TOP > 国内特許検索 > 正極およびその製造方法、並びにその正極を用いた空気二次電池 > 明細書

明細書 :正極およびその製造方法、並びにその正極を用いた空気二次電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-152068 (P2016-152068A)
公開日 平成28年8月22日(2016.8.22)
発明の名称または考案の名称 正極およびその製造方法、並びにその正極を用いた空気二次電池
国際特許分類 H01M   4/86        (2006.01)
H01M  12/08        (2006.01)
H01M   4/90        (2006.01)
C01B   3/00        (2006.01)
B01J  27/186       (2006.01)
FI H01M 4/86 B
H01M 12/08 K
H01M 4/90 X
H01M 4/86 H
C01B 3/00 A
B01J 27/186 M
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2015-027443 (P2015-027443)
出願日 平成27年2月16日(2015.2.16)
発明者または考案者 【氏名】盛満 正嗣
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4G140
4G169
5H018
5H032
Fターム 4G140AA04
4G169AA03
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC25A
4G169BC25B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC70A
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169CC40
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA10
4G169EB15Y
4G169EB18Y
5H018AA10
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB07
5H018BB12
5H018DD10
5H018EE04
5H018EE10
5H018EE12
5H018EE19
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS11
5H032EE05
5H032EE18
要約 【課題】耐アルカリ性および耐酸化性に優れ、かつニッケル粉末やニッケル粒子を導電材に用いた従来の正極よりも軽量な空気二次電池の正極を提供する。
【解決手段】本発明に係る正極は、アルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池の正極であって、ニッケルよりも密度の小さいコア材料と、前記コア材料を被覆するニッケルおよび/またはニッケル合金からなる被覆層とを含むニッケル被覆材料を備えたことを特徴とする。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
アルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池の正極であって、
ニッケルよりも密度の小さいコア材料と、前記コア材料を被覆するニッケルおよび/またはニッケル合金からなる被覆層とを含むニッケル被覆材料を備えたことを特徴とする正極。
【請求項2】
前記コア材料がシリカ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記被覆層がニッケル-リン合金であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の正極。
【請求項4】
前記ニッケル被覆材料と混合された、ビスマスイリジウム酸化物および/またはビスマスルテニウム酸化物からなる触媒をさらに備えたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の正極。
【請求項5】
前記ニッケル被覆材料と混合された、ポリテトラフルオロエチレンからなる撥水剤をさらに備えたことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の正極。
【請求項6】
アルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池の正極の製造方法であって、
ニッケルよりも密度の小さいコア材料にニッケルおよび/またはニッケル合金からなる被覆層を形成する被覆工程と、
前記被覆工程で得られたニッケル被覆材料と触媒と撥水剤とを混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を加熱する加熱工程と、
を備え、前記混合工程において、前記撥水剤と同じ材料からなる混練具で混合することを特徴とする正極の製造方法。
【請求項7】
前記撥水剤がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項6に記載の正極の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程が、
前記ニッケル被覆材料と前記触媒とを混合する第1混合工程と、
前記第1混合工程で得られた一次混合物と前記撥水剤とを混合する第2混合工程と、
を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の正極の製造方法。
【請求項9】
前記コア材料がシリカ粒子であり、前記被覆層がニッケル-リン合金であることを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載の正極の製造方法。
【請求項10】
アルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池であって、
正極と負極とを備え、
前記正極が、請求項1から5のいずれか1項に記載の正極であることを特徴とする空気二次電池。
【請求項11】
前記負極が、水素吸蔵合金、亜鉛、アルミニウム、鉄、リチウム、マグネシウム、ナトリウムのいずれかを含むことを特徴とする請求項10に記載の空気二次電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性水溶液を電解質とし、正極では放電時に酸素が還元され、充電時には酸素が発生する空気二次電池の正極およびその製造方法、並びにその正極を用いた空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、空気中の酸素を正極活物質とする電池であり、市販されている亜鉛/空気一次電池がよく知られている。亜鉛/空気一次電池と類似な構造を有する空気電池には、負極活物質にアルミニウムや鉄を用いる電池がある。また、空気電池は、機械式充電型の亜鉛/空気二次電池を除いて、二次電池としてはいまだ実用化されていない。機械式充電型の亜鉛/空気二次電池とは、電池の反応としては放電だけを行うもので、放電後の亜鉛負極を電池外に取り出し、新しい亜鉛負極と取り替えることで電池を再び放電できるようにしたものである。したがって、一般に知られる二次電池のように、電池で生じる充電反応により蓄電して、繰り返し利用できるものではない。なお、上記のような亜鉛、アルミニウム、鉄などを負極活物質に用いる空気電池は、通常、KOH溶液やNaOH溶液のようなアルカリ性水溶液を電解質として用いている。
【0003】
一方、アルカリ性水溶液を電解質とする空気二次電池として、本発明者は特許文献1および特許文献2に、水素吸蔵合金を負極に用いる空気二次電池を開示した。以下、これを水素/空気二次電池と称する。この電池では、放電と充電の際に、それぞれ以下のような式で表される電池反応が生じる。

放電:4MH+O→4M+2H
充電:4M+2HO→4MH+O

なお、式中のMは水素吸蔵合金を示し、MHは水素を吸蔵した状態の水素吸蔵合金を意味する。また、負極に亜鉛を用いる空気二次電池(亜鉛/空気二次電池)は前述の通り実用化されていないが、その電池反応は以下の式で示される。

