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明細書 :電子顕微鏡観察試料の調製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-085119 (P2016-085119A)
公開日 平成28年5月19日(2016.5.19)
発明の名称または考案の名称 電子顕微鏡観察試料の調製方法
国際特許分類 G01N   1/28        (2006.01)
G01N   1/36        (2006.01)
FI G01N 1/28 F
G01N 1/28 K
G01N 1/28 R
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2014-217925 (P2014-217925)
出願日 平成26年10月27日(2014.10.27)
発明者または考案者 【氏名】祐村 恵彦
【氏名】沖田 圭丞
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100096482、【弁理士】、【氏名又は名称】東海 裕作
【識別番号】100188352、【弁理士】、【氏名又は名称】松田 一弘
【識別番号】100131093、【弁理士】、【氏名又は名称】堀内 真
【識別番号】100150902、【弁理士】、【氏名又は名称】山内 正子
【識別番号】100177714、【弁理士】、【氏名又は名称】藤本 昌平
【識別番号】100141391、【弁理士】、【氏名又は名称】園元 修一
【識別番号】100198074、【弁理士】、【氏名又は名称】山村 昭裕
審査請求 未請求
テーマコード 2G052
Fターム 2G052AA33
2G052DA05
2G052EB08
2G052EB13
2G052EC03
2G052FA02
2G052FA03
2G052FD06
2G052GA33
2G052JA09
2G052JA15
要約 【課題】細胞構造の破壊がなく、細胞内の本来の微細構造を観察することが可能な電子顕微鏡観察試料の調製方法を提供する。
【解決手段】(a)表面をカーボン又は貴金属の薄膜でコーティングした熱伝導性フィルムを固定器具で固定する工程;(b)工程(a)で固定した熱伝導性フィルムに細胞を接着させる工程;(c)工程(b)で細胞を接着させた熱伝導性フィルムを、-150℃以下に冷却した冷却剤に浸漬させて細胞を急速凍結する工程;(d)工程(c)で急速凍結した細胞から電子顕微鏡観察試料を作製する工程;を行う。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程(a)~(d)を備えたことを特徴とする電子顕微鏡観察試料の調製方法。
(a)表面をカーボン又は貴金属の薄膜でコーティングした熱伝導性フィルムを固定器具で固定する工程;
(b)工程(a)で固定した熱伝導性フィルムに細胞を接着させる工程;
(c)工程(b)で細胞を接着させた熱伝導性フィルムを、-150℃以下に冷却した冷却剤に浸漬させて細胞を急速凍結する工程;
(d)工程(c)で急速凍結した細胞から電子顕微鏡観察試料を作製する工程;
【請求項2】
カーボン又は貴金属の薄膜が親水処理されていることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡観察試料の調製方法。
【請求項3】
冷却剤が、液体プロパン又は液体イソペンタンであることを特徴とする請求項1又は2記載の電子顕微鏡観察試料の調製方法。
【請求項4】
固定器具がOリングであることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の電子顕微鏡観察試料の調製方法。
【請求項5】
工程(d)において、工程(c)で急速凍結した細胞を樹脂で包埋し、細胞を包埋した樹脂から熱伝導性フィルムを剥離し、超薄切片を作製することを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の電子顕微鏡観察試料の調製方法。
【請求項6】
表面をカーボン又は貴金属の薄膜でコーティングした熱伝導性フィルムと、該熱伝導性フィルムを固定するための固定器具を備えたことを特徴とする電子顕微鏡観察試料の調製キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞構造の破壊がなく、細胞内の本来の微細構造を観察することが可能な電子顕微鏡観察試料の調製方法や、かかる調製方法に用いるための電子顕微鏡観察試料の調製キットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内の微細構造の観察には、高分解能を持つ電子顕微鏡での観察が必須である。電子顕微鏡で観察するためには、電子線を用いるため、真空内で観察する必要がある。しかし、細胞の成分のうち80%以上が水であるため、真空中で細胞を生きたまま電子顕微鏡で観察するのは困難である。
【0003】
そこで、従来、グルタルアルデヒドなどの架橋剤による化学固定法により、細胞内の構造を架橋して固定し、アルコールによって脱水して観察する方法が一般的であった。しかし、架橋剤は細胞内への浸透が遅く、固定するまでに構造が変化し、細胞内の本来の微細構造は維持されないという問題があった。
【0004】
化学固定法の問題を克服するため、細胞を瞬時に急速凍結することで、生きたままの細胞内構造を観察する方法が提案されている。細胞を瞬時に急速凍結する方法としては、たとえば、透過型電子顕微鏡を用いて生物試料を観察するための試料を作製するために、生物試料を液体ヘリウム温度に冷却した金属ブロックに短時間押し付けて急速に凍結固定する方法(特許文献1参照)や、エタンを10~90%の割合でプロパンと混合した混合冷却剤を前記プロパンの融点より低い温度以下に冷却剤によって冷却し、この冷却状態の混合冷却剤に試料を浸漬して試料を急速に凍結する試料急速凍結方法(特許文献2参照)や、液体ヘリウム、液体窒素などで冷却された冷却金属面、あるいは冷却剤中に試料を落下させて急速凍結する方法(特許文献3参照)が提案されている。このような急速凍結を行えば、化学固定とは異なり、生きた細胞内の構造をそのまま維持できる利点がある。
【0005】
