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明細書 :歯列矯正用ワイヤーおよびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-174781 (P2016-174781A)
公開日 平成28年10月6日(2016.10.6)
発明の名称または考案の名称 歯列矯正用ワイヤーおよびその製造方法
国際特許分類 A61C   7/12        (2006.01)
FI A61C 7/12
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2015-057854 (P2015-057854)
出願日 平成27年3月20日(2015.3.20)
発明者または考案者 【氏名】古賀 義之
【氏名】吉田 教明
【氏名】住 真由美
出願人 【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査請求 未請求
テーマコード 4C052
Fターム 4C052JJ03
4C052JJ08
要約 【課題】好ましい水平力を作用させながらも、好ましい指標M/Fの範囲を満たすことができる、新たな歯列矯正用ワイヤーとその製造方法を提供すること。
【解決手段】ループメカニクスを実施し得るように、本線部10とループ部20とを有する歯列矯正用ワイヤーにおいて、ループ部20の少なくとも先端側の部分の剛性を、本線部10の剛性よりも小さくする。これにより、安価な材料と単純な形状のループ部であっても、簡単な変形による活性化によって、好ましい水平力と指標M/Fが得られる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
ループメカニクスを実施し得るように、本線部とループ部とを有する歯列矯正用ワイヤーであって、
前記ループ部の少なくとも先端側の部分が、前記本線部の剛性よりも小さい剛性を有するものとなっている、
前記歯列矯正用ワイヤー。
【請求項2】
前記ループ部が、該ループ部の先端側に位置する湾曲部と、該ループ部の基端側に位置する2つの脚部とを有して構成され、該2つの脚部は、前記湾曲部の両端と前記本線部とをそれぞれ連絡する部分であり、
前記ループ部のうち、前記湾曲部の一部が、または、前記湾曲部の全部が、または、前記湾曲部の全部と前記脚部の先端側の部分が、前記本線部の断面積よりも小さい断面積を有するものとなっており、それにより、前記ループ部の先端側の部分が前記本線部の剛性よりも小さい剛性を有するものとなっている、
請求項1記載の歯列矯正用ワイヤー。
【請求項3】
当該歯列矯正用ワイヤーが、矩形の断面形状を有するワイヤーを原素材として用いてなるものであり、ワイヤーの4つの胴体側面のうちの1つの胴体側面が、装着すべき歯列の歯の表面と対面するように、前記本線部と前記ループとが形成されており、
前記ループ部のうち、前記湾曲部の一部の断面形状が、または、前記湾曲部の全部の断面形状が、または、前記湾曲部の全部と前記脚部の先端側の部分の断面形状が、前記本線部の断面形状に比べて、前記1つの胴体側面に含まれる辺の長さがより短い断面形状となっており、
それにより、前記ループ部の先端側の部分が、前記本線部の剛性よりも小さい剛性を有するものとなっている、
請求項2記載の歯列矯正用ワイヤー。
【請求項4】
当該歯列矯正用ワイヤーが、矩形の断面形状を有するワイヤーを原素材として用いてなるものであり、ワイヤーの4つの胴体側面のうちの1つの胴体側面が、装着すべき歯列の歯の表面と対面するように、前記本線部と前記ループとが形成されており、
前記ループ部のうち、前記湾曲部の一部の断面形状が、または、前記湾曲部の全部の断面形状が、または、前記湾曲部の全部と前記脚部の先端側の部分の断面形状が、前記本線部の断面形状に比べて、前記1つの胴体側面に隣接する胴体側面に含まれる辺の長さがより短い断面形状となっており、
それにより、前記ループ部の先端側の部分が、前記本線部の剛性よりも小さい剛性を有するものとなっている、
請求項2記載の歯列矯正用ワイヤー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の歯列矯正用ワイヤーの製造方法であって、
下記(I)の工程、または、下記(II)の工程を有することを特徴とする、前記製造方法。
(I)ワイヤーを原素材として用い、該ワイヤーの所定の部分を屈曲させることによってループ部を形成し、残りの部分を本線部とする加工をし、
前記の加工よりも後に、前記ループ部の少なくとも先端側の部分の剛性を、前記本線部の剛性よりも小さくする加工を行う工程。
(II)ワイヤーを原素材として用い、該ワイヤーの全長のうち、ループ部とすべき区間中の少なくとも該ループ部の先端側の部分とすべき区間の剛性を、本線部とすべき残りの区間の剛性よりも小さくする加工をし、
前記の加工よりも後に、前記ループ部とすべき区間を屈曲させることによってループ部を形成し、残りの区間を本線部とし、それによって該ループ部の少なくとも先端側の部分の剛性を前記本線部の剛性よりも小さくする加工を行う工程。
【請求項6】
上記(I)の工程における、ループ部の少なくとも先端側の部分の剛性を本線部の剛性よりも小さくする加工が、その部分のワイヤーの断面積を切削によって小さくする加工であり、
上記(II)の工程における、ループ部とすべき区間中の少なくとも該ループ部の先端側の部分とすべき区間の剛性を、本線部とすべき残りの区間の剛性よりも小さくする加工が、その区間のワイヤーの断面積を、切削によって小さくする加工である、
請求項5記載の歯列矯正用ワイヤーの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ループメカニクスに用いるための歯列矯正用ワイヤーとその製造方法に関するものであり、より具体的には、ループ部に独自の構成が付与された歯列矯正用ワイヤーとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯列を矯正する治療では、移動させるべき矯正対象の歯(以下、対象歯とも呼ぶ)と、固定源とすべき歯(以下、アンカー歯とも呼ぶ)とを、歯列矯正器具で連結し、該対象歯に特定方向の力を継続的に作用させ、それにより矯正対象歯の位置や姿勢を変化させることが行なわれている。
【0003】
歯列矯正における代表的な方法の1つとしてマルチブラケット法が挙げられる。マルチブラケット法は、対象歯とアンカー歯のそれぞれの表面にブラケットを固定し、それらブラケット同士を種々のワイヤー(歯列弓に沿ってアーチ状に湾曲させたアーチワイヤーや、部分的な短いワイヤーなど)で連結し、それによって対象歯に意図する方向の力を作用させ、該歯を移動させる矯正法である。マルチブラケット法のなかでも、ループ部を設けたワイヤーを用いるループメカニクスと呼ばれる矯正法が代表的かつ有用なものとして挙げられる(非特許文献1、2)。
ループメカニクスは、図10(a)に例示するように、ワイヤー100の所定の部分をU字状や種々の形状へと屈曲させてループ部120とし(この段階でのループ部は永久変形である)、該ワイヤーを歯列の所定部位にブラケットを介して装着し、該ループ部をさらに弾性的に変形させることで、該ループ部の復元力を対象歯に作用させる矯正法である。図10(a)では、ループ部の変形後の状態を一点鎖線で示しているが、この弾性的な変形は、後述するとおり、平面的に広げるだけの変形ではなく、捩じりを伴う立体的な変形である。ループ部を弾性的に変形させることは「ループ部を活性化する」などとも呼ばれている。図10(a)に例示したループ部120は、半円状の湾曲部121と、2つの直線的な脚部122とからなる単純な湾曲の例であり、2つの直線的な脚部122が本線部に向かうにつれて互いに接近する形状からVループ(または、ティアドロップ(涙形)ループ)などと呼ばれている。
【0004】
図10(b)は、図10(a)のワイヤーを上顎の歯列に沿って装着した場合の一例を示す図である。同図の例では、第一小臼歯の抜歯によって隙間が作られ、対象歯である犬歯T3をその隙間へ移動させるために、ワイヤー(アーチワイヤー)100がブラケットによって歯列に装着されている。中切歯T1、測切歯T2、犬歯T3、および、第二小臼歯T5には、該ワイヤー100の本線部110を保持するためのブラケットB100がそれぞれ固定され、第一大臼歯T6、および、第二大臼歯T7には、ブラケットの一種であるバッカルチューブB110、B120が固定されている。バッカルチューブは、ワイヤーを通す穴を持っており、該穴に通すことでワイヤーを臼歯に固定し得るように構成されている。
対象歯である犬歯T3の近傍にはループ部120が配置されており、該ループ部を活性化することで、復元力が犬歯T3に作用するようになっている。該ループ部に加えられる弾性的な変形は、次に説明するように立体的なものである。
先ず、ワイヤー100の本線部110は歯列弓に沿って湾曲しているので、該ワイヤーに引張り力を加えると、ループ部の2つの脚部のうち第二小臼歯T5側の脚部122bが後方(舌側)に引っ張られる(または、意図的に所定量だけ後方に引っ張ってもよい)。片側が後方へ引っ張られることにより、ループ部の先端の湾曲部121も、片側が後方に移動するように開かれかつ捩られることになる。その結果、犬歯T3のブラケットB100には、他方の脚部122bを通じて、開かれたループ部が閉じようとする復元力による後方への力と、湾曲部の捩りが戻ろうとする復元力による後方への力(力のモーメント)との合力が水平力として作用する。
一方、前記のようにループ部が後方に開かれると、犬歯側の脚部122aがレバーのように作用して、犬歯側の本線部を捩じる。その捩りの方向は、湾曲部の捩りの方向とは逆の方向である。
【0005】
図11は、図10(b)に示すループメカニクスの施術例において、犬歯に作用する力と該犬歯の移動の様子を示した模式図であって、患者にとって左側の犬歯を左側から見ることで、本線部110の矩形の断面を見せている。図11(a)に示すように、犬歯などの前歯の近傍にループ部を配置する場合には、ループ部の活性化に起因する水平力F10が犬歯の歯冠のブラケットB100に作用する。しかし、そのような水平力F10の作用だけでは、歯は平行移動(歯体移動)せず、歯根に位置する抵抗中心200を中心とするモーメントM10によって、図11(a)に一点鎖線で示すように、歯は回転移動(傾斜移動)することになる。
抵抗中心200は、歯根の領域内に位置する力の作用点であり、歯に外力が作用したときに生じるモーメントの回転中心となる点である。該抵抗中心に直接的に水平力を加えれば、歯全体は回転することなく平行移動するが、実際には、歯根に直接的な水平力を加えることは困難である。モーメントM10は、(水平力F10)と(抵抗中心200から水平力F10までの距離d10)との積(F10×d10)で表される。
上記のようなモーメントM10による回転移動を補正し、歯全体を平行移動させるためには、歯冠と同様に歯根も移動させればよい。そのためには、図11(b)に示すように、ループ部の犬歯側の本線部に加えられる逆方向(図では時計回り)の捩じりによる復元力を適切な大きさにし、歯根を後方に適切量だけ回転移動させるモーメントM20をブラケットB100を通じて歯に作用させればよい。水平力F10による歯冠の後方移動量と歯根の後方移動量が互いに適切であれば、全体としては、図11(b)に一点鎖線で示すように歯は後方に平行移動することになる。
【0006】
しかしながら、本発明者らの研究によれば、実際のループメカニクスの施術では、弾性的に広げられかつ湾曲部に捩りが生じたループ部によって作用する水平力Fは非常に大きいものとなり易く、よって、歯冠を後方に回転させるモーメントM10(=F10×d10)も非常に大きいものとなり易い。これに対して、犬歯側の本線部の逆方向の捩じりによるモーメントM20は、モーメントM10ほど大きくとることは困難である。よって、両者を調節して適切な平行移動を達成するには熟練した技術が必要となる。
また、歯を移動させるために歯に作用させる力が過度に大きいと、歯根吸収が生じ歯根が短くなる場合がある。歯根が短くなると、噛んだときの衝撃が大きくなり歯への負担が増大したり、歯周病になった際に進行し易く歯が動揺するというリスクが高くなる。よって、モーメントM20を大きくとることが可能であっても、そのような対応策は適切ではない。
また、水平力F10を小さくするために全体的により細いワイヤーを用いると、該水平力F10が小さくなるだけではなく、逆方向のモーメントM20も小さくなるので、適切な平行移動を得ることはできない。
【0007】
