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明細書 :クマリン誘導体が結合した蛍光標識糖誘導体を用いた細胞イメージング方法及びイメージング剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成28年8月25日(2016.8.25)
発明の名称または考案の名称 クマリン誘導体が結合した蛍光標識糖誘導体を用いた細胞イメージング方法及びイメージング剤
国際特許分類 G01N  33/58        (2006.01)
C07H  15/12        (2006.01)
C07H   5/06        (2006.01)
A61K  49/00        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
FI G01N 33/58 Z
C07H 15/12
C07H 5/06
A61K 49/00 A
C12Q 1/02
G01N 33/48 M
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 41
出願番号 特願2014-539742 (P2014-539742)
国際出願番号 PCT/JP2013/076629
国際公開番号 WO2014/054601
国際出願日 平成25年10月1日(2013.10.1)
国際公開日 平成26年4月10日(2014.4.10)
優先権出願番号 2012221049
優先日 平成24年10月3日(2012.10.3)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ
発明者または考案者 【氏名】山田 勝也
【氏名】豊島 正
【氏名】山本 敏弘
出願人 【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
【識別番号】595125362
【氏名又は名称】株式会社ペプチド研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】100102015、【弁理士】、【氏名又は名称】大澤 健一
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
4C057
4C085
Fターム 2G045AA26
2G045BB24
2G045CA21
2G045DA20
2G045FA16
2G045FB12
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QR41
4B063QR43
4B063QR56
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4B063QX02
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD02
4C057HH05
4C057JJ13
4C085HH11
4C085JJ01
4C085JJ02
4C085KA27
4C085KB55
4C085KB78
4C085LL18
要約 本発明は、細胞又は細胞内分子のイメージングに用いることができる青色蛍光色を発する糖誘導体及び該誘導体を用いた細胞のイメージング方法を提供することを目的とする。本発明はまた、イメージングによりがん細胞を精度よく検出するための方法、及びその方法に用いるイメージング剤を提供することを目的とする。本発明により、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを分子内に有する蛍光標識糖誘導体、並びに、該誘導体を用いた細胞のイメージング剤及びイメージング方法が提供される。本発明によりまた、前記蛍光分子団を分子内に有するL-グルコース誘導体を用いたがん細胞のイメージング剤及びイメージング方法が提供される。
特許請求の範囲 【請求項1】
蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを分子内に有する蛍光標識糖誘導体を含む、標的細胞又は標的細胞内分子をイメージングするための組成物。
【請求項2】
蛍光標識糖誘導体が、グルコース誘導体、フルクトース誘導体、ガラクトース誘導体又はマンノース誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記蛍光分子団が、グルコース、フルクトース、ガラクトース又はマンノースに、-NH-結合を介して結合している、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
蛍光標識糖誘導体が、グルコースの1位、2位、3位、4位又は6位に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを-NH-結合を介して結合した分子である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
蛍光標識糖誘導体が、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-グルコース、2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-D-グルコース、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-グルコース、及び2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-グルコースからなる群より選ばれる分子である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
蛍光標識糖誘導体が、マンノースの1位、2位、3位、4位又は6位に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを-NH-結合を介して結合した分子である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
蛍光標識糖誘導体が、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-マンノース、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-マンノース、2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-D-マンノース、及び2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-マンノースからなる群より選ばれる分子である請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
標的細胞又は標的細胞内分子をイメージングする方法であって、以下の工程、
a.標的細胞に、請求項1~7のいずれか一つに記載の組成物を接触させる工程、及び
b.該標的細胞内に存在する該糖誘導体を検出する工程、
を含む細胞のイメージング方法。
【請求項9】
グルコース、フルクトース、ガラクトース及びマンノースからなる群から選ばれる糖に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを-NH-結合を介して結合した蛍光標識糖誘導体。
【請求項10】
2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-グルコース、2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-D-グルコース、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-グルコース、2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-グルコース、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-マンノース、2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-D-マンノース、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-マンノース、及び2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-マンノースからなる群より選ばれる蛍光標識糖誘導体。
【請求項11】
2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-グルコース、又は2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-マンノースである蛍光標識糖誘導体。
【請求項12】
がん又はがん細胞を検出するための方法であって、以下の工程、
a.標的細胞に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを結合した蛍光標識L-グルコース誘導体を含有する組成物を接触させる工程、及び
b.該標的細胞内に存在する該L-グルコース誘導体を検出する工程、
を含む検出方法。
【請求項13】
前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、L-グルコースの1位、2位、3位、4位又は6位に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを-NH-結合を介して結合した分子である請求項12に記載の検出方法。
【請求項14】
前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-グルコース、又は2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-グルコースである請求項12に記載の検出方法。
【請求項15】
前記工程aにおける検出が標的細胞をイメージングすることにより行う請求項12~14のいずれか一つに記載の検出方法。
【請求項16】
前記工程aにおける組成物が、2位にスルホローダミンをスルホンアミド結合せしめた2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコースをさらに含み、かつ前記工程bが、標的細胞内に存在する蛍光標識L-グルコース誘導体を検出する工程である、請求項12~15のいずれか一つに記載の検出方法
【請求項17】
標的細胞が腫瘍細胞塊中の細胞である、請求項12~16のいずれか一つに記載の検出方法。
【請求項18】
標的がん細胞をイメージングするためのイメージング剤であって、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを結合した蛍光標識L-グルコース誘導体を含むがん細胞のイメージング剤。
【請求項19】
前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、L-グルコースの1位、2位、3位、4位又は6位に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを-NH-結合を介して結合した蛍光標識L-グルコース誘導体である請求項18に記載のイメージング剤。
【請求項20】
前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-グルコース、又は2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-グルコースである請求項18に記載のイメージング剤。
【請求項21】
前記イメージング剤がさらに、2位にスルホローダミンをスルホンアミド結合せしめた2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコースを含む請求項18~20のいずれか一つに記載のイメージング剤。
【請求項22】
2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-グルコース、又は2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-グルコースである蛍光標識L-グルコース誘導体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のクマリン誘導体を結合した新規な蛍光標識糖誘導体、およびそれを用いた細胞イメージング方法及びイメージング剤に関する。本発明はまた、該蛍光標識誘導体のうちのL-グルコース誘導体(特定のクマリン誘導体が結合したL-グルコース誘導体)を用いてがん細胞を検出及び/又はイメージングする方法及びそのためのイメージング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生きた細胞を対象に、細胞を可視化イメージングする、或いは、生体内の分子をターゲットにした可視化イメージングで分子動態、分子間相互作用、分子位置情報を明らかにし、生命科学機構の解明や創薬スクリーニングに繋げようとする分子イメージングが活発に行われている。また特に、異常をきたした細胞、例えばがん細胞を可視化してがん細胞やがん部位を検出するための研究も活発に行われている。
【0003】
グルコース(ブドウ糖)を初めとする多くの六炭糖(ヘキソース)、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースは、生物の活動において重要な役割を果たしている。中でもグルコースは、哺乳類から大腸菌・酵母に至るまで細胞の生存維持に最も重要なエネルギー源として知られ、特に脳はグルコースを唯一のエネルギー源としている。グルコースにはD-グルコースとL-グルコースの鏡像異性体が存在するが、このうち生物がエネルギー源として利用できるのはD-グルコースのみであり、生きた細胞はD-グルコースをグルコーストランスポーターなどの細胞膜中の輸送タンパク質を介して選択的に取り込んで利用する仕組みを持つ。
【0004】
自然界にD体が多量に存在し、その光学異性体であるL体が全くあるいはほとんど存在しない六単糖(ヘキソース)としては、その他にD-ガラクトース、D-フルクトース、D-マンノースが挙げられる。
