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明細書 :ペプチドを原料とする機能性と嗜好性に優れた素材およびこれを用いた食品・ペットフード

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-163561 (P2016-163561A)
公開日 平成28年9月8日(2016.9.8)
発明の名称または考案の名称 ペプチドを原料とする機能性と嗜好性に優れた素材およびこれを用いた食品・ペットフード
国際特許分類 A23L  33/17        (2016.01)
A23K  50/40        (2016.01)
A23K  20/147       (2016.01)
A23K  10/12        (2016.01)
A61K  35/34        (2015.01)
A61P  25/18        (2006.01)
A61P   9/12        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
FI A23L 1/305
A23K 1/18 A
A23K 1/16 303F
A23K 1/00 101
A61K 35/34
A61P 25/18
A61P 9/12
A61P 25/28
A61K 37/02
請求項の数または発明の数 15
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2015-244174 (P2015-244174)
出願日 平成27年12月15日(2015.12.15)
優先権出願番号 2015038731
優先日 平成27年2月27日(2015.2.27)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】有原 圭三
【氏名】大畑 素子
出願人 【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】100135183、【弁理士】、【氏名又は名称】大窪 克之
審査請求
テーマコード 2B005
2B150
4B018
4C084
4C087
Fターム 2B005AA02
2B005AA03
2B005AA04
2B150AA06
2B150AB04
2B150AB10
2B150AE01
2B150AE13
2B150BA01
2B150BB04
2B150BB05
2B150BC03
2B150BD01
2B150CD02
2B150CJ07
2B150DC14
2B150DC23
2B150DE01
2B150DH02
2B150DH35
4B018MD20
4B018MD28
4B018MD90
4B018ME04
4B018ME06
4B018ME14
4B018MF04
4B018MF12
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA06
4C084BA08
4C084BA34
4C084BA43
4C084BA44
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA181
4C084ZA182
4C084ZA421
4C084ZA422
4C087AA02
4C087AA04
4C087BB47
4C087CA03
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA15
4C087ZA18
4C087ZA42
要約 【課題】筋肉タンパク質を含む各種原料から保健的機能性と嗜好性向上効果に優れた新しい食品・ペットフード素材を開発すると共に、この素材を使用した魅力的な食品やペットフード等の提供。
【解決手段】筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理して得られるペプチドを含有するタンパク質分解物に、特定の重量比の還元糖を添加し、加熱することによりメイラード反応を生じさせ、メイラード反応生成物と残存するペプチドにより保健的機能性と嗜好性向上効果に優れた食品素材又はペットフード素材。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理して得られるペプチド含有物に、該ペプチド含有物に対して重量比で0.1~2の還元糖を加え、これを加熱処理することによって得られる素材であり、前記加熱処理に伴い生じるメイラード反応生成物と残存するペプチドとを含むことを特徴とする、保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた食品素材またはペットフード素材。
【請求項2】
筋肉タンパク質がミオシンおよびアクチンである、請求項1記載の食品素材またはペットフード素材。
【請求項3】
プロテアーゼがパパインである、請求項1または2記載の食品素材またはペットフード素材。
【請求項4】
還元糖がキシロースである、請求項1~3のいずれかの項記載の食品素材またはペットフード素材。
【請求項5】
保健的機能性が抗酸化作用によるものである、請求項1~4のいずれかの項記載の食品素材またはペットフード素材。
【請求項6】
保健的機能性が抗ストレス作用によるものである、請求項1~4のいずれかの項記載の食品素材またはペットフード素材。
【請求項7】
保健的機能性が血圧降下作用によるものである、請求項1~4のいずれかの項記載の食品素材またはペットフード素材。
【請求項8】
保健的機能性が抗健忘作用によるものである、請求項1~4のいずれかの項記載の食品素材またはペットフード素材。
【請求項9】
加熱調製時にpH調整剤を添加して調製される、請求項1~8のいずれかの項記載の食品素材またはペットフード素材。
【請求項10】
pH調整剤が炭酸ナトリウムである、請求項9記載の食品素材またはペットフード素材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかの項記載の素材を用いて製造した食品またはペットフード。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかの項記載の素材を用いて製造したサプリメント。
【請求項13】
筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理して得られるペプチド含有物に該ペプチド含有物に対して重量比で0.1~2の還元糖を加え、これを加熱処理することによって得られる素材であり、前記加熱処理に伴い生じるメイラード反応生成物と残存するペプチドを含むことを特徴とする、保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた、請求項1~10のいずれかの項記載の食品素材またはペットフード素材の製造方法。
【請求項14】
筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理して得られるペプチド含有物を、還元糖を含む組成物に加え、これを加熱処理することによって調製される食品またはペットフードであり、前記加熱処理に伴い生じるメイラード反応生成物と残存するペプチドを含むことを特徴とする、保健的機能性と優れた嗜好性を備えた食品またはペットフード。
【請求項15】
筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理して得られるペプチド含有物を、還元糖を含む組成物に加え、これを加熱処理し、メイラード反応生成物を生じさせることを含む、請求項14記載の食品またはペットフードの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉タンパク質分解物(ペプチド含有物)を原料として加熱処理に伴うメイラード反応を利用して調製する保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた食品素材およびペットフード素材、これを含有する食品およびペットフード並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜、家禽、魚介類等の筋肉タンパク質(ミオシンやアクチン)をプロテアーゼ処理(タンパク質を分解)して得られる分解物中には、血圧降下ペプチドや抗酸化ペプチドなどの生理活性ペプチドが見つかっている(非特許文献1)。本発明者らも、筋肉タンパク質(豚骨格筋アクトミオシン)分解物中から、Asp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、Val-Trpといった抗酸化ペプチドを発見し、これらの経口投与が抗疲労作用等の保健的機能を示すことを明らかにしている(特許文献1)。
【0003】
また、本発明者らは、筋肉(畜肉および魚肉)タンパク質をプロテアーゼ処理(酵素分解)させることにより得られるペプチド性素材が、嗜好性向上効果を有することも見出した(非特許文献2、特許文献2)。
【0004】
一方、動物(家畜、家禽、魚類等)の皮膚、骨、軟骨、腱などを構成する重要なタンパク質としてコラーゲンがある。コラーゲンをプロテアーゼ処理(分解)して得られるペプチド(コラーゲンペプチド)も、食品や化粧品などに利用されている。しかし、コラーゲンが極端に偏ったアミノ酸組成(グリシン33%、プロリン+ヒドロキシプロリン22%、アラニン11%)であるために、分解により生成するペプチドの機能は非常に限定され、抗酸化活性も筋肉タンパク質分解物と比べるとかなり低く、嗜好性の面でも魅力を欠くものである。
【0005】
本発明者らは、保健的機能性(抗酸化作用)や嗜好性の面で魅力に乏しいコラーゲンペプチドを、食品やペットフードに利用できる付加価値の高い素材にするために、メイラード反応を利用した。すなわち、コラーゲンペプチドに還元糖を加え、これを加熱処理することによりメイラード反応生成物を生じさせ、保健的機能性(抗酸化作用など)と嗜好性向上効果を備えた食品・ペットフード素材を完成させた(特許文献3)。
【0006】
しかし、コラーゲンペプチドは前述のようにアミノ酸組成に偏りがあり、コラーゲンに比べてアミノ酸組成のバランスが優れている(特定のアミノ酸に偏っていない)筋肉タンパク質分解物(ペプチド)を用いて、保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた食品・ペットフード素材とすることは知られていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特許第4828890号
【特許文献2】特開2009-22206号
【特許文献3】特許第5326489号
【0008】

