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明細書 :懸濁態セシウムの除去方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-211891 (P2016-211891A)
公開日 平成28年12月15日(2016.12.15)
発明の名称または考案の名称 懸濁態セシウムの除去方法
国際特許分類 G21F   9/28        (2006.01)
G21F   9/12        (2006.01)
B09C   1/02        (2006.01)
B09C   1/08        (2006.01)
B09B   3/00        (2006.01)
FI G21F 9/28 525B
G21F 9/28 521A
G21F 9/12 501A
B09B 3/00 304K
B09B 3/00 ZAB
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2015-093470 (P2015-093470)
出願日 平成27年4月30日(2015.4.30)
発明者または考案者 【氏名】西田 民人
【氏名】安田 公昭
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100112874、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邊 薫
【識別番号】100147865、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 美和子
審査請求 未請求
テーマコード 4D004
Fターム 4D004AA41
4D004AB05
4D004AB09
4D004CA15
4D004CA34
4D004CA40
4D004CC03
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA10
要約 【課題】懸濁態セシウムを効率的に除去することが可能な、懸濁態セシウムの除去方法を提供する。
【解決手段】カチオン性高分子ポリマーを添加して、懸濁態セシウムを除去する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
カチオン性高分子ポリマーを添加するポリマー添加工程(I)、
を少なくとも行う、懸濁態セシウムの除去方法。
【請求項2】
水を用いて洗浄する水洗工程(II)、
を更に行う、請求項1に記載の懸濁態セシウムの除去方法。
【請求項3】
前記懸濁態セシウムは、土壌中の粘土鉱物に吸着されたものである、請求項1又は2に記載の懸濁態セシウムの除去方法。
【請求項4】
前記粘土鉱物中のセシウムの濃度は、50ppt以上である、請求項3に記載の懸濁態セシウムの除去方法。
【請求項5】
前記カチオン性高分子ポリマーは、アミノ基を備えるカチオン性高分子ポリマーである、請求項1から4のいずれか一項に記載の懸濁態セシウムの除去方法。
【請求項6】
前記アミノ基を備えるカチオン性高分子ポリマーは、アミン又はその塩、四級アンモニウム塩、又はカチオン化多糖類からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、請求項5に記載の懸濁態セシウムの除去方法。
【請求項7】
前記アミン又はその塩は、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、又はこれらの塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、請求項6に記載の懸濁態セシウムの除去方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、懸濁態セシウムの除去方法に関する。より詳しくは、カチオン性高分子ポリマーを添加するポリマー添加工程(I)、を少なくとも行う、懸濁態セシウムの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
東京電力・福島第一原子力発電所の爆発事故後、福島県を中心とする広範囲な地域において、土壌等からセシウムが検出される事態となっている。セシウムは環境中に長時間残留する性質を有することから、セシウムを含む廃棄物等はそのまま廃棄することができず、放射性セシウムを分離して回収する必要がある。
【0003】
そこで、従来、セシウムを分離して回収する方法として、水洗浄、加熱下での酸処理、表土剥離、高圧洗浄、カルシウム塩存在下での高温処理といった、様々な方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料を、セシウム等の陽イオンを含有する溶液に配合して接触させ、前記陽イオンを前記プルシアンブルー型金属錯体に吸着させる方法が提案されている。また、非特許文献1には、汚染土壌にセシウム揮発促進剤として2種類のカルシウム化合物を添加し、1350℃で加熱処理することにより、セシウムを土壌から99.9%揮発させて除去する方法が提案されている。
【0004】
他方、原子力発電所の爆発事故当初、セシウムは土壌等の表面に吸着していると考えられていたが、近年、土壌等の中でのセシウムの存在形態が明らかとなってきた。
具体的には、セシウムは土壌等の表面に吸着しているだけでなく、降雨(散水)などによる風化作用により、粘土鉱物の深部、アルミニウムや鉄などを含む吸着サイト等に強く吸着した状態(懸濁態)で残留していることが分かってきた。
【0005】
懸濁態セシウムの残留が明らかになったことで、除染作業が進むにつれ、従来技術では粘土鉱物の深部、アルミニウムや鉄などを含む吸着サイト等から懸濁態セシウムを除去することが困難であるという問題が浮上してきた。
例えば、特許文献1の方法では、土壌等の表面に吸着したセシウムを除去することはできても、懸濁態セシウムまで除去することはできない。また、非特許文献1の方法では、土壌等が高温で加熱されることでその構造が破壊され、土壌等の再利用が困難となり、多量の廃棄物を生じることとなる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2011-200856号公報
【0007】

