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明細書 :指細小動脈拡張能検査方法、指細小動脈拡張能検査装置および指細小動脈拡張能検査プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6203737号 (P6203737)
登録日 平成29年9月8日(2017.9.8)
発行日 平成29年9月27日(2017.9.27)
発明の名称または考案の名称 指細小動脈拡張能検査方法、指細小動脈拡張能検査装置および指細小動脈拡張能検査プログラム
国際特許分類 A61B   5/02        (2006.01)
FI A61B 5/02 A
A61B 5/02 310A
A61B 5/02 ZDM
請求項の数または発明の数 15
全頁数 28
出願番号 特願2014-539849 (P2014-539849)
出願日 平成25年10月4日(2013.10.4)
国際出願番号 PCT/JP2013/077103
国際公開番号 WO2014/054788
国際公開日 平成26年4月10日(2014.4.10)
優先権出願番号 2012222570
優先日 平成24年10月4日(2012.10.4)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年9月9日(2016.9.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
発明者または考案者 【氏名】田中 豪一
個別代理人の代理人 【識別番号】100110766、【弁理士】、【氏名又は名称】佐川 慎悟
【識別番号】100133260、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 基子
【識別番号】100169340、【弁理士】、【氏名又は名称】川野 陽輔
【識別番号】100195682、【弁理士】、【氏名又は名称】江部 陽子
審査官 【審査官】姫島 あや乃
参考文献・文献 特開平6-165764(JP,A)
特開平10-295655(JP,A)
特開昭59-181129(JP,A)
特開2010-214021(JP,A)
国際公開第2008/105229(WO,A1)
調査した分野 A61B 5/02
特許請求の範囲 【請求項1】
指動脈の血管拡張反応を検査する指細小動脈拡張能検査方法であって、
所定のシーケンスにより圧迫される両手の指の各指動脈について、安静時および一方の前腕を駆血した後の再灌流時における脈波データ、または、所定のシーケンスにより圧迫される片手の異なる指の各指動脈について、安静時および一方の指を駆血した後の再灌流時における脈波データを記憶する脈波データ記憶ステップと、
前記脈波データ記憶ステップにおいて記憶された前記脈波データに基づいて、脈波の交流成分の振幅を当該脈波の直流成分の平均値で除算してなる規準化脈波容積(NPV)を一心拍ごとに算出するNPV算出ステップと、
最高血圧から最低血圧を減算してなる脈圧(PP)を取得する脈圧データ取得ステップと、
前記NPV算出ステップにおいて算出された規準化脈波容積(NPV)を前記脈圧データ取得ステップにおいて取得された脈圧(PP)で除算してなるコンプライアンス指数の再灌流時における両手の比を、安静時における両手の比で規準化してなる、指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)、または、前記NPV算出ステップにおいて算出された規準化脈波容積(NPV)を前記脈圧データ取得ステップにおいて取得された脈圧(PP)で除算してなるコンプライアンス指数の再灌流時における片手の異なる指の比を、安静時における片手の異なる指の比で規準化してなる、指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)を一心拍ごとに算出するFCR比算出ステップと
を有する指細小動脈拡張能検査方法。
【請求項2】
前記FCR比算出ステップでは、再灌流時における両手のコンプライアンス指数の比を、安静時における両手のコンプライアンス指数の比で除算することで規準化する、または、再灌流時における片手の異なる指のコンプライアンス指数の比を、安静時における片手の異なる指のコンプライアンス指数の比で除算することで規準化する、請求項1に記載の指細小動脈拡張能検査方法。
【請求項3】
前記FCR比は下記式(1)で示される、請求項1または請求項2に記載の指細小動脈拡張能検査方法。
FCR比=[ln(CIr/CIc)]y-[ln(CIr/CIc)]x …式(1)
但し、CI:コンプライアンス指数(=NPV/PP)
r:駆血を行った側の手または指を示す添え字
c:駆血を行わない側の手または指を示す添え字
x:安静時を示す添え字
y:再灌流時を示す添え字
【請求項4】
前記各指動脈を圧迫するカフのカフ圧を記憶するカフ圧データ記憶ステップと、
前記NPVが最大となった後の時刻tにおける最高血圧(SBPt)を下記式(2)により算出し、その平均値を最高血圧(SBP)として推定するSBP推定ステップと、
SBPt=(b×(NPVt/NPVmax)+a)×FCt …式(2)
但し、NPVt:時刻tにおけるNPV
NPVmax:NPVの最大値
FCt:時刻tにおけるカフ圧(FC)
a,b:定数
前記SBP推定ステップにおいて推定された最高血圧(SBP)に基づいて、下記式(3)により脈圧推定値(PPs)を算出する脈圧推定値算出ステップとを有し、
PPs=(SBP-MBP)×3/2 …式(3)
但し、MBP(平均血圧):NPVが最大となった時のカフ圧
前記脈圧データ取得ステップでは、前記脈圧推定値算出ステップにおいて算出された前記脈圧推定値を脈圧として取得する、請求項1から請求項3のいずれかに記載の指細小動脈拡張能検査方法。
【請求項5】
下記式(4)の直線回帰勾配(n)である指動脈の弾力性指標(FEI)と前記FCR比とを二変数とするデータ群に基づいて、健常群か糖尿病群かの目的変数を数値にした重回帰式を判別関数として算出する判別関数算出ステップと、
ln(NPV)=ln(bn)-n・Pr …式(4)
但し、b:定数
Pr:相対カフ圧(脈波の振幅が最大のときのカフ圧と各カフ圧の差)
前記判別関数に判別対象者の前記FEIおよび前記FCR比を代入して判別得点を算出する判別得点算出ステップと、
前記判別得点に基づいて、前記判別対象者が健常群か糖尿病群かを判別する糖尿病判別ステップと
を有する、請求項1から請求項4のいずれかに記載の指細小動脈拡張能検査方法。
【請求項6】
指動脈の血管拡張反応を検査する指細小動脈拡張能検査装置であって、
所定のシーケンスにより圧迫される両手の指の各指動脈について、安静時および一方の前腕を駆血した後の再灌流時における脈波データ、または、所定のシーケンスにより圧迫される片手の異なる指の各指動脈について、安静時および一方の指を駆血した後の再灌流時における脈波データを記憶する脈波データ記憶部と、
前記脈波データ記憶部に記憶された前記脈波データに基づいて、脈波の交流成分の振幅を当該脈波の直流成分の平均値で除算してなる規準化脈波容積(NPV)を一心拍ごとに算出するNPV算出部と、
最高血圧から最低血圧を減算してなる脈圧(PP)を取得する脈圧データ取得部と、
前記NPV算出部が算出した規準化脈波容積(NPV)を前記脈圧データ取得部が取得した脈圧(PP)で除算してなるコンプライアンス指数の再灌流時における両手の比を、安静時における両手の比で規準化してなる、指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)、または、前記NPV算出部が算出した規準化脈波容積(NPV)を前記脈圧データ取得部が取得した脈圧(PP)で除算してなるコンプライアンス指数の再灌流時における片手の異なる指の比を、安静時における片手の異なる指の比で規準化してなる、指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)を一心拍ごとに算出するFCR比算出部と
を有する指細小動脈拡張能検査装置。
【請求項7】
前記FCR比算出部は、再灌流時における両手のコンプライアンス指数の比を、安静時における両手のコンプライアンス指数の比で除算することで規準化する、または、再灌流時における片手の異なる指のコンプライアンス指数の比を、安静時における片手の異なる指のコンプライアンス指数の比で除算することで規準化する、請求項6に記載の指細小動脈拡張能検査装置。
【請求項8】
前記FCR比は下記式(1)で示される、請求項6または請求項7に記載の指細小動脈拡張能検査装置。
FCR比=[ln(CIr/CIc)]y-[ln(CIr/CIc)]x …式(1)
但し、CI:コンプライアンス指数(=NPV/PP)
r:駆血を行った側の手または指を示す添え字
c:駆血を行わない側の手または指を示す添え字
x:安静時を示す添え字
y:再灌流時を示す添え字
【請求項9】
前記各指動脈を圧迫するカフのカフ圧を記憶するカフ圧データ記憶部と、
前記NPVが最大となった後の時刻tにおける最高血圧(SBPt)を下記式(2)により算出し、それらの平均値を最高血圧(SBP)として推定するSBP推定部と、
SBPt=(b×(NPVt/NPVmax)+a)×FCt …式(2)
但し、NPVt:時刻tにおけるNPV
NPVmax:NPVの最大値
FCt:時刻tにおけるカフ圧(FC)
a,b:定数
前記SBP推定部が推定した最高血圧(SBP)に基づいて、下記式(3)により脈圧推定値(PPs)を算出する脈圧推定値算出部とを有し、
PPs=(SBP-MBP)×3/2 …式(3)
但し、MBP(平均血圧):NPVが最大となった時のカフ圧
前記脈圧データ取得部は、前記脈圧推定値算出部が算出した前記脈圧推定値を脈圧として取得する、請求項6から請求項8のいずれかに記載の指細小動脈拡張能検査装置。
【請求項10】
下記式(4)の直線回帰勾配(n)である指動脈の弾力性指標(FEI)と前記FCR比とを二変数とするデータ群に基づいて、健常群か糖尿病群かの目的変数を数値にした重回帰式を判別関数として算出する判別関数算出部と、
ln(NPV)=ln(bn)-n・Pr …式(4)
但し、b:定数
Pr:相対カフ圧(脈波の振幅が最大のときのカフ圧と各カフ圧の差)
前記判別関数に判別対象者の前記FEIおよび前記FCR比を代入して判別得点を算出する判別得点算出部と、
前記判別得点に基づいて、前記判別対象者が健常群か糖尿病群かを判別する糖尿病判別部と
を有する、請求項6から請求項9のいずれかに記載の指細小動脈拡張能検査装置。
【請求項11】
指動脈の血管拡張反応を検査する指細小動脈拡張能検査プログラムであって、
所定のシーケンスにより圧迫される両手の指の各指動脈について、安静時および一方の前腕を駆血した後の再灌流時における脈波データ、または、所定のシーケンスにより圧迫される片手の異なる指の各指動脈について、安静時および一方の指を駆血した後の再灌流時における脈波データを記憶する脈波データ記憶部と、
前記脈波データ記憶部に記憶された前記脈波データに基づいて、脈波の交流成分の振幅を当該脈波の直流成分の平均値で除算してなる規準化脈波容積(NPV)を一心拍ごとに算出するNPV算出部と、
最高血圧から最低血圧を減算してなる脈圧(PP)を取得する脈圧データ取得部と、
前記NPV算出部が算出した規準化脈波容積(NPV)を前記脈圧データ取得部が取得した脈圧(PP)で除算してなるコンプライアンス指数の再灌流時における両手の比を、安静時における両手の比で規準化してなる、指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)、または、前記NPV算出部が算出した規準化脈波容積(NPV)を前記脈圧データ取得部が取得した脈圧(PP)で除算してなるコンプライアンス指数の再灌流時における片手の異なる指の比を、安静時における片手の異なる指の比で規準化してなる、指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)を一心拍ごとに算出するFCR比算出部と
してコンピュータを機能させる指細小動脈拡張能検査プログラム。
【請求項12】
前記FCR比算出部は、再灌流時における両手のコンプライアンス指数の比を、安静時における両手のコンプライアンス指数の比で除算することで規準化する、または、再灌流時における片手の異なる指のコンプライアンス指数の比を、安静時における片手の異なる指のコンプライアンス指数の比で除算することで規準化する、請求項11に記載の指細小動脈拡張能検査プログラム。
【請求項13】
前記FCR比は下記式(1)で示される、請求項11または請求項12に記載の指細小動脈拡張能検査プログラム。
FCR比=[ln(CIr/CIc)]y-[ln(CIr/CIc)]x …式(1)
但し、CI:コンプライアンス指数(=NPV/PP)
r:駆血を行った側の手または指を示す添え字
c:駆血を行わない側の手または指を示す添え字
x:安静時を示す添え字
y:再灌流時を示す添え字
【請求項14】
前記各指動脈を圧迫するカフのカフ圧を記憶するカフ圧データ記憶部と、
前記NPVが最大となった後の時刻tにおける最高血圧(SBPt)を下記式(2)により算出し、それらの平均値を最高血圧(SBP)として推定するSBP推定部と、
SBPt=(b×(NPVt/NPVmax)+a)×FCt …式(2)
但し、NPVt:時刻tにおけるNPV
NPVmax:NPVの最大値
FCt:時刻tにおけるカフ圧(FC)
a,b:定数
前記SBP推定部が推定した最高血圧(SBP)に基づいて、下記式(3)により脈圧推定値(PPs)を算出する脈圧推定値算出部としてコンピュータを機能させるとともに、
PPs=(SBP-MBP)×3/2 …式(3)
但し、MBP(平均血圧):NPVが最大となった時のカフ圧
前記脈圧データ取得部は、前記脈圧推定値算出部が算出した前記脈圧推定値を脈圧として取得する、請求項11から請求項13のいずれかに記載の指細小動脈拡張能検査プログラム。