【非特許文献1】有原圭三(監修). 機能性ペプチドの最新応用技術. シーエムシー出版. 2009.
【非特許文献2】大畑素子, 有原圭三, 石川伸一, 伊藤良. 鶏肉あるいは鰹肉をパパインで分解して調製したペプチド性キャットフード素材の嗜好性に対する影響. ペット栄養学会誌. 13:1-13, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、筋肉タンパク質を含む各種原料から調製したプロテアーゼ分解物(ペプチド)から、加熱処理に伴うメイラード反応の利用により保健的機能性と嗜好性向上効果に優れた新しい食品・ペットフード素材を開発すると共に、この素材を使用した魅力的な食品やペットフード等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの課題を解決すべく、本発明者らは、鋭意研究を進め、ミオシンやアクチンなどの筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理して得られるペプチドを含有するタンパク質分解物に、特定の重量比の還元糖を添加し、加熱することによりメイラード反応を生じさせ、メイラード反応生成物と残存するペプチドによりもたらされる保健的機能性と嗜好性向上効果に優れた素材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理(タンパク質を分解)して得られるペプチド含有物に該ペプチド含有物に対して重量比で0.1~2の還元糖を加え、これを加熱処理することによって得られる素材であり、加熱処理に伴い生じるメイラード反応生成物と残存するペプチドを含むことを特徴とする、保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた食品素材またはペットフード素材である。
【0012】
本発明は、筋肉タンパク質としてミオシンおよびアクチンを用いて、プロテアーゼで処理(タンパク質を分解)して得られるペプチド含有物に該ペプチド含有物に対して重量比で0.1~2の還元糖を加え、これを加熱処理することによって得られる素材であり、加熱処理に伴い生じるメイラード反応生成物と残存するペプチドを含むことを特徴とする、保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた食品素材またはペットフード素材である。
【0013】
また、本発明は、筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理(タンパク質を分解)して得られるペプチド含有物に該ペプチド含有物に対して重量比で0.1~2の還元糖を加え、これを加熱処理することによって得られる素材であり、加熱処理に伴い生じるメイラード反応生成物と残存するペプチドを含むことを特徴とする、保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた食品素材またはペットフード素材を用いて製造した、食品、ペットフード、またはサプリメントである。
【0014】
さらに本発明は、筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理(タンパク質を分解)して得られるペプチド含有物に該ペプチド含有物に対して重量比で0.1~2の還元糖を加え、これを加熱処理することによって得られる素材であり、加熱処理に伴い生じるメイラード反応生成物と残存するペプチドを含むことを特徴とする、保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた食品素材またはペットフード素材の製造方法である。
【0015】
本発明は、筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理(タンパク質を分解)して得られるペプチド含有物に該ペプチド含有物に対して重量比で0.1~2の還元糖を加え、これを加熱処理することによって得られる素材であり、加熱処理に伴い生じるメイラード反応生成物と残存するペプチドを含むことを特徴とする、保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた食品素材またはペットフード素材を用いた食品、ペットフード、又はサプリメントの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、保健的機能性として価値の高い抗酸化活性を有し、しかも嗜好性向上効果を備えた食品およびペットフード素材を提供することが可能となる。
【0017】
また、本発明により、活性酸素の関わる疾病の予防が期待できると共に、嗜好性にも優れた食品およびペットフードを提供することが可能となる。
【0018】
本発明により、血圧降下作用と嗜好性の両方を備えた食品およびペットフード素材、並びに食品及びペットフードを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】筋肉タンパク質を含む原料からプロテアーゼ処理と加熱処理(メイラード反応)を経て得られる食品・ペットフード素材の製造過程の概略を示す図である。
【図2】筋肉タンパク質分解物の加熱処理(メイラード反応)を行う際のキシロース濃度が抗酸化活性に及ぼす影響を検討した結果を示す図である。
【図3】筋肉タンパク質分解物の加熱処理(メイラード反応)を行う際の炭酸ナトリウム(pH調整剤)濃度が抗酸化活性に及ぼす影響を検討した結果を示す図である。
【図4】筋肉タンパク質分解物の加熱処理(メイラード反応)を行う際の加熱時間が抗酸化活性に及ぼす影響を検討した結果を示す図である。
【図5】筋肉タンパク質分解物およびコラーゲン分解物を加熱処理(メイラード反応)して調製した素材の抗酸化活性を比較した結果を示す図である。
【図6】アクトミオシン分解物および筋肉タンパク質分解物を加熱処理(メイラード反応)して調製した素材の抗酸化活性を比較した結果を示す図である。
【図7】筋肉タンパク質分解物およびコラーゲン分解物を加熱処理(メイラード反応)して調製した素材をマウスに経口投与した場合の酸化ストレス度への影響を検討した結果を示す図である。
【図8】筋肉タンパク質分解物を加熱処理(メイラード反応)して調製した素材をスコポラミン誘発性記憶障害マウスに経口投与した場合の抗健忘作用を検討した結果を示す図である。
【図9】筋肉タンパク質分解物を加熱処理(メイラード反応)して調製した素材を高血圧自然発症ラットに経口投与した場合の血圧降下作用を検討した結果を示す図である。
【図10】筋肉タンパク質分解物およびコラーゲン分解物を加熱処理(メイラード反応)して調製した素材のヒトにおける嗜好性試験を行なった結果を示す図である。
【図11】筋肉タンパク質分解物およびコラーゲン分解物を加熱処理(メイラード反応)して調製した素材のネコにおける嗜好性試験を行なった結果を示す図である。
【図12】筋肉タンパク質分解物由来の抗酸化ペプチドAsp-Leu-Ayr-Ala(DLYA)を加熱処理した際の変化(ペプチドの消失)について試験を行った結果を示す図である。
【図13】筋肉タンパク質分解物から調製したメイラード反応生成物の加熱安定性を、抗酸化活性を指標として検討した結果を示す図である。
【図14】コラーゲン分解物、及び筋肉タンパク質分解物から調製したメイラード反応生成物の血圧降下作用を、高血圧自然発症ラットを用いて測定した結果を示す図である。
【図15】筋肉タンパク質分解物から調製したメイラード反応生成物の嗜好性と抗酸化活性の、還元糖の添加量による変化を検討した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の食品素材またはペットフード素材は、筋肉タンパク質を含む原料をプロテアーゼで処理し、得られたタンパク質分解物(ペプチド)に、還元糖および必要に応じてpH調整剤を添加した後に加熱処理を行うことにより調製することができ、加熱処理に伴うメイラード反応生成物と残存する筋肉タンパク質由来のペプチドを主たる有効成分とする素材である。

