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明細書 :フォトルミネセンス寿命測定装置及び測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-197045 (P2016-197045A)
公開日 平成28年11月24日(2016.11.24)
発明の名称または考案の名称 フォトルミネセンス寿命測定装置及び測定方法
国際特許分類 G01N  21/64        (2006.01)
FI G01N 21/64 B
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2015-076630 (P2015-076630)
出願日 平成27年4月3日(2015.4.3)
発明者または考案者 【氏名】西村 智
【氏名】藤田 克昌
出願人 【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091904、【弁理士】、【氏名又は名称】成瀬 重雄
審査請求 未請求
テーマコード 2G043
Fターム 2G043AA01
2G043EA01
2G043FA03
2G043LA03
2G043NA01
要約 【課題】フォトルミネセンス(燐光又は蛍光)の寿命測定装置の低コスト化を図る。フォトルミネセンスの迅速な寿命測定を可能にする。
【解決手段】画像取得部10の第1走査部11は、対象物に対して少なくとも一方向に走査することによって、対象物1についての第1画像を取得する。記録部13は、取得された第1画像を記録する。解析部20は、第1画像についての、前記一方向におけるブレ関数を算出することにより、対象物1におけるフォトルミネセンスの寿命を算出する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
画像取得部と、解析部とを備えており、
前記画像取得部は、第1走査部と、記録部とを備えており、
前記第1走査部は、対象物に対して少なくとも一方向に走査することによって、前記対象物についての第1画像を取得する構成となっており、
前記記録部は、取得された前記第1画像を記録する構成となっており、
前記解析部は、前記第1画像についての、前記一方向におけるブレ関数を算出することにより、前記対象物におけるフォトルミネセンスの寿命を算出する構成となっている
フォトルミネセンス寿命測定装置。
【請求項2】
さらに第2走査部を備えており、
前記第2走査部は、前記第1走査部による走査方向と同じ方向に走査することによって、前記対象物についての第2画像を取得する構成となっており、
前記第2走査部における走査速度は、前記第1走査部における走査速度よりも低速とされており、
前記記録部は、取得された前記第2画像を記録する構成となっており、
前記解析部は、前記対象物における前記フォトルミネセンスの寿命を算出するために、前記第2画像における画像情報をさらに用いる構成となっている
請求項1に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【請求項3】
さらに多光子励起部を備えており、
前記多光子励起部は、前記対象物内に配置されたプローブに対して、多光子吸収過程による発光を生じさせる構成となっている
請求項1又は2に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【請求項4】
前記第1走査部は、少なくとも前記一方向への走査が可能なレゾナントスキャナを用いて構成されている
請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【請求項5】
前記第2走査部は、少なくとも前記一方向への走査が可能なガルバノスキャナを用いて構成されている
請求項1~4のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【請求項6】
