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明細書 :光位相測定方法、光位相測定装置および光通信装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6202499号 (P6202499)
登録日 平成29年9月8日(2017.9.8)
発行日 平成29年9月27日(2017.9.27)
発明の名称または考案の名称 光位相測定方法、光位相測定装置および光通信装置
国際特許分類 G01B   9/02        (2006.01)
G01J   9/02        (2006.01)
G03H   1/10        (2006.01)
H04B  10/2507      (2013.01)
H04B  10/2581      (2013.01)
FI G01B 9/02
G01J 9/02
G03H 1/10
H04B 10/2507
H04B 10/2581
請求項の数または発明の数 6
全頁数 52
出願番号 特願2014-538203 (P2014-538203)
出願日 平成25年9月27日(2013.9.27)
国際出願番号 PCT/JP2013/005774
国際公開番号 WO2014/050141
国際公開日 平成26年4月3日(2014.4.3)
優先権出願番号 2012215000
優先日 平成24年9月27日(2012.9.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年8月9日(2016.8.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】岡本 淳
【氏名】野澤 仁
【氏名】若山 雄太
個別代理人の代理人 【識別番号】100105050、【弁理士】、【氏名又は名称】鷲田 公一
審査官 【審査官】櫻井 仁
参考文献・文献 特開2000-329514(JP,A)
特開平11-194011(JP,A)
特開2008-185582(JP,A)
特開平6-14324(JP,A)
米国特許第7643157(US,B2)
米国特許第7609388(US,B2)
調査した分野 G01B 9/02
G01B 11/24
G01J 3/00- 4/04
7/00- 9/02
G01N 21/00-21/01
21/17-21/61
H04J 14/00-14/08
H04B 10/00-10/90
H04B 10/2581
特許請求の範囲 【請求項1】
物体光に含まれる位相情報を測定する光位相測定方法であって、
第1光強度検出部および第2光強度検出部において、試験物体光の強度分布を検出する工程と、
物体光と干渉しうる参照光の位相を変化させて、互いに位相が異なる第1参照光および第2参照光を生成する工程と、
前記第1光強度検出部において、前記第1参照光の強度分布を検出するとともに、前記第2光強度検出部において、前記第2参照光の強度分布を検出する工程と、
前記物体光および前記第1参照光から第1ホログラムを生成するとともに、前記物体光および前記第2参照光から第2ホログラムを生成する工程と、
前記第1光強度検出部において、前記第1ホログラムの強度分布を検出するとともに、前記第2光強度検出部において、前記第2ホログラムの強度分布を検出する工程と、
前記第1ホログラムの強度分布から前記第1光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布または前記第1参照光の強度分布を除去することなく、かつ前記第2ホログラムの強度分布から前記第2光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布または前記第2参照光の強度分布を除去することなく、前記第1光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記第1参照光の強度分布および前記第1ホログラムの強度分布、ならびに前記第2光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記第2参照光の強度分布および前記第2ホログラムの強度分布を直接用いて、前記物体光に含まれる位相情報を算出する工程と、
を有する、光位相測定方法。
【請求項2】
前記参照光は、前記物体光の一部から空間フィルタリングにより低空間周波数成分を抽出することで生成される、請求項1に記載の光位相測定方法。
【請求項3】
物体光に含まれる位相情報を測定する光位相測定装置であって、
物体光と干渉しうる参照光の位相を変化させて、互いに位相が異なる第1参照光および第2参照光を生成する参照光生成部と、
前記物体光および前記第1参照光から第1ホログラムを生成する第1ホログラム生成部と、
前記物体光および前記第2参照光から第2ホログラムを生成する第2ホログラム生成部と、
試験物体光の強度分布、前記第1参照光の強度分布および前記第1ホログラムの強度分布を検出する第1光強度検出部と、
前記試験物体光の強度分布、前記第2参照光の強度分布および前記第2ホログラムの強度分布を検出する第2光強度検出部と、
前記第1ホログラムの強度分布から前記第1光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布または前記第1参照光の強度分布を除去することなく、かつ前記第2ホログラムの強度分布から前記第2光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布または前記第2参照光の強度分布を除去することなく、前記第1光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記第1参照光の強度分布および前記第1ホログラムの強度分布、ならびに前記第2光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記第2参照光の強度分布および前記第2ホログラムの強度分布を直接用いて、前記物体光に含まれる位相情報を算出する処理部と、
を有する、光位相測定装置。
【請求項4】
前記物体光の一部から空間フィルタリングにより低空間周波数成分を抽出することで前記参照光を生成する第2参照光生成部をさらに有する、請求項3に記載の光位相測定装置。
【請求項5】
前記第2参照光生成部は、
前記物体光を2つに分割する第1ビームスプリッタと、
前記第1ビームスプリッタにより分割された一方の物体光の偏光状態を45°の直線偏光に変換する1/2波長板と、
前記第1ビームスプリッタにより分割された他方の物体光の偏光状態を円偏光に変換する1/4波長板と、
45°の直線偏光の前記物体光および円偏光の前記物体光のうちの一方の前記物体光から低空間周波数成分を抽出して前記参照光を生成する空間フィルタと、
を有する、請求項4に記載の光位相測定装置。
【請求項6】
相手方の通信装置から光ファイバを介して送信されたパイロット光を受信し、前記パイロット光に含まれる空間モード伝播情報を測定する、請求項3~5のいずれか一項に記載の光位相測定装置と、
前記光位相測定装置で測定された空間モード伝播情報に基づき、前記光ファイバにおけるモードの変換および回転を解消できる光複素振幅を算出する位相共役計算部と、
前記光複素振幅を含む光に時系列信号を加えた光を前記光ファイバを介して前記相手方の通信装置に送信する送信部と、
を有する光通信装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光位相測定方法、光位相測定装置および光通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルホログラフィは、光検出器で直接検知することのできない位相情報を高精度に測定できることから、物体の形状や生体標本などの3次元測定の分野において非常に重要な役割を担っている。デジタルホログラフィでは、被検査物からの物体光と、物体光と干渉しうる参照光とによるホログラム(干渉縞)を、撮像素子を用いてデジタル画像として取得し、その干渉縞の分布から物体光の強度分布および位相分布(複素振幅分布)を算出する。図1に示されるように、ホログラムを形成する際に物体光の伝搬角と参照光の伝搬角とが異なるデジタルホログラフィは、「オフアクシス・デジタルホログラフィ」と称される。一方、物体光の伝搬角と参照光の伝搬角とが同じデジタルホログラフィは、「オンアクシス・デジタルホログラフィ」と称される。
【0003】
以下、デジタルホログラフィにおいて複素振幅分布を測定するための代表的な手法である、空間フィルタリングおよび位相シフト干渉法についてその原理と問題点を説明する。
【0004】
(空間フィルタリング)
オフアクシス・デジタルホログラフィでは、1つのホログラムから物体光の複素振幅を算出することができる(非特許文献1)。図1に示されるように、一様な強度分布および一様な位相分布を有する平面波である参照光が、物体光に対して角度θだけずれた状態で物体光と干渉した場合、物体光O(式(1))および参照光R(式(2))のホログラムHは、式(3)のように表される。
【数1】
JP0006202499B2_000002t.gif
ここで、AおよびAは、それぞれ物体光Oおよび参照光Rの振幅であり、φおよびψは、それぞれ物体光Oおよび参照光Rの位相である。式(3)において、右辺第1項および第2項は0次光(直流成分)を意味し、第3項は+1次光(共役像)を意味し、第4項は-1次光(実像)を意味している。
【0005】
これらの中から物体光成分である-1次光を取り出すためには、図2に示されるように、式(3)にデジタル参照光と呼ばれる計算機内部で想定する仮想的な参照光R(式(4))をかけてフーリエ変換し、実像の中心周波数を中心とするナイキスト開口Wに従って空間フィルタリングを行い、フーリエ逆変換を行えばよい(式(5))。
【数2】
JP0006202499B2_000003t.gif
ここで、FTおよびIFTは、それぞれフーリエ変換およびフーリエ逆変換である。
【0006】
このとき、周波数空間において-1次光を効果的に取り出すためには、角度θを十分に大きくする必要がある。しかしながら、角度θを大きくすると、物体光成分の解像度が著しく低下してしまうという問題がある。また、角度θがナイキスト周波数によって定義される最大入射角θmax(式(6))を超えると、実像を正しく再生できないという制限がある。
【数3】
JP0006202499B2_000004t.gif
ここで、λは物体光および参照光の波長であり、Δxは撮像素子のピクセル幅である。
【0007】
式(6)は、θがθmaxを超える場合(θ>θmax)に、干渉縞の間隔Λ(式(7))が、撮像素子のピクセル幅Δxに比べて狭くなり過ぎてしまうことを意味している。これは、撮像したホログラムに対して標本化定理を満足できなくなることを示唆している。たとえば、波長λが0.532μmで、ピクセル幅Δxが3.75μmの場合、最大入射角θmaxは4.07°となる。
【数4】
JP0006202499B2_000005t.gif

【0008】
前述のとおり、物体光と参照光のなす角θをできるだけ大きく設定した方が-1次光を効果的に抽出できる。そこで、上記の例においてθを最大入射角θmaxに近い4.00°としてデジタルホログラフィの記録再生シミュレーションを行うと、図3に示されるように、0次光と-1次光とが分離しきれていないため、再生画像に縞模様が表れてしまう。0次光と-1次光とを分離するためには、フレネル回折積分などにより再生画像の回折伝搬を計算して、0次光と-1次光とが空間的に重なりを持たなくなる距離の複素振幅を数値解析的に算出する必要がある。しかしながら、このようにするためには、0次光と-1次光とを空間的に分離できるように物体と撮像素子との距離を調整する必要がある。このようにすると、光学系が大きくなり、高周波成分が撮像素子に入射しなくなってしまうため、分解能を高くすることが難しい。
【0009】
そこで、角度θを小さくしても-1次光を効率的に抽出する方法が提案されている(非特許文献2)。非特許文献2の方法では、位相が互いに異なる2つの参照光を用いて2つのホログラムを生成し、それらの差をとり0次光成分を消去することで、効果的に実像を算出する。この手法における2つのホログラムH,Hは、互いの位相差をψとすると、それぞれ式(8)および式(9)のように表される。
【数5】
JP0006202499B2_000006t.gif
ここで、2つのホログラムH,Hを形成する物体光O,Oは、それぞれ式(10)および式(11)のように表される。また、2つのホログラムH,Hを形成する参照光R,Rは、それぞれ式(12)および式(13)のように表される。
【数6】
JP0006202499B2_000007t.gif

【0010】
非特許文献2の方法では、Ao1,Ao2,Ar1,Ar2,φおよびφについて式(14)~式(16)のように仮定し、さらに物体光および参照光をそれぞれ式(17)および式(18)のように仮定することで、式(8)および式(9)を式(19)および式(20)のように書き直す。
【数7】
JP0006202499B2_000008t.gif

【0011】
式(19)および式(20)の差をとると、式(21)のようになり、0次光が消去され、±1次光だけが残る。この関係を利用すると、物体光成分は、式(5)と同様に式(22)のように算出することができる。
【数8】
JP0006202499B2_000009t.gif

