TOP > 国内特許検索 > pre-miRNA又はshRNAの活性を抑制するための核酸分子 > 明細書

明細書 :pre-miRNA又はshRNAの活性を抑制するための核酸分子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-192918 (P2016-192918A)
公開日 平成28年11月17日(2016.11.17)
発明の名称または考案の名称 pre-miRNA又はshRNAの活性を抑制するための核酸分子
国際特許分類 C12N  15/113       (2010.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAG
A61K 31/7088
A61P 43/00 111
A61P 35/00
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 26
出願番号 特願2015-074132 (P2015-074132)
出願日 平成27年3月31日(2015.3.31)
発明者または考案者 【氏名】立花 亮
【氏名】田辺 利住
出願人 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100180954、【弁理士】、【氏名又は名称】漆山 誠一
【識別番号】100196966、【弁理士】、【氏名又は名称】植田 渉
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4C086
Fターム 4B024AA01
4B024CA11
4B024DA03
4B024GA11
4B024HA17
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086ZB26
4C086ZC41
要約 【課題】標的RNAi分子の活性を阻害することができる新規な一本鎖核酸分子、及び該一本鎖核酸分子を用いた標的RNAi分子の新規な活性抑制方法を提供することである。
【解決手段】標的RNAi分子に対して、第1及び第2標的核酸相補領域の2領域で結合する一本鎖核酸分子、及び該分子を用いる標的RNAi分子の活性阻害方法。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
標的RNAi分子であるpre-miRNA又はshRNAの活性を抑制するための一本鎖核酸分子であって、以下の(1)~(4)を含み、
(1)前記標的RNAi分子の連続する15~30塩基からなる第1標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列からなる第1標的核酸相補領域、
(2)前記標的RNAi分子において前記第1標的核酸領域の5'末端側又は3'末端側に隣り合って位置する15~30塩基からなる第2標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列からなる第2標的核酸相補領域、
(3)3~10塩基の互いに相補的な塩基配列からなる二本鎖部分と、該二本鎖部分のいずれか1組の5'末端と3'末端を連結する3~10塩基の塩基配列からなる一本鎖部分からなるヘアピン領域、及び
(4)3~10塩基の互いに相補的な塩基配列からなる二本鎖領域
かつ、前記第1標的核酸領域又は第2標的核酸領域の少なくとも一方が、前記標的RNAi分子のループ部分を構成する塩基配列の全部又は一部を含み、
第1標的核酸相補領域の3'末端及び第2標的核酸相補領域の5'末端、又は第2標的核酸相補領域の3'末端及び第1標的核酸相補領域の5'末端のいずれか一方にヘアピン領域が連結され、かつ他方に二本鎖領域が連結されてなる前記一本鎖核酸分子。
【請求項2】
前記第1標的核酸相補領域及び/又は第2標的核酸相補領域とヘアピン領域間、及び/又は
前記第1標的核酸相補領域及び/又は第2標的核酸相補領域と二本鎖領域間
を介在する1~5塩基の塩基配列からなるスペーサー領域を含む、請求項1に記載の一本鎖核酸分子。
【請求項3】
前記第1標的核酸領域又は第2標的核酸領域のいずれか一方が、前記標的RNAi分子のループ部分を構成する塩基配列の全部を含む、請求項1又は2に記載の一本鎖核酸分子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の一本鎖核酸分子を含む医薬組成物。
【請求項5】
細胞又は組織に存在するpre-miRNA又はshRNAの活性をインビトロで抑制する方法であって、
細胞又は組織に請求項1~3のいずれか一項に記載の一本鎖核酸分子を導入する工程
を含む、前記方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、標的RNAi分子であるpre-miRNA又はshRNAの活性を抑制するための一本鎖核酸分子、及びそれを用いた標的RNAi分子の活性抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、miRNA(マイクロRNA)やsiRNA(低分子干渉RNA)のようなタンパク質をコードしていない、いわゆるノンコーディングRNAが生理活性を有し、生体内で種々の機能を果たしていることが明らかになってきた。例えば、非特許文献1は、miRNAの1種でありoncomir(癌miRNA)と呼ばれるmiR-21をマウスで発現させた場合に、プレB細胞リンパ腫が誘導されることを開示している。一方で、多くの癌細胞ではmiR-21が大量に発現されており、その発現を阻害するとHeLa細胞やヒトグリオーマ細胞U87等の癌細胞株では細胞死が引き起こされることが知られている(非特許文献2及び3)。miRNAをはじめとするノンコーディングRNAの活性を制御する薬剤を開発できれば、癌等の様々な疾患を治療するための医薬や診断薬の有効成分として利用することが可能となる。それ故、世界各国において、ノンコーディングRNAの活性を制御する薬剤を用いた核酸医薬品等の研究及び開発が盛んに進められてきた。
【0003】
例えば、非特許文献4は、人工的に構築された非天然型核酸である架橋化核酸(BNA/LNA:Bridged Nucleic Acid/Locked Nucleic Acid)をmiRNA阻害剤として使用する方法を開示しており、また、非特許文献5は、2'-OMeで化学修飾されたRNAを含む核酸をmiRNA阻害剤として用いる方法を開示している。
【0004】
しかしながら、これらのmiRNA阻害剤は、いずれも最終産物であるmiRNAを標的としている。miRNAは、pre-miRNAと呼ばれる一本鎖前駆体からプロセシングされて形成されることが知られており(非特許文献6)pre-miRNAの活性を阻害することができれば、これまでのmiRNA阻害剤とは異なる作用機構に基づいてmiRNAの活性を阻害することが可能となる。しかしながら、pre-miRNAの活性を阻害することができる薬剤は幾つか報告されているものの(非特許文献7~8)、その活性や特異性は十分とはいえないものであった。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Medina PP, et al., 2010, Nature, 467:86-90.
【非特許文献2】Yao Q, et al., 2009, Biochem Biophys Res Commun., 388(3):539-42.
【非特許文献3】Zhou X, et al., 2010, Oncol Rep., 24(1):195-201.
【非特許文献4】Elmen J, et al., 2008, Nature., 452(7189):896-9.
【非特許文献5】Hutvagner G, et al., 2004, PLoS Biol., 2(4):E98.
【非特許文献6】David P. Bartel, Cell, Vol. 116, 281-297, January 23, 2004
【非特許文献7】Concetta A. et al., 2012, Artificial DNA: PNA & XNA, 3(2): 88-96.
【非特許文献8】Wigard P. et al., 2007, PLoS Biol., 5(8): e203, 1738-1749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、pre-miRNAの活性を阻害することができる新規な一本鎖核酸分子、及び該一本鎖核酸分子を用いたpre-miRNAの新規な活性抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため研究を重ねた結果、標的RNAi分子の塩基配列を基に設計される2領域で標的RNAi分子と結合する一本鎖核酸分子が、標的RNAi分子の活性を阻害することができることを見出した。本発明は、当該研究結果に基づくものであり、以下を提供する。
【0008】
(1)標的RNAi分子であるpre-miRNA又はshRNAの活性を抑制するための一本鎖核酸分子であって、以下の(1)~(4)を含み、(1)前記標的RNAi分子の連続する15~30塩基からなる第1標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列からなる第1標的核酸相補領域、(2)前記標的RNAi分子において前記第1標的核酸領域の5'末端側又は3'末端側に隣り合って位置する15~30塩基からなる第2標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列からなる第2標的核酸相補領域、(3)3~10塩基の互いに相補的な塩基配列からなる二本鎖部分と、該二本鎖部分のいずれか1組の5'末端と3'末端を連結する3~10塩基の塩基配列からなる一本鎖部分からなるヘアピン領域、及び(4)3~10塩基の互いに相補的な塩基配列からなる二本鎖領域、かつ、前記第1標的核酸領域又は第2標的核酸領域の少なくとも一方が、前記標的RNAi分子のループ部分を構成する塩基配列の全部又は一部を含み、第1標的核酸相補領域の3'末端及び第2標的核酸相補領域の5'末端、又は第2標的核酸相補領域の3'末端及び第1標的核酸相補領域の5'末端のいずれか一方にヘアピン領域が連結され、かつ他方に二本鎖領域が連結されてなる前記一本鎖核酸分子。
(2)前記第1標的核酸相補領域及び/又は第2標的核酸相補領域とヘアピン領域間、及び/又は前記第1標的核酸相補領域及び/又は第2標的核酸相補領域と二本鎖領域間を介在する1~5塩基の塩基配列からなるスペーサー領域を含む、(1)に記載の一本鎖核酸分子。
(3)前記第1標的核酸領域又は第2標的核酸領域のいずれか一方が、前記前駆体のループ部分を構成する塩基配列の全部を含む、(1)又は(2)に記載の一本鎖核酸分子。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の一本鎖核酸分子を含む医薬組成物。
(5)細胞又は組織に存在するpre-miRNA又はshRNAの活性をインビトロで抑制する方法であって、細胞又は組織に(1)~(3)のいずれかに記載の一本鎖核酸分子を導入する工程を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の核酸分子によれば、標的RNAi分子の活性を、特異的に、かつ効率的に抑制することができる。また、本発明の核酸分子は、天然型核酸、主としてDNAで構成されることから安価で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一本鎖核酸分子の基本構成を示す概念図である。
【図2】本発明の一本鎖核酸分子と標的核酸分子との結合関係を示す概念図である。
【図3】本発明の一本鎖核酸分子と標的核酸分子の2種類の結合関係を示す概念図である。A及びBはダイヤモンド型を、C及びDはパラレル型を示す。
【図4】ヒトpre-miR-16-1及びヒトpre-miR-21の配列及び予測される二次構造を示す図である。
【図5】ヒトpre-miR-16-1(小文字)と、本発明の一本鎖核酸分子の一例であるpmLidNA88(A、大文字)及びpmLidNA3022(B、大文字)との結合を示す図である。
【図6】ヒトpre-miR-21(小文字)と、本発明の一本鎖核酸分子の一例であるpmLidNA2018(A、大文字)及びpmLidNA2817(B、大文字)との結合を示す図である。
【図7】Aは、miR-16(小文字)と、実施例で用いたmiR-16の活性抑制用二本鎖核酸分子であるLidNA16(大文字)との結合を示す。Bは、miR-21(小文字)と、実施例で用いたmiR-21の活性抑制用二本鎖核酸分子であるLidNA21(大文字)との結合を示す図である。
【図8】miR-16に対する本発明の一本鎖核酸分子の一例であるpmLiDNA88及び3022の効果を、細胞を用いて測定した結果を示す図である。縦軸は、miR-16の発現量の指標となる正規化DsRed2/GFP比(相対値)を、未処理のコントロールを1としたときの相対値で示す。横軸は各試験区を示し、各核酸分子を各濃度で処理したことを示す。pmLidNA3022+5 nM LidNA16は、5 nM LidNA16と各濃度のpmLidNA3022で処理した試験区を、pmLidNA88+5 nM LidNA16は、5 nM LidNA16と各濃度のpmLidNA88で処理した試験区を示す。Controlは、活性を有さないLidNA(LidNA-allT)で処理した試験区を示す。
【図9】本発明の一本鎖核酸分子の一例であるpmLiDNA2018及び2817の、MIAPaca2細胞(A)及びHEK293T細胞(B)の増殖に対する効果を測定した結果を示す図である。縦軸は、生細胞数の指標となる吸光度を、横軸は各試験区を示す。細胞は、2.5nM~10nMのLidNA21及び10nM~40nMのpmLidNA2018又は2817で処理した。21×2018はLidNA21及びmLidNA2018で処理した試験区を、21×2817はLidNA21及びmLidNA2817で処理した試験区をそれぞれ示す。
【図10】本発明の一本鎖核酸分子による細胞内miRNA量に対する効果を、定量PCRにより測定した結果を示す図である。Aは、LidNA16、pmLidNA3022(pm3022)、又はLidNA16及びpmLidNA3022(mix)で処理した際の細胞内miR-16の発現量を、空ベクター(mock)で処理した値を1としたときの相対値で示す。Bは、LidNA21、又はLidNA21及びpmLidNA2018(mix)で処理した際の細胞内miR-21の発現量を、空ベクター(mock)で処理した値を1としたときの相対値で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の態様について具体的に説明をする。
1.一本鎖核酸分子
1-1.概要
本発明の第1の態様は、標的RNAi分子であるpre-miRNA又はshRNAの活性を抑制するための一本鎖核酸分子である。本発明の核酸分子を用いれば、標的RNAi分子の活性を、特異的かつ効率的に抑制することができる。

