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明細書 :研磨装置および研磨方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-137553 (P2016-137553A)
公開日 平成28年8月4日(2016.8.4)
発明の名称または考案の名称 研磨装置および研磨方法
国際特許分類 B24B  37/00        (2012.01)
C09K   3/14        (2006.01)
FI B24B 37/00 D
C09K 3/14 550C
C09K 3/14 550D
C09K 3/14 550G
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2015-014627 (P2015-014627)
出願日 平成27年1月28日(2015.1.28)
発明者または考案者 【氏名】廣垣 俊樹
【氏名】青山 栄一
【氏名】馬 雷
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110001195、【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 3C158
Fターム 3C158AA07
3C158AA09
3C158CA04
3C158CB01
3C158CB05
3C158CB07
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA11
3C158ED02
3C158ED12
要約 【課題】多くの制約なく容易にかつ安価に非磁性材料からなる研磨対象物を研磨することができる新規な研磨装置を提供する。
【解決手段】研磨装置は、研磨ツール10と、研磨ツール10に塗布された研磨剤20とを備える。研磨剤20は、磁性材料からなる複数の球体21と、複数の球体21の各々の表面に被膜状に付着してなる液状バインダ22と、液状バインダ22によって複数の球体21の各々の表面上において分散された状態で保持された非磁性材料からなる複数の砥粒23とを含む。研磨ツール10の表面近傍には、研磨ツール10の表面の一部から出て研磨ツール10の表面の他の一部に戻るように磁場が生成され、当該磁場によって複数の球体21が研磨ツール10に磁着されることで研磨剤20中に磁性クラスタが形成される。研磨中にいても、当該磁場のみによって磁性クラスタが形成された状態が維持される。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
非磁性材料からなる研磨対象物を研磨するための研磨装置であって、
研磨対象物に対して相対運動可能な研磨ツールと、
前記研磨ツールに塗布された研磨剤とを備え、
前記研磨剤は、磁性材料からなる複数の球体と、前記複数の球体の各々の表面に被膜状に付着してなる液状バインダと、前記液状バインダによって前記複数の球体の各々の表面上において分散された状態で保持された非磁性材料からなる複数の砥粒とを含み、
前記研磨ツールの表面近傍には、前記研磨ツールの表面の一部から出て前記研磨ツールの表面の他の一部に戻るように前記研磨ツールに一対の磁極が形成されることで磁場が生成され、当該磁場によって前記複数の球体が前記研磨ツールに磁着されることで前記研磨剤中に磁性クラスタが形成され、
前記研磨剤を前記研磨ツールによって研磨対象物に押圧しつつ前記研磨ツールを研磨対象物に対して相対運動させることで研磨対象物を研磨するに際し、前記磁場のみによって前記磁性クラスタが形成された状態が維持される、研磨装置。
【請求項2】
前記研磨ツールが、軸線周りに自転可能であり、
研磨対象物を研磨するに際し、前記研磨ツールが自転する、請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記研磨剤が、前記研磨ツールの軸線方向に位置する先端部に塗布されている、請求項2に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記一対の磁極のうちの一方が、前記研磨ツールの前記先端部に形成される、請求項3に記載の研磨装置。
【請求項5】
前記研磨ツールの前記先端部が、前記研磨ツールの軸線方向に沿って外側に向けて膨出する形状を有している、請求項3または4に記載の研磨装置。
【請求項6】
前記磁場を生成する手段が、永久磁石であり、
前記永久磁石によって前記研磨ツールの前記先端部が構成されている、請求項3から5のいずれかに記載の研磨装置。
【請求項7】
前記研磨ツールの前記先端部の根元部分における軸線方向と直交する断面形状が円形状であり、
前記複数の砥粒の外形が、いずれも球状または不定形状であり、
前記研磨ツールの前記先端部の前記根元部分における直径をRとし、前記複数の球体の平均直径をDとし、前記複数の砥粒の最大外形寸法をdとした場合に、R/1000≦D≦R/10の条件を満たすとともに、D/1000≦d≦D/10の条件を満たす、請求項3から6のいずれかに記載の研磨装置。
【請求項8】
前記複数の球体が、鋼球であり、
前記複数の砥粒が、アルミナ系砥粒であり、
前記液状バインダが、油である、請求項1から7のいずれかに記載の研磨装置。
【請求項9】
非磁性材料からなる研磨対象物を研磨するための研磨方法であって、
磁性材料からなる複数の球体、前記複数の球体の各々の表面に被膜状に付着してなる液状バインダ、および、前記液状バインダによって前記複数の球体の各々の表面上において分散された状態で保持された非磁性材料からなる複数の砥粒を含む研磨剤を、前記研磨対象物に対して相対運動可能な研磨ツールに塗布することにより、前記研磨ツールの表面の一部から出て前記研磨ツールの表面の他の一部に戻るように前記研磨ツールに一対の磁極が形成されることで前記研磨ツールの表面近傍に形成された磁場によって前記複数の球体が前記研磨ツールに磁着されることで前記研磨剤中に磁性クラスタが形成されようにする工程と、
前記研磨剤を前記研磨ツールによって前記研磨対象物に押圧しつつ前記研磨ツールを前記研磨対象物に対して相対運動させることにより、前記磁場のみによって前記磁性クラスタが形成された状態を維持しつつ前記研磨対象物を研磨する工程とを備える、研磨方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性材料からなる研磨対象物を研磨するための研磨装置および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、研磨対象物としての各種の製品の表面仕上げに様々な研磨方法が用いられている。このうち、研磨対象物が比較的複雑な表面形状を有している場合(たとえば、研磨対象物に曲率が略一定の曲面が含まれる場合や多少の凹凸面が含まれる場合等)に好適に利用できる研磨方法として、磁気研磨法が知られている。
【0003】
磁気研磨法は、研磨装置の加工部の周囲に磁石を配置するとともに、研磨剤に含まれる砥粒として磁性砥粒を用い、磁力を用いて研磨対象物に磁性砥粒を押し付けることで研磨を行なうものである。当該磁気研磨法においては、磁性砥粒が磁力線に沿って並ぶことで研磨ツールの先端にブラシ様の磁性砥粒の集合体(一般に粒子ブラシと称される)が形成されることになり、研磨対象物に磁力によって磁性砥粒が略均一に押しつけられることで比較的複雑な形状の表面の研磨を可能にするものである。
【0004】
ここで、磁気研磨法を用いて磁性材料からなる研磨対象物を研磨する場合には、当該研磨対象物と研磨装置に設置された磁石との間に、対応した一対の磁極が形成されることで磁場が生成されるようにし、当該磁場によって上述した粒子ブラシが形成されて研磨が行なわれるようにする。
【0005】
一方、磁気研磨法を用いて非磁性材料からなる研磨対象物を研磨する場合には、研磨対象物を通過するように磁場が生成される必要があり、研磨対象物を挟み込むように研磨装置に一対の磁石が設置され、これら一対の磁石間に、対応した一対の磁極が形成されることで磁場が生成されるようにし、当該磁場によって上述した粒子ブラシが形成されて研磨が行なわれるようにする。
【0006】
なお、この磁気研磨法が具体的に開示された文献としては、たとえば特開2002-265933号公報(特許文献1)、特開平5-111821号公報(特許文献2)、特開2010-52123号公報(特許文献3)等がある。
【0007】
このうち、上記特許文献2および3には、磁性砥粒を含む研磨剤中に磁性材料からなる複数の球体を添加し、当該球体を含む研磨剤を用いて研磨を行なう磁気研磨法が開示されている。当該特許文献2および3に開示の磁気研磨法においては、研磨剤中に含まれる潤滑油等の非磁性材料によって磁性砥粒に作用する磁力が弱められてしまうことが防止でき、磁性砥粒の研磨対象物に対する押し付け力の低下が抑制できる。
【0008】
また、磁性砥粒を用いない点で上述した磁気研磨法とは異なるものの、磁力を利用した研磨方法として、特開平5-42476号公報(特許文献4)に開示のものがある。当該特許文献4に開示の研磨方法は、磁性材料からなる研磨対象物に油性ワックス等を用いて非磁性材料からなる砥粒を予め塗布しておき、研磨ツールと研磨対象物との間に、対応した一対の磁極が形成されるように研磨ツールを磁石にて構成し、研磨ツールと研磨対象物との間に磁性材料からなる複数の球体を介在させつつ研磨を行なうようにしたものである。