【0021】
本発明の筋肉タンパク質を含む原料は、ミオシンやアクチンといった筋肉タンパク質を含む動物組織(主に、骨格筋、心筋、平滑筋)を用いて調製することができる。なお、ミオシンとアクチンは筋肉を構成する主要タンパク質であり、たとえば牛や豚といった哺乳動物の骨格筋タンパク質中では、ミオシンが約30%、アクチンが約13%を占める(Lawrie R A. Meat Science, Pergamon Press. p.49, 1991)。用いる動物組織としては、入手のしやすさから、鶏、豚、牛といった家禽・家畜や魚介類の骨格筋(いわゆる畜肉や魚肉)を用いることが多いと想定されるが、これらに限定されるものではない(以下の実施例では、鶏骨格筋を使用)。動物種および筋肉の部位や状態も、特に限定されるものではない。原料の調製方法も、相当量の筋肉タンパク質(ミオシンおよびアクチン)を含む材料が得られるのであれば、任意の方法が使用できる。

【0022】
本発明で、筋肉タンパク質の分解に用いる酵素は、特定のものに限定されるものではなく、ミオシンやアクチンといった筋肉を構成する主要タンパク質を適度に分解するものであれば、種類は問わない。プロテアーゼ処理は、筋肉タンパク質を含む材料にそのまま、あるいは加水して粉砕または摩砕により水懸濁液とした後に、プロテアーゼを添加して行うことができる。なお、タンパク質としてコラーゲンを用いる場合(特許第5326489号)、加熱処理によりコラーゲンをゼラチン化させてプロテアーゼの作用を受けやすくすることが必須であるが、ミオシンやアクチンといった筋肉タンパク質の場合はプロテアーゼ処理前の加熱過程は不要であり、製造過程を短縮可能であり、低コストで素材を製造することができる。

【0023】
プロテアーゼとしては、パパイン、ブロメライン、フィシン、サーモリシンなどを好適に例示することができるが、適度な程度の分解物(ペプチド)が得られる酵素としてパパインを用いることが特に好ましい。なお、筋肉タンパク質のプロテアーゼ処理(分解)は、タンパク質よりもメイラード反応を起こしやすいペプチドに変換するために行う。また、加熱処理を経た後に残存するペプチドの保健的機能も利用する。アミノ酸やペプチドの種類は、メイラード反応生成物の組成に影響するため、目的に応じた酵素(プロテアーゼ)の選択をする必要がある。タンパク質の分解を進めすぎると、加熱処理(メイラード反応
)後に残存するペプチドの保健的機能が乏しくなる。また、アミノ酸が過剰に生成されると、風味への悪影響も懸念されるので、嗜好性の面からも適度にタンパク質を分解させることが重要である。

【0024】
筋肉タンパク質にプロテアーゼを作用させる場合、温度、pH等を、それぞれのプロテアーゼの至適条件に設定すると、速やかに分解物(ペプチド)を得ることができるが、プロテアーゼの添加量や反応時間によっても制御可能であるため、特定の条件に限定されるものではない。プロテアーゼにより筋肉タンパク質を含む原料を分解した後に、溶液を85~100℃程度に加熱して、プロテアーゼ活性を消失させることが好ましいが、次の段階の加熱処理(メイラード反応)で兼ねることができるため、必須の過程ではない。

【0025】
筋肉タンパク質分解物は、懸濁液としてそのまま、あるいは、冷蔵・凍結など適切な保存方法を経た後に利用してもよいし、凍結乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥などの適当な方法により乾燥させ、パウダー状に加工してもよい。乾燥・パウダー化させた素材は、長期間の貯蔵に適した形状である。

【0026】
プロテアーゼ処理により調製した筋肉タンパク質分解物(ペプチド含有物)は、還元糖を添加した後に加熱処理によりメイラード反応を起こさせる。

【0027】
使用する還元糖としては、キシロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトースなどが挙げられ、特にキシロースやグルコースが好ましい。また、非還元糖であっても、スクロースやデンプンのように分解により容易に還元糖に変換される糖質の使用も、条件によっては可能である。さらに、筋肉タンパク質分解物に還元糖を加える代わりに、還元糖を含む組成物に筋肉タンパク質分解物を混合した後に、加熱処理を行うことにより、メイラード反応を生じさせることもできる。この方法は、高温加熱処理過程を伴って製造される食品やペットフードにおいては効率的である。還元糖を含む組成物は特に限定されることはなく、キシロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトースといった還元糖を初めから含有している原料であっても、これらの還元糖を後から添加したものでも構わない。例えば、還元糖を含む植物性素材(穀類、水飴など)等の原料を用いてもよい。

【0028】
添加する還元糖の量は、筋肉タンパク質分解物に対して重量比で0.1~2とする必要がある。この範囲において、保健的機能性と嗜好性の両方を有する食品素材またはペットフード素材を提供することが可能である。還元糖の量が、筋肉タンパク質分解物に対する重量比で0.1より小さい、特に0.01以下の場合は、メイラード反応による微量の香気成分の生成による嗜好性の向上は得られるが、抗酸化活性に由来する保健的機能性は得られない。あるいは、添加する還元糖の量は、筋肉タンパク質分解物に対して重量比で0.1以上、0.2以上、0.5以上、または1以上、及び2以下、1.5以下、または1以下としてもよい。

【0029】
メイラード反応はアルカリ側で進行しやすいので、タンパク質分解物(ペプチド)含有物を加熱処理する前に、炭酸ナトリウム等のpH調整剤を添加することにより、添加しない場合よりも低温あるいは短時間で反応を進めることができる。

【0030】
加熱処理は、メイラード反応を生じさせる条件で行えばよく、使用する筋肉タンパク質分解物の種類や量、還元糖の種類や量、pH調整剤の種類や量などによっても異なる。好ましくは、80~150℃で、10~240分間、特に好ましくは炭酸ナトリウムなどのpH調整剤を適量添加した後に90~120℃で、30~180分間行う。150℃以上で反応させることも可能だが、メイラード反応以外の化学反応(カラメル化反応など)が生じやすくなるため、特別な理由がない限り避けるべきである。

【0031】
メイラード反応(アミノ・カルボニル反応)は、アミノ化合物(アミノ酸やペプチド)とカルボニル化合物(還元糖など)の混合物を加熱したときに起こる化学反応である。一般に、ペプチドは、糖の無い状態で加熱しても比較的安定であるが、還元糖などのカルボニル化合物と共に加熱してメイラード反応が起きると部分的に消失する(実験例1参照)。しかし一方で、メイラード反応は、加熱食品において風味や色調形成に重要な役割を演じている(加藤博通. メイラード反応により生成する色素. 色から見た食品のサイエンス, サイエンスフォーラム. p.183-191. 2004; グゥエン ヴァン チュエン, 山口敬子, 葛西真知子, 畑裕生. ペプチドのメイラード反応. 食品加工技術. 25:59-65, 2005)。また、近年、メイラード反応により生成する物質であるメラノイジン等には、抗酸化作用などの保健的機能があることも注目されている。

