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明細書 :真空アーク推進機

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-002851 (P2017-002851A)
公開日 平成29年1月5日(2017.1.5)
発明の名称または考案の名称 真空アーク推進機
国際特許分類 F03H   1/00        (2006.01)
H05H   1/54        (2006.01)
FI F03H 1/00 Z
H05H 1/54
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2015-118889 (P2015-118889)
出願日 平成27年6月12日(2015.6.12)
発明者または考案者 【氏名】豊田 和弘
出願人 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100092347、【弁理士】、【氏名又は名称】尾仲 一宗
審査請求 未請求
テーマコード 2G084
Fターム 2G084AA22
2G084BB01
2G084BB35
2G084BB37
2G084CC02
2G084CC23
2G084CC25
2G084CC33
2G084DD11
2G084DD22
2G084DD63
2G084EE21
2G084EE24
2G084EE25
要約 【課題】本願発明は,電源に高電圧太陽電池を使用して陰極を固体推進剤で構成して小型軽量化を達成した真空アーク推進機を提供する。
【解決手段】この真空アーク推進機を構成する電気回路1は,陽極6に絶縁体8を介在させて陰極7を対向配設し,陰極7側に初期放電誘発用絶縁体15を設ける。宇宙空間のプラズマ14中で,電気回路1のスイッチ3をONし,陰極7における導体9と初期放電誘発用絶縁体15との間に静電放電を発生させ,該静電放電によって陽極6と陰極7との極間にアーク放電を発生させ,該アーク放電によって陰極7と初期放電誘発用絶縁体15を溶かして発生する噴射ジェットにより推進機に推力を発生させる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
コントローラの指令でON・OFFされるスイッチが設けられた電気回路を備えており,前記電気回路は,電源,該電源に結線されたプラスラインに設けられた陽極,前記電源に結線されたマイナスラインに設けられ且つ前記陽極に対向して配設された陰極,前記陰極と前記陽極との極間に設けられた絶縁体,前記陰極側に設けられた初期放電誘発用絶縁体,前記プラスラインに設けられた電子コレクタ,及び前記プラスラインと前記マイナスラインとの間に結線されたコンデンサを有しており,
前記電気回路を宇宙空間のプラズマ中で前記コントローラの指令で前記スイッチをONさせて前記陰極の導体と前記初期放電誘発用絶縁体との間に静電放電を発生させ,前記静電放電によって前記陽極と前記陰極との極間にアーク放電を発生させ,前記アーク放電によって前記陰極及び前記初期放電誘発用絶縁体を溶かして発生する噴射ジェットにより推力を得ることを特徴とする真空アーク推進機。
【請求項2】
前記陰極は,前記導体と前記導体と混合している前記初期放電誘発用絶縁体から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空アーク推進機。
【請求項3】
前記陰極は,前記導体を構成する炭素繊維と前記初期放電誘発用絶縁体を構成するプラスチックから成るCFRPで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の真空アーク推進機。
【請求項4】
前記プラズマと前記陰極の前記初期放電誘発用絶縁体とを干渉させて前記初期放電誘発用絶縁体を帯電させ,前記陰極の前記初期放電誘発用絶縁体と前記導体との間に前記静電放電を発生させ,前記静電放電が引き金になって前記陽極と前記陰極とによる主放電を誘発することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の真空アーク推進機。
【請求項5】
前記電源は,高電圧太陽電池で構成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の真空アーク推進機。
