臨床効果が不明であり、臨床の現場では、未だに受精率向上に有効な方法が存在しないのが現状である。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2005-255676
【特許文献2】特開2005-213147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、受精率の向上に有効な、新規な精子活性化剤および精子活性化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らはヒト精子の構造および運動能について鋭意検討を行った結果、ヒト精子尾部を覆っている多量のグリカン(多糖類)が精子尾部表面への物質のアクセスを妨げていること、係るグリカンが多くの硫酸基とフコースを含んだ特殊な構造のポリラクトサミン糖鎖であること、係る糖鎖は精巣上体の上皮細胞によって合成されて精液へ分泌されること、精子をエンド-β-ガラクトシダーゼを用いて処理すると精子の運動能が増強されること、係る作用はcAMPレベルの増加とカルシウム流入に伴って生じること、および精子尾部にFGFR2が存在し、FGFを精子に添加すると精子の運動能が増強されること、を見出した。本発明者らは、これらの知見、特に、精子にエンド-β-ガラクトシダーゼ若しくはFGFを単独で、またはそれらを組み合わせて添加することにより、精子の運動能が亢進されるという知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供する。
[1]エンド-β-ガラクトシダーゼおよび/またはFGFを含む、精子活性化剤。
[2]FGFがbFGFである、[1]に記載の精子活性化剤。
[3]単離された精子にエンド-β-ガラクトシダーゼおよび/またはFGFを添加するステップを含む、精子活性化方法。
[4]FGFがbFGFである、[3]に記載の精子活性化方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、全く新しい作用機序に基づく精子活性化剤および精子活性化方法が提供される。本発明の精子活性化剤を使用すると、精子の運動能が増強されるので、結果、受精を促進することができる。本発明の活性化剤および活性化方法はヒトを含む哺乳動物の体外受精および胚移植(IVF-ET)に活用することができる。また、本発明により、精子運動能不全に起因する不妊症患者のための人工授精(AIH)の効率を飛躍的に向上させることができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、精子運動能のCASA分析の結果を示す。19人のボランティアより得た精子を、分析前に37℃で15分間エンド-β-ガラクトシダーゼで処置した(+)、または処置しなかった(-)。A 全運動能;B 進行性の前方への運動能;C 非進行性の運動能。使用した統計分析は、ペア両側t検定(n=19)。
【図2】図2は、ヒト精子へのエンド-β-ガラクトシダーゼ処置の効果を示すグラフである。A エンド-β-ガラクトシダーゼで処置した(赤)または処置しなかった(青)ヒト精子中のATPレベル;B エンド-β-ガラクトシダーゼで処置した(赤)または処置しなかった(青)ヒト精子中のカルシウムレベル;C エンド-β-ガラクトシダーゼで処置したまたは処置しなかったヒト精子中のcAMPレベル。
【図3】図3は、精子関連粘液グリカンのMALDI-MSのスペクトルを示す。
【図4】図4は、抗ルイスY抗体を用いた、組織切片および精液スメアの免疫組織化学を示す図である。A 精巣;B 精巣上皮管;C 精巣輸出管;D ヒト精液;E PBS洗浄精子。組織切片および精液または精子スメアのスライドは、エンド-β-ガラクトシダーゼで処理し(右)または処理せず(左)、抗ルイスY抗体により免疫染色した。精巣中の精原細胞(A中の矢印)は染色されなかったが、一方、精巣上皮管の上皮細胞(B中の短い矢印)と精巣輸出管中の粘液(C中の長い矢印)は、該抗体により陽性に染色されたことに留意。スケールバー:100μm(A、BおよびC)、50μm(DおよびE)。
【図5】図5は、ヒト精子細胞およびHEK293T細胞に対する精液由来のポリラクトサミンの効果を示す図である。
【図6】図6は、精子運動能のポリラクトサミン依存性の抑制について、想定されるメカニズムを示す図である。
【図7】図7は、ヒト精子糖ペプチドのSephadex G-50によるゲルろ過クロマトグラフィーの結果を示す。各分画は、アントロン呈色反応によって、ヘキソースに関して測定された。
【図8】図8は、精液ポリラクトサミンを外因的に添加したまたはしない場合のヒト精子のCASA分析の結果を示す。
【図9】図9は、FGFで処理したHEK293T細胞におけるFGFR2のチロシンリン酸化の経時変化を調べた実験結果である。
【図10】図10は、アクロビーズテストを用いてヒト精子受精能を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.定義
エンド-β-ガラクトシダーゼ(EBG)は、ポリ-N-アセチルラクトサミン糖鎖中の内側にあるβ-ガラクトシド結合を加水分解する酵素である。本発明において使用し得るエンド-β-ガラクトシダーゼは、エンド-β-ガラクトシダーゼ活性を有する限り、特に限定されない。

