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明細書 :エマルション流の制御方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-123907 (P2016-123907A)
公開日 平成28年7月11日(2016.7.11)
発明の名称または考案の名称 エマルション流の制御方法
国際特許分類 B01D  11/04        (2006.01)
B01F   3/08        (2006.01)
B01J  13/00        (2006.01)
FI B01D 11/04 A
B01F 3/08 A
B01J 13/00 A
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 31
出願番号 特願2014-264792 (P2014-264792)
出願日 平成26年12月26日(2014.12.26)
発明者または考案者 【氏名】長縄 弘親
【氏名】柳瀬 信之
【氏名】永野 哲志
出願人 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
個別代理人の代理人 【識別番号】110001922、【氏名又は名称】特許業務法人 日峯国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4D056
4G035
4G065
Fターム 4D056AB04
4D056AB06
4D056AC02
4D056AC05
4D056AC06
4D056AC13
4D056AC15
4D056AC29
4D056BA01
4D056CA06
4D056CA13
4D056CA39
4G035AB37
4G035AB40
4G035AC15
4G035AE02
4G065AA05
4G065AA09
4G065AB01X
4G065AB03X
4G065AB21X
4G065BB01
4G065CA02
4G065GA01
要約 【課題】重力による相分離を待つことなく、迅速にエマルション流を消滅させる方法を提供することにある。
【解決手段】エマルション流の発生する混合部が水相分離部の側方に位置し、有機相分離部と混合部との間の開口部から流出したエマルション流が、水相分離部の水相と接触することなく、水相分離部と有機相分離部との間に設置された仕切り板の上を移動し、なおかつ、該仕切り板の端に位置する水相分離部と有機相分離部との間の開口部において初めて水相分離部の水相と接触する際に消滅するようにエマルション流の発生と消滅を制御する。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
重液相と軽液相の2液相から成るエマルション流の発生と消滅について、重液相、軽液相の少なくとも一方を、ノズルヘッドで微細化した液滴として、もう一方の液相の中に噴出させることで、2液相が混合したエマルション流が発生する混合部が、2液相が分離した後の重液相が集まる重液相分離部に対して側方に位置し、2液相が分離した後の軽液相が集まる軽液相分離部と前記混合部との間の開口部から流出したエマルション流が、前記重液相分離部の重液相と接触することなく、前記重液相分離部と前記軽液相分離部との間に設置された仕切り板の上を移動し、なおかつ、該仕切り板の端に位置する前記重液相分離部と前記軽液相分離部との間の開口部において初めて前記重液相分離部の重液相と接触する際にエマルション流が消滅するように制御するエマルション流の制御方法。
【請求項2】
請求項1に示す重液相分離部、軽液相分離部、及び混合部について、重液相分離部が、軽液相分離部の下方かつ混合部の左右いずれか、あるいは左右両方もしくは周囲に位置し、軽液相分離部が、混合部の左右いずれか、左右両方もしくは周囲、あるいは混合部と重液相分離部の上方にまたがって位置するところの、請求項1に記載のエマルション流の制御方法。
【請求項3】
請求項2に示す重液相分離部、軽液相分離部、混合部の配置において、筒を二重に重ねた構造を持つところの、請求項1に記載のエマルション流の制御方法。
【請求項4】
請求項1に示す混合部を縦方向に区分けする平面あるいは曲面の仕切り板を設置し、混合部の該仕切り板で区切られたそれぞれの区分に、1個もしくは複数個のノズルヘッドを設置するところの、請求項1に記載のエマルション流の制御方法。
【請求項5】
請求項1に示す混合部で発生したエマルション流が、該混合部の側方に向かって移動する先に張り出し部位を設けることで、水溶液中の固形成分を該張り出し部位に連続的に集積させるところの、請求項1に記載のエマルション流の制御方法。
【請求項6】
軽液相分離部が、混合部の左右いずれか、あるいは左右両方もしくは周囲に位置する場合において、上方に向けて過度に発達したエマルション流が、混合部と軽液相分離部との間に設置された仕切り板の上方に位置する開口部からオーバーフローして、該混合部から側方に向かって移動するエマルション流と合流するところの、請求項1に記載のエマルション流の制御方法。
【請求項7】
軽液相分離部が、混合部の左右いずれか、あるいは左右両方もしくは周囲に位置する場合において、ノズルヘッドの最大径を混合部上部の直径と近づける、混合部上部の器壁と仕切り板に突起物を設ける、あるいはこれらの両方によって、エマルション流の通過経路を狭めることで、混合部において過度に発達したエマルション流の消滅を促進するところの、請求項1に記載のエマルション流の制御方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌、振動、遠心力などの機械的な外力を用いることなく、ポンプなどによる送液のみによって、エマルション流(水相と有機相が混合して乳濁した状態の流れ)の発生と消滅を制御する方法に関するものである。具体的には、水相、有機相の少なくとも一方を、ノズルヘッドで微細化した液滴として、もう一方の液相の中に噴出させることで、エマルション流を発生させ、同時に、エマルション流が通過する部位の断面積が急激に増加する容器構造を利用することで、重力による相分離を待つことなく、迅速にエマルション流を消滅させる方法を、より高度化するものである。
【背景技術】
【0002】
水相と有機相から成る2液相系は、液液抽出(溶媒抽出)による目的成分の分離・精製、製薬・食品・化学工業における化学合成での生成物の分別回収などに用いられ、様々な産業分野において重要な役割を果たしている。たとえば、液液抽出法は、金属の精製、廃水中の有害成分の除去、有価成分の回収・リサイクルなどに用いられている。
【0003】
水相(多くの場合、重液相)と有機相(多くの場合、軽液相)を混合してエマルション化(乳濁化)するとき、一般に撹拌、振とうなどの機械力が用いられる。たとえば、剪断刃先端を持つシャフトの回転による機械的撹拌を行うホモジナイザーがよく知られている。一方、機械力によってエマルション化された水相と有機相は、乳化剤を含まない場合は、機械力を停止して静置すれば重力によって分離し、水相と有機相に分離する。また、重力分離を待たず迅速に分相したいときには、一般的に遠心力による遠心分離が行われる。
【0004】
工業的に液液抽出を行うには、このような2液相の混合と分離を連続的に行う手法が必要である。現在、最も普及している工業的液液抽出の手法は、ミキサー部においてインペラー撹拌によって2液相を混合して発生させたエマルションを、セトラー部に導いて重力による2液相の分離を待つミキサーセトラー法である。また、分相に遠心力を用いて迅速処理を可能とする遠心抽出法も開発されたが、装置構造が複雑でコスト高になり、かつ、装置内に付着した固形成分の除去などで定期的なオーバーホールを要することから、ミキサーセトラー法のようには普及していない。
【0005】
一方、最近開発されたエマルションフロー法は、撹拌、振とうなどの機械的外力を用いることなく、ポンプ送液のみで2液相を混合してエマルション化し、かつ、重力分離を待つことなく、かといって遠心力のような機械的外力を用いることもなく、ポンプによる定量送液を利用してエマルション化した2液相を迅速に分離することができる手法である(特許文献1-3)。また、装置構造は極めてシンプルで簡便に操作できる。たとえば、図1に示す向流方式の装置は、有機相の微細液滴を下から噴出させて、上から導入した水相と向流接触させる仕組みを持つ。この装置は、中央の混合部(2液相がエマルション化する部位)と、その上下に位置する相分離部(分離後の両相が別々に集まる部位)から成る、極めてシンプルな構造の装置である。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第5305382号公報
【特許文献2】特許第5565719号公報
【特許文献3】特開2010-82530号公報
【特許文献4】特許第4759769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エマルションフロー法は、上述のように画期的な手法ではあるが、これを汎用的かつ標準的な手法として確立し、工業利用するためには、いくつかの解決すべき課題がある。
【0008】
エマルションフロー法を実用化する過程において、4つの課題が抽出された。すなわち、1)水相の比重が大きいとき、エマルション流が不安定になったり、むらが多くて均質性の低い状態になったりすることがある、2)抽出速度が小さいとき、水相と有機相の接触時間が不十分で、抽出率が小さくなってしまうことがある、3)処理対象の水溶液に含まれる固形成分を連続的に回収・除去することができず、固形成分が蓄積することでエマルションの質が悪化することがある、4)エマルションが一時的に急成長して、その消滅が困難になることがある、の4つの課題が、本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
4つの課題それぞれについて、その原因を精査した結果、以下に示す結論及び解決方法に到達した。
【0010】
1)水相の比重が大きいときのエマルション流の不安定化と均質性の低下
図1に示す向流方式の装置では、水相の比重が大きいとき(濃厚な水溶液あるいは分子量の大きい成分を含む水溶液)、一部の水相がエマルション化する前に水相分離部に流出してしまうことがある。この現象は、比重の大きい水相では、混合部で良好なエマルションが生じる前に、一部が短経路(ショートパス)をつくって混合部の下方に位置する水相分離部に流れ込んでしまうことが原因と推測される。すなわち、比重が大きい水相の場合、重力が水相を下方に沈降させようとする力の方がエマルション内に水相を保持しようとする力よりも勝ることがあると考えられる。
【0011】
この現象を防ぐための方法として、水相分離部と混合部の配置の変更が考えられる。すなわち、水相分離部が混合部の下に位置する構造を改める。たとえば、水相分離部を混合部の側方に配置することで、水相が重力に逆らって上方に移行しない限り、水相分離部には到達できない仕組みとすることが、有効な解決方法である。
【0012】
2)抽出速度が小さいときの不十分な2液相接触時間と低い抽出率
抽出速度が小さい系において、目的成分に対して十分に大きな抽出率を得るためには、定容量ポンプによる水相送液の流速を有機相送液の流速よりも大幅に小さくすることで対応することができる。しかしながら、向流方式の装置(図1)のように、上方から導入された水相が一気に下方の水相分離部まで移行してしまう構造では、このような対応にも限界があり、十分な抽出率が得られないことがある。すなわち、この問題を解決するには、水相と有機相の接触時間を長く確保できる方式に改良する必要がある。
【0013】
1つには、水相分離部を混合部の側方に配置する方式が有効である。この方式は、比重が大きい水相を扱うときの方式と同じである。この方式では、水相液滴は重力に逆らって上方に移行しなければ水相分離部に到達できないことから、必然的に水相と有機相の接触時間が長くなるため、有効な解決方法である。
