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明細書 :磁性体の磁気特性の測定装置および測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-194455 (P2016-194455A)
公開日 平成28年11月17日(2016.11.17)
発明の名称または考案の名称 磁性体の磁気特性の測定装置および測定方法
国際特許分類 G01R  33/02        (2006.01)
G01Q  80/00        (2010.01)
G01N  27/72        (2006.01)
FI G01R 33/02 B
G01Q 80/00
G01N 27/72
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2015-074471 (P2015-074471)
出願日 平成27年3月31日(2015.3.31)
発明者または考案者 【氏名】齊藤 準
【氏名】吉村 哲
【氏名】木下 幸則
【氏名】ヤンドン ツァン
出願人 【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100129838、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 典輝
審査請求 未請求
テーマコード 2G017
2G053
Fターム 2G017AA01
2G017AD01
2G017BA01
2G053AB01
2G053BA02
2G053CA13
要約 【課題】微小な試料の磁気特性の測定をより短い時間で行うことが可能な、磁性体の磁気特性の測定装置を提供する。
【解決手段】磁性体試料10の磁気特性を測定する装置であって、磁性体試料10が一方の端部に固定されたカンチレバー11、カンチレバー11を励振させる励振器20、連続的に磁場強度が変化し且つ磁性体試料10を磁化させることが可能な最大強度を有する変動磁場を磁性体試料10に印加する変動磁場発生器30、磁性体試料10の振動を検出する振動センサー40、振動センサー40の検出信号から磁性体試料10の振動の変化量を計測するカンチレバー振動変化測定器50、および、磁性体試料10の振動の変化量の変動磁場の値に対する比と変動磁場の値との関係から磁性体試料10の磁気特性の情報を得る磁化曲線評価装置60を備える、磁気特性測定装置100。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
磁性体試料の磁気特性を測定する装置であって、
磁性体試料が一方の端部に固定されたカンチレバーと、
前記カンチレバーを励振させる励振器と、
連続的に磁場強度が変化し、かつ、前記磁性体試料を磁化させることが可能な最大強度を有する変動磁場を前記磁性体試料に印加する、変動磁場発生器と、
前記磁性体試料の振動を検出する振動センサーと、
前記振動センサーの検出信号から、前記磁性体試料の振動の変化量を計測する、カンチレバー振動変化測定器と、
前記磁性体試料の振動の変化量の、前記変動磁場の値に対する比と、前記変動磁場の値との関係から、前記磁性体試料の磁気特性の情報を得る、磁化曲線評価装置と
を備えることを特徴とする、磁気特性測定装置。
【請求項2】
前記変動磁場は、強度ゼロから強度最大を経て強度ゼロに戻る過程を少なくとも含む、
請求項1に記載の磁気特性測定装置。
【請求項3】
前記変動磁場は、
強度ゼロから第1の極性の強度最大を経て強度ゼロに戻る、第1の過程と、
強度ゼロから前記第1の極性とは逆の第2の極性の強度最大を経て強度ゼロに戻る、第2の過程と、
強度ゼロから前記第1の極性の強度最大を経て強度ゼロに戻る、第3の過程と
を上記順に含む、請求項1又は2に記載の磁気特性測定装置。
【請求項4】
前記変動磁場がパルス磁場である、請求項1~3のいずれかに記載の磁気特性測定装置。
【請求項5】
前記カンチレバー振動変化計測器が、前記磁性体試料の振動の周波数、振幅、または位相の変化量を計測する、
請求項1~4のいずれかに記載の磁気特性測定装置。
【請求項6】
前記磁性体試料が、
非磁性探針と、
前記非磁性探針の表面に形成された磁性薄膜と
を有する磁性探針である、請求項1~5のいずれかに記載の磁気特性測定装置。
【請求項7】
磁性体試料の磁気特性を測定する方法であって、
磁性体試料が一方の端部に固定されたカンチレバーを励振させる工程と、
連続的に磁場強度が変化し、かつ、前記磁性体試料を磁化させることが可能な最大強度を有する変動磁場を前記磁性体試料に印加する工程と、
前記磁性体試料の振動を検出する工程と、
前記磁性体試料の振動の検出信号から、前記磁性体試料の振動の変化量を計測する工程と、
前記磁性体試料の振動の変化量の、前記変動磁場の値に対する比と、前記変動磁場の値との関係から、前記磁性体試料の磁気特性の情報を得る工程と
を含むことを特徴とする、磁気特性測定方法。
【請求項8】
前記変動磁場は、強度ゼロから強度最大を経て再び強度ゼロに戻る過程を少なくとも含む、
請求項7に記載の磁気特性測定方法。
【請求項9】
前記変動磁場は、
強度ゼロから第1の極性の強度最大を経て強度ゼロに戻る、第1の過程と、
強度ゼロから前記第1の極性とは逆の第2の極性の強度最大を経て強度ゼロに戻る、第2の過程と、
強度ゼロから前記第1の極性の強度最大を経て強度ゼロに戻る、第3の過程と
を上記順に含む、請求項7又は8に記載の磁気特性測定方法。
【請求項10】
前記変動磁場がパルス磁場である、請求項7~9のいずれかに記載の磁気特性測定方法。
【請求項11】
前記磁性体試料の振動の変化量を計測する工程において、前記磁性体試料の振動の周波数、振幅、または位相の変化量を計測する、
請求項7~10のいずれかに記載の磁気特性測定方法。
【請求項12】
前記磁性体試料が、
非磁性探針と、
前記非磁性探針の表面に形成された磁性薄膜と