【0014】
ここで「エンド-β-ガラクトシダーゼ活性」とは、R-GlcNAcβ1-3Galβ1-4GlcNAc(またはGlc)(R-N-アセチルグルコサミンβ1-3ガラクトースβ1-4N-アセチルグルコサミン(またはグルコース))に含まれるGalβ1-4GlcNAc(またはGlc)に含まれるGalβ1と4GlcNAc(またはGlc)との間の結合を加水分解して、R-GlcNAcβ1-3GalとGlcNAc(またはGlc)を生ずる活性をいう。例えば、本発明においては、エンド-β-ガラクトシダーゼとして、遺伝子工学的に製造されたもの、市販されているもの、またはそれらのアミノ酸配列において一部のアミノ酸が置換、欠失、または付加されているがエンド-β-ガラクトシダーゼ活性を有するものを使用することができる。具体的には、例えば、Fukuda,M.N.(1981)J.Biol.Chem.256,3900-3905に従って得られるエンド-β-ガラクトシダーゼを使用することができる。

【0015】
繊維芽細胞増殖因子(FGF)は、血管新生、創傷治癒、および胚発生に関連する成長因子のファミリーであり、中胚葉由来のほとんどすべての細胞および組織の増殖と分化のプロセスにおいて重要な役割を果たすことが知られている。FGFは、その等電点に基づいて塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)と酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)に大別される。bFGFは、FGF2としても知られ、繊維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)に結合する。本発明においては、bFGFが好ましく使用される。例えば、本発明においては、bFGFとして、哺乳動物の臓器より抽出されたもの、遺伝子工学的に製造されたもの、市販されているもの、またはそれらのアミノ酸配列において一部のアミノ酸が置換、欠失、または付加されているがFGFRへの結合活性を有するものを使用することができる。

【0016】
本明細書において、「精子活性化」とは精子の運動能が亢進されることを意味し、「精子活性化剤」は、精子の運動能を亢進することによってその受精能を向上させるための薬剤である。

【0017】
本発明を適用できる哺乳動物としては、限定するものではないが、例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの家畜、マウス、ラット、ウサギ等の実験動物、イヌ、ネコなどの愛玩動物、およびヒトが挙げられる。

【0018】
2.精子活性化剤
本発明は、エンド-β-ガラクトシダーゼおよび/またはFGFを含む、哺乳動物の精子活性化剤を提供する。よって、本発明の精子活性化剤は、精子無力症等に起因する不妊症治療剤、受精促進剤、および体外受精促進剤として使用し得る。

【0019】
本発明の精子活性化剤は、有効成分として、エンド-β-ガラクトシダーゼ若しくはFGFを単独で、またはエンド-β-ガラクトシダーゼとFGFとを組み合わせて含有するものである。FGFとしては、bFGFが好ましく使用される。また、本発明の精子活性化剤は、哺乳動物の精子の活性化を妨げない限り、さらに他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、精子運動のエネルギー源となるピルビン酸、グルコース、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。

【0020】
本発明の精子活性化剤は、哺乳動物より単離された精子に対して添加して使用される。精子は、採取後すぐのもの、採取後に常温保存されたもの、または凍結保存された後に融解されたものでもよい。また、本発明の精子活性化剤は、精子培養用の培地成分として使用することができ、精子培養用の培地にあらかじめ添加して使用してもよいし、精子培養中に添加して使用してもよい。

【0021】
本発明の精子活性化剤は、精子を活性化するのに有効量のエンド-β-ガラクトシダーゼおよび/またはFGFを含む。具体的には、本発明の精子活性化剤は、エンド-β-ガラクトシダーゼを、使用時の濃度が、0.1~5mU/mlとなるように含有する。また、本発明の精子活性化剤は、FGFを、使用時の濃度が、1~100ng/mlとなるように含有する。本発明の精子活性化剤がエンド-β-ガラクトシダーゼとFGFとを組み合わせて含有する場合には、それぞれ単独で含有する場合よりも含有量を少なくしてもよい。

【0022】
3.精子活性化方法
本発明は、単離された精子に、エンド-β-ガラクトシダーゼおよび/またはFGFを添加することにより、哺乳動物の精子を活性化する方法を提供する。

【0023】
本発明の精子活性化方法は、哺乳動物より単離された精子に対して適用することができ、精子は、採取後すぐのもの、採取後に常温保存されたもの、または凍結保存された後に融解されたものでもよい。また、本発明の一態様では、精子を含有する精液および培養液に精子活性化剤を添加してもよい。