【0012】
非特許文献2の方法を適用することで、図4および図5に示されるように、従来のオフアクシス・デジタルホログラフィ(図2参照)では消去しきれなかった0次光成分をきれいに取り除くことができる。ただし、非特許文献2の方法では、空間フィルタリングをしてから画像再生を行うため、どうしても像がぼやけてしまう(図5参照)。また、複素振幅を算出するまでにフーリエ変換を2度も行う必要があることから、計算コストが高く、数値計算による離散化誤差および計算誤差が積み重なってしまう。結果として、高い精度で複素振幅の測定を行うことは困難となる。さらに、フーリエ変換を行う際には、計算精度を高めるために解析エリアを少なくとも4倍に拡張し、拡張した部分をゼロで埋める処理(ゼロ・パディング)を行う必要がある。撮像素子のピクセル数をNとすると、計算量はフーリエ変換の部分だけを考えても4Nlog(2N)となる。したがって、計算機には十分なメモリ領域および演算速度が求められる。このように、オフアクシス・デジタルホログラフィは、高い精度で位相情報を測定することが困難である。
【0013】
(位相シフト干渉法)
一方、オンアクシス・デジタルホログラフィは、撮像素子の解像度を最大限に引き出すことができる。このため、近年、オンアクシス・デジタルホログラフィは、高精細かつ高精度に物体光の複素振幅を検出できる潜在能力を有する手法として、最も広く研究および開発されている。オンアクシス・デジタルホログラフィでは、0次光および±1次光の3つの光波がそれぞれ同一の角度に伝搬するため、空間フィルタによりこれらを効果的に分離することができない。そのため、オンアクシス・デジタルホログラフィでは、位相シフト干渉法と呼ばれる位相測定方法が用いられる。
【0014】
位相シフト干渉法を利用するデジタルホログラフィは、位相シフトデジタルホログラフィと呼ばれる。位相シフトデジタルホログラフィは、参照光の位相が互いに異なる複数のホログラムを撮像素子で撮像し、これらの複数のホログラムから物体光の複素振幅情報を算出する。位相シフトデジタルホログラフィの種類は、参照光の位相を変化させる方法や必要なホログラムの数などによって分類される。たとえば、位相シフトデジタルホログラフィは、参照光の位相を変化させる方法により、時間的に位相を変化させる逐次方式(逐次位相シフトデジタルホログラフィ)と、空間的に位相を変化させる並列方式(並列位相シフトデジタルホログラフィ)とに大別される。また、位相シフトデジタルホログラフィは、必要なホログラムの数により、4つのホログラムを使用する4ステップ法や、3つのホログラムを使用する3ステップ法、2つのホログラムを使用する2ステップ法などに大別される。なお、位相シフトデジタルホログラフィでは、少なくとも2つのホログラムが必要である。
【0015】
逐次位相シフト干渉法は、ピエゾ素子などを用いて参照光の位相を順次変化させることで、複数のホログラムを順次取得する方式である。図6は、逐次位相シフト干渉法で用いられる逐次位相シフト干渉計の構成を示す図である。図7は、逐次位相シフト干渉法(4ステップ法)の手順を示す図であり、図8は、逐次位相シフト干渉法(2ステップ法)の手順を示す図である。図7,8において、O~O,Oは物体光を示しており、R~Rは参照光を示しており、H~Hはホログラムを示している。図7,8に示されるように、逐次方式では、異なる時刻に撮像されたホログラムから物体光の位相を算出するため、時間の経過と共に変化する物体(例えば、微生物)からの物体光の位相情報を測定する場合に、大きな測定誤差が生じてしまうおそれがある。
【0016】
一方、並列位相シフト干渉法は、参照光を空間的に分割し、位相シフトアレイ素子などを用いて分割された参照光ごとに位相を変えることで、複数のホログラムを同時に取得する方式である。図9は、並列方式の位相シフト干渉法で用いられる並列位相シフト干渉計の構成を示す図である。図10は、並列位相シフト干渉計における位相シフトアレイ素子の動作を示す図である。図11は、並列位相シフト干渉法におけるホログラムの分割およびピクセルの補間を示す図である。図12は、並列位相シフト干渉法(2ステップ法)の手順を示す図である。図12において、O,Oは物体光を示しており、R~Rは参照光を示しており、H,H~Hはホログラムを示している。並列位相シフト干渉法は、短時間で位相情報を測定することができるが、補間処理による測定誤差が必ず生じてしまうという問題を有する(図11参照)。
【0017】
前述のとおり、位相シフト干渉法では、少なくとも2つのホログラムが必要である。2つのホログラムから物体光を再生する手法は、1966年にGaborらによって初めて提案された(非特許文献3)。しかしながら、Gaborらによって提案された手法には、光学系が複雑であるという問題がある。このため、今日では簡易な光学系で実現可能な、3つ(非特許文献4)または4つ(非特許文献5)のホログラムから物体光を再生する手法が広く用いられている。特に、図7に示される、4つのホログラムを用いる逐次方式の位相シフト干渉法は、計算式が簡潔であることから最もよく使用されている。ただし、4ステップ法は、簡易な光学系で実現できるものの、必要なホログラムの数が多く高速性に欠けるため、物体光の経時的変化に対応できないという問題を有する。4つのホログラムを用いる並列方式の位相シフト干渉法も、必要なホログラムの数が多いため、補間誤差が大きくなるという問題を有する。また、4ステップ法では、振幅について比例関係しか評価することができず、比例定数を算出することができないため、振幅の値を決定することができない。
【0018】
そこで、図8に示されるように、簡易な光学系はそのままで、2つのホログラムから物体光を再生できる逐次位相シフト干渉法(2ステップ法)が提案された(非特許文献6)。この方法では、θ=0、ψ=0、ψ=π/2とした式(19)および式(20)から、以下のように物体光Oの複素振幅を導出する(式(23)~式(26))。
【数9】
JP0006202499B2_000010t.gif

【0019】
なお、参照光の位相は任意の値でよいが、ここでは広く適用されているψ=0、ψ=π/2を想定している。図8に示されるように、この方法では、参照光の強度分布|Rを測定前に予め撮像しておく必要がある。しかしながら、参照光の強度分布|Rを一度撮像して記録しておけば、その分布が変わらない限り、連続的に位相測定を行うことができる。また、4ステップ法では、一様な強度分布を有する参照光を用意する必要があるが、非特許文献6に係る2ステップ法では、物体光に比べて2倍以上の強度を有していれば、参照光の強度分布が一様である必要はない。さらに、非特許文献6に係る2ステップ法は、振幅の値も算出することができるため、非常に有用性の高い手法であるといえる。
【0020】
非特許文献6に係る2ステップ法は、簡易な光学系でありながら、必要なホログラムの数を4つから最少の2つに減らすことができる画期的な手法である。非特許文献6に係る2ステップ法では、計算量がNであるため、前述のフーリエ変換を必要とする方法と比較すると、大幅に計算コストを低減できる。しかしながら、位相が互いに異なるホログラムを少なくとも2つ撮像する必要があるため、逐次方式では撮像素子のフレームレートが2分の1以下に低下してしまう。このため、非特許文献6に係る2ステップ法には、経時的に変化する物体の位相情報を測定する場合に大きな測定誤差が生じてしまうという問題がある。
【0021】
また、非特許文献6に係る2ステップ法を並列方式に適用した場合は、図10に示されるように、参照光の位相を特殊な位相シフトアレイ素子を用いて少なくとも2ピクセルの周期で変調する必要がある。このため、図11に示されるように、撮像素子の解像度が半減し、それを補間するために補間誤差が必ず生じてしまうという問題がある(非特許文献7)。ここで「補間誤差」とは、単純な解像度の低下を意味するものでなく、補間された情報に基づいて位相測定を行うことによる測定誤差の増大を意味している。撮像素子の解像度を高めても、補間誤差の発生を防止することはできない。また、位相シフトアレイ素子は、不要な回折現象を引き起こし、雑音の原因となる。さらに、非特許文献6に係る2ステップ法は、並列位相シフト干渉法のようにホログラムを空間的に分割して取得することを想定していないため、図12に示されるように、2つある参照光R、Rのうちどちらか一方の強度分布(|Rまたは|R)しか考慮できない。一般的には、これらの強度分布には差異があるため、測定誤差が生じてしまう。
【0022】
このような逐次方式および並列方式の問題点を同時に解決することができる手法として、図13および図14に示されるダイバーシティ方式(ダイバーシティ位相シフト干渉法)が提案されている(特許文献1)。ダイバーシティ位相シフト干渉法では、物体光および参照光を空間的に分割するのではなく、ビームスプリッタにより物体光および参照光の複製を生成して複数のホログラムを同時に撮像する。このため、解像度の低下や補間誤差を生じさせることなく、高速かつ高精度に物体光の複素振幅分布を測定することができる。図13に示される干渉計は、4ステップ法を適用する場合に用いる4チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計である(特許文献1の図8)。図13において、「BS」はビームスプリッタ、「PBS」は偏光ビームスプリッタ、「HWP」は1/2波長板、「QWP」は1/4波長板である。この干渉計では、ミラーなどを用いて光学配置を工夫することで、必要な撮像素子の数を減らすことができるが、4つの撮像領域を確保する必要があるため、どうしても光学系が複雑化し、大型化してしまう。そこで、図15および図16に示されるように、2ステップ法を適用することで同時に撮像するホログラム数を減らした、2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計も提案されている(特許文献1の図15)。
【0023】
ホログラフィックダイバーシティ干渉法(2ステップ法)により、光学系を大幅に簡略化して、装置を小型化することができる。しかし、ホログラフィックダイバーシティ干渉法(2ステップ法)は、並列位相シフト干渉法と同様に、2つある参照光のうち、どちらか一方の強度分布しか考慮することができない。このため、2つの参照光の強度分布に差があると、測定誤差が生じてしまう。実際のシステムでは、撮像素子の受光感度の違いや光学素子の表面形状の粗さなどにより物体光および参照光の強度分布に差が生じ、測定精度が低下してしまうおそれがある。
【0024】
ここまで述べてきた逐次方式、並列方式そしてダイバーシティ方式のいずれの方式においても、位相シフト干渉法ではホログラム間における物体光および参照光の強度分布の差異が測定精度を大きく左右する。これら各方式の性質を表1にまとめる。また、各方式において生じるおそれのある測定誤差を図17に示す。なお、図17に示される測定誤差は、式(23)~式(26)を用いて解析的に算出した。図17A,Bにおける「物体光の強度比(Intensity ratio of object beams)」は、(ホログラムHの物体光強度)/(ホログラムHの物体光強度)で定義される。図17E,Fにおける「参照光の強度比(Intensity ratio of reference beams)」は、(ホログラムHの参照光強度)/(ホログラムHの参照光強度)で定義される。図17C,Dにおける「φ」および「φ」は、それぞれホログラムH,Hにおける物体光の位相である。
【0025】
【表1】
JP0006202499B2_000011t.gif

【0026】
表1に示されるように、逐次方式では、時間分解能が低いため、動的な物体の位相情報を測定する場合にホログラム間において物体光の強度分布および位相分布が大きく変化するおそれがある。ただし、参照光は空間分割なしに撮像されるため、付与する位相差以外は時間的にも空間的にも無視できるほどに小さな強度差および位相差しか生じないと考えることができる。したがって、この場合、図17A~Dに示す測定誤差が生じる可能性がある。
【0027】
並列方式では、1回の撮像で複数のホログラムを取得できるため、時間分解能が高い。しかしながら、並列方式では、ホログラムを空間的に分割して取得するため、物体光の強度分布および位相分布ならびに参照光の強度分布を補間しなければならず、補間誤差が必ず生じてしまう。このため、並列方式では、補間の精度や被検査物の形状によっては大きな測定誤差が生じるおそれがある。この場合、図17A~Fに示す測定誤差が生じる可能性がある。
【0028】
ダイバーシティ方式では、時間的および空間的に高い分解能を実現することができる。しかしながら、ダイバーシティ方式では、撮像素子の感度の違いなどにより生じる物体光および参照光の強度分布の違いにより測定誤差が生じるおそれがある。この場合、図17A,B,E,Fに示す測定誤差が生じるおそれがある。
【0029】
このように、位相シフトデジタルホログラフィは、高精細かつ高精度な複素振幅測定を行える潜在能力を有しているにもかかわらず、ホログラム間における物体光および参照光の強度分布のばらつきにより測定誤差が生じることが問題となっている。したがって、これらの問題点を解決できる位相測定方法が求められている。
【先行技術文献】
【0030】