前記解析部は、前記第1画像を分割して得られる分割画像について、前記一方向におけるブレ関数を算出する構成となっている
請求項1~5のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【請求項7】
さらに寿命画像生成部と呈示部とを備えており、
前記寿命画像生成部は、前記解析部で算出された寿命を表す寿命画像を生成する構成となっており、
前記呈示部は、前記寿命画像を使用者に呈示する構成となっている
請求項1~6のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【請求項8】
さらに第2走査部を備えており、
前記第2走査部は、前記第1走査部による走査方向と同じ方向に走査することによって、前記対象物についての第2画像を取得する構成となっており、
前記第2走査部は、前記第2画像のブレを防止するためのブレ防止手段を備えており、
前記記録部は、取得された前記第2画像を記録する構成となっており、
前記解析部は、前記対象物における前記フォトルミネセンスの寿命を算出するために、前記第2画像における画像情報をさらに用いる構成となっている
請求項1に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【請求項9】
前記第1画像を取得するための画像サンプリング間隔は、点像分布関数(PSF)によるボケを観察できる画像サンプリング間隔よりも長くされている
請求項1~8のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置を用いており、
前記第1走査部が、前記対象物に対する少なくとも一方向の走査によって、前記対象物についての第1画像を取得するステップと、
前記記録部が、取得された前記第1画像を記録するステップと、
前記解析部が、前記第1画像についての、前記一方向におけるブレ関数を算出することにより、前記対象物におけるフォトルミネセンスの寿命を算出するステップと
を備える、フォトルミネセンス寿命測定方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置と、酸素分圧算出部とを備えており、
前記酸素分圧算出部は、算出された前記フォトルミネセンスの寿命を用いて、前記対象物における酸素分圧を算出する構成となっている
酸素分圧測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトルミネセンス、例えば燐光の寿命を測定するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体の状況を観察するための一手法として、生体内の酸素分圧を測定することが試みられている。例えば生体内にがん組織があると、その部分における酸素分圧が周囲の正常細胞よりも低くなる。そこで、酸素分圧の測定により、例えばがん組織の有無や広がりを観察することが可能になる。
【0003】
生体内での酸素分圧を測定するための手法として、何らかのプローブを生体内に導入し、このプローブへの光照射により生じた燐光の強度を測定するものが知られている。この場合、燐光強度と酸素分圧との関係を予め実験的に求めておき、例えば検量線を作成する。そして、得られた燐光強度から酸素分圧を推定する。
【0004】
しかしながら、燐光強度は、プローブ濃度にも依存する。特に生体内では、正確なプローブ濃度を得ることが難しいため、得られる酸素分圧の信頼性に疑問の余地があった。
【0005】
そこで、下記非特許文献1では、プローブとしてイリジウム錯体を用いる技術を提案している。これによれば、イリジウム錯体において生じた燐光の寿命と酸素分圧との関係に基づいて、プローブの濃度に依存せずに、酸素分圧を求めることが可能となる。
【0006】
また、下記特許文献1にも、燐光寿命を用いた酸素分圧の測定技術が記載されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2007-232716号公報
【0008】

