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明細書 :藻類バイオマスの生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-029901 (P2016-029901A)
公開日 平成28年3月7日(2016.3.7)
発明の名称または考案の名称 藻類バイオマスの生産方法
国際特許分類 C12P   7/64        (2006.01)
C12N   1/12        (2006.01)
FI C12P 7/64
C12N 1/12 C
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2014-152585 (P2014-152585)
出願日 平成26年7月28日(2014.7.28)
発明者または考案者 【氏名】三角 修己
【氏名】齋藤 貴史
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100137512、【弁理士】、【氏名又は名称】奥原 康司
【識別番号】100178571、【弁理士】、【氏名又は名称】関本 澄人
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
4B065
Fターム 4B064AD87
4B064CA08
4B064CC30
4B064DA16
4B065AA83X
4B065AC14
4B065BC48
4B065BC50
4B065BD50
4B065CA13
4B065CA60
要約 【課題】本発明は、トリアシルグリセロール(TAG)を高い含有率で含有する藻類の培養方法の提供を目的とする。また、本発明は、トリアシルグリセロールの合成材料となる遊離脂肪酸を高い含有率で含有するの培養方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、窒素含有培地で、赤色光照射環境下または青色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類を培養する工程を含む、遊離脂肪酸またはTAG高含有藻類を生産する方法に関する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
窒素含有培地で、赤色光照射環境下または青色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類を培養する工程を含む、遊離脂肪酸またはトリアシルグリセロール(TAG)高含有藻類を生産する方法。
【請求項2】
赤色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類を培養する工程を含む、TAG高含有藻類を生産する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
赤色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類を培養する工程の前に、青色光照射環境下で藻類を培養する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
赤色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類の培養を開始する前に、該藻類の細胞密度を希釈する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
青色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類を培養する工程を含む、遊離脂肪酸高含有藻類を生産する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記赤色光の波長が、600 nm~700 nmの範囲に含まれる波長である請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記青色光の波長が、400 nm~500 nmの範囲に含まれる波長である請求項1または請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記イデユコゴメ綱に属する藻類が、シアニディオシゾン属、シアニジウム属またはガルデリア属に属する藻類であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記シアニディオシゾン属に属する藻類が、シアニディオシゾン・メローラエであることを特徴する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかの方法によって生産されるイデユコゴメ綱に属する藻類。