TOP > 国内特許検索 > ビタミンE類の選択的な分離方法 > 明細書

明細書 :ビタミンE類の選択的な分離方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-216456 (P2016-216456A)
公開日 平成28年12月22日(2016.12.22)
発明の名称または考案の名称 ビタミンE類の選択的な分離方法
国際特許分類 C07D 311/72        (2006.01)
B01J  41/04        (2006.01)
B01J  41/14        (2006.01)
B01J  47/02        (2006.01)
B01J  47/00        (2006.01)
B01J  49/00        (2006.01)
FI C07D 311/72
B01J 41/04 120
B01J 41/04 110
B01J 41/14
B01J 47/02
B01J 47/00 110
B01J 49/00 170
B01J 49/00 162
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 31
出願番号 特願2016-099720 (P2016-099720)
出願日 平成28年5月18日(2016.5.18)
優先権出願番号 2015101002
優先日 平成27年5月18日(2015.5.18)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】北川 尚美
【氏名】廣森 浩祐
【氏名】鹿沼 光誠
【氏名】笹山 知嶺
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100100181、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 正博
審査請求 未請求
テーマコード 4C062
Fターム 4C062FF16
要約 【課題】脱臭留出物等の油原料からトコトリエノール等のビタミンE類を分離回収する方法で得られるビタミンE類をリッチに含むビタミンE類濃縮液を対象とし、不純物として含まれる食品中での含有量が厳しく制限されている遊離脂肪酸のみを高度に分離除去して、高純度のビタミンE類を得るための、簡便、かつ、大型化や連続化が容易な高度精製技術・方法等を提供すること。
【解決手段】
ビタミンE類を含む油から得られたビタミンE類濃縮液から、不純物として含まれる遊離脂肪酸を分離除去する方法であって、
(1)該ビタミンE類濃縮液を弱塩基性陰イオン交換体と接触させ、
(2)該弱塩基性陰イオン交換体に該遊離脂肪酸を優先的に吸着させ、及び
(3)該ビタミンE類濃縮液から遊離脂肪酸を選択的に除去する、
ことを含む、前記方法。
【選択図】 図17
特許請求の範囲 【請求項1】
ビタミンE類を含む油から得られたビタミンE類濃縮液から、不純物として含まれる遊離脂肪酸を分離除去する方法であって、
(1)該ビタミンE類濃縮液を弱塩基性陰イオン交換体と接触させ、
(2)該弱塩基性陰イオン交換体に該遊離脂肪酸を優先的に吸着させ、及び
(3)該ビタミンE類濃縮液から遊離脂肪酸を選択的に除去する、
ことを含む、前記方法。
【請求項2】
弱塩基性陰イオン交換体として、官能基のpKaが7~9を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
遊離脂肪酸として、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、及びステアリン酸から選択される一つ又はそれ以上の有機酸が含まれる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
油として脱臭留出物(スカム油)を使用する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
該ビタミンE類濃縮液にステロールやスクアレン、酸及び/又はアルコールが含まれる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
更に、油に含まれるビタミンE類を強塩基性陰イオン交換体に吸着及び分離させ、その後、該強塩基性陰イオン交換体から脱離及び回収することにより、ビタミンE類を含む油からビタミンE類濃縮液を得ることを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
強塩基性陰イオン交換体として、官能基のpKa>11を有する強塩基性陰イオン交換樹脂を用いる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
油に含まれるビタミンE類を強塩基性陰イオン交換体に吸着及び分離させる前に、強酸性陽イオン交換体により油に含まれる遊離脂肪酸のエステル化を行う、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
温度30~60℃で行う、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
強酸性陽イオン交換体、強塩基性陰イオン交換体、及び/又は弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填した反応器を用いて、各反応を連続的に行う請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ビタミンE類濃縮液を線速度1.1cm/min以下で供給する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の方法によって、高純度のビタミンE類を含む組成物を製造する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、油、特に、パーム油や米ぬか油等の天然油からトコトリエノール等のビタミンE類を分解損失なく、かつ、選択的に分離回収する方法、特に、原料から分離されたビタミンE類をリッチに含む溶液(「ビタミンE類濃縮液」又は「ビタミンE類粗画分」ともいう)から遊離脂肪酸を選択的に除去し、ビタミンE類を高度分離する方法、及び、係る方法によって高純度のビタミンE類を含む組成物を製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンE類(トコトリエノールとトコフェロール)は、高い抗酸化活性を有する健康機能物質として注目されている。特に、トコトリエノールは、トコフェロールと基本構造が等しく側鎖に3つの二重結合を有するため、トコフェロールの40-60倍もの高い抗酸化活性を持つ(非特許文献1)。最近では、トコトリエノールの動脈硬化改善作用や抗ガン作用などの高い生理活性が報告されており(非特許文献2)、医薬品や食品分野での積極的な利用が期待されている。
【0003】
しかし、表1に示すように、トコフェロールが大豆や菜種、ひまわり、コーンなど種々の植物油に広く含まれているのに対し、トコトリエノールはパームや米ぬかなど一部の植物油に極低濃度で含まれている。また、トコトリエノールは、側鎖の二重結合のために熱による酸化分解を生じやすく、容易に生理活性を失ってしまう。
【0004】
【表1】
JP2016216456A_000003t.gif

【0005】
これらビタミンE類の分離回収のための原料には、食用油製造時の脱臭工程で排出する脱臭留出物(スカム油)が用いられる。表2に、トコフェロール含有量が高い大豆油由来の脱臭留出物、およびトコトリエノール含有量が高い米ぬか由来の脱臭留出物の一般的な組成を、各々の原油と比較して示す。スカム油のビタミンE類含有量はいずれも原油の数十倍と高くなっているものの、主成分は遊離脂肪酸類であり、その他にトリグリセリド類やステロール類、種々の炭化水素類も含まれている。そのため、どちらのビタミンE類を対象とした場合でも、原料から分離されたビタミンE類をリッチに含む溶液(「ビタミンE類濃縮液」又は「ビタミンE類粗画分」ともいう)を回収する工程と、回収液中のビタミンE類とその他の混入物を更に分離して、高純度のビタミンE類を得る工程が必要となる。後者の高度分離工程に関しては、種々のクロマト分離法が提案されており、必要に応じて、トコフェロールとトコトリエノールのα、β、γ、δ異性体まで分離することが可能である。
【0006】
【表2】
JP2016216456A_000004t.gif

