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明細書 :光学デバイスおよび分析装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6179905号 (P6179905)
登録日 平成29年7月28日(2017.7.28)
発行日 平成29年8月23日(2017.8.23)
発明の名称または考案の名称 光学デバイスおよび分析装置
国際特許分類 G01N  21/65        (2006.01)
FI G01N 21/65
請求項の数または発明の数 15
全頁数 21
出願番号 特願2014-553069 (P2014-553069)
出願日 平成25年12月4日(2013.12.4)
国際出願番号 PCT/JP2013/082578
国際公開番号 WO2014/097886
国際公開日 平成26年6月26日(2014.6.26)
優先権出願番号 2012275793
優先日 平成24年12月18日(2012.12.18)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年11月21日(2016.11.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
発明者または考案者 【氏名】本間 敬之
【氏名】柳沢 雅広
【氏名】齋藤 美紀子
個別代理人の代理人 【識別番号】100137800、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 正義
【識別番号】100148253、【弁理士】、【氏名又は名称】今枝 弘充
【識別番号】100148079、【弁理士】、【氏名又は名称】梅村 裕明
審査官 【審査官】伊藤 裕美
参考文献・文献 特開2009-145320(JP,A)
特開2011-232220(JP,A)
特開2012-052848(JP,A)
特開2006-071448(JP,A)
特表2011-506916(JP,A)
米国特許第6696157(US,B1)
国際公開第2009/110157(WO,A1)
特開2006-089788(JP,A)
調査した分野 G01N 21/65
G01N 21/64
G01N 21/41
特許請求の範囲 【請求項1】
表面増強ラマン散乱光を測定して試料分析を行う分析装置に用いる光学デバイスであって、
励起光が透過可能なデバイス本体と、
前記デバイス本体の一面の形状に沿って形成された平坦面を有した1つまたは複数の金属ナノ粒子とを備え、
前記金属ナノ粒子は、
前記平坦面が前記一面に沿って配置された構成を有するとともに、
基台に載置された試料に対して、前記金属ナノ粒子を試料に近接させ、該試料に面接触または点接触させる近接面を有しており、
前記金属ナノ粒子の前記近接面を前記試料に面接触または点接触させた状態で、前記デバイス本体の他面側から前記一面側へ向けて前記励起光が入射され、前記励起光の焦点位置が前記試料に合わせられることで、前記金属ナノ粒子の前記近接面に表面プラズモンを励起させ、前記表面プラズモンにより前記試料からのラマン散乱光を増強させて前記表面増強ラマン散乱光を生成させる
ことを特徴とする光学デバイス。
【請求項3】
前記デバイス本体の一面から膨出している前記金属ナノ粒子は、前記平坦面が前記デバイス本体の一面と面接触している
ことを特徴とする請求項1記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記デバイス本体内に埋没している前記金属ナノ粒子は、前記平坦面が前記デバイス本体の一面に沿って露出している
ことを特徴とする請求項1記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子を球状と仮定したときの直径が5~100[nm]であり、
前記平坦面は、球状の前記金属ナノ粒子の一部が切り取り除かれたように該金属ナノ粒子に形成されている
ことを特徴とする請求項3記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子は、半球状または円錐状でなる
ことを特徴とする請求項1~4のうちいずれか1項記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子は、Ag、Au、Cu、Pd、Ptのいずれかである
ことを特徴とする請求項1~6のうちいずれか1項記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記デバイス本体は、前記試料側に向けて膨出した凸レンズ形状でなる
ことを特徴とする請求項1~6のうちいずれか1項記載の光学デバイス。
【請求項9】
前記デバイス本体は、前記試料側に突出された錘形状を有し、カンチレバーにより支持されている
ことを特徴とする請求項1~7のうちいずれか1項記載の光学デバイス。
【請求項10】
前記デバイス本体は、ファイバ状に形成されている
ことを特徴とする請求項1~7のうちいずれか1項記載の光学デバイス。
【請求項11】
前記金属ナノ粒子は、
前記デバイス本体よりも耐摩耗性の高い材料により形成された被覆膜で覆われている
ことを特徴とする請求項1~10のうちいずれか1項記載の光学デバイス。
【請求項12】
前記金属ナノ粒子は、
前記デバイス本体よりも屈折率の高い材料により形成された被覆膜で覆われている
ことを特徴とする請求項1~10のうちいずれか1項記載の光学デバイス。
【請求項13】
前記金属ナノ粒子は、前記平坦面が前記被覆膜の表面に配置され、該平坦面が外部に露出している
ことを特徴とする請求項11または12記載の光学デバイス。
【請求項14】
請求項1~13のうちいずれかの光学デバイスと、
光源から発した励起光を、前記光学デバイスを介し試料に照射し、前記励起光を前記試料に照射することにより該試料から発した表面増強ラマン散乱光を撮像手段まで導く導光手段と
を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項15】
前記光源から発した励起光を集光して前記光学デバイスを介し前記試料に照射する対物レンズを備え、
前記対物レンズの焦点近傍の電界勾配を表面プラズモンにより増強させる
ことを特徴とする請求項14記載の分析装置。
【請求項16】
前記試料の深さ方向に前記対物レンズの焦点を移動させる焦点移動手段を備え、
前記焦点移動手段によって前記焦点を前記試料内にて移動させることにより、前記表面プラズモンにより増強された前記電界勾配を前記試料の深さ方向に移動させる
ことを特徴とする請求項15記載の分析装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は光学デバイスおよび分析装置に関し、例えば表面増強ラマン散乱光を測定して試料分析を行う分析装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