【0009】
上記特許文献4に開示の研磨方法は、研磨対象物に予め塗布されている砥粒に対して、磁性材料からなる複数の球体を磁力によって押し付けるように作用させるものであり、研磨に際して研磨ツールと研磨対象物との間に、対応した一対の磁極が形成されるようにする点において、上述した磁気研磨法と共通したものである。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2002-265933号公報
【特許文献2】特開平5-111821号公報
【特許文献3】特開2010-52123号公報
【特許文献4】特開平5-42476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、磁性砥粒は、磁性材料からなる磁性粒子の表面に非磁性材料からなる複数の砥粒を結合させることで形成されるものであり、一般に磁性粒子の表面に砥粒を造粒や焼結あるいは化学的手法等によって結合させることで製造されるものである。そのため、当該磁性砥粒を含む研磨剤は、一般的な研磨剤に比較して非常に高価であり、結果として研磨に要するコストが増大してしまう問題があった。
【0012】
また、上記特許文献1ないし3に開示される如くの磁気研磨法を用いて非磁性材料からなる研磨対象物を研磨する場合においては、上述したように研磨対象物を挟み込むように研磨装置に一対の磁石を設置することが必要になる。
【0013】
その場合、非磁性材料からなる研磨対象物の厚みが十分に薄い場合には、非常に強力な磁場を発生させることで研磨対象物を通過するように磁場が生成できるため、大型でかつ高価な設備が必要にはなるものの、その研磨を行なうことが可能になる。
【0014】
しかしながら、非磁性材料からなる研磨対象物の厚みがある程度厚い場合には、磁性砥粒を研磨対象物に十分な押し付け力をもって押し付けることができる程度にまで強力な磁場を発生させることが事実上できないため、その研磨を行なうこと自体が困難となってしまう。
【0015】
また、上記特許文献1ないし3に開示される如くの磁気研磨法を用いた場合であっても、非磁性材料からなる研磨対象物が非常に複雑な形状を有している場合(たとえば、研磨対象物が部位ごとに曲率半径が変化するような自由曲面等を含んでいる場合等)においては、磁性砥粒を研磨対象物に対して均一な押し付け力にて押し付けることが困難になってしまい、所望の精度での研磨が行なえないこととなってしまう。
【0016】
このように、磁気研磨法を用いた場合であっても、非磁性材料からなる研磨対象物を研磨する場合には、研磨に要するコストが大幅に増大してしまったり、所望の精度での研磨が行なえなかったり、そもそもその研磨自体が行なえなかったりするといった問題が存在していた。
【0017】
また、上記特許文献4に開示される如くの研磨方法を用いた場合であっても、磁性砥粒を用いない点において研磨に要するコストは一部低減できるものの、やはり非磁性材料からなる研磨対象物を研磨する場合には、研磨に要するコストが大幅に増大してしまったり、所望の精度での研磨が行なえなかったり、そもそもその研磨自体が行なえなかったりするといった問題が存在していた。
【0018】
したがって、本発明の目的は、多くの制約なく容易にかつ安価に非磁性材料からなる研磨対象物を研磨することができる新規な研磨装置および研磨方法を提供することにあり、特に、非磁性材料からなる研磨対象物の厚みが厚い場合や当該研磨対象物が非常に複雑な表面形状を有している場合等においても所望の精度にて研磨が行なえる研磨装置および研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に基づく研磨装置は、非磁性材料からなる研磨対象物を研磨するためのものであって、研磨対象物に対して相対運動可能な研磨ツールと、上記研磨ツールに塗布された研磨剤とを備えている。上記研磨剤は、磁性材料からなる複数の球体と、上記複数の球体の各々の表面に被膜状に付着してなる液状バインダと、上記液状バインダによって上記複数の球体の各々の表面上において分散された状態で保持された非磁性材料からなる複数の砥粒とを含んでいる。上記研磨ツールの表面近傍には、上記研磨ツールの表面の一部から出て上記研磨ツールの表面の他の一部に戻るように上記研磨ツールに一対の磁極が形成されることで磁場が生成されており、当該磁場によって上記複数の球体が上記研磨ツールに磁着されることで上記研磨剤中に磁性クラスタが形成されている。本発明に基づく研磨装置においては、上記研磨剤を上記研磨ツールによって研磨対象物に押圧しつつ上記研磨ツールを研磨対象物に対して相対運動させることで研磨対象物を研磨するに際し、上記磁場のみによって上記磁性クラスタが形成された状態が維持される。
上記本発明に基づく研磨装置にあっては、上記研磨ツールが、軸線周りに自転可能であることが好ましく、その場合には、研磨対象物を研磨するに際し、上記研磨ツールが自転することが好ましい。
【0020】
上記本発明に基づく研磨装置にあっては、上記研磨剤が、上記研磨ツールの軸線方向に位置する先端部に塗布されていることが好ましい。
【0021】
上記本発明に基づく研磨装置にあっては、上記一対の磁極のうちの一方が、上記研磨ツールの上記先端部に形成されていることが好ましい。
【0022】
上記本発明に基づく研磨装置にあっては、上記研磨ツールの上記先端部が、上記研磨ツールの軸線方向に沿って外側に向けて膨出する形状を有していることが好ましい。
【0023】
上記本発明に基づく研磨装置にあっては、上記磁場を生成する手段が、永久磁石であってもよく、その場合には、上記永久磁石によって上記研磨ツールの上記先端部が構成されていることが好ましい。
【0024】
上記本発明に基づく研磨装置にあっては、上記研磨ツールの上記先端部の根元部分における軸線方向と直交する断面形状が円形状であってもよく、また、上記複数の砥粒の外形が、いずれも球状または不定形状であってもよい。その場合に、上記研磨ツールの上記先端部の上記根元部分における直径をRとし、上記複数の球体の平均直径をDとし、上記複数の砥粒の最大外形寸法をdとすると、R/1000≦D≦R/10の条件と、D/1000≦d≦D/10の条件とが満たされていることが好ましい。
【0025】
上記本発明に基づく研磨装置にあっては、上記複数の球体が、鋼球であり、上記複数の砥粒が、アルミナ系砥粒であり、上記液状バインダが、油であることが好ましい。
【0026】
本発明に基づく研磨方法は、非磁性材料からなる研磨対象物を研磨するための方法であって、磁性材料からなる複数の球体、上記複数の球体の各々の表面に被膜状に付着してなる液状バインダ、および、上記液状バインダによって上記複数の球体の各々の表面上において分散された状態で保持された非磁性材料からなる複数の砥粒を含む研磨剤を、上記研磨対象物に対して相対運動可能な研磨ツールに塗布することにより、上記研磨ツールの表面の一部から出て上記研磨ツールの表面の他の一部に戻るように上記研磨ツールに一対の磁極が形成されることで上記研磨ツールの表面近傍に形成された磁場によって上記複数の球体が上記研磨ツールに磁着されることで上記研磨剤中に磁性クラスタが形成されようにする工程と、上記研磨剤を上記研磨ツールによって上記研磨対象物に押圧しつつ上記研磨ツールを上記研磨対象物に対して相対運動させることにより、上記磁場のみによって上記磁性クラスタが形成された状態を維持しつつ上記研磨対象物を研磨する工程とを備えている。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、多くの制約なく容易にかつ安価に非磁性材料からなる研磨対象物を研磨することが可能になり、特に、非磁性材料からなる研磨対象物の厚みが厚い場合や当該研磨対象物が非常に複雑な表面形状を有している場合等においても所望の精度にて研磨ができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態における研磨装置のブロック図である。
【図2】図1に示す研磨装置の加工部の構成を示す模式図である。
【図3】図1に示す研磨装置の研磨ツールの先端部近傍の拡大模式図である。
【図4】研磨ツールに塗布した状態における研磨剤内部の拡大模式断面図である。
【図5】図1に示す研磨装置を用いた研磨方法の第1の例を示す模式図である。
【図6】図1に示す研磨装置を用いた研磨方法の第2の例を示す模式図である。
【図7】第1変形例に係る研磨装置の研磨ツールの先端部近傍の拡大模式図である。
【図8】第2および第3変形例に係る研磨ツールの先端部近傍の拡大模式図である。
【図9】第4変形例に係る研磨装置の研磨ツールの先端部近傍の拡大模式図である。
【図10】検証試験における第1ないし第3条件を示す図である。
【図11】検証試験における研磨加工前の研磨剤の状態を示す写真である。
【図12】検証試験における研磨加工中の研磨剤の状態を示す写真である。
【図13】検証試験における研磨加工後の研磨剤の状態を示す写真である。
【図14】検証試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。