【請求項15】
下記式(4)の直線回帰勾配(n)である指動脈の弾力性指標(FEI)と前記FCR比とを二変数とするデータ群に基づいて、健常群か糖尿病群かの目的変数を数値にした重回帰式を判別関数として算出する判別関数算出部と、
ln(NPV)=ln(bn)-n・Pr …式(4)
但し、b:定数
Pr:相対カフ圧(脈波の振幅が最大のときのカフ圧と各カフ圧の差)
前記判別関数に判別対象者の前記FEIおよび前記FCR比を代入して判別得点を算出する判別得点算出部と、
前記判別得点に基づいて、前記判別対象者が健常群か糖尿病群かを判別する糖尿病判別部と
してコンピュータを機能させる、請求項11から請求項14のいずれかに記載の指細小動脈拡張能検査プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、指動脈の細小血管における早期の動脈硬化の徴候を検査するのに好適な指細小動脈拡張能検査方法、指細小動脈拡張能検査装置および指細小動脈拡張能検査プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、血管の内皮機能は動脈硬化の最早期に障害されるため、心血管疾患や糖尿病などの生活習慣病のプレクリニカル段階での診断に有望視されている。世界の臨床現場で用いられている最も標準的な検査法(内皮依存血流介在上腕動脈拡張検査:FMD法)は、前腕部を5分間駆血した後にその駆血を解除して反応性充血を惹起させる。そして、再灌流後のおよそ1分後に最大となる血流依存性拡張反応を超音波診断装置で計測し、上腕動脈の直径の最大増加率(%FMD)を測定している。
【0003】
また、指尖脈波を利用して反応性充血時の脈動振幅の増加(PAT比)を評価する(FMD法で査定される再灌流後の初期反応より遅い90秒後からの遅延反応を評価する)、いわゆる末梢動脈トノメトリ検査(Endo-PAT法)がイスラエルで製品化され臨床応用が広まりつつある。
【0004】
さらに、指尖脈波を利用するものとして、脈波ピーク値と脈波ベース値との差から血管内皮機能レベルを評価する評価手段、上腕の駆血前、及び血流再開された後の脈波の収縮期圧に占める反射波成分の割合(AI)から血管内皮機能レベルを評価する評価手段、及び加速度脈波の脈波特徴量として血管老化年齢指数(AG)を用いて血管内皮機能レベルを評価する評価手段等を有する血管内皮機能評価システムも提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2011-189080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、全身の動脈硬化が細小血管から始まるという生理学上の学説に従えば,上腕動脈という大きな血管を評価対象としている上述のFMD法は、動脈硬化の徴候を最早期に捉えるには必ずしも適さない。また、血流依存性拡張反応の計測に必要な超音波診断装置が高価な上、その画像解析に主観が入り易く検者の熟練を要するという問題もある。
【0007】
また、上述したEndo-PAT法は、指動脈の脈動振幅が検査指血管の器質的スティフネス(もともとの硬さ)および検査時の血圧の両方に影響されることが明白であるにも関わらず、それらの影響は全く考慮されていないという問題がある。また、Endo-PAT法が評価する遅延反応(再灌流後90秒~150秒における反応)と、上記FMD法が評価する初期反応(再灌流後30秒~60秒における反応)とは相関性が低く、互いに独自の病態生理学的意義や臨床的意義を有することが定説となっている。
【0008】
さらに、特許文献1に記載された発明においては、反射波も複合した脈波の波形を分析するものであり、反射にかかわる複雑な影響因子により規定されるため、その生理学的解釈が極めて難しいという問題がある。また、特許文献1では、指にかける外圧を駆血前の事前測定により決定した一定値を最適圧力として、検査中に変化させず固定している。このため、再灌流後の血圧が安静時に比べて大きく変化すると、安静時に事前決定した圧は最適圧力とは言えなくなるため、正しい評価を行うことができないという問題もある。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、指動脈の細小血管における早期の動脈硬化の徴候を簡単に検査することができる指細小動脈拡張能検査方法、指細小動脈拡張能検査装置および指細小動脈拡張能検査プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る指細小動脈拡張能検査方法は、指動脈の血管拡張反応を検査する指細小動脈拡張能検査方法であって、所定のシーケンスにより圧迫される両手の各指動脈について、安静時および一方の前腕を駆血した後の再灌流時における脈波データを記憶する脈波データ記憶ステップと、前記脈波データ記憶ステップにおいて記憶された前記脈波データに基づいて、脈波の交流成分の振幅を当該脈波の直流成分の平均値で除算してなる規準化脈波容積(NPV)を一心拍ごとに算出するNPV算出ステップと、最高血圧から最低血圧を減算してなる脈圧(PP)を取得する脈圧データ取得ステップと、前記NPV算出ステップにおいて算出された規準化脈波容積(NPV)を前記脈圧データ取得ステップにおいて取得された脈圧(PP)で除算してなるコンプライアンス指数の再灌流時における両手の比を、安静時における両手の比で規準化してなる、指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)を一心拍ごとに算出するFCR比算出ステップとを有する。
【0011】
また、本発明の一態様として、前記FCR比算出ステップでは、再灌流時における両手のコンプライアンス指数の比を、安静時における両手のコンプライアンス指数の比で除算することで規準化してもよい。
【0012】
さらに、本発明の一態様として、前記FCR比は下記式(1)で示されてもよい。
FCR比=[ln(CIr/CIc)]y-[ln(CIr/CIc)]x …式(1)
但し、CI:コンプライアンス指数(=NPV/PP)
r:駆血を行った側の手を示す添え字
c:駆血を行わない側の手を示す添え字
x:安静時を示す添え字
y:再灌流時を示す添え字
【0013】
また、本発明の一態様として、前記各指動脈を圧迫するカフのカフ圧を記憶するカフ圧データ記憶ステップと、前記NPVが最大となった後の時刻tにおける最高血圧(SBPt)を下記式(2)により算出し、その平均値を最高血圧(SBP)として推定するSBP推定ステップと、
SBPt=(b×(NPVt/NPVmax)+a)×FCt …式(2)
但し、NPVt:時刻tにおけるNPV
NPVmax:NPVの最大値
FCt:時刻tにおけるカフ圧(FC)
a,b:定数
前記SBP推定ステップにおいて推定された最高血圧(SBP)に基づいて、下記式(3)により脈圧推定値(PPs)を算出する脈圧推定値算出ステップとを有し、
PPs=(SBP-MBP)×3/2 …式(3)
但し、MBP(平均血圧):NPVが最大となった時のカフ圧
前記脈圧データ取得ステップでは、前記脈圧推定値算出ステップにおいて算出された前記脈圧推定値を脈圧として取得してもよい。
【0014】
さらに、本発明の一態様として、下記式(4)の直線回帰勾配(n)である指動脈の弾力性指標(FEI)と前記FCR比とを二変数とするデータ群に基づいて、健常群か糖尿病群かの目的変数を数値にした重回帰式を判別関数として算出する判別関数算出ステップと、
ln(NPV)=ln(bn)-n・Pr …式(4)
但し、b:定数
Pr:相対カフ圧(脈波の振幅が最大のときのカフ圧と各カフ圧の差)
前記判別関数に判別対象者の前記FEIおよび前記FCR比を代入して判別得点を算出する判別得点算出ステップと、前記判別得点に基づいて、前記判別対象者が健常群か糖尿病群かを判別する糖尿病判別ステップとを有していてもよい。
【0015】
また、本発明に係る指細小動脈拡張能検査装置は、指動脈の血管拡張反応を検査する指細小動脈拡張能検査装置であって、所定のシーケンスにより圧迫される両手の各指動脈について、安静時および一方の前腕を駆血した後の再灌流時における脈波データを記憶する脈波データ記憶部と、前記脈波データ記憶部に記憶された前記脈波データに基づいて、脈波の交流成分の振幅を当該脈波の直流成分の平均値で除算してなる規準化脈波容積(NPV)を一心拍ごとに算出するNPV算出部と、最高血圧から最低血圧を減算してなる脈圧(PP)を取得する脈圧データ取得部と、前記NPV算出部が算出した規準化脈波容積(NPV)を前記脈圧データ取得部が取得した脈圧(PP)で除算してなるコンプライアンス指数の再灌流時における両手の比を、安静時における両手の比で規準化してなる、指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)を一心拍ごとに算出するFCR比算出部とを有する。また、本発明に係る指細小動脈拡張能検査プログラムは、上記各構成部としてコンピュータを機能させるものである。
【0016】
また、本発明の一態様として、前記FCR比算出部は、再灌流時における両手のコンプライアンス指数の比を、安静時における両手のコンプライアンス指数の比で除算することで規準化してもよい。
【0017】
さらに、本発明の一態様として、前記FCR比は下記式(1)で示されてもよい。
FCR比=[ln(CIr/CIc)]y-[ln(CIr/CIc)]x …式(1)
但し、CI:コンプライアンス指数(=NPV/PP)
r:駆血を行った側の手を示す添え字
c:駆血を行わない側の手を示す添え字
x:安静時を示す添え字
y:再灌流時を示す添え字
【0018】
また、本発明の一態様として、前記各指動脈を圧迫するカフのカフ圧を記憶するカフ圧データ記憶部と、前記NPVが最大となった後の時刻tにおける最高血圧(SBPt)を下記式(2)により算出し、それらの平均値を最高血圧(SBP)として推定するSBP推定部と、
SBPt=(b×(NPVt/NPVmax)+a)×FCt …式(2)
但し、NPVt:時刻tにおけるNPV
NPVmax:NPVの最大値
FCt:時刻tにおけるカフ圧(FC)
a,b:定数
前記SBP推定部が推定した最高血圧(SBP)に基づいて、下記式(3)により脈圧推定値(PPs)を算出する脈圧推定値算出部とを有し、または、上記各構成部としてコンピュータを機能させるとともに、
PPs=(SBP-MBP)×3/2 …式(3)
但し、MBP(平均血圧):NPVが最大となった時のカフ圧
前記脈圧データ取得部は、前記脈圧推定値算出部が算出した前記脈圧推定値を脈圧として取得してもよい。
【0019】
さらに、本発明の一態様として、下記式(4)の直線回帰勾配(n)である指動脈の弾力性指標(FEI)と前記FCR比とを二変数とするデータ群に基づいて、健常群か糖尿病群かの目的変数を数値にした重回帰式を判別関数として算出する判別関数算出部と、
ln(NPV)=ln(bn)-n・Pr …式(4)
但し、b:定数
Pr:相対カフ圧(脈波の振幅が最大のときのカフ圧と各カフ圧の差)
前記判別関数に判別対象者の前記FEIおよび前記FCR比を代入して判別得点を算出する判別得点算出部と、前記判別得点に基づいて、前記判別対象者が健常群か糖尿病群かを判別する糖尿病判別部とを有していてもよく、上記各構成部としてコンピュータを機能させてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、指動脈の細小血管における早期の動脈硬化の徴候を簡単に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の指細小動脈拡張能検査装置および指細小動脈拡張能検査プログラムの一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本実施形態のシーケンスにより圧迫試行した際の時間経過に対するカフ圧およびNPVの関係を示すグラフである。
【図3】本発明に係るFCR法と、従来のEndo-PAT法との比較結果を示す表である。
【図4】本発明に係る指細小動脈拡張能検査方法の一実施形態を示すフローチャート図である。
【図5】本実施形態の測定プロトコルを示す図である。
【図6】実施例2において、高経壁圧成分における原法と簡易法との一致度を示すグラフである。
【図7】実施例2において、低経壁圧成分における原法と簡易法との一致度を示すグラフである。
【図8】実施例3における実験結果を示す図である。
【図9】実施例4における試作機の外観を示す写真である。
【図10】実施例4における試作ソフトウエアによる測定中の波形モニター画面である。
【図11】実施例5において、(a)実験結果を示すグラフ、および(b)脈圧および平均血圧の血圧変化量を示すグラフである。
【図12】実施例6における実験結果を示すグラフである。
【図13】実施例7において、(a)FCR比とFEIとの関係を示すグラフ、(b)判別得点の平均値を示すグラフ、および(c)判別得点と指平均血圧との関係を示すグラフである。
【図14】実施例9において、(a)FCR比のみを用いた場合、(b)FCR比とFEIを併用した場合、および(c)FCR比とFEIに加えて指平均血圧を併用した場合の各場合における、糖尿病患者の判別的中率を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る指細小動脈拡張能検査方法、指細小動脈拡張能検査装置および指細小動脈拡張能検査プログラム(以下、総称してFCR(Finger arterial Compliance Response test)法と表記する場合がある)は、本願発明者が提案する、指動脈の細小血管における早期の動脈硬化の徴候を評価するための新たな指標であるFCR比(Finger arterial Compliance Response:指動脈の血管拡張反応)を算出するのに好適なものである。

