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明細書 :細胞の作製方法および該作製方法で作製された細胞

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-198044 (P2016-198044A)
公開日 平成28年12月1日(2016.12.1)
発明の名称または考案の名称 細胞の作製方法および該作製方法で作製された細胞
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 102
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2015-080648 (P2015-080648)
出願日 平成27年4月10日(2015.4.10)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 掲載年月日:平成26年11月20日 掲載アドレス:http://www.nature.com/srep/2014/141120/srep07125/full/srep07125.html
発明者または考案者 【氏名】落合 博
【氏名】山本 卓
出願人 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100138955、【弁理士】、【氏名又は名称】末次 渉
【識別番号】100109449、【弁理士】、【氏名又は名称】毛受 隆典
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B065
Fターム 4B024AA11
4B024CA03
4B024CA09
4B024CA12
4B024CA20
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA08
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA60
要約 【課題】細胞内で重要な役割を担う特定の内在遺伝子の転写をライブイメージングできる細胞を、より簡便に作製できる細胞の作製方法および該作製方法で作製された細胞を提供する。
【解決手段】細胞の作製方法は、エンドヌクレアーゼで細胞内のゲノムにおける目的の遺伝子座を切断する切断工程と、相同組換え修復により前記ゲノムの切断された部位に第1のDNAを挿入する挿入工程と、前記第1のDNAが転写されたmRNAに結合する標識されたタンパク質をコードする第2のDNAを前記細胞内に導入する導入工程と、を含む。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
エンドヌクレアーゼで細胞内のゲノムにおける目的の遺伝子座を切断する切断工程と、
相同組換え修復により前記ゲノムの切断された部位に第1のDNAを挿入する挿入工程と、
前記第1のDNAが転写されたmRNAに結合する標識されたタンパク質をコードする第2のDNAを前記細胞内に導入する導入工程と、
を含む、
細胞の作製方法。
【請求項2】
前記エンドヌクレアーゼは、
プログラマブルエンドヌクレアーゼである、
請求項1に記載の細胞の作製方法。
【請求項3】
前記プログラマブルエンドヌクレアーゼは、
transcription activator-like effector nucleaseである、
請求項2に記載の細胞の作製方法。
【請求項4】
前記細胞は、
多能性幹細胞である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞の作製方法。
【請求項5】
前記第1のDNAの塩基配列は、
MS2配列が繰り返された塩基配列である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞の作製方法。
【請求項6】
前記タンパク質は、
MS2コートタンパク質である、
請求項5に記載の細胞の作製方法。
【請求項7】
前記遺伝子座は、
Nanog、Oct4、Slc2a3およびStat3からなる群から選択される遺伝子の遺伝子座である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞の作製方法。
【請求項8】
前記第2のDNAは、
トランスポゼースで前記細胞内に導入される、
請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞の作製方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の細胞の作製方法で作製された、
細胞。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の作製方法および該作製方法で作製された細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療への応用の観点から、人工多能性幹細胞(iPS細胞)および胚性幹細胞(ES細胞)などの多能性幹細胞の多能性維持機構および分化機構の解明が不可欠である。多能性維持機構および分化機構には、特定の遺伝子の働き、特には、遺伝子の発現調節が極めて重要である。
【0003】
遺伝子の発現は、主に転写の段階で調節される。転写は、遺伝子の上流に存在するプロモーターのみならず、エンハンサーおよびサイレンサーなど種々の因子によって制御されている。このように種々の因子によって複雑に制御される転写の詳細を明らかにする手法として、生きた生体組織または細胞における内在遺伝子の転写のライブイメージングが知られている。
【0004】