【0030】
図1は、本発明の実施の形態における研磨装置のブロック図である。図2は、図1に示す研磨装置の加工部の構成を示す模式図であり、図3は、図1に示す研磨装置の研磨ツールの先端部近傍の拡大模式図である。また、図4は、研磨ツールに塗布した状態における研磨剤内部の拡大模式断面図である。以下、これら図1ないし図4を参照して、本実施の形態における研磨装置1について説明する。

【0031】
図1ないし図3に示すように、研磨装置1は、研磨ツール10と、研磨ツール10の先端部に塗布された研磨剤20と、研磨対象物としてのワーク100を保持するテーブル30と、各種の駆動機構40~45と、これら各種の駆動機構40~45の動作を制御する各種の制御部50,60とを主として備えている。

【0032】
研磨装置1の主軸は、図2中に示すZ軸方向に沿って延在している。当該主軸には、たとえばスピンドルからなる主軸回転駆動機構40が取付けられており、上述した研磨ツール10は、当該主軸回転駆動機構40を介して主軸に取付けられている。これにより、研磨ツール10は、図2中に示すZ軸周りに自転可能に駆動されることになる。また、主軸には、たとえばモータ等を駆動源とするX軸方向送り駆動機構41、Y軸方向送り駆動機構42およびZ軸方向送り駆動機構43が取付けられている。これにより、研磨ツール10は、図2中に示すX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の直交3軸方向に移動可能に駆動されることになる。