【0007】
ここで、回収されたビタミンE類濃縮液のビタミンE類濃度が低く遊離脂肪酸等のその他の混入物が多いと、多量の溶離液供給や溶離時間が必要となり、クロマト分離によるコストや環境への負荷が増大する。そのため、前者の原料からビタミンE類濃縮液を回収する工程で、いかにビタミンE類の分解損失を抑制し、かつ、濃度を高く、その他の不純物混入量を少なくできるかが重要なポイントとなる。不純物の中でも、特に、遊離脂肪酸は高濃度にあると生体の細胞膜を破壊する働きがあるため、食品中での含有量が厳しく制限されており、その除去は必須である。この回収工程に関しては、これまでトコフェロールを対象として様々な検討が行われてきた。大半が原料の分子蒸留を行う手法であり、熱による分解損失を低減するための操作条件の緩和や、不純物混入量を低減するための付加的な操作(蒸留性状が近い遊離脂肪酸を除去するための工程や、分離性状が近いステロールを除去するための工程)の検討が行われ、既に工業化に至っている。しかし、トコトリエノールを含む米ぬかやパーム由来の脱臭留出物に対して分子蒸留を行う手法を適用すると、原料中の含有量自体が低いことに加え、蒸留による熱分解損失が大きいため、回収液のトコトリエノール濃度も純度も非常に低くなる。従って、後段のクロマト分離の負荷が大きく量産困難のため、極めて高価となり、市販品の提供には至っていない(特開平8-100131、特許公表平10-508605、特開2002-194381、特開2002-3488、特開2003-171376、特開2004-305155、特開2005-536191、特開2007-521382、特開2007-176801)。
【0008】
一方、トコトリエノールを含むパーム由来の脱臭留出物に対して、分子蒸留を行わない温和な条件での物理的な吸脱着によるビタミンE類の回収法が検討されている。吸着剤としては、酸化アルミニウムや多孔性高分子、シリカゲルなどが用いられており、シリカゲルを用いた場合にビタミンE類の回収率が高いことが示されている。この手法では、蒸留による熱分解損失を回避できるものの、吸着性状が近い遊離脂肪酸の除去工程と分離性状が近いステロールの除去工程が依然として必要で、これらの工程でトコトリエノールが損失するため、回収率に関しては改善がない。
【0009】
このように、高機能かつ高付加価値を有するトコトリエノールを天然油から効率よく、安定かつ大量に回収できる技術はなく、産業化の大きな障害となっている。即ち、従来技術の問題点は、1)極端な温度条件によりトコトリエノールが変性・劣化する、2)トコトリエノールを選択的に回収することができず分離性状が近い種々の不純物が混入する(純度が低い)、3)分子蒸留プロセスの機器およびランニングコストが高い、4)選択的な分離法がないためトコトリエノールが濃縮されたスカム油(トコトリエノール含有量2wt%程度)を原料とせざるを得ず、原料が制限されている、というものである。
【0010】
一方、本発明者等は、陰イオン交換樹脂を不均相固体触媒として用いる独自発想で、比較的低温(50℃)でトリグリセリドのエステル交換を行う脂肪酸エステル連続合成技術を世界に先駆け開発している(非特許文献3、特許文献1、特許文献2)。更に、このような脂肪酸エステル連続合成に使用する陰イオン交換樹脂の触媒活性を弱酸溶液で洗浄することによって再生する方法も提供した(特許文献3)。尚、特許文献1及び2には、エステル交換反応と並行して脂肪酸残基の樹脂への吸着が生じるため、これを脱着させるために酸水溶液での洗浄が必要である旨記載されている。又、特許文献3には、弱酸溶液で洗浄する目的として、エステル交換活性劣化の原因となる樹脂に吸着したオレイン酸残基などの油分の除去が挙げられている。しかしながら、これら特許文献には、陰イオン交換樹脂によるビタミンE類の分離回収に関しては何ら記載されていない。
【0011】
更に、本発明者等は、油からのトコトリエノールとバイオディーゼル燃料の同時生産方法も開発した(特許文献4)。この方法では、分子蒸留工程を必要としないので、室温等の穏和な操作条件によって、トコトリエノール等ビタミンE類の劣化防止が可能となった。
【0012】
一方、従来の技術では、高純度ビタミンE類を得るための後者の高度分離工程で、回収されたビタミンE類濃縮液中に残存する遊離脂肪酸類は従来の擬似移動層クロマト分離によって除去されていた。しかしながら、クロマト精製では、多量の溶離液が必要、大型化や連続化が困難、といった問題がある。
【0013】
これまでに、遊離脂肪酸類の除去技術は、前述の食用油製造時の脱酸工程で粗油中から遊離脂肪酸類を除去することを目的として研究されてきた(非特許文献4~7)。主に、各成分の沸点の違いを利用する蒸留による物理的分離法と、アルカリとの中和反応で固体化させて濾過除去する化学的分離法がある。しかし、これらの技術を、前述のビタミンE類濃縮液から遊離脂肪酸類を除去するために用いたとしても、いずれの手法も操作条件が高温であるためビタミンE類の分解損失が大きいこと、また、ビタミンE類と遊離脂肪酸類の蒸留性状が近く選択性が低い、あるいは、中和反応による固体化の際にビタミンE類が混入するため収率低下が大きい等の問題点がある。
【0014】
又、特許文献5には、残留農薬分析や環境ホルモンなどの分析対象物質(試料)中に、極めて微量(例えば、100ppm)で含まれるオレイン酸等の脂肪酸をγ—アルミナに吸着させることにより除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【0015】

【特許文献1】特開2006-104316号公報
【特許文献2】特開2007-297611号公報
【特許文献3】特開2007-14871号公報
【特許文献4】特開2009-190989号公報
【特許文献5】特開2008-64489号公報
【0016】