【請求項6】
前記陰極に水分を含ませたマイクロシリカを含有させて前記陽極と前記陰極による放電頻度を高めることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の真空アーク推進機。
【請求項7】
前記プラズマ中で前記電気回路の前記スイッチをONさせることによって,前記電子コレクタに前記プラズマ中に存在する電子を収集させると共に,前記プラズマに対して前記陰極に負の電位を持たせて前記陰極が前記プラズマ中から前記イオンを集め,前記初期放電誘発用絶縁体が前記イオンにより帯電して前記プラズマの電位となって前記初期放電誘発用絶縁体が前記陰極の前記導体に対して正に帯電し,前記初期放電誘発用絶縁体と前記導体との間に電位差が生じて前記初期放電誘発用絶縁体と前記導体との間で前記静電放電が発生し,次いで,前記初期放電誘発用絶縁体と前記導体との前記静電放電が,前記陽極と前記陰極との間に前記主放電を誘発して前記主放電が繰り返されることを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の真空アーク推進機。
【請求項8】
前記コンデンサが放電する前記陽極と前記陰極との間の真空アーク放電によって前記導体と前記初期放電誘発用絶縁体が蒸発して,前記陰極の蒸気が前記陰極の面から垂直方向にジェットとして噴射されることによって前記陰極に推力が発生して前記推進機に推力が発生することを特徴とする請求項7に記載の真空アーク推進機。
【請求項9】
前記導体及び前記初期放電誘発用絶縁体から成る前記蒸気は,アーク付着点での熱入力により発生し,前記アークが前記陰極面に垂直な方向に前記噴射ジェットとして噴射されて前記推力になることを特徴とする請求項8に記載の真空アーク推進機。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,小型人工衛星等の宇宙機に搭載して該宇宙機の軌道変更,推進,姿勢変更等の作動を制御することができる真空アーク推進機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,人工衛星は,大型化から小型化へと開発が進んでおり,特に,超小型人工衛星に注目が集まっており,その開発が盛んになってきた。超小型の人工衛星には,ボンベ,バルブ,配管等の部品を必要とするガスを推進剤とする推進機を搭載するのが困難である。即ち,従来の100kg級の小型の人工衛星や宇宙機には,各種の機器を搭載するスペースが限られており,上記のような各部品を必要とする推進機を搭載させることは極めて困難である。
【0003】
従来,宇宙飛翔体用推進システムとして推進剤にガスを使用するものが知られている。該宇宙飛翔体用推進システムは,バルブ等の開閉でガスを放出して推進するものであり,電源として点火用スイッチを使用している。上記推進システムは,推進剤ガスを通過して電流路を形成する電極を採用することにより,エネルギーが推進剤に伝達される形態を有している。上記システムの単一の電源は,接続される全ての推進装置が放電を開始し始める時に,活動するように構成されている。推進剤が電流伝達回路の部分を形成しているので,推進剤を受け入れる推進装置のみが電流を伝達することができ,推進装置が電力を引き出すものであり,複数の推進装置に対して単一の電源を使用することを可能にしている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,宇宙飛翔体用推進装置としてガスを用いるアーク推進装置が知られている。該アーク推進装置は,陽極および膨張ノズルとして形成されたケーシングと該ケーシング内に中央に保持されて電気的に絶縁された棒状の陰極とを備えている。陰極は,燃焼室内に配置され,該燃焼室には,ガス状のアンモニアが燃料として噴射される。陰極の尖端部は,膨張ノズルの狭められた横断面から小さな空隙を有するよう離隔されている。陽極と陰極の間において,ガス流過時に,アーク放電が行われ,該アーク放電から燃料が付加的な熱エネルギーを受け取る。燃焼室の手前に,アンモニアを触媒的及び/又は熱的な方法で水素と窒素の成分に分解するための装置が設けられている(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,ガスを使用するアークジェット推進機として直流アークジェット推進機が知られている。