【0023】
以下、本発明に係る指細小動脈拡張能検査方法、指細小動脈拡張能検査装置および指細小動脈拡張能検査プログラムの一実施形態について図面を用いて説明する。

【0024】
図1に示すように、本実施形態の指細小動脈拡張能検査装置1は、主として、指を圧迫するための指圧迫手段2と、脈波を検出するための脈波検出手段3と、本実施形態の指細小動脈拡張能検査プログラム1aや各種のデータを記憶する記憶手段4と、これら各構成手段を制御するとともに各種のデータを取得して演算処理を実行する演算処理手段5とから構成されている。以下、各構成手段についてより詳細に説明する。

【0025】
指圧迫手段2は、被験者の指動脈を所望の圧力値で圧迫するものである。本実施形態において、指圧迫手段2は、指に巻き付けられて面ファスナーにより着脱可能な一対のカフ21,21と、これらカフ21,21に空気を送り込む空気ポンプ22とを有している。本実施形態において、カフ21,21は両手の人指し指にそれぞれ装着され、指動脈を圧迫するようになっている。また、空気ポンプ22は、後述するカフ圧制御部51によって自動制御され、両手の指動脈を所定のシーケンスで圧迫するようになっている。なお、指圧迫手段2の着脱方法は面ファスナーに限定されず、他の着脱手段でもよい。

【0026】
脈波検出手段3は、指動脈における容積変化を示す容積脈波を検出するものである。本実施形態において、脈波検出手段3は、光量を検出する光電式センサ31と、この光電式センサ31からの出力信号を増幅して脈波データとして出力する脈波アンプ32とを有している。なお、本実施形態では、脈波データとして、光電容積脈波データ(FPG)を検出しているが、これに限定されるものではない。

【0027】
光電式センサ31は、指の爪に固定されるLED(Light Emitting Diode)等の発光部31aと、この発光部31aと対向する位置において指の腹側に配置されるフォトダイオード等の受光部31bとを備えており、発光部31aから発光されて指を透過した透過光量を受光部31bで検出する。また、脈波アンプ32は、増幅した脈波データを後述する脈波データ記憶部42へ出力するようになっている。

【0028】
なお、本実施形態において、カフ21は受光部31bと一体化されており、当該受光部31bを指の腹に配置するとともに、発光部31aを指の爪に固定した状態で指に巻き付け、面ファスナー等で留めることにより固定されるようになっている。このため、径の異なる複数サイズのカフ21を用意する必要がなく、一種類のカフ21で複数の被験者の指径に最適な装着が可能となる。また、発光部31aと受光部31とが指に密着し、指圧迫の経過に伴う光路のずれが最小限に抑えられる。

【0029】
記憶手段4は、各種のデータを記憶するとともに、演算処理手段5が演算処理を行う際のワーキングエリアとして機能するものである。本実施形態において、記憶手段4は、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等で構成されており、図1に示すように、本実施形態の指細小動脈拡張能検査プログラム1aを格納するプログラム記憶部41と、脈波データ記憶部42と、カフ圧データ記憶部43とを有している。

【0030】
プログラム記憶部41には、本実施形態の指細小動脈拡張能検査プログラム1aがインストールされている。この指細小動脈拡張能検査プログラム1aが演算処理手段5によって実行されることにより、後述する各構成部としてコンピュータを機能させるようになっている。なお、指細小動脈拡張能検査プログラム1aの利用形態は、上記構成に限られるものではない。例えば、CD-ROMやDVD-ROM等のように、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に指細小動脈拡張能検査プログラム1aを記憶させておき、当該記録媒体から直接読み出して実行してもよい。また、外部サーバ等からASP(Application Service Provider)方式やクラウドコンピューティング方式で利用してもよい。

