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明細書 :糖タンパク質の糖鎖を遊離させる活性を有する酵素およびその製造方法、該酵素を用いる糖鎖の遊離方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年1月5日(2017.1.5)
発明の名称または考案の名称 糖タンパク質の糖鎖を遊離させる活性を有する酵素およびその製造方法、該酵素を用いる糖鎖の遊離方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/24        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12Q   1/34        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12N 9/24 ZNA
C12N 1/21
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 5/00 101
C12Q 1/34
国際予備審査の請求
全頁数 43
出願番号 特願2014-548618 (P2014-548618)
国際出願番号 PCT/JP2013/081422
国際公開番号 WO2014/080991
国際出願日 平成25年11月21日(2013.11.21)
国際公開日 平成26年5月30日(2014.5.30)
優先権出願番号 2012255631
2013108153
優先日 平成24年11月21日(2012.11.21)
平成25年5月22日(2013.5.22)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】伊藤 和央
出願人 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
【識別番号】100174883、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 雅己
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B050
4B063
4B065
Fターム 4B024AA01
4B024AA11
4B024AA12
4B024AA20
4B024BA12
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4B024GA11
4B024GA19
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4B050CC03
4B050DD02
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4B065BA01
4B065CA31
4B065CA46
4B065CA60
要約 コンプレックス型糖鎖に作用し、糖タンパク質そのものから糖鎖を直接遊離させる活性を有する酵素を提供することを課題とする。
ラクトバシラス属およびプレボテラ属から選択される微生物に由来するか、または配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9もしくは配列番号11のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、糖タンパク質の糖鎖を遊離させる活性を有する酵素により上記課題を解決する。
特許請求の範囲 【請求項1】
ラクトバシラス属およびプレボテラ属から選択される微生物に由来するか、または配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9もしくは配列番号11のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、糖タンパク質の糖鎖を遊離させる活性を有する酵素。
【請求項2】
前記微生物が、ラクトバシラス・ファーメンタム、プレボテラ・ビビアおよびプレボテラ・メラニノゲニカから選択され、かつ、糖タンパク質の糖鎖を遊離させる活性を有する請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
前記酵素が、膜貫通領域を除去されている請求項1に記載の酵素。
【請求項4】
前記糖タンパク質が、脊椎動物を含む動物に由来する糖タンパク質である請求項1に記載の酵素。
【請求項5】
前記糖鎖が、前記糖タンパク質のタンパク質部分のアスパラギンのアミノ基にジアセチルキトビオース部分を介して結合している糖鎖である請求項1に記載の酵素。
【請求項6】
前記糖鎖が、2~5本鎖分岐のコンプレックス型の糖鎖である請求項5に記載の酵素。
【請求項7】
前記糖タンパク質が、糖鎖部分の根元の糖とジアセチルキトビオース部分との間に、フコースを更に含む請求項1に記載の酵素。
【請求項8】
前記糖鎖が、その末端側にシアル酸を含む請求項1に記載の酵素。
【請求項9】
請求項1に記載の酵素をコードする遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項10】
前記遺伝子が、膜貫通領域をコードする領域を除去されている請求項9に記載の組換えベクター。
【請求項11】
請求項9に記載の組換えベクターにより形質転換された宿主細胞。
【請求項12】
請求項11に記載の細胞を培養することにより、培養物を得る工程と、
得られた培養物を精製することにより、請求項1に記載の酵素を得る工程と
を含む酵素の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の酵素と、糖タンパク質を含む試料とを接触させることにより、前記糖タンパク質の糖鎖を遊離させる糖鎖の遊離方法。
【請求項14】
請求項11に記載の宿主細胞を含む培養物。
【請求項15】
請求項14に記載の培養物の処理物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本願は、日本国特許出願2012-255631号(出願日:2012年11月21日)および日本国特許出願2013-108153号(出願日:2013年5月22日)に基づく優先権を主張する。これらの日本国特許出願は、それらの開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、糖タンパク質の糖鎖を遊離させる活性を有する酵素およびその製造方法、該酵素を用いる糖鎖の遊離方法に関する。
【背景技術】
【0003】
糖鎖は、タンパク質、デオキシリボ核酸(DNA)に次ぐ第3のバイオポリマーと呼ばれる生体情報分子である。ヒトにおいて、糖鎖はブドウ糖などの約10種類の単糖から構成される樹状分子であり、そのほとんどがタンパク質に結合した糖タンパク質および脂質に結合した糖脂質として存在する。糖鎖は、分泌タンパク質として体液中に存在するか、または膜タンパク質もしくは糖脂質として細胞表面を覆っていることが多い。
【0004】
最近の研究により、より多様な糖鎖の機能が明らかにされている。具体的には、糖鎖は、がん(転移、腫瘍マーカーなど)、免疫(免疫受容体調節、免疫細胞分化、抗体医薬など)、受精、発生・分化(再生医療など)、感染症(インフルエンザ、ピロリ菌、コレラ毒素など)などにおいて、重要な役割を果たすことが明らかとなっている。現在、糖鎖の構造および機能解析をすることにより、がんまたは免疫疾患の診断、予防または治療方法の開発、ドラッグデリバリーシステムの構築など、様々な分野への応用が期待されている。
【0005】
糖タンパク質に結合した糖鎖の構造および機能解析のためには、糖鎖を遊離することが必要である。
特許文献1は、糖鎖のアルデヒド基と特異的に結合するヒドラジド基を有する物質を用いて、糖タンパク質から糖鎖を遊離する方法を開示する。しかしながら、この方法では、タンパク質部分が分解されてしまう。また、遊離した糖鎖の構造が部分的に変化してしまう。
【0006】
糖鎖部分およびタンパク質部分のいずれも変化を受けずに糖タンパク質から糖鎖を遊離させる方法として、酵素を用いる方法も知られている。
具体的には、アスパラギン結合型糖鎖を遊離する酵素で、世界的に利用されているエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(以下、単に「エンド」ともいう)として、ストレプトミセス・プリカツス(Streptomyces plicatus)由来のエンドHが挙げられる。しかし、エンドHは、酵母および糸状菌の糖タンパク質の糖鎖に特徴的なハイマンノース型およびハイブリッド型のアスパラギン結合型糖鎖に作用するが、ヒトなどの高等動物の糖タンパク質に特徴的なコンプレックス型糖鎖に作用しない。
【0007】
最近市販されるようになったムコア・ヒエマリス(Mucor hiemalis)由来のエンドMは、エンドHと同様に、ハイマンノース型およびハイブリッド型糖鎖によく作用する。エンドMは、2本鎖コンプレックス型糖鎖に作用するその性質により、配糖体合成に利用されている。しかし、その作用は、ハイマンノース型に対する作用に比べて低い。また、糖鎖部分とジアセチルキトビオース部分との間にフコースを含む糖タンパク質の糖鎖および3~5本鎖分岐のコンプレックス型糖鎖には作用しにくい。さらに、糖鎖を遊離するためには、タンパク質部分を消化し、糖ペプチドまたは糖アスパラギンとすることが必要である。よって、このエンドMを用いても、糖タンパク質そのものから糖鎖を直接遊離することは難しい。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2009-142238号公報
【0009】

【非特許文献1】Transglycosylation of Asparagine-linked Complex-type Oligosaccharides from Glycoproteins by Endo-β-N-acetylglucosaminidase HS, J. Appl. Glycosci., 54, 139-146
【非特許文献2】Formation of Glycoisoforms of Human Salivary α-Amylase and Endo-β-N-Acetylglucosaminidase HS, Trends in Glycoscience and Glycotechnology, Vol. 18, No. 99, pp. 73-84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、これらの酵素は、利用しやすいとは決していえない。このため、糖鎖部分とジアセチルキトビオース部分との間にフコースを含む糖鎖および3~5本鎖分岐のコンプレックス型糖鎖に作用し、糖タンパク質そのものから糖鎖を直接遊離させる活性を有する酵素が長らく望まれていた。
【0011】
このような背景から、本発明者は、過去に非特許文献1及び2に示されるような研究成果を報告している。非特許文献1及び2において、本発明者は、ヒト唾液中に含まれる成分が上記の作用および活性を有することを見出し、この成分が酵素である蓋然性が高いと考え、これをエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼHS(エンドHS)と命名した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
今回、本発明者は、驚くべきことに、エンドHSが、口腔粘膜の上皮細胞に常在する菌に由来すること、ヒト唾液においてメタゲノム法を用いて、エンドHSが複数のアミノ酸配列で表される酵素群であること、特定の微生物が上記の作用および活性を有する酵素を産生することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
かくして、本発明によれば、ラクトバシラス属およびプレボテラ属から選択される微生物に由来するか、または配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9もしくは配列番号11のアミノ酸配列またはこれらの配列と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、糖タンパク質の糖鎖を遊離させる活性を有する酵素が提供される。
また、本発明は、上記の酵素をコードする遺伝子を含む組換えベクターを提供する。
更に、本発明は、上記の酵素の製造方法、該組換えベクターにより形質転換された宿主細胞、上記の酵素を用いる糖鎖の遊離方法、該細胞の培養物およびその処理物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ヒトなどの脊椎動物を含む動物由来の糖タンパク質からアスパラギン結合型糖鎖を直接遊離することが可能な酵素およびその製造方法を提供することができるので、アスパラギン結合型糖鎖の構造および機能解析への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エンドHSα2の発現および精製を示すデータである。図中、左レーンのバンドはエンドHSα2であり、右レーン(M)のバンドは分子量マーカーである。
【図2A】本発明の酵素の糖鎖遊離活性を示すデータである。
【図2B】本発明の酵素の糖鎖遊離活性を示すデータである。
【図2C】本発明の酵素の糖鎖遊離活性を示すデータである。
【図3】本発明の酵素の糖鎖転移活性を示すデータである。図中、「H」は加水分解生成物、「T」は糖鎖転移反応生成物、「R」は残存糖鎖受容体を表す。
【図4】本発明の酵素の結晶の写真である。
【図5A】実施例12で用いた糖鎖の構造を示す図である。図中、「PAES」はN-[2-(2-ピリジルアミノ)エチル]スクシンアミルであり、「Man」はマンノースであり、「GlcNAc」はN-アセチルグルコサミンであり、「Asn」はアスパラギンである。また、図中の矢印は、本発明の酵素が切断するβ1-4結合部位を表す。
【図5B】実施例12で行った薄層クロマトグラフィーのデータである。図中、レーン1は陰性対照としてのPAES-Asn-OVA-GP-V、レーン2は陽性対照としてのPAES-Asn-OVA-GP-VおよびエンドFV、レーン3はPAES-Asn-OVA-GP-Vおよび培養物LFの培養上清、レーン4はPAES-Asn-OVA-GP-Vおよび培養物LFの懸濁液をアプライした結果である。なお、「エンドFV」はフラムリナ・ヴェルティペス(Flamulina velutipes;エノキダケ)のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼである。
【図6A】実施例13で用いた糖鎖の構造を示す図である。図中、「Sia」は、シアル酸である。
【図6B】実施例13で行ったSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。図中、「Endo LF-f」は培養物LFの培養上清であり、「Endo LF-b」は培養物LFの懸濁液であり、「M」はマーカーである。
【図7A】実施例14で用いた糖鎖の構造を示す図である。図中、「(Sia)」は、シアル酸であり、各糖鎖の根元部分に示された短い太線はコアフコースを表す。
【図7B】実施例14で行ったSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。図中、「Endo LF-f」は培養物LFの培養上清であり、「Endo LF-b」は培養物LFの懸濁液である。
【図8】実施例15で行ったSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図9A】実施例16で用いた糖鎖の構造を示す図である。図中、「PAES」はN-[2-(2-ピリジルアミノ)エチル]スクシンアミルであり、「Man」はマンノースであり、「Gal」はガラクトースであり、「GlcNAc」はN-アセチルグルコサミンであり、「Asn」はアスパラギンである。また、図中の矢印は、本発明の酵素が切断するβ1-4結合部位を表す。
【図9B】実施例16で行った薄層クロマトグラフィーのデータである。図中、レーン1は陰性対照としてのPAES-HTF Asn-CHOおよび水、レーン2は陽性対照としてのPAES-HTF Asn-CHOおよびエンドHS、レーン3はPAES-HTF Asn-CHOおよび培養物PMの沈殿物、レーン4はPAES-HTF Asn-CHOおよび培養物PMの培養上清、レーン5はPAES-HTF Asn-CHOおよび培養物LFの懸濁液をアプライした結果である。
【図10】実施例17で行ったSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図11】実施例18で行ったSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図12】本発明の酵素のバンドを示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。図中、「M」はマーカー、「A」はA画分、「B」はB画分である。
【図13】本発明の酵素の糖鎖遊離活性に対するpHの影響を示すグラフである。グラフにおいて、「○」は酢酸緩衝液pH 3.52、4.01、4.5、5.0、5.51を用いたときのデータを示し、「●」はリン酸緩衝液pH 5.47、6.0、6.5、7.0、7.5を用いたときのデータを示し、「□」はTris-HCl緩衝液pH 7.56、8.03、8.51を用いたときのデータを示し、「■」はホウ酸緩衝液pH 8.5、9.0、10.0を用いたときのデータを示す。
【図14】本発明の酵素の糖鎖遊離活性に対する温度の影響を示すグラフである。
【図15A】本発明の酵素のヒトトランスフェリンに対する糖鎖遊離活性を示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図15B】本発明の酵素のヒトラクトフェリンに対する糖鎖遊離活性を示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図15C】本発明の酵素のウシラクトフェリンに対する糖鎖遊離活性を示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図15D】本発明の酵素の仔ウシフェツインに対する糖鎖遊離活性を示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図15E】本発明の酵素のヒトα1-AGに対する糖鎖遊離活性を示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図15F】本発明の酵素のヒツジIgGに対する糖鎖遊離活性を示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図15G】本発明の酵素のヒトラクトフェリン(Plant発現)に対する糖鎖遊離活性を示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図15H】本発明の酵素のタカアミラーゼに対する糖鎖遊離活性を示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図15I】本発明の酵素のオボアルブミン(OVA)に対する糖鎖遊離活性を示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図15J】本発明の酵素のウシRNase Bに対する糖鎖遊離活性を示すSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルの写真である。
【図16A】本発明の酵素によって糖鎖を除去されたヒト唾液α-アミラーゼファミリーC(HAS-C)タンパク質が、当該タンパク質の分解酵素によって受ける分解の程度を示した電気泳動ゲルの写真である。
【図16B】本発明の酵素によって糖鎖を除去されたヒト唾液α-アミラーゼファミリーC(HAS-C)タンパク質が、当該タンパク質の分解酵素によって受ける分解の程度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の酵素は、ラクトバシラス属およびプレボテラ属から選択される微生物に由来する酵素である。好ましくは、本発明の酵素は、ラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、プレボテラ・ビビア(Prevotella bivia)およびプレボテラ・メラニノゲニカ(Prevotella melaninogenica)から選択される微生物に由来する酵素である。より具体的には、本発明の酵素は、これらの微生物の菌体に結合しているか、またはこれらの微生物により分泌されるか、またはこれらの微生物に内在している酵素である。
プラボテラ・メラニノゲニカに由来する酵素として、配列番号2、4または6の塩基配列を有する遺伝子によりそれぞれコードされる配列番号1、3または5のアミノ酸配列を有する酵素が挙げられる。これらの酵素は、それぞれ11,000、137,000および140,000の分子量を有する。本発明においては、配列番号1のアミノ酸配列を有する酵素をエンドPMαと呼ぶ。また、配列番号3のアミノ酸配列を有する酵素をエンドPMβと呼ぶ。さらに、配列番号5のアミノ酸配列を有する酵素をエンドPMγと呼ぶ。
微生物は、特に限定されないが、脊椎動物の唾液および尿などの排泄物ならびに細胞および組織、特にヒトの唾液および尿などの排泄物ならびに細胞および組織に含まれるものが好ましい。

