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明細書 :哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法およびキット、並びに、その利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-208845 (P2016-208845A)
公開日 平成28年12月15日(2016.12.15)
発明の名称または考案の名称 哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法およびキット、並びに、その利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12P  21/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 102
C12P 21/00 C
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 24
出願番号 特願2015-092336 (P2015-092336)
出願日 平成27年4月28日(2015.4.28)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り ・刊行物名「第37回 日本分子生物学会年会 プログラム」 発行日 平成26年11月7日 発行所 特定非営利活動法人日本分子生物学会 ・研究集会名 第37回 日本分子生物学会年会 開催場所 パシフィコ横浜 開催日 平成26年11月26日
発明者または考案者 【氏名】清水 典明
出願人 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B064
4B065
Fターム 4B024AA01
4B024BA03
4B024CA01
4B024DA02
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA08
4B064AG01
4B064AG13
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA20
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA60
要約 【課題】哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法およびキット、並びに、その利用を提供する。
【解決手段】目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列と、目的遺伝子、および、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域をコードするポリヌクレオチドを具備する発現ベクターと、を哺乳動物細胞に同時に導入することによって、哺乳動物細胞内での目的遺伝子の発現を高める。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法であって、
上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列と、
上記目的遺伝子、および、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域をコードするポリヌクレオチドを具備する発現ベクターと、を哺乳動物細胞に同時に導入する工程を含む方法。
【請求項2】
上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドは、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、および、β-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドは、下記(a)または(b)のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法:
(a)配列番号9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号9に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、且つ、目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。
【請求項5】
上記リピート配列は、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの直列反復配列を含むものである、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
上記リピート配列は、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの逆位反復配列を含むものである、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、および、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する、請求項1~6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
上記発現ベクターは、更に、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域をコードするポリヌクレオチドを具備するものである、請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキットであって、
上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列と、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域をコードするポリヌクレオチドを具備する発現ベクターと、を備える、キット。
【請求項10】
目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列と、上記目的遺伝子、および、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域をコードするポリヌクレオチドを具備する発現ベクターと、が導入されてなる哺乳動物細胞。
【請求項11】
請求項10に記載の哺乳動物細胞を用いた、目的タンパク質を生産する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法およびキット、並びに、その利用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、複製開始領域(IR;Initiation Region)と核マトリックス結合領域(MAR;Matrix Attachment Region)とを具備するベクター(「IR/MARベクター」または「IR/MARプラスミド」と呼ぶ)を細胞(例えば、COLO 320、または、HeLa)に導入し、ベクター上に存在する薬剤耐性遺伝子を利用して安定な形質転換体を選択することによって、(i)発現させるべきタンパク質をコードする遺伝子(換言すれば、目的遺伝子)の細胞内コピー数を増幅できること、および、(ii)目的遺伝子を、IR/MARベクターに対して同一の遺伝子構築物(シス)として細胞へ導入した場合であっても、IR/MARベクターに対して別の遺伝子構築物(トランス)として細胞へ導入した場合であっても、目的遺伝子の細胞内コピー数を増幅できること、を見出した。そして、本発明者は、上記IR/MARベクターを用いて目的遺伝子を高度に増幅する系(「高度遺伝子増幅系」または「IR/MAR遺伝子増幅系」と呼ぶ)を完成させるに至った(例えば、特許文献1および2、並びに、非特許文献1および2参照)。ここで、高度遺伝子増幅系(IR/MAR遺伝子増幅系)を用いた遺伝子増幅法を、「IR/MAR遺伝子増幅法」と呼ぶ。
【0003】
IR/MAR遺伝子増幅法によって遺伝子増幅を行った場合、増幅した領域には、目的遺伝子の単純反復配列が形成される。一般的に、反復配列は、頻繁にRepeat-Induced Gene Silencing(RIGS)と呼ばれる現象によって、ヘテロクロマチン化が起こり、転写抑制されることが知られている。また反復配列はRNAi系を高効率的に活性化し、DNAのメチル化を誘導することも知られている。このため、IR/MAR遺伝子増幅法によって増幅した遺伝子は、コピー数とその発現量とが必ずしも比例しない場合があった(例えば、非特許文献3参照)。現在、このような転写抑制を解除する方法の開発が進められつつある。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2003-245083号公報(公開日:平成15(2003)年9月2日)
【特許文献2】特開2004-337066号公報(公開日:平成16(2004)年12月2日)
【0005】