該直流アークジェット推進機は,アーク放電が不安定とならず,常に推進剤の流量,電流量に対応した最適なアーク放電の実現を可能にしたものである。該直流アークジェット推進機は,ノズル部が陽極を形成し,陰極がその中心軸上に配設され,第1の絶縁部材を介してノズル部が固定され,上記第1の絶縁部材に推進剤投入口が設けられたものであり,ノズル部が軸方向に分割された複数の分割陽極により形成され,それぞれの分割陽極がそれぞれのスイッチを介して直流電源のプラス側に接続されている(例えば,特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平05-248347号公報
【特許文献2】特開平07-133757号公報
【特許文献3】特開平09-242663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,50kg以下の超小型衛星のような搭載スペースの小さい宇宙機では,それに適合する小さい推進機が必要である。また,現存している固体推進機では,高電圧を必要とする点火装置を必要とし,該点火装置を用いるものは,電磁ノイズが発生する危険性があり,また,推進機を高電圧で駆動する必要があるものは,昇圧回路を必要とする。また,50kg以下の超小型人工衛星等に搭載する推進機では,その搭載スペースが小さく,昇圧回路,点火装置等の機器を搭載することはできないのが現状である。そこで,本願の発明者は,上記の問題を解決するため,固体推進剤を用いることが有利であることに着想し,従来のような点火装置を用いることなく,宇宙プラズマとの干渉により放電を発生させ,電源として高電圧太陽電池を用いることによって昇圧回路を使用する必要がなく,陽極と陰極との極間に主放電を発生させて,該主放電によって固体推進剤の陰極を蒸発させ,その噴射ジェットによって推進駆動する真空アーク推進機を開発した。
【0008】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,宇宙空間で人工衛星や宇宙探査機の軌道変更,推進,姿勢制御等の機能を果たす推進機として好ましい真空アーク推進機であって,電気回路中に点火装置を用いることなく,放電させる推進剤として絶縁体と導体とを混ぜた固体推進剤,例えば,CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を用いて,該固体推進剤を陰極に構成し,該固体推進剤を宇宙空間のプラズマ雰囲気即ちプラズマ中のプラズマと干渉させて,陰極における導体と初期放電誘発用絶縁体との間に静電放電を発生させ,該静電放電が引き金になって,陽極と陰極との極間に主放電の真空アーク放電を発生させ,ほぼ1点に電流が集中する陰極及び初期放電誘発用絶縁体を溶かして噴射されるジェットにより,推進機に推力を発生させるものであり,また,陽極と陰極との極間での放電頻度を高くするため固体推進剤に水分を含ませたマイクロシリカを添加可能にしたものであり,特に,高電圧太陽電池を使用して電気回路に従来のような昇圧回路を組み込むことを不要にして推進機そのものを小型軽量化して,超小型人工衛星等の宇宙機に搭載可能にしたことを特徴とする真空アーク推進機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は,コントローラの指令でON・OFFされるスイッチが設けられた電気回路を備えており,前記電気回路は,電源,該電源に結線されたプラスラインに設けられた陽極,前記電源に結線されたマイナスラインに設けられ且つ前記陽極に対向して配設された陰極,前記陰極と前記陽極との極間に設けられた絶縁体,前記陰極側に設けられた初期放電誘発用絶縁体,前記プラスラインに設けられた電子コレクタ,及び前記プラスラインと前記マイナスラインとの間に結線されたコンデンサを有しており,
前記電気回路を宇宙空間のプラズマ中で前記コントローラの指令で前記スイッチをONさせて前記陰極の導体と前記初期放電誘発用絶縁体との間に静電放電を発生させ,前記静電放電によって前記陽極と前記陰極との極間にアーク放電を発生させ,前記アーク放電によって前記陰極及び前記初期放電誘発用絶縁体を溶かして発生する噴射ジェットにより推力を得ることを特徴とする真空アーク推進機に関する。
【0010】