【特許文献1】国際公開第2012/053198号
【0031】

【非特許文献1】E. Cuche, P. Marquet, and C. Depeursinge, “Spatial filtering for zero-order and twin-image elimination in digital off-axis holography”, Applied Optics, Vol. 39, No. 23, pp. 4070-4075.
【非特許文献2】N.T. Shaked, Y. Zhu, M.T. Rinehart, and A. Wax, “Two-step-only phase-shifting interferometry with optimized detector bandwidth for microscopy of live cells”, Optics Express, Vol. 17, No. 18, pp. 15585-15591.
【非特許文献3】D. Gabor, and W.P. Goss, “Interference microscope with total wavefront reconstruction”, Journal of the Optical Society of America, Vol. 56, No. 7, pp. 849-858.
【非特許文献4】I. Yamaguchi, J. Kato, S. Ohta, and J. Mizuno, “Image formation in phase-shifting digital holography and applications to microscopy”, Applied Optics, Vol. 40, No. 34, pp. 6177-6186.
【非特許文献5】P. Hariharan, "Optical Holography", Cambridge U. Press, pp.291-310.
【非特許文献6】X.F. Meng, L.Z. Cai, X.F. Xu, X.I. Yang, X.X. Shen, G.Y. Dong, and Y.R. Wang, “Two-step phase-shifting interferometry and its application in image encryption”, Optics Letters, Vol. 31, No. 10, pp. 1414-1416.
【非特許文献7】Y. Awatsuji, T. Tahara, A. Kaneko, T. Koyama, K. Nishio, S. Uta, T. Kubota, and O. Matoba, “Parallel two-step phase-shifting digital holography”, Applied Optics, Vol. 47, No. 19, pp. D183-D189.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
上記のように、位相シフトデジタルホログラフィは、2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計を用いることで、位相測定に必要な2つのホログラムを同時に取得することができ、かつ高精細な位相測定を実現することができる潜在能力を有している。しかしながら、実際のシステムにおいては、2つのホログラムを生成する各光波の伝搬経路が異なり、撮像素子におけるピクセル間の感度の違いやビームスプリッタなどの干渉計の構成素子の表面形状の粗さなどにより、どうしても2つのホログラム間に強度分布の差が生じてしまい、測定誤差を招いてしまう。
【0033】
また、従来の位相シフトデジタルホログラフィでは、ホログラムを空間的に分割したり、複数の撮像素子を用いたりすることを想定せず、事前に測定できる参照光は1つであることを前提にしている。このため、並列方式で問題となる2つの光検出ピクセル間での光強度差、およびダイバーシティ方式で問題となる2つの撮像素子間での光強度差への対応はできない。
【0034】
本発明の目的は、2つのホログラム間における物体光および参照光の強度分布の不一致を補償して、物体光に含まれる位相情報を高精度に測定することができる光位相測定方法および光位相測定装置を提供することである。
【0035】
また、本発明の別の目的は、前記光位相測定装置を有する光通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の第1は、以下の光位相測定方法に関する。
[1]物体光に含まれる位相情報を測定する光位相測定方法であって、第1光強度検出部および第2光強度検出部において、試験物体光の強度分布を検出する工程と、前記試験物体光と干渉しうる参照光の位相を変化させて、互いに位相が異なる第1参照光および第2参照光を生成する工程と、前記第1光強度検出部において、前記第1参照光の強度分布を検出するとともに、前記第2光強度検出部において、前記第2参照光の強度分布を検出する工程と、物体光および前記第1参照光から第1ホログラムを生成するとともに、前記物体光および前記第2参照光から第2ホログラムを生成する工程と、前記第1光強度検出部において、前記第1ホログラムの強度分布を検出するとともに、前記第2光強度検出部において、前記第2ホログラムの強度分布を検出する工程と、前記第1光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記第1参照光の強度分布および前記第1ホログラムの強度分布、ならびに前記第2光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記第2参照光の強度分布および前記第2ホログラムの強度分布、に基づいて前記物体光に含まれる位相情報を算出する工程と、を有する、光位相測定方法。
[2]前記参照光は、前記物体光の一部から空間フィルタリングにより低空間周波数成分を抽出することで生成される、[1]に記載の光位相測定方法。
【0037】
本発明の第2は、以下の光位相測定装置に関する。
[3]物体光に含まれる位相情報を測定する光位相測定装置であって、物体光と干渉しうる参照光の位相を変化させて、互いに位相が異なる第1参照光および第2参照光を生成する参照光生成部と、前記物体光および前記第1参照光から第1ホログラムを生成する第1ホログラム生成部と、前記物体光および前記第2参照光から第2ホログラムを生成する第2ホログラム生成部と、試験物体光の強度分布、前記第1参照光の強度分布および前記第1ホログラムの強度分布を検出する第1光強度検出部と、前記試験物体光の強度分布、前記第2参照光の強度分布および前記第2ホログラムの強度分布を検出する第2光強度検出部と、前記第1光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記第1参照光の強度分布および前記第1ホログラムの強度分布、ならびに前記第2光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記第2参照光の強度分布および前記第2ホログラムの強度分布、に基づいて前記物体光に含まれる位相情報を算出する処理部と、を有する、光位相測定装置。
[4]前記物体光の一部から空間フィルタリングにより低空間周波数成分を抽出することで前記参照光を生成する第2参照光生成部をさらに有する、[3]に記載の光位相測定装置。
[5]前記第2参照光生成部は、前記物体光を2つに分割する第1ビームスプリッタと、前記第1ビームスプリッタにより分割された一方の物体光の偏光状態を45°の直線偏光に変換する1/2波長板と、前記第1ビームスプリッタにより分割された他方の物体光の偏光状態を円偏光に変換する1/4波長板と、45°の直線偏光の前記物体光および円偏光の前記物体光のうちの一方の前記物体光から低空間周波数成分を抽出して前記参照光を生成する空間フィルタと、を有する、[4]に記載の光位相測定装置。
【0038】
本発明の第3は、以下の光通信装置に関する。
[6]相手方の通信装置から光ファイバを介して送信されたパイロット光を受信し、前記パイロット光に含まれる空間モード伝播情報を測定する、[3]~[5]のいずれか一項に記載の光位相測定装置と、前記光位相測定装置で測定された空間モード伝播情報に基づき、前記光ファイバにおけるモードの変換および回転を解消できる光複素振幅を算出する位相共役計算部と、前記光複素振幅を含む光に時系列信号を加えた光を前記光ファイバを介して前記相手方の通信装置に送信する送信部と、を有する光通信装置。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る位相測定方法および位相測定装置によれば、物体光に含まれる位相情報を高精度に測定することができる。また、本発明に係る光通信装置によれば、モード分割多重通信およびモード拡散多重通信を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】デジタルホログラフィにおける物体光と参照光とのなす角を示す図である。
【図2】オフアクシス・デジタルホログラフィにおける再生過程を示す図である。
【図3】図2に示される過程で再生した場合における原画像および再生画像を対比して示す図である。
【図4】オフアクシス・デジタルホログラフィにおける2つのホログラムからの再生過程を示す図である。
【図5】図4に示される過程で再生した場合における原画像および再生画像を対比して示す図である。
【図6】逐次位相シフト干渉法で用いられる逐次位相シフト干渉計の構成を示す図である。
【図7】逐次位相シフト干渉法(4ステップ法)の手順を示す図である。
【図8】逐次位相シフト干渉法(2ステップ法)の手順を示す図である。
【図9】並列位相シフト干渉法で用いられる並列位相シフト干渉計の構成を示す図である。
【図10】並列位相シフト干渉計における位相シフトアレイ素子の動作を示す図である。
【図11】並列位相シフト干渉法におけるホログラムの分割およびピクセルの補間を示す図である。
【図12】並列位相シフト干渉法(2ステップ法)の手順を示す図である。
【図13】4チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計の構成を示す図である。
【図14】ホログラフィックダイバーシティ干渉法(4ステップ法)の手順を示す図である。
【図15】2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計の構成を示す図である。
【図16】ホログラフィックダイバーシティ干渉法(2ステップ法)の手順を示す図である。
【図17】図17A~Fは、位相シフト干渉法において生じる可能性のある測定誤差を示すグラフである。
【図18】従来の逐次位相シフト干渉法(2ステップ法)の概要を示す図である。
【図19】本発明に係る位相測定方法の概要を示す図である。
【図20】本発明に係る位相測定方法の概要を示す図である。
【図21】本発明に係る位相測定方法をホログラフィックダイバーシティ干渉法(2ステップ法)に適用したときの手順を示す模式図である。
【図22】本発明に係る位相測定方法を並列位相シフト干渉法に適用したときの手順を示す模式図である。
【図23】本発明に係る参照光不要型の位相測定装置の構成を示す図である。
【図24】2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計における背景雑音を示す図である。
【図25】参照光の伝送路が必要である、光ファイバからの出射光に対する位相測定システムを示す図である。
【図26】デジタル位相共役器によるモード分散補償システムを示す図である。
【図27】デジタル位相共役器によるモード分散補償システムを示す図である。
【図28】本発明に係る参照光不要型の位相測定装置を含むデジタル位相共役器の構成を示す図である。
【図29】モード拡散多重通信の概要を示す図である。
【図30】図30A,Bは、モード拡散多重通信における位相歪みの観測工程を示す図である。
【図31】モード拡散多重通信における複数の光信号の多重伝送工程を示す図である。
【図32】図32A,Bは、通常の鏡と位相共役鏡との違いを示す図である。
【図33】図33A,Bは、通常の鏡と位相遅延との関係を示す図である。
【図34】図34A,Bは、位相共役鏡の波面補償効果を示す図である。
【図35】位相共役鏡を用いたモード分散補償を示す図である。
【図36】デジタル位相共役器を用いたモード分散補償を示す図である。
【図37】2台の空間光変調器を用いた複素振幅分布の生成を示す図である。
【図38】1台の空間光変調器を用いた複素振幅分布の生成を示す図である。
【図39】偏波面保持型デジタル位相共役器による偏波ダイバーシティ計測と偏波モード補償を示す図である。
【図40】参照光不要型の位相測定装置および空間光変調器によるモード分散補償システムを示す図である。
【図41】参照光不要型の位相測定装置および空間光変調器を用いたアダプティブ・モードフィルタを示す図である。
【図42】参照光不要型の位相測定装置を用いたデジタル・モードフィルタを示す図である。
【図43】モード拡散多重信号のための分離器を示す図である。
【図44】図44A~Cは、モード信号の分離器を用いた多重通信システムを示す図である。
【図45】多重ホログラムによる複数信号の同時分離を示す図である。
【図46】図46A~Dは、式(41)で記述される本発明に係る位相測定方法における測定誤差と、式(25)で与えられる従来の位相測定方法における測定誤差を示すグラフである。
【図47】図47A~Hは、本発明に係る位相測定方法または従来の位相測定方法についてのシミュレーション結果を示す画像である。
【図48】図48A,Bは、実施例3における実験系の構成を示す図である。
【図49】図49A,Bは、実施例3における測定結果を示す画像である。
【図50】実施例4における被検査物と撮像素子の位置関係を示す図である。
【図51】図51A~Dは、実施例4における測定結果を示す画像である。
【図52】実施例5で使用した参照光不要型の位相測定装置の構成を示す図である。
【図53】図53A,Bは、実施例5における測定結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
1.光位相測定方法および光位相測定装置
本発明に係る位相測定方法は、物体光に含まれる位相情報を測定する光位相測定方法であって、i)第1光強度検出部および第2光強度検出部において、試験物体光の強度分布を検出する工程と、ii)前記試験物体光と干渉しうる参照光の位相を変化させて、互いに位相が異なる第1参照光および第2参照光を生成する工程と、iii)前記第1光強度検出部において、前記第1参照光の強度分布を検出するとともに、前記第2光強度検出部において、前記第2参照光の強度分布を検出する工程と、iv)物体光および前記第1参照光から第1ホログラムを生成するとともに、前記物体光および前記第2参照光から第2ホログラムを生成する工程と、v)前記第1光強度検出部において、前記第1ホログラムの強度分布を検出するとともに、前記第2光強度検出部において、前記第2ホログラムの強度分布を検出する工程と、vi)前記第1光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記参照光の強度分布および前記第1ホログラムの強度分布、ならびに前記第2光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記参照光の強度分布および前記第2ホログラムの強度分布、に基づいて前記物体光に含まれる位相情報を算出する工程と、を有する。

【0042】
本発明に係る位相測定装置は、本発明に係る光位相測定方法を実施するのに好適な光位相測定装置であって、参照光生成部、第1ホログラム生成部、第2ホログラム生成部、第1光強度検出部、第2光強度検出部および処理部を有する。参照光生成部は、物体光と干渉しうる参照光の位相を変化させて、互いに位相が異なる第1参照光および第2参照光を生成する。第1ホログラム生成部は、前記物体光および前記第1参照光から第1ホログラムを生成する。第2ホログラム生成部は、前記物体光および前記第2参照光から第2ホログラムを生成する。第1光強度検出部は、試験物体光の強度分布、前記第1参照光の強度分布および前記第1ホログラムの強度分布を検出する。第2光強度検出部は、前記試験物体光の強度分布、前記第2参照光の強度分布および前記第2ホログラムの強度分布を検出する。処理部は、前記第1光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記第1参照光の強度分布および前記第1ホログラムの強度分布、ならびに前記第2光強度検出部において検出された前記試験物体光の強度分布、前記第2参照光の強度分布および前記第2ホログラムの強度分布、に基づいて前記物体光に含まれる位相情報を算出する。

【0043】
本発明に係る位相測定装置は、例えば、図15に示される2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ計や、図9に示される並列位相シフト干渉計、この後説明する参照光不要型の位相測定装置(2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ計)などにより実現されうる。図15に示される2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ計では、1/4波長板(QWP)および偏光ビームスプリッタ(PBS1)が、参照光生成部として機能する。ビームスプリッタ(BS2)および偏光ビームスプリッタ(PBS1)が、第1ホログラム生成部および第2ホログラム生成部として機能する。2つの撮像素子(CCD1,CCD2)は、それぞれ第1光強度検出部および第2光強度検出部として機能する。図9に示される並列位相シフト干渉計では、位相シフトアレイ素子が、参照光生成部として機能する。ビームスプリッタが、時期に応じて第1ホログラム生成部および第2ホログラム生成部として機能する。撮像素子は、時期に応じて第1光強度検出部および第2光強度検出部として機能する。

【0044】
以下の説明では、本発明に係る位相測定方法の上記工程i)~iii)を「前処理工程」と称し、工程iv)~vi)を「位相評価工程」と称することがある。本発明に係る位相測定方法および位相測定装置は、位相評価工程において第1光強度検出部および第2光強度検出部で検出された2つのホログラムの強度分布に加えて、前処理工程において第1光強度検出部および第2光強度検出部で検出された試験物体光の強度分布および2つの参照光の強度分布も用いて、物体光に含まれる位相情報を算出することを特徴とする。

【0045】
以下、本発明に係る位相測定方法および位相測定装置について説明する。なお、本願明細書では、「物体光」および「信号光」の両方の用語を使用するが、これらは同じものである。本願明細書では、光通信について説明する場合に、「信号光」の用語を使用することがある。