【非特許文献1】Noriaki Shimizu et. al., Plasmids with a Mammalian Replication Origin and a Matrix Attachment Region Initiate the Event Similar to Gene Amplification, Cancer Research, Vol.61, No.19, p6987-6990, (2001)
【非特許文献2】Noriaki Shimizu et. al., Amplification of plasmids containing a mammalian replication initiation region is mediated by controllable conflict between replication and transcription, Cancer Research, Vol.63, No.17, p5281-5290, (2003)
【非特許文献3】Shimizu, N. et. al., Interconversion of intra- and extra-chromosomal sites of gene amplification by modulation of gene expression and DNA methylation, Journal of cellular biochemistry, 102, p515-529, (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の転写抑制を解除する方法では、目的遺伝子が転写・翻訳されて最終的に生じる目的タンパク質の発現量が十分とはいえず、更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法およびキット、並びに、その利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを1つではなく複数含む長いリピート配列によって遺伝子の転写・翻訳に適した環境を生み出し、当該環境の中に目的遺伝子を配置することによって(換言すれば、目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの長いリピート配列中に少数の目的遺伝子を配置することによって)、目的遺伝子の転写・翻訳を促進し、目的タンパク質の発現量を上げることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
<1>本発明の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法は、上記課題を解決するために、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列と、上記目的遺伝子、および、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域をコードするポリヌクレオチドを具備する発現ベクターと、を哺乳動物細胞に同時に導入する工程を含むことを特徴としている。
【0010】
<2>本発明の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法では、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドは、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。
【0011】
<3>本発明の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法では、上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、および、β-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来するものであることが好ましい。
【0012】
<4>本発明の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法では、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドは、下記(a)または(b)のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであることが好ましい:
(a)配列番号9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号9に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、且つ、目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。
【0013】
<5>本発明の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法では、上記リピート配列は、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの直列反復配列を含むものであることが好ましい。
【0014】
<6>本発明の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法では、上記リピート配列は、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの逆位反復配列を含むものであることが好ましい。
【0015】
<7>本発明の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法では、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、および、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来するものであることが好ましい。
【0016】
<8>本発明の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法では、上記発現ベクターは、更に、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域をコードするポリヌクレオチドを具備するものであることが好ましい。
【0017】
<9>本発明の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキットは、上記課題を解決するために、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列と、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域をコードするポリヌクレオチドを具備する発現ベクターと、を備えることを特徴としている。
【0018】
<10>本発明の哺乳動物細胞は、上記課題を解決するために、目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列と、上記目的遺伝子、および、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域をコードするポリヌクレオチドを具備する発現ベクターと、が導入されてなるものであることを特徴としている。
【0019】
<11>本発明の目的タンパク質を生産する方法は、上記課題を解決するために、本発明の哺乳動物細胞を用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、細胞に導入された目的遺伝子1コピーあたりの目的タンパク質の発現量を上げることができるという効果を奏する。
【0021】
本発明は、細胞あたりの目的タンパク質の発現量を上げることができるという効果を奏する。
【0022】
本発明は、目的タンパク質を大量に生産するシステムを樹立することができるという効果を奏する。
【0023】
本発明は、特に限定されるものではないが培養細胞等を用いたEx vivoの系において好ましく実施され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)は、実施例に用いた直列反復配列および逆位反復配列の電気泳動の結果を示す写真であり、(b)は、実施例に用いた直列反復配列および逆位反復配列の構造を示す図である。
【図2】実施例に用いた発現ベクターの構造を示す図である。
【図3】実施例における、FISH法による形質転換体の染色像を示す写真である。
【図4】(a)および(b)は、実施例における、FISH法による形質転換体の染色パターンの形成頻度を示すグラフである。
【図5】(a)および(b)は、実施例における細胞内の目的タンパク質の発現量を示すグラフである。
【図6】(a)および(b)は、実施例における細胞内のリピート配列および発現ベクターのコピー数の測定結果を示すグラフである。
【図7】(a)および(b)は、実施例における1コピーの遺伝子あたりのタンパク質の発現量を示すグラフである。
【図8】(a)および(b)は、実施例における、FISH法によるリピート配列および発現ベクターの染色像を示す写真である。
【図9】(a)および(b)は、実施例における、B-3-31が目的タンパク質の発現に及ぼす効果を示すグラフである。
【図10】(a)および(b)は、実施例における、B-3-31の直列反復配列および逆位反復配列が目的タンパク質の発現に及ぼす効果を示すグラフである。
【図11】(a)および(b)は、B-3-31の直列反復配列および逆位反復配列が目的タンパク質の発現に及ぼす効果を示すグラフである。
【図12】モデル化された本発明のメカニズムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。

【0026】
〔1.本発明のメカニズム(モデル)〕
本発明のリピート配列が、目的遺伝子1コピーあたりの発現を高めるメカニズムのモデルとして、以下のモデルが考えられ得る(図12を参照)。

【0027】
〔1-1.直列反復配列の場合〕
目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの長いリピート配列と、目的遺伝子を具備する発現ベクターとを同時に細胞に導入すると、当該長いリピート配列の中に、少数の発現ベクターが「埋もれた」状態になる。

【0028】
本発明のリピート配列は、目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含んでいるので、目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを1つしか含まない場合と比較して、目的遺伝子の発現に適した環境を生み出すことができる。

【0029】
本発明では、遺伝子発現に適した環境を人工的に形成し、当該環境の中に目的遺伝子を配置することによって、目的遺伝子1コピーあたりの目的タンパク質の発現量を高めることができる。

【0030】
〔1-2.逆位反復配列の場合〕
目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの逆位反復配列を用いる場合、染色体に組み込まれた逆位反復配列および発現ベクターは、十字架(cruciform)構造を作り、当該十字架構造がHolliday junction resolvaseにより開裂することで、発現ベクター等が染色体外に切り出される。

【0031】
切り出された分子は、複製されると環状分子となり、当該環状分子の中に目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドや、目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列が含まれていることにより、環状分子が、ある程度の期間染色体外で維持される。このような染色体外の環境は、サイレンシングが生じ難く、目的遺伝子に由来する目的タンパク質の発現を高めることができる。

【0032】
本発明では、遺伝子発現に適した環境(換言すれば、サイレンシングが生じ難い環境)を人工的に形成し、当該環境の中に目的遺伝子を配置することによって、目的遺伝子1コピーあたりの目的タンパク質の発現量を高めることができる。

【0033】
〔2.哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法〕
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法は、目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列と、目的遺伝子、および、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域をコードするポリヌクレオチドを具備する発現ベクターと、を哺乳動物細胞に同時に導入する工程を含む方法である。

【0034】
以下に、リピート配列、発現ベクター、および、リピート配列と発現ベクターとを哺乳動物細胞に同時に導入する工程、の各々について説明する。

【0035】
〔2-1.リピート配列〕
本実施の形態の方法に用いられるリピート配列は、目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチド(以下、「発現促進ポリヌクレオチド」と呼ぶ。)を複数含むものである。これによって、細胞内に、目的遺伝子の発現に適した環境を人工的に生み出すことができる。なお、発現促進ポリヌクレオチドの具体的な構成は特に限定されず、適宜、所望のポリヌクレオチドを用いることができる(例えば、(i)Haiqing Fu et. al., Preventing gene silencing with human replicators, NATURE BIOTECHNOLOGY, Vol.24, No.5, p572-576, (May 2006)、(ii)Carl L Schildkraut et. al., Replicators lessen transcriptional silencing, NATURE BIOTECHNOLOGY, Vol.24, No.5, p523-524, (May 2006)、(iii)Liang Huang et. al., Prevention of Transcriptional Silencing by a Replicator-Binding Complex Consisting of SWI/SNF, MeCP1, and hnRNP C1/C2, MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY, Vol.31, No.16, p3472-3484, (Aug. 2011)参照)。

【0036】
リピート配列の大きさは、特に限定されないが、好ましくは500~50,000bpであり、より好ましくは1,000~50,000bpであり、より好ましくは2,000~100,000bpであり、最も好ましくは5,000~100,000bpである。

【0037】
リピート配列に含まれる発現促進ポリヌクレオチドの数は、2個以上であればよく、特に限定されない。例えば、リピート配列に含まれる発現促進ポリヌクレオチドの数は、周囲の染色体環境から独立して発現促進環境を創成するという観点からは、好ましくは2~5個、更に好ましくは5~10個、最も好ましくは10~50個である。