表面増強ラマン散乱(以下、SERS(Surface Enhanced Raman Scattering)という)は、金属表面に励起された表面プラズモンによる電界により、金属表面に存在する分子のラマン散乱光の強度が数桁増強される現象である。表面プラズモンとは、金属に光を照射したときに励起される金属中の自由電子の粗密波である。このようなSERSは、試料表面近傍の測定方法に応用されており、ラマン散乱光の測定感度を約2桁以上上昇させることができる表面増強ラマン分光法として提案されている。
【0003】
このような表面増強ラマン分光法を用いた分析装置としては、特開2008-281530号公報(特許文献1)がある。特許文献1では、球状に形成された複数の金属粒子がプローブの内部に分散し、プローブの表面に複数の金属粒子が露出した構成を有している。このようなプローブを用いた分析装置は、プローブ先端部を試料に近接させた状態で、当該プローブに入射光を入射し、当該入射光によって表面プラズモンの電界を励起させて試料から表面増強ラマン散乱光を測定し得るものである。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2008-281530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる構成でなる従来の分析装置では、プローブに表面プラズモンが励起されているものの、表面プラズモンによって試料からのラマン散乱光を十分に増強できていなかったという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、試料からのラマン散乱光を表面プラズモンにより従来よりも確実に増強し得る光学デバイスおよび分析装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1における光学デバイスでは、表面増強ラマン散乱光を測定して試料分析を行う分析装置に用いる光学デバイスであって、
励起光が透過可能なデバイス本体と、
前記デバイス本体の一面の形状に沿って形成された平坦面を有した1つまたは複数の金属ナノ粒子とを備え、
前記金属ナノ粒子は、
前記平坦面が前記一面に沿って配置された構成を有するとともに、
基台に載置された試料に対して、前記金属ナノ粒子を試料に近接させ、該試料に面接触または点接触させる近接面を有しており、
前記金属ナノ粒子の前記近接面を前記試料に面接触または点接触させた状態で、前記デバイス本体の他面側から前記一面側へ向けて前記励起光が入射され、前記励起光の焦点位置が前記試料に合わせられることで、前記金属ナノ粒子の前記近接面に表面プラズモンを励起させ、前記表面プラズモンにより前記試料からのラマン散乱光を増強させて前記表面増強ラマン散乱光を生成させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項14における分析装置では、請求項1~13のうちいずれかの光学デバイスと、光源から発した励起光を、前記光学デバイスを介し試料に照射し、前記励起光を前記試料に照射することにより該試料から発した表面増強ラマン散乱光を撮像手段まで導く導光手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項15における分析装置では、前記光源から発した励起光を集光して前記光学デバイスを介し前記試料に照射する対物レンズを備え、前記対物レンズの焦点近傍の電界勾配を前記表面プラズモンにより増強させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1記載の光学デバイスおよび請求項14記載の分析装置によれば、金属ナノ粒子に平坦面を形成したことにより、金属ナノ粒子の試料に近接した近接面に表面プラズモンを励起させることができ、かくして試料からのラマン散乱光を表面プラズモンにより確実に増強し得、従来よりも表面増強ラマン散乱光の感度を向上し得る。
【0011】
また、請求項15における分析装置によれば、対物レンズの焦点近傍の電界勾配を表面プラズモンにより増強させることができ、試料の深さ方向に対する深さ分解能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の分析装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】光学デバイスの詳細構成を示す概略図である。
【図3】実際に作製した光学デバイスの構成を示す写真と、金属ナノ粒子設置部の一面の構成を示すSEM像である。
【図4】図4Aは、半球状の金属ナノ粒子を試料表面に対して点接触させたときの表面プラズモンの励起状態を示す概略図であり、図4Bは、球状の金属ナノ粒子を用いた際の表面プラズモンの励起状態を示す概略図である。
【図5】半球状の金属ナノ粒子を試料表面に対して面接触させたときの表面プラズモンの励起状態を示す概略図である。
【図6】金属ナノ粒子の直径と、表面増強ラマン散乱光のラマン強度との関係を示すグラフである。
【図7】図7Aは、光学デバイスを適用したときに深さ分解能が向上する原理の説明に供する概略図であり、図7Bは、光学デバイスの表面からの表面プラズモンの電界勾配を示すグラフである。
【図8】表面プラズモンの電界によって増強された励起光電界と、増強前の励起光電界を示す概略図である。
【図9】励起光の焦点位置を移動した際の励起光電界を示す概略図である。
【図10】分析装置を用いてHOPGの分子構造を分析したときの説明に供する概略図である。
【図11】HOPGのGバンドのピーク強度の深さ方向に沿った断面プロファイルの写真と、深さ方向に沿って得られたHOPGのGバンド強度の測定結果を示すグラフである。
【図12】曲面が金属ナノ粒子設置部から膨出した金属ナノ粒子と、金属ナノ粒子設置部に埋め込まれた金属ナノ粒子の構成を示す概略図である。
【図13】半球状または円錐状でなる複数の金属ナノ粒子が金属ナノ粒子設置部に埋め込まれた構成を示す概略図である。
【図14】金属ナノ粒子が被覆膜で覆われた構成を示す概略図である。
【図15】半球状または円錐状の金属ナノ粒子を被覆膜で覆った構成を示す概略図である。
【図16】付着球状粒子のラマン強度を示す写真とグラフである。
【図17】埋め込み球状粒子のラマン強度を示す写真とグラフである。
【図18】埋め込み半球粒子のラマン強度を示す写真とグラフである。
【図19】埋め込み円錐粒子のラマン強度を示す写真とグラフである。
【図20】高屈折率材中埋め込み円錐粒子のラマン強度を示す写真とグラフである。
【図21】他の実施の形態による分析装置の構成を示す概略図である。
【図22】他の実施の形態による光学デバイスの構成を示す概略図である。
【図23】磁気ディスク媒体の保護膜の分析結果を示す各種グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。