【0014】
3)固形成分の蓄積によるエマルションの状態悪化
固形成分の蓄積によるエマルションの状態悪化を避けるため、固形成分を連続的に回収・除去する必要がある。疎水性が極端に高くなく、数μm以上の粒径を持つ固形成分は、水に覆われている粒子表面の面積の大きさから、有機相には、事実上、分配されない。また、固形成分は液液界面に集まる性質がある。よって、有機相を噴出させるノズルヘッドが目詰まりさせることなく、固形成分を液液界面に集めることができる。
【0015】
向流方式のエマルションフロー装置では、固形成分を混合部に溜め込む形で回収・除去することができる。しかしながら、集めた固形成分を装置外に取り出すには、装置を止めたうえでピストンなどを使って押し出す必要がある(特許文献3)。このような、固形成分を連続的に回収・除去できない方式では、固形成分が多く含まれる場合、あるいは固形成分が析出しやすい場合には、処理をスムーズに進められない。
【0016】
この問題の解決にも、水相分離部を混合部の側方に配置する方式が有効である。すなわち、このような容器構造において、エマルション流が混合部から水相分離部に向けて移動する際に、有機相分離部の下部を通過するルート上に固形成分を捕集するトラップ部位を設けることで、固形成分を連続的に回収・除去することが可能であり、有効な解決方法である。
【0017】
4)エマルションの一時的な急成長に伴うエマルション流制御困難
向流方式のエマルションフロー装置(図1)では、有機相分離部において、エマルションが一時的に急成長する現象がしばしば観測される。この現象は、装置の長期運転に際して不定期に発生するものであり、現時点では、そのメカニズムを解明できていないため、予見することができない。
【0018】
そこで、急成長したエマルションをオーバーフローさせながら水相分離部に導くことでエマルションを消滅させる、新たな仕組み用いて、この問題を解決する。
【0019】
上記4つの課題のいずれについても、具体的には、本発明の一つの観点に係るエマルション流の制御方法に基づいて、重液相と軽液相の2液相から成るエマルション流の発生と消滅について、重液相、軽液相の少なくとも一方を、ノズルヘッドで微細化した液滴として、もう一方の液相の中に噴出させることで、2液相が混合したエマルション流が発生する混合部が、2液相が分離した後の重液相が集まる重液相分離部に対して側方に位置し、2液相が分離した後の軽液相が集まる軽液相分離部と前記混合部との間の開口部から流出したエマルション流が、前記重液相分離部の重液相と接触することなく、前記重液相分離部と前記軽液相分離部との間に設置された仕切り板の上を移動し、なおかつ、該仕切り板の端に位置する前記重液相分離部と前記軽液相分離部との間の開口部において初めて前記重液相分離部の重液相と接触する際にエマルション流が消滅するように制御している。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、従来の向流方式のエマルションフロー法の持つ上記4つの課題のすべてが解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来エマルションフロー法(向流方式)に基づく装置の構造と仕組み。
【図2】本発明の方法に基づく代表的な装置の構造(IIb型容器)と仕組み。
【図3(a)】本発明の方法に基づく6種類のI型容器の構造。
【図3(b)】本発明の方法に基づく6種類のI型容器の構造。
【図3(c)】本発明の方法に基づく6種類のI型容器の構造。
【図3(d)】本発明の方法に基づく6種類のI型容器の構造。
【図3(e)】本発明の方法に基づく6種類のI型容器の構造。
【図3(f)】本発明の方法に基づく6種類のI型容器の構造。
【図4(a)】本発明の方法に基づく4種類のII型容器の構造。
【図4(b)】本発明の方法に基づく4種類のII型容器の構造。
【図4(c)】本発明の方法に基づく4種類のII型容器の構造。
【図4(d)】本発明の方法に基づく4種類のII型容器の構造。
【図5(a-1)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(a-2)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(b-1)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(b-2)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(c-1)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(c-2)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(d-1)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(d-2)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(e-1)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(e-2)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(f-1)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図5(f-2)】6種類のI型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図6(a-1)】4種類のII型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図6(a-2)】4種類のII型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図6(b-1)】4種類のII型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図6(b-2)】4種類のII型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図6(c-1)】4種類のII型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図6(c-2)】4種類のII型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図6(d-1)】4種類のII型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図6(d-2)】4種類のII型容器におけるノズルヘッドの設置方法。
【図7(a-1)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(a-2)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(b-1)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(b-2)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(c-1)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(c-2)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(d-1)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(d-2)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(e-1)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(e-2)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(f-1)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図7(f-2)】6種類のI型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図8(a-1)】4種類のII型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図8(a-2)】4種類のII型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図8(b-1)】4種類のII型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図8(b-2)】4種類のII型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図8(c-1)】4種類のII型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図8(c-2)】4種類のII型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図8(d-1)】4種類のII型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図8(d-2)】4種類のII型容器の2液相セッティング状態及び稼動状態の様子。
【図9】固形成分を連続回収するための張り出し部位(IIb型を例として)。
【図10】固形成分を連続回収するための張り出し部位(IId型を例として)。
【図11】IIb型容器の混合部からオーバーフローするエマルションの様子。
【図12】IIb型容器における水相用ノズルヘッド形状・サイズ・構造を利用したエマルションの通路の狭窄化(該ノズルヘッド内にエマルション流が侵入しないタイプ)。
【図13】IIb型容器における水相用ノズルヘッド形状・サイズ・構造を利用したエマルションの通路の狭窄化(該ノズルヘッド内にエマルション流が侵入するタイプ)。
【図14】IIb型容器の混合部上部における器壁・仕切り板の突起物を利用したエマルション流の通路の狭窄化。
【図15】IIb型容器における水相用ノズルヘッド形状・サイズ・構造及び混合部上部での器壁・仕切り板の突起物を利用したエマルション流の通路の狭窄化。
【図16】IIb型容器でのパラジウムの抽出率と送液量の関係を向流方式と比較した結果。
【図17】IIb型容器でのニッケルの抽出率と送液量の関係を向流方式と比較した結果。
【図18】IIb型容器での固形成分含有廃液からのウランの抽出率と送液量の関係を向流方式と比較した結果。
【図19】IIb型容器を用いて顔料成分含有廃液(自動車用塗料廃液)を処理した後の排水のCODと送液量の関係を向流方式と比較した結果。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るエマルション流の制御方法を利用した装置について、大別して2種類の基本的な容器構造(I型及びII型)を示すことができる。I型は、軽液相(多くの場合、有機相)の相分離部1が、互いに隣り合わせで配置されている混合部2と重液相(多くの場合、水相)の相分離部3の両方の上方にまたがって位置する構造であり、II型は、重液相分離部3、軽液相分離部1のいずれも、混合部2の側方に上下に重なって位置する構造である。本発明の中で代表的な型式(IIb型)の装置について、その構造と仕組みを図2に示す。なお、軽液相用ノズルヘッド4は、大、小それぞれ1個ずつ(合計で2個)設置され、重液相用ノズルヘッド5は、エマルション流を消滅させやすい形状(改良型の形状)のものを設置している。

