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明細書 :心容積及び心拍出量の推定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-202516 (P2016-202516A)
公開日 平成28年12月8日(2016.12.8)
発明の名称または考案の名称 心容積及び心拍出量の推定装置
国際特許分類 A61B   5/0265      (2006.01)
A61B   5/05        (2006.01)
FI A61B 5/02 360
A61B 5/05 A
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2015-087127 (P2015-087127)
出願日 平成27年4月21日(2015.4.21)
発明者または考案者 【氏名】鈴木 哲
【氏名】古池 竜祐
【氏名】古角 剛士
出願人 【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100101236、【弁理士】、【氏名又は名称】栗原 浩之
【識別番号】100166914、【弁理士】、【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
審査請求 未請求
テーマコード 4C017
4C027
4C127
Fターム 4C017AA03
4C017AC22
4C017AC40
4C017BC01
4C017BC11
4C017FF05
4C027AA10
4C027GG18
4C127AA10
4C127GG18
要約 【課題】非接触かつ非拘束で測定対象者の心容積及び心拍出量の時系列変化を検出することができる心容積及び心拍出量の推定装置を提供する。
【解決手段】人体の心臓に向けてマイクロ波を照射する送信部12及び送信アンテナ13と、心臓を透過したマイクロ波を受信する受信アンテナ14及び受信部15と、 マイクロ波を検波して検波信号を検出する検波部16と、検波信号の振幅又は位相の変化に基づいて心容積及び心拍出量の変化を推定する推定部とを備え、送信した電波の強度をEとし、検波信号の強度をEとし、心臓を透過する電波の減衰定数をαとし、心容積をVとし、以下の数式1により推定された心容積Vの時系列変化を心容積の変化と推定する。
(数式1)V=-π/6・1/α・ln(E/E
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
測定対象者の心臓に向けて電波を照射する電波送信手段と、
前記測定対象者の心臓を透過した電波を受信する電波受信手段と、
前記電波受信手段で受信した電波を検波して検波信号を検出する検波手段と、
前記検波信号の振幅又は位相の変化に基づいて心容積及び心拍出量の変化を推定する推定手段と、を備える
ことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、
前記推定手段は、
前記電波送信手段により送信された電波の強度をEとし、
前記検波信号の強度をEとし、
心臓を透過する電波の減衰定数をαとし、
心容積をVとし、
以下の数式1により推定された心容積Vの時系列変化を心容積の変化と推定する
ことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置。
【数1】
JP2016202516A_000009t.gif