しかしながら、かかる方法を行うために必要な急速凍結装置は複雑な構造のため非常に高価であり、かつ高度な技術を要するという問題や、細胞を金属ブロックに押し付けることや冷却剤中に落下させることによる物理的衝撃によって細胞が有する本来の微細構造を維持できないといった問題があった。さらに、凍結過程で細胞内の水が氷の結晶となり、さらに氷の結晶が成長することで細胞内の構造を破壊するという問題があった。
【0006】
凍結速度をより速めることで細胞内の水を「無結晶の氷」として、細胞構造の破壊を防げることができると考えられる。しかし、一般的に細胞はカバーグラスに付着させており、カバーグラスに付着させた状態で急速凍結を行う場合、細胞のまわりや上には、ある程度の培養液などがある。細胞の厚みはおよそ5-10μmのため、無結晶の氷になるように凍結させるには、培養液の層をできるだけ除く必要がある。ただし、培養液の層をできるだけ除くと培養液がすぐに乾燥しやすく、その結果、細胞は変質もしくは死んでしまうために高度な技術や装置を要する。また、カバーグラスはガラスでできているため熱伝導度が低い。そのためにカバーグラス側からの凍結速度は遅く、カバーグラスと近接していない細胞の側から凍結が進む。その結果、カバーグラスに近接する部位は凍結に時間を要し、うまく無結晶の氷にならない。そこで、無結晶の氷となるように細胞を急速凍結して、細胞構造の破壊を防いだ電子顕微鏡観察試料の調製方法が求められていた。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開平10-142123号公報
【特許文献2】特開平5-126698号公報
【特許文献3】特開平5-18874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、細胞構造の破壊がなく、細胞内の本来の微細構造を観察することが可能な電子顕微鏡観察試料の調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、細胞を急速凍結する際に、一般的に用いられているカバーグラスの代わりに熱伝導性が高いアルミ箔を用いて試験を行った。カーボンの薄膜をコーティングしたアルミ箔に細胞を接着させて細胞を急速凍結させることにより、細胞のまわりや上部の培養液を除かなくても、細胞の凍結がアルミ箔と接した側から急速に進み、その結果、細胞内に氷の結晶がみられず、細胞内の本来の微細構造を維持した電子顕微鏡観察試料を調製できることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりである。
(1)以下の工程(a)~(d)を備えたことを特徴とする電子顕微鏡観察試料の調製方法。
(a)表面をカーボン又は貴金属の薄膜でコーティングした熱伝導性フィルムを固定器具で固定する工程;
(b)工程(a)で固定した熱伝導性フィルムに細胞を接着させる工程;
(c)工程(b)で細胞を接着させた熱伝導性フィルムを、-150℃以下に冷却した冷却剤に浸漬させて細胞を急速凍結する工程;
(d)工程(c)で急速凍結した細胞から電子顕微鏡観察試料を作製する工程;
(2)カーボン又は貴金属の薄膜が親水処理されていることを特徴とする上記(1)記載の電子顕微鏡観察試料の調製方法。
(3)冷却剤が、液体プロパン又は液体イソペンタンであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の電子顕微鏡観察試料の調製方法。
(4)固定器具がOリングであることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載の電子顕微鏡観察試料の調製方法。
(5)工程(d)において、工程(c)で急速凍結した細胞を樹脂で包埋し、細胞を包埋した樹脂から熱伝導性フィルムを剥離し、超薄切片を作製することを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載の電子顕微鏡観察試料の調製方法。
(6)表面をカーボン又は貴金属の薄膜でコーティングした熱伝導性フィルムと、該熱伝導性フィルムを固定するための固定器具を備えたことを特徴とする電子顕微鏡観察試料の調製キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子顕微鏡観察試料の調製方法で作製した電子顕微鏡観察試料は細胞構造の破壊がなく、細胞内の本来の微細構造を観察することが可能となる。また、本発明の電子顕微鏡観察試料の調製方法には複雑な装置が不要であると共に高度なスキルも不要であり、低コストかつ容易に電子顕微鏡観察試料を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ステンレス製のOリングで固定したアルミ箔の側面、上面、下面を示す図である。
【図2】アルミ箔上に細胞を接着させた状態を示す図である。
【図3】液体窒素で冷却した液体プロパン中に細胞を接着させたアルミ箔を入れて浸積させる様子を示す図である。
【図4】(a)カーボンの薄膜でコーティングしたアルミ箔に細胞を接着させた状態、(b)細胞を凍結した状態、(c)細胞を樹脂で包埋した状態、(d)アルミ箔を剥離した状態の概念を示す図である。
【図5】細胞をカバーグラスに接着させて急速凍結することによって作製した超薄切片を透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図6】細胞をアルミ箔に接着させて急速凍結することによって作製した超薄切片を透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図7】図6の一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の電子顕微鏡観察試料の調製方法としては、
(a)表面をカーボン又は貴金属の薄膜でコーティングした熱伝導性フィルムを固定器具で固定する工程;
(b)工程(a)で固定した熱伝導性フィルムに細胞を接着させる工程;
(c)工程(b)で細胞を接着させた熱伝導性フィルムを、-150℃以下に冷却した冷却剤に浸漬させて細胞を急速凍結する工程;
(d)工程(c)で急速凍結した細胞から電子顕微鏡観察試料を作製する工程;
の工程(a)~(d)を備えた電子顕微鏡観察試料の調製方法であれば特に制限されず、貴金属としては、金、白金などを挙げることができる。