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアシルグリセロールまたは脂肪酸を多く含有する藻類を、効率的に生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境・エネルギー問題の解決策の1つとして、クリーンな再生可能エネルギーが注目されている。化石燃料の代替として太陽光や風力などともに、バイオマスエネルギーもその有力な候補の1つと考えられている。今のところ、再生可能エネルギーの中でバイオマスエネルギーのみが液体燃料を供給することが可能な技術である。液体燃料は電池と比較してエネルギー密度がはるかに大きく、貯蔵と輸送が容易であるために航空機などの大型輸送には今後も液体燃料が不可欠とされている。
微細藻類は光合成によって固定した二酸化炭素を原料として糖(でんぷん)のみならず、脂肪酸やトリアシルグリセロールを生合成する。これらの脂質の性状はディーゼルやジェット燃料に向いており、藻類由来のバイオディーゼルの研究が盛んに行われている。
【0003】
通常、微細藻類は十分な窒素やリンが存在する至適条件の培養条件下では活発に光合成を行い、糖(でんぷん)を合成しながら細胞分裂による増殖を行う。
近年、光合成産物として脂質を大量に蓄積するボトリオコッカスやシュードコリシスチスといった微細藻類が注目され、バイオ燃料生成のための研究に使われている。例えば、ディーゼル燃料の代替燃料として利用できる炭化水素を生産するために、シュードコリシスチス属の微細藻類を窒素欠乏状態で培養する方法(特許文献1)、あるいは、ワックスエステルを製造するために、微細藻類ユーグレナを窒素飢餓状態で培養する方法(特許文献2)などが報告されている。
【0004】
しかしながら、藻類一般において、培地中の窒素やリンが不足すると、細胞の増殖や光合成が停止するという普遍的な応答が見られる。つまり、微細藻類の細胞を窒素欠乏条件に曝して脂質合成を誘導することによって、同時に細胞増殖の停止や光合成反応の停止が起こり、脂質を蓄積した細胞はやがて死んでしまうため、効率的なバイオ燃料の製造を行うことは、難しい。そのため、従来の窒素飢餓状態等において培養する方法による場合には、継続的なバイオマス生産を行うために、培地の交換や細胞の追加供給を人為的に繰り返し行わなくてはならない。このような煩雑な工程は、実験室レベルの小規模な培養条件であれば実現可能であるが、商業化を目指した大規模な培養になると、培地の交換や細胞の回収に莫大なコストがかかることになるため、産業上、実用化するのは現実的に困難である。
このような状況において、コスト面や作業効率の面を考えて、低コストで簡便な脂質合成誘導方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】WO2006/109588
【特許文献2】特開2012-23977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、バイオ燃料の原料になるトリアシルグリセロール(TAG)を高い含有率で含有する藻類の培養方法を提供する。
また、本発明は、トリアシルグリセロールの合成材料となる遊離脂肪酸を高い含有率で含有する藻類の培養方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、イデユコゴメ綱のシアニディオシゾン属に含まれるシアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)(以下、「シゾン」と記載する場合もある)を用いて、窒素含有培地、および、窒素欠乏培地の両条件下でそれぞれ光波長を変えて、培養を行い、細胞増殖・脂質の蓄積に関して検討を行った。まず、白色、赤色(660nmにピーク)、青色(445nmにピーク)の3波長の条件を設定し、光波長が細胞増殖に及ぼす影響を調べた。次に、同様の3波長の条件で培養した際に、光波長がトリアシルグリセロールの合成・蓄積に及ぼす影響について、細胞内の遊離脂肪酸・トリアシルグリセロールを染色する蛍光試薬を用いて、細胞内の脂質の動態を培養開始から経時的に調べた。
その結果、窒素含有培地において赤色単波長を照射することにより、健全に細胞を増殖させながら細胞内にトリアシルグリセロールを高い含有率で蓄積させることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(10)である。