【0046】
[本発明に係る位相測定方法の概要]
これまでに提案されてきた位相シフト干渉法(2ステップ法)は、ホログラムを空間的に分割したり(並列位相シフト干渉法)、複数の撮像素子を用いたり(ホログラフィックダイバーシティ干渉法)することを想定せず、事前に測定できる参照光は1つであることを前提にしていた。これに対し、本発明に係る位相測定方法は、位相シフトデジタルホログラフィにおいてどうしても生じてしまう2つのホログラム間での物体光および参照光の強度分布の不一致を補償することによって、高精度な位相測定を実現する。

【0047】
本発明に係る位相測定方法は、これまで考慮されなかった2つのホログラム間における物体光および参照光の強度分布の違いを考慮することで、これらに起因する測定誤差をなくすことができる。本発明に係る位相測定方法は、物体光の位相情報を測定する前に予め物体光(試験物体光)および2つの参照光の強度分布を撮像しておくことができれば、ダイバーシティ方式だけではなく並列方式などの各種位相シフトデジタルホログラフィに適用することができる。しかも、物体光(試験物体光)および2つの参照光の強度分布を撮像する前処理は、物体光の位相情報を測定する前に一度だけ行えばよい。光学系に変更がなければ、それ以降は位相情報の測定を連続して行うことができる。すなわち、本発明に係る位相測定方法では、物体光(試験物体光)および2つの参照光の強度分布の検出は、ホログラムを測定する前に一度行えばよい。したがって、本発明に係る位相測定方法は、従来の位相シフト干渉法(2ステップ法)と比較して撮像素子のフレームレートを減少させることなく、効率的に位相情報の測定を行うことができる。

【0048】
本発明に係る位相測定方法は、ホログラム間における物体光および参照光の強度分布の差異をピクセルごとに係数として算出することによって、前処理を一度行うだけでホログラム間の強度分布の不一致を補償することができる。このようにして算出された係数行列は、干渉計の構成素子や光路の違いなどにより生じてしまう強度差やピクセル間の検出感度の違いを包含しているため、補償したいホログラムにこの係数行列を乗算するだけで、測定誤差を取り除くことができる。

【0049】
本発明に係る位相測定方法は、参照光の強度分布を予め取得し、その分布に応じて物体光の位相情報を測定する。このため、本発明に係る位相測定方法では、一様な強度分布の参照光を用意する必要はなく、不均一な強度分布を有していても物体光に対して大きな強度を有する参照光を利用すれば、誤差なく位相情報を測定することができる。

【0050】
[本発明に係る位相測定方法と従来の位相シフト干渉法との相違点]
図18は、従来の逐次位相シフト干渉法(2ステップ法;非特許文献6)の概要を示す図である。この方法では、物体光および参照光による、互いに位相が異なる2つのホログラム(ホログラム1およびホログラム2)の強度分布を取得する前に、1つの参照光の強度分布を測定する。これらの3つの強度分布から、物体光の複素振幅(位相および強度)を測定する。ただし、この方法は、図6に示される1つの撮像素子(図18では「CCD1」と表記)を含む逐次位相シフト干渉計を用いることを前提としているため、事前に測定された1つの参照光の強度分布しか考慮することができない。このため、ホログラフィックダイバーシティ干渉法(2ステップ法)において、光学素子や撮像素子、光路の歪みなどに対応することができない。また、並列位相シフト干渉法(2ステップ法)においては、隣り合うピクセルのホログラム情報を1組の位相シフトホログラムとして取り扱う。このとき、参照光値として隣り合うピクセルのどちらか一方の値を用いるため、隣り合うピクセル間における参照光の変化を考慮して位相情報の測定を行うことができない。このため、並列位相シフト干渉法(2ステップ法)では、大きな測定誤差が生じてしまうおそれがある。

【0051】
図19は、本発明に係る位相測定方法の概要を示す図である。図19に示されるように、本発明に係る位相測定方法では、あらかじめ2つの撮像素子(CCD1およびCCD2)における参照光の強度分布を測定し、これらの強度分布と、位相が互いに異なる2つのホログラム(ホログラム1およびホログラム2)の強度分布とを用いて、物体光の複素振幅を測定する。このように、本発明に係る位相測定方法は、複数の撮像領域(第1光強度検出部および第2光強度検出部)を使用することを前提としている。

【0052】
さらに、本発明に係る位相測定方法は、図20に示されるように、2つのホログラムの強度分布を測定する前に、2つの撮像素子に試験物体光を照射し、これらの強度分布を測定することで、物体光側の光学素子や光路などの誤差の補正も行う。本発明に係る位相測定方法では、まず、試験物体光(例えば、光路上に被検査物を配置しないで得られる物体光)のみを照射して、2つの撮像素子での強度分布を測定する(工程i))。次に、参照光(第1参照光または第2参照光)のみを照射して、2つの撮像素子での強度分布を測定する(工程iii))。これらの前処理工程の後、光路上に被検査物を配置した状態で物体光および参照光を同時に照射して、位相が互いに異なる2つのホログラム(ホログラム1およびホログラム2)の強度分布を2つの撮像素子で測定する(工程iv)~v))。これらの6つの強度分布より、物体光の複素振幅を正確に算出する(工程vi))。なお、本発明に係る位相測定方法は、位相情報を複数回測定する場合でも、前処理である試験物体光および参照光の強度分布の測定(工程i)および工程iii))は、最初に一度行うだけでよい。また、工程i)において、試験物体光として、光路上に被検査物を配置しないで得られる物体光の代わりに、光路上に被検査物を配置して得られる物体光を照射してもよい。したがって、本願明細書において、用語「試験物体光」は、特に断りが無い限りは、光路上に被検査物を配置しないで得られる物体光、および光路上に被検査物を配置して得られる物体光の両方を含む。

【0053】
本発明に係る位相測定方法により、ホログラフィックダイバーシティ干渉法(2ステップ法)において、光学素子や撮像素子、光路などの歪みを正確に補正し、高い精度で位相情報を測定することができる。また、並列位相シフト干渉法(2ステップ法)においては、隣り合うピクセル間における参照光の変化を組み込んだ位相情報を測定することができ、測定精度の向上を期待することができる。なお、並列位相シフト干渉法では、1つの撮像素子が、第1光強度検出部および第2光強度検出部として機能する。

【0054】
[本発明に係る位相測定方法]
図21は、本発明に係る位相測定方法の手順を示す模式図である。図21に示されるように、本発明に係る位相測定方法は、位相測定の準備を行う前処理工程と、実際のホログラム測定を行う位相評価工程とに大別される。

【0055】
図21では、2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計(図15参照)を用いたダイバーシティ方式によるホログラムの取得を前提としている。このため、図21では、位相が互いに異なる2つのホログラムH,Hが同一時刻に撮像されているように示されている。しかしながら、本発明に係る位相測定方法では、ホログラムの取得方式は、特に限定されない。たとえば、本発明に係る位相測定方法を並列位相シフト干渉法に適用した手順を、図22に示す。この場合には、本発明に係る位相測定方法によって隣り合うピクセル間の参照光の変動を補正することができる。

【0056】
本発明に係る位相測定方法では、使用する2つの参照光の強度分布を両方とも考慮することができ、光強度のズレや不一致を補償することができる。このため、本発明に係る位相測定方法は、1つの参照光の強度分布しか扱えない従来の2ステップ法に比べて大幅に測定精度を高めることができる。

【0057】
本発明に係る位相測定方法では、従来の2ステップ法と異なり、物体光(試験物体光)および参照光の強度分布を、撮像素子(撮像素子1および撮像素子2)ごとに区別する。これは、ホログラフィックダイバーシティ干渉法においては、同一レーザ光源から出射した光の強度分布が、光路や素子の歪み、撮像素子の感度差などによって2つの撮像素子上では異なることを考慮するからである。また、並列位相シフト干渉法においては、隣り合うピクセルにおける参照光強度が異なる場合に対応するためである(現実的な状況下では完全に均一な参照光を生成することは困難である)。

【0058】
2つの撮像素子における試験物体光(ここでは、光路上に被検査物を配置しないで得られる物体光を意味する)O,Oおよび参照光(第1参照光,第2参照光)R,Rは、以下の式(27)~式(30)のように表すことができる。
【数10】
JP0006202499B2_000012t.gif
ここで、OおよびOは、それぞれ撮像素子1および撮像素子2における試験物体光の複素振幅であり、φおよびφは、それぞれ撮像素子1および撮像素子2における試験物体光の位相である。RおよびRは、それぞれ撮像素子1および撮像素子2における参照光(第1参照光,第2参照光)の複素振幅であり、ψおよびψは、それぞれ撮像素子1および撮像素子2における参照光(第1参照光,第2参照光)の位相である。Ao1およびAo2は、それぞれ撮像素子1および撮像素子2における試験物体光の振幅であり、Ar1およびAr2は、それぞれ撮像素子1および撮像素子2における参照光(第1参照光,第2参照光)の振幅である。

【0059】
前処理工程では、まず、試験物体光の強度分布を2つの撮像素子により別々に撮像する。次に、試験物体光を止め、2つの参照光(第1参照光および第2参照光)の強度分布を2つの撮像素子により別々に撮像する。これらの値から、試験物体光の強度比αおよび参照光の強度比βが算出される(式(31)および式(32))。
【数11】
JP0006202499B2_000013t.gif
ここで、|Ao1および|Ao2は、それぞれ撮像素子1および撮像素子2における試験物体光の強度(それぞれ前処理で検出される撮像素子1および撮像素子2における試験物体光の強度)であり、|Ar1は、撮像素子1における第1参照光の強度(前処理で検出される撮像素子1における第1参照光の強度)であり、|Ar2は、撮像素子2における第2参照光の強度(前処理で検出される撮像素子2における第2参照光の強度)である。

【0060】
式(31)は、撮像素子間での試験物体光(光路上に被検査物を配置しないで得られる物体光そのもの)の強度分布の違いを表しているため、被検査物の特性に依存しない。したがって、試験物体光を生成する際には、図15における被検査物を設置していても設置していなくてもどちらでもよい。

【0061】
前処理工程を終えてから、被検査物を設置して、ホログラムの生成および測定を行う(位相評価工程)。この位相評価工程では、物体光および参照光を同時に照射することによって、式(27)~式(30)で表される4つの光波により形成される2つのホログラムH,Hから物体光の複素振幅分布を算出する(式(33)および式(34))。
【数12】
JP0006202499B2_000014t.gif

【0062】
ホログラフィックダイバーシティ干渉法では、ホログラムH,Hは、撮像素子1上および撮像素子2上に生成される。また、位相シフト干渉法においては、撮像素子上の隣り合うピクセル上にホログラムH,Hが生成される。なお、参照光の位相ψおよびψは任意の値でよいが、ここでは広く適用されているψ=0かつψ=π/2を想定している(2つのホログラムH,Hの位相差に対応する)。

【0063】
ここで、物体光Oおよび参照光Rについて、式(35)および式(36)のように仮定すると、式(33)および式(34)は、物体光の強度比αおよび参照光の強度比βを用いて式(37)および式(38)のように表すことができる。
【数13】
JP0006202499B2_000015t.gif

【0064】
このとき、ホログラムH,Hの直流成分IおよびIを式(39)および式(40)のように定義すると、式(35)は式(41)と書ける。
【数14】
JP0006202499B2_000016t.gif

【0065】
しかし、このままでは、式(41)から物体光Oの複素振幅を算出するためには、物体光の強度分布を2つの組となる干渉縞を観測するたびに繰り返し撮像してIおよびIの値を決定する必要がある。これでは撮像素子のフレームレートを浪費してしまい、動く物体の位相を測定する場合にその測定精度が著しく低下してしまう。このため、式(39)および式(40)を、上記の式(35)~式(41)を用いてAを用いない形式に書き直す必要がある。以下に、その導出過程を示す。

【0066】
式(41)の2乗(式(42))は、sinφ+cosφ=1より、式(43)のように書くことができる。式(43)の両辺に4αβAを掛けると、式(44)となる。
【数15】
JP0006202499B2_000017t.gif

【0067】
式(44)を、まずはIについて解く。そのために、式(39)および式(40)をそれぞれ式(45)および式(46)と書き換え、式(44)に代入すると、式(47)となる。
【数16】
JP0006202499B2_000018t.gif

【0068】
式(47)を整理すると式(48)となり、式(48)の解は式(49)となる。ここで、a,b,cは式(50)のように定義した。
【数17】
JP0006202499B2_000019t.gif

【0069】
こうして得られたIを式(45)に代入すると、Iは式(51)のようになる。
【数18】
JP0006202499B2_000020t.gif

【0070】
しかし、式(49)および式(51)にはそれぞれ複号が含まれており、解が一意に定まらない。また、平方根の内部が負である場合は解が複素数となり、不当な解が得られてしまうため、平方根の内部は常に正でなければならない。そこで、まずは平方根の内部についてその正負を判定する。平方根の内部を書き下すと、式(52)となる。これに、式(37)および式(38)を代入し、整理すると、式(53)となる。よって、平方根の内部は常に正となる。
【数19】
JP0006202499B2_000021t.gif

