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明細書 :卵巣がんの予後検査・診断方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-198094 (P2016-198094A)
公開日 平成28年12月1日(2016.12.1)
発明の名称または考案の名称 卵巣がんの予後検査・診断方法
国際特許分類 C12N  15/00        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 15/00
C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2016-078514 (P2016-078514)
出願日 平成28年4月9日(2016.4.9)
優先権出願番号 2015080452
優先日 平成27年4月9日(2015.4.9)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】宮本 新吾
【氏名】宮田 康平
出願人 【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080160、【弁理士】、【氏名又は名称】松尾 憲一郎
【識別番号】100149205、【弁理士】、【氏名又は名称】市川 泰央
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA08
4B063QA19
4B063QQ52
4B063QQ58
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
要約 【課題】血液サンプルを用いて卵巣がんの予後を予測できる卵巣がんの予後検査方法を提供すること。
【解決手段】本発明の卵巣がんの予後検査方法は、卵巣がんの予測検査・診断時点での血液サンプル中のmiRNAのmiR-135の発現量を比較サンプル中のmiR-135の基準発現量と比較してmiR-135の発現量が低下していることを検査して卵巣がんの予後予測をすることからなっている。また、前記miR-135の基準発現量が、対応する卵巣がんの摘出手術後のmiR-135の発現量および/またはROC曲線でのmiR-135の発現指数が0.40に対応するmiR-135の発現量であることをにも特徴を有する。
【選択図】図6
特許請求の範囲 【請求項1】
卵巣がんの予後検査時点での血液サンプル中のmiR-135の発現量が、卵巣がん摘出手術後の比較サンプル中のmiR-135の基準発現量と比較して低下していることを検査することを特徴とする卵巣がんの予後検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の卵巣がんの予後検査方法であって、前記miR-135の基準発現量が、対応する卵巣がんの摘出手術後のmiR-135の発現量および/またはROC曲線でのmiR-135の発現指数が0.40に対応するmiR-135の発現量であることを特徴とする卵巣がんの予後検査方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の卵巣がんの予後検査方法であって、血液サンプル中の血清miR-135の発現量をPCR法及びマイクロアレイ法で測定することを特徴とする卵巣がんの予後検査方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の卵巣がんの予後検査方法であって、前記PCR法がリアルタイムPCR法またはTaqMan(登録商標)法を用いて行うことを特徴とする卵巣がんの予後検査方法。
【請求項5】
卵巣がんの予後診断時点での血液サンプル中のmiR-135の発現量が、卵巣がん摘出手術後の比較サンプル中のmiR-135の基準発現量と比較して低下していることによって、卵巣がんの予後が低下していると予後診断をすることを特徴とする卵巣がんの予後診断方法。
【請求項6】
請求項5に記載の卵巣がんの予後診断方法であって、前記miR-135の基準発現量が、対応する卵巣がんの摘出手術後のmiR-135の発現量および/またはROC曲線でのmiR-135の発現指数が0.40に対応するmiR-135の発現量であることを特徴とする卵巣がんの予後診断方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の卵巣がんの予後診断方法であって、血液サンプル中の血清miR-135の発現量をPCR法及びマイクロアレイ法で測定することを特徴とする卵巣がんの予後診断方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の卵巣がんの予後診断方法であって、前記PCR法がリアルタイムPCR法またはTaqMan(登録商標)法を用いて行うことを特徴とする卵巣がんの予後診断方法。