【請求項3】
請求項1に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、
前記推定手段は、前記検波信号のうち所定周期内の最大値及び最小値を含む範囲を一回の心臓の鼓動に対応する心拍信号とし、前記最大値の時系列変化を一回拍出量の変化と推定する
ことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、
所定期間分の心拍信号の前記最大値を積算して心拍出量推定値とし、
当該心拍出量推定値の時系列変化を心拍出量の変化と推定する
ことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置。
【請求項5】
請求項1に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、
前記推定手段は、前記検波信号のうち所定周期内の最大値及び最小値を含む範囲を一回の心臓の鼓動に対応する心拍信号とし、前記最大値及び前記最小値の差分値の時系列変化を一回拍出量の変化と推定する
ことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、
所定期間分の心拍信号の前記差分値を積算して心拍出量推定値とし、
当該心拍出量推定値の時系列変化を心拍出量の変化と推定する
ことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか一項に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、
前記電波送信手段は、垂直偏波を心臓に向けて照射し、
前記電波受信手段は、心臓の右心室及び右心房又は左心室及び左心房を透過した垂直偏波を受信するように配置されている
ことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置。
【請求項8】
請求項1~請求項6の何れか一項に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、
前記電波送信手段は、水平偏波を心臓に向けて照射し、
前記電波受信手段は、心臓の右心室及び左心室又は右心房及び左心房を透過した水平偏波を受信するように配置されている
ことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか一項に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、
人体の胸回りに装着される筒状部材を備え、
前記筒状部材には、前記電波送信手段及び前記電波受信手段が対向するように取り付けられている
ことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置。
【請求項10】
請求項1~請求項8の何れか一項に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、
寝具を備え、
前記寝具の床面側に、前記電波送信手段及び前記電波受信手段の一方を配置し、
前記寝具の上方に、前記電波送信手段及び前記電波受信手段の他方を配置した
ことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触かつ非拘束で心容積及び心拍出量の変化を検出することができる心容積及び心拍出量の推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心不全の診断、予後における治療効果又は投薬効果を確認するために、一回拍出量及び心拍出量を計測することが行われている。具体的な計測方法としては、Fick法、色素希釈法、スワンガンツカテーテルによる熱希釈法などに代表される観血式が挙げられる。非観血式の計測方法は、キュビチェクの四電極法や超音波エコーによる診断が提案されている。
【0003】
しかし、これらの計測方法は、測定対象者を拘束する必要があったり、十分な精度がでないなどの問題があり、現在では使用されていない。
【0004】
一方、本発明者は、心臓を透過したマイクロ波は、心臓の収縮、拡張の動きに応じて振幅や位相が変化することを発見し、このような発見に基づいて、心臓を透過したマイクロ波を解析することで心拍を得ることができる心拍検知装置を提案した(特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1に係る心拍検知装置によれば、非接触かつ非拘束で測定対象者の心拍を得ることができる。しかしながら、心拍を得ることはできるものの、一回拍出量及び心拍出量やそれらの時系列変化を得ることについては検討されていなかった。
【0006】
また、心不全の診断等の目的で、心臓の容積(以下、心容積)の変化を測定することも行われているが、非接触かつ非拘束で行うものは提案されていなかった。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2013-153783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、非接触かつ非拘束で測定対象者の心容積及び心拍出量の時系列変化を検出することができる心容積及び心拍出量の推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための第1の態様は、測定対象者の心臓に向けて電波を照射する電波送信手段と、前記測定対象者の心臓を透過した電波を受信する電波受信手段と、前記電波受信手段で受信した電波を検波して検波信号を検出する検波手段と、前記検波信号の振幅又は位相の変化に基づいて心容積及び心拍出量の変化を推定する推定手段と、を備えることを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置にある。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、前記推定手段は、前記電波送信手段により送信された電波の強度をEとし、前記検波信号の強度をEとし、心臓を透過する電波の減衰定数をαとし、心容積をVとし、以下の数式1により推定された心容積Vの時系列変化を心容積の変化と推定することを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置にある。
【数1】
JP2016202516A_000003t.gif

【0011】
第2の態様では、心臓の形状を球体と仮定し、上記式を用いることで心容積の変化を推定することができる。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、前記推定手段は、前記検波信号のうち所定周期内の最大値及び最小値を含む範囲を一回の心臓の鼓動に対応する心拍信号とし、前記最大値の時系列変化を一回拍出量の変化と推定することを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置にある。
【0013】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、所定期間分の心拍信号の前記最大値を積算して心拍出量推定値とし、当該心拍出量推定値の時系列変化を心拍出量の変化と推定することを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置にある。
【0014】
本発明の第5の態様は、第1の態様に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、前記推定手段は、前記検波信号のうち所定周期内の最大値及び最小値を含む範囲を一回の心臓の鼓動に対応する心拍信号とし、前記最大値及び前記最小値の差分値の時系列変化を一回拍出量の変化と推定することを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置にある。
【0015】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、所定期間分の心拍信号の前記差分値を積算して心拍出量推定値とし、当該心拍出量推定値の時系列変化を心拍出量の変化と推定することを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置にある。
【0016】
本発明の第7の態様は、第1~第6の何れか一つの態様に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、前記電波送信手段は、垂直偏波を心臓に向けて照射し、前記電波受信手段は、心臓の右心室及び右心房又は左心室及び左心房を透過した垂直偏波を受信するように配置されていることを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置にある。
【0017】
本発明の第8の態様は、第1~第6の何れか一つの態様に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、前記電波送信手段は、水平偏波を心臓に向けて照射し、前記電波受信手段は、心臓の右心室及び左心室又は右心房及び左心房を透過した水平偏波を受信するように配置されていることを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置にある。
【0018】
本発明の第9の態様は、第1~第8の何れか一つの態様に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、人体の胸回りに装着される筒状部材を備え、前記筒状部材には、前記電波送信手段及び前記電波受信手段が対向するように取り付けられていることを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置にある。
【0019】
本発明の第10の態様は、第1~第8の何れか一つの態様に記載する心容積及び心拍出量の推定装置において、寝具を備え、前記寝具の床面側に、前記電波送信手段及び前記電波受信手段の一方を配置し、前記寝具の上方に、前記電波送信手段及び前記電波受信手段の他方を配置したことを特徴とする心容積及び心拍出量の推定装置にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、非接触かつ非拘束で測定対象者の心容積及び心拍出量の時系列変化を検出することができる心容積及び心拍出量の推定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1に係る推定装置の外観を示す概略図である。
【図2】実施形態1に係る推定装置の機能を示した図である。
【図3】人体を透過する前後のマイクロ波を示す図である。
【図4】心臓を透過するマイクロ波の電界強度と心臓の大きさの関係を表す図である。
【図5】心臓を透過したマイクロ波を検波して得られた検波信号の一例である。
【図6】実施形態3に係る推定装置の概略図である。
【図7】実施形態4に係る推定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〈実施形態1〉
本実施形態に係る心容積及び心拍出量の推定装置(以下、単に推定装置とも称する)について説明する。推定装置は、電波(マイクロ波)により測定対象者の心臓の心容積及び心拍出量の変化を推定する装置である。測定対象者としては、人間以外の動物などについても適用可能であるが、本実施形態では測定対象を人間の心臓として説明する。