(1)窒素含有培地で、赤色光照射環境下または青色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類を培養する工程を含む、遊離脂肪酸またはトリアシルグリセロール(TAG)高含有藻類を生産する方法。
(2)赤色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類を培養する工程を含む、TAG高含有藻類を生産する上記(1)に記載の方法。
(3)赤色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類を培養する工程の前に、青色光照射環境下で藻類を培養する工程を含む、上記(2)記載の方法。
(4)赤色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類の培養を開始する前に、該藻類の細胞密度を希釈する工程を含む、上記(3)に記載の方法。
(5)青色光照射環境下でイデユコゴメ綱に属する藻類を培養する工程を含む、遊離脂肪酸高含有藻類を生産する上記(1)に記載の方法。
(6)前記赤色光の波長が、600nm~700nmの範囲に含まれる波長である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法。
(7)前記青色光の波長が、400nm~500nmの範囲に含まれる波長である上記(1)または、上記(3)ないし(5)のいずれかに記載の方法。
(8)前記イデユコゴメ綱に属する藻類が、シアニディオシゾン属、シアニジウム属またはガルデリア属に属する藻類であることを特徴とする上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の方法。
(9)前記シアニディオシゾン属に属する藻類が、シアニディオシゾン・メローラエであることを特徴する上記(8)に記載の方法。
(10)上記(1)ないし(9)のいずれかの方法によって生産されるイデユコゴメ綱に属する藻類。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、脂質、特に、トリアシルグリセロール(TAG)を高い含有率で含有する藻類(例えば、イデユコゴメ綱に含まれる藻類)を生産することが可能となる。
【0010】
また、本発明により、遊離脂肪酸を高い含有率で含有する藻類(例えば、イデユコゴメ綱に含まれる藻類)を生産することが可能となる。
【0011】
特に、本発明の方法は、従来のように窒素源を欠乏させることなく、窒素含有培地で培養することができるため、藻類の増殖を抑制することがなく、健全な増殖環境を保ちながらの培養が可能である。そのため、継続的な培養を行うことにより、藻類から得られるTAGの総量を従来技術と比較して、増大させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の方法によれば、トリアシルグリセロール(TAG)高含有の藻類を、その増殖に影響を与えることなく、大量に培養することができるため、本発明の方法は、バイオ燃料の効率的な提供を可能にする効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本願実施例において使用した、培養装置を示す。なお、実施例においてコントロールとして照射した白色光の波長分布は、Red:Green:Blue=1:0.5:0.3である。
【図2】図2は、実施例に示す培養条件1の各培養条件を示す。+Nは窒素源添加条件、-Nは窒素源非添加条件を示す。
【図3】図3は、窒素を含む培地(+N)または窒素を含まない培地(-N)で、赤色光、青色光および白色光を照射する環境において、シゾンを培養し、経時的に細胞数を測定した結果を示す。赤、青、白は、各々、赤色光、青色光、白色光を照射する環境で培養したことを示す。
【図4】図4は、窒素を含む培地(+N)または含まない培地(-N)でシゾンを72時間、赤色光、青色光、白色光を照射する環境で培養した後、細胞を固定後、BODIPYで染色し、蛍光顕微鏡で観察した結果を示す。矢尻は、BODIPYで染色されたTAGが蓄積している部分を示す。各培養条件における写真の左は位相差顕微鏡像、右は蛍光顕微鏡像である。
【図5】図5は、シゾンを、窒素を含む培地で、72時間、赤色光(赤+N 72hr)、青色光(青+N 72hr)または白色光(白+N 72hr)を照射する環境下において培養した場合、また、青色光を照射して120時間培養後、さらに、赤色光を照射して72時間培養した場合(青→赤+N 72hr)、あるいは、窒素を含まない培地で、白色光を照射して72時間培養した場合(白-N 72hr)において、細胞あたりに蓄積されるTAGと遊離脂肪酸の割合を調べた結果を示す。グラフ内の数字は、各条件における TAGと遊離脂肪酸の割合(%)を示す。