D-ガラクトースは、エネルギー源として利用される糖であり、乳、果実類、野菜類に豊富に含まれているほか、ヒトの体内でも一日2g程度が産生されている。たとえば牛乳の2-8%を占める二糖類ラクトースは、D-ガラクトースとD-グルコースがグリコシド結合したもので、小腸で吸収される際に両者がラクターゼにより分離されて、グルコーストランスポーターの一種であるSGLTを介して体内に吸収されることが知られている。D-ガラクトースが小腸上皮細胞から血管へ運ばれる際にはグルコーストランスポーターGLUT2を通過する。細胞内に取り込まれたガラクトースは、1位にリン酸化を受けた後、解糖系に入りエネルギーとして利用され、あるいは糖脂質や糖タンパクの生合成に利用される。一方、L-ガラクトースは、霊長類が生合成できない抗酸化物質ビタミンC(L-アスコルビン酸)が、植物内においてD-グルコースから生合成される際の経路の一つSmirnoff-Wheeler経路の中間代謝産物としての記載があるが、一般に生物学に登場することがまれな希少糖である。
D-ガラクトースを18Fで標識した2-deoxy-2[18F]fluoro-D-galactoseは、肝臓の代謝解析への適用例がある(非特許文献1)。2-deoxy-2[18F]fluoro-D-galactoseは、がんにおけるガラクトース代謝イメージングへの利用可能性が報告されたが一般化していない(非特許文献2)。
【0005】
D-フルクトースは果糖とも呼ばれ、ベリー類やメロン他の果実類、ある種の根菜に多量に含まれるほか、体内でも産生される。摂取したD-フルクトースは、小腸上皮にあるグルコーストランスポーターGLUT5を介して上皮細胞内に取り込まれた後、主にGLUT2を介して血液中に入る。そのうち肝臓細胞内に入ったフルクトースはフルクトキナーゼによるリン酸化を受け、脂肪酸合成やエネルギー産生に使用されるほか、D-グルコースへも転換される。GLUT5は、平滑筋、腎臓、脂肪細胞、脳、精巣にも発現することから、これらの領域でもそれぞれ重要な機能を有していると考えられ、例えば精子活動時のエネルギー源としても使用される。食品甘味料として広く流通しているコーンシロップには、コストが安く、特に低温で甘味が強いD-フルクトースの含量を高めたものが清涼飲料水などで多量に使用されており、D-フルクトースの過剰摂取による脳の神経活動への悪影響や、肥満、がんの誘因として危険視されている。L-フルクトースは食べるとある程度エネルギーとして利用可能との報告があるが、腸内細菌により変換されるためとの推定もある。
放射性標識体として1-deoxy-1-[18F]fluoro-D-fructoseが合成され、腫瘍への中程度の取り込みが報告されたが、本分子は細胞内で代謝を受けないとみられ、利用されていない。最近では細胞内代謝を受ける6-deoxy-6-[18F]fluoro-D-fructoseが合成され、乳がんにおけるGLUT5を介した取り込みを標的とするPETトレーサー候補として報告されている(非特許文献3)。
【0006】
D-マンノースは、果実や果皮などに含まれる。マンノースを主成分とする多糖はマンナンと呼ばれ、植物、酵母、バクテリアがもつ。こんにゃくはマンノースとグルコースからなるグルコマンナンを主成分としている。D-マンノースはヒトでは経口摂取すると通常ほとんどが尿中に排泄されるとされるが、ヒトの生体内での取り込み様式については不明の点が多い。細胞内に入るとリン酸化された後、解糖系の中間体であるフルクトース-6-リン酸に変換される。
D-マンノースが特異的に結合するマンノース受容体は、炎症時に増加する高マンノース糖タンパクの除去に役立つ。例えば、日和見感染症の一種でエイズ患者の死因第一位を占めるカリニ肺炎の原因菌P.cariniの膜表面には高マンノース糖鎖部分があり、肺胞のマクロファージに発現するマンノース受容体がこれを認識して、マクロファージの移動を促進する。D-マンノースのみならず、L-ガラクトースにも、強力なマクロファージ刺激作用があるほか、D-マンノース、L-ガラクトースの両者とも植物におけるビタミンC生合成の前駆体として利用される。
[18F]-2-fluoro-2-deoxy-D-mannoseが、がんのトレーサーとして利用可能であることが報告されているが一般化していない(非特許文献4、非特許文献5)。
【0007】
このように、グルコースをはじめとする種々のヘキソースは、生物において重要な役割を果たしている。しかし、これらのヘキソースと細胞との関係を調べようとする研究には、いずれも以下に代表例としてD-グルコースを取り上げて述べるような共通の課題が存在する。
従来、生物がD-グルコースをどのようにして細胞内に取り込んで利用するのかについての研究は、例えばラジオアイソトープで標識したD-グルコースやその誘導体(D-デオキシグルコースなど)を用いて細胞内のラジオアイソトープ量を測定することで行われてきた。しかしながら、この方法は定量性に優れるものの、感度が低いといった問題があることに加え、測定手法上、生きた細胞がD-グルコースを取り込む様子をリアルタイムで連続的に観察することができないという欠点を有していた。そこで、本発明者らのグループは、生きた細胞のD-グルコースの動的な取り込みプロセスの研究に使用することができる方法として、D-デオキシグルコースの2位に蛍光発色団としてN-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ基を結合せしめた、緑色の蛍光を発する2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-D-グルコース(2-NBDG)を用いる方法を提案し、その有用性を哺乳動物の各種の細胞を用いて実証した(非特許文献6)。
【0008】
この方法は、2-NBDGが生きた細胞内に選択的に取り込まれる性質を利用したものであり、取り込みによる蛍光強度の変化を追跡することで細胞のD-グルコースの取り込みについての動的活動を定量的に知ることができることから、生物がD-グルコースをどのようにして細胞内に取り込んで利用するのかを研究する上での画期的な方法として世界中の研究者に評価され、今や、この研究分野において欠かすことができない標準的なプロトコルとして位置付けられている(非特許文献7)。本発明者らのグループはさらに、D-グルコースの特異的取り込みを評価するために、D-デオキシグルコースの鏡像異性体であるL-デオキシグルコースの2位に蛍光発色団としてN-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ基を結合せしめた、緑色の蛍光を発する2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコース(2-NBDLG)を開発するとともに、赤色の蛍光色を発するグルコース誘導体として、2位にスルホローダミン101をスルホンアミド結合せしめたL-デオキシグルコース(2-TRLG)を開発した(特許文献1)。
また、D-フルクトースの1位にNBDを結合した分子(1-NBDF)を乳がんに応用した報告がある(非特許文献8)。
このようにNBDを分子内に有する、グルコース誘導体やフルクトース誘導体が、生きた細胞を個々の細胞レベルでイメージングできる蛍光標識糖誘導体として知られている。
【0009】
さらに、青色の蛍光を発するクマリン誘導体分子をD-グルコースに結合した蛍光グルコース誘導体も知られている(Esculin、Fraxin、特許文献2)。しかしながら、青色の蛍光分子団を分子内に有する糖誘導体を用いて、生きた細胞を個々の細胞レベルでイメージングできたとの報告は現在までになく、細胞レベルでのイメージングに用いることができる青色蛍光標識糖誘導体が長い間望まれていた。
【0010】
活発な増殖能を示す腫瘍細胞の特徴として、そのエネルギー源でありかつアミノ酸、核酸、脂質など合成の材料にもなるグルコースを通常の細胞以上に要求することが知られている。この性質を利用して、臨床医療分野ではかねてより放射性18Fで標識したD-グルコース誘導体18F-fluoro-2-deoxy-D-glucose (FDG)を患者に投与し、腫瘍組織に取込まれて細胞内に蓄積したFDG中の18Fの崩壊により放射されるガンマ線をPET(陽電子断層法)装置で検出するという方法で、ガンを体外から非侵襲的に画像診断する技術が実用化している。この放射性標識D-グルコース誘導体を利用したPET検査は、個々の細胞を識別できるだけの空間分解能(PET検査では空間分解能の下限は実用上5mm程度)を有しないため、急速に成長する可能性のある微細なガンを検出できない点に課題がある。またFDGは半減期が短い(110分)ことや設備が大がかりとなるといった問題がある。更にD-グルコース誘導体である放射性標識FDGには、腫瘍細胞のみならず正常組織・正常細胞にも取り込まれるという原理的問題をどのように回避するかという大きな課題がある。特に全身に分布する脂肪組織や筋肉、また小腸上皮、肝臓などは、極めて強力にD-グルコースを取り込むので、腫瘍との識別上問題となる。
また、他のヘキソースについても、上記したようにその放射性標識体を用いてがんの検出やイメージングへの応用が試みられてきた。しかし、D-グルコースと同様に、D体であるためにその利用が制限される他、個々の単一細胞における違いをリアルタイムに精度よく検出できないといった問題がある。
【0011】
蛍光標識D-グルコース誘導体の腫瘍イメージングへの応用は、放射線標識法の弱点である空間分解能を向上させ、併せて放射性標識の煩雑さや危険を回避し、簡便な設備で瞬時の検出を可能にすることを目的として、現在各国で精力的に進められている。蛍光標識D-グルコース誘導体である2-NBDGはその代表的分子の一つで、FDGと同じく腫瘍細胞によく取り込まれることが報告されており(非特許文献9、特許文献3など)、2-NBDGをガンの画像診断に応用しようとする試みがなされている(非特許文献10、非特許文献11)。
【0012】
2-NBDGを用いた場合に比べより組織の深いところからでも蛍光の検出を可能にするため、組織貫通性の高い赤色や近赤外光などの2-NBDGより長波長側の蛍光を発し、2-NBDGよりも明るい蛍光分子をD-グルコースに結合する試みも活発に行われている(非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14など)。しかしながら、これら新規蛍光分子の全てはNBDよりはるかに分子量とサイズが大きいため、これを結合した蛍光グルコース誘導体はいずれもグルコーストランスポーター(GLUT)を通過できない。
【0013】
また、2-NBDGをはじめ、これまで報告された全ての蛍光グルコース誘導体はD-(+)-グルコースを母核とする蛍光誘導体であり、放射性標識FDGと同じく、正常細胞にも取り込まれるという原理的問題点を抱えている。
【0014】
一方、がん細胞の代謝活動の結果を利用したアプローチによりがんを識別する考えが提出されて注目を集めている(非特許文献15)。活発な代謝活動を営むがん細胞は、代謝により細胞内にCO2やプロトン(H+)の形で多量の酸を生じる。こうしたいわば廃棄物にあたる酸は、正常細胞においては血流など循環系の助けを借りて除去もしくは中和され、細胞内が酸性になることを防いでいる。しかし、正常細胞の代謝活動に対応して構築されている組織では、想定外の増殖活動を続けるがん細胞には対応しきれない。特に血管から距離の離れたがん組織中では酸の除去や中和が不十分となりやすく、がん細胞は各種の分子機構を発達させて、細胞内が酸性になることを防ごうとしている。このようながん細胞で特に発達している分子を標的とする戦略は、例えば低酸素環境にあるがん細胞(それは放射線や薬剤に対し抵抗性を示すがん細胞であることが知られている)に対し選択的にこれを識別する診断薬や抗がん剤を運ぶドラッグデリバリーシステムを開発する上で役立つ可能性がある。そうした標的分子の一つとして、がん細胞の細胞膜に過剰に発現する炭酸脱水酵素群(carbonic anhydrase)が注目されている(非特許文献15)。
【0015】
一般に身体の細胞の代謝活動により細胞内に必然的に生じる酸性廃棄物である過剰なCO2は、種々の生体機構により排出され、細胞内の酸性化を防いでいる。これらのプロセスを支える鍵となっているのは血流による酸の除去である。しかし、固形がんの内部にあって血管から数10ミクロン以上離れた距離にあるがん細胞や、消化管の内腔に面した位置にあって異常に増殖し、かつ血管から距離が離れている細胞の場合、酸素やグルコースの供給が不足すると同時に代謝産物としての酸の除去が不十分となりやすい。最近、このような低酸素・低栄養環境で代謝を行うがん細胞の中に、膜貫通型の炭酸脱水酵素(CA 9やCA 12)を形質膜に過剰に発現することで、細胞内からのCO2の除去および細胞内に発生する酸の中和を助けているもののあることが報告された(非特許文献15)。Supuranらは、蛍光低分子化合物であるクマリンの誘導体が、低酸素状態にある一部のがん細胞の細胞膜に強く発現する炭酸脱水酵素(例えばCA 9が想定されている)に結合することにより、これらの酵素の炭酸脱水作用を阻害することを見出した(非特許文献16、特許文献2)。これらクマリン誘導体は、低酸素状態にあるがん細胞のpHバランスを壊すことでがん細胞を障害するため、新世代の抗がん剤候補の一つとして期待されている(非特許文献21)。
【0016】
しかし炭酸脱水酵素はあらゆる細胞の生存にとって必須の酵素であり、哺乳動物では16種類にも及ぶアイソザイムが細胞膜面のみならず、細胞質内やミトコンドリアにも存在する。このため、上記した蛍光低分子化合物が正常細胞内にあるほかのタイプの炭酸脱水酵素群を阻害して副作用を及ぼさないようにすることが求められる。有効な戦略の一つは、クマリン誘導体などの蛍光低分子化合物が、がん細胞の細胞膜外側に反応部位のあるCA9などに選択的に作用し、細胞内に侵入しないようにすることである。このような目的で、化合物内に電荷を導入する、もしくは配糖体とすることにより分子に親水性を付与し、脂質二重膜で構成される細胞膜を通過しないような工夫が提案されている(非特許文献17)。例えば、Supuranらは、各種のクマリンもしくはその誘導体を、天然型の糖である、D-グルコースやD-マンノース、D-ガラクトース、L-ラムノースなどの一位に結合することにより、分子に水溶性を付与し、もって細胞膜不通過性を与える提案を行っている(特許文献2)。しかし、一位は加水分解を受けやすい上、天然型を使用すれば正常細胞への影響は避けられない。
【0017】
近年、腫瘍細胞で発現が増加する分子を利用する方法として、グルコース以外の分子に蛍光分子を結合した蛍光分子マーカーが活発に開発されている。例としては、RGD配列を利用するものやEGFを利用するものなどがある(非特許文献18)。しかしこうした方法においても、取り込みの多い少ないはあっても基本的には正常細胞にも蛍光分子が取り込まれるという点で天然型糖(例えば、D-グルコース)の誘導体を用いる方法と類似する問題を抱える。一方、特異抗体などを用いて特定の腫瘍細胞を標的とする分子マーカーは、他のタイプの腫瘍を判定できず汎用性に難点がある。
【先行技術文献】
【0018】