【0033】
上述した主軸回転駆動機構40は、回転制御部50によってその動作が制御される。より詳細には、回転制御部50は、主軸回転駆動機構40を駆動することで主軸の回転運動を制御し、これにより研磨ツール10の自転を制御する。一方、上述したX軸方向送り駆動機構41、Y軸方向送り駆動機構42およびZ軸方向送り駆動機構43は、送り制御部60によってその動作が制御される。より詳細には、送り制御部60は、X軸方向送り駆動機構41、Y軸方向送り駆動機構42およびZ軸方向送り駆動機構43を駆動することで主軸の並進運動を制御し、これにより研磨ツール10の移動を制御する。

【0034】
テーブル30の上面には、図示しないチャックが回転可能に設けられており、テーブル30は、当該チャックにワーク100が固定されることでワーク100を保持する。テーブル30には、たとえばモータ等を駆動源とするB軸周り送り駆動機構44が取付けられており、チャックには、たとえばモータ等を駆動源とするC軸周り送り駆動機構45が取付けられている。これにより、ワーク100は、図2中に示すB軸周りおよびC軸周りの2方向に回転可能に駆動されることになる。なお、ここで、B軸は、テーブル30が初期位置にある状態において上述したX軸に合致する軸であり、C軸は、テーブル30が初期位置にある状態において上述したZ軸に合致する軸である。

【0035】
上述したB軸周り送り駆動機構44およびC軸周り送り駆動機構45は、送り制御部60によってその動作が制御される。より詳細には、送り制御部60は、B軸周り送り駆動機構44およびC軸周り送り駆動機構45を駆動することでテーブル30およびこれに設けられたチャックの回転運動を制御し、これによりワーク100の回転を制御する。なお、送り制御部60は、主軸の並進運動とチャックの回転運動とを同期して制御する。

【0036】
ここで、テーブル30としては、非磁性材料からなるものを用いることが好ましい。ただし、研磨ツール10に設けられた後述する永久磁石12によって生成される磁場が研磨時において影響を受けない程度に、研磨ツール10とテーブル30との間の距離が離れている場合等においては、テーブル30は、その全部または一部が磁性材料にて構成されていてもよい。

【0037】
また、図1に示すように、研磨装置1は、上述した機能ブロックに加え、主軸位置検出部46とチャック位置検出部47とを備えている。主軸位置検出部46は、主軸の直交3軸方向における位置を検出し、これを送り制御部60に対して出力する。また、チャック位置検出部47は、チャックの回転2方向における位置を検出し、これを送り制御部60に対して出力する。送り制御部60は、これら主軸位置検出部46およびチャック位置検出部47から入力された位置情報をもとに、必要に応じて各種の送り駆動機構41~45をサーボ制御することで主軸およびチャックの位置を制御し、これにより研磨ツール10とワーク100の相対的な位置を調整する。

【0038】
以上により、研磨ツール10は、ワーク100に対して相対運動可能に構成されることになり、後述する研磨の際に、ワーク100に対して研磨剤20を押し当てた状態を維持しつつワーク100に対して相対運動することができる。

【0039】
図3に示すように、研磨ツール10は、当該研磨ツール10の軸線AX方向に沿って延在する円柱状の回転体11と、軸線AX方向における回転体11の一端部に固定された永久磁石12とを有している。回転体11は、研磨ツール10の軸線AXが上述した主軸と合致することとなるように、当該軸線AX方向における図示しない他端部が上述したスピンドルに固定されている。これにより、研磨ツール10の先端部が永久磁石12によって構成されることになるとともに、これら回転体11および永久磁石12からなる研磨ツール10が、図中において矢印DR1で示すように軸線AX周りに自転可能に構成されることになる。

【0040】
ここで、回転体11が磁性材料にて構成されている場合には、当該回転体11に永久磁石12が磁着することでこれらが結合されていてもよいし、他の手法によってこれらが結合されていてもよい。また、回転体11が非磁性材料にて構成されている場合には、磁着以外の他の手法によってこれらが結合されることになる。

【0041】
研磨ツール10の先端部を構成する永久磁石12は、その先端面が半球面形状を有している。これにより、研磨ツール10の先端部は、軸線AX方向に沿って外側に向けて膨出する形状を有している。

【0042】
また、永久磁石12は、その一対の磁極(N極およびS極)が軸線AX方向において並ぶように回転体11に固定されている。ここで、本実施の形態においては、研磨ツール10の先端部に一対の磁極のうちのS極が形成されるように永久磁石12が配置されている。これにより、研磨ツール10の先端部近傍の表面には、研磨ツール10の先端面から出て研磨ツール10の周面に戻るように磁場(図中においては、当該磁場を磁力線Lにて模式的に表わしている)が生成されることになる。

【0043】
一方、図3および図4に示すように、研磨剤20は、磁性材料からなる複数の球体21と、液状バインダ22と、非磁性材料からなる複数の砥粒23とを含んでいる。研磨剤20は、研磨ツール10の上述した先端部およびその近傍に所定量だけ塗布されており、これにより研磨ツール10の先端部およびその近傍は、当該研磨剤20によって覆われている。

【0044】
複数の球体21は、上述した永久磁石12によって生成された磁場によって磁化されている。そのため、これら複数の球体21は、当該磁場によって研磨ツール10の先端部近傍に磁着されることになり、これら磁着した複数の球体21によって研磨剤20中に磁性クラスタが形成されることになる。

【0045】
液状バインダ22は、磁性クラスタを形成する複数の球体21の隙間を充填するとともに、磁性クラスタの最外殻部を構成する部分の複数の球体21の外側表面を覆っている。より詳細には、液状バインダ22は、その表面張力によって複数の球体21の各々の表面上に被膜状に付着している。ここで、液状バインダ22は、複数の球体21の隙間を完全に埋めていてもよいが、本実施の形態においては、図4に示すようにその内部に微細な空隙24が多く含まれることとなるようにしている。なお、図2および後述する図4および図5においては、作図の都合上、上記空隙24の図示は省略している。

【0046】
複数の砥粒23は、液状バインダ22によって複数の球体21の各々の表面上において分散された状態で保持されている。これにより、複数の砥粒23は、液状バインダ22と同様に、磁性クラスタを形成する複数の球体21の隙間に位置しているとともに、磁性クラスタの最外殻部を構成する部分の複数の球体21の外側表面上にも位置している。