【0023】
また、I型では、混合部2に存在する液相(重液相、軽液相、あるいは2液乳化相)は容器内の気相と接していない。容器内の気相と接触しているのは、軽液相分離部1の液相(軽液相)のみである。一方、II型では、混合部2の液相と軽液相分離部1の液相が隣り合わせで存在し、両方ともが容器内の気相と接している。

【0024】
I型の片壁タイプ(重液相分離部3が混合部2の左右いずれかに位置するタイプ)には、軽液相分離部1と混合部2の間の開口部が容器の端に位置するIa型(図3の(a))、Ia型と同様な位置に該開口部があり、かつ該開口部付近から垂直に容器底部に向けて仕切り板を設置したIb型(図3の(b))、該開口部が容器の中央付近に位置するIc型(図3の(c))、Ic型と同様な位置に該開口部があり、かつ該開口部付近から垂直に容器底部に向けて仕切り板を設置したId型(図3の(d))の4種類がある。

【0025】
一方、II型の片壁タイプには、混合部2と軽液相分離部1の間に設置された仕切り板が短く、容器の底に近い位置には至らないIIa型(図4の(a))、及び該仕切り板が容器の底に近い位置にまで伸びているIIb型(図4の(b))の2種類がある。

【0026】
また、混合部2が容器の中央付近に位置する両壁・周囲壁タイプ(重液相分離部3が混合部2の左右両方もしくは周囲に位置するタイプ)について、I型では、軽液相分離部1が混合部2及び混合部2の左右両方もしくは周囲にある重液相分離部3にまたがって位置するIe型(図3の(e))、Ie型と同様な構造を持ち、かつ軽液相分離部1と混合部2の間の開口部の付近から垂直に容器底部に向けて仕切り板を設置したIf型(図3の(f))の2種類がある。なお、Ie型及びIf型では、重液相分離部3/混合部2/重液相分離部3となるように容器を並列して設置する構造(両壁タイプ)よりも、二重筒構造(周囲壁タイプ)の方がシンプルで好ましい。

【0027】
また、II型の両壁・周囲壁タイプには、混合部2の左右両方もしくは周囲に重液相分離部3と軽液相分離部1の両方が配置され、かつ混合部2と軽液相分離部1の間に設置された仕切り板が短く、容器の底に近い位置には至らないIIc型(図4の(c))、及びIIc型と同様な構造で、該仕切り板が容器の底に近い位置にまで伸びているIId型(図4の(d))の2種類がある。なお、IIc型及びIId型でも、重液相分離部3/混合部2/重液相分離部3となるように容器を並列して設置する両壁タイプの構造よりも、二重筒の周囲壁タイプの構造の方がシンプルで好ましい。

【0028】
ここで、上記のそれぞれの容器構造について、軽液相用ノズルヘッド4、重液相用ノズルヘッド5の設置方法について述べる。

【0029】
I型のうち、Ia型、Ic型、Ie型では、重液相用ノズルヘッド4、軽液相用ノズルヘッド4のそれぞれを1個ずつ設置する。なお、複数のノズルヘッドを束ねた形状のノズルヘッドは1個のノズルヘッドとみなす。

【0030】
設置方法としては、重液相用ノズルヘッド5、軽液相用ノズルヘッド4のいずれも、容器下方の互いに近い位置に設置する方法(図5の(a-1)、(c-1)、(e-1))、重液相用ノズルヘッド5は容器の上方に設置し、軽液相用ノズルヘッド4は容器の下方に設置する方法(図5の(a-2)、(c-2)、(e-2))の2通りがある。

【0031】
一方、I型のうち、軽液相分離部1と混合部2の間の開口部付近から垂直に容器底部に向けて仕切り板を設置したIb型、Id型、If型では、重液相用ノズルヘッド5は1個であるのに対し、軽液相用ノズルヘッド4は複数個を設置する。この場合も、設置方法としては、重液相用ノズルヘッド5、軽液相用ノズルヘッド4のいずれも、容器下方の互いに近い位置に設置する方法(図5の(b-1)、(d-1)、(f-1))、重液相用ノズルヘッド5は容器の上方に設置し、軽液相用ノズルヘッド4は容器の下方に設置する方法(図5の(b-2)、(d-2)、(f-2))の2通りがある。

【0032】
なお、Ib型及びId型では、軽液相用ノズルヘッド4の数は、通常、2個(大1個、小1個)であるが、If型で、重液相分離部3/混合部2/重液相分離部3の並列構造の容器の場合は、通常、3個(大1個、小2個)である。また、If型の二重筒構造の容器の場合は、通常、5個以上(大1個、小4個以上)である。

【0033】
また、軽液相用ノズルヘッド4への送液は、別々のポンプから行っても、枝分かれ配管を用いて1台のポンプで行っても良い。

【0034】
次に、II型のうち、IIa型、IIc型では、重液相用ノズルヘッド5、軽液相用ノズルヘッド4のそれぞれを1個ずつ設置する。設置方法としては、重液相用ノズルヘッド5、軽液相用ノズルヘッド4のいずれも、容器下方の互いに近い位置に設置する方法(図6の(a-1)、(c-1))、重液相用ノズルヘッド5は容器の上方に設置し、軽液相用ノズルヘッド4は容器の下方に設置する方法(図6の(a-2)、(c-2))の2通りがある。