【特許文献1】WO2010/16587号公報
【特許文献2】WO2012/070024号公報
【特許文献3】米国特許第6,989,140号明細書
【0019】

【非特許文献1】Fukuda, H. et al., Eur. J. Nucl. Med. 11: 444-448, 1986
【非特許文献2】Iwashita, K., et al., Int. J. Rad. Appl. Instrum. B., 16: 247-254, 1989
【非特許文献3】Wuest, M., et al., Nuc.. Med. Biol. 38: 461-475, 2011
【非特許文献4】Ido, T. et al., J. Labelled Comopounds and Radiopharmaceuticals 14: 175-183, 1978
【非特許文献5】Fukuda, H. et al., Eur. J. Nucl. Med. 7: 294-297, 1982
【非特許文献6】Yamada K. et al., J. Biol. Chem. 275:22278-22283, 2000
【非特許文献7】Yamada K. et al., Nat. Protoc. 2:753-762, 2007
【非特許文献8】Levi, J. et al., Bioconjug. Chem. 18: 628-634 (2007)
【非特許文献9】O’Neil et al, Mol. Imaging Biol. 7:388-392, 2005
【非特許文献10】Sheth et al, J. Biomed. Opt.14:064014-1-8, 2009
【非特許文献11】Nitin et al, Int. J. Cancer 124; 2634-2642 (2009)
【非特許文献12】Cheng Z. et al. Bioconjugate Chem. 17: 662-669, 2006
【非特許文献13】Tian Y.S. et al、Angew Chem Int Ed. 48: 802-8031, 2009
【非特許文献14】Kovar JL, et al, Anal. Biochem. 384:254-262, 2009
【非特許文献15】Supuran, C.T., Nat. Rev. Drug Discov. 7: 168-181 (2008)
【非特許文献16】Maresca, A. and Supuran, C.T., Bioorg. Med. Chem. Lett. 20: 4511-4514 (2010)
【非特許文献17】Supuran, C.T., World J. Clin. Oncol. 3: 98-103 (2012)
【非特許文献18】Kovar JL et al, Anal. Biochem. 367; 1-12, 2007
【非特許文献19】Bristow, R.G., and Hill, R.P. Nat. Rev. Cancer 8: 180-192, 2008
【非特許文献20】Denko N.C. Nat. Rev. Cancer 8: 705-713, 2008
【非特許文献21】Supuran, C.T., Nat. Rev. Drug Discov. 10: 767-777 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、細胞又は細胞内分子のイメージングに用いることができる青色蛍光色を発する糖誘導体及び該糖誘導体を用いた細胞のイメージング方法を提供することを目的とする。本発明はまた、イメージングによりがん細胞を精度よく検出するための方法、及びその方法に用いるイメージング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定のクマリン骨格からなる蛍光分子団を分子内に有する糖誘導体を用いて生きた細胞をイメージングできることを見いだし、本発明を完成した。本発明者らはまた、特定のクマリン誘導体を結合したL-グルコース誘導体が、がん細胞をイメージングできることを見いだし、本発明を完成した。
【0022】
本発明は、以下の通りである。
1.蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを分子内に有する蛍光標識糖誘導体を含む、標的細胞又は標的細胞内分子(標的細胞内分子とは、標的細胞の内側、すなわち細胞質又は核内に存在する分子、標的細胞の細胞膜中に存在する分子、標的細胞の細胞膜上に存在する分子を含む。)をイメージングするための組成物。
2.蛍光標識糖誘導体が、グルコース誘導体、フルクトース誘導体、ガラクトース誘導体又はマンノース誘導体である、上記1に記載の組成物。
3.前記蛍光分子団が、グルコース、フルクトース、ガラクトース又はマンノースに、-NH-結合を介して結合している、上記2に記載の組成物。
4.蛍光標識糖誘導体が、グルコースの1位、2位、3位、4位又は6位(好ましくは、2位、3位、4位又は6位、より好ましくは2位、4位又は6位)に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを、-NH-結合を介して結合した分子である上記1に記載の組成物。
5.蛍光標識糖誘導体が、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-グルコース、2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-D-グルコース、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-グルコース、及び2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-グルコースからなる群より選ばれる分子である上記4に記載の組成物。
6.蛍光標識糖誘導体が、マンノースの1位、2位、3位、4位又は6位(好ましくは、2位、3位、4位又は6位、より好ましくは2位、4位又は6位)に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを-NH-結合を介して結合した分子である上記1に記載の組成物。
7.蛍光標識糖誘導体が、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-マンノース、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-マンノース、2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-D-マンノース、及び2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-マンノースからなる群より選ばれる分子である上記6に記載の組成物。
【0023】
8.標的細胞又は標的細胞内分子(標的細胞内分子とは、標的細胞の内側、すなわち細胞質又は核内に存在する分子、標的細胞の細胞膜中に存在する分子、標的細胞の細胞膜上に存在する分子を含む。)をイメージングする方法であって、以下の工程、
a.標的細胞(標的細胞は、細胞そのもののほか、組織内に存在する細胞も含む)に、上記1~7のいずれか一つに記載の組成物を接触させる工程、及び
b.該標的細胞内(標的細胞の内側、すなわち細胞質又は核内、標的細胞の細胞膜中、及び標的細胞の細胞膜上を含む。)に存在する該糖誘導体を検出する工程、
を含むイメージング方法。
9.グルコース、フルクトース、ガラクトース及びマンノースからなる群から選ばれる糖に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを-NH-結合を介して結合した蛍光標識糖誘導体。
10.2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-グルコース、2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-D-グルコース、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-グルコース、2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-グルコース、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-マンノース、2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-D-マンノース、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-マンノース、及び2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-マンノースからなる群より選ばれる蛍光標識糖誘導体。
【0024】
11. 2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-グルコース、又は2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-D-マンノースである蛍光標識糖誘導体。
12.がん又はがん細胞を検出するための方法であって、以下の工程、
a.標的細胞(標的細胞は、細胞そのもののほか、組織内に存在する細胞も含む)に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを結合した蛍光標識L-グルコース誘導体を含有する組成物を接触させる工程、及び
b.該標的細胞内(標的細胞の内側、すなわち細胞質又は核内、標的細胞の細胞膜中、及び標的細胞の細胞膜上を含む。)に存在する該L-グルコース誘導体を検出する工程、
を含む検出方法。
13.前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、L-グルコースの1位、2位、3位、4位又は6位(好ましくは、2位、3位、4位又は6位、より好ましくは2位、4位又は6位)に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを-NH-結合を介して結合した分子である上記12に記載の検出方法。
14.前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-グルコース、又は2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-グルコースである上記12に記載の検出方法。
15.前記工程aにおける検出が標的細胞をイメージングすることにより行う上記12~14のいずれか一つに記載の検出方法。
16.前記工程aにおける組成物が、2位にスルホローダミン(好ましくは、スルホーダミン101、スルホーダミンB)をスルホンアミド結合せしめた2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコースをさらに含み、かつ前記工程bが、標的細胞内に存在する(いずれかまたは両方の)蛍光標識L-グルコース誘導体を検出する工程である、上記12~15のいずれか一つに記載の検出方法
17.標的細胞が腫瘍細胞塊中の細胞である、上記12~16のいずれか一つに記載の検出方法。
【0025】
18.標的がん細胞(標的細胞は、細胞そのもののほか、組織内に存在するがん細胞も含む)をイメージングする(例えば、標的がん細胞内(標的細胞の内側、すなわち細胞質又は核内、標的細胞の細胞膜中、及び標的細胞の細胞膜上を含む。)への蛍光標識L-グルコース誘導体の取り込みによってがん細胞をイメージングする)ためのイメージング剤であって、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを結合した蛍光標識L-グルコース誘導体を含むがん細胞のイメージング剤。
19.前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、L-グルコースの1位、2位、3位、4位又は6位(好ましくは、2位、3位、4位又は6位、より好ましくは2位、4位又は6位)に、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリンを-NH-結合を介して結合した蛍光標識L-グルコース誘導体である上記18に記載のイメージング剤。
20.前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-グルコース、又は2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-グルコースである上記18に記載のイメージング剤。
21.前記イメージング剤がさらに、2位にスルホローダミン(好ましくは、スルホーダミン101又はスルホローダミンB)をスルホンアミド結合せしめた2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコースを含む上記18~20のいずれか一つに記載のイメージング剤。
22.2-デオキシ-2-((6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン-3-イル)カルボキサミド)-L-グルコース、又は2-デオキシ-2-(2-(6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン-3-イル)アセタミド)-L-グルコースである蛍光標識L-グルコース誘導体。
23.上記17~20のいずれか一つに記載のイメージング剤を含むがん細胞を検出するためのキット。
24.上記11~16のいずれか一つに記載の検出方法を用いてがん細胞を検出することによって、標的細胞ががんであると診断する方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、細胞又は細胞内の分子を高いコントラストで識別できる青色のイメージング剤を提供することができる。本発明によればまた、がん細胞を高いコントラストで識別できる方法及びそのためのイメージング剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】正常神経細胞に青色蛍光を発するD-グルコース誘導体(2-PBDG:100μM)と赤色蛍光を発するL-グルコース誘導体(2-TRLG:20μM)の混合液を投与した結果を示す。
【図2】正常神経細胞に青色蛍光を発するL-グルコース誘導体(2-PBLG:100μM)と赤色蛍光を発するL-グルコース誘導体(2-TRLG:20μM)の混合液を投与した結果を示す。
【図3】正常神経細胞に青色蛍光を発するD-グルコース誘導体(2-HCDG:100μM)と赤色蛍光を発するL-グルコース誘導体(2-TRLG:20μM)の混合液を投与した結果を示す。
【図4】2-PBDG(100μM)および2-PBLG(100μM)をマウスインスリノーマ細胞(MIN6)にそれぞれ5分間取り込ませた際のグルコース輸送阻害剤であるフロレチンの有無による違いを、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて定量的に解析した結果を示す。
【図5】培養10日目のマウスインスリノーマ細胞細胞(MIN6)に対するD-グルコース誘導体(2-PBDG)、L-グルコース誘導体(2-PBLG)、および非糖部分の基本骨格であるPB-NH2投与による蛍光強度の変化とグルコース輸送阻害剤による効果を示す。
【図6】2-PBDM(100μM)をマウスインスリノーマ細胞(MIN6)にそれぞれ5分間取り込ませた際のグルコース輸送阻害剤であるフロレチンの有無による違いを、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて定量的に解析した結果を示す。
【図7】培養下で3次元的な発達を示したがん細胞塊(スフェロイド、培養15日目のMIN6細胞)において、アポトーシスを起こしている細胞と、壊死を起こしている細胞、ならびにDAPIで強く染色される細胞核を有する細胞の空間的配置を示した顕微鏡写真である。
【図8】多数のMIN6細胞が集合した細胞塊(培養開始から13日目)の顕微鏡写真である。
【図9】実施例7におけるマウスインスリノーマ細胞(MIN6)からなる腫瘍細胞塊に、100μMの2-PBLG、100μMの2-NBDLG及び20μMの2-TRLGからなる混合溶液を投与中のリアルタイムレーザースキャン共焦点顕微鏡により取得した画像である。
【図10】同、投与終了から2分経過後の取得画像である。
【図11】同、投与終了から8分経過後の取得画像である。
【図12】同、投与終了から12分経過後の取得画像である。
【図13】図9に示したがん細胞塊中心部付近を拡大したイメージである
【図14】実施例8におけるマウスインスリノーマ細胞(MIN6)からなる腫瘍細胞塊に、100μMの2-PBLGと20μMの2-TRLGからなる混合溶液を投与前のリアルタイムレーザースキャン共焦点顕微鏡により取得した画像である。
【図15】同、投与終了から2分経過後の取得画像である。
【図16】同、投与終了から8分経過後の取得画像である。
【図17】同、投与終了から12分経過後の取得画像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一つの態様は、特定のクマリン誘導体(パシフィックブルー又はマリーナブルー)を結合した糖誘導体を用いて細胞又は細胞内の分子をイメージングするためのイメージング剤及び該イメージング剤を用いた細胞又は細胞内分子のイメージング方法である。
本発明の一つの態様は、上記イメージング剤に用いることができる特定のクマリン誘導体(パシフィックブルー又はマリーナブルー)を結合した蛍光標識糖誘導体である。
本発明の他の態様は、L-グルコースに特定のクマリン誘導体(パシフィックブルー又はマリーナブルー)を結合した蛍光標識L-グルコース誘導体を用いてがん細胞を検出するためのイメージング剤及び該イメージング剤を用いてがん細胞を検出する方法である。
本発明の他の一つの態様は、上記イメージング剤に用いることができるクマリン誘導体(パシフィックブルー又はマリーナブルー)を結合した蛍光標識L-グルコース誘導体である。

【0029】
本発明によれば、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン(パシフィックブルー)又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン(マリーナブルー)を分子内に有する蛍光標識糖誘導体を含む組成物(以下の、「本発明の組成物」又は「本発明のイメージング剤」ということがある)を試薬として、標的細胞に接触させることにより、個々の細胞レベルで、標的細胞又は標的細胞内分子(標的細胞内分子とは、標的細胞の内側、すなわち細胞質又は核内に存在する分子、標的細胞の細胞膜中に存在する分子、標的細胞の細胞膜上に存在する分子を含む。)をイメージングすることができる。本発明によればまた、標的細胞を含む組織に、本発明の組成物を接触させイメージングを行うことにより、組織中の細胞又は細胞内の分子を個々の細胞レベルでイメージングすることができる。

【0030】
本発明の蛍光標識糖誘導体における糖は、生きた細胞(正常細胞又は異常細胞)において細胞内に取り込まれる糖であれば、いずれの糖でもよいが、好ましくは、グルコース、フルクトース、ガラクトース又はマンノースである。また、糖はD型とL型が存在するが、本発明においては、いずれを用いることもできる。D体及びL体を用いることにより、これらの種々の糖のDLの立体配置に基づいて、標的を細胞レベルでイメージングすることにより、その機能の解明が可能となるばかりか、正常細胞と異常細胞の識別も可能となる。
さらに、D型およびL型の立体配置に関係する糖の認識、輸送、代謝において哺乳動物細胞とは異なった性質をもつ微生物についても、D型又はL型の蛍光標識糖誘導体を用いて細胞レベルでイメージングすることにより、その機能の解明も可能である。

【0031】
本発明によればさらに、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン(パシフィックブルー)又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン(マリーナブルー)を分子内に有する蛍光標識L-グルコース誘導体を含む組成物(以下の、「本発明の組成物」又は「本発明のイメージング剤」ということがある)を試薬として、標的細胞に接触させることにより、標的細胞ががん細胞であるか否かを判定することができる。本発明によればまた、標的細胞を含む組織に、本発明の組成物を接触させイメージングを行うことにより、組織中のがん細胞を検出することができる。本発明によればさらに、本発明の組成物を生体に投与しイメージングを行うことで、がん細胞又はそれらの細胞を含む組織を検出することができ、この方法はがんを検出する方法として有用である。

【0032】
本発明の組成物とは、本発明の蛍光標識糖誘導体を含む細胞への適用が可能ないずれの形態の組成物も含み、溶液、ゲル、その他、細胞への適用が可能であれば特に制限がない。また、組成物中の成分は、細胞への適用に適したものであれば特に制限なく含有することができる。例えば、本発明の蛍光標識糖誘導体を、緩衝液や細胞培養用の培地中に溶解して細胞に適用するこができる。