を有する磁性探針である、請求項7~11のいずれかに記載の磁気特性測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体の磁気特性の測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体の磁気特性を自動的に測定するための装置として、BHトレーサが知られている。一般的なBHトレーサは、磁性体試料に外部磁場を印加する電磁石と、外部磁場の強度を測定するHコイルと、試料近傍に配置され試料の磁化を検出するBコイルとを有してなり、外部磁場の強度および極性を変化させることにより試料の磁化曲線を得る。高性能磁石材料の磁気特性の測定には高磁場が必要になることから、近年においてはパルス励磁方式のBHトレーサも実用化されている。
【0003】
しかしながらBHトレーサは、試料近傍に配置されたBコイルによって試料の磁化を検出するために、試料の寸法は小さくとも数mm角が限度であり、マイクロメートルオーダー以下の微小な磁性体試料の磁気特性の測定に適用することは困難である。したがって微小な磁性体試料の磁気特性を測定することが可能な手法の開発が望まれている。例えば特許文献1には、走査型プローブ顕微鏡の一種である磁気力顕微鏡(MFM)を用いる手法が記載されている。磁気力顕微鏡は磁性探針を備えており、その磁性探針の先端を観察対象である磁性体試料に近づけ、磁性探針の磁気モーメントと磁性体試料の磁気モーメントとの間に働く磁気的相互作用を検出することにより、磁化パターン等の測定を行う。特許文献1には、磁性体の探針を試料である磁性材料上で走査させることにより試料上の磁気力勾配を検出し磁化状態を測定する方法であって、探針にあらかじめ所定の外部磁場を印加して、当該外部磁場に対する探針の応答を検出してこれを第1の測定値とし、当該外部磁場を試料に印加した状態で探針を試料上で走査させ、探針の応答を検出してこれを第2の測定値とし、第2の測定値から第1の測定値を差し引くことにより当該外部磁場に対する試料の磁気的変化を算出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開平09-127222号公報
【特許文献2】特開2008-209276号公報
【特許文献3】特開2004-20213号公報
【特許文献4】特開平7-325139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、磁気力顕微鏡の磁性探針よりも十分に大きな平面的広がりを有する試料に限られており、さらに微小な試料には適用が困難であった。例えば磁気力顕微鏡の磁性探針の磁化曲線を測定するにあたっては、探針に一定の直流磁場を印加して探針磁化を励磁した後に、探針に交流磁場を印加しながら探針を振動させて、振動状態の変化から磁化曲線を計測する方法が従来用いられている。この方法では、磁化曲線を得るためには測定点の数だけ直流磁場を変化させて測定を繰り返す必要があり、測定に長い時間が必要であった。また、保磁力の大きな磁性探針の測定には強力な直流磁場が必要となるため超電導磁石を必要とし、さらに長い測定時間が必要であった。
【0006】
そこで本発明は、例えば磁性探針等の微小な試料の磁気特性の測定をより短い時間で行うことが可能な、磁性体の磁気特性の測定装置および測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、磁性体試料の磁気特性を測定する装置であって、
磁性体試料が一方の端部に固定されたカンチレバーと、
カンチレバーを励振させる励振器と、
連続的に磁場強度が変化し、かつ、磁性体試料を磁化させることが可能な最大強度を有する変動磁場を磁性体試料に印加する、変動磁場発生器と、
磁性体試料の振動を検出する振動センサーと、
振動センサーの検出信号から、磁性体試料の振動の変化量を計測する、カンチレバー振動変化測定器と、
磁性体試料の振動の変化量の、変動磁場の値に対する比と、変動磁場の値との関係から、磁性体試料の磁気特性の情報を得る、磁化曲線評価装置と
を備えることを特徴とする、磁気特性測定装置である。
【0008】
本発明の第2の態様は、磁性体試料の磁気特性を測定する方法であって、
磁性体試料が一方の端部に固定されたカンチレバーを励振させる工程と、
連続的に磁場強度が変化し、かつ、磁性体試料を磁化することが可能な最大強度を有する変動磁場を磁性体試料に印加する工程と、
磁性体試料の振動を検出する工程と、
磁性体試料の振動の検出信号から、磁性体試料の振動の変化量を計測する工程と、
磁性体試料の振動の変化量の、変動磁場の値に対する比と、変動磁場の値との関係から、磁性体試料の磁気特性の情報を得る工程と
を含むことを特徴とする、磁気特性測定方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば磁性探針等の微小な試料の磁気特性の測定をより短い時間で行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一の実施形態に係る磁気特性測定装置100の構成、および、磁気特性測定装置100を用いた磁気特性測定方法を模式的に説明する図である。
【図2】磁性探針10の構成を模式的に説明する断面図である。
【図3】変動磁場発生器30の一例を説明する回路図である。
【図4】(A)図3の回路における放電1回分のプロセスにおいて空芯コイル32から発生する磁場の時間変化を模式的に説明するグラフである。(B)図3の回路において、空芯コイル32に流す電流の極性を交互に切り替えながら放電プロセスを3回行った場合に、空芯コイル32から発生する磁場の時間変化を模式的に説明するグラフである。
【図5】(A)実施例における、磁性探針の位置でのパルス磁場の時間変化を示すグラフである。(B)実施例における、カンチレバー振動変化測定器により測定した磁性探針の振動の位相ずれの時間変化を示すグラフである。
【図6】(A)実施例において、変動磁場の値H(t)に対して磁性探針の振動の位相ずれθ(t)をプロットしたグラフである。(B)実施例において、変動磁場の値に対する磁性探針の振動の位相ずれθ(t)の比θ(t)/H(t)を、変動磁場の値H(t)に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。図では、符号を一部省略することがある。本明細書において、数値A及びBについて「A~B」は、特に別途規定されない限り、「A以上B以下」を意味する。該表記において数値Aの単位を省略する場合には、数値Bに付された単位が数値Aの単位として適用されるものとする。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。