【0047】
ここで、研磨剤20中に含まれる液状バインダ22の重量比は、研磨剤20中に含まれる複数の球体21の重量比に比べて十分に少なくてよい。すなわち、液状バインダ22は、当然に潤滑剤としての機能を果たすものでもあるが、その主たる機能は複数の砥粒23を複数の球体21の表面上において保持することにあり、この砥粒23の保持が実現されれば必要以上にその量を増やす必要はない。換言すれば、研磨剤20中に含まれる液状バインダ22の量が多すぎる場合には、これによって複数の球体21に作用する磁力が弱められてしまい、結果として必要な量の球体21の磁着が困難になったり、研磨ツール10から砥粒23を含む余剰の液状バインダ22が垂れ落ちてしまったりすることにもなりかねない。

【0048】
したがって、研磨剤20に添加される液状バインダ22の量は、これらを考慮して必要最小限とすることが好ましい。それ故に、本実施の形態においては、前述のように、研磨ツール10の先端に研磨剤20を塗布した状態において、複数の球体21の表面に液状バインダ22が被膜状に付着することで研磨剤20中に多くの空隙が含まれることとなるように、複数の球体21と液状バインダ22と砥粒23の重量比が調製されている。

【0049】
上述した球体21としては、好適には鋼球が使用できるが、磁性材料からなる球体であれば、どのようなものでもその使用が可能である。また、上述した液状バインダとしては、好適には油が使用できるが、複数の球体21の表面上において複数の砥粒23を保持することができるとともに潤滑剤として機能するものであれば、どのようなものでもその使用が可能である。また、砥粒23としては、好適にはアルミナ系砥粒が使用できるが、研磨対象物であるワーク100に応じて他の種類の砥粒も当然に用いることができる。なお、砥粒23の外形は、球状であってもよいし、非球状の不定形状であってもよい。

【0050】
ここで、研磨ツール10の先端部の根元部分における、軸線AXと直交する断面における研磨ツール10の直径をRとし、複数の球体21の平均直径をDとし、複数の砥粒23の最大外形寸法をdとした場合には、これらR、Dおよびdが、R/1000≦D≦R/10の条件と、D/1000≦d≦D/10の条件とを満たしていることが好ましい。当該条件を満たすことにより、後述する研磨の際に、研磨に適した大きさの磁性クラスタが形成できるとともに、砥粒23を適切にワーク100に対して押し付けることができる。

【0051】
図5は、図1に示す研磨装置を用いた研磨方法の第1の例を示す模式図である。以下、この図5と前述の図2とを参照して、上述した研磨装置1を用いた本実施の形態における研磨方法の第1の例について説明する。

【0052】
図2に示すように、上述した研磨装置1を用いて研磨を行なうに際しては、まず、研磨ツール10とテーブル30とを初期位置にセットする。

【0053】
次に、図2および図5(A)に示すように、研磨ツール10の先端部に研磨剤20を所定量だけ塗布するとともに、研磨対象物である非磁性材料からなるワーク100の研磨対象面101が露出するようにワーク100をテーブル30上にセットする。このとき、上述したように、研磨ツール10の先端部に塗布された研磨剤20中においては、研磨ツール10に設けられた永久磁石12によって生成された磁場により、複数の球体21が研磨ツール10に磁着されることによって磁性クラスタが形成されることになる。

【0054】
次に、図5(A)に示すように、研磨ツール10を軸線AX周りに図中矢印DR1方向に向けて自転させる。このとき、複数の球体21に対する永久磁石12の磁着力を予め適切に調整しておくとともに、研磨ツール10の自転の周速を適切に管理することにより、研磨剤20に遠心力が作用することで研磨ツール10の先端部から研磨剤20が脱落することが確実に防止できる。

【0055】
次に、図5に示す第1の例においては、研磨ツール10をZ軸方向に沿って図中矢印DR2方向に向けて下降させることにより、研磨ツール10の先端に塗布された研磨剤20がワーク100の研磨対象面101に向けて押圧されるようにする。このとき、研磨ツール10の下降後において、研磨ツール10の先端部とワーク100の研磨対象面101とが接触することなく、これらの間の軸線AX方向におけるギャップが予め定めた距離だけ確保されるようにする。

【0056】
その際、研磨剤20の下面がワーク100の研磨対象面101に接触することにより、研磨剤20中の磁性クラスタがその形状を変化させることになる。ここで、磁性クラスタは、上述したように永久磁石12によってのみ磁着されたものであるため、その磁着力を上回る外力が付与されることで自在にその形状が変化することになり、研磨剤20が接触する部分の研磨対象面101の形状に倣った形状に変化する。

【0057】
そのため、研磨ツール10による押圧力は、磁性クラスタを介してワーク100の研磨対象面101に接触して位置する部分の砥粒23に付与されることになり、当該砥粒23によって研磨剤20に接触する部分の研磨対象面101の研磨が進行することになる。

【0058】
次に、図5(B)に示すように、上述した研磨ツール10の先端部とワーク100の研磨対象面101との間の距離が常時一定に保たれるように研磨ツール10のZ軸方向における位置を調整しながら、研磨ツール10をX軸方向に沿って図中に示す矢印DR3方向に向けて所定速度で送ることにより、研磨ツール10をワーク100に対して相対的に移動させ、これによりワーク100の研磨対象面101の研磨をさらに進行させる。

【0059】
この研磨ツール10のX軸方向に沿った送りの際にも、研磨剤20は、研磨ツール10の先端部に付着した状態を維持し、当該研磨剤20に接触する部分の研磨対象面101の形状の変化に応じて磁性クラスタが時々刻々とその形状を変化させることにより、研磨ツール10を走査させた範囲において、研磨対象面101の研磨が行なわれることになる。

【0060】
その後、ワーク100の研磨対象面101の全面の研磨が終了するまで、研磨ツール10の送り方向を種々変更しつつワーク100に対する研磨ツール10の相対運動を継続させ、当該研磨対象面101の全面の研磨が終了した時点で研磨ツール10をZ軸方向に沿って上昇させ、その後、研磨ツール10の自転を停止する。

【0061】
以上により、ワーク100の研磨が完了する。なお、上記においては、研磨剤20をワーク100に接触させるに先立って研磨ツール10を自転させることとした場合を例示したが、研磨剤20をワーク100に接触させた後に研磨ツール10を自転させることとしてもよい。

