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明細書 :ナノダイヤモンド粒子およびその製造方法ならびに蛍光分子プローブおよびタンパク質の構造解析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6117812号 (P6117812)
登録日 平成29年3月31日(2017.3.31)
発行日 平成29年4月19日(2017.4.19)
発明の名称または考案の名称 ナノダイヤモンド粒子およびその製造方法ならびに蛍光分子プローブおよびタンパク質の構造解析方法
国際特許分類 C01B  32/26        (2017.01)
G01N  21/64        (2006.01)
G01N  24/00        (2006.01)
B82Y  35/00        (2011.01)
B82Y  20/00        (2011.01)
B82Y  30/00        (2011.01)
C09K  11/65        (2006.01)
FI C01B 31/06 A
G01N 21/64 F
G01N 24/00 Z
B82Y 35/00
B82Y 20/00
B82Y 30/00
C09K 11/65
請求項の数または発明の数 11
全頁数 26
出願番号 特願2014-540890 (P2014-540890)
出願日 平成25年10月10日(2013.10.10)
国際出願番号 PCT/JP2013/077591
国際公開番号 WO2014/058012
国際公開日 平成26年4月17日(2014.4.17)
優先権出願番号 2012226721
優先日 平成24年10月12日(2012.10.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年5月22日(2015.5.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】白川 昌宏
【氏名】外間 進悟
【氏名】五十嵐 龍治
【氏名】原田 慶恵
個別代理人の代理人 【識別番号】110001195、【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
審査官 【審査官】今井 淳一
参考文献・文献 特開2012-121748(JP,A)
特開2011-180570(JP,A)
特開平04-295782(JP,A)
PETRAKOVA, V. et al.,Luminescence of Nanodiamond Driven by AtomicFunctionalization: Towards Novel Detection Principles,Advanced Functional Materials,2012年 2月22日,22,812-819
FU, C.-C. et al.,Characterization and application of single fluorescentnanodiamonds as cellular biomarkers,Proceedings of the National Academy of Sciences ofthe United States of America,2007年 1月16日,104,727-732
調査した分野 C01B 32/26
B82Y 20/00
B82Y 30/00
B82Y 35/00
C09K 11/65
G01N 21/64
G01N 24/00
特許請求の範囲 【請求項1】
電子供与性官能基で表面が修飾されている、ODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子であり、
前記ODMR強度は、1~5GHzの高周波磁場を照射したときの、励起光による蛍光発光量の減少率であり、
前記蛍光発光量の減少率は、0.01以上である、ODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子。
【請求項2】
前記電子供与性官能基は、ヒドロキシル基およびヒドロキシアルキル基の少なくともいずれかである、請求項1に記載のODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子。
【請求項3】
前記ナノダイヤモンド粒子は、平均粒径が1nm以上50nm以下である、請求項1または2に記載のODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子からなる粉末状試薬、または前記ナノダイヤモンド粒子を液体に分散させた試薬。
【請求項5】
ナノダイヤモンド粒子を準備する工程と、
前記ナノダイヤモンド粒子の表面に存在する官能基のうち1種以上の電子供与性官能基の修飾率を選択的に高める処理を行なう工程と、を含む、ODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子の製造方法。
【請求項6】
前記電子供与性官能基はヒドロキシル基およびヒドロキシアルキル基の少なくともいずれかであり、かつ前記処理を行なう工程は還元処理を行なう工程である、請求項5に記載のODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子を化学修飾した、蛍光分子プローブ。
【請求項8】
高分岐ポリグリセロールで化学修飾されている、請求項7に記載の蛍光分子プローブ。
【請求項9】
請求項7または8に記載の蛍光分子プローブからなる粉末試薬、または前記蛍光分子プローブを液体に分散させた試薬。
【請求項10】
請求項7または8に記載の蛍光分子プローブで標的タンパク質を標識する工程と、
標識された前記標的タンパク質に励起光および1~5GHzの高周波磁場を照射して、蛍光発光量が減少するピーク磁場周波数を検知することによって前記標的タンパク質の構造変化を検知する工程と、を備える、タンパク質の構造解析方法。
【請求項11】
前記検知する工程において、前記ピーク磁場周波数は静的な外部磁場の下で分裂しており、
前記検知する工程は、前記ピーク磁場周波数の分裂幅の大きさから、前記蛍光分子プローブに含まれるNVセンターの回転運動を検知する工程を含む、請求項10に記載のタンパク質の構造解析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノダイヤモンド粒子およびその製造方法ならびに蛍光分子プローブおよびタンパク質の構造解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の構造やタンパク質等生体分子の構造解析や機能解析に使用される蛍光分子プローブとしては、種々のものが知られている。たとえば、第一級アミンと特異的に反応して蛍光性を示すフルオレスカミン等を挙げることができる。そして、蛍光分子プローブで標的タンパク質を標識し蛍光顕微鏡等を用いて観測することによって、標的タンパク質の運動や配向等といった分子構造に関する各種情報を収集できる。そして、昨今、このような蛍光分子プローブに使用される蛍光物質としてナノダイヤモンド粒子が注目されている(たとえば、特開2011-180570号公報(特許文献1))。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2011-180570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体内において、タンパク質は生命現象に深く関与している。そして、タンパク質の生体内における構造変化を追跡することは、タンパク質の機能を明らかにし、ひいては病気の発現や進行のメカニズムを明らかにする上で極めて重要である。従来、タンパク質の構造解析は、専ら「in-vitro」すなわち試験管内で行なわれてきた。しかし、実際にタンパク質が機能している生体内「in-vivo」と試験管内とでは、タンパク質を取り巻く環境が大きく異なることから試験管内で観測された結果がそのまま生体内での構造や機能に適用できる場面は限られており、生体内におけるタンパク質の構造解析方法の早期確立が望まれている。
【0005】
従来、タンパク質の構造解析には核磁気共鳴による分子構造解析法〔以下「NMR(Nuclear Magnetic Resonance)法」とも記す〕や蛍光顕微鏡を用いた蛍光分子観察法等が主に用いられてきた。
【0006】
NMR法は、非侵襲的な計測が可能であるとともに原子レベルでの高い空間分解能を有するため、立体構造に関する多くの情報を収集できる。しかしその反面、感度が低く、時間分解能も低いためリアルタイムでの観測は困難であった。
【0007】
蛍光分子観察法は、一分子計測が可能であるとともにリアルタイム観察・計測が可能である。しかしその反面、空間分解能が低く、いわゆる構造の揺らぎや構造変化を計測することが極めて困難であった。さらには蛍光分子プローブに用いられる蛍光物質に毒性がある場合も多く非侵襲的な計測に適していなかった。
【0008】
このように既存の方法によっては、生体内で非侵襲的に、かつタンパク質1分子の構造変化をリアルタイムで観測することは不可能であった。
【0009】
ところで、光検出磁気共鳴法〔以下「ODMR(Optically-Detected Magnetic Resonance)法」とも記す〕は、試料体の磁気共鳴を高感度に検出できる手段として知られている。ODMR法では、試料体に励起光および高周波磁場を同時に照射して蛍光発光量の変化を検知することにより磁気共鳴を高感度に検出する。これ以降、本明細書では、このような計測手段をODMR計測とも記す。
【0010】
近年、たとえば、特許文献1に記載された蛍光顕微鏡装置のように、磁気共鳴法と蛍光分子観察法とを融合させたODMR法を生体内におけるタンパク質の構造解析に応用する研究が進められている。そしてその中でナノダイヤモンド粒子の蛍光分子プローブとしての可能性が示されている。