【請求項9】
血液サンプルを用いてマイクロアレイによりmiRNAの発現量を網羅的に解析してmiR-135を選択し、該miR-135の発現量が、比較サンプル中のmiR-135の基準発現量と比較して低下していることを検査することを特徴とする卵巣がんの予後検査方法。
【請求項10】
請求項5~8のいずれか1項に記載の卵巣がんの予後診断方法であって、卵巣がんの予後診断時点での前記miR-135の発現量が、前記miR-135の基準発現量よりも低い場合、術後の卵巣がんの再発ならびに/もしくは転移している、および/または術後投与した抗がん剤の有効性が低いとして卵巣がんの予後が不良であると診断することを特徴とする卵巣がんの予後診断方法。
【請求項11】
生体より採取した血清検体中に含まれるmiR-135を測定し、基準発現量に比してmiR-135の濃度が低い場合と卵巣がんの術後における抗がん剤への抵抗性とを関連付けることによりを卵巣がんの予後不良を検査する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、卵巣がんの予後検査・診断方法に関する。より詳細には、本発明は、マイクロRNA-135(miR-135)を腫瘍マーカーとして卵巣がんの予後を検査・診断する卵巣がんの予後検査・診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
婦人科がんは、主なものとして子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなどが挙げられ、アメリカでは、2014年に98,280人が発症し、30,440人が死亡している。このうち、卵巣がんは、21,290人が発症し、14,180人が死亡している(非特許文献1)。
【0003】
このように卵巣がんの死亡率が高いのは、卵巣がんは、出血や痛みなどの自覚症状が出にくいため検診での発見が難しく、発見時には1~4期に分かれる進行期のうち、転移が広範囲に広がった3、4期に進行した状態で見つかる場合が多いことが原因の一つである。
【0004】
しかしながら、卵巣がんは、病気が進行した進行期であれば5年生存率が約20%~30%と非常に悪いのに対し、1、2期の早期であれば、治癒率が約70%~90%と非常に高くなる。
【0005】
このように、卵巣がんは、その受診時の進行期と生存率との間に密接な関係があることから、卵巣がんの早期発見ができれば、死亡率の低下と長期にわたる病後管理を達成できることが期待できる。
【0006】
その上、卵巣がんは、術前に生検で病理組織学的診断ができる子宮頸がんや子宮体がんなどの他の婦人科がんとは異なり、術前に細胞診や組織診ができず、その病期も開腹手術で摘出された卵巣の病理組織学的診断結果が得られるまで決定できないため、現時点では、卵巣がんを早期発見する確実な方法がないのが実情である。
【0007】
卵巣がんはまた、進行した状態で摘出手術だけで根治するのは極めて稀であって、術後にプラチナ製剤などの抗がん剤による化学療法で治療を施すのが一般的である。
【0008】
一方で、卵巣がんは、抗がん剤が比較的効きやすいという特長もあり、また最近では抗がん剤の新薬も増え、治療の選択肢が増えてきている。
【0009】
しかしながら、卵巣がんに有効な抗がん剤の種類は増加しているけれども、患者のがんの種類に合わせて治療薬を選択する方法は未だ確定されていない。
【0010】
さらに、卵巣がんは、再発の可能性が高く、治療が困難で、予後予測が非常に困難な悪性腫瘍の一つである。卵巣がんの予後は現在、手術による腫瘍切除率、臨床進行期および病理学的検査によって予測しているが、血液検査などで卵巣がんの予後を予測する方法がないのが実情である(特許文献1)。
【0011】
しかしながら、これまでの広範な経験から、外科的減量手術によって病変が完全に除去された場合や、僅かな細胞が取り残された場合であれば、患者の術後の結果が改善することが示されている(非特許文献2)。
【0012】
このようにがん治療が進歩しても、治癒も可能な早期の卵巣がんを診断する正確なツールさえもないことから、卵巣がんの予後予測もできないのが現状である。
【0013】
このように卵巣がんは受診時にすでに転移している進行期である場合が多いことから、卵巣がんの早期発見のために種々のスクリーニング法が開発されてきた。
【0014】
そのスクリーニング法として、主なものはがん抗原125(CA-125)測定法、超音波画像診断法、バイオマーカーの探索などが挙げられる。
【0015】
CA-125は、上皮性卵巣がんに高い割合で発現する高分子化合物のグリコタンパク質であり(非特許文献3)、上皮性卵巣がんの腫瘍マーカーとして確立されているけれども、その感度ならびに特異性は不十分である。