【0012】
1-2.定義
本明細書における以下の用語の定義について説明をする。
「核酸」とは、天然型核酸、非天然型核酸及び/又は核酸類似体をいう。
「天然型核酸」とは、ヌクレオチドを構成単位とし、それらがホスホジエステル結合によって連結した自然界に存在する生体高分子である。通常は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)及びウラシル(U)のいずれかの塩基を有するリボヌクレオチドが連結してなるRNA及びアデニン、グアニン、シトシン及びチミン(T)のいずれかの塩基を有するデオキシリボヌクレオチドが連結してなるDNAが該当する。

【0013】
「非天然型核酸」とは、非天然型ヌクレオチドを全部又は一部に含む核酸分子をいう。「非天然型ヌクレオチド」とは、人工的に構築された又は人工的に化学修飾された自然界に存在しないヌクレオチドであって、前記天然に存在するヌクレオチドに類似の性質及び/又は構造を有するヌクレオチド、又は天然に存在するヌクレオシド若しくは塩基に類似の性質及び/又は構造を有するヌクレオシド若しくは塩基を含むヌクレオチドをいう。例えば、脱塩基ヌクレオシド、アラビノヌクレオシド、2'-デオキシウリジン、α-デオキシリボヌクレオシド、β-L-デオキシリボヌクレオシド、その他の糖修飾を有するヌクレオシドが挙げられる。さらに、置換五単糖(2'-O-メチルリボース、2'-デオキシ-2'-フルオロリボース、3'-O-メチルリボース、1',2'-デオキシリボース)、アラビノース、置換アラビノース糖;置換六単糖及びアルファ-アノマーの糖修飾を有するヌクレオシドが含まれる。また、非天然型ヌクレオチドは、人工的に構築された塩基類似体又は人工的に化学修飾された塩基(修飾塩基)を包含するヌクレオチドも含む。「塩基類似体」には、例えば、2-オキソ(1H)-ピリジン-3-イル基、5位置換-2-オキソ(1H)-ピリジン-3-イル基、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン-9-イル基、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン-9-イル基、2-アミノ-6-(2-オキサゾリル)プリン-9-イル基等が挙げられる。「修飾塩基」には、例えば、修飾化ピリミジン(例えば、5-ヒドロキシシトシン、5-フルオロウラシル、4-チオウラシル)、修飾化プリン(例えば、6-メチルアデニン、6-チオグアノシン)及び他の複素環塩基等が挙げられる。メチルホスホネート型DNA/RNA、ホスホロチオエート型DNA/RNA、ホスホルアミデート型DNA/RNA、2'-O-メチル型DNA/RNA等の化学修飾核酸や核酸類似体も含むこともできる。

【0014】
「核酸類似体」とは、天然型核酸に類似の構造及び/又は性質を有する人工的に構築された化合物をいう。例えば、PNA、PHONA(ホスフェート基を有するペプチド核酸)、BNA/LNA、モルホリノ核酸等が挙げられる。

【0015】
核酸は、必要に応じて、リン酸基、糖及び/又は塩基が核酸用標識物質で標識されていてもよい。核酸用標識物質は、当該分野で公知のあらゆる物質を利用することができる。例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、Cy3、Cy5、Cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエスター)が挙げられる。

【0016】
本明細書において、「標的核酸分子」又は「標的RNAi分子」とは、本発明の一本鎖核酸分子を用いて活性を抑制する対象となるpre-miRNA又はshRNAである。本発明の一本鎖核酸分子はpre-miRNA又はshRNAを標的とするが、pre-miRNA又はshRNAの活性を抑制するに加えて、好ましくは、これらの成熟体であるsiRNA又はmiRNAにも結合し、その活性を直接抑制し得る。

【0017】
本明細書において、「pre-miRNA」とは、下記のmiRNAの前駆体である。pre-miRNAは、特徴的なステムループ構造を有し、限定するものではないが一般に50~80ヌクレオチドで構成される一本鎖核酸分子である。pre-miRNAのステム構造中には、ギャップ、バルジ、及びミスマッチ等が存在し、これらの構造がpre-miRNAの安定性を低下させ、成熟体miRNAへの処理効率に影響を与えると考えられている(Ramesh A. Shivdasani, Blood, 2006, 108, 3646-3653)。

【0018】
本明細書において、「miRNA」(micro RNA)とは、生体内に存在し、特定の遺伝子の発現を調節する長さ18~25塩基長の一本鎖ノンコーディングRNAである。このRNAは、標的遺伝子のmRNA及びタンパク質因子と結合して複合体を形成し、標的遺伝子の翻訳を阻害することが知られている。miRNAは、pri-miRNAと呼ばれる一本鎖の前駆体状態でゲノムから転写された後、核内でDroshaと呼ばれるエンドヌクレアーゼにより上記のpre-miRNAと呼ばれるさらなる一本鎖前駆体状態にプロセシングされ、核外でDicerと呼ばれるエンドヌクレアーゼの働きによってmiRNA鎖とmiRNAスター鎖からなる成熟型二本鎖miRNAとなり、そのうちmiRNA鎖がRISC(RNA-induced silencing complex)複合体に取り込まれて、成熟型一本鎖miRNAとなり標的遺伝子発現を抑制する(David P. Bartel, Cell, Vol. 116, 281-297, January 23, 2004)。

【0019】
本明細書において、「shRNA」(short hairpin RNA)とは、適当な配列を有する短いスペーサー配列によって下記のsiRNA又は成熟型二本鎖miRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖が連結された一本鎖RNAをいう。つまり、shRNAは、一分子内でセンス領域とアンチセンス領域が互いに塩基対合してステム構造を形成し、同時に前記スペーサー配列がループ構造を形成することによって、分子全体としてヘアピン型のステム-ループ構造を形成している。

【0020】
本明細書において、「siRNA」(低分子干渉RNA:small interference RNA)とは、標的遺伝子の一部に相当する塩基配列を有するセンス鎖(パッセンジャー鎖)、及びそのアンチセンス鎖(ガイド鎖)からなる小分子二本鎖RNAである。

【0021】
本明細書において、「pre-miRNA又はshRNAの活性」とは、pre-miRNA及びshRNAが、それぞれ成熟体であるmiRNA及びshRNAに変換される活性を意味する。また、本発明において、「pre-miRNA又はshRNAの活性を抑制する」とは、pre-miRNA及びshRNAのmiRNA及びshRNAへの変換を完全に又は部分的に抑制することをいう。したがって、pre-miRNA又はshRNAの活性が抑制されれば、結果として成熟体であるmiRNA及びsiRNAの細胞内の量が減少し得る。