【0032】
本発明者らは、コラーゲン分解物(ペプチド含有物)を利用して調製したメイラード反応生成物を含む素材が、保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた食品・ペットフード原料として好適であることを示した(特許第5326489号)。コラーゲンは極端な偏りのあるアミノ酸組成を有するが、筋肉タンパク質は各種アミノ酸をバランスよく含んでいる。具体的には、コラーゲンは主にグリシンやプロリンといった非必須アミノ酸で構成され、必須アミノ酸であるトリプトファンが欠落しているためにアミノ酸スコアは0である。これに対し、ミオシンやアクチンに代表される筋肉タンパク質はすべての必須アミノ酸を適度に有しているため、食肉(筋肉)タンパク質はアミノ酸スコアが100である。両者のこのようなアミノ酸組成の違いが、食品素材やペットフード素材を調製する際の加熱処理の必要性や、加熱処理を経て調製される素材の性質にも大きく影響している。

【0033】
コラーゲン分解物はそのままでは、食品素材やペットフード素材として不十分な場合が多く、還元糖等と共に加熱してメイラード反応により得られる風味を付加して嗜好性を向上させる必要がある。上述のように、糖類と共に加熱することでペプチドは消失するが、コラーゲン分解物は元々有用なペプチド(アミノ酸)に乏しく、加熱による嗜好性向上を考えれば、ペプチドが消失することはほとんど無視できる。一方、筋肉タンパク質分解物中には、豊富な必須アミノ酸と生理活性ペプチドが含まれるため、加熱しなくとも、十分な保健的機能性(例えば、血圧降下作用)を有する食品素材やペットフード素材とすることができる(例えば、特開2006-22206号)。したがって、糖類と共に加熱することによるペプチドの消失、すなわち保健的機能性の消失を考慮すると、豊富な必須アミノ酸を含有し、十分な保健的機能性を有する筋肉タンパク質分解物をさらに加熱することはしなかった。

【0034】
コラーゲン分解物と筋肉タンパク質分解物を用いて調製したメイラード反応生成物では、保健的機能性や嗜好性などの特性が明らかに異なっている。このため、筋肉タンパク質分解物を用いて調製したメイラード反応生成物は、新規の食品素材あるいはペットフード素材として新たな用途が期待できる価値の高いものである。

【0035】
本発明の素材が抗酸化作用およびこれに付随する保健的機能性を有することは、後述の実施例において実証されている。さらに、本発明の素材が嗜好性向上効果を有することも実施例が示している。

【0036】
本発明の素材は、食品やペットフードに利用する素材として利用できる。抗酸化作用や嗜好性向上効果を示すのに必要な添加量は、通常の食品やペットフードの場合、0.1~10重量%程度である。ただし、1回の摂取量が少ない特殊な食品、ペットフード、サプリメント、医薬品の場合は、10重量%以上の添加を行ってもよい。本発明の素材を食品やペットフードに添加する場合、本発明の効果が損なわれない範囲で、添加剤(ビタミン類、ミネラル類等の栄養添加剤、甘味料、香料、色素等の呈味・矯臭剤・外観改善剤等)などを利用することができる。

【0037】
本発明の素材、すなわち、筋肉タンパク質分解物を用い還元糖を添加して調製したメイラード反応生成物は、熱安定性に優れているため、適当な食品やペットフード等に添加・加工(混合、加熱等)する際に、保健的機能性や嗜好性に関して何ら問題を生じない。このメイラード反応生成物からなる素材を利用して食品やペットフードを製造する方法としては、食品やペットフード原料に配合(添加あるいは混合)しても、また、製造される食品やペットフード表面に被覆してもよく、特定の方法に限定されない。食品やペットフードを製造する場合、さらに加熱処理が行われる場合が多いが、通常の加熱処理によって本発明の素材の効果が著しく損ねられることはない(実験例2参照)。

【0038】
本発明の素材を利用する食品やペットフードの種類としては特に制限されない。例えば、食品であれば、ジュース、コーヒー、紅茶、スポーツ飲料等の各種飲料や、プリン、クッキー、ケーキ等の菓子類、うどん、そば等の麺類、ハム、ソーセージ等の食肉製品や魚肉製品、チーズ、バター等の乳製品、調味料類、各種惣菜などをあげることができる。また、ペットフードであれば、ドライタイプやウェットタイプのドッグフードやキャットフード、ペット用各種飲料、ソーセージやペースト等のペット用練り製品、ペット用スナック類などをあげることができる。

【0039】
さらに、本発明の素材は、抗酸化作用を利用した人間用のサプリメントや犬や猫などの愛玩動物用サプリメントとして用いるのにも適している。特に愛玩動物用サプリメントの場合では、嗜好性が低いと動物が十分に摂取せず効果が発揮できないため、嗜好性の高いことも重要な要件となる。また、この素材は人間や動物の医薬品として使用することにも期待できる。

【0040】
なお、本発明における抗酸化作用とは、特定のものに限定されるものではない。生体内においては、活性酸素(あるいはフリーラジカル)の生成に伴い酸化ストレスが生じる。酸化ストレスは細胞膜等の損傷をはじめとする生体防御システムの攪乱をもたらすことにより、数多くの疾病の誘因となる。このような疾病として、循環器疾患、消化器疾患、腎疾患、皮膚疾患、脳神経疾患、糖尿病、呼吸器疾患、血液疾患、眼疾患などがあげられる。また、酸化ストレスは、いわゆるストレス症状(身体症状、心理症状、行動症状)など様々な体調不調とも密接な関係がある。本発明における抗酸化作用とは、「酸化ストレス(フリーラジカル生成)の係る生体システムの攪乱を招く現象を防止するもの」と言い換えることもできる。