【0016】
CA-125は、I期の上皮性卵巣がんでは約50%、進行期の卵巣がんでも約75%~90%に発現するだけである(非特許文献4、5、6)。
【0017】
CA-125はまた、上皮性卵巣がんばかりではなく、その他の病理または正常組織にも発現している上に(非特許文献4)、悪性と良性の障害においても偽陽性の結果が認められる(非特許文献7、8)。したがって、CA-125は上皮性卵巣がんに特異的ながん抗原とはいえない。
【0018】
また超音波を用いれば、卵巣の詳細な画像解析と悪性の進行度合いを示す形態的変化を検知することができる。経腟的超音波(TVUS)スクリーニング法は、卵巣がんの早期発見をする実行可能な方法であるとの報告もある(非特許文献9)。
【0019】
しかしながら、これまで卵巣について数多くの超音波画像解析結果についての研究がなされてきたが、超音波画像診断では、画像解析に当たって観察者の間で相当の違いがあり、また画像解析ではがんの質的診断が不可能なところから卵巣がんの予後予測には不十分である。
【0020】
そこで、卵巣がんは初診時すでに転移している患者が多いため、症状のない人を対象に、血液検査CA-125測定と、経腟的超音波検査との組み合わせによる検診で卵巣がんを早期発見しようとする多くの研究が特に欧米で実施された。
【0021】
しかし、残念ながら、検診を受けた卵巣がん患者と受けなかった患者との間で死亡率に差が認められなかった。その結果、欧米では、無症状の女性が卵巣がん検診を受けることを推奨しないとのガイドラインが出されている。さらに、アメリカ予防医療作業部会は定期的に卵巣がん検診をすることさえ反対の立場を取っている(非特許文献10)。
【0022】
このように上皮性卵巣がんの早期発見が困難であるが故、卵巣がんの早期発見についての研究が続けられ、卵巣がんに対する感受性を改善するバイオマーカーが、いろいろな材料と手法を用いて探索されてきた。
【0023】
バイオマーカー探索において最も顕著な手法は、プロテオミクスを利用することである。その結果、数多くのバイオマーカーが検出されたが、その機能は残念ながら最高でもCA-125に類似したものであった。したがって、単一のバイオマーカーだけでは上皮性卵巣がんの診断には臨床的に使用できそうにない(非特許文献11)。
【0024】
このようにこれまで卵巣がんのスクリーニング法が熱心に研究されてきたが、残念ながら、臨床応用可能な一般的な卵巣がんのスクリーニング法は未だ出来上がっていないのが実情である(非特許文献12)。
【0025】
すなわち、現時点では、スクリーニング法によって生存率を改善できるという初歩的な証拠はあるとしても、卵巣がんの死亡率を改善できるかどうかは未だ明確ではない。また、プロテオミック手法によって望みが持てる初期的知見が得られているが、これらの知見は未だ臨床で利用できる段階に達していないのが現状である(非特許文献12)。
【0026】
近年、遺伝子に関する研究の飛躍的進歩により、短鎖RNAの一つである内在性マイクロRNA(miRNA)は、真核生物において遺伝子の転写後発現調節を行う最も重要な調節因子の一つであることが明らかになっている。
【0027】
このmiRNAは、タンパク質をコードしていない18~25塩基(nt)長の1本鎖RNA分子であって、タンパク質をコードする遺伝子の約30%以上の発現を調節していおり(非特許文献13)、また、ヒトゲノムには1000以上のmiRNAがコードされていると考えられている。その後の研究によって、miRNAは、標的mRNAの翻訳抑制に由来するタンパク質産生の抑制、mRNA切断、mRNA分解によって標的mRNAの発現を調節していることが明らかになった。
【0028】
さらに、最近の研究では、ある種のmiRNAは、がん発生に重要な細胞増殖とアポトーシスの調節に関与していることが示されている。また、miRNAは、特定のがんの型ならびにステージにおいて特異的な発現様式を示すことから、miRNAをプロファイリングすることによりがん診断のバイオマーカーとして機能することが示唆されている(非特許文献14)。
【0029】
ノーザンブロット分析、リアルタイムPCR、miRNAマイクロアレイ等の複数の手法によって、数種類のmiRNAが、肺がん、乳がん、脳腫瘍、肝がん、結腸がんや白血病などのヒトのがんに直接関与していることが明らかになった(例えば、非特許文献15)。
【0030】
これらのがんに加えて、婦人科がんに関するmiRNAの報告も、がん細胞株を用いたもの(非特許文献15、16参照)、また患者臨床検体を用いてものがある(非特許文献17参照)。
【0031】