【0071】
次に、複号のうち正しい解が得られる符号を判定する。これは、式(51)および式(49)をそれぞれ正の場合と負の場合について書き下し、最終的に式(39)および式(40)が得られるかどうかで判断することができる。ここでは、Iについて複号判定の過程を示す。

【0072】
複号が正のとき、式(49)は、式(37)、式(38)および式(50)を代入することで、式(54)と書くことができる。したがって、式(40)が成り立つためには、式(54)の右辺第3項が零となる必要がある(式(55))。
【数20】
JP0006202499B2_000022t.gif

【0073】
式(55)を整理すると、式(56)となる。ここで、式(56)に三角関数の合成公式を適用すると、式(57)および式(58)となる。
【数21】
JP0006202499B2_000023t.gif

【0074】
αはホログラムH,H間における物体光の強度比であり、これらは常に正であることから、式(58)において、α≧0が常に成立する。したがって、式(57)は、両辺を2乗することで式(59)と書くことができる。したがって、複号が正の場合に解が成り立つためには、式(60)が条件となる。
【数22】
JP0006202499B2_000024t.gif

【0075】
一方、複合が負のとき、式(49)は、式(61)となり、式(40)がいつでも成り立つ。したがって、式(60)が成り立たない場合に複合を負とすることで、解が一意に定まることがわかる。
【数23】
JP0006202499B2_000025t.gif

【0076】
以上をまとめると、式(62)の条件を満たせば、物体光の複素振幅は式(63)~式(66)で得られる。
【数24】
JP0006202499B2_000026t.gif

【0077】
式(63)は、ホログラムH,Hの他に、参照光の強度|R|、強度比αおよびβを用いて計算することができる。参照光の強度および強度比はいずれも時間によって変動しないため、処理後はフレームレートを浪費することなく連続的に強度を補償しながら物体光の位相情報を測定することができる。

【0078】
[参照光不要型の位相測定装置]
前述のとおり、本発明に係る位相測定方法は、図15に示される2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ計や、図9に示される並列位相シフト干渉計などにより実施されうる。これらの干渉計では、物体光と干渉しうる参照光を測定時に用意し、参照光生成部において参照光から第1参照光および第2参照光を生成する。このように物体光とは別に参照光を用意することは、装置の複雑化を招くと共に、遠隔地からの物体光(信号光)に含まれる位相情報の測定を困難としていた。そこで、ここでは、本発明に係る位相測定方法を実施するのに好適な、参照光不要型の位相測定装置(2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ計)について説明する。本発明に係る参照光不要型の位相測定装置は、物体光の一部から空間フィルタリングにより低空間周波数成分を抽出することで参照光を生成する第2参照光生成部をさらに有する。

【0079】
本発明に係る参照光不要型の位相測定装置は、物体光を2つに分割する第1ビームスプリッタと、第1ビームスプリッタにより分割された一方の物体光の偏光状態を45°の直線偏光に変換する1/2波長板と、第1ビームスプリッタにより分割された他方の物体光の偏光状態を円偏光に変換する1/4波長板と、45°の直線偏光の物体光および円偏光の物体光のうちの一方の物体光から低空間周波数成分を抽出して参照光を生成する空間フィルタと、45°の直線偏光の前記物体光および円偏光の前記物体光のうちの他方の物体光と参照光とを混合する第2ビームスプリッタと、第2ビームスプリッタで混合された物体光および参照光が入射し、入射した光の水平偏光成分および垂直偏光成分の一方を透過させ、他方を反射させる偏光ビームスプリッタと、偏光ビームスプリッタで反射された光の強度分布を検出する第1光強度検出部と、偏光ビームスプリッタを透過した光の強度分布を検出する第2光強度検出部と、第1光強度検出部および第2光強度検出部で検出された光の強度分布に基づいて物体光に含まれる位相情報を算出する処理部と、を有する。第1ビームスプリッタ、1/2波長板、1/4波長板および空間フィルタは、第2参照光生成部として機能する。第2ビームスプリッタおよび偏光ビームスプリッタは、第1ホログラムを生成する第1ホログラム生成部および第2ホログラムを生成する第2ホログラム生成部として機能する。以下、図23を参照して、本発明に係る参照光不要型の位相測定装置について説明する。

【0080】
図23は、本発明に係る参照光不要型の位相測定装置(2チャネル・ホログラフィック・ダイバーシティ干渉計)の構成を示す図である。この図では、2つの撮像素子(CCD1およびCCD2)で検出された光の強度分布に基づいて物体光に含まれる位相情報を算出する処理部を省略している。図23に示されるように、本発明に係る位相測定装置は、物体光の一部から空間フィルタリングにより低空間周波数成分を抽出することで参照光を生成し、物体光と物体光から生成した参照光とから2つのホログラムを生成する。このとき、2つの撮像素子(CCD1およびCCD2)上に同時にホログラムが生成される。すなわち、2つの撮像素子(CCD1およびCCD2)は、それぞれ第1光強度検出部および第2光強度検出部として機能する。

【0081】
図23において、被検査物を透過した物体光は、水平または垂直方向の直線偏光であるとする。この物体光は、ビームスプリッタ1(BS1)により2本の光ビームに分割される。図の右側に伝搬する光は、1/2波長板(HWP)で45°直線偏光となり、内部物体光としてビームスプリッタ2(BS2)に入射する。一方、BS1で分割され、図の下側に伝搬する光は、1/4波長板(QWP)で円偏光となり、拡散板、対物レンズおよびピンホールを透過する。これにより、物体光の中から、低空間周波数成分だけが抽出される。この低空間周波数成分の光波は、理想的にはDC成分、つまり光の進行方向に垂直な波面の、振幅が一定の平面波となる。ここで、空間フィルタを構成するレンズ(対物レンズ)およびピンホールを最適化し、十分に低い空間周波数成分を取り出せば、物体光の強度分布に関係なく安定的に内部参照光を生成することができる。特に、空間フィルタの手前に拡散板を設置することにより、物体光が時間的に比較的高速に変動する場合であっても、平均的に安定した内部参照光が生成される。このため、連続的に高精度な位相測定を行うことができる。このように生成された内部参照光および内部物体光がBS2で混合された後、偏光ビームスプリッタ(PBS)で偏光分離されることによって、2つの撮像素子(CCD1およびCCD2)上に、位相が互いに異なる2つのホログラムが同時に生成される。位相測定の具体的な手順は、これまでに説明した本発明に係る位相測定方法の手順のとおりである。

【0082】
本発明に係る位相測定方法の前処理工程では、物体光(試験物体光)および参照光の強度分布を別々に測定する必要がある。図23に示される位相測定装置では、内部物体光または内部参照光を遮断することで、他方の強度分布を測定することができる。前処理を行った後の位相測定手順は、式(27)~式(67)において物体光および参照光を内部物体光と内部参照光に置きかえるだけで、基本的なプロセスは同一である。

【0083】
したがって、本発明に係る位相測定装置を用いる場合においても、前述した2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計(図15参照)を用いる場合と同様に、前処理を一度行えば、それ以降は連続的に位相情報を測定することができる。図23に示される位相測定装置を用いることで、参照光を用意することが困難である場合においても、高精度かつ高速に位相情報を測定することができる。なお、本発明に係る位相測定装置は、本発明に係る位相測定方法だけでなく、従来のホログラフィックダイバーシティ干渉法にも使用されうる。

【0084】
なお、図23に示される位相測定装置において、1/2波長板(HWP)と1/4波長板(QWP)とを交換してもよい。すなわち、内部信号光を円偏光の光とし、内部参照光を45°の直線偏光の光としてもよい。また、内部信号光および内部参照光の偏光状態の組み合わせは、直線偏光および円偏光に限定されるわけではなく、他の偏光状態の組み合わせ(例えば、45°以外の直線偏光および楕円偏光)であってもよい(ただし、2つのホログラムの位相差が0,±π,±2π,…となる組み合わせは除く)。

【0085】
[位相歪みの補償]
図24は、2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計における背景雑音を示す図である。図24において、Bは、ビームスプリッタ2(BS2)により参照光と合波する前の物体光が伝搬過程で受ける背景雑音である。Bは、BS2により物体光と合わさる前の参照光が伝搬過程で受ける背景雑音である。Bは、偏光ビームスプリッタ(PBS)を通過した物体光および参照光が受ける背景雑音である。Bは、PBSにより反射された物体光および参照光が受ける背景雑音である。

【0086】
以下、図24を用いて、2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計を用いた位相測定における背景雑音の除去について説明する。以下の説明は、参照光不要型のホログラフィックダイバーシティ干渉計(図23参照)についても適応できる。

【0087】
背景雑音B~Bは、式(67)~式(70)のように複素振幅で表現されうる。
【数25】
JP0006202499B2_000027t.gif

【0088】
これらの背景雑音を考慮すると、2つの撮像素子(CCD1およびCCD2)に入射する物体光および参照光は、式(71)~式(74)と記述できる。なお、Aexp(iφ)およびAexp(iψ)は、背景雑音を受ける前の純粋な物体光および参照光である。
【数26】
JP0006202499B2_000028t.gif

【0089】
この場合、2つのホログラムH,Hは、式(8)および式(9)と同様に、式(75)および式(76)となる。式(75)および式(76)の±1次光(右辺第3項と第4項)を書き下していくと、式(77)および式(78)となる。ただし、簡便のため、ψ=0とした。
【数27】
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【0090】
また、物体光および参照光について、式(31)および式(32)と同様に強度比をとると、式(79)および式(80)となり、α=βとなることがわかる。ここで、γ≡α=β、δ≡ξ-ξとおき、式(77)~式(80)を用いると、式(75)および式(76)は、式(81)および式(82)と書き換えられる。
【数28】
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【0091】
式(81)および式(82)には、背景雑音による位相歪みが残存している。これは、BS1で合わさる前の物体光および参照光に対する背景雑音であり、ホログラムH,Hの間では等しい。強度に関しては、強度比によってホログラムH,H間の差異が補償されるため、式(63)~式(66)を用いることで、Ao1exp[i(δ+φ)]を精度よく求めることができる。位相歪みは、高精度な素子を用いるなどして低減することは可能であるが、完全に消失させることはできない。これを除去するためには、まず、被検査物を置かない状態(A=1.0、φ=0)で複素振幅測定を行い、雑音成分Ab1b3exp(iδ)のみを測定する。次に、被検査物を設置し、複素振幅を測定する。その際、予め算出しておいた雑音成分で除算することで背景雑音のない物体光Oを算出することができる(式(83))。
【数29】
JP0006202499B2_000031t.gif

【0092】
以上の通り、本発明に係る位相測定方法を、2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計または参照光不要型のホログラフィックダイバーシティ干渉計(本発明に係る位相測定装置)に対して適用することで、高速性を保ちながらも、強度や位相の歪みを補償および除去することができる。このことから、本発明に係る位相測定方法が、今後の位相測定分野の大幅な発展に寄与し、非常に重要な役割を担うことを期待することができる。

【0093】
[効果]
本発明に係る位相測定方法は、物体光に含まれる位相情報を得るために必要なホログラムの撮像回数を最小限に抑えることができ、かつ光学系から受ける強度歪みを補償することができるため、測定速度および精度を同時に高めることができる。本発明に係る位相測定方法は、デジタルホログラフィが用いられている幅広い分野において応用することができる。

【0094】
デジタルホログラフィは、物体の3次元情報を再生できるため、工業、医療および情報の各分野において様々な目的で活用されている。工業分野では、3次元形状測定によって加工品の表面形状を検査することに用いられている。医療分野では、生体観測に3次元形状測定を利用している。特に、工業および医療分野において、微細な加工品や細胞などを測定する場合は、顕微鏡の光学系とデジタルホログラフィとを融合して、デジタルホログラフィック顕微鏡として利用されている。デジタルホログラフィック顕微鏡を用いることにより、非接触に高速かつ高精細な3次元情報を取得することができる。また、光波伝搬解析手法と組み合わせることで、容易に断層像を取得することも可能である。

【0095】
情報分野では、位相マスクを組み合わせることで暗号化技術として利用されるほか、3次元映像を作製する技術としても応用されている。一方、位相は光の状態を決定する要素の一つでもあるため、これを制御することで光信号を生成することができる。実際に、位相変調された光信号は、通信に用いられている。近年では、従来の強度変調技術と組み合わせることで光信号の多値化に成功しており、光メモリや光通信などの分野においてデータ密度の向上による高速化および大容量化、および光記録媒体や光ファイバなどの情報資源の有効活用が期待されている。このように、位相測定技術は、形状測定技術としてだけでなく信号検出技術としても需要が高まっている。

【0096】
2.光通信装置
マルチモードファイバを用いた光通信は、接続の簡便性や安価な敷設費用などの理由により広く普及している。しかしながら、マルチモードファイバを用いた光通信では、光信号が複数のモードに分散して伝搬されてしまうため、通信距離が長くなると伝送速度が著しく低下してしまう。このため、マルチモードファイバを用いた光通信は、長くても300m程度の通信距離に限定して使用されている。このモード分散を効率的に補償することができれば、通信距離を延伸することが期待できる。