【0035】
一方、II型のうち、仕切り板が容器の底に近い位置にまで伸びているIIb型、IId型では、重液相用ノズルヘッド5は1個であるのに対し、軽液相用ノズルヘッド4は複数個を設置する。この場合も、設置方法としては、重液相用ノズルヘッド5、軽液相用ノズルヘッド4のいずれも、容器下方の互いに近い位置に設置する方法(図6の(b)-1、(d)-1)、重液相用ノズルヘッド5は容器の上方に設置し、軽液相用ノズルヘッド4は容器の下方に設置する方法(図6の(b)-2、(d)-2)の2通りがある。

【0036】
なお、IIb型では、軽液相用ノズルヘッド4の数は、通常、2個(大1個、小1個)であるが、IId型で、重液相分離部3/混合部2/重液相分離部3の並列構造の容器の場合は、通常、3個(大1個、小2個)である。また、IId型の二重筒構造の容器の場合は、通常、5個以上(大1個、小4個以上)である。

【0037】
また、II型の場合もI型と同様に、軽液相用ノズルヘッド4への送液は、別々のポンプから行っても、枝分かれ配管を用いて1台のポンプで行っても良い。

【0038】
I型での水相と有機相のセッティング時の状態及び稼動時におけるエマルション流の発生と消滅の様子を、図7の(a-1)、(a-2)、(b-1)、(b-2)、(c-1)、(c-2)、(d-1)、(d-2)、(e-1)、(e-2)、(f-1)、(f-2)に図示する。II型での水相と有機相のセッティング時の状態及び稼動時におけるエマルション流の発生と消滅の様子を、図8の(a-1)、(a-2)、(b-1)、(b-2)、(c-1)、(c-2)、(d-1)、(d-2)に図示する。

【0039】
I型、II型のいずれも、必要に応じて、水溶液中の固形成分を連続的に集積できる張り出し部位6を設けることができる。該張り出し部位6は、片壁タイプ(重液相分離部3が混合部2の左右いずれかに位置するタイプ)では、容器片端に設置され、両壁・周囲壁タイプ(重液相分離部3が混合部2の左右両方もしくは周囲に位置するタイプ)では、容器両端に設置される。ただし、二重筒構造の両壁・周囲壁タイプでは、容器を取り囲むリング形状の張り出し部位6となる。片壁タイプの例として、IIb型に設置された張り出し部位6を図9に示す。また、両壁・周囲壁タイプの例として、IId型に設置された張り出し部位6を図10に示す。

【0040】
II型では、混合部2においてエマルション流が過度に発達した場合、混合部2と軽液相分離部1との間に設置された仕切り板の上方に位置する開口部からオーバーフローさせることができる。図11に示すように、混合部2からオーバーフローしたエマルション流は、側方に向かって移動するエマルション流の本流と合流することで、本流のエマルション流とともに容器の端で消滅させることができる。このように、II型では、不定期に一時的な急成長をするエマルションを制御することができる。詳しくは、実施例5において述べる。

【0041】
装置稼動時において、混合部2のエマルション相(2液乳化相)と有機相分離部1の有機相とが狭い開口部で接しているII型では、エマルション流がオーバーフローによって有機相分離部1に流出しやすい。このことは、上述のように、不定期に起こるエマルションの急成長に対応できる点においては利点となるが、エマルションが常にオーバーフローする仕組みでは、オーバーフローしたエマルションが上から下へと移行する経路を外れた微細液滴によって、容器上部の有機相に濁りが生じる懸念がある。有機相が容器上部で回収されて再び有機相用ノズルヘッド4に導かれることで装置内を循環するエマルションフロー法の装置構造において、容器上部の有機相での濁りは好ましくない。そこで、定常運転時においてはエマルション流がオーバーフローしないようにするため、混合部2で発生したエマルション流がオーバーフローする前に消滅する仕組みを考案した。