【0022】
本明細書において、「siRNA又はmiRNAの活性」とは、siRNA又はmiRNA分子が有する標的遺伝子の発現をサイレンシングする活性(遺伝子サイレンシング活性)をいう。また、本発明において「siRNA又はmiRNAの活性を抑制する」とは、siRNA又はmiRNAの遺伝子サイレンシング活性を完全に又は部分的に抑制することをいう。生体内(細胞内、組織内、器官内及び個体内を含む)に存在するある特定のmiRNAの活性を抑制した場合、相対的にその特定のmiRNAが標的としていた遺伝子のサイレンシングは完全に又は部分的に回避される。その結果、その標的遺伝子の生体内での発現量は増加することとなる。

【0023】
1-3.構成
本明細書において「標的RNAi分子の活性を抑制するための一本鎖核酸分子」とは、図1に示す基本構成を有し、標的RNAi分子に対する配列特異性を有する一本鎖核酸分子である。本発明の一本鎖核酸分子と標的核酸分子との結合関係を図2に示す。

【0024】
本発明の一本鎖核酸分子(0100)は、第1標的核酸相補領域(0101)、第2標的核酸相補領域(0102)、ヘアピン領域(0103)、及び二本鎖領域(0104)を必須構成要素として含む。また、本発明の一本鎖核酸分子は、上記必須構成要素に加えて、さらに、スペーサー領域(0105)及びフランキング領域(0106)を選択構成要素として含むことができる。

【0025】
以下、各構成要素について具体的に説明をする。
(1)第1標的核酸相補領域
「第1標的核酸相補領域」(0101)は、標的核酸分子(0200)における第1標的核酸領域(0201)の塩基配列に相補的な塩基配列からなる領域である。

【0026】
「第1標的核酸領域」(0201)とは、標的核酸分子上に存在する連続する15~30塩基、好ましくは15~25塩基、又は15~20塩基の塩基配列からなる領域である。

【0027】
本発明において、「第1標的核酸相補領域」が、「第1標的核酸領域」に対して相補的であるとは、「第1標的核酸相補領域」が、「第1標的核酸領域」に対して完全に又は部分的に相補的であることを意味する。

【0028】
本明細書において、「完全に相補的」とは、2つの核酸鎖において一方の核酸鎖の塩基配列の全ての塩基が他方の核酸鎖の塩基配列の対応する全ての塩基と塩基対合し得る関係をいう。したがって、本発明の核酸分子において、一本鎖核酸部分の標的核酸相補領域が標的RNAi分子の標的核酸領域の塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列からなる場合は、標的核酸相補領域の塩基配列の全ての塩基が標的核酸領域の塩基配列の全ての塩基と塩基対合を形成できることを意味する。

【0029】
本明細書において、「十分に相補的」とは、2つの核酸鎖のうち少なくとも一方の核酸鎖の全ての塩基が他方の核酸鎖の塩基配列の対応する全ての塩基と塩基対合し得る関係ではないものの、その一方の塩基配列の50%以上100%未満、好ましくは60%以上100%未満、より好ましくは70%以上100%未満、さらに好ましくは80%以上100%未満の塩基が他方の核酸鎖の塩基配列の塩基と塩基対合し得る関係をいう。例えば、2つの核酸鎖において、一方の核酸鎖の塩基配列が、他方の核酸鎖の塩基配列に対して完全に相補的であるが、他方の核酸鎖が、一方の核酸鎖の塩基配列に対して完全に相補的ではなく、50%以上100%未満しか相補的ではない場合が挙げられる。具体的には、完全に相補的な塩基配列からなる2つの核酸鎖のうち一方の核酸鎖のみに1つ又は複数の塩基が付加された場合が該当する。あるいは、例えば、2つの核酸鎖において、2つの核酸鎖の塩基配列が、いずれも相手方の核酸鎖に対して完全に相補的ではないが、それぞれの核酸鎖の塩基配列の50%以上100%未満が相手方の核酸鎖の塩基配列と相補的である場合が挙げられる。具体的には、完全に相補的な塩基配列からなる2つの核酸鎖において互いに対応する位置にあるヌクレオチド残基の塩基の両方又はいずれか一方を他の塩基に置換した結果、その置換した位置におけるヌクレオチド残基が塩基対合できなくなった場合や、一方の核酸鎖からヌクレオチド残基が1つ若しくは2~4つ欠失した結果、その欠失した位置におけるヌクレオチド残基が塩基対合できなくなった場合、が該当する。本発明の核酸分子であれば、前記十分に相補的な例として、非修飾DNA領域がミスマッチ部位を含む場合が挙げられる。

【0030】
本明細書において、「ミスマッチ部位」とは、2つの核酸鎖を互いに塩基対合させたときに、一方の核酸鎖の塩基配列に含まれる塩基に対して相補的な塩基が他方の核酸鎖の塩基配列の対応する位置に存在しないことにより、塩基対合を形成できないヌクレオチド残基からなる部位をいう。

【0031】
第1標的核酸相補領域は、その塩基配列中に、第1標的核酸領域と塩基対合しない1塩基(1ヌクレオチド残基に相当する。以下同様に解する。)からなるミスマッチ部位(「ギャップ部位」ともいう)及び/又は連続する2~10塩基、好ましくは連続する3~8塩基、より好ましくは連続する4~6塩基のミスマッチ部位(「ループ部位」ともいう)を少なくとも1つ有することができる。

【0032】
第1標的核酸相補領域がミスマッチ部位を含む場合、その挿入位置は、第1標的核酸相補領域内であれば特に制限はしない。好ましくは第1標的核酸相補領域の末端部を除いた同領域内部である。より好ましくは第1標的核酸相補領域の中央部、具体的にはその5'末端から数えて9~14番目、又は10~13番目のヌクレオチド残基間である。

【0033】
第1標的核酸相補領域の塩基長は、特に制限はしないが、前述のように標的RNAi分子における第1標的核酸領域に対して完全に又は十分に相補的な塩基配列を有することを鑑みれば、第1標的核酸領域以上の塩基長を有することが好ましい。したがって、第1標的核酸相補領域の塩基長は、例えば15~35塩基、好ましくは15~30塩基、又は15~25塩基である。

【0034】
第1標的核酸相補領域は、第1標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列を介して標的核酸分子を認識し、第1標的核酸領域に結合することを特徴とする。

【0035】
(2)第2標的核酸相補領域
「第2標的核酸相補領域」(0102)は、標的核酸分子(0200)における第2標的核酸領域(0202)の塩基配列に相補的な塩基配列からなる領域である。

【0036】
本発明において、「第2標的核酸相補領域」が、「第2標的核酸領域」に対して相補的であるとは、「第2標的核酸相補領域」が、「第2標的核酸領域」に対して完全に又は十分に相補的であることを意味する。「完全に又は十分に相補的」については上記(1)で述べた通りであるからここでは記載を省略する。

【0037】
本明細書において「第2標的核酸領域」(0202)とは、標的核酸分子上に存在し、前記第1標的核酸領域の5'末端側又は3'末端側に隣り合って位置する15~30塩基、好ましくは15~25塩基、又は15~20塩基の塩基配列からなるからなる。

【0038】
「隣り合って位置する」とは、隣接すること、又は1~5塩基、好ましくは1~3塩基を挟んだ非常に近い位置に配置されていることをいう。

【0039】
第2標的核酸領域は第1標的核酸領域と塩基長が必ずしも同じである必要はない。例えば、第1標的核酸領域の塩基長が15塩基で、第1標的核酸領域の塩基長が20塩基であってもよい。

【0040】
第2標的核酸領域は、第1標的核酸領域に隣り合って位置することを除けば、構成上は第1標的核酸領域と変わらない。

【0041】
第2標的核酸相補領域は、第2標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列を介して標的核酸分子を認識し、第2標的核酸領域に結合することを特徴とする。

【0042】
(3)ヘアピン領域
「ヘアピン領域」(0103)は、第1標的核酸相補領域と第2標的核酸相補領域を連結する領域である。その構造は、図1に示すようにステムを構成する二本鎖部分(0107)とループを構成する一本鎖部分(0108)からなる。

【0043】
「二本鎖部分」(0107)は、3~10塩基、好ましくは4~9塩基、4~8塩基、5~7塩基、又は5若しくは6塩基の互いに相補的な塩基配列を有する二本鎖からなる。二本鎖部分を構成する塩基配列は、特に限定はしないが、GC量の多い塩基配列が好ましい。

【0044】
「一本鎖部分」(0108)は、3~10塩基、好ましくは3~9塩基、3~6塩基、又は3~5塩基の塩基配列を有する一本鎖からなる。一本鎖部分を構成する塩基配列は、特に限定はしないが、自己アニーリング等の分子内フォールディングによる高次構造を形成しない配列、二本鎖部分の塩基対形成を阻害しない配列、及び第1又は第2標的核酸相補領域と塩基対合しない配列が望ましい。

【0045】
ヘアピン領域は、二本鎖部分の両端に存在するいずれか1組の5'末端と3'末端を一本鎖部分の3'末端と5'末端とで、それぞれホスホジエステル結合によって連結してなる。

【0046】
本発明の一本鎖核酸分子においてにおいて、ヘアピン領域は、前述のように第1標的核酸相補領域及び第2標的核酸相補領域を連結する。この連結には、2つのパターンが存在する。一つは、ヘアピン領域が第1標的核酸相補領域の3'末端と第2標的核酸相補領域の5'末端をホスホジエステル結合によって連結するパターンであり、もう一つは、ヘアピン領域が第2標的核酸相補領域の3'末端と第1標的核酸相補領域の5'末端をホスホジエステル結合によって連結するパターンである。いずれの連結パターンであってもよい。