【非特許文献1】Biochem.Biophys.Res.Commun.,348,170(2006)
【非特許文献2】B.B. Aggarwal, C. Sundaram, S. Prasad, R. Kannappan “Tocotrienols, the vitamin E of the 21st century: Its potential against cancer and other chronic diseases” Biochem. Pharmacol., 80, 1613-1631 (2010)
【非特許文献3】Bioresource Technol.98,416(2007)
【非特許文献4】Talana M. Deboni・Mlte S. Cuevas・Paulo Mielke Neto・Rafael V. Mota・Fabiolla S. Damasceno・Luiza Helena Meller da Silva・Christianne E. C. Rodrigues・Antonio J. A. Meirelles, “Deacidification of Soybean Oil by Ion Exchange” Food Bioprocess Tech, 6,3335-3344(2013)
【非特許文献5】Valerie Eychenne and Zephirin Mouloungui, “Deacidification of a Synthetic Oil with an Anion Exchange Resin” J. Am. Oil Chem. Soc., 75,1437-1440(1998)
【非特許文献6】SHAO-LONG DU, CHUN-SHAN SHOU and LIU-QING YANG, “DEACIDIFICATION OF ADLAY SEED (COIX LACHRYMA-JOBI VAR. MAYUEN) MISCELLA WITH ANION-EXCHANGE RESI N” J.Food Process Eng., 30, 729-745(2007)
【非特許文献7】Erika C. Cren, Antonio J.A.Merielles, “Oleic acid removal from ethanolic solutions by ion exchange” Chem. Eng. J., 184, 125-131,(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
既に記載したように、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等の遊離脂肪酸は、生体に対して毒性があるため、油脂食品として摂取する際に厳しい上限値が定められている(例えば、「ショートニングの日本農林規格」、「精製ラードの日本農林規格」、「食用植物油脂の日本農林規格」及び「酸価・過酸化物価に関する規定等」等)。これら各種の規格においては、遊離脂肪酸含有量の指標として酸価を用いられ、食品中のこの値の許容値として、最小で0.1、最大で5以下(含有量に換算すると最小で0.05wt%、最大で2.5wt%)と規定されている。よって、このような遊離脂肪酸をビタミンE類濃縮液から出来るだけ除去することが望まれている。
【0018】
従って、本発明の目的は、上記のような脱臭留出物等の油原料からトコトリエノール等のビタミンE類を選択的に分離回収する方法、特に、該原料から回収されたビタミンE類をリッチに含むビタミンE類濃縮液(ビタミンE類粗画分)から遊離脂肪酸のみを選択的に分離除去して、遊離脂肪酸のみが完全に除去された更に高純度のビタミンE類を得るための、簡便、かつ、大型化や連続化が容易な高度精製技術・方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、ビタミンE類濃縮液から遊離脂肪酸類のみを除去する簡便、かつ、大型化や連続化が容易な高度精製技術の開発を目的とし、ビタミンE類(例えば、α-トコフェロールpKa13.1)と遊離脂肪酸類(例えば、オレイン酸pKa4.8)の酸性度の違いに着目し、弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いる吸着操作を利用することにより、酸性度の高い遊離脂肪酸類をビタミンE類に対して優先的にイオン交換(弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着)させることによって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
この手法では、酸性度の高い遊離脂肪酸類(FH)はプロトン(H)を放出してイオン化(F)し易いため、樹脂のOH基(S(OH))とのイオン交換反応:
【0021】
【化1】
JP2016216456A_000005t.gif
を生じやすい。これに対し、ビタミンE類(VH)はイオン化(V)しにくいため、樹脂のOH基とのイオン交換反応:
【0022】
【化2】
JP2016216456A_000006t.gif
を生じにくいと考えられる。そのため、ビタミンE類と遊離脂肪酸類の混合溶液を弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させると、ビタミンE類に対して遊離脂肪酸類が優先的に該樹脂に吸着し、溶液中から選択的に除去される。
【0023】
即ち、本発明は、以下の各態様にかかるものである。
[態様1]ビタミンE類を含む油から得られたビタミンE類濃縮液から、不純物として含まれる遊離脂肪酸を分離除去する方法であって、
(1)該ビタミンE類濃縮液を弱塩基性陰イオン交換体と接触させ、
(2)該弱塩基性陰イオン交換体に該遊離脂肪酸を優先的に吸着させ、及び
(3)該ビタミンE類濃縮液から遊離脂肪酸を選択的に除去する、
ことを含む、前記方法。
[態様2]弱塩基性陰イオン交換体として、官能基のpKaが7~9を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いる、態様1記載の方法。
[態様3]遊離脂肪酸として、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、及びステアリン酸から選択される一つ又はそれ以上の有機酸が含まれる、態様1又は2記載の方法。
[態様4]油として脱臭留出物(スカム油)を使用する、態様1~4のいずれか一項に記載の方法。
[態様5]該ビタミンE類濃縮液にステロールやスクアレン、酸及び/又はアルコールが含まれる、態様1~4のいずれか一項に記載の方法。
[態様6]更に、油に含まれるビタミンE類を強塩基性陰イオン交換体に吸着及び分離させ、その後、該強塩基性陰イオン交換体から脱離及び回収することにより、ビタミンE類を含む油からビタミンE類濃縮液を得ることを含む、態様1~5のいずれか一項に記載の方法。
[態様7]強塩基性陰イオン交換体として、官能基のpKa>11を有する強塩基性陰イオン交換樹脂を用いる、態様6記載の方法。
[態様8]油に含まれるビタミンE類を強塩基性陰イオン交換体に吸着及び分離させる前に、強酸性陽イオン交換体により油に含まれる遊離脂肪酸のエステル化を行う、態様6又は7に記載の方法。
[態様9]温度30~60℃で行う、態様1~8のいずれか一項に記載の方法。
[態様10]強酸性陽イオン交換体、強塩基性陰イオン交換体、及び/又は弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填した反応器を用いて、各反応を連続的に行う態様1~9のいずれか一項に記載の方法。
[態様11]ビタミンE類濃縮液を線速度1.1cm/min以下で供給する、態様10に記載の方法。
[態様12]態様1~11のいずれかに記載の方法によって、高純度のビタミンE類を含む組成物を製造する方法。
【発明の効果】
【0024】
従来の擬似移動層クロマト分離によるビタミンE類濃縮液からのビタミンE類の高度分離精製にあっては、不純物である遊離脂肪酸を除去するために、多量の溶離液が必要であり、これが大きな環境負担・経済的負担であった。
又、アルカリとの中和反応で固体化させて濾過除去する化学的分離法をビタミンE類濃縮液から遊離脂肪酸類を除去するために用いると、操作条件が高温であるためビタミンE類の分解損失が大きいこと、ビタミンE類と遊離脂肪酸類の蒸留性状が近く選択性が低いこと、更には、中和反応による固体化の際にビタミンE類が混入する、ため収率低下が大きい等の問題点が見られた。
【0025】
これに対して、本発明方法は、ビタミンE類濃縮液から遊離脂肪酸が吸着除去されるために、溶離液を必要とせず、更に、遊離脂肪酸が弱塩基性陰イオン交換体に選択的に吸着される為にビタミンE類の損失が少ない、食品中での含有量が厳しく制限されている遊離脂肪酸が完全除去されるため、本発明方法で得られた処理溶液をそのままビタミンE類の添加剤又は補強等として食品に利用することができる等の利点を有する。
このように、本発明方法によって、ビタミンE類濃縮液から実質的に遊離脂肪酸のみが完全に除去され、遊離脂肪酸に対するビタミンE類の純度が非常に高い(高純度のビタミンE類)を含む組成物を、高い回収率で得ることが出来たのである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】油からビタミンE類を選択的に分離回収するための従来方法の一例を示したフローチャートである。
【図2】回分系での吸着実験に用いた装置システムを示す。
【図3】蛍光検出器(FLR)を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)システムによるビタミンE濃度の分析で用いたグラジュエント法を示す。
【図4】UV検出器を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)システムによる遊離脂肪酸濃度の分析で用いたグラジュエント法を示す。
【図5】ポーラス型樹脂WA20を用いて樹脂添加量を変化させた回分吸着実験での結果を示す。
【図6】、バルク液相中の遊離脂肪酸(FH)とビタミンE(VH)が樹脂内液相に移動した後の、樹脂固相中の吸着活性部位OH基とのイオン交換反応を模式的に示した図である。
【図7】樹脂添加量を10 g-wetで一定として樹脂の種類を変化させた回分吸着実験での結果を示す。
【図8】流通系吸着実験で用いた装置システムの概略を示す。
【図9】ハイポーラス型のWA21Jを充填したカラムに、ビタミンEと遊離脂肪酸の混合溶液を1.1cm/minで供給した場合の吸着実験結果を示す。
【図10】吸着実験後に1.1cm/minでエタノールを供給してカラム内に残存する溶液を流出させた場合の各成分の残存濃度変化を示す。
【図11】ハイポーラス型のWA21Jを充填したカラムに、ビタミンEと遊離脂肪酸の混合溶液を0.53cm/minで供給した場合の吸着実験結果を示す。
【図12】吸着実験後に0.53cm/minでエタノールを供給してカラム内に残存する溶液を流出させた場合の各成分の残存濃度変化を示す。
【図13】ハイポーラス型のWA21Jを充填したカラムに、ビタミンEと遊離脂肪酸の混合溶液を0.26cm/minで供給した場合の吸着実験結果を示す。
【図14】吸着実験後に0.26cm/minでエタノールを供給してカラム内に残存する溶液を流出させた場合の各成分の残存濃度変化を示す。
【図15】強塩基性陰イオン交換樹脂によるビタミンE類の濃縮と、弱塩基性陰イオン交換樹脂による遊離脂肪酸分離を組み合わせた本発明方法の一例の模式図を示す。
【図16】実施例3の操作(3)のビタミンE類脱離・精製に用いた実験装置を示す。
【図17】実施例3の操作(3)のビタミンE類脱離・精製の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、ビタミンE類を含む油から得られたビタミンE類濃縮液から、不純物として含まれる遊離脂肪酸を分離除去する方法であって、
(1)該ビタミンE類濃縮液を弱塩基性陰イオン交換体と接触させる工程、
(2)該弱塩基性陰イオン交換体に該遊離脂肪酸を優先的に吸着させる工程、及び
(3)該ビタミンE類濃縮液から遊離脂肪酸を選択的に除去する工程、
を含むことを特徴とする。
更に、本発明は、上記方法によって、遊離脂肪酸との合計量に対するビタミンE類の比率(純度)が非常に高い、即ち、実質的に遊離脂肪酸を含まない、純度が99.5%以上、例えば、実施例に示されている「99.8wt%」というような、高純度のビタミンE類を含む組成物を製造する方法にも係るものである。このような組成物は、例えば、アルコール溶液等、該方法で使用される溶媒等の各種成分を適宜含む、任意の形態をとり得る。

【0028】
本発明方法において、低い酸性度を有するビタミンE類と高い酸性度を有する遊離脂肪酸類との間の酸性度の違いに基づき、ビタミンE類濃縮液から遊離脂肪酸を選択的に除去するために、陰イオン交換体の官能基の塩基性は弱く、且つ、陰イオン交換体の比表面積は大きいことが好ましい。
即ち、弱塩基性陰イオン交換体としては、例えば、官能基のpKaが5~9、好ましくは、7~9を有する弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いることが出来る。尚、陰イオン交換樹脂を架橋度又は多孔度から分類した場合、ゲル型、ポーラス型、ハイポーラス型等が挙げられるが、表面積が大きい、ポーラス型及びハイポーラス型が好ましい。又、弱塩基性陰イオン交換樹脂官能基としては、例えば、ポリアミン及びジメチルアミン等を挙げることが出来る。

【0029】
このような弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、当業者に公知の任意のものを挙げることが出来るが、例えば、市販品の具体例としては、Diaion WA10、WA20、WA21J、WA30(三菱化学社製)、Lewatit MP-62、VP OC 1065(ランクセス社製)、Amberlite IRA-478、IRA-68、IRA-96、IRA-98、XE-583、Amberlyst A21、DUOLITE A7、A568、Dowex 66、M-43、Monosphere 66、77、Marathon WBA(ダウ・ケミカル社製)などを挙げることが出来る。特に、実施例で示すような、三菱化学株式会社から提供されたポーラス型樹脂Diaion WA20及びハイポーラス型樹脂WA21Jを挙げることが出来る。

【0030】
ビタミンE類濃縮液に含まれていて、本発明方法によってそこから選択的に除去される、遊離脂肪酸の種類に特に制限はなく、原料油の種類及び該ビタミンE類濃縮液の製造過程の条件等によって変わるが、代表的な例として、オレイン酸(pKa4.8)、リノール酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等を挙げることが出来る。

【0031】
又、原料の油の種類及び由来等に特に制限はないが、トコトリエノール等のビタミンE類を含むものである限り、特に制限はなく、天然油(原油)、合成油、又はこれらの混合物でも良い。更に、これらの油類の一部を酸化、還元等の処理をして変性した変性油、並びに、これらの油を主成分とする油加工品も原料とすることができる。

【0032】
即ち、既に記載したように、従来法で原料として利用されている米ぬか油及びパーム油の精製工程で副生し有効利用されていない脱臭留出物(スカム油)等が利用可能である。更に、生産量の観点から、米ぬか及びパームの原油を用いることが好ましい。