【非特許文献1】独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 2012年2月22日付けプレスリリース;「放射性物質を含む汚染土壌等からの乾式セシウム除去技術の開発」について http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/narc/027564.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、従来技術では懸濁態セシウムを除去することが困難であり、懸濁態セシウムを効率的に除去することが可能な、新しい技術の提供が求められている。
【0009】
そこで、斯かる実情に鑑み、本発明では、懸濁態セシウムを効率的に除去することが可能な、懸濁態セシウムの除去方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、カチオン性高分子ポリマーを添加するポリマー添加工程、を少なくとも行うことにより、懸濁態セシウムを効率的に除去できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明では、カチオン性高分子ポリマーを添加するポリマー添加工程(I)、
を少なくとも行う、懸濁態セシウムの除去方法を提供する。
本発明では、水を用いて洗浄する水洗工程(II)、
を更に行うこともできる。
本発明では、前記懸濁態セシウムを、土壌中の粘土鉱物に吸着されたものとすることができる。
また、前記粘土鉱物中のセシウムの濃度は特に限定されないが、50ppt以上とすることができる。
更に、前記カチオン性高分子ポリマーは特に限定されないが、アミノ基を備えるカチオン性高分子ポリマーとすることができる。
更にまた、前記アミノ基を備えるカチオン性高分子ポリマーは特に限定されないが、アミン又はその塩、四級アンモニウム塩、又はカチオン化多糖類からなる群より選ばれる1種又は2種以上とすることができる。
また、前記アミン又はその塩は特に限定されないが、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、又はこれらの塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上とすることができる。
【0012】
ここで、本発明において用いられる技術用語について、以下に説明する。
本発明において、「懸濁態」とは、懸濁物質に吸着した形態のことをいう。また、「懸濁態セシウム」とは、懸濁物質に吸着した形態で存在するセシウムのことをいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る懸濁態セシウムの除去方法を用いることにより、懸濁態セシウムを効率的に除去することが可能である。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本発明中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】カチオン性高分子ポリマーが、層状構造を有する物の層間中の懸濁態セシウムイオンと反応する様子を示した模式概念図である。
【図2】上清に含まれる133Cs濃度(ppt)と抽出回数(回)との関係を示す図面代用グラフである。
【図3】上段のグラフ及び下段のグラフは、ともに、モンモリロナイト試料における除去率(%)とPEI濃度との関係を示す図面代用グラフである。なお、下段のグラフは、上段のグラフの一部を拡大したものである。
【図4】上段のグラフ及び下段のグラフは、ともに、土壌試料における除去率(%)とPEI濃度との関係を示す図面代用グラフである。下段のグラフは、上段のグラフの一部を拡大したものである。
【図5】モンモリロナイト試料における除去率(%)とポリエチレンイミン水溶液のpHとの関係を示す図面代用グラフである。
【図6】土壌試料における除去率(%)とポリエチレンイミン水溶液のpHとの関係を示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定解釈されるものではない。

【0016】
本発明に係る懸濁態セシウムの除去方法は、ポリマー添加工程(I)、を少なくとも行うことを特徴とする。また、本発明では、必要に応じて、水洗工程(II)、を更に行うこともできる。

【0017】
前述の通り、従来技術では懸濁態セシウムを除去することが困難であった。本発明は、セシウムの中でも特に、懸濁態セシウムを除去するための技術である。本発明は、ポリマー添加工程(I)、を少なくとも行うことにより、環境負荷の少ない物質(カチオン性高分子ポリマー)と放射性セシウムとを置換させることで、粘土鉱物の深部、アルミニウムや鉄などを含む吸着サイト等から懸濁態セシウムを効率的に除去することが可能である。