【0097】
モード分散は、伝搬過程で生じるモード変換および結合によって生じる。分散後のモード分布は、逆変換(位相共役)によって、ファイバ励振時のモード分布に戻ることが知られている(I. McMichael, P. Yeh, and P. Beckwith, “Correction of polarization and modal scrambling in multimode fibers by phase conjugation”, Optics Letters, Vol. 12, No. 7, pp. 507-509.)。したがって、単一モードの光波をファイバに入射し、その出射光に対して位相共役な光波を生成し、これに信号を付与することで、長距離であってもモード分散による伝送速度の低下が生じない通信が可能となる。位相測定装置は、空間光変調器(SLM)と組み合わせることで、効率的に位相共役光を生成することができる。このため、位相測定装置は、モード分散補償技術においても非常に重要な役割を有する。

【0098】
また、通信容量不足を解消するための技術として、モードごとに異なる信号を付与して信号の多重伝送を行うモード分割多重通信が非常に注目を集めている。モード分割多重通信では、モードの変換または回転による信号検出精度の不安定性が問題となっている。このため、モード分割多重通信において、モードの不安定性を補償する技術が求められている。このような場合においても、ファイバ出射光の位相を測定することは、どのようなモードに変化されたのか、どのくらいモード分布が回転したのかを分析することができるため、需要が高まることが予想される。

【0099】
このように、高精度な位相測定技術は、光ファイバまたはレーザ光源からの出射モードを解析したり、空間光変調器と組み合わせることでモード分散を補償したり、モード分布を変換したり、特定のモード分布を取り出したりすることができるため、非常に有益である。しかし、このような用途においては、測定対象となる信号光の位相分布が刻々と変化するため、時間分解能が高く高精度に位相を検出することができる位相測定技術が必要となる。また、光通信システムでは、一般に、送信機と受信機とは離れた位置に設置されている。したがって、送信された信号の位相分布を受信機側で測定する場合には、参照光を送信機側から伝送してくる必要がある。このとき、参照光は、強度分布および位相分布が既知であり、かつ信号光と干渉できなければならない。このため、図25に示されるように、安定して遠方まで光波を伝送できるシングルモードファイバを用いて、信号光とは別経路で参照光を伝送しなければならない。これでは2倍の距離の伝送路が必要となり、非効率的で実用的ではない。

【0100】
そこで、位相測定装置の内部で参照光を用意する参照光不要型の位相測定装置が求められる。本発明に係る参照光不要型の位相測定装置(2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計)は、ここで必要とされる参照光不要型の位相測定装置として機能できる。参照光不要型の位相測定装置を用いれば、図26および図27に示されるように、参照光のために高価なシングルモードファイバの伝送路を用意する必要がなくなり、測定対象の光ファイバのみを用意すればよい。図28に示されるように、本発明に係る参照光不要型の位相測定装置は、空間光変調器(SLM)と組み合わせることでデジタル位相共役器として動作することができる。図28に示されるデジタル位相共役器では、位相測定装置によって複素振幅分布A(x,y)を測定し、そのデータをコンピュータに取り込んで位相共役の演算を行い、さらにその結果を空間光変調器に表示することで、A(x,y)の位相共役成分であるA(x,y)を得ることができる。

【0101】
位相共役器は、非線形結晶などを用いて全光学的に構成することもできるが、全光学的な位相共役器は、波長に対する制限や位相共役の忠実度の低さなどから実用化が難しい。ところが、本発明に係る位相測定装置を含むデジタル位相共役器は、計算機ホログラムを用いることで様々な波長に対応することができ、その忠実度も高い。しかも、計算機ホログラムを生成するデバイスとして空間光変調器を用いることで、時間とともに変動する光波に対しても動的に計算機ホログラムを生成して、位相共役光を迅速に発生させることができる。

【0102】
この位相共役器を利用すると、マルチモードファイバにおけるモード分散を補償することができ、図27に示される光通信システムを構築することができる。図27に示される光通信システムは、受信機となる光通信装置および送信機となる光通信装置を有する。この光通信システムでは、まず、受信機(図中左側の光通信装置)が、伝送路である光ファイバを介して、送信機(図中右側の光通信装置)にパイロット光を送出する。送信機は、本発明に係る参照光不要型の位相測定装置を用いて、パイロット光に含まれる光ファイバの空間モード伝搬情報(複素振幅分布)を測定する。送信機は、測定した複素振幅情報に基づき、光ファイバ伝送路の歪みをキャンセルする光複素振幅をコンピュータでデジタル的に位相共役計算を行う。さらに、送信機は、計算された光複素振幅を含む光を空間光変調器などを用いて生成し、それに時系列信号a(t)を加えて受信機に送信する。受信機には、光ファイバ伝送路のモード分散がキャンセルされた信号光が到達するため、信号a(t)が複数の空間モードに拡散されて伝送されるものの、モード分散は生じない。この手法を更に発展させることで、以下に示す、新規の超高速通信技術である「空間モード拡散通信」を実現することができる。

【0103】
[モード拡散多重通信の説明]
(1)マルチモードファイバを用いた光通信の問題点
マルチモードファイバは、コアが大きく、通信機器の製造精度を緩和できることなどから低コストで導入されうる。このため、マルチモードファイバは、ローカルネットワークにおいて需要が高い。また、マルチモードファイバは、シングルモードファイバよりも実効コア断面積を50~100倍に大きくすることができるため、非線形効果やファイバヒューズなどの問題を生じさせずに多数の信号を多重化できる潜在力を有している。しかし、マルチモードファイバを用いた光通信では、そのコアの大きさから複数のモードが同時に伝送し、モード分散が生じてしまうため、ファイバから出射されたパルス信号は大きく歪んでしまう。このため、マルチモードファイバを用いた光通信は、高速かつ長距離の通信が行えないという問題点を有している。

【0104】
このように、マルチモードファイバを用いた光通信の通信容量の潜在力は、シングルモードファイバを用いた光通信の通信容量よりも圧倒的に大きいが、マルチモードファイバを用いた光通信を実現する上では、モード分散の発生が技術的障害になっている。

【0105】
(2)モード拡散多重通信とは
モード分散の影響を受けない全く新しい多重通信技術が、図29に示されるモード拡散多重通信である。モードを用いた通信技術としては、複数の固有モードに独立した信号を与えて多重化するモード分割多重通信(国際公開第2011/052405号)がある。しかし、この技術は、モード励振とモード分離のための精密な装置が必要であるとともに、モード変換または結合によるクロストークを生じてしまう可能性がある。

【0106】
一方、本発明に係るモード拡散多重通信では、マルチモードファイバを用いながら、モード分散の影響を受けない通信チャネル(従来のシングルモードファイバで伝送されるWDM信号など)を複数多重して伝送することができる。また、モード分割多重通信で必要とされるモード励振およびモード分離のための精密な装置(多重ホログラムなど)が不要である。さらに、位相共役光の性質を利用しているため、伝送中にモードの変換または結合が生じたとしてもその影響を補償することができ、モード分散の影響を受けない。また、パイロット光を間欠的に送信して、ファイバ中の歪み情報を逐次測定することによって、ファイバ伝送におけるパラメータの時間的な変動(例えば、温度変化によるモードの変動)にも対応することができる。

【0107】
空間モード拡散多重通信では、モード分散を引き起こす伝送路の空間的な位相歪み情報Φ(x,y)をあらかじめ測定する。位相歪み情報の測定では、受信機がパイロット光を送信機に向けて送信し、送信機はパイロット光に含まれる位相情報を本発明に係る参照光不要型の位相測定装置を用いて測定する。送信機が受信機に信号を送信する際には、送信機は、信号光に、伝送路の位相歪みΦ(x,y)を打ち消す-Φ(x,y)の位相を加えた光を受信機に送信する。

【0108】
図29において、受信機は、Aの位置からパイロット光をファイバ内に入射する。送信機は、参照光不要型の位相検出装置を用いてファイバ中の位相歪み情報(ΦA)を測定する。次に、送信機は、時系列パルスを有する送信信号a(t)に対して、その位相歪みを打ち消す位相(-ΦA)を空間光変調器1で与えて、ファイバ内に入射する。送信信号a(t)は、ファイバ中で空間的な位相歪み(ΦA)を受けるが、送信信号a(t)は、空間的な位相(-ΦA)を加えて送信されたものであるため、受信機側では位相歪みがキャンセルされてパイロット光Aの入射位置に出力される。このとき、ファイバのモード分散も位相歪みの一種であるため、モード分散の影響を受けない光信号a(t)が検出される。

【0109】
次に、受信機は、Aとは異なるBの位置からパイロット光をファイバ内に入射する。送信機は、参照光不要型の位相検出装置を用いてファイバ中の位相歪み情報(ΦB)を測定する。このとき、パイロット光Aは、ファイバ内に入射していない。送信機は、時系列パルスを有する送信信号b(t)に対して、その位相歪みを打ち消す位相(-ΦB)を空間光変調器2で与えて、ファイバ内に入射する。送信信号b(t)は、ファイバ中で空間的な位相歪み(ΦB)を受けるが、送信信号b(t)は、空間的な位相(-ΦB)を加えて送信されたものであるため、受信機側では位相歪みがキャンセルされてパイロット光Bの入射位置に出力される。

【0110】
同様の手順で、パイロット光AおよびBをファイバ内に入射せず、パイロット光Cをファイバ内に入射して、ファイバ中の位相歪み情報(ΦC)を測定することによって、信号c(t)についてもモード分散の影響を受けない伝送が可能になる。ここで、パイロット光A,B,Cは入射位置が互いに異なるため、図29に示されるように、受信機内のビームスプリッタなどで信号a,b,cは容易に分離されうる。また、一旦、パイロット光を用いて各々のモードに対する空間的な位相歪みを測定した後は、信号a,b,cを同時に多重伝送できる点も大きな特徴である。さらに、周囲の温度変化などに対応するため、パイロット光を再度生成して通信路を再測定することも可能であるが、この間も信号が遮断されることはない。

【0111】
このように「空間モード拡散多重通信」では、
A)ファイバ中の歪み情報(モード分散を含む)を予めパイロット光を用いて検出し、その歪みをキャンセルするような信号を伝送することで、マルチモードファイバ中でモード分散の影響を受けない通信が可能になる。
B)どのような空間モードの組合せを励振するかを制御する必要がなく、また、空間モード分割通信のような複雑なモード分離器を用いることなく、マルチモードファイバを用いた超高速多重通信が可能になる。
C)一旦、パイロット光を用いて各々のモードに対する位相歪みを測定した後は、多数の信号を同時に多重伝送できる。また、一定の時間をおいて、各々のモードに対する空間的な位相歪みを再測定することで、伝送路のパラメータ(歪み)の時間的な変動にも動的に対応することができる。

【0112】
マルチモードファイバは、シングルモードファイバと比較としてコア断面積が圧倒的に大きいことから、現在の光通信技術において大きな課題となっている、ファイバヒューズや非線形効果などによる信号劣化の問題を大幅に緩和することができる。結果的として、マルチモードファイバを用いた光通信は、シングルモードファイバを用いた光通信と比較して、圧倒的に大きな通信容量をもたらすことが期待できる。

【0113】
(3)モード拡散多重通信の動作手順
モード拡散多重通信では、光信号がファイバを伝搬する中で受ける位相(波面)歪みを補償するために、位相共役光を電子的に生成する。その動作手順は、位相歪みの観測工程(図30)および多重伝送工程(図31)の2つに大別される。ただし、位相歪みの観測工程および多重伝送工程は、独立して実行することが可能である。このため、ファイバに外圧や温度変化が生じた場合でも、通信を途切れさせることなく動的にモード分布の変動に対応することができる。したがって、モード分布の変動が頻繁に発生するような敷設環境にある場合は、下記、観測工程i)~iii)を繰り返し実行することで、効率的に多重通信を行うことができる。

【0114】
(位相歪みの観測工程)(図30A,B)
i)パイロット光A,Bを一定のタイミングで切り替えながらファイバに入射する。このとき、パイロット光A,Bは、同時に入射しない。また、常にパイロット光を入射する必要はない。
ii)工程i)に合わせて出射光A’,B’に含まれる位相情報(位相分布)を参照光不要型の位相測定装置で順番に観測する。
iii)工程ii)で取得した位相情報を基に、計算機ホログラム1,2を生成する(または空間光変調器に表示する)。取得した複素振幅Fの複素共役分布Fを計算機ホログラムまたは空間光変調器に表示する。
(複数の光信号の多重伝送工程)(図31)
iv)時系列信号a’,b’を計算機ホログラム1,2に照射する。信号が独立に変調された2つの位相共役光を発生させる。
v)2つの位相共役光は、それぞれ受信機側(図中左側)でA,Bの位相共役光として出射され、信号a,bとして検出される。