【0023】
[装置構成]
図1は本実施形態に係る推定装置の外観を示す概略図であり、図2は本実施形態に係る推定装置の機能を示した図である。

【0024】
推定装置10は、推定手段として推定部11と、電波送信手段として送信部12及び送信アンテナ13と、電波受信手段として受信部15及び受信アンテナ14と、検波手段として検波部16と、サンプリング部17とを備えている。

【0025】
送信部12は、高周波、好ましくは連続するマイクロ波を人体1に対して送信するための装置である。マイクロ波は、人体1の体内を透過して受信することができれば、どのような周波数帯が用いられてもよい。本実施形態では、例えば、サブギガ帯を含む1GHz前後の周波数を用いている。送信出力は、受信側にて十分な電力が検出できる程度でよい。本実施形態では、数m~数十mWとした。送信部12は、図示しないマイクロ波発振器によって生成された高周波信号を送信アンテナ13へ供給する。

【0026】
送信アンテナ13は、送信部12によって送信されたマイクロ波を人体1の心臓へ向けて照射する機器である。受信アンテナ14は、送信アンテナ13から放射されたマイクロ波を受信するための機器である。具体的には、送信アンテナ13及び受信アンテナ14は、無指向のダイポールアンテナである。送信アンテナ13及び受信アンテナ14は、人体1の心臓2をマイクロ波が透過するように対向して設置され、信号を取得するために最適な間隔で保持されている。偏波については水平偏波、垂直偏波のどちらを使用してもよい。

【0027】
なお、本実施形態では、送信アンテナ13は人体1の前面、受信アンテナ14は人体1の背面に設置した構成を例示したが、逆でもよい。また、送信アンテナ13及び受信アンテナ14はダイポールアンテナを用いたが、アンテナの形式は特に限定はなく、また、指向性のあるアンテナを用いてもよい。さらに、受信アンテナ14は、一つに限らず、複数個用いてもよい。無指向性の送信アンテナ13を一つ、複数の受信アンテナ14を用いる場合は、ダイポールアンテナを用いることが好ましい。

【0028】
受信部15は、受信アンテナ14によって送信されたマイクロ波を受信した信号を、検波部16が必要とする信号へ変換する手段である。検波部16は、受信部15によって受信したマイクロ波の検波を行う手段である。検波部16は、包絡線検波(振幅検波)もしくは位相検波によってマイクロ波の復調を行う。

【0029】
サンプリング部17は、検波信号を既定の周波数によってサンプリングし、デジタル信号列に変換する手段である。

【0030】
推定部11は、送信部12に対してマイクロ波の出力を指示したのち、サンプリング部17から受信したデジタル信号列を解析し、心容積及び心拍出量の変化を推定するための手段である。詳細な動作については後述する。

【0031】
なお、本実施形態では、推定部11は、一般的なパーソナルコンピュータなどの情報処理装置により実行されるプログラムの機能として実装されている。また、送信部12、受信部15、検波部16及びサンプリング部17は当該情報処理装置に搭載された電子回路(ハードウェア)として実装され、推定部11により制御が可能となっている。もちろん、推定部11、送信部12、受信部15、検波部16及びサンプリング部17のそれぞれはプログラムで実装されてもよいし、電子回路で実装されていてもよい。