【図6】図6は、図5に示すTAGの存在割合について、窒素存在下、白色光の照射条件で培養した場合のTAGの割合(図5においては、3.2%)を1として、各条件における細胞あたりのTAG量を相対値として示したグラフである。
【図7】図7は、遊離脂肪酸について、図6と同様にして、各条件における遊離脂肪酸の量を相対値として示したグラフである。
【図8】図8は、図6に示す細胞あたりのTAGの相対値に、各条件で増殖したシゾンの細胞の総数(図3の72時間培養した時点の各条件における細胞数)を乗した値を示したグラフである。
【図9】図9には、実施例に示す培養条件2による実験概要を示す。
【図10】図10は、窒素を含む培地(+N)で、シゾンを青色光照射条件で120時間培養した後、培養液を希釈せずに、光条件を赤色光照射条件に変えて、さらに48時間培養し、細胞内におけるTAGの蓄積状況をBODIPY染色により観察した結果である。24hr、48hrは、各々、光条件を変えてから24時間、48時間培養後にBODIPY染色を行った細胞を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す。矢尻は、TAGが蓄積されているLB(Lipid body)を示す。左は位相差顕微鏡像、右は蛍光顕微鏡像である。
【図11】図11には、実施例に示す培養条件3による実験概要を示す。
【図12】図12は、窒素を含む培地(+N)で、シゾンを、青色光照射条件で120時間培養した後、細胞密度を希釈し、赤色光照射条件で、さらに、120時間培養し、光条件を赤色光照射条件に変えてから、経時的に細胞数を測定した結果を示す。
【図13】図13は、窒素を含む培地(+N)で、シゾンを、青色光照射条件で120時間培養した後、細胞密度を希釈し、赤色光照射条件で、さらに、120時間培養し、光条件を赤色光照射条件に変えてから、経時的に細胞をサンプリングして、細胞を固定後、BODIPYで染色し、蛍光顕微鏡で観察した結果を示す。矢尻は、BODIPYで染色されたTAGが蓄積している部分を示す。各培養条件における写真の左は位相差顕微鏡像、右は蛍光顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、窒素含有培地で、赤色光照射環境下または青色光照射環境下で藻類を培養する工程を含む、TAGまたは遊離脂肪酸を高い高含率で含有する藻類を生産する方法である。
まず、本発明の藻類としては、脂質を合成し、蓄積する藻類であればよく、好ましくは、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)、イデユコゴメ目(Cyanidiales)、イデユコゴメ科(Cyanidiaceae)に属する、シアニディオシゾン属(Cyanidioschyzon)、シアニジウム属(Cyanidium)およびガルデリア属(Galdieria)を挙げることができる。

【0015】
本発明において、藻類の培養に用いられる培地は、培養する藻類に応じて、適切な培地を用いることが好ましく、培地の選択は、当業者であれば、その技術常識に従って、容易に行うことができる。例えば、シアニディオシゾン属、シアニジウム属またはガルデリア属に属する藻類の培養を行う場合には、これらの属の藻類が自然環境下において、pHが1~3、温度が40℃~60℃といった環境に生息していることから、培地としては、酸性の培地を選択する必要がある。具体的に、培地としては、限定はしないが、例えば、2倍濃度のアレン培地(2×Allen培地)などが通常用いられる。2×Allen培地とは、培養条件等によって、多少の組成の変更はあり得るが、基本的には、表1に示す組成からなる(窒素を含む場合)。培地を使用する場合には、オートクレーブ(加熱滅菌)を行う。
【表1】
JP2016029901A_000002t.gif
【表2】
JP2016029901A_000003t.gif
なお、例えば、特許第4180059号に開示される培地組成等を参考に培養することもできる。

【0016】
また、本発明において、藻類を培養する場合、上記のように、培養対象の藻類に適した培地を選択し、培地中に窒素源となる組成物を添加することが好ましい。藻類を培養する温度や培地のpHについても、培養対象の藻類に適した条件を適宜選択することが可能である。例えば、限定はしないが、培養対象の藻類が、イデユコゴメ綱に属する藻類である場合には、温度が40~60℃程度、pHが1~4、より好ましくはpHが1~3程度の条件で培養してもよい。また、培養の形態は、培養する藻類の性質に応じて、固形培地での培養、液体培養のいずれであってもよいが、大量培養を行う場合には、液体培養が好ましい。