ライブイメージングでは、転写制御を可視化するための蛍光タンパク質などをコードする外来遺伝子を、ゲノムに挿入する遺伝子改変技術が用いられる。外来遺伝子をゲノムに挿入する技術として、相同組換えが知られている。相同組換えでは、外来遺伝子の両側に挿入部位の周辺と相同な塩基配列を有するDNAを細胞に導入することで、相同組換え反応が起こり、外来遺伝子が挿入部位に挿入される。
【0005】
相同組換え反応の頻度は、生物種あるいは細胞種によって大きく異なる。相同組換え反応の応用は、相同組換え反応の頻度が比較的高い酵母などの単細胞生物またはマウスES細胞に限られていた。しかし、マウスES細胞であっても、相同組換え反応の頻度は極めて低い。しかも二倍体であるマウスES細胞では、両対立遺伝子に外来遺伝子を一度に挿入することは、ほぼ不可能である。また、挿入する外来遺伝子が複雑な繰り返し配列などを含んでいる場合は、挿入の効率が極めて低下する。
【0006】
外来遺伝子を細胞に導入する技術として、FRT配列とFLPリコンビナーゼとを用いる方法も知られている。例えば、非特許文献1では、FRT配列とFLPリコンビナーゼとを用いてゲノムに挿入したMS2配列とMS2コートタンパク質-緑色蛍光タンパク質(GFP)融合タンパク質との結合を検出することで、哺乳類の細胞におけるサイクリンD1遺伝子の転写制御を解析している。FRT配列とFLPリコンビナーゼを用いる遺伝子の挿入では、ゲノムにFRT配列が組み込まれている細胞に、部位特異的組換え酵素であるFLPを含むプラスミドDNAとFRT配列と目的遺伝子を含んだプラスミドDNAとを導入することで、FRT配列が組み込まれている部位に目的遺伝子を含むプラスミドDNAの塩基配列を挿入することができる。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Sharon Yunger、外3名、「Single-allele analysis of transcription kinetics in living mammalian cells」、Nature Methods、2010年、7、631-633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に開示された上記方法でゲノムの目的の位置に外来遺伝子を導入するには、FRT配列を当該部位に事前に組み込む必要がある。しかし、FRT配列をゲノムの任意の位置に組み込むのは、上述のように、相同組換え反応の頻度が極めて低いため、非常に困難である。特に、哺乳動物など高等生物の細胞を用いる場合、両対立遺伝子にFRT配列を一度に挿入することはほぼ不可能である。また、FRT配列をゲノムに組み込んだ後に、外来遺伝子をゲノムにさらに組み込む必要があるため、操作が煩雑になる。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、細胞内で重要な役割を担う特定の内在遺伝子の転写をライブイメージングできる細胞を、より簡便に作製できる細胞の作製方法および該作製方法で作製された細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係る細胞の作製方法は、
エンドヌクレアーゼで細胞内のゲノムにおける目的の遺伝子座を切断する切断工程と、
相同組換え修復により前記ゲノムの切断された部位に第1のDNAを挿入する挿入工程と、
前記第1のDNAが転写されたmRNAに結合する標識されたタンパク質をコードする第2のDNAを前記細胞内に導入する導入工程と、
を含む。
【0011】
この場合、前記エンドヌクレアーゼは、
プログラマブルエンドヌクレアーゼである、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記プログラマブルエンドヌクレアーゼは、
transcription activator-like effector nucleaseである、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記細胞は、
多能性幹細胞である、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記第1のDNAの塩基配列は、
MS2配列が繰り返された塩基配列である、
こととしてもよい。
【0015】
また、前記タンパク質は、
MS2コートタンパク質である、
こととしてもよい。
【0016】
また、前記遺伝子座は、
Nanog、Oct4、Slc2a3およびStat3からなる群から選択される遺伝子の遺伝子座である、
こととしてもよい。
【0017】
また、前記第2のDNAは、
トランスポゼースで前記細胞内に導入される、
こととしてもよい。
【0018】
本発明の第2の観点に係る細胞は、上記本発明の第1の観点に係る細胞の作製方法で作製される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、細胞内で重要な役割を担う特定の内在遺伝子の転写をライブイメージングできる細胞を、より簡便に作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】共焦点レーザー顕微鏡で撮像したNM-G細胞の画像を示す図である。
【図2】RNA-FISHにおいて固定したNM-G細胞の画像を示す図である。(a)は、MCP-GFPのシグナルを撮像した画像を示す図である。(b)は、Nanog遺伝子に対するRNA-FISHのシグナルを撮像した画像を示す図である。(c)は、染色された細胞核を撮像した画像を示す図である。(d)は、(a)、(b)および(c)の画像を重ね合わせた画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る実施の形態について説明する。なお、本発明は下記の実施の形態および図面によって限定されるものではない。

