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明細書 :神経系細胞の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-131543 (P2016-131543A)
公開日 平成28年7月25日(2016.7.25)
発明の名称または考案の名称 神経系細胞の製造方法
国際特許分類 C12N   5/0793      (2010.01)
C12N   5/0797      (2010.01)
FI C12N 5/00 202S
C12N 5/00 202T
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 9
出願番号 特願2015-009047 (P2015-009047)
出願日 平成27年1月21日(2015.1.21)
発明者または考案者 【氏名】水谷 健一
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AC20
4B065CA44
4B065CA46
要約 【課題】神経系細胞の分化レベルを効率的に識別する手段、及び神経系細胞を分化レベルに応じて効率的に分離する手法を提供すること。
【解決手段】(1)神経系細胞集団のミトコンドリア型活性酸素種(mtROS)レベルを測定すること、及び
(2)測定したmtROSレベルに応じて神経系細胞集団を分離すること、
を含む、目的神経系細胞の製造方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
(1)神経系細胞集団のミトコンドリア型活性酸素種(mtROS)レベルを測定すること、及び
(2)測定したmtROSレベルに応じて神経系細胞集団を分離すること、
を含む、目的神経系細胞の製造方法。
【請求項2】
該神経系細胞集団が神経幹細胞及び神経細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
測定したmtROSレベルを、予め測定した神経幹細胞、中間型神経幹細胞、前期神経前駆細胞、後期神経前駆細胞、及び神経細胞から成る群より選択される少なくとも1種の神経系細胞のmtROSレベルと比較することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該目的神経系細胞が神経細胞である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
該目的神経系細胞が神経幹細胞である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
該神経系細胞集団内で相対的にmtROSレベルが低い細胞を選抜することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
該神経系細胞集団内で相対的にmtROSレベルが高い細胞を選抜することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
該神経系細胞集団がiPS細胞又はES細胞を分化誘導させて得られた細胞集団である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
神経系細胞の分化程度を測定するための、神経系細胞のミトコンドリア型活性酸素種レベルの使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
ミトコンドリア型活性酸素種レベルを指標とした各種神経系細胞の製造方法、及び神経系細胞の分化の程度を判断するためのミトコンドリア型活性酸素種レベルの使用等が開示される。
【背景技術】
【0002】
近年、高次機能を担う大脳皮質の元となる神経幹細胞の分化を制御する様々な転写因子の解析が進展している(非特許文献1)。一方で、神経幹細胞を分化誘導して得られる細胞集団には、神経幹細胞、中間型神経幹細胞、前期神経前駆細胞、後期神経前駆細胞、及び神経細胞(分化細胞)等の分化レベルの異なる種々の細胞が含まれ得る。また、iPS細胞又はES細胞から神経幹細胞を分化誘導した場合にも種々の分化レベルに関して不均質な細胞集団が含まれ得る。このような神経系細胞集団に含まれる細胞の分化レベルを効率的に識別し、分離する手段は未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】Miyoshi et al., Neuron, 74, 1045-1058 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
神経系細胞の分化レベルを効率的に識別する手段、及び神経系細胞を分化レベルに応じて効率的に分離する手法を提供することが1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
後述する実施例に示されるように、神経幹細胞には比較的高いレベルの活性酸素種が存在し、特にミトコンドリア型活性酸素種レベルは、神経幹細胞から分化神経細胞へと分化が進むにつれて概ね直線的に低下することが見出された。このような知見に基づき、更なる検討と研究を重ね、下記に代表される発明が提供される。
項1.
(1)神経系細胞集団のミトコンドリア型活性酸素種(mtROS)レベルを測定すること、及び
(2)測定したmtROSレベルに応じて神経系細胞集団を分離すること、
を含む、目的神経系細胞の製造方法。
項2.
該神経系細胞集団が神経幹細胞及び神経細胞を含む、項1に記載の方法。
項3.
測定したmtROSレベルを、予め測定した神経幹細胞、中間型神経幹細胞、前期神経前駆細胞、後期神経前駆細胞、及び神経細胞から成る群より選択される少なくとも1種の神経系細胞のmtROSレベルと比較することを含む、項1又は2に記載の方法。