これまでのループメカニクスの研究によれば、ループ部の復元力によって前歯や犬歯に作用させるべき後方への水平力F10は、約1.5N~約3Nが適切であるとされている。また、その場合に、平行移動を生じさせるために作用させるべき逆回転のモーメントM20は、該M20を前記水平力F10で除して表される指標M20/F10が8~10となるように設定することが適切であるとされている。以下、逆回転モーメントを水平力で除した値として表される前記の指標を、一般的に「指標M/F」とも標記し、本発明における力の作用の説明にも用いる。
指標M/Fが4を下回ると、歯は回転移動(後方傾斜)し、適切な平行移動が達成できない。
前記のような好ましい水平力F10(約1.5N~約3N)と、好ましい指標M/F(=8~10)を満たす逆方向モーメントM20とを作用させるには、単純な形状のループ部を用い曲げや捩じりの調整だけで達成することは困難である。そこで、従来では、複雑な形状のループ部を利用するか、または、超弾性線材などの全体が特殊な金属からなるワイヤーを利用していた。しかし、複雑な形状のループ部では、患者の口腔内に装着した際に患者が感じる違和感がより大きくなり、また、清掃性がより悪くなる(隅々まで行き届くような歯磨きが困難になる)といった問題があり、また、超弾性線材などの特殊な金属からなるワイヤーは高価であるといった問題がある。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Burston CJ, Koenig HA. 著「Optimizing anterior and canine retraction.」AM J Orthod 1976; 70: 1-19
【非特許文献2】Proffit WR. 著「Comtemporary orthodontics.」第4版、Mosby Elsevier 2007, 592-601
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記歯列矯正用ワイヤーの問題を解消し得、好ましい水平力を作用させながらも、指標M/Fの好ましい範囲を満たすことが可能な、新たな歯列矯正用ワイヤーを提供し、かつ、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ワイヤー全体のうちのループ部の少なくとも先端側の部分の剛性を、本線部の剛性よりも小さくすることで、歯冠への好ましい水平力(とりわけ約1.5N~約3N)と、好ましい指標M/F(とりわけ8~10)を満たす逆方向モーメントが、臨床の現場での調節によって容易に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の主たる構成は、以下のとおりである。
〔1〕ループメカニクスを実施し得るように、本線部とループ部とを有する歯列矯正用ワイヤーであって、
前記ループ部の少なくとも先端側の部分が、前記本線部の剛性よりも小さい剛性を有するものとなっている、
前記歯列矯正用ワイヤー。
〔2〕前記ループ部が、該ループ部の先端側に位置する湾曲部と、該ループ部の基端側に位置する2つの脚部とを有して構成され、該2つの脚部は、前記湾曲部の両端と前記本線部とをそれぞれ連絡する部分であり、
前記ループ部のうち、前記湾曲部の一部が、または、前記湾曲部の全部が、または、前記湾曲部の全部と前記脚部の先端側の部分が、前記本線部の断面積よりも小さい断面積を有するものとなっており、それにより、前記ループ部の先端側の部分が前記本線部の剛性よりも小さい剛性を有するものとなっている、
上記〔1〕記載の歯列矯正用ワイヤー。
〔3〕当該歯列矯正用ワイヤーが、矩形の断面形状を有するワイヤーを原素材として用いてなるものであり、ワイヤーの4つの胴体側面のうちの1つの胴体側面が、装着すべき歯列の歯の表面と対面するように、前記本線部と前記ループとが形成されており、
前記ループ部のうち、前記湾曲部の一部の断面形状が、または、前記湾曲部の全部の断面形状が、または、前記湾曲部の全部と前記脚部の先端側の部分の断面形状が、前記本線部の断面形状に比べて、前記1つの胴体側面に含まれる辺の長さがより短い断面形状となっており、
それにより、前記ループ部の先端側の部分が、前記本線部の剛性よりも小さい剛性を有するものとなっている、
上記〔2〕記載の歯列矯正用ワイヤー。
〔4〕当該歯列矯正用ワイヤーが、矩形の断面形状を有するワイヤーを原素材として用いてなるものであり、ワイヤーの4つの胴体側面のうちの1つの胴体側面が、装着すべき歯列の歯の表面と対面するように、前記本線部と前記ループとが形成されており、
前記ループ部のうち、前記湾曲部の一部の断面形状が、または、前記湾曲部の全部の断面形状が、または、前記湾曲部の全部と前記脚部の先端側の部分の断面形状が、前記本線部の断面形状に比べて、前記1つの胴体側面に隣接する胴体側面に含まれる辺の長さがより短い断面形状となっており、
それにより、前記ループ部の先端側の部分が、前記本線部の剛性よりも小さい剛性を有するものとなっている、
上記〔2〕記載の歯列矯正用ワイヤー。
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の歯列矯正用ワイヤーの製造方法であって、
下記(I)の工程、または、下記(II)の工程を有することを特徴とする、前記製造方法。
(I)ワイヤーを原素材として用い、該ワイヤーの所定の部分を屈曲させることによってループ部を形成し、残りの部分を本線部とする加工をし、
前記の加工よりも後に、前記ループ部の少なくとも先端側の部分の剛性を、前記本線部の剛性よりも小さくする加工を行う工程。
(II)ワイヤーを原素材として用い、該ワイヤーの全長のうち、ループ部とすべき区間中の少なくとも該ループ部の先端側の部分とすべき区間の剛性を、本線部とすべき残りの区間の剛性よりも小さくする加工をし、
前記の加工よりも後に、前記ループ部とすべき区間を屈曲させることによってループ部を形成し、残りの区間を本線部とし、それによって該ループ部の少なくとも先端側の部分の剛性を前記本線部の剛性よりも小さくする加工を行う工程。
〔6〕上記(I)の工程における、ループ部の少なくとも先端側の部分の剛性を本線部の剛性よりも小さくする加工が、その部分のワイヤーの断面積を、切削によって小さくする加工であり、
上記(II)の工程における、ループ部とすべき区間中の少なくとも該ループ部の先端側の部分とすべき区間の剛性を、本線部とすべき残りの区間の剛性よりも小さくする加工が、その区間のワイヤーの断面積を、切削によって小さくする加工である、
上記〔5〕記載の歯列矯正用ワイヤーの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ループメカニクスのための歯列矯正用ワイヤーにおいて、ループ部の少なくとも先端側の部分の剛性が、本線部の剛性よりも相対的に小さくなっていることを特徴とする。以下、ループ部のうち、剛性が本線部の剛性よりも相対的に小さくなっている部分を、「低剛性部分」とも呼ぶ。
ループ部に低剛性部分を設けるためには、後述するように、低剛性部分の材料の剛性を本線部の材料の剛性よりも小さくするか、または、低剛性部分の断面積(該低剛性部分の進行方向に対して垂直な平面で切断した横断面の面積)を本線部の断面積よりも小さくすればよい。これらの態様のなかでも、低剛性部分の断面積を小さくする態様は、ワイヤーを削るだけで容易に低剛性部分を付与することができるので、好ましい態様である。
本発明によって、曲げや捩じりの困難な微調整、複雑なループ形状の使用、特殊な金属の使用が不要となり、一般的なマルチブラケット法に用いられる安価で耐食性の高いステンレス材料を利用し、単純なループ形状を持ったループ部を用い、簡単に調整することで、好ましい水平力(とりわけ約1.5N~約3N)と好ましい指標M/F(とりわけ8~10)が得られるようになる。
また、これまでのループメカニクスでは、水平力が大きいために矯正力も非常に大きくならざるを得なかったのに対して、本発明では、図2に示すように、歯冠部分に適切に減じた水平力F1を作用させながら、歯根部分にも好ましいモーメントM2を作用させることができ、矯正力の増大を抑制しながらも平行移動を達成し得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の歯列矯正用ワイヤーの構成の一例を示す模式図である。ワイヤーは、説明のために太い実線で描いている。また、屈曲点20a、20dにおける屈曲は、図を単純化するために、実際にワイヤーを曲げた場合よりも鋭く折れ曲がったものとして描いている。
【図2】図2は、本発明の歯列矯正用ワイヤーを適用した場合の、歯冠に作用する水平力F1、該水平力によって抵抗中心の回りに生じる力のモーメントM1、および、歯根を後方に移動させる逆回転方向の力のモーメントM2を説明する図である。同図は、左側の犬歯を左側から見た図であり、よって、モーメントM1は反時計回りの方向として現れ、モーメントM2は時計回りの方向として現れており、これは図11も同様である。また、図2に示す抵抗中心とブラケットは、図11と同様であり、同じ符号を用いている。
【図3】図3は、本発明の歯列矯正用ワイヤーにおけるループ部の他の屈曲パターンを例示する図である。
【図4】図4は、本発明の歯列矯正用ワイヤーの好ましい態様を例示する斜視図である。図4(a)は、ワイヤーの断面形状を示すために、1つの湾曲部とその両側の短い本線部とを有する例として示している。図4(b)は、図4(a)に示した歯列矯正用ワイヤーのループ部の先端側の部分を拡大した斜視図である。
【図5】図5は、本発明の歯列矯正用ワイヤーの好ましい他の態様を例示する斜視図である。図5(a)は、ワイヤーの断面形状を示すために、1つの湾曲部とその両側の短い本線部とを有する例として示している。図5(b)は、図5(a)に示した歯列矯正用ワイヤーのループ部の先端側の部分を拡大した斜視図である。
【図6】図6は、本発明の歯列矯正用ワイヤーを評価するためのシミュレーションにおける設定条件を説明する図である。
【図7】図7は、本発明の歯列矯正用ワイヤーを評価するためのシミュレーション実験1の結果を示したグラフ図である。
【図8】図8は、本発明の歯列矯正用ワイヤーの適切な配置位置を調べるためのシミュレーション実験2の結果を示したグラフ図である。
【図9】図9は、本発明の歯列矯正用ワイヤーの適切な活性化量を調べるためのシミュレーション実験3の結果を示したグラフ図である。
【図10】図10は、従来のループメカニクスに用いられるワイヤーの一例(図10(a))と、そのワイヤーを歯列に装着した様子を示す図(図10(b))である。
【図11】図11は、従来のループメカニクスによって犬歯を後方へ移動させる際に、歯に加えられる力を示した模式図である。図11(a)は、水平力F10によって抵抗中心の回りに生じる力のモーメントM10を説明する図である。図11(b)は、歯根を後方に回転移動させるための逆回転方向の力のモーメントM20を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、具体的な態様例に沿って本発明を詳細に説明する。
本発明の歯列矯正用ワイヤーは、図1に示すように、ループメカニクスを実施し得るように本線部10とループ部20とを有する。図1の例では、ループ部20のループ形状を、好ましい単純な形状であるVループとしているが、それに限定されることはなく、あらゆるループ形状が利用できる。
ループ部20は、先端側に湾曲部22を有しており、かつ、該湾曲部22の両端と本線部10a、10bとをそれぞれに連絡する2つの脚部21a、21bを有している。図1の例では、一方の本線部10aから、順に、該本線部からループ部への屈曲点20a、一方の脚部21a、該脚部と湾曲部との境界部位である点20b、湾曲部22、該湾曲部と他方の脚部との境界部位である点20c、他方の脚部21b、ループ部から本線部への屈曲点20d、他方の本線部10bまでが、一本の経路として続いている。
ここで、本発明の重要な特徴は、ループ部20全体のうちの少なくとも先端側の部分の剛性が、材料の調整または断面形状の調整によって、本線部10の剛性よりも小さくなっている点にある。このループ部の特徴によって、安価で耐食性の高い一般的なループメカニクス用のワイヤー材料を用いかつ単純なループ形状のループ部を用いても、図2に模式的に示すように、適切に減じられた水平力F1を歯冠に容易に作用させることができる。よって、歯根の抵抗中心200を中心とする適切に減じられたモーメントM1(F1×d1)を作用させることができる。そして、反対方向のモーメントM2は減少させることなく維持することができる。よって、好ましい指標(M2/F1)を達成することができる。