【0017】
あるいは、本発明の酵素は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9もしくは配列番号11のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を有する酵素である。ここで、「相同性」とは、米国の国立生物工学情報センター(NCBI)により提供されるBLAST解析を標準設定で用いて算出された相同性を意味する。具体的な相同性の数値としては、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、100%である。
上記のとおり、配列番号1、配列番号3および配列番号5のアミノ酸配列は、それぞれエンドPMα、エンドPMβおよびエンドPMγと呼ばれる酵素を意味する。

【0018】
また、配列番号7、配列番号9および配列番号11のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列としては、下記の領域1、領域2、領域3および領域4で示される共通領域を含んでいることが好ましい。
すなわち、領域1は、
式:X1GX23GX456NX7
(式中、
1はロイシン、フェニルアラニンまたはチロシン残基であり、
2はフェニルアラニン、チロシン、イソロイシンまたはバリン残基であり、
3はアスパラギン酸またはアスパラギン残基であり、
4はイソロイシン、フェニルアラニン、ロイシンまたはバリン残基であり、
5はアスパラギンまたはグリシン残基であり、
6はチロシンまたはフェニルアラニン残基であり、
7はトリプトファンまたはセリン残基である)
で表されるアミノ酸配列からなる。

【0019】
領域2は、
式:X8910111213141516171819YX20212223EX2425FSX26GX2728NPX2930313233
(式中、
8はグリシン、グルタミン酸またはアスパラギン酸残基であり、
9はグリシン、リジン、アスパラギン酸またはアスパラギン残基であり、
10はアスパラギン酸またはグリシン残基であり、
11はアラニン、セリンまたはスレオニン残基であり、
12はロイシン、メチオニン、アスパラギンまたはセリン残基であり、
13はセリン、プロリンまたはアスパラギン酸残基であり、
14はアルギニン、グルタミン酸、バリンまたはイソロイシン残基であり、
15はイソロイシン、スレオニンまたはアラニン残基であるか、または欠失していてもよく、
16はメチオニン、リジン、グルタミンまたはイソロイシン残基であり、
17はセリンまたはグルタミン残基であり、
18はアスパラギン、アルギニンまたはリジン残基であり、
19はスレオニンまたはアラニン残基であるか、または欠失していてもよく、
20はグルタミン、メチオニンまたはロイシン残基であり、
21はグルタミン酸、ロイシンまたはリジン残基であり、
22はチロシン、アルギニンまたはリジン残基であり、
23はロイシン、スレオニンまたはグルタミン残基であり、
24はアルギニンまたはロイシン残基であり、
25はアラニン、トリプトファン、イソロイシンまたはメチオニン残基であり、
26はグリシンまたはセリン残基であり、
27はアスパラギン、セリンまたはチロシン残基であり、
28はアルギニンまたはアスパラギン残基であり、
29はロイシン、バリンまたはグリシン残基であり、
30はロイシン、チロシンまたはアスパラギン残基であり、
31はアルギニン、アスパラギン、セリンまたはロイシン残基であり、
32はプロリン、イソロイシンまたはロイシン残基であり、
33はグルタミン酸、グルタミン、セリンまたはアラニン残基である)
で表されるアミノ酸配列からなる。

【0020】
領域3は、
式:PX34353637FNX38GNGX394041424344GX45464748495051WX52NX535455QDX5657PTX58RW
(式中、
34はフェニルアラニンまたはロイシン残基であり、
35はアラニン、イソロイシンまたはバリン残基であり、
36はスレオニンまたはセリン残基であり、
37はヒスチジン、チロシンまたはアルギニン残基であり、
38はメチオニン、スレオニンまたはロイシン残基であり、
39はグルタミン酸、リジンまたはロイシン残基であり、
40はロイシン、アルギニン、フェニルアラニンまたはセリン残基であり、
41はチロシンまたはフェニルアラニン残基であり、
42はアスパラギンまたはアルギニン残基であり、
43はチロシンまたはリジン残基であり、
44はリジン、アスパラギン酸またはグリシン残基であり、
45はリジン、グルタミンまたはバリン残基であり、
46はリジン、アルギニン、バリンまたはイソロイシン残基であり、
47はスレオニン、リジン、グルタミンまたはアラニン残基であり、
48はアラニン、アスパラギンまたはフェニルアラニン残基であり、
49はグリシンまたはアスパラギン酸残基であり、
50はセリン、アルギニンまたはヒスチジン残基であり、
51はプロリンまたはリジン残基であるかまたは欠失していてもよく、
52はチロシン、バリンまたはアラニン残基であり、
53はメチオニン、バリンまたはロイシン残基であり、
54はセリン、グリシンまたはアスパラギン残基であり、
55はセリン、バリンまたはスレオニン残基であり、
56はバリンまたはチロシン残基であり、
57はバリン、ロイシンまたはメチオニン残基であり、
58はチロシンまたはトリプトファン残基である)
で表されるアミノ酸配列からなる。

【0021】
領域4は、
式:DAYX59GGX606162636465GX66676869707172737475LX76KTX7778
(式中、
59はスレオニン、ロイシン、メチオニンまたはトリプトファン残基であり、
60はアラニンまたはセリン残基であり、
61はシステイン、アラニンまたはスレオニン残基であり、
62はロイシンまたはバリン残基であり、
63はセリンまたはアルギニン残基であり、
64はロイシン、イソロイシンまたはバリン残基であり、
65はリジン、フェニルアラニン、ヒスチジンまたはセリン残基であり、
66はバリン、アスパラギン、セリンまたはグルタミン残基であり、
67はセリン、アスパラギンまたはスレオニン残基であり、
68はアスパラギン、プロリンまたはアスパラギン酸残基であり、
69はアラニン、リジンまたはフェニルアラニン残基であり、
70はグリシン、スレオニン、グルタミン酸またはセリン残基であり、
71はプロリン、アラニン、チロシンまたはアルギニン残基であり、
72はスレオニン、ロイシンまたはバリン残基であり、
73はアスパラギン酸、ヒスチジンまたはリジン残基であり、
74はバリン残基であるかまたは欠失していてもよく、
75はバリン残基であるかまたは欠失していてもよく、
76はチロシンまたはフェニルアラニン残基であり、
77はアスパラギン、アスパラギン酸、リジンまたはメチオニン残基であり、
78はロイシン、フェニルアラニンまたはチロシン残基である)
で表されるアミノ酸配列からなる。

【0022】
配列番号7、配列番号9または配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列の具体例としては、それぞれ配列番号8、配列番号10および配列番号12のアミノ酸配列などが挙げられる。

【0023】
本発明においては、配列番号7のアミノ酸配列からなる酵素をエンドHSα2、配列番号8のアミノ酸配列からなる酵素をエンドHSα1、配列番号9のアミノ酸配列からなる酵素をエンドHSβ1、配列番号10のアミノ酸配列からなる酵素をエンドHSβ4、配列番号11のアミノ酸配列からなる酵素をエンドHSγ1、配列番号12のアミノ酸配列からなる酵素をエンドHSγ3と呼ぶ。なお、各エンドHSの平均分子量を下記の表1に示す。

【0024】
【表1】
JP2014080991A1_000002t.gif

【0025】
上記の本発明の酵素はいずれも、糖タンパク質の糖鎖を遊離させる活性を有する。本発明の酵素は、糖タンパク質の2本鎖、3本鎖、4本鎖および5本鎖コンプレックス型の糖鎖を遊離させることができる。また、ラクトバシラス属およびプレボテラ属に由来するか、または配列番号1、配列番号3もしくは配列番号5のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%の相同性を有する酵素については、ハイマンノース型およびハイブリッド型糖鎖を遊離することもできる。したがって、本発明の酵素は、広範多種のアスパラギン結合型糖鎖を遊離することができる。

【0026】
酵素は、pH5~10で糖タンパク質の糖鎖を遊離させる活性を示す。ラクトバシラス属およびプレボテラ属に由来するか、または配列番号1、配列番号3もしくは配列番号5のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%の相同性を有する酵素については、酵素が上記活性を示すpHの範囲は、好ましくはpH5.5~9である。また、配列番号7、配列番号9もしくは配列番号11のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%の相同性を有する酵素については、酵素が上記活性を示すpHの範囲は、好ましくはpH6~9である。具体的なpHの数値としては、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10である。
酵素は、20~40℃で糖タンパク質の糖鎖を遊離させる活性を示す。酵素が上記活性を示す温度の範囲は、好ましくは30~38℃であり、より好ましくは36~37℃である。具体的な温度の数値としては、20、25、30、35、36、37、38、39、40℃である。

【0027】
糖タンパク質とは、特に限定されず、当業者に公知の任意のものを意味する。糖タンパク質は、好ましくは、そのタンパク質部分のアスパラギンのアミノ基に糖鎖がβ結合した糖タンパク質(当該技術分野においては「N結合型」と呼ばれることもある)である。N結合型の糖タンパク質は、糖タンパク質のタンパク質部分のアスパラギンのアミノ基と糖鎖の根元の糖との間にジアセチルキトビオース部分(GlcNAc-GlcNAc)を有する。ここで、根元の糖とは、糖鎖中、ジアセチルキトビオース部分を構成する2つのN-アセチルグルコサミンのいずれかと結合する糖を意味する。糖タンパク質の由来は、特に限定されないが、ヒトを含む脊椎動物由来の糖鎖が好ましく、ヒト由来の糖タンパク質がより好ましい。特定の理論に縛られることを意図しないが、本発明の方法によれば、このジアセチルキトビオース部分のN-グリコシド結合が切断されることにより、糖タンパク質から糖鎖が遊離すると考えられる。

【0028】
糖タンパク質の糖鎖の構造および組成は、特に限定されず、当業者に公知のように、分岐していない糖鎖の形態にあるか、または2本鎖、3本鎖、4本鎖または5本鎖に分岐しているコンプレックス型の形態にあるか、あるいはハイマンノース型もしくはハイブリッド型の形態にある糖鎖を意味する。ハイマンノース型糖鎖とは、マンノースおよびN-アセチルグルコサミンからなり、特に側鎖と呼ばれる部分はマンノースのみからなる。一方、ハイブリッド型糖鎖は、側鎖と呼ばれる部分がコンプレックス型のようにN-アセチルグルコサミンやガラクトース、N-アセチルノイラミン酸、フコースから構成されるものと、ハイマンノース型糖鎖のようにマンノースのみからなるものとの両方がある。なお、アスパラギン結合型糖鎖の「側鎖」とは、アスパラギン結合型糖鎖の共通五糖母核構造の中のトリマンノシルコアのα1-4結合マンノースとα1-6結合マンノースに結合するオリゴ糖鎖部分をいう。

【0029】
糖鎖は、好ましくは、一般にアスパラギン結合型糖鎖と呼ばれるものであり、その根元の糖がジアセチルキトビオース部分を介してタンパク質部分のアスパラギンのアミノ基にβ結合しているN結合型の糖タンパク質の糖鎖部分を構成する。糖鎖は、より好ましくは、2本鎖、3本鎖、4本鎖または5本鎖分岐のコンプレックス型の形態にある。糖鎖を構成する糖は、特に限定されず、当業者に公知の任意の糖である。具体的には、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸、キシロースなどが挙げられる。

【0030】
糖タンパク質は、糖鎖部分の根元の糖とジアセチルキトビオース部分との間に、フコースを更に有していてもよい。本発明において、このフコースは、「コアフコース」とも称される。本発明の酵素は、コアフコースを有する糖タンパク質または糖ペプチドもしくは糖アスパラギンからも糖鎖を遊離させることができる。

【0031】
また、糖タンパク質は、糖鎖部分の根元とは反対側の末端部分(以下、「末端側」という)に、シアル酸を任意に有していてもよい。本発明の酵素は、糖タンパク質のジアセチルキトビオース部分を切断し、末端側にシアル酸が結合した糖鎖を糖タンパク質から遊離させることができる。
上記のような糖タンパク質としては、具体的には、ヒトトランスフェリン、ヒトラクトフェリン、ウシフェツイン、ヒトα1酸性糖タンパク質などが挙げられる。