【0047】
(4)二本鎖領域
「二本鎖領域」(0104)は、第1及び第2標的核酸相補領域において、前記ヘアピン領域が連結されていない末端に連結される領域である。二本鎖領域の基本構成は、前記ヘアピン領域の二本鎖部分に準ずる。すなわち、3~10塩基、好ましくは4~9塩基、4~8塩基、5~7塩基、又は5若しくは6塩基の互いに相補的な塩基配列を有する二本鎖からなる。また、二本鎖領域を構成する塩基配列は、特に限定はしないが、GC量の多い塩基配列が好ましい。ただし、ヘアピン領域の二本鎖部分と同一の塩基長、及び/又は同一の塩基配列である必要はない。

【0048】
前述のように、本発明の一本鎖核酸分子において、ヘアピン領域は、第1標的核酸相補領域及び第2標的核酸相補領域を2つのパターンで連結した。ヘアピン領域がいずれのパターンで連結された場合であっても、第1標的核酸相補領域及び第2標的核酸相補領域には、もう一組の5'末端と3'末端が遊離末端として残されている。二本鎖領域は、これらの末端にホスホジエステル結合によって連結される。

【0049】
(5)スペーサー領域
「スペーサー領域」(0105)は、本発明の一本鎖核酸分子における選択構成要素であって、第1及び/又は第2標的核酸相補領域とヘアピン領域間、及び/又は第1及び/又は第2標的核酸相補領域と二本鎖領域間を介在する領域である。前記4つの領域間の全てを介在してよいし、いずれか1つ、2つ又は3つの領域間を介在してもよい。本スペーサー領域を介在させることにより、一本鎖核酸分子内の第1標的核酸相補領域及び/又は第2標的核酸相補領域の自由度が高まり、それぞれの標的核酸領域との結合が容易になる。

【0050】
スペーサー領域は、1~5塩基、好ましくは1~4塩基、又は1~3塩基の塩基配列からなる。スペーサー配列の塩基配列は、自己アニーリング等の分子内フォールディングによる高次構造を形成しない配列であれば、特に限定はしない。スペーサー配列の好ましい例として、例えば、TT、GA、及びG等が挙げられ、適切なスペーサー配列を選択することにより本発明の一本鎖核酸分子の活性をさらに高めることができる。

【0051】
(6)フランキング領域
「フランキング領域」(0106)とは、一本鎖核酸分子における選択構成要素であって、一本鎖核酸分子の5'末端及び/又は3'末端に連結される一本鎖核酸領域をいう。したがって、フランキング領域は、二本鎖領域の遊離5'末端及び/又は二本鎖領域の遊離3'末端に連結される一本鎖核酸領域である。

【0052】
フランキング領域の塩基長は、特に限定はしない。しかし、不必要に長くすることは本発明の一本鎖核酸分子の調製上、生産コストが高くなるだけでなく、技術的な困難性を伴うことから、通常は、1~30塩基長、又は1~25塩基長の範囲であることが好ましい。

【0053】
フランキング領域を構成する核酸は、上述した核酸のいずれであってもよい。好ましくは天然型核酸、より好ましくはDNAである。またフランキング領域の塩基配列は、一本鎖核酸分子における他の領域(他のフランキング領域を含む)と塩基対合をしない配列であればよい。自己アニーリング等の分子内フォールディングによる高次構造を形成する配列であっても構わない。

【0054】
(7)一本鎖核酸分子
本発明の一本鎖核酸分子(0100)の全体構成について説明をする。
本発明の一本鎖核酸分子の基本的な構造は、第1標的核酸相補領域(0101)と第2標的核酸相補領域(0102)の一方の末端をヘアピン領域(0103)で連結し、他方の末端に二本鎖領域(0104)を連結して成る構造である(図1)。さらに、必要に応じて前記各領域間にスペーサー領域(0105)を挿入することや、一本鎖核酸分子の5'末端及び/又は3'末端にフランキング領域(0106)を連結した構造とすることもできる。

【0055】
一本鎖核酸分子は、天然型核酸で構成される。ただし、必要に応じて一部に非天然型核酸及び/又は核酸類似体を含むこともできる。例えば、スペーサー領域を核酸類似体に置換してもよい。また、天然型核酸は、DNA、RNA又はその組み合わせのいずれであってもよいが、合成に要するコストや核酸分解酵素に対する安定性の点からDNAが望ましい。

【0056】
一本鎖核酸分子は、5'末端又は3'末端が担体に固定されていてもよい。ここでいう「担体」とは、例えば、低分子化合物(例えば、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン又はニュートラアビジン)、アミノ酸若しくはペプチド、高分子多糖支持体(例えば、セファロース、セファデックス、アガロース)、樹脂(天然又はプラスチックを含む合成樹脂)、シリカ、ガラス、磁気ビーズ、金属(例えば、金、白金、銀)、セラミックス、又はそれらの組み合わせが挙げられる。一本鎖核酸分子の5'末端及び/又は3'末端にフランキング領域が連結されている場合には、フランキング領域の遊離末端部が本発明の一本鎖核酸分子の末端部を構成することから、フランキング領域の遊離末端部を前記担体に固定すればよい。

【0057】
本発明の一本鎖核酸分子は、分子内の相補鎖を介して標的RNAi分子を特異的に認識し、かつ強固に結合する。また、本発明の一本鎖核酸分子は、これらの標的RNAi分子の成熟体であるmiRNA又はsiRNAにも結合し得る。

【0058】
本発明の一本鎖核酸分子では、標的RNAi分子に対する相補領域が第1標的核酸相補領域と第2標的核酸相補領域の2か所存在し、これらが分子内でヘアピン領域を介して互いに分離している。それ故に、両方の相補領域が異なる二か所で標的RNAi分子に結合するという、二重特異性を有する。したがって、ステム構造を有し、成熟体であるmiRNA及siRNAと比べて比較的安定であると考えられるpre-miRNA及びshRNAに対しても、強い力で結合し、その活性を効率的かつ特異的に阻害し得ると考えられる。

【0059】
本発明の一本鎖核酸分子は、上記性質を利用して、標的RNAi分子の活性を抑制するための阻害剤として利用することができる。一本鎖核酸分子の具体的な利用方法については、第3態様及び第4態様で詳述する。

【0060】
1-4.一本鎖核酸分子の製造
本発明の一本鎖核酸分子の製造方法について説明する。本発明の一本鎖核酸分子は、上述の構成を有する一本鎖核酸分子を調製することのできる方法であれば、特に限定はしない。当該分野で公知のあらゆる方法によって製造することができる。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法を参照にして製造することができる。ここでは、以下に具体例を挙げて説明するが、この方法に限られない。

【0061】
本発明の一本鎖核酸分子の製造方法は、(1)設計工程、(2)合成工程、及び(3)分子内フォールディング工程を含む。以下、各工程について具体的に説明をする。

【0062】
(1)設計工程
「設計工程」とは、本発明の一本鎖核酸分子の構造とそれを構成する塩基配列を決定する工程である。

【0063】
本工程では、まず、標的RNAi分子を決定する。候補となるRNAi分子は、pre-miRNA又はshRNAであれば、限定はしない。既に配列が明らかとなっている、又は配列を明らかにすることができる標的RNAi分子が適当である。特に、標的pre-miRNAの活性を抑制することにより、癌細胞の増殖を抑えることができるものは、本発明の一本鎖核酸分子の好適な標的RNAi分子である。好適な標的分子として、限定するものではないが、例えば、pre-miR-16-1又はpre-miR-21が挙げられる。標的分子が由来する生物種は問わないが、例えば哺乳動物、例えばヒト及びチンパンジーなどの霊長類、ラット及びマウス等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物、好ましくはヒトであってよい。

【0064】
次に第1標的核酸領域を決定する。第1標的核酸領域は、標的分子であるpre-miRNA又はshRNA上の連続する15~30塩基、好ましくは15~20塩基をTm値が40℃~70℃、好ましくは50℃~65℃となるように選択する。

【0065】
続いて、第2標的核酸領域を決定する。第2標的核酸領域は、標的分子であるpre-miRNA又はshRNAにおいて第1標的核酸領域に隣り合って位置する連続する15~30塩基、好ましくは15~20塩基を選択する。第1標的核酸領域の5'末端側又は3'末端側のいずれであってもよいが、第2標的核酸領域のTm値が40℃~70℃、好ましくは50℃~65℃となるようにする方が好ましい。標的核酸分子上で第1標的核酸領域と第2標的核酸領域は、互いに隣接するように設計してもよいが、1~5塩基、好ましくは1~3塩基離すように設計することもできる。

【0066】
第1標的核酸領域及び第2標的核酸領域は、第1標的核酸領域又は第2標的核酸領域の少なくとも一方が、標的RNAi分子のループ部分を構成する塩基配列の全部又は一部を含むように選択する。これは、ステム構造を形成していない比較的不安定であるループ部分を標的核酸領域として含むことで、本発明の一本鎖核酸分子が標的RNAi分子に結合し、その活性を抑制することが容易になると考えられるためである。特に、第1標的核酸領域又は第2標的核酸領域のいずれか一方が、標的RNAi分子のループ部分を構成する塩基配列の全部を含むことが好ましい。

【0067】
本発明の一本鎖核酸分子の第1標的核酸相補領域及び第2標的核酸相補領域の塩基配列は、それぞれ原則として野生型標的核酸分子の第1標的核酸領域及び標的核酸分子の第2標的核酸領域の塩基配列に完全に又は十分に相補的な塩基配列からなる。そのような配列は、標的核酸領域を決定すれば、当業者であれば適宜選択することができる。