【0038】
リピート配列に含まれる複数の発現促進ポリヌクレオチドは、互いが直接結合していてもよいし、他の構成(例えば、ヌクレオチド、または、ポリヌクレオチド)を介して、互いが間接的に結合していてもよい。例えば、制限酵素認識部位を介して、上記複数のポリヌクレオチド同士が結合していてもよい。

【0039】
リピート配列は、発現促進ポリヌクレオチドの直列反復配列(direct repeat)を含むものであってもよいし、発現促進ポリヌクレオチドの逆位反復配列(inverted repeat)を含むものであってもよい。つまり、リピート配列は、連続して連結されている複数の発現促進ポリヌクレオチドが同方向になるように連結されているポリヌクレオチド(直列反復配列)を含むものであってもよいし、連続して配置されている複数の発現促進ポリヌクレオチドが逆方向になるように連結されているポリヌクレオチド(逆位反復配列)を含むものであってもよい。

【0040】
一例として、各々「ATG」の塩基配列を有する、2つの発現促進ポリヌクレオチドについて考える。

【0041】
第1の発現促進ポリヌクレオチドの「G」に第2の発現促進ポリヌクレオチドの「A」が結合している場合、第1の発現促進ポリヌクレオチドと第2の発現促進ポリヌクレオチドとは、直列反復配列を形成していることになる。つまり、この場合、第1の発現促進ポリヌクレオチドと第2の発現促進ポリヌクレオチドとは、同方向になるように連結されている。

【0042】
一方、第1の発現促進ポリヌクレオチドの「G」に第2の発現促進ポリヌクレオチドの「G」が結合している場合、または、第1の発現促進ポリヌクレオチドの「A」に第2の発現促進ポリヌクレオチドの「A」が結合している場合、第1の発現促進ポリヌクレオチドと第2の発現促進ポリヌクレオチドとは、逆位反復配列を形成していることになる。つまり、この場合、第1の発現促進ポリヌクレオチドと第2の発現促進ポリヌクレオチドとは、逆方向になるように連結されている。

【0043】
リピート配列が、「発現促進ポリヌクレオチドの直列反復配列を含むもの」である場合、当該発現促進ポリヌクレオチドの全てが同方向になるように連結されている必要はない。

【0044】
例えば、連続した2つの発現促進ポリヌクレオチドを、1つの反復ユニットと定義する。リピート配列を形成する全ての反復ユニットのうち、50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の反復ユニットにおいて、当該反復ユニットを形成する第1の発現促進ポリヌクレオチドと第2の発現促進ポリヌクレオチドとが直列反復配列を形成している場合、当該リピート配列を「発現促進ポリヌクレオチドの直列反復配列を含むもの」と規定し得る。

【0045】
また、リピート配列を形成する全ての反復ユニットのうち、50%未満、より好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、最も好ましくは0%の反復ユニットにおいて、当該反復ユニットを形成する第1の発現促進ポリヌクレオチドと第2の発現促進ポリヌクレオチドとが逆位反復配列を形成している場合、当該リピート配列を「発現促進ポリヌクレオチドの直列反復配列を含むもの」と規定し得る。

【0046】
リピート配列が、「発現促進ポリヌクレオチドの逆位反復配列を含むもの」である場合、当該ポリヌクレオチドの全てが逆方向になるように連結されている必要はない。

【0047】
上記と同様に、連続した2つの発現促進ポリヌクレオチドを、1つの反復ユニットと定義する。リピート配列を形成する全ての反復ユニットのうち、50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の反復ユニットにおいて、当該反復ユニットを形成する第1の発現促進ポリヌクレオチドと第2の発現促進ポリヌクレオチドとが逆位反復配列を形成している場合、当該リピート配列を「発現促進ポリヌクレオチドの逆位反復配列を含むもの」と規定し得る。

【0048】
また、リピート配列を形成する全ての反復ユニットのうち、50%未満、より好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、最も好ましくは0%の反復ユニットにおいて、当該反復ユニットを形成する第1の発現促進ポリヌクレオチドと第2の発現促進ポリヌクレオチドとが直列反復配列を形成している場合、当該リピート配列を「発現促進ポリヌクレオチドの逆位反復配列を含むもの」と規定し得る。

【0049】
リピート配列が、発現促進ポリヌクレオチドの直列反復配列を含むものである場合、当該リピート配列は、染色体内に安定に組み込まれる傾向を示す。一方、リピート配列が、発現促進ポリヌクレオチドの逆位反復配列を含むものである場合、当該リピート配列は、染色体から切り出されて、染色体外に存在する傾向を示す。

【0050】
発現促進ポリヌクレオチドの具体的構成は、特に限定されず、目的遺伝子の発現を高めることができるものであればよい。なお、所望のポリヌクレオチドが目的遺伝子の発現を高めるものであるか否かは、以下の方法にて確認することができる。まず、所望のポリヌクレオチドをPCRや化学合成等公知の手段を用いて取得する。次いで、IR/MARベクター、目的遺伝子(例えば、EGFP遺伝子(Enhanced Green Fluorescent Protein遺伝子))および所望のポリヌクレオチドを、哺乳動物細胞(例えば、CHO DG44)に導入した場合の目的遺伝子の発現量1と、所望のポリヌクレオチドを導入せず、IR/MARベクター、および目的遺伝子のみを哺乳動物細胞に導入した場合の目的遺伝子の発現量2と、を比較し、発現量2よりも発現量1が上回っていた場合に、当該ポリヌクレオチドは目的遺伝子の発現を高めるもの(換言すれば、発現促進ポリヌクレオチド)であると判断することができる。

【0051】
発現促進ポリヌクレオチドの例として、以下のポリヌクレオチド(A)およびポリヌクレオチド(B)を挙げることができる:
(A)哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域(IR)の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチド、
(B)ヒトの第2番染色体短腕16.1の遺伝子密度の低い領域に由来する3,271(bp)のヒトゲノム断片(以下、「B-3-31」とも呼ぶ)。

【0052】
以下に、ポリヌクレオチド(A)およびポリヌクレオチド(B)について、更に詳細に説明する。

【0053】
ポリヌクレオチド(A)
ポリヌクレオチド(A)は、IRの少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドである。また、ポリヌクレオチド(A)は、IRをコードするポリヌクレオチドであってもよい。