【0062】
このように、上述した研磨装置1を用いつつ上述した第1の例の如くの研磨方法に従って研磨を行なうことにより、研磨対象面の形状に応じて自在にその先端の形状が変化可能な研磨工具を実現することができる。そのため、研磨対象物に曲率が略一定の曲面が含まれる場合や多少の凹凸面が含まれる場合のみならず、研磨対象物が部位ごとに曲率半径が変化するような自由曲面等を含んでいる場合等においても、略均一な押し付け力をもってして砥粒を研磨対象面に向けて押し付けることが可能になり、所望の精度での研磨が行なえることになる。

【0063】
また、上述した説明から明らかなように、上述した研磨装置1を用いつつ上述した第1の例の如くの研磨方法に従って研磨を行なうことにより、研磨ツールに設けられた磁石以外に、非磁性材料からなる研磨対象物を挟み込むように別の磁石を配置することを要しない。これは、本実施の形態に基づいた研磨方法は、上記特許文献1ないし3に開示される如くの磁気研磨法や上記特許文献4に開示される如くの研磨方法とは異なり、磁力を用いて砥粒を研磨対象物に押し付けるものではなく、磁力を利用して自在にその先端の形状が変化可能な研磨工具を実現しつつ、当該研磨工具による押圧力によって砥粒を研磨対象物に押し付けるものであることによる。

【0064】
そのため、非磁性材料からなる研磨対象物の形状がどのような形状であっても(すなわち、当該非磁性材料からなる研磨対象物の厚みが薄くても厚くても)、その研磨を行なうことが可能になる効果が得られるばかりでなく、大型で高価な設備を要せずに安価にかつ容易に非磁性材料からなる研磨対象物の研磨が行なえる効果が得られることになる。

【0065】
さらには、上述した研磨装置1を用いつつ上述した第1の例の如くの研磨方法に従って研磨を行なうことにより、磁性砥粒の如くの高価な砥粒を含む研磨剤を用いる必要もないため、この意味においても安価にかつ容易に非磁性材料からなる研磨対象物の研磨が行なえることになる。

【0066】
したがって、本実施の形態に基づいた研磨方法によれば、多くの制約なく容易にかつ安価に非磁性材料からなる研磨対象物を研磨することが可能になる。

【0067】
図6は、図1に示す研磨装置を用いた研磨方法の第2の例を示す模式図である。以下、この図6を参照して、上述した研磨装置1を用いた本実施の形態における研磨方法の第2の例について説明する。

【0068】
図6(A)に示すように、図6に示す第2の例においては、研磨対象物である非磁性材料からなるワーク100の研磨対象面101をテーブル30上にセットした後に、テーブル30をB軸周りに回転させ、ワーク100の研磨対象面101が、研磨剤20が塗布された研磨ツール10の先端部の側方に配置されるようにする。

【0069】
次に、研磨ツール10を軸線AX周りに図中矢印DR1方向に向けて自転させた後、研磨ツール10をY軸方向に沿って図中矢印DR4方向に向けてワーク100に近づくように移動させることにより、研磨ツール10の先端に塗布された研磨剤20がワーク100の研磨対象面101に向けて押圧されるようにする。このとき、研磨ツール10の移動後において、研磨ツール10の先端部に隣接する部分の周面とワーク100の研磨対象面101とが接触することなく、これらの間の軸線AX方向と直交する方向におけるギャップが予め定めた距離だけ確保されるようにする。

【0070】
その際、研磨剤20の側面がワーク100の研磨対象面101に接触することにより、研磨剤20中の磁性クラスタがその形状を変化させることになる。ここで、磁性クラスタは、上述したように永久磁石12によってのみ磁着されたものであるため、その磁着力を上回る外力が付与されることで自在にその形状が変化することになり、研磨剤20が接触する部分の研磨対象面101の形状に倣った形状に変化する。

【0071】
そのため、研磨ツール10による押圧力は、磁性クラスタを介してワーク100の研磨対象面101に接触して位置する部分の砥粒23に付与されることになり、当該砥粒23によって研磨剤20に接触する部分の研磨対象面101の研磨が進行することになる。

【0072】
次に、図6(B)に示すように、上述した研磨ツール10の先端部に隣接する部分の周面とワーク100の研磨対象面101との間の距離が常時一定に保たれるように研磨ツール10のY軸方向における位置を調整しながら、研磨ツール10をX軸方向に沿って図中に示す矢印DR5方向に向けて所定速度で送ることにより、研磨ツール10をワーク100に対して相対的に移動させ、これによりワーク100の研磨対象面101の研磨をさらに進行させる。

【0073】
この研磨ツール10のX軸方向に沿った送りの際にも、研磨剤20は、研磨ツール10の先端部に付着した状態を維持し、当該研磨剤20に接触する部分の研磨対象面101の形状の変化に応じて磁性クラスタが時々刻々とその形状を変化させることにより、研磨ツール10を走査させた範囲において、研磨対象面101の研磨が行なわれることになる。

【0074】
その後、ワーク100の研磨対象面101の全面の研磨が終了するまで、研磨ツール10の送り方向を種々変更しつつワーク100に対する研磨ツール10の相対運動を継続させ、当該研磨対象面101の全面の研磨が終了した時点で研磨ツール10をY軸方向に沿ってワーク100から遠ざかるように移動させ、その後、研磨ツール10の自転を停止する。

【0075】
以上により、ワーク100の研磨が完了する。なお、上記においては、研磨剤20をワーク100に接触させるに先立って研磨ツール10を自転させることとした場合を例示したが、研磨剤20をワーク100に接触させた後に研磨ツール10を自転させることとしてもよい。

【0076】
このように、上述した研磨装置1を用いつつ上述した第2の例の如くの研磨方法に従って研磨を行なうことにより、研磨対象面の形状に応じて自在にその先端の形状が変化可能な研磨工具を実現することができる。したがって、この場合にも、上述した第1の例において説明した効果と同様の効果を得ることができる。