【0033】
I.蛍光標識糖誘導体を用いた細胞又は細胞内分子のイメージング
(I-1)蛍光標識糖誘導体
細胞又は細胞内分子のイメージングに用いることができる青色蛍光を発する本発明の蛍光標識糖誘導体は、糖、好ましくは、グルコース、フルクトース、ガラクトース又はマンノースに、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン(パシフィックブルー)又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン(マリーナブルー)を結合した蛍光標識糖誘導体である。
糖誘導体における蛍光分子団の結合部位は、本明細書に記載の方法又は常法により合成できれば特に制限されないが、グルコースの場合は、1位、2位、3位、4位又は6位(好ましくは、2位、3位、4位又は6位、より好ましくは2位、4位又は6位)、フルクトースの場合は、1位、3位、4位、5位又は6位(好ましくは、1位、5位又は6位、より好ましくは1位)、ガラクトース場合は、1位、2位、3位、4位又は6位(好ましくは、2位、3位、4位又は6位、より好ましくは2位、3位又は6位)、マンノース場合は、1位、2位、3位、4位又は6位(好ましくは、2位、3位、4位又は6位、より好ましくは2位、4位又は6位)をあげることができる。
以下、グルコースを参考に上記蛍光分子団の糖への結合を説明するが、他の糖においても同様である。

【0034】
糖への上記蛍光分子団の結合位置は特に制限されず、常法に従って任意の位置に結合できる。例えば、グルコースへの結合の場合は、グルコースの1位、2位、3位、4位又は6位のいずれの位置に上記蛍光分子団を結合することができるが、好ましくは、2位、3位、4位又は6位である。また結合は、例えば、2位においては、グルコサミンを用いて-NH-を介して行うことができる。
グルコサミンは、D-グルコサミン又はL-グルコサミンを用いることができる。D-グルコサミンは、合成したD-グルコサミン又は市販のD-グルコサミンを用いることができる。L—グルコサミンは、WO2010/16587号公報に記載の方法、又はPCT/JP2012/58439号出願明細書に記載の方法により合成することができる(これらの公報又は出願明細書の記載は引用することにより本明細書の一部である)。PCT/JP2012/58439号出願明細書に記載の方法は以下の通りである。

【0035】
【化1】
JP2014054601A1_000003t.gif

【0036】
本発明のグルコースにパシフィックブルー(PB)を結合した蛍光標識グルコース誘導体は、好ましくは、以下の式(1)又は(2)で表される。

【0037】
【化2】
JP2014054601A1_000004t.gif

【0038】
式(1)(D-グルコサミンにパシフィックブルー(PB)を結合させたもの:2-PBDGと呼ぶ)と式(2)(L-グルコサミンにパシフィックブルー(PB)を結合させたもの:2-PBLGと呼ぶ)は鏡像異性体の関係にあり、最大励起波長(Ex max)と最大蛍光波長(Em max)はともに、403nm(Ex max)及び453nm(Em max)である。
本発明の青色蛍光を発するグルコース誘導体は、任意の溶液、例えば、DMSO等の溶媒に溶解して用いることができ、また、細胞又は細胞内分子のイメージングにおいて用いる溶媒や溶液中でも安定であるので、イメージング剤として適している。

【0039】
(I-2)細胞又は細胞内分子のイメージング
本発明の青色蛍光を発する糖誘導体を用いたイメージングの対象である標的細胞は、特に限定されず、哺乳動物由来の細胞、大腸菌や酵母などの微生物の細胞、植物の細胞、受精卵などを対象とすることができ、また、生体から単離した細胞、生体から単離した組織中に存在する細胞、生体の組織中に存在する細胞、生体から単離後の初代培養細胞、又は株化した細胞など、どのような形態の細胞であってもよい。さらには、対象とする細胞は、正常細胞であっても、異常細胞(例えば、がん細胞)であってもよい。

【0040】
本発明の細胞又は細胞内分子のイメージング方法においては、細胞内に取り込まれた本発明の蛍光標識糖誘導体の検出は、通常用いられる蛍光を検出する方法で行うことができる。例えば、以下のようにして行うことができる。本発明の方法における、細胞内に存在する蛍光標識糖誘導体の検出は、あらかじめ標的細胞の蛍光を計測し、次いで標的細胞に蛍光標識した糖誘導体を一定時間接触させ、しかる後にこれを洗い流し、再度標的細胞の蛍光を計測して、接触前の標的細胞の蛍光強度に対する蛍光強度の増加をもって評価を行うことができる。また、蛍光標識した糖誘導体を接触中に、共焦点顕微鏡など細胞内、細胞膜、細胞外を識別し得る適切な装置を用いて細胞をイメージングしてもよい。蛍光強度を画像として認識することにより、本発明の蛍光標識糖誘導体を細胞内に有する細胞をイメージ化して細胞又は細胞内分子の検出が可能となる。さらに、蛍光プレートリーダーやフローサイトメトリーなどを用いて、多数の細胞の示す蛍光強度の総和、もしくは蛍光強度の分布をもって評価を行ってもよい。

【0041】
本発明の蛍光標識糖誘導体を用いることにより、細胞及び/又は細胞内分子の青色での検出及び/又はイメージングが可能となる。本発明の蛍光標識糖誘導体は、他の蛍光発色団を有する糖誘導体、例えば、緑色の蛍光を発する2-NBDGや2-NBDLG、及び/又は赤色の蛍光を発する2-TRLGと同時に用いることができる。2-NBDG、2-NBDLG及び2-TRLGは、WO2010/16587号公報に記載されている(引用することにより本明細書の一部である)。これにより、2色又は3色での評価が可能となる。

【0042】
II.L-グルコース誘導体を用いたがん細胞の検出又はイメージング
(II-1)
がん細胞の検出又はイメージングに用いることができる青色蛍光を発する本発明のL-グルコース誘導体は、蛍光分子団として3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリン(パシフィックブルー)又は3-カルボキシメチル-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン(マリーナブルー)をL-グルコースに結合した分子である。L-グルコースへの結合は、グルコースの1位、2位、3位、4位又は6位のいずれの位置に上記蛍光分子団を結合することができるが、好ましくは、2位、3位、4位又は6位、より好ましくは、2位、4位又は6位である。また結合は、例えば、2位においては、グルコサミンを用いて-NH-を介して行うことができる。
本発明の蛍光標識L-グルコース誘導体は、好ましくは下記式(2)で表される。

【0043】
【化3】
JP2014054601A1_000005t.gif

【0044】
(II-2)がん細胞の検出又はイメージング
がんは際限なく増殖し続けることで生体にさまざまな不都合を与えるが、特にがんの内部に抗がん剤や放射線治療に対し抵抗性を示すがん細胞の存在することが近年指摘されており、こうした特殊ながん細胞は、正常細胞が生きられない低酸素、低栄養環境に適応するための分子機構を備えている(非特許文献19参照)。
本発明の蛍光標識L-グルコース誘導体は、特定クマリンの誘導体(パシフィックブルー又はマリーナブルー)を鍵分子とし、正常細胞には取り込まれない性質を有するL-グルコースをこれに結合した化合物である。クマリンおよびその誘導体は、低酸素、低栄養環境に存在するがん細胞に過剰に発現する炭酸脱水酵素に結合してその機能を阻害するため、がん細胞を含む細胞集団に投与することにより、上記の特殊ながん細胞を選択的に蛍光可視化するとともに、その機能を阻害し、かつ正常細胞への影響を最小限にとどめることができる。

【0045】
本発明の方法が標的とする細胞としては、例えば、固形がん、あるいは消化管などの内腔にあって二次元的、もしくは三次元的に著しい増殖を見せるがん細胞集団中にあって、低酸素や低栄養などエネルギー欠乏状態にあるがん細胞(非特許文献20)をあげることができる。標的細胞の形態は、特に限定されず、生体から単離した細胞、生体から単離した組織中に存在する細胞、生体の組織中に存在する細胞、生体から単離後の初代培養細胞、又は株化した細胞など、どのような細胞の形態であってもよい。
本発明の蛍光標識L-グルコース誘導体(例えば、2-PBLG)に強陽性の細胞は、低酸素環境への対応力において優れた形質を獲得しているがん細胞と考えられ、こうしたがん細胞は、転移先で本来そのがん細胞が存在していた環境とは異なる環境にあっても生存し得る能力の一つを獲得した細胞である可能性があり、本発明の蛍光標識L-グルコース誘導体を用いて、そのような細胞を選択的に識別・可視化することができる。

【0046】
本発明のがんを検出する方法においては、本発明の蛍光標識L-グルコース誘導体(パスフックブルー又はマリーナブルーを分子内にもつL-グルコース誘導体)は、他の蛍光標識されたL-グルコース誘導体、例えば、2-[N-(7-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl)amino]-2-deoxy-L-glucose (2-NBDLG)や、2-TexasRed-2-amino-2-deoxy-L-glucose (2-TRLG)と同時に用いることができ、それにより、がん細胞やがん細胞を含む腫瘍細胞塊全体の状態評価を併せて行うことも可能である。

【0047】
本発明のがんを検出する方法及びそのためのイメージング剤は、手術時に摘出した組織、口腔内腫瘍や内視鏡を用いた消化器腫瘍、子宮頸がんなどの婦人科腫瘍、そのほか肺やさまざまな臓器の生検診断時などに得たバイオプシー標本を対象とした、低酸素抵抗性腫瘍細胞の存在、状態評価、正常細胞との区別に用いることができる。これにより、蛍光を備えた簡便な装置で細胞単位の詳細な細胞評価を迅速に可能にすることができ、治療法選択への指針、薬剤などの治療効果の判定、患部露出後の適切な手術範囲の決定などに有効である。

【0048】
本発明の検出方法における、がん細胞内に存在する蛍光標識L-グルコース誘導体の検出は、例えば、あらかじめ標的細胞の蛍光を計測し、次いで標的細胞に蛍光標識したL-グルコース誘導体を一定時間接触させ、しかる後にこれを洗い流し、再度標的細胞の蛍光を計測して、接触前の標的細胞の蛍光強度に対する蛍光強度の増加をもって評価を行うことができる。蛍光強度を画像として認識することにより、蛍光標識されたL-グルコース誘導体を細胞内に有する細胞をイメージ化してがん細胞又はそのおそれがある細胞の検出が可能となる。また、蛍光プレートリーダーやフローサイトメトリーなどを用いて、多数の細胞の示す蛍光強度の総和、もしくは蛍光強度の分布をもって評価を行ってもよい。また、本発明の蛍光標識されたL-グルコース誘導体は、静脈などの血管に投与した場合は、全身イメージングを行うことも可能であるほか、観察したい組織局所に投与することにより細胞イメージングを行うことも可能である。

【0049】
以上の説明から明らかなように、本発明の蛍光標識L-グルコース誘導体は、がん細胞を検出するために有用であるとともに、例えばがん細胞を可視化するためのイメージング剤の有効成分としても有用である。蛍光標識L-グルコース誘導体は、これを溶解するための溶媒(注射用生理食塩水など)に溶解されて溶液の形態で提供されてもよいし、これを溶解するための溶媒と組み合わされて用時に溶解して溶液を調製するためのキットの形態で提供されてもよい。溶液中の蛍光標識L-グルコース誘導体の濃度は、例えば1nM~100mMの範囲で調製すればよい。なお、がん細胞の検出のために本発明の標識されたL-グルコース誘導体を用いる方法に、蛍光検出に関するあるいは細胞検出に関する公知の方法を組み合わせて用い、さらなる判定精度の向上を図ってもよい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1:化合物の合成
(1)蛍光標識糖誘導体の合成
2-PBDG(2-Deoxy-2-((6,8-difluoro-7-hydroxycoumarin-3-yl)carboxamide)-D-glucose)の合成
下記式で表される2-PBDGは以下のようにして合成した。
【実施例】
【0052】
【化4】
JP2014054601A1_000006t.gif
【実施例】
【0053】
D-glucosamine hydrochloride (47.7 mg) をジメチルホルムアミド/水=10/3 (1.3 mL) に溶解し、攪拌した。Pacific BlueTM Succinimidyl Ester (50 mg) を加え、さらにトリエチルアミン (40.8μL) を加えた。5時間後に酢酸を入れて中和し、水を入れてメンブランフィルターを通した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。
収量:42.9 mg、収率:72 %
1H-NMR (400 MHz、重メタノール、ppm):
δ9.11 (d, 0.8H, J=9.2 Hz, NH), δ8.98 (d, 0.2H, J=9.2 Hz, NH), δ8.77 (s, 1H, H4’), δ7.43 (dd, 1H, J=10.3 Hz and J=2.1 Hz, H5’), δ5.18 (d, 0.8H, J=3.2 Hz, H-1α), δ4.77 (d, 0.2H, J=8.7 Hz, H-1β), δ3.35-δ4.10 (m, 6H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6).
ESI-MS:calcd for C16H16F2NO9 [M+H]+ 404.07, found 404.0
励起極大波長:403 nm
蛍光極大波長:453 nm
【実施例】
【0054】
2-PBLG(2-Deoxy-2-((6,8-difluoro-7-hydroxycoumarin-3-yl)carboxamide)-L-glucose)の合成
下記式で表される2-PBLGは以下のようにして合成した。
【実施例】
【0055】
【化5】
JP2014054601A1_000007t.gif
【実施例】
【0056】
L-glucosamine hydrochloride (12.7 mg) をジメチルホルムアミド/水=10/1 (1.1 mL) に溶解し、攪拌した。Pacific BlueTM Succinimidyl Ester (10 mg) を加え、さらにトリエチルアミン (12.3μL) を加えた。3時間後に酢酸を入れて中和し、水を入れてメンブランフィルターを通した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。
収量:9.2 mg、収率:77 %
1H-NMR (400 MHz、重メタノール、ppm):
δ9.11 (d, 0.8H, J=9.2 Hz, NH), δ8.98 (d, 0.2H, J=9.2 Hz, NH), δ8.77 (s, 1H, H4’), δ7.43 (dd, 1H, J=10.3 Hz and J=2.1 Hz, H5’), δ5.18 (d, 0.8H, J=3.2 Hz, H-1α), δ4.77 (d, 0.2H, J=8.7 Hz, H-1β), δ3.35-δ4.10 (m, 6H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6).
ESI-MS:calcd for C16H16F2NO9 [M+H]+ 404.07, found 404.0
励起極大波長:403 nm
蛍光極大波長:453 nm
【実施例】
【0057】
他のPBDG及びPBLGの合成
D-グルコースの3位、4位又は6位に蛍光分子団が結合したパシフィックブルー標識D-グルコース誘導体は、それぞれ、3-アミノ-3-デオキシ-D-グルコース、4-アミノ-4-デオキシ-D-グルコース、あるいは6-アミノ-6-デオキシ-D-グルコースを原料に用いて常法に基づきパシフィックブルーをD-グルコースの3位、4位又は6位に導入することにより合成できる。また、1位への蛍光分子団の導入は、中間体として1-アジド体を合成し、還元後即座に蛍光化することで可能である。
パシフィックブルー標識L-グルコース誘導体は、原料としてアミノデオキシ-L-グルコースを用いることにより、同様にして合成できる。