【0024】
精子の濃度は、対象とする哺乳動物の種類や精子の保存状況等に応じて、適宜設定される。例えばヒトの精子に対して本発明の方法を実施する場合、精子の濃度は1×105~1×107細胞/mlに設定される。

【0025】
本発明の精子活性化方法においては、精子に対し、エンド-β-ガラクトシダーゼ若しくはFGFを単独で、またはエンド-β-ガラクトシダーゼおよびFGFを組み合わせて添加する。エンド-β-ガラクトシダーゼおよびFGFを組み合わせて添加する場合には、それぞれを順に添加してもよいし、同時に添加してもよい。順に添加する場合には、第1の成分と第2の成分を連続して添加してもよいし、第1の成分を添加して一定時間経過した後に第2の成分を添加してもよい。また、順に添加する場合には、どちらを先に添加してもよいが、エンド-β-ガラクトシダーゼを先に添加する方が好ましい。また、哺乳動物の精子の活性化を妨げない限り、さらに他の成分を添加してもよい。他の成分としては、例えば、精子運動のエネルギー源となるピルビン酸、グルコース、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。

【0026】
本発明の精子活性化方法においては、精子を活性化するのに有効量のエンド-β-ガラクトシダーゼおよび/またはFGFを添加する。具体的には、エンド-β-ガラクトシダーゼの濃度が0.1~5mU/mlとなるように、FGFの濃度が1~100ng/mlとなるように添加する。本発明の一態様において、エンド-β-ガラクトシダーゼとFGFの両者を添加する場合には、それぞれ単独で添加する場合よりも濃度を低くしてもよい。

【0027】
本発明の精子活性化方法においては、精子に対してエンド-β-ガラクトシダーゼおよび/またはFGFを添加した後、一定時間(例えば、5分、15分、30分、60分)、精子の培養を行ってもよい。培地は精子の培養に適した培地であれば特に限定されず、例えば、BO液、KRB、KRP、TYH、TCM199、SOF等、公知の体外受精用培地を使用することができる。なお、培地は、動物血清を含まない「無血清培地」であることが好ましいが、血清代替物、KSR(Knockout Serum Replacement)等は添加してもよい。培地のpHは5.5~9.0、好ましくは6.0~8.0、より好ましくは6.5~7.5の範囲である。培養は、室温~38℃、好ましくは室温~37.5℃で、1%~25% O2、1%~15% CO2の条件下で適宜培地を交換しながら行う。

【0028】
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て参照として本明細書に組み込まれる。また、本出願が有する優先権主張の基礎となる出願である日本特許出願2012-206711号(2012年9月20日出願)の明細書および図面に記載の内容は全て参照として本明細書に組み込まれる。