【0068】
また、必要に応じて、第1標的核酸相補領域及び第2標的核酸相補領域のいずれかに、標的RNAi分子の成熟体であるmiRNA又はsiRNAに対する阻害活性を増加させるための配列を加えてもよい。そのような配列は、例えばAkira Tachibana et al., FEBS Letters, 586, 2012, pp. 1529-1532に開示されている。例えばmiRNAの5'側から10番目の塩基と11番目の塩基の相補鎖の間に4塩基の配列(例えば、miR-16に対しては5'-TCGA-3'、miR-21に対しては5'-TTTA-3')を挿入することによりmiRNAに対する活性を高めることができる。

【0069】
次に、一本鎖核酸分子のヘアピン領域の設計を行う。ヘアピン領域は、4~9塩基の互いに完全に相補的な塩基配列からなる二本鎖部分の一方の核酸鎖の3′末端と他方の核酸鎖の5′末端とを3~10塩基の一本鎖部分によって連結してなる一本鎖分子が、分子内フォールディングによりステム&ループ構造を形成できるように設計する。二本鎖部分を構成する塩基配列は限定しないが、GC量が一本鎖部分に多くなるように設計すればよい。また、二本鎖核酸部分を構成する核酸は、DNAが好ましいが、必要に応じて人工核酸を加えることもできる。一本鎖部分を構成する塩基配列も限定しないが、一本鎖部分の中で自己アニーリング等による高次構造を形成しない塩基配列、二本鎖部分の塩基対形成を阻害しない塩基配列、及び第1又は第2標的核酸相補領域と塩基対合しない塩基配列を設計するのが望ましい。

【0070】
ヘアピン領域の塩基配列が決定したら、前記第1標的核酸領域、第2標的核酸領域及びヘアピン領域の3つの領域を連結するように設計する。この時、ヘアピン領域の連結位置によって、一本鎖核酸分子と標的核酸分子との間で、図3に示す以下の2種類の結合様式を生じる。

【0071】
(i)ダイヤモンド型(図3A及びB)
標的核酸分子の第2標的核酸領域(II)が第1標的核酸領域(I)の5'末端側にある場合に、一本鎖核酸分子の第1標的核酸相補領域の3'末端と第2標的核酸相補領域の5'末端が連結されるパターン(図3A)、及び標的核酸分子の第2標的核酸領域(II)が第1標的核酸領域(I)の3'末端側にある場合に一本鎖核酸分子の第2標的核酸相補領域の3'末端と第1標的核酸相補領域の5'末端が連結されるパターン(図3B)がある。
この結合様式の場合、一本鎖核酸分子と標的核酸分子は、それぞれの両末端が互いに逆方向になるように結合する。

【0072】
(ii)パラレル型(図3C及びD)
標的核酸分子の第2標的核酸領域(II)が第1標的核酸領域(I)の5'末端側にある場合に、一本鎖核酸分子の第1標的核酸相補領域の3'末端と第2標的核酸相補領域の5'末端が連結されるパターン(図3C)、及び標的核酸分子の第2標的核酸領域(II)が第1標的核酸領域(I)の3'末端側にある場合に、一本鎖核酸分子の第2標的核酸相補領域の3'末端と第1標的核酸相補領域の5'末端が連結されるパターン(図3D)がある。
この結合様式の場合、一本鎖核酸分子と標的核酸分子は、それぞれの両末端が互いに同方向になるように結合する。
上記ダイヤモンド型及びパラレル型のいずれの様式になるように設計しても構わない。

【0073】
最後に、二本鎖領域の設計を行う。二本鎖領域の設計は、前記二本鎖部分と同様に行えばよい。必要に応じて、各領域間に1~5塩基のスペーサー領域を設計したり、二本鎖領域の遊離末端に、フランキング領域を設計することができる。

【0074】
(2)合成工程
「合成工程」とは、前記設計工程で設計した一本鎖核酸分子の塩基配列情報に基づいて核酸分子を合成する工程である。一本鎖核酸分子は、全長50~200塩基からなる核酸分子であり、原則として天然型核酸から構成されている。したがって、本発明の一本鎖核酸分子は、当該分野で公知の合成方法によって、化学合成することができる。例えば、固相合成法に従った化学合成法が挙げられる。具体的には、例えば、Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry, Volume 1, Section 3、Verma S. and Eckstein F., 1998, Annul Rev. Biochem., 67, 99-134に記載された化学合成方法を利用すればよい。また、人工核酸や修飾核酸を含めた核酸の化学合成については、多くのライフサイエンス系メーカー(例えば、タカラバイオ社、ファスマック社、ライフテクノロジー社、ジーンデザイン社、シグマ アルドリッチ社等)が受託製造サービスを行っており、それらを利用することもできる。化学合成後の一本鎖核酸分子は、使用前に当該分野で公知の方法によって精製することが好ましい。例えば、精製方法としては、例えば、ゲル精製法、アフィニティーカラム精製法、HPLC法等が挙げられる。

【0075】
(3)分子内フォールディング工程
「分子内フォールディング工程」とは、前記合成工程後の一本鎖核酸分子を分子内フォールディングさせて、本発明の一本鎖核酸分子を形成させる工程をいう。

【0076】
本工程は、合成された一本鎖核酸分子を、分子内フォールディングが可能な条件下に置くことで製造することができる。例えば、PBS(-)(0.2g/L KCl、8g/L NaCl、0.2g/L KH2PO4、1.15g/L Na2HPO4)等の適当なバッファーに溶解し、混合後、90℃に加熱後、徐々に温度を下げ、分子内フォールディングさせればよい。

【0077】
2.医薬組成物
2-1.概要
本発明の第2の実施形態は、医薬組成物である。本発明の医薬組成物を生体に投与することによって、生体内における標的RNAi分子の活性を特異的に抑制することができる。

【0078】
2-2.構成
2-2-1.組成
2-2-1-1.有効成分
本発明の医薬組成物は、有効成分として前記第1実施形態の一本鎖核酸分子を含有する。本発明の医薬組成物は、1つのRNAi分子を標的とする同一の又は二以上の異なる前記核酸分子を含むことができる。又は、異なるRNAi分子を標的とする同一の又は二以上の異なる核酸分子を含んでいてもよい。

【0079】
本発明の医薬組成物において、医薬組成物中の有効成分である一本鎖核酸分子の含有量は、製薬上有効な量であればよい。本明細書において「製薬上有効な量」とは、核酸分子中の機能性核酸がその機能を発揮する上で必要な用量で、かつ投与する生体に対して有害な副作用がほとんどないか又は全くない用量を言う。具体的な用量は、使用する一本鎖核酸分子の種類、標的RNAi分子の種類、そのRNAi分子の作用機序、本発明の核酸分子の作用効果及び安定性、使用する医薬組成物の剤形、使用する担体の種類、及び投与方法、被検体の情報及び投与経路によって異なる。ヒトに投与する場合、製薬上有効な量の範囲及び好適な投与経路は、通常、細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータに基づいて策定される。最終的な投与量は、個々の被検者に応じて医師の判断により決定され、調整される。その際に、勘案される被検者の情報には、病気の進行度若しくは重症度、全身の健康状態、年齢、体重、性別、食生活、薬剤感受性及び治療に対する耐性等が含まれる。

【0080】
一投与単位あたりにおける核酸分子の含有量の具体例として、他の医薬の併用を必要としないヒト成人男子(体重60kg)に対して、本発明の医薬組成物を注射液によって投与する場合、注射液一投与単位あたり約0.01%(w/v)~約20%(w/v)、好ましくは約0.1%(w/v)~約10%(w/v)で本発明の核酸分子を含んでいればよい。本発明の医薬組成物の薬理効果を得る上で本発明の核酸分子の大量投与が必要な場合、被検体に対する負担軽減のために数回に分割して投与することもできる。

【0081】
2-2-1-2.媒体
本発明の医薬組成物は、有効成分である第1の実施形態に記載の核酸分子の媒体を含むことができる。媒体には、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアレルアルコール、ポリオキシ化イソステアレルアルコール及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類のような溶媒が挙げられる。このような媒体は、使用時に殺菌されていることが望ましく、必要に応じて血液と等張に調整されていることが好ましい。

【0082】
2-2-1-3.担体
本発明の医薬組成物は、必要に応じて製薬上許容可能な担体を含むことができる。「製薬上許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。

【0083】
賦形剤としては、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが例として挙げられる。

【0084】
結合剤としては、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が例として挙げられる。

【0085】
崩壊剤としては、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が例として挙げられる。

【0086】
充填剤としては、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が例として挙げられる。

【0087】
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。

【0088】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。

【0089】
このような担体は、主として剤形形成を容易にし、また剤形及び薬剤効果を維持する他、有効成分である核酸分子が生体内の核酸分解酵素による分解を受け難くするために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。上記の添加剤の他、必要であれば矯味矯臭剤、可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、吸着剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。

【0090】
2-2-1-4.他の有効成分
本発明の医薬組成物は、有効成分である核酸分子が有する薬理効果を失わない範囲において、他の有効成分を包含する、いわゆる複合製剤であってもよい。ここでいう「他の有効成分」とは、例えば、第1実施形態の核酸分子と同一のRNAi分子(pre-miRNA又はshRNA)又はその成熟体を標的とし、かつ第1実施形態の核酸分子とは異なる作用機序でその活性を抑制する薬剤等が挙げられる。このような複合製剤は、同一の標的RNAi分子の活性を多面的に抑制できることから相乗的な効果を期待することができる。また、他の有効成分は、前記実施形態1の核酸分子とは異なる薬理作用を有する薬剤であってもよい。例えば、抗生物質等が挙げられる。