項4.
該目的神経系細胞が神経細胞である、項1~3のいずれかに記載の方法。
項5.
該目的神経系細胞が神経幹細胞である、項1~3のいずれかに記載の方法。
項6.
該神経系細胞集団内で相対的にmtROSレベルが低い細胞を選抜することを含む、項4に記載の方法。
項7.
該神経系細胞集団内で相対的にmtROSレベルが高い細胞を選抜することを含む、項5に記載の方法。
項8.
該神経系細胞集団がiPS細胞又はES細胞を分化誘導させて得られた細胞集団である、項1~7のいずれかに記載の方法。
項8.
神経系細胞の分化程度を測定するための、神経系細胞のミトコンドリア型活性酸素種レベルの使用。
項9.
(1)神経系細胞集団のミトコンドリア型活性酸素種(mtROS)レベルを測定すること、及び
(2)測定したmtROSレベルに応じて神経系細胞集団を分離すること、
を含む、目的神経系細胞のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0006】
ミトコンドリア型活性酸素種レベルを指標にすることにより、効率的に分化程度に応じて神経系細胞を識別及び/又は分離することができる。よって、分化程度(段階)が異なる神経系細胞が含まれる細胞集団から、目的とする特定の神経系細胞だけを効率的に取得することができる。よって、好適な一実施形態においては、ES細胞又はiPS細胞を神経細胞へと分化誘導させて得られた細胞集団から、神経細胞のみを分離すること、又は不要な細胞(例えば、神経幹細胞)を除去することが可能である。これは、例えば、分化誘導された神経細胞を移植片として利用する際に望ましい。移植片中に増殖性のある神経幹細胞が含まれるとがん化のおそれが懸念されるためである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】胎生14.5日の大脳皮質組織由来細胞を神経前駆細胞マーカー(抗CD133抗体)及び種々の内在性活性酸素種マーカーで染色し、FACS分析した結果を示す。縦軸はCD133の発現レベルであり、横軸は内在性活性酸素種マーカーの発現レベルである。DCFDAはトータル活性酸素種マーカーであり、DAFは過酸化物及びペルオキシ亜硝酸のマーカーであり、MitoSoxはミトコンドリア型活性酸素種のマーカーである。
【図2】胎生10.5日、14.5日、及び17.5日の大脳皮質組織由来細胞における各種活性酸素種レベルを測定した結果を示す。E10は胎生10.5日の大脳皮質組織由来細胞を示し、E14は胎生14.5日の大脳皮質組織由来細胞を示し、E17は胎生17.5日の大脳皮質組織由来細胞を示す。
【図3】胎生10.5日、14.5日、及び17.5日の大脳皮質組織由来細胞におけるミトコンドリア型活性酸素種レベルを測定した結果を示す。
【図4】P19胚性癌細胞株をレチノイン酸(RA)で処理し、分化誘導させた場合とそのような処理を行わない場合のミトコンドリア型活性酸素種レベルを示す。
【図5】胎生14.5日の大脳皮質組織由来の神経前駆細胞を活性酸素種誘発剤又は活性酸素種阻害剤の存在下で培養し、神経細胞塊(neurosphere:NS)の頻度及び遺伝子発現への影響を測定した結果を示す。活性酸素種誘発剤としてチオニンスルホキシミン(BSO)及びN,N-ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(DETC)を用いた。活性酸素種阻害剤として、リポ酸 (LA)及びN-アセチルシステイン(NAC)を用いた。
【図6】胎生14.5日の大脳皮質組織由来の神経前駆細胞を活性酸素種誘発剤又は活性酸素種阻害剤の存在下で培養し、定量リアルタイムPCRによって、Nestin及びTuj1のmRNAレベルを測定した結果を示す。
【図7】胎生14.5日の大脳皮質組織由来の神経前駆細胞にミトコンドリア型活性酸素種を調節する遺伝子(SOD2)を過剰発現(CAG-SOD2)もしくはノックダウン(SOD2sh)し、幹細胞の未分化性や分化に関わる遺伝子の発現レベルを調べた結果を示す。
【図8】FACSを用いて胎生14.5日の大脳皮質組織由来細胞集団におけるミトコンドリア型活性酸素種レベルを測定した結果を上段に示す。上段の図に示されるミトコンドリア型活性酸素種レベルが最も高い5%の細胞集団(mtROShigh 5%)とミトコンドリア型活性酸素種レベルが最も低い5%の集団(mtROSlow 5%)をFACSソーターを用いて分離し、それらの遺伝子発現を定量PCRで測定した結果を下段に示す。
【図9】図8と同様に、左側の図に示される画分(mtROShigh)及び(mtROSlow )について発現している遺伝子レベルを比較した結果を右側の図に示す。
【図10】図8と同様に、左側の図に示される画分(mtROShigh)及び(mtROSlow )について発現している遺伝子レベルを比較した結果を右側の図に示す。
【図11】胎生14.5日の大脳皮質組織由来細胞集団について、ミトコンドリア型活性酸素種レベルに応じて分離した画分の領域(ゲート1~5)を示す。
【図12】図11に示される各画分に含まれる細胞における遺伝子の発現レベルを測定した結果を示す。
【図13】図12に示される各遺伝子の発現レベル等に基づいて同定された各画分に含まれる細胞の分化の程度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
神経系細胞集団のミトコンドリア型活性酸素種(mtROS)レベルの測定手段は、特に制限されず、公知及び今後開発される方法から適宜選択することができる。例えば、実施例で使用したMitoSox等の市販されているmtROSのマーカー分子(化学プローブ)を用い、蛍光法又は発光法で測定することができる。具体的には、蛍光活性化セルソーター(FACS)装置で測定することができる。mtROSとはミトコンドリア内に存在する活性酸素種を意味する。