放電:2Zn+O→2ZnO
充電:2ZnO→2Zn+O

これらの電池では、正極で起こる反応は同じで、以下の式で示される。

放電:O+2HO+4e→4OH
充電:4OH→O+2HO+4e

すなわち、アルカリ性水溶液を電解質とする空気二次電池の正極では、放電時に空気中の酸素が還元されてOHがアルカリ性水溶液中に生成され、充電時にアルカリ性水溶液中のOHが酸化されてOとHOとが生成される。
【0004】
このような放電と充電の反応が正極で起こるためには、
1)放電の際に、空気中の酸素が正極内部に侵入して反応サイトまで到達可能であり、かつ、充電の際に、正極内部で発生した酸素が空気中に放出され得ること、
2)放電および充電の両方において、OHとO、HOの間で円滑な電子の受け渡しができるような反応サイトが提供されること、
3)電気化学的な酸化や還元が生じ、かつアルカリ性水溶液に接する雰囲気でも正極材料が安定であり、また酸素の発生に対して耐性がある(耐アルカリ性や耐酸化性に優れる)こと
などの条件を正極が満足する必要がある。
【0005】
アルカリ性水溶液を電解質とする空気一次電池や空気二次電池の正極には、これまで、正極全体の導電性を保つための導電材として、様々な種類の炭素材料が用いられることが多く、例えば粉末状、粒子状、ファイバー状、チューブ状などの炭素材料が使用されている。また、その炭素材料には金属、酸化物、硫化物などの材料からなる触媒が担持されており、さらに導電材同士が接している部分の隙間などに入り込み、正極内部を結着させる作用と、正極内部に空気中の酸素が円滑に取り込まれ、または正極内部で発生する酸素が円滑に空気中に放出されるために、正極内部が電解質であるアルカリ性水溶液で完全に満たされないように、正極内部に撥水性を付与する撥水剤も正極を構成する材料として用いられ、例えば耐アルカリ性や耐酸化性に優れるポリテトラフルオロエチレンなどがその代表である。なお、撥水剤は上記に述べた役割からわかるように、結着剤とも称される。また、特許文献1および特許文献2で開示されているように、導電材にはニッケル粉末やニッケル粒子が用いられることも知られている。
【0006】
アルカリ性水溶液を電解質とする空気二次電池では、正極が前述の1)~3)の条件を満たすことが望まれる一方、正極が可能な限り軽いことも望まれる。空気電池以外の他の形式の電池では正極活物質が正極内にあるが、空気二次電池では正極活物質が空気中の酸素であるため、正極内に貯蔵しておく必要がなく、理論的には空気二次電池の電池容量を増やすために、正極の重量をそれに伴って増やす必要はないからである。言い換えれば、正極の重量は可能な限り軽くした状態で、その重量を変えることなく、電池容量を増加させることができるのが、空気二次電池である。したがって、正極が軽くなれば、その分だけ電池全体の重量は小さくなり、放電容量と放電電圧から求められる放電エネルギー(放電容量×放電電圧)に対して、電池全体の重量の減少によって、電池重量当たりのエネルギーである重量エネルギー密度(Wh/kg)を高くすることができる。空気二次電池は、この重量エネルギー密度や、体積当たりの放電エネルギーである体積エネルギー密度(Wh/L)が、既存のリチウムイオン二次電池の理論値を上回る値を発揮できる可能性を持つことから、次世代の高エネルギー密度二次電池として期待されている。
【0007】
上記のようなエネルギー密度の観点からは、アルカリ性水溶液を電解質とする空気二次電池の正極の導電材としての炭素材料は、導電性がよく、比表面積を大きくすることにより触媒を高分散で担持することができ、しかも密度も小さいので、軽量な正極を作製するための材料として優れているが、耐酸化性では非常に大きな問題がある。すなわち、炭素材料は、正極で充電時に酸素が発生すると、同時に酸化されて二酸化炭素となって消耗する。このような二酸化炭素への酸化が起こって導電材である炭素が消耗すると、正極は導電性のない部分が生じて反応が起こらなくなり、炭素が消耗した部分からアルカリ性水溶液が電池外部に漏れる漏液が起こり、電池として作動できなくなる。
【0008】
これに対して、本発明者が特許文献1や特許文献2などで開示した空気二次電池の正極は、導電材としてニッケル粉末を用いたものである。アルカリ性水溶液を電解質とするニッケル水素二次電池の正極活物質がニッケルであることからも明らかなように、ニッケルはアルカリ性水溶液中で安定であり、さらに非特許文献1で開示しているように、アルカリ性水溶液を電解質とする空気二次電池の正極の導電材として用いた場合も、充電時の酸素発生に対して炭素材料のように消耗することはなく、安定性が高いことが判っている。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2006-196329号公報
【特許文献2】特開2012-64477号公報
【0010】