【0011】
ダイヤモンド結晶中の窒素原子と空孔からなる複合欠陥(以下「NVセンター」とも記す)を含むナノダイヤモンド粒子は、NVセンターにおいて蛍光発光し、かつ磁気共鳴によって蛍光発光量を変化させることが知られている。ここで、NVセンターとは、図1に示すように、ダイヤモンド結晶中の炭素原子1を置換した窒素原子2(N;Nitrogen)と、窒素原子2と隣接する空孔3(V;Vacancy)とからなる複合欠陥を示す。
【0012】
NVセンターにおける蛍光には、蛍光の褪色やブリンキングが少なく、蛍光分析への適応性が高い。さらに、ナノダイヤモンド粒子は炭素原子からなる物質であるため、生体への毒性が極めて低いと考えられ、また標的タンパク質を標識するための粒子表面の化学修飾が容易であるため生体内で使用する蛍光分子プローブとして有望視されている。
【0013】
上記のようなNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子のODMR計測を行ない、蛍光発光量を縦軸、磁場周波数を横軸とした2次元座標に表示した場合、特定の高周波磁場において蛍光発光の減少ピークが観測される。ここで、本明細書では上記の2次元座標に表示されたスペクトルを「ODMRスペクトル」とも記し、上記の減少ピークを「ODMRシグナル」とも記す。
【0014】
そして、ODMR計測において、高周波磁場を照射したときの発光量をL(ON)とし、磁場を照射しないときの発光量L(OFF)としたとき、下記式(I)によって算出される蛍光発光量の減少率を「ODMR強度」と定義する。
【0015】
(ODMR強度)=1-{L(ON)/L(OFF)}・・・(I)
上記の減少ピーク(ODMRシグナル)は静的な外部磁場に置かれたNVセンターでは分裂し、ピークの分裂幅はNVセンターの回転運動とともに変化するため、NVセンターを含むナノダイヤモンド粒子を蛍光分子プローブとして使用し、該蛍光分子プローブによって標的タンパク質を標識するとともにODMRスペクトルを計測することにより、上記した既存の方法では実現できなかった生体内におけるタンパク質の精細かつリアルタイムの構造解析が実現できる可能性がある。
【0016】
ここで、上記のような生体内におけるタンパク質の構造解析方法が実現されるためには、極めて高いODMR強度を有するNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子が必要とされる。
【0017】
しかしながら、現状において、NVセンターを含むナノダイヤモンド粒子のODMR強度は生体内での計測を安定的に行なうには十分ではなく、未だ上記のようなタンパク質の構造解析方法は確立されていない。そして、現在まで、NVセンターを含むナノダイヤモンド粒子のODMR強度を高める方法が報告された例はない。
【0018】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであって、その目的とするところはODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子を提供し、該ナノダイヤモンド粒子を化学修飾した蛍光分子プローブを用いて新規なタンパク質の構造解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のナノダイヤモンド粒子は、粒子表面が特定の官能基で修飾されることによって、粒子内部に存在するNVセンターのODMR強度が高められている。
【0020】
すなわち、本発明のナノダイヤモンド粒子は、ヘテロ原子を含む官能基で表面が修飾されており、ODMR強度が高められたNVセンターを含むことを特徴とする。
【0021】
ここで、上記ヘテロ原子を含む官能基は電子供与性官能基であることが好ましい。また、上記ヘテロ原子を含む官能基はヒドロキシル基およびヒドロキシアルキル基の少なくともいずれかであることが好ましい。また上記ヘテロ原子を含む官能基はカルボキシル基であってもよい。
【0022】
また、上記ナノダイヤモンド粒子は、平均粒径が1nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0023】
そして、上記ODMR強度とは、1~5GHzの高周波磁場を照射したときの励起光による蛍光発光量の減少率を示す。
【0024】
本発明のナノダイヤモンド粒子の具体的な利用形態としては、たとえばナノダイヤモンド粒子からなる粉末状試薬やナノダイヤモンド粒子を液体に分散させた試薬等を挙げることができる。
【0025】
さらに、本発明は上記のナノダイヤモンド粒子の製造方法にも係わり、該製造方法は、ナノダイヤモンド粒子を準備する工程と、該ナノダイヤモンド粒子表面に存在する官能基のうち1種以上のヘテロ原子を含む官能基の修飾率を選択的に高める処理を行なう工程と、を含む、ODMR強度が高められたナノダイヤモンド粒子の製造方法である。
【0026】
ここで、上記1種以上のヘテロ原子を含む官能基はヒドロキシル基および/またはヒドロキシアルキル基(ヒドロキシル基およびヒドロキシアルキル基の少なくともいずれか)であり、かつ上記処理を行なう工程は還元処理を行なう工程であることが好ましい。
【0027】
また、上記1種以上のヘテロ原子を含む官能基はカルボキシル基であり、かつ上記処理を行なう工程は酸化処理を行なう工程であってもよい。
【0028】
また、本発明は上記のナノダイヤモンド粒子を用いた蛍光分子プローブにも係わり、該蛍光分子プローブは、上記のODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子を化学修飾したものであることを特徴とする。この蛍光分子プローブは、たとえば粉末状の試薬や液体に分散させた試薬として利用することができる。
【0029】
さらに、本発明はタンパク質の構造解析方法にも係わり、該構造解析方法は、上記の蛍光分子プローブで標識した標的タンパク質に、励起光および1~5GHzの高周波磁場を照射して、蛍光発光量が減少するピーク磁場周波数を検知することで、該標的タンパク質の構造変化を検知するタンパク質の構造解析方法である。すなわち、該構造解析方法は蛍光分子プローブで標的タンパク質を標識する工程と、標識された標的タンパク質に励起光および1~5GHzの高周波磁場を照射して、蛍光発光量が減少するピーク磁場周波数を検知することによって標的タンパク質の構造変化を検知する工程と、を備える。
【0030】
ここで、上記ピーク磁場周波数は静的な外部磁場の下で分裂しており、その分裂幅の大きさから、蛍光分子プローブに含まれるNVセンターの回転運動を検知することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のナノダイヤモンド粒子は、極めて高いODMR強度を示す。したがって、生体内における蛍光分子プローブとして利用可能であり、これを用いることによって生体内におけるタンパク質の精細かつリアルタイムの構造解析が実現できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ダイヤモンド結晶中におけるNVセンターの概略概念図である。
【図2】ダイヤモンド結晶中における窒素原子と空孔の配置の一例を示す概略概念図である。
【図3】NVセンターのエネルギー準位の一例を示す概念図である。
【図4】ダイヤモンド結晶中におけるNV(-)を示す概略概念図である。
【図5】ダイヤモンド結晶中におけるNV(0)を示す概略概念図である。
【図6】NV(-)のエネルギー準位の一例を示す概略概念図である。
【図7】NV(-)が蛍光発光する際のエネルギー準位の一例を示す概略概念図である。
【図8】本発明の実施形態に係わるODMRスペクトルの一例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係るタンパク質の構造解析方法におけるODMRスペクトルの一例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係わるナノダイヤモンド粒子のIRスペクトルの一例を示す図である。
【図11】本発明の実施形態に係わるODMR強度の評価に用いる蛍光顕微鏡装置の一例を示す概略概念図である。
【図12】本発明の実施形態に係るODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施形態のタンパク質の構造解析方法に係わる解析装置を示す概略概念図である。
【図14】本発明の実施形態に係わるナノダイヤモンド粒子のODMR強度の測定例を示すグラフである。
【図15】本発明の実施形態に係わるナノダイヤモンド粒子のODMR強度の測定例を示すグラフである。
【図16】本発明の実施形態に係る蛍光分子プローブの合成スキームの一例を示す図である。
【図17】ナノダイヤモンド粒子を添加した細胞株の観察結果の一例を示す図である。
【図18】水溶液中のタンパク質の濃度とナノダイヤモンド粒子に吸着したタンパク質濃度との関係の一例を示すグラフである。
【図19】図19(A)は本発明の実施形態に係るナノダイヤモンド粒子の蛍光像を示す図であり、図19(B)は本発明の実施形態に係るナノダイヤモンド粒子のODMR像を示す図である。
【図20】図20(A)は従来のナノダイヤモンド粒子の蛍光像を示す図であり、図20(B)は従来のナノダイヤモンド粒子のODMR像を示す図である。
【図21】本発明の実施形態に係るタンパク質の構造解析方法の概略を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態(以下「本実施形態」とも記す)についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