【0054】
IRとしては、特に限定されず、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、および、β-グロビン遺伝子座の複製開始領域を挙げることができる。なおc-myc遺伝子座の複製開始領域については、例えば「McWhinney, C. et al., Nucleic Acids Res. vol. 18, p1233-1242(1990)」に記載されている。ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の複製開始領域については、例えば「Dijkwel, P.A. et al., Mol. Cell. Biol. vol.8, p5398-5409(1988)」に記載されている。β-グロビン遺伝子座の複製開始領域については、例えば「Aladjem, M. et al., Science vol. 281, p1005-1009(1998)」に記載されている。

【0055】
より具体的に、ポリヌクレオチド(A)は、下記(e)~(h)の何れかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド、または、下記(e)~(h)の何れかのポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドであってもよい、:
(e)配列番号10または11に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(f)配列番号10または11に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、且つ、目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。
(g)配列番号10または11に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。
(h)配列番号10または11に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドと90%以上、95%以上、97%以上または99%以上の相同性を有し、かつ、目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。

【0056】
ポリヌクレオチド(B)
ポリヌクレオチド(B)は、ヒトの第2番染色体短腕16.1の遺伝子密度の低い領域に由来する3,271(bp)のヒトゲノム断片である。

【0057】
ポリヌクレオチド(B)は、下記(a)~(d)の何れかのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド、または、下記(a)~(d)の何れかのポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドであってもよい:
(a)配列番号9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号9に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、且つ、目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド、
(c)配列番号9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。
(d)配列番号9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドと90%以上、95%以上、97%以上または99%以上の相同性を有し、かつ、目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。

【0058】
上述したポリヌクレオチド(A)および(B)において、「1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド」(換言すれば、変異ポリヌクレオチド)とは、例えば30個以下、好ましくは25個以下、より好ましくは20個以下、より好ましくは15個以下、より好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下、より好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、最も好ましくは1個以下の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドを意図する。

【0059】
上述したポリヌクレオチド(A)および(B)において、「ストリンジェントな条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図されるが、ハイブリダイゼーションさせるポリヌクレオチドによって、高ストリンジェンシーでの洗浄条件は適宜変更され、例えば、0.1% SDSを含む0.5×SSC中にて65℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、E.coli由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、RNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、オリゴヌクレオチドを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にてハイブリダイゼーション温度での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましい。また、上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている周知の方法で行うことができる。

【0060】
上述したポリヌクレオチド(A)および(B)において、「相同性」は、周知の方法に基づいて確認することができる。具体的に、配列番号9、10または11に示されている塩基配列を、クエリーとしてBLASTN 2.2.1などの相同検索プログラムを実行し、GenBankやEMBL、DDBJなどのデータベースに対して相同検索を行うことで得られた塩基配列からなるポリヌクレオチドを、ポリヌクレオチド(A)または(B)として利用することが可能である。

【0061】
〔2-2.発現ベクター〕
本実施の形態の方法に用いられる発現ベクターは、目的遺伝子、および、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域(MAR)をコードするポリヌクレオチドを具備するものである。

【0062】
MARは、特に限定されず、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、および、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域を挙げることができる。なお、Igκ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、例えば「Tsutsui, K. et. al., J. Biol. Chem. Vol.268, p12886-12894(1993)」に記載されている。SV40初期領域の核マトリックス結合領域については、例えば「Pommier, Y. et. al., J. Virol., Vol.64, p419-423(1990)」に記載されている。ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、例えば「Shimizu N. et al., Cancer Res. Vol.61, p6987-6990(2001)」に記載されている。

【0063】
本実施の形態の方法に用いられる発現ベクターは、更に、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域(IR)をコードするポリヌクレオチドを具備するものであってもよい。当該構成であれば、より効率よく遺伝子増幅し、より発現が高まることが期待できるという利点があり、より好ましい。

【0064】
IRとしては、特に限定されず、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、および、β-グロビン遺伝子座の複製開始領域を挙げることができる。なおc-myc遺伝子座の複製開始領域については、例えば「McWhinney, C. et al., Nucleic Acids Res. vol. 18, p1233-1242(1990)」に記載されている。ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の複製開始領域については、例えば「Dijkwel, P.A. et al., Mol. Cell. Biol. vol.8, p5398-5409(1988)」に記載されている。β-グロビン遺伝子座の複製開始領域については、例えば「Aladjem, M. et al., Science vol. 281, p1005-1009(1998)」に記載されている。

【0065】
発現ベクターは、核マトリックス結合領域および複製開始領域の他に、目的に応じて、大腸菌内でクローニングを行なうために必要な配列、薬剤耐性遺伝子(例えば、ブラストサイジン抵抗性遺伝子、ネオマイシン抵抗性遺伝子、ヒグロマイシン抵抗性遺伝子、等)、または、選択マーカーとして利用可能な蛍光タンパク質をコードする遺伝子(例えば、EGFP遺伝子等)を具備していてもよい。

【0066】
一方、「目的遺伝子」とは、発現させるべきタンパク質(換言すれば、目的タンパク質)をコードするポリヌクレオチドのことである。よって、目的遺伝子は、特に限定されるものではなく、所望のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを適宜選択の上、採用すればよい。当該ポリヌクレオチドは、その塩基配列情報を元に、公知の技術(例えば、PCR法、化学合成法)を用いて取得すればよい。

【0067】
目的遺伝子は、発現制御が可能なようにプロモーターに連結されていることが好ましい。上記プロモーターは、導入される哺乳動物細胞内で機能するものであれば特に限定されない。例えば、転写因子等による所定の操作によって、プロモーターの転写活性が制御されて活性化または不活性化されるプロモーター(換言すれば、転写活性調節型プロモーター)であってもよいし、恒常的に転写活性が活性化されている恒常型プロモーターであってもよい。

【0068】
転写活性調節型プロモーターは、特に限定されず、例えば、TREプロモーター(クロンテック社製)、T-REXプロモーター(インビトロジェン社製)等の市販品を利用可能である。恒常型プロモーターとしては、CMVプロモーター、SV40初期領域由来プロモーター(SV40プロモーター)、SRalphaプロモーター(SRαプロモーター)、LTRプロモーター、MMTVプロモーター等が利用可能である。

【0069】
目的遺伝子には、その他、ターミネーター等目的遺伝子の発現に必要なポリヌクレオチド、制限酵素認識部位、薬剤耐性遺伝子等のクローニングに必要なポリヌクレオチドが含まれていてもよい。

【0070】
〔2-3.リピート配列と発現ベクターとを哺乳動物細胞に同時に導入する工程〕
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法は、リピート配列と発現ベクターとを哺乳動物細胞に同時に導入する工程(換言すれば、導入工程)を含んでいる。