【実施例】
【0058】
2-PBDM(2-Deoxy-2-((6,8-difluoro-7-hydroxycoumarin-3-yl)carboxamide)-D-mannose)の合成
下記式で表される2-PBDMは以下のようにして合成した。
【実施例】
【0059】
【化6】
JP2014054601A1_000008t.gif
【実施例】
【0060】
D-mannosamine hydrochloride (9.5 mg) を水 (40μL) に溶解し、ジメチルホルムアミド (100μL) およびトリエチルアミン (10.3μL) を加えて室温で攪拌した。Pacific BlueTM Succinimidyl Ester (10 mg)/ジメチルホルムアミド (800μL) を加えて室温で撹拌した。1時間30分後にトリエチルアミン (5.2μL) を加えて室温で撹拌した。1時間30分後に酢酸を入れて中和し、メンブランフィルターを通した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。
収量:10.5 mg、収率:88 %
1H-NMR (400 MHz、重メタノール、ppm):
δ9.14 (m, 0.5H, NH), δ8.74 (m, 1H, Ar), δ7.87 (s, 0.5H, NH), δ7.40 (m, 1H, Ar), δ5.14 (d, 0.5H, J=1.8 Hz, H-1), δ4.93 (d, 0.5H, J=1.4 Hz, H-1), δ3.43-δ4.57 (m, 6H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6).
ESI-MS:calcd for C16H16F2NO9 [M+H]+ 404.07, found 404.0
励起極大波長:404 nm
蛍光極大波長:453 nm
【実施例】
【0061】
2-PBLM(2-Deoxy-2-((6,8-difluoro-7-hydroxycoumarin-3-yl)carboxamide)-L-mannose)の合成法
下記式で表される2-PBLMは、その鏡像異性体である上述の2-PBDMと同様の手法により合成することが可能である。
【実施例】
【0062】
【化7】
JP2014054601A1_000009t.gif
【実施例】
【0063】
他のPBDM及びPBLMの合成
D-マンノースの3位、4位又は6位に蛍光分子団が結合したパシフィックブルー標識D-マンノース誘導体は、それぞれ、3-アミノ-3-デオキシ-D-マンノース、4-アミノ-4-デオキシ-D-マンノース、あるいは6-アミノ-6-デオキシ-D-マンノースを原料に用いて常法に基づきパシフィックブルーをD-マンノースの3位、4位又は6位に導入することにより合成できる。また、1位への蛍光分子団の導入は、中間体として1-アジド体を合成し、還元後即座に蛍光化することで可能である。
パシフィックブルー標識L-マンノース誘導体は、原料としてアミノデオキシ-L-マンノースを用いることにより、同様にして合成できる。
【実施例】
【0064】
2-MBDG(2-Deoxy-2-(2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin-3-yl)acetamide)-D-glucose)の合成
下記式で表される2-MBDGは以下のようにして合成した。
【実施例】
【0065】
【化8】
JP2014054601A1_000010t.gif
【実施例】
【0066】
D-glucosamine hydrochloride (11.7 mg) を水 (50μL) に溶解し、ジメチルホルムアミド(50μL)を加えて撹拌した。これにトリエチルアミン (11.3μL) 、続いてMarina BlueTM Succinimidyl Ester (10 mg) のジメチルホルムアミド溶液を加え、室温で攪拌した。酢酸を加えて中和した後にメンブランフィルターを通し、濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。
収量:11.4 mg、収率:97 %
1H-NMR (400 MHz、重メタノール、ppm):
δ7.89 (d, 0.4H, J=10.1 Hz, NH), δ7.37 (dd, 1H, J=11.9 Hz and J=2.3 Hz, H5’), δ5.11 (d, 0.7H, J=3.2 Hz, H-1α), δ4.61 (d, 0.3H, J=7.8 Hz, H-1β), δ3.34-δ3.87 (m, 8H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6, C3’-CH2), δ2.41 (s, 3H, C4’-CH3)
ESI-MS:calcd for C18H20F2NO9 [M+H]+ 432.10, found 432.1
励起極大波長:364 nm
蛍光極大波長:458 nm
【実施例】
【0067】
2-MBLG(2-Deoxy-2-(2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin-3-yl)acetamide)-L-glucose)の合成
下記式で表される2-MBLGは以下のようにして合成した。
【実施例】
【0068】
【化9】
JP2014054601A1_000011t.gif
L-glucosamine hydrochloride (7.1 mg) を水 (56μL) に溶解し、ジメチルホルムアミド(400μL)を加えて撹拌した。Marina BlueTM Succinimidyl Ester (10 mg) /ジメチルホルムアミド (1.2 mL) を加え、続いてトリエチルアミン (8.3μL) を加えて室温で攪拌した。1時間30分後にL-glucosamine hydrochloride (1.8 mg) およびトリエチルアミン (1.1μL) を追加して室温で攪拌した。さらに1時間後にトリエチルアミン (1.9μL) を追加して室温で攪拌した。30分後に酢酸を加えて中和した後にメンブランフィルターを通し、濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。
収量:10.0 mg、収率:85 %
1H-NMR (400 MHz、重メタノール、ppm):
δ7.86 (d, 0.2H, J=9.2 Hz, NH), δ7.36 (dd, 1H, J=11.9 Hz and J=2.3 Hz, H5’), δ5.10 (d, 0.7H, J=3.2 Hz, H-1α), δ4.61 (d, 0.3H, J=8.2 Hz, H-1β), δ3.35-δ3.86 (m, 8H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6, C3’-CH2), δ2.40 (s, 3H, C4’-CH3)
ESI-MS:calcd for C18H20F2NO9 [M+H]+ 432.10, found 432.1
励起極大波長:365 nm
蛍光極大波長:458 nm
【実施例】
【0069】
他のMBDG及びMBLGの合成
1位、3位、4位又は6位にマリーナブルーを有する他のMBDG及びMBLGは、PBDG及びPBLGと同様にして合成できる。
【実施例】
【0070】
2-MBDM(2-Deoxy-2-(2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin-3-yl)acetamide)-D-mannose)の合成
2-MBDGの合成方法と同様にして、2-MBDGの合成に用いるD-グルコサミン塩酸塩の代わりにD-マンノサミン塩酸塩を用いて、2-MBDMを合成できる。
【実施例】
【0071】
2-MBLM(2-Deoxy-2-(2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin-3-yl)acetamide)-L-mannose)の合成
2-MBLGの合成方法と同様にして、2-MBLGの合成に用いるL-グルコサミン塩酸塩の代わりにL-マンノサミン塩酸塩を用いて、2-MBLMを合成できる。
【実施例】
【0072】
比較例1:比較化合物の合成
2-HCDG(2-Deoxy-2-((7-hydroxycoumarin-3-yl)carboxamide)-D-glucose)の合成
下記式で表される2-HCDGは以下のようにして合成した。
【実施例】
【0073】
【化10】
JP2014054601A1_000012t.gif
【実施例】
【0074】
D-glucosamine hydrochloride (11.9 mg) を水 (2 mL) に溶解し、氷冷した。これにトリエチルアミン (9.2μL) 、続いて7-Hydroxycoumarin-3-carboxylic acid N-succinimidyl ester (20 mg) /ジメチルホルムアミド (2 mL) を加え、室温で3時間攪拌した。1%酢酸水溶液 (4 mL) を加えて終夜静置した。メンブランフィルターを通し、1%酢酸水溶液で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。
収量:10.6 mg、収率:44 %
1H-NMR (400 MHz、重水、ppm):
δ8.58 (s x 2, 1H, Ar), δ7.53-δ7.56 (m, 1H, Ar), δ6.79 (m, 1H, Ar), δ6.67 (m, 1H, Ar), δ5.24 (d, 0.7H, J=3.7 Hz, H-1α), δ4.84 (d, 0.3H, J=8.2 Hz, H-1β), δ3.41-δ4.06 (m, 6H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6).
ESI-MS:calcd for C16H18NO9 [M+H]+ 368.10, found 368.1
励起極大波長:402 nm
蛍光極大波長:447 nm
【実施例】
【0075】
2-MCDG(2-Deoxy-2-(2-(7-methoxycoumarin-4-yl)acetamide)-D-glucose)の合成
下記式で表される2-MCDGは以下のようにして合成した。
【実施例】
【0076】
【化11】
JP2014054601A1_000013t.gif
【実施例】
【0077】
D-glucosamine hydrochloride (216 mg) を水 (1 mL) に溶解し、ジメチルホルムアミド(9 mL)を加えた。これにMocAc-OH(234 mg)およびHOBt(135 mg)を加えて氷冷した。これにWSCD (187μL) を加え、0℃で1時間攪拌した。WSCD (33.9μL) を追加してさらに2時間攪拌した後に中性の反応液を減圧濃縮し、得られた残渣に水を加えて凍結乾燥した。残渣をHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。
収量:69.6 mg、収率:18 %
1H-NMR (400 MHz、重メタノール、ppm):
δ7.66 (m, 1H, Ar), δ6.85 (m, 2H, Ar), δ6.23 (s x 2, 1H, Ar),δ5.03 (d, 0.6H, J=3.2 Hz, H-1α), δ4.54 (d, 0.4H, J=7.3 Hz, H-1β), δ3.26-δ3.81 (m, 9H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6, OMe).
ESI-MS:calcd for C18H22NO9 [M+H]+ 396.13, found 396.1
励起極大波長:325 nm
蛍光極大波長:392 nm
【実施例】
【0078】
実施例2:急性単離神経正常細胞への2-PBDGの適用
WO2010/16587に記載の方法に従って行った。結果を図1に示す。
マウス中脳の黒質網様部から生きた神経細胞を急性単離した上、これに 2-PBDG を100μM、 2-TRLGを20μM含む混合液を37度で5分間投与した。その直前の共焦点顕微鏡画像を図1A~Cに示す。Aは、青色波長領域における蛍光像(Blue channel、波長範囲415-580 nm)である。自家蛍光により細胞位置がわかる。蛍光シグナル強度は疑似カラー表示してある。Bは、赤色波長領域における蛍光像(Red channel、580-740 nm)。AとBは共に405nm Blue diode laserを60%の強度で用いて同時に励起し、それぞれphotomultiplier(PMT)1と2を用いて、2-TRLGの侵入の有無を鋭敏に検出できるようPMT2の検出感度をPMT1よりも高めて取得したものである。Cは、明視野像(Bright field image)をA, Bの蛍光像に重ねた図である。