【非特許文献1】Toshitada Yoshihara, Atsushi Kobayashi, Shinpei Oda, Masahiro Hosaka, Toshiyuki Takeuchi, Seiji Tobita, "Iridium complex probes for monitoring of cellular oxygen levels and imaging of hypoxic tissues", Proc. of SPIE 8233, 82330A-1 (2 February 2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記した従来の技術では、生態観察用の通常の顕微鏡とは別に、燐光寿命の測定のために、光子カウンタなどの特別な設備を用いる必要がある。このため、装置全体として高価になってしまうという問題がある。また、従来の技術では、寿命を測定するために要する時間が長いために、生体内で動的に変動する酸素分圧を正確に測定することが難しいという問題もある。
【0010】
本発明は、前記した知見に基づいてなされたものである。本発明の主な目的は、装置の低コスト化を図ることができ、しかも、フォトルミネセンス(燐光又は蛍光)の迅速な寿命測定が可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0012】
(項目1)
画像取得部と、解析部とを備えており、
前記画像取得部は、第1走査部と、記録部とを備えており、
前記第1走査部は、対象物に対して少なくとも一方向に走査することによって、前記対象物についての第1画像を取得する構成となっており、
前記記録部は、取得された前記第1画像を記録する構成となっており、
前記解析部は、前記第1画像についての、前記一方向におけるブレ関数を算出することにより、前記対象物におけるフォトルミネセンスの寿命を算出する構成となっている
フォトルミネセンス寿命測定装置。
【0013】
(項目2)
さらに第2走査部を備えており、
前記第2走査部は、前記第1走査部による走査方向と同じ方向に走査することによって、前記対象物についての第2画像を取得する構成となっており、
前記第2走査部における走査速度は、前記第1走査部における走査速度よりも低速とされており、
前記記録部は、取得された前記第2画像を記録する構成となっており、
前記解析部は、前記対象物における前記フォトルミネセンスの寿命を算出するために、前記第2画像における画像情報をさらに用いる構成となっている
項目1に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【0014】
(項目3)
さらに多光子励起部を備えており、
前記多光子励起部は、前記対象物内に配置されたプローブに対して、多光子吸収過程による発光を生じさせる構成となっている
項目1又は2に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【0015】
(項目4)
前記第1走査部は、少なくとも前記一方向への走査が可能なレゾナントスキャナを用いて構成されている
項目1~3のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【0016】
(項目5)
前記第2走査部は、少なくとも前記一方向への走査が可能なガルバノスキャナを用いて構成されている
項目1~4のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【0017】
(項目6)
前記解析部は、前記第1画像を分割して得られる分割画像について、前記一方向におけるブレ関数を算出する構成となっている
項目1~5のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【0018】
(項目7)
さらに寿命画像生成部と呈示部とを備えており、
前記寿命画像生成部は、前記解析部で算出された寿命を表す寿命画像を生成する構成となっており、
前記呈示部は、前記寿命画像を使用者に呈示する構成となっている
項目1~6のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【0019】
(項目8)
さらに第2走査部を備えており、
前記第2走査部は、前記第1走査部による走査方向と同じ方向に走査することによって、前記対象物についての第2画像を取得する構成となっており、
前記第2走査部は、前記第2画像のブレを防止するためのブレ防止手段を備えており、
前記記録部は、取得された前記第2画像を記録する構成となっており、
前記解析部は、前記対象物における前記フォトルミネセンスの寿命を算出するために、前記第2画像における画像情報をさらに用いる構成となっている
項目1に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【0020】
(項目9)
前記第1画像を取得するための画像サンプリング間隔は、点像分布関数(PSF)によるボケを観察できる画像サンプリング間隔よりも長くされている
項目1~8のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置。
【0021】
(項目10)
項目1~9のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置を用いており、
前記第1走査部が、前記対象物に対する少なくとも一方向の走査によって、前記対象物についての第1画像を取得するステップと、
前記記録部が、取得された前記第1画像を記録するステップと、
前記解析部が、前記第1画像についての、前記一方向におけるブレ関数を算出することにより、前記対象物におけるフォトルミネセンスの寿命を算出するステップと
を備える、フォトルミネセンス寿命測定方法。
【0022】
(項目11)
項目1~9のいずれか1項に記載のフォトルミネセンス寿命測定装置と、酸素分圧算出部とを備えており、
前記酸素分圧算出部は、算出された前記フォトルミネセンスの寿命を用いて、前記対象物における酸素分圧を算出する構成となっている
酸素分圧測定装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るフォトルミネセンス寿命測定装置によれば、光子カウンタのような特別の設備を用いる必要がないため、装置の低コスト化を図ることができる。しかも、本発明の装置によれば、走査により得られた画像から算出されるブレ関数に基づいて、フォトルミネセンス(燐光又は蛍光)の寿命測定を迅速に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るフォトルミネセンス寿命測定装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【図2】図1の測定装置を用いた測定方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】低速走査で得られる画像を概念的に説明するための説明図である。
【図4】高速走査で得られる画像を概念的に説明するための説明図である。
【図5】第1又は第2画像を分割して分割画像を得る操作を概念的に説明するための説明図である。
【図6】ブレ関数の算出手順を説明するための説明図である。
【図7】ボケのない第2画像の具体例を示す図である。
【図8】ボケのある第1画像の具体例を示す図である。
【図9】図7の第2画像を分割した例を示す図である。
【図10】図8の第1画像を分割した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係るフォトルミネセンス寿命測定装置を、添付の図面を参照しながら説明する。