【0031】
脈波データ記憶部42は、脈波検出手段3により検出された脈波データを記憶するものである。本実施形態において、脈波データ記憶部42は、指圧迫手段2により所定のシーケンスで圧迫される両手の各指動脈について、安静時における脈波データを記憶するとともに、別途、一方の手の前腕を所定時間、所定の圧力で駆血した後の再灌流時における脈波データを記憶する。

【0032】
カフ圧データ記憶部43は、カフ21が指動脈を圧迫する際のカフ圧に関するデータを記憶するものである。本実施形態において、カフ圧データ記憶部43は、安静時および再灌流時のそれぞれにつき、両手に装着される各カフ21,21のカフ圧がそれぞれ記憶されるようになっている。

【0033】
演算処理手段5は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されており、指細小動脈拡張能検査プログラム1aを実行することにより、カフ圧制御部51と、NPV算出部52と、脈圧データ取得部53と、SBP推定部54と、脈圧推定値算出部55と、FCR比算出部56として機能するようになっている。以下、各構成部についてより詳細に説明する。

【0034】
カフ圧制御部51は、空気ポンプ22を自動制御し、カフ21,21によるカフ圧を自在に調節するものである。本実施形態において、カフ圧制御部51は、脈波の振幅が最大となる時刻を含む25秒間は、カフ圧を0から一定速度で増加させ、その後、カフ圧が0に戻るまでの5秒間は圧迫を解除するという試行動作を一つのシーケンスとし、このシーケンスを6回(計3分間)繰り返すように指圧迫手段2を自動制御するようになっている。なお、本実施形態において、カフ圧制御部51は、常にカフ圧データを取得し、カフ圧データ記憶部43に記憶させている。

【0035】
NPV算出部52は、脈波振幅に正比例する規準化脈波容積(Normalized Pulse Volume:NPV=ΔI/I)を算出するものである。ここで、脈動変化分の透過光量(ΔI)は、脈波の交流成分の振幅によって決定される。また、指(組織+血液)の透過光量(I)は、同時刻における脈波の直流成分の平均値によって決定される。したがって、NPV算出部52は、脈波データ記憶部42に記憶された脈波データに基づいて、脈波の交流成分の振幅を同時刻における脈波の直流成分の平均値で除算することにより、規準化脈波容積(NPV)を一心拍ごとに算出するようになっている。

【0036】
脈圧データ取得部53は、最高血圧(SBP)から最低血圧(DBP)を減算してなる脈圧(PP)を取得するものである。本実施形態において、脈圧データ取得部53は、脈圧の実測値を脈圧として取得してもよい。この場合、脈圧の実測値は、例えば、指動脈の血圧を容積補償法により計測可能な連続血圧計(株式会社メディセンス製MUB)等から取得することができる。

【0037】
ただし、上記連続血圧計は大型で高価であるため、試験・研究目的での導入は可能であるものの、一般の病院等に連続血圧計を導入するのは現実的には困難である。また、仮に連続血圧計を導入して測定したとしても台数に限りがあるし、1人あたりにかかる計測時間が長時間になるため、健康診断のように多人数の同時測定に対応することはできず、実用的ではないという問題もある。

【0038】
このため、本実施形態において、脈圧データ取得部53は、以下に詳述するように、脈波から推定される脈圧推定値(PPs)を脈圧として取得してもよい。なお、以下の説明において、脈圧の実測値を用いるFCR法を「原法」といい、脈圧の推定値を用いるFCR法を「簡易法」という。

【0039】
以下、一般的なオシロメトリック法と比較しつつ、本FCR法における脈圧の推定方法について説明する。一般的に、血圧を測定する際、上腕にカフ(腕帯)を巻き、そこに空気を送り込んで血管を圧迫し、いったん血液の流れを止める。その後、徐々に圧迫を緩めていくと、血液の圧力が血管を圧迫しているカフの圧力を上回る。こうして血液が心臓の拍動に合わせて断続的に流れ始める。

【0040】
オシロメトリック法では、カフを加圧した後、減圧していく段階で、心臓の拍動に同調した血管壁の振動を反映したカフ圧の変動(圧脈波)をチェックすることによって血圧値を決定する。一般的には、圧脈波が急激に大きくなったときのカフ圧が最高血圧、急激に小さくなったときのカフ圧が最低血圧とされる。

【0041】
一方、測定部位を指血管とし、上記の減圧手順を増圧手順に変えて、上述したシーケンスにより圧迫試行した際の時間経過に対するカフ圧およびNPVの関係を図2に示す。一般的なオシロメトリック法では、平均血圧(MBP)は脈波振幅が最大となる時のカフ圧で測定し、最高血圧(SBP)は脈波振幅が急激に小さくなったときのカフ圧で測定する。なお、図2に示すNPVは脈波振幅に正比例するものである。しかし、この方法では、平均血圧(MBP)と最高血圧(SBP)とが時間的に数秒離れた時刻で1つずつ決定されるため、推定すべき脈圧は当該数秒間の血圧変動に大きく影響される。

【0042】
そこで、図2に示すように、平均血圧(MBP)の決定時刻以降、脈が完全に消失するまでの数拍について、最大の脈波振幅に対する当該拍の脈波振幅の比から最高血圧(SBP)を一拍毎に推定し、その平均値を最高血圧(SBP)とすれば、平均血圧(MBP)の決定時刻により接近した時刻の平均化された最高血圧(SBP)が求められるため、上述した血圧変動の影響が少ない平均血圧(MBP)、最高血圧(SBP)および脈圧推定値(PPs)の組が得られることとなる。

【0043】
なお、図2に示すように、上述した1シーケンスにおいて、時刻0からカフ圧が平均血圧(MBP)の1/2となる時刻までは、経壁圧(平均血圧-カフ圧)が高い区間であるため、極めて細かい細動脈、および細動脈よりもやや太い小動脈の双方が寄与する領域といえる。一方、カフ圧が平均血圧(MBP)の1/2となる時刻から、カフ圧が平均血圧(MBP)となる時刻までは、経壁圧(平均血圧-カフ圧)が低く、細動脈が圧閉されているため、主として小動脈が寄与している領域といえる。

【0044】
以上において、SBP推定部54は、脈圧推定値(PPs)の算出に必要な最高血圧(SBP)を推定するものである。具体的には、SBP推定部54は、NPV算出部52が算出したNPVを取得するとともに、NPVが最大となる時刻を検出し、当該時刻以降の時刻tにおけるカフ圧(FCt)をカフ圧データ記憶部43から取得する。そして、NPVが最大となった後の時刻tにおける最高血圧(SBPt)を下記式(2)により算出し、それらの平均値を最高血圧(SBP)として推定するようになっている。
SBPt=(b×(NPVt/NPVmax)+a)×FCt …式(2)
但し、NPVt:時刻tにおけるNPV
NPVmax:NPVの最大値
FCt:時刻tにおけるカフ圧(FC)
a,b:定数

【0045】
脈圧推定値算出部55は、SBP推定部54が推定した最高血圧(SBP)に基づいて脈圧推定値(PPs)を算出するものである。具体的には、脈圧推定値算出部55は、NPVが最大となった時刻におけるカフ圧を平均血圧(MBP)としてカフ圧データ記憶部43から取得するとともに、SBP推定部54が推定した最高血圧(SBP)を取得し、下記式(3)により脈圧推定値(PPs)を算出するようになっている。
PPs=(SBP-MBP)×3/2 …式(3)
但し、MBP(平均血圧):NPVが最大となった時のカフ圧

【0046】
FCR比算出部56は、指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)を算出するものである。本願発明者は、反応性充血時の指細小動脈における動脈コンプライアンスの増加を標的とし、その時点の血管にかかる実効圧(経壁圧)、および試験指の血管に固有のスティフネスの影響も同時に査定することを目的とし、下記式(1)によりFCR比を定義した。
FCR比=[ln(CIr/CIc)]y-[ln(CIr/CIc)]x …式(1)
但し、CI(コンプライアンス指数)=NPV/PP
r:駆血を行った側の手を示す添え字
c:駆血を行わない側の手を示す添え字
x:安静時を示す添え字
y:再灌流時を示す添え字

【0047】
なお、上腕動脈などの大血管ではなく、指の細小血管を標的にする理由は、全身の動脈硬化が細小血管からはじまるとの生理学上の仮説、および糖尿病や高血圧などの細小血管障害の臨床診断に適するため、これらの最早期診断に応用するためである。

【0048】
以上において、FCR比算出部56は、NPV算出部52が算出した規準化脈波容積(NPV)と、脈圧データ取得部53が取得した脈圧(PP)とに基づいて、上記式(1)により指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)を一心拍ごとに算出するようになっている。

【0049】
また、上述したとおり、本FCR法に係る原法では、脈圧データ取得部53が脈圧の実測値を脈圧として取得し、FCR比算出部56が当該実測値を用いてFCR比を算出する。一方、本FCR法に係る簡易法では、脈圧データ取得部53が、脈圧推定値算出部55が算出した脈圧推定値を脈圧として取得し、FCR比算出部56が当該脈圧推定値を用いてFCR比を算出することとなる。

【0050】
なお、上記式(1)において、CIは、上記のとおり、NPVをPPで除算してなる指動脈のコンプライアンス指数である。また、上記式(1)において、右辺の第2項は、左右の手のそれぞれのコンプライアンス指数の間に恒常的に存在する左右差であり、FCR法による駆血前の安静時に測定される。

【0051】
すなわち、FCR比とは、NPVをPPで除算してなるコンプライアンス指数の再灌流時における両手の比を、安静時における両手の比で規準化してなるものである。そして、本実施形態では、再灌流時における両手のコンプライアンス指数の比を、安静時における両手のコンプライアンス指数の比で除算することで規準化している。なお、上記式(1)では、各比の自然対数を取っているため、減算表示となっている。また、規準化する方法は、上記に限られるものではなく、安静時における両手の比で規準化しうるものであれば、適宜選択してもよい。