【0014】
(1)本発明の分析装置
図1において1は本発明による分析装置を示し、励起光L1を照射する光源2を有し、光源2から照射された励起光L1がハーフミラー3、対物レンズ4および光学デバイス5を順次介して試料Sに入射し得るように構成されている。光学デバイス5は、光が透過可能なデバイス本体6を有しており、デバイス本体6の一面が分析対象となる試料Sの表面(単に、試料表面とも呼ぶ)S1に近接(接触、および近傍に配置)された状態で、デバイス本体6の他面から励起光L1が入射され得る。

【0015】
光学デバイス5では、デバイス本体6の他面から入射された励起光L1が透過し、当該励起光L1を試料Sに照射および集光し得るようになされている。光学デバイス5は、デバイス本体6の一面に複数の金属ナノ粒子(後述する)が配置されており、当該金属ナノ粒子の試料表面S1に近接した近接面に表面プラズモンが励起し得る。この際、試料Sからは、励起光L1によりラマン散乱光が生じ、光学デバイス5により励起された表面プラズモンPによる電界により、試料Sに存在する分子のラマン散乱光の強度が数桁増強されるSERS(表面増強ラマン散乱)が発生し、表面増強ラマン散乱光L3を発する。

【0016】
ここで、この分析装置1には、ピンホール13、光学フィルタ14および撮像手段15の結像光学系が設けられており、これら結像光学系と光源2とがハーフミラー3を中心に直交して配置されている。分析装置1は、試料Sにて発生した表面増強ラマン散乱光L3を含む反射光L2を、対物レンズ4を介してハーフミラー3に照射させ、当該ハーフミラー3によって表面増強ラマン散乱光L3を反射させてピンホール13に導き、光学フィルタ14を介してCCD等の撮像手段15まで到達させ得る。なお、結像光学系では、ピンホール13を通過した光を光学フィルタ14にてフィルタリングして反射光L2の中から表面増強ラマン散乱光L3だけを撮像手段15に到達させ得る。このようにして、分析装置1は、撮像手段15にて得られた画像からラマンスペクトルを分光測定し、ラマンスペクトルの強度から試料Sの分子構造を特定し得るようになされている。

【0017】
かかる構成に加えて、この分析装置1は、試料Sが載置される基台12を備えており、当該基台12が3軸方向に移動することで試料Sに対して照射される励起光L1の焦点Fを試料Sの深さ方向zおよび面方向(深さ方向zと直交するx軸方向およびy軸方向)に位置調整し得るようになされている。実際上、この基台12は、面方向のx軸方向と、このx軸方向と直交する同じく面方向のy軸方向とに移動する第1ピエゾステージ10と、x軸方向およびy軸方向に直交する深さ方向zに移動する第2ピエゾステージ11とを有し、これら第1ピエゾステージ10および第2ピエゾステージ11により焦点位置を面方向および深さ方向zにÅ(オングストローム)単位で位置調整し得るようになされている。

【0018】
なお、この実施の形態の場合においては、試料Sが載置される基台12を3軸方向に移動させることにより、対物レンズ4により集光した励起光L1の焦点Fを試料Sの面方向および深さ方向zに移動させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、試料Sが載置される基台を固定し、対物レンズ4を面方向および深さ方向zに移動可能に構成し、対物レンズ4により集光した励起光L1の焦点Fを試料Sの面方向および深さ方向zに移動させるようにしてもよい。

【0019】
ここで、対物レンズ4により絞られた励起光L1の電界(以下、励起光電界と呼ぶ)は、表面プラズモンPにより増強され、例えば焦点Fが試料S内にある場合、焦点位置で最大となり、かつ焦点位置を中心に急峻な電界勾配となり得る(後述する)。そこで、この分析装置1では、励起光L1の焦点位置を試料Sの深さ方向zに移動し、例えば試料S内の所定の界面S2に焦点位置を合わせることで、焦点位置(界面S2)にて最大の表面増強ラマン散乱光L3を得、界面S2から得られた表面増強ラマン散乱光L3からラマンスペクトルを分光測定し、ラマンスペクトルの強度から試料S中の界面S2の分子構造を特定し得るようになされている。

【0020】
実際上、この光学デバイス5を構成するデバイス本体6は、他面に励起光L1が照射される基体7と、基体7の一面に配置された金属ナノ粒子設置部8とを有する。基体7は、例えば石英等の透明部材からなり、厚みを有した円盤状に形成された構成を有するとともに、平坦な一面に同じく石英等の透明部材からなる金属ナノ粒子設置部8を有する。

【0021】
図2に示すように、金属ナノ粒子設置部8は、他面8aと対向する一面8bが湾曲状に形成されており、当該一面8bに沿って複数の金属ナノ粒子9が設置され、一面8bから膨出した金属ナノ粒子9が試料表面S1に近接し得るように配置され得る。実際上、金属ナノ粒子9は、Ag、Au、Cu、Pd、Ptのいずれかからなり、曲面を有した半球状に形成されている。金属ナノ粒子9は、金属ナノ粒子設置部8の一面8bに平坦面が面接触にて固着され、試料表面S1に曲面が近接するように配置され得る。これにより金属ナノ粒子9は、金属ナノ粒子設置部8の他面8a側から一面8b側へ向けて励起光L1が照射されると、試料表面S1の近傍に表面プラズモンが励起し、この表面プラズモンの電界(単に、プラズモン電界とも呼ぶ)により試料Sから表面増強ラマン散乱光L3を得る。