【0032】
本発明の酵素は、糖鎖受容体の存在下で、糖タンパク質と接触させたとき、糖タンパク質から遊離させた糖鎖を糖鎖受容体に転移させる活性を示す。このような糖鎖受容体としては、配糖体合成において糖鎖受容体となり得る化合物(例えば、糖類、タンパク質など)であれば特に限定されないが、サリシン、アルブチンおよびリナマリンなどの生理活性物質;グルコース(Glc)およびガラクトース(Gal)などの単糖;スクロース、ラクトースおよびマルトースなどの二糖;マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトへプタオースなどのオリゴ糖;マンニトール、myo-イノシトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトールおよびマルトトリイトールなどの糖アルコール;メタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、グリセロール、3-クロロ-1,2-プロパンジオールなどのアルコール;ヘキシル-β-チオグルコシド、スクロースモノコラート、アデノシンおよび2-デオキシアデノシンなどの配糖体;ヒトトランスフェリン、ウシフェツイン、ヒトα1-酸性糖タンパク質などの糖タンパク質;ニワトリ卵黄由来シアロ糖ペプチドなどの糖ペプチド;ヒトトランスフェリン由来糖アスパラギン、ウシフェツイン由来糖アスパラギンなどの糖アスパラギン;N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、p-ニトロフェニル-β-D-グルコース(Glc-PNP)、p-ニトロフェニル-β-ガラクトース(Gal-PNP)、p-ニトロフェニル-α-D-グルコース(Glc-α-PNP)、p-ニトロフェニル-α-D-ガラクトース(Gal-α-PNP)、p-ニトロフェニル-β-D-マンノース(Man-PNP)、p-ニトロフェニル-β-D-キシロース(Xyl-PNP)、α-p-ニトロフェニル-グリセロール(グリセロール-PNP)などが挙げられる。

【0033】
本発明の酵素は、
該酵素をコードする遺伝子を含む組換えベクターにより形質転換された宿主細胞を培養することにより、培養物を得る工程と、
得られた培養物を精製することにより、前記酵素を得る工程と
を含む、本発明の酵素の製造方法によって製造することができる。

【0034】
上記の遺伝子は、配列番号7、配列番号9もしくは配列番号11のアミノ酸配列をコードする塩基配列(それぞれ配列番号13、配列番号15もしくは配列番号17)を有するか、または上記のアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する。

【0035】
このような塩基配列としては、上記の領域1のアミノ酸配列をコードする塩基配列、領域2のアミノ酸配列をコードする塩基配列、領域3のアミノ酸配列をコードする塩基配列および領域4のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる群より選択される少なくとも1つの塩基配列を含んでいることが好ましい。

【0036】
配列番号13、配列番号15または配列番号17と相同性を有する塩基配列の具体例としては、それぞれ配列番号14、配列番号16および配列番号18の塩基配列などが挙げられる。

【0037】
組換えベクターは、上記の遺伝子を含むDNAフラグメントの塩基配列に基づいて作製したプライマーおよび当業者に公知のベクターを用いて、当業者に公知の手順に従う制限酵素処理およびライゲーション処理により作製することができる。
ベクターは、宿主細胞に導入することにより、所望のタンパク質を発現する細胞発現系として機能させることが可能なベクターであれば特に限定されず、当業者に公知のベクターから選択することができる。具体的な例としては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、YCp型大腸菌-酵母シャトルベクター、YIp型大腸菌-酵母シャトルベクター、大腸菌-枯草菌シャトルベクター、ファージベクター、レトロトランスポゾン、融合タンパク質として発現する発現ベクターなどが挙げられる。ベクターは、好ましくはpET23a、pET21a、pET-50b(+)またはpET-50a(+)である。

【0038】
上記のベクターに含まれるプロモーターは、特に限定されず、後述の宿主細胞の種類に応じて当業者に公知のものから選択することができる。具体的な例としては、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、PLプロモーターおよびT7プロモーターなどが挙げられる。プロモーターは、好ましくは、T7プロモーターである。

【0039】
組換えベクターは、選択マーカー遺伝子、ターミネーター、およびエンハンサーなどのその他の因子を機能的に含有してもよい。その他の因子としては、特に限定されず、組換えベクターおよび宿主細胞の性質などに基づいて、当業者に公知のものから選択することができる。

【0040】
組換えベクターは、例えば、適当な制限酵素で予め消化したプラスミドベクターに、本発明の酵素をコードする遺伝子を含むDNAフラグメントをライゲーションすることにより作製することができる。
ライゲーション方法は、特に限定されず、当業者に公知の任意の方法に従って行うことができる。具体的な例としては、ライゲーションハイ(タカラバイオ)などのDNAリガーゼを用いる方法などが挙げられる。

【0041】
宿主細胞としては、特に限定されず、当業者に公知の細胞を用いることができる。具体的な例としては、大腸菌、酵母などの細胞が挙げられる。好ましくは、宿主細胞は、BL21系の大腸菌細胞(例えば、大腸菌BL21DE3、BL21DE3系統OrigamiDE3、BL21DE系統RosettaDE3およびBL21系RosettaII)およびDH5αである。

【0042】
しかしながら、本発明の酵素をそのまま含んだ組換えベクターを宿主細胞に導入しても、大量生産を可能にする程度の酵素発現量および糖鎖遊離活性を得るには十分ではないことがある。本発明者は、本発明の酵素の一部について、膜貫通領域を除去してから上記のようにして組換えベクターを作製し、宿主細胞に導入することにより、十分な酵素発現量および糖鎖遊離活性を得ることができることを見出している。

【0043】
ここで、本発明の酵素が膜貫通領域を含んでいる場合、酵素の可溶性の向上や適切な立体構造を保持する観点から、本発明の酵素は膜貫通領域を除去されていることが好ましい。下記の表2では、膜貫通領域を有すると考えられる各エンドHSのアミノ酸配列について、当業者に周知のSPLIT 4.0 SERVER膜タンパク質二次構造予測オンライン解析ソフト(Membrane Protein Secondary Structure Prediction Server;http://split4.pmfst.hr/split/4/)を用いて予測された膜貫通領域の位置を示す。

【0044】
【表2】
JP2014080991A1_000003t.gif

【0045】
表2に示した領域の除去は、上記の配列に基づいたPCR法などの当業者に公知の方法に従って行うことができる。上記の領域を除去した場合の各エンドHSのおおよその平均分子量を下記の表3に示す。

【0046】
【表3】
JP2014080991A1_000004t.gif

【0047】
本発明の酵素は、ラクトバシラス属およびプレボテラ属から選択される微生物、または上記のようにして形質転換した宿主細胞の培養物、培養上清または培養物の処理物から精製することができる。培養および処理は、下述のようにして行うことができる。精製は、特に限定されず、当業者に公知の任意の方法に従って行うことができる。具体的な例としては、硫酸アンモニウムによる塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クラマトグラフィー、疎水クロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーを用いた精製方法などが挙げられる。

【0048】
本発明の糖鎖の遊離方法は、第1の観点によれば、本発明の酵素と糖タンパク質を含む試料とを接触させることにより、糖タンパク質から糖鎖を遊離させることができる。
糖タンパク質を含む試料は、上記に定義した糖タンパク質を含むものであれば特に限定されない。

【0049】
酵素と糖タンパク質を含む試料とを接触させる時間は、0.5~72時間であり、好ましくは0.5~2時間であり、より好ましくは0.5~1時間である。具体的な接触時間の数値としては、0.5、0.75、1、1.5、2、3、4、5、10、15、20、24、36、48、60、72時間である。
接触時の温度は、20~40℃であり、好ましくは30~38℃であり、より好ましくは36~37℃である。具体的な接触時の温度の数値としては、20、25、30、35、36、37、38、39、40℃である。
酵素がラクトバシラス属およびプレボテラ属に由来するか、または配列番号1、配列番号3もしくは配列番号5のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%の相同性を有する場合、接触時のpHは、5~10であり、好ましくはpH5.5~9である。具体的な接触時のpHの数値としては、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10である。
酵素が配列番号7、配列番号9もしくは配列番号11のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%の相同性を有する場合、接触時のpHは、5~10であり、好ましくは6~9である。具体的な接触時のpHの数値としては、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10である。

【0050】
接触工程により遊離させた糖鎖は、当業者に公知の任意の方法に従って、単離または精製してもよい。単離または精製方法の具体的な例としては、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーおよび薄層クロマトグラフィーなどが挙げられる。

【0051】
また、本発明の糖鎖の遊離方法は、第2の観点によれば、上記の微生物または上記のようにして形質転換された宿主細胞を培養し、得られた培養物またはその処理物と糖タンパク質を含む試料とを接触させることにより、前記糖タンパク質の糖鎖を遊離させることができる。

【0052】
この第2の観点による糖鎖の遊離方法の第1の工程は、上記の微生物または上記のようにして形質転換された宿主細胞を培養する工程である。
微生物または上記のようにして形質転換された宿主細胞の培養は、特に限定されず、当業者に公知の任意の培養方法を用いて行うことができる。具体的な例としては、流加培養、回分培養、反復回分培養、連続培養(例えばケモスタット又はタービドスタット)、半連続培養等の培養プロセス及びこれらの組合せが挙げられる。培養条件は、微生物または宿主細胞の種類、使用するバイオリアクターなどの様々な要因を考慮して、当業者が適宜決定することができる。
バイオリアクターとしては、特に限定されず、微生物または宿主細胞の種類などに基づいて、当業者に公知のものから選択できる。具体的な例としては、気泡塔型培養槽、通気撹拌培養槽などが挙げられる。

【0053】
培地は、本発明の糖鎖の遊離方法に用いる微生物または宿主細胞の培養に適するものであれば特に限定されず、当業者に公知のものから選択できる。具体的な例としては、半合成培地、すなわち複合化合物(例えば酵母抽出物、大豆ペプトン、カザミノ酸)を含む培地(例えばLB培地等)、複合化合物を含まない化学的に定義された物質(例えば、グルコース、塩(NaCl)等の重量に基づいて分子量を算出できる物質)からなる合成培地(例えばDavis培地等)、天然培地等が挙げられる。
培地の供給量は、微生物または宿主細胞の種類、使用するバイオリアクター、培養時間等の様々な要因を考慮して、当業者が適宜決定することができる。

【0054】
培養時間は、特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。培養時間は、好ましくは72~120時間、より好ましくは85~96時間である。具体的な培養時間の数値としては、72、80、85、90、93、96、100、105、110、115、120時間である。
培養温度は、特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。培養温度は、好ましくは30~40℃、より好ましくは36~37℃である。具体的な培養温度の数値としては、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40℃である。

【0055】
上記のようにして得られた培養物は、更なる処理に付し、培養物の処理物としてもよい。
培養物の処理は、特に限定されず、可溶化、培養上清分離、精製および乾燥などを含む公知の処理方法を、必要に応じて当業者が選択するかまたは組み合わせて行うことができる。培養物の処理は、例えば、以下のようにして行うことができる。

【0056】
まず、培養物から培養上清を分離する。分離方法としては、特に限定されず、当業者に公知の任意の方法を用いることができる。具体的な例としては、フィルター濾過、遠心分離等が挙げられる。分離の前には、任意に、界面活性剤を用いる方法などの当業者に公知の任意の方法に従って、微生物または宿主細胞を可溶化してもよい。次いで、透析などの公知の任意の方法により培地成分等の夾雑物を除去し、その後、凍結乾燥などの公知の任意の方法により培養物または培養上清の処理物を得ることができる。

【0057】
この第2の観点による本発明の糖鎖の遊離方法の第2の工程は、上記のようにして得られる培養物またはその処理物と糖タンパク質を含む試料とを接触させる工程である。
糖タンパク質を含む試料は、上記に定義した糖タンパク質を含むものであれば特に限定されない。

【0058】
培養物またはその処理物と糖タンパク質を含む試料とを接触させる時間は、0.5~72時間であり、好ましくは0.5~2時間であり、より好ましくは0.5~1時間である。具体的な接触時間の数値としては、0.5、0.75、1、1.5、2、3、4、5、10、15、20、24、36、48、60、72時間である。
接触時の温度は、20~40℃であり、好ましくは30~38℃であり、より好ましくは36~37℃である。具体的な接触時の温度の数値としては、20、25、30、35、36、37、38、39、40℃である。
酵素がラクトバシラス属およびプレボテラ属に由来するか、または配列番号1、配列番号3もしくは配列番号5のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%の相同性を有する場合、接触時のpHは、5~10であり、好ましくはpH5.5~9である。具体的な接触時のpHの数値としては、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10である。
酵素が配列番号7、配列番号9もしくは配列番号11のアミノ酸配列またはこれらの配列のいずれか一つと少なくとも70%の相同性を有する場合、接触時のpHは、5~10であり、好ましくは6~9である。具体的な接触時のpHの数値としては、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10である。

【0059】
接触工程により遊離させた糖鎖は、当業者に公知の任意の方法に従って、単離または精製してもよい。単離または精製方法の具体的な例としては、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーおよび薄層クロマトグラフィーなどが挙げられる。

【0060】
本発明の糖鎖の転移方法は、糖鎖受容体の存在下で、本発明の酵素と、糖タンパク質とを接触させることにより、糖タンパク質から遊離させた糖鎖を糖鎖受容体に転移させることができる。
本発明の糖鎖転移方法は、糖鎖受容体の存在下で行うことを除いては、上記第1の観点による本発明の糖鎖の遊離方法と同様にして行うことができる。糖鎖受容体は、好ましくは水性溶媒、より好ましくは水、炭素数1~4の低級アルコールおよびその水との混合物中に溶解または懸濁もしくは分散された溶液または懸濁液もしくは分散液の形態にある。炭素数1~4の低級アルコールは、糖鎖受容体を溶解または懸濁もしくは分散可能なものであれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールおよび2-ブタノールなどが挙げられる。糖鎖受容体が上記の低級アルコールと水との混合物である場合には、その混合比は、当業者が適宜設定することができる。

【0061】
糖鎖受容体が溶液の形態にある場合、溶液中の糖鎖受容体の濃度は、好ましくは60~500mM、より好ましくは100~400mM、更に好ましくは200~300mMである。具体的な糖鎖受容体の濃度の数値としては、60、80、100、150、200、250、300、350、400mMである。
糖鎖受容体が懸濁液または分散液の形態にある場合、懸濁液または分散液100mLに対する糖鎖受容体の重量は、好ましくは1,080~9,000mg、より好ましくは1,800~7,200mg、更に好ましくは3,600~5,400mgである。具体的な糖鎖受容体の重量の数値としては、1,080、1,440、1,800、2,160、2,520、2,880、3,240、3,600、3,960、4,320、4,680、5,040、5,400、5,760、6,120、6,480、6,840、7,200、7,560、7,920、8,280、8,640、9,000mgである。
なお、糖鎖の転移方法に関して記述するとき、糖タンパク質は、「糖鎖供与体」と呼ばれることもある。糖鎖供与体の濃度は特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。糖鎖供与体の濃度は、好ましくは150~300μM、より好ましくは200~250μMである。具体的な糖鎖供与体の濃度としては、150、180、200、230、250、270、300μMである。