【0033】
本発明方法におけるビタミンE類濃縮液には、原料油の種類及び該ビタミンE類濃縮液の製造過程の条件等に応じて、ビタミンE類及び遊離脂肪酸が任意の量で含まれていて良い。例えば、以下に記載するような本発明者自身が開発した方法で得られたビタミンE類濃縮液中では、ビタミンE類及び遊離脂肪酸が、通常、夫々、0.002~0.06mmol/cm及び0.002~0.06mmol/cm程度で含有されており、以下の式で求められるビタミンE類の純度が、例えば、40~80重量%程度である。
純度[wt%]=含有ビタミンE量/(含有ビタミンE量+含有遊離脂肪酸量)×100

【0034】
ビタミンE類濃縮液中には、不純物として、例えば、ステロールやスクアレン等の遊離脂肪酸以外の物質が任意の量で含まれていても良い。これら物質には毒性がないため、ビタミンE類純度を更に高める目的以外では特に除去する必要がない。又、ビタミンE類濃縮液の製造で使用される、エタノール等のアルコール及び/又は、ギ酸、酢酸及びクエン酸等の有機酸又はその塩が含まれ得る。

【0035】
ビタミンE類を含む油からビタミンE類濃縮液を得る方法に特に制限はなく、例えば、特許文献4に記載されているような、油に含まれるビタミンE類を陰イオン交換体、特に、強塩基性陰イオン交換体に吸着及び分離させ、その後、該陰イオン交換体から脱離及び回収することを含む方法、あるいは、分子蒸留により回収することを含む方法で得ることが出来る。

【0036】
強塩基性陰イオン交換体としては、例えば、官能基のpKa>11、好ましくは、pKa>13を有する強塩基性陰イオン交換体を用いることが出来る。因みに、市販品としては、特許文献4に記載されているような陰イオン交換樹脂、例えば、ダイヤイオンPA-306(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA-306S(同)、ダイヤイオンPA-308(同)、ダイヤイオンHPA-25(同)及びダウエックス1-X2(ダウケミカル社製)等の当業者に公知の陰イオン交換樹脂を用いることができる。

【0037】
更に、陰イオン交換体には遊離脂肪酸も吸着するため、これを多量に含む残渣油を直接処理する場合には、遊離脂肪酸も該陰イオン交換体に吸着する。従って、油中に含まれるビタミンE類を陰イオン交換体に吸着させる前段階で、陽イオン交換体、特に強酸性陽イオン交換体により油に含まれる遊離脂肪酸のエステル化を行なうことが好ましい。かかる、陽イオン交換体としては、例えば、ダイヤイオンPK-208及びPK-208LH(三菱化学社製)のような当業者に公知の陽イオン樹脂を使用することが出来る。

【0038】
更に、実際の工業化プロセスを考えた場合の経済的及び効率的な観点から、陰イオン交換樹脂等の陰イオン交換体を用いたビタミンE類の吸着分離の温度を約45℃~55℃と高温で実施した場合でも、ビタミンE類が陰イオン交換体に吸着する際に原料油に含まれるトリグリセリド(TG)の側鎖である脂肪酸基も同時に該陰イオン交換体に吸着することを防ぐための方法として、油に添加するアルコールの量、及び、陰イオン交換体に吸着したビタミンE類を分離するために用いる脱離液における酸の濃度を特定の範囲に設定することを特徴とする、発明者自身が開発した以下の方法(図1)を用いることも好適である。

【0039】
(1)ビタミンE類を含む油とアルコールの混合溶液を陰イオン交換体に接触させ、
(2)該陰イオン交換体を触媒としてエステル交換反応によって該油に含まれるトリグリセリドを吸着不活性な脂肪酸エステルに変換させ、同時に、該油に含まれるビタミンE類を該陰イオン交換体に吸着及び分離させ、その後
(3)酸とアルコールを含む脱離液を使用して、該陰イオン交換体からビタミンE類を脱離及び回収する、
ことを含む該油からビタミンE類を選択的、かつ、高純度で製造する方法であって、
該混合溶液が該油中の遊離脂肪酸及びトリグリセリドの総量に対する反応量論分の80~120%の量のアルコールを含み、該脱離液における酸の濃度が2~5wt%であり、各工程を45℃~55℃で行う、ことを特徴とする前記方法。

【0040】
よって、本発明は、油に含まれるビタミンE類を強塩基性陰イオン交換体に吸着及び分離させ、その後、該陰イオン交換体から脱離及び回収することによって得られたビタミンE類濃縮液から、不純物として含まれる遊離脂肪酸を分離除去する方法であって、
(1)該ビタミンE類濃縮液を弱塩基性陰イオン交換体と接触させ、
(2)該弱塩基性陰イオン交換体に該遊離脂肪酸を優先的に吸着させ、及び
(3)該ビタミンE類濃縮液から遊離脂肪酸を選択的に除去する、
ことを含む、前記方法にも関する。

【0041】
尚、本発明方法における各操作段階において、反応基質とイオン交換体との接触方式については、バッチ法(回分系)、連続法(流通系)など特に限定されない。装置の形態としては、処理槽を設けたもの、循環系や向流系で樹脂移送するものなどが挙げられる。接触方法としては、流通(イオン交換樹脂の充填層に通液する方法)、撹拌(撹拌槽を用いる方法)、流動(流動層反応器)、振とう(振とう型反応器)などが挙げられる。原料物質の導入口、生成物質の回収口が一定のカラム通液型、展開床(エクスパンデッドベッドカラム)の他、回分型を用いることもできる。特に、樹脂を充填した反応器を用いて、反応又は吸着分離等の各操作を連続的に行う方法が好適である。

【0042】
上記の方法における各操作における条件・手段は、例えば、特許文献4に記載されているような、当業者に公知の任意の中から適宜選択することができる。例えば、それぞれの反応時間(接触時間、脱離時間)は反応温度、イオン交換樹脂の使用量等に応じて、当業者が適宜設定することが出来る。例えば、攪拌層では通常1~10時間、好ましくは3~5時間、また、流通系では5分~2時間、好ましくは10分~1時間程度で実施する。反応温度は通常、30~60℃で実施する。更に、反応圧力は特に制限ない。常圧下で実施するのが操作上簡便であるが、必要に応じて1~10気圧程度に加圧してもよい。

【0043】
又、実施例において示されるように、流通系において、ビタミンE類濃縮液から不純物として含まれる遊離脂肪酸を分離除去する際に、該ビタミンE類濃縮液を、例えば、1.1cm/min以下、特に、0.26cm/min以下の線速度で供給することによって、遊離脂肪酸が完全に除去され、実質的に遊離脂肪酸を含まない(遊離脂肪酸に対してビタミンE類の純度が約100%:高純度ビタミンE)であるようなビタミンE類(アルコール溶液)を約55~85%という高い回収率で得ることが出来る。

【0044】
従って、本発明は、上記の方法を実施するための装置、例えば、所定の各種類のイオン交換体を充填した容器(反応器)の一方に反応基質の導入口を、他方に、生成物の回収口をそれぞれ有する1つ又は複数の反応器から成る反応装置にも関する。前記容器は、単独に有していてもよいが、並列および/または直列に、複数個接続されている構造を有していてもよい。また、前記容器の形状は特に限定はないが、通常、カラムが用いられる。イオン交換樹脂をカラムに充填して使用する場合、樹脂が膨潤して破損することを防止するため、空隙率の高いエクスパンデッドベッドカラム充填層を用いる態様は好ましい。ここで、エクスパンデッドベッドカラムとは、粘度の高い流体や固形分を含んだ流体中から溶解している目的成分を吸着剤粒子に吸着させて回収する分離精製法に用いられ、カラム内を上向きに流体を流し、比重の大きい吸着剤粒子を静止状態で浮遊させ、空隙率を大きく保った状態でカラムクロマトグラフィー操作を行うもの等をいい、例えば、化学工学論文集第27巻第2号(2001)第145-148頁等に記載される公知の方法を用いることができる。アルコール類に対する油類のモル比が大きい範囲において、膨潤によるイオン交換樹脂の破損の問題が生じ易いので、反応器の設計に際して留意される。従って、本発明はこのような本発明方法を実施するための装置にも係る。ただし、効率的な操作のため、油とアルコールの混合液を通液する吸着操作の際には上昇流を用いることが好ましい。