【0018】
また、従来技術ではセシウム除去後の土壌等の再利用が困難となり、多量の廃棄物を生じることも問題となっていた。しかし、本発明に係る除去方法を用いることで、土壌等の再利用が可能となり、廃棄物の量も抑制することができる。そのため、環境復旧事業等にも大いに貢献できる。

【0019】
更に、本発明で用いられるカチオン性高分子ポリマーは比較的安価で、かつ環境負荷が少ないため、スケールを大きくしても、コスト的及び環境的な観点から非常に有用である。したがって、本発明に係る除去方法は、実験室等での実施のみならず、専用の大型装置等を用いて実施することも可能である。

【0020】
また、本発明では、懸濁態セシウムは土壌中の粘土鉱物に吸着されたものとすることができる。前述の通り、除染作業が進むにつれ、粘土鉱物の深部、アルミニウムや鉄などを含む吸着サイト等に強く吸着した懸濁態セシウムが非常に問題となっている実情があり、本発明に係る除去方法を土壌中の粘土鉱物に吸着された懸濁態セシウムに適用することにより、前記問題を解決できるからである。

【0021】
また、本発明に係る除去方法は、後述する実験例2及び3で示すように、土壌中に含まれる粘土鉱物及び土壌全体の両方に対して同様の除去率を示すことから、土壌及び土壌を分級処理した細粒の両方に対しても適用可能である。

【0022】
また、前記粘土鉱物中のセシウムの濃度は特に限定されないが、50ppt以上とすることができる。後述する実験例1~3で示すように、本発明に係る除去方法では、セシウムの濃度が50ppt以上であってもその効果が認められ、高濃度のセシウムに対しても有効であるからである。
なお、この濃度は137Cs濃度に換算すると、非常に放射能の高い、約200kBq/kgに相当する。

【0023】
以下、各工程について、詳細に説明する。

【0024】
1.ポリマー添加工程(I)
ポリマー添加工程(I)は、カチオン性高分子ポリマーを添加する工程である。

【0025】
図1は、カチオン性高分子ポリマー5が、層状構造を有する物2の層間中の懸濁態セシウムイオン1と反応する様子を示した模式概念図である。

【0026】
本発明では、ポリマー添加工程(I)を行うことで、カチオン性高分子ポリマーと層状構造を有する物(例えば、土壌中の粘土鉱物、スメクタイト、バイデライト、モンモリロナイト等)とを混合し、層状構造を有する物の層間中の負電荷を帯びている吸着サイトにカチオン性高分子ポリマーのカチオンを吸着させることにより、懸濁態セシウムをイオン交換反応により脱離させることができる。これにより、懸濁態セシウムが層状構造を有する物の層間中から容易に押し出される。
したがって、本発明に係る除去方法を用いることにより、懸濁態セシウムを効率的に除去することが可能である。

【0027】
ポリマー添加工程(I)に用いることができるカチオン性高分子ポリマーは、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、あらゆる種類のカチオン性高分子ポリマーを用いることができる。
また、本発明では、カチオン性高分子ポリマーを1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。

【0028】
ポリマー添加工程(I)において、カチオン性高分子ポリマーは希釈せずに使用してもよいが、水等を用いて希釈したものを使用することができる。

【0029】
また、ポリマー添加工程(I)では、ポリマー添加工程(I)で一度以上使用したカチオン性ポリマーも、再利用することができる。

【0030】
本発明においては、この中でも特に、アミノ基を備えるカチオン性高分子ポリマーを用いることが好ましい。アミノ基を備えるカチオン性高分子ポリマーは、カチオン化密度が高く、反応性に優れるからである。

【0031】
本発明において、前記アミノ基を備える水溶性ポリマーとしては特に限定されないが、アミン又はその塩、四級アンモニウム塩、又はカチオン化多糖類からなる群より選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。
なお、これらはホモポリマーであっても、コポリマーであってもよい。塩としては、例えば、ハロゲン(Cl、Br等)との塩などが挙げられる。