また,この真空アーク推進機において,前記陰極は,前記導体と前記導体と混合している前記初期放電誘発用絶縁体から構成されているものである。更に,前記陰極は,前記導体を構成する炭素繊維と前記初期放電誘発用絶縁体を構成するプラスチックから成るCFRPで構成されていることが放電頻度をアップして好ましい。
【0011】
この真空アーク推進機は,前記プラズマと前記陰極の前記初期放電誘発用絶縁体とを干渉させて前記初期放電誘発用絶縁体を帯電させ,前記陰極の前記初期放電誘発用絶縁体と前記導体との間に前記静電放電を発生させ,前記静電放電が引き金になって前記陽極と前記陰極とによる主放電を誘発するものである。
【0012】
また,この真空アーク推進機において,前記電源は,高電圧太陽電池で構成されているものである。更に,この真空アーク推進機は,前記陰極に水分を含ませたマイクロシリカを含有させ,前記陽極と前記陰極とによる放電頻度を高めるものである。
【0013】
また,この真空アーク推進機は,前記プラズマ中で前記電気回路の前記スイッチをONさせることによって,前記電子コレクタに前記プラズマ中に存在する電子を収集させると共に,前記プラズマに対して前記陰極に負の電位を持たせて前記陰極が前記プラズマ中から前記イオンを集め,前記初期放電誘発用絶縁体が前記イオンにより帯電して前記プラズマの電位となって前記初期放電誘発用絶縁体が前記陰極の前記導体に対して正に帯電し,前記初期放電誘発用絶縁体と前記導体との間に電位差が生じて前記初期放電誘発用絶縁体と前記導体との間で前記静電放電が発生し,次いで,前記初期放電誘発用絶縁体と前記導体との前記静電放電が,前記陽極と前記陰極との間に前記主放電を誘発して前記主放電が繰り返されるものである。
【0014】
また,この真空アーク推進機は,前記コンデンサが放電する前記陽極と前記陰極との間の真空アーク放電によって前記導体と前記初期放電誘発用絶縁体が蒸発して,前記陰極の蒸気が前記陰極の面から垂直方向にジェットとして噴射されることによって前記陰極に推力が発生して前記推進機に推力が発生するものである。更に,前記導体及び前記初期放電誘発用絶縁体から成る前記蒸気は,アーク付着点での熱入力により発生し,前記アークが前記陰極面に垂直な方向に前記噴射ジェットとして噴射されて前記推力になるものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明による真空アーク推進機は,上記のように構成したので,陽極と陰極との極間にアーク放電の主放電が発生すると,陽極では広い範囲に分散してアーク熱が作用するが,陰極ではほぼ1点に電流が集中してエネルギー密度が高くなり,陰極及び初期放電誘発用絶縁体が溶けて陰極からジェットが噴射して推進機に推力を発生させるものであり,アーク放電で溶ける陰極をCFRP等の絶縁体と導体とが混ざった固体推進剤で構成することによって,ガス推進剤や液体推進剤を用いる場合のようにボンベ,配管,バルブ等の各種の機器を必要とせず,また,陰極の固体推進剤をプラズマと干渉させることによって陰極の初期放電誘発用絶縁体を帯電させ,陰極の導体と初期放電誘発用絶縁体との間に静電放電を発生させて該静電放電によって,陽極と陰極との間に真空アーク放電が発生するので,従来のような点火装置を不要にし,更に,固体推進剤に水分を含ませたマイクロシリカを添加して放電頻度を大きく向上させることができ,宇宙での人工衛星でも実績のある高電圧太陽電池を電源として電気回路に組み込むことにより,従来のような昇圧回路を不要にして,推進機の推進,姿勢制御,軌道変更等の作動をさせることができ,しかも,従来のようなイオンエンジンに比較して各種の部品や機器を不要にして部品点数を大幅に削減し,しかも各種部品を小型に構成して推進機の軽量化を実現することができ,超小型の人工衛星や宇宙機に搭載可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明による真空アーク推進機の基本原理を説明する電気回路図の一実施例を示す概略説明図であり,(A)は図形的に作図された電極を正面から見た図であり,(B)は前記電極のみを側面から見た図である。
【図2】図1の真空アーク推進機における陰極に,サンプルA,サンプルB及びサンプルCを含有させた場合の放電回数の頻度を示すグラフである。
【図3】図1の真空アーク推進機を構成する陰極に選定した材料,CFRP,銅(Cu),及びアルミニウム(Al)について,10分間に発生する放電回数をそれぞれ示すグラフである。