非特許文献12には、様々なステージとグレードの子宮体がん組織と、子宮内膜正常組織との間の、mRNAとmiRNAの発現を比較し、13種のmiRNAを同定したと記載されている。ただし、当該非特許文献12には、13種のmiRNAのうち、8種のmiRNAは子宮体がんにおいて発現が増加し、5種のmiRNAが子宮体がんにおいて発現が低下したと記載されているだけで、これらの13種のmiRNAが子宮体がんの診断に使用できることについては一切記載されていない。ましてや、本非特許文献には卵巣がんについては一切記載も、示唆さえもなされていない。
【0032】
また、特許文献1(特開2010-154843号公報)には、上記非特許文献13において同定された13種のmiRNAを含まない婦人科がんにおける数多くのmiRNAの発現プロファイルとその用途が記載されていて、特定のmiRNAを婦人科がんのバイオマーカーとして使用する方法が記載されている。
【0033】
この特許文献では、miR-135を含む数多くのmiRNA群から選ばれる1または2種以上のmiRNAを婦人科がんのバイオマーカーとしての使用方法ならびに婦人科がんの判定方法、またmiR-135を含む数多くのmiRNAが、それぞれのヌクレオチド配列において1又は2個以上のヌクレオチドが欠失、置換、若しくは付加されたRNAからなり、かつ、婦人科がん組織又は婦人科がん被検体の血液においてコントロールと比較して発現が増加又は低下するRNAを婦人科がんのバイオマーカーとしての使用方法ならびに婦人科がんの判定方法が記載されている。
【0034】
しかしながら、この特許文献には、miR-135を含む数多くのmiRNAが婦人科がん組織又は婦人科がん被検体の血液においてコントロールと比較して発現が増加又は低下すると記載されているだけで、かかるmiRNAの発現の増減を具体的にどのように判定してバイオマーカーとして使用するのかについて一切記載されていない。
【0035】
miRNAががん組織や血液においてコントロールと比較して発現が増加または低下することは一般的にはよく知られた事実であるけれども、どの特定のmiRNAがどの特定のがんに対して発現が増加または低下するかは全く知られてなく、予測することも不可能である。
【0036】
特許文献1には、miR-135がどの特定の婦人科がんの発現を増加または低下させたのか全く記載がなく、卵巣がんの発現を増加または低下させていることを予測することは不可能である。ましてや、当然のことながら、卵巣がんの予後についての予測については示唆さえもされていない。
【0037】
したがって、術後の卵巣がんの再発、または他の臓器への転移の有無を調べるために、卵巣がんの予後予測が可能となる手段や方法が要望されている。
【先行技術文献】
【0038】

【特許文献1】特開2010-154843号公報
【0039】

【非特許文献1】CA CANCER J CLIN 2015;65: 5-29
【非特許文献2】Cannistra, S.A., N. Engl. J. Med. 2004;351: 2519-2529
【非特許文献3】Bast, R.C., et al. J Clin Invest. 1981; 68: 1331-1337
【非特許文献4】Jacobs, I., et al. Hum Reprod. 1989 Jan;4(1):1-12
【非特許文献5】Woolas, R.P., et al. J Natl Cancer Inst. 1993; 85: 1748-1751
【非特許文献6】Fritsche, H.A., et al. Clin Chem 1998;44:1379-1380
【非特許文献7】Ozguroglu, M., et al. Am J Clin Oncol. 1999; 22:615-618
【非特許文献8】Meden, H., et al. Int J Biol Markers. 1998; 13:231-237
【非特許文献9】Sato, S., et al. Cancer. 2000;89:582-588
【非特許文献10】http://www.cancer.gov/cancertopics. NCI Ovarian Cancer Screening (PDQ)
【非特許文献11】Sasaroli, D., et al. Biomark Med. 2009 Jun 1; 3(3);275-288
【非特許文献12】Rauh-Hain, J.A., Rev Obstet Gynecol. 2011; 4(1): 15-21
【非特許文献13】Lynam-Lennon, N., et al. Biol Rev Camb Philos Soc. 2009 Feb;84(1):55-71)
【非特許文献14】Zhang, B., et al. J Cell Mol Med. 2008 Jan-Feb;12(1):3-21
【非特許文献15】Jiang J, et al. Nucleic Acids Res. 2005; 28: 5394-5403