【0009】
測定したmtROSレベルに応じた細胞の分離手段は特に制限されず、公知及び今後開発される方法から適宜選択することができる。例えば、FACSを用いて分離することができる。FACSの利用は、mtROSレベルの測定、及びmtROSレベルに応じた細胞の分離を1つの装置で連続的に行うことができるため好ましい。

【0010】
一実施形態において、mtROSレベルに応じた細胞の分離とは、神経系細胞集団における相対的なmtROSレベルが特定の範囲(例えば、相対的に高い範囲、又は相対的に低い範囲)にある細胞を分離することを意味する。ここで、特定の範囲とは、製造目的となる神経系細胞(目的神系経細胞)の種類に応じて任意に設定できる。例えば、mtROSレベルが最も高い特定の割合の集団、mtROSレベルが中間的である特定の割合の集団、mtROSレベルが最も低い特定の割合の集団等と設定することができる。ここで、特定の割合とは、細胞数換算で、例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%等を意味する。

【0011】
神経系細胞集団は、神経幹細胞、中間型神経細胞、前期神経前駆細胞、後期神経前駆細胞、及び神経細胞、並びにこれらの任意組み合わせから成る群から選択される一種以上の神経系細胞を含む細胞集団を意味する。神経幹細胞は、多能性(multi-potent)及び自己増殖能を有し、Pax6遺伝子の高発現によって特徴づけられる。中間型神経幹細胞は、Tbr2遺伝子の高発現によって特徴づけられる単回分裂可能(unipotent)な細胞である。前期神経前駆細胞は、NeuroD1遺伝子を高発現し、形態学的に多数の突起を有することによって特徴づけられる。後期神経前駆細胞は、Prdm8遺伝子を高発現し、形態学的に多数の突起を有することによって特徴づけられ。神経細胞はTbr1を高発現し、形態学的に双極性の突起を有することによって特徴づけられる完全に分化した細胞である。神経系細胞集団には、神経系細胞以外の細胞が含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。神経系細胞集団に神経細胞以外の細胞が含まれる場合、その割合は、細胞数換算で、例えば、50%以下、40%以下、30%以下、2%以下、10%以下、5%以下、3%以下、2%以下、1%以下である。