【0015】
本発明の歯列矯正用ワイヤーの全長(ループ部を展開せず、本線部の進行方向に沿った全長)は、一方の大臼歯から他方の大臼歯までの歯列弓全体に沿った長さであってもよく、また、対象歯とその両側のアンカー歯にわたるような局所に対応した長さであってもよい。
当該歯列矯正用ワイヤーの全長が歯列弓全体にわたる場合、その全長は、患者の年齢や個人差に合わせて適宜決定すればよい。本発明の歯列矯正用ワイヤーが適用されるべき患者は人間以外の動物であってもよい。
当該歯列矯正用ワイヤーを歯列に装着するためのブラケット等は、従来公知のマルチブラケット法に用いられるものを用いてよい。

【0016】
当該歯列矯正用ワイヤーに設けられるループ部の数は、1つであってもよいが、力を作用させるべき矯正対象の歯の数に応じて複数であってもよい。当該歯列矯正用ワイヤーは、ループ部を多数配置したマルチループアーチワイヤー(Multiloop Edgewise Arch Wire、マルチループエッジワイズアーチワイヤーとも呼ばれる)としても利用可能である。
当該歯列矯正用ワイヤーは、低剛性部分における剛性上の変更以外は、従来のループメカニクスに用いられる歯列矯正用ワイヤーと同様の形態であってよい。