【非特許文献16】Tsuda N, et al. Int J Oncol. 2005; 27: 1299-1306
【非特許文献17】Boren T, et al. Gynecol Oncol. 110 (2008) 206-215
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
そこで、本発明者は、従来不可能であった卵巣がんの予後を検査・診断するために、卵巣がんに対するmiR-135の抗がん剤への感受性を基にして、miR-135の抗がん剤に対する感受性が低い場合、つまり、miR-135が過剰発現の場合、卵巣がんが抗がん剤に対する高い抵抗性を有するので、この場合卵巣がんの予後不良として、miR-135を予後マーカーとして卵巣がんの予後を予測することができることを見いだして、本発明を完成した。
【0041】
なお、本明細書では、用語「予後」は、初期治療後の経過予測という意味で使用するものとする。卵巣がんの場合、初期治療は一般的には減量手術とプラチナ製剤による化学療法の組合せになることから(Ann Oncol (January 2005)16(1):4-6)、卵巣がんの予後予測とは、本明細書では、特段の記載がない限り、卵巣がんの減量手術とプラチナ製剤とによる初期治療後の経過予測を意味している。
【0042】
また、本明細書では、用語「miR-135の基準発現量」とは、術後卵巣がんの予後を予測するに当たって比較する卵巣がん摘出手術後のmiR-135の発現量または下図7において説明するように、ROC曲線でmiR-135の発現指数が0.40に対応するmiR-135の発現量を意味するものとする。つまり、術後卵巣がんの予後予測をする時点でのmiR-135の発現量が、該比較発現量よりも低下している場合は、予後が不良になっていると判断又は診断することができる。換言すると、この場合は、卵巣がんが再発ならびに/もしくは転移および/または抗がん剤が有効に作用していないリスクが高いと判断又は診断することができる。反対に、予後予測時点のmiR-135の発現量が該基準発現量と同等かまたは高くなっている場合は、卵巣がんの予後が良好であり、卵巣がんが再発ならびに/もしくは転移および/または抗がん剤が有効に作用していると判断又は診断することができる。
【0043】
さらに、ROC曲線でmiR-135の発現指数が0.40に対応するmiR-135の発現量をmiR-135の基準発現量としたのは、卵巣がんに対する感度ならびに特異度が60%で再発高リスクであり、抗がん剤に対して高抵抗性を有していると判断できるからである。本発明においては、miR-135の発現量がROC曲線での発現指数が0.40を基準にして、その発現指数が0.40より低い場合は予後不良であり、その発現指数が0.40より高い場合は予後良好であると判断する。つまり、卵巣がんが予後不良の場合は、卵巣がんが再発もしくは転移している疑いがあり、また術後投与した抗がん剤が有効に作用していないと判断できる。反対に、卵巣がんが予後良好の場合は、卵巣がんの再発もしくは転移のリスクが低く、また術後投与した抗がん剤が有効に作用している可能性が高いと判断できる。
【0044】
したがって、本発明は、miR-135を卵巣がんの予後マーカーとして使用して卵巣がんの予後を検査・診断することからなる卵巣がんの予後検査・診断方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0045】
上記目的を達成するために、本発明は、卵巣がんの予後検査時点での血液サンプル中の血清miR-135の発現量をPCR法によって半定量的に測定して、その発現量が、卵巣がん摘出手術後の比較サンプル中のmiR-135の基準発現量と比較して低下していることを検査することからなる卵巣がんの予後検査方法を提供することである。
【0046】
本発明はまた、血液サンプル中の血清miR-135の発現量が、比較サンプル中のmiR-135の基準発現量と比較して低下していることによって卵巣がん患者の予後が低下していると予後予測をすることからなる卵巣がんの予後診断方法を提供する。
【0047】
さらに、本発明は、卵巣がんの予後予測時点のmiR-135の発現量が、前記miR-135の基準発現量よりも低い場合は、卵巣がんの予後が不良であることを検査または診断することからなる卵巣がんの予後検査・診断方法を提供する。更に詳細には、本発明は、卵巣がんの予後予測時点のmiR-135の発現量が、前記miR-135の基準発現量よりも低い場合、つまり、対応する卵巣がんの摘出手術後のmiR-135の発現量および/またはROC曲線でのmiR-135の発現指数が0.40に対応するmiR-135の発現量よりも低い場合、卵巣がんの再発ならびに/もしくは転移しているおよび/または術後投与した抗がん剤が有効に作用していない高リスクであることを検査または診断することからなる卵巣がんの予後検査・診断方法を提供する。