【0012】
図1は、本発明の一の実施形態に係る磁気特性測定装置100、および、磁気特性測定装置100を用いた磁気特性測定方法を模式的に説明する図である。磁気特性測定装置100は、磁性体試料として磁気力顕微鏡用の磁性探針10の磁気特性を測定する装置である。

【0013】
図1に示すように、磁気特性測定装置100は、磁性体試料として磁性探針10が一方の端部に固定されたカンチレバー11、励振器20、変動磁場発生器30、振動センサー40、カンチレバー振動変化測定器50、及び、磁化曲線評価装置60を備えている。以下に、これらの構成要素について説明する。

【0014】
(カンチレバー11及び磁性探針10)
磁性体試料である磁性探針10は、カンチレバー11の一方の端部に固定されている。磁性探針10は、後に詳述するように、変動磁場発生器30から発生する変動磁場によって、磁性探針10の磁化の向きは変動磁場方向に揃っていく。このとき、磁性探針10の磁化と変動磁場との間の磁気的相互作用により、磁性探針10に作用する磁気力が変動する。そのためカンチレバー11の見かけ上のバネ定数が変動し、その結果磁性体試料10の励振振動、具体的には、振動の周波数、振幅、および位相に変化が生じる。磁性体試料10の振動の変化の程度を、後述するカンチレバー振動変化測定器50によって計測し、後述する磁化曲線評価装置60によって、変動磁場の強度に対する磁性体試料の振動の変化量の比と、変動磁場の値との関係から、磁性体試料の磁気特性の情報を得る。