【0026】
(実施形態の構成)
本実施形態に係るフォトルミネセンス寿命測定装置(以下、単に「測定装置」と略称することがある)は、画像取得部10と、解析部20とを主要な構成として備えている。さらに、この測定装置は、多光子励起部30と、寿命画像生成部40と、呈示部50とを追加的に備えている。

【0027】
画像取得部10は、第1走査部11と、第2走査部12と、記録部13とを備えている。

【0028】
第1走査部11は、対象物1に対して少なくとも一方向に走査することによって、対象物1についての第1画像を取得する構成となっている。本実施形態の第1走査部11は、左右両方向への高速な走査が可能なレゾナントスキャナを用いて構成されている。なお、レゾナントスキャナは、共振現象を用いてミラーを振動させることにより、X方向(幅方向)へのライン状画像を取得するものである。また、走査開始位置をY方向(高さ方向)にずらしていくことにより、XY画像を取得することもできる。したがって、本実施形態における第1画像は、スキャナで取得されたライン状画像を含む意味で用いる。

【0029】
第2走査部12は、第1走査部11による走査方向と同じ方向に走査することによって、対象物1についての第2画像を取得する構成となっている。第2走査部12における走査速度は、第1走査部11における走査速度よりも低速とされている。本実施形態における第2走査部12は、左右両方向への走査が可能なガルバノスキャナを用いて構成されている。なお、ガルバノスキャナは、アクチュエータにより往復動するいわゆるガルバノミラーを用いて、X方向(幅方向)へのライン状画像を取得するものである。また、走査開始位置をY方向(高さ方向)にずらしていくことにより、XY画像を取得することもできる。したがって、本実施形態における第2画像は、第1画像の場合と同様に、スキャナで取得されたライン状画像を含む意味で用いる。ここで、第2走査部12は、第1走査部11と同じ位置及び方向で対象物1を走査して画像を取得できるようになっている。具体的には、第2走査部12は、ハーフミラー14(図1参照)を介して、第1走査部11での走査位置と同じ位置で同時に対象物を走査できるようになっている。

【0030】
記録部13は、第1走査部11により取得された第1画像と、第2走査部12により取得された第2画像とを記録する構成となっている。第1画像及び第2画像は、それぞれ、スキャナで取得されたライン画像の単位で記録されるものであってもよい。

【0031】
解析部20は、第1画像についての、一方向(走査方向)におけるブレ関数を算出することにより、対象物1におけるフォトルミネセンスの寿命を算出する構成となっている。ここで、一方向におけるブレ関数とは、この実施形態では、一方向での画素値又はその波形に対応するブレ関数をいう。ブレ関数の算出例については追って説明する。

【0032】
具体的には、本実施形態の解析部20は、画像分割部21と、ブレ関数算出部22と、寿命算出部23と、酸素分圧算出部24とを備えている。

【0033】
画像分割部21は、第1画像及び第2画像を複数の領域に分割することにより、第1画像及び第2画像についての分割画像を生成する機能要素である。

【0034】
ブレ関数算出部22は、第1画像及び第2画像(より詳しくは、それらから生成された分割画像)を用いて、第1画像及び第2画像におけるブレ関数を算出する構成となっている(後述)。つまり、本例の解析部20は、第1画像についてのブレ関数の算出において、第2画像における画像データを用いるようになっている。また、本例の解析部20は、第1画像を分割して得られる分割画像について、少なくとも一方向におけるブレ関数を算出する構成となっている(後述)。

【0035】
寿命算出部23は、得られたブレ関数を用いて、燐光の寿命を算出する構成となっている。酸素分圧算出部24は、得られた燐光寿命を用いて、酸素分圧を算出する構成となっている。寿命算出部23の詳しい動作も後述する。

【0036】
多光子励起部30は、対象物1の内部に配置されたプローブに対して、多光子吸収過程による発光を生じさせる構成となっている。このような多光子励起部としては、例えば従来の2光子顕微鏡において用いられているポンプ・レーザと同様に構成することができるので、これについての詳しい説明は省略する。2光子顕微鏡を用いた場合、共焦点顕微鏡で用いられるようなピンホールを省略できるので、後述するようなブレ画像を撮影することができる。

【0037】
寿命画像生成部40は、解析部20で算出された寿命を表す寿命画像(後述)を生成する構成となっている。

【0038】
呈示部50は、寿命画像を使用者に呈示する構成となっている。呈示部50は、例えばLCDディスプレイやプリンタのように、使用者に画像を呈示できるものであれば、特に制約されない。また、呈示部50は、外部のシステムに呈示用データを提供する構成であってもよい。