【非特許文献1】盛満正嗣,松永守央,ECO INDUSTRY,Vol.11,No.3,pp.71-74(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のように、ニッケルは、アルカリ性水溶液中で安定であり、アルカリ性水溶液を電解質とする空気二次電池の正極の導電材として使用しても炭素材料のように酸素発生とともに消耗することはなく、高い耐アルカリ性と耐酸化性を持つ。その一方で、ニッケルは炭素に比べて密度が大きいため、ニッケルを導電材とする空気二次電池の正極は、炭素材料を導電材に用いた同じ体積の正極に比べて重くなり、その結果、空気二次電池の重量エネルギー密度が小さくなるという課題があった。
【0012】
また、炭素材料などの他の導電性の非金属材料に比べてニッケルは高価であることから、ニッケルを正極の導電材に用いる場合にも、ニッケルの使用量はできるだけ少ないほうが良い。また、アルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池において、ニッケルは導電材であり、正極の活物質ではないため、導電材として使用されるニッケルは正極全体の導電性を保つことができる量があれば十分である。このような観点からは、例えばニッケル粒子を正極の導電材として用いる場合、ニッケル粒子は正極全体に導電性を付与し、かつ正極に必要な形状と機械的強度を持つことができるのであれば、中空状であってもよいと言える。言い換えると、ニッケル粒子は高い耐アルカリ性と耐酸化性を有するが、重量からはその中心部分(コア部分)が正極全体を重くする要因となり、同時に正極に使用されるニッケルのコストが大きくなる要因にもなるという課題があった。
【0013】
すなわち、従来のアルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池では、重量エネルギー密度や重量出力密度を向上させる上で、正極の軽量化が重要かつ不可欠であるのに対して、前述のような正極に求められる1)~3)の条件を満たしながら、軽量化を可能にするような導電材がなかったため、これらを可能とする新たな正極、さらにこれらを可能とする正極の新たな製造方法、並びにその正極を用いることでエネルギー密度を向上させることができる空気二次電池が要望されていた。
【0014】
本発明は、アルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池において放電時には酸素の還元、充電時には酸素の発生を生じさせる正極であって、放電の際には正極内部に酸素が侵入して反応サイトまで到達可能であり、充電の際には正極内部で発生した酸素が空気中に放出され、かつ放電・充電ともにアルカリ性水溶液中のOHとO、HOとの間で円滑な電子の受け渡しができるような反応サイトが提供されるとともに、電気化学的な酸化や還元が生じ、かつアルカリ性水溶液に接する雰囲気でも耐アルカリ性や耐酸化性に優れるとともに、従来のニッケル粉末やニッケル粒子を導電材に用いる場合に比べて軽量である正極とその製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、ニッケル粉末やニッケル粒子を導電材とする正極を用いた場合に比べて、重量エネルギー密度が高い空気二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために本発明の正極は、以下の構成を有している。
本発明の正極は、アルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池の正極であって、ニッケルよりも密度の小さいコア材料と、コア材料を被覆するニッケルおよび/またはニッケル合金からなる被覆層とを含むニッケル被覆材料を備えたことを特徴とする。この構成により、正極に必要な導電性がコア材料表面に形成されたニッケルおよび/またはニッケル合金からなる被覆層によって保たれるともに、ニッケル自身が有する耐アルカリ性および耐酸化性が正極に付与され、かつニッケルからなる導電材に比べて正極が軽くなり、ニッケルの使用量が減ることから正極のコストが低減されるという作用が生じる。
【0016】
ここで、アルカリ性水溶液としては、KOH溶液やNaOH溶液が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、アルカリ性水溶液のpHは少なくとも10以上であり、このようなpHとなるのに適したKOHやNaOHの濃度が選択される。pHが10よりも小さくなると、正極での酸素還元や酸素発生に対する過電圧がOHの活量低下のために大きくなり、またアルカリ性水溶液の導電率が低くなって空気二次電池全体での抵抗を増加させる要因となるため好ましくない。
【0017】
次に、ニッケル(密度:8.9g/cm)よりも密度の小さいコア材料としては、シリカ(密度:2.2g/cm)、アルミナ(密度:4.0g/cm)、黒鉛(密度:2.3g/cm)、非晶質炭素(密度:1.8~2.1g/cm)、下記に記載のフッ素樹脂、重合体、有機無機混成材料などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、シリカやアルミナのような酸化物以外にも、ニッケルよりも密度の小さい金属、合金、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化物や金属硫化物や金属炭化物や金属炭化酸化物などの一部を窒素置換したもの、金属と酸素と窒素と炭素の複合酸化物などを用いてもよい。なお、密度が小さいこととともに耐アルカリ性、耐酸化性も備えている材料としては、シリカやアルミナなどがより好ましい。
【0018】
また、空気二次電池の正極に用いられる撥水剤としては、従来から用いられているポリテトラフルオロエチレン(略称:PTFE,密度:2.1~2.2g/cm)をはじめとして、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(略称:PFA,密度:2.1~2.2g/cm)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(略称:FEP,密度:2.1~2.2g/cm)、ポリクロロトリフルオロエチレン(略称:PCTFE,密度:2.1~2.2g/cm)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(略称:ETFE,密度:1.7g/cm)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(略称:ECTFE,密度:1.7g/cm)、ポリビニリデンフルオライド(略称:PVDF,密度:1.7~1.8g/cm)などのフッ素樹脂材料が挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、上記のコア材料や撥水剤の材料の密度はいずれも室温付近での値である。
【0019】
さらに、本発明では、上記以外の重合体や、有機無機混成材料などを撥水剤として使用することもできる。使用可能な重合体としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリアミドなどの線状重合体;ジビニルベンゼン、ヘキサトリエン、ジビニルエーテル、ジビニルスルホン、ジアリルカルビノール、アルキレンジアクリレート、オリゴまたはポリアルキレングリコールジアクリレート、アルキレントリアクリレート、アルキレンテトラアクリレート、アルキレントリメタクリレート、アルキレンテトラメタクリレート、アルキレンビスアクリルアミド、アルキレンビスメタクリルアミド、両末端アクリル変性ポリブタジエンオリゴマーなどを単独または他の重合性単量体と重合させて得られる網状重合体;フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂などの熱硬化性樹脂、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルスチレン、ビニルトリメトキシシランなどのシラン含有単量体の単独または他の重合性単量体と共重合させて得られる樹脂やそれら加水分解性シリル基を加水分解後架橋させた重合体微粒子、ジメチルポリシロキサンなどのオルガノポリシロキサン樹脂などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0020】
コア材料は、それ自身で導電性があってもなくてもよく、真球状、楕円体状、多面体状、針状、ファイバー状、チューブ状、ウイスカー状、柱状、筒状、不定形状などの様々な形状が可能である。なお、真球状、楕円体状、多面体状、針状、粒子状、粉末状などの場合、内部が中空であってもよい。ただし、ニッケルおよび/またはニッケル合金で十分に被覆することが難しいような形状、例えば激しい突起や凹凸の繰り返しを含んだ形状は望ましくない。コア材料の導電性および形状は、ニッケルおよび/またはニッケル合金からなる被覆層の形成が可能であるかどうかにも関係するため、被覆層の形成方法も考慮して選択する必要がある。なお、空気二次電池の正極の厚みは一般に100μm~1mm程度であることから、このような厚みの中で利用可能な形状・サイズの導電材であることが必要である。コア材料の表面にニッケルおよび/またはニッケル合金を被覆する方法としては、電気めっき法、無電解めっき法、溶融めっき法、物理蒸着法、化学蒸着法、電気泳動法のほか、加圧または減圧または静電的に表面を被覆する方法や、コア材料の表面に前駆体を塗布した後、これを所定の温度で還元して金属または合金で被覆する方法など、被覆層を形成する様々な方法を用いることが可能であり、上記に示した方法に限定されるものではない。なお、このような被覆層を形成する方法は、文献A~文献Iに開示されている。