【0017】
ループ部は、図1、図3の例のとおり、一方の本線部から側方へ突出するように曲がり、湾曲部を経て他方の本線部へと戻る形状をなす。湾曲部と脚部との境界は明確でなくともよく、また、湾曲の基部が脚部を兼用していてもよい。
ループ部の全体の形状や各部の寸法は、ループメカニクスを実施し得るものであればよく、特に限定はされないが、例えば、図1に示すような単純なVループの形状では、ループ部の幅Wは、1mm~4mm程度が好ましい例として挙げられ、高さ(本線部から先端までの距離)Hは、6mm~10mm程度が好ましい例として挙げられる。これらはあくまでも標準的な数値範囲であって、患者の体形や状況に応じて、これらの範囲を逸脱した寸法であってもよい。
図3(a)のループ部は、単純なU字状を呈しており、図1のループ部と同様の特性を持っている。図3(b)のループ部は、湾曲部が脚部から両方の横方向に張り出してT字状を呈しており、圧下の作用(歯を歯槽骨中に押し込む作用)が報告されている。図3(c)のループ部は、湾曲部が脚部から一方の横方向だけに張り出してL字状を呈しており、挺出の作用(歯を歯槽骨から引き出す作用)が報告されている。また、図3(c)のループ部では、直線的な2つの脚部の長さが互いに異なっている。
本発明でいうループ部の先端とは、本線部から最も離れた部分である。例えば、図3(a)~(c)の例では、一点鎖線で囲んだ部分Pがループ部の先端である。「ループ部の先端」は、左右対称的な形状のループ部では湾曲部の全区間の中央にあることが好ましいが、場合によっては、湾曲部の全区間の中央から端へとずれていてもよい。また、図3(c)のような非対称的な形状のループ部では、湾曲部の全区間の中央から端へとずれていることが好ましいが、場合によっては、湾曲部の全区間の中央にあってもよい。

【0018】
本発明では、ループ部の少なくとも先端側の部分の剛性を減少させる。
「少なくとも先端側の部分」とは、前記した先端の一部、または、先端の全部、または、湾曲部の一部(先端の一部または全部を含む部分)、または、湾曲部の全部、または、湾曲部の全部と脚部の先端側の一部(脚部は、2つの脚部のうち一方または両方であってよい)、または、ループ部全部である。
単純なループ形状では、低剛性部分は、ループ部の先端側の中心部分を含み、かつ、両側の脚部に向かって対照的にその範囲が広がっていることが好ましい。
水平力F1の範囲1.5N~3Nは、必ず厳守すべき範囲ではない。水平力F1の範囲は、例えば1N~5N程度が好ましく、その範囲の中でも、1.5N~3Nがより好ましい範囲である。
同様に、指標M/Fの範囲8~10は、必ず厳守すべき範囲ではない。例えば、指標M/Fの範囲は6~10程度が好ましく、その範囲の中でも、8~10がより好ましい範囲である。
ループ部全体のうちどの程度の割合を占める部分を低剛性部分とするかは、図2における好ましい水平力F1と好ましい指標M/F(図2では、M2/F1)が得られるように決定すればよい。図1に示すように、低剛性部分とすべき部分を、ループ部の先端部から高さ方向の寸法hまでの部分とする場合、ループ部全体の高さHに占める寸法hの割合〔(h/H)×100〕は、10%~60%程度が好ましく、20%~50%がより好ましく、30%~50%が特に好ましい。
ループ部全体の高さHに占める寸法hの割合が、前記の範囲を逸脱しかつ過度に小さいと、水平力が十分に低下せず、得られる指標(M2/F1)が好ましい範囲よりも小さくなる。また、低剛性部分が、先端の微小な部分だけである場合、その部分に応力が集中して折れ曲がる可能性がある。
一方、ループ部全体の高さHに占める寸法hの割合が、前記の範囲を逸脱しかつ過度に大きいと、水平力が過剰に低下し、得られる指標(M2/F1)が好ましい範囲よりも大きくなる。また、脚部における低剛性部分の割合が大きくなるにつれて、脚部全体が大きく撓むようになり、本線部にモーメントM2のための捩じりを加える操作が困難になる。
前記したループ部全体の高さHに占める寸法hの割合は、単純なVループ形状の場合についての割合であり、他の異形のループ部については、それぞれの形状に応じて低剛性部分とすべき部分の範囲を変更してよい。例えば、図3(b)、(c)に示すようなループ形状では、ループの先端部には、水平方向に延びる部分が存在する。よって、高さ方向に関して〔(h/H)×100〕が10%程度であっても、ワイヤーの長さ方向に関しては、より長い部分が低剛性部分となる。よって、その点を考慮し、好ましい水平力F1と、好ましい指標(M2/F1)が得られるように、低剛性部分とすべき部分の範囲を変更すればよい。