【0022】
ここで、図3Aは、実際に作製した石英からなる光学デバイス5を示す写真であり、図3Bは光学デバイス5における金属ナノ粒子設置部8の一面8bのSEM像である。図3Bに示すように、金属ナノ粒子設置部8の一面8bには、微粒子状の複数の金属ナノ粒子9が、必要に応じ所定間隔を空けて配置され得る。図3Bに示すような金属ナノ粒子9は、例えば、スパッタ法や金属めっき法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により、石英等の透明部材でなる金属ナノ粒子設置部8の一面8bに複数形成し得る。

【0023】
次に、表面プラズモンの励起について、図4Aに示すように半球状の金属ナノ粒子9を用いた場合と、図4Bに示すように球状の金属ナノ粒子100を用いた場合と比較して説明する。本発明の光学デバイス5に設けた金属ナノ粒子9は、図4Aに示すように、球状の根元部分を切って取り除いた半球状でなり、平坦な平坦面が金属ナノ粒子設置部8の一面8bに固着されている。金属ナノ粒子9は、曲面を試料表面S1に近接させた状態で金属ナノ粒子設置部8の他面8a側から試料Sに向けて電界振動方向に振動する励起光L1が垂直に入射されると、試料表面S1と近接した近接面に表面プラズモンPが励起し、この表面プラズモンPの電界によって、試料Sの分子からのラマン散乱光の強度が数桁増強されるSERS(表面増強ラマン散乱)が発生し、表面増強ラマン散乱光L3が得られる。

【0024】
これに対し、図4Bに示すような比較例となる球状の金属ナノ粒子100では、図4Aと同様に金属ナノ粒子設置部(図示せず)の他面側から試料Sに向けて励起光L1が垂直に入射されても、試料表面S1と近接した近接面に表面プラズモンPが励起せず、電界振動方向に相当する金属ナノ粒子100の両側面に表面プラズモンPが励起してしまい、試料Sの分子からのラマン散乱光が増強されずに表面増強ラマン散乱光が得られない。また金属ナノ粒子100の場合は、プラズモン共鳴を起こすために隣に別の金属ナノ粒子100が存在する必要があるが、本発明の金属ナノ粒子9では隣接する金属ナノ粒子9が不要なため、孤立した金属ナノ粒子9であっても試料Sからの表面増強ラマン散乱光L3が得られる。従って、金属ナノ粒子9の直径に相当する高い空間分解能を実現することができる。

【0025】
このように、本発明による光学デバイス5では、金属ナノ粒子設置部8の一面8bに、平坦面を有した半球状の金属ナノ粒子9を、一面8bから膨出させるように設けたことで、金属ナノ粒子9の試料Sと近接した曲面頂点(近接面)に表面プラズモンPを確実に励起させることができ、かくして試料表面S1や試料S内にて励起された表面プラズモンPによってラマン散乱光の強度を数桁増強させた表面増強ラマン散乱光L3が得られ、撮像手段15において表面増強ラマン散乱光L3の感度を高めることができる。

【0026】
さらに、図5に示すように、金属ナノ粒子設置部8の一面8bに平坦面が固着された膨出型の金属ナノ粒子9は、近接面となる曲面頂点を試料表面S1に対し平面で面接触(近接)させた場合も、試料表面S1近傍でプラズモン電界Pが励起され、試料Sからの強い表面増強ラマン光L3を得ることができる。なお、このように金属ナノ粒子9を試料表面S1に対して面接触させた場合(図5)、プラズモン電界の強度は、図4Aに示したように、金属ナノ粒子9を試料表面S1に点接触させた場合に比べ、約3倍になることが分かった。

【0027】
次に、図4Aおよび図5に示した膨出型の金属ナノ粒子9の直径と、表面プラズモンPの電界との関係を調べたところ、図6に示すような結果が得られた。なお、ここで半球状の金属ナノ粒子9の直径としては、球状と仮定したときの直径であり、また、表面プラズモンPの電界の測定位置としては金属ナノ粒子9の曲面頂点とした。このことから金属ナノ粒子9は、直径を5~100[nm]に選定することで、表面プラズモンの電界を増強させることができ、特に直径を16~60[nm]に選定することで更に表面プラズモンの電界を1000倍以上に増強させることができ、これに相当するラマン散乱光の強度を1012倍以上に増幅することから実用上大きな利点となる。なお、金属ナノ粒子設置部8では、このような微細な金属ナノ粒子9は、アイランド状に配置させることが望ましい。

【0028】
次に、図7Aを用いて、本発明の光学デバイス5を適用したときに深さ方向zの分解能(以下、深さ分解能ともいう)が向上する原理について以下説明する。図7Aは、光学デバイス5の表面からの距離に対する励起光L1の電界(励起光電界)の大きさを計算で求め、この励起光電界の大きさと、光学デバイス5および試料Sの位置関係とを示した概略図である。

【0029】
通常、励起光電界は、対物レンズ4によって絞られた焦点位置にて最大となるものの、本発明の光学デバイス5を介さずに励起光L1を試料Sに照射した場合、焦点位置を中心にした励起電界の勾配が非常に小さく(0.1[nm]あたり4×10-8)、深さ分解能はミクロン程度となる。