文献A:特開2001-23435号公報
文献B:特開2003-212534号公報
文献C:特開2009-143754号公報
文献D:特開2009-96661号公報
文献E:特開2011-175951号公報
文献F:特開2012-160460号公報
文献G:特開2012-36313号公報
文献H:特開2014-22065号公報
文献I:特開2014-132542号公報

【0021】
ニッケルおよび/またはニッケル合金からなる被覆層の厚みは、コア材料のサイズや形状によって適切な範囲が異なるが、例えばコア材料が粒子の場合には10nm~1μmの範囲が望ましい。被覆層がこの範囲よりも小さくなると被覆層の電気抵抗が大きくなって導電性を保つことが難しくなり、またこの範囲よりも大きくなると被覆層の重量が大きくなって軽量化の効果が得られにくくなり、いずれの場合も好ましくない。
【0022】
本発明の正極には、導電材とともに、すでに述べたように酸素発生と酸素還元に対する触媒を用いることができる。触媒は導電材上に担持される。このような触媒としては、例えば、白金や銀のような貴金属、その他の金属、合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化物や金属硫化物や金属炭化物や金属炭化酸化物などの一部を窒素置換したもの、金属と酸素と窒素と炭素の複合酸化物(MeC:ただし、Meは金属または合金、Cは炭素、Nは窒素、Oは酸素で、x、y、zは組成比を示す)や、構造的な分類からは、少なくとも2種類以上の酸素以外の元素を含み、それらが酸素とともに原子レベルで固溶した状態である複合酸化物、2種類以上の金属酸化物または金属酸化物と非金属酸化物が混合された混合酸化物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、複合酸化物としては、パイロクロア型、ペロブスカイト型、スピネル型などに分類されるものが挙げられ、パイロクロア型酸化物としてはビスマスイリジウム酸化物、ビスマスルテニウム酸化物などが挙げられる。さらに、混合酸化物としては酸化イリジウム-酸化タンタル混合酸化物や酸化ルテニウム-酸化タンタル混合酸化物などが挙げられる。
【0023】
本発明の正極には、導電材、触媒とともに、すでに述べたような撥水剤を用いることもできる。このような撥水剤としては、前述のフッ素樹脂材料などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、一般に知られている方法であるが、導電材、触媒、撥水剤を混合して一体に形成することにより正極を製造する場合は、撥水剤の出発物質として、撥水剤を適当な溶液中に分散させた撥水剤分散溶液を用いることもできる。
【0024】
さらに、本発明の正極は、上記の導電材、触媒、撥水剤とともに、外部端子へ接続される集電体と一体に形成された構造体でもよい。このような集電体には、網状、繊維状、多孔質体などの種々の形状の金属や導電性有機物などを用いることができるが、空気に接する側に集電体が配置される場合には、空気中の酸素を取り込むための開口部を集電体が有することが必要である。集電体の材料としてはニッケルなどが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0025】
導電材と触媒と撥水剤とを一体とする方法には、プレス法や押し出し法などの一般に空気電池用の正極を作製する際に用いられる方法が利用できる。例えば、導電材、触媒、撥水剤が粉末状または粒子状であれば、これらを乾式または湿式で混合した後、ロールプレス機を用いて薄板状に成形することで作製できる。また、特定の型に混合物を入れて成型加工により作製することができる。また、集電体は、上記に述べた正極の成形工程で一体としても、導電材、触媒、撥水剤を一体に形成した後に、さらにこれを集電体と一体としてもよい。さらに、正極を作製する際には、上記のような成形もしくは一体化の工程の後に、加熱処理を行ってもよい。
【0026】
また、本発明の正極は、コア材料がシリカ粒子であることを特徴とする。シリカは耐アルカリ性と耐酸化性に優れている。このため、この構成により、空気二次電池の電解質であるアルカリ性水溶液への溶解によるニッケル被覆材料および正極の形状変化、正極からのアルカリ性水溶液の漏洩、電解質の導電率の低下や粘性の増加などの、正極での酸素還元・酸素発生に悪影響を及ぼす各種現象が防がれるという作用が生じる。また、シリカはコア材料候補の中でも特に比重が小さい。このため、この構成により、正極を軽くすることができるという作用が生じる。なお、シリカ粒子の粒径は50nm~100μmの範囲が望ましいが、これに限定されるものではない。この範囲よりも小さくなると、シリカ粒子が凝集しやすくなるため、ニッケルおよび/またはニッケル合金で各粒子を被覆することが難しくなり、この範囲よりも大きくなると、均一な厚みの被覆層を形成することが難しくなったり、正極が厚くなりすぎて正極内で酸素が反応サイトへ至る移動の抵抗が大きくなることがあるため、いずれも好ましくない。
【0027】
また、本発明の正極は、被覆層がニッケル-リン合金であることを特徴とする。この構成により、まずコア材料がシリカ粒子のような非導電性である場合、導電材に必要な電気伝導性が付与されるという作用が生じる。また、コア材料が導電性、非導電性のいずれであるかに関わらず、ニッケル-リン合金は、耐アルカリ性と耐酸化性に優れ、かつ無電解めっき法などにより、組成が均一で、緻密な被覆層を形成することができるので、被覆層上へ担持される触媒に対する良好な電気的接続が可能になるとともに、触媒が被覆層上で安定に保持されるという作用が生じる。さらに、ニッケル-リン合金からなる被覆層は、厚みを制御することが容易であり、必要な厚みの被覆層を一般に知られる方法によって形成することが可能である。このため、この構成により、任意の粒径を有するコア材料に対して、導電性、触媒の保持性、耐アルカリ性、耐酸化性を良好に保つために必要で、かつ適した厚みの被覆層の形成が可能になるという作用が生じる。ニッケル-リン合金を形成する方法としては、例えば、文献E、文献H、文献Jに開示されているような方法を用いることができるが、これらに限定されるものではない。