【0039】
(実施形態の測定装置の動作)
次に、図2をさらに参照しながら、本実施形態に係る測定装置の動作について説明する。

【0040】
(図2のステップSA-1)
まず、本実施形態における測定方法の実施に際しては、事前に、対象物1に対して、プローブとなる発光材料(本実施形態では燐光物質)を供給しておく。そのような発光材料としては、例えばイリジウム錯体(前記非特許文献1参照)が知られているが、これに制約されるものではない。また例えば、生体における発光寿命を測定する場合は、生体内にプローブを注射などの適宜の手段で投与しておく。

【0041】
ついで、多光子励起部30から、プローブにおける多光子吸収過程を経た発光を生じさせる光(すなわちレーザ光)を、対象物に照射する。このような励起光の生成及び伝送方法は、従来からよく知られているので、詳しい説明は省略する。本実施形態では、励起光の照射により、対象物1に配置されたプローブに燐光を発生させることができる。

【0042】
前記した励起光照射と同時、あるいはその直後に、画像取得部10の第1走査部11は、対象物1を走査しながら、第1画像を取得する。ここで、仮に、第1走査部11の走査速度が遅いときは、燐光の発光が減衰するまでに、隣接する画素位置を走査することができず、1点での燐光は、単なる点3(図3の模式図参照)として観察される。しかしながら、本実施形態では、第1走査部11の走査速度を十分に高速としたので、燐光の発光が減衰するまでに、隣接する画素位置を走査することができる。すると、本来は光っていない画素位置においても、残光が観察される。つまり、本実施形態の第1走査部11で得られる第1画像は、燐光の寿命に対応して、走査方向(図4において右方向)に引き伸ばされたブレないしボケ4(図4の模式図参照)を有することになる。得られた1ライン分の第1画像は、記録部13により記録される。以降同様に、1ラインごとに画像を記録することができる。なお、+X方向と-X方向とに交互に走査するいわゆる双方向走査の場合も、前記と同様にして1ラインごとに画像を記録することができる。

【0043】
(図2のステップSA-2)
一方、第1走査部11での走査と同時に、第2走査部12においても、第1走査部11と同じ位置及び方向において、対象物1を走査しながら第2画像を取得する。ここで、第2走査部12の走査速度は、第1走査部11よりも遅い(すなわち、想定される燐光の寿命よりも十分に遅い)ものとされている。このため、第2走査部12においては、燐光の発光が減衰するまでに隣接する画素位置を走査することができず、その結果、1点での燐光は、単なる点として観察される。したがって、本実施形態の第2走査部12で得られる第2画像では、燐光の寿命を反映するボケを有しないことになる(図3参照)。得られた第2画像は、第1画像と同様に、記録部13により記録される。

【0044】
ここで、本実施形態では、第1走査部11での走査と同時に、第2走査部12において、対象物1を走査しながら第2画像を取得しているので、例えば対象物(試料)が移動した場合であっても、同じ位置で二つの画像を取得することが容易になるという利点がある。ただし、対象物の動きが少ない場合や、ある程度の誤差を容認できる場合には、必ずしも同時に走査しなくともよい。また、第1画像及び第2画像の取得時期は、同時である必要はなく、多少のずれは許容され、例えば交互の取得も可能である。要するに、実用上支障のない程度の精度を持つブレ関数を算出できるのであれば、画像取得時期を種々に設定できる。

【0045】
(図2のステップSA-3)
ついで、解析部20の画像分割部21は、第1画像及び第2画像を、複数の領域に分割する。分割されて得られた画像をこの明細書では分割画像と称する。第1画像又は第2画像から生成される分割画像の一例を図5に模式的に示す。図5では、分割領域を、符号61~6nにより示している。

【0046】
(図2のステップSA-4)
ついで、ブレ関数算出部22は、前記した第1画像及び第2画像からそれぞれ得られた分割画像(同じ位置に対応するもの)を用いて、各分割画像におけるブレ関数を算出する。以下、ブレ関数の算出手順の具体例を、図6をさらに参照して説明する。なお、図6では、走査の方向(つまり画像中のブレの方向)をx方向としている。