【0062】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1:ヒト唾液サンプルからのエンドHSα2のクローニング
健常人(男性22才)から採取したヒト唾液を遠心分離し、得られた沈殿を10 mM Tris-HCl, pH7.2に懸濁した。得られた懸濁液を終濃度2%のCHAPSと混合し、20℃で1時間振盪し、懸濁液に含まれる酵素の可溶化を行い、超遠心分離機(Hitachi Koki、CP60E、P50AT)により遠心分離し、得られた上清を可溶化酵素溶液とした。この溶液を用いてカラムクロマトグラフィーを行い、酵素活性のピークのうち比活性60以上の活性画分を集め、濃縮し、1% CHAPSを含む10 mM Tris-HCl, pH 8.8で平衡化したQ-Sepharose HPカラム(φ1.0 x 6.3 cm)に流速0.2 ml/minで負荷し、0~0.15 M NaClの直線濃度勾配(50 - 50 ml)を行い、流速0.2 ml/minにて2 mlずつ分画し、活性画分を得た。なお、酵素活性の測定は以下のようにして行った。酵素を含有するサンプルに、基質としてのヒトトランスフェリン(HTF)(シグマ)溶液(0.2 mg/ml 0.2 M Na, K-リン酸緩衝液pH 6.2)5μlを加え、37℃でインキュベートした。SDS-PAGEサンプルバッファー10μlを加え反応を停止した後、95℃で3分間インキュベートした。そして、反応液全量を7.5%分離ゲルを用いるSDS-PAGEに供した。電気泳動後、ゲルを固定液中で5分間振盪した後、CBB染色を行い、脱色した。そして、糖鎖を失い低分子量化したHTFのバンドと未反応のバンドの量をプリントグラフ(アトー)を用いて定量し、反応生成物を算出した。こうして、同条件下で1分間に1μgのHTFから糖鎖を遊離する酵素量を1単位とした。その後、上記のようにして得られた活性画分を用いて電気泳動を行った結果、活性画分には、エンドHSが単独で含まれていると考えられた(データ示さず)。得られた活性画分に含まれる酵素の部分アミノ酸配列を特定し、メタゲノム法を用いて、ヒト唾液に含まれるエンドHSをコードする遺伝子の塩基配列を複数特定した(配列番号13、14、15、16、17、18)。ヒト唾液に含まれるメタゲノムを鋳型としてPCRを行い、エンドHSα2をコードする遺伝子(配列番号13)を含むDNA断片を増幅し、pT7 Blueベクターにライゲーションし、NovaBlue Singles Competent Cellに導入した。
【実施例】
【0064】
実施例2:エンドHSα2発現系の構築
上記のようにして得られた細胞からプラスミドDNAを抽出し、それを鋳型としてPCRを行い、PCR反応液50 μlを1.5 mlチューブに移し、滅菌水50 μlとフェノール:クロロホルム:イソプロパノール 25:24:1(シグマ)100 μlを加え、混合し、室温にて13,000 rpm、5分間遠心(Kokusan、H-1300)した。上相を別の1.5 mlチューブに移し、エタノール沈殿に供し、得られた沈殿を滅菌水10 μlに溶解した。こうして得られたDNA溶液を、Bam HI(TaKaRa)とSal I(Fermentas)による制限酵素処理に供した。同時に発現用ベクターであるpET-50b(+)(TaKaRa)についてもBam HIとSal Iによる制限酵素処理を行った。Ligation high(Toyobo)を用いて、3103 bpのPCR産物と直鎖状pET-50b(+)とをライゲーションして得られた発現用ベクターをE.coli DH5αに導入し、0.01% Kanamycinを含むLB寒天培地(1% NaCl, 1% Polypeptone, 0.5% Yeast extract, 2% Agar、pH 7.0)にまき、37℃で一晩培養した。
【実施例】
【0065】
得られたコロニーの1つに由来する細胞を、0.01% Kanamycinを含むLB液体培地(1% NaCl, 1% Polypeptone, 0.5% Yeast extract, pH 7.0)2 ml中で37℃において180 rpmで一晩振盪培養を行った。培養後、ミニプレップアルカリ法に従ってプラスミド溶液を得た。
あらかじめ1.5 mlチューブに分注されている発現用大腸菌E.coli BL21(DE3) Competent Cells(Novagen)懸濁液50 μlを氷中で融解し、上記のプラスミド溶液1 μlを加え、穏やかに混合した。5分間氷冷し、42℃の恒温槽で30 秒間インキュベートした後、2 分間氷冷した。そしてSOC Medium 250 μlを加え、37℃にて180 rpm、1時間振盪培養を行った後、0.01% Kanamycinを含むLB寒天培地(1% NaCl, 1% Polypeptone, 0.5% Yeast extract, 2% Agar、pH 7.0)にまき、37℃で一晩培養した。培養細胞を-70℃でグリセロールストック(ストックA)した。
【実施例】
【0066】
実施例3:エンドHSα2の精製
ストックAからつまようじで0.01% Kanamycinを含むLB液体培地(1% NaCl, 1% Polypeptone, 0.5% Yeast extract, pH 7.0)15 mlに植継ぎ、37℃において180 rpmで一晩振盪培養を行った。その培養液2 mlを、0.01% Kanamycinを含むLB液体培地200 mlを入れた坂口フラスコ5本にそれぞれ移し、37℃において140 rpmで、OD600の値が0.4となるまで培養した。OD600の値が0.4となった時点で、5本の坂口フラスコに100 mM IPTGを200 μlずつ加え、20℃にて140 rpmで4時間振盪培養を行った。得られた培養液を合わせて、4℃において6500 rpm、10分間遠心分離した。上清を除き、得られた菌体ペレットを上清で懸濁した後、50 mlチューブ(NUNC)に移し、遠心分離機(サクマ、M201-IVD、50F8A-E24L)を用いて4℃において7000 rpm、10分間遠心分離し、上清を捨て、菌体ペレットを得た。
【実施例】
【0067】
各菌体ペレット(湿重量1.14 g)に対して、冷Lysis Buffer 80 mlを加え、懸濁し、Sonifier 250(BRANSON)を用いて、氷中にてOut put control 、Duty cycle Constantで30秒間の超音波処理を7回行い、菌体から発現タンパク質の抽出を行った。得られた抽出溶液を4℃において12,000 rpm、20分間遠心分離し、上清をフラスコに移した。沈殿について、さらに冷Lysis Buffer 80 mlを加え、懸濁し、Sonifier 250(BRANSON)を用いて、氷中にてOut put control 、Duty cycle Constantで30秒間の超音波処理を3回行い、4℃において12,000 rpm、20分間遠心(サクマ、M201-IVD、50F8A-E24L)し、その上清を前述の上清と合わせ、得られた160 mlを上清画分とした。
【実施例】
【0068】
得られた上清画分を、カラムバッファー(0.3% CHAPS、0.3 M NaCl、10 mMイミダゾール、10 mM Na,K-リン酸緩衝液、pH 7.5)で緩衝化したCo2+ Profinity IMAC Resinカラム(φ1.5 x 2.8 cm)に負荷し、流速1 ml/minにて100 mM、200 mM、300 mM、400 mMそして500 mM イミダゾールによるステップワイズ溶出(各25 ml)を行い、得られた画分について実施例1と同様にして酵素活性を測定した。その結果、約80%(30000U)の酵素がカラムに吸着し、0.1 Mイミダゾールによってほとんど溶出された。そこで溶出画分を集めた。また、素通り画分(6000U)について再度、Co2+ Profinity IMAC Resinカラムに負荷し、流速1 ml/minにて200 mM イミダゾール溶出(25 ml)を行った。得られた溶出画分(700U)を、上記で集めた溶出画分と合わせた。
【実施例】
【0069】
限外濾過器(アドバンテック東洋UHP-43, 分子量10,000カットとアドバンテック東洋UHP-25, 分子量20,000カット)を用いて、得られた溶出画分のNaCl濃度を約1.25 mMまで下げ、約1.5 mlとした。これを0.3% CHAPSを含む10 mM Na,K-リン酸緩衝液、pH 7.5で緩衝化したDEAE-Toyopearl 650Sカラム(3 ml)を用いたHPLC(MILLIPORE、Waters 600E Multisolvent Delivery System)に供した。0-0.4 M NaClの直線濃度勾配溶出を行い、流速0.5 ml/minにて0.5 mlごとに分画した。その結果、酵素活性は複数のピークに分かれた。それぞれの画分10 μlをSDS-PAGEに供し、分子量170.4 kに相当するタンパク質が検出された画分を集め酵素溶液とした。
【実施例】
【0070】
発現タンパク質に融合しているHisタグ領域の除去をHRV 3C Protease(Novagen)を用いて行った。反応液から遊離したHisタグ領域を除くため、反応液640 μlをカラムバッファー(0.3% CHAPS、0.3 M NaCl、10 mMイミダゾール、10 mM Na,K-リン酸緩衝液、pH 7.5)で緩衝化したCo2+ Profinity IMAC Resinカラム(φ1.5 x 2.8 cm)に負荷し、さらにカラムバッファー30 mlで流速1 ml/minにて洗い、5 mlずつ分画し、活性画分を得た。
【実施例】
【0071】
限外濾過器を用いて、得られた活性画分のNaCl濃度を約2 mMとした。これを限外濾過で約1.25 mlとし、これを0.3% CHAPSを含む10 mM Na,K-リン酸緩衝液、pH 7.5で緩衝化したMono Qカラム(1 mlベッド体積)を用いたHPLC(MILLIPORE、Waters 600E Multisolvent Delivery System)に供した。0-0.4 M NaClの直線濃度勾配溶出を行い、流速0.5 ml/minにて0.5 mlごとに分画した。得られた各画分10 μlをSDS-PAGEに供したところ、分子量112.5 kのバンドがほぼ単一となる画分が得られ、このバンドがエンドHSα2に相当すると考えられた(図1)。この画分を用いて、エンドHSα2の性質を調べた。
【実施例】
【0072】
(各種糖タンパク質への作用)
基質溶液10 μlに上記の画分1 μlを加えた混合液を4個用意し、それぞれ37℃で0分間、30分間、3時間そして22時間インキュベートし、SDS-PAGEサンプルバッファー10 μl加え反応を停止した。それぞれのサンプルについて適当な濃度のポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEに供した。その結果、コンプレックス型糖鎖を持つHTF、HLF、フェツインおよびα1-AGについて、基質分子からの糖鎖の除去にともなって低分子化した基質のバンドが経時的に生成した。また、ヒツジIgGのH鎖でも同様であった。一方、ハイマンノース型やハイブリッド型糖鎖をもつOVAとRNase Bでは基質のバンドは低分子化せず、糖鎖は遊離しなかった。従って、エンドHSα2は、コンプレックス型糖鎖を持つ糖タンパク質に特異的に作用し、ハイマンノース型やハイブリッド型糖鎖を持つものには作用しないと考えられた。
【実施例】
【0073】
(糖アスパラギンへの作用)
基質溶液0.5 μlに滅菌水1.5 μlと酵素溶液0.5 μlを加えた混合液をPCR中に4本用意し、それぞれ37℃で0、4、8そして24時間インキュベートし、全反応液をTLCプレート(メルク、シリカゲル 60)に負荷した。20 cm長のろ紙(ワットマン3MM)を1 cm間隔で折り、TLCプレートの上端に付け、展開液(1-プロパノール:酢酸:水=3:3:2)に浸し、室温にて約20時間展開した。展開後、乾燥させ、オルシノール-硫酸法によって加水分解物を検出した。その結果、ENGHSα2による加水分解生成物が経時的に生成した。そして、残存基質と加水分解物のスポットをプリントグラフ(アトー Lane & Spot Analyzer 6.0)で定量し、加水分解物の割合を算出した。そして、8時間反応した場合のHTF-Asn-CHOの加水分解物のモル数と、このとき用いた酵素量により8時間で分解され得るHTFのモル数を算出したところ、ENGHSα2のHTF-Asn-CHOへの作用はHTFへの作用よりも低く、約1%であった。従って、ENGHSα2の糖アスパラギンへの作用は低いものと考えられた。
【実施例】
【0074】
(糖鎖転移活性)
HTF-Asn-CHO溶液0.5 μlに1 M糖鎖受容体1.25 μl、滅菌水0.25 μlそして酵素溶液0.5μlを加えたものを37℃にて24時間インキュベートし、TLCに供し、加水分解物と糖鎖転移生成物を検出した。その結果、ENGHSα2のグルコースへの糖鎖転移生成物が検出されたが、ガラクトースとN-アセチルグルコサミンへの糖鎖転移生成物は検出されなかった。また、グルコースへの糖鎖転移活性も低かった。
【実施例】
【0075】
実施例4:10μM IPTGを用いたHisタグ付加組換えエンドHSα2の発現とその精製
(大腸菌の培養)
ストックA由来の細胞をカナマイシン添加液体培地(1% NaCl, 1%ポリペプトン, 0.5%乾燥酵母エキス, 0.1 mg/mlカナマイシン, pH 7.0)2 mlに植継ぎ、37℃にて180 rpmで1時間振盪培養を行った。この培養液20μlを、カナマイシン添加液体培地200 mlが入った坂口フラスコに移し、37℃にて180 rpmで、OD600の値が0.45付近となるまで培養した。OD600の値が0.45となった時点で、5本の坂口フラスコに200 mM IPTG(滅菌蒸留水溶液中)を1mlずつ加え、20℃にて180 rpmで2時間振盪培養を行った。得られた培養液を4℃にて6,000 rpmで5分間遠心分離し、上清を除き、菌体ペレットを得た。
【実施例】
【0076】
(Lysateの調製)
培地1L由来の菌体ペレットを等分し、それぞれに1mM PMSFを含む冷Lysis Buffer 40 ml(50mM リン酸カリウム、400 mM NaCl, 100mM KCl, 10%グリセロール, 0.5% Triton X-100, 10mM イミダゾール)を加え、懸濁し、-70℃で凍結した後、室温にて融解を一度行った。その後、Sonifier 250(ブランゾン)を用いて、低温に保ちながらOut put control 1, Duty cycle Constantで30秒間の超音波処理を4回行い、菌体から発現タンパク質の抽出を行った。得られた抽出溶液を4℃において12,000 rpm、10分間遠心分離し、上清80 mlをフラスコに移し、粗酵素画分とした。