【0034】
<ODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子>
以下、本実施形態のナノダイヤモンド粒子について説明する。本実施形態のナノダイヤモンド粒子はヘテロ原子を含む官能基で表面が修飾されており、ODMR強度が高められたNVセンターを含んでいる。

【0035】
≪ナノダイヤモンド粉末≫
原料となるナノダイヤモンド粉末の製造方法は特に制限されず、いかなる方法で製造されてもよい。ナノダイヤモンド粉末の製造方法としては、たとえばCVD法(化学蒸着法)、爆発法(爆轟法)、高温高圧法(HPHT法)等を挙げることができる。

【0036】
本実施形態のナノダイヤモンド粒子は、生体内におけるタンパク質の構造解析方法への利用を目的のひとつとしている。一般に、CVD法、HPHT法によって得られたナノダイヤモンド粉末は幅広い粒度分布を有するため、適宜分級を行なって粒度分布を調整することが好ましい。ここで分級方法としては、たとえば超遠心法、サイズ排斥クロマトグラフィー等を好適に用いることができる。他方、爆轟法によって得られたナノダイヤモンド粉末であれば分級操作を行なわずそのまま用いることができる。爆轟法ではその製法原理上、大粒子が生成されず、粒子径が4~5nm程度でありかつ粒子径の揃った粉末が得られるからである。

【0037】
生体内での使用を考慮するとナノダイヤモンド粒子の平均粒径は小さいほど好ましく、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは40nm以下であり、最も好ましくは30nm以下である。平均粒径が50nmを超過すると分散性が低下する傾向があり好ましくない。また、上記のように平均粒径は小さいほど好ましいが、NVセンターを有しかつ高い結晶性を確保するという観点から1nm以上であることが好ましい。前述のように爆轟法によって得られたナノダイヤモンド粉末は4~5nm程度の粒子径範囲を有することができる。そのため爆轟法によって得られたナノダイヤモンド粉末は本実施形態のナノダイヤモンド粒子の原料として特に好適である。なお「平均粒径」は、たとえば動的光散乱法、レーザー回折法等によって測定することができる。

【0038】
≪NVセンター≫
本実施形態のナノダイヤモンド粒子は、ODMR強度が高められたNVセンターを含んでいる。ここで、NVセンターとは図1に示すように、ダイヤモンド結晶中の炭素原子1を置換した窒素原子2と窒素原子2と隣接する空孔3とからなる複合欠陥を示す。

【0039】
≪NVセンターの生成≫
一般的に、上記のような方法でナノダイヤモンド粉末を製造した場合、ダイヤモンド結晶中には不純物として窒素原子が混入しており、同時に炭素原子が欠落した空孔も存在している。しかし、このままでは、たとえば図2に示すように窒素原子2と空孔3とが隣接した一対をなしておらずNVセンターとはなっていない。

【0040】
≪真空熱処理≫
そこで、ナノダイヤモンド粉末を真空中700℃~1000℃の高温で熱処理することによって、窒素原子2と空孔3とを結合させることができる。これによりダイヤモンド結晶中に図1に示されるNVセンターが生成される。

【0041】
≪空気熱処理≫
しかし、上記のように高温で真空熱処理した場合、粒子表面のダイヤモンド構造の一部がグラファイト化してしまう。このように、表面がグラファイトで覆われてしまうと、結晶内部にNVセンターを有していても、ナノダイヤモンド粒子は良好な蛍光発光を示さない。

【0042】
そこで、良好な蛍光発光を示すナノダイヤモンド粒子を得るためには、真空熱処理の後、さらに空気中400℃~600℃で熱処理して表面を酸化することを要する。

【0043】
≪NV(-)およびNV(0)≫
上記のようにして、ダイヤモンド結晶内部にNVセンターが生成されたナノダイヤモンド粒子は励起光を照射すると蛍光発光する。そして、励起光および高周波磁場を該ダイヤモンド粒子に同時照射して、電子スピン磁気共鳴〔以下「ESR(Electron Spin Resonance)」とも記す〕を発生させると、蛍光発光量が減少する場合がある。

【0044】
この現象は、NVセンターのうち、ESR発生時に蛍光発光しないスピン状態を形成するNV(-)の存在によって引き起こされる。以下、図3~8を用いて該現象を説明する。

【0045】
図3に示すように、NVセンターの基底状態はスピン三重項(3A)であり、励起状態はスピン三重項(3E)である。そして(3A)と(3E)との間には波長637nmに相当するエネルギーギャップが存在する。また(3A)と(3E)との間にはスピン一重項(11)が存在する。

【0046】
図4に示すように、NV(-)は、窒素原子2と隣接する空孔3に余分な電子5を獲得している。この電子の存在によって不対電子6が2個となり、S=1のスピン状態を形成することができる。

【0047】
そのため、図6に示すように、NV(-)では、基底状態は静磁場を印加しない状態でも約2.87GHzに相当するエネルギーギャップをもつMz=0の基底状態(A1)とMz=±1の準基底状態(E)とに分裂している。したがって、約2.87GHzの高周波磁場を照射するとゼロ磁場環境下でもESRを発生する。

【0048】
ここで、NV(-)にESRが発生した状態で、励起光を照射した際の緩和過程を図7に示す。励起光によってMz=±1の準基底状態(E)から励起された電子の一部は項間交差し、図7中の一点鎖線で示すようにスピン一重項(11)を経て蛍光発光しない無輻射過程をたどる。すなわち、これが図8に示すような蛍光発光量の減少(ODMRシグナル)として観測される。そして、無輻射過程をたどる電子が多いほどODMRシグナルは大きくなる(換言すればODMR強度は高められる。)。

【0049】
他方、NV(0)には、図5に示すようにNVセンターに余分な電子5が存在しないためS=1/2のスピン状態となる。そのため、NV(0)では、励起光を照射しても図3に示す(3A)と(3E)との間の遷移しか起こらず無輻射過程をたどることはない。すなわちODMRシグナルを示さない(ODMR不活性)。

【0050】
以上の説明から分かるように、NVセンターのうちNV(-)の存在率を増加させることができれば、ODMR強度を高めることができる。

【0051】
本発明者らは、NVセンターを含むナノダイヤモンド粒子において、NV(-)の存在率を高める方法について鋭意研究を重ねた結果、ナノダイヤモンド粒子の表面を特定の官能基で修飾することによって、NV(-)の存在率を増加させることができるとともに、ODMR強度が飛躍的に高められることを見出し、本発明を完成させるに至った。