蛍光混合液の投与が終了して投与液の洗い流しを開始してから4分後の映像を図1D~Fに示す。画像取得条件は、A~Cと同様である。DのBlue channelでは、投与前(A)に比較して、核以外の細胞内蛍光強度が増加している様子が確認できた。中央部の暗い部分が細胞の核を示す。これに対してEにみられるようにRed channelの蛍光強度は増加していなかった(緑色の点は、細胞表面に一過性に認められた蛍光信号を疑似カラーで示したものである)。2-TRLGは比較的大型の蛍光基を分子内に有する赤色蛍光L-グルコース誘導体で、2-TRLGが細胞内に侵入していないことは、Blue channelでみられた蛍光強度の増加が2-TRLGの通過を許すような細胞膜破綻により生じたものではないことを示している。
それぞれ洗い流し開始後8分後、20分後の映像を図1G~I、及び図1J~Lに示す。いったん細胞内に取り込まれた2-PBDGが容易に減衰しない様子が確認できた。
【実施例】
【0079】
実施例3:急性単離神経正常細胞への2-PBLGの適用
実施例2と同様にして実験を行った。結果を図2に示す。
マウス中脳黒質網様部神経細胞を急性単離し、2-PBLG を100μM、 2-TRLGを20μM含む混合液を37度で5分間投与する投与直前の共焦点顕微鏡画像を図2A~Cに示す。
蛍光混合液の投与が終了し、投与液の洗い流しを開始してから4分後の映像を図2D~Fに示す。画像取得条件はA~Cと同様である。DのBlue channelを見ると、投与前(A)に比較して細胞内蛍光強度はほとんど増加していなかった。EのRed channelの蛍光強度もほとんど増加しておらず、2-TRLGの侵入を許すような細胞膜の破綻は見られなかった。図2G~I、及び図2J~Lは、それぞれ洗い流し開始後8分後、20分後の映像である。Dでわずかに細胞内に認められた蛍光強度の増加は洗い流し開始後20分のJでは自家蛍光レベルに戻っていた。このようにL型グルコース誘導体である2-PBLGは、 D型グルコース誘導体である2-PBDGを投与した結果(図1)に比較して、細胞内にほとんどとりこまれないことがわかる。
【実施例】
【0080】
比較例1:急性単離した正常神経細胞への2-HCDGの適用
実施例2と同様にして実験を行った。結果を図3に示す。
マウス中脳黒質網様部から急性単離した神経細胞に2-HCDGを100μM、2-TRLGを20μM含む混合液を37℃にて3分間投与した前後の共焦点顕微鏡画像を図3に示す。A, BはそれぞれBlue channel (415-580 nm)およびRed channel (580-740 nm)で取得した投与前蛍光画像。 励起波長は405 nm。Cは、微分干渉(Differential Interference contrast, DIC)画像。Dは以上の重ね合わせである。E~HはA~Dと同様だが、 2-HCDG+2-TRLG 蛍光トレーサー液を37℃にて3分間投与した後、蛍光トレーサーの洗い流しを開始、洗い流し開始から4分後に取得した画像である。E, Fを見ると、細胞の破片(debris)については投与後、青色の蛍光強度が増加しているのに対して、神経細胞のある位置においては投与前後で蛍光強度の増加は全く検知できない。 また2-TRLGが細胞内に侵入していないことから、神経細胞の細胞膜は健全に保たれていると考えられる。
【実施例】
【0081】
比較例2:急性単離した正常神経細胞への2-MCDGの適用
マウス中脳黒質網様部から急性単離した神経細胞に2-MCDGを100μM、2-TRLGを20μM含む混合液を比較例1と同様に投与したが、投与前後で神経細胞における蛍光強度の増加を認めなかった。
なお本実験においては最適励起波長が320nmと非常に低いため、Nikon Ti-Eリアルタイムデコンボリューション顕微鏡を用い、キセノンランプで励起フィルター320nm (半値幅40nm)、蛍光フィルター435nm(半値幅40nm)、ダイクロイックミラー409nmの構成の特注フィルターを介して画像をQ-imaging社Retiga-2000R CCDカメラで取得した。
【実施例】
【0082】
実施例4:2-PBDG(100μM)および2-PBLG(100μM)のマウスインスリノーマ細胞(MIN6)への取り込み及びグルコース輸送阻害剤であるフロレチンの影響
(実験方法)
(1-1)細胞の培養
凍結保存していたMIN6細胞(大阪大学の宮崎純一教授より供与を受けて5-8回継代した細胞)を常法に従って培養に移し、7-9回継代したものを実験に供した。
(1-2)MIN6細胞の培養に用いた培養液の組成
高グルコース含有Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM-HG)(SIGMA #D5648) 13.4 g, NaHCO3(Wako, No.191-01305) 3.4 g, 2-Mercaptoethanol(Wako, No.135-14352) 5 μLを1 Lの超純水(Mili Q)に溶解し、37℃のCO2インキュベーター中でpH 7.3 - 7.35となるようpHを調整した。Hyclone Fetal Bovine Serum(Cat# SH30070.03)を終濃度10 %となるように、またペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco #15140)を終濃度0.5 %となるよう添加した。
(1-3)KRB溶液
計測には下記の組成のKRB溶液を用いた。
NaCl 129.0 mM, KCl 4.75 mM, KH2PO4 1.19 mM MgSO4・7H2O 1.19 mM, CaCl2・2H2O 1.0 mM, NaHCO3 5.02 mM, D-Glucose 5.6 mM, HEPES 10 mM (1M NaOHにてpH 7.35に調整)。なおgap junction/hemichannelを経由する蛍光標識グルコースの出入りを阻害する目的で0.1 mM Carbenoxolone(SIGMA #C4790)を加えた。なお本KRB溶液は、2-PBLG溶液を作成するための溶液として使用した。
【実施例】
【0083】
(2)2-PBLG溶液及び他の蛍光糖誘導体溶液の調製
2-PBLG溶液の調製
0.5 mg 2-PBLGバイアル全量を合計30 μL dimethyl sulfoxide(DMSO) を用いて回収、3.1 mLのKRB溶液にYamada K. et al., Nat. Protoc. 2, 753-762, 2007に準じた方法で加えることで溶解した。
2-PBDG溶液の調製
2-PBDGの代わりに2-PBLGを用いて、同様にして行った。
PB-NH2溶液の調製
0.3 mg PB-NH2バイアル一本全量を、同様にして3.1 mLのKRB溶液に溶解することで、終濃度 200 μMのPB-NH2溶液とした。
2-NBDLG溶液の調製
0.5 mg 2-NBDLGバイアル一本全量をKRB溶液7.3 mLに溶解することで、終濃度 200 μMの2-NBDLG溶液とした。
2-PBDM溶液の調製
0.5 mg 2-PBDMバイアル一本全量を、2-PBLG溶液の調整に準じて3.1 mLのKRB溶液に溶解することで、終濃度 100 μMの2-PBDM溶液とした。
【実施例】
【0084】
(3)蛍光計測
2-PBDGおよび2-PBLGは、8連ピペットを用いて、それぞれ3列目および5列目のウエルに投与した。投与前には、あらかじめ各ウェルの自家蛍光を蛍光マイクロプレートリーダー(Flex Station, Molecular Device社)で計測した。測定条件は、Bottom Readで、Ex 401 nm, Em 453 nm, Cut off 420 nm, Averaging 3 、Photomultiplier感度 highにておこなった。測定方法には、Well Scan Modeを用いた。Well Scan Modeは、一つのウェル中を9つの観察領域(直径1.5 mm)に分割して、それぞれ独立に計測する。
次いで、グルコース輸送阻害剤フロレチンの効果を計測するウェル(3C, 3E, 3G)には、2-PBDG投与の5分前からフロレチン(final 150 μM)を前投与し、その他のウェル(3B, 3D, 3F) にはKRBを加えた。2-PBLGを投与する予定の5列目にも同様の操作を行った。2-PBDGおよび2-PBLGの投与は、37℃で10分間おこなった。
投与終了後は、300 μL のKRB溶液を用いてウェル中の蛍光溶液を希釈する操作を30秒づつ、決められた回数繰り返した。繰り返し回数は、対照群として設定したA行およびH行のウェルの示す蛍光強度が、細胞のないブランクのウェルの蛍光強度と同レベルになることを基準として決定し、完全に洗い流されていることを毎回の実験で確認した。2-PBDGおよび2-PBLGの場合にはこの洗い流し過程に8分を要したため、投与後の蛍光計測は9分後に実施した。
なお、この方法によれば、細胞膜状態の破綻を来たした細胞が2-PBDGおよび2-PBLGに接触後、これらの化合物をいったん細胞内に取り込んだとしても、計測時点では既に細胞外に流出し洗い流されているために、観察エリア全体の蛍光強度の増加に対する寄与は無視しうる程度と判断された。このことは別途薬理学的阻害実験で、阻害剤存在下に蛍光強度の増加がほぼ消失することにより裏付けられた。上記の方法は、他の阻害剤たとえばサイトカラシンB (10μM)を投与する場合にも同様に実施した。
結果を図4に示す。
【実施例】
【0085】
(実験結果)
クマリン誘導体であるパシフィックブルーをD-グルコサミンに結合した2-PBDG 、ならびにL-グルコサミンに結合した2-PBLGを、いずれも100μMの濃度で培養開始後10日目の多数のMIN6マウスインスリノーマ細胞に対して投与した結果を図4に示す。グルコース輸送阻害剤であるフロレチン(PHT) 150 μM による阻害効果も併せて示している。図4Aは、投与前後の蛍光強度を蛍光マイクロプレートリーダーで計測した結果である。括弧内の数字は、観察領域数である。投与前の蛍光は、細胞の自家蛍光を示す。蛍光強度はいずれの場合にも投与前に比較して有意に増加している(ANOVA, Bonferroni-Dunn post hoc test)。励起および蛍光波長はそれぞれ401 nmおよび453 nmとした。図4Bは、Aにおける投与前後の蛍光強度の差を示したものである。フロレチン非存在下で2-PBDGを投与した際の蛍光強度の変化を100%として表示している。2-PBDGと2-PBLGの蛍光強度の間には有意の差が認められなかった。またフロレチン存在下では、非存在下に比較して2-PBDG、2-PBLGいずれの場合にも蛍光強度の低下を認めたが、蛍光の大部分はフロレチンにより阻害されなかった。独立に実施した二回の実験のいずれにおいても同様の結果が得られ、2-PBDG、2-PBLGのフロレチンによる減少分はそれぞれ平均 22.4%および 20.0%にとどまった。
【実施例】
【0086】
実施例5:2-PBDG、2-PBLGおよびPB-NH2投与による蛍光強度の変化とグルコース輸送阻害剤による効果
培養10日目のMIN6細胞に対するD-グルコース誘導体(2-PBDG)、L-グルコース誘導体(2-PBLG)、及びパシフィックブルー(PB)発色団をアミド化したPB-NH2投与による蛍光強度の変化とグルコース輸送阻害剤による効果を実施例4と同様にして確認した。PB-NH2は以下の構造である(Ex max.402nm, Em max. 451nm)。結果を図5に示す。
【実施例】
【0087】
【化12】
JP2014054601A1_000014t.gif
【実施例】
【0088】
(実験結果)
図5Aから判るように、2-PBDG (100μM)投与による蛍光強度の増加に対し、 GLUT選択的阻害剤サイトカラシンB (CB, 10μM)は有意な阻害効果を示さなかった。本例では平均蛍光強度がCB存在下で非存在下に比較して減弱しているが、独立に3回実施した結果では増加したものも認められ、一定しなかった。図5Bは、2-PBLG (100μM)あるいはPB-NH2 (100μM)投与による蛍光強度の増加に対するグルコース輸送阻害剤フロレチン(PHT, 150μM)の効果を示している。フロレチンは、2-PBLGによる蛍光強度の増加を図4と同様わずかに阻害したが、逆にPB-NH2による蛍光強度の増加を著しく促進した。Bの縦軸の単位は、A、Cと異なることに注意されたい。 2-PBLGおよびPB-NH2への投与実験は同一培養プレート上で同時に実施し、独立に実施した3回の実験のいずれにおいてもPB-NH2応答へのフロレチンによる著しい増強効果が確認され、蛍光増加はPB-NH2のみ投与した場合の平均384.1 ± 24.2%に達した(n = 3)。また糖骨格を有しないPB-NH2は、糖骨格を有するL-グルコース誘導体2-PBLGより有意に大きな蛍光強度の増加を示した。
【実施例】
【0089】
実施例6:2-PBDM(100 μM)のマウスインスリノーマ細胞(MIN6)への投与、ならびにグルコース輸送阻害剤であるフロレチンの影響
実施例4と同様にして実験を行った。結果を図6に示す。
培養10日目(10DIV)のMIN6細胞(20000 cells/well)に対し、2-PBDM(100μM)を投与して、投与前後の蛍光強度の増加に対するフロレチン (150μM, PHT)による阻害効果をフレックスステーションで計測したところ、2-PBDMはフロレチンによりわずかながら有意な阻害効果が確認された。実験は独立に3回実施し、すべて同様の結果が得られた。2-PBDM投与実験では極大励起光波長404nmで励起し、極大蛍光波長453nmで蛍光取得した。