【実施例】
【0077】
(カラムクロマトグラフィー)
得られた粗酵素画分をカラム緩衝液(0.3% CHAPS, 0.3M NaCl, 10mMイミダゾール, 50mM Na,K-リン酸緩衝液, pH 7.5)で緩衝化したCo2+ Profinity IMAC Resinカラム(φ1.5 x 2.8 cm)に負荷し、素通り画分を集めた。これを、1%CHAPSを含む10mM Na,K-リン酸緩衝液, pH 7.5で緩衝化したDEAE-Toyopearl 650Sカラム(φ1.72 x 12.5 cm)を用いるクロマトグラフィー(0~0.4M NaClの直線濃度勾配溶出、流速1.7ml/min)に付し、素通り画分を集めた。これを、カラム緩衝液(0.3% CHAPS, 0.3M NaCl, 10mMイミダゾール, 50mM Na,K-リン酸緩衝液, pH 7.5)で緩衝化したNi2+ Profinity IMAC Resinカラム(φ1.5 x 2.8 cm)を用いるクロマトグラフィー(流速1ml/min)に付し、素通り画分を集めた。
【実施例】
【0078】
この素通り画分10μlとSDS-PAGEサンプル処理液10μlと混合し、95℃にて3分間インキュベートした。これを12.5%ゲルによるSDS-PAGEに供した。また、CO2+ Profinity IMAC Resinカラムクロマトグラフィーの吸着溶出画分と、Lysateの10μlをSDS-PAGEに供した。
その結果、分子量170kの発現酵素タンパク質のバンドはわずかであった。その代わり、分子量116kのタンパク質バンドが検出された。一方、Lysate中からは分子量170kの発現酵素タンパク質のバンドと116kのタンパク質バンドが検出された。また、CO2+ Profinity IMAC Resin吸着溶出画分中には117kの発現酵素タンパク質のバンドが存在した。
【実施例】
【0079】
上記の結果から、10μM IPTG存在下、37℃で17時間ゆっくりとした発現誘導で生成したHisタグ付加組換えエンドHSα2は精製の過程で著しく失活しなかったが、CO2+ Profinity IMAC Resinカラムクロマトグラフィーの非吸着画分に活性の大部分が存在することがわかった。この画分には、N末端側の膜貫通領域付近でプロテオリシスを受けたと考えられる分子量116kの酵素タンパク質が存在していた。これについて、本発明者は、精製の過程で大腸菌由来のプロテアーゼによって部分消化を受けた可能性を考えた。そこで、膜貫通領域を欠失したエンドHSα2の発現系を構築した。
【実施例】
【0080】
実施例5:組換えエンドHSα2発現系の構築
ストックA由来の細胞から得られたプラスミドから、インバースPCRによってタグ領域と膜貫通領域を除いた産物を調製した。使用したプライマーは、下記のプライマーHSα2 TM deletion FとプライマーpET-50b(+)1Rである(表4)。この反応では、KOD -Plus- Mutagenesis Kit(Toyobo)に含まれる試薬を用いた。
【実施例】
【0081】
【表4】
JP2014080991A1_000005t.gif
【実施例】
【0082】
反応後、PCR反応液中のテンプレートであるプラスミドを分解するため、反応液20 μlとDpn I(10 u/μl)0.8 μlを混合し、37℃にて1時間インキュベートした。PCR産物のセルフライゲーションを行うために、Dpn I消化物2 μl、滅菌水7 μl、Ligation High 5 μlそしてT4 Polynucletide Kinase(5 u/μl)1 μlを混合し、16℃にて1時間インキュベートした。あらかじめ1.5 mlチューブに分注されている発現用E. coli BL21(DE3) Competent Cells (Novagen)懸濁液20 μlを氷中で融解し、上記のライゲーション反応液1 μlを加え、穏やかに混合した。5分間氷冷し、42℃の恒温槽で30 秒間インキュベートした後、2 分間氷冷した。そしてSOC Medium 280 μlを加え、37℃にて180 rpm、1時間振盪培養を行った後、0.01% Kanamycinを含むLB寒天培地(1% NaCl, 1% Polypeptone, 0.5% Yeast extract, 2% Agar、pH 7.0)にまき、37℃で一晩培養した。培養した細胞を-70℃でグリセロールストック(ストックB)した。
【実施例】
【0083】
実施例6:10μM IPTGを用いた組換えエンドHSα2の発現とその精製
(大腸菌の培養~カラムクロマトグラフィー)
ストックB由来の細胞を上記と同様にして培養し、菌体ペレットを得、次いで、冷Lysis Bufferの組成を50mMリン酸カリウム, 10%グリセロールに変更したこと以外は上記と同様にして、粗酵素画分80mlを得た。得られた粗酵素溶液に1規定の水酸化ナトリウムを添加し、pH 9.0付近に調整した。これを0.3% CHAPS, 1mM PMSF, 5mM EDTAを含む10mM Tris-HCl pH 9.0で緩衝化したQ-Sepharose FF(φ1.5 x 2.8 cm)に負荷し、素通り画分を集めた。得られた素通り画分を、限外濾過器を用いて濃縮し、これを0.3% CHAPSと0.15M NaClを含む10mM Na,K-リン酸緩衝液pH 6.8で緩衝化したSephacryl S-200HR(φ2.2 x 73 cm)に負荷し、流速15ml/minにてクロマトグラフィーを行い、活性画分を集めた。限外濾過器を用いてこれを濃縮し、これを0.3% CHAPSと0.15M NaClを含む10mM Na,K-リン酸緩衝液pH 6.8で緩衝化したSephacryl S-200HR(φ2.2 x 73 cm)を用いるクロマトグラフィー(流速15ml/min)に付した。その結果、タンパク質のピークが2つ検出されたが、実施例1と同様にして酵素活性測定を行ったところ、酵素活性は2つめのタンパク質ピークから検出された。活性画分を集め、酵素溶液とした。
【実施例】
【0084】
酵素溶液10μlとSDS-PAGEサンプル処理液10μlとを混合し、95℃にて3分間インキュベートした。これを12.5%ゲルによるSDS-PAGEに供した。その結果、分子量108k単一タンパク質バンドとして組換えエンドHSα2が検出された。活性の回収率は41.8%で、15900 Uとなった。また、約7.8 mgの精製組換えエンドHSα2が得られた。
【実施例】
【0085】
実施例7:組換えエンドHSα2の糖鎖遊離活性
(CHAPSの除去)
上記のようにして得られた精製組換えエンドHSα2の溶液2 mlを透析チューブに入れ、10 mM Na,K-リン酸緩衝液pH 6.8 200 mlに対して4時間透析を行った。同様の透析をさらに4回行った。
【実施例】
【0086】
(CHAPS除去後の活性)
得られた酵素溶液を、0.3% CHAPSを含む10 mM Na,K-リン酸緩衝液pH 6.8で希釈し、活性を測定した。その結果、透析によるCHAPS除去前後での活性はそれぞれ4,463 U/ml、4,150 U/mlであり、活性の変化は認められなかった。しかし、CHAPS除去後の酵素をCHAPSを含まない同緩衝液で希釈後、活性を測定したところ、1,294 U/mlにまで活性が低下した。従って、酵素溶液からCHAPSを除去しても、酵素の失活は認められないが、酵素希釈時にCHAPSが存在しないと、活性が低下するものと考えられた。
【実施例】
【0087】
(各種糖タンパク質への作用)
上記のCHAPS除去により得られた酵素溶液を用い、エンドHSα2の各種糖タンパク質への作用を調べた。基質としてHTF、ヒトラクトフェリン(HLF、シグマ)、ウシフェツイン(タカラバイオ)、ヒトα1-酸性糖タンパク質(α1-AG、シグマ)、ヒツジIgG(シグマ)、オボアルブミン(OVA、太陽化学)及びRNaseB溶液(シグマ)(いずれも0.5 mg/ml 0.1M Na,K-リン酸緩衝液, pH 6.8)を用いた。これらの基質の溶液10μlに酵素溶液1μl(4,150 U/ml)を加えた混合液を、37℃で0分間、30分間、2時間及び20時間インキュベートし、SDS-PAGEサンプルバッファー11μlを加え、反応を停止した。それぞれの反応液全量をSDS-PAGEに供した。
【実施例】
【0088】
結果を図2A~Cに示す。コンプレックス型糖鎖を有するHTF、HLF、フェツイン及びα1-AGは、基質分子からの糖鎖の除去に伴って低分子化した基質のバンドが経時的に生成した(図2A及び2B)。また、ヒツジIgGのH鎖でも同様であった。一方、ハイマンノース型やハイブリッド型糖鎖を有するOVA及びRNaseBでは基質のバンドは低分子化せず、糖鎖は遊離しなかった(図2C)。上記の基質からは、それぞれ下記の表5に示される糖鎖が遊離したと考えられる。なお、表5中、「Sia」は、シアル酸である。また、表5のHLF、α1-AG、ヒツジIgGの模式図に示された短い太線は、コアフコースを表す。
【実施例】
【0089】
【表5】
JP2014080991A1_000006t.gif
【実施例】
【0090】
上記の結果から、エンドHSα2は、エンドHSと同様にコンプレックス型糖鎖を有する糖タンパク質に特異的に作用し、ハイマンノース型やハイブリッド型糖鎖を有する糖タンパク質には作用しないと考えられた。
【実施例】
【0091】
実施例8:組換えエンドHSα2の糖鎖転移活性
組換え発現エンドHSα2 (377 U/ ml)の糖鎖転移作用を調べた。ヒトトランスフェリンから調製した、2本鎖コンプレックス型糖鎖の糖アスパラギン(HTF Asn CHO(2-C)、3.72 mM 0.75 mM)を糖鎖供与体として、1 M グルコース(Glc)、ガラクトース(Gal)およびN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を糖鎖受容体として用いた(表6)。
【実施例】
【0092】
【表6】
JP2014080991A1_000007t.gif
【実施例】
【0093】
HTF-Asn-CHO溶液0.5 μlに1 M糖鎖受容体1.25 μl、滅菌水0.25 μlそして酵素溶液0.5μlを加えたものを37℃にて24時間インキュベートした。反応液をシリカゲル60(メルク社)の薄層プレートに負荷し、折りたたんだ濾紙(ワットマン3MM)をプレート上端にクリップで付け、展開溶媒(1-プロパノール:酢酸:水、3:3:2)によって37℃において20時間展開した。乾燥した後、オルシノール硫酸混合溶液を噴霧し、110℃において15分間加熱して反応生成物の発色を行なった。
その結果、糖鎖受容体(R)よりも大きいサイズの糖鎖転移反応生成物(図3中、Tの位置と同程度の高さに記された4つの矢印で表される)を確認した。なお、「H」と同程度の高さに表されるのは糖鎖受容体が加水分解を受けて生成した加水分解生成物と考えられる。組換え発現エンドHSα2は、ヒトトランスフェリンから調製した、2本鎖コンプレックス型糖鎖の糖アスパラギンから、グルコース、ガラクトースそしてN-アセチルグルコサミンに転移し、矢印で示した糖鎖転移反応生成物を生成した(図3)。
【実施例】
【0094】
実施例9:組換えエンドHSα2の結晶化
(大腸菌の培養)
ストックB由来の細胞をカナマイシン添加液体培地(1% NaCl, 1%ポリペプトン, 0.5%乾燥酵母エキス, 0.1 mg/mlカナマイシン, pH 7.0)2mlに植継ぎ、37℃において180rpmで1時間振盪培養を行った。この培養液20μlを、カナマイシン添加液体培地200 mlが入った坂口フラスコに移し、37℃において180rpmで18時間振盪培養を行った。さらに、この培養液2 mlを、カナマイシン添加液体培地200 mlが入った坂口フラスコ12本にそれぞれ写し、37℃において180rpmで、OD600の値が0.45付近となるまで約1時間培養した。OD600の値が0.45となった時点で、11本の坂口フラスコに2mM IPTG(滅菌蒸留水溶液中)を終濃度10μMとなるように1mlずつ加え、20℃にて180rpmで20時間振盪培養を行った。得られた培養液を4℃において6,000 rpm、5分間遠心分離した。上清を除き、菌体ペレットを得た。
【実施例】
【0095】
(Lysateの調製)
得られた菌体ペレットを以下の方法で溶菌させ、発現タンパク質の抽出を行った。すなわち、培地2.2 L由来の菌体ペレットを4等分し、それぞれに1 mM PMSF, 5 mM EDTA, 2μM E-64を含む冷Lysis Buffer 45 ml(10 mM Na,K-リン酸緩衝液 pH 6.5)を加え、懸濁し、-70℃で凍結した後、室温にて融解を行った。その後、Sonifier 250(ブランゾン)を用いて、低温に保ちながらOut put control 2, Duty cycle constantで30秒間の超音波処理を6回行い、菌体から発現タンパク質の抽出を行った。得られた抽出溶液を4℃において12,000 rpm, 10分間遠心分離し、上清をフラスコに移し、得られた180 mlを粗酵素画分とした。
【実施例】
【0096】
(硫安分画)
粗酵素画分に硫酸アンモニウムを40%飽和になるよう低温に保ちながら加えた。脱気後、4℃で4時間置いた後、4℃において14,000 rpm、10分間遠心分離した後、上清画分に硫酸アンモニウムを70%飽和になるよう低温に保ちながら加えた。脱気後、再び4℃で4時間置いた後、4℃において14,000 rpm、10分間遠心分離し、沈殿画分を得た。この沈殿画分を、25%硫酸アンモニウムを含む10 mM Na,K-リン酸緩衝液, pH 6.5に懸濁し、再び4℃において14,000 rpm、10分間遠心分離し、得られた上清画分24 mlを硫安分画画分とした。
【実施例】
【0097】
(カラムクロマトグラフィー)
得られた酵素溶液を、25%飽和の硫酸アンモニウムと5 mM EDTAを含む10 mM Tris-HCl緩衝液, pH 6.5で緩衝化したButyl-Toyopearl 650Sカラム(φ1.27 x 9.4 cm)に負荷した。同緩衝液50mlをカラムに通じた後、30%~0%の直線濃度勾配溶出(100 ml-100 ml)を行い、溶出液を流速1.7 ml/minにて5 mlずつ分画し、活性が検出されたフラクションを集めた。
【実施例】
【0098】