【0045】
以下、実施例に則して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。尚、以下の実施例において特に断わりがない限り、当業者に公知の一般的な方法に従い実施した。
【実施例1】
【0046】
回分系吸着実験の手順
ビタミンE類として、市販で入手可能なトコフェロールのうち最も生理活性が高いδ-体(pKa12.6),Sigma-Aldrich Co.,Missouri,USA,approx.90%)を、遊離脂肪酸類として、植物油に最も多く含まれるオレイン酸(pKa4.8), Wako Pure Chemical Industries, Ltd.,Osaka,Japan,>60%)を、それぞれ用いた。溶媒には、ビタミンE類が食品用途であるため、毒性のないエタノール(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,Osaka,Japan,special grade,99.5%)を用いた。
【実施例1】
【0047】
弱塩基性陰イオン交換樹脂には、三菱化学株式会社から提供されたポーラス型樹脂Diaion WA20、ハイポーラス型樹脂WA21J、ゲル型樹脂WA30の3種類を用いた。表3に樹脂の性状を示す。樹脂の骨格はポリスチレンをジビニルベンゼンで架橋したものであり、これが網目構造を作っている。基本はゲル型で、これに物理的な穴をあけたものがポーラス型である。ハイポーラス型は基本のゲル型の架橋度が高く、より比表面積を大きくしたものである。各樹脂の官能基はWA20とWA21Jはポリアミン型、WA30はジメチルアミン型であり、塩基性度は後者のジメチルアミン型の方が大きい。また、比表面積はハイポーラス型のWA21Jで大きく、イオン交換容量は官能基の種類や架橋度に応じて異なる。
【実施例1】
【0048】
【表3】
JP2016216456A_000007t.gif
【実施例1】
【0049】
各樹脂は、吸着活性を持つOH型で出荷されるものの、遊離脂肪酸類などの脂溶性物質が侵入しにくい水膨潤状態である。そのため、脂溶性物質が侵入しやすいアルコール膨潤状態への前処理が必要となる。また、樹脂のOH基は空気中の二酸化炭素と結合しHCO基となっている可能性がある。そのため、各回分実験で用いる前に官能基をOH基にイオン交換する活性化処理を行うこととした。以下で、その手順の一例を述べる。ただし、OH基への活性化処理はどのような手法を用いても構わない。
【実施例1】
【0050】
まず、内径1.1cmのガラスカラム(Kiriyama Glass Work Co.,Tokyo,Japan,ILC-C11-300)に所定量の樹脂を充填し、以下の3種類の溶液:(1)樹脂の官能基をOH型に置換するための1.0mol/dmNaOH(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,Osaka,Japan,special grade,97.0%)水溶液、(2)カラム内の遊離OH基を除去するためのReverse Osmosis Water(RO水)、及び(3)脂溶性物質を樹脂内に侵入し易くするためのエタノール、を順に供給した。各溶液の供給流量は線速度で2.5cm/minとし、全て下降流とした。表4に樹脂1g-wetあたりの各溶液の通液量を示した。これらの値は事前の検討で最適化した値である。
【実施例1】
【0051】
【表4】
JP2016216456A_000008t.gif
【実施例1】
【0052】
回分系での吸着実験は、図2に示す装置システムを用い、所定濃度のビタミンEと遊離脂肪酸を含むエタノール溶液50cmに、所定量のエタノール膨潤OH型樹脂を加え、50℃の恒温槽中、150spmで振盪することで行った。その際、ビタミンEと遊離脂肪酸の濃度は、イオン交換樹脂を利用した分離回収法で得られたビタミンE類粗画分中での実濃度を参考に、いずれも0.05mmol/cmと設定し、樹脂添加量は2-20g-wetと変化させた。
【実施例1】
【0053】
各実験では、所定時間毎に溶液を0.1g程度採取し、ビタミンE濃度および遊離脂肪酸濃度を測定するためのサンプルとした。以下に、各分析方法の詳細を示す。
【実施例1】
【0054】
ビタミンE濃度の分析は、実験で採取したサンプルをエタノールで適切に希釈した後、0.20μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech GmbH,Goettingen,Germany,17761K)でろ過した後、蛍光検出器(FLR)を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)システムで分析した。表5にHPLCの仕様を示す。カラムに逆相のBEH C18(Nihon Waters K.K.,Tokyo,Japan,particle size 1.7μm,Φ2.1mm×100mm)を用いた。溶離液には、メタノール(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka,Japan,for HPLC analysis)、アセトニトリル(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,Osaka,Japan,for HPLC analysis)、および超純水を用い、表6及びおよび図3に示すグラジェント法で、流量0.4cm/minで供給した。また、サンプル注入量は0.0003cm、カラム温度は50℃とし、検出励起波長は298nm、検出蛍光波長は325nmとした。
【実施例1】
【0055】
【表5】
JP2016216456A_000009t.gif
【実施例1】
【0056】
【表6】
JP2016216456A_000010t.gif
【実施例1】
【0057】
また、遊離脂肪酸濃度の分析は、UV検出器を備えたHPLCシステムで行った。この際、実験で採取したサンプルをエタノールで適切に希釈し、0.20μmのフィルターでろ過したものを試料とした。用いたHPLCの仕様を表7に示す。カラムはビタミンE分析と同じ逆相BEH C18カラムであるが、カラム長が150mmと長いものである。溶離液にはアセトニトリル、2-プロパノール(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,Osaka,Japan,special grade)および超純水を用い、表8及び図4に示すグラジェント法で、流量0.4cm/minで供給した。また、サンプル注入量は0.003cm、カラム温度は30℃、検出波長は210nmとした。
【実施例1】
【0058】
【表7】
JP2016216456A_000011t.gif
【実施例1】
【0059】
【表8】
JP2016216456A_000012t.gif
【実施例1】
【0060】
回分系吸着実験の結果
図5に、ポーラス型樹脂WA20を用いて樹脂添加量を変化させた回分吸着実験での結果を示す。横軸は操作時間であり、縦軸はバルク液相のビタミンEと遊離脂肪酸の各濃度を初期値で規格化した値である。本発明方法では、ビタミンEと遊離脂肪酸の混合溶液から遊離脂肪酸のみを除去することが目的であるため、ビタミンE濃度を初期値で保ち、遊離脂肪酸濃度を零に近づけることが理想である。添加量2g-wetの場合、ビタミンE濃度:
JP2016216456A_000013t.gifは初期値でほとんど変わらず、遊離脂肪酸濃度:
JP2016216456A_000014t.gifは減少して180分後に初期値の70%程度となった。添加量を10g-wetとした場合、遊離脂肪酸濃度(△)は180分後に初期値の20%まで減少したが、ビタミンE濃度(○)の減少も生じて初期値の90%まで低下した。さらに、添加量を20g-wetとした場合、遊離脂肪酸濃度(▲)は180分後に初期値の5%まで低下したが、ビタミンE濃度(●)も80%程度まで低下した。
【実施例1】
【0061】
以上より、樹脂添加量の増大に伴い、バルク液相中の遊離脂肪酸とビタミンEの残存量が低下すること、その低下量は遊離脂肪酸の方が著しく大きいことが分かった。ポーラス型樹脂では、樹脂内部にも液相が存在することから、図6に示すように、バルク液相中の遊離脂肪酸(FH)とビタミンE(VEH)が樹脂内液相に移動した後、樹脂固相中の吸着活性部位OH基とのイオン交換反応を生じると考えられる。WA20樹脂では、図中の矢印の太さで示すように、ビタミンEのイオン交換も生じてはいるものの、酸性度の高い遊離脂肪酸のイオン交換が優先的に進行していることは間違いない。
【実施例1】
【0062】