【0029】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0030】
1.実験方法
(1)酵素、抗体、および発現ベクター
エンド-β-ガラクトシダーゼは生化学工業(東京)から取得し、Fukuda,M.N.(1981)J.Biol.Chem.256,3900-3905に記載のようにE.freundiiの培養液からも精製した。抗ルイスYモノクローナル抗体(monoclonal anti-Lewis Y antibody)(クローンAH6、マウスIgM)は、ワシントン大学のDr.S.Hakomoriより提供されたものである。
【実施例】
【0031】
(2)CASA分析
19人の健康なボランティアより取得され、凍結保存されていたヒト精子を、sperm washing medium(Irvine Biologicals)を用いて洗浄し、同じ溶液に懸濁させた。エンド-β-ガラクトシダーゼを1mU/mlで水に溶解した。100mlのヒト精子溶液(2x10^6細胞)に対して5mlのエンド-β-ガラクトシダーゼを添加し、室温で15分間インキュベートした。精子運動能は、コンピュータ補助精液分析器(CASA、sperm quality analyzer-v、Medical Electronic systems、Los Angels、CA)を用いて解析した。統計分析は、Prism program(GraphPad Softwear)を用いて、スチューデントt-検定により行った。
【実施例】
【0032】
(3)ATP、カルシウム流入、およびcAMPの測定
ヒト精子におけるATPレベルを、蛍光に基づくATPアッセイCellTiter-Glo(Promega)を用いて測定した。つまり、ヒト精子を上記のとおりエンド-β-ガラクトシダーゼと一緒にインキュベートし、等量のCellTiter-Glo試薬と混合した。四つ組で(in quadruplicate)アッセイするサンプルを、白色384ウェルプレートのウェル内に入れ、Beckman DTX810 plate readerを用いて1分毎に90分まで化学発光をモニターした。精子細胞へのカルシウム流入は、Fluo-4 NW calcium assay kit(Molecular Probes)を用いて測定した。エンド-β-ガラクトシダーゼで処理したまたは処理していない精子細胞は、三つ組で(in triplicate)96ウェルプレート中でアッセイした。485nmの励起波長での蛍光および536nmでの蛍光を、FlexStation II plate reader(Molecular Devices)を用いて、30秒ごとに180分まで測定した。サイクリックAMPは、cAMP用の競合免疫アッセイキットおよびGMP XP(Cell Signaling)を用いて測定した。つまり、精子細胞を、2.5U/mlのエンド-β-ガラクトシダーゼを用いてまたは用いずに、0、15、および60分間処理した。免疫アッセイは、製品のプロトコールに従って、三つ組で行った。エンド-β-ガラクトシダーゼ処理サンプルから得られた化学発光の値より、対照サンプルから得られた値を引いた。
【実施例】
【0033】
(4)精子関連グリカンの調製および質量分析解析
20人のボランティアより得たヒト精子を凍結保存した。解凍後、精子細胞を遠心分離により回収し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄し、20μlのプロテイナーゼK(14-22mg/ml、Roche)を用いて45℃にて20時間消化した。遠心により不溶物を除去した後、上清を1M NaBH4を含有する0.5M NaOHで、37℃にて20時間処理した。サンプルを、水で平衡化したSephadex G-25に通し、ボイドボリュームにて溶解している物質をプールし、0.2M NaClで平衡化したSephadex G-50 super fine columnに適用した。中性糖をアントロン呈色反応(Anthrone color reaction)によりモニターし、質量分析解析のために大きなグリカンまたはポリラクトサミンを有する糖ペプチドを回収した。サンプルはまず、50mM酢酸アンモニウム中5mMエンド-β-ガラクトシダーゼ(E.freundii由来、生化学工業)によって、pH5.8、37℃で48時間消化された。その後、0.1%TFA中25~50%のアセトニトリルによってSupelclean ENVI-Carb cartridge(Supelco)から流出させて完全メチル化した(permethylated)。サンプルの他のロットは、非硫酸化および硫酸化グリカンの両方を回復するために、上記の条件を用いてMALDI-MSおよびMS/MS解析用に直接完全メチル化した。
【実施例】
【0034】
(5)精液ポリラクトサミンの調製
ヒト精液を3倍量のクロロホルム:メタノール(2:1、v/v)と混合し、脂質を抽出した。遠心分離後、ペレットを、1mM EDTAを含む0.1M Tris-HClバッファー、pH8.0に懸濁し、プロテアーゼKにより45℃で20時間消化された。遠心分離後、水溶物を水で平衡化したSephadex G-25を通過させ、ボイドボリュームにて抽出される物質を、上記のようにSephadex G-50 super fine columnに適用した。ポリラクトサミンは回収され、Sephadex G-25カラムにより脱塩し、凍結乾燥された。