【0022】
(実施の形態)
本実施の形態に係る細胞の作製方法は、切断工程と、挿入工程と、導入工程と、を含む。まず、切断工程について説明する。切断工程では、エンドヌクレアーゼで細胞内のゲノムにおける目的の遺伝子座を切断する。エンドヌクレアーゼは、核酸鎖の両端ではないリン酸ジエステル結合を加水分解することで、核酸鎖を切断する核酸分解酵素である。エンドヌクレアーゼとして、特にプログラマブルエンドヌクレアーゼが好ましい。

【0023】
プログラマブルエンドヌクレアーゼ(programmable endonuclease)は、ゲノム上の任意の標的配列の位置で該ゲノムを切断する。プログラマブルエンドヌクレアーゼは、特に限定されないが、例えば、transcription activator-like effector nuclease(以下、単に「TALEN」とする)、zinc finger nuclease(以下、単に「ZFN」とする)およびCRISPR-Cas(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat and Crisper associated protein)システムなどである。

【0024】
TALENおよびZFNは、DNA結合ドメインとDNA切断ドメインからなるポリペプチドである。TALENおよびZFNは、DNA結合ドメインの結合部位において一対のDNA切断ドメインが近接して二量体を形成することによって、二本鎖DNAを切断する。DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールを繰り返して含み、それぞれのDNA結合モジュールが、DNAの特定の塩基対を認識するため、DNA結合モジュールを適切に設計することによって、標的とする塩基配列を特異的に切断できる。

【0025】
CRISPR-Casシステムでは、ゲノム上のPAM配列に隣接する標的の塩基配列に相補的な塩基配列を有するガイドRNAと、Cas9ヌクレアーゼと、を使用する。ゲノム上の標的とする塩基配列に結合したガイドRNAを認識したCas9ヌクレアーゼが二本鎖DNAを切断する。

【0026】
「目的の遺伝子座」とは、任意の遺伝子座、特には、内在の転写をライブイメージングしようとする遺伝子の遺伝子座である。切断工程では、遺伝子座の任意の部位を切断すればよいが、該遺伝子の確実な転写をライブイメージングするために、該遺伝子の近傍、特に下流(3’末端側)の部位を切断するのが好ましい。この場合、プログラマブルエンドヌクレアーゼは、当該部位近傍の塩基配列に応じて、公知の方法で設計される。

【0027】
好ましくは、切断工程で切断する遺伝子座は、Nanog、Oct4、Slc2a3およびStat3からなる群から選択される遺伝子の遺伝子座である。これらの遺伝子のうち、NanogとOct4は、多能性の獲得および多能性の維持に重要な遺伝子であるため、これらの遺伝子の転写をライブイメージングできれば、多能性の獲得または多能性の維持と当該遺伝子の転写制御との関係を解明することができる。

【0028】
切断工程でゲノムが切断される細胞は、特に限定されず任意の細胞である。細胞は、初代培養細胞でも、継代した細胞株であってもよい。細胞は、大腸菌、酵母などの単細胞生物の細胞であっても、哺乳類など高等生物の細胞であってもよい。切断工程でゲノムを切断される細胞は、好適には、人為的にゲノムを改変されていない細胞であってもよいし、既にゲノムを改変された細胞であってもよい。好ましくは、当該細胞は、iPS細胞およびES細胞などの多能性幹細胞である。

【0029】
切断工程では、例えば、エンドヌクレアーゼを発現するベクターを、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法およびリポフェクション法などの公知の方法で細胞に導入する。例えば、エンドヌクレアーゼとしてTALENを発現するベクターを二倍体の細胞に導入する場合、ゲノムDNAの二本鎖各々の標的とする塩基配列に応じて設計されたTALEN発現ベクターを用いる。こうすることで、標的とする塩基配列の位置で、二本鎖DNAを切断することができる。発現ベクターは、公知のDNAトランスフェクション法などで細胞に導入すればよい。

【0030】
二本鎖DNAの切断は、多くの遺伝情報の損失またはガン化の原因になるため、細胞内で極めて迅速に修復される。修復の主な経路は、鋳型を利用せずに切断された末端同士を繋ぎ合わせる非相同末端結合修復、および姉妹染色分体あるいは相同なDNA領域を鋳型として切断された二本鎖DNAを修復する相同組換え修復である。