【0019】
図1、図3(a)に示すような単純な形状のループ部の場合、湾曲部の全部と脚部の先端側の一部、とりわけ、湾曲部の全部と両方の脚部の先端側の一部を低剛性部分とすることが好ましい。
上記したように、図3(b)、(c)に示すような複雑に屈曲した形状のループ部の場合、それぞれの湾曲部の各部は独自の作用を示ものとなっており、また、両方の脚部の長さが互いに異なる場合もある。よって、それぞれのループ部の形状に応じて、図2に示す水平力F1が適切に減少するように、かつ、モーメントM2を維持するように、ループ部全長に占める低剛性部分の長さの割合を決定すればよい。
また、ループ部の形状にかかわらず、常に本線から所定の距離以上離れた部分全体を必ず低剛性部分とし、それぞれのループ部の形状に応じて、好ましい水平力と指標M/Fが得られるように、該低剛性部分の剛性を調節してもよい。

【0020】
背景技術に関する上記説明のとおり、ループ部には、湾曲部が開くことによる曲げ応力(厳密には脚部の撓みによる曲げ応力も含まれる)と、湾曲部が捩られることによる捩り応力が発生する。よって、本発明でいう剛性とは、曲げ剛性、および、捩じり剛性の両方を意味する。
本線部の剛性に対して、ループ部の剛性を相対的に小さくするためには、次の(A)および(B)のうちの一方または両方の構成が採用できる。
(A)低剛性部分に用いられる材料を、本線部の材料の剛性よりも小さい剛性を有する材料とする。
(B)低剛性部分のワイヤーの断面積を、剛性が低下するように、本線部の断面積よりも小さくする。尚、単に断面積が減少するだけでは、断面形状が細長く外側に拡張することで、断面二次モーメントや断面ねじりモーメント(断面二次極モーメント)が増大し、剛性が増大する場合がある。よって、そのような場合を排除すべく、ここでは「剛性が低下するように」と規定している。
上記(A)、(B)では、ループ部の低剛性部分と本線部との関係を問題としているが、ループ部のうち低剛性部分でない残部の剛性は、本線部と同様であってよい。
ループ部に、局所的に本線部のワイヤーとは異なる材料からなる部分が挿入された物や、ループ部の所定部分の断面が本線部の断面と異なる物であっても、全体としてループメカニクスを実施し得る線状の器具であれば、本発明の「歯列矯正用ワイヤー」に含まれる。

【0021】
上記(A)、(B)の構成における低剛性部分は、ループ部を形成した後の低剛性部分であってもよいし、ループ部を形成する前の直線的なワイヤーにおいて、ループ部とすべき区間中の低剛性部分とすべき区間の部分であってもよい。即ち、本発明の歯列矯正用ワイヤーの製造方法は、下記(I)の工程を有していてもよいし、下記(II)の工程を有していてもよい。
(I)ループ部を形成した後で低剛性部分を形成する工程:
即ち、ワイヤーを原素材として用い、該ワイヤーの所定の部分を屈曲させることによってループ部を形成し、残りの部分を本線部とする加工をし、前記の加工よりも後に、前記ループ部の少なくとも先端側の部分の剛性を、前記本線部の剛性よりも小さくする加工を行う工程。
(II)ループ部を形成する前に、低剛性部分を形成する工程:
即ち、ワイヤーを原素材として用い、該ワイヤーの全長のうち、ループ部とすべき区間中の少なくとも該ループ部の先端側の部分とすべき区間の剛性を、本線部とすべき残りの区間の剛性よりも小さくする加工をし、前記の加工よりも後に、前記ループ部とすべき区間を屈曲させることによってループ部を形成し、残りの区間を本線部とし、それによって該ループ部の少なくとも先端側の部分の剛性を前記本線部の剛性よりも小さくする加工を行う工程。
上記(I)の加工工程は、ループ部に対して低剛性部分の位置を定めることが容易であるという点で好ましい。

【0022】
上記(A)の構成を採用する場合、低剛性部分と本線部とを互いに異なる材料で形成してもよいし、低剛性部分と本線部とを互いに同じ材料で形成しながらも、一方に熱処理や表面処理等を加え、低剛性部分と本線部との間に相対的な剛性の差を付与してもよい。
上記(A)の構成において、低剛性部分を設けるための具体的な方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
(A1)従来公知のループメカニクス用の材料からなるワイヤーの所定の区間に、剛性がより低い材料からなる部分を低剛性部分として挿入し、それらを溶接(ろう付け、圧接、溶着など)などの適当な接合法により力が伝達し得るように連結する方法。ただし、接合に熱を作用させる場合、その熱によって各部の材料の本来の剛性が変化しないように注意すべきである。
(A2)従来公知のループメカニクス用の材料からなるワイヤーによって本線部とループ部を形成し、低剛性部分の剛性を、熱処理等によって低下させる方法。
(A3)低剛性の材料からなるワイヤーによって本線部とループ部を形成し、低剛性部分以外の部分の剛性を、熱処理、表面処理、被膜の付与等によって高める方法。
上記(A1)の方法では、金属以外の剛性の低い材料や、複数の金属材料が多層に接合された複合材料を、低剛性部分の材料として用いてもよい。
剛性がより低い材料としては、弾性率(とりわけ、ヤング率)がより低い材料、即ち、同じ大きさの引張り力(または圧縮力)が作用した場合により大きく弾性変形し得る材料が利用可能である。金属材料のヤング率は、JIS Z2241に規定された金属材料引張試験方法に準じて得られる引張試験結果から、応力と歪の関係(応力/歪)により算出することができる。
剛性がより高い材料(本線部用)と剛性がより低い材料(ループ部用)との組み合わせは、特に限定はされないが、例えば、(より高い剛性の材料:コバルトクロム合金、ステンレスなど)と、(より低い剛性の材料:β-チタン、ニッケルチタン合金など)との組み合わせが挙げられる。
上記(A2)の方法では、材料によって熱処理の方法が異なるが、例えば、ステンレス製ワイヤーに対する、低剛性部分(または低剛性部分とすべき区間)への通電による剛性低下処理などが挙げられる。
上記(A3)の方法では、剛性を高め得る公知の熱処理技術、表面処理技術、被膜形成技術を適宜利用してよい。