【0032】
[マイクロ波の変化]
ここで、図3を用いて、人体1を透過したマイクロ波が変化することについて説明する。

【0033】
図3は、人体1を透過する前後のマイクロ波を示す図である。図3の横軸は時間、縦軸は電界強度を示している。図3(a)は送信アンテナ13により放射されるマイクロ波の電界強度を時系列で示すものであり、その電界強度は一定のEである。図3(b)は人体1を透過したマイクロ波を受信アンテナ14により受信し、検波部16で検波した検波信号の電界強度を時系列で示すものである。

【0034】
特許文献1にも記載されているように、マイクロ波を人体1に照射すると、誘電率が高い箇所では、誘電率が低い箇所と比較して信号の減衰率が大きくなる。心臓は、周辺の器官と比較して誘電率が高いため、収縮期と比較すると、拡張期においてより大きく信号が減衰、すなわち受信したマイクロ波の振幅が小さくなる。このように、マイクロ波が透過する経路上に心臓があり、体内での動きに変動がある場合、マイクロ波の伝搬特性が体内器官の変位で変動する。

【0035】
例えば、図3(a)には電界強度Eで一定のマイクロ波が放射されたことが示されているが、人体を透過した後は、図3(b)に示すように、心臓の収縮・拡張に合わせて電界強度(振幅)が変化したマイクロ波が観測される。この例では、電界強度の変化であるが、心臓の収縮・拡張によりマイクロ波の位相にも変化が生じる。

【0036】
このように、検波信号の電界強度や位相の変化は、心臓の収縮・拡張に密接に関連した情報であると考えられるので、これを解析することで、心容積や心拍出量の変化を推定することができる。

【0037】
[心容積の変化の推定]
ここで、検波信号に基づいて心容積の変化を推定する処理について説明する。図4は、心臓を透過するマイクロ波の電界強度と心臓の大きさの関係を表す図である。

【0038】
心臓の形状が球体であると仮定し、その直径をl[m]、その容積をV[m]とする。また、送信アンテナ13から放射されたマイクロ波の電界強度をE[V]とする。検波部16で受信された検波信号の電界強度をE[V]とする。

【0039】
上述したように、マイクロ波は心臓を透過すると電界強度が減衰する。この減衰は、心臓を透過する距離に依存する。つまり、心臓が拡張して直径lが大きくなれば電界強度の減衰は大きく、心臓が収縮して直径lが小さくなれば電界強度の減衰は小さい。心臓を透過する前後の電界強度EとEの関係は次の数式1で表される。

【0040】
【数1】
JP2016202516A_000004t.gif

【0041】
ここでαは、マイクロ波が心臓を透過するときの減衰定数である。減衰定数αは、例えば、数式2に示すものを用いることができる。

【0042】
【数2】
JP2016202516A_000005t.gif

減衰定数αの単位は[Np/m]であり、ωはマイクロ波の角周波数[rad/s]であり、ε、σ、μはそれぞれ心臓の誘電率、導電率、透磁率である。

【0043】
心臓が球形であると仮定して式1を直径lについて書き直すと、数式3となる。

【0044】
【数3】
JP2016202516A_000006t.gif

【0045】
つまり、心臓の直径lは、心臓を透過する前後の電界強度EとEの比率に依存していることが分かる。ここで、心臓は球体であると仮定したので、心臓の半径をrとすると、心容積Vは数式4で表すことができる。そして、数式4に数式3を代入すると数式5が得られる。

【0046】
【数4】
JP2016202516A_000007t.gif

【0047】
【数5】
JP2016202516A_000008t.gif

【0048】
このように、心容積Vは、心臓を透過する前後の電界強度EとEの比率の3乗に依存しており、電界強度EとEとから心容積Vを得ることができる。

【0049】
上述した原理に基づき、推定部11は、心容積Vの変化を推定する。すなわち、電界強度に基づいて計算された時系列の心容積Vを得る。具体的には以下のように処理する。

【0050】
まず、誘電率ε、導電率σ、透磁率μについてのデータをメモリ等に予め記憶させておく。

【0051】
次に、推定部11は、送信アンテナ13から電界強度E、角周波数ωでマイクロ波を放射するように送信部12を制御する。推定部11により制御された送信部12は、電界強度E、角周波数ωでマイクロ波を送信アンテナ13から照射させる。