【0042】
具体的には、水相用ノズルヘッド5の形状・サイズ・構造、あるいは器壁・仕切り板の突起物7、もしくはこれら両方に対して、図12、図13、図14、及び図15に例示したような構造にすることによって、混合部2でのエマルションの消滅を促進することができる。詳しくは、実施例6において述べる。
【実施例1】
【0043】
水相の比重が大きい系での連続液液抽出
【実施例1】
【0044】
比重が大きい水相の例として、高濃度の貴金属(パラジウム)を含む水溶液を用いて、エマルションフロー法による連続抽出を行った。水相は、1万ppmから1万5千ppmのパラジウムを含む0.8 M(mol/dm3)塩酸水溶液とした。このとき、水相の比重は1.25から1.35の間であった。パラジウムを抽出する有機相には、ジヘキシルスルフィド(DHS)20vol%(体積パーセント)、デカノール5vol%、n-ヘキサン75vol%から成る有機溶液を用いた。
【実施例1】
【0045】
I型及びII型のエマルションフロー装置を用いてパラジウムの連続抽出を行い、従来の向流方式の装置と比較した。なお、本実施例で用いた装置は試作品であることから、向流方式も含めて、抽出容器の材料は、安価で容易に加工でき、かつ透明でエマルションの様子を観察しやすいポリ塩化ビニルを用いた。しかしながら、実用に供する装置では、不透明ではあるが耐薬品性が高く物理的な強度も高い、強化プラスチック、ステンレススチール等を材料として用いることが好ましい。その場合、エマルションの状態を観察できる透明材料(ガラス等)を用いた窓を設置しても良い。それぞれのエマルションフロー装置について、有機相の噴出には、メッシュサイズ40μmの焼結ガラス板を使ったノズルヘッド4、あるいは、直径50μmの孔2千個を等間隔に配置したテフロンシートを使ったノズルヘッド4、水相の導入には、直径2mmの孔20個を有する筒状のテフロン(登録商標)製ノズルヘッド5を用いた。
【実施例1】
【0046】
また、水相の滞留時間は60分に設定するとともに、定容量ポンプによる水相の送液流速は、有機相の送液流速の10分の1以下とした。なお、エマルションフロー装置から排出された水相(排水)は一定送液量ごとに採取し、パラジウムの抽出率を求めるため、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により、排水中のパラジウム濃度を測定した。
【実施例1】
【0047】
向流方式、I型及びII型のいずれについても、装置の運転が定常に至ってからは、パラジウム抽出率はほとんど変化しなかった。最終的な実験結果として、向流方式の装置でのパラジウム抽出率(様々な送液量での抽出率の相加平均値)は28%であったのに対し、I型及びII型では、IaからIf及びIIaからIIdのそれぞれの該相加平均値として、78%から96%の抽出率が得られた。また、エマルションが発生する混合部2に対してLEDライトを当てて目視観察したところ、向流方式ではエマルションにむらが見られたが、I型及びII型ではむらは見られなかった。すなわち、I型及びII型ではエマルションの質が高いことが、より大きな抽出率が得られた一因と考えられる。加えて、この抽出系でのパラジウムの抽出速度は小さいため、上方から導入された水相が一気に下方の水相分離部3まで移行してしまう構造の向流方式では、水相と有機相の接触時間が設定どおりには実現できなかった可能性もある。
【実施例1】
【0048】
なお、I型とII型の間では、基本的に大きな差はなく、いずれの場合も、複数個の有機相用ノズルヘッド4が設置されている装置で、より抽出率が大きかった。このことは、複数個の有機相用ノズルヘッド4が設置されている場合には、1台の装置の中で2段に近い処理ができていることを示唆している。複数個の有機相用ノズルヘッド4が設置されている装置では、エマルション流が、容器下部まで伸びている仕切り板と有機相用ノズルヘッド4の間の狭窄部位を通過することになり、その際に相分離が起こる。いったん相分離された水相は、2番目の有機相用ノズルヘッド4の周辺に運ばれ、有機相液滴の噴出にさらされることで、再度、エマルション化される。すなわち、2度、液液抽出を行ったことに相当する。
【実施例1】
【0049】
また、片壁タイプと両壁・周囲壁タイプの比較においては、I型、II型のいずれの場合も、目立った差はなかった。両壁・周囲壁タイプの中で有機相用小ノズルヘッド4の数の差で比較すると、小ノズルヘッド4の数を4個から6個に増やすと、若干、抽出率が向上したが、顕著ではなかった。一方、ノズルヘッド4、5の設置位置については、I型、II型のいずれについても、容器下方に水相用ノズルヘッド5と有機相用ノズルヘッド4の両方を近づけて設置するよりも、水相用ノズルヘッド5は容器の上方に有機相用ノズルヘッド4は容器の下方に設置する方が、やや抽出率が大きくなった。
【実施例1】
【0050】
図16に、本発明の代表的な型式であるIIb型の装置での試験結果を、従来型の向流方式の試験結果と比較して示す。横軸は送液量(L)、縦軸はパラジウムの抽出率(%)である。IIb型は、複数個の有機相用ノズルヘッド4を持つ型式であり、他の型式と比べて、多くの場合、より高い抽出率が得られる。また、スケールアップの影響を示すため、図16では、2つのサイズのIIb型を比較した。具体的には、縦115mm、横58mm、高さ600mmで体積が約4 L(リットル)の装置(小型装置と称する)、及び、縦200mm、横100mm、高さ900mmで体積が約18 Lの装置(大型装置と称する)を用いた。また、向流方式としては、体積が約14 Lの装置(軽液相分離部が4 L、混合部が4 L、重液相分離部が6 Lで、全体の高さが700mmの装置)を用いて比較した。
【実施例1】
【0051】
なお、IIb型のノズルヘッドの設置方法は、水相用ノズルヘッド5を容器の上方に、有機相用ノズルヘッド4を容器の下方に設置する方法とし、有機相用ノズルヘッド4の数は2個(大、小1個ずつ)とした。また、水相用ノズルヘッド5と有機相用ノズルヘッド4の間の距離は、小型装置では約480mm、大型装置では約740mmとした。また、ノズルヘッドは、水相用ノズルヘッド5、有機相用ノズルヘッド4のいずれについても、仕切り板で区切られた区分内の中心に設置し、有機相用ノズルヘッド4と器壁(あるいは仕切り板)との隙間は、該ノズルヘッド4(大)では5mmから10mm、該ノズルヘッド4(小)では2mmから5mmの間で設定した。
【実施例1】
【0052】
IIb型装置の試験時のセッティングについて、まず、重液相分離部3の体積すべてを水相で満たした後、さらに、混合部2も、その半分の体積まで水相で満たした。その後、混合部2の残り半分と軽液相分離部1を有機相で満たした。なお、有機相は、混合部2と軽液相分離部1の間の仕切り板の上端を超える位置にまで満たしたが、その上方には気相を残した。装置の運転時には、まず、有機相用の送液ポンプを稼動させ、安定な液滴発生を確認した後、水相用の送液ポンプを稼動させた。また、小型装置、大型装置のいずれについても、水相と有機相の送液流速比を1:15に設定した。なお、水相を連続的に送液する前に、装置内の水相を循環させ、パラジウム抽出率がほぼ一定値になってから、連続的な送液を開始した(循環モードから連続送液モードに切り替えた)。図16のデータは、連続送液モードに切り替えた後に取得したものである。
【実施例1】
【0053】
図16に示されるように、IIb型の小型装置(体積4 L)、大型装置(体積18 L)のいずれについても、安定して高いパラジウム抽出率(91.5%から99.2%で相加平均値96%)が得られた。また、小型装置から大型装置にスケールアップしても、パラジウム抽出率に大きな差がないこともわかった。なお、体積14 Lの従来の向流方式でのパラジウム抽出率(相加平均値で約28%)との差は歴然であった。
【実施例2】
【0054】
抽出速度が小さい系での連続液液抽出
【実施例2】
【0055】
実施例1で示したパラジウムの抽出も、抽出速度が小さい系に該当するが、さらに、もう1例として、本実施例では、無電解ニッケルめっき廃液を模擬した水溶液からのニッケルの連続抽出を、抽出速度が小さい系として選択した。無電解ニッケルめっき廃液の模擬液は、ニッケル塩0.08 M、ナトリウム塩2.35 M、亜リン酸塩0.70 M、次亜リン酸塩0.23 M、乳酸0.30 M、硫酸イオン0.51 Mを含む水溶液である。ニッケルを抽出する有機相は、0.65 M 2-ヒドロキシ-5-ノニルアセトフェノンオキシム(商標名LIX84-I)、0.062 M 2-エチルヘキシル-2-エチルヘキシルホスホン酸(商標名PC88A)を炭化水素系溶媒(商標名Shellsol D70)に溶解した有機溶液である。ニッケルの連続液液抽出実験に際しては、ニッケルの抽出率を大きくするため、水酸化ナトリウムを加えてpHを6.5に調整した。