【図4】この発明による真空アーク推進機の基本原理を説明する電気回路図の別の実施例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,図面を参照して,この発明による真空アーク推進機の一実施例を説明する。この発明による真空アーク推進機は,人工衛星や宇宙探査機等の宇宙機を構成する超小型人工衛星(50kg以下,例えば,10kg級の人工衛星や宇宙探査機)のような搭載スペースの小さい宇宙機に搭載して好ましいものであり,宇宙機の軌道変更,推進,姿勢制御等の機能を行うため宇宙機に搭載するものである。この真空アーク推進機は,図1又は図4に示すように,パソコン,コンピュータ等から成るコントローラ10の指令でON・OFFされるスイッチ3が設けられた電気回路1を備えており,コントローラ10の指令で宇宙空間のプラズマ雰囲気即ちプラズマ14中でアーク放電を発生させ,その際に陰極7側の固体推進剤が溶けて噴射されるジェットにより推力を発生させるものである。

【0018】
図1を参照して,この発明による真空アーク推進機の一実施例を説明する。図1に示すように,電気回路1は,電源2,該電源2に結線されたプラスライン11に設けた陽極6,電源2に結線されたマイナスライン12に設けられ且つ陽極6に対向配設された陰極7,陽極6と陰極7との極間に配設されている極間を絶縁する絶縁体8,陰極7側に固着,溶着等で貼り付けられた初期放電誘発用絶縁体15,プラスライン11に設けられた電子コレクタ4,及びプラスライン11とマイナスライン12との間に結線して配設されたコンデンサ5を有している。図1では,陽極6及び陰極7を構成する電極を解り易くするため図案化して模式的に記載している。この真空アーク推進機は,推進剤として固体推進剤を用いており,従来のようなボンベ,配線,バルブ等の部品を不要にしている。また,高電圧を得るため電源2として,高電圧太陽電池を用いており,それによって,電気回路1に従来のような昇圧回路を設ける必要がなく,推進機が小型軽量化に構成されることになっている。この真空アーク推進機は,上記のように,電気回路1における陰極7に対向隔置して陽極6を配置し,陰極7が結線配列されたマイナスライン12と陽極6が結線配設されたプラスライン11との間にコンデンサ5が接続されている。電子コレクタ4を陽極6側のプラスライン11に接続する。また,陽極6の材料としては,銅(Cu),アルミニウム(Al),炭素繊維等の材料から成る導体9を選定することができる。また,陰極7の材料としては,銅(Cu),アルミニウム(Al),炭素繊維等の導体9を選定することができる。陽極6と陰極7との極間には,ボロン,エポキシ樹脂,アクリル樹脂等のプラスチックから成る絶縁体8が配設されている。第1実施例では,陰極7側には,陰極7を構成する導体9には,初期放電誘発用絶縁体15が固着等で貼り付けられている。また,陰極7に用いる材料としては,宇宙プラズマ14との干渉による自発放電を引き起こすために,導体9に初期放電誘発用絶縁体15を付着しておく必要があり,導体9に初期放電誘発用絶縁体15が貼り付けられたものであれば,どのような材料でも使用することができる。また,電気回路1における陽極6と陰極7との極間には,絶縁体8を配設することが必要である。

【0019】
次に,図4を参照して,この発明による真空アーク推進機の別の第2実施例を説明する。この実施例では,図1の第1実施例に比較して,陰極7としてCFRP13(炭素繊維強化プラスチック)を用いた以外は,全く同様の構成を有するものである。本願発明者は,図3に示す測定結果から陰極7の材料としてCFRP13を使用することが好ましいことが解った。なお,図4において,CFRP13は,説明のためそれを構成する導体9と絶縁体16とを図案化して模式的に図示している。図3のグラフには,この真空アーク推進機を構成する陰極7に選定した材料,CFRP13,銅(Cu),及びアルミニウム(Al)について,10分間に発生する放電回数をそれぞれ測定した結果を示している。図3のグラフから解るように,電気回路1の陰極7の材料として,CFRP13を選定した場合には,10分間に発生する放電回数が他の材料即ちCuやAlを選定した場合に比較して,大幅に改善されることが解った。CFRP13には,炭素繊維の導体9とプラスチック(エポキシ樹脂)の絶縁体16とが絡み合った層状構造のため,絶縁体16が初期放電誘発用絶縁体15として作用し,導体9と絶縁体16とで無数の放電点が存在することになり,安定した受動点火が発生したものと考えられる。