【0015】
図2は、磁性探針10の構造を説明する図である。図2に示すように、磁性探針10は、カンチレバー11に固定された、非磁性の芯部材10aと、該芯部材10aの表面の少なくとも一部を被覆する磁性被膜10bとを有してなる。芯部材10aは、1種以上の非磁性体からなり、磁性探針10の概形を定める部材であって、その表面に磁性被膜10bを保持する役割を果たす。芯部材10aの一方の端部は、カンチレバー11の一方の端部に立設されており、芯部材10aの他方の端部は、先端に向かうにしたがって尖るように成形されている。芯部材10aを構成する非磁性体としては、磁性探針10の形状を維持するために必要な強度を有する非磁性体を特に制限なく採用可能であり、例えばSi、Si-N、Si-O等を好ましく用いることができる。磁性被膜10bを構成する材料としては、強磁性体を特に制限なく用いることができ、そのような材料の具体例としては、コバルト(Co)-クロム(Cr)基合金、ニッケル(Ni)-鉄(Ft)基合金、コバルト(Co)-白金(Pt)基合金、鉄(Fe)-白金(Pt)系規則合金や、鉄(Fe)基合金などの強磁性体を挙げることができる(特許文献2~4)。ただしこれらに限られるものではない。

【0016】
(励振器20)
磁性体試料である磁性探針10はカンチレバー11の一方の端部(自由端)近傍に備えられており、該カンチレバー11の他方の端部(固定端)は固定されている。このようなカンチレバー11を励振器20によって励振させることにより、磁性探針10を励振させることができる。

【0017】
磁性体試料である磁性探針10を励振させることができる限りにおいて、励振器20の構成は特に限定されない。励振器20は、例えば、カンチレバー11の固定端近傍に取り付けられた励振用アクチュエータ(例えばピエゾ素子等。)と、該励振用アクチュエータに接続された交流電圧電源とによって構成することができる。励振器20がカンチレバー11を励振させる周波数は、励振が可能である限りにおいて特に制限されるものではないが、通常は磁性探針10を含むカンチレバー11の共振周波数近傍の周波数が励振周波数として好ましく採用される。

【0018】
(変動磁場発生器30)
変動磁場発生器30は、連続的に磁場強度が変化し、かつ、磁性体試料である磁性探針10を磁化することが可能な最大強度を有する変動磁場を磁性探針10に印加する装置である。このような変動磁場発生器30は、例えば、図1に示したように、磁性体試料である磁性探針10の直下に配置された空芯コイル32と、空芯コイル32にパルス電流を供給するパルス電流源31とによって構成することができる。パルス電流源31から空芯コイル32にパルス電流が供給されることにより、磁性体試料である磁性探針10を紙面上下方向に垂直な方向に貫くパルス磁場が発生する。図3は、変動磁場発生器30の一例を説明する回路図である。図3において、コイルL1は空芯コイル32に対応する。パルス電流源31は、空芯コイル32に必要な強度のパルス磁場を発生させる電流を流すことのできる静電容量を有するキャパシタC1と、該キャパシタを充電する直流電源V1と、キャパシタの充放電を切り替えるスイッチSW1とを有している。このほか、パルス電流源31は、キャパシタの充電開始時の突入電流を制限する電流制限抵抗R1と、逆流防止ダイオードD1と、L1に電流を流す向きを反転させることが可能に設けられた二連連動スイッチSW2とを有している。SW1及びSW2はいずれもナイフスイッチによって好ましく構成することができる。