文献J:特開2014-194063号公報

【0028】
また、本発明の正極は、ニッケル被覆材料と混合された、ビスマスイリジウム酸化物および/またはビスマスルテニウム酸化物からなる触媒をさらに備えたことを特徴とする。ビスマスイリジウム酸化物とビスマスルテニウム酸化物はパイロクロア型の複合酸化物であり、その一般式はBiIr7±z、BiRu7±zで表記される。これらの酸化物を触媒とすることによって、以下の作用が得られる。
(A)この触媒と導電材のニッケルとの間における電子的および化学的な相互作用によって、酸素発生と酸素還元に対する高い触媒活性が得られ、正極内部における酸素発生と酸素還元をいずれも円滑に進行させることができる。
(B)この触媒と導電材のニッケルとの組み合わせによって、正極で副反応として生じる可能性があるニッケル自身の酸化や還元が抑制されることで、酸素発生・還元サイクルに対する耐久性を向上させることができる。
(C)この触媒と導電材は、湿式または乾式のいずれの方法でも撥水剤との混合、成形が容易であり、特別な装置を用いず正極を製造することができる。
(D)白金などの高価な貴金属を触媒に用いないことから、これらに対して正極のコストを低減できる。
(E)鉛イリジウム酸化物のような他のパイロクロア型酸化物に対して、鉛のような有毒成分を含まないため、空気二次電池の製造・使用・廃棄・処分において安全性が高くなる。
(F)ビスマスイリジウム酸化物やビスマスルテニウム酸化物は、硝酸ビスマスのようなビスマス化合物と塩化イリジウム酸または塩化ルテニウムのような化合物を出発原料とし、共沈法、逆均一沈殿法、逆ミセル法などのような、前駆体物質を合成してから加熱処理するという簡単な方法で得られることから、正極を構成する活性の高い触媒を容易に得ることができる。なお、ビスマスイリジウム酸化物やビスマスルテニウム酸化物には、ビスマス、イリジウム、ルテニウムの一部を他の元素で部分的に置換したものも当然ながら含まれる。
【0029】
また、本発明の正極は、ニッケル被覆材料と混合された、ポリテトラフルオロエチレンからなる撥水剤をさらに備えたことを特徴とする。ポリテトラフルオロエチレンは、良好な撥水性を有するとともに、370℃程度の比較的低い温度で軟化して形状を変化させることができる。このため、この構成により、正極が複雑な内部構造を有する場合でも、空気中の酸素が侵入して反応の活性点までに到達できるような良好な経路が正極に付与されるとともに、正極の作製時に触媒を担持した導電材同士が部分的に結着するという作用が生じる。また、ポリテトラフルオロエチレンは、高濃度のアルカリ性水溶液や酸素発生反応に対して極めて安定であり、耐アルカリ性や耐酸化性に優れている。このため、この構成により、正極の充放電を繰り返した場合にも上記のような機能が保持されるという作用が生じる。
【0030】
また、本発明の正極の製造方法は、アルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池の正極の製造方法であって、ニッケルよりも密度の小さいコア材料にニッケルおよび/またはニッケル合金からなる被覆層を形成する被覆工程と、被覆工程で得られたニッケル被覆材料と触媒と撥水剤とを混合する混合工程と、混合工程で得られた混合物を成形する成形工程と、成形工程で得られた成形体を加熱する加熱工程とを備え、混合工程において、撥水剤と同じ材料からなる混練具で混合することを特徴とする。この構成により、ニッケル被覆材料を導電材とし、この導電材上に触媒が担持され、これらが撥水剤とともに一体に成形された空気二次電池用の正極を作製することができるとともに、混合時の圧力によりニッケル被覆材料の被覆層が割れる、はがれる、クラックが入るなどして正極内で導電性がない部分が生じるのを防止することができる。また、この構成により、ニッケル被覆材料上に触媒を高分散で担持することが可能となり、さらに混合工程において混練具から混練具の一部が混入したとしても、これが撥水剤と同じ材料であることで、正極で生じる酸素の還元や酸素の発生が阻害されたり、触媒の活性が低下させられないという作用が生じる。