【0052】
すなわち、本実施形態のナノダイヤモンド粒子は、ヘテロ原子を含む官能基で表面が修飾されることによって、NVセンターのODMR強度が高められたナノダイヤモンド粒子である。

【0053】
≪ヘテロ原子を含む官能基≫
本明細書において、ヘテロ原子とは、炭素(C)、水素(H)以外の原子であり、かつ官能基中において該原子上に非共有電子対を有する原子を示す。このようなヘテロ原子としては、たとえば、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)等を挙げることができる。そして、ヘテロ原子を含む官能基としては、たとえば、ヒドロキシル基(-OH)、ヒドロキシアルキル基(-CHOH、-ROH:Rはアルキル基を示す。)、カルボキシル基(-COOH)、アミノ基(-NH)、アルキルアミノ基(-NHR、-NR:Rはアルキル基を示す。)、チオール基(-SH)等を挙げることができる。

【0054】
≪電子供与性≫
上記のヘテロ原子を含む官能基は電子供与性官能基であることが好ましい。ここで、本明細書において「電子供与性」とは、該ヘテロ原子上の非共有電子対によって引き起こされる共鳴効果による電子供与性を示す。

【0055】
電子供与性のヘテロ原子を含む官能基によって、ナノダイヤモンド粒子の表面を修飾することにより、NV(-)の発生を促進させることができる。

【0056】
そして、上記したヘテロ原子を含む官能基のうち、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基およびカルボキシル基は、本発明の効果が得られやすく、修飾官能基として好ましい。なお、カルボキシル基は電子吸引性を有する官能基であるが、本発明者の研究によればカルボキシル基でナノダイヤモンド粒子を修飾した場合であってもNV(-)の存在率が高められることが明らかとなっている。

【0057】
≪表面修飾処理≫
一般に、ナノダイヤモンド粒子の表面には多種多様な官能基が存在している。そのような官能基としては、たとえば、アルキル基、カルボキシル基、ケトン基、ヒドロキシル基、ビニル基、ラクトン基等の存在が知られている。

【0058】
本実施形態のナノダイヤモンド粒子は、このような官能基のうち1種以上のヘテロ原子を含む官能基の修飾率を選択的に高める処理を行なうことにより製造することができる。

【0059】
ここで、ヘテロ原子を含む官能基は、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基およびカルボキシル基からなる群より選ばれた1種以上の官能基であることが好ましい。

【0060】
また、上記のような処理としては、たとえば、ナノダイヤモンド粒子表面に存在する官能基を、還元処理および/または酸化処理する方法を好適に用いることができる。

【0061】
ここで、上記の処理が還元処理である場合には、ヒドロキシル基および/またはヒドロキシアルキル基(ヒドロキシル基およびヒドロキシアルキル基の少なくともいずれか)によるナノダイヤモンド粒子表面の修飾率を選択的に高めることができる。還元処理の方法としては、従来公知のいかなる還元反応も採用することができる。たとえば、還元剤として、ボラン-テトラヒドロフラン混合溶液、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェントン試薬等を用いて還元処理を行なってもよい。

【0062】
また、上記処理は酸化処理であってもよい。酸化処理である場合には、カルボキシル基によるナノダイヤモンド粒子表面の修飾率を選択的に高めることができる。酸化処理の方法としては、従来公知のいかなる酸化反応も採用することができる。たとえば、酸化剤として、濃硫酸と濃硝酸の混合溶液、ピランハ溶液、硫酸、硝酸、過塩素酸混合溶液等を用いて酸化処理を行なってもよい。

【0063】
≪表面修飾官能基の定性≫
上記のように、表面修飾処理を行なった後に、ナノダイヤモンド粒子の表面に存在する官能基の定性を行なうことが好ましい。官能基の定性は、たとえば赤外分光スペクトル(以下「IRスペクトル」とも記す)を測定することによって行なうことができる。たとえば、ナノダイヤモンド粒子を従来公知の錠剤法によって錠剤に成形して、IRスペクトルを測定することができる。

【0064】
≪ODMR強度の評価≫
ODMR強度の評価は、ナノダイヤモンド粒子に励起光を照射しながらESRを発生する高周波磁場を照射して蛍光発光量を計測するとともに、上記式(I)によってODMR強度を算出して行なうことができる。

【0065】
≪NV(-)の存在率の評価≫
NV(-)の存在率の評価は、同条件で処理された一定数のナノダイヤモンド粒子について、個々の粒子について上記したODMR強度を求め、それらの相加平均を算出することによって行なうこともできる。ここで、信頼性の高い結果を得るためには、上記一定数は、たとえば50~200個程度とすることが好ましい。

【0066】
≪その他≫
上記のように本実施形態のナノダイヤモンド粒子は高いODMR強度を有する。ここでODMR強度をさらに高めるとの観点から、ナノダイヤモンド粒子は結晶内部に希土類金属(たとえば、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)等)を含まないことが好ましい。結晶中に希土類金属が導入されるとダイヤモンド結晶格子に歪みが生じ、ODMR強度が減退することがあるからである。またダイヤモンド結晶中に磁性元素(たとえば、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)等)も含まないことが好ましい。これらの磁性元素が生起する磁場がODR強度の測定に悪影響を及ぼすことがあるからである。

【0067】
なお、本実施形態においてダイヤモンド結晶を構成する炭素には、自然界に存在するものを特に限定なく用いることができる。たとえば、天然に存在する炭素の安定な同位体として12Cおよび13Cがあるが、ダイヤモンド結晶中におけるこれらの存在比率も特に限定されるものではない。

【0068】
[実施形態2]
このような本実施形態のナノダイヤモンド粒子は、以下のような製造方法によって製造される。換言すれば、以下のような製造方法によって製造されるナノダイヤモンド粒子は上記のような特性を示す。したがって、本実施形態のナノダイヤモンド粒子は極めて高いODMR強度を示すという優れた効果を有する。以下、本実施形態のナノダイヤモンド粒子の製造方法について説明する。

【0069】
<ODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子の製造方法>
図12に本実施形態のナノダイヤモンド粒子の製造方法のフローチャートを示す。当該製造方法は、ナノダイヤモンド粒子を準備する工程S1と、ナノダイヤモンド粒子の表面に存在する官能基のうち1種以上のヘテロ原子を含む官能基の修飾率を選択的に高める処理を行なう工程S2と、を含む。以下、各工程について説明する。

【0070】
≪ナノダイヤモンド粒子を準備する工程S1≫
まず、工程S1では、ナノダイヤモンド粉末を分級する工程S11と、ナノダイヤモンド粒子を真空中で熱処理する工程S12と、ナノダイヤモンド粒子を空気中で熱処理する工程S13と、を実施する。工程S11を実施することによって、ナノダイヤモンド粒子は生体内での使用に好適な粒度分布に調整され、工程S12を実施することによってナノダイヤモンド粒子の内部にNVセンターが生成される。さらに、工程S13を実施することによって、ナノダイヤモンド粒子表面のグラファイト層を酸化し、蛍光性を示すNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子を製造することができる。なお、前述のように爆轟法によって得られたダイヤモンド粉末を用いる場合は、分級する工程を省略することができる。

【0071】
≪ヘテロ原子を含む官能基の修飾率を選択的に高める処理を行なう工程S2≫
次いで、工程S2では、上記工程S1で得られたナノダイヤモンド粒子に、粒子の表面に存在する官能基のうち1種以上のヘテロ原子を含む官能基の修飾率を選択的に高める処理を行なう工程として、還元処理を行なう工程S21および/または酸化処理を行なう工程S22を実施することによって、ODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子を製造することができる。