上記のフラクションを、5 mM EDTAを含む2Lの10 mM Tris-HCl緩衝液, pH 8.4に対し透析を行い、外液を4回交換し硫酸アンモニウム濃度を下げた。得られた透析内液を5 mM EDTAを含む10 mM Tris-HCl緩衝液, pH 8.4で緩衝化したDEAE-Toyopearl 650Sカラム(φ0.9 x 7.4 cm)に負荷した。同緩衝液20 mlをカラムに通じた後、0~0.3 M NaClの直線濃度勾配溶出(100 ml-100 ml)を行い、活性画分を得た。限外濾過器を用いてこれを濃縮し、5mM EDTAと0.15 M NaClを含む10 mM Na,K-リン酸緩衝液pH 6.5で緩衝化したSephacryl S-200HR(φ2.0 x 81 cm)を用いるクロマトグラフィー(流速15 ml/min)に付し、活性画分を集め、これを酵素溶液とした。
【実施例】
【0099】
限外濾過器を用いて酵素溶液を濃縮し、これを5 mM EDTAと0.15 M NaClを含む10 mM Na,K-リン酸緩衝液pH 6.5で緩衝化したToyopearl HW-55F(φ1.6 x 84 cm)に負荷し、流速15ml/minにてクロマトグラフィーを行い、得られた活性画分の一部を集め精製酵素溶液とした。また、活性画分の一部を集め酵素標品とした。
【実施例】
【0100】
限外濾過器を用いて酵素溶液を濃縮し、これを5 mM EDTA及び0.15M NaClを含む10mM Na,K-リン酸緩衝液pH 6.5で緩衝化したSephacryl S-200HR(φ2.2 x 73 cm)に負荷し、流速15 ml/minにてクロマトグラフィーを行い、得られた活性画分を集め、上記の精製酵素溶液と合わせ、精製酵素標品とした。
【実施例】
【0101】
精製酵素標品10μlとSDS-PAGEサンプル処理液10μlとを混合し、95℃にて3分間インキュベートした。これを15%ゲルによるSDS-PAGEに供した。
その結果、純度98%で、エンドHSα2の遺伝子から推定される分子量と同じ分子量108kのタンパク質バンドが検出された。活性の回収率は50.7%で、348,000 Uの酵素が得られた。比活性は71倍に上昇し、約13,000 U/mgの精製酵素タンパク質が約28 mg得られた。
【実施例】
【0102】
限外濾過器を用いて酵素溶液を約10 ml以下に濃縮し、0.1M NaClを含む10 mM Na,K-リン酸緩衝液 pH 6.5を50 ml加え、再び10 ml以下に濃縮した。この操作をさらに2回行い、緩衝液を置換した後、限外濾過器を用いてA280が約10になるように濃縮した。遠心分離により沈殿を除去した結果、A280は9.87となった。なお、タンパク質の定量は、E1%280の値を10と仮定し、タンパク質溶液の280 nmにおける吸光度を測定することにより行った。また、比活性は、酵素単位(U/ml)をタンパク質濃度(mg/ml)で割った値で示した。得られた濃縮液を以下の結晶化に供した。
【実施例】
【0103】
(結晶化条件)
結晶化は、ハンギングドロップ蒸気拡散法を用いて行った。すなわち、サンプルカップ(サンプラテック, 9-A, 0.5 ml)の淵に高真空用グリース(東レ・ダウコーティング)を薄く塗り、結晶化剤を100μl加えた。カバーグラス(松浪ガラス、18 x 18 mm)をシリコン(Auqasil, サーモサイエンティフィック)の0.5%水溶液に入れ、蒸留水で洗った後、封函してシリコンコーティングを行った。シリコンコーティングしたカバーグラス上で酵素溶液2μlとサンプルカップから得た結晶化剤2μlを混合した後、カバーグラスを裏返してサンプルカップにかぶせて密閉した。なお、結晶化は20℃で行った。
【実施例】
【0104】
(Crystal Screen HTを用いた結晶化)
結晶化剤としてCrystal Screen HT(ハンプトンリサーチ) No. 15(0.1 M Sodium cacodylate trihydrate pH 6.5及び10% w/v ポリエチレングリコール8,000)を用い、上記の基本条件を用いて結晶化を行った。その結果、立方体状の結晶が得られた(図4)。
【実施例】
【0105】
実施例10:微生物の同定
次に、本発明者は、本発明の酵素を産生する微生物種を同定するために以下の実験を行った。
まず、ヒトトランスフェリン(シグマ社)を基質として用いて、N結合型の糖タンパク質からアスパラギン結合型糖鎖を遊離させる活性を有するものとして、ヒトの唾液中および尿中に剥離してくる上皮細胞および血球系細胞の組織から1000株の菌体を分離した。分離した菌体の16s rRNA遺伝子の塩基配列を当業者に公知の塩基配列データベースNCBI(The National Center for Biotechnology Information)と比較した。その結果、分離した菌体のうち1株の菌体がラクトバシラス・ファーメンタム、残りの1株の菌体がプレボテラ・ビビアと同定された。
【実施例】
【0106】
また、ATCC 25845として入手可能なプレボテラ・メラニノゲニカ株も糖鎖遊離活性を示すことを下記の方法により明らかにした。まず、ヒトトランスフェリン溶液(シグマ社製のものを0.2mg/mlになるよう0.2Mリン酸緩衝液、pH6.5に溶解したもの)5マイクロリットルと、GAM培養液を用いて培養したプレボテラ・メラニノゲニカの菌体懸濁液および菌体を1%サルコシルで可溶化した超遠心上清5マイクロリットルを混合し、37℃において24時間反応を行ない、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気用サンプルバッファーを10マイクロリットル加え反応を停止した。そして、95℃において3分間加熱した後、10%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行ない、糖鎖の遊離したヒトトランスフェリンを分離し、分離したタンパク質をクマジーブリリアントブルーによって染色した(データ示さず)。
【実施例】
【0107】
実施例11:微生物の培養
上記のようにして同定したラクトバシラス・ファーメンタムおよびプレボテラ・ビビア、ならびにプレボテラ・メラニノゲニカの3種の菌株を、それぞれGAMブイヨン液体培地(GAMブイヨン「ニッスイ」・1リットル中ペプトン10.0g、ダイズペプトン3.0g、プロテオーゼペプトン10.0g、消化血清末13.5g、酵母エキス5.0g、肉エキス 2.2g、肝臓エキス 1.2g、ブドウ糖3.0g、リン酸二水素カリウム2.5g、塩化ナトリウム 3.0g、溶性デンプン5.0g、L-システイン塩酸塩0.3g、チオグリコール酸ナトリウム0.3g、.pH7.1±)中で4日間、37℃で静置培養した。得られた2000mLの培養液を、それぞれ培養物LB、培養物PBおよび培養物PMと命名した。
【実施例】
【0108】
ヒトトランスフェリン溶液(シグマ社製のものを0.2mg/mlになるよう0.2Mリン酸緩衝液、pH6.5に溶解したもの)5マイクロリットルと、培養物LB、PBおよびPMの懸濁液5マイクロリットルとをそれぞれ混合し、37℃において24時間反応を行ない、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気用サンプルバッファーを10マイクロリットル加え反応を停止した。そして、95℃において3分間加熱した後、10%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行ない、糖鎖の遊離したヒトトランスフェリンを分離し、分離したタンパク質をクマジーブリリアントブルーによって染色した。これらの培養物LB、PBおよびPMは、それぞれ7、6.5及び6のpHで最適化された糖鎖遊離活性を示すことがわかった。
得られた培養物の培養上清および該培養物を培養物LBはCHAPS([3-(3-cholamidepropyl)dimethylammonio-1-propanesulphonate)で、培養物PBおよび培養物PMはサルコシルで可溶化した可溶化物を用いて、糖鎖遊離活性について更に詳細に調べた。
【実施例】
【0109】
実施例12:ラクトバシラス・ファーメンタム培養物の糖鎖遊離活性
糖鎖PAES-Asn-OVA-GP-V ([2-(2-ピリジルアミノ)エチル]スクシナミル酸5-ノルボルネン-2、3-ジカルボキシイミドエステルOVA-GP-V)を、オボアルブミン(太陽化学より入手)を用いて沸騰水中で加熱変性した後、プロナーゼE(科研製薬)を加えて、37℃にて2日分解反応を行ない、反応液をセファデックスG-25、G-50のカラムに負荷して、ペプチド画分と糖アスパラギン画分を分離した。得られた糖ペプチド画分をDowex50W-X2のカラムに負荷し、糖アスパラギンを5つの画分に分離した。そして、それぞれの画分をOVA-GP-I、OVA-GP-II、OVA-GP-III、OVA-GP-IV、OVA-GP-Vとした。このうちOVA-GP-Vを[2-(2-ピリジルアミノ)エチル]スクシナミル酸5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミドエステル(PAES)水溶液と混合し、pH9にて37℃において3時間暗所で反応を行なった。反応液をセファデックスG-25のカラムクロマトグラフィーに供し、PAESと結合したOVA-GP-Vを分離した。
そして、陰性対照としてのPAES-Asn-OVA-GP-V (図5B、レーン1)、陽性対照としてのPAES-Asn-OVA-GP-VおよびエンドFVの反応生成物(レーン2)、上記のようにして得られた糖鎖PAES-Asn-OVA-GP-Vおよび培養物LFの培養上清の反応生成物(レーン3)、ならびに糖鎖PAES-Asn-OVA-GP-Vおよび培養物LFの懸濁液の反応生成物(レーン4)を用いて薄層クロマトグラフィーを行い、糖タンパク質から糖鎖が遊離したかどうかを調べた。ここで、「エンドFV」とは、フラムリナ・ヴェルティペス(Flamulina velutipes;エノキダケ)のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼである。
結果を図5Bに示す。図5Bから、培養上清を用いた場合および菌体懸濁液を用いた場合のいずれにおいても、それらが糖鎖のキトビオース間を加水分解する糖鎖遊離活性を有することが示された。この結果から、本発明のラクトバシラス・ファーメンタム株が、菌体結合型および分泌型のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼを産生していることが強く示唆された。
【実施例】
【0110】
実施例13:ヒトトランスフェリンに対する培養物LFの糖鎖遊離活性
次に、培養物LFのヒトトランスフェリンへの作用を調べた。ヒトトランスフェリン溶液(シグマ社製のものを0.2mg/mlになるよう0.2Mリン酸緩衝液、pH6.5に溶解したもの)5マイクロリットルとラクトバシラス・ファーメンタムの培養物LFの培養上清または培養菌体懸濁液5マイクロリットルを混合し、37℃において0、0.5、2、4および24時間反応を行ない、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気用サンプルバッファーを10マイクロリットル加え反応を停止した。反応液停止液を95℃において3分間加熱した後、10%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行ない、糖鎖の遊離したヒトトランスフェリンを分離し、分離したタンパク質をクマジーブリリアントブルーによって染色した。
その結果、培養物LFの培養上清を用いた場合(Endo LF-f)および培養物LFの可溶化物を用いた場合(Endo LF-b)のいずれにおいても、66 Mr-3~97 Mr-3の間に3つのバンドが現れ、0時間の時点においては97 Mr-3に最も近い位置に存在するバンドが最も濃く、時間が経つにつれて真ん中の位置にバンドがシフトし、更に時間が経つと66 Mr-3に最も近い位置にバンドがシフトした(図6B)。この結果は、ヒトトランスフェリンに結合した分子量約2,000の糖鎖が、時間が経つにつれてヒトトランスフェリンから遊離していくことを示す。すなわち、この結果は、培養物LFの培養上清および可溶化物のいずれもが、ヒトトランスフェリンに対して糖鎖遊離活性を有することを示している。
【実施例】
【0111】
実施例14:ヒトα1-酸性糖タンパク質に対する培養物LFの糖鎖遊離活性
更に、培養物LFのヒトα1-酸性糖タンパク質への作用を調べた。0.2Mリン酸緩衝液, pH6.5に溶解し、0.5mg/mlとしたヒトα1-酸性糖タンパク質溶液(シグマ社製)5マイクロリットルとラクトバシラス・ファーメンタムの培養上清または培養菌体懸濁液5マイクロリットルを混合し、37℃において0、0.5、2、4および24時間反応を行ない、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気用サンプルバッファーを10マイクロリットル加え反応を停止した。そして、95℃において3分間加熱した後、12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行ない、糖鎖の遊離したヒトα1-酸性糖タンパク質を分離し、分離したタンパク質をクマジーブリリアントブルーによって染色した。
その結果、培養物LFの培養上清を用いた場合(Endo LF-f)および培養物LFの可溶化物を用いた場合(Endo LF-b)のいずれにおいても、31 Mr-3~45 Mr-3の間に3つのバンドが現れ、0時間の時点においては45 Mr-3に最も近い位置に存在するバンドが最も濃く、時間が経つにつれて31 Mr-3の位置に向かって徐々に5段階でバンドがシフトした(図7B)。この結果は、ヒトα1-酸性糖タンパク質に結合していた、コアフコースを有する2~5本鎖のコンプレックス型の糖鎖5つが、時間が経つにつれてヒトα1-酸性糖タンパク質から遊離していくことを示す。すなわち、この結果は、培養物LFの培養上清および可溶化物のいずれもが、ヒトα1-酸性糖タンパク質に対して糖鎖遊離活性を有することを示している。
【実施例】
【0112】
実施例15:ヒトトランスフェリンに対するプレボテラ・ビビア培養物の糖鎖遊離活性
培養物PBのヒトトランスフェリンへの作用を調べた。0.2Mリン酸緩衝液、pH6.5に溶解し、0.2mg/mlとしたヒトトランスフェリン(シグマ社製)溶液5マイクロリットルと、プレボテラ・ビビアの培養菌体から1%サルコシルで可溶化した遠心上清を2倍ずつ濃度が濃くなるようにした溶液(それぞれ酵素濃度が1倍、2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、64倍、128倍。0は酵素無し。)5マイクロリットルを混合し、37℃において16時間反応を行ない、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気用サンプルバッファーを10マイクロリットル加え反応を停止した。そして、95℃において3分間加熱した後、10%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行ない、糖鎖の遊離したヒトトランスフェリンを分離し、分離したタンパク質をクマジーブリリアントブルーによって染色した。