【0047】
第1画像におけるx軸上の燐光強度分布g(x)は、下記式により表すことができる。

【0048】
JP2016197045A_000003t.gif

【0049】
前記から分かるように、g(x)、f(x)は、第1画像及び第2画像から既知なので、これらの画像を用いて、画像の各点でのh(x)を求めることができる。したがって、本実施形態では、第1画像から得られるg(x)と第2画像から得られるf(x)(画像情報の一例に相当)とを用いて、第1画像におけるh(x)(ブレ関数の一例に相当)を算出していることになる。本実施形態では、分割画像の単位で、第1画像におけるh(x)を求める。

【0050】
(図2のステップSA-5)
ついで、寿命算出部23は、得られたh(x)を用いて、当該領域でのプローブにおける燐光の寿命を算出する。この算出については、燐光寿命とh(x)との対応関係(例えば検量線)を予め実験などで求めておくことにより行うことができる。

【0051】
(図2のステップSA-6)
ついで、酸素分圧算出部は、得られた燐光寿命を用いて、当該領域における酸素分圧を算出することができる。燐光寿命と酸素分圧との関係は既知(例えば非特許文献1参照)なので、その関係を利用して酸素分圧の算出を行うことができる。

【0052】
(図2のステップSA-7)
一方、寿命画像生成部40は、得られた寿命に応じて、当該分割領域の色やテクスチャを変更して、第1画像又は第2画像に重畳させる。これにより、寿命あるいは酸素分圧の分布を一目で理解できる寿命画像を生成することができる。

【0053】
ついで、呈示部50は、得られた寿命画像をユーザに提示する。

【0054】
本実施形態の測定装置では、いわゆる2光子顕微鏡の装置構成を用いて、ソフトウエア的な画像処理により、燐光寿命を簡便に算出することができる。したがって、この装置によれば、光子カウンタのような特別の設備を用いる必要がないため、装置の低コスト化を図ることができるという利点がある。

【0055】
また、本実施形態の測定装置では、走査により得られた画像から算出されるブレ関数に基づいて、ソフトウエア的に(つまりコンピュータ演算により)フォトルミネセンス(燐光又は蛍光)の寿命測定を行うことができるので、この測定作業を迅速に行うことが可能となるという利点もある。なお、もちろん、算出の手順をコンピュータプログラムにより実装することは必須ではなく、例えばASICのようなハードウエアを用いて、あるいはハードウエアとプログラムとを併用して、前記した演算を行うこともできる。

【0056】
さらに、本実施形態の測定装置によれば、いわゆる2光子顕微鏡の装置構成を用いているので、試料に蛍光プローブを投与して得られる蛍光画像を、前記した燐光による第1・第2画像と同時に撮影すること(いわゆるマルチカラー撮影)が可能となる。すると、二光子生体組織構築と酸素分圧画像とを重ねて表示できるという利点もある。

【0057】
(第1及び第2画像の具体例)
図7は、ボケの少ない第2画像の例を示す。図8は、第2画像に対してボケを生じている第1画像の例を示す。これらの図では、図中左右方向に走査した例が示されている。

【0058】
図9は、図7の画像を分割して分割領域を生成した例を示す。図10は、図8の画像を分割して分割領域を生成した例を示す。

【0059】
なお、本発明の内容は、前記各実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。

【0060】
例えば、前記した実施形態では、分割領域ごとにブレ関数を算出したが、一つの画像ごとにブレ関数を算出することは可能である。

【0061】
また、前記した実施形態では、第1走査部11としてレゾナントスキャナ、第2走査部12としてガルバノスキャナを用いたが、これに限るものではなく、ブレ関数を算出するに十分な走査速度の差を持つスキャナであれば利用可能である。例えば、第1走査部11として高速型のガルバノスキャナ、第2走査部12として低速型のガルバノスキャナを用いることもできる。さらには、走査速度を変更可能な一つのスキャナを用いて、高速動作の場合を第1走査部、低速動作の場合を第2走査部として用いることもできる。前記した各スキャナに代えて、ポリゴンミラー、あるいは音響光学素子を、第1又は第2走査部として使用することができる。

【0062】
また、前記した実施形態では、第1画像と第2画像とを用いてブレ関数あるいはその変形度を算出したが、第2画像を予め学習などにより得られる場合には、第1画像の取得のみでブレ関数を算出可能であると考えられる。