【0017】
本発明の方法は、細胞内に高い含有量の遊離脂肪酸(遊離脂肪酸高含有と記す)またはTAG(TAG高含有と記す)を含む藻類を生産する方法である。本発明の方法において、赤色光照射環境下で藻類を培養する工程を含む場合には、TAG高含有藻類を生産することができる。また、本発明の方法において、青色光照射環境下で藻類を培養する工程を含む場合には、遊離脂肪酸高含有藻類を生産することができる。さらに、本発明の方法において、青色光照射環境下で藻類を培養する工程の後に、さらに、赤色光照射環境下で藻類を培養する工程を含む場合においても、TAG高含有藻類を生産することができる。

【0018】
藻類を培養する環境は、実験室で行うような比較的少量の培養環境であっても、工業的な生産のための大規模な培養環境のいずれであってもよく、青色または赤色の光を照射する環境としては、照射する光が培養される藻類に可能な限り満遍なく照射できる環境が好ましい。例えば、実験室レベルの少量の培養の場合、図1に示すような、四方から光が照射されるような環境において培養してもよく、あるいは、1方向からの照射であっても、培養される藻類全体に光が十分照射されるような環境であれば、いかなる環境であってもよい。また、工業的な生産のための大規模な培養の場合も、実験室レベルの環境の場合と同様に、培養される藻類全体に光が十分照射される環境であれば、特に限定はされない。

【0019】
本発明において、赤色光としては、例えば、600nm~700nmの波長であり、中心波長を650nm~670nmとする単波長光が好ましく、また、青色光としては、例えば、400nm~500nmの波長であり、中心波長を440nm~460nmとする単波長光が好ましい。
また、赤色光および青色光の光量(強度)は、特に限定はされないが、例えば、光量子束密度で、1~100 μmol/m2s、あるいは、50~500 μmol/m2s、好ましくは100~200 μmol/m2s、より好ましくは100~150 μmol/m2s程度である。

【0020】
赤色光または青色光を照射するために使用する光源としては、公知の光源を用いることができ、特に、限定されるものではない。光源としては、照射する光の波長を容易に選択することができるものが好ましく、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)などが好適に使用可能である。特に、光源としては、消費電力が少なく、長寿命のLEDが好ましい。
また、蛍光灯光源をセロファンで覆い、特定波長のみを照射する方法も、簡便に利用可能である。

【0021】
赤色光照射環境下で藻類を培養し、TAG高含有藻類を生産する場合、赤色光を照射して培養を行う時間は特に限定されず、藻類の増殖状況およびTAGの細胞内における蓄積状況を観察しながら適宜培養時間を設定することが可能である。藻類がイデユコゴメ綱に属する藻類の場合、例えば、5 × 107細胞/ml程度で培養を開始した場合、培養時間としては、例えば、24時間以上、48時間以上、好ましくは、72時間以上、より好ましくは120時間以上培養してもよい。また、培養後に細胞密度がプラトーに達した後、希釈により細胞密度を下げた後、さらに培養を行ってもよい。
また、青色光照射環境下で藻類を培養し、遊離脂肪酸高含有藻類を生産する場合、青色光を照射して培養を行う時間は特に限定されず、藻類の増殖状況および遊離脂肪酸の細胞内における蓄積状況を観察しながら適宜培養時間を設定することが可能である。藻類がイデユコゴメ綱に属する藻類の場合、例えば、5 × 107細胞/ml程度で培養を開始した場合、培養時間としては、例えば、24時間以上、48時間以上、好ましくは、72時間以上、より好ましくは120時間以上培養してもよい。また、培養後に細胞密度がプラトーに達した後、希釈により細胞密度を下げた後、さらに培養を行ってもよい。

【0022】
本発明には、青色光照射環境下で藻類を培養した後、さらに、赤色光照射環境下で藻類を培養し、TAG高含有藻類を生産する方法が含まれる。
藻類を青色光照射環境下で培養を行うと、細胞質により多くの遊離脂肪酸が蓄積される(実施例を参照のこと)。遊離脂肪酸は、TAGを合成するための基質として使用されることを考慮し、本願発明者らは、青色光照射環境下で培養して、遊離脂肪酸が蓄積された藻類を、さらに、赤色光照射環境下で培養を行うと、藻類の細胞内で合成されるTAGの量が増加し、TAGをより多く含有する藻類の生産が可能であることを初めて見出した。