その結果、培養物PB可溶化物の濃度が高くなればなるほど、0倍のときのバンド位置よりも低分子量の位置にバンドがシフトしていくことがわかった(図8)。この結果は、ヒトトランスフェリンに結合していた、末端側にシアル酸を含む2本鎖分岐の糖鎖が遊離したことを示す。したがって、この結果は、培養物PBの可溶化物が、ヒトトランスフェリンに対して糖鎖遊離活性を有することを示している。
【実施例】
【0113】
実施例16:プレボテラ・メラニノゲニカ培養物の糖鎖遊離活性
培養物PMの蛍光標識ヒトトランスフェリン糖アスパラギンPAES-HTF Asn-CHO ([2-(2-ピリジルアミノ)エチル]スクシナミル酸5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミドエステルHTF-Asn-CHO)への作用を調べた。ヒトトランスフェリン(シグマ社より購入)を沸騰水中で加熱変性した後、プロナーゼE(科研製薬)を加えて、37℃にて2日分解反応を行ない、反応液をセファデックスG-25、G-50のカラムに負荷して、ペプチド画分と糖アスパラギン画分を分離した。得られた糖ペプチド画分を[2-(2-ピリジルアミノ)エチル]スクシナミル酸5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミドエステル(PAES)水溶液と混合し、pH9にて37℃において3時間暗所で反応を行なった。反応液をセファデックスG-25のカラムクロマトグラフィーに供し、PAESと結合したHTFAsn-CHOを分離した。
蛍光標識糖アスパラギンPAES-HTF Asn-CHOおよび培養物PM沈殿物の反応生成物、PAES-HTF Asn-CHOおよび培養物PM培養上清の反応生成物、ならびにPAES-HTF Asn-CHOおよび培養物PM可溶化物の反応生成物の薄層クロマトグラフィーを行い、糖タンパク質から糖鎖が遊離したかどうかを調べた。
その結果、上記反応生成物のいずれにおいても、陰性対照としてのPAES-HTF Asn-CHOおよび水の混合物ではなく陽性対象としてのPAES-HTF Asn-CHOおよびエンドHSの混合物と同じ位置にスポットが現れた(図9B)。この結果は、上記反応生成物に、糖鎖PAES-HTF Asn-CHOのキトビオース間が加水分解されることによって生成したPAES-Asn-GlcNAcが含まれることを示す。この結果から、本発明のプレボテラ・メラニノゲニカ株が、菌体結合型および分泌型のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼを産生していることが強く示唆された。
【実施例】
【0114】
実施例17:ヒトトランスフェリンに対する培養物PMの糖鎖遊離活性
次に、培養物PMのヒトトランスフェリンへの作用を調べた。ヒトトランスフェリン溶液(シグマ社製のものを0.2 mg/mlになるよう0.2Mリン酸緩衝液、pH 6.5に溶解したもの)5マイクロリットルと、プレボテラ・メラニノゲニカの培養菌体懸濁液を2倍ずつ濃度が濃くなるようにした溶液(酵素濃度が1倍、2倍、4倍、8倍。0は酵素なし。)5マイクロリットルを混合し、37℃において24時間反応を行ない、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気用サンプルバッファーを10マイクロリットル加え反応を停止した。そして、95℃において3分間加熱した後、10%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行ない、糖鎖の遊離したヒトトランスフェリンを分離し、分離したタンパク質をクマジーブリリアントブルーによって染色した。
その結果、培養菌体懸濁液において2段階のバンドが現れ、酵素濃度が1倍に近づけば近づくほど低分子量の位置にバンドがシフトすることが明らかとなった(図10)。この結果は、ヒトトランスフェリンに結合していた、末端側にシアル酸を含む2本鎖分岐の糖鎖が遊離したことを示す。したがって、培養物PM懸濁液がヒトトランスフェリンに対して糖鎖遊離活性を有することが示された。
【実施例】
【0115】
実施例18:ヒトα1-酸性糖タンパク質に対する培養物PMの糖鎖遊離活性
更に、培養物PMのヒトα1-酸性糖タンパク質への作用を調べた。0.2Mリン酸緩衝液、pH6.5に溶解し、0.5mg/ml としたヒトα1-酸性糖タンパク質(シグマ社製)溶液5マイクロリットルとプレボテラ・メラニノゲニカの培養菌体懸濁液を2倍ずつ濃度が濃くなるようにした溶液(酵素濃度が1倍、2倍、4倍、8倍。0は酵素なし。)5マイクロリットルを混合し、37℃において24時間反応を行ない、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気用サンプルバッファーを10マイクロリットル加え反応を停止した。そして、95℃において3分間加熱した後、12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行ない、糖鎖の遊離したヒトα1-酸性糖タンパク質を分離し、分離したタンパク質をクマジーブリリアントブルーによって染色した。
その結果、5段階のバンドが現れ、酵素濃度16倍から1倍に向かって低分子量側にバンドがシフトしていくことが明らかとなった(図11)。この結果は、ヒトα1-酸性糖タンパク質に結合していた、コアフコースを有する2~5本鎖のコンプレックス型の糖鎖が遊離したことを示す。したがって、培養物PM懸濁液がヒトα1-酸性糖タンパク質に対して糖鎖遊離活性を有することが示された。
【実施例】
【0116】
実施例19:エンドPMα発現系の構築
本発明者は、ヒト唾液α-アミラーゼの糖鎖不全分子種の生成機構の研究過程で、コンプレックス型糖鎖に特異的に作用するエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼを発見し、精製している。そして、これをエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼHS(エンドHS)と命名した。
また、エンドHSの遺伝子のクローニングに関する研究を行う過程で、本発明者は、エンドHSの遺伝子ホモログと考えられる複数の遺伝子をクローニングしている(実施例1を参照)。これらの遺伝子は上流よりα、β およびγ の3つのグループに分けられ、ゲノム上でこれら3遺伝子がタンデムに並んだクラスター構造をとっている。遺伝子の相同性解析により、その遺伝子構造はグラム陰性Prevotella melaninogenicaの遺伝子と高い相同性を示し、エンドHSと同様にα、βおよびγの3つのグループがタンデムに並んだクラスター構造を有することを明らかにしている。このP. melaninogenicaが有するエンドHSα、βおよびγに相当するタンパク質をそれぞれエンドPMα、βおよびγと命名し、大腸菌を宿主とするエンドPMα発現系の構築を当業者に公知の方法に従って行った。
【実施例】
【0117】
すなわち、ミニプレップアルカリ法を用いて、プラスミドpET23a(+)を有する大腸菌からpET23a(+)を抽出した。次に、抽出したpET23aを制限酵素BamHIおよびSalIにより消化した。また、配列番号21および22、配列番号23および24、ならびに配列番号25および26の塩基配列を有するプライマーを用いるPCR法によりそれぞれ増幅した配列番号2、4および6の配列を含むDNAフラグメントを制限酵素BamHIおよびSalIにより消化した。消化したpET23a(+)およびDNAフラグメントをライゲーションハイ(タカラバイオ)を用いてそれぞれライゲーションし、組換えベクターを得た。得られた組換えベクターを大腸菌細胞DH5αにそれぞれ導入した。
【実施例】
【0118】
大腸菌形質転換体の糖鎖遊離活性は、以下のようにして確認した。基質としてヒトトランスフェリン(HTF)溶液(0.2 mg/ml 0.2 M Na,K リン酸緩衝液、pH 6.2)5 μlに酵素液5 μlを加え、37℃でインキュベートし、SDS-PAGEサンプル処理液を10 μl加え反応を停止した。そして、95℃にて3分間加熱処理した後、7.5%のポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEに供した。泳動後、固定液(50% メタノール、10% 酢酸)中で15分間振盪し、CBB(1.45% 過塩素酸、0.04% CBB R250)染色を行った後、脱色してバンドを検出した。糖鎖を失い低分子化したHTFのバンドと未反応のHTFのバンドをプリントグラフ(Atto Lane & Spot Analyzer 6.0)を用いて定量し、反応生成物量を算出した。なお、1分間に1 μgのHTFから糖鎖を遊離する酵素量を1単位とした。
【実施例】
【0119】
ミニプレップアルカリ法を用いてDH5からプラスミド抽出を行った。形質転換DH5をグリセロールストックからつまようじで0.1% アンピシリンNaを含むLB液体培地(1% NaCl, 1% ポリペプトン, 0.5% 乾燥酵母エキス)2 mlに植継ぎ、37℃において180 rpmで18時間振盪培養した。培養液1.5 mlを1.5 mlチューブに移し、室温にて13,000 rpmで30秒間遠心(Kokusan、H-1300)し、上清を捨て、菌体にSol. I (50 mM Glucose、25 mM Tris-HCl pH 7.5、10 mM EDTA)100 μlを加えボルテックスで混合し、1分間氷冷した。次に、Sol. II (0.2 N NaOH、1% SDS) 200 μlを加え軽く混合し、氷中で5分間インキュベートした後、Sol. III (3 M酢酸Na pH 5.3) 150 μlを加え軽く混合し、氷中で5分間インキュベートした。そして、4℃において12,000 rpm、10分間遠心(Sakuma、M201-IVD、50F8A-E24L)し、上清400 μlを新しいチューブに移し、1 mlの99%冷エタノールを加え軽く混合し、4℃において12,000 rpm、5 分間遠心(Sakuma、M201-IVD、50F8A-E24L)し、上清を除去した。沈殿に200 μlのSol. IV(100 mM酢酸Na,50 mM Tris-HCl pH 7.5)を加え、ボルテックスミキサーで撹拌し溶解した。そして、99%冷エタノール500 μlを加え軽く混合し、4℃において12,000 rpmで5 分間遠心(Sakuma、M201-IVD50F8A-E24L)し、沈殿に70%冷エタノール500 μlを加え、3 分間遠心(Sakuma、M201-IVD50F8A-E24L)した。上清を除き風乾後、TE 20 μl に溶解した。これにRNaseA(Wako、2 μg/μl 10 mM Tris-HCl pH 7.5) 1 μlを加え、37℃において30分間反応させた。反応後、滅菌水79 μlおよびフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール25:24:1溶液100 μl(Sigma)を加え、ボルテックスミキサーでよく攪拌し、13,000 rpmで5 分間遠心(Kokusan、H-1300)した。そして、その上清95 μlをとり滅菌水5 μlを加え、これに3 M酢酸Na 10 μlおよび99%冷エタノール250 μlを加え、-70℃にて20 分間放置した後、4℃において12,000 rpmで20 分間遠心(Sakuma、M201-IVD50F8A-E24L)し、沈殿に70%冷エタノール500 μlを加え、4℃において12,000 rpmで5 分間遠心(Sakuma、M201-IVD50F8A-E24L)した。上清を除き風乾後、滅菌水20 μl に溶解した。
【実施例】
【0120】
抽出後、抽出液1 μlを1.0%アガロースゲル電気泳動(1% L03,Takara、1× TAE Buffer)に供した。電気泳動後のゲルは、0.5 μg/mlのエチヂウムブロマイド(Wako)溶液中で15 分間振盪した。その後、ゲルに紫外線を照射(Atto、Printgraph)した。その結果、4500 bp長のバンドが検出された。目的のプラスミドはスーパーコイルをとっていると考えられるため、予想される6685 bpよりも短い長さの位置に泳動されるため、矢印で示した4500 bpのバンドがプラスミドと考えられた。
【実施例】
【0121】
発現用大腸菌BL21(DE3)(Novagen)の形質転換を行った。前述で調製した形質転換DH5αからミニプレップアルカリ法で回収したプラスミド抽出液2 μl を、あらかじめ1.5 mlチューブに50 μlずつ分注されているDH5α懸濁液に加え、穏やかに混合した。30 分間氷冷し、42℃の恒温水槽に30 秒間入れた後、2 分間氷冷した。これに、室温に戻しておいたSOC培地450 μlを加え、37℃において180 rpmで1 時間振盪後、LB+アンピシリンナトリウム寒天培地(1% NaCl、1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス 0.1%アンピシリンナトリウム、2% アガロース)に280 μlの培養液を撒き、37℃で18 時間培養した。生じたコロニーのうち10 個のコロニーを選び、一部をつまようじでとり、LB+アンピシリンナトリウム液体培地(1% NaCl、1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス 0.1% アンピシリンナトリウム)2 mlへ植え継ぎ、37℃において180 rpmで16時間振盪培養を行った。培養後、培養液1mlに80%グリセロールを200 μl加え、混合し、-70℃で保存した。
【実施例】
【0122】
これらをつまようじでとり、それぞれ2本ずつのLB+アンピシリンナトリウム液体培地(1% NaCl、1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス 0.1% アンピシリンナトリウム)2 mlに植継ぎ、37℃において180 rpmで一晩振盪培養を行った。この培養で増殖した7コロニーについて、それぞれの培養液20 μlを新しい0.1%アンピシリンナトリウムを含むLB液体培地2 mlにそれぞれ移し、37℃において180 rpmで、OD600=0.4となるまで培養した。OD600=0.4となった時点でそれぞれのコロニーについて1本の培養液に1 mM IPTGを20 μlずつ加え、発現誘導を行った。もう一方にはIPTGを加えず、非誘導コントロールとした。その後、37℃において180 rpm で4時間振盪培養を行い、発現誘導を行ったものとコントロールについて、培養液1.5 mlを1.5 mlチューブに移し、室温にて13,000 rpm、30 秒間遠心(Kokusan、H-1300)し、上清を捨て、菌体ペレットを得た。このようにして得られた菌体ペレットを-20℃にて保存し、以下の実験に供した。