【0052】
送信アンテナ13から照射されたマイクロ波は人体1の心臓2を透過し、受信アンテナ14を介して受信部15に受信される。

【0053】
受信部15により受信された信号は、検波部16により検波される。検波の方法は振幅検波(包絡線検波)を用いることができる。検波部16により検波された検波信号は、サンプリング部17によりサンプリングされる。

【0054】
サンプリング処理は、A/D変換器やソフトウェアによる処理により行われる。サンプリング部17の処理により、時間と電界強度Eで心臓の収縮・拡張を表したデジタル信号列を得ることができる(図3(b)参照)。i番目のサンプリング周期における電界強度EをE(i)と表す。

【0055】
次に、推定部11は、サンプリング部17から取得したデジタル信号列を用いて、心容積Vを計算する。具体的には、メモリに記憶した誘電率ε、導電率σ、透磁率μから上記数式2に基づいて減衰定数αを計算する。

【0056】
次に、送信部12に設定した電界強度Eと、各E(i)と、減衰定数αから上記数式5を用いて心容積Vを計算する。i番目のサンプリング周期における心容積VをV(i)と表す。以降、サンプリングした電界強度E(i)の全てについて心容積V(i)を計算する。このようにして、推定装置10によれば、心容積V(i)の時系列データを得ることができる。

【0057】
以上に説明したように、推定装置10によれば、人体に対して非接触であり、かつ人体を非拘束で心容積Vの変化を推定することができる。つまり、心容積Vの時系列の推移をみることで、心臓がどの程度の早さ、どの程度の幅で収縮・拡張をしているかなど心臓の鼓動の状態を把握することができる。このように心臓の鼓動の状態を把握できるので、測定対象者を拘束して負担を強いることなく、例えば心不全の診断、予後における治療効果又は投薬効果を確認することができる。

【0058】
なお、心容積Vの変化は例えば、基準となる心容積Vを決め、それに対する比率を求めてもよい。つまり、サンプリング周期毎にV(i)/Vを計算してもよい。これにより、心容積Vを基準とした相対的な心容積を時系列で把握できる。

【0059】
[心拍出量の変化の推定]
ここで、検波信号に基づいて一回拍出量及び心拍出量の変化を推定する処理について説明する。一回拍出量とは、心臓が一回の収縮によって動脈へ拍出する血液の量[mL]であり、拍出量とは、一回拍出量に単位時間あたりの心拍数を乗じた量[mL/分]である。

【0060】
図5は、心臓を透過したマイクロ波を検波して得られた検波信号の一例である。縦軸は電界強度[V]であり、横軸は時間であり、検波信号が時系列に表示されている。

【0061】
検波信号には、心臓の収縮・拡大に対応して電界強度が変化した周期的な信号が含まれている。この検波信号に含まれる所定周期内の最大値及び最小値を含む範囲を一回の心臓の鼓動に対応する心拍信号とする。検波信号からは時系列の心拍信号が得られるが、i番目の心拍信号をS(i)とし、その心拍信号の最大値をMax(i)、最小値をMin(i)と表記する。

【0062】
例えば、同図には、1番目の心拍信号として最大値Max(1)と最小値Min(1)とを含む心拍信号S1、2番目の心拍信号として最大値Max(2)と最小値Min(2)とを含む心拍信号S(2)が例示されている。

【0063】
本発明者は、本発明により得た検波信号に、別途に取得した心電図を重ねて検討したところ、心拍信号が増加する範囲は心臓の収縮に対応し、心拍信号が減少する範囲は心臓の拡張に対応していることを確認した。

【0064】
心拍信号は最小値から最大値に増加する範囲が心臓の収縮に対応している、という知見と、心臓の収縮に伴い血流が心臓から動脈に拍出されているということからすれば、心拍信号の最大値は、一回拍出量に相関すると考えられる。すなわち、心拍信号の最大値が大きいほど、一回拍出量が多いと考えられる。