【0019】
スイッチSW1によって図3紙面右側の接点(以下において「充電側の接点」ということがある。)との接続を選択すると、直流電源V1によりキャパシタC1が充電される。その後、SW1を図3紙面左側の接点(以下において「放電側の接点」ということがある。)に切り替えると、キャパシタC1に充電された電荷がダイオードD1及び二連連動スイッチSW2を介してコイルL1(空芯コイル32)に流入する。キャパシタC1の電荷がゼロになったときにコイルL1に流れる電流は最大となり、同時に空芯コイル32から発生する変動磁場の強度は最大となる。その後同じ向きに電流が流れ続けるが、キャパシタC1が放電開始時とは逆極性に充電されるにつれてコイルL1に流れる電流は漸減し、最終的にゼロとなる。その後は逆流防止ダイオードD1により、コイルL1に電流が流れていない状態が維持される。図4(A)は、この一連のプロセスにおいて空芯コイル32から発生する磁場の時間変化を模式的に説明するグラフである。図4において縦軸が磁場を表し、横軸が時間を表す。図4(A)に示すように、空芯コイル32から発生する変動磁場(パルス磁場)は、強度ゼロから強度最大を経て強度ゼロに戻る過程を含んでいる。

【0020】
本発明の磁気特性測定装置100においては、この一連のプロセスを、変動磁場の極性を交互に反転させながら3回以上行うことが好ましい。すなわち、図4(B)に示すように、変動磁場が、強度ゼロから第1の極性の強度最大を経て強度ゼロに戻る、第1の過程と、強度ゼロから第1の極性とは逆の第2の極性の強度最大を経て強度ゼロに戻る、第2の過程と、強度ゼロから上記第1の極性の強度最大を経て強度ゼロに戻る、第3の過程とを上記順に含むことが好ましい。上記図4(A)に表れている磁場の時間変化を第1の過程とする。第1の過程において磁場がゼロになった後、スイッチSW1を充電側の接点に切り替えると、キャパシタC1が再度充電される。充電完了後、二連連動スイッチSW2を図3の位置とは反対側の接点に切り替えた後、スイッチSW1を放電側の接点に切り替えると、コイルL1に電流が流れ、変動磁場(および電流)は強度ゼロから強度最大を経て強度ゼロに戻る(第2の過程)。このときコイルL1に電流が流れる向きは第1の過程とは逆になっているので、変動磁場の極性(第2の極性)は第1の過程とは逆になっている。第2の過程が終了したら、スイッチSW1を充電側の接点に切り替え、キャパシタC1を再度充電する。キャパシタC1の再充電が完了したら、二連連動スイッチSW2を再び図3の位置に切り替えた後、スイッチSW1を放電側の接点に切り替えると、第1の過程と同じ方向でコイルL1に電流が流れ、変動磁場(および電流)は強度ゼロから強度最大を経て強度ゼロに戻る(第3の過程)。このときコイルL1に電流が流れる向きは第1の過程と同じなので、変動磁場の極性も第1の過程における極性(第1の極性)と同一である。

【0021】
本発明の磁気特性測定装置100においては、磁性体試料である磁性探針10の磁化成分のうち、変動磁場発生器30により印加される変動磁場の印加方向に平行な成分の磁気特性が測定される。

【0022】
変動磁場発生器30を構成する要素の設置位置は特に限定されない。例えば図1の磁気特性測定装置100においては、空芯コイル32が、磁性体試料である磁性探針10の直下に配置されている。また磁性探針10の周りの空間が狭い従来の汎用型のMFMに変動磁場発生器30を組み込むためには、空芯コイル32等をMFMのステージの下に設置することが考えられる。あるいは、カンチレバー11の周りの空間を広くして、磁性探針10に近い位置から磁性探針10に変動磁場を印加できるように、変動磁場発生器30を設置することも可能である。

【0023】
(振動センサー40)
磁気特性測定装置100において、振動センサー40は、カンチレバー11の自由端側の先端にレーザー光を照射する光源41と、カンチレバー11に反射された該レーザー光を検知する光学変位センサー42とを有している。光源41から照射されてカンチレバー11の自由端側の先端で反射したレーザー光を光学変位センサー42で検知することにより、磁性体試料である磁性探針10の変位を出力として取り出すことができる。光学変位センサー42からの出力は、カンチレバー振動変化測定器50に入力される。