【0041】
以下、本発明を実施例で説明する。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
(筋肉タンパク質分解物から加熱処理により得られるメイラード反応生成物を含む素材の調製方法)
筋肉タンパク質分解物から本発明のメイラード反応生成物を含む素材を調製する過程の概略を図1に示した。以下、鶏骨格筋を筋肉タンパク質として用いた場合の例を示す。新鮮なブロイラー骨格筋(ささみ部分)を、脂肪をできるだけ取り除いた後に細切し、ミンチを行ないやすいように加水(等量)した。プロテアーゼとしてパパイン(精製パパインFL-3、アサヒフードアンドヘルス株式会社)を1重量%量添加した。50℃で60分間酵素反応(分解反応)を行った後、85℃で1時間加熱してパパインを失活させた。濾過および遠心分離により不溶物を除去し、凍結乾燥させた後に粉砕し、得られた粉末を筋肉
タンパク質分解物とした。なお、乾燥工程はエアードライ法やドラムドライ法のような加熱乾燥法によっても問題なく、とくに大量に調製する場合には、コスト面において凍結乾燥法よりも優れている。また、以下のメイラード反応を直ちに実施する場合は、乾燥を経ずに行うことも可能である。
【実施例】
【0043】
筋肉(鶏骨格筋)タンパク質分解物を50mg/mlとなるように水に溶かし、以下の実験の目的に応じてキシロース(還元糖)と炭酸ナトリウム(pH調整剤)を適宜量添加した。これらを入れた容器を密栓し、ヒートブロック上で加熱し、メイラード反応を起こさせた。加熱温度は90~120℃として、加熱時間は0~240分間の範囲とした。加熱終了後、冷却した溶液を、メイラード反応生成物を含む素材として以下の検討に用いた。なお、必要に応じて凍結乾燥により粉末状の素材も得たが、乾燥工程はエアードライ法やドラムドライ法のような加熱を伴う乾燥法によっても問題なく、とくに大量に調製する場合には、コスト面において凍結乾燥法よりも優れている。また、加熱乾燥法を採用する場合、乾燥過程においてもメイラード反応が進行するので、これを考慮して素材調製を行うとよい。また、反応条件を調整すれば、加熱処理を加熱乾燥に置き換えて行うこともでき、製造過程や製造時間を簡略化することによるコスト軽減も図れる。
【実施例】
【0044】
筋肉タンパク質として、筋肉の主要タンパク質であるミオシンとアクチンを用いる場合は、以下のようにしてメイラード反応生成物を含む素材を調製した。筋肉が死後硬直する際に、筋肉タンパク質であるミオシンとアクチンは結合してアクトミオシンになるため、アクトミオシンを調製した。アクトミオシンの調製方法は、特定の方法に限定されないが、ここでは文献(Briskey E J & Fukazawa T. Advances in Food Research. 19:279-360, 1971)記載の方法を採用した。すなわち、挽き肉にした骨格筋(鶏肉ささみ肉)に緩衝液(0.6M KCl/0.04M NaHCO/0.01M NaCO)を加え、混合・遠心分離を繰り返した後、透析による脱塩と凍結乾燥を行い、アクトミオシン標品を得た。得られたアクトミオシンは、上記の未精製の筋肉(鶏骨格筋)タンパク質の場合と同様にしてプロテアーゼ(パパイン)分解と酵素失活を行った。次いで、アクトミオシン分解物を50mg/mlとなるように水に溶かし、キシロース(40mg/ml)と炭酸ナトリウム(0.5mg/ml)を添加した。これらを入れた容器を密栓し、ヒートブロック上で加熱(90℃、120分間)し、メイラード反応を起こさせた。加熱終了後、冷却した溶液を、メイラード反応生成物を含む素材として実施例2の検討に用いた。
【実施例】
【0045】
(実施例2)
(筋肉タンパク質分解物を加熱処理して得られる素材の抗酸化活性)
加熱によるメイラード反応を行う際の条件を検討するために、実施例1で得られたメイラード反応生成物を含む素材の抗酸化活性を測定した。抗酸化活性の測定には、スーパーオキサイドイオンを化学発光法によって定量する方法を用いた。ペプチド等の測定試料の存在下でヒポキサンチンにキサンチンオキシダーゼを反応させ、スーパーオキサイドイオンを生成させ、これに発光試薬である2-メチルー6-p-メトキシフェニルエチニルイミダゾピラノジン(MPEC、アトー株式会社)を反応させ、発光量をルミネッセンサーAB-2200(アトー株式会社)で測定した。以下の式により、抗酸化活性を算出した。
【実施例】
【0046】
抗酸化活性(%)=(対照の測定値-試料の測定値)÷対照の測定値×100
【実施例】
【0047】
実施例1で得られた筋肉(鶏骨格筋)タンパク質分解物から調製したメイラード反応生成物を含む素材の抗酸化活性を測定した。加熱処理(メイラード反応)を行う際に糖質(還元糖)として添加するキシロースの添加量と抗酸化活性の関係を検討した結果を図2に示した。メイラード反応生成物を含む素材は、実施例1の筋肉タンパク質分解物溶液(50mg/l)に、キシロースを0~50mg/mlの濃度になるように添加し、100℃で90分間加熱して調製した。キシロース添加量が0~50mg/mlの範囲では、添加量が多いほど抗酸化活性は高く、還元糖であるキシロースの存在により、メイラード反応が進行したものと考えられた。メイラード反応の指標として反応液の色調(褐色の強さ)を用いることができ、キシロースの添加量が多いほど、反応液は濃い色調を呈していた(データ省略)。なお、キシロース無添加(0mg/ml)の場合は反応液の色調にほとんど変化はなく、メイラード反応がほとんど進行していなかったが、ある程度の抗酸化活性が認められた(図2)。これは、筋肉タンパク質分解物中に、Asp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、Val-Trpといった抗酸化ペプチドが含まれるためである(特許第4828890号)。
【実施例】
【0048】
加熱処理(メイラード反応)を行う際に、pH調整剤として用いる炭酸ナトリウムの添加量と抗酸化活性の関係を検討した結果を図3に示した。実施例1の筋肉タンパク質分解物(50mg/ml)とキシロース(40mg/ml)を含む溶液に、炭酸ナトリウムを0~1mg/mlの濃度になるように添加し、90℃で60分間加熱して、メイラード反応生成物を含む溶液を調製した。炭酸ナトリウムの添加により抗酸化活性が上昇し、0.5mg/ml以上添加した場合、無添加(0mg/ml)の2倍以上の活性が認められた。なお、0.5mg/mlの濃度になるように炭酸ナトリウムを添加した場合、加熱前の溶液のpHは9.5であったが、加熱後は8.0になった。
【実施例】
【0049】
以上の結果から、加熱処理(メイラード反応)を行う際のキシロース添加量を40mg/ml、炭酸ナトリウム添加量を0.5mg/mlとすることが、好ましい条件のひとつであると判断するに至った。この条件の溶液を90℃で加熱した際の反応時間を0~240分間として、反応液の抗酸化活性を測定した結果を図4に示した。加熱時間が長いほどメイラード反応が進行し、高い抗酸化活性を示した。なお、100℃以上の温度条件で加熱した場合は、すでに図1(100℃、90分間)で示したように、炭酸ナトリウムのようなpH調整剤を添加せずに、十分に高い抗酸化活性を得ることができる。後述するように、たとえば120℃30分間の加熱により調製したメイラード反応生成物は、経口投与により生体内でも十分な抗酸化活性を発現した(実施例3参照)。
【実施例】
【0050】