【実施例】
【0035】
(6)免疫組織化学
ヒト精巣、精巣輸出管(ductuli efferentes testis)および精巣上皮管(ductuli epididymics)のパラフィン組織切片を、Folio Biosciencesから入手した。脱パラフィン、水和、およびペルオキシド処理した後、組織の各ペアの一スライドを、37℃で30分間、エンド-β-ガラクトシダーゼ処理に供した。組織標本を抗ルイスY(クローン AH6)抗体によって、続いてビオチニル化ヤギ抗マウスIgM抗体(Vector)およびペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンによって染色した。ペルオキシダーゼ呈色反応は、DAB substrateまたはAEC single solution(Invitrogen)を用いて行われ、ヘマトキシリンを用いて対比染色を行った。洗浄していないおよびPBSで洗浄したヒト精子細胞は、スライドグラス上になすりつけ、風乾し、PBS中4%パラホルムアルデヒドで固定した。次に、組織を、エンド-β-ガラクトシダーゼを用いてまたは用いずに処理し、上記のとおり、組織切片のための免疫染色を行った。
【実施例】
【0036】
(7)FGF結合アッセイ
HEK293T細胞を、~75%の集密度まで培養した。培地は、30分毎に、10%ウシ胎児血清および1mM Na3VO4を含む新しい培地に完全に交換した。上記方法で精製したポリラクトサミンを、1mg/mlでモノレイヤーに添加し、10分間インキュベートした。次いで組換えb-FGF(Sigma)を最終濃度25ng/mlまで添加し、5分間インキュベートした。次に、細胞をTBSで3回洗浄した。b-FGF ELISAキット(Ray Biotech)中にある溶解バッファーを用いて、細胞可溶化液を調製し、遠心分離した。100mgのタンパク質を含有する各可溶化液を、ELISA阻害アッセイに供し、ポリラクトサミンの存在下または非存在下における、HEK293T細胞に結合しているFGFの量を決定した。
【実施例】
【0037】
(8)免疫沈降および免疫ブロット
HEK293T細胞を、10%ウシ胎児血清を補充した培地中で培養した。Na3VO4を、最終濃度1mMになるように添加し、30分間インキュベートした。ポリラクトサミン(1mg/ml)の存在下または非存在下で、最終濃度25ng/mlとなるようにFGFを添加し、5分間インキュベートした。次に細胞をラバーポリスマンを用いて回収し、1mM Na3VO4を含有する冷TBSで洗浄し、TBS中1%NP-40で可溶化した。各可溶化液は、20μlプロテインA/Gアガロースビーズを用いて、4℃で20時間、前もってきれいにした(pre-cleared)。プロテインA/Gビーズ(20μl)は、500μlTBST中、抗FGFR2抗体(2μg、ウサギポリクローナル、GenTex)で、4℃で20時間コートされた。前もってきれいにした可溶化液を、4℃で20時間、抗FGFR2抗体コートプロテインA/Gビーズと反応させた。ビーズはTBSTで3回洗浄し、ビーズ結合物質をSDSバッファー中で3分間煮ることにより抽出した。タンパク質は、4~12%の密度勾配SDS-ポリアクリルアミドゲル上で分離され、immobilon-Pフィルター(Millipore)にトランスファーされた。Odyssey blocking buffer(Li-Cor Biosciences)を用いてブロッキングした後、フィルターを、0.1%Tween 20を含有するブロッキングバッファー中で、60分間、希釈した(1:500)抗チロシンリン酸抗体(4G10、Upstate Biologicals)と反応させた。続いて、希釈した(1:5000)IRDye-結合抗マウスIgG抗体(Li-Cor Biosciences)と一緒に45分間インキュベーションした。TBSTで洗浄後、フィルターをOdyssey imaging systemでスキャンし、バンドを検出した。
【実施例】
【0038】
(9)アクロビーズテスト
5人のボランティアより得たヒト精子をアクロビーズテスト(MH61抗体結合ビーズ、扶桑薬品工業株式会社)に供し、エンド-β-ガラクトシダーゼを添加した場合と添加しない場合のヒト精子の受精能の変化を評価した。受精能の測定および評価は、アクロビーズテストの添付文書に従って行った。具体的には、新鮮なまたは凍結されたヒト精子を、精子洗浄溶液(Irvine Biologicals)で洗浄し、エンド-β-ガラクトシダーゼ(2.5mU)を用いてまたは用いずに、室温にて15分間処理した。5×10細胞/mlの精子細胞を、連続的に1:1、1:2、1:4、および1:8に希釈して、アクロビーズを入れた平底マイクロタイタープレートに添加し、CO(5%)存在下、37℃の加湿インキュベーターにて24時間、撹拌せずにインキュベートした。各ウェルの5つの領域を倒立顕微鏡下で観察し、結果を、すべての精子細胞がビーズに結合していた場合を陽性、全くまたはいくつかしか精子細胞がビーズに結合していない場合を陰性と判断した。1:8希釈まで陽性の場合をスコア4、1:4希釈まで陽性の場合をスコア3、1:2希釈まで陽性の場合をスコア2、1:1希釈まで陽性の場合をスコア1とした(表1参照)。統計分析は、Prism program(GraphPad Softwear)を用いてペア両側t-検定(paired two-tailed t-test)によって行った。