【実施例2】
【0056】
I型及びII型のエマルションフロー装置を用いてニッケルの連続抽出を行い、向流方式(従来方式)の装置と比較した。それぞれのエマルションフロー装置について、有機相の噴出には、メッシュサイズ40μmの焼結ガラス板を使ったノズルヘッド4、あるいは、直径50μmの孔2千個を等間隔に配置したテフロンシートを使ったノズルヘッド4、水相の導入には、直径2mmの孔20個を有する筒状のテフロン(登録商標)製ノズルヘッド5を用いた。また、水相の滞留時間は20分に設定した。なお、エマルションフロー装置から排出された水相(排水)は一定送液量ごとに採取し、ニッケルの抽出率を求めるため、ICP-MSにより排水中のニッケル濃度を測定した。
【実施例2】
【0057】
向流方式、I型及びII型のいずれについても、装置の運転が定常に至ってからは、ニッケル抽出率はほとんど変化しなかった。最終的な実験結果として、向流方式でのニッケル抽出率(様々な送液量での抽出率の相加平均値)は64%であったのに対し、I型及びII型では、IaからIf及びIIaからIIdのそれぞれの該相加平均値として、78%から95%の抽出率が得られた。一方、LEDライトでの目視観察によるエマルションの質については、向流方式とI型及びII型で差は見られなかった。このことは、実施例1と異なる点であり、I型及びII型では、抽出速度が小さいときに水相と有機相の接触時間を十分に確保できない、という向流方式の抱える問題が解決できたことを示唆している。
【実施例2】
【0058】
また、I型とII型のいずれの場合も、複数個の有機相用ノズルヘッド4が設置されている装置で抽出率が大きかった。この傾向は、実施例1と同様である。すなわち、当該実施例においても、1台の装置の中で2段に近い処理ができていることが示唆される。一方で、I型では、定容量ポンプによる水相の送液流速を有機相の送液流速の3分の1以上に設定すると、混合部2での水相と有機相の体積比が徐々に変化して、水相の比率が大きくなってしまうことがわかった。また、水相の送液流速が大きい条件においては、I型での抽出率は低下する傾向があり、II型との間に有意な差が生じた。なお、II型では、有機相の送液流速に対する水相の送液流速に上述のような制限はなく、常に安定して高い抽出率が得られた。すなわち、水相の送液流速に制限を受けない点において、II型はI型よりも優れている。
【実施例2】
【0059】
また、片壁タイプと両壁・周囲壁タイプの比較においても、I型、II型のいずれの場合も、目立った差はなかった。一方、ノズルヘッド4、5の設置位置については、I型、II型のいずれについても、容器下方に水相用ノズルヘッド5と有機相用ノズルヘッド4の両方を近づけて設置するよりも、水相用ノズルヘッド5は容器の上方で有機相用ノズルヘッド4は容器の下方に設置する方が、やや抽出率が大きくなった。この傾向も、実施例1と同様である。
【実施例2】
【0060】
図17に、本発明の代表的な型式であるIIb型の装置での試験結果を、従来型の向流方式の試験結果と比較して示す。横軸は送液量(L)、縦軸はニッケルの抽出率(%)である。なお、IIb型の装置(小型装置と大型装置の2つのサイズ)及び向流方式の装置は、実施例1で用いたものと同じであり、ノズルヘッドの設置方法、試験時の水相と有機相のセッティング、運転時の操作についても同様である。ただし、小型装置、大型装置のいずれについても、水相と有機相の送液流速比は1:5と設定した。また、実施例1と同様に、水相を連続的に送液する前に、装置内の水相を循環させ、ニッケル抽出率がほぼ一定値になってから、連続的な送液を開始した(循環モードから連続送液モードに切り替えた)。図17のデータは、連続送液モードに切り替えた後のものである。
【実施例2】
【0061】
図17に示されるように、IIb型の小型装置(体積4 L)、大型装置(体積18 L)のいずれについても、安定して高いニッケル抽出率(93.9%から96.7%で相加平均値95%)が得られた。また、小型装置から大型装置にスケールアップしても、ニッケル抽出率に大きな差がないこともわかった。なお、体積14 Lの従来の向流方式でのニッケル抽出率(相加平均値で約64%)との差は明らかであった。
【実施例3】
【0062】
水相に固形成分として高比重・高粘性潤滑油が含まれる系での連続液液抽出
【実施例3】
【0063】
原子力施設で使用した機械・設備の解体撤去によって発生する除染廃液には、非水溶性で高比重・高粘性の潤滑油が固形成分として含まれる場合がある。たとえば、ウラン濃縮技術の開発で使用された遠心分離機を解体・処分するための除染で発生する廃液には、上述のような潤滑油が含まれることがある。従来方法の装置では、このような固形成分が混合部2の内部に蓄積され、エマルションの状態悪化を招く。そこで、固形成分を混合部2から排除し、連続的に回収する必要がある。
【実施例3】
【0064】
ウラン含有除染廃液の模擬液として、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、フッ素、及びトレース濃度のウランを含む硫酸水溶液(pH0.5)を調製し、これに非水溶性のフッ素系潤滑油0.5g/dm3を添加した懸濁液を水相として用いた。また、当該模擬液からウランを高選択的に抽出・除去するための有機相として、トリオクチルアミン(TOA)0.3 Mに1-オクタノール2.5vol%を含むイソオクタン溶液を用いた。
【実施例3】
【0065】
I型及びII型のエマルションフロー装置に対して、図9、図10に示したような、固形成分を連続的に回収・除去するための張り出し部位6を設置した。これらの容器構造の装置を用いて当該模擬液からのウランの連続抽出を行い、向流方式(従来方式)の装置と比較した。それぞれのエマルションフロー装置について、有機相の噴出には、メッシュサイズ40μmの焼結ガラス板を使ったノズルヘッド4、あるいは、直径50μmの孔2千個を等間隔に配置したテフロンシートを使ったノズルヘッド4、水相の導入には、直径2mmの孔20個を有する筒状のテフロン(登録商標)製ノズルヘッド5を用いた。また、水相の滞留時間は3分に設定した。なお、エマルションフロー装置から排出された水相(排水)は一定送液量ごとに採取し、ウランの抽出率を求めるため、ICP-MSにより排水中のウラン濃度を測定した。
【実施例3】
【0066】
廃液処理の初期においては、従来の向流方式とI型及びII型でウランの抽出率に差はなく、いずれの場合も、およそ97%の抽出率(様々な送液量での抽出率の相加平均値)が得られた。しかしながら、向流方式では、同方式の混合部に徐々にフッ素系潤滑油が蓄積し、それに伴って抽出率が減少したが、I型及びII型では、混合部2にフッ素系潤滑油が溜ることなく、高いウラン抽出率が保たれた。また、フッ素系潤滑油のほとんどすべてが、容器の端に設置された張り出し部位6に連続的に回収・除去された。
【実施例3】
【0067】
しかしながら、実施例2と同様に、I型では、水相の送液流速が有機相の送液流速の3分の1以上になると混合部2での水相の比率が大きくなってしまうため、水相の送液流速を大きくできなかった。一方で、上述の条件が満たされる範囲においては、フッ素系潤滑油に対する回収・除去効率で、I型とII型の間に差は見られなかった。また、片壁タイプと両壁・周囲壁タイプの比較でも、違いは見られなかった。すなわち、基本的には(一定の制限の下では)、容器構造に関係なく、フッ素系潤滑油を回収・除去できた。さらに、複数個の有機相用ノズルヘッド4が設置されている装置と有機相用ノズルヘッド4が1個だけの装置の間でも、フッ素系潤滑油の回収・除去効率に顕著な差はなく、ノズルヘッド4、5の設置方法の違いも、ほとんど影響しなかった。すなわち、ノズルヘッド4、5の数や配置にも関係なく、フッ素系潤滑油が回収・除去された。
【実施例3】
【0068】
図18に、本発明の代表的な型式であるIIb型の装置での試験結果を、従来型の向流方式の試験結果と比較して示す。横軸は送液量(L)、縦軸はウランの抽出率(%)である。なお、IIb型の装置(小型装置と大型装置の2つのサイズ)及び向流方式の装置は、実施例1及び実施例2で用いたものと同じであり、ノズルヘッドの設置方法、試験時の水相と有機相のセッティング、運転時の操作についても同様である。ただし、小型装置、大型装置のいずれについても、水相と有機相の送液流速比は1:1と設定した。また、実施例1及び実施例2と同様に、水相を連続的に送液する前に、装置内の水相を循環させ、ウラン抽出率がほぼ一定値になってから、連続的な送液を開始した(循環モードから連続送液モードに切り替えた)。図18のデータは、連続送液モードに切り替えた後のものである。