【0063】
さらに、異なる発光波長と寿命とを有する二種類のプローブを対象物に付与して、それぞれの発光波長を第1走査部及び第2走査部で同時に検出することもできる。このようにすると、それぞれの発光波長に対応する画像を第1画像及び第2画像として取得することもできる。この場合、発光寿命の長い波長に対応する画像にはブレを生じ、発光寿命の短い波長に対する画像にはブレを生じないため、前記と同様にしてブレ関数を算出できる。

【0064】
あるいは、前記実施形態において、第2走査部を、共焦点顕微鏡で用いられるようなピンホール(ブレ防止手段の一例)を介して画像を取得する構成とすることもできる。このようにすると、第1走査部と第2走査部とが同等の走査速度であっても、ボケの少ない第2画像を取得することができる。このようにすると、装置としての実装が容易になるという利点がある。

【0065】
さらに、前記した実施形態では、フォトルミネセンスとして燐光を仮定したが、第1走査部における走査速度が十分に高速であれば、前記と同様の原理により、蛍光の寿命を測定することも可能である。

【0066】
また、前記した実施形態では、ハーフミラー14を介して第1画像及び第2画像を取得する構成としたが、ハーフミラーの設置は必須ではなく、独立した光路を介して画像を取得する構成であってもよい。要するに、第1画像及び第2画像を取得するための光学的構成に特段の制約はない。

【0067】
さらに、図1では、第1走査部11と第2走査部12とを独立した要素として記載しているが、機械的な構成として二つの走査部を必要とする趣旨ではない。例えば、一つのガルバノミラーやポリゴンミラーなどの適宜の走査手段を、第1走査部及び第2走査部として共用することもできる。第1画像及び第2画像の取得時期が同時でなくてもよい場合には、同一の走査手段を共用することが容易となる。

【0068】
また、前記した実施形態においては、第1画像及び第2画像の取得のための画像サンプリング間隔を、点像分布関数(PSF)によるボケが観察できる画像サンプリング間隔よりも長くする(つまり画像解像度を低くする)ことが好ましい。PSFとは、光の波動性で決まるボケを表す関数であり、ある程度短い画像サンプリング間隔の場合に観察される。取得された画像に、PSFによるボケの影響があると、第1・第2画像を用いて算出されたブレ関数の精度が悪くなり、燐光寿命の推定精度が悪化するおそれがある。PSFを計算で除去する処理を行う場合には、計算処理工程が増えるという問題もある。これに対して、前記した第1画像及び第2画像の画像サンプリング間隔を、PSFによるボケが観察されない程度に長くする(ただし燐光寿命によるブレが観察できる程度には短くする)ことにより、PSFの影響を除去し、燐光寿命の推定精度を向上させることができるという利点がある。なお、ブレ関数の影響がない第2画像については、短いサンプリング間隔で得られた画像の解像度を下げる画像処理を行うことで、PSFの影響を除去することもできる。ただし、第2画像取得時のサンプリング間隔を第1画像と同程度に長く設定しておくことは、画像処理工程を減らすことができるので好ましい。

【0069】
前記した各構成要素は、機能ブロックとして存在していればよく、独立したハードウエアとして存在しなくても良い。また、実装方法としては、ハードウエアを用いてもコンピュータソフトウエアを用いても良い。さらに、本発明における一つの機能要素が複数の機能要素の集合によって実現されても良く、本発明における複数の機能要素が一つの機能要素により実現されても良い。

【0070】
さらに、機能要素は、物理的に離間した位置に配置されていてもよい。この場合、機能要素どうしがネットワークにより接続されていても良い。グリッドコンピューティング又はクラウドコンピューティングにより機能を実現し、あるいは機能要素を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 対象物
3 点像
4 ブレ画像
10 画像取得部
11 第1走査部
12 第2走査部
13 記録部
14 ハーフミラー
20 解析部
21 画像分割部
22 算出部
23 寿命算出部
24 酸素分圧算出部
30 多光子励起部
40 寿命画像生成部
50 呈示部
61~6n 分割領域
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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