【0072】
なお、本実施形態のナノダイヤモンド粒子の製造方法は、上記の工程S1(工程S11~工程S13)と工程S2(工程S21および工程S22の少なくともいずれか)とを含む限り、他の工程を含んでいてもよく、工程S1と工程S2とを含む限り本発明の効果は示される。

【0073】
ここで、他の工程としては、たとえば工程S2の後にナノダイヤモンド粒子を乾燥する工程を含むことができる。ただし、表面修飾がなされたナノダイヤモンド粒子を乾燥する場合は凍結乾燥を行なうことが望ましい。凍結乾燥によればナノダイヤモンド粒子が凝集してクラスターとなることを防止できるからである。これに対して、たとえば減圧乾燥を行なうとナノダイヤモンド粒子が凝集してクラスターとなるため好ましくない。

【0074】
本実施形態のナノダイヤモンド粒子は生体分子の構造解析に用いるため、前述のようにその粒子径は小さいことが好ましい。そして、本実施形態のナノダイヤモンド粒子は凝集体ではなく単一粒子であることが特に好ましい。その理由は次の通りである。

【0075】
後述するように本実施形態のタンパク質の構造解析方法では、ナノダイヤモンド粒子中のN-V軸ベクトルと外部磁場(静磁場)ベクトルとのなす角度を追跡することにより、N-V軸の回転運動を追跡する。ここでダイヤモンド結晶中のNVセンターは4つのN-V軸を有している。したがって、ナノダイヤモンド粒子の凝集体を蛍光分子プローブとして用いた場合は、凝集体の中で複数のナノダイヤモンド粒子が様々な方向(角度)で近距離に存在するため、複数のN-V軸も様々に配向することとなり、ODMRシグナルの分解能が低下する。したがって、本実施形態のナノダイヤモンド粒子は単一粒子であることが好ましく、その製造方法には凝集体が発生しないプロセスを採用することが好ましい。

【0076】
[実施形態3]
以下、上記に説明した本実施形態のナノダイヤモンド粒子の生体計測への具体的な適用例である蛍光分子プローブについて説明する。

【0077】
<蛍光分子プローブ>
本実施形態の蛍光分子プローブは、ODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子を化学修飾することによって得られる。

【0078】
ここで生体内での計測を考慮すると、蛍光分子プローブに使用されるナノダイヤモンド粒子としては、本実施形態のナノダイヤモンド粒子のうち粒径が1~10nmのものが好ましい。

【0079】
また、ODMR計測において十分なS/N比を確保し高い時間分解能を得るためには、本実施形態のナノダイヤモンド粒子のうちODMR強度が0.02以上のナノダイヤモンド粒子が好ましく、ODMR強度が0.05以上のナノダイヤモンド粒子がより好ましく、ODMR強度が0.10以上のナノダイヤモンド粒子が特に好ましい。

【0080】
≪化学修飾≫
ここで、化学修飾とは、標的タンパク質と特異的に結合する分子鎖をナノダイヤモンドに化学結合させることを示す。該分子鎖は、ダイヤモンド結晶をなす炭素原子と直接結合されていてもよく、ナノダイヤモンド粒子表面上の官能基と結合していてもよい。また該分子鎖は、標的タンパク質(目的タンパク質ともいう)に合わせて適宜選択することが好ましい。たとえば、後述する代謝型グルタミン酸受容体を標的とする場合、アンピシリン(Ampicillin、以下「Amp」と略記することもある)等を用いることができる。

【0081】
≪非特異的な吸着の阻害方法≫
上記の化学修飾は、標的タンパク質以外の生体高分子への非特異的な吸着を阻害する分子鎖を含むことが好ましい。そのような分子鎖の一例としては、たとえば高分岐ポリグリセロール(HPG:Hyper branched Poly-Glycerol)を挙げることができる。化学修飾が非特異的な吸着を阻害する分子鎖を含むことにより、高選択的に標的タンパク質を標識することができる。

【0082】
図16は、本実施形態の蛍光分子プローブの合成スキームの一例を示している。図16に示すように、本実施形態の蛍光分子プローブは、次の(i)~(iii)の手順に従って合成することができる。すなわち、本実施形態の蛍光分子プローブ101は、(i)ナノダイヤモンド粒子100の表面をたとえばヒドロキシル基によって修飾してODMR強度を高め、(ii)非特異的な吸着を阻害する分子鎖をヒドロキシル基等に結合させ、(iii)さらに標的タンパク質と特異的に結合する分子鎖で修飾することにより合成することができる。なお図16では、非特異的な吸着を阻害する分子鎖としてHPGを、標的タンパク質と特異的に結合する分子鎖としてAmpを採用した例を示している。

【0083】
(実験例)
ここで非特異的な吸着の阻害に成功した具体例を、実験例を用いて説明する。まず(i)ナノダイヤモンド粒子をヒドロキシル基によって修飾しODMR強度の増強を行なった。次いで(ii)このナノダイヤモンド粒子に次の[a]~[c]に示す分子鎖を結合させ(すなわち該分子鎖で表面修飾して)、表面修飾ナノダイヤモンド粒子を得た。

【0084】
[a]カルボキシル基
[b]ポリエチレングリコール(PEG:polyethylene glycol)
[c]HPG
以下のこの実験例での説明においては、上記符号[a]~[c]に従い、カルボキシル基で表面修飾されたナノダイヤモンド粒子を「ND[a]」と記し、PEGで表面修飾されたナノダイヤモンド粒子を「ND[b]」と記し、HPGで表面修飾されたナノダイヤモンド粒子を「ND[c]」と記す。

【0085】
(実験例1)
実験例1ではナノダイヤモンド粒子の細胞表面への非特異的な吸着を評価した。

【0086】
DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)培地中で培養されたA431(ヒト上皮様細胞癌由来細胞株)に対して、上記で得られたND[a]~[c]を1mg/mlの濃度になるように添加して、試験細胞株[a]~[c]を作製した。ここで、たとえば試験細胞株[a]とはND[a]を1mg/mlの濃度になるように添加した試験細胞株を示している。

【0087】
またこのとき、比較実験例としてND[c]を10mg/mlの濃度になるように添加したもの(試験細胞株[d])も合わせて作製した。

【0088】
上記の各試験細胞株を2時間培養した後、生理食塩水で洗浄した。そして、各試験細胞株に含まれる細胞に吸着したナノダイヤモンド粒子を明視野顕微鏡で観察して、細胞膜へのナノダイヤモンド粒子の非特異的な吸着の有無を確認した。その結果を図17に示す。

【0089】
図17は、明視野顕微鏡を用いて10倍の倍率で各試験細胞株を観察した観察視野画像、および40倍の倍率で各試験細胞株を観察した観察視野画像である。図17中、「a.ND-COOH」は試験細胞株[a]を示し、「b.ND-PEG」は試験細胞株[b]を示し、「c.ND-HPG」は試験細胞株[c]を示し、「d.ND-HPG」は試験細胞株[d]をそれぞれ示している。また「e.control」はコントロール細胞、すなわちナノダイヤモンド粒子が添加されていない細胞株を示している。

【0090】
図17に示すように、「a.ND-COOH」および「b.ND-PEG」では視野中に黒点が存在しており、細胞膜へのナノダイヤモンド粒子の非特異的な吸着が起こっていることが分かる。これに対して「c.ND-HPG」および「d.ND-HPG」では、このような非特異的な吸着は確認できず、「e.control」(コントロール細胞)と比較しても殆ど差異が確認できなかった。すなわち、HPGでナノダイヤモンド粒子を表面修飾することにより、ナノダイヤモンド粒子による細胞表面への非特異的な吸着を阻害できることが確認された。