【0024】
(カンチレバー振動変化測定器50)
振動センサー40の検出信号は、カンチレバー11の励振振動が、磁性体試料である磁性探針10が変動磁場から受ける磁気力によって、周波数、振幅及び位相が変化した振動である。カンチレバー振動変化測定器50は、振動センサー40の検出信号から、磁性探針10が変動磁場から受ける磁気力によってカンチレバー11の励振振動に生じた周波数、振幅、位相の変化の一つ以上を検出する。カンチレバー振動変化測定器50としては、例えば市販の位相同期回路(PLL)やロックインアンプ等を採用することができる。ロックインアンプを使用する場合には、励振器20の交流信号を参照信号として利用してもよい。カンチレバー振動変化測定器50によって測定された信号は、磁化曲線評価装置60に入力される。

【0025】
(磁気特性評価装置60)
探針振動変化処理装置60は、カンチレバー振動変化測定器50から入力される探針振動変化信号および変動磁場発生器30の電流信号から、磁性体試料である磁性探針10の磁気特性の情報を取り出す。磁化曲線評価装置60は、カンチレバー振動変化測定器50から得た、例えば磁性探針10(磁性体試料)の振動の変化量である位相ずれθ(t)の、変動磁場発生器30から得た変動磁場の値H(t)に対する比θ(t)/H(t)と、変動磁場の値H(t)との関係から、磁性探針10(磁性体試料)の磁気特性の情報を得る。後述するように、比θ(t)/H(t)は磁性探針10(磁性体試料)の変動磁場方向の磁化M(t)に比例するので、比θ(t)/H(t)を変動磁場の値H(t)に対してプロットすることにより、磁性探針10(磁性体試料)の磁化曲線を得ることができる。そして上記したように、空芯コイル32から発生する変動磁場(パルス磁場)が強度ゼロから強度最大を経て強度ゼロに戻る過程を、パルス磁場の極性を交互に反転させながら3回以上行うことにより、磁化曲線のフルループを得ることができる。なお、大電流を流す場合には、空芯コイル32が発熱することにより電気抵抗が上がり、その結果電流値が減少して磁場強度が減少するので、空芯コイル32を十分に冷却してから空芯コイル32に次のパルス電流を流すことが好ましい。磁化曲線評価装置60は例えば、このようなプロット処理を行うプログラムを記録した記憶装置と、演算装置と、入出力装置とを有する電子計算機により構成することができる。

【0026】
本発明に関する上記説明では、カンチレバー振動変化測定器50が磁性探針10(磁性体試料)の振動の変化量として位相ずれθ(t)を復調し、磁化曲線評価装置がその変動磁場の値H(t)に対する比θ(t)/H(t)と変動磁場の値H(t)との関係から磁性探針10(磁性体試料)の磁気特性の情報を得る形態の磁気特性測定装置100を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えばカンチレバー振動変化測定器が磁性体試料の振動の変化量として周波数変調Δω(t)を測定し、磁化曲線評価装置がその変動磁場の値H(t)に対する比Δω(t)/H(t)と変動磁場の値H(t)との関係から磁性体試料の磁気特性の情報を得る形態の磁気特性測定装置とすることも可能である。また、カンチレバー振動変化測定器が磁性体試料の振動の変化量として振幅変調ΔA(t)を測定し、磁化曲線評価装置がその変動磁場の値H(t)に対する比ΔA(t)/H(t)と変動磁場の値H(t)との関係から磁性体試料の磁気特性の情報を得る形態の磁気特性測定装置とすることも可能である。カンチレバー振動変化測定器が振動の変化量として周波数変化を測定する場合には、カンチレバー振動変化測定器としては、PLL(Phase Locked Loop)回路等の、周波数変化測定器として公知の回路を特に制限なく採用することができる。またカンチレバー振動変化測定器が振動の変化量として振幅変化を測定する場合には、振動変化測定器としては、ロックインアンプ等の、振幅変化測定器として公知の測定器を特に制限なく採用することができる。

【0027】
本発明に関する上記説明では、変動磁場発生器30が空芯コイル32とパルス電流源31とを有するパルス磁場発生器である形態の磁気特性測定装置100を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。連続的に磁場強度が変化し、かつ、磁性体試料を磁化させることが可能な最大強度を有する変動磁場を磁性体試料に印加することができる限りにおいて、他の形態の変動磁場発生器を採用することも可能である。そのような他の変動磁場発生器としては、例えば、電磁石等を挙げることができる。