【0014】
また、本発明の電子顕微鏡観察試料の調製キットとしては、表面をカーボン又は貴金属の薄膜でコーティングした熱伝導性フィルムと、該熱伝導性フィルムを固定するための固定器具を含んでおり、電子顕微鏡観察試料の調製のために用いられるキットであれば特に制限されず、かかるキットを用いることで、細胞内の本来の微細構造を観察することが可能な電子顕微鏡観察試料を容易に作製することが可能となる。

【0015】
上記熱伝導性フィルムの材質としては、熱伝導性を有するものであれば特に制限されず、アルミニウム、金、銀、銅、ダイヤモンドなどを挙げることができるが、細胞毒性やフィルム加工の容易性の観点からアルミニウム又は金が好ましく、アルミニウムがより好ましい。

【0016】
上記熱伝導性フィルムの厚さとしては、5~20μm、好ましくは7~15μm、より好ましくは10~12μmを挙げることができる。

【0017】
上記固定器具としては熱伝導性フィルムが張った状態を維持できるように固定できる器具であれば特に制限されず、熱伝導性フィルムを挟んではめ込むことが可能なOリング又は角リングなどを挙げることができる。熱伝導性フィルムを固定器具で固定することで、熱伝導性フィルムの変形を防止し、凍結処理や樹脂包埋処理などのハンドリングを容易にする他、熱伝導性フィルムに付着した細胞同士の接着を防ぐことが可能となる。

【0018】
固定器具の材質としては特に制限されないが、ステンレス、鉄、アルミニウム、銅などを挙げることができる。

【0019】
熱伝導性フィルムを研磨して平滑化してもよく、研磨する方法としては、物理的な研磨法でも化学的な研磨法でもよい。急速凍結した細胞を樹脂で包埋した場合には、熱伝導性フィルムを研磨して平滑化することによって、包埋した樹脂からの熱伝導性フィルムの剥離が容易となる。また細胞を平滑化した熱伝導性フィルム(基板)の上におくことで、包埋した樹脂から熱伝導性フィルムを剥離したのち、この樹脂面からミクロトームで超薄切片を切り出すことで1枚目もしくは2枚目からきれいな超薄切片をとることができ、熱伝導性フィルムに付着している細胞の部位を観察することが可能となる。