【0091】
(実験例2)
実験例2ではタンパク質のナノダイヤモンド粒子への非特異的な吸着を評価した。

【0092】
まずリゾチーム水溶液に上記ND[a]~[c]を2mg/mlの濃度になるように添加し、試験水溶液[a]~[c]を作製した。ここで、たとえば試験水溶液[a]とはND[a]が2mg/mlの濃度になるように添加されたリゾチーム水溶液を示している。

【0093】
次いで、各水溶液においてナノダイヤモンド粒子の表面に吸着したタンパク質(リゾチーム)の量を波長280nmにおける吸光度を計測することにより算出した。その結果を図18に示す。

【0094】
図18は、実験例2において、水溶液中に存在するリゾチームの濃度と、ナノダイヤモンド粒子の表面に非特異的に吸着したリゾチームの濃度の関係を示すグラフである。図18中、横軸はナノダイヤモンド粒子を添加する前の初期リゾチーム濃度を示し、縦軸はナノダイヤモンド粒子の表面に吸着したリゾチーム濃度を示している。また、図18中、丸型の凡例はND[a]での結果を、三角型の凡例はND[b]での結果を、四角型の凡例はND[c]での結果をそれぞれ示している。なお各濃度に対して測定は複数回行なっており、結果の標準偏差をエラーバーとして表示している。また図18中の曲線は結果を分かりやすく表示するため補助的に付している。

【0095】
図18から明らかなように、ND[a]およびND[b]では初期リゾチーム濃度が増加するに従い、ナノダイヤモンド粒子の表面へのリゾチームの非特異的な吸着が多くなる傾向が確認された。これに対して、ND[c](HPGで表面修飾されたナノダイヤモンド粒子)では、初期リゾチーム濃度が増加してもナノダイヤモンド粒子の表面に吸着したリゾチーム量はゼロ(0)近傍で推移していた。すなわち、HPGでナノダイヤモンド粒子を表面修飾することにより、標的タンパク質以外のタンパク質(この例ではリゾチーム)のナノダイヤモンド粒子への非特異的な吸着が阻害できることが確認された。

【0096】
≪標的タンパク質≫
本実施形態において観測対象となる標的タンパク質としては、たとえば代謝型グルタミン酸受容体(以下「mGluR」とも記す)等を挙げることができる。これまでの構造生物学における知見から、mGluRは細胞内においてシグナルを伝達する際、2量体のコンフォメーションを変化させていると予想されている。しかしこれまでに、この構造変化を実際に観測した例は報告されていない。本実施形態の蛍光分子プローブおよび後述する本実施形態のタンパク質の構造解析方法によれば、上記の構造変化を初めて観測できる可能性が高い。

【0097】
[実施形態4]
以下、上記の蛍光分子プローブを用いた本実施形態のタンパク質の構造解析方法について説明する。

【0098】
<タンパク質の構造解析方法>
図21は本実施形態のタンパク質の構造解析方法の概略を示すフローチャートである。図21に示すように、本実施形態のタンパク質の構造解析方法は、本実施形態の蛍光分子プローブで標識した標的タンパク質に励起光および1~5GHzの高周波磁場を照射して、蛍光スペクトルが減少するピーク磁場周波数を検知することによって標的タンパク質の構造変化を検知するタンパク質の構造解析方法である。すなわち、本実施形態のタンパク質の構造解析方法は、蛍光分子プローブで標的タンパク質を標識する工程S101と、標識された標的タンパク質に励起光および1~5GHzの高周波磁場を照射して、蛍光発光量が減少するピーク磁場周波数を検知することによって標的タンパク質の構造変化を検知する工程S102と、を備える。

【0099】
そして、図9に示すように、上記ピーク磁場周波数は静的な外部磁場のもとで分裂しており、その分裂幅の大きさから、上記蛍光分子プローブに含まれるNVセンターの回転運動を検知することができ、標的タンパク質の構造変化を追跡することができる。

【0100】
≪蛍光分子プローブで標的タンパク質の標識する工程S101≫
蛍光分子プローブによって、標的タンパク質を標識するためには、まず標的タンパク質とタグとなるタンパク質(以下、「タグ-タンパク質」とも記す)を融合する。たとえば、上記に例示したmGluRを標的とする場合、バクテリア由来β-ラクタマーゼの変異体(以下「BLタグ」とも記す)をタグ-タンパク質として採用することができる。

【0101】
たとえば、mGluRおよびBLタグの塩基配列をコードしたDNAをリポフェクション法により、HeLa細胞内にトランスフェクションすることによって、HeLa細胞内に、mGluRおよびBLタグが融合したタンパク質を発現させることができる。

【0102】
このとき、蛍光分子プローブとしては、BLタグと特異的に反応するAmpを化学修飾したナノダイヤモンド粒子を用いることができる。そして、BLタグとナノダイヤモンド粒子とをAmpを介して結合させることによって、mGluRをナノダイヤモンド粒子で標識することができる。

【0103】
≪標的タンパク質の構造変化を検知する工程S102≫
上記のようにして、標識された標的タンパク質の構造解析は、ODMR計測によって、蛍光分子プローブに含まれるダイヤモンド結晶内のN-V軸の回転運動を検出することにより行なうことができる。

【0104】
(N-V軸)
ここで、N-V軸とは、ダイヤモンド結晶内のNVセンターにおいて、窒素原子(N)と隣接する空孔(V)とを結ぶ直線軸を示す。NVセンターは、該N-V軸上に磁気モーメントμNVを有している。

【0105】
(回転運動の検出)
図9に示すODMRスペクトルのように、ナノダイヤモンド粒子に含まれるNV(-)のODMRシグナルはゼーマン効果により静的な外部磁場の下で2つに分裂している。分裂した2つのODMRシグナルは約2.87GHzを中心として対称となる。これは、縮退していたMz=±1のエネルギー準位がゼーマン効果によりMz=+1とMz=-1の2つのエネルギー準位に分裂していることを示している。このとき、ODMRシグナルの分裂幅をΔωとすると、ΔωはN-V軸と静磁場とのなす角θに対応して変化する。

【0106】
したがって、たとえば図9に示すODMRスペクトルにおけるピークの分裂幅Δωから、N-V軸と静磁場とのなす角θを下記式(II)によって算出することができる。

【0107】
θ=cos-1(hΔω/μNV0)・・・(II)
式(II)は、N-V軸ベクトルと静磁場ベクトルとの内積を示し、式(II)中、θはN-V軸と静磁場とのなす角を示し、hは換算プランク定数を示し、ΔωはODMRスペクトルのピークの分裂幅を示し、μNVはNVセンターの磁気モーメントを示し、B0は静磁場強度を示す。

【0108】
なおここで、ピークの分裂幅Δωは、ODMRスペクトルにおける2つの蛍光発光量の減少ピークの各ピーク頂点の周波数を、ω1、ω21とω2は、ω1>ω2の関係を満たす)とすると、Δω=ω1-ω2により算出される。

【0109】
したがって、Δωの経時変化を追跡することで、N-V軸の回転運動を追跡可能である。これにより、たとえば、NV(-)を含むナノダイヤモンド粒子を用いた蛍光分子プローブでタンパク質の特定部位を標識した場合、該部位の回転運動を追跡可能であり、ひいては該タンパク質の構造変化が追跡可能となる。