【実施例】
【0090】
実施例7:マウスインスリノーマ細胞(MIN6)からなる腫瘍細胞塊の2-PBDGもしくは2-PBLGを用いたイメージング(2-PBDG/2-TRLGもしくは2-PBLG/2-TRLGもしくは2-PBLG/2-NBDLG/2-TRLGの使用)
(実験方法)
(1)マウスインスリノーマ細胞(MIN6)の調製
MIN6細胞を10 x 104 cells/mLの割合で懸濁させた培養液をガラスカバースリップ上に10μL滴下した後、ガラス面に付着させ、培養液を 3 mL加えて培養した。培養液は3日に一回半量を交換した。
(1-1)MIN6細胞の培養
凍結保存していたMIN6細胞(大阪大学の宮崎純一教授より供与を受けて5-8回継代した細胞)を常法に従って培養に移し、7-9回継代したものを実験に供した。培養液は2日に一回半量を交換した。
(1-2)MIN6細胞の培養に用いた培養液の組成
高グルコース含有Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM-HG)(SIGMA #D5648) 13.4 g, NaHCO3(Wako, No.191-01305) 3.4 g, 2-Mercaptoethanol(Wako, No.135-14352) 5 μLを1 Lの超純水(Mili Q)に溶解し、37℃のCO2インキュベーター中でpH 7.3 - 7.35となるようpHを調整した。Hyclone Fetal Bovine Serum(Cat# SH30070.03)を終濃度10 %となるように、またペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco #15140)を終濃度0.5 %となるよう添加した。
(1-3)MIN6細胞を10 x 104 cells/mLの割合で懸濁させた培養液
MIN6細胞を、細胞数が10 x 104 cells/mLになるよう培養液を用いて調製した。
【実施例】
【0091】
(2)2-PBLG溶液及び他の蛍光糖誘導体との混合液の調製
2-PBLG溶液の調製
0.5 mg 2-PBLGバイアル全量を合計30 μL dimethyl sulfoxide(DMSO) を用いて回収、6.25mLの画像取得用HEPES溶液にYamada K. et al., Nat. Protoc. 2, 753-762, 2007に準じた方法で加えることで溶解した。
2-PBDG溶液の調製
2-PBDGの代わりに2-PBLGを用いて、同様にして行った。
2-NBDLG溶液の調製
0.5 mg 2-NBDLGバイアル一本全量を画像取得用HEPES溶液14.6 mLに溶解することで、終濃度 100 μMの2-NBDLG溶液とした。
2-TRLG溶液の調製
0.2 mg 2-TRLGバイアル全量を合計100μLのDMSOを用いて回収。6.5mLのKRB溶液に加えることで溶解した。
2-PBLG + 2-TRLG混合溶液の調製
上記の2-PBLG溶液ならびに2-TRLG溶液を1:1で混合して目的の蛍光誘導体混合液を作成した。
(2-1)画像取得用HEPES溶液
フレックスステーション実験で用いたKRB溶液と同一の下記の組成の溶液を用いた。
NaCl 129.0 mM, KCl 4.75 mM, KH2PO4 1.19 mM MgSO4・7H2O 1.19 mM, CaCl2・2H2O 1.0 mM, NaHCO3 5.02 mM, D-Glucose 5.6 mM, HEPES 10 mM (1M NaOHにてpH 7.35に調整)。なおgap junction/hemichannelを経由する蛍光標識グルコースの出入りを阻害する目的で0.1 mM Carbenoxolone(SIGMA #C4790)を加えた。なお本画像取得用HEPES溶液は、2-PBLG溶液を作成するための溶液として、また、2-PBLG/2-TRLG溶液及び2-PBLG/2-NBDLG/2-TRLG溶液を作成するための溶液として使用した。
【実施例】
【0092】
(3)MIN6細胞へのDAPI溶液の投与
MIN6細胞を付着させ10-13日間培養したガラスカバースリップを、35 mmディッシュに満たしたD-グルコース5.6 mMを含有するDAPI溶液中に移し、37℃で加温しながら45分から1時間静置して細胞にDAPIを取り込ませた。別実験で、共焦点顕微鏡上で継時的に観察しながらDAPIを投与する実験を行い、実験時間内にDAPI投与および405 nmのレーザー光照射による細胞の形態変化は認められないことを確認した。
DAPI溶液の調製:4',6-Diamidino-2-phenylindole DAPI(No. 049-18801, Wako Pure Chemical Industries, Osaka)を画像取得用HEPES溶液に終濃度1μg/mL の割合で溶解して用いた。
【実施例】
【0093】
(4)MIN6細胞を培養したガラスカバースリップの蛍光計測用灌流チャンバー内への金属ガイドを用いた固定法
レーザースキャン共焦点顕微鏡(ライカ社TCS SP5)上のユニバーサルステージ(Leica 11600234)上にセットされた灌流チャンバー内の画像取得用HEPES溶液中に、MIN6細胞を培養したガラスカバースリップを移し、チャンバー底部のガラス面上に軽く密着させた。静置後、カバースリップの両側を左右からカバースリップの長軸に平行に2枚の長方形の金属ガイド(長さ10 mm、幅2 mm、厚み0.7 mm、銀製)を用いて押さえ、慎重に押し当てることで、流れの中でもカバースリップが動かないようにした。またこの2枚の金属ガイドに挟まれた空間内では、灌流液が層流となってスムーズに流れ、すみやかな液交換が可能となるという優れた効果がある。
(4-1)レーザースキャン共焦点顕微鏡ステージ上の蛍光測定用灌流チャンバー
底部に対物レンズ用の丸穴(直径18 mm)のあいたアルミ製加温制御プラットフォーム(PH1、Warner Instruments, USA、温度制御装置TC-324により37℃に加温, Warner Instruments)上に、シリコングリース(HIVAC-G, Shin-Etsu Silicone, Tokyo)を用いて、カバーガラス(幅24 mm x 長さ50 mm、厚さ No. 1, Warner Instruments No. CS-24/50)をプラットフォーム中央の丸穴以外の部分に密着させた。次いでカバーガラス上に、中央に流線型に穴開け加工(ガラス底面に接する側は幅10 mm x 長さ35 mm、曲率半径33 mm、ガラス面に接しない側すなわち上方がわずかに広くなるように加工した)を施した厚さ1 mmのシリコン板(幅20 mm x 長さ50 mm)を載せ、シリコングリースを用いずにカバーガラスと密着させた。
シリコン板上の流線型穴の上流隅に、先端をフラットにした太さ20ゲージのカテラン針をセットして、インレットとして用いた。
灌流液の排出用ステンレス管(アウトレット)は、非特許文献16に記載の方法に準じて先端部を平らにつぶした上で斜めにカットしたものを用い、真空吸引時、空気と溶液の両者を同時に吸引することで安定させる方式とした。
【実施例】
【0094】
(5)灌流チャンバーへの灌流液供給システム
(a)灌流液の加温と灌流チャンバーへの供給
灌流液供給システムは、コントロール溶液用の60 mL注射筒一本と、薬剤供給用の10 mL注射筒5本を備え、電磁バルブで随時切り替えて灌流することができる。本発明に関わる実験では、60 mL注射筒を用いて5.6 mMグルコース含有画像取得用HEPES溶液を、5系統ある10 mL注射筒のうち一本を用いて2-PBLG/2-NBDLG/2-TRLG混合溶液もしくは2-PBDG/2-TRLG混合溶液、もしくは2-PBLG/2-TRLG混合溶液を投与した。以下に述べるように、両者は灌流チャンバー内でバブルを生じないよう、あらかじめ加温された上、灌流チャンバーに導かれる前に一本のチューブに合同し、流量調節器で速度調節されてから、再度インラインヒーターにて加温し共焦点顕微鏡上の灌流チャンバーに供給された。
画像取得用HEPES溶液は、アルミ製シリンジヒーター(Model SW-61, 温度制御ユニットはNo. TC-324B, Warner Instruments)中で暖められた60 mL注射筒から、溶液供給ラインのチューブ内をフラッシュするための3方活栓に接続され、続いて細くガス透過性も低いソフトチューブ(Pharmedチューブ, AY242409, Saint-Gobain Performance Plastics, Ohio)を介して超小型電磁バルブ(EXAK-3, 3 way clean valve, Takasago Electric, Nagoya)のnormally open側に接続した。電磁バルブの開閉はパルス発生装置(Master 8, AMPI社, Israel)で制御した。画像取得用HEPES溶液についてはペリスタルティックポンプ(MCPポンプ12 rollers、Ismatec)を用いてメジウムビンから60 mL注射筒内に持続的に供給し、実験中に注射筒内の溶液上面の高さが変化しないよう、溶液落下速度と等しくなるようにポンプの溶液供給スピードを精密に調整した。ペリスタルティックポンプの溶液供給速度はデジタル表示されるため、もしも灌流チャンバーへの溶液供給速度に実験中に変化があれば溶液面の高さが変わることで直ちにわかる。このように本溶液は常時更新されるため、液温維持のためシリンジヒーターSW-61は38.5℃に設定した。
一方、2-PBLGと2-TRLG混合溶液あるいは2-PBLG/2-NBDLG/2-TRLG混合溶液等は、シリンジヒーター(Model SW-6, 温度制御ユニットはNo. TC-324, Warner Instruments)にセットされ37.5℃に加温された10 mL注射筒から供給した。本注射筒は三方活栓を介して、画像取得用HEPES溶液とは別個の電磁バルブのnormally closed側に接続されており、パルス発生装置の制御によりコントロール溶液と随時切り替えて供給できる。シリンジヒーターSW-6には6本の10 mL注射筒がセットでき、1本には蒸留水を入れて加温ブロックの温度モニター用プローブを挿入した。
コントロール溶液である画像取得用HEPES溶液と、2-PBLGと2-TRLG混合溶液あるいは2-PBLG/2-NBDLG/2-TRLG混合溶液等とは、電磁バルブのアウトレットを出た後、6ポートの小型マニフォールド(MPP-6, Warner Instruments)により1本に集められた。MPP-6マニフォールドのアウトレットは短いPharmedチューブに接続し、このチューブをスクリューにより開度を増減できる流量調節器にはさみこみ、開度の調整により流量を1.2 ± 0.2 mL/分に調整した。本Pharmedチューブは、最短距離でインラインヒーター(Multi-Line In-Line Solution Heater SHM-8、温度制御ユニットはTC-324B、Warner Instruments)に接続した。これは灌流チャンバーに導入する溶液温度を、導入直前に加温するためである。SHM-8インラインヒーターの温度は灌流速度にあわせて、チャンバー中での灌流液の実測温度が、カバースリップの存在する領域で36-37℃になるように調整した。加温された溶液は短いタイゴンチューブ(R-3603, inner diameter 1/32 inch)を介して最短距離で灌流チャンバー上流に配置されたステンレスパイプ(インレット)に接続し、灌流チャンバー内に供給した。
注射筒からの溶液供給は静水圧を用いて供給圧力を決めるため、高さの違いが灌流速度の違いとなってチャンバー内の水面高の変化をもたらさないように、2-PBLGと2-TRLG混合溶液あるいは2-PBLG/2-NBDLG/2-TRLG混合溶液等ついては投与時間が短いことから一回の実験では実験中に液供給は行わず、各実験が終了するごとに液の上面が蛍光グルコースを含有しないHEPES溶液とほぼ同じ高さになるように溶液を追加した。また注射筒に接続されたチューブの長さと太さの調整により、コントロール溶液である画像取得用HEPES溶液の灌流速度と同じ速度で排出されるように慎重に調整することで、液交換による液面の変動を避けることができる。また実験終了後および開始前にはチューブ内部を十分フラッシュしてスムーズな流れを確保した。
【実施例】
【0095】
(b)灌流チャンバー内の層流の確保ならびに灌流液の除去
灌流液の排出用のステンレス管(アウトレット)をタイゴンチューブで二つの大型ガラストラップに順次導き、真空ポンプ(DAP-15, ULVAC KIKO, Inc)で緩やかに吸引した。吸引圧は二つの大型ガラストラップの中間で吸引ラインから枝分かれさせたラインに設置した圧力計でモニターし、三方活栓の開閉度の制御により35kPaとなるように調整した。
灌流チャンバー内の層流の確保は、まず青色色素(Pontamine sky blue, 1 %以下の濃度に希釈して用いる)溶液をインレット付近に滴下して、流れの左右対称性、均一性と再現性を確保した。
チャンバー内灌流溶液中の各部の温度の確認は極細サーミスタープローブ(Physitemp社IT-23)を用いた(非特許文献16)。またアウトレット先端部には実験中にHEPES溶液由来の塩が付着することで吸引圧が変化するのを防ぐため、チャンバー上に設置されたオペレーション顕微鏡(POM-50II, KONAN MEDICAL, 西宮)で実験ごとに確認し、クリーニングを行った。