【0115】
なお、ここでは、2多重の場合の動作手順について説明したが、多重数は特に限定されない。

【0116】
[デジタル位相共役器の概要]
(1)位相共役光
図32Aに示されるように、通常の鏡に入射した光波は、入射角に応じて反射する。これに対し、図32Bに示されるように、位相共役鏡に入射した光波は、伝搬してきた光路を逆に辿るように伝搬する位相共役光となって反射する(位相共役反射)。このとき、途中でどのような位相物体を通っても、その物体が線形であれば正確に光源に戻る。この性質は、位相共役光が波面補償効果を有することを示している。これは、図33および図34のように考えると理解し易い。すなわち、図33Aおよび図33Bに示されるように、通常の鏡では、位相物体による歪みξを除去することはできない。これに対し、図34Aおよび図34Bに示されるように、位相共役鏡からの光は、歪みξが相殺され、元の複素振幅が再生されている。つまり、位相共役鏡は、数学的に考えると入力された光波の位相部分(虚数部)の符号を反転する装置であるといえる。このような位相共役鏡は、非線形光学媒質を用いて光学的に構成することができる。その方法は、従来から多くの報告例がある(Jack Feinberg and R. W. Hellwarth, “Phase-conjugating mirror with continuous-wave gain”, Optics Letters, Vol. 5, Issue 12, pp. 519-521.;Jack Feinberg, “Self-pumped, continuous-wave phase conjugator using internal reflection”, Optics Letters, Vol. 7, Issue 10, pp. 486-488.)。

【0117】
図32~図34に示される位相物体を光ファイバに置き換えると、図35に示されるように、どのようなモード変換または結合に対しても光波の波面を補償することができ、モード分散の生じない光信号の伝送(モード分散補償)を行うことができる。マルチモードファイバは、コアが大きく非線形性が極めて低いため、常に線形なデバイスとして動作する。このため、マルチモードファイバは、図35に示される動作には最適といえる。

【0118】
しかし、図35に示されるモード分散補償の動作では、図中のA側から送出された信号が、位相共役鏡のあるB側に届き、さらに、その信号が、B側からA側に戻ってきたときに、モード分散補償が実施される。このため、同じ光ファイバに2度信号を伝送しなくてはいけない。すなわち、AからB、またはBからAに信号を伝送するような、いわゆる通常の信号伝送に用いることはできない。また、従来の位相共役鏡を用いて、複数の信号を多重化して伝送することも極めて困難である。

【0119】
(2)デジタル位相共役器によるモード分散補償
本発明におけるモード分散補償の概念を図36に示す。図中のA(受信機)からパイロット光(通信される信号光とは異なりファイバの歪みを読み取るための光)をファイバに入射し、B(送信機)に伝送する。B(送信機)では、図35の場合と同じように、ファイバによって歪みを受けたモード成分がファイバから出射される。本手法では、この歪みを受けたモード成分の空間的な位相情報(正確には複素振幅分布)を参照光不要型の位相測定装置によって測定する。測定された位相分布Φ(x,y)の符号を反転させた位相分布-Φ(x,y)を送信機内に設置した複素振幅生成器に表示する。信号発生用レーザを用いて生成した時系列信号(伝送したい光信号)を複素振幅生成器に照射して、位相共役波を得る。B(送信機)において生成された位相共役波は、ファイバから出射したパイロット光と同じ波面を有するため、位相共役波の性質により自動的にファイバに結合され、A(受信機)に伝送される。A(受信機)では、最初にパイロット光を生成した位置に、信号光が逆伝搬する。したがって、この位置に光検出器を配置することで、モード分散の影響を受けない信号光を受信できる。

【0120】
上記説明においては、位相分布Φ(x,y)の符号を反転させた位相分布-Φ(x,y)を複素振幅生成器に表示すると説明した。より正確には、検出した複素振幅分布F(x,y)の位相共役分布F(x,y)(ただしは数学的な位相共役を表す)を複素振幅生成器に表示する。これをデジタル位相共役と呼ぶことにする。また、複素振幅生成器としては、位相用と振幅用の2台の空間光変調器を用いる方法や、1台の空間光変調器にホログラムパターンを表示し、その1次回折光を用いることによって、必要とする複素振幅分布を得る方法がある。

【0121】
(3)デジタル位相共役器における空間光変調器(SLM)の動作
図28に示されるデジタル位相共役器では、波面を参照光不要型の位相測定装置によって検出し、それに対して位相共役となるように空間光変調器(SLM)を用いて複素振幅分布を生成する。ここで、SLMは、光波の強度または位相の分布を空間的に変調することのできるデバイスである。SLMとしてはさまざまな機構が提案されているが、SLMの多くは、液晶パネルを用いて構成されており、コンピュータにより画素ごとに変調することができる。しかし、SLMは、強度または位相の一方しか制御することができないため、強度および位相の両方を制御しなければならない複素振幅分布の生成には、図37に示されるように2台のSLMを用いるか、図38に示されるように計算機ホログラム(CGH)を利用する。CGHは、コンピュータによって算出されたホログラムで、これに光波(参照光)を入射することで計算機内において想定していた複素振幅分布(信号光)を生成することができる。

【0122】
図37に示される例では、まず、強度変調型のSLMで平面波に強度分布を与え、次に位相変調型のSLMで位相分布を付与する。これにより、ある程度自由に複素振幅分布(波面)を生成することができる。一般に、SLMは、強度または位相のどちらかを制御しようとすると他方も変調されてしまうため、予めこれを考慮した変調を与えなければ、正しい変調を与えることができない。また、SLMのパネルは、格子状に画素が配列している構造を有するため、光波がこれを通過する際には、この格子配列に応じた回折現象を引き起こしてしまい、雑音となる。さらに、2台のSLMを利用するため、大型なシステムや大きな損失など、デメリットが大きい。

【0123】
一方、図38に示されるCGHを利用する例では、1台のSLMで複素振幅分布を生成することができ、しかも信号光が生成および回折される角度をある程度自由に設定できる。このため、上記のように雑音となる回折成分を除去することができる。しかも、位相変調型でも強度変調型でも、どちらのタイプのSLMを用いても精度よく複素振幅分布を生成することができる。ただし、強度変調SLMでは回折効率が~6%なのに対して、位相変調SLMでは~33%の回折効率を達成することができる。

【0124】
図37および図38のいずれの例においても、入力する平面波に時系列信号を付与することができる。このとき、時系列信号は、空間光変調器の影響を受けずに伝送されるため、位相共役光を用いた通信が可能となる。

【0125】
位相共役光の生成手段としては、SLMを用いる以外にも、デフォーマブルミラー(微細な鏡の配列で、一つ一つを機械的に制御することで波面を制御することができる)を用いる方法も考えられる。本発明に係る光通信装置では、複素振幅分布の生成手段は特に限定されないが、可動部がなく、位相および強度の両方を自由に設定できる、CGHによる位相共役光の生成(図38)が好ましい。

【0126】
(4)参照光不要型の位相測定装置およびデジタル位相共役器の応用
図39に示されるように、各偏波に対してデジタル位相共役器を動作させれば、空間モードの分散だけではなく偏波モードの分散も補償できるため、非常に有用性が高い。また、図40に示されるように、本発明に係る参照光不要型の位相測定装置を含む位相共役器は、光ファイバの伝搬過程で歪んだ信号光を空間光変調器によりモード分散を補償するように変換することができる。さらに、この位相共役器は、モード分散を補償するだけでなく、特定のモード成分のみを取り出すモードフィルタとしても動作させることが可能である。したがって、図41に示されるように、変動するモード分布に対して動的に適応することができるモードフィルタを構成することができる。図40および図41に示される例では、空間光変調器を用いることを想定しているが、図42に示されるように、計算機内部で空間光変調器の動作をシミュレートすることで、より簡易なシステムでモードの分散補償やフィルタリングを行うことができる。

【0127】
このようなモード分散補償やフィルタリングの機能を利用することで、図43に示されるように、モード多重信号の分離装置を作製することができる。図43に示される例では、信号aおよび信号bが異なる波面(モード)を有する時、信号bの波面を平面波に変換するように空間光変調器が構成されている。信号aおよび信号bが同時に空間光変調器に入射すると、信号aの波面は、元とは異なる波面に変換されるが、平面波にはならない。一方、信号bの波面は、平面波に変換される。その後、レンズおよびピンホールで構成される空間フィルタによって、平面波に変換された信号bのみが透過する。信号aのほとんどはピンホールで遮断されて透過することができない。したがって、図43に示される分離装置によって、特定の空間モードを分離することが可能である。

【0128】
図44は、図29から図31に示されるように位相共役光を生成せずに、モード拡散多重通信システムを構築する例を示している。このシステムでは、パイロット光の光源を信号光の光源(共用)としても用いることができるため、より少ない構成部品で構築することができる。まず、図44Aに示されるように、パイロット光Aをファイバに入射し、その出射光の複素振幅を参照光不要型の位相測定装置で観測する。同様に、パイロット光Bの複素振幅も観測する。次に、図44Bに示されるように、観測したそれぞれの複素振幅分布の位相共役分布を、分離器を構成している空間光変調器に表示する。このとき、分離器1と分離器2において、図43に示されるフィルタリング動作を行うことで、図44Cに示されるように各信号光を独立に検出することが可能となる。たとえば、分離器2において、パイロット光Bの出射光B’の計算機ホログラムを空間光変調器に表示すると、そこに入射したモード拡散多重信号a,bは、信号bの成分のみが平面波として回折される。平面波はレンズを用いることで一点に集光することができるので、ピンホールにより効果的に信号aの成分が除去され、信号bの成分のみを取り出すことができる。同様に、分離機1においては信号aの成分のみを取り出すことができる。

【0129】
図44に示される様態では、多重する信号の数だけ空間光変調器を用意する必要がある。しかし、図45に示されるように、体積ホログラムを用いることで、ホログラムを同一箇所に多重記録することが可能となり、同時に複数の信号を分離することができるようになるため、大幅なシステムの簡素化が可能となる。

【0130】
ただし、図44に示すシステムでは、図29から図31のシステムと異なり、位相共役光を生成しないため、モードの結合および変換を補償することができない。このため、モード拡散信号aとbに共通するモード成分が含まれている場合は、その成分がクロストークとなってしまうおそれがある。しかしながら、このクロストーク成分は、MIMO処理を行うことで取り除くことができるため、通信品質の大幅な低下を招くことはない。

【0131】
なお、上記分離器は、図42に示されるデジタル処理によっても実現可能である。この場合は、空間光変調器や体積ホログラムなどを用意する必要はなく、位相測定装置も1台だけ用意すればよい。具体的には、まず、各パイロット光の出射光分布を位相測定装置により観測し、その複素振幅分布を保存する。次に、多重信号光を伝送し、これを観測する。観測した多重信号光の複素振幅分布に対して、上記フィルタリングの原理をシミュレートし各信号を検出する。信号の伝送レートに追従してフィルタリング動作をシミュレートするには、非常に高速な演算速度が求められるが、専用演算回路の開発や並列演算による高速化などによって実用段階にまで処理速度を向上することができる。

【0132】
上記応用技術は、いずれもモード拡散多重通信だけではなく、モード分割多重通信にも利用可能である。特に、位相測定技術およびフィルタリング技術は、モード分割多重通信において大きな課題となっているモード分離器の実現やモード変換および結合によるクロストークの増大といった問題点を解決するために大いに役立つ。