【0065】
したがって、心拍信号が心臓の左心室を透過して得られたものであるならば、時系列の心拍信号の最大値の推移を一回拍出量の変化と捉えることができる。例えば、Max(i)が略一定であれば、一回拍出量は安定していると判断できる。Max(i)が減少・増加を繰り返していれば、一回拍出量は不安定であると判断できる。このように、一回拍出量の変化は、Max(i)の時系列変化により捉えることができる。なお、心拍信号が心臓の左心室を透過して得られたものとまでは言えない場合は、時系列の心拍信号の最大値の推移を心容積の変化と捉える。以降の例では、心拍信号が左心室を透過したものであると仮定し、一回拍出量の変化について説明するが、一回拍出量を心容積と読み替えることで、心拍信号から心容積の変化を得ることができる。

【0066】
なお、一回拍出量の変化は、例えば、基準となる最大値Maxを決め、それに対する比率を求めてもよい。つまり、Max’(i)=Max(i)/Maxを計算してもよい。これにより、Maxを基準とした相対的な最大値を時系列で把握できる。

【0067】
また、一回拍出量の変化は、心拍信号の最大値の推移以外にも推定することができる。例えば、心拍信号に含まれる最大値と最小値の差分をとる。この差分を差分値と称する。

【0068】
心拍信号が最小値であるときの心臓の状態は、最も拡張したときであり、最大値であるときの心臓の状態は最も収縮したときである。したがって、差分値も一回拍出量に相関すると考えられる。すなわち、差分値が大きいほど、一回拍出量が多いと考えられる。

【0069】
したがって、時系列の差分値の推移を一回拍出量の変化と捉えることができる。i番目の心拍信号の差分値をA(i)とすると、例えば、A(i)が略一定であれば、一回拍出量は安定していると判断できる。A(i)が減少・増加を繰り返していれば、一回拍出量は不安定であると判断できる。このように、一回拍出量の変化は、A(i)の時系列変化により捉えることができる。

【0070】
ここで、最大値の変化を一回拍出量の変化と推定する場合、例えば、Max(i)とMax(j)とが同じ値である場合、一回拍出量に変化がないとも判断できる。しかし、Min(i)とMin(j)とが異なる場合、一回拍出量には変化が生じている可能性が高い。一方、差分値は、最大値と最小値との差分であるため、上記の場合はA(i)とA(j)が異なる値となり、一回拍出量に変化があると判断できる。

【0071】
このように、差分値は、最大値と最小値との差分であるため、一回拍出量の変化をより正確に推定することができる。

【0072】
なお、一回拍出量の変化は、例えば、基準となる差分値Aを決め、それに対する比率を求めてもよい。つまり、A’(i)=A(i)/Aを計算してもよい。これにより、Aを基準とした相対的な差分値を時系列で把握できる。

【0073】
また、一回拍出量の変化のみならず、心拍出量の変化も推定することができる。例えば、ある時点を基準として1分間前までの心拍信号の最大値を積算した値を心拍出量推定値とする。この心拍出量推定値を時系列で生成することで心拍出量の変化を推定することができる。例えば、心拍出量推定値が略一定であれば心拍出量は安定していると判断できるし、増減していれば不安定であると判断することができる。

【0074】
心拍出量推定値は、心拍信号の最大値を積算する場合のみならず、上述した差分値を積算することにより得てもよい。この場合でも最大値を積算した場合と同様に心拍出量の変化を推定することができる。

【0075】
また、この心拍出量推定値についても、基準となる心拍出量推定値を定めておき、それに対する比率を求めてもよい。これにより、基準となる心拍出量推定値に対する相対的な心拍出量推定値を時系列で把握できる。

【0076】
上述した原理に基づき、推定部11は、一回拍出量の変化を推定する。すなわち、心拍信号を抽出し、その最大値の変化、または最大値及び最小値の差分値の変化を得る。具体的には以下のように処理する。なお、検波信号を得るまでの処理は心容積を得る場合の処理と同様であるので説明は省略する。

【0077】
推定部11は、サンプリング部17から取得したデジタル信号列を用いて、心拍信号を抽出する。これは、予め定められた所定周期内に存在する最大値と最小値とを検出し、最初の最小値から次の最小値までの間を一つの心拍信号とする。この処理を得られたデジタル信号列に適用することで心拍信号S(i)が得られる。

【0078】
次に、各心拍信号S(i)の最大値Max(i)を抽出する。又は、各心拍信号S(i)について最大値と最小値との差分値A(i)を計算する。このようにして、推定装置10によれば、心拍信号の最大値の時系列データ、又は差分値の時系列データを得ることができる。