【0032】
前記アミン又はその塩は特に限定されないが、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、又はこれらの塩などを挙げることができる。

【0033】
前記四級アンモニウム塩は特に限定されないが、ポリジメチルジアリルアンモニウム塩、ポリメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩などを挙げることができる。

【0034】
前記カチオン化多糖類は特に限定されないが、カチオン化セルロース、カチオン化グアガム、カチオン化ローストビーンガム、カチオン化β-1,3-グルカン、カチオン化デンプンなどを挙げることができる。

【0035】
本発明においては、この中でも特に、アミン又はその塩を用いることが好ましく、前記アミン又はその塩として、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、又はこれらの塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上を用いることがより好ましい。

【0036】
また、本発明においては、この中でも特に、ポリエチレンイミンを用いることが最も好ましい。その理由について、以下詳細に説明する。

【0037】
ポリエチレンイミンは、エチレンイミンを重合した水溶性ポリマーであり、アミノ基を多数有する、カチオン化密度が非常に高いポリマーとして知られている。したがって、層状構造の深部の懸濁態セシウムと高効率でイオン交換反応し、吸着サイトから懸濁態セシウムを効率的に脱離し除去することができる。そのため、高い除去効果が期待できる。

【0038】
また、ポリエチレンイミンは、食品添加剤規格及び化粧品規格に適合している安価な工業資材であり、土壌改良資材の原料としても利用されている生分解性ポリマーでもある。したがって、高濃度の無機塩や強酸の除去工程等の化学洗浄法を経ることなく、容易に分解される性質を有する。そのため、化学洗浄法で発生するような二次的な汚染廃棄物が発生せず、かつ、懸濁態セシウムを除去した後の土壌等を直接、再資源化することが可能である。

【0039】
ポリマー添加工程(I)に用いることが最も好ましいポリエチレンイミンには、線状構造を有するもののみならず、分岐構造を有するものも広く含まれる。
本発明においては、この中でも特に、1級、2級及び3級アミンを含む分岐構造を有するポリエチレンイミンが好ましい。その化学構造が網目状であるため、反応性に優れるからである。

【0040】
前記1級、2級及び3級アミンを含む分岐構造を有するポリエチレンイミンを合成する方法は特に限定されず、例えば、エチレンイミンを酸触媒の存在下、開環重合させることにより合成することができる。

【0041】
本発明において、ポリマー添加工程(I)に用いることが最も好ましいポリエチレンイミンの分子量は特に限定されないが、分子量10万以下とすることが好ましい。

【0042】
ポリマー添加工程(I)において、ポリエチレンイミンは希釈せずに用いてもよいが、水等を用いて希釈したものを用いることもできる。水を用いて希釈したもの用いる場合、ポリエチレンイミン水溶液の濃度は特に限定されないが、後述する実験例2の結果から、0.05質量%以上2質量%以下とすることが好ましい。

【0043】
また、前記ポリエチレンイミン水溶液のpHも特に限定されないが、後述する実験例3の結果から、1以上11以下とすることが好ましく、4以上11以下とすることがより好ましい。

【0044】
また、ポリマー添加工程(I)では、ポリマー添加工程(I)で一度以上使用した前記ポリエチレンイミン水溶液も、再利用することができる。

【0045】
2.水洗工程(II)
本発明では、必要に応じて、水洗工程(II)、を更に行うこともできる。水洗工程(II)は、水を用いて洗浄する工程である。

【0046】
本発明では、ポリマー添加工程(I)、を少なくとも行うことにより懸濁態セシウムの除去が可能であるが、水洗工程(II)、を更に行うことにより、ポリマー添加工程(I)を経た後に残留した懸濁態セシウムをより確実に除去することが可能となる。

【0047】
水洗工程(II)に用いることができる水は特に限定されず、例えば、飲料水;調理用水;殺菌用水;水洗トイレ等の洗浄水;水道水;地下水;工場排水;海水;河川水などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。