【0030】
これに対して、図7Aに示すように、金属ナノ粒子9を設けた本発明の光学デバイス5では、試料表面S1と光学デバイス5の表面とを焦点近傍に設置した場合、光学デバイス5の表面の金属ナノ粒子9(例えばAg)近傍での励起光電界E1の電界勾配が、表面プラズモンの電界増強効果により0.1[nm]あたり10-4から10-3へ増加する。表面増強ラマン散乱光L3の強度(ラマン強度)は電界の4乗に比例することが知られているので、0.1[nm]程度の距離の差におけるラマン強度の変化を感度よく捉えることが可能となる。なお、本発明の分析装置1では、試料Sを載置した基台12を移動させることで、深さ方向z(焦点方向)でのラマン強度の変化を測定し得る。

【0031】
この分析装置1では、図7Bに示すように、励起光波長532nmにおける光学デバイス5の表面からの表面プラズモンPの電界(図7B中、単に「電界」と表記)が急激に減衰することから、深さ方向zでの測定点以外からの信号の影響を少なくできるという利点がある。なお、図7Bにおいて表面プラズモンPの電界の強度が1/eに減少する距離は、3[nm]程度となっているが、これは光学デバイス5の形状によっても変わることから、当該光学デバイス5の形状を、例えば、粒径を大きくするか、逆円錐形等の界面でプラズモン電界の大きな構造とすることで、深さ方向zにおける表面増強ラマン散乱光L3の検出領域を広げることもできる。また、励起光を長波長(例えば532[nm]から1500[nm]、好ましくは785[nm]あるいは1060[nm])としたり、或いは誘電率の異なるAgからAuとしてプラズモン波長を長くしても、深さ方向zにおける表面増強ラマン散乱光L3の検出領域を広げることができる。

【0032】
しかしながら、光学デバイス5の表面から所定距離以上離れた箇所では、撮像手段15による表面増強ラマン散乱光L3の感度が落ちてしまうことから、ラマンスペクトルの増強が得られるのは光学デバイス5の表面から深さ方向zへ100[nm]程度までが好ましい。

【0033】
なお、図7Bでは、光学デバイス5の表面に近い位置で表面プラズモンPの電界勾配が最大になっているが、これは1つの金属ナノ粒子9が試料表面S1に点接触していると仮定したときの計算値である。実際には、光学デバイス5の表面に形成された複数の金属ナノ粒子9の粒径のばらつきや、金属ナノ粒子9と試料表面S1との接触隙間のばらつき等により、表面プラズモンPの電界はゆるやかな勾配になっていると推測される(図7B中、点線で示す)。

【0034】
ここで、図8は、本発明の光学デバイス5により励起された表面プラズモンPの電界によって増強された励起光電界(図8中、「増強された電界(ラマン強度)と表記」)E1と、増強前の電界E2とを概略的に示したものである。励起光電界E1は、対物レンズ4により集光した励起光L1の焦点位置(図8中、横軸に「0」と表記)で最大になり、焦点位置を中心に急峻な電界勾配になり焦点Fの前後の電界強度が急激に減少していることから、高い深さ分解能が得られる。

【0035】
図9A~図9Cは、光学デバイス5および試料S間の界面と、励起光L1の焦点位置との位置関係を示すとともに、増強された励起光電界分布を示す概略図である。図9Bに示すように、光学デバイス5および試料S間の界面に、焦点位置が一致したときには、励起光電界E1の強度が最大となる(すなわち、表面増強ラマン散乱光L3の強度が最大となる)。

【0036】
一方、図9Aに示すように、焦点位置が試料Sの外部に移ったときには、表面プラズモンPの電界による増強効果が弱まり、励起光電界E1の強度が減少する(すなわち、表面増強ラマン散乱光L3の強度が減少する)。また、図9Cに示すように、焦点Fの位置が試料Sの内部に移ってゆくに従って、表面プラズモンPの電界による増強効果が弱まってゆき、焦点位置での励起光電界E1の強度が減少してゆく(すなわち、表面増強ラマン散乱光L3の強度が減少してゆく)。しかし電界勾配の変化は少ないので、高い深さ分解能は維持される。

【0037】
分析装置1は、このように焦点位置を深さ方向zへ移動させてゆき、焦点近傍に生じる励起光電界E1の高勾配の強度変化を基に得られた表面増強ラマン散乱光L3のラマンスペクトルを測定し得る。そして、分析装置1は、深さ方向zに沿って得られたこのラマンスペクトルの強度変化を基に試料Sの深さ方向zにおける分子構造の変化を特定し得る。

【0038】
次に、高配向熱分解グラファイト(Highly Oriented Pyrolytic Graphite:HOPG)を試料Sとして用意し、実際に、図1に示した本発明の分析装置1を用いてHOPGの深さ方向zについて分子構造の分析を行った。実際上、この検証試験では、図10に示すように、試料S(HOPG)の表面に金属ナノ粒子9が接触するように金属ナノ粒子設置部8を配置し、励起光L1を金属ナノ粒子設置部8の他面8a側から試料Sに向けて照射した。なお、試料Sとして用いたHOPGは、結晶構造A層とB層とが順次交互に複数層積層した構成を有するものであり(図10では結晶構造A層、B層、およびA層だけ簡潔に表記している)、結晶構造A層とB層との距離を示す格子定数が約0.7[nm]である。