【実施例】
【0123】
各菌体ペレットに冷Lysis Buffer(10 mM Na, K リン酸緩衝液 pH 6.5、0.5%Triton X-100)500 μlを加え懸濁し、液体窒素と42℃の恒温槽を用いて凍結融解を4回繰り返し、菌体のLysateを得た。これを全Lysateとした。
まず、全Lysateの活性を測定したところ、IPTGによる誘導にかかわらず、全Lysate中に活性が検出された。さらに、発現タンパクを調べた。すなわち、全Lysate 10 μlにSDS-PAGE サンプル処理液 10 μlを加え、95℃にて3 分間加熱処理した後、10%のポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEに供した。泳動後、固定液中で15分間振盪し、CBB染色を行った後、脱色してバンドを検出した。
その結果、コントロールと比較して増加する、予想される発現エンドPMαの分子量113,209に相当するバンドが検出された。そこでこれらのうち、最も活性の高いコロニーを以下に記載する実施例20および21の実験に供した。
【実施例】
【0124】
実施例20:エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼPMの精製
本発明者は、エンドPMの性質をより詳細に調べるため、エンドPMの精製を行った。上記の大腸菌を液体培地(1% NaCl, 1% ポリペプトン, 0.5% 乾燥酵母エキス, 0.1%アンピシリンナトリウム)2 mlに植継ぎ、37℃において180 rpmで1時間半振盪培養を行った。この培養液20 μlを、液体培地200 mlを入れた坂口フラスコに移し、37℃において180 rpmで18 時間振盪培養を行った。さらに、この培養液2 mlを、液体培地200 mlを入れた坂口フラスコ11 本にそれぞれ移し37℃において180 rpmで、OD600 = 0.4付近となるまで2 時間培養した。OD600 = 0.4となった時点で、11 本の坂口フラスコに1 mM IPTG(滅菌蒸留水溶液中)を終濃度10 μMとなるよう2 mlずつ加え、20℃にて180 rpmで18 時間振盪培養を行った。
【実施例】
【0125】
得られた培養液を4℃において6,000 rpm、10 分間遠心(Sakuma、50A-7、10B-N6)した。上清を除き、これに冷10 mM Na, K リン酸緩衝液 pH 6.5を200 ml加え、懸濁し、4℃において6,000 rpm、10 分間遠心(Sakuma、50A-7、10B-N6)した。上清を除き、菌体ペレットを得た。このようにして得られた菌体ペレットを、同緩衝液に懸濁し、50 mlチューブに4等分になるように分注した。そして遠心した後、得られた菌体を冷凍した。
そのうちの2本を以下の方法で溶菌させ、発現タンパク質の抽出を行った。すなわち、それぞれに1 mM PMSF、5 mM EDTAおよび2 μM E-64を含む冷Lysis Buffer 30 ml(10 mM Na, K リン酸緩衝液 pH 6.5)を加え、懸濁した。その後、Sonifier 250(BRANSON)を用いて、低温に保ちながらOut put control 2 、Duty cycle Constantで30秒間の超音波処理を4回行い、菌体から発現タンパク質の抽出を行った。得られた抽出溶液を4℃において8,000 rpm、10分間遠心(Sakuma、M201-IVD、50F8A-E24L)し、上清をフラスコに移し、得られた86 mlを粗酵素画分とし、565,000Uの酵素を得た。こうして得られた画分を以下の精製に供した。
【実施例】
【0126】
粗酵素画分に硫酸アンモニウムを30%飽和になるよう低温に保ちながら加えた。脱気後、4℃で4時間置いた後、4℃において12,000 rpm、10分間遠心(Sakuma、50A-7、6B-N8)した。上清画分に硫酸アンモニウムを70%飽和になるよう低温に保ちながら加えた。脱気後、4℃で一晩置いた後、4℃において10,000 rpm、10分間遠心(Sakuma、50A-7、6B-N8)し、沈殿画分を得た。この沈殿画分を、30%硫酸アンモニウムと5 mM EDTAを含む10 mM Na, K リン酸緩衝液 pH 6.5に溶解し、得られた画分141 mlを硫安分画画分とした。
【実施例】
【0127】
得られた酵素溶液を、30%飽和の硫酸アンモニウムと5 mM EDTAを含む10 mM Na,K-リン酸緩衝液、pH 6.5で緩衝化したButyl-Toyopearl 650Mカラム(φ1.27x 9.4 cm)に負荷した。同緩衝液50 mlをカラムに通じた後、30%~0%の直線濃度勾配溶出(100 ml-100 ml)を行い、溶出液を5 mlずつ分画した。活性を示した2つの画分を、それぞれA画分およびB画分としてそれぞれ回収し、酵素溶液とした。
【実施例】
【0128】
A画分とB画分の酵素溶液を、5 mM EDTAを含む2 Lの10 mM Tris-HCl緩衝液、pH 8.5に対し透析を行い、外液を3回交換し硫酸アンモニウム濃度を下げた。得られた透析内液を5 mM EDTAを含む10 mM Tris-HCl緩衝液、pH 8.5で緩衝化したDEAE-Toyopearl 650Sカラム(φ0.9x 7.4 cm)に負荷した。同緩衝液80 mlをカラムに通じた後、0~0.5 M NaClの直線濃度勾配溶出(100 ml-100 ml)を行い、溶出液を5 mlずつ分画した。
その結果、A画分とB画分はいずれも溶出画分には酵素活性はほとんど検出されず、素通り画分にほとんどの酵素活性が検出された。そこで、活性が検出されたA画分由来およびB画分由来の素通り画分をそれぞれ102 ml(A画分由来)および94 ml(B画分由来)の酵素溶液とし、以下の精製に供した。
【実施例】
【0129】
限外濾過器(アドバンテック東洋 UHP-43,分子量20,000カット)を用いて、A画分由来およびB画分由来の酵素溶液をそれぞれ約5 mlに濃縮し、これを5 mM EDTAと0.15 M NaClを含む10 mM Na, K リン酸緩衝液 pH 6.5で緩衝化したSephacryl S-200HR(φ2.0x 81.0 cm)に負荷し、クロマトグラフィーを行い、溶出液を5 mlずつ分画した。酵素活性が検出されたA画分由来およびB画分由来の画分をそれぞれ回収し、酵素溶液とした。
【実施例】
【0130】
限外濾過器(アドバンテック東洋 UHP-43,分子量20,000カット)を用いて、A画分由来およびB画分由来の酵素溶液をそれぞれ約4 mlに濃縮し、これを5 mM EDTAと0.15 M NaClを含む10 mM Na, K リン酸緩衝液 pH 6.5で緩衝化したToyopearl HW-55F(φ2.6x 46.5 cm)に負荷し、クロマトグラフィーを行い、溶出液を5 mlずつ分画した。それぞれの活性フラクションを回収し、A画分由来およびB画分由来の精製酵素溶液とした。
【実施例】
【0131】
A画分由来の精製酵素溶液は回収率5.87%で、比活性は24,400 U/mgとなった。またB画分由来の精製酵素溶液は回収率0.485%で、比活性は2,560 U/mgとなった。精製酵素標品10 μlとSDS-PAGEサンプル処理液10 μlとを混合し、95℃にて3 分間インキュベートした。これを12.5%ゲルによるSDS-PAGEに供した。その結果、A画分およびB画分由来の精製酵素溶液中に含まれるタンパク質は、いずれも約113,000の分子量に相当する位置にシングルバンドを示し、いずれも精製されたエンドPMαを含んでいることが示された(図12)。
【実施例】
【0132】
実施例21:エンドPMαの性質
(1)作用最適pH
B画分由来の酵素溶液(1,630 U / ml)を用いて、蒸留水に溶解したHTF(0.4 mg/ml)を1 Mの各種緩衝液で希釈し0.2 mg/mlとしたものを基質溶液として反応させた。この時用いた緩衝液は、酢酸緩衝液pH 3.52、4.01、4.5、5.0、5.51、リン酸緩衝液pH 5.47、6.0、6.5、7.0、7.5、Tris-HCl pH 7.56、8.03、8.51、ホウ酸緩衝液pH 8.5、9.0、10.0であった。
その結果、本酵素は広いpH領域で活性を示し、作用最適pHは8.5付近であった(図13)。
【実施例】
【0133】
(2)温度安定性
B画分由来の酵素溶液(1,630 U / ml)を用いて、これを10 mM Na, K リン酸緩衝液 pH 6.5+0.5%Triton X-100で1000倍希釈し、その5 μlを恒温槽で20、30、35、37、40、50、60、70℃において30分間インキュベートした後、これらにHTF溶液(0.2 mg/ml 0.2M Na,K-リン酸緩衝液、pH 6.2)5 μlを加え1時間反応させた。
その結果、本酵素は40℃まで安定であった(図14)。
【実施例】
【0134】
(3)糖タンパク質への作用
エンドPMαの各種糖タンパク質への作用を調べた。基質として用いた糖タンパク質のうち、ウシRNase B(0.2 mg/ml)、オボアルブミン(OVA 、0.2 mg/ml)、仔ウシフェツイン(0.5 mg/ml)、ヒトラクトフェリン(Plant発現)(0.5 mg/ml)、ウシラクトフェリン(BLF、0.5 mg/ml )、ヒツジIgG(0.5 mg/ml、SIGMA)、タカアミラーゼ(0.36 mg/ml)は蒸留水に溶解した。ヒトラクトフェリン(HLF、0.2 mg/ml)、ヒト酸性糖タンパク質(α1-AG、0.8 mg/ml )は10 mM Na,K-リン酸緩衝液、pH 6.7に溶解した。ヒトトランスフェリン(HTF、0.2 mg/ml)は 0.2 M Na,K-リン酸緩衝液、pH 6.2に溶解した。
酵素溶液として、B画分(1,630 U/ml)を用いた。これを10 mM Na, K リン酸緩衝液 pH 6.5+0.5%Triton X-100で10倍、100倍および1,000倍希釈し、ここからそれぞれ5 μlずつとり、各種糖タンパク質5 μlと1時間反応させた。そして、SDSサンプル処理液を10 μl加え反応を停止し、95℃で3分間熱処理をした。RNase B は20%、α1-AGは15%、ヒツジIgGとOVAは12.5%、フェツインとタカアミラーゼは10%、HTF、HLF、BLF、HLF(Plant発現)は7.5%の濃度のゲルを用いたSDS-PAGEに供した。
その結果、図15A~Jに示したように、コンプレックス型糖鎖のみを持つHTF、HLF、フェツイン、α1-AGは基質分子からの糖鎖の除去にともなって低分子化したタンパク質のバンドが生成した。一方、コンプレックス型糖鎖とともにハイマンノース型、ハイブリッド型糖鎖をもつBLF、ヒツジIgGでは一部の糖鎖が除去され、わずかに低分子化したタンパクのバンドが生成した。一方、ハイマンノース型糖鎖をもつウシRNase B、タカアミラーゼや、ハイマンノース型とハイブリッド型糖鎖をもつOVA、コンプレックス型糖鎖にキシロースの結合している、植物タイプのコンプレックス型糖鎖をもつHLF(Plant発現)では基質のバンドは低分子化せず、糖鎖は遊離しなかった。
【実施例】
【0135】
実施例22
次に、本発明者は、本発明の酵素によって糖鎖を除去されたタンパク質が、当該タンパク質分解酵素により受ける影響を調べるため、以下の実験を行った。
まず、ヒト唾液α-アミラーゼファミリーC(HAS-C)の2カ所に糖鎖が結合していることを確認した(データ示さず)。次に、このヒト唾液α-アミラーゼファミリーC(HAS-C)溶液(15μg/ml)とエンドHS溶液(1.5単位/ml)とをそれぞれ等量混合し、37℃において様々な時間インキュベートし、糖鎖が1ヶ所結合したものと糖鎖をすべて除去したものを調製した。エンドHSによって調製した、糖鎖の数の異なるヒト唾液α-アミラーゼ(16μg)とリジルエンドペプチダーゼ(和光純薬、1.6μg)とを80μlの0.1MTris-HCl, pH9溶液中で37℃において反応を行ない、経時に反応液10μlをSDS-PAGE電気泳動に供した(図16A)。そして、リジルエンドペプチダーゼの作用を受けず、残存するそれぞれのアミラーゼのバンドの量を測定した。結果を図16Bに示す。糖鎖が2ヶ所に結合しているHAS-Cは反応を通じて、ほとんど減少せず、リジルエンドペプチダーゼの分解作用をほとんど受けなかった。ところが、エンドHSの作用によって糖鎖が1か所結合している状態になると、アミラーゼのバンドは経時的に減少し、50%以下にまで減少した。さらに、エンドHSによって糖鎖をすべて除去され、全く糖鎖が結合していないものは、反応の半ばでほとんど分解されて消失した。このように、結合しているアスパラギン結合型糖鎖の本数に依存して、タンパク質分解酵素の作用を受けにくくなることが、エンドHSを使用することによって明らかとなった。この結果は、タンパク質にコンプレックス型糖鎖を付加することによって、タンパク質分解酵素によるタンパク質分解を阻止することができることを示唆している。エンドHSは糖鎖転移作用をもっているため、この作用を利用して、タンパク質にアスパラギン結合型糖鎖を転移導入することによって糖タンパク質を酵素合成し、タンパク質分解酵素耐性を付与することが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の酵素は、研究活動、ヒトの各種疾患の診断などへの応用が期待できる。また、本発明の酵素を応用し、血液型などの生体認識機能をもつ配糖体の合成、ドラッグデリバリーシステムの構築、インフルエンザウイルスや細菌などの糖鎖を介した感染菌を捕捉する機能性素材の開発への利用が期待できる。さらに、細胞機能の改変、がん細胞の転移または悪性度などの解消、細胞移植医療などへの応用も期待できる。
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図2C】
3
【図3】
4
【図4】
5
【図5A】
6
【図5B】
7
【図6A】
8
【図6B】
9
【図7A】
10
【図7B】
11
【図8】
12
【図9A】
13
【図9B】
14
【図10】
15
【図11】
16
【図12】
17
【図13】
18
【図14】
19
【図15A】
20
【図15B】
21
【図15C】
22
【図15D】
23
【図15E】
24
【図15F】
25
【図15G】
26
【図15H】
27
【図15I】
28
【図15J】
29
【図16A】
30
【図16B】
31