本発明者らは、すでにコラーゲン分解物を加熱処理することによりメイラード反応を生じさせ、抗酸化作用を備えた食品・ペットフード素材を完成させた(特許第5326489号)。この素材と、本発明で筋肉タンパク質を原料として調製した素材との抗酸化活性を比較した。コラーゲン分解物(コラーゲンペプチド)は、特許公報(特許第5326489号)の記載にしたがって、鶏皮より調製した。コラーゲン分解物あるいは実施例1で調製した筋肉(鶏骨格筋)タンパク質分解物(50mg/ml)に、キシロース(40mg/ml)と炭酸ナトリウム(0.5mg/ml)を添加し、90℃で240分間加熱し、メイラード反応生成物を含む素材を調製した。これら2種および加熱前の分解物2種の計4種の試料の抗酸化活性(スーパーオキサイドイオン消去能)を測定した結果を図5に示した。
【実施例】
【0051】
コラーゲン分解物は加熱前には抗酸化活性がほとんど認められなかったが、加熱処理に伴うメイラード反応により著しく抗酸化活性が上昇した。一方、筋肉タンパク質分解物は上述したように抗酸化ペプチドを含むため、加熱前の段階である程度の抗酸化活性を示した。加熱処理(メイラード反応)を経ることにより、コラーゲン分解物に勝る抗酸化活性を有する素材が得られた。すなわち、筋肉タンパク質分解物を用いて調製した素材は、抗酸化ペプチドとメイラード反応生成物の両者の存在により、高い抗酸化活性を示した。また、メイラード反応によって生成する物質は、アミノ酸やペプチドの種類によって異なることから、アミノ酸組成に類似性が乏しいコラーゲンと筋肉タンパク質から加熱処理により調製したそれぞれの素材中に含まれるメイラード反応生成物の組成は異なるものである。これらのことから、コラーゲン分解物と筋肉タンパク質を用いて加熱処理により得られた素材は、抗酸化活性が高い点は共通するが、性質の異なる素材であると見なせる。
【実施例】
【0052】
なお、筋肉タンパク質分解物中に含まれるペプチドから生成するメイラード反応生成物中の抗酸化成分の特定については、透析や限外濾過等による分子量に基づく分画、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による疎水性(親水性)に基づく分画、調製用等電点電気泳動による電気的性質による分画などを実施した結果、広範な分子量、疎水性、電荷の分布からなる複雑な混合物であることが推定され、特定の単一あるいは少数成分が活性を担っているものではないものと考えられる。
【実施例】
【0053】
実施例1で得られたアクトミオシン分解物から加熱処理を経て調製したメイラード反応生成物を含む溶液の抗酸化活性を測定した。アクトミオシンを50mg/ml、キシロースを40mg/ml、炭酸ナトリウムを0.5mg/mlとする条件で溶液を調製し、90℃で120分間の加熱処理で得られた溶液の抗酸化活性を測定した結果を図6に示した。アクトミオシン分解物を用いた場合、未精製の筋肉(鶏骨格筋)タンパク質分解物を同条件で加熱処理して調製したものを用いた場合よりも高い抗酸化活性が得られた。このことから、アクトミオシン(アクチンとミオシン)あるいはアクトミオシン含量の高い原料を
用いた場合、より良好な素材を得ることができることが示された。
【実施例】
【0054】
(実施例3)
(筋肉タンパク質分解物を加熱処理して得られる素材の経口投与が酸化ストレス度に及ぼす影響)
筋肉(鶏骨格筋)タンパク質分解物を加熱処理(メイラード反応)して調製した試料を、マウスに経口投与した場合の、酸化ストレス度に及ぼす影響を検討した。ここでは、生体内における酸化ストレス指標として知られている血清ヒドロペルオキシド値の測定により判定した。
【実施例】
【0055】
筋肉タンパク質分解物から調製したメイラード反応生成物を含む試料は、実施例1の鶏骨格筋分解物(50mg/ml)とキシロース(40mg/ml)を含む溶液を、120℃で30分間加熱して調製した。なお、ここでの試料調製には、pH調整剤は使用しなかった。コラーゲン分解物からの調製も、同様にして行った。それぞれの加熱試料と非加熱試料を、6週齢のICR系雄マウス(日本チャールズ・リバー株式会社)にステンレス製胃ゾンデを用いて経口投与した(各群6匹)。非加熱および加熱試料ともに投与量は、マウス体重100gあたり200mgとし、投与容量は1匹あたり0.2mlとした。なお、同量の水を経口投与したものを対照群とした。投与は、1日1回、5日間行った。最終投与から30分後に心臓採血を行い、血清ヒドロペルオキシド値を測定した。ヒドロペルオキシド値の測定には、フリーラジカル評価システムFREE(株式会社ウイスマー研究所)を用いた。
【実施例】
【0056】
血清ヒドロペルオキシド値を測定した結果を図7に示した。対照群(水投与群)に対し、加熱処理したコラーゲン分解物、非加熱の筋肉タンパク質分解物、加熱処理した筋肉タンパク質を投与した群で、有意な酸化ストレス度の低下(抗ストレス作用)が認められた。上述したように、筋肉タンパク質分解物中に含まれるペプチドに抗酸化活性があるため、非加熱の筋肉タンパク質分解物の投与でも効果が見られた。加熱した筋肉タンパク質の投与は、メイラード反応生成物と残存する抗酸化ペプチドの両者の作用により、4試料中で最も高い効果が見られたものと考えられる。この結果から、筋肉タンパク質分解物を加熱処理して得られるメイラード反応生成物を含む素材の経口投与により、生体内で酸化ストレスが顕著に軽減されることが示され、抗ストレス作用を有する素材としての有用性が確認された。
【実施例】
【0057】
(実施例4)
(筋肉タンパク質分解物を加熱処理して得られる素材の抗健忘作用)
生体内の酸化ストレスの原因となる活性酸素は、様々な障害や疾病の誘因や原因となる。認知症に認められる健忘症状(主に記憶障害)にも、活性酸素の存在が密接にかかわっているとされている。そこで、抗酸化活性の認められたメイラード反応生成物を含む素材の抗健忘作用を検討した。ここでは、認知症の研究に広く用いられているスコポラミン誘発性記憶障害マウスによる水迷路試験により、抗酸化活性に基づく抗健忘作用を評価した。
【実施例】
【0058】
実施例1で得られた筋肉(鶏骨格筋)タンパク質分解物を50mg/ml、キシロースを40mg/ml、炭酸ナトリウムを0.5mg/mlとする条件で溶液を調製した。これを90℃で240分間加熱して得たメイラード反応生成物を含む試料を、マウスへ経口投与した。4週齢のICR系雄マウス(日本チャールズ・リバー)に、体重1kgあたり1gの試料(容量:0.2ml)をステンレス製胃ゾンデで経口投与した。投与から30分後に迷路水泳試験を行ない、スタート地点からゴール地点に到達するまでの水泳時間を測定した。迷路水泳試験の詳細は、文献(Morris R. Journal of Neuroscience Methods. 11:47-60, 1984)の記載にしたがった。
【実施例】
【0059】
迷路水泳試験を行なった結果を図8に示した。マウスはスコポラミン投与によって記憶障害が引き起こされるが、スコポラミン投与前に筋肉タンパク質分解物を加熱処理して調製した試料を経口投与した場合は、有意な水泳時間の短縮が認められた。スコポラミンによって誘発される記憶障害が、抗酸化物質の経口投与によって抑制されることが報告されている。このことから、筋肉タンパク質分解物由来のメイラード反応生成物および残存するペプチドの抗酸化作用によって、スコポラミン誘発性の記憶障害の発症が抑制されたものと推定された。なお、コラーゲン分解物を用いて同条件の加熱処理で調製した素材では、有意な水泳時間の短縮(抗健忘作用)が認められなかった。