【0028】
本発明に関する上記説明では、磁性体試料が磁性探針10である形態の磁気特性測定装置100を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。磁性体試料として、磁性探針以外の磁性体試料(例えば、磁性体粒子や、磁性体材料からなるナノロッド等。)をカンチレバーの端部(自由端)に固定して、該磁性体試料の磁気特性を測定することも可能である。そのような他の磁性体試料をカンチレバーの端部に固定するにあたっては、公知の接着剤を用いることができるほか、走査電子顕微鏡装置を用いて電子線を照射することによりカーボンを堆積させて、該カーボンにより磁性体試料をカンチレバー11の端部に固定することも可能である。また、磁性体試料が磁気異方性を有している場合には、接着剤によって磁性体試料をカンチレバーの端部に仮固定した後、外部から磁場を印加しながら接着剤を硬化させることにより、磁性体試料の磁化容易方向が外部磁場と平行になるように磁性体試料を配向させた状態で磁性体試料をカンチレバー端部に固定することも可能である。本発明の磁気特性測定装置および磁気特性測定方法によれば、変動磁場に平行な方向の磁気特性が測定されるので、このような固定方法によれば、磁気モーメントを有する微小な磁性体試料の磁気特性を測定するにあたり、測定条件を詳細に制御することが可能である。

【0029】
<測定原理>
本発明の磁気特性測定装置100、およびこれを用いた磁気特性測定方法によって、カンチレバー11の端部(自由端)に固定した磁性体試料の磁気特性を測定できる原理について、以下に説明する。

【0030】
実効的なバネ定数が磁気力勾配により時間変化する磁性探針の運動方程式は次式で与えられる。

【0031】
【数1】
JP2016194455A_000003t.gif
ここで、z方向は磁性探針の振動方向にとるものとする。また、変動磁場は磁性探針の振動方向に印加するものと仮定する。

【0032】
【数2】
JP2016194455A_000004t.gif
は変動磁場により磁性体試料に発生する磁気力F(t)によるバネ定数の見かけ上の変化分である。F(t)は次式で与えられる。

【0033】
【数3】
JP2016194455A_000005t.gif
ここで、M(t)は磁性体試料の印加磁場方向の磁気モーメントであり、H(t)は磁性探針に印加する変動磁場(上記説明した磁気特性100においてはパルス磁場)である。したがって、

【0034】
【数4】
JP2016194455A_000006t.gif
となる。変動磁場の印加により、カンチレバーの共振周波数ωは、

【0035】
変動磁場を印加しない場合の共振周波数

【0036】
【数5】
JP2016194455A_000007t.gif
から

【0037】
【数6】
JP2016194455A_000008t.gif
に変化するので、共振周波数ωの変動磁場印加に伴う変化Δω(t)は次式で与えられる。

【0038】
【数7】
JP2016194455A_000009t.gif
ここで

【0039】
【数8】
JP2016194455A_000010t.gif
であるので、

【0040】
【数9】
JP2016194455A_000011t.gif
ここで、Δω(t)のH(t)に対する比は、

【0041】
【数10】
JP2016194455A_000012t.gif
となる。したがって、カンチレバーの端部(自由端)に固定した磁性体試料に変動磁場を印加して、カンチレバーの共振周波数ωの時間変化Δω(t)を計測し、比Δω(t)/H(t)を変動磁場の値H(t)に対してプロットすることで、磁性体試料の磁化曲線を計測できることが理解される。

【0042】
カンチレバーを共振周波数近傍の一定周波数で励振した場合、カンチレバーの端部(自由端)に固定した磁性体試料に変動磁場を印加することにより、カンチレバーの共振周波数の変化を通して、カンチレバーの端部に固定された磁性体試料の振動の振幅A(t)や位相θ(t)も変化する。

【0043】
カンチレバーを、変動磁場を印加する前の共振周波数ω近傍で励振した場合には、カンチレバーの端部に固定された磁性体試料の振動の振幅や位相の変化ΔA(t)、Δθ(t)が、共振周波数の変化Δω(t)にほぼ比例すると見なせるので、