次に、図7に、樹脂添加量を10g-wetで一定として樹脂の種類を変化させた回分吸着実験での結果を示す。前述のポーラス型のWA20の場合と比べ、ゲル型のWA30では、遊離脂肪酸濃度がより速やかに減少して180分後の値も小さくなった。一方、ビタミンE濃度は、実験開始後遊離脂肪酸と同様に速やかに減少したものの、10分以降増加に転じて一定値に漸近する傾向を示した。このことから、ビタミンEも実験開始直後は遊離脂肪酸と同様に樹脂のOH基とのイオン交換が進行して樹脂に保持されるためバルク液相濃度が減少したものの、樹脂のOH基が少なくなるにつれて液相中の遊離脂肪酸と樹脂に保持されたビタミンEとの再交換反応:
【実施例1】
【0063】
【化3】
JP2016216456A_000015t.gif
が進行しビタミンEとして溶離したためバルク液相濃度が増加に転じたと考えられる。また、ハイポーラス型のWA21Jでは、ビタミンE濃度の減少挙動はポーラス型のWA20と変わらず、遊離脂肪酸濃度は速やかに減少し、180分後の値が最も小さくなった。
【実施例1】
【0064】
これらの樹脂による吸着挙動の違いは、樹脂の比表面積と官能基の塩基性度の違いが関与すると考えられる。比表面積と官能基の塩基性度はいずれも大きいほど、吸着量が大きくなると考えられる。遊離脂肪酸の吸着量に着目すると、吸着量はWA21Jが最も大きく、続いて、WA30、WA20となった。前述の樹脂性状を示した表3によれば、WA30とWA20は比表面積が等しく、WA30の官能基は塩基性度の大きいジメチルアミン型である。WA21JとWA20は官能基がポリアミン型で等しいが、WA21Jの比表面積が大きい。したがって、官能基の塩基性度よりも、比表面積の方が吸着量の増大効果が大きいと考えられる。一方、ビタミンEの吸着量に着目すると、官能基が同じWA21JとWA20での挙動は変わらなかったものの、官能基の塩基性度が大きいWA30では実験開始直後のビタミンEの吸着量が大きくなった。したがって、官能基の塩基性度が強いと酸性度の弱いビタミンEのイオン交換も進行しやすい可能性があると考えられる。
【実施例1】
【0065】
以上より、官能基の塩基性度が弱く、比表面積の大きなハイポーラス型のWA21Jを用いた場合に、遊離脂肪酸の吸着量が最も大きく、かつ、ビタミンEの吸着量が小さい、すなわち、遊離脂肪酸のイオン交換反応に対する選択性が最も高くなったことから、以下の流通系での吸着実験ではこの樹脂を用いることとした。
【実施例2】
【0066】
流通系吸着実験の手順
ビタミンE類と遊離脂肪酸類には、実施例1の回分系と同様に、δ-トコフェロールとオレイン酸を、溶媒にはエタノールを用いた。弱塩基性陰イオン交換樹脂には、前述の回分系での検討に基づき、遊離脂肪酸に対する選択性が最も高い樹脂WA21Jを用いた。図8に用いた装置システムの概略を示す。装置は、供給溶液タンク、送液ポンプ、樹脂充填カラム、恒温槽からなる。供給溶液タンクとカラムは恒温槽中に設置し50℃に保持した。カラムには直径1.1cm、長さ15cmのガラスカラム(Kiriyama Glass Work Co.,Tokyo,Japan,ILC-C11-150)を用い、水膨潤状態の樹脂10g-wetを充填した。そして、前節で述べた手順で、樹脂の活性化処理を行った。
【実施例2】
【0067】
流通系での吸着実験では、所定濃度のビタミンEと遊離脂肪酸を含むエタノール溶液を、ダイヤフラム式定量ポンプ(KNF Japan Co,Ltd,Tokyo,Japan, SIMDOS 02 DOSIERPUMPE FEM1.02FT.18S)を用いて、樹脂充填カラムの底部から上昇流で供給した。その際、ビタミンEと遊離脂肪酸の濃度は実施例1の回分系と同じ値に設定し、供給溶液総量を130cmで一定として、供給の際の線速度を1.1-0.26cm/minと変化させた。各実験では、カラムからの流出液を所定の時間間隔で分取器(Isco,Inc.,Nebraska,USA, Foxy Jr.)で採取し、分析のためのサンプルとした。分析では、ビタミンEおよび遊離脂肪酸濃度を実施例1の場合と同様の手法で測定した。
【実施例2】
【0068】
各吸着実験終了後、カラム内は供給溶液で満たされた状態である。従って、各吸着実験におけるビタミンEと遊離脂肪酸の物質収支を算出するには、カラム内に残存する溶液を流出させて各成分の残存濃度を把握する必要がある。そこで、エタノールを、吸着実験と同じ速度でカラム頂部より下降流で供給した。溶液の供給方向はカラム内の残存液と供給溶液の密度を考慮して設定した。そして、カラムからの流出液を同様に採取し、ビタミンEおよび遊離脂肪酸濃度の分析を行った。
【実施例2】
【0069】
流通系吸着実験の結果(1)
図9に、ハイポーラス型のWA21Jを充填したカラムに、ビタミンEと遊離脂肪酸の混合溶液を線速度1.1cm/minで供給した場合の吸着実験結果を示す。横軸は流出液体積Velution[cm]、縦軸はカラムからの流出液中の各成分濃度C[mmol/cm]である。図中の実線と破線は、供給溶液中のビタミンE濃度と遊離脂肪酸濃度Ci,feed[mmol/cm]を、それぞれ示す。流出液中のビタミンE濃度は供給開始後速やかに増加し、原料濃度で一定となる傾向を示した。このことから、供給溶液中のビタミンEが樹脂にほとんど吸着せずに樹脂充填カラムを通過して流出した可能性があると考えられる。一方、遊離脂肪酸濃度は流出液体積31cmまで零であり、その後徐々に増加した。このことから、図中の縦線で示す流出液体積31cmまでは供給溶液中の全ての遊離脂肪酸が樹脂に吸着して溶液中から除去されているものの、31cm以降は樹脂のOH基が消失するにつれて未吸着の遊離脂肪酸が徐々に増えてカラムから流出したと考えられる。
【実施例2】
【0070】
以上より、流出液体積31cmまでは流出液がビタミンEのみを含むことから、目的とするビタミンEと遊離脂肪酸の混合溶液から遊離脂肪酸のみの除去を達成することができたと考えられる。そこで、高度精製の指標として、供給した混合溶液中のビタミンE量に対して回収された高純度ビタミンE量、すなわち、高純度ビタミンE回収率を、次式で定義する。
【実施例2】
【0071】
【数1】
JP2016216456A_000016t.gif
【実施例2】
【0072】
ただし、ビタミンEのみを含む高純度溶液が流出する流出液体積31cmの時点で混合溶液の供給を停止したと仮定し、Velution=31cmとして各値を計算した。その結果を表9に示す。線速度1.1cm/minの条件では高純度ビタミンEの回収率が55.6%となった。他の値については後述する。
【実施例2】
【0073】
【表9】
JP2016216456A_000017t.gif
【実施例2】
【0074】
次に、本流通系での吸着実験において、ビタミンEや遊離脂肪酸と樹脂のOH基とのイオン交換がどの程度進行しているのかを議論するため、各成分の物質収支を検討する。実験の手順で述べたように、吸着実験終了後、カラム内は供給溶液で満たされた状態であるため、エタノールを通液することでカラム内に残存する溶液を流出させ各成分の残存濃度を把握した。その結果を図10に示す。横軸はエタノール供給時の流出液体積Velution[cm]である。参考のため、供給溶液中のビタミンE濃度と遊離脂肪酸濃度Ci,feed [mmol/cm]をラインで示す。エタノール供給に伴い、流出液中の各成分濃度は速やかに減少し、ビタミンE濃度は57cmで、遊離脂肪酸濃度は121cmでほぼ零となった。そこで、この洗浄工程でカラムから流出したビタミンE量を求めるため、流出濃度が零となる流出液体積Velution=57cmまでの濃度を積分することで、図中の斜線で示した部分の面積を次式を用いて算出した。
【実施例2】
【0075】
【数2】
JP2016216456A_000018t.gif
【実施例2】
【0076】
また、前述の吸着工程で供給された混合溶液の総量に基づきVelution=130cmとし、供給されたビタミンE総量と流出したビタミンE総量をそれぞれ求めた。これらの値を用いて、次式で定義される流出率を算出した。
【実施例2】
【0077】
【数3】
JP2016216456A_000019t.gif
【実施例2】
【0078】
この値は、吸着工程終了時にカラム内に残存したビタミンE量に対する洗浄工程で流出したビタミンE量の割合を示すものであり、残存ビタミンEすべてが流出した場合に1となる。得られた値を、遊離脂肪酸について同様に算出した値と共に表10に示す。ビタミンEの流出率は1に近い値となっていることから、ほとんどのビタミンEが樹脂内に保持されずに流出していると考えられる。一方、遊離脂肪酸の流出率は0.26となり、残りは樹脂のOH基とのイオン交換によって樹脂内に保持されていると考えられる。