【0079】
以上に説明したように、推定装置10によれば、人体に対して非接触であり、かつ人体を非拘束で一回拍出量及び心拍出量の変化を推定することができる。つまり、心拍信号の最大値又は差分値について時系列の推移をみることで、心臓の一回拍出量及び心拍出量の変化を把握することができる。このように心臓の一回拍出量及び心拍出量を把握できるので、測定対象者を拘束して負担を強いることなく、例えば心不全の診断、予後における治療効果又は投薬効果を確認することができる。

【0080】
〈実施形態2〉
実施形態1に係る推定装置10は、人体1の心臓2全体にマイクロ波を照射するものであったが、このような態様に限定されない。

【0081】
水平偏波又は垂直偏波を使い分けることで、心臓の右心室、右心房、左心室又は左心房の何れかにマイクロ波を照射し、各心室・心房における心容積及び一回拍出量を推定することも可能である。

【0082】
例えば、送信アンテナ13は、垂直偏波を心臓に向けて照射し、受信アンテナ14は、心臓の右心室及び右心房を透過した垂直偏波を受信するように配置してもよい。これにより、右心室及び右心房の心容積又は一回拍出量を推定することができる。もちろん、左心室及び左心房についても同様である。

【0083】
また、送信アンテナ13は、水平偏波を心臓に向けて照射し、受信アンテナ14は、心臓の右心室及び左心室を透過した水平偏波を受信するように配置してもよい。これにより、右心室及び左心室の心容積又は一回拍出量を推定することができる。もちろん、右心房及び左心房についても同様である。

【0084】
〈実施形態3〉
本発明に係る推定装置は、装置構成としてはマイクロ波の送受信が行えるアンテナと、受信した電波を検波し、検波信号を処理する計算能力を備えた装置であればよい。したがって、推定装置は、様々な利用環境に適応した形状とすることができる。

【0085】
図6は、本実施形態に係る推定装置の概略図である。同図に示すように、本実施形態に係る推定装置10は、人体の胸回りに装着される筒状部材20を備えている。

【0086】
筒状部材20は、例えば、伸縮性のある繊維で形成された、いわゆる腹巻きのような部材である。もちろん、筒状部材20は、このような態様に限定されず、天然又は人工の繊維で形成された帯状の部材を、筒状に丸めて固定したものであってもよい。筒状部材20には、送信アンテナ13及び受信アンテナ14が対向するように取り付けられている。

【0087】
このような筒状部材20は、人体の胸回りに装着され、心臓を透過するように送信アンテナ13と受信アンテナ14間で電波の送受信がなされる。

【0088】
そして、送信アンテナ13及び受信アンテナ14は、スマートフォン3に接続されている。スマートフォン3は、実施形態1で説明した推定装置10の推定部11、送信部12、受信部15、検波部16、及びサンプリング部17を電子回路又はソフトウェアの機能として有する。

【0089】
スマートフォン3においては、推定部11により、心容積や一回拍出量及び心拍出量が時系列で計算されて蓄積されるので、家庭などで心臓の状態を記録することができる。そして、スマートフォン3に記録されたデータを専門家が判断することができる。このような態様の推定装置10によれば、専門家を介在させずに、家庭などで心臓の心容積や一回拍出量及び心拍出量を把握することができ、後日に専門家による診断を行うことができる。

【0090】
また、腹巻きのように防寒具として機能するので、装着者に拘束されているという感覚を生じさせないことができる。

【0091】
〈実施形態4〉
図7は、本実施形態に係る推定装置の概略図である。同図に示すように、本実施形態に係る推定装置10は、人が就寝する寝具30を備えている。

【0092】
寝具の床面側、ここでは寝具30の内部に、送信アンテナ13を配置し、寝具30の上方に受信アンテナ14を配置してある。もちろん、送信アンテナ13と受信アンテナ14とは逆の配置であってもよい。

【0093】
このような態様の推定装置10によれば、人体が寝具30に横になった状態で、拘束されることなく、心臓の心容積や一回拍出量及び心拍出量を把握することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 人体
2 心臓
10 推定装置
11 推定部
12 送信部
13 送信アンテナ
14 受信アンテナ
15 受信部
16 検波部
17 サンプリング部
20 筒状部材
30 寝具
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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