【実施例】
【0039】
【表1】
JP0006008336B2_000002t.gif
【実施例】
【0040】
2.結果
(1)エンド-β-ガラクトシダーゼ処理はヒト精子の運動性を亢進させる
本発明者らの研究成果も含む従来の研究は、成熟ヒト精子細胞は糖鎖によって濃密にカバーされていることを示唆している(Tollner, T. L., Venners, S. A., Hollox, E. J., Yudin, A. I., Liu, X., Tang, G., Xing, H., Kays, R. J., Lau, T., Overstreet, J. W., Xu, X., Bevins, C. L., and Cherr, G. N. (2011) Sci Transl Med 3, 92ra65、Hatakeyama, S., Sugihara, K., Lee, S. H., Nadano, D., Nakayama, J., Ohyama, C., and Fukuda, M. N. (2008) J Urol 180, 767-771、Pang, P. C., Tissot, B., Drobnis, E. Z., Sutovsky, P., Morris, H. R., Clark, G. F., and Dell, A. (2007) J Biol Chem 282, 36593-36602)。これらの多糖類が、精子尾部の運動に機能するかどうか判定するため、本発明者らは、ヒト精子をエンド-β-ガラクトシダーゼ(ポリ-N-アセチル-ラクトサミンを加水分解する酵素)で処理した。視覚的検査により、エンド-β-ガラクトシダーゼ処理された精子は処理されていない精子に比べて、より活発に移動することが明らかになった(データ開示無し)。エンド-β-ガラクトシダーゼ処理によって亢進された動作のタイプを決定するため、精子細胞を、コンピューター補助精液分析(CASA)に供した。分析により、進行性の、もしくは前方への運動能が、酵素処理によって亢進され、ランダムなまたは非進行性の運動能は亢進されなかった(図1)。
【実施例】
【0041】
本発明者らは、ヒト精子をエンド-β-ガラクトシダーゼ(EBG)で処理した場合の受精能の変化を、アクロビーズテストによって評価した。その結果、EBG添加により受精能が亢進されることが示唆された(図10)。
【実施例】
【0042】
精子尾部運動能は、ATPaseおよびイオンチャネルの活性を必要とするという報告がある。これらのパラメーターを分析するために、本発明者らは、精子中のATPレベルを測定したが、対照群とエンド-β-ガラクトシダーゼ処理群間で差が見られなかった(図2A)。対照的に、カルシウムレベルは、酵素処理した精子細胞において著しく増加していた(図2B)。精子へのカルシウム流入は、サイクリックヌクレオチド感受性チャネル(cyclic nucleotide-dependent gated channels)によって調節されるので、本発明者らはcAMPレベルを調べたところ、エンド-β-ガラクトシダーゼ処理した精子において確かに増強されることがわかった(図2C)。これらの結果は、精子尾部に付着したポリラクトサミンが、cAMPおよびカルシウムチャンネル依存的なメカニズムによって、精子運動能を調節することを強く示唆する。
【実施例】
【0043】
図2は、ヒト精子へのエンド-β-ガラクトシダーゼ処置の効果を示すグラフである。A エンド-β-ガラクトシダーゼで処置した(赤)または処置しなかった(青)ヒト精子中のATPレベル。各点は四つ組分析の平均を表す。;B エンド-β-ガラクトシダーゼで処置した(赤)または処置しなかった(青)ヒト精子中のカルシウムレベル。三つ組のデータポイントの平均値を表す。;C エンド-β-ガラクトシダーゼで処置したまたは処置しなかったヒト精子中のcAMPレベル。精子細胞は、プロテインキナーゼCに基づくcAMP測定に供された。蛍光の値は、エンド-β-ガラクトシダーゼ処理細胞由来の値から、テスト期間中バッファーで処理された対照由来の値を引いた値である。各点は、10回の読み取りの平均を表す。
【実施例】
【0044】
(2)ヒト精子細胞から単離されたポリラクトサミンの構造