ここで、藻類の培養環境を、青色光照射環境下から赤色光照射環境下へ変えるタイミングは、特に限定されない。上記の説明にあるように、TAGの基質となる遊離脂肪酸の細胞内における蓄積量が多いほど、さらに、赤色光照射環境下で培養した藻類の細胞内に蓄積されるTAGの量が多くなる。従って、当業者であれば、予備的な実験を行うことで、青色光の照射時間と最終的に細胞内に蓄積されるTAGの量との関係を検討することができ、その検討結果に基づいて、青色光照射環境から赤色光照射環境へ変えるタイミングを設定することが可能である。
特に、藻類がイデユコゴメ綱に属する藻類の場合、例えば、青色光環境下で培養を開始するときに細胞密度、5 × 107細胞/ml~5 × 108細胞/ml程度とした場合、遊離脂肪酸の蓄積量が、白色光(例えば、波長分布が、赤:緑:青=1:0.5:0.3)の照射環境下(照射する光以外の波長は同じ培養条件)で培養した場合の約1.5倍程度以上になった時期以降(例えば、青色光照射環境下で培養を開始後、約72時間後以降、図7を参照のこと)を赤色光照射環境に変えるタイミングとして例示することができるが、特に、このタイミングに限定されるものではない。

【0023】
また、青色光を照射して培養した後、赤色光を照射する環境下で培養を開始する時に、培養する細胞の密度を、希釈してから培養を開始すると(例えば、対数増殖期の細胞密度、例えば、5 × 107細胞/ml程度に希釈)、赤色光環境下で増殖する細胞数を増加させることができ、その結果、藻類の細胞内に蓄積される TAGの総量(1細胞当たり蓄積されるTAG量に増殖した細胞の総数を乗した量)を増やすことができる。

【0024】
本発明の方法によって生産された藻類から、TAGまたは遊離脂肪酸を抽出する方法は、公知の方法に従って容易に実施することができる。
例えば、TAG高含有藻類の細胞から抽出液を調製し、その抽出液から有機溶媒によって脂質を抽出し、有機溶媒を除去したのち、得られた総脂質から適当な分離方法(例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)法)により、目的のTAGを分離することができる。
有機溶媒による抽出過程は、例えば、Bligh-Dyer抽出法(EG Bligh, WJ Dyer (1959) A rapid method of total lipid extraction and purification Canadian Journal of Biochemistry and Physiology, 137(8): 911-917)などにより行うことができる。
また、工業的な分離方法については、例えば、Journal of Microbilogical Methods 94:235-244, 2013、または、アメリカエネルギー省のロードマップ、"Energy Efficiency & Renewable energy, BIOMASS PROGRAM May 2010などに記載されている。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
材料および培養装置・培養方法
本実施例においては、単細胞紅藻Cyanicioschyzon merolae 10D株(以下、「シゾン」と記す)を用いた。シゾンは高温・硫酸酸性の強酸性(42 ℃、pH1-3)の極限環境下に生息する温泉藻であり、細胞壁を持たず、核、ミトコンドリア、葉緑体、ペルオキシソーム、ゴルジ体などの細胞小器官をそれぞれ1つずつもつという単純な構造をしている。そのゲノムサイズは、16.5 Mbpと他の藻類と比較しても非常に小さい。核、ミトコンドリア、葉緑体のゲノム解読が終了していることから、遺伝子ターゲッティング技術も確立している。
培養は、RGB型LEDを光源とした人工気象器(図1)、および試験管を用いて、42 ℃で通気培養を行った。培地は2×Allen培地(表1および2を参照)、および窒素欠乏2×Allen培地(表3)を用いた。光照射条件については、後述の「培養条件」の部分に記載した。また、実験に使用する前のシゾンの培養(株を維持している段階)は、2×Allen培地中、蛍光灯下での振盪培養である。
【表3】
JP2016029901A_000004t.gif
【実施例】
【0027】
実施例1:培養条件1
1.培養条件