【0048】
さらにまた、本発明は、前記miR-135の基準発現量が、対応する卵巣がんの摘出手術後のmiR-135の発現量および/またはROC曲線でのmiR-135の発現指数が0.40に対応するmiR-135の発現量であることからなる卵巣がんの予後検査・診断方法を提供する。
【発明の効果】
【0049】
本発明に係る卵巣がんの予後検査・診断方法は、これまで不可能であった卵巣がんの予後を予測することができることから、術後転移などによる再発の危険性が高い卵巣がんを血液検査のみで早期に発見できることになる。したがって、本発明によって卵巣がんの予後の予測が可能になることから、場合によっては、それまでの治療方針を別の治療方針に早期に変更することができるという大きな利点がある。それによって、進行期の卵巣がんであっても、予後を改善することが可能となり、卵巣がん患者のQOLを著しく改善することができるという極めて大きな効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1はmiR-135を用いた核酸医薬について記載した説明図である。
【図2】図2はmiRNAのスクリーニングに用いた血清サンプルの症例情報を示す図である。
【図3】図3は、特定のmiRNAについてのマイクロアレイによるmiRNA発現量の網羅的解析結果を示す図である。
【図4】図4は、血清中miR-135、miR-630およびmiR-1207のリアルタイムPCR法(Taqman法)による検討結果を示す図である。なお、縦軸は発現指数(Expression Index、miR-135の発現量を標準化したもの)を示す。(実施例2)
【図5】図5は良性疾患を考慮に入れた血清中miR-135の検討を示す図である。
【図6】図6は再発の有無による血清中miR-135の比較検討結果を示す図である。
【図7】図7は、良性疾患患者と卵巣がん患者(臨床進行期III/IV期)におけるmiR-135のReceiver Operating Characteristic曲線(ROC曲線)を示す図である。
【図8】図8は、卵巣がん細胞株SK-OV-3におけるmiR-135のプラチナ感受性を検討した細胞生存試験の結果を示す図である。
【図9】図9は、卵巣がん細胞株をマウスの背中に移植し、造腫瘍能を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明において、卵巣がんの予後は、手術後の維持療法に用いられるプラチナ製剤と呼ばれる抗がん剤への感受性により規定される。基礎実験において、細胞外にmiR-135が多く存在することが、同抗がん剤への感受性に寄与することを証明している。このことから、miR-135の発現量が低い場合にはプラチナ抵抗性であり、標準治療では予後不良である可能性が予見できる。

【0052】
付言すれば、本実施形態に係る卵巣がんの予後検査方法は、生体より採取した血清検体中に含まれるmiR-135を測定し、基準発現量に比してmiR-135の濃度が低い場合と卵巣がんの術後における抗がん剤への抵抗性とを関連付けることによりを卵巣がんの予後不良を検査する方法であるとも言える。

【0053】
また、本明細書では、卵巣がんの細胞増殖抑制や例えばシスプラチンなどの抗がん剤に対する感受性向上のためのmiR-135を用いた核酸医薬や、同核酸医薬の活性化方法についても提供する。

【0054】
miR-135を用いた核酸医薬は、本発明者らの鋭意研究の結果に基づくものであり、具体的には、miR-135を生体内に投与することにより、卵巣がんの細胞増殖が抑制されるとの知見より完成されたものである。

【0055】
このmiR-135を用いた核酸医薬を実現するにあたっては、例えば静脈内投与を可能とするために、miR-135に対して所定の修飾を施したり、別の物理的構成と複合体を形成させることも可能である。miR-135の塩基配列を添付の配列表に配列番号1として示す。なお、核酸医薬として用いる場合は、必ずしも配列番号1に記載している塩基配列と同一である必要はなく、miR-135と同様の効果が発揮できる限りにおいて、欠失、置換若しくは付加がなされていても良いのは言うまでもない。

【0056】
miR-135に対して施される所定の修飾としては、例えば、ホスホロチオエート化や、2'位o-Methyl化を挙げることができ、これらの修飾を施すことにより、生体内におけるmiR-135の切断や分解を抑制して生体内安定性の向上を図ったり、免疫刺激性の低減を図ることができる。

【0057】
また、別の物理的構成との複合体を形成させる例としては、例えば、所謂マイクロバブルやナノバブル等の微細気泡とmiR-135との複合体を挙げることができる。