【0031】
挿入工程では、上述の相同組換え修復を利用する。挿入工程では、相同組換え修復によりゲノムの切断された部位に第1のDNAを挿入する。挿入工程において、該第1のDNAは、切断工程で切断された部位に挿入される。このため、切断工程において、目的の遺伝子座、特にはタンパク質をコードするコーディング領域の下流でゲノムを切断することで、第1のDNAを転写のライブイメージングに好適な部位に挿入することができる。

【0032】
挿入される第1のDNAの塩基配列は、例えば、MS2配列が繰り返された塩基配列(以下、単に「MS2リピート」とする)である。MS2配列が転写されたmRNAには、MS2コートタンパク質が結合する。このため、挿入工程において、上記切断工程で切断された部位に、MS2リピートを挿入することで、蛍光タンパク質などで標識されたMS2コートタンパク質の存在下で、MS2リピートの転写のライブイメージングが可能となる。

【0033】
MS2リピートにおいてMS2配列は、2~50回、10~40回、または20~30回繰り返されてもよい。好適には、MS2リピートは、MS2配列が24回繰り返された塩基配列である。

【0034】
挿入される第1のDNAの塩基配列は、上述のMS2リピートの他には、該塩基配列が転写されたmRNAの塩基配列に、タンパク質が結合するものであれば、任意である。例えば、挿入される第1のDNAの塩基配列と、該第1のDNAが転写されたmRNAに結合するタンパク質との組み合わせは、boxB配列とラムダNタンパク質、およびPP7配列とPP7コートタンパク質である。なお、mRNAに結合するタンパク質には、ペプチドも含まれる。

【0035】
なお、ゲノムに第1のDNAが挿入された細胞を選抜するために、G418、ハイグロマイシン、ブラストサイジン、およびピューロマイシンなどの抗生物質に対する耐性遺伝子を、切断された部位に挿入してもよい。

【0036】
挿入工程では、例えば、挿入する第1のDNAを含むベクターを、公知の方法で細胞に導入すればよい。

【0037】
続いて、導入工程について説明する。導入工程では、上記第1のDNAが転写されたmRNAに結合する標識されたタンパク質をコードする第2のDNAを細胞内に導入する。タンパク質は、該mRNAに結合するものであれば任意である。例えば、挿入される第1のDNAの塩基配列がMS2リピートの場合、MS2リピートが転写されたmRNAに結合するタンパク質は、MS2コートタンパク質である。

【0038】
挿入される第1のDNAの塩基配列がboxB配列の場合、細胞内に導入される第2のDNAがコードするタンパク質は、ラムダNタンパク質である。また、挿入される第1のDNAの塩基配列がPP7配列の場合、細胞内に導入される第2のDNAがコードするタンパク質は、PP7コートタンパク質である。

【0039】
細胞内への第2のDNAの導入には、公知の導入法を用いればよい。導入法としては、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、およびDEAEデキストラン法などが挙げられる。

【0040】
導入工程では、好ましくは、第2のDNAは、トランスポゼースで細胞内に導入される。トランスポゼースを用いる場合、例えば、トランスポゼースを発現するベクターと、細胞内に導入する第2のDNAを含むベクターとを、細胞に公知の方法で導入すればよい。細胞内に導入する第2のDNAを含むベクターにおける、細胞内に導入する第2のDNAの両端に、トランスポゼースが認識する逆向き配列を付加しておけば、トランスポゼースが第2のDNAを切り出し、効率良くゲノム中に導入することができる。

【0041】
上記タンパク質は、好ましくは、緑色蛍光タンパク質で標識される。緑色蛍光タンパク質で標識するには、該タンパク質と緑色蛍光タンパク質との融合タンパク質をコードする第2のDNAを細胞内に導入すればよい。タンパク質の標識には、緑色蛍光タンパク質に限らず、赤色蛍光タンパク質(RFP)遺伝子および近赤外蛍光タンパク質(iRFP)遺伝子などのレポーター遺伝子を用いてもよい。

【0042】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る細胞の作製方法によれば、エンドヌクレアーゼで切断された部位に挿入された第1のDNAが転写されたmRNAを標識できるので、内在遺伝子の転写をライブイメージングできる細胞が得られる。上記切断工程では、エンドヌクレアーゼでゲノムを切断するので、ゲノムへの特定配列の事前の組み込みなどの操作が不要であるため、広い細胞種を対象として、ゲノムに第1のDNAを簡便に挿入できる。