蛍光灯下で振盪培養していたシゾン細胞(OD750=2~4)をOD750=0.2~0.4程度にまで希釈し、上記の培養方法、2×Allen培地、RGB型LED白色光条件(図1)、光量子束密度: 120 μmol/m2・secで24~48 時間培養したものを前培養後細胞(0 hr細胞)とした。
この細胞は、対数増殖期の細胞で健全な細胞であり、以下、前培養後細胞は全てこの条件で培養を行った細胞である。
前培養後細胞(0 hr)を一部(5.0 × 107細胞)とり、3つの光条件(白、赤、青;図1)で、120 hr、+N(窒素添加)と-N(窒素非添加)でそれぞれ培養した(図2)。3つの光条件は、白色光(RGB型)、赤色光(660 nmに波長極大)、青色光(445 nmに波長極大)である。白色光条件は光条件におけるコントロールである。
【実施例】
【0028】
2.培養液の色調観察、細胞数の測定
培養条件1の120 hrまでの培養液を24 hrごとに経時的にサンプリングし、その色調を撮影すると同時に、トーマ血球計算盤を用いて細胞数を測定した。
培養液の色調は、細胞が増殖するに従って、緑色を呈してきた(データは示さず)。窒素の存在下および非存在下において、赤色光、青色光、白色光の照射環境において培養したときの細胞数を経時的に測定した結果を図3に示す。窒素を含まない培地で培養した場合には、赤色光、青色光、白色光のいずれの照射環境においても、細胞の増殖が抑制されたが、特に、青色光の照射環境での抑制の程度が大きかった。
他方、窒素を含む培地で培養した場合には、いずれの光の照射環境においても、窒素を含まない場合よりも細胞の増殖率が増大し、特に、赤色光での細胞の増殖が著しかった。
【実施例】
【0029】
3.蛍光顕微鏡観察(BODIPY蛍光観察)
培養条件1において、120 hr培養を行い、培養の間、細胞を24 hrごとに経時的にサンプリングし、1%グルタルアルデヒド固定、1×PBSで2回洗浄した後、脂質(Triacylglycerol;TAG)と、遊離脂肪酸を染色する蛍光プローブBODIPY (4,4-Difluoro-1,3,5,7,8-Pentamethyl-4-Bora-3a,4a-Diaza-s-Indacene:BODIPY(登録商標) 493/503)を用いて染色した(染色時間は30 分以上)。細胞は、染色後、再度1×PBSで洗浄し、光学顕微鏡(OLYMPUS)で観察した。BODIPY蛍光はブルー励起光(490 nm)を照射すると黄緑色の蛍光として観察される。
図4に、培養72時間後の蛍光顕微鏡写真を示す。矢尻はTAGが蓄積している部分を示す。BODIPYによる染色部分は、TAGが蓄積している部分(LB;Lipid bodyと称する)の周囲にも存在しており、この部分には、主に遊離脂肪酸が存在していると考えられる。窒素を含む培地では、赤色光照射環境においてのみ複数のLBの形成が観察された。
【実施例】
【0030】
4.BODIPY蛍光画像の解析
BODIPYで染色した細胞の蛍光画像について、BODIPY蛍光輝度を、画像解析ソフトImageJを用いて測定した。各サンプリング時間における画像の中からそれぞれ90細胞ずつをランダムに選択し、1細胞あたりののBODIPY蛍光輝度(総BODIPY輝度)を測定した。
BODIPY(登録商標)493/503で染色されている部分のうち、球(丸)状の構造はTAG、それ以外の周囲の部分は遊離脂肪酸が存在すると考えられる。そこで、次に、各時間の画像の10細胞をランダムに選択し、1細胞あたりの球状の蛍光輝度(図4において矢尻で示す部分)のみを測定した。この輝度をTAGの輝度とし、前述の総BODIPY輝度におけるその割合を求めることで、蛍光輝度から、1細胞あたりのTAG量と遊離脂肪酸量の割合を見積もった(図5)。窒素を含む培地でシゾンを培養した場合、赤色光を照射する環境で培養するとTAGの割合が増加することが分かった。
【実施例】
【0031】
図6は、図5に示すTAGの比率のうち、窒素存在下、白色光の照射条件で培養した場合のTAGの割合(図5においては、3.2の比率)を1として、各条件におけるTAG量を相対値として示したグラフである。図7は、遊離脂肪酸について、図6と同様にして、各条件における遊離脂肪酸の量を相対値として示したグラフである。
窒素を含む培地で、赤色光、青色光、白色光の照射環境で培養すると、赤色光を照射する環境下で培養した場合に、細胞あたりに蓄積されるTAGの量が一番多かった(図6)。他方、遊離脂肪酸については、青色光を照射する環境下で培養した場合に、細胞あたりの量が一番多かった(図7)。