【0052】
また、上記式(1)は下記式(5)で表すことができるところ、Endo-PAT法では、下記式(5)の脈圧を全く考慮していない。
FCR比=[ln(NPVr/NPVc)]y-[ln(NPVr/NPVc)]x
-([ln(PPr/PPc)]y-[ln(PPr/PPc)]x) …式(5)
本願発明者の予備実験では、再灌流後1分までは脈圧が著明に低下するため(すなわちPPrの低下と代償性のPPcの上昇)、Endo-PAT法では、再灌流後1分30秒までの初期反応は評価できない。Endo-PAT法におけるPAT比は、再灌流後1分30秒から3分までの平均、すなわち図2に示すように、反応性充血遅延反応を評価対象にするのはこのためと思われる。

【0053】
なお、Endo-PAT法においても両側性に生じる交感神経トーヌスの影響を除去する目的で、上記式(5)で示されるのと同様に、駆血側と統制側の圧脈波振幅の比を安静時の比で規準化したPAT比を算出している。したがって、両手の指動脈から同時に脈波を測定し、カフ圧の両側比(FCr/FCc)を算出する方法は、Endo-PAT法と同様、交感神経トーヌスの影響を除く効果だけではなく、脈波とカフ圧だけから脈圧の両側比(PPr/PPc)を推定するための新しい手段を提供するものといえる。

【0054】
ただし、Endo-PAT法も血管の内皮機能の活性化を評価する方法であるが、当該評価は、学術的な証拠が最も多く存在する「血管内皮から分泌されるNO(一酸化窒素)の刺激による血管平滑筋の弛緩」に基づいている。しかしながら、上述したとおり、Endo-PAT法におけるPAT比は、駆血側と統制側の圧脈波振幅の比を安静時の比で規準化したものである。すなわち、PAT比は、血管が柔らかくなった結果生じる間接的な効果(二次的現象)を評価しているに過ぎない。これに対し、本発明に係るFCR法は、血管の柔軟性に相当するコンプライアンスを標的指標としており、当該コンプライアンスの増加によって血管平滑筋の弛緩を直接的に評価するものといえる。

【0055】
また、血管内皮機能の評価に影響を与える主な要因として、脈圧(ΔP)および経壁圧(平均血圧-カフ圧)が存在するところ、Endo-PAT法の標的指標である脈動容積(ΔV)は、コンプライアンスに脈圧を乗じたものであるため、脈圧の上昇に伴って上昇してしまう。また、Endo-PAT法では、カフ圧が一定であるため、平均血圧の変化に伴って経壁圧が変化してしまうとともに、コンプライアンスは経壁圧の関数でもあるため、標的指標である脈動容積(ΔV)は、経壁圧やコンプライアンスに依存して変化してしまう。つまり、Endo-PAT法の標的指標である脈動容積(ΔV)は、影響因子である脈圧および経壁圧に対して独立性を有していない。

【0056】
これに対し、FCR法では、コンプライアンスを標的指標とすることにより、脈圧による影響を取り除いている。また、上記のとおり、コンプライアンスは経壁圧の関数であるところ、当該経壁圧の全範囲において計測したコンプライアンスの平均値を用いるため、経壁圧の影響も受けない。よって、FCR法は、影響因子である脈圧および経壁圧に対して独立性を有しており、Endo-PAT法と比較して理論的に優れているといえる。

【0057】
また、血管内皮機能の評価に影響を与える他の要因としては、血管の拡張に対する抵抗因子である動脈のスティフネス(硬さ)が存在する。この点、FCR法では、血管平滑筋の弛緩により増大したコンプライアンスに伴って増加する動脈の容積を計測しているが、Endo-PAT法では計測できない。また、血管が硬い場合でも、FCR法の実施直前に、本願発明者が独自に開発した指動脈弾力性指数FEI(特許第5039123号)を計測することで、スティフネスによる影響をFEIにより補正することができる。よって、FCR法は、影響因子である動脈スティフネスに対しても独立性を持つことができ、Endo-PAT法よりも優れているといえる。

【0058】
なお、動脈の容積とコンプライアンスは、理論上、同時に上昇するものと予測される。この点、FCR法では、動脈の容積とコンプライアンスを両方測定でき、両者に相関があることも示している。以上に述べた本発明に係るFCR法と、従来のEndo-PAT法との比較結果を図3に示す。なお、影響因子からの独立性については、後述する実施例5において関連する実験を行っており、一致度については後述する実施例6において検証を行っている。

【0059】
次に、指圧迫試行において複数拍の脈波からSBPの平均値を推定する方法は、以下のとおりである。図2に示すように、カフ21による増圧過程でNPVmaxが検出された時点からNPVは減少していくが、NPVt/NPVmax<0.1になるまでの区間について、数拍分の脈動から得られたNPVt/NPVmaxを上記式(2)に代入し、当該拍のSBPt/FCtから数拍分についてSBPtを算出する。それらのSBPtの平均値を求めて当該測定試行におけるSBPの推定値とする。

【0060】
上述したとおり、上記式(3)によってSBPの推定値とMBPの推定値とからPPの推定値を算出できるため、1シーケンスにつき1つのPP推定値が得られる。そして、そのPP推定値を1シーケンス中一定と仮定し、上記式(5)に代入することで、指圧迫試行中の全ての脈動について、一拍毎のNPV値とPP推定値とから、最終的に一心拍毎のFCR比が得られることとなる。

【0061】
なお、上述した記憶手段4および演算処理手段5は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータで構成されている。そして、指細小動脈拡張能検査プログラム1aが、当該コンピュータを上述した各構成部として機能させるようになっている。

【0062】
つぎに、本実施形態の指細小動脈拡張能検査プログラム1aによって実行される指細小動脈拡張能検査装置1の作用および指細小動脈拡張能検査方法について図4を参照しつつ説明する。

【0063】
本実施形態の指細小動脈拡張能検査装置1を用いて、FCR比を測定する場合、予め被験者の両手の人差し指に光電式センサ31およびカフ21を装着する。本実施形態では、カフ21が受光部31bと一体化されており、指に巻き付けるタイプのため、径の異なる複数サイズのカフ21を用意する必要がなく、一種類のカフ21で複数の被験者の指径に最適な装着が可能となる。また、発光部31aと受光部31とが指に密着し、指圧迫の経過に伴う光路のずれが最小限に抑えられる。

【0064】
つぎに、図5に示すように、安静時において、指圧迫手段2により両手の指動脈を上述したシーケンスで圧迫試行しながら、脈波検出手段3により脈波データを測定する(ステップS1)。そして、一方の前腕を収縮期血圧+50mmHgの圧力で5分間駆血した後(ステップS2)、再灌流時において、再び、指圧迫手段2により両手の指動脈を上述したシーケンスで圧迫試行しながら、脈波検出手段3により脈波データを測定する(ステップS3)。これにより、安静時および再灌流時における両手の脈波データが脈波データ記憶部42に記憶される。また、安静時および再灌流時における両手のカフ圧データがカフ圧データ記憶部43に記憶される。

【0065】
なお、指圧迫手段2により指が圧迫されている間、光電式センサ31の発光部31aが光を発する一方、受光部31bが指の組織や血管を透過した光量を検出する。ここで、血液中のヘモグロビンは、ある波長帯の光に強い吸収スペクトルを持っている。このため、当該波長帯の光を照射した時の生体の透過光が、血管の容量変動に伴い変化するヘモグロビン量に応じて変化する。したがって、受光部31bが検出した透過光量を脈波アンプ32で増幅することにより脈波が検出されることとなる。

【0066】
つぎに、NPV算出部52が、脈波データ記憶部42から脈波データを取得し、その交流成分の振幅を直流成分の平均値で除算することにより、NPVを算出する(ステップS4)。これにより、安静時および再灌流時における両手のNPVが一心拍ごとに算出される。

【0067】
つづいて、原法により本FCR法を実行する場合(ステップS5:原法)、被験者の両手それぞれに1台ずつ連続血圧計をセットし、両手の指動脈の脈圧を実測する(ステップS6)。これにより、極めて正確な両手の脈圧が取得されるため、誤差の少ないFCR比が算出される。

【0068】
一方、簡易法により本FCR法を実行する場合(ステップS5:簡易法)、まず、SBP推定部54が、NPVが最大となった時刻以降の時刻tにおけるカフ圧(FCt)をカフ圧データ記憶部43から取得する。そして、NPVが最大となった後の時刻tにおける最高血圧(SBPt)を上記式(2)により算出し、それらの平均値を最高血圧(SBP)として推定する(ステップS7)。

【0069】
これにより、左右の最高血圧が同時に推定されるため、当該推定に係る過剰評価や過小評価等の誤差バイアスが、両手の比をとることにより消える可能性が高い。また、従来のオシロメトリック法と比較して、NPVが最大となった時刻(平均血圧の決定時刻)により接近した時刻の平均化されたSBPが算出されるため、血圧変動による影響が低減し、推定精度が向上する。

【0070】
つづいて、脈圧推定値算出部55が、NPVが最大となった時刻におけるカフ圧を平均血圧(MBP)としてカフ圧データ記憶部43から取得するとともに、SBP推定部54が推定した最高血圧(SBP)を取得し、上記式(3)により脈圧推定値を算出する(ステップS8)。これにより、大型で高価な連続血圧計を用いて脈圧を実測することなく、脈波およびカフ圧のみから脈圧が推定される。また、上述したとおり、血圧変動による影響が少ないSBPを用いるため、脈圧の推定精度が向上する。

【0071】
つぎに、脈圧データ取得部53が、FCR比の算出に必要な脈圧を取得する(ステップS9)。本実施形態において、原法の場合、脈圧データ取得部53は、連続血圧計から脈圧の実測値を脈圧として取得する。一方、簡易法の場合、脈圧データ取得部53は、脈圧推定値算出部55が算出した脈圧推定値を脈圧として取得する。