【0044】
【数11】
JP2016194455A_000013t.gif
となる。したがって、上記同様に比ΔA(t)/H(t)または比Δθ(t)/H(t)を変動磁場の値H(t)に対して作図することで、磁性体試料の磁化曲線が計測できることが理解される。

【0045】
なお、上記において式(8)が成り立つことは、同一時刻であれば磁場の強度は座標によってのみ定まり、カンチレバーの励振振動程度の座標変化では磁性体試料が受ける磁場の強度はほぼ一定であることから理解される。例えば、空芯コイルの形状が定まり、空芯コイルに対して磁場の計測場所が定まると、磁場値は空芯コイルを流れる電流値に対して一意に定まる。同様に、磁場勾配値も電流値に対して一意に定まる。したがって、磁場勾配値と磁場値の比率は一意に定まり、上記式(8)のように記述できる。上記式(8)の比例係数cは、空芯コイル32の諸元(導線の位置、導線部分の内径、外径、導線の巻き数、導線の層数)および空芯コイル32に対するカンチレバー11の端部(自由端)に固定した磁性体試料の位置が定まると、計算により見積もることができる。また、ホール素子等の磁場センサーによる磁場値の測定値の空間分布からも求めることができる。また、上記式(11)~(12)の比例係数cおよびcは、実験により見積もることが可能であるので、上記式(11)~(12)の比例係数c’およびc’も、見積もることが可能である。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
<実施例1>
本発明の磁気特性測定装置を用いて、カンチレバーの一方の端部に固定されたSi探針の表面にFePt強磁性薄膜(膜厚約40nm)を製膜した磁性探針の磁気特性を測定した。本発明の磁気特性測定装置は、市販のMFM(日立ハイテクサイエンス株式会社製走査型プローブ顕微鏡、L-Trace II)をベースとし、変動磁場発生器として、MFMの試料設置台(ただし試料は配置していない)の下に配置した空芯コイルおよび該空芯コイルにパルス電流を供給するパルス電流源を有してなるパルス磁場発生器を加え、さらにカンチレバー振動変化測定器としてロックインアンプを追加して構成した。パルス磁場発生器はカンチレバーの振動方向に平行にパルス磁場を印加する。カンチレバー振動変化測定器の出力を、電子計算機により構成した磁化曲線評価装置に入力した。
【実施例】
【0048】
カンチレバーを周波数250~300kHzで励振しながら、パルス磁場発生器により磁性探針に、磁性探針の磁化の向きとは逆向きのパルス磁場を印加した。磁性探針の位置におけるパルス磁場の時間変化を図5(A)に示す。このとき、ロックインアンプにより測定された磁性探針の振動の位相ずれの時間変化を図5(B)に示す。図6(A)は、変動磁場の値H(t)に対して磁性探針の振動の位相ずれθ(t)をプロットしたグラフである。グラフは原点から出発して、図中の矢印の向きに移動した。図6(B)は、変動磁場の値に対する磁性探針の振動の位相ずれθ(t)の比θ(t)/H(t)を、変動磁場の値Hz(t)に対してプロットしたグラフである。上記したように、比θ(t)/H(t)は磁性探針の変動磁場と平行方向の磁化M(t)に比例する。図6(B)のグラフは図中の点Aから出発して、点Bにおいて横軸と交差した後、点CでH(t)が最大となり、その後H(t)の減衰とともに概ね横軸と平行な軌跡を描きながら縦軸に漸近した(点D)。なお点A及び点D近傍で値に不安定な動きがみられるのは、変動磁場の強度がゼロに近いために比θ(t)/H(t)の計算がゼロ除算に近くなることによる。図6(B)において、点Bの前後で磁化が反転していることから、点BにおけるH(t)の値(約16.0kOe)がこの磁性探針の保磁力であるとわかる。
【符号の説明】
【0049】
100 磁気特性測定装置
10 磁性探針(磁性体試料)
10a (非磁性の)芯部材
10b 磁性被膜
11 カンチレバー
20 励振器
30 変動磁場発生器
31 パルス電流源
32 空芯コイル
40 振動センサー
41 光源
42 光学変位センサー
50 カンチレバー振動変化測定器
60 磁化曲線評価装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5