【0012】
一実施形態において、神経系細胞集団には、神経幹細胞、及び神経細胞が含まれることが好ましい。神経系幹細胞、及び神経細胞を含む神経系細胞集団から神経幹細胞(又は神経細胞)を分離することにより、神経幹細胞を含むことによるがん化リスクが軽減された神経細胞を得ることができる。

【0013】
神経系細胞集団の取得方法は特に制限されず、公知及び今後開発される方法から適宜選択することができる。神経系細胞集団は、ES細胞又はiPS細胞を分化誘導して得られた細胞であっても良く、ヒト及び他の哺乳類の組織(例えば、大脳皮質)から取得した細胞集団であってもよい。

【0014】
一実施形態において、神経系細胞集団は、ES細胞又はiPS細胞から分化した細胞集団であり得る。このような細胞集団は、ES細胞又はiPS細胞を神経幹細胞に誘導する条件下で培養することによって得ることができる。ES細胞又はiPS細胞を神経幹細胞に分化誘導する方法は公知であり、例えば、Miura K. et al.: Variation in the safety of induced pluripotent stem cell lines. Nat Biotechnol 27:743-745, 2009、Okada Y. et al.,: Spatio-temporal recapitulation of central nervous system development by ES cell-derived neural stem/progenitor cells.Stem Cells 26; 3086-3098, 2008、及びWO2011/062013等に開示される方法、或いは、今後開発される方法を採用することができる。

【0015】
一実施形態において、神経系細胞集団は、神経幹細胞を中間型神経細胞、前期神経前駆細胞、後期神経前駆細胞、及び神経細胞から成る群より選択される一種以上の神経系細胞に分化誘導して得られた細胞集団であり得る。そのような分化誘導手段は公知であり、例えば、特開2009-292767、特開2013-135640、及び特開2014-236701等に開示される方法、或いは今後開発される方法を採用することができる。

【0016】
神経系細胞集団に含まれる神経系細胞の分化レベルの同定は、当該神経系細胞のmtROSレベルを、予め測定した神経幹細胞、中間型神経幹細胞、前期神経前駆細胞、後期神経前駆細胞、及び神経細胞から成る群より選択される少なくとも1種の神経系細胞(参照用)のmtROSレベルと比較することで可能である。この場合、同定対象となる神経系細胞のmtROSレベルの測定と、参照用の神経系細胞のmtROSレベルの測定とは同じ条件で行うことが好ましい。参照用の神経系細胞とは分化の程度が確認されている細胞である。測定されたmtROSレベルが、目的とする参照用の神経系細胞と同レベルの神経系細胞を分離することにより、目的とする神経系細胞を製造することができる。

【0017】
後述する実施例に記載された方法に準じて、神経系細胞集団について測定したmtROSレベルを縦軸にプロットし、細胞数を横軸にプロットした結果、図11に示すような実質的に2つの山から成る形状が描かれる場合、図11にゲート1~5で示される画分に相当する画分の細胞を分離することにより、目的の神経系細胞を製造することができる。この場合、上述のように、測定したmtROSレベルと参照用の神経系細胞のmtROSレベルとを比較することは必ずしも必要ない。例えば、目的神経系細胞が神経細胞である場合は、図11のゲート1に相当する画分を分離することができ、目的神経細系細胞が後期神経前駆細胞である場合は、図11のゲート2に相当する画分を分離することができ、目的神経系細胞が前期神経前駆細胞である場合は、図11のゲート3に相当する画分を取得することができ、目的神経系細胞が中間型神経幹細胞である場合は、図11のゲート4に相当する画分を分離することができ、目的神経系細胞が神経幹細胞である場合は、図11のゲート5に相当する画分を分離することができる。