【0020】
上記薄膜の厚さとしては、10~200nm、好ましくは20~100nmを例示することができ、コーティング方法としては、真空蒸着法や、スパッタリング法を例示することができる。薄膜をコーティングすることによって、細胞を包埋した樹脂から熱伝導性フィルムを剥離することが容易となる。

【0021】
細胞の接着性を向上させるために、コーティングした薄膜を親水処理することが好ましい。親水処理としては、プラズマ処理や、コロナ放電処理を挙げることができる。また、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、エラスチンなどの接着因子や、ポリリジン、ポリエチレンイミン、スペルミジン、スペルミン、その他のポリカチオンで薄膜の上面をコーティングしてもよい

【0022】
上記固定した熱伝導性フィルムに細胞を接着させる方法としては、固定した熱伝導性フィルム上に細胞を含む培養液を加えて静置する方法や、熱伝導性フィルム上に培養液及び細胞を加えて培養する方法を挙げることができる。

【0023】
細胞としては、単一の細胞であっても、組織の細胞であっても、培養した複数の細胞でもよく、細胞の種類としては動物細胞、植物細胞、細菌、原生生物を例示することができる。

【0024】
細胞を接着させた熱伝導性フィルムを、-150℃以下に冷却した冷却剤に浸漬させて細胞を急速凍結する方法としては、固定器具で固定された状態で、細胞を接着させた熱伝導性フィルムを-150℃以下、好ましくは-160℃以下に冷却した冷却剤に浸漬させる方法を挙げることができる。

【0025】
冷却剤としては、液体プロパン、液体イソペンタン、液体エタンを挙げることができ、液体プロパン又は液体イソペンタンを好適に挙げることができる。

【0026】
本発明において、工程(c)で急速凍結した細胞から電子顕微鏡観察試料を作製する方法としては特に制限されないが、(1)工程(c)で急速凍結した細胞を樹脂で包埋し、細胞を包埋した樹脂から熱伝導性フィルムを剥離し、超薄切片を作製する方法、(2)凍結した細胞から直接超薄切片を作製する方法、(3)凍結試料を割断してレプリカを作製する方法などを挙げることができる。

【0027】
上記(1)工程(c)で急速凍結した細胞を樹脂で包埋し、細胞を包埋した樹脂から熱伝導性フィルムを剥離し、超薄切片を作製する方法において、上記急速凍結した細胞を樹脂で包埋する方法としては、エポキシ樹脂、メタクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂などの樹脂より包埋する一般的な方法を挙げることができる。急速凍結した細胞をグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドなどの還元剤やオスミウム酸などの酸化剤を含むアセトンを用いてさらに固定した後に樹脂で包埋してもよい。

【0028】
また、上記細胞を包埋した樹脂から熱伝導性フィルムを剥離する方法としては、ピンセットなどの器具を用い、又は指によって物理的に熱伝導性フィルムを剥離する方法を挙げることができる。熱伝導性フィルムを剥離する前に、熱伝導性フィルムを固定器具から外すことが好ましい。

【0029】
さらに、上記超薄切片を作製する方法としては特に制限されず、電子顕微鏡観察試料の調製で用いられる一般的な方法を用いることができるが、たとえば、文献(臼倉治郎著「よくわかる生物電子顕微鏡技術」共立出版発行20~31頁(2008))に記載の方法に準じてミクロトームを用いて作製する方法を挙げることができる。

【0030】
上記(2)凍結した細胞から直接超薄切片を作製する方法としては、凍結した細胞を、クライオミクロトームを用いて超薄切片を作製する方法を挙げることができる。作製した超薄切片は直接クライオ電子顕微鏡で観察できるほか、抗体などを反応させた後に免疫電子顕微鏡で観察することができる。

【0031】
上記(3)凍結した細胞を割断してレプリカを作製する方法としては、凍結した細胞を割断して割断面にカーボンや白金などを蒸着してレプリカを作製するフリーズフラクチャーレプリカ法や、凍結した細胞を割断後に真空中で氷を昇華(エッチング)させた後、その表面にカーボンや白金などを蒸着してレプリカを作製するフリーズフラクチャーレプリカ法を挙げることができる。作製されたレプリカは、文献(臼倉治郎著「よくわかる生物電子顕微鏡技術」共立出版発行75~85頁(2008))に記載の方法に準じて電子顕微鏡により細胞内の超微細構造を観察することができる。