【0091】
例えば、本発明の核酸分子は、pre-miRNA又はshRNAをその標的分子とすることから、これらの成熟体であるmiRNA又はsiRNAの活性を抑制する分子と組み合わせて使用することで、相乗的な効果が得られる。miRNA又はsiRNAの活性を抑制する分子は、本分野で公知の物であれば特に限定しないが、例えばWO2013/073576に記載の核酸分子が挙げられる。

【0092】
したがって、一態様において、本発明の医薬組成物は、本発明の一本鎖核酸分子に加えて、標的miRNA又はsiRNAにおいて活性を有する機能鎖の塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる非修飾DNA領域を含む一本鎖核酸部分、及び前記一本鎖核酸部分の5'末端及び3'末端の少なくとも一方に連結される二本鎖核酸部分を含んでなるmiRNA又はsiRNAの活性抑制用核酸を含む。

【0093】
2-2-2.剤形
本実施形態の医薬組成物の剤形は、有効成分である核酸分子又は他の付加的な有効成分を不活化させない形態であって、投与後、生体内でその薬理効果を発揮し得る形態であれば特に限定しない。一般に、天然型核酸は、生体内でヌクレアーゼなどの分解酵素による影響を受けやすいことから本発明の医薬組成物を投与する場合には生体内で有効成分である核酸分子が分解され難い剤形が好ましい。例えば、液体、固体又は半固体のいずれであってもよい。具体的な剤形としては、例えば、注射剤、懸濁剤、乳剤、点眼剤、点鼻剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、シップ剤及び座剤等の非経口剤形又は液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、舌下剤、トローチ剤等の経口剤形が挙げられる。好ましい剤形は、注射剤である。

【0094】
また、本実施形態の医薬組成物をナノ粒子(例えば、Davis ME, et al.,Nature, 2010, 464:1067-1070に記載の標的ナノ粒子伝達システムを含む)、リポソーム(例えば、膜透過ペプチド結合リポソーム、SNALPsを含む)、コレステロール結合体の形態に調製してもよい。Castanotto D. & Rossi JJ., Nature,2009, 457, 426-433に記載のRNAi伝達システムを利用することもできる。

【0095】
2-3.医薬組成物の製造
本発明の医薬組成物の製造方法については、当業者に公知の製剤化方法を応用すればよい。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (Merck Publishing Co., Easton, Pa.)に記載された方法を参照することができる。

【0096】
2-4.投与方法
本実施形態の医薬組成物は、目的とする疾患の治療のために、有効成分である第1実施形態の核酸分子を製薬上有効な量で生体に投与することができる。投与する対象となる生体は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。

【0097】
本発明の医薬組成物の投与方法は、全身投与又は局所的投与のいずれであってもよい。疾患の種類、発症箇所又は進行度等に応じて適宜選択することができる。発症箇所が局部的な疾患であれば、注射などにより発症箇所及びその周辺に直接投与する局所的投与が好適である。治療すべき箇所(組織又は器官)に有効成分である核酸分子を十分量投与することができ、また他の組織に影響を及ぼしにくいからである。一方、転移性癌のように治療箇所を特定できない場合や発症が全身性の疾患の場合には、静脈注射等による全身投与が好ましい。血流を介して有効成分である核酸分子を全身に行き渡らせることで、診断で発見できない病変部にも投与が可能となるからである。

【0098】
本発明の医薬組成物の具体的な投与方法としては、有効成分である核酸分子が失活しないあらゆる方法で投与することができる。例えば、非経口(例えば、注射、エアロゾル、塗布、点眼、点鼻)又は経口が挙げられる。前述した理由や侵襲性が比較的低いことから、注射による投与は、特に好ましい。

【0099】
注射による投与の場合、注入部位は、特に限定しない。標的分子に対して本発明の核酸分子又は発現ベクターから生産される核酸分子がその機能を発揮し、医薬組成物の目的を達し得ればいずれの部位であってもよい。例えば、静脈内、動脈内、肝臓内、筋肉内、関節内、骨髄内、髄腔内、心室内、経皮、皮下、皮内、腹腔内、鼻腔内、腸内又は舌下等が挙げられる。好ましくは静脈内注射又は動脈内注射等の血管内への注射である。

【0100】
3.方法
本発明の第3の実施形態は、細胞又は組織に存在する標的RNAi分子の活性を抑制する方法である。本発明の核酸分子を細胞又は組織に導入することによって、細胞又は組織における標的RNAi分子の活性を特異的に抑制することができる。

【0101】
本方法を適用する細胞又は組織は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトの細胞又は組織である。細胞又は組織の種類は特に限定しない。標的RNAi分子の活性を抑制したい細胞又は組織を適宜選択すればよい。細胞の例として、培養細胞、及び生体から単離した細胞、例えば末梢血単核細胞が挙げられる。組織の例として、脳、肺、食道、胃、膵臓、肝臓、大腸、及び小腸等が挙げられ、例えばこれらの組織の生検サンプルを用いることができる。

【0102】
本発明の核酸分子を細胞又は組織に導入する方法は特に限定しない。リポフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム法等の本分野で公知の任意の方法を用いることができる。

【0103】
本発明の方法は、例えば細胞又は組織において標的RNAi分子の活性の抑制によって細胞又は組織にどのような影響が出るかを明らかにすることで、その生物学的活性を明らかにするために用いることができる。また、本発明の方法は、本発明の核酸分子の効果をインビトロにおいて試験するために用いることができる。

【0104】
本発明の方法において、本発明の一本鎖核酸分子は、有効成分である一本鎖核酸分子が有する効果を失わない範囲において、他の有効成分と併用して用いることができる。ここでいう「他の有効成分」とは、例えば、第1実施形態の核酸分子と同一のRNAi分子(pre-miRNA又はshRNA)又はその成熟体を標的とし、かつ第1実施形態の核酸分子とは異なる作用機序でその活性を抑制する薬剤等が挙げられる。このような薬剤を併用すると、同一の標的RNAi分子の活性を多面的に抑制できることから相乗的な効果を期待することができる。また、他の有効成分は、前記実施形態1の核酸分子とは異なる薬理作用を有する薬剤であってもよい。例えば、抗生物質等が挙げられる。

【0105】
例えば、本発明の核酸分子は、pre-miRNA又はshRNAをその標的分子とすることから、これらの成熟体であるmiRNA又はsiRNAの活性を抑制する分子と組み合わせて使用することで、相乗的な効果が得られる。miRNA又はsiRNAの活性を抑制する分子は、本分野で公知の物であれば特に限定しないが、例えばWO2013/073576に記載の核酸分子が挙げられる。