図8は、異なる光照射条件下で培養した場合に得られる全細胞に蓄積されるTAGの量を相対値として示したグラフである。図6は細胞あたりのTAGの蓄積量を示しているが、この値に各条件で増殖した細胞数を乗ずると、各条件で得られる全細胞に蓄積されるTAG量(各培養条件で蓄積されるTAGの総量)を見積もることができる。図8から、窒素を含む培地で培養した場合、白色光、青色光、赤色光の各条件では、赤色光の照射環境で培養した場合に、シゾンによって生産される総TAG量が最も多いことが分かった
【実施例】
【0032】
上記の結果を検討すると、窒素を含む培地で培養する場合、赤色光を照射する条件において、シゾン細胞内でのTAGの合成が最も促進されると考えられる。これに加え、遊離脂肪酸については、青色光を照射する条件がもっとも遊離脂肪酸が蓄積すると考えられる。
そこで、上記結果と、遊離脂肪酸がTAGの合成基質になることを考慮し、青色光照射環境で培養した後、光条件を赤色光照射条件に変えて、さらに培養することで、TAGの合成量がより増大する、との作業仮説を立て、その検証を次に行った。
【実施例】
【0033】
実施例2:培養条件2
1.培養条件
培養条件1において、青色光、+N条件で120 hr培養した培養液をそのまま希釈せずに、光条件を赤色光条件に切り替えて48 hr培養した(図9参照)。培養方法、培養温度、光量子束密度はすべて培養条件1と同様である。
【実施例】
【0034】
2.蛍光顕微鏡観察
青色光、+N条件で120 hr培養した培養液をそのまま希釈せずに、光条件を赤色光条件に切り替えて48 hr培養した後、24hr、48 hr後にサンプリングし、培養条件1の場合と同様の方法で固定・染色し、蛍光観察した(図10)。
青色光照射条件から赤色光照射条件に切り替えて培養した結果、予想した通り、窒素を含む培地で培養したにも関わらず、窒素飢餓条件と同程度にTAGが、シゾンの細胞内に蓄積されることが分かった。
そこで、次に、光条件を変えることによる増殖への影響を検討し、TAGの蓄積との相関について調べることにした。
【実施例】
【0035】
実施例3:培養条件3
1.培養条件
培養条件1において、青色光条件下、窒素を含む培地で120時間培養した細胞を、フレッシュな2×Allen培地で希釈して、細胞密度を5.0 × 107細胞/mlとし、赤色光条件下、窒素を含む培地で、さらに、120時間培養した(図11を参照)。培養方法は、培養条件1と同様である。
【実施例】
【0036】
2.培養液の色調観察、細胞数の測定
赤色光照射条件に変えてから120 hrまでの培養液を、24 hrごとに経時的にサンプリングし、その色調を撮影すると同時に、トーマ血球計算盤を用いて細胞数を測定した。
培養液の色調は、経時的に緑色を増し(データは示さず)、細胞数も増加しており、光条件を赤色に変更することによって、細胞の増殖に対する影響は特に認められなかった(図12)。
【実施例】
【0037】
3.蛍光顕微鏡観察(BODIPY蛍光観察)
培養条件3において、赤色光照射条件に変えた後、24 hrごとに経時的にサンプリングし、1%グルタルアルデヒド固定後、1×PBSで2回洗浄した後、培養条件1および2と同様にBODIPYを用いて染色した。図13に、蛍光顕微鏡写真を示す。矢尻はTAGが蓄積している部分(LB)を示す。
また、図13の蛍光顕微鏡画像のBODIPYの輝度を、培養条件1に記載した方法と同様に測定し、TAGの蓄積量を算出した。その結果、青色光照射条件での培養後、細胞密度を希釈後、赤色光照射条件で細胞を培養すると細胞に蓄積されるTAGの量は、光条件を変化させないで、赤色光、青色光および白色光の照射条件でのみ培養した場合のTAG蓄積量に比較して、顕著に増大していることが分かった(図6、青→赤 +N 72 hr)。また、培養条件3で培養した場合、合成されるTAGの総量も増大していた(図8、青→赤 +N 72 hr)。
以上の結果から、青色光照射条件から赤色光照射条件に変えるときに、細胞を希釈すると、最終的に得られる細胞数を増大させることができるので、細胞から得られるTAGの総量を増加させることが可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、脂質を高い含有率で細胞内に蓄積する微細藻類の生産方法を提供する。本発明の方法によって生産された藻類は自然界に存在する藻類よりも多くの脂質、特に、燃料を生産するための原料となるTAGを多く含有する。従って、本発明は、ディーゼル等の燃料を効率的かつ安価に生産する上で、有用な方法を提供する。
図面
【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【図13】
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