【0018】
目的神経系細胞は任意であり、一実施形態においては神経細胞であり得、他の実施形態においては神経幹細胞であり得る。また、目的神経系細胞は、任意の2種以上の神経系細胞の組み合わせであってもよい。そのような神経系細胞の組み合わせとしては、例えば、神経細胞、及び後期神経前駆細胞の組み合わせ、神経細胞、後期神経前駆細胞、及び前期神経前駆細胞の組み合わせ、神経細胞、後期神経前駆細胞、前期神経前駆細胞、及び中間型神経幹細胞の組み合わせ、及び中間型神経幹細胞、及び神経幹細胞の組み合わせ等である。

【0019】
製造される目的神経系細胞には、目的以外の神経系細胞及び他の細胞が含まれていてもよいが、一実施形態において、目的以外の細胞の割合は低い方が好ましい。例えば、目的神経系細胞における目的以外の細胞種の存在割合は、細胞数換算で、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、3%以下、2%以下、1%以下である。

【0020】
製造される目的神経系細胞はその種類に応じて各種用途に使用することができる。例えば、再生医療用の移植片、又は細胞製剤として利用することができる。また、目的神経系細胞は、各種神経細胞の基礎研究に利用することもできる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例】
【0022】
1.細胞分化に伴うミトコンドリア型活性酸素種量の変化
5種類の活性酸素種応答性の化学プローブを用いた蛍光活性化セルソーター(FACS)により、神経幹細胞の分化に伴う内在性活性酸素種レベルを調べた。化学プローブとしては、トータル活性酸素種を検出するためのDCFDA、ヒドロキシルラジカル及びペルオキシ亜硝酸を検出するためのHPF、過酸化水素を検出するためのBES-H2O2、過酸化物及びペルオキシ亜硝酸を検出するためのDAF、及びミトコンドリア型活性酸素種を検出するためのMitoSoxを用いた。胎生14.5日の大脳皮質組織由来細胞を分離し、蛍光色素を結合させた抗CD133抗体(神経前駆細胞マーカー)を用いてFACS分析を行った。細胞の分離は、既に報告されている方法に従って行った(Nature 449, 351-356, 2007)。FACS分析は、FACSAria II及びFACSDiva 6.1ソフトウエア(Becton Dickingson)を用い、ソートした細胞はTRIzol(登録商標)(Life Technology)中に回収した。
【実施例】
【0023】
神経前駆細胞は全ての活性酸素種を高レベルで有していることが確認された(図1)。図1の右側の図に示されるように、ミトコンドリア型活性酸素種(MitoSox)レベルだけがCD133の発現レベルと明確な正の相関を有することが確認された。他の4種のプローブで測定される活性酸素種では、そのような相関は見られなかった。
【実施例】
【0024】
次に、胎生10.5日、14.5日、及び17.5日の大脳皮質組織由来細胞における各種活性酸素種レベルを測定した。その結果、ミトコンドリア型活性酸素種レベルに関して、それが高い細胞集団と低い細胞集団の2つに分かれることが確認された(図2の右側)。また、神経細胞の分化に伴って、ミトコンドリア型活性酸素種レベルが高い集団と低い集団の相対的な割合が変化することが確認された(図3)。一方、他の活性酸素種には、このような傾向は見られなかった(図2の左型及び中央)。更に、P19胚性癌細胞株をレチノイン酸(RA)で処理し、分化誘導させるとミトコンドリア型活性酸素種レベルが高い細胞集団が顕著に減少することを確認した(図4)。これらの結果から、神経前駆細胞は高いミトコンドリア型活性酸素種レベルを有するが、分化と共にそれが低下することが示された。
【実施例】
【0025】