【0072】
最後に、FCR比算出部56が、NPV算出部52が算出した規準化脈波容積(NPV)と、脈圧データ取得部53が取得した脈圧(PP)とに基づいて、上記式(1)により指動脈の血管拡張反応を示す指標(FCR比)を算出する(ステップS10)。これにより、原法の場合、指動脈の血管拡張反応を示すFCR比が一心拍ごとに正確に算出される。一方、簡易法の場合、脈圧を実測することなく、脈波およびカフ圧のみに基づいてFCR比が一心拍ごとに算出される。

【0073】
以上のような本発明によれば、以下のような効果を奏する。
1.指動脈の細小血管における早期の動脈硬化の徴候を検査することができる。
2.血管内皮機能、細小動脈の器質的スティフネス、および血圧に影響される機能的スティフネスという、3つの異なる器質的・機能的な要因を総合的に評価することができる。
3.従来のFMD法は、再灌流後の初期反応のみを評価し、従来のEndo-PAT法は、再灌流後の遅延反応のみを評価するものであるが、本発明によれば、初期反応および遅延反応の両方を単一の検査で査定することができる。
4.FMD法では高価な超音波診断装置が必要で、画像の解析には熟練を要し、検査者の主観性を排除できないが、本発明によれば、測定する生体反応は脈波だけであり、客観性に優れ、小型・軽量かつ安全・安価であり、操作法も容易である。
5.Endo-PAT法に必要なカフ部は、1回の検査にしか使えないものであるのに対し、本発明によれば、カフ21を繰り返し使用できるばかりでなく、複数の被験者に対しても同一のカフ21で最適な装着を実現でき、ランニングコストを低減することができる。
6.簡易法によるFCR比は、反応性充血状態の細小動脈拡張機能を指動脈のコンプライアンスによって評価するため、反応性充血時の脈圧の影響を除いた脈動振幅の増加を査定することができる。
7.指動脈における反応性充血時の動的コンプライアンスは、血管にかかる実効圧(経壁圧)に依存するが、指をカフ21で圧迫する指圧迫法を併用してコンプライアンス測定時の経壁圧を規定できるため、経壁圧を考慮したコンプライアンスを評価することができる。
8.細動脈と小動脈とは内皮機能が異なる可能性があるところ、両者の寄与率が異なる高経壁圧領域および低経壁圧領域のそれぞれにつきFCR比を算出でき、それらが表す指の小動脈成分対細動脈成分として分離評価することができる。血管の病理的変化は細小動脈から先に始まり、後に大きな動脈へと進行するという医学的学説によれば、血管径の異なる小動脈と細動脈の内皮機能を別々に査定できる点は、病態生理学的、臨床医学的に有用である。