【0106】
したがって、一態様において、本発明の方法は、本発明の一本鎖核酸分子と同時に、又は別々に、標的miRNA又はsiRNAにおいて活性を有する機能鎖の塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる非修飾DNA領域を含む一本鎖核酸部分、及び前記一本鎖核酸部分の5'末端及び3'末端の少なくとも一方に連結される二本鎖核酸部分を含んでなるmiRNA又はsiRNAの活性抑制用核酸を導入する工程を含む。
【実施例】
【0107】
<実施例1:pre-miR-16-1又はpre-miR-21の活性を抑制するための一本鎖核酸分子の調製>
(目的)
ヒトpre-miR-16-1(以下、本実施例では単に「pre-miR-16-1」とも表記する)又はヒトpre-miR-21(以下、本実施例では単に「pre-miR-21」とも表記する)を標的核酸分子とする本発明の一本鎖核酸分子を調製した。
【実施例】
【0108】
(方法)
配列番号1で示されるpre-miR-16-1の塩基配列に基づいて、2つの一本鎖核酸分子(pmLidNA88及びpmLidNA3022)を設計した。pre-miR-16-1の塩基配列及び予測される二次構造(http://www.mirbase.org/cgi-bin/mirna_entry.pl?acc=MI0000070に基づく)を図4Aに示す。
【実施例】
【0109】
pmLidNA88では、第1標的核酸領域として配列番号1の1位~22位を、また第2標的核酸領域として配列番号1の25位~52位を選択した。一本鎖核酸分子の第1標的核酸相補領域は、第1標的核酸領域に相補的な塩基配列に加えて、活性を高めるために4塩基のミスマッチ配列(5'-tcga-3')を含む配列とし、第2標的核酸相補領域は、第2標的核酸領域に相補的な塩基配列とした。ヘアピン領域は、配列番号3で示す5'-gggagttttttctccc-3'とした。このうち1位~5位、及び12位~16位が二本鎖部分を、また6位~11位が一本鎖部分を構成する。このヘアピン領域の5'末端を第1標的核酸相補領域の3'末端に2塩基のスペーサー配列(tt)を介して連結し、また3'末端を第2標的核酸相補領域の5'末端に連結するように設計した。二本鎖領域は5'-gggaggg-3'、5'-ccctccc-3'とし、それぞれを第1標的核酸相補領域の5'末端に、及び第2標的核酸相補領域の3'末端に2塩基のスペーサー配列(tt)を介して連結するように設計した。pmLidNA88の塩基配列を、配列番号4に示す。また、pmLidNA88とpre-miR-16-1の結合を図5Aに示す。
【実施例】
【0110】
pmLidNA3022は、第1標的核酸領域として配列番号1の1位~22位を、また第2標的核酸領域として配列番号1の25位~42位を選択した。一本鎖核酸分子の第1標的核酸相補領域は、第1標的核酸領域に相補的な塩基配列に加えて、活性を高めるために4塩基のミスマッチ配列(5'-tcga-3')を含む配列とし、第2標的核酸相補領域は、第2標的核酸領域に相補的な塩基配列とした。ヘアピン領域は、配列番号3で示す5'-gggagttttttctccc-3'とした。このうち1位~5位、及び12位~16位が二本鎖部分を、また6位~11位が一本鎖部分を構成する。このヘアピン領域の5'末端を第1標的核酸相補領域の3'末端に2塩基のスペーサー配列(tt)を介して連結し、また3'末端を第2標的核酸相補領域の5'末端に2塩基のスペーサー配列(tt)を介して連結するように設計した。二本鎖領域は5'-gggaggg-3'、5'-ccctccc-3'とし、それぞれを第1標的核酸相補領域の5'末端に、及び第2標的核酸相補領域の3'末端に2塩基のスペーサー配列(tt)を介して連結するように設計した。pmLidNA3022の塩基配列を、配列番号5に示す。また、pmLidNA3022とpre-miR-16-1の結合を図5Bに示す。
【実施例】
【0111】
同様に、配列番号2で示されるpre-miR-21の塩基配列に基づいて、2つの一本鎖核酸分子(pmLidNA2018及びpmLidNA2817)を設計した。pre-miR-21の塩基配列及び予測される二次構造(http://www.mirbase.org/cgi-bin/mirna_entry.pl?acc=MI0000077)を図4Bに示す。
【実施例】
【0112】
pmLidNA2018は、第1標的核酸領域として配列番号2の1位~20位を、また第2標的核酸領域として配列番号2の23位~40位を選択した。一本鎖核酸分子の第1標的核酸相補領域及び第2標的核酸相補領域は、それぞれ第1標的核酸領域及び第2標的核酸領域に相補的な塩基配列とした。ヘアピン領域は、配列番号6で示す5'-cctccgaaggagg-3'とした。このうち1位~5位、及び9位~14位が二本鎖部分を、また6位~8位が一本鎖部分を構成する。このヘアピン領域の5'末端を第1標的核酸相補領域の3'末端に連結し、また3'末端を第2標的核酸相補領域の5'末端に連結するように設計した。二本鎖領域は5'-cctccc-3'、5'-gggagg-3'とし、それぞれを第1標的核酸相補領域の5'末端に、及び第2標的核酸相補領域の3'末端に連結するように設計した。pmLidNA2018の塩基配列を、配列番号7に示す。また、pmLidNA2018とpre-miR-21の結合を図6Aに示す。
【実施例】
【0113】
pmLidNA2817は、第1標的核酸領域として配列番号2の1位~21位を、また第2標的核酸領域として配列番号2の24位~40位を選択した。一本鎖核酸分子の第1標的核酸相補領域は、第1標的核酸領域に相補的な塩基配列に加えて、活性を高めるために4塩基のミスマッチ配列(5'-ttta-3')を含む配列とし、第2標的核酸相補領域は、第2標的核酸領域に相補的な塩基配列とした。ヘアピン領域は、配列番号6で示す5'-cctccgaaggagg-3'とした。このうち1位~5位、及び9位~14位が二本鎖部分を、また6位~8位が一本鎖部分を構成する。このヘアピン領域の5'末端を第1標的核酸相補領域の3'末端に連結し、また3'末端を第2標的核酸相補領域の5'末端に2塩基のスペーサー配列(5'-ga-3')を介して連結するように設計した。二本鎖領域は5'-cctccc-3'、5'-gggagg-3'とし、5'-cctccc-3'を第1標的核酸相補領域の5'末端に連結し、5'-gggagg-3'を第2標的核酸相補領域の3'末端に一塩基のスペーサー配列(g)を介して連結するように設計した。pmLidNA2817の塩基配列を、配列番号8に示す。また、pmLidNA2817とpre-miR-21の結合を図6Bに示す。
【実施例】
【0114】
設計した配列情報に基づいて、各pre-miRNAの活性を抑制するための一本鎖核酸分子を化学合成によって調製した。DNAオリゴヌクレオチドの合成は、ファスマック社に委託した。いずれの核酸も修飾はしていない。合成後のpre-miRNA活性抑制用一本鎖核酸分子は、D-PBS(-)(0.2g/L KCl、8g/L NaCl、0.2g/L KH2PO4、1.15g/L Na2HPO4)に溶解した後、90℃に加熱して、徐々に温度を下げて分子内フォールディングを行い、本発明のpre-miRNA活性抑制用核酸分子を調製した。
【実施例】
【0115】
<実施例2:miR-16又はmiR-21活性抑制用核酸分子の調製>
(目的)
本発明のpre-miRNA活性抑制用核酸分子と組み合わせた際の効果を検討するため、miR-16又はmiR-21を標的核酸分子とした活性抑制用核酸分子を調製した。
【実施例】
【0116】
(方法)
配列番号9で示されるmiR-16の塩基配列に基づいて、miR-16活性抑制用二本鎖核酸分子(LidNA16)を調製した。
【実施例】
【0117】
配列番号9で示される塩基配列に基づいて設計した配列番号10の塩基配列からなる一本鎖核酸分子、及び配列番号10の塩基配列からなる一本鎖核酸分子を安定化するための配列番号11の塩基配列からなる一本鎖核酸分子を設計した。続いて、設計した配列情報に基づいて、各核酸分子を化学合成によって調製した。DNAオリゴヌクレオチドの合成は、ファスマック社に委託した。いずれの核酸も修飾はしていない。合成後の一本鎖核酸分子は、D-PBS(-)(0.2g/L KCl、8g/L NaCl、0.2g/L KH2PO4、1.15g/L Na2HPO4)に組み合わせて混合・溶解した後、90℃に加熱して、徐々に温度を下げて核酸鎖間でアニーリングを行い、miRNA活性抑制用核酸分子LidNA16を調製した。LidNA16とmiR-16の結合を図7Aに示す。
【実施例】
【0118】
同様に、配列番号12で示されるmiR-21の塩基配列に基づいて、miR-21活性抑制用二本鎖核酸分子(LidNA21)を調製した。
【実施例】
【0119】
配列番号12で示される塩基配列に基づいて設計した配列番号13の塩基配列からなる一本鎖核酸分子を設計した。配列番号13の塩基配列からなる一本鎖核酸分子を安定化するための一本鎖核酸分子としては、上記LidNA16の場合と同様に、配列番号11の塩基配列からなる核酸分子を用いた。核酸分子の合成及び二本鎖分子の調製については、上記LidNA16と同様に行い、LidNA21を調製した。LidNA21とmiR-21の結合を図7Bに示す。
【実施例】
【0120】
活性を有さないLidNA(LidNA-allT)は、配列番号10の塩基配列からなる一本鎖核酸分子において、miRNAに結合する部分をすべてTとした配列(配列番号21)と、上記配列番号11の塩基配列からなる核酸分子を、上記LidNA16と同様に合成し、アニーリングすることにより調製した。
【実施例】
【0121】
<実施例3:miR-16に対するpmLiDNA88及び3022の効果>
(目的)
本発明のpre-miRNA活性抑制用核酸分子のmiR-16に対する効果を評価した。
【実施例】
【0122】
(方法)
1.miR-16に対する活性抑制効果の測定系の作製
miR-16に対する本発明の活性抑制用核酸分子の効果の検討は、WO2013/073576に記載の活性抑制効果の測定系を用いて行った。
【実施例】
【0123】
すなわち、mir-16活性抑制効果は、pDsRed2-mi16-Tを用いて測定した。pDsRed2-mi16-Tは、CMVプロモーターの下流に蛍光タンパク質DsRed2の遺伝子が連結されており、さらにその遺伝子の3'-非翻訳領域内には、miR-16の標的部位(miR-16-T;miR-16-Target)としてmiR-16に完全に相補的な配列が3回繰り返して挿入されている。それ故、細胞内でのDsRed2遺伝子の発現と共にmiR-16-Tもその一部として発現する。ここで、miR-16-Tは、内在性のmiR-16によりRNAiの標的となる。同時にDsRed2もRNAiによって、その翻訳が著しく抑制される。その結果、極めて微弱な赤色蛍光しか検出できなくなる。この状態における蛍光強度を基準値として、上記で調製した様々な核酸分子をこの系にそれぞれ添加したとき、仮にその核酸分子が内在するmiR-16の活性抑制効果を有していれば、miR-16によるmiR-16-Tの翻訳阻害が解除され、その結果、DsRed2の翻訳が達成され、強い赤色蛍光が検出できるようになる。
【実施例】
【0124】
なお、本発明の各活性抑制用核酸分子の活性に関わらずGFPを発現するpCAGGS-AFPを前記pDsRed2-mi16-Tと同時にHEK293T細胞内に導入し、各サンプル間におけるプラスミド導入効率を補正した。すなわち、コントロールである前記基準値の蛍光強度/GFPの蛍光強度の比を1としたときの各サンプルにおける正規化DsRed2/GFP比(相対値)を発現増加率とした。
【実施例】
【0125】