【0031】
また、本発明の正極の製造方法は、撥水剤がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする。さらに、本発明の正極の製造方法は、混合工程が、ニッケル被覆材料と触媒とを混合する第1混合工程と、第1混合工程で得られた一次混合物と撥水剤とを混合する第2混合工程とを含むことを特徴とする。さらに、本発明の正極の製造方法は、コア材料がシリカ粒子であり、被覆層がニッケル-リン合金であることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の空気二次電池は、アルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池であって、正極と負極とを備え、正極が、前述の本発明のいずれかの正極であることを特徴とする。また、本発明の空気二次電池は、負極が、水素吸蔵合金、亜鉛、アルミニウム、鉄、リチウム、マグネシウム、ナトリウムのいずれかを含むことを特徴とする。この構成により、正極はニッケルのみを成分とする導電材を用いた場合に比べて軽量でありながら、前述のようなニッケルが有する優れた特性を付与したものとなり、これによって正極が軽くなることで重量エネルギー密度が向上するとともに、正極のニッケル使用量が低減されることでコストが抑制され、空気二次電池のコストが低減されるという作用が生じる。また、この構成により、正極が軽量化されることで、空気二次電池の出力密度も向上するという作用が生じる。
【0033】
ここで、負極に水素吸蔵合金を用いる空気二次電池では、水素吸蔵合金として、La-Ni系合金、La-Nd-Ni系合金、La-Gd-Ni系合金、La-Y-Ni系合金、La-Co-Ni系合金、La-Ce-Ni系合金、La-Ni-Ag系合金、La-Ni-Fe系合金、La-Ni-Cr系合金、La-Ni-Pd系合金、La-Ni-Cu系合金、La-Ni-Al系合金、La-Ni-Mn系合金、La-Ni-In系合金、La-Ni-Sn系合金、La-Ni-Ga系合金、La-Ni-Si系合金、La-Ni-Ge系合金、La-Ni-Al-Co系合金、La-Ni-Al-Mn系合金、La-Ni-Al-Cr系合金、La-Ni-Al-Cu系合金、La-Ni-Al-Si系合金、La-Ni-Al-Ti系合金、La-Ni-Al-Zr系合金、La-Ni-Mn-Zr系合金、La-Ni-Mn-Ti系合金、La-Ni-Mn-V系合金、La-Ni-Cr-Mn系合金、La-Ni-Cr-Zr系合金、La-Ni-Fe-Zr系合金、La-Ni-Cu-Zr系合金、Ti-V-Cr合金、Ti-V-Cr-Ni合金、並びに、上記合金中のLa元素をミッシュメタルで置き換えた合金、また、Ti-Zr-Mn-Mo系合金やZr-Fe-Mn系合金、Mg-Ni系合金などのTi、Fe、Mn、Al、Ce、Ca、Mg、Zr、Nb、V、Co、Ni、Cr元素の2組以上の組合せからなる合金などの水素吸蔵合金、さらには、Ti、V、Zr、La、Pd、Ptなどの水素化物を形成する(水素吸蔵性を有する)金属、または上記合金や金属の水素化物(水素を吸蔵した物質)、さらに構造的な分類からは、水素吸蔵合金に対して一般に使われるAB構造、A構造、AB構造、BCC構造、超格子構造などの各構造で表記される合金などを用いることができるが、水素の吸蔵と放出が可能な材料であれば、特に上記の組成に限定されるものではない。
【0034】
また、水素吸蔵合金、亜鉛、アルミニウム、鉄は、アルカリ性水溶液中でそのまま使用することができる。一方、リチウム、マグネシウム、ナトリウムは水と激しく反応するため、これらの金属を負極に用いる場合は、それぞれの金属のイオンに対してイオン伝導性を有する固体膜などを用いることにより、これらの金属とアルカリ性水溶液が直接接触しない構造とすることによって使用することができる。例えば、リチウムを負極に用いる場合は、リチウムとアルカリ性水溶液に特許文献Kなどに開示されているようなリチウムイオン伝導性の固体膜などを用いることができる。