第2実施例では,第1実施例と同様に,絶縁体8としの材料は,陽極6と陰極7との極間に配設するものであり,ボロン,エポキシ樹脂,アクリル樹脂等のプラスチックを使用することができる。第2実施例では,陰極7にはCFRP13を用いているので,第1実施例のように陰極7に貼り付けた初期放電誘発用の絶縁体15を必ずしも別途配設する必要はなく図4には図示していないが,陰極7側に別途に初期放電誘発用絶縁体を設けてもよいことは勿論である。本願発明のように,陰極7として,CFRP13を使用すると,電極を構成する陰極7を簡素に構成することができる。また,陰極7として,CFRP13を使用した場合には,炭素繊維が陰極7の導体9を構成し,エポキシ樹脂等のプラスチックの絶縁体16が初期放電誘発用絶縁体を構成することになる。CFRP13は,例えば,炭素繊維の層に熱を加えたプラスチックで固めて作製することができる。また,陰極7にCFRP13を用いない場合には,陰極7は,例えば,導体9にプラスチック等の初期放電誘発用の絶縁体15を熱して溶着させることによって絶縁体15を導体9に密接状態に貼り付けて構成することができる。

【0020】
図1又は図4を参照して,この真空アーク推進機を構成する電気回路1について説明する。電気回路1におけるスイッチ3をパソコン等のコントローラ10の指令でONすると,コンデンサ5は,電源2である高電圧太陽電池で充電される。宇宙プラズマ環境,言い換えれば,プラズマ雰囲気即ちプラズマ14中では,陽極6側に接続された電子コレクタ4がプラズマ14の電子を収集し,それによって,陰極7はプラズマ電位に対して発電電圧程度の負の電位を持つようになる。陰極7は,電気回路1に配線された太陽電池の電源2の陰極7に接続されており,太陽電池の電源2の陽極6には,電子コレクタ4が接続されている。そこで,陰極7がプラズマ14から正イオンを集めることによって,陰極7側に設けた初期放電誘発用絶縁体即ち絶縁体15又は16が陰極7に対して正に帯電し,それによって,陰極7と絶縁体15又は16との間に静電放電が発生する。次いで,陰極7の導体9と絶縁体15又は16とで発生する静電放電は,コンデンサ5に蓄えられた電荷が放出される主放電,即ち,陽極6と陰極7との極間の放電を誘発して発生させることになる。コンデンサ5の放電により,パルス状の電流が陽極6と陰極7との極間に流れ,陰極7ではほぼ1点に電流が集中してエネルギー密度が高くなり,陰極7の導体9と絶縁体15又は16との表面からジェットが噴射され,推進機に推力が発生する。即ち,陰極7と絶縁体15又は16との間に静電放電のメカニズムとしては,電子コレクタ4が電子を収集し,陰極7がイオンを収集すると,陰極7上で絶縁体15又は16がイオンにより陰極7の導体9に対して正に帯電する。絶縁体15又は16は非常に薄いために絶縁体15又は16と陰極7の導体9との間の電界が強まり,絶縁体15又は16と陰極7の導体9とに間で放電,即ち,静電放電が発生することになる。

【0021】
この真空アーク推進機において,電子コレクタ4がプラズマ14から電子を集めるメカニズムは,例えば,次のように行われる。宇宙プラズマ14,プラズマ雰囲気即ちプラズマ14中に,電圧源即ち電源2を置くと,電源2は電気的に浮いている状態であるため,電源2の陽極6と陰極7とでバランスが取れるように,電位が変動し,電子又はイオンを収集することになる。電子とイオンとの温度は等しいが,電子はイオンに比べて質量が3桁以上小さいため,イオンと同じエネルギーを持った電子の速度は,イオンの速度よりも2桁程度速くなり,そのため,電子電流は,イオン電流に比べて2桁程度大きくなる。それで,電子収集電流とイオン収集電流とは,バランスを取るために全体の電位が落ち,電子コレクタ4の電位がプラズマ電位と同じくらいになる。陽極6に電子コレクタ4の平板を接続すると,陽極6の平板には電子が集まり,陰極7はイオンを集めることになる。電子収集とイオン収集とのバランスを保つため,電源2は,プラズマ14に対して電位が負に沈み,電子コレクタ4の電子はプラズマ電位となる。そのため,陰極7はプラズマ電位に対して電源電圧程度の負になるためイオンを収集することになる。即ち,この実施例では,電子電流は,プラズマ14から集める電子の流れであり,イオン電流はプラズマ14から集めるイオンの電流である。