【0077】
ここで、上述した第1の例においては、研磨ツール10の軸線AXとワーク100の研磨対象面101とが略直交する状態で研磨を行なう場合を例示し、上述した第2の例においては、研磨ツール10の軸線AXとワーク100の研磨対象面101とが略平行となる状態で研磨を行なう場合を例示した。しかしながら、本実施の形態に基づいた研磨方法は、上述したように磁力を利用して自在にその先端の形状が変化可能な研磨工具を実現するものであるため、当該研磨ツール10がワーク100に干渉しない範囲において、任意の角度でこれらを近づけて研磨を行なうことができる。したがって、研磨時において、研磨ツール10を所定方向に向けて送りつつテーブル30の角度を種々変化させることも可能であり、その加工自由度は、非常に高いものとなる。

【0078】
また、上述した第1の例および第2の例においては、いずれも研磨ツール10をワーク100に対して並進させることで送った場合を例示したが、研磨ツール10の送り方向はこれに限定されず、研磨ツール10がワーク100に対して公転するようにこれを送ってもよいし、他のどのような送り方を採用してもよい。また、研磨ツール10を必ずしも自転させる必要もなく、ワーク100側を回転させてもいし、これらのいずれも回転させないこととしてもよい。すなわち、研磨に際して研磨ツール10とワーク100とが何らかの形で相対運動すれば足り、その態様は何ら限定されるものではない。

【0079】
さらには、研磨剤20が研磨ツール10の先端部に塗布されている必要も必ずしもなく、たとえばローラ状の研磨ツールの周面にのみ塗布されていてもよい。すなわち、研磨に際して研磨剤20がワーク100に接触しさえすれば、その態様は何ら限定されるものではない。

【0080】
図7は、第1変形例に係る研磨装置の研磨ツールの先端部近傍の拡大模式図である。図8は、第2および第3変形例に係る研磨ツールの先端部近傍の拡大模式図である。また、図9は、第4変形例に係る研磨装置の研磨ツールの先端部近傍の拡大模式図である。以下、これら図7ないし図9を参照して、第1ないし第4変形例に係る研磨ツールについて説明する。

【0081】
図7に示すように、第1変形例に係る研磨ツール10は、回転体11に取付けられた永久磁石12に形成された一対の磁極の位置においてのみ、上述した実施の形態の場合と相違している。すなわち、第1変形例に係る研磨ツール10においては、一対の磁極であるN極およびS極が、研磨ツール10の軸線AXと直交する方向に並んで形成されている。

【0082】
このように構成した場合にも、研磨対象面の形状に応じて自在にその先端の形状が変化可能な研磨工具を実現することができる。したがって、この場合にも、上述した実施の形態において説明した効果と同様の効果を得ることができる。

【0083】
図8(A)に示すように、第2変形例に係る研磨ツール10は、その軸線AX方向における先端部の形状においてのみ、上述した実施の形態の場合と相違している。具体的には、第2変形例に係る研磨ツール10においては、その先端部の中央位置に平面部が形成されているとともに、当該先端部の周縁位置に当該平面部と研磨ツール10の周面とになだらかに接続する湾曲面が形成されている。この場合にも、研磨ツール10の先端部は、軸線AX方向に沿って外側に膨出する形状を有することになる。

【0084】
図8(B)に示すように、第3変形例に係る研磨ツール10も、その軸線AX方向における先端部の形状においてのみ、上述した実施の形態の場合と相違している。具体的には、第3変形例に係る研磨ツール10においては、その先端部が平面部のみによって形成されている。この場合には、研磨ツール10の先端部は、軸線AX方向に沿って外側に膨出する形状を有さないことになる。

【0085】
このように構成したいずれの場合にも、研磨対象面の形状に応じて自在にその先端の形状が変化可能な研磨工具を実現することができる。したがって、これらのいずれの場合にも、上述した実施の形態において説明した効果と同様の効果を得ることができる。ただし、非磁性材料からなる研磨対象物の研磨対象面が相当程度に湾曲している場合等においては、より安定的に磁性クラスタを含む研磨剤を研磨対象面に向けて押し付けることができるように、ある程度外側に向けて膨出した先端部とすることが好ましい。

【0086】
図9に示すように、第4変形例は、研磨ツール10に永久磁石が具備されることなく回転体11のみによって構成されており、代わりに、当該研磨ツール10を具備する研磨装置に電磁石70が設けられてなる構成を示すものである。この場合、電磁石70は、たとえば研磨ツール10の周面に所定の距離をもって対向するように環状に固定的に配置される。

【0087】
その場合、電磁石70が通電されることにより、研磨ツール10には、上述した実施の形態の場合と同様に一対の磁極が形成されることになり、研磨ツール10の先端部近傍の表面には、研磨ツール10の先端面から出て研磨ツール10の周面に戻るように磁場が生成されることになる。

【0088】
このように構成した場合にも、研磨対象面の形状に応じて自在にその先端の形状が変化可能な研磨工具を実現することができる。したがって、この場合にも、上述した実施の形態において説明した効果と同様の効果を得ることができる。

【0089】
図10は、検証試験における第1ないし第3条件を示す図である。図11ないし図13は、検証試験における研磨加工前、研磨加工中および研磨加工後の研磨剤の状態を示す写真である。また、図14は、検証試験の結果を示す表である。以下、本発明の効果を確認した検証試験の試験条件および試験結果について説明する。

【0090】
図10に示すように、本検証試験は、上述した実施の形態における研磨装置を実際に構築し、これを用いて上述した実施の形態における研磨方法に従って、研磨ツール10を異なる角度で非磁性材料からなる研磨対象物としてのワーク100に近づけて研磨を行なったものである。

【0091】
研磨ツール10としては、円柱状の外形を有する直径が10[mm]の回転体の先端に直径が10[mm]の球状の永久磁石を固定したものを使用した。研磨剤20としては、潤滑油に直径が0.35[mm]の鋼球と平均粒径が1.0[μm]のアルミナとを混合したものを用いた。ここで、鋼球とアルミナと潤滑油の重量比は、9:1:3である。当該研磨剤20は、ペースト状のスラリーであり、研磨ツール10への塗布量は、6.5[g]とした。

【0092】
非磁性材料からなるワーク100としては、円盤状の真鍮を用いた。当該ワーク100の研磨対象面101の研磨加工前の表面粗さは、Ra(算術平均粗さ)が1.00[μm]であり、Rz(最大高さ粗さ)が4.77[μm]であった。