文献K:特開2014-229579号公報

【0035】
さらに、本発明の空気二次電池では、アルカリ性水溶液を保持し、かつ正極と負極の短絡を防止する機能を有する電解質保持体をさらに用いてもよい。このような電解質保持体としては、アルカリ性水溶液を電解液に用いる電池、例えば、亜鉛/空気一次電池、ニッケル/水素二次電池、アルカリ電池、アルカリマンガン電池、ニッケル/カドミウム電池などで利用されている様々な電池セパレータの材料などを用いることができる。このような材料は、例えば、文献K、文献L、文献M、文献N、文献O、文献P、文献Qなどに開示されている。具体的な例としては、セロハンなどのイオン透過性フィルム、ポリプロピレンやポリエチレンなどのフィルム、ポリビニルアルコール系繊維、セルロース系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、エチレン-ビニルアルコール系共重合体繊維を、単独、または混合、または積層してなる不織布、TiO、KTi13、ZrO、Al、SiOまたはBNなどの無機化合物を多孔性樹脂シートに充填した複合膜、などが挙げられる。また、これらの材料については、極細繊維、芯鞘型複合繊維、親水化処理を施したものなども用いられる。電解質保持体は、正極と負極を隔離し、電解液を保持できる機能を有していればよく、したがってアルカリ性水溶液を保持した状態でイオン伝導性またはイオン透過性を持ち、耐アルカリ性とアルカリ性水溶液に対する吸液性を有するものであれば、特に上記に限定されるものではない。

文献K:特開平7-272771号公報
文献L:特開平11-293564号公報
文献M:特開2007-154402号公報
文献N:特開2007-284845号公報
文献O:特開2009-224100号公報
文献P:特公表2009-516781号公報
文献Q:特開2010-70870号公報

【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、アルカリ性水溶液を電解質に用いる空気二次電池において放電時には酸素の還元、充電時には酸素の発生を生じさせる正極であって、放電の際には正極内部に酸素が侵入して反応サイトまで到達可能であり、充電の際には正極内部で発生した酸素が空気中に放出され、かつ放電・充電ともにアルカリ性水溶液中のOHとO、HOとの間で円滑な電子の受け渡しができるような反応サイトが提供されるとともに、電気化学的な酸化や還元が生じ、かつアルカリ性水溶液に接する雰囲気でも耐アルカリ性や耐酸化性に優れるとともに、従来のニッケル粉末やニッケル粒子を導電材に用いる場合に比べて軽量である正極とその製造方法を提供することができることによって、正極が優れた充放電サイクル特性を発揮し、電池全体の重量を軽量化することが可能となり、正極において高い導電性と酸素還元・酸素発生に対する高い触媒性を同時に達成し、さらに任意の形状の正極を低コストで得ることが可能になるという効果を有する。また、本発明によれば、ニッケル粉末やニッケル粒子を導電材とする正極を用いた場合に比べて、重量エネルギー密度が向上し、さらに電池重量が軽くなることで単位重量当たりの出力である出力密度も向上し、同じ電池容量の組電池や電池パックにおいて、より軽量でエネルギー密度や出力密度の高く、かつ可燃性の有機電解液を持ちないことから安全性も高い組電池や電池パックが可能になるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1の正極で使用した導電材の表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1の正極の外観写真である。
【図3】実施例1の正極の導電材上に担持された触媒の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1と比較例2の正極の電極電位と酸素還元電流の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。

【0039】
(実施例1)
Bi(NO・5HOとHIrCl・6HOを同じ濃度となるように75℃の蒸留水に溶解した後、攪拌・混合した。この溶液に75℃で、1mol/LのNaOH水溶液を所定量滴下し、その後、酸素でバブリングしながら3日間攪拌した。これによって生じた沈殿物を含む溶液を85℃で保持することにより蒸発・乾固させてペースト状とした。このペースト状のものを蒸発皿に移し、120℃、12時間乾燥させてから乳鉢で粉砕した後に、空気雰囲気中で600℃、2時間焼成した。次に、焼成物中に含まれる副生成物を除去するために、70℃の蒸留水を用いて吸引ろ過し、パイロクロア型のビスマスイリジウム酸化物を単離した。さらに、これを120℃、12時間乾燥させた後に、乳鉢を用いて粉砕してビスマスイリジウム酸化物粒子を得た。X線回折法により分析した結果、得られた酸化物は、BiIr7-zで示される酸素欠損型ビスマスイリジウム酸化物であり、SEMによる観察から粒径は20nm~100nmであった。これを触媒として用いた。

【0040】
無電解めっき法により、シリカ粒子(粒径:4μm~40μm,平均粒径約11μm)の表面をニッケル-リン合金(ニッケル:リンの平均組成79:21at.%,厚さ150nm~250nm)で被覆した材料を導電材とした。この導電材の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ図1の結果が得られた。