【実施例】
【0060】
(実施例5)
(筋肉タンパク質分解物を加熱処理して得られる素材の血圧降下作用)
抗酸化物質の経口投与が、血圧降下作用を示すことが知られている。そこで、自然発症高血圧ラットを用いて、本発明の筋肉タンパク質分解物を加熱処理して得られる素材の経口投与が血圧に及ぼす影響を検討した。
【実施例】
【0061】
筋肉(鶏骨格筋)タンパク質分解物から加熱処理により調製したメイラード反応生成物を含む試料(実施例3に記載した条件で調製)を、自然発症高血圧ラット(日本チャールズ・リバー株式会社、18週齢雄、各群9匹使用)にステンレス製胃ゾンデを用いて経口投与した。メイラード反応生成物の投与量は、ラット体重100gあたり5mgとし、投与容量は1匹あたり1mlとした。なお、同量の水を経口投与したものを対照群とした。経口投与後の尾動脈の血圧(収縮期圧)値を測定し、投与前の血圧値を減じた値を算出して、血圧変動値とした。血圧の測定は、非観血式血圧測定装置BP-98A(株式会社ソフトロン)を用い、テイル・カフ(tail cuff)法により行った。
【実施例】
【0062】
各試料を自然発症高血圧ラットに経口投与した後の、血圧(収縮期圧)の変化を見た結果を図9に示した。筋肉タンパク質分解物から調製した試料の投与により、非加熱の素材および加熱処理をした素材ともに、有意な血圧降下が認められた。さらに、加熱素材投与群は非加熱素材投与群と比べても、血圧低下に有意な差があった。加熱素材投与群の血圧降下作用は、メイラード反応生成物の抗酸化作用によるものが大きいと考えられる。しかし、残存する筋肉タンパク質由来のペプチドの寄与も少なくない。さらに、抗酸化ペプチドに加えて、血圧降下作用に密接な関係があるアンジオテンシンI変換酵素阻害ペプチドも関与していると考えられる。加熱素材中には、加熱処理によりメイラード反応を起こさなかったペプチドが残っており、そのようなペプチドの抗酸化作用とアンジオテンシンI変換酵素阻害活性が血圧降下作用に寄与しているはずである。非加熱素材投与群で見られた血圧降下作用は、抗酸化ペプチドとアンジオテンシンI変換酵素阻害ペプチドによるものと見なせる。筋肉タンパク質分解物から加熱処理(メイラード反応)を経て調製した素材は、ペプチドとメイラード反応生成物の両者の特性を生かすことのできる優れた食品・ペットフード素材と言うことができる。
【実施例】
【0063】
(実施例6)
(筋肉タンパク質分解物を加熱処理して得られる素材のヒトにおける嗜好性試験)
食品素材として、嗜好性はきわめて重要な性質である。そこで、ヒトを対象とした嗜好性試験を行なった。嗜好性試験に用いた試料は、実施例1に記載した方法で調製した筋肉(鶏骨格筋)タンパク質分解物を、実施例2で設定した条件(筋肉タンパク質50mg/ml、キシロース40mg/ml、炭酸ナトリウム0.5mg/ml、90℃、60分間)で加熱処理して調製した。加熱終了後、凍結乾燥により粉末を得た。加熱処理を行わないもの(非加熱試料)も同様に粉末を得た。また、コラーゲン分解物も、同様にして加熱試料と非加熱試料を用意した。これら4種類の粉末試料を用いて、22歳から25歳の健康な16名(男女各8名)のパネラーを対象として、嗜好性試験を行なった。嗜好性試験は、4種類の粉末試料の「香り」、「味」、「総合評価」の3項目について順位をつけてもらうこと(順位法)により実施した。
【実施例】
【0064】
ヒトにおける嗜好性試験の結果を図10に示した。ここでは、1位と評価した人数のみをまとめた。香り、味、総合評価ともに、筋肉タンパク質分解物を加熱処理(メイラード反応)することにより調製した素材が最も高い評価を得た。このことから、筋肉タンパク質分解物から調製されるメイラード反応生成物を含む素材は、嗜好性に優れていることが判明した。加熱処理をしていない素材(非加熱素材)の評価を見ると、筋肉タンパク質分解物はコラーゲン分解物よりもいずれの評価項目でも良好な評価を得ている。このことから、本発明の加熱処理した素材の嗜好性にも、残存する筋肉タンパク質分解物由来のペプチドが寄与していることが推測できる。
【実施例】
【0065】
コラーゲン分解物を用いて調製したメイラード反応生成物は、コラーゲンを多く含む水畜産副産物の有効利用という観点から価値があり嗜好性も十分に高いが、筋肉タンパク質分解物を用いて調製したメイラード反応生成物と比べると、評価は劣った。しかし、嗜好性試験を行なったパネラーのコメント(データ省略)によると、両者の風味には質的な違いが存在するため、嗜好性試験の評点のみで優劣を判定すべきではなく、それぞれの特徴を生かした用途があると考えられる。
【実施例】
【0066】
(実施例7)
(筋肉タンパク質分解物を加熱処理して得られる素材のネコにおける嗜好性試験)
ペットフードの品質を評価する因子として、嗜好性はきわめて重要である。ペットが摂取を拒めば、優れた保健的機能性を備えたペットフードであっても、商品価値は乏しい。また、イヌやネコがペットフードを喜んで摂取する姿に飼い主は強い満足感を示すため、購入行動に結び付く大きな要因となる。ここでは、代表的な愛玩動物であるネコを用いて、筋肉タンパク質分解物から調製したメイラード反応生成物の嗜好性を検討した。
【実施例】
【0067】
ネコによる嗜好性試験には、実施例6に記載した方法で調製した筋肉(鶏骨格筋)タンパク質分解物およびコラーゲン分解物から加熱処理を経て調製した2種類の素材を使用した。なお、ネコによる嗜好性試験は2点比較法で行うことが望ましいとされているため、非加熱素材の評価は行わなかった。凍結乾燥した加熱処理素材のいずれか500mgを後述のキャットフード20gに添加した(振りかけた)ものを嗜好性試験の試料とした。なお、対照として何も添加しない(振りかけない)キャットフード20gを用いた。嗜好性試験には、雑種ネコ10匹を対象として、それぞれのネコの前に2種のキャットフード(加熱処理素材を添加したものと無添加のもの)を置き、どちらのキャットフードから食べ始めるかにより判定した。嗜好性は、この「食い付き試験」の結果により実施した。ペットフードを与えた場合、「食い付き」の良さは、飼い主に喜ばれる重要な特性であることから、今回、この試験方法を採用した。なお、用いたキャットフードの原料組成は、穀類(とうもろこし、小麦粉、米粉)52.85%、魚介類(フィッシュミール)12.40%、肉類(チキンミール)10.00%、植物性タンパク質(グルテンミール)14.00%、ビタミン類0.50%、ミネラル類1.90%、エキス類2.50%、油脂類(牛脂)5.00%、その他(ビール酵母、オリゴ糖、タウリン、メチオニン)0.85%とし、原料配合後、粉砕・混合し、加水したものをエクストルーダー(加熱加圧押出機)により押出成形(110℃、30秒間)し、乾燥(140℃、15分間)してペレット(ドライペットフード)を調製して試験に用いた。
【実施例】
【0068】
ネコによる嗜好性試験(食い付き試験)の結果を図11に示した。筋肉タンパク質分解物およびコラーゲン分解物から調製した加熱処理素材を添加したキャットフードは、無添加のキャットフードと比較して食い付きが良く、とくに筋肉タンパク質分解物由来の素材では10匹のネコのうち9匹が添加フードを選択した。これは加熱処理により生成したメイラード反応生成物が好ましい風味に寄与するためと考えられる。この結果から、本発明の筋肉タンパク質分解物を加熱処理(メイラード反応)することにより調製される素材は、ネコなどの愛玩動物に対しても嗜好性に優れ、ペットフード原料として効果的に利用でき