どのような種類の糖鎖構造が精子運動能の調節に関与するかを決定するために、本発明者らはヒト精子細胞からポリラクトサミンを単離した。ヒト精子グリカンに関する以前の研究では、ポリラクトサミンは検出されなかったので、本発明者らは、ポリラクトサミンはヒト精子の固有成分ではなく、むしろ尾部に関係している、と推測した。精子に関連するポリラクトサミンを特徴づけるために、本発明者らはPBSで2度洗った後に精液から精子細胞を単離した。精子細胞はその後プロテアーゼKで消化処理され、水溶性物質をゲル濾過によって分画した。この分析により、おそらくポリラクトサミンであろう、大きな糖鎖の存在を明らかにした(図7)。エンド-β-ガラクトシダーゼ処理すると、この分画のMALDI-MS分析は、0-2 FucのLacNAc-Galグリカンのフラグメントのシリーズを検出した。これらは、酵素消化により放出された末端配列を表しており、高度にフコシル化された1-3 Hex-HexNAcユニットを有することに一致している(図3A)。これらは、恐らく、消化処理に強かったポリラクトサミンの末端に由来する。非還元末端配列のより完全なプロフィールは、先にエンド-β-ガラクトシダーゼ処理をしない、直接的に、完全メチル化されたサンプルのMALDI-MS分析によって得た。これは、ポジティブイオンモードにおいて、酵素により放出されたLacNAc-Galシリーズがないことを除いて、極めて類似のプロフィールを与えた(図3B)だけではなく、ネガティブイオン・モードにおいて、硫酸化、シアリル化、フコシル化されたHex-HexNAcユニットがさらに存在することを明らかにした(図3C)。とりわけ、H、LeXおよびLeYエピトープの存在は、構成および追加のMS/MS分析の両方から明白だった(図示せず)。特に、インソースフラグメンテーションによりm/z 638および812でオキソニウムイオンが生じ、これはそれぞれ1および2 Fucを持つLacNAcに一致している。さらに、3 LacNAcおよび4 Fucのような構成の多糖類(グリカン)フラグメントは、硫酸塩の有無により検出できた。したがって、精子に関連するポリラクトサミンは、シアリル化と硫酸化に加えて、血液グループのH、LeXおよびLeY抗原を含んでいるFucで高度に置換されている。
【実施例】
【0045】
図3は、精子関連粘液グリカンのMALDI-MSのスペクトルを示す。A ポジティブイオンモードにおける、エンド-β-ガラクトシダーゼ処理サンプルにより提供された完全メチル化グリカンフラグメントであり、i)末端Fuc0-2LacNAc-Gal(m/z 722、896および1070)およびii)様々な程度にフコシル化され、シアリル化されているまたはされていない[Hex-HexNAc]1-3のシリーズに対応している。後半のシリーズはエンド-β-ガラクトシダーゼ消化に由来するのではなく、完全メチル化中、大きな糖ペプチドおよび/または抵抗性ポリラクトサミンの直接的な化学的切断を介したものでありうる。B それぞれ[M+Na]+と[M-H]-で示されるポジティブイオンモードおよびネガティブイオンモードにて検出された、エンド-β-ガラクトシダーゼで消化していない同じサンプルの完全メチル化により提供された非硫酸化(上パネル)および硫酸化(下パネル)グリカンフラグメント。種々にフコシル化された[Hex-HexNAc]1-3グリカンフラグメントの同じシリーズに加え、末端H/LeX(m/z 638)、LeY(m/z 812)、およびシアリルLacNAc(m/z 825)が検出された。ネガティブイオンモードにおいて、シアリル化されているまたはされていない硫酸化およびフコシル化[Hex-HexNAc]1-4フラグメントを、一連のシグナルと一緒に同定することができ、これは、グリコサミノグリカンの繰返し単位と類似の硫酸化[ヘキスロン酸-HexNAc]2-4として暫定的に帰属させることができた。すべての主要なピークは、図に示した記号を用いて標識され、注解された。UAはヘキスロン酸を示す。
【実施例】
【0046】
(3)精子形成において機能する臓器中の、エンド-β-ガラクトシダーゼ感受性LeY抗原の局在
精子に関連するグリカンとして見つけたLeY抗原のポリラクトサミンの起源を明確にするため、本発明者らは精子形成において機能する器官由来のヒト組織の免疫組織化学を行なった。ヒト精巣はLeY抗原に対して陰性だった(図4A)。対照的に、LeY抗原は、精巣から新たに放出された精子を含む精巣上皮管由来組織(図4B)および完全に成熟した精子を含む精巣輸出管由来組織(図4C)の上皮細胞で見られた。精子と精液の混合物を含む精液スメアは、LeY抗原に陽性であった(図4D)。LeY陽性組織のエンド-β-ガラクトシダーゼ処理は、LeY陽性を消失させた(図4A~E 右パネル)。これらの結果は、成熟精子細胞に付着したフコシル化ポリラクトサミンは、精巣上体の上皮細胞に由来し、この細胞層から精液へ分泌されることを強く示唆する。
【実施例】
【0047】
(4)ポリラクトサミン受容体の候補として、FGFR2の同定
精液から精製した精液ポリラクトサミンをヒト精子へ加えると、精子運動能は抑制されたことから(図5A、図8)、精子尾部に、精子運動能を抑制するポリラクトサミン受容体が存在することが示唆される。ポリラクトサミン依存性の精子運動能の基礎となるメカニズムを理解し、かつ潜在的なポリラクトサミン受容体を同定するために、本発明者らはヒト精子尾部タンパク質のプロテオミクス・データベースを調べた(表2)。
【実施例】
【0048】
【表2】
JP0006008336B2_000003t.gif
【実施例】
【0049】