【0023】
上記(B)の構成は、異種材料の複雑な接合や熱処理が無用であり、容易に、正確に、かつ、安価に本発明の目的を達成できるので好ましい。
上記(B)の構成において、低剛性部分を設けるための具体的な方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
(B1)用いるワイヤー(原素材)の全長のうちの低剛性部分とすべき区間の断面積を、ループ部の形成に先立って、本線部の断面積よりも小さくしておく。
(B2)用いるワイヤーの全長のうちの低剛性部分の断面積を、ループ部を形成した後で本線部の断面積よりも小さくする。
上記(B2)の構成は、形成された実際のループ部に対して低剛性部分の位置を正確かつ容易に決定できるので好ましい。
上記(B)の構成において、低剛性部分の断面積を本線部の断面積より小さくする方法としては、原素材のワイヤーを細くすることが可能なあらゆる方法、または、低剛性部分以外の部分の断面積をメッキやコーティング等で太くするあらゆる方法を用いることができる。これらのなかでも、原素材のワイヤーを細くする方法は、容易に、かつ、安価に本発明の目的を達成できるので好ましい。
原素材のワイヤーを細くする方法としては、例えば、切削(工具刃による削り取り、砥石による研削・研磨を含む)、エッチング、プレスによって所定の厚さまで圧延し原断面形状からはみ出した部分を削除する方法、これらを組合せた方法などが挙げられる。
以上の方法のなかでも、上記(B2)において、切削によって原素材のワイヤーを細くする方法は、原素材の性質を変えることなく、医療の現場でも容易にワイヤーに適用でき、かつ、切削量(切削深さ、または、残部の厚さ)の計測によって目的とする復元力が算出できるので好ましい方法である。

【0024】
上記(B)の構成における低剛性部分の断面積は、もとの断面積(原素材のワイヤーの断面積)によっても異なるが、もとの断面積(=本線部の断面積)の20%~50%が好ましく、40%~50%がより好ましい範囲である。

【0025】
原素材のワイヤーを切削するには、ヤスリや電動工具などの一般的な切削工具の他、歯科用のドリル装置(エアータービンを駆動源とする装置や、マイクロ電気モーターを駆動源とする「コントラ」と呼ばれる装置)の先端に適当な先端ビットやバーを装着した切削装置、などを利用してもよい。

【0026】
本発明に利用可能な原素材のワイヤーとしては、従来公知のループメカニクスに用いられるワイヤーを利用することができ、その材料としては、例えば、ステンレスなどの単一材料、ニッケル/チタン合金、銅/ニッケル/チタン合金などの合金が挙げられる。また、原素材のワイヤーは、前記の種々の単一材料や合金を、同心円状または平行縞状に積層した断面構造を持つ複合材料であってもよく、表面には、耐食性や生体適合性を付与するために、金などの貴金属によるメッキが施されていてもよい。
これらの中でも、ステンレスは、安価である点や、剛性が高いので、近遠心方向の力(歯列弓に沿った方向の力)を加えたときに、歯に対する圧下力、挺出力のコントロールがし易い点で、好ましい材料である。

【0027】
原素材のワイヤーの断面形状は、円形、矩形(正方形または長方形であって、角部には適宜の丸みが付けられている形状)、楕円形、その他の異形であってもよい。図2に示すように、犬歯などの前歯にブラケットを通じて捩じりモーメントM2を作用させる点からは、原素材のワイヤーの断面形状は、矩形が好ましい形状である。断面形状が円形、矩形のワイヤーは、市販されている種々の寸法のものが利用できる。
断面形状が正方形の場合、該正方形の一辺の長さは、ループメカニクスに好ましく使用し得る点からは、約0.406mm(0.016インチ)~約0.635mm(0.025インチ)程度が例示される。断面形状が長方形の場合、(長辺×短辺)は、例えば、(約0.559mm(0.022インチ)×約0.406mm(0.016インチ))~(約0.635mm(0.025インチ)×約0.533mm(0.021インチ))程度が例示される。インチ寸法の併記は、流通しているワイヤー材の実際の呼び寸法(インチサイズ)を記載するためである。
また、断面形状が円形の場合、断面形状が正方形の場合の断面積と同程度の断面積となる直径であってよい。
原素材のワイヤーの断面形状が長方形の場合、通常では、その長方形の短辺を含んだワイヤー胴体の側面が、歯の表面に対面するように用いられる。即ち、該ワイヤーを受入れるブラケットの溝の断面形状も同様の方向となっている。これは、ワイヤーにねじり変形を加えたときに、ブラケットにワイヤーを挿入し易くすることを目的としている。

【0028】
図4、図5は、上記(B)の構成に従った、当該歯列矯正用ワイヤーの好ましい実施例を模式的に示している。これらの実施例では、矩形の断面形状(直交する2辺の長さは、t1、t2)を有するワイヤーが原素材として用いられている。ループ部20の基本形状は、単純なVループであり、2つの脚部21a、21bと、それら脚部よりも先端側に位置する湾曲部22とを有する形状である。当該歯列矯正用ワイヤーは、歯列弓の全長にわたるものであってよく、ループ部は複数あってもよいが、図では、1つのループ部とその両側の本線部だけを切り取って示している。
図4、図5に示す態様例では、湾曲部22の全部と脚部21a、21bの先端側の部分(ループ部の高さHのうち、先端部から寸法hの部分)が、本線部の断面積よりも小さい断面積を有するものとなっている。それにより、ループ部の先端側の部分が低剛性部分となっている。該低剛性部分が、ループ部のうち、湾曲部22の一部、または、湾曲部22の全部、または、湾曲部の全部を含む該ループ部の先端側の部分(即ち、湾曲部の全部と脚部の先端側の部分)であってもよいことは、上記したとおりである。
矩形の断面形状によって、ワイヤーは4つの胴体側面を有しており、そのうちの1つの胴体側面(図4(a)、図5(a)では、長さt1の辺を含んだ面である。この面は本線部では鉛直面である)が、装着すべき歯列の歯の表面と対面するように、本線部とループ部とが形成されている。

【0029】
図4の態様例では、本線部の断面形状の4つの辺のうち、歯の表面と対面する上記の1つの胴体側面に含まれる辺の長さは原長t1であり、低剛性部分の断面形状の4つの辺のうち、上記の1つの胴体側面に含まれる辺の長さは、図4(b)に示すようにt11であって、t1よりも短くなっており、よって、該低剛性部分の剛性が、前記本線部の剛性よりも小さくなっている。
一方、図5の態様例では、本線部の断面形状の4つの辺のうち、上記の1つの胴体側面に隣接する胴体側面(本線部では水平面)に含まれる辺の長さは原長t2であり、低剛性部分の断面形状の4つの辺のうち、上記の1つの胴体側面に隣接する胴体側面に含まれる辺の長さは、図5(b)に示すようにt21であって、t2よりも短くなっており、よって、該低剛性部分の剛性が、前記本線部の剛性よりも小さくなっている。