【0041】
上記の導電材と触媒をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の乳鉢と乳棒を用いて混合した。この混合物に撥水剤となるPTFEの懸濁液(ダイキン工業製,D-210C,PTFE粒子の平均粒径220nm)を加えて、PTFE製の乳鉢と乳棒でさらに混合した混合物を得た。この際、混合物中の導電材と触媒とPTFE粒子の重量比は44:37:19であった。この混合物をロールプレス機で薄板状に伸ばしたのち、集電体となるニッケル網とともに再びロールプレス機で成形した。その後、窒素雰囲気中370℃で13分間熱処理して正極を作製した。得られた正極の寸法は43mm×45mm×0.27mmであり、重量はニッケル網を含む全重量で1.79g、ニッケル網を除いた重量で0.74gであった。このようにして得られた正極は図2に示したような外観であり、走査型電子顕微鏡でその表面を観察したところ、導電材上に担持された触媒の様子が図3のように見られた。このように触媒は、導電材のニッケル-リン合金からなる被覆層の上に分散して担持されていた。また、この正極の導通を市販のテスターで調べた結果、良好な導通があることを確認した。

【0042】
この正極の特性を3電極式電気化学セルと電気化学測定装置を用いて評価した。電気化学セルでは、正極を所定のPTFE製ホルダーに配置し、ニッケル網の側が空気に接するように、反対側はアルカリ性水溶液に接するように配置した。アルカリ性水溶液には6mol/LのKOH水溶液を用いた。また、この水溶液には対極として白金板を浸漬した。さらに6mol/LのKOH水溶液の水銀/酸化水銀電極を参照電極として使用し、この参照電極と正極が接しているKOH溶液とは、液絡によって接続した。参照電極に対する正極の電位を5mV/sの走査速度で変えながら電流を測定するサイクリックボルタメトリーで、酸素還元電流と正極の電極電位の関係を室温で測定した。その結果、図4に示したような酸素還元電流と電位の関係が得られた。

【0043】
(比較例1)
PTFE製の乳鉢と乳棒ではなく、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いたことを除いて、実施例1と同じ方法で比較例1の正極を作製した。比較例1の正極は、図1と同様に薄板状に形成されたものであったが、テスターで調べた結果、導通がないことが判った。また、正極の表面を走査型電子顕微鏡で観察したが、導通がないため、電子顕微鏡写真を得ることはできなかった。また、実施例1と同じ方法で特性の評価を試みたが、正極の抵抗が大きく、測定自体ができなかった。これらの理由として、正極を作製している過程で、ニッケル-リン合金からなる被覆層が割れたり、はがれたり、クラックが入るなどして、導電材の間で電気的な接触ができなかったことが推察される。

【0044】
実施例1と比較例1の比較から、本発明の正極の製造方法によって、ニッケル被覆材料からなる導電材と、その表面に担持された触媒粒子と、これらと混合された撥水剤とを備えた、空気二次電池用の正極が作製できることが判った。

【0045】
(比較例2)
導電材にニッケル粉末(粒径:10μm~20μm)を用いたことと、導電材と触媒とPTFEの重量比を70:20:10にしたことを除いて、実施例1と同じ方法で比較例2の正極を作製した。得られた正極の寸法は43mm×45mm×0.25mmであり、重量はニッケル網を含む全重量で2.44g、ニッケル網を除いた重量で1.41gであった。比較例2の正極は、図1と同様に薄板状に形成されたものであり、テスターで調べた結果、良好な導通があることを確認した。この正極の特性を実施例1と同じ方法で評価した。その結果、図4に示したような酸素還元電流と電位の関係が得られた。

【0046】
実施例1と比較例2の正極を比較すると、実施例1は比較例2に対して全重量が27%小さくなり、集電体であるニッケル網を除いた重量では48%小さくなり、本発明のニッケル被覆材料を導電材に用いることで正極が軽量化できることが判った。また、図4の結果から、実施例1の正極は比較例2の正極に比べて同じ電位での酸素還元電流が大きく、触媒活性が高いことも判った。

【0047】
(実施例2)
実施例1の正極と、この正極とほぼ同じサイズの水素吸蔵合金負極(容量約1.7Ah)と、電解質保持体であるポリプロピレン製不織布に6mol/LのKOH水溶液を含浸させたものを、PTFE製容器の下から負極、不織布、正極の順に配置し、正極は集電体側を空気に接するようにして水素/空気二次電池を作製した。この二次電池は充放電が可能であり、室温において100mAでの放電における重量エネルギー密度は126Wh/kgであった。

【0048】
(比較例3)
比較例2の正極を用いたことを除いて、実施例2と同じように水素/空気二次電池を作製した。この二次電池は充放電が可能であり、100mAの放電における重量エネルギー密度は106Wh/kgであった。

【0049】
実施例2と比較例3の比較から、本発明の水素/空気二次電池では、本発明の正極を用いたことによって、約19%も重量エネルギー密度を向上できることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の空気二次電池用の正極および空気二次電池は、充放電特性に優れ、エネルギー密度が高く、電解質に水溶液を用いることから安全性も高いことから、パソコン、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、携帯ビデオプレーヤー、携帯書籍端末などのモバイル機器の電源、電気自動車、ハイブリッド自動車、電動バイク、電動自転車、ショベルカーなどの電動作業機械や電動建設機械などの動力用または補助用電池、自動車用、家庭用、業務用、産業用の燃料電池の電力貯蔵用・出力調整用電池、太陽光発電、風力発電、水力発電、原子力発電などの電力貯蔵・出力調整用電池などに用いることができる。
図面
【図4】
0
【図1】
1
【図2】
2
【図3】
3