【0071】
哺乳動物細胞としては、特に限定されず、各種哺乳動物由来の細胞(例えば、各種哺乳動物由来の培養細胞)が用いられ得る。例えば、チャイニーズハムスター由来のCHOや、各種腫瘍細胞等が挙げられる。CHOとしては、例えば、CHO-K1(ATCC CCL-61、RIKEN RCB0285、RIKEN RCB0403等)や、CHO DG44が挙げられる。CHOは、現在、医薬等の有用タンパク質の実生産に用いられており、安全性が確認されている細胞であり、本発明の方法が適用される哺乳動物細胞としては好ましい。

【0072】
遺伝子増幅効率が高いという点では、無限増殖能を有する腫瘍細胞が好ましい。上記腫瘍細胞としては、例えば、HeLa(入手先:例えば、ATCC CCL-2、ATCC CCL-2.2、RIKEN RCB0007、RIKEN RCB0191等)、ヒト大腸がんCOLO 320DM(入手先:例えば、ATCC CCL-220)、ヒト大腸がんCOLO 320HSR(入手先:例えば、ATCC CCL-220.1)、NS0(入手先:例えば、RIKEN RCB0213)等が挙げられる。なおヒト大腸がんCOLO 320DMについては、「Shimizu, N., Kanda, T., and Wahl, G. M. Selective capture of acentricfragments by micronuclei provides a rapid method for purifying extrachromosomally amplified DNA. Nat. Genet., 12: 65-71, 1996.」を参照のこと。

【0073】
リピート配列と発現ベクターとを哺乳動物細胞に同時に導入する方法は、特に限定されるものではなく、リポフェクション、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法等の公知の方法を利用可能である。またその詳細な条件については、導入される哺乳動物や、各エレメント等に応じて適宜最適な条件を検討の上、採用すればよい。

【0074】
〔2-4.その他の工程〕
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法は、導入工程の他に、リピート配列と発現ベクターとが導入された哺乳動物細胞を分離する工程(換言すれば、選抜工程)や、当該選抜工程によって選抜された哺乳動物細胞(換言すれば、形質転換細胞)を培養する工程(換言すれば、培養工程)を含んでいてもよい。また、培養工程によって生産された目的タンパク質を精製する工程(換言すれば、精製工程)を含んでいてもよい。つまり、本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高める方法は、リピート配列と発現ベクターとが導入された哺乳動物細胞を用いた、目的タンパク質を生産する方法をも包含する。

【0075】
選抜工程は、リピート配列と発現ベクターとが導入された哺乳動物細胞を分離する工程である。より詳細に、選抜工程は、リピート配列と発現ベクターとが導入された哺乳動物細胞と、リピート配列と発現ベクターとが導入されていない哺乳動物細胞と、が混在した細胞集団の中から、リピート配列と発現ベクターとが導入された哺乳動物細胞を選抜する工程である。選抜工程によって、目的タンパク質を高発現し得る哺乳動物細胞を選抜することができる。

【0076】
選抜工程の具体的な方法は特に限定されるものではないが、例えば、発現ベクターに薬剤耐性遺伝子が含まれている場合、その薬剤耐性を利用して所望の細胞を選抜すればよい。また、PCR法やサザンブロット法によって、細胞に含まれる目的遺伝子等のポリヌクレオチドを検出することによっても選抜工程を行い得る。薬剤耐性、PCR法、サザンブロット法を利用した選抜の具体的な方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が適宜利用され得る。

【0077】
培養工程は、選抜工程によって既に選抜された哺乳動物細胞を培養する工程である。かかる培養工程によって、目的タンパク質を哺乳動物細胞において高発現させることができる。培養工程の具体的方法は特に限定されるものではなく、培養する哺乳動物細胞に最適な条件を検討の上、適宜採用すればよい。

【0078】
精製工程は、培養工程によって生産された目的タンパク質を精製する工程である。精製工程におけるタンパク質の具体的な精製方法としては、例えば、哺乳動物細胞をPBS(Phosphate Buffered Saline)等の緩衝溶液に懸濁した後、ホモジェナイザーまたは超音波等で細胞を破砕し、当該懸濁液を遠心分離に供した後、上清を回収すればよい。上記緩衝溶液には、目的タンパク質の可溶化を促進するための界面活性剤や、目的タンパク質の立体構造を安定化するための還元剤、目的タンパク質の分解を防止するためのプロテアーゼインヒビターを適宜添加してもよい。

【0079】
上記界面活性剤としては、CHAPS(3-[(3-cholamidopropyl)-dimethylammonio-1-propanesulfonate]、Triton X-100、Nikkol、n-オクチルグリコシド等を利用することができる。また、上記還元剤としては、DTT(dithiothreitol)、DET(dithioerythritol)等を利用することができる。上記プロテアーゼインヒビターとしては、アプロチニンや、ロイペプチンを利用することができる。

【0080】
上記上清から、目的タンパク質をアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ろ過クロマトグラフィー等のカラムクロマトグラフィーを用いて、精製することができる。また、精製された目的タンパク質を含む溶液を適当な緩衝液に対して透析することで、目的タンパク質を含む溶液から不要な塩を除去してもよい。精製工程は、目的タンパク質の分解を抑えるために低温条件下で行われることが好ましい。特に4℃以下の低温条件下で精製工程が行われることが好ましい。なお、精製工程の具体的な方法は、この限りではなく、公知の方法を適宜利用し得る。

【0081】
〔3.哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキット〕
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキットは、目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列と、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域をコードするポリヌクレオチドを具備する発現ベクターと、を備えている。

【0082】
リピート配列については、〔2-1.リピート配列〕の欄にて説明したリピート配列を用いればよい。発現ベクターについては、〔2-2.発現ベクター〕の欄にて説明した発現ベクターから、目的遺伝子を除いた発現ベクターを用いればよい。つまり、本実施の形態のキットの利用者は、所望の目的遺伝子を発現ベクターに挿入した後、当該発現ベクターを用いることになる。それ故に、キットに含まれる発現ベクターには、予め目的遺伝子が具備されている必要はない。

【0083】
本実施の形態のキットに用いるリピート配列および発現ベクターの構成については既に説明したので、以下では、その概略のみを説明する。

【0084】
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキットでは、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドは、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。

【0085】
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキットでは、上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、および、β-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来するものであることが好ましい。