【0032】
本発明の電子顕微鏡観察試料の調製キットには、本発明の電子顕微鏡観察試料の調製方法を記載した説明書、上記固定器具を把持するピンセットなどの器具、冷却剤などを含んでもよい。
【実施例】
【0033】
内径が12mm、幅1mm、厚さ0.3mmのステンレス製Oリングと、内径が10mm、幅1mm、厚さ0.3mmのステンレス製Oリングによって厚さ12μmのアルミ箔を挟んだ。アルミ箔は、85℃の研磨液(85%リン酸、12%硝酸)に2~4秒浸けることで平滑化した。さらに、真空蒸着装置JEOL JEE-400(日本電子社製)を用いてアルミ箔の上面にカーボンを10秒間蒸着してカーボンの薄膜(100mm)をコーティングし、さらにPIB-10(真空デバイス社製)を用いてプラズマ処理を10秒行って親水処理した。ステンレス製のリングで固定したアルミ箔の側面、上面、下面を図1に示す。
【実施例】
【0034】
カーボンの薄膜でコーティングしたアルミ箔上に細胞性粘菌の細胞を含む培養液0.05mlを加えて30分間静置し、アルミ箔上に細胞を接着させた。アルミ箔上に細胞を接着させた状態を図2に示す。
【実施例】
【0035】
細胞を接着させたアルミ箔を固定したOリングをピンセットで把持し、図3に示すように-196℃の液体窒素で冷却した液体プロパンもしくは液体イソペンタンの液体部分に入れてすみやかに浸積させて、細胞を急速凍結した。なお、上記図2に示すように細胞が熱伝導性の高いアルミ箔と接着していることから、アルミ箔と接着した部位から細胞の凍結が急速に進む。そのため、細胞を急速凍結するために培養液を除去する必要がなく、細胞が乾燥するという問題も生じない。また、細胞がアルミ箔や培養液と接着した状態で液体プロパンもしくは液体イソペンタン中に入れて浸積させるため、細胞への物理的衝撃を最小限に抑えることができる。
【実施例】
【0036】
凍結した細胞を以下の方法によって樹脂で包埋した。まず、オスミウムとアセトンを含む液に-80℃で2時間浸漬させて細胞中の水をアセトンに置き換え、その後、-20℃で1時間、さらに4℃で1時間、室温で1時間浸漬させた。次に、アセトンに1時間、アセトン及びプロピレンオキシド(1:1)に1時間、プロピレンオキシドに1時間浸漬させた。さらに、Suprr樹脂(ポリサイエンス社製)とプロピレンオキシド(1:1)に2時間、Suprr樹脂に1日浸漬させた後、70℃で8時間処理することで硬化させた。(a)カーボンの薄膜でコーティングしたアルミ箔に細胞を接着させた状態、(b)細胞を凍結した状態、(c)細胞を樹脂で包埋した状態、(d)アルミ箔を剥離した状態の概念を図4に示す。
【実施例】
【0037】
さらに、Oリングを外し、細胞を包埋した樹脂からアルミ箔を剥離後、樹脂から細胞部位を糸のこを用いて切り取り、文献(臼倉治郎著「よくわかる生物電子顕微鏡技術」共立出版発行20~31頁(2008))に記載の方法に準じてミクロトームを用いて超薄切片を作製した。
【実施例】
【0038】
コントロールとして、細胞をカバーグラス(平滑化処理なし)に接着させて、上記と同様に急速凍結、樹脂包埋、超薄切片の作製を行った。
【実施例】
【0039】
得られた超薄切片を酢酸ウラン、酢酸鉛による常法により電子染色後に透過型電子顕微鏡(CM-120:フィリップス社製もしくはQuanta3D FEG:FEI社製)で観察した結果を図5~7に示す。図5は細胞をカバーグラスに接着させて急速凍結することによって超薄切片を作製した場合、図6は細胞をアルミ箔に接着させて急速凍結することによって超薄切片を作製した場合、図7は図6の一部の拡大図である。図5に示すように、細胞をカバーグラスに接着させて急速凍結することによって超薄切片を作製した場合には、細胞内に氷の結晶が形成され、細胞内の微細構造が破壊されて網目状になっていた。一方、図6、7に示すように、細胞をアルミ箔に接着させて急速凍結することによって超薄切片を作製した場合には、細胞内に氷の結晶はみられず、微細構造が維持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の方法で作製された電子顕微鏡観察試料は、細胞構造の破壊がなく、細胞内の本来の微細構造を観察することが可能であり、細胞を始め食品や生物マテリアルなどの微細構造を観察するうえで利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6