【0048】
水洗工程(II)で洗浄する対象は特に限定されず、例えば、ポリマー添加工程(I)経た後の粘土鉱物等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【実施例】
【0050】
なお、以下の実験例1~3においては、安全性の観点から放射性セシウムを実験室で用いることが非常に困難であるため、セシウムとして133Cs(安定同位体)を用いている。
【実施例】
【0051】
[実験例1]
本実験例1では、カチオン性高分子ポリマーとしてポリエチレンイミンを用い、粘土鉱物中の懸濁態セシウムの除去についての評価を行った。
【実施例】
【0052】
(1)実験方法
[Csモンモリロナイトの調製]
純水100mlにモンモリロナイト(製品名「モンモリロナイト(天然鉱物)」和光純薬工業株式会社製)5gを添加し、3時間攪拌したのち、遠心分離によりモンモリロナイトを回収した。この操作を3回行い、精製モンモリロナイトを調製した。
精製モンモリロナイトを飽和塩化セシウム水溶液(133CsCl:162g/100ml)100mlに再懸濁させ、48時間攪拌したのち、一晩静置し、遠心分離により粗Csモンモリロナイトを回収した。
粗Csモンモリロナイトに含まれる塩化物を除去するために、粗Csモンモリロナイトを純水100mlに再懸濁させ、再生セルロースチューブに充填し、純水2Lを入れたビーカー内に浮かべて、ビーカー内を攪拌し、透析しながら、脱塩装置で再生セルロースチューブから溶出するイオンの除去を行った。再生セルロースチューブからイオンの溶出が認められなくなった時点で、透析を終了し、Csモンモリロナイトを回収した。回収したものを減圧乾燥し、めのう乳鉢ですりつぶして、均質化した。
Csモンモリロナイトの一部と精製モンモリロナイトを混合し、純水25mlに懸濁・均質化させ、遠心分離して回収したのち、減圧乾燥後、めのう乳鉢ですりつぶした。この際のCsモンモリロナイトと精製モンモリロナイトの混合物(以下、「モンモリロナイト試料」ともいう)に含まれる133Cs濃度は、64.7ppt(137Cs濃度に換算すると207kBq/kgに相当)であった。
【実施例】
【0053】
[懸濁態セシウムの除去についての評価]
モンモリロナイト試料2gに対し、2質量%ポリエチレンイミン水溶液(ポリエチレンイミン;(製品名「エポミンP-1000」株式会社日本触媒製;平均分子量約70,000;1g当たりのカチオン基約18mmol))を10ml添加し、8時間程度放置したのち、純水100mlを添加し、12時間攪拌した。遠心分離により上清とモンモリロナイト試料を回収し、上清は、イオンクロマトグラフィー(製品名「DX-120」日本ダイオネクス株式会社製)を用いて133Cs濃度を測定した。回収したモンモリロナイト試料は、再度純水100mlを添加し、12時間攪拌した。遠心分離により上清とモンモリロナイト試料を回収し、上清は、イオンクロマトグラフィーを用いて133Cs濃度を測定した。この一連の操作を、上清から133Csが検出されなくなるまで行った。すなわち、1回目の抽出操作のみ2質量%ポリエチレンイミン水溶液10ml及び純水100mlを用い、2回目以降の抽出操作は純水100mlを用いた。
別途、コントロール実験として、モンモリロナイト試料を純水100mlを用いて抽出する抽出操作を行った。
【実施例】
【0054】
(2)結果及び考察
実験例1の結果を下記表1に示す。また、上清に含まれる133Cs濃度(ppt)と抽出回数(回)との関係を図2に示す。
【実施例】
【0055】
【表1】
JP2016211891A_000003t.gif
【実施例】
【0056】
上記表1に示すように、2質量%ポリエチレンイミン水溶液10ml及び純水100mlを用いた1回目の抽出操作において、モンモリロナイト試料(初期値)の73%に相当する47pptの133Csが水相へと移行した。
また、6回目の抽出操作で133Csが検出限界以下になるまで、抽出操作を重ねるごとに濃度は減少した。