【0030】
図4、図5に示す態様では、いずれも、ワイヤーの厚さが薄くなっているが、厚さが減少する方向は互いに直交している。この差によって、力の作用も互いに異なっている。
図4に示す態様では、湾曲部の先端(頂部)での断面形状は、水平方向に長い長方形であり、鉛直方向の辺の厚さt11が薄くなっている。よって、水平軸線に関する断面2次モーメントは大きく減少しており、曲げ剛性も大きく減少している。
これに対して、図5に示す態様では、湾曲部の先端(頂部)での断面形状は、鉛直方向に長い長方形であり、水平方向の厚さt21が薄くなっている。よって、水平軸線に関する断面2次モーメントは図4に示す態様例ほど大きくは減少しておらず、曲げ剛性も大きくは減少していない。
本発明者らの研究によれば、図4に示す態様の方が、図5に示す態様よりも、湾曲部の曲げ剛性の低下の分だけ、水平力F1がより小さくなり、好ましい水平力と指標M/Fが得られ、歯の平行移動が達成できることがわかった。
これら2つの態様における作用の差異は、他のワイヤーの断面形状(円形や楕円形)、他のループ形状の場合も同様である。

【0031】
図4に示す態様では、低剛性部分は、湾曲部の内側の材料が除去されて厚さが薄くなっているが、湾曲部の外側の材料が除去されていてもよく、内側と外側の両方の材料が除去されていてもよい。回転する切削工具によって、原素材のワイヤーの材料を除去する点では、図4に示すように、湾曲部の内側の材料を除去する方が力を加えやすく、工具が切削面から逸脱することも少ない。
図5に示す態様では、低剛性部分は、湾曲部の片側(どちらの側であってもよい)の材料が除去されて厚さが薄くなっているが、湾曲部の両側の材料が除去されていてもよい。鋭い角部を無くすために、適宜の面取りを加えてよい。

【0032】
上記した本発明の歯列矯正用ワイヤー、とりわけ、上記(B2)の構成を有する歯列矯正用ワイヤーを製造するためのより好ましい方法は、次のとおりである。
先ず、全長にわたって均一な断面形状を有するワイヤーを原素材として用い、該ワイヤーの所定の部分を屈曲させることによってループ部を形成する。このときの残りの部分が本線部である。
次に、形成したループ部のうち低剛性部分とすべき部分を、断面積が小さくなるように切削し、それによって、該部分の剛性を、記本線部の剛性よりも小さくする。
これにより、特殊な熱処理を行うこともなく、特殊な工具を用いることもなく、容易に本発明の歯列矯正用ワイヤーを得ることができる。

【0033】
〔シミュレーション実験1〕
図4に示す態様(低剛性部分の断面形状の4つの辺のうち、歯の面に対面する胴体側面に含まれる辺の長さを減少させた態様)と、図5に示す態様(低剛性部分の断面形状の4つの辺のうち、歯の面に対面する胴体側面に隣接する胴体側面に含まれる辺の長さを減少させた態様)において、原素材のワイヤーの断面積を変え、かつ、低剛性部分の断面積を変化させた場合に、水平力F1、モーメントM2、指標M2/F1がどのように変化するかを、接線剛性法を実施し得るコンピュータープログラムを用いたシミュレーションによって調べた。
以下に、本シミュレーション実験1で設定した条件と結果を示す。

【0034】
(ブラケットとループ部の配置の仕様)
シミュレーションの条件設定として、図6に示すように、左側の犬歯T3を矯正対象の歯とし、該犬歯T3にブラケットB1を装着し、該犬歯T3の遠心側(奥歯側)近傍にループ部を配置する状況を想定した。
ブラケットB1の遠心側の端面(犬歯ブラケット端面)から、第二小臼歯T5に装着したブラケットB2の近心側(前歯側)の端面までの距離(ブラケット間距離)は、10mmとした。また、犬歯ブラケット端面から、ループ部の中心までの距離xは、約3.3mmとした。
原素材のワイヤーの材料は、ステンレススチールとした。
原素材のワイヤーの断面形状は、3種類の長方形であり、それぞれの(長辺の長さ×短辺の長さ)は、次の(a)~(c)のとおりである。
(a)0.533mm(0.021インチ)×0.635mm(0.025インチ)
(b)0.483mm(0.019インチ)×0.635mm(0.025インチ)
(c)0.457mm(0.018インチ)×0.635mm(0.025インチ)
いずれの試料でも、長方形断面の短辺を含む胴体側面を歯の面に対面させることを想定した。上記(a)~(c)の各ワイヤーに対して、それぞれに、低剛性部分の断面積を減少させる方向を変えて、図4、図5に示す態様のループ部を想定した。

【0035】
本シミュレーション実験1では、ループ部の形状は、図1に示すようにVループであり、ループ部の最も膨れた部分の外側の最大幅Wを2mmとし、高さHを10mmとした。図6では、ループ部はすでに活性化されて開いているが、原形状は、図4、図5に示すように、2つの脚部の基部は互いに接触している。
また、本シミュレーション実験1では、いずれのモデルにおいても、ループ部の高さH(10mm)のうち、先端から3mmまで(即ち、全体高さの30%まで)を低剛性部分とした。図4、図5のとおり、本シミュレーションでは、低剛性部分は、湾曲部全体と、脚部の先端側の一部を含んでいる。
図4、図5に示すそれぞれの態様について、低剛性部分の断面積を段階的に減少させて、犬歯T3のブラケットに作用する水平力F2と、モーメントM2と、指標M2/F1を算出した。より詳細には、原素材のワイヤーの断面積を100とし、それに対して、除去した面積の割合(削り込み量の割合)を0%から50%まで、10%ずつ増加させた。換言すると、低剛性部分とすべき部分の断面積を、100%から50%まで、10%ずつ減少させた。

【0036】
(水平力F1、モーメントM2、指標M2/F1の計算結果)
ループ部の活性化は、ループ部が閉じた状態から遠心方向に1mm開く設定とした。
各試料のそれぞれのシミュレーションの計算結果を、図7にグラフとして示す。
図7に示すグラフでは、いずれも、図4の態様を白い菱形「◇」でプロットし、図5の態様を、黒い四角「■」でプロットしている。
図7の(a)の縦の列((a1)~(a3))のグラフは、原素材のワイヤーの断面形状が上記(a)の0.533mm×0.635mmに関するものであり、図7の(b)の縦の列((b1)~(b3))のグラフは、原素材のワイヤーの断面形状が、上記(b)の0.483mm×0.635mmに関するものであり、(c)の縦の列((c1)~(c3))のグラフは、原素材のワイヤーの断面形状が、上記(c)の0.457mm×0.635mmに関するものである。
図7に示すグラフでは、いずれも、横軸は、原断面積を100としたときの削り込み量の割合いを示しており、単位は〔%〕である。
図7に示すグラフのうち、(a1)、(b1)、(c1)のグラフの縦軸は、図2における水平力F1を表しており、(a2)、(b2)、(c2)のグラフの縦軸は、図2における力のモーメントM2を表しており、(a3)、(b3)、(c3)のグラフの縦軸は、指標M/F(=M2/F1)を表している。