【0110】
たとえば、上記したようにmGluRを本実施形態の蛍光分子プローブで標識すれば、mGluRの2量体のコンフォメーションをリアルタイムに計測できる。

【0111】
≪解析装置≫
上記に説明したタンパク質の構造解析は次のような解析装置によって行なうことができる。図13は本実施形態のタンパク質の構造解析方法に係わる解析装置の一例を示す概略概念図である。この解析装置を機能毎に大別すると、光検出部と、磁気共鳴部と、コンソール部とに分けることができる。

【0112】
光検出部は、一分子蛍光計測が可能な蛍光顕微鏡から構成される。たとえば、図13に示すように光学顕微鏡10および蛍光検出が可能な検出部60から構成することができる。ここで検出部60には、蛍光検出器としては超高感度であり定量性の高いアバランシュフォトダイオードまたは電子増倍型冷却CCDカメラを用いることが望ましい。

【0113】
磁気共鳴部(高周波磁場発生部20)は主に電磁石(図示せず)、発振器21、高周波コイル23および静磁場コイル24から構成される。電磁石は50ガウス以下のもので構わないが、磁場方位の制御が可能であることが望ましい。発振器21はナノ秒レベルで発振を制御できる高周波発振器である必要がある。また高周波コイル23は試料にESRを生起させるためのものであり、静磁場コイル24は静磁場を任意の方向に変更するためものである。

【0114】
コンソール部はワークステーション、変換回路31および変調部30から構成される。ワークステーションには、たとえば処理部40、入力装置50および出力装置51を備えるものを用いることができる。また変換回路31は具体的にはDAC(Digital to Analog Converter)であり、変調部30は具体的にはパルス/ディレイジェネレータである。

【0115】
この解析装置において、光検出部と磁気共鳴部とは、DACおよびパルス/ディレイジェネレータを用いてピコ秒~ナノ秒の精度で同期される必要がある。ワークステーションは光検出部と磁気共鳴部とのセッティング、ならびにDACおよびパルス/ディレイジェネレータの制御を行なう。またワークステーションは、光検出部で検出された蛍光信号をリアルタイムで取り込み再帰的な装置制御を行なうとともに、計測データの解析を行なうものである。