【0039】
この際、基台12を深さ方向zに移動させることにより、試料Sの外部から内部へと深さ方向zに沿って励起光L1の焦点位置を、例えば0.05[nm](ステージのドリフト補正を行ったときの補正値)ずつずらしていった。そして、このときHOPGから発する表面増強ラマン散乱光L3を分析装置1の撮像手段15によって撮像し、HOPGのGバンドのピーク強度(1582[cm-1])の深さ方向zに沿った断面プロファイルを測定したところ、図11Aに示すような結果が得られた。また、図11Bは、深さ方向zに沿って得られた表面増強ラマン散乱光L3からHOPGのGバンド強度を測定した結果を示すグラフである。

【0040】
図11Aおよび図11Bにおいて、(a)は試料Sの外部位置を示し、(b)は試料Sの表面(最表面)位置を示し、(c)は試料Sの内部位置を示す。図11Aおよび図11Bでは、HOPGにおける結晶構造A層とB層が、深さ方向zの周期変化として表れており、またA層またはB層のピーク間の距離もHOPGの格子定数0.7[nm]に一致していることから、HOPGの深さ方向zの分子構造を特定できていることが確認できた。

【0041】
以上の構成において、光学デバイス5では、平坦面を有した複数の金属ナノ粒子9がデバイス本体6の一面に露出した構成を有しており、金属ナノ粒子9を試料Sに近接させ、デバイス本体6の他面から励起光L1が入射されることで、金属ナノ粒子9の試料Sに近接した近接面に表面プラズモンPが励起し、この表面プラズモンPにより試料Sからのラマン散乱光を増強させて表面増強ラマン散乱光L3を得るようにした。

【0042】
このように光学デバイス5では、金属ナノ粒子9に平坦面を形成したことにより、金属ナノ粒子9の試料Sに近接した近接面に表面プラズモンPを励起させることができ、かくして試料Sからのラマン散乱光を表面プラズモンPにより従来よりも確実に増強し得る。また、この光学デバイス5では、ラマン散乱光を増強できた分だけ表面増強ラマン散乱光L3の感度を従来よりも向上し得ることから、種々の試料分析が行えるようになり従来よりも汎用性をも向上し得る。

【0043】
また、分析装置1では、光学デバイス5に励起光L1を照射するともに、励起光L1の試料Sの深さ方向zに焦点位置を調整し得るように構成したことにより、焦点位置を中心に急峻な電界勾配になる励起光電界E1を試料Sの深さ方向zに移動させて深さ方向zに沿って変化するラマン強度の変化から試料分析を行うことができる。

【0044】
この際、この分析装置1では、励起光電界E1が焦点位置を中心に急峻な電界勾配になり焦点Fの前後からのラマン散乱光が減少していることから、高い深さ分解能を得ることができる。

【0045】
また、本発明による光学デバイス5では、平坦面を有した複数の金属ナノ粒子9をデバイス本体6の一面に設けるようにした場合について主として述べたが、本発明では、図4Bに示すような従来からある球状の金属ナノ粒子100のように隣接した金属ナノ粒子100間の共鳴による電界増強が不要となり、図4Aに示すように1つの金属ナノ粒子9だけでも試料表面S1に表面プラズモンを確実に励起させることができ、かくして、確実に表面増強ラマン散乱光L3を得ることができる。

【0046】
因みに、励起光を試料Sに対して斜め方向から入射させた場合には、金属ナノ粒子9の試料Sに近接した近接面に、表面プラズモンPが励起し難く、試料Sからのラマン散乱光を表面プラズモンPによって十分に増強し得ず、表面増強ラマン散乱光の感度が低下してしまう。これに対して、この実施の形態による光学デバイス5では、試料Sに向けて電界振動方向に振動する励起光L1を、当該試料Sに対し金属ナノ粒子9を介して垂直に入射させていることから、金属ナノ粒子9の試料Sに近接した近接面に、表面プラズモンPを確実に励起させることができ、かくして試料Sからのラマン散乱光を表面プラズモンPにより確実に増強し得、表面増強ラマン散乱光L3の感度を向上し得る。

【0047】
(2)他の実施の形態
(2-1)光学デバイスの形状と、金属ナノ粒子設置部への金属ナノ粒子の配置形態に関する他の実施の形態
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。上述した実施の形態においては、図12Aに示すように、金属ナノ粒子設置部8の一面8bに半球状の金属ナノ粒子9の平坦面を面接触で配置させるとともに、一面8bから金属ナノ粒子9の曲面を膨出させ、曲面の頂点を近接面として表面プラズモンPを励起させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、金属ナノ粒子において試料表面S1と近接する近接面に表面プラズモンPを励起できれば、金属ナノ粒子の形状を円錐状や角錐状、半楕円状等その他種々の形状にしてもよく、また、これら金属ナノ粒子を金属ナノ粒子設置部に埋没させるように形成してもよい。

【0048】
ここで、図12は、金属ナノ粒子の形状と、金属ナノ粒子設置部への金属ナノ粒子の配置形態を変えたことにより、表面プラズモンが励起される位置を計算で求めた結果を示す概略図である。例えば、図12Bに示すように、埋没型の金属ナノ粒子9aとしては、その形状が球状の根元部分を切って取り除いた半球状でなり、平坦面が金属ナノ粒子設置部8の一面8bに沿って露出するように配置され、曲面が金属ナノ粒子設置部8に埋没された構成を有し、平坦面のみが金属ナノ粒子設置部8の一面8bから露出するようにしてもよい。この場合、金属ナノ粒子設置部8の他面側から一面8bへ、電界振動方向に相当する励起光L1が照射されると、金属ナノ粒子9aにおいて試料Sと近接した平坦面(近接面)に表面プラズモンPを励起させることができ、かくして当該表面プラズモンPにより試料Sからのラマン散乱光を増強し得る。よって、図13Aに示すように、他の光学デバイス5aとしては、このような埋没した半球状の金属ナノ粒子9aを、所定間隔を空けて配置させるようにしてもよい。なお、これら金属ナノ粒子9aの間隔は規則的であってもよい。