pDsRed2-mi16-Tの調製は、pDsRed2-C1(Clontech社、カタログ番号632407)において、DsRed2遺伝子の3'-非翻訳領域(3'-UTR)に配置されたマルチクローニングサイト(1288位~1363位)を改変して5'-AGATCTCGAGAAGCTTAGATATCGTCGACCCGGGATCCACCGGATCTAGATAACTGA-3'(配列番号14)としたpDsRed2ERVSMAを作製した。この配列は、DsRed2タンパク質のC末端としてArg-Ser-Arg-Glu-Ala-翻訳停止コドンをコードし、その直後にEcoRV部位(GATATC)を有する。pDsRed2ERVSMAをEcoRVで切断した平滑末端に、5'-GTAGCGCCAATATTTACGTGCTGCTACGCCAATATTTACGTGCTGCTACGCCAATATTTACGTGCTGCTA-3'(配列番号15)/5'-TAGCAGCACGTAAATATTGGCGTAGCAGCACGTAAATATTGGCGTAGCAGCACGTAAATATTGGCGCTAC-3'(配列番号16)又は5'-GTAGCAACGTTGAGGAAGGTGACTGCCAACAACGTTGAGGAAGGTGACTGCCAACAACGTTGAGGAAGGTGACTGCCAA-3'(配列番号17)/5'-TTGGCAGTCACCTTCCTCAACGTTGTTGGCAGTCACCTTCCTCAACGTTGTTGGCAGTCACCTTCCTCAACGTTGCTAC-3'(配列番号18)をアニーリングさせたDNA鎖を連結し、pDsRed2-mi16-Tを作製した。pDsRed2-mi16-Tは、miR-16の標的部位としてmiR-16(配列番号9)に完全に相補的な配列が3回繰り返した配列が挿入されている。作製に用いた遺伝子工学的手法、例えば、プラスミドDNAの抽出・精製、コンピテントセルの調製、大腸菌の形質転換、DNAクローニング、リガーゼ反応等は、当該分野で公知の手順(例えば、Sambrook J, Fritsh EF, Maniatis T (1989) Molecular Cloning: a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, Now Yorkに記載の方法)を用いた。
【実施例】
【0126】
また、個々の核酸の導入効率の相違を補正するために、二本鎖核酸分子の活性に関わらずGFPを発現するpCA GGS-AFP(Momose T et al., 1999, Dev Growth Differ, 41, 335-44)を用いた。
【実施例】
【0127】
2.核酸導入方法及び蛍光測定方法
24ウェルプレートにHEK293T細胞を60,000細胞/ウェルとなるように播種し、DMEM(Wako)を用いて5%CO2下で37℃にて培養した。24時間培養後、(a)5nMのLidNA16と5~40nMのpmLidNA3022若しくはpmLidNA88、(b)5~45nMのpmLidNA3022若しくはpmLidNA88、又は(c)5~45nMのLidNA16を、50ngのpCAGGS-AFP、及び50ngのpDsRed2-mi16-Tと共に、LipofectamineTM LTX(life technologies)を用いて細胞にトランスフェクションした。また、Control(mock)細胞には、50ngのpCAGGS-AFP、及び50ngのpDsRed2-mi16-Tと共に、活性を有さないLidNA(LidNA-allT)をトランスフェクションした。方法はlife technologies社のプロトコルに従った。48時間後、細胞を緩衝液TBST(20mM Tris,pH7.4、0.15M NaCl、0.05% Triton X-100)で破壊し、13,000×Gで30分間遠心した後、上清を蛍光プレートリーダー(Fluoroskan Ascent FL, Thermofisher Scientific)で測定した。波長は、GFPについては励起485nm、蛍光538nmでDsRed2については励起544nm、蛍光590nmで測定した。
【実施例】
【0128】
(結果)
結果を図8に示す。本発明の活性抑制用核酸分子であるpmLidNA(pmLIdNA3022(図8A)、pmLidNA88(図8B))は共に、miR-16の阻害活性を有していた。その効果は高濃度であるほど強かった。一方、本発明の活性抑制用核酸分子であるpmLidNAとは構造の異なるLidNA16は、5 nM程度でも十分miR-16の阻害を阻害したが、高濃度になると、細胞毒性によるものと思われる阻害活性の低下が認められた。
【実施例】
【0129】
LidNA16とpmLidNAの併用では、さらに強力なmiRNA阻害活性が認められた。以上の結果から、本発明のpre-miRNAの活性抑制用核酸分子と他のmiRNA活性抑制用核酸分子の併用により、効果的にmiRNAの活性を阻害できることが示された。
【実施例】
【0130】
<実施例4:miR-21に対するpmLiDNA2018及び2817の効果>
(目的)
がん細胞は一般的にmiR-21を多く発現しており、これが細胞死を抑制するなど生存に関係あると考えられており、がん細胞ではmiR-21を阻害すると、増殖が抑制される。本実施例では、膵臓がん細胞であるMIAPaca2及び正常細胞であるHEK293T細胞を用いて、miR-21に対する本発明のpre-miRNA活性抑制用核酸分子の効果を評価した。
【実施例】
【0131】
(方法)
miR-21に対する活性抑制効果の測定系の作製
96ウェルプレートに、MIAPaCa2細胞を6000 cells/ウェル、又はHEK293T細胞を10000 cells/ウェルで播種し、DMEM(Wako)を用いて5%CO2下で37℃にて培養した。24時間後、2.5nM、5nM、又は10nMのLidNA21、及び10~40nMのpMLidNA2018又は2817を、X-tremeGENE siRNAトランスフェクション試薬(Roche lifescience)を用いて細胞にトランスフェクションした。方法はRoche lifescience社のプロトコルに従った。48時間後、Cell-Counting Kit8を用いて、生細胞数を計測した。生細胞数の計測方法は、Cell-Counting Kit8(同仁化学研究所)のプロトコルに従った。
【実施例】
【0132】
(結果)
結果を図9に示す。pmLidNA2018又は2817とLidNA21の併用により、膵臓がん細胞MIAPaca2に対して強い増殖阻害効果が認められた(図9A)。これは、がん細胞が一般的にmiR-21を多く発現しており、miR-21が阻害されることにより細胞増殖が抑制されたためであると考えられる。
【実施例】
【0133】
それに対し、正常細胞HEK293T細胞には増殖阻害は認められなかった(図9B)。これは、正常細胞HEK293Tが、ほとんどmiR-21を発現していないためであると考えられる。
【実施例】
【0134】
以上の結果から、本発明のpre-miRNAの活性抑制用核酸分子の一例であるpmLidNA2018及びpmLidNA2817が、miR-21の活性を阻害することが示された。
【実施例】
【0135】
<実施例5: pmLiDNA単独及び併用による細胞内miRNA量に対する効果>
(目的)
本発明のpre-miRNAの活性抑制用核酸分子の細胞内miRNA量に対する効果を、qPCRにより測定した。
【実施例】
【0136】
(方法)
1.細胞内miR-16に対する効果の検討
24ウェルプレートにHEK293T細胞を60,000細胞/ウェルとなるように播種し、DMEM(Wako)を用いて5%CO2下で37℃にて培養した。24時間培養後、5 nM LidNA16、40 nM pmLidNA3022、又は5 nM LidNA16と40 nM pmLidNA3022をLipofectamineTM3000(life technologies)を用いて細胞にトランスフェクションした。また、Control(mock)細胞にはLipofectamineTM3000(life technologies)のみを加えた。方法はlife technologies社のプロトコルに従った。培養2日後、常法に従って細胞からRNAを抽出し、Mir-XTM miRNA First-Strand Synthesis Kit(Clontech)を用いて、cDNAを得た。方法はClontech社のプロトコルに従った。qPCRにおいては、forward primerとしてmiR-16を標的とする5'-TAGCAGCACGTAAATATTGGCGA-3'(配列番号19)、reverse primerとして、上記キットに付属のmRQ 3'primerを用いた。また、内部標準としてU6を測定するために、上記キットに付属のU6 forward primer及びreverse primerを用いた。qPCRは、SYBR Premix Ex Taq(Tli RNaseH Plus)(Takara)により行い、Mx3000p(Agilent Technologies)によって測定した。
【実施例】
【0137】
2.細胞内miR-21に対する効果の検討
24ウェルプレートにMIA PaCa-2細胞を30,000細胞/ウェルとなるように播種し、DMEM(Wako)を用いて5%CO2下で37℃にて培養した。24時間培養後、20 nM LidNA21、又は5 nM LidNA21と30 nM pmLidNA2018をX-tremeGENE siRNAトランスフェクション試薬(Roche lifescience)を用いて細胞にトランスフェクションした。また、Control(mock)細胞にはX-tremeGENE siRNAトランスフェクション試薬(Roche lifescience)のみを加えた。方法はRoche lifescience社のプロトコルに従った。培養2日後、常法に従って細胞からRNAを抽出し、Mir-XTM miRNA First-Strand Synthesis Kit(Clontech)を用いて、cDNAを得た。方法はClontech社のプロトコルに従った。qPCRにおいては、forward primerとしてmiR-21を標的とする5'-TAGCTTATCAGACTGATGTTGAA-3'(配列番号20)、reverse primerとして、上記キットに付属のmRQ 3'primerを用いた。また、内部標準としてU6を測定するために、上記キットに付属のU6 forward primer及びreverse primerを用いた。qPCRは、SYBR Premix Ex Taq(Tli RNaseH Plus)(Takara)により行い、Mx3000p(Agilent Technologies)によって測定した。
【実施例】
【0138】
(結果)
結果を図10に示す。成熟miR-16を標的とするLidNA16では、miR-16の量自体はあまり変化しなかった(図10A)。それに対し、pre-miR-16-1を標的とするpmLidNA3022、又はpmLidNA3022とLidNA16の併用では、miR-16の量が顕著に減少した。
【実施例】
【0139】
同様に、成熟miR-21を標的とするLidNA21では、miR-21の量自体はそれほど減少しなかった(図10B)。それに対し、pre-miR-21を標的とするpmLidNA2018とLidNA21の併用では、miR-21の量が顕著に減少した。
【実施例】
【0140】
以上のことから、本発明のpre-miRNAの活性抑制用核酸分子は、最終産物である成熟miRNAの量を減少させることが示唆された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9