【0043】
また、切断工程において、エンドヌクレアーゼでゲノムを切断するため、二本鎖DNAを切断できる。これにより、挿入工程で、両対立遺伝子に第1のDNAを一度に挿入することができ、作業効率が向上する。

【0044】
また、上記エンドヌクレアーゼは、プログラマブルエンドヌクレアーゼであってもよいこととした。TALENなどのプログラマブルエンドヌクレアーゼは、ゲノム上の任意の塩基配列に対して設計することができるので、切断工程において所望の部位を確実に切断することができる。

【0045】
また、本実施の形態に係る細胞の作製方法の対象とする細胞は、多能性幹細胞であってもよいこととした。多能性幹細胞は、再生医療に応用するために、多能性維持機構および分化機構の解明が期待されている。本作製方法で作製される細胞は、内在遺伝子の転写のライブイメージングを可能にするので、多能性維持機構および分化機構の解明に大きく貢献できる。

【0046】
また、上記第1のDNAの塩基配列は、MS2リピートであってもよいこととした。さらに、導入工程において、MS2コートタンパク質をコードする第2のDNAを細胞内に導入すれば、標識されたMS2コートタンパク質が特異的にMS2リピートに結合するので、第1のDNAを挿入した部位の近傍、特に上流にコードされる遺伝子の転写制御の動態を詳細に解析できる。

【0047】
なお、導入工程において、第2のDNAがトランスポゼースで細胞内に導入されてもよいこととした。トランスポゼースによるDNAの導入は確立されており、効率よく第2のDNAを細胞内に導入することができる。

【0048】
なお、本実施の形態に係る細胞の作製方法には、適宜、細胞を培養する工程などが含まれてもよい。

【0049】
別の実施の形態では、本実施の形態に係る細胞の作製方法で作製された細胞が提供される。当該細胞は、上述のように特定の遺伝子の転写制御の動態を詳細に解析するのに有用である。また、当該細胞を被験物質に暴露することで、該被験物質の当該細胞への影響、特に該被験物質の遺伝子の転写に及ぼす作用を調べることができる。このため、本実施の形態に係る細胞の作製方法で作製された細胞は、薬剤スクリーニングの使用に好適である。