更に、胎生14.5日の大脳皮質組織由来の神経前駆細胞を活性酸素種誘発剤又は活性酸素種阻害剤の存在下で培養し、神経細胞塊(neurosphere:NS)の頻度及び遺伝子発現への影響を測定した。活性酸素種誘発剤としてチオニンスルホキシミン(BSO)又はN,N-ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(DETC)を用いた。活性酸素種阻害剤として、リポ酸 (LA) 又は N-アセチルシステイン(NAC)を用いた。DETCは、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の発現を抑制し、活性酸素種を蓄積させる。毒性のない低濃度のDETCは、神経細胞塊頻度を上昇させた(図5)。もう一方の活性酸素種誘発剤であるBSOは、グルタチオン合成酵素を阻害して活性酸素種を蓄積する作用を有するが、神経細胞腫頻度を若干上昇させた。一方、活性酸素種阻害剤であるLA(ミトコンドリア酵素複合体の必須補酵素)は、神経細胞塊頻度を阻害しなかったが、NAC(還元型グルタチオンの前駆体であるチオール含有抗酸化剤)は、神経細胞塊頻度に影響しなかった。
【実施例】
【0026】
定量リアルタイムPCRによって、DETCがNestinのmRNAレベルを有意に増加させることが確認された(図6)。しかし、BSOでは、そのような増加は見られなかった。一方、LAはNestin mRNAの発現を有意に抑制し、Tuj1 mRNAレベルを上昇させたが、NACにはそのような作用は見られなかった。これらは、ミトコンドリア型活性酸素種の制御が神経幹細胞の分化に重要な因子であることを示唆する。また、SOD2の過剰発現はNgn2及びNeuroD1等のPro-neural遺伝子の発現を上昇させるが、Hes1又はTbr2の発現を上昇せず、SOD2のノックダウンは反対の作用が見られた(図7)。
【実施例】
【0027】
以上の結果から、神経前駆細胞は比較的高いミトコンドリア型活性酸素種を有し、ミトコンドリア型活性酸素種レベルは、神経細胞の分化に伴って有意に減少し、ミトコンドリア型活性酸素種の制御が神経細胞の分化と相関することを示す。
【実施例】
【0028】
2.細胞分化に伴うミトコンドリア型活性酸素種量の変化
神経細胞の分化に伴うミトコンドリア型活性種レベルの変化を測定するため、FACSを用いて胎生14.5日の大脳皮質組織由来細胞をミトコンドリア型活性酸素種レベルが最も高い5%の細胞集団(mtROShigh 5%)とミトコンドリア型活性酸素種レベルが最も低い5%の集団(mtROSlow 5%)に分け(図8上段)、それらの遺伝子発現を定量PCRで比較した。その結果、図8下段に示されるようにmtROShigh 5%では、Pax6及びTbr2等の神経幹細胞/神経前駆細胞のマーカーの有意に高い発現が見られた。一方、mtROSlow 5%では、Prdm8及びTbr1等の後期分化マーカー並びにNeuN等の成熟神経細胞マーカーの有意に高い発現が見られた。また、図9及び10の左側に示される各画分についても発現している遺伝子レベルを比較した結果を各図の右側に示す。これらの結果は、ミトコンドリア型活性酸素種レベルが高い神経系細胞では主に未分化マーカーが発現しており、ミトコンドリア型活性酸素種レベルが低い神経系細胞では主に分化マーカー発現していることを裏付ける。
【実施例】
【0029】
次に、ミトコンドリア型活性酸素種レベルに応じて図11に1~5で示す各画分の細胞集団を分離し、それぞれの遺伝子発現プロフィールを比較した。その結果、図12に示す通り、各細胞集団では主に次の異なる遺伝子の発現が見られた:Pax6(画分1)、Tbr2(画分2)、NeuroD1(画分3)、Prdm8(画分4)、及びTbr1(画分5)。Pax6は神経幹細胞において高い発現が見られる遺伝子であり、Tbr2は中間型神経幹細胞において高い発現が見られる遺伝子であり、NeuroD1は前期神経前駆細胞において高い発現が見られる遺伝子であり、Prdm8は、後期神経前駆細胞において高い発現が見られる遺伝子であり、Tbr1は分化した神経細胞において高い発現が見られる遺伝子である。これらの結果が示す各画分の細胞の分化段階を図13に示す。
【実施例】
【0030】
以上の結果から、神経幹細胞の分化が進むにつれて細胞内のミトコンドリア型活性酸素種レベルが低下することが示された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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