【0049】
また、図12Cに示すように、他の埋没型の金属ナノ粒子9bとしては、その形状が円錐状でなり、平坦面が金属ナノ粒子設置部8の一面8bに沿って露出するように配置され、頂点が金属ナノ粒子設置部8に埋没された構成を有し、平坦面のみが金属ナノ粒子設置部8の一面8bから露出するようにしてもよい。この場合でも、金属ナノ粒子設置部8の他面側から一面8bへ励起光L1が照射されると、金属ナノ粒子9bにおいて試料Sと近接した平坦面(近接面)に表面プラズモンPを励起させることができ、かくして当該表面プラズモンPにより試料Sからのラマン散乱光を増強し得る。よって、図13Bに示すように、他の光学デバイス5bとしては、このような埋没した円錐状の金属ナノ粒子9bを、所定間隔を空けて配置させるようにしてもよい。なお、これら金属ナノ粒子9bの間隔は規則的であってもよい。さらに隣接する金属ナノ粒子9bが不要なので、単粒子にして高い分解能を得ることができる。ただし、ラマン散乱光の強度は金属ナノ粒子の密度が小さいほど弱くなるので、信号のSNとのかねあいとなる。

【0050】
(2-2)被覆膜を設けた光学デバイス
また、他の実施の形態としては、図14に示す光学デバイス17のように、金属ナノ粒子9を設けた金属ナノ粒子設置部8の一面8bに、金属ナノ粒子設置部8と異なる材料からなる被覆膜18を形成し、当該被覆膜18によって金属ナノ粒子9を覆うような構成としてもよい。また、図15Aに示すように、他の光学デバイス5cとしては、半球状の金属ナノ粒子9aの平坦面を被覆膜18の表面に配置し、曲面を被覆膜18に埋没させた構成とし、金属ナノ粒子9aの平坦面のみが被覆膜18の表面から露出するようにしてもよい。この場合でも、金属ナノ粒子設置部8の他面側から被覆膜18へ励起光L1が照射されると、金属ナノ粒子9aにおいて試料Sと近接した平坦面(近接面)に表面プラズモンPを励起させることができ、かくして当該表面プラズモンPにより試料Sからのラマン散乱光を増強し得る。

【0051】
また、図15Bに示すように、他の光学デバイス5dとしては、円錐状の金属ナノ粒子9bの平坦面を被覆膜18の表面に配置し、頂点を被覆膜18に埋没させた構成とし、金属ナノ粒子9bの平坦面のみが被覆膜18の表面から露出するようにしてもよい。この場合でも、金属ナノ粒子設置部8の他面側から被覆膜18へ励起光L1が照射されると、金属ナノ粒子9bにおいて試料Sと近接した平坦面(近接面)に表面プラズモンPを励起させることができ、かくして当該表面プラズモンPにより試料Sからのラマン散乱光を増強し得る。

【0052】
ここで上述した被覆膜18は、例えば石英でなる金属ナノ粒子設置部8よりも耐摩耗性が高く、屈折率も高いダイヤモンドにより形成することが好ましい。また被覆膜18を形成するその他の材料としては、金属ナノ粒子設置部8よりも屈折率の高いTiOや、Si、Ge等により形成してもよく、さらに透明導電膜(ITO)によって形成してもよい。

【0053】
このような被覆膜18に金属ナノ粒子9,9a,9bが埋没した光学デバイス17,5c,5dでは、被覆膜18を金属ナノ粒子設置部8よりも耐摩耗性の高い材料により形成することで、光学デバイス17,5c,5dの表面を試料Sに接触させても摩耗し難く、耐久性を向上させることができる。また、被覆膜18に金属ナノ粒子9,9a,9bが埋没した光学デバイス17,5c,5dでは、金属ナノ粒子設置部8よりも屈折率の高い材料により被覆膜18を形成することで、ラマン散乱光の増強率を向上し得、高い感度を得ることができ、また、電界分布の制御を容易に行え得る。

【0054】
因みに、デバイス本体や、被覆膜18に金属ナノ粒子を埋没させた光学デバイスの製造方法としては、例えばナノインプリント、または、EB露光及びエッチング等により、デバイス本体や、被覆膜18に多数の凹部を形成し、この凹部上にめっき充填等により金属薄膜を形成し、凹部以外の金属薄膜をCMP法やイオンエッチングなどにより除去することで凹部内にのみ金属ナノ粒子を形成し得る。また、デバイス本体の表面に金属ナノ粒子を蒸着やスパッタリング等により付着させた後に被覆膜18を形成し、この被覆膜18を研磨して、金属ナノ粒子を被覆膜18から露出させるとともに、被覆膜18の表面に金属ナノ粒子の平坦面を形成するようにしてもよい。

【0055】
(2-3)金属ナノ粒子の形状等を変えたときのラマン強度について
ここで、金属ナノ粒子の形状等を変えたときにラマン強度がどのように変わるかをシミュレーションにより調べたところ、図16~図20に示すような結果が得られた。なお、分析面の最大電界は、FDTD(有限差分時間領域法:Finite Difference Time Domain method)(マクスウエル方程式をもとに光の電磁界を計算する方法)により求めた。