更に、6回目の抽出後にモンモリロナイト試料には、初期値の2.2%に相当する1.4ppt(137Cs濃度に換算すると4.5kBq/kgに相当)まで減少し、モンモリロナイト試料に含まれる97.8%のセシウムが水相へと移行した。
【実施例】
【0057】
なお、コントロール実験においては、1回目の抽出で4ppt(137Cs濃度に換算すると13kBq/kgに相当)の133Csが水相へと移行し、2回目の抽出操作では検出限界以下であった。
【実施例】
【0058】
本実験例1で調製したCsモンモリロナイトの層状構造の層間中のほとんどの吸着サイトには、セシウムが存在すると考えられる。
モンモリロナイト試料中のセシウムは、水のみの抽出操作で初期値の4%、ポリエチレンイミンを作用させたことにより、およそ98%が回収された。これは、ポリエチレンイミンのカチオン基がCsモンモリロナイトの層状構造の層間の深部にある懸濁態セシウムとイオン交換したことを示している。
本実験例1において、ポリエチレンイミンはモンモリロナイトの層状構造の層間を押し広げながらモンモリロナイトの表面をコーティングするように吸着していることが推察される。
【実施例】
【0059】
[実験例2]
本実験例2では、ポリエチレンイミン水溶液の濃度(以下、「PEI濃度」ともいう)についての検討を行った。
【実施例】
【0060】
(1)実験方法
濃度:0.005質量%、0.05質量%、0.1質量%、0.25質量%、0.5質量%、1質量%又は2質量%のポリエチレンイミン水溶液を、実験例1と同様の方法で調製したモンモリロナイト試料及び土壌試料に作用させ、ポリエチレンイミンによるセシウムの除去効果の濃度依存性を評価した。この際に用いたモンモリロナイト試料及び土壌試料の133Cs濃度は、それぞれ64.7ppt及び1.86ppmであった。
これらの試料5gに対し、25mlのそれぞれのポリエチレンイミン水溶液を加え、12時間攪拌した後に遠心分離による固液分離し、上清を回収した。その後、純水25mlを添加して30分間攪拌したのち、遠心分離による固液分離し、上清を回収する洗浄操作を2回行った。回収されたそれぞれの上清を合一して、133Cs濃度をそれぞれ測定し、除去率(%)を算出した。
【実施例】
【0061】
(2)結果及び考察
実験例2の結果を下記表2に示す。また、モンモリロナイト試料における除去率(%)とPEI濃度との関係を図3に、土壌試料における除去率(%)とPEI濃度との関係を図4に示す。なお、図3及び4において、下段のグラフは、上段のグラフの一部を拡大したものである。
【実施例】
【0062】
【表2】
JP2016211891A_000004t.gif
【実施例】
【0063】
上記表2に示すように、0.05質量%~2質量%の濃度範囲において、著しいポリエチレンイミンによるセシウムの除去効果が確認された。
その除去率は、モンモリロナイト試料で94.4%~97.1%、土壌試料で92.9%~96.6%あった。また、除去操作を行った際の試料残渣に残留していたセシウム濃度はいずれも5ppt未満であった。特に土壌試料の残渣に残留したセシウムをベースに除去率を算出すると、ほぼ100%のセシウムが除去できたことになる。
【実施例】
【0064】
したがって、本実験例2の結果から、ポリマー添加工程(I)におけるポリエチレンイミン水溶液の濃度は、0.05質量%以上2質量%以下とすることが好ましいことが判明した。
【実施例】
【0065】
また、本実験例2では、対象試料として、モンモリロナイト試料及び土壌試料を用いており、0.05質量%~2質量%の濃度範囲において、その除去率はいずれの試料においても高く、両試料の除去率は同程度であった。モンモリロナイト試料は、土壌中に含まれる粘土鉱物と同様の構造を有することから、本発明に係る除去方法は、土壌中に含まれる粘土鉱物及び土壌全体の両方に対して同様の除去率を示すことが判明した。よって、本発明に係る除去方法は、土壌及び土壌を分級処理した細粒の両方に対して適用可能であることが分かった。
【実施例】
【0066】
[実験例3]
本実験例3では、ポリエチレンイミン水溶液のpH1~11の範囲における、懸濁態セシウムの除去効果について検討を行った。
【実施例】
【0067】