【0074】
つぎに、本発明に係る指細小動脈拡張能検査プログラム1a、指細小動脈拡張能検査装置1および指動脈弾力性測定方法の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0075】
本実施例1では、上記式(2)の妥当性、すなわち最大の脈波振幅に対する当該拍の脈波振幅の比(NPVt/NPVmax)から、SBPとカフ圧の比(SBPt/FCt)を決定できるかを確認するための実験を行った。
【実施例1】
【0076】
具体的には、健常青年12名の被験者に対し、両手の第2指においてFCR法を実施するのと同時に、容積補償法による連続血圧計(株式会社メディセンス製MUB)を2台用いて、一心拍毎の血圧を両手の第3指で測定した。
【実施例1】
【0077】
カフ圧の範囲がMBP以上でNPVt/NPVmax>0.1を満たす範囲の心拍について、NPVt/NPVmaxとSBPt/FCtとの相関を調べた。得られた全区間について被験者毎に両手別に算出した結果、相関係数の平均と1標準偏差区間(いずれもFisher変換後に算出しFisher逆変換)は、左手-0.937(-0.904から-0.959)、右手-0.939(-0.903から-0.961)であった。
【実施例1】
【0078】
SBPt=FCtとなるNPVt/NPVmaxの値は、0.372±0.229(平均±SD)であり、個人差があることが判明した。それにもかかわらず、同一人では左右手間での回帰勾配および切片の個人内の一致度が高いと予想されたが、それらを相関係数(r)でそれぞれ示すと、r=0.530およびr=0.710であった。また、SBPt=FCtとなるNPVt/NPVmaxの値については、同一個人内の左右手間に高い相関が認められた(r=0.819)。
【実施例1】
【0079】
以上の本実施例1によれば、SBPt=FCtとなるNPVt/NPVmaxの値、換言すればSBPtをFCtから推定できるNPVt/NPVmaxの値は、個人差はあるものの、各個人については左右手間に一致が認められるため、上記式(2)の妥当性が確認された。
【実施例2】
【0080】
上述した脈波からSBPとPPを推定する方法は、測定試行中の血圧が変化しないとの仮定に基づいている。このため、当該仮定が実際にはどの程度適合するかにより、最終的に算出されるFCR比の誤差が左右される。そこで本実施例2では、簡易法によって得られたFCR比を原法によって得られたFCR比と比較し、その誤差を評価する実験を行った。
【実施例2】
【0081】
具体的には、健常青年12名の被験者に対し、容積補償法による連続血圧計(株式会社メディセンス製MUB)を用いて両手の第3指から一心拍毎の血圧を同時に測定し、一心拍ごとの脈圧の実測値からFCR比(FCRo)を算出した(FCR原法)。そして、当該FCRoに対して、両手第2指で実施した簡易法により得られたFCR比(FCRs)の一致度を評価した。
【実施例2】
【0082】
(1)指尖脈波(FPG)測定法
指尖脈波(FPG)はNPVの測定用装置(株式会社メディセンス製MPN1001)で測定した。本装置は近赤外発光ダイオード(波長810nm)とフォトダイオードを採用し、それらを左右上肢における第2指基節部の背側と腹側に指を挟んで装着した。フォトダイオードの出力は一般的なac(時定数0.3s)およびdc増幅器で増幅し、AD変換後、パーソナルコンピュータに入力し分析した。なお、上記のとおり、ac成分上の脈動振幅と当該心周期のdc成分平均値の比がNPVである。
【実施例2】
【0083】
(2)指圧迫法
指圧迫用のカフ21は静脈を圧閉し、経壁圧を広範囲に制御するために用いられた。幅4cmのカフ21はFPG光源とセンサーを上から覆うように巻かれた。毎回の測定では、カフ圧を約6mmHg/sの等速で25秒間増加させた。その間、脈波の脈動振幅は徐々に増加していくが、カフ圧が平均血圧と一致する時、動脈は無負荷状態となり血管のコンプライアンスが最大化するためNPVも最大値を示す。換言すれば、指平均血圧(MBPs)はNPVの最大時におけるカフ圧と等しい。
【実施例2】
【0084】
カフ圧が平均血圧と一致した後、さらにカフ圧を増加させ続けると脈波振幅は減少に転じるため、脈波振幅の最大値の10%程度に減少した時点で指圧迫が解除されるように、カフ21に流入する空気の流量を調整した。この間の圧迫相25秒間を測定試行と呼び、毎回5秒の非圧迫相を挟んで繰り返した。
【実施例2】
【0085】
ここで、各測定試行においてMBPsおよび一定の基準で算出する収縮期血圧推定値(SBPs)は、それぞれNPV最大時の1回、およびNPVが減少に転じた数拍の脈動についてだけ測定した。SBPsと概算式で求めた拡張期血圧(最低血圧)との差を脈圧推定値(PPs)と定義した。
【実施例2】
【0086】
(3)安静時における測定
上記の指圧迫試行を繰り返しつつ、MBPsおよびPPsと共に、測定試行毎のコンプライアンス指数(CIs=NPV/PPs)を求めた。以上の測定は両手の脈波についてそれぞれ行った。
【実施例2】
【0087】
(4)5分間駆血後の再灌流時(反応性充血)における測定
駆血を解除した時点から3分後まで30秒毎に、上記の指圧迫試行を繰り返しつつ、MBPsおよびPPsと共に、測定試行毎のコンプライアンス指数(CIs=NPV/PPs)を求めた。以上の測定は両手の脈波についてそれぞれ行った。
【実施例2】
【0088】
(5)簡易法によるFCR比の算出
簡易法によるFCR比(FCRs)は、再灌流後の30秒毎に上記式(5)によって算出された。
【実施例2】
【0089】
(6)原法によるFCR比の算出
以上の簡易法の比較基準として、一心拍毎の脈圧を実測する原法を実施した。すなわち、簡易法では一測定試行中、同一のPPsを用いたのに対して、原法では連続血圧波形から実測した一心拍毎の実測値(PPo)を用い、同一心拍のCIoを算出した(CIo=NPV/PPo)。簡易法と同様に、原法によるFCR比(FCRo)は、再灌流後の30秒毎に上記式(1)によって算出した。
【実施例2】
【0090】
(7)動脈系では中枢側大動脈から末梢細小動脈への圧勾配により血管径の小さい動脈ほど内圧は降下する。そして、最も大幅で急峻な圧降下は細動脈の部分で生じる。ここで、指圧迫に着目すれば、カフ圧が漸増する過程で小さな血管から大きな血管へと順次圧閉されていく。また、動脈壁にかかる経壁圧(Pt)は、実効圧=MBPs-カフ圧(FC)で算出される。
【実施例2】
【0091】
そして、FCがまだ低い領域、すなわち、「Pt>MBPs/2」(換言すれば、「FC<MBPs/2」)と定義される高経壁圧領域に限定してCIを算出すれば、細動脈の寄与がより大きい成分についてのコンプライアンスを評価できる。また、FCが高い領域、すなわち、「Pt<MBPs/2」(換言すれば、「FC>MBPs/2」)と定義される低経壁圧領域に限定してCIを算出すれば、指動脈の中では太い小動脈の成分を評価できる(図2における低経壁圧成分と高経壁圧成分の分離法)。
【実施例2】
【0092】
そこで、本実施例2では、高経壁圧成分および低経壁圧成分に分離して評価するため、上記のFCRsおよびFCRoは、上記2つの経壁圧領域別の平均値としてまとめた。具体的には、被験者12名の再灌流後5分間について、30秒毎の測定10試行について、FCRsとFCRoの一致度を散布図として示した。図6に示すように、高経壁圧成分にについては、r=0.823であり、図7に示すように、低経壁圧成分については、r=0.772であった。
【実施例2】
【0093】
以上の本実施例2によれば、種々の誤差要因にもかかわらず、原法によるFCR比と、簡易法によるFCR比との間には、高い一致が認められることが明らかとなった。
【実施例3】
【0094】
本実施例3では、簡易法を実施するのと同時に、内皮機能検査の医学的標準法であるFMD法を実施し、その一致度を評価する実験を行った。
【実施例3】
【0095】
具体的には、健常者青年45名を被験者とし、FMD法による%FMDと、簡易法によるFCR比とを比較した。測定法は上述した実施例2と同一とし、それ以外には、FMD法による%FMDの測定を専用の測定装置(株式会社ユネクス製ユネクスイーエフ)を用いて、簡易法と同時に行った。%FMDの測定は標準的な手順に従い、熟練した臨床検査技師が担当した。
【実施例3】
【0096】
簡易法によるFCR比は、左右のコンプライアンスの比(駆血側/対照側)だが、安静時の比で規準化してある。指カフ圧が平均血圧の50%以上で平均血圧までの分析区間(細動脈は閉塞され指の太い血管だけが関与する成分をとりだしている)について、駆血を解除した直後から25秒までの期間と、30秒から55秒目まで期間との2回の指圧迫試行の平均値と定義した(図5における初期反応)。
【実施例3】
【0097】
実験の結果、FMD法による%FMDと簡易法によるFCR比との単相関は有意であり (r=0.474,p<0.01)、事前に調査した、性、年齢、上腕動脈の直径、充血側である右側の心臓足首血管指数(CAVI)、駆血前の安静時における右手指の平均血圧、駆血前の安静時における右手指のコンプライアンス初期値、これらすべてを共変量とした偏相関(r=0.454,p<0.01)も有意のままであった。
【実施例3】
【0098】
次に、簡易法によるFCR比を目的変数とするステップワイズ重回帰分析を行った結果、図8に示すように、FMD法による%FMD(標準偏回帰係数β=0.446,p<0.01)と、本願発明者が独自に開発した指動脈弾力性指数FEI(標準偏回帰係数β=0.292,p<0.05)との2変数から簡易法によるFCR比を説明するモデルが有意であり、その重相関係数はR=0.567(p<0.001)であった。
【実施例3】
【0099】
これらの結果は、当初の予想である「FCR比は血管内皮機能を反映すると共に指動脈のスティフネスにも影響され、指血管がやわらかいほどFCR比は大きい」と一致するものである。しかし、FMD法による%FMDと簡易法によるFCR比との一致度は弱い関係であることが判明した。その主因としては、内皮機能は大血管の上腕動脈と細小血管の部位差があることによるもので、簡易法の妥当性を否定する結果ではないと思われる。
【実施例3】
【0100】
一方、上述したとおり、指尖脈波を利用して反応性充血時の脈動振幅の増加を評価するEndo-PAT法も臨床応用が広まりつつある。しかしながら、血管内皮機能検査に関連する世界の研究動向によれば、上腕動脈におけるFMD法との大規模な比較研究が行われており、両者の相関性は低く、両者は異なる生理機能を反映し、それぞれ独自の病態生理学的意義を有することが定説となっている。
【実施例3】
【0101】
したがって、本実施例3によれば、FMD法による%FMDとの一致度に関し、簡易法によるFCR比は、Endo-PAT法によるPAT比よりも一致度が高いことが示唆された。また、簡易法における初期反応を従属変数、%FMDと指動脈弾力指数(FEI)を説明変数とする重回帰予測に有意な重相関が実証された。すなわち、FEIは血圧に依存する機能的スティフネスと指細小動脈の器質的スティフネス(FSI)の両者が寄与し、血管内皮機能、血圧、および、血管の器質的スティフネスはいずれも血管健康の独立したマーカーとして認められている。よって、簡易法におけるFCR比の初期反応は、血管内皮機能と細小動脈の機能的・器質的スティフネスの両者を総合的に反映する意味で、従来法とは全く新しい血管健康マーカーを提供するものといえる。
【実施例4】
【0102】
本実施例4では、FCR比に加えて、指動脈弾力指数(FEI)およびFEIから導出される指動脈スティフネス指数(FSI)の検査も行える兼用の検査装置を試作した。当該兼用検査装置の外観を図9に示し、指細小動脈拡張能検査プログラム1aを含む付属のソフトウエアによる測定中の波形モニター画面を図10に示す。
【実施例4】
【0103】
兼用検査装置の本体は、新書を3冊重ねた程度の大きさで小型・軽量である。また、電源はUSBを介してPCから供給され、信号はUSBを介してPCへ出力される。LEDはそのマウント部を指背側の爪にテープで固定し、光センサーは指腹側に密着して装着し、センサーと一体化したカフ21を巻きつけ、面ファスナーで固定する。この装着法を採用することで、径の異なる複数サイズのカフ21を用意することなく、一種類のカフ21で被検者の指径に最適な装着が可能となった。また、 LEDと光センサーは指に密着し、指圧迫の経過に伴う光路のずれは最小限に抑えられる。
【実施例4】
【0104】
付属のソフトウエアは、指圧迫のシーケンスを自動制御し、パーソナルコンピュータに入力された脈波を表示するとともに、一心拍毎にNPVとカフ圧とを求め、波形と共にcsvファイルに一拍毎の結果を保存できるようになっている。また、オフラインでの視察によりアーチファクトを除去した後、再計算することもできる。
【実施例4】
【0105】
なお、図10は、安静時の左右指を同時に測定した場合の波形であり、時間経過とともに漸増する線がカフ圧、振幅の大きい波形が脈波のac成分、振幅の小さい波形が脈波のdc成分を示している。また、縦線は一拍ごとの同定(拡張期と収縮期)を示すものである。本実施例4では、心臓位置に対するA側の手の位置がB側よりも高いため、A側の血圧は逆に低くなっている。
【実施例4】
【0106】
以上の本実施例4によれば、試作した兼用検査装置は、小型・軽量・簡便・安全・安価であり、臨床検査技師や医師が容易に操作できるため、医療施設を含む国内外の共同研究施設にこれらを提供し、臨床データの大規模な蓄積を行うことができる可能性が示された。また、平均血圧とスティフネスを同時測定するので、それらのFCR比への相対的寄与割合を評価できる。
【実施例5】
【0107】