【実施例】
【0096】
(6)画像取得条件
レーザースキャン共焦点顕微鏡(Leica製TCS-SP5システム、顕微鏡本体はDMI6000 CS trino電動倒立顕微鏡)をコンベンショナルモードで使用した。使用レーザーは、405 nmダイオードレーザーを、2-PBLGや2-PBDGの励起、2-PBLG(もしくは2-PBDG)と2-TRLGとの混合溶液を単一光源で励起する場合、またDAPIによる核のライブ染色に使用した。照射強度は音響光学偏光素子(Acoustic Optical Tunable Filter, AOTF) により十分な観察強度が得られるように使用蛍光色素に合わせて適切に調節した。また2-NBDLGおよび2-TRLGは488 nm Argon laserで励起した。スキャンスピードは200Hzもしくは400Hzを用いた。
蛍光検出は、2-PBDGもしくは2-PBLGによる青色蛍光の検出用にphotomultiplier検出器(PMT)1を2-PBLG/2-TRLGの二色検出の場合には415-580 nmの波長検出範囲で、2-PBLG/2-NBDLG/2-TRLG三色検出の場合には415-500 nmの波長検出範囲に設定して画像取得した。2-NBDLGによる緑色蛍光の検出用にPMT2(緑チャネルと名付けた、以下同じ)を500-580 nmの波長検出範囲で使用した。また、2-TRLGによる赤色蛍光の検出用にPMT3(赤チャネルと名付けた、以下同じ)を580-740 nmの波長検出範囲で使用した。以上の青、緑、および赤等の蛍光検出波長領域の選別は通常用いられるEmissionフィルター方式によらず、プリズム分光とスリットを組み合わせた方式(Leica,TCS-SP5の標準)により取得した。488nmアルゴンレーザーを使用して際のビームスプリッターは500 nm(RSP500)を使用した。405 nm用のビームスプリッターはSP5システムでは上記と独立に415 nmの固定式となる。2-PBLG/2-NBDLG/2-TRLG三色検出の実験では、蛍光励起に際し、最初に488 nm励起による2-NBDLG(緑色)と2-TRLG(赤色)の画像取得をおこない、Sequential modeにてその後直ちに405 nm励起により2-PBDLG(青色)の画像を取得した。2-PBLG/2-TRLGの二色検出の場合には、405 nmダイオードレーザーの単一励起により、2-PBLG(青色)と2-TRLG(赤色)の画像を、2-TRLGの細胞内への侵入を効果的に検出できるように赤色波長領域における検出感度を青色波長における検出感度より高くした感度設定により(青色617V、赤色738V等)同時取得した。
立体的な腫瘍細胞塊の構造的特徴を捉えるために用いた微分干渉(DIC)画像の取得は、488 nm(もしくは405nm)励起時に透過光用検出器PMT Transを同時に使用して検出(典型的な検出感度は145-200 V)したものを用いた。微分干渉方式(DIC)の画像取得に必要なポラライザーやアナライザーを光路に入れる為の切り替え時間や切り替えショックの問題を回避するため、405 nm励起による画像取得時にもDIC用ポラライザーとアナライザーは光路に入れたままとした。
本法では、xy軸への高い解像力と細胞塊の全体を視野内に含む画角を求めて対物レンズは高解像力のx40oilレンズ(HCX PL APO CS 40.0x1.25 OIL UV, NA1.25)を絞り開放で使用した。取得蛍光強度を稼ぐためPinholeサイズは3 airy unitとした。このpinhole sizeでもz軸方向に細胞内の核と細胞質を実用的に区別し得ることが取得画像で確認された。ズームは基本的に使用せず(1倍)、1024x1024もしくは512x512の画素数で、12 bitの深さで画像取得した。
なお以上の溶液の投与およびすべての画像取得は24時間一定室温(24℃)に保持された暗室内で行った。
結果を図7~図17に示す。
【実施例】
【0097】
(実験結果)
図7において、培養下で3次元的な発達を示したがん細胞塊(スフェロイド、培養15日目のMIN6細胞)において、アポトーシスを起こしている細胞と、壊死を起こしている細胞、ならびにDAPIで強く染色される細胞核を有する細胞の空間的配置が確認できる。図7Aは、一定程度以上の直径(およそ100ミクロン以上)とかさ高さ(おおよそ50ミクロン以上)を呈するに至ったスフェロイドの中心部には、青色蛍光を発する4’,6-diamidino-2-phenylindole (DAPI)を異常に強く結合する核を擁する細胞が存在する。DAPIはホルマリン固定して用いずに、生きた細胞にそのまま適用している。図7Bは、ライブアポトーシスマーカーpSIVA-IANBD (IMGENEX, San Diego, USA) により、アポトーシスを起こしている細胞が緑色の蛍光で可視化されている。陽性細胞はスフェロイド周辺部などに点在している。図7Cは、赤色の蛍光は、壊死(ネクローシス)マーカーとして一般的なpropidium iodide (PI)が細胞内に侵入した細胞を示す。スフェロイド中央部付近に比較的集中していることがわかる。図7Dは、微分干渉顕微鏡イメージを示す。図7Eは、以上の重ね合わせ画像を示す。画像取得は2-PBLG/2-NBDLG/2-TRLG三色検出の方法に準じて実施した。
【実施例】
【0098】
図8に、多数のMIN6細胞が集合した細胞塊(培養開始から13日目)の顕微鏡写真を示す。図8は、2-NBDLG、2-TRLG、2-PBLGからなる蛍光標識グルコース誘導体混合液投与前である。図8Aおよび図8Bは、488 nmアルゴンレーザーで励起して、それぞれ2-NBDLG, 2-TRLGの観察に最適な500-580 nm(緑色), 580-740 nm(赤色)の各波長域で同時に取得した蛍光画像である。図8Cは、A, Bと同時に取得した微分干渉 (Differential Interference Contrast, DIC) 顕微鏡像である。図8Dは、ABCのスキャンに引き続き、シークエンシャルに405 nmダイオードレーザーで励起して得られた415-580 nm (青色)の波長域における蛍光取得画像である。図8E、以上の重ね合わせ像である。Cと比較すると、若干の自家蛍光のパターンがわかる。
【実施例】
【0099】
図9~図12は、マウスインスリノーマ細胞(MIN6)からなる腫瘍細胞塊の2-PBLGを用いたイメージングの結果を示す。100μMの2-PBLG、100μMの2-NBDLG及び20μMの2-TRLGからなる混合溶液を用い、リアルタイムレーザースキャン共焦点顕微鏡により画像を取得した。
図9は、100μMの2-PBDLG、100μMの2-NBDLG及び20μMの2-TRLGからなる混合溶液を投与中のMIN6細胞塊の緑(A)、赤(B)、青(D)の蛍光取得画像、微分干渉顕微鏡像(C)、および以上の重ね合わせ像(E)である。細胞塊中心部の多くの細胞は細胞膜透過性が亢進しているため、投与中にいずれの蛍光標識グルコース誘導体も強く取り込む傾向がみられる。なお赤緑青の三色は重ね合わせると白色を呈する。画像は、A, B, Cの画像を数秒間かけて同時取得した後、シークエンシャルにDを画像取得したため、Dの画像取得時点では潅流液がより深く細胞塊内部に侵入している。
【実施例】
【0100】
図10は、図9と同様だが、2-NBDLG、2-TRLG、2-PBLGの混合液投与終了後2分が経過した時点のイメージである。がん細胞塊の中心部の蛍光強度は、その周辺部に比べて全体に強い傾向が認められる(A, B, D, E)。細胞膜不通過性の2-TRLGによる蛍光像を見ると、細胞塊中心部のみならず、細胞塊周辺部にも、細胞膜状態が悪化したとみられる細胞が点在している(B)。混合液投与終了後2分の時点では、こうした細胞の中には、2-NBDLGや2-PBLGが細胞内にいったん侵入し、まだ細胞外には流出しきっていないためにそれぞれ緑色や青色の蛍光を発している細胞も認められる。これらの細胞の多くは、混合液投与終了後数分で2-NBDLG(緑)や2-PBLG(青)に由来する強い蛍光を失う(図11参照)。
【実施例】
【0101】
図11は、混合液投与終了後8分が経過した時点のイメージである。AおよびDでは、がん細胞塊の中心部の蛍光強度が、その周辺部に比べて特段強い傾向は認められない。しかし、矢印で示された細胞に関しては、2-PBLGによる強い青色の蛍光が引き続き維持されている。この細胞は、2-NBDLGによる蛍光強度についても、周辺細胞より強い傾向を示すが、2-NBDLGによる蛍光イメージのみをもって、この細胞を特定することは困難である(A)。2-TRLGは、完全な死には至っていないが細胞膜透過性の亢進している細胞にいったん取り込まれると容易には細胞外に流出しない性質を有し、強い蛍光を発する。このため投与終了後8分が経過しても、主にがん細胞塊中心部の低酸素、低栄養領域に存在するこうした細胞の識別可視化を可能にしている(B)。矢印で示されている2-PBLGによる強い青色蛍光を示す細胞の赤色蛍光が非常に弱いことに注目されたい(B, E)。
【実施例】
【0102】
図12は、混合液投与終了後12分が経過した時点のイメージである。矢印で示される細胞のみが引き続き2-PBLGによる青色蛍光を発して他の細胞と識別され、 2-PBLGがこの細胞と強く結合していることが示唆される(B, E)。図13は、図11に示したがん細胞塊中心部付近を拡大したイメージである。矢印の細胞が2-PBLGによって強く可視化されている。矢印は、2-PBLG強陽性細胞。本細胞は、2-NBDLGによる緑色蛍光も強いが(A)、2-NBDLGのみではこの細胞を識別することが困難である。
【実施例】
【0103】
実施例8:マウスインスリノーマ細胞(MIN6)からなる腫瘍細胞塊の2-PBLGを用いたイメージング(2-PBLG/2-TRLGの使用)
実施例7と同様にして、2-PBLG/2-NBDLG/2-TRLGの混合溶液の代わりに、2-PBLG/2-TRLGの混合溶液を用いた。
図14は、培養13日目のMIN6細胞塊の蛍光標識グルコース誘導体投与前のイメージである。A、Bはそれぞれ580-740 nm (赤色)および415-580 nm (青色)の波長域における蛍光取得画像。Cは微分干渉顕微鏡像。Dはこれらの重ね合わせ画像である。
図15は、20μMの2-TRLGと100μMの2-PBLGを含む蛍光混合液をMIN6細胞塊に5分間投与した後、洗い流しを開始して2分経過した時点での映像である。Aを見ると、細胞膜不透過性の2-TRLG は、主として細胞塊中心部にあり細胞膜透過性が亢進している細胞の内部に侵入している。また、この時点では細胞塊外縁や細胞塊外にある細胞組織の破片(Debris)の一部も染色されている。Bを見ると、2-PBLGも細胞膜透過性の亢進している細胞内にいったん侵入する。しかし、この時点で既に2-PBLGはこうした細胞内からの流出が進み始め、細胞塊中心部で蛍光強度が減弱しはじめている様子がわかる。その中で、いくつかの細胞の青色蛍光が異常に強い点に注意されたい。ここで実施例7のように、2-PBLGおよび2-TRLGの投与時に、2-NBDLGも同時に投与したケースでは、488 nmのアルゴンレーザーで2-NBDLGならびに2-TRLGの励起を行った後、405 nmダイオードレーザーで2-PBLGの励起を行った。この場合、2-PBLGの蛍光極大が2-NBDLGの励起波長と重なるため、局所濃度によってはFRET効果により2-PBLGの蛍光シグナルが弱まることも考えられる。また488 nmで励起された2-TRLGの580-740 nmの蛍光強度分布の中に、2-NBDLGの580nm以上の領域での(長波長側のすそ野)蛍光強度の増加によるものが混入する。一方、2-PBLG/2-TRLGの混合溶液を用いた場合には、これらFRET効果および長波長側のすそ野による影響のいずれについても回避することができるため、蛍光強度の増加を分離することが可能になり、定量化において有利である。
【実施例】
【0104】
図16は、図15と同様だが、投与終了し、洗い流しを開始してから8分後のイメージである。赤色の2-TRLGと青色の2-PBLGとでは分布パターンが大きく異なっており(A, B, D) 、2-PBLG強陽性細胞の分布は細胞膜透過性の増大によって説明しにくい。青色の2-PBLG陽性細胞が細胞塊中心部の外縁などに点在している(B, D)。投与終了後2分経過した時点では細胞外縁等にみられていた赤色蛍光は洗い流しにより減弱している。
図17は、図16と同様だが、投与終了し、洗い流しを開始してから12分後のイメージ。引き続き2-PBLGの強陽性信号を呈する細胞が複数認められる(B, D)。
【実施例】
【0105】
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、青色蛍光色を発する新規な蛍光標識糖誘導を提供する。また、本発明は、新たな腫瘍細胞の検出を行うための方法を提供する。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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