【0058】
図1に示すように、一般的な核酸医薬の問題点として、生体内での不安定性や、標的臓器への移行性、細胞内への取込効率が挙げられるが、上記微細気泡とmiR-135との複合体よりなる核酸医薬によれば、miR-135自体が微細気泡で保護されるため生体内での安定性を向上させることができ、また、この安定性の向上により標的臓器への到達が助長される。

【0059】
また、特筆すべきは、臓器や細胞近傍において微細気泡が破泡すると、その衝撃により細胞に小さな孔が形成され、同孔を介して微細気泡に内包されていたmiR-135を細胞内に効率良く導入することが可能となる。

【0060】
より具体的には、標的となる卵巣がん細胞の近傍に、miR-135を含む複合体の微細気泡を破泡させるトリガー手段を存在させることにより、標的部位において集中的にmiR-135を卵巣がん細胞内へ移行させることができる。

【0061】
このようなトリガー手段としては、微細気泡を破泡させることが可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば超音波を採用することができる。すなわち、微細気泡とmiR-135との複合体を例えば静脈内投与すると共に、標的部位に対して超音波を照射することで、標的部位近傍にて微細気泡を破泡させ、細胞内に効率良くmiR-135を導入し、卵巣がん細胞の増殖を効果的に抑制したり、抗がん剤の感受性を効果的に向上させることが可能となる。

【0062】
付言するならば、卵巣がん治療のための極めて効率的なドラッグデリバリーシステムの中核をなす核酸医薬を提供することができる。

【0063】
次に、患者血清より抽出したmRNAのmiR-135を用いて半定量的にリアルタイムPCR法によって測定して、卵巣がん患者の予後を推定するために実施した実験を以下に説明する。
【実施例1】
【0064】
図2には、miRNAのスクリーニングに用いた図2に示す卵巣がん患者から採血した血清サンプルの症例情報を示す。図中、症例番号1~6を初回治療終了後半年以内に再発した症例で予後不良群、症例番号7~12を半年以内の再発のなかった症例で予後良好群と分類した。
【実施例1】
【0065】
各患者から採血した血液より血清サンプルを調製し、マイクロアレイを用いて常法に従ってmiRNAの発現量を網羅的に解析した。
【実施例1】
【0066】
具体的には、1,000×g、4℃、10分で遠心分離した血清300μLを16,000×g、4℃、10分で遠心し、上清200μLを血清サンプルとして用いた。次に、血清サンプル200μLからmiRNeasy Mini Kit(Qiagen社、型番:#217004)を用いてRNAを抽出し、抽出されたRNAの全量を用いて、miRNA Complete Labeling Regent and Hyb Kit(Agilent Technologies社、型番:#5190-0456)でラベリングおよびハイブリダイゼーションを行い、SurePrint G3 Human miRNA マイクロアレイ 8×60K(Agilent Technologies社、型番:#031181)で解析した。解析結果をFeature Extraction ソフトウェア(Agilent Technologies社)により数値化し、GeneSpringソフトウェア(Agilent Technologies社)でアノテーションを行った。
【実施例1】
【0067】
この結果、予後不良群と予後良好群との間で差があったmiRNAはmiR-135、miR-630およびmiR-1207であった。miR-135とmiR-630とは予後不良群において低値であった。miR-1207は予後不良群で高値であった。図3はこれらの発現量を示す。
【実施例2】
【0068】
実施例1によるmiRNAについてのマイクロアレイによるmiRNA発現量の網羅的解析の結果、予後不良群の血清サンプルに対して低値であった血清miR-135についてリアルタイムPCR法(Taqman(登録商標)法)にて検討した。本実施例では、良性卵巣腫瘍患者や子宮筋腫や子宮脱などの患者と臨床進行期I/II期(58例)及びIII/IV期(40例)の症例の血清を用いてリアルタイムPCR法(Taqman(登録商標)法)を常法に従って実施した。
【実施例2】
【0069】