【0116】
計測データの解析方法は特に制限されないが、たとえばスピンハミルトニアンのエネルギー固有値からシミュレートされる高周波数領域スペクトルと実際に得られた計測結果との間でフィッティングによる方位解析を行なう方法、あるいはODMR強度の時間領域信号の周波数解析を行なう方法等を用いることができる。
【実施例】
【0117】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0118】
[実施例1]
以下に示す実施例1、実施例2および比較例1ではHPHT法によって得られたナノダイヤモンド粉末を用いてODMR強度の評価を行なった。
【実施例】
【0119】
<NVセンターを含むナノダイヤモンド粒子の製造>
≪ナノダイヤモンド粒子を準備する工程S1≫
まず、出発原料として、HPHT法によって得られたナノダイヤモンド粉末(製品名「Micron+MDA、0-0.10μm」、エレメントシックス社製)を準備した。
【実施例】
【0120】
(分級する工程S11)
このナノダイヤモンド粉末を水中に分散させ、15000rpmで20分間遠心してダイヤモンド粒子の分級を行なった。このようにして得られたナノダイヤモンド粒子の平均粒径を、レーザー回折・散乱式粒度分布計(製品名「Microtrac II」、日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって求めた。このとき平均粒径は27.3nmであり、粒度分布の標準偏差は7.3nmであった。
【実施例】
【0121】
(真空中で熱処理する工程S12)
次いで、分級処理によって得たナノダイヤモンド粒子を真空中800℃で熱処理してダイヤモンド結晶内にNVセンターを生成した。
【実施例】
【0122】
(空気中で熱処理する工程S13)
次いで、空気中550℃で熱処理して表面を酸化した。
【実施例】
【0123】
≪ヘテロ原子を含む官能基の修飾率を選択的に高める処理を行なう工程S2≫
(還元処理を行なう工程S21)
上記のようにして得たナノダイヤモンド粒子10mgと、ボラン-テトラヒドロフランコンプレックス(製品名、ALDRICH社製)300μlとを、ガラス製反応器に入れ、さらにテトラヒドロフラン5mlを加え、アルゴン雰囲気下で、70℃で還流して、24時間攪拌した。次いで、上澄み液を除去し、アセトン、超純水で洗浄した後、乾燥してODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子を得た。
【実施例】
【0124】
[実施例2]
実施例1のNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子の製造において、還元処理を実施せず、以下の酸化処理を実施した以外は、実施例1と同様にして、ODMR強度が高められたNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子を得た。
【実施例】
【0125】
≪酸化処理を行なう工程S22≫
空気熱処理を経たナノダイヤモンド粉末11mgと、濃硫酸と濃硝酸を体積比9:1で混合した溶液5mlとを、ガラス製反応器に入れ75℃で72時間攪拌した。次いで、上澄み液を除去し超純水で洗浄した後、乾燥してナノダイヤモンド粒子を得た。
【実施例】
【0126】
[比較例1]
実施例1のNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子の製造において、還元処理を実施しなかった以外は、実施例1と同様にしてNVセンターを含むナノダイヤモンド粒子を得た。
【実施例】
【0127】
<NVセンターを含むナノダイヤモンド粒子の評価>
≪修飾官能基の定性≫
上記のようにして得られた実施例1、実施例2および比較例1のナノダイヤモンド粒子の表面に存在する官能基の定性(IRスペクトルの測定)を以下のようにして行なった。ここで、実施例1または実施例2については、還元処理後または酸化処理後のナノダイヤモンド粒子を試料とした。一方、比較例1のナノダイヤモンド粒子については、真空熱処理後、空気熱処理前のナノダイヤモンド粒子を試料とした。これは、空気熱処理後にIR測定を行なうと、グラファイトの酸化によって生じた夾雑物質により測定の精度が低下するためである。
【実施例】
【0128】
まず、臭化カリウムの粉末に、極少量のナノダイヤモンド粒子からなる粉末を加え、混合して均一な粉末とした後、該混合粉末を成形型に入れ、プレスしてディスク状の測定試料とした。次いで、フーリエ変換型赤外分光測定装置(型番「FT/IR-4200」、日本分光社製)を用いて、各測定試料のIRスペクトルを測定した。その結果を図10に示す。
【実施例】
【0129】
図10中、「N.D-CHOH」は実施例1のナノダイヤモンド粒子のIRスペクトルを示し、「N.D-COOH」は実施例2のナノダイヤモンド粒子のIRスペクトルを示し、「N.D」は比較例1のナノダイヤモンド粒子のIRスペクトルを示す。
【実施例】
【0130】
図10に示すとおり、比較例1のナノダイヤモンド粒子では、アルキル基、ケトン基、エーテル基、ヒドロキシル基、ビニル基、ラクトン基等の多様な官能基に由来するピークが観測された。これに対して、実施例1(還元処理)のナノダイヤモンド粒子は、ヒドロキシアルキル基由来のピーク(1258cm-1、2956-2927cm-1)が観測でき、その他の官能基に由来するピークは比較例1(未処理)に比べ相対的に減少していた。また、実施例2(酸化処理)のナノダイヤモンド粒子は、カルボキシル基に由来するピーク(1778cm-1)が明りょうに観測でき、その他の官能基に由来するピークは比較例1(未処理)に比べ相対的に減少していた。すなわち、実施例1のナノダイヤモンド粒子は表面がヒドロキシル基および/またはヒドロキシアルキル基で修飾されており、実施例2のナノダイヤモンド粒子は表面がカルボキシル基で修飾されていることが確認できた。
【実施例】
【0131】
≪ODMR強度およびNV(-)存在率の評価≫
次に、実施例1、実施例2および比較例1のODMR強度を以下のようにして評価した。
【実施例】
【0132】
まず、図11を用いてODMR強度の評価に用いる蛍光顕微鏡装置を説明する。該蛍光顕微鏡装置は、光学顕微鏡10と、高周波磁場発生部20と、変調部30と、処理部40と、入力装置50と、出力装置51と、を備えている。さらに、光学顕微鏡10は、光源11と、励起フィルタ12と、ダイクロイックミラー13と、バンドフィルタ14と、対物レンズ15と、を備えている。またさらに、高周波磁場発生部20は、発振器21と、増幅部22と、高周波コイル23と、を備えている。なお、この装置に変換回路31と静磁場を任意の方向に変更するための静磁場コイル24を設けると、先に説明したタンパク質の構造解析に用いる解析装置(図13参照)と同様のものとなる。
【実施例】
【0133】
光源11から出た光は励起フィルタ12を通過し励起光となる。励起光はダイクロイックミラー13によって反射され対物レンズ15を通して試料台70に照射される。励起光によって励起された試料71から発生した蛍光は、ダイクロイックミラー13によって反射されず、直進して検出部60へと向かい蛍光発光量が計測される。また、試料71には高周波磁場発生部20より高周波磁場が照射される。高周波磁場を照射することにより試料71にESRが発生し、その際の蛍光発光量の変化を検出部60で計測することで、処理部40にて上記式(I)によりODMR強度を算出できるようになっている。
【実施例】
【0134】
まず、上記した蛍光顕微鏡装置の試料台に、実施例1のナノダイヤモンド粒子からなる粉末試料を水に懸濁しスライドガラスに塗布した。該試料に励起光を照射して出力装置51の画面上にナノダイヤモンド粒子の蛍光発光による輝点を確認した。次いで、高周波磁場を照射し蛍光発光量を減少させODMR強度を計測した。同様の計測を粒子100個について行なった。
【実施例】
【0135】
上記と同様にして、実施例2および比較例1のナノダイヤモンド粒子についても、粒子100個のODMR強度を測定した。その結果を表1ならびに図14および図15に示す。
【実施例】
【0136】
【表1】
JP0006117812B2_000002t.gif
【実施例】
【0137】
表1の測定結果の欄に示す各数値は、粒子100個中ODMR強度が一定値以上(0.01以上、0.02以上、0.05以上)である粒子の累積度数(%)と、粒子100個についてのODMR強度の相加平均値とを示している。
【実施例】
【0138】
また図14は、粒子100個についてのODMR強度の測定結果を示すグラフであり、ODMR強度が高いものから粒子を降順に並べて結果を表示したものである。図14中、実線は実施例1の結果を示し、一点鎖線は実施例2の結果を示し、点線は比較例1の結果を示している。
【実施例】
【0139】
また図15は、ODMR強度と粒子の存在確率との関係を示すグラフであり、横軸に示すODMR強度の数値以上のODMR強度を有する粒子の存在確率を縦軸に表示している。図15中、丸型の凡例および実線は実施例1の結果を示し、三角型の凡例および一点鎖線は実施例2の結果を示し、四角型の凡例および点線は比較例1の結果を示している。なお図15の横軸の数値は100倍にして表示している。
【実施例】
【0140】
表1ならびに図14および図15から明らかなように、未処理である比較例1のナノダイヤモンド粒子に比較して、実施例1および実施例2のナノダイヤモンド粒子では高いODMR強度を有する粒子が数多く含まれていた。特に実施例1のナノダイヤモンド粒子は、比較例のナノダイヤモンド粒子では全く存在しなかったODMR強度が0.05以上という極めて高いODMR強度を有する粒子を含むものであった。
【実施例】
【0141】
以上の結果より、実施例のナノダイヤモンド粒子はNVセンターを含み、ヘテロ原子を含む官能基で表面が修飾されていることを以って、NV(-)の存在率が増加しODMR強度が高められていることが確認できた。
【実施例】
【0142】
[実施例3]
以下に示す実施例3および比較例2では、爆轟法によって得られたナノダイヤモンド粉末を用いてODMR強度の評価を行なった。
【実施例】
【0143】
まず、爆轟法によって得られたナノダイヤモンド粉末(「NanoAmando(登録商標) Aqueous colloid (Dispersed 5nm-Bucky Diamond)」、NanoCarbon Research Institute, Ltd.製)を準備した。このナノダイヤモンド粉末に含まれる粒子は単一粒子であり、その粒子径の範囲は4nm~5nm程度である。
【実施例】
【0144】
次に、ナノダイヤモンド粉末を分級する工程S11を行なわないことを除いては実施例1と同様にして実施例3に係るナノダイヤモンド粒子を得た。
【実施例】
【0145】
[比較例2]
上記の爆轟法によって得られたナノダイヤモンド粉末を真空中800℃で熱処理し、続いて空気中550℃で熱処理することにより比較例2に係るナノダイヤモンド粒子を得た。すなわち、比較例2に係るナノダイヤモンド粒子は還元処理を行なわない以外は実施例3と同様にして得られたものである。
【実施例】
【0146】
≪ODMR強度の評価≫
以上のようにして得られた実施例3および比較例2に係るナノダイヤモンド粒子のODMR強度を前述した蛍光顕微鏡(図11参照)を用いて評価した。結果を図19および図20ならびに表2に示す。
【実施例】
【0147】
【表2】
JP0006117812B2_000003t.gif
【実施例】
【0148】
表2中の蛍光発光量およびODMR強度の欄に示す数値は、図19(実施例3)および図20(比較例2)に示す視野画像中における蛍光発光量およびODMR強度である。図19(A)に示す画像は実施例3に係るナノダイヤモンド粒子の蛍光像を示している。図19(A)に示すように、この視野画像にはナノダイヤモンド粒子の蛍光発光による輝点が3点確認できる。また図19(B)は同視野におけるODMR像を示している。図19(B)には、図19(A)の輝点に対応して3点の輝点が明りょうに確認できる。したがって実施例3に係るナノダイヤモンド粒子はODMR活性である。
【実施例】
【0149】
他方、図20(A)は比較例2に係るナノダイヤモンド粒子の蛍光像であり、図20(B)は同ナノダイヤモンド粒子のODMR像である。図20(A)にはナノダイヤモンド粒子の蛍光発光による輝点が確認できるが、図20(B)には輝点が確認できない。したがって比較例2に係るナノダイヤモンド粒子はODMR不活性である。
【実施例】
【0150】
以上の結果から、爆轟法によって得られたダイヤモンド粒子であっても、ヘテロ原子を含む官能基で表面を修飾することによって、NV(-)の存在率が増加しODMR強度が高められていることが確認できた。
【実施例】
【0151】
以上のように本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【実施例】
【0152】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0153】
1 炭素原子、2 窒素原子、3 空孔、4 窒素原子の非共有電子、5 余分な電子、6 炭素原子の不対電子、10 光学顕微鏡、11 光源、12 励起フィルタ、13 ダイクロイックミラー、14 バンドフィルタ、15 対物レンズ、20 高周波磁場発生部、21 発振器、22 増幅部、23 高周波コイル、24 静磁場コイル、30 変調部、31 変換回路、40 処理部、50 入力装置、51 出力装置、60 検出部、70 試料台、71 試料、100 ナノダイヤモンド粒子、101 蛍光分子プローブ。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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