【0093】
研磨加工に際しては、第1ないし第3条件として、それぞれ図10(A)ないし図10(C)に示す如くの試験条件を採用した。

【0094】
すなわち、図10(A)に示すように、第1条件は、研磨ツール10の軸線AXとワーク100の研磨対象面101との成す角度(θ)が90[deg]となるようにこれらを配置し、研磨対象面101に研磨剤20が接触した状態としてこれを図中に示すX軸方向に向けて送ったものである。

【0095】
図10(B)に示すように、第2条件は、研磨ツール10の軸線AXとワーク100の研磨対象面101との成す角度(θ)が45[deg]となるようにこれらを配置し、研磨対象面101に研磨剤20が接触した状態としてこれを図中に示すX軸方向に向けて送ったものである。

【0096】
図10(C)に示すように、第3条件は、研磨ツール10の軸線AXとワーク100の研磨対象面101との成す角度(θ)が0[deg]となるようにこれらを配置し、研磨対象面101に研磨剤20が接触した状態としてこれを図中に示すX軸方向に向けて送ったものである。

【0097】
なお、当該第1ないし第3条件のいずれにおいても、研磨ツール10の回転数は750[min-1]とし、送り速度は10[mm/min]とし、研磨ツール10の先端部とワーク100の研磨対象面101とのギャップは1.0[mm]に常時維持することとし、加工時間は20[min]とした。

【0098】
ここで、図11に示すように、研磨加工前の状態においては、第1ないし第3条件のいずれの場合においても、研磨ツール10の先端部を覆うように研磨剤20が略球状に付着した状態になることが確認された。なお、外部から観察できる範囲においては、研磨剤20中に含まれる鋼球が、互いに磁着していることが確認できた。

【0099】
図12(A)に示すように、第1条件においては、研磨加工中において研磨剤20が略円錐台状に研磨ツール10の先端部に付着した状態にあり、その下面がワーク100の研磨対象面101に接触していることが確認できた。

【0100】
また、図12(B)に示すように、第2条件においては、研磨加工中において研磨剤20が略円錐状に研磨ツール10の先端部に付着した状態にあり、その周面がワーク100の研磨対象面101に接触していることが確認できた。

【0101】
また、図12(C)に示すように、第3条件においては、研磨加工中において研磨剤20が略有底円筒状に研磨ツール10の先端部に付着した状態にあり、その周面がワーク100の研磨対象面101に接触していることが確認できた。

【0102】
すなわち、第1ないし第3条件のいずれにおいても、研磨加工中において研磨剤20が研磨対象面101に倣った形状に変化しており、磁性クラスタが自在に変形していることが確認された。

【0103】
図13(A)に示すように、第1条件においては、研磨加工後においても研磨加工中と同様に、研磨剤20が略円錐台状に研磨ツール10の先端部に付着した状態にあり、研磨ツール10の先端部が露出することなく、研磨剤20によって覆われていることが確認できた。すなわち、研磨加工中において、研磨剤20の下面がその全面において研磨対象面101に接触していたことが推測される。

【0104】
図13(B)に示すように、第2条件においては、研磨加工後においても研磨加工中と同様に、研磨剤20が略円錐状に研磨ツール10の先端部に付着した状態にあった。

【0105】
図13(C)に示すように、第3条件においては、研磨加工後においても研磨加工中と同様に、研磨剤20が略有底筒状に研磨ツール10の先端部に付着した状態にあった。

【0106】
図14に示すように、第1条件においては、ワーク100の研磨対象面101の研磨加工後の表面粗さが、そのX軸方向におけるRaが0.52[μm]に、そのX軸方向におけるRzが3.02[μm]に、そのY軸方向におけるRaが0.72[μm]に、そのY軸方向におけるRzが3.57[μm]に、それぞれ低減していることが確認できた。

【0107】
また、第2条件においては、ワーク100の研磨対象面101の研磨加工後の表面粗さが、そのX軸方向におけるRaが0.68[μm]に、そのX軸方向におけるRzが2.85[μm]に、そのY軸方向におけるRaが0.82[μm]に、そのY軸方向におけるRzが3.66[μm]に、それぞれ低減していることが確認できた。

【0108】
また、第3条件においては、ワーク100の研磨対象面101の研磨加工後の表面粗さが、そのX軸方向におけるRaが0.80[μm]に、そのX軸方向におけるRzが3.56[μm]に、そのY軸方向におけるRaが0.66[μm]に、そのY軸方向におけるRzが2.89[μm]に、それぞれ低減していることが確認できた。

【0109】
以上の結果に基づけば、上記第1ないし第3条件のいずれにおいても研磨が行なえていることが確認されたと言え、また、研磨ツール10を異なる角度で非磁性材料からなる研磨対象物としてのワーク100に近づけて研磨を行なった場合にも、ほぼ均等に研磨が行なえていることも確認されたと言える。

【0110】
したがって、上記本発明に基づいた研磨装置および研磨方法を利用して非磁性材料の研磨を行なうことにより、研磨対象面の形状に応じて自在にその先端の形状が変化可能な研磨工具を実現することができ、その結果、研磨対象物に曲率が略一定の曲面が含まれる場合や多少の凹凸面が含まれる場合のみならず、研磨対象物が部位ごとに曲率半径が変化するような自由曲面等を含んでいる場合等においても、所望の精度での研磨が行なえることになり、さらには高価な磁性砥粒や大型で高価な設備等を用いずとも安価にかつ容易に非磁性材料からなる研磨対象物を研磨することが可能になることが、実験的にも確認されたと言える。

【0111】
なお、本発明に基づいた研磨装置および研磨方法は、金属および非金属の区別なく非磁性材料からなるものであれば、どのようなものでもその研磨が可能なものであり、特に、金型の型面の表面仕上げや光学部品の表面仕上げ等に好適に適用することができる。

【0112】
今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0113】
1 研磨装置、10 研磨ツール、11 回転体、12 永久磁石、20 研磨剤、21 球体、22 液状バインダ、23 砥粒、24 空隙、30 テーブル、40 主軸回転駆動機構、41 X軸方向送り駆動機構、42 Y軸方向送り駆動機構、43 Y軸方向送り駆動機構、44 B軸周り送り駆動機構、45 C軸周り送り駆動機構、46 主軸位置検出部、47 チャック位置検出部、50 回転制御部、60 送り制御部、70 電磁石、100 ワーク、101 研磨対象面。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
9
【図14】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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