精子尾部表面に見られたこと(図5B)、および、PLCγ/Ca2+/PKC経路を通じてcAMPレベルを増加する報告があったことから、本発明者らは、いくつかの候補のうちFGFR2に注目した。
【実施例】
【0050】
FGFR2は、受容体チロシン・キナーゼである。FGFがFGFR2の細胞外ドメインに結合すると、FGFR2の細胞質ドメインはチロシンリン酸化される。ヒト精子細胞を抗チロシンリン酸化抗体によって染色すると、頭部ではなく、尾部が強く染色された(図5C)。これらの染色の強度および頻度は、FGFおよびポリラクトサミンの存在下または非存在下で変化しなかったこと(データは示していない)から、ヒト精子を用いてポリラクトサミンおよびFGFの効果を決定するのが困難であることが示唆される。したがって、本発明者らは、内因性のFGFR2を発現するHEK293T細胞を使用した。HEK293T細胞の培養液にFGFを加えると、FGFR2は、チロシンリン酸化され、それは、5分でピークに達した(図9)。さらに、ポリラクトサミンの存在下で、HEK293T細胞へのFGFの結合をアッセイすると、ポリラクトサミン非存在下よりも結合が低かった(図5D)。このことは、ポリラクトサミンが、受容体へのFGFの結合をブロックすることを示唆している。最後に、本発明者らは、HEK293T細胞におけるFGF依存性のFGFR2チロシンリン酸化が、ポリラクトサミンによって阻害されたことを観察した(図5E)。最後に、エンド-β-ガラクトシダーゼおよび/またはFGFで処理したヒト精子の運動能を比較すると、最も高い運動能は、エンド-β-ガラクトシダーゼおよびFGFで処理した精子において観察された(図5F)。これらの結果は、精液ポリラクトサミンが、受容体へのFGFの結合を阻害することによって、FGFR2活性化を障害できることを示唆する。
【実施例】
【0051】
図5に、ヒト精子細胞およびHEK293T細胞に対する精液由来のポリラクトサミンの効果を示す。A CASAにより分析された、ヒト精子運動能に対する精液ポリラクトサミンの効果。運動能は、分析に使用した精子の総数に対する運動性の精子の相対数により表す。追加のデータは図8に示す。B FGFR2について染色したヒト精子細胞の免疫染色。左 抗FGFR2抗体により染色されたヒト精子細胞の代表的な像。右 一次抗体を用いずに染色されたヒト精子細胞の代表的な像。C チロシンリン酸化について染色されたヒト精子の免疫蛍光顕微鏡写真。ヒト精子細胞は、抗チロシンリン酸化抗体、次いでアレクサ564結合抗マウスIgG抗体により染色された。核染色にはジアミジノ-2-フェニルインドールを使用した。D HEK293T細胞へのFGFの結合に対するポリラクトサミンの効果。ポリラクトサミン存在下または非存在下での結合を、FGF-ELISA阻害アッセイによって測定した。E HEK293T細胞におけるFGFR2のチロシンリン酸化に対するポリラクトサミンの効果。HEK293T細胞は、ポリラクトサミンの存在下または非存在下でFGFで処理され、可溶化液をFGFR2に対する抗体を用いて免疫沈降し、リン酸化チロシンについて免疫ブロットを行った(下パネル)。F エンド-β-ガラクトシダーゼ処理したヒト精子の運動能に対するFGFの効果。
【実施例】
【0052】
図6は、精子運動能のポリラクトサミン依存性の抑制について、想定されるメカニズムを示す。精子尾部は、FGFR2(受容体チロシンキナーゼ)およびCATSPER1(cAMP依存性のカルシウムチャネル)を発現し、cAMPを用いる経路を介して関連づけられ得る。精液ポリラクトサミン(polyLac)がFGFR2細胞外ドメインに結合すると、FGFの受容体への結合を妨げて精子運動能を抑制する可能性がある(左)。ポリラクトサミンがエンド-β-ガラクトシダーゼ消化によって除去されるとすぐ、FGFはFGFR2に結合することができ、受容体はチロシンリン酸化を受けるだろう。次に、FGFR2活性化はPLCγおよびPKCシグナル伝達を引き起こし、精子運動能を亢進する、サイクリックヌクレオチド感受性チャネルによるカルシウム流入を促進するだろう(右)。
【実施例】
【0053】
図9は、FGFで処理したHEK293T細胞におけるFGFR2のチロシンリン酸化の経時変化を調べた結果である。25ng/mlのFGFを用いて、示した時間処理した細胞を、抗FGFR2抗体による免疫沈降に供し、続いて抗チロシンリン酸化(10E4)抗体による免疫ブロットを行った(左)。抗体を取り除いた後、抗FGFR2抗体による免疫ブロットと同じフィルターに供した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、全く新しい作用機序に基づく精子活性化剤および精子活性化方法が提供される。本発明の活性化剤および活性化方法はヒトを含む哺乳動物の体外受精および胚移植(IVF-ET)に活用することができる。また、本発明により、精子運動能不全に起因する不妊症患者のための人工授精の効率を飛躍的に向上させることができると考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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