ることが示された。
【実施例】
【0069】
(実験例1)
(加熱によるペプチドの変化)
筋肉タンパク質由来のペプチドの加熱による変化(消失)を、還元糖を無添加あるいは添加した条件で検討した。ここでは、Asp-Leu-Tyr-Ala(DLYA)の配列を有するテトラペプチドを用いた。DLYAは、豚骨格筋タンパク質を酵素(パパイン)で分解した際に生成する抗酸化ペプチドとして発見された(特許第4828890号)。DLYAという配列は、豚骨格筋アクチンだけでなく、鶏や牛などの筋肉アクチン中に広く確認されるため、食肉タンパク質をパパイン分解した際に生成する代表的な抗酸化ペプチドと見なせることができる。
DLYAの調製(合成)には、アプライドバイオシステム社製ペプチド合成装置モデル430Aを使用した。得られた合成ペプチドは、逆相高速液体クロマトグラフィー(島津製作所社製LC-VPシステムとWaters社XBridge C18カラムを使用)により精製した(ペプチド純度:約98%)。合成したペプチド(DLYA)を蒸留水に1mg/mlとなるように溶解した。この溶液をそのまま、あるいは1mg/mlとなるように還元糖(キシロース)を添加し、90℃で60分間の加熱を行った。加熱前後における水溶液中のDLYAの消長(含量変化)は、高速液体クロマトグラフ質量分析装置(島津製作所社製LCMS-2020)により検討した。このとき、カラムには資生堂社製逆相樹脂カラムMGIIを用いた。質量分析の際は、481.25のシグナル(DLYA分子に由来)を用いてDLYAのみを特異的に検出した。
図12に示すように、還元糖(キシロース)の添加がない場合、加熱におけるDLYA含量の変化はほとんどなかった。一方、還元糖を添加して加熱した場合、DLYA含量が大きく減じた。これは、ペプチドと還元糖との間で生じたメイラード反応によるものと考えられる。
【実施例】
【0070】
(実験例2)
(加熱によるメイラード反応生成物の抗酸化活性の変化)
筋肉タンパク質分解物と還元糖(キシロース)から調製したメイラード反応生成物を含む素材の加熱に対する安定性を検証した。実施例1で調製した筋肉(鶏骨格筋)タンパク質分解物(50mg/ml)に、キシロース(40mg/ml)と炭酸ナトリウム(0.5mg/ml)を添加し、90℃で240分間加熱し、メイラード反応生成物を含む素材を調製した。凍結乾燥した素材を10mg/mlとなるように蒸留水に溶かし、そのままあるいは10mg/mlとなるようにキシロースを添加し、90℃で30分間あるいは60分間の加熱を行った。加熱前あるいは加熱後の溶液の抗酸化活性は、実施例2に記載したスーパーオキサイドイオンを化学発光法によって定量する方法により測定した。
図13に示すように、メイラード反応生成物を含む素材は、還元糖の有無にかかわらず、加熱後も高い抗酸化活性を保持していた。したがって、食肉タンパク質分解物を原料としてメイラード反応を経て調製される素材は、熱安定性が高いと言える。
【実施例】
【0071】
(実施例8)
(タンパク質分解物とメイラード反応生成物の血圧降下作用)
コラーゲン分解物あるいは筋肉タンパク質分解物と還元糖(キシロース)から調製したメイラード反応生成物を含む素材の血圧降下作用を検討した。コラーゲン分解物は、特許公報(特許第5326489号)の記載にしたがって、鶏皮より調製した。筋肉タンパク質分解物は、実施例1の記載にしたがった方法で調製した鶏骨格筋分解物を用いた。コラーゲン分解物と筋肉タンパク質分解物のいずか(50mg/ml)とキシロース(40mg/ml)を含む溶液を、90℃で60分間加熱してメイラード反応生成物を含む素材を調製した。それぞれの素材の加熱調製前後の経口投与による血圧降下作用を検討した。実施例5の記載と同様に、自然発症高血圧ラットを用いた。
各試料を自然発症高血圧ラットに経口投与し、6時間経過後の血圧(収縮期)の変化を見た結果を図14に示した。未加熱のコラーゲン分解物は血圧降下作用を示さないが、加熱処理を経たものは血圧降下作用を示した。一方、筋肉タンパク質分解物の場合、未加熱の試料も血圧降下作用を示すが、加熱処理を経ることによりさらに高い作用を示した。コラーゲン分解物の場合、加熱処理によりメイラード反応生成物ができ、その抗酸化作用により血圧降下作用が上昇したと考えられる。一方、筋肉タンパク質分解物では、未加熱の試料もACE阻害活性があるため血圧降下作用を有する。加熱処理を経ることにより、メイラード反応生成物と残存するACE阻害ペプチドの両者により高い血圧降下作用がもたらされると考えられる。
【実施例】
【0072】
(実施例9)
(筋肉タンパク質分解物と還元糖を加熱した際に生じるメイラード反応生成物の嗜好性と抗酸化活性への影響)
筋肉タンパク質分解物を異なる還元糖の存在比率下で加熱した場合の嗜好性と抗酸化活性に及ぼす影響を検討した。筋肉タンパク質分解物は、実施例1に記載した方法で調製した鶏骨格筋分解物を用いた。筋肉タンパク質分解物を含む溶液(10mg/ml)に、異なる濃度になるようにキシロースを添加し(0~100mg/ml)、90℃で60分間加熱してメイラード反応生成物を含む素材を調製した。嗜好性の検討は、実施例7に記載したネコを用いた食い付き試験により実施した。それぞれのキシロース濃度で調製したメイラード反応生成物(加熱処理調製物)を凍結乾燥したもの500mgをキャットフード20gに添加した(振りかけた)ものを嗜好性試験の試料とした。なお、対照として、何も添加しないキャットフード20gを用いた。それぞれのキシロース濃度において、雑種ネコ8匹を対象として、それぞれのネコの前に2種のキャットフードを置き、どちらのキャットフードから食べ始めるかにより判定した。嗜好性試験におけるその他の条件は、実施例7の記載と同様とした。それぞれのキシロース濃度で調製したメイラード反応生成物(加熱処理調製物)を含む溶液の抗酸化活性は、実施例2に記載したスーパーオキサイドイオンを化学発光法によって定量する方法により測定した。各試料の抗酸化活性の測定結果は、キシロース無添加試料の測定値を0%とし、測定試料中の最大測定値(キシロース100mg/ml添加試料)を100%とした抗酸化活性上昇率(相対%)として示すことにより評価した。
図15に示したように、低濃度の還元糖存在下(還元糖/ペプチドの重量比率が0.01以下)では、嗜好性の向上が認められるが、抗酸化活性の上昇にはつながらない。ある程度の濃度の還元糖存在下(還元糖/ペプチドの重量比率が0.1以上)になると、抗酸化活性の上昇が認められる。したがって、加熱(メイラード反応)による抗酸化活性の上昇を期待するためには、還元糖/ペプチド存在比率を0.1以上にする必要がある。なお、通常のキャットフード組成物にタンパク質分解物を10%量添加した場合(図15の網掛け部分)、還元糖/ペプチド存在比率(重量比)は0.0001~0.01%の範囲となる。このため、タンパク質分解物の添加により香気成分の生成に伴う嗜好性の向上は期待できても、適量の還元糖添加なしにメイラード反応による抗酸化活性の上昇を期待することはできない。
図面
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【図15】
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