(1)実験方法
濃度:0.1質量%のポリエチレンイミン水溶液を用いて、実験例1と同様の方法で調製したモンモリロナイト試料及び土壌試料のポリエチレンイミンによるセシウムの除去効果のpH依存性を評価した。この際に用いたモンモリロナイト試料及び土壌試料の133Cs濃度は、それぞれ64.7ppt及び1.86ppmであった。
これらの試料5gに対し、25mlの濃度:0.1質量%ポリエチレンイミン水溶液を加え、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いて、アルカリ性、中性、酸性環境をそれぞれ作成し、12時間攪拌した後に遠心分離による固液分離し、上清を回収した。その後、純水25mlを添加して30分間攪拌したのち、遠心分離による固液分離し、上清を回収する洗浄操作を2回行った。回収されたそれぞれの上清を合一して、133Cs濃度を測定し、除去率(%)を算出した。
【実施例】
【0068】
(2)結果及び考察
実験例3の結果を下記表3に示す。また、モンモリロナイト試料における除去率(%)とポリエチレンイミン水溶液のpHとの関係を図5に、土壌試料における除去率(%)とポリエチレンイミン水溶液のpHとの関係を図6に示す。
【実施例】
【0069】
【表3】
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【実施例】
【0070】
上記表3に示すように、pH1~11のpH環境下において、いずれも85%以上の高い除去率を示した。特にpH4~11の範囲においてはいずれも90%以上の除去率を示し、ポリエチレンイミンによるセシウムの高い除去効果が確認された。その除去率は、モンモリロナイト試料で94.1%~97.4%、土壌試料で91.2%~96.4%あった。また、除去操作を行った際の試料残渣に残留していたセシウム濃度はいずれも5ppt未満であった。
【実施例】
【0071】
したがって、本実験例3の結果から、ポリマー添加工程(I)におけるポリエチレンイミン水溶液のpHは、1以上11以下とすることが好ましく、4以上11以下とすることがより好ましいことが判明した。
【実施例】
【0072】
また、本実験例3では、対象試料として、モンモリロナイト試料及び土壌試料を用いており、pH1~11のpH環境下において、その除去率はいずれの試料においても高く、両試料の除去率は同程度であった。したがって、実験例2と同様に、本発明に係る除去方法は、土壌中に含まれる粘土鉱物及び土壌全体の両方に対して同様の除去率を示すことから、土壌及び土壌を分級処理した細粒の両方に対して適用可能であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る懸濁態セシウムの除去方法は、環境負荷の少ない物質(カチオン性高分子ポリマー)と放射性セシウムとを置換させることで、粘土鉱物の深部、アルミニウムや鉄などを含む吸着サイト等から懸濁態セシウムを効率的に除去することが可能である。
【0074】
また、本発明に係る除去方法を用いることで、土壌等の再利用が可能となり、廃棄物の量も抑制することができる。そのため、環境復旧事業等にも大いに貢献できる。
【0075】
更に、本発明で用いられるカチオン性高分子ポリマーは比較的安価で、かつ環境負荷が少ないため、スケールを大きくしても、コスト的及び環境的な観点から非常に有用である。したがって、本発明に係る除去方法は、実験室等での実施のみならず、専用の大型装置等を用いて実施することも可能である。
【0076】
更にまた、本発明に係る除去方法は、土壌中に含まれる粘土鉱物及び土壌全体の両方に対して同様の除去率を示すことから、土壌及び土壌を分級処理した細粒の両方に対して適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1:懸濁態セシウムイオン
2:層状構造を有する物
3:ナトリウム、マグネシウム等の層間カチオン
4:水分子
5:カチオン性高分子ポリマー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5