【0050】
例えば、本実施の形態に係る細胞を用いた薬剤スクリーニングでは、切断工程、挿入工程および導入工程を経て作製された疾患に関連する細胞を被験物質に暴露する工程と、該細胞における導入工程で導入された標識されたタンパク質の転写部位への集積を定量する工程と、を含む。これにより、疾患関連マーカー遺伝子の転写制御に与える被験物質の影響を評価することができる。
【実施例】
【0051】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
NM-G細胞の樹立
両Nanog対立遺伝子にMS2配列が24回繰り返された塩基配列(24×MS2リピート)を挿入したマウス胚性幹細胞(mESC、NanogMS2/MS2、NM細胞)を、以下のように樹立した。
【実施例】
【0053】
約0.5×10のBruce 4 C57BL/6 mESC(Merk Millipore社製)を、0.1%ゼラチンでコートした24ウェルプレートに撒き、2i培地で12時間培養した。2i培地の組成は、StemSure D-MEM(和光純薬工業社製)、15%ウシ胎児血清、0.1mM β-メルカプトエタノール、1×MEM非必須アミノ酸(和光純薬工業社製)、2mM L-アラニル-L-グルタミン溶液(和光純薬工業社製)、1000U/mL LIF(和光純薬工業社製)、20μg/mL ゲンタマイシン(和光純薬工業社製)、3μM CHIR99021、および1μM PD0325901である。
【実施例】
【0054】
培養後、Lipofectamine(商標) 2000(Life Technologies社製)を用いて、1μgのターゲティングベクターpTV-mNanog-PMS(配列番号1)と、250ngのTranscription activator-like efector nuclease(TALEN)発現ベクターpTALEN5CAG-mNanog-L(配列番号2)と、250ngのpTALEN5CAG-mNanog-R(配列番号3)とを、mESCに導入した。
【実施例】
【0055】
導入から24時間後、細胞を10cmディッシュへ播き直し、2i培地で72時間培養した。次に、2i培地にピューロマイシンを終濃度1μg/mLになるように加え、薬剤選抜を開始した。2日おきにピューロマイシン含有2i培地を交換した。
【実施例】
【0056】
事前に、Trypsin(2.5%)(Life technologies社製)をPBSで1/10に希釈し、終濃度1mMのEDTAを加えることで調製したトリプシン溶液8μLを、U底96ウェルプレートに入れ、37℃になるように温めておいた。一方、ゼラチンコートした平底96ウェルプレートに200μLまたは100μLずつ2i培地を入れ、37℃になるように温めておいた。ここで、200μLの2i培地を入れたウェルをウェルAとし、100μLの2i培地を入れたウェルをウェルBとする。
【実施例】
【0057】
ピューロマイシン含有2i培地で14日ほど培養し、上記ディッシュにコロニーが形成されていることを確認した。位相差顕微鏡で観察しながら、チップの先端でコロニーを回収した(8μL)。コロニーを上記調整したトリプシン溶液に入れ、よくピペッティングした。最大で48コロニー分回収した。コロニーを含むトリプシン溶液を、37℃で2分間インキュベートした。50μLに設定した8連ピペットでウェルAから培地を吸い、トリプシン溶液で処理した細胞をピペッティングにより懸濁し、ウェルAに戻し、さらによくピペッティングした。続いて、ウェルAの細胞含有培地50μLを、ウェルBに移した。
【実施例】
【0058】
ウェルAおよびウェルBに含まれる細胞を、37℃、5%COで2~7日ほど培養した。培地が黄色くなりつつあるウェルAが認められたら、培地を捨て、ゲノム抽出液を50μLずつ加えた。ゲノム抽出液の組成は、100mM Tris-HCl(pH8)、200mM NaCl、5mM EDTA、0.2% SDS、0.1mg/ml プロテイナーゼKである。ウェルA内の細胞を37℃で5分間インキュベートしてから、8連PCR(polymerase chain reaction)チューブに移した。8連PCRチューブを55℃で1時間インキュベートし、50μLのイソプロパノールを加えてよく撹拌した。次に、当該8連PCRチューブを4℃、12000rpmで15分間遠心した。上清を捨て、70%エタノールを加えて、タッピングにより軽く撹拌した。そして、12000rpmで5分間遠心し、上清を捨て、5分間真空乾燥した。続いて、20μLのTEバッファーを加え、65℃で1時間インキュベートし、沈殿を溶解した。
【実施例】
【0059】
ここで、KOD FX neo(東洋紡社製)を使用したゲノミックPCRによって、簡易的にターゲティング成否を確認した。PCRのプライマーをホモロジーアームの外側に設定することにより、ターゲティングの成否に加え、片対立遺伝子のみか、両対立遺伝子でターゲティングされたかを確認できる。PCRは一反応当たり6μLのスケールとした。反応液の組成は、1μLのddHO、3μLの2×Buffer for KOD FX Neo、1.2μLの2mM dNTPs、0.6μLの抽出DNA、0.036μLのフォワードプライマー(50μM、配列番号4)、0.036μLのリバースプライマー(50μM、配列番号5)、0.12μLのKOD FX Neoポリメラーゼである。PCRの反応条件は、94℃で2分間、続いて、98℃で10秒→60℃で15秒→68℃で10分を28サイクル、さらに、68℃で10分間とした。PCR産物は4℃で保存した。