【実施例3】
【0069】
図18に示されるように、IIb型の小型装置(体積4 L)、大型装置(体積18 L)のいずれについても、安定して高いウラン抽出率(95.1%から99.6%で相加平均値97%)が得られた。また、小型装置から大型装置にスケールアップしても、ウラン抽出率に大きな差がないこともわかった。一方で、体積14 Lの従来の向流方式では、初期には97%くらいの高いウラン抽出率が得られていたものの、同方式の混合部に固形成分が蓄積されるにつれて、徐々に抽出率が低下した。
【実施例4】
【0070】
水に含まれる固形成分と溶存成分の連続的な同時回収・除去
【実施例4】
【0071】
本発明の方法を用いて、自動車用の水性塗料を含む廃液に対して、固形成分として含まれる顔料粒子を連続的に回収・除去しながら、同時に、界面活性剤などの溶存成分を液液抽出する実験を行った。顔料を水に分散させた水性塗料は、揮発性有機溶媒に顔料を溶かした溶剤型塗料よりも、界面活性剤などの溶存成分が多いことが特徴であり、顔料成分だけではなく、このような溶存成分も同時に除去できることが望ましい。なお、顔料粒子の回収・除去は、目視による廃液の着色の変化から、溶存成分の回収・除去は、化学的酸素要求量(COD)及び泡立ちの変化から判断した。
【実施例4】
【0072】
水と油から成る2液相系を利用した廃液処理方法は、液液界面に顔料粒子を吸着させて回収・除去し、溶存成分は油に液液抽出することで回収・除去できるため、水性塗料廃液の処理に適している。すなわち、簡便・低コストで高効率なエマルションフロー法は、水性塗料廃液処理に有効である。エマルションフロー法を利用した塗料廃液処理方法は、以前に特許化された(特許文献4)。しかしながら、当該特許の方法は、従来の向流方式によるものであり、混合部2に顔料粒子が蓄積することで徐々にエマルションの質が悪化すること、集めた顔料粒子を取り出すには装置を止めてピストンなどで押し出す必要があること、などの課題があった。
【実施例4】
【0073】
本実施例では、自動車用水性塗料として黒色プライマー塗料0.1wt%(重量パーセント)を含む懸濁液を模擬液とし、ここに、塩析剤として硫酸マグネシウム0.1 M、凝集促進剤として非水溶性ケイ酸塩の微粉末0.1wt%を添加して水相とした。また、有機相としては炭化水素系溶媒(商標名Shellsol D70あるいは市販の灯油)を用いた。
【実施例4】
【0074】
実施例3と同様な容器構造のI型及びII型のエマルションフロー装置を用いて、上述の水相から、連続的かつ同時に固形成分(顔料粒子)と溶存成分(界面活性剤など)を回収・除去する実験を行い、従来の向流方式の装置と比較した。それぞれのエマルションフロー装置について、有機相の噴出には、メッシュサイズ40μmの焼結ガラス板を使ったノズルヘッド4、あるいは、直径50μmの孔2千個を等間隔に配置したテフロンシートを使ったノズルヘッド4、水相の導入には、直径2mmの孔20個を有する筒状のテフロン(登録商標)製ノズルヘッド5を用いた。また、水相の滞留時間は20分に設定した。
【実施例4】
【0075】
向流方式では、廃液処理の初期においては顔料粒子及び溶存成分の大部分を回収・除去できたが、混合部2に顔料粒子が蓄積されるにつれてエマルションの質が悪化し、徐々に顔料粒子及び溶存成分の回収率が減少した。一方、I型及びII型では、顔料粒子を張り出し部位6に効果的かつ連続的に導くことで、混合部2から顔料粒子を排除することができた。その結果、エマルションの質は悪化することはなく、一貫して、顔料粒子と溶存成分の大部分を回収・除去することができた。なお、有機相として灯油を用いると、処理後の排水には、ごくわずかながら、灯油の持つ特有の臭気が感じられるが、I型、II型のいずれについても、従来の向流方式よりも臭気が弱く、ほとんど感じられないほどであった。すなわち、I型及びII型の相分離能力は、従来の向流方式よりも高いことが示唆された。
【実施例4】
【0076】
実施例2、3と同様に、I型では水相の送液流速に上述の制限があるものの、その範囲内においては、I型とII型の間で顔料粒子及び溶存成分の回収・除去効率に差は見られなかった。また、片壁タイプと両壁・周囲壁タイプの比較でも、違いはなかった。すなわち、基本的には(一定の制限の下では)、容器構造に関係なく顔料粒子及び溶存成分を回収・除去できた。また、複数個の有機相用ノズルヘッド4が設置されている装置と有機相用ノズルヘッド4が1個だけの装置の間でも、顔料粒子及び溶存成分の回収・除去効率に目立った差はなく、ノズルヘッド4、5の設置方法の違いも、ほとんど影響しなかった。すなわち、ノズルヘッド4、5の数や配置にも関係なく、顔料粒子及び溶存成分の大部分が回収・除去された。
【実施例4】
【0077】
図19に、本発明の代表的な型式であるIIb型の装置でのCOD測定結果を、従来型の向流方式の試験結果と比較して示す。横軸は送液量(L)、縦軸はCOD(ppm)である。また、黒色プライマー塗料0.1wt%の原液でのCODは3470ppmであり、そこに、塩析剤として硫酸マグネシウム0.1 M、凝集促進剤として非水溶性ケイ酸塩の微粉末0.1wt%を添加した後、エマルションフロー装置による処理を行った。なお、IIb型の装置(小型装置と大型装置の2つのサイズ)及び向流方式の装置は、実施例1、実施例2、及び実施例3で用いたものと同じであり、ノズルヘッドの設置方法、試験時の水相と有機相のセッティング、運転時の操作についても同様である。ただし、小型装置、大型装置のいずれについても、水相と有機相の送液流速比は1:5と設定した。また、実施例1、実施例2、及び実施例3と同様に、水相を連続的に送液する前に、装置内の水相を循環させ、CODがほぼ一定値になってから、連続的な送液を開始した(循環モードから連続送液モードに切り替えた)。図19のデータは、連続送液モードに切り替えた後のものである。
【実施例4】
【0078】
図19に示されるように、IIb型の小型装置(体積4 L)、大型装置(体積18 L)のいずれについても、安定して低いCOD(331ppmから444ppmで相加平均値391ppm)が得られた。すなわち、CODは原液の10分の1近くにまで減少した。また、一定送液量ごとに採取された処理後のサンプルを試験管に入れて振とうすると、COD値が減少したことに対応して、泡立ちが少なくなった(あるいは、ほとんど泡立たなくなった)ことから、COD成分として含まれる界面活性剤を除去できたことを確認した。また、小型装置から大型装置にスケールアップしても、CODに大きな差がないこともわかった。一方で、体積14 Lの従来の向流方式では、初期には低いCOD(400ppm弱)が得られていたものの、同方式の混合部に固形成分が蓄積されるにつれて、徐々にCODが大きくなった。同時に、顔料粒子の回収率が低下して、排水される廃液の着色が強くなることを、目視により確認した。
【実施例5】
【0079】
II型容器におけるオーバーフローを利用したエマルションの消滅
【実施例5】
【0080】
本実施例では、II型容器の代表的な型式であるIIb型を選び、他の実施例でも用いた大型装置(体積18 L)を使って実験を行った。なお、水相には蒸留水(純粋な水)、有機相には灯油(純粋な有機溶媒)という最もシンプルな2液相系を用いた。実際に、IIb型容器の混合部2で過度に発達したエマルションを、混合部2と軽液相分離部1との間に設置された仕切り板の上方に位置する開口部からオーバーフローさせることによって、これを消滅させることができた。すなわち、混合部2からオーバーフローによって流出したエマルションは、側方に向かって移動するエマルション流の本流と合流することで、本流とともに容器の端に導かれて消滅した(目視により確認)。この実験結果は、II型では、不定期に一時的な急成長をするエマルションを制御できることを示唆している。
【実施例6】
【0081】
II型容器における混合部でのエマルション消滅の促進
【実施例6】
【0082】
II型容器では、混合部2において積極的にエマルション流を消滅させる機能がないため、多くの場合、エマルション流は混合部2の上限(気相と接する位置)にまで達し、混合部2と軽液相分離部1の間の仕切り板を越えてオーバーフローする(実施例5を参照)。常にオーバーフローが起こっている状態はあまり好ましくはないので、エマルション流を混合部2の上限に至るまでに発達させないように、あるいは、上限に至るエマルション流の中で液滴凝集が進んで消滅が近い状態(エマルションが“疎”になった状態)になるように、微調整を行う必要がある。そこで、このような微調整を行うことなくエマルション流を積極的に消滅させるため、混合部2に狭窄部位を設置し、その狭窄部位にエマルション流を導いて、そこを通過した後の著しい断面積の増加を利用して、エマルション流を積極的に消滅させる方法をいくつか実験した。その例を、図12、図13、図14、及び図15に示す。