【実施例2】
【0079】
【表10】
JP2016216456A_000020t.gif
【実施例2】
【0080】
流通系吸着実験の結果(2)
図11に、混合溶液を線速度0.53cm/minで供給した場合の吸着実験結果を示す。流出液中のビタミンE濃度は、前述の線速度1.1cm/minの場合と比べて少し遅れて増加し、供給溶液中の濃度を越えて極大を取った後、徐々に減少し供給溶液濃度に漸近する傾向を示した。このことから、初期段階ではビタミンEと樹脂のOH基とのイオン交換も進行していたため、ビタミンEの流出が遅れ、樹脂のOH基が少なくなるにつれて供給溶液中の遊離脂肪酸と樹脂に保持されたビタミンEとの再交換(前述の[化3])が生じることでビタミンEが再び溶離して流出したため、供給溶液の濃度を超えたと考えられる。一方、遊離脂肪酸濃度は流出液体積45cmまで零であり、その後徐々に増加して供給溶液中の濃度に漸近した。このことから、図中の縦線で示す流出液体積45cmまでは供給溶液中の全ての遊離脂肪酸が樹脂に吸着して溶液中から除去されていると考えられ、目的とするビタミンEと遊離脂肪酸の混合溶液から遊離脂肪酸のみの除去が達成できたと考えられる。
【実施例2】
【0081】
そこで、前述の線速度1.1cm/minの場合と同様に、高純度ビタミンE回収率を前述の式を用いて算出し、前述の表9に併せて示した。この場合も、ビタミンEのみを含む高純度溶液が流出する流出液体積45cmで混合溶液の供給を停止したと仮定し、Velution=45cmとして各値を計算した。流量を0.53cm/minに低下させることで、高純度ビタミンEの回収率は68.9%まで増大した。
【実施例2】
【0082】
次に、各成分と樹脂のOH基とのイオン交換がどの程度進行しているのかを確認するため、前述の線速度1.1cm/minの場合と同様に、吸着実験後のカラムにエタノールを通液することでカラム内に残存する溶液を流出させた。その結果を図12に示す。エタノール供給に伴い、流出液のビタミンE濃度は速やかに減少し、流出液体積42cmでほぼ零となった。しかし、この操作では遊離脂肪酸濃度が零になる前にエタノール供給を停止してしまったため、ビタミンEに関してのみ洗浄工程での流出量を求めることとし、流出液体積Velution=42cmまで濃度を積分することで、図中の斜線で示した部分の面積を算出した。また、前述の1.1cm/minの場合と同様に、吸着工程で供給された混合溶液総量130cmに基づき、ビタミンEや遊離脂肪酸の総供給量(feed)と総流出量(eluted)を算出し、これらの値を用いて前述のように流出率を求めた。得られた値を表11に示す。線速度を0.53cm/minとした場合でも、ビタミンEの流出率はほぼ1となっていることから、ほとんどのビタミンEが樹脂内に保持されずに流出していると考えられる。
【実施例2】
【0083】
【表11】
JP2016216456A_000021t.gif
【実施例2】
【0084】
流通系吸着実験の結果(3)
図13に、混合溶液を線速度0.26cm/minで供給した場合の吸着実験結果を示す。流出液中のビタミンE濃度は、前述の線速度0.53cm/minの場合よりもさらに遅れて増加し始め、供給溶液中の濃度を越えて極大を取った後、徐々に減少し供給溶液濃度に漸近する傾向を示した。このことから、線速度0.53cm/minの場合と同様に、初期段階ではビタミンEと樹脂のOH基とのイオン交換が進行しており、樹脂のOH基が少なくなるにつれて供給溶液中の遊離脂肪酸と樹脂に保持されたビタミンEとの再交換が生じることでビタミンEが溶離して流出したと考えられる。一方、遊離脂肪酸濃度は流出液体積71cmまで零であり、その後速やかに増加して供給溶液濃度に漸近した。このことから、図中の縦線で示す流出液体積71cmまでは供給溶液中の全ての遊離脂肪酸が樹脂に吸着して溶液中から除去されていると考えられ、目的とするビタミンEと遊離脂肪酸の混合溶液から遊離脂肪酸のみの除去が達成できたと考えられる。
【実施例2】
【0085】
そこで、前述の場合と同様に、高純度ビタミンE回収率を前述の式を用いて算出し、前述の表9に併せて示した。この場合も、ビタミンEのみを含む高純度溶液が流出する流出液体積71cmで混合溶液の供給を停止したと仮定し、Velution=71cmとして各値を計算した。線速度を0.26cm/minとさらに低下させることで、高純度ビタミンEの回収率は84.5%まで増大した。
【実施例2】
【0086】
次に、各成分と樹脂のOH基とのイオン交換がどの程度進行しているのかを議論するため、前述の場合と同様に、吸着実験後のカラムにエタノールを通液することでカラム内に残存する溶液を流出させた。その結果を図14に示す。エタノール供給に伴い、流出液の各成分濃度は速やかに減少し、ビタミンE濃度は42cmで、遊離脂肪酸濃度は174 cmでほぼ零となった。そこで、前述の場合と同様に、洗浄工程でカラムから流出した各成分量を求めるため、流出液濃度が零となる流出液体積までの濃度を積分することで図中の斜線部の面積を算出した。また、吸着工程で供給された混合溶液総量130cmに基づき、各成分の総供給量(feed)と総流出量(eluted)を算出し、これらの値を用いて前述のように流出率を求めた。得られた値を表12に示す。線速度を0.26cm/minとした場合でも、ビタミンEの流出率はほぼ1となっていることから、前述の場合と同様に、ほとんどのビタミンEが樹脂内に保持されずに流出していると考えられる。一方、遊離脂肪酸の流出率は0.45となり、残りは樹脂のOH基とのイオン交換によって樹脂内に保持されていると考えられる。
【実施例2】
【0087】
【表12】
JP2016216456A_000022t.gif
【実施例2】
【0088】
以上の結果から、流通系において遊離脂肪酸を含まない高純度ビタミンE溶液を得ることができ、供給速度を小さくすることで回収量、回収率を増大させることができる。
【実施例3】
【0089】
流通系による本発明方法
以下、図15に、強塩基性陰イオン交換樹脂によるビタミンE類の濃縮と、弱塩基性陰イオン交換樹脂による遊離脂肪酸分離を組み合わせた本発明方法の一例の模式図を示す。本プロセスは、(1)遊離脂肪酸(FH)のエステル化用の強酸性陽イオン交換樹脂を充填したカラム、(2)ビタミンE類(VH)吸着用の強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラム、(3)遊離脂肪酸分離用の弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラム、の3つからなる。そして、ビタミンE類の濃縮工程(ビタミンE類濃縮液の取得工程)として、(1)強酸性陽イオン交換樹脂充填カラムと(2)強塩基性陰イオン交換樹脂充填カラムを連結させて、原料となる脱臭留出物とエタノールの混合物を供給することで、前段カラムでの競争吸着物質である遊離脂肪酸の化学変換による低減と後段カラムでのビタミンE類の樹脂への吸着を行う。次に、ビタミンE類の精製工程として、(2)ビタミンE類吸着後の強塩基性陰イオン交換樹脂充填カラムと(3)弱塩基性陰イオン交換樹脂充填カラムを連結させて、脱離液となる弱酸-エタノール溶液を供給することで、前段カラムでのビタミンE類の脱離と後段カラムでの不純物遊離脂肪酸の樹脂への吸着を行う。尚、各カラムでの処理による影響を個別に評価するため、各操作を段階的に行うこととした。以下で各操作の詳細を述べる。
【実施例3】
【0090】
操作(1)の遊離脂肪酸のエステル化では、原料として、食用米油の製造を行っている三和油脂(株)より提供された米ぬか由来の脱臭留出物を用いた。企業から開示された一般的な脱臭留出物の組成を表13に示す。
【実施例3】
【0091】
【表13】
JP2016216456A_000023t.gif
【実施例3】
【0092】
主成分は、ビタミンE類と同様に強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着する遊離脂肪酸(44wt%)であり、回収目的物であるトコフェロールとトコトリエノールを合わせたビタミンE類(2.8wt%)よりもはるかに大きいことが分かる。そのため、まず、強酸性陽イオン交換樹脂を触媒としたエステル化反応によって遊離脂肪酸を吸着不活性な脂肪酸エステルに変換する必要がある。樹脂には、強酸性陽イオン交換樹脂Diaion PK208LH(Mitsubishi Chemical Co.,Ltd.,Tokyo、表14)を用い、内径5cm、長さ50cmのガラスカラムに675g-wet充填した。工場出荷時、樹脂の交換基は活性のあるH型であるものの、水膨潤状態である。そこで、溶媒であるエタノールで膨潤化するため、樹脂1g-wet当たり1.5cmのエタノールを、定量ポンプを用いて流量50cm/minでカラム頂部から下降流で供給した。その後、カラムを50℃に保持し、脱臭留出物に、遊離脂肪酸とトリグリセリドの脂肪酸基総量に対して反応量論分のエタノールを添加した原料溶液を流量1.0cm/minでカラム底部から上昇流で供給し、カラムからの流出液を所定の時間間隔で分取器で採取し、分析のためのサンプルとした。分析では、ビタミンE類および遊離脂肪酸濃度を実施例1の場合と同様の手法で測定した。