【0086】
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキットでは、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドは、下記(a)または(b)のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであることが好ましい:
(a)配列番号9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号9に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、且つ、目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。

【0087】
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキットでは、上記リピート配列は、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの直列反復配列を含むものであることが好ましい。

【0088】
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキットでは、上記リピート配列は、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの逆位反復配列を含むものであることが好ましい。

【0089】
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキットでは、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、および、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来するものであることが好ましい。

【0090】
本実施の形態の哺乳動物細胞内で目的遺伝子の発現を高めるためのキットでは、上記発現ベクターは、更に、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域をコードするポリヌクレオチドを具備するものであることが好ましい。

【0091】
本発明のキットには、形質転換に必要な機器や試薬、宿主となる哺乳動物細胞、その他取扱説明書などがさらに含まれていてもよい。

【0092】
〔3.哺乳動物細胞〕
本実施の形態の哺乳動物細胞は、目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドを複数含むリピート配列と、目的遺伝子、および、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域をコードするポリヌクレオチドを具備する発現ベクターと、が導入されてなる哺乳動物細胞である。

【0093】
本実施の形態の哺乳動物細胞に用いる細胞については、〔2-3.リピート配列と発現ベクターとを哺乳動物細胞に同時に導入する工程〕の欄に用いた細胞を用いればよい。

【0094】
リピート配列については、〔2-1.リピート配列〕の欄にて説明したリピート配列を用いればよい。発現ベクターについては、〔2-2.発現ベクター〕の欄にて説明した発現ベクターを用いればよい。本実施の形態の哺乳動物に用いるリピート配列および発現ベクターの構成については既に説明したので、以下では、その概略のみを説明する。

【0095】
本実施の形態の哺乳動物細胞では、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドは、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。

【0096】
本実施の形態の哺乳動物細胞では、上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、および、β-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来するものであることが好ましい。

【0097】
本実施の形態の哺乳動物細胞では、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドは、下記(a)または(b)のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであることが好ましい:
(a)配列番号9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号9に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、且つ、目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。

【0098】
本実施の形態の哺乳動物細胞では、上記リピート配列は、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの直列反復配列を含むものであることが好ましい。

【0099】
本実施の形態の哺乳動物細胞では、上記リピート配列は、上記目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチドの逆位反復配列を含むものであることが好ましい。

【0100】
本実施の形態の哺乳動物細胞では、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、および、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来するものであることが好ましい。