【実施例】
【0060】
PCR産物およびサイズマーカーを0.5×TBE、0.8%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。導入されていなければ、およそ3.6kbp、導入されていれば7.1kbpにバンドが出現する。マウスES細胞は2倍体なので2つのNanog遺伝子を持っている。そこで、両方のNanog遺伝子にMS2を含む外来DNAが導入されたクローンを選択した。選択したウェルAに対応するウェルBのクローンを増殖させた。
【実施例】
【0061】
続いて、ターゲティングの成否を、サザンブロットによって次のように確認した。両対立遺伝子に外来DNAが導入されたと思われるクローンのみを24ウェルプレートに移し、培養した。この時、クローンを半分に分けておき、一方を保存用、他方をDNA回収用とした。
【実施例】
【0062】
十分に細胞が増殖したら、保存用については、PBSで洗浄後、200μLのトリプシン溶液を加え、2分間37℃で培養した。その後、200μLのBambanker Direct(日本ジェネティクス社製)を加え、よく混ぜ、クライオチューブに移し、-80℃で保存した。
【実施例】
【0063】
一方、DNA回収用については、500μLのPBSで洗浄後、500μLのゲノム抽出液を加え、37℃で10時間インキュベートし、細胞を溶解した。その後、得られた溶液を1.5mLチューブに移し、500μLのイソプロパノールを加え、よく混ぜた。次に、15000rpmで10分間遠心分離し、ゲノムDNAを沈殿させた。上清を廃棄し、500μLの70%エタノールを加え、15000rpmで5分間遠心分離した。上清を廃棄し、再度70%エタノールで洗浄した。次に、上清を捨て、10分間、室温でインキュベートし、エタノールを蒸発させた。
【実施例】
【0064】
沈殿したゲノムDNAに50μLのTEバッファー(10mM Tris-Cl(pH8)、1mM EDTA)を加え、軽く混ぜ、65℃で1時間インキュベートした。そして、DNA量を定量し、500ng/μLになるようにDNA溶液を調製した。
【実施例】
【0065】
サザンブロットで使用したプローブは、塩基配列を配列番号6に示すpBSKΔB-mNanog5probeおよび配列番号7に示すpBSKΔB-mNanog3probeを鋳型として調製した。5’プローブの作製のために、pBSKΔB-mNanog5probeを鋳型として、塩基配列を配列番号8に示すフォワードプライマーおよび塩基配列を配列番号9に示すリバースプライマーを用いた。また、3’プローブの作製のために、pBSKΔB-mNanog3probeを鋳型として、塩基配列を配列番号10に示すフォワードプライマーおよび塩基配列を配列番号11に示すリバースプライマーを用いた。Ampプローブは、pBSKΔB-mNanog5probeを鋳型とし、塩基配列を配列番号12に示すフォワードプライマーおよび塩基配列を配列番号13に示すリバースプライマーを用いて作製した。プローブの作製にはPCR DIG Probe Synthesis Kit(Roche社製)を使用した。
【実施例】
【0066】
サザンブロットは、DIG Luminescent Detection Kit(Roche社製)を使用して行った。上記で調整したゲノムDNA 10μg分を、制限酵素EcoNIとAflIIで一晩処理した。その他の操作はキットの説明書に従った。1つのプローブで現像後、リプローブし、その他のプローブでも同様に現像した。5’プローブを使用した場合、ターゲティングが起こっていれば2.3kb、ターゲティングが起こっていなければ3.7kbのバンドが得られる。一方、3’プローブを使用した場合、ターゲティングが起こっていれば4.5kb、ターゲティングが起こっていなければ3.7kbのバンドが得られる。
【実施例】
【0067】
また、Ampプローブを使用した場合、バンドが見られれば、ランダムインテグレーションで予期せずにプラスミドDNA断片がゲノム中に取り込まれている可能性がある。
【実施例】
【0068】
そこで、Ampプローブでバンドが検出されたクローンを以降の実験から排除した。5’プローブを使用した場合に2.3kbのバンドが得られ、かつ3’プローブを使用した場合に4.5kbのバンドが得られたクローン、すなわち所望の相同組換えが起こっていたクローンをTP細胞(NanogTP-MS2/TP-MS2)と名付けた。
【実施例】
【0069】
TP細胞を培養し、約0.5×10個のTP細胞を0.1%ゼラチンでコートした24ウェルプレートに撒き、2i培地で一晩培養した。12時間後、Lipofectamine(商標) 2000を用いて500ngのCreリコンビナーゼ発現ベクターpCAG-Cre(Addgene plasmid 13775)をTP細胞に導入した。導入から24時間後、トリプシン溶液で細胞を剥がして回収し、その1/100量をゼラチンコートした10cmディッシュに撒き直した。