【実施例3】
【0093】
【表14】
JP2016216456A_000024t.gif
【実施例3】
【0094】
操作(2)のビタミンE類の吸着では、操作(1)での流出液であるエステル化後の脱臭留出物を原料とし、樹脂には、強塩基性陰イオン交換樹脂Diaion PA306S(表14)を用いた。溶液タンクと反応器は恒温槽中に設置し、50℃で保持した。反応器には、内径1.1cm、長さ10cmのガラスカラムに、水膨潤状態の強塩基性陰イオン交換樹脂6.7g-wetを充填した濃縮カラムを用いた。そして、原料溶液をダイヤフラム式定量ポンプを用いて上昇流、流量1.0cm/minで供給した。この際、強塩基性陰イオン交換樹脂のOH基と、原料溶液中のビタミンE類および遊離脂肪酸とのイオン交換反応:
【実施例3】
【0095】
【化4】
JP2016216456A_000025t.gif
が生じ、樹脂にビタミンE類および遊離脂肪酸が保持される。ただし、原料溶液の供給を続けると、樹脂に保持されたビタミンE類と原料溶液中の遊離脂肪酸の再交換:
【実施例3】
【0096】
【化5】
JP2016216456A_000026t.gif
が生じ、ビタミンE類が流出してしまうため、流出液中のビタミンE類濃度が増加し始めた時点で原料供給を停止した。次に、カラム内に残存する原料溶液を洗浄するために、エタノールを下降流、流量1.0cm/minで供給した。この際、樹脂の周囲に存在するビタミンE類や遊離脂肪酸を含む原料成分がカラム外に押し出される。溶液の供給方向はカラム内の残存液を速やかに流出させるために、供給溶液との密度差を考慮して設定した。分析では、カラムからの流出液を所定の時間間隔で分取器で採取し、ビタミンE類および遊離脂肪酸濃度を実施例1の場合と同様の手法で測定した。なお、工場出荷時の強塩基性陰イオン交換樹脂は吸着不活性なCl型で、水膨潤状態である。そのため、吸着操作で用いる前に活性化処理が必要となる。この処理は、文献(北川ら, “遊離脂肪酸含有量の高い植物油を原料利用できるイオン交換樹脂法を用いたパイロットスケールの高品質バイオディーゼル製造装置の開発” 化学工学論文集, 42,30-36(2016))に記載の手法を用いて行った。即ち、樹脂を充填したカラムに、まず、樹脂の交換基をOH型に置換するための1.0mol/dm NaOH溶液(30vol%水-70vol%エタノール)を通液し、次に、カラム内の遊離のOH基および水を除去するためのエタノールを通液した。各溶液は下降流、流量2.0cm/minで供給した。以下の表15に樹脂1g-wetあたりの各溶液の通液量を示す。
【実施例3】
【0097】
【表15】
JP2016216456A_000027t.gif
【実施例3】
【0098】
続いて、操作(3)のビタミンE類脱離・精製に用いた実験装置を図16に示す。ここでは、内径1.1cm、長さ15cmのガラスカラムに、実施例1の検討で遊離脂肪酸に対する選択性が最も高い弱塩基性陰イオン交換樹脂WA21Jを10g-wet充填した精製カラムを、前述のビタミンE類を吸着させた濃縮カラムの後ろに連結した。そして、0.43mol/dmの酢酸-エタノール溶液を濃縮カラムの頂部から供給した。流量は、適切化した値として0.25cm/minとした。この際、前段の濃縮カラムでは、樹脂に保持されたビタミンE類および遊離脂肪酸と酢酸(AcH)の以下のイオン交換:
【実施例3】
【0099】
【化6】
JP2016216456A_000028t.gif
が生じ、ビタミンE類と遊離脂肪酸が脱離する。脱離した成分は後段の精製カラムに流入し、弱塩基性陰イオン交換樹脂のOH基と遊離脂肪酸のイオン交換:
【実施例3】
【0100】
【化7】
JP2016216456A_000029t.gif
が生じ、遊離脂肪酸のみが樹脂に保持され、ビタミンE類はそのままカラムから流出すると予想される。また、比較のため、後段の精製カラムを連結せず濃縮カラムのみとした実験も同様に行った。分析では、カラムからの流出液を所定の時間間隔で分取器で採取し、ビタミンE類および遊離脂肪酸濃度を実施例1の場合と同様の手法で測定した。なお、弱塩基性陰イオン交換樹脂は活性をもつOH型で出荷されるものの、空気中の炭酸ガスを吸着して不活性化している可能性があり、また、水膨潤状態であるため、前述の強塩基性陰イオン交換樹脂と同様の手法で活性化処理を行ってから使用した。
【実施例3】
【0101】
結果および考察
操作(1)の遊離脂肪酸のエステル化での結果を表16に示す。米ぬか由来脱臭留出物とエタノールを混合した原料溶液中の各成分濃度の分析値と、流出液の各成分濃度が一定となった際の平均値を比較して示した。また、原料溶液に対する各成分の残存率も求めた。エステル化後の原料溶液には遊離脂肪酸がわずかに残存した。エステル化による転化率は96.3%と高いものの、遊離脂肪酸がわずかに残存した。ただし、この残存率でもトコフェロールやトコトリエノールと同じレベルであることがわかる。トコトリエノールの残存率はほぼ100%で熱分解損失がなく、熱安定性の低いトコトリエノールに関しても70%程度残存していることが分かる。
【実施例3】
【0102】
【表16】
JP2016216456A_000030t.gif
【実施例3】
【0103】
操作(3)のビタミンE類脱離・精製の結果を図17に示す。(a)は精製カラムを連結しない場合で、これは精製カラム入口での濃度プロファイルに相当する。(b)は精製カラムを連結した場合で、これは精製カラム出口での濃度プロファイルである。(a)より、精製カラム入口では、トコフェロールとトコトリエノール濃度がいずれも流出液体積20cm付近で極大となった後、遊離脂肪酸濃度が増加し始め30cm付近で極大となり、ビタミンE類と共に樹脂に保持された遊離脂肪酸が流出していることが分かる。より、精製カラム出口では、トコフェロールとトコトリエノール濃度が極大となる位置が30cm付近と、精製カラムを通過した分、約10cmだけ遅くなり、ピークもブロードになっているものの、遊離脂肪酸は58cmまで検出限界以下であり、完全に除去されたことがわかる。そこで、更に、精製カラム前後でのビタミンE類の損失について検討した。まず、脱離・精製操作で流出したビタミンE類の量を求めるため、精製カラムを連結しない場合とした場合それぞれで、ビタミンE類濃度が検出限界以下となった流出液体積(Veffluent)までの流出液濃度(CVEH)を次式のように積分することで、図中の斜線(影)で示した部分の面積を算出した。
【実施例3】
【0104】
【数4】
JP2016216456A_000031t.gif
【実施例3】
【0105】
その値を表17に示す。次に、精製カラム前後でのビタミンE類の損失を評価するため、ビタミンE類の回収率を次式で定義して求めた。この値も表17に示す。
【実施例3】
【0106】
【数5】
JP2016216456A_000032t.gif
【実施例3】
【0107】
さらに、精製カラムから流出した遊離脂肪酸の量をビタミンE類と同様に算出し、次式によりビタミンE類の含有量を算出した。
【実施例3】
【0108】
【数6】
JP2016216456A_000033t.gif
【実施例3】
【0109】
ここで、Aiはi成分の流出量、Mw,iはi成分の分子量であり、添字のiはトコフェロール、トコトリエノール、遊離脂肪酸を表す。この値も表17に示した。
【実施例3】
【0110】
トコフェロールとトコトリエノールのいずれも、回収率が100%を超え、精製カラム通過後も損失なく回収できたことがわかる。また、ビタミンE類の含有量はトコフェロールとトコトリエノール合わせて99.8wt%と高純度化を達成できた。
【実施例3】
【0111】
以上の検討から、弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いた遊離脂肪酸の分離法を新たな精製工程とし、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いたビタミンE類濃縮法と組み合わせることで、濃縮工程で残存していた遊離脂肪酸を完全に除去できることが分かった。この際、ビタミンE類の分解損失はなく、99.8wt%の高純度品を獲得できることが明らかとなった。
【実施例3】
【0112】
【表17】
JP2016216456A_000034t.gif

【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、例えば、以下に記載されるような産業上の利用可能性を有する。
(1)トコトリエノール等のビタミンE類をより安価で安定に社会に供給できる。
(2)トコトリエノールの高純度品を簡便に量産できるため、特化した機能評価やヒト試験が実施可能となる。
(3)更に、トコトリエノールを添加した健康機能性食品の開発が可能となる。
図面
【図9】
0
【図10】
1
【図11】
2
【図12】
3
【図13】
4
【図14】
5
【図1】
6
【図2】
7
【図3】
8
【図4】
9
【図5】
10
【図6】
11
【図7】
12
【図8】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16