【実施例6】
【0083】
図12及び図13は、重液相用ノズルヘッド5の形状・サイズ・構造を改良したもので、図12に示す重液相用ノズルヘッド5は、該ノズルヘッド内部にエマルション流が侵入しないタイプであり、図13に示す重液相用ノズルヘッド5は、該ノズルヘッド内部をエマルション流が侵入・通過するタイプである。図13のタイプでは、エマルション流が重液相用ノズルヘッド5の内部を通過する際にもエマルション流が消滅する。なお、いずれの場合にも、重液相用ノズルヘッド5の上下に左右対称の傾斜が設けられているのは、水相あるいは有機相が該ノズルヘッドに付着しないようにするための工夫である。一方、図14は、重液相用ノズルヘッド5は改良しないままで、器壁や仕切り板に突起物7を設けることで、エマルション流の通過経路を狭窄化する方法を示している。突起物7の上下の傾斜は、図12、図13と同じ理由で設けられたものである。また、図15は、図12と図14を組み合わせたエマルション流の通過経路の狭窄方法である。
【実施例6】
【0084】
実際に、IIb型容器に対して、図12、図13、図14、あるいは図15に示した構造を適用することで、これらのいずれの場合でも、混合部2でのエマルションの消滅を促進することができた(目視により確認)。すなわち、重液相用ノズルヘッド5の形状・サイズ・構造、器壁・仕切り板の突起物7、あるいはこれらの両方によって、エマルション流の通過経路の一部を狭窄化した結果、エマルションの消滅・相分離が促進された。なお、本実施例でも、実施例5と同様に、水相に蒸留水(純粋な水)、有機相に灯油(純粋な有機溶媒)という最もシンプルな2液相系を用いた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本願発明のエマルション流の制御方法を利用した連続液液抽出装置は、従来の液液抽出装置(ミキサーセトラー、パルスカラム、遠心抽出機など)と比較し、産業利用において優位な数々の特徴を有している。
【0086】
一般的な溶媒抽出装置として知られるミキサーセトラーは、インペラーによって水相と有機相を混合するミキサー部と2液相を重力によって相分離するセトラー部から成る装置である。ミキサーセトラーは構造が簡単なので、比較的安価に製造できるうえに、安定な抽出性能を発揮できる装置でもあり、現在、最も普及している溶媒抽出装置の代名詞である。しかしながら、相分離を重力に依存する(重力分離を待つ)ため、処理速度は速くない。また、インペラーによる機械的撹拌の強い剪断によって生じた極微細な油滴は消えにくく、排水にはどうしても油分が混入してしまうという欠点がある。このことは、溶媒抽出が環境にやさしくないと言われるゆえんにもなっている。
【0087】
パルスカラムは、パルス振動によって水相と有機相を分散混合する装置であり、多孔板棚が設置された縦長カラム状の大型装置である。この装置は、迅速処理能力(処理速度の速さ)に優れているが、2液相の混合能力においてはミキサーセトラーに大きく劣る。パルスカラムでは、乳濁状態には至らないことから、抽出能力は低い。
【0088】
遠心抽出機は、機械的撹拌によって水相と有機相を混合すると同時に、遠心力によって迅速に2液相を分離する小型装置である。遠心力で相分離を行うことで処理速度を大幅に向上させた、いわば、ミキサーセトラーの発展型であり、装置のコンパクト化を実現している(抽出速度が大きい系では、同サイズの装置で比較して、ミキサーセトラーの10倍以上の処理速度)。また、遠心力を使って相分離するので、排水への油滴の混入は少ない。よって、性能面では、処理速度、抽出能力、相分離能力のすべてにおいて、従来装置の中で最高レベルにある。しかしながら、装置全体を回転させる駆動力と複雑な装置構造から、初期コスト、運転コストのいずれも大きく、とくに、装置内に蓄積される固形成分を除去しなければならないなど、定期的なオーバーホールと部品交換を必要とするため、メンテナンスに大きな費用と労力を要することが難点である。
【0089】
また、従来の溶媒抽出装置は、いずれの装置でも、ポンプ送液以外にも機械的な外力(撹拌力、遠心力など)を必要とするため、コスト面に加えて、定常運転に至るまでの調整作業に熟練を要するといった、扱いづらさも欠点である。
【0090】
一方、エマルションフロー法を利用した装置は、構造がきわめて単純で非常に安価に製造でき、カラム分離と同様な簡便さ(送液のみ)で溶媒抽出を行うことができるので、扱いも容易である。加えて、従来の溶媒抽出装置の中で最高レベルの性能を有する遠心抽出機に匹敵する高性能を有する。すなわち、処理速度、抽出能力、及び、相分離能力は遠心抽出機に匹敵する一方で、コスト面において遠心抽出機よりも格段に有利とされるミキサーセトラーよりも、更に大幅に安価な初期・運転コストである(ミキサーセトラーの5分の1以下)。また、装置本体に駆動部がないこと、溶媒の使用量が少ないこと、地震などの振動の影響を受けにくいこと、密閉系で溶媒の蒸気が外部に漏れないことなどは、安全面でも極めて優れた装置であることを意味している。
【0091】
さらに、エマルションフロー法を利用した装置に特徴的なこととして、排水にほとんど油分が混入しないことも、産業利用において重要な点である。たとえば、目的成分を回収した後の残液(廃液)に油分が混入しなければ、廃液処理の負担を軽減でき、抽出剤、有機溶媒などの薬剤の排水(水相)への損失がほとんどなくなることで、コスト削減につながる。また、エマルションフロー法での相分離能力の高さは、油水分離にも活用することができ、遠心分離あるいはコアレッサーを用いることなく、簡便かつ効率的に水中油分を迅速除去することが可能である。なお、本発明の方法に基づく装置は、従来の向流方式の装置にさらに増して相分離能力が高く、より効率的な油水分離が可能と考えられる。
【0092】
従来のエマルションフロー法(向流方式)では、1)水相の比重が大きいときのエマルション流の不安定化と均質性の低下、2)抽出速度が小さいときの不十分な2液相接触時間と低い抽出率、3)固形成分の蓄積によるエマルションの状態悪化、4)エマルションの一時的な急成長に伴うエマルション流制御困難といった問題点があったが、本願発明により、これらの課題が解決されたので、産業上の利用可能性は、さらに拡大すると考えられる。
【符号の説明】
【0093】
1:軽液相分離部
2:混合部
3:重液相分離部
4:軽液相用ノズルヘッド
5:重液相用ノズルヘッド
6:固形成分回収・除去用の張り出し部位
7:エマルション流の通路狭窄化のための器壁突起物
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3(a)】
2
【図3(b)】
3
【図3(c)】
4
【図3(d)】
5
【図3(e)】
6
【図3(f)】
7
【図4(a)】
8
【図4(b)】
9
【図4(c)】
10
【図4(d)】
11
【図5(a-1)】
12
【図5(a-2)】
13
【図5(b-1)】
14
【図5(b-2)】
15
【図5(c-1)】
16
【図5(c-2)】
17
【図5(d-1)】
18
【図5(d-2)】
19
【図5(e-1)】
20
【図5(e-2)】
21
【図5(f-1)】
22
【図5(f-2)】
23
【図6(a-1)】
24
【図6(a-2)】
25
【図6(b-1)】
26
【図6(b-2)】
27
【図6(c-1)】
28
【図6(c-2)】
29
【図6(d-1)】
30
【図6(d-2)】
31
【図7(a-1)】
32
【図7(a-2)】
33
【図7(b-1)】
34
【図7(b-2)】
35
【図7(c-1)】
36
【図7(c-2)】
37
【図7(d-1)】
38
【図7(d-2)】
39
【図7(e-1)】
40
【図7(e-2)】
41
【図7(f-1)】
42
【図7(f-2)】
43
【図8(a-1)】
44
【図8(a-2)】
45
【図8(b-1)】
46
【図8(b-2)】
47
【図8(c-1)】
48
【図8(c-2)】
49
【図8(d-1)】
50
【図8(d-2)】
51
【図9】
52
【図10】
53
【図11】
54
【図12】
55
【図13】
56
【図14】
57
【図15】
58
【図16】
59
【図17】
60
【図18】
61
【図19】
62