具体的には、1,000×g、4℃、10分で遠心分離した血清300μLを16,000×g、4℃、10分で遠心し、上清200μLを血清サンプルとして用いた。次に、血清サンプル200μLとcel-miR-39を混和した溶液をmiRNeasySerum/Plasma Kit(Qiagen社、型番:#217184)を用いて抽出し、50μLの溶液に精製した。このうち5μLを用いて、各miRNAのTaqMan(登録商標)プローブ(型番:hsa-miR-135a*、#002232;hsa-miR-630、#001563;hsa-miR-1207-5p、#241060_mat;cel-miR-39、#000200)と、TaqMan(登録商標)MicroRNA Reverse Transcription Kit(型番:#4366596)を用いて逆転写後、TaqMan(登録商標)Universal Master Mix II, no UNG(型番:# 4440048)を用いて7500 Fast リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)でリアルタイムPCR法を行い、解析した。各miRNAのシグナル値をcel-miR-39のシグナル値で割る事により補正した。
【実施例2】
【0070】
その結果、良性疾患患者および臨床進行期I/II期の卵巣がん患者と比較して、miR-135のみが、スクリーニングの結果と同様に臨床進行期III/IV期の患者の血清で低値であった(Mann-Whitney U Test)。その結果を図4に示す。
【実施例3】
【0071】
図5は、良性疾患を考慮に入れた血清中miR-135の検討結果を示す。本実施例では、良性疾患患者(良性卵巣腫瘍、子宮筋腫、子宮脱、全50例)と臨床進行期I/IIの卵巣癌患者(58例)及びIII/IV期の卵巣癌患者(40例)の血清を用いて、上記と同様にリアルタイムPCR法(Taqman(登録商標)法)による検討を行った。血清中miR-135の発現は、良性疾患患者および臨床進行期I/II期の卵巣癌患者と比較し、臨床進行期III/IV期の患者の血清において低値であった(Mann-Whitney U test)。
【実施例4】
【0072】
図6は再発の有無による血清中miR-135の発現量の比較結果を示す。本実施例では、プラチナ製剤としてシスプラチンを投与した化学療法終了後1年以上の経過観察期間がある卵巣癌患者を、治療終了後に再発した群(再発群)と再発のない群(非再発群)に分類し、血清中miR-135の発現を、上記と同様にリアルタイムPCR法(Taqman(登録商標)法)によって検討した。その結果、再発群の血清中miR-135の発現は非再発群と比較し低値であった(Mann-Whitney U test)。なお、当然のこととして、抗癌剤としては、卵巣がんの治療に使用できるその他のプラチナ系製剤の他に、抗卵巣がん剤も同様に含まれる。さらに、安定化させたmiR135aを2'-O-methyl oligonucleotideと製剤化して、卵巣がん細胞の増殖を抑制するアンチセンス医薬とすることもできる。
【実施例5】
【0073】
図7は、良性疾患患者と卵巣癌患者(臨床進行期III/IV期)におけるmiR-135のReceiver Operating Characteristic 曲線(ROC曲線)を示す。本実施例では、良性疾患患者(良性卵巣腫瘍、子宮筋腫、子宮脱、全50例)と臨床進行期III/IV期の卵巣癌患者(40例)の血清miR-135の発現により、ROC曲線を作図した。発現指数が0.40で感度、特異度共に約60%のカットオフ値が設定できた。
【実施例6】
【0074】
本実施例は、卵巣がん細胞株SK-OV-3におけるmiR-135のプラチナ感受性を検討するために細胞生存試験を行った(図8)。細胞生存試験は、卵巣がん細胞株SK-OV-3にmiR-135を強制発現させ、プラチナ系抗がん剤であるシスプラチンに暴露させた後、実施例2におけるリアルタイムPCR法(Taqman(登録商標)法)と実質的には同様に実施した。その結果、強制発現させたmiR-135はコントロールと比較し、卵巣がん細胞株のシスプラチン感受性を亢進させた。
【実施例7】
【0075】
本実施例では、卵巣がん細胞株をマウスの背中に移植し、造腫瘍能を調べた。コントロールとしてのmiR-blankを導入した細胞とmiR-135aを導入し過剰発現させた細胞を使用した。10週間の観察の結果、miR-135aを過剰発現させた細胞を移植したマウスでは腫瘍はほとんど増殖しなかった(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る卵巣がんの予後検査・診断方法は、術後の卵巣がんの再発、または他の臓器への転移などについての予後予測を可能にすることによって、卵巣がん摘出手術後投与されるプラチナ製剤の有効性をも検査することができることになる。本発明は、ひいては、卵巣がんの早期発見につながる技術の開発に発展するものと期待できる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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