【0101】
本実施の形態の哺乳動物細胞では、上記発現ベクターは、更に、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域をコードするポリヌクレオチドを具備するものであることが好ましい。
【実施例】
【0102】
<1.リピート配列、および、発現ベクターの作製>
G5またはG5/AR1の各々の直列反復配列(direct repeat)または逆位反復配列(inverted repeat)を含むリピート配列を作製した。以下に、作製方法を説明する。
【実施例】
【0103】
鋳型としてpG5(図2参照)を用い、プライマーとして以下の表1に示すプライマーを用い、酵素としてKOD polymeraseを用いたPCRによって、G5(DNA断片の長さ:998bp、配列番号10)およびG5/AR1(DNA断片の長さ:1,349bp、配列番号11)を増幅した。なお、表1において、「G5 Dir.」、「G5 Inv.」、「G5AR1 Dir.」および「G5AR1 Inv.」の各々は、G5の直列反復配列、G5の逆位反復配列、G5/AR1の直列反復配列、および、G5/AR1の逆位反復配列の作製に用いられたプライマーセットを示している。
【実施例】
【0104】
直列反復配列を作製する場合には、プライマーの5’末端に、Type Iの制限酵素であるRsr IIの認識配列を付加した。一方、逆位反復配列を作製する場合には、一方のプライマーに、Tye IIの制限酵素であるMru Iの認識配列を付加し、もう一方のプライマーに、Tye IIの制限酵素であるSal Iの認識配列を付加した。
【実施例】
【0105】
PCRの増副産物は、5’末端および3’末端に上述した制限酵素の認識配列を有している。PCRの増幅産物を上記制限酵素によって完全に消化し、消化によって生じた短い断片をNucleo Spin Gel and PCR Clean-up(Takara)を用いて除去した。得られたPCRの増幅産物を、ligation high ver.2(TOYOBO)を用いてライゲーションした。ライゲーション産物の代表的な電気泳動の像を図1(a)に示す。また、図1(b)に、G5およびG5/AR1の各々について、直列反復配列および逆位反復配列の構造の概略を示す。また、図1(b)に示すように、ネガティブコントロールとして、λファージ由来のDNA(DNA断片の長さ:972bp、配列番号12)の直列反復配列および逆位反復配列も作製した。
【実施例】
【0106】
【表1】
JP2016208845A_000002t.gif
【実施例】
【0107】
周知の手法にしたがって、実施例に用いるベクターを作製した。図2に、各ベクターの構造を示す。
【実施例】
【0108】
pKVは、目的遺伝子であるd2EGFPが挿入されたプラスミドであるである。
【実施例】
【0109】
pKV-AR1は、目的遺伝子であるd2EGFPと、MAR(具体的にはAR1、配列番号13)と、が挿入されたプラスミドであるである。
【実施例】
【0110】
pG5は、IR(具体的にはG5、配列番号10)と、MAR(具体的にはAR1、配列番号13)と、が挿入されたプラスミドであるである。
【実施例】
【0111】
pΔBM d2EGFPは、目的遺伝子であるd2EGFPと、MAR(具体的にはAR1、配列番号13)と、IR(具体的にはヒトbeta-globin遺伝子座由来の複製開始領域)と、が挿入されたプラスミドであるである。
【実施例】
【0112】
pΔBM AR1 MycLH D1 RsrIIは、目的遺伝子であるMycと、MAR(具体的にはAR1、配列番号13)と、IR(具体的にはD1、配列番号14)と、が挿入されたプラスミドであるである。
【実施例】
【0113】
<2.細胞内に導入された発現ベクターの状態に関する試験>
pKV-AR1を、(i)単独で(-)、(ii)G5の直列反復配列と共に(Diir.)、(iii)G5の逆位反復配列と共に(Inv.)、(iv)pG5と共に、ヒト大腸癌細胞であるCOLO 320DMに導入した。
【実施例】
【0114】
薬剤選択によって、安定な形質転換体を取得した。当該形質転換体内のプラスミドの塩基配列を、FISH法により蛍光(緑色)で検出し、当該形質転換体内の核のDNAを、対比染色(赤色)で検出した。
【実施例】
【0115】
図3に、形質転換体の代表的な写真を示す。
【実施例】
【0116】
プラスミドの塩基配列が核内における微小な点状の染色像として検出された場合、当該点状の染色像を、Extrachromosomal Tiny Element(ETE)と称する。このような命名は、Harada et al.,(2009)J. Biol. Chem.に従った命名である。
【実施例】
【0117】
ETEを、更に、1つの核内での点状の染色像が少ない場合(ETE)と、1つの核内での点状の染色像が多い場合(ETE++)とに大別した。
【実施例】
【0118】
一方、点状の染色像がETEよりも大きい場合は、当該染色像をDM(Double Minutes)と判断した。核内に1個の大きな染色像が見られる場合は、当該染色像をHSR(Homogenous Staining Region)と判断した。
【実施例】
【0119】
500個以上の核を顕微鏡で観察し、上述した染色像の形成頻度を算出した。
【実施例】
【0120】
図4(a)は、染色体外のETEまたはDMの形成頻度を示すグラフであり、図4(b)は、HSRの形成頻度を示すグラフである。
【実施例】
【0121】
図4(a)から、pKV-AR1およびG5の逆位反復配列の両方が導入された細胞では、染色体外の構造体が形成され易くなることが示唆された。染色体外の構造体の形成頻度は、通常のIR/MAR法(具体的に、pG5、pDBM d2EGFPの場合)に比べて高かった。
【実施例】
【0122】
図4(b)から、G5の直列反復配列を用いた方が、G5の逆位反復配列を用いた場合よりも、高い頻度でHSRが形成されることが示唆された。
【実施例】
【0123】
<3.細胞内における目的タンパク質の発現に関する試験>
図5(a)および図5(b)に示すリピート配列と発現ベクターとの様々な組み合わせを、2種類の細胞(COLO 320DM、または、CHO DG44)に導入した。薬剤選択によって安定な形質転換体を取得し、当該形質転換体における目的タンパク質(具体的には、d2EGFP)の発現をフローサイトメーターで測定し、当該発現を任意の単位で数値化してグラフにまとめた。試験結果を図5(a)および図5(b)に示す。
【実施例】
【0124】
図5(a)および図5(b)から明らかなように、λファージ由来のDNAをpKV-AR1と同時に細胞へ導入した場合の目的タンパク質の発現量は、pKV-AR1を単独で細胞へ導入した場合の目的タンパク質の発現量と比べて大きな違いはなかった。一方、pKV-AR1をG5の単量体(mono)と共に細胞へ導入すると、目的タンパク質の発現量が高くなり、pKV-AR1をG5の直列反復配列(Diir.)またはG5の逆位反復配列(Inv.)と共に細胞へ導入すると、目的タンパク質の発現量が著しく高くなった。
【実施例】
【0125】
pKV-AR1をG5の直列反復配列(Diir.)またはG5の逆位反復配列(Inv.)と共に細胞へ導入したときの目的タンパク質の発現量は、従来のIR/MAR遺伝子増幅法による発現量(pDBM d2EGFP(pDBM d2EGFPと、図2のpΔBM d2EGFPとは、同じ))よりも高かった。同様の結果が、COLO 320DMおよびCHO DG44の両方の細胞にて得られた。
【実施例】
【0126】
<4.細胞内における発現ベクターのコピー数に関する試験>
図6(a)および図6(b)に示すリピート配列と発現ベクターとの様々な組み合わせを、2種類の細胞(COLO 320DM、または、CHO DG44)に導入した。薬剤選択によって安定な形質転換体を取得し、当該形質転換細胞内の発現ベクターのコピー数をリアルタイムPCRで定量した。より具体的に、発現ベクター内のSRalfaプロモーターのコピー数、および、発現ベクターと共に細胞へ導入したG5またはλファージ由来のDNAのコピー数、をリアルタイムPCRにて定量した。試験結果を図6(a)および図6(b)に示す。
【実施例】
【0127】
COLO 320DMの場合、コントロールとして細胞に導入したpDBM d2EGFP(換言すれば、IR/MARプラスミド)のコピー数が1,000コピー程度にまで上昇していた。
【実施例】
【0128】
pG5は、複製開始領域(IR)であるG5と核マトリックス結合領域(MAR)であるAR1とを両方とも具備しているため、G5と発現ベクターは、共に1,000コピー近くにまで増幅した。
【実施例】
【0129】
pG5とpKV-AR1とを共に細胞へ導入した場合は、pG5とpKV-AR1とが共にバランス良く増幅した。G5の単量体とpKV-AR1とを共に細胞へ導入した場合も、G5とpKV-AR1とが共にバランス良く増幅した。