【0022】
この発明による真空アーク推進機は,特に,小型宇宙機に搭載されるものであり,宇宙機が宇宙空間に打ち上げられ,宇宙空間のプラズマ14中に電気回路1を配設する状態の時に作動させるものであり,コントローラ10からの指令でプラズマ14中のスイッチ3をONさせて,陽極6と陰極7との極間を印加してアーク放電を発生させ,アーク放電によって陰極7を溶かして発生する噴射ジェットにより推進機に推力を発生させることを特徴とするものである。更に,この真空アーク推進機は,プラズマ14と陰極7の絶縁体15又は16とを干渉させて,絶縁体8を帯電させ,陰極7の絶縁体15又は16と導体9との間に静電放電をさせることによって,陽極6と陰極7とによる主放電を誘発するものである。また,電気回路1において,陽極6と陰極7との極間で繰り返される放電の周波数を上げるため,陽極6と陰極7とによる放電頻度を高めるために,陰極7として使用したCFRP13に水分を含ませたマイクロシリカを添加することができる。図2に示すグラフは,陰極7として用いたサンプルA,B及びCの相違を示している。サンプルAは陰極7に水を添加した場合であり,サンプルBは陰極7にマイクロシリカのフィラーを添加した場合であり,特に,サンプルCは陰極7に水分を含ませたマイクロシリカのフィラーを添加した場合である。図2から解るように,水分を含ませたマイクロシリカのフィラーを添加したサンプルCは,放電回数を大幅にアップすることが解る。

【0023】
この真空アーク推進機は,スイッチ3をONさせることによって,電子コレクタ4にプラズマ14中に存在する電子を収集させると共に,陰極7にプラズマ14中のイオンを収集させ,陰極7は,プラズマ14に対して電源2の電圧程度の負の電位を持つようになって,陰極7がプラズマ14からイオンを集め,該イオンにより絶縁体15又は16が帯電してプラズマ14の電位となって,絶縁体15又は16が陰極7に対して正に帯電することになり,正の絶縁体15又は16と負の陰極7との間に電位差が生じ,絶縁体15又は16と陰極7である導体9との間で静電放電が発生する。次いで,絶縁体15又は16と導体9との静電放電が引き金になって,陽極6と陰極7との間に主放電が誘発され,繰り返しの放電が発生する。従って,この真空アーク推進機は,陰極7を固体推進剤で構成することによって,従来のような点火装置を不要とし,その構成が推進機の小型軽量化に寄与することになる。

【0024】
更に,この真空アーク推進機は,コンデンサ5が放電する陽極6と陰極7との間の真空アーク放電によって陰極7を構成する導体9と絶縁体15又は16とが蒸発して,陰極7の蒸気が陰極7面から垂直方向にジェットとして噴射することによって,陰極7に推力が発生するものである。また,陰極7の蒸気は,アーク付着点での熱入力により発生し,アークが陰極7面に垂直な方向にジェットとして噴射されるものである。勿論,この真空アーク推進機は,コントローラ10のOFF指令で一連の作動が停止されるものである。

【0025】
この真空アーク推進機では,絶縁体8,15又は16を含む陰極7の蒸気の平均速度,及び蒸発の総質量を測定すると,インパルスビットIbitと比推力とが計算できる。インパルスビットは宇宙機への力積を示しており,比推力は推進機の燃費を示すものであるので,これによって推進機の性能を評価することができる。
インパルスビットをIbit,噴射放出された推進剤質量(kg)をΔm,噴射放出された推進剤速度(v/s)をvで表すと,次の式で計算することができる。
Ibit=Δm×v〔Ns〕
(なお,Nsはニュートン秒の単位を表す)。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明による真空アーク推進機は,宇宙空間で飛行する宇宙機に搭載して,宇宙機,特に小型人工衛星に対して,姿勢制御,推進,軌道変更等の機能として適用して好ましいものである。
【符号の説明】
【0027】
1 電気回路
2 電源
3 スイッチ
4 電子コレクタ
5 コンデンサ
6 陽極
7 陰極
8 絶縁体
9 導体
10 コントローラ
11 プラスライン
12 マイナスライン
13 CFRP(炭素繊維強化プラスチック)
14 プラズマ
15 初期放電誘発用の絶縁体
16 CFRP中の絶縁体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3