【0133】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0134】
[実施例1]
実施例1では、本発明に係る位相測定方法および従来の位相測定方法について、2つのホログラム間における強度分布の不一致に対する測定精度および補償効果を定量的に評価した。
【実施例】
【0135】
本発明に係る位相測定方法をホログラフィックダイバーシティ干渉法に適用した場合、物体光の複製を生成することで2つのホログラムを同時に取得するため、測定対象物が動的に変化する場合であっても、ホログラム間における物体光の強度分布に理想的には差異を生じることはない。しかしながら、実際には、光学素子の表面形状の粗さや光路の違いなどによって、2つのホログラムは、微妙に異なる情報を有することになる。前述のとおり、本発明に係る位相測定方法は、これまで補償することができなかった、実システムにおいてどうしても生じてしまうホログラム間における物体光および参照光の強度分布の不一致を補償することができる。
【実施例】
【0136】
本実施例では、本発明に係る位相測定方法の補償効果を定量的に評価するために、2つのホログラムのうちの1つのホログラムにおける物体光および参照光の強度分布をそれぞれ変化させた状態で、物体光の位相情報の測定精度を調べることで、ホログラム間における光強度の変動に対する補償効果を評価した。
【実施例】
【0137】
図46は、式(41)で記述される本発明に係る位相測定方法における測定誤差(黒丸;Proposed)と、式(25)で与えられる従来の位相測定方法における測定誤差(黒四角;Conventional)を示すグラフである。図46Aおよび図46Bは、物体光の強度を変化させたときの測定誤差を示しており、図46Cおよび図46Dは、参照光の強度を変化させたときの測定誤差を示している。2つのホログラム間における物体光の強度比(Intensity ratio of object beams)は、式(27)と式(28)の比|O/|Oと定義した。2つのホログラム間における参照光(第1参照光および第2参照光)の強度比(Intensity ratio of reference beams)は、式(29)と式(30)の比|R/|Rと定義した。なお、測定誤差は、ホログラムHを形成した物体光を基準として算出した。したがって、強度の測定誤差は、式(84)のように定義し、位相の測定誤差は、式(85)のように定義した。
【数30】
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ここで、Oおよびφは、式(25)の従来の位相測定方法または式(41)の本発明に係る位相測定方法で算出した、物体光およびその位相である。また、Oおよびφは、ホログラムHを形成した物体光およびその位相である。物体光Oの強度|Oは、1.0とし、物体光Oの位相φは、π/2とした。
【実施例】
【0138】
従来の位相測定方法では、物体光の強度変化および参照光の強度変化に応じて大きく測定誤差が生じた(黒四角;Conventional)。これに対し、本発明に係る位相測定方法では、物体光の強度変化および参照光の強度変化の影響を受けることなく、測定誤差は生じなかった(黒丸;Proposed)。このことから、本発明に係る位相測定方法は、ホログラム間における光強度比に対する非常に優れた補償効果を有することがわかる。これらの結果から、例えば、物体光の強度比|O/|Oが0.5となった場合、従来の位相測定方法ではE=-2.740dB、E=-0.104πとなり、かなり大きな測定誤差が生じてしまう。一方、本発明に係る位相測定方法では、強度にも位相にも測定誤差は全く生じず、E=0dB、E=0πとなる。なお、図46Aと図46C、および図46Bと図46Dは、横軸が物体光の強度比であるか参照光の強度比であるかの違いがあるが、数値的には同じである。
【実施例】
【0139】
[実施例2]
実施例1では、ホログラム間における光強度の比に対する測定誤差を調べることで、本発明に係る位相測定方法の強度補償の効果を定量的に示した。実施例2では、実システムにおいてホログラム間に大きな強度の差異が存在する場合を想定し、計算機シミュレーションにより位相測定の動作を確認した。
【実施例】
【0140】
図47に、計算機シミュレーションにより取得した位相測定過程における数値計算の結果を示す。図47Aおよび図47Bは、測定対象として仮定した物体光の強度分布および位相分布である。本実施例では、実施例1と同様に、2つのうちの1つのホログラムに強度分布の不均一性を導入することで、ホログラム間に強度分布の差異を与えた。図47Cに基準となるホログラムHを示す。このホログラムは、図47Aおよび図47Bに示される物体光と、強度分布と位相分布が一様な参照光とにより生成される。一方、ホログラムHと位相がπ/2ずれたホログラムHを図47Dに示す。これはホログラムHを生成した参照光の位相をπ/2ずらし、さらに物体光の強度分布および参照光の強度分布にそれぞれ空間的にランダムな強度変調を与えることで生成した。この強度変調は、ピクセルごとに0.100~1.000の範囲のランダムな係数を物体光および参照光に乗算することで与えた。このように2つのホログラムを生成することで、光路の違いや撮像素子の感度の違いなどにより生じるホログラム間の強度分布の不均一性を再現した。
【実施例】
【0141】
これらの2つのホログラムから、従来の位相測定方法または本発明に係る位相測定方法により、元の物体光の強度分布および位相分布を算出した。図47Eおよび図47Fは、従来の位相測定方法により算出された物体光の強度分布および位相分布である。図47Gおよび図47Hは、本発明に係る位相測定方法により算出された物体光の強度分布および位相分布である。図47Gおよび図47Hから、本発明に係る位相測定方法により、図47Aおよび図47Bに示される元の物体光を完璧に再生できることがわかる。これらの結果から、本発明に係る位相測定方法は、従来の位相測定方法で生じてしまう測定誤差を強力に補償できることがわかる。
【実施例】
【0142】
[実施例3]
実施例3では、2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計を用いて本発明に係る位相測定方法を行った結果を示す。
【実施例】
【0143】
図48に実験系の構成を示す。図48Aは、実験系の全体構成を示す図であり、図48Bは、被検査物(Object)と撮像素子(CCD)の位置関係を示す図である。図48Bにおいて、fは各光学素子の焦点距離を表している。fおよびfは100mmであり、fおよびfは300mmである。本実験では、測定精度の高さを示すために、物体光の強度分布および位相分布が予測できる物体として、フレネルレンズ(3259232592-L;エドモンド・オプティクス社;焦点距離100mm)を被検査物とした。なお、被検査物が集光レンズであることから、物体光をコリメートするためにレンズ3(Lens 3)をフレネルレンズの後方焦点から100mmの位置に設置した。ここで用いたレンズ3は、被検査物のフレネルレンズと同じ焦点距離を持つため、観測したい複素振幅分布はレンズ3の後方焦点から100mmの位置に結像される。こうしてコリメートされた物体光を、破線で示される2チャネル・ホログラフィックダイバーシティ干渉計により観測することで、物体光の複素振幅を算出するために必要な2つのホログラムを取得する。なお、レンズ4(Lens 4)およびレンズ5(Lens 5)は、4f光学系となっており、レンズ3により結像した物体光を2台のCCDの撮像面まで伝送するために用いた。
【実施例】
【0144】
図49Aは、従来の位相測定方法により測定した位相分布を示す画像であり、図49Bは、本発明に係る位相測定方法により測定した位相分布を示す画像である。フレネルレンズは、輪帯状に位相が変化するように作製されており、その表面は波長程度の精度で非常に精密に加工されている。図49Aおよび図49Bの両方に見られる、輪帯の規則性と一致しない像は、被検査物または撮像素子上のほこりなどである。一方、図49Aにのみ見られる不規則な黒い領域は、計算不能となり値が算出されなかった部分である。この黒い領域は、大きな測定誤差が生じていることを示している。このように値が算出されなかった部分は、本発明に係る位相測定方法により測定した位相分布では見られない(図49B)。これらのことは、本発明に係る位相測定方法は、高い測定精度を有することを示している。
【実施例】
【0145】
[実施例4]
実施例4では、実施例3における実験系を用いて、撮像素子と被検査物の距離を測定した例を示す。
【実施例】
【0146】
デジタルホログラフィで測定した物体光の位相は、0~2πの範囲でラッピングされて算出される。そのため、測定した位相分布は、物体の3次元形状(撮像した物体の凹凸)の情報を保有している。その情報を取り出すためには、位相分布にアンラッピング処理を施す必要がある。しかし、被検査物が急峻かつ大きな高低差の凹凸を有する物体である場合、アンラッピング処理(2πを超える位相値を復元する処理)を正確に行うことが難しくなり、正確な3次元形状を取得することは困難である。
【実施例】
【0147】
そこで、デジタルカメラのオートフォーカス機能として広く普及しているコントラスト検出方式および光波の伝搬解析手法をデジタルホログラフィと組み合わせることで、高低差の大きな物体に対しても高精度に3次元形状を取得できることを示す。本実施例で示す距離の測定では、計算機シミュレーションにより光波伝搬を解析するため、レンズを走査する駆動部などを必要とせず、伝搬計算における位相因子の符号を反転させるだけで撮像素子の前方にも後方にも伝搬計算を行うことが可能である。そのため、干渉計などの光学系に、特別な変更を加える必要がない。また、距離を算出する際の精度は、光波伝搬解析の手法に依存し、波長程度の分解能を実現できる。
【実施例】
【0148】
大きな高低差を有する物体の3次元形状を取得するためには、撮像素子から被検査物の高い部分と低い部分の距離をそれぞれ求めればよい。本実施例で示す距離の測定では、撮像素子が取得した2つのホログラムから物体光の複素振幅分布を求め、これを元に光波伝搬解析により逆伝搬過程における複素振幅分布を算出し、高いコントラストが得られる距離を探索することで撮像素子から被検査物までの距離を測定する。たとえば、実施例3では、図48Bに示されるように、撮像面に物体の像が結像されているため、図49に示されるように、高コントラストな画像が得られている。この場合、撮像素子から被検査物までの距離は1600mmであり、撮像面と像面の距離は0mmである。このとき、撮像素子または被検査物を光波の伝搬方向に前後させると、撮像面が像面からずれ、得られる強度および位相のコントラストが低下する。しかし、光波の伝搬解析を行うことで、広範囲にわたって高コントラストとなる位置を探索することができ、被検査物と撮像素子との距離を測定することができる。これを応用すれば、凹凸の高低差が大きくアンラッピングが難しい被検査物に対しても、3次元形状を測定することが可能となる。
【実施例】
【0149】
実施例4では、実施例3における実験系(図48)を用いて、撮像素子と被検査物の距離を測定した。なお、本実験では、図50に示される位置関係となるように撮像素子の位置をずらし、距離xを上記の方法により算出した。その結果を図51に示す。図51Aおよび図51Bは、それぞれ撮像面において検出された物体光の強度分布および位相分布である。一方、図51Cおよび図51Dは、それぞれ撮像面から被検査物の方向へ5.2mmだけ伝搬計算を行った後の、物体光の強度分布および位相分布である。図51Aおよび図51Bでは、いずれも像が全体的にぼやけており、コントラストが低いのに対し、図51Cおよび図51Dでは、図51Aおよび図51Bに比べてコントラストが高くなっていた。これらのことから、撮像面と像面との距離は、5.2mmであることがわかる。
【実施例】
【0150】
なお、デジタルカメラにおけるコントラスト検出方式では、強度分布に対してのみ実行可能であるが、本実施例で示す方法では、位相分布に対してもコントラスト検出法を適用することができる。このため、本実施例で示す方法では、強度分布と位相分布を併用することでより精密に距離を測定することができる。したがって、非常に高低差が大きく急峻に変化する凹凸を有する物体を被検査物とした場合でも、3次元形状を取得する手段として本発明に係る位相測定方法を応用することができる。
【実施例】
【0151】
[実施例5]
実施例5では、本発明に係る参照光不要型の位相測定装置を用いて、マルチモードファイバから出射された光の位相を測定した例を示す。
【実施例】
【0152】
図52は、本実施例で使用した参照光不要型の位相測定装置の構成を示す図である。光ファイバからの出射光は、ファイバの開口数(NA)に応じて大きく拡散するため、レンズを用いてコリメートする必要がある。本実験では、非球面レンズを用いて光ファイバからの出射光をコリメートし、さらに1/2波長板1(HWP1)および偏光ビームスプリッタ1(PBS1)を用いて出射光の偏光方向およびパワーを調整した。その後、偏光ビームスプリッタ2(PBS2)を用いて出射光を物体光になる成分と参照光(第1参照光および第2参照光)になる成分とに分割した。このとき、1/2波長板2(HWP2)を用いて、PBS2で分割される2つの光波の強度比を調節した。
【実施例】
【0153】
PBS2によって分割された物体光(信号光)は、1/2波長板3(HWP3)により45°の直線偏光に変換される。非球面レンズの後方焦点の像は、4f光学系、ビームスプリッタ(BS)および偏光ビームスプリッタ3(PBS3)により2台の撮像素子(CCD1およびCCD2)に結像される。
【実施例】
【0154】
一方、参照光は、1/4波長板(QWP)により円偏光に変換される。対物レンズおよびピンホールにより構成される空間フィルタにより、円偏光に変換された光から低周波成分のみを取り出した。取り出された光は、空間的に一様な位相分布をもち、参照光として機能する。このように生成された物体光および参照光を、2チャネル・ホログラフィック・ダイバーシティ干渉計により干渉させることで、位相が互いに90°異なる2つのホログラムを同時に取得した。これらの2つのホログラムから、従来の位相測定方法または本発明に係る位相測定方法により、元の物体光の強度分布および位相分布を算出した。
【実施例】
【0155】
図53Aは、従来の位相測定方法により算出された光ファイバからの出射光の位相分布である。図53Bは、本発明に係る位相測定方法により算出された光ファイバからの出射光の位相分布である。図53Aにおいて、図53Bには見られない黒い部分は、数値が算出されなかった部分を示している。これらの結果から、本発明に係る位相測定方法は、従来の位相測定方法で生じてしまう測定誤差を強力に補償できることがわかる。
【実施例】
【0156】
本実施例では、マルチモードファイバからの出射光の位相分布を測定した結果を示した。測定した結果は、モード分布の組成および回転の解析に用いられうる。また、出射光をコリメートした非球面レンズの後方焦点位置に空間光変調器を設置し、解析結果を用いて空間光変調器に計算機ホログラムを表示させることで、モード補償を行うこともできる。さらに、偏光ビームスプリッタ1(PBS1)によって分割された成分を同様に測定することで、偏波に対してダイバーシティに位相測定を行うことができ、偏波保持型の位相共役光の生成などに利用することもできる。
【実施例】
【0157】
本出願は、2012年9月27日出願の特願2012-215000に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明に係る位相測定方法および位相測定装置は、位相測定を必要とするあらゆる分野に適用することができる。たとえば、本発明に係る位相測定方法および位相測定装置は、製品検査、生体測定、光通信、光ストレージ、光情報セキュリティなどにおいて有用である。
【符号の説明】
【0159】
BS ビームスプリッタ
CCD 撮像素子
HWP 1/2波長板
PBS 偏光ビームスプリッタ
QWP 1/4波長板
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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