【0037】
図7の水平力に関するグラフ((a1)、(b1)、(c1))から明らかなとおり、同じ削り込み量であっても、白い菱形「◇」でプロットした図4の態様の方が、曲げに関する断面2次モーメントの減少に起因して、水平力F1が大きく減少し、削り込み量40%以上において、好ましい水平力(約1.47~2.45N)を達成している。
一方、図7のモーメントに関するグラフ((a2)、(b2)、(c2))から明らかなとおり、モーメントM2に関しては、図4の態様と図5の態様との間に、水平力F1ほどの大きな差異はない。この点が重要である。
その結果、図7の指標M/Fに関するグラフ((a3)、(b3)、(c3))から明らかなとおり、想定した原素材に関しては、削り込み量約30~50%程度において、図4の態様の方が、好ましい指標M/F(8~10)を達成し得ることが確認できた。

【0038】
以上は、ループ部の先端から30%までを低剛性部分とした場合のシミュレーションであるが、低剛性部分が占めるループ部の先端からの割合を1%~100%まで変化させて、同様のシミュレーションを行ったところ、低剛性部分が占めるループ部の先端からの割合は、10%~60%が好ましく、20%~50%がより好ましく、30%~50%が特に好ましい割合であることがわかった。

【0039】
〔シミュレーション実験2〕
本シミュレーション実験2では、図4に示す態様のループ部について、犬歯ブラケット端面から、該ループ部の中心までの距離xを変化させた場合に、水平力F1、モーメントM2、指標M2/F1がどのように変化するかを調べた。
また、低剛性部分を設けない従来のループ部についても、同様に、犬歯ブラケット端面から該ループ部の中心までの距離xを変化させて、それぞれの水平力、モーメント、指標M/Fの変化を調べた。
本シミュレーション実験2でも、上記シミュレーション実験1と同様に、接線剛性法を実施し得るコンピュータープログラムを用いた。
ブラケットとループ部の配置の仕様は、上記シミュレーション実験1と同様に設定した。ただし、原素材のワイヤーの断面形状は、2種類の長方形とした。それぞれの(長辺の長さ×短辺の長さ)は、次の(a)、(b)のとおりである。
(a)0.483mm(0.019インチ)×0.635mm(0.025インチ)
(b)0.533mm(0.021インチ)×0.635mm(0.025インチ)
ワイヤーの長方形断面の短辺を含む胴体側面を、歯の面に対面させることを想定した。
また、本シミュレーション実験2では、低剛性部分の態様は、図4に示す態様(即ち、断面形状の4つの辺のうち、歯の表面と対面する胴体側面に含まれる辺が短くなるように、ワイヤーを切削する態様)のみとし、ループ部(高さ10mm)の先端から3mmまでを低剛性部分とした。該低剛性部分における、もとの断面積に対する除去した断面積の比率は、50%とした。
以上の条件において、図6に示すように、犬歯ブラケット端面から、ループ部の中心までの距離xを、1mm~5mmまで、1mmずつ変化させ、水平力F1、モーメントM2、指標M2/F1を計算した。

【0040】
(水平力F1、モーメントM2、指標M2/F1の計算結果)
ループ部の活性化は、ループ部が閉じた状態から遠心方向に1mm開く設定とした。
各試料のそれぞれのシミュレーションの計算結果を、図8にグラフとして示す。
図8(a)の横に3つ並んだグラフ(F1、M2、M2/F1)は、原素材のワイヤーの断面形状が上記(a)の0.483mm×0.635mmである場合のものであり、図4の態様の低剛性部分を設けたループ部を白い三角形「△」でプロットし、低剛性部分を設けない従来のループ部を黒い丸「●」でプロットしている。
また、図8(b)の横に3つ並んだグラフ(F1、M2、M2/F1)は、原素材のワイヤーの断面形状が上記(b)の0.533mm×0.635mmである場合のものであり、図4の態様の低剛性部分を設けたループ部を白い菱形「◇」でプロットし、低剛性部分を設けない従来のループ部を黒い丸「●」でプロットしている。
図8に示すグラフでは、いずれも、横軸は、犬歯ブラケット端面から該ループ部の中心までの距離xを示している。
図8(a)、(b)のそれぞれの横に3つ並んだグラフの縦軸は、左側のグラフから順に、図2における水平力F1、図2における力のモーメントM2、指標M/F(=M2/F1)を表している。

【0041】
図8(a)、(b)の指標M2/F1に関するグラフの曲線が上に凸であることからも明らかなとおり、ブラケット間距離10mmのうち、ループ部の位置が犬歯ブラケット端面から約2.5mm(全距離の1/4)~約3.3mm(全距離の1/3)であれば、指標M2/F1の値がピークとなり、最大かつ好ましい指標値が得られることがわかった。このことから、ループ部は、犬歯ブラケット端面から、ブラケット間距離の1/3よりも近心側に配置することが好ましく、また、1/4よりも近心側に配置しても、指標M2/F1は高くならないことが確認できた。

【0042】
〔シミュレーション実験3〕
本シミュレーション実験2では、図4に示す態様のループ部について、活性化量(ループの脚部を開く量)を変化させた場合に、水平力F1、モーメントM2、指標M2/F1がどのように変化するかを調べた。また、低剛性部分を設けない従来のループ部についても、同様に、活性化量を変化させた場合に、水平力F1、モーメントM2、指標M2/F1がどのように変化するかを調べた。
本シミュレーション実験3でも、上記シミュレーション実験1と同様に、接線剛性法を実施し得るコンピュータープログラムを用いた。
ブラケットとループ部の配置の仕様は、上記シミュレーション実験1と同様に設定した。ただし、原素材のワイヤーの断面形状は、1種類の長方形とした。該長方形の(長辺の長さ×短辺の長さ)は、0.483mm(0.019インチ)×0.635mm(0.025インチ)である。
ワイヤーの長方形断面の短辺を含む胴体側面を、歯の面に対面させることを想定した。
また、本シミュレーション実験3では、シミュレーション実験2と同様、低剛性部分の態様を図4に示す態様のみとし、ループ部(高さ10mm)の先端から3mmまでを低剛性部分とした。該低剛性部分における、もとの断面積に対する除去した断面積の比率は50%とした。
また、犬歯ブラケット端面から原形状のループ部の中心までの距離xは2.8mmとした。
以上の条件において、ループ部の活性化量を、0.5mm~2mmまで、0.5mmずつ変化させ、水平力F1、モーメントM2、指標M2/F1を計算した。

【0043】
(水平力F1、モーメントM2、指標M2/F1の計算結果)
各試料のそれぞれのシミュレーションの計算結果を、図9にグラフとして示す。
図4の態様の低剛性部分を設けたループ部を白い三角形「△」でプロットし、低剛性部分を設けない従来のループ部を黒い丸「●」でプロットしている。
図9のグラフからも明らかなとおり、低剛性部分を設けたループ部は、低剛性部分を設けないループ部に比べて、水平力F1が必要以上に小さくなる一方で、指標M2/F1は高くなる。よって、活性量を増大する調整によって、好ましい水平力F1と好ましい指標M2/F1が容易に得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の歯列矯正用ワイヤーおよびその製造方法によって、簡単な調整によって、かつ、安価な材料を用いて、矯正すべき歯に対して、好ましい水平力を作用させながらも、好ましい指標M/Fを満たすことが可能になった。
【符号の説明】
【0045】
10 本線部
20 ループ部
21 脚部
22 湾曲部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図9】
6
【図10】
7
【図11】
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【図4】
9
【図5】
10