【実施例】
【0070】
撒いてから4日後に2μMのガンシクロビルを含む2i培地でTP細胞を培養した。一日おきにガンシクロビルを含む新しい培地に交換し、10日間培養した。8つの形成されたコロニーを上述のように回収し、上記と同様にゲノミックPCRによって、loxP配列に挟まれた領域が除去されたか否かを確認した。細胞にCreリコンビナーゼを発現させることで、loxP配列に挟まれた領域が効率よく除去され、PCR産物のサイズが4.6kbとなる。
【実施例】
【0071】
さらに、loxP配列に挟まれた領域が除去されたクローンを増殖させ、上記と同様にサザンブロッティングを行った。
【実施例】
【0072】
5’プローブを使用した場合、loxP配列に挟まれた領域が除去されていれば、5.2kbにバンドが得られる。一方、3’プローブを使用した場合、loxP配列に挟まれた領域が除去されていれば、5.2kbのバンドが得られる。5’プローブおよび3’プローブを用いて、loxP配列に挟まれた領域が除去されたことが確認されたクローンをNM細胞とした。
【実施例】
【0073】
次に、NM細胞に核移行シグナル(NLS)-MS2コートタンパク質(MCP)-緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させるために、約0.5×10個の細胞を0.1%ゼラチンでコートした24ウェルプレートに撒き、2i培地で一晩培養した。12時間後、Lipofectamine(商標) 2000を用いて、200ngのpiggyBacトランスポゼース発現ベクターpCMV-hyPBase(Dr.Nancy L. Craigより提供)と400ngのpLR5-CAG-MCP-GFPとを、NM細胞に導入した。pCMV-hyPBaseの塩基配列を配列番号14に示す。pLR5-CAG-MCP-GFPの塩基配列を配列番号15に示す。
【実施例】
【0074】
導入から24時間後、細胞をトリプシン処理して剥がし、その1/100量をゼラチンコートした10cmプレートに撒き直した。巻き直して3日後から200μg/mlのG418を含む2i培地で培養した。二日おきにG418を含む新しい培地に交換し、10日間培養した。8つの形成されたコロニーを回収し、ゼラチンコートしたμ-Slide 8-well(Ibidi社製)に移した。蛍光顕微鏡下でGFPが適度に発現していることが確認されたクローンを、NM-G細胞とした。
【実施例】
【0075】
Biosearch社から購入したNanogイントロンを標的とするRNA-FISH用のプローブを用いて、説明書に従ってNanog遺伝子に対してRNA-FISHを行った。なお、RNA-FISHでは、Hoechst33342(1:1000、以下「Hoechst」とする)で細胞核を染色した。なお、RNA-FISH用のプローブの塩基配列は、配列番号16~31に示されている。
【実施例】
【0076】
(結果)
図1は、共焦点レーザー顕微鏡(CSU-W1共焦点ユニットおよび1.4NAの100×Olympus油浸対物レンズを備えるOlympus IX83顕微鏡)によるNM-G細胞の画像を示す。図中の破線は個々の細胞核を示す。図中の矢印は、Nanogの転写位置と推測される輝点を示す。なお、スケールバーは5μmに相当する。3個のNM-G細胞を観察すると、輝点がないNM-G細胞、輝点が1個のNM-G細胞、および輝点が2個のNM-G細胞が観察された。
【実施例】
【0077】
図2は、RNA-FISHにおいて固定したNM-G細胞の共焦点レーザー顕微鏡による画像を示す。細胞核内にMCP-GFPのシグナルを認めた(図2(a)参照)。Nanog遺伝子に対するRNA-FISHのシグナルも細胞核内に認めた(図2(b)参照)。Hoechstで染色された細胞核内において(図2(c)参照)、RNA-FISHのシグナルと、MCP-GFPのシグナルとの位置が一致していた(図2(d)参照)。したがって、MCP-GFPの輝点は、Nanog遺伝子の転写位置を示している。なお、スケールバーは5μmに相当する。
【実施例】
【0078】
Nanogの他に、Oct4、Slc2a3、Stat3遺伝子においても片対立遺伝子にMS2リピートを挿入した細胞株をTALENまたはCRISPRを利用して樹立した。それぞれの細胞株でMCP-GFPの輝点を確認した。本実施例から、本発明によれば、生きた細胞内で特定の遺伝子の転写を可視化することが可能である。
【実施例】
【0079】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内およびそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、遺伝子の転写のライブイメージング用の細胞の作製に好適である。
図面
【図1】
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【図2】
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