本実施例5では、健常者か糖尿病患者かを判別する手法として、FCR法とEndo-PAT法とのいずれが優れているのかを検証する実験を行った。
【実施例5】
【0108】
具体的には、健常青年女子24名および糖尿病患者37名の各被験者について、本発明に係るFCR比と、Endo-PAT法に係るPAT比とをそれぞれ測定した。その結果を図11(a)に示す。また同時に、各被験者の脈圧および平均血圧における血圧変化量を測定した。その結果を図11(b)に示す。なお、FCR比としては、再灌流時のコンプライアンス/駆血前のコンプライアンスの平均値を用いており、PAT比としては、再灌流時のNPV/駆血前のNPVの平均値を用いている。
【実施例5】
【0109】
図11(a)に示すように、PAT比よりもFCR比の方が、健常成年女子と糖尿病患者との差異が大きいことがわかる。これは、図11(b)に示すように、脈圧および平均血圧の変化幅が、糖尿病患者よりも健常成年女子の方が大きいためである。すなわち、再灌流時には、血管の内皮機能が働いてFCR比が増加する一方、PAT比は脈圧の減少によって、FCR比ほどには大きくならない。このため、Endo-PAT法のように、脈動容積を用いた場合、内皮機能の影響を過小評価してしまう。図11(b)に示すように、脈圧の減少量は、糖尿病患者よりも健常成年女子の方が大きいため、上述した過小評価も影響も、糖尿病患者よりも健常成年女子の方が大きい。
【実施例5】
【0110】
以上の本実施例5によれば、健常者か糖尿病患者かを明確に判別する手法として、Endo-PAT法よりもFCR法の方が優れていることが示された。
【実施例6】
【0111】
本実施例6では、本発明に係るFCR比と、Endo-PAT法に係るPAT比との一致度を検証することで、Endo-PAT法に対するFCR法の優位性を確認する実験を行った。
【実施例6】
【0112】
具体的には、糖尿病患者35名について、FCR比とPAT比とをそれぞれ測定し、両者の偏相関係数を算出した。また、それとは別に、PAT比に対する影響要因である、脈圧、平均血圧およびスティフネスの全要素を統計的に除去したPAT比を用いて同様の偏相関係数を算出した。その結果を図12に示す。なお、本実施例6において、FCR比は、駆血前安静時のコンプライアンスの大きさ(前値)に依存するため、当該前値を制御した偏相関を示している。また、PAT比は、安静時における脈動容積の影響を補正した値である。
【実施例6】
【0113】
図12に示すとおり、PAT比に対する影響因子の影響を除去していない場合、FCR比とPAT比との偏相関係数は約0.5であり、両者の相関は低い。これは、Endo-PAT法が、脈圧や平均血圧の影響を受けるものであり、理論的に正しくない面を有するからである。一方、PAT比に対する影響因子の影響を除去した場合、FCR比とPAT比との偏相関係数は約0.7となり、両者の一致度は向上した。
【実施例6】
【0114】
以上の本実施例6によれば、Endo-PAT法における理論上の欠点を補正することにより、本発明に係るFCR法に近づくことが示された。
【実施例7】
【0115】
本実施例7では、上述した特許第5039123号に係る指動脈弾力性指標(FEI)と本発明に係るFCR比とを併用することにより、健常群か糖尿病群かを判別する実験を行った。なお、指動脈弾力性指標(FEI)とは、下記式(4)の直線回帰勾配(n)として表されるものである。
ln(NPV)=ln(bn)-n・Pr …式(4)
但し、b:定数
Pr:相対カフ圧(脈波の振幅が最大のときのカフ圧と各カフ圧の差)
【実施例7】
【0116】
具体的には、健常青年女子31名および糖尿病患者(男女)37名を被験者とし、各被験者について、本発明に係るFCR比と、指動脈弾力性指標(FEI)とをそれぞれ測定した。その結果を図13(a)に示す。
【実施例7】
【0117】
つぎに、FEIとFCR比とを二変数とするデータ群に基づいて、健常群か糖尿病群かの目的変数を数値にした重回帰式を判別関数として算出した(判別関数算出ステップ)。当該判別関数を図13(a)に示す。つづいて、当該判別関数に判別対象者のFEIおよびFCR比を代入して判別得点を算出した(判別得点算出ステップ)。その結果を図13(b)に示す。さらに、当該判別得点に基づいて、判別対象者が健常群か糖尿病群かを判別した(糖尿病判別ステップ)。
【実施例7】
【0118】
図13(b)に示すように、健常群と糖尿病群とを比較すると、判別得点が明確に正負に分かれており、両群の重なりが極めて小さい。よって、算出された判別関数は、健常群か糖尿病群かを高精度に判別するものといえる。また、図13(c)に示すように、FEIとFCR比とを併用した判別得点は、指の平均血圧とは無相関であるため、血圧に依存しないという点で臨床診断上も有用である。
【実施例7】
【0119】
以上の本実施例7によれば、特許第5039123号に係る指動脈弾力性指標(FEI)と本発明に係るFCR比とを併用することにより、健常群か糖尿病群かを高精度に判別でき、臨床診断上の有用性が向上することが示された。
【実施例8】
【0120】
本実施例8では、本発明に係る指細小動脈拡張能検査装置1および指細小動脈拡張能検査プログラム1aにおいて、上述した実施例7に係る糖尿病判別機能を実装した。
【実施例8】
【0121】
具体的には、コンピュータとしての指細小動脈拡張能検査装置1において、記憶手段4が各被験者のFEIを記憶するFEI記憶部として機能するとともに、演算処理手段5が、実施例7で上述した判別関数算出ステップを実行する判別関数算出部と、判別得点算出ステップを実行する判別得点算出部と、糖尿病判別ステップを実行する糖尿病判別部として機能するように指細小動脈拡張能検査プログラム1aを実装した。
【実施例8】
【0122】
上記において、判別関数算出部は、FEI記憶部に記憶されているFEIと、FCR比算出部56により算出されたFCR比とを二変数とするデータ群に基づいて、健常群か糖尿病群かの目的変数を数値にした重回帰式を判別関数として算出する。また、判別得点算出部は、判別関数算出部により算出された判別関数に、判別対象者のFEIおよびFCR比を代入して判別得点を算出する。糖尿病判別部は、判別得点算出部により算出された判別得点に基づいて、判別対象者が健常群か糖尿病群かを判別するものである。
【実施例8】
【0123】
上記構成により、所定数の被験者に関するFEIとFCR比とを二変数とするデータ群を与えると、判別関数算出部が判別関数を算出した。つづいて、判別しようとする対象者のFEIおよびFCR比を与えると、判別得点算出部が各値を判別関数に代入して判別得点を算出した。そして、判別糖尿病判別部が、当該判別得点に基づいて、判別対象者が健常群か糖尿病群かを判別した。
【実施例8】
【0124】
以上の本実施例8によれば、本発明に係る指細小動脈拡張能検査装置1および指細小動脈拡張能検査プログラム1aに糖尿病判別機能を合わせて実装できることが示された。
【実施例8】
【0125】
なお、本実施例8では、特許第5039123号に係る指動脈弾力性測定装置によって測定されたFEIを記憶するFEI記憶部を設けていたが、この構成に限定されるものではない。すなわち、本発明に係る指細小動脈拡張能検査装置1および指細小動脈拡張能検査プログラム1aに、別途、FEIを算出する機能を実装してもよい。
【実施例9】
【0126】
本実施例9では、本発明に係るFCR比のみを用いた場合、FCR比にFEIを併用した場合、およびFCR比とFEIに加えて指平均血圧を併用した場合のそれぞれついて、糖尿病患者か否かを判別する実験を行った。
【実施例9】
【0127】
具体的には、健常成年女子39名および糖尿病患者49名の被験者について、FCR比、FEIおよび指平均血圧を測定した。そして、FCR比のみについての判別関数、FCR比とFEIを併用した場合の判別関数、およびFCR比とFEIと指平均血圧とを併用した場合の判別関数を算出した。そして、算出した各判別関数に各被験者のFCR比、FEIおよび指平均血圧を代入して判別得点を求め、糖尿病患者か否かを判別した。その結果を図14に示す。
【実施例9】
【0128】
図14(a)に示すように、FCR比のみを用いた場合、健常成年女子を健常成年女子であると予測し、糖尿病患者を糖尿病患者であると予測した割合を示す的中率は76.1%であった。これに対し、図14(b)に示すように、FCR比にFEIを併用した場合、的中率は86.4%に向上した。さらに、図14(c)に示すように、FCR比とFEIに加えて指平均血圧を併用した場合、的中率は95.5%にまで向上した。
【実施例9】
【0129】
以上の本実施例9によれば、健常成年女子と糖尿病患者とを判別する的中率は、FCR比のみを用いた場合よりも、FCR比にFEIを併用した場合の方が高く、さらに、FCR比とFEIに加えて指平均血圧を併用した場合の方が最も的中率が高くなることが示された。
【実施例9】
【0130】
なお、本発明に係る指細小動脈拡張能検査方法、指細小動脈拡張能検査装置1および指細小動脈拡張能検査プログラム1aは、前述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【実施例9】
【0131】
例えば、FCR比の数値範囲に対応させて、指動脈の血管拡張反応を示す表示テーブル(例:柔らかい,普通,硬い)を記憶手段4に格納しておき、FCR比算出部56によって算出されたFCR比の値に基づき、図示しない表示手段や印刷手段から指動脈の血管拡張反応を示すデータを出力するようにしてもよい。
【実施例9】
【0132】
また、上述した本実施形態では、コンプライアンス指数の再灌流時における両手の比を、安静時における両手の比で規準化することでFCR比を算出している。しかしながら、両手の比ではなく、いずれか一方の手における異なる指の比を用いてもよいと考えられる。すなわち、上記式(1)におけるCIrおよびCIcとして、駆血を行った指のコンプライアンス指数、および駆血を行わない指のコンプライアンス指数をそれぞれ用いればよい。
【産業上の利用可能性】
【0133】
近年、生活習慣病の予防は国の健康医療政策の最重要課題となっており、生活習慣病の急増を受けて、メタボリックシンドロームを対象にした特定健康診査・保健指導が平成20年度から開始された。中でも動脈硬化を含む血管内皮機能障害に関する診断と介入は、心血管疾患と脳血管障害を予防するのに特に重要である。例えば、生活習慣病の一つである糖尿病は、様々な合併症を引き起こす。糖尿病網膜症による失明者は年間約3000人に昇る。その波及効果は以下の如くである。
【0134】
第一に、FCR法による細小動脈内皮機能検査が直接役立つ臨床ケースには、微小循環障害を伴い失明の主要原因ともなる糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、加齢黄斑変性症、循環器領域の心不全、腎臓透析適用へと進展する糖尿病腎症、細動脈硬化を加速させる高血圧症、動脈硬化が背景にある勃起障害などがある。
【0135】
第二に、細小動脈の病理は動脈硬化の自然史の中で最も初期に、大血管の動脈硬化と肥厚に先行して現れることから、予防医学の重要な指標になると思われる。すなわち、本願発明者を含む研究グループで開発を先行している細小動脈弾力性とスティフネス検査(FEI・FSI法)、ならびに、今回の細小動脈内皮機能検査(FCR法)は、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)や脳梗塞といった重要な疾患を含む生活習慣病全体のプレクリニカルな段階での疾病予測、スクリーニング、診断、および長期の経過観察に役立ち、医療現場への波及効果は一層広範である。
【0136】
第三に、早期の血管の健康低下は可逆的であるから、一般健常人口の健康管理および慢性に蓄積する日常ストレスの評価、ならびに保健指導の介入効果の判定などの際に、バイオマーカーとして活用できると期待される。例えば、メタボリック症候群や糖尿病などの介入型特定保健指導では介入評価指標として有用なバイオマーカーが要請されている。
【0137】
したがって将来的なFCR法の用途と利用分野としては、極めて広範なヘルスプロモーションと健康支援の現場、すなわち、児童生徒を預かる学校保健室、職業人の健康管理施設、商業スポーツ施設、高齢者の介護福祉施設等における健康教育と健康管理、また、健康食品や医薬の評価にも活用可能である。
【0138】
装置の小型化や簡素化がより一層可能となれば、血圧計に組み込んだ安価な健康機器として家庭用に広く普及する可能性も考えられる。すなわち、FMD法やEndo-PAT法のように、医療保険制度の需要に応じる医療施設への供給はもとより、わが国における高齢化を背景にして、疾病予防と介護予防の潜在需要の増大に応じ、国民の「QOL(Quality Of Life)を高める」医療・福祉・教育、ならびに食品健康関連など広範な医療生活産業に貢献できるものと考えられる。
【符号の説明】
【0139】
1 指細小動脈拡張能検査装置
1a 指細小動脈拡張能検査プログラム
2 指圧迫手段
3 脈波検出手段
4 記憶手段
5 演算処理手段
21 カフ
22 空気ポンプ
31 光電式センサ
31a 発光部
31b 受光部
32 脈波アンプ
41 プログラム記憶部
42 脈波データ記憶部
43 カフ圧データ記憶部
51 カフ圧制御部
52 NPV算出部
53 脈圧データ取得部
54 SBP推定部
55 脈圧推定値算出部
56 FCR比算出部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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