【実施例】
【0130】
一方、pKV-AR1をG5の直列反復配列(Diir.)またはG5の逆位反復配列(Inv.)と共に細胞へ導入すると、発現ベクターのコピー数が比較的少ない一方で、G5のコピー数が極めて多かった。すなわち、少数の発現ベクターが、多数のG5と一緒に細胞内で増幅されていた。この現象は、λファージ由来のDNAを用いた場合には観察されなかったので、IRに依存した現象であることが明らかになった。
【実施例】
【0131】
同様な結果が、CHO DG44についても得られた。CHO DG44の場合、測定されたコピー数を標準化するために用いたハムスターGAPDH遺伝子の増幅用プライマーの増幅効率が悪かった。それ故に、細胞あたりのコピー数は、相対値としては正確性が高いが、絶対値としては正確性が劣り、コピー数(絶対値)が1以下になっている。また、G5の直列反復配列(Diir.)を用いた場合には、G5の増幅の程度が高いが、G5の逆位反復配列(Inv.)を用いた場合には、G5の増幅の程度が低い。この現象は、逆位反復配列の細胞内における不安定性で説明され得る(上述した〔1.本発明のメカニズム(モデル)〕の欄参照)。
【実施例】
【0132】
図6のグラフの数値によって図5のグラフの数値を除算することで、1コピーの遺伝子あたりのタンパク質の発現量を求めた。試験結果を図7に示す。図7に示すように、G5の直列反復配列または逆位反復配列を用いることによって、1コピーの遺伝子あたりのタンパク質の発現量が極めて高くなることが明らかになった。G5の直列反復配列または逆位反復配列を用いた場合、通常のIR/MARプラスミドを用いた場合(pDBM d2EGFP)や、pKV-AR1とpG5とを共に細胞へ導入する、通常のIR/MAR法を採用した場合に比べて、1コピーの遺伝子あたりのタンパク質の発現量が、2桁以上も大きくなった。
【実施例】
【0133】
このような効果は、COLO 320DMでは、逆位反復配列を用いた場合の方が直列反復配列を用いた場合よりも強く、一方、CHO DG44では、直列反復配列を用いた場合の方が逆位反復配列を用いた場合よりも強かった。このことは、CHO DG44では、逆位反復配列を用いた場合にコピー数が多くならなかったことに起因している可能性が高い。
【実施例】
【0134】
<5.リピート配列および発現ベクターの状態に関する試験>
FISH法により、発現ベクターの増幅状況を検討した。
【実施例】
【0135】
G5の直列反復配列とpKV-AR1とを共に細胞へ導入した。薬剤選択によって安定な形質転換体を取得し、当該形質転換体について、分裂中期染色体標本(metaphase spread)を調製し、当該分裂中期染色体標本に、G5を検出するプローブと、pKV-AR1を検出するプローブとを同時にハイブリダイズさせ、異なる蛍光色にて、G5とpKV-AR1とを同時に検出した。試験結果を図8に示す。
【実施例】
【0136】
図8(a)に示すように、G5とpKV-AR1とは、同じDM上で同時に増幅していることが明らかになった。注目されることに、G5のシグナルの方が、pKV-AR1のシグナルよりも圧倒的に強かった。
【実施例】
【0137】
更に、上記形質転換体について、間期核からクロマチンファイバーを取り出し、当該クロマチンファイバーに対して、G5を検出するプローブと、pKV-AR1を検出するプローブとを同時にハイブリダイズさせ、異なる蛍光色にて、G5とpKV-AR1とを同時に検出した。なお、クロマチンファイバーを用いる検出法は、分裂中期染色体標本を用いる検出法に比べて、はるかに分解能が高い検出法である。
【実施例】
【0138】
図8(b)に示すように、G5のリピート配列(図8(b)の上側の写真参照)の中に、略等しい間隔をおいてpKV-AR1(図8(b)の下側の写真参照)が検出された。このことは、目的遺伝子を具備するpKV-AR1が、細胞内でG5のリピート配列と一体化し、一体化されたものを増幅単位として、pKV-AR1が増幅されていることを強く示唆している。
【実施例】
【0139】
<6.B-3-31に関する試験-1>
目的遺伝子(d2EGFP)、哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチド(AR1、配列番号13)、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチド(配列番号15)、および、ヒトの第2番染色体短腕16.1の遺伝子密度の低い領域に由来する3,271(bp)のヒトゲノム断片(B-3-31)(配列番号9)を具備する発現ベクター(Vec1)を作製した。
【実施例】
【0140】
また、コントロールとして、上述した発現ベクター(Vec1)からヒトゲノム断片(B-3-31)を除去した発現ベクター(Vec2)を作製した。
【実施例】
【0141】
各発現ベクターを細胞に導入した。当該細胞をフローサイトメーターに供し、d2EGFPの発現データと、細胞数のデータとを取得した。図9に試験結果を示す。
【実施例】
【0142】
図9(a)および図9(b)は基本的に同じ図面であり、図9(a)では、「Vec2」のデータを紙面手前に示し、図9(b)では、「Vec1」のデータを紙面手前に示している。なお、図9(a)および図9(b)では、d2EGFPの発現量を横軸に、細胞数を縦軸にプロットしている。
【実施例】
【0143】
図9(a)および図9(b)に示すように、Vec1を用いると、Vec2を用いた場合と比較して、蛍光強度が強い(換言すれば、d2EGFPの発現量が多い)細胞の数が増加した。つまり、B-3-31が、増幅された発現ベクターからの目的タンパク質の発現量を増加させていることが明らかになった。
【実施例】
【0144】
<7.B-3-31に関する試験-2>
<1-1.リピートの作製>にて説明した方法と同様の方法にて、B-3-31の直列反復配列および逆位反復配列を作製した。
【実施例】
【0145】
当該直列反復配列または逆位反復配列と、pDBM d2EGFPとを、共に細胞(COLO 320DM、または、CHO DG44)に導入した(図10および11にて、Case1にて示す)。また、コントロールとして、pDBM d2EGFPのみを細胞(COLO 320DM、または、CHO DG44)に導入した(図10および11にて、Case2にて示す)。
【実施例】
【0146】
これらの細胞をフローサイトメーターに供し、d2EGFPの発現データと、細胞数のデータとを取得した。図10および11に試験結果を示す。なお、図10および図11では、d2EGFPの発現量を横軸に、細胞数を縦軸にプロットしている。
【実施例】
【0147】
図10(a)は、COLO 320DMにB-3-31の直列反復配列を導入した場合の試験結果を示している。図10(a)の左右の図は、基本的に同じ図面であり、左の図では、「Case2」のデータを紙面手前に示し、右の図では、「Case1」のデータを紙面手前に示している。
【実施例】
【0148】
図10(b)は、COLO 320DMにB-3-31の逆位反復配列を導入した場合の試験結果を示している。図10(b)の左右の図は、基本的に同じ図面であり、左の図では、「Case2」のデータを紙面手前に示し、右の図では、「Case1」のデータを紙面手前に示している。
【実施例】
【0149】
図11(a)は、CHO DG44にB-3-31の直列反復配列を導入した場合の試験結果を示している。図11(a)の左右の図は、基本的に同じ図面であり、左の図では、「Case2」のデータを紙面手前に示し、右の図では、「Case1」のデータを紙面手前に示している。
【実施例】
【0150】
図11(b)は、CHO DG44にB-3-31の逆位反復配列を導入した場合の試験結果を示している。図11(b)の左右の図は、基本的に同じ図面であり、左の図では、「Case2」のデータを紙面手前に示し、右の図では、「Case1」のデータを紙面手前に示している。
【実施例】
【0151】
図10および図11に示すように、Case1の場合には、Case2の場合と比較して、蛍光強度が強い(換言すれば、d2EGFPの発現量が多い)細胞の数が増加した。つまり、B-3-31の直列反復配列および逆位反復配列は、共に、目的タンパク質(d2EGFP)の発現を高めた。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明は、所望のタンパク質(例えば、有用タンパク質)を大量に生産する産業、例えば、医薬品、化学、食品、化粧品、繊維等の種々広範な産業において利用可能である。
図面
【図2】
0
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図1】
6
【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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