【0056】
図16Aおよび図16Bは、比較例1であり、Agにより形成した球状の金属ナノ粒子100を、SiOでなる金属ナノ粒子設置部8(図16A中、レンズと表記)の一面に付着させた構成(付着球状粒子と表記)とし、このときのラマン強度を調べたものである。図16Aおよび図16Bに示すように、球状の金属ナノ粒子100を金属ナノ粒子設置部8の一面に付着させた場合、分析面の最大電界は、0.7となった。このような比較例1ではラマン強度の感度が低くなることが確認できた。

【0057】
図17Aおよび図17Bは、比較例2であり、Agにより形成した球状の金属ナノ粒子100を、SiOでなる金属ナノ粒子設置部8(図17A中、レンズと表記)内に埋め込んだ構成(埋め込み球状粒子と表記)とし、このときのラマン強度を調べたものである。図17Aおよび図17Bに示すように、球状の金属ナノ粒子100全体を金属ナノ粒子設置部8に埋め込んだ場合、分析面の最大電界は、0.8となった。このような比較例2でもラマン強度の感度が低くなることが確認できた。

【0058】
図18Aおよび図18Bは、実施例1であり、Agにより形成した半球状の金属ナノ粒子9aの平坦面を、SiOでなる金属ナノ粒子設置部8(図18A中、レンズと表記)の一面に合わせて、金属ナノ粒子9aを金属ナノ粒子設置部8に埋め込んだ構成(埋め込み半球状粒子と表記)とし、このときのラマン強度を調べたものである。図18Aおよび図18Bに示すように、半球状の金属ナノ粒子9aの平坦面を金属ナノ粒子設置部8の一面に合わせて埋め込んだ場合、分析面の最大電界は、2.0となった。このような実施例1ではラマン強度の感度が高くなることが確認できた。

【0059】
図19Aおよび図19Bは、実施例2であり、Agにより形成した円錐状の金属ナノ粒子9bの平坦面を、SiOでなる金属ナノ粒子設置部8(図19A中、レンズと表記)の一面に合わせて、金属ナノ粒子9bを金属ナノ粒子設置部8に埋め込んだ構成(埋め込み円錐粒子と表記)とし、このときのラマン強度を調べたものである。図19Aおよび図19Bに示すように、円錐状の金属ナノ粒子9bの平坦面を金属ナノ粒子設置部8の一面に合わせて埋め込んだ場合、分析面の最大電界は、8.0となった。このような実施例2ではラマン強度の感度が更に高くなることが確認できた。

【0060】
図20Aおよび図20Bは、実施例3であり、Agにより形成した円錐状の金属ナノ粒子9bの平坦面を、高屈折率のダイヤモンドでなる被覆膜18(図20A中、レンズと表記)の一面に合わせて、金属ナノ粒子9bを被覆膜18に埋め込んだ構成(高屈折率材料中埋め込み円錐粒子と表記)とし、このときのラマン強度を調べたものである。図20Aおよび図20Bに示すように、円錐状の金属ナノ粒子9bの平坦面を被覆膜18の一面に合わせて埋め込んだ場合、分析面の最大電界は、10.3となった。このような実施例3ではラマン強度の感度が更に一段と高くなることが確認できた。

【0061】
(2-4)他の分析装置について
(2-4-1)カンチレバー方式の分析装置
なお、上述した実施の形態の場合においては、凸レンズ状の光学デバイス5を設け、ピエゾ制御方式の分析装置1について適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図21Aに示すように、本発明の構成でなる光学デバイス25をカンチレバー方式の分析装置21に適用するようにしてもよい。実際上、この分析装置21は、試料Sに向けて頂点が突出した三角錘形状のデバイス本体6がカンチレバー(図21A中、Siカンチレバーと表記)26により支持された光学デバイス25を備えており、デバイス本体6の他面から頂点に向けて励起光L1が照射され得る。

【0062】
また、この分析装置21は、光学デバイス25の斜め上方に配置されたLD(レーザダイオード)22からデバイス本体6の他面に制御光(隙間制御光)が照射され、当該デバイス本体6で反射された制御光を4分割PD(フォトダイオード)23によって検出しており、4分割PD23の4つの受光部からの光検出出力を比較し、これらを一定の状態に保つことにより、光学デバイス25と試料Sとの間の間隔を一定に保つように構成されている。

【0063】
この場合でも、光学デバイス25には、デバイス本体6の試料Sと対向する頂点および側面に、1つまたは複数の半球状の金属ナノ粒子9が曲面を膨出させるようにして所定間隔を空けて配置されており、励起光L1が照射されることで、金属ナノ粒子9の試料Sと近接する近接面に表面プラズモンPが励起し得るようになされている。かくして、この分析装置21でも、上述した実施の形態と同様に、金属ナノ粒子9に平坦面を形成したことにより、金属ナノ粒子9の試料Sに近接した近接面に表面プラズモンPを励起させることができ、かくして試料Sからのラマン散乱光を表面プラズモンPにより確実に増強し得、従来よりも表面増強ラマン散乱光L3の感度を向上し得る。また、このようなカンチレバー方式の分析装置21でも、対物レンズ4により、金属ナノ粒子9と試料Sの界面近傍に励起光L1の焦点をもうけることにより、試料Sの深さ方向zの分子構造を高い深さ分解能で測定することができる。

【0064】
なお、図22Aは、カンチレバー26を備えた他の実施の形態による光学デバイス25aを示す概略図である。図22Aに示すように、この光学デバイス25aは、断面台形状に形成されたデバイス本体28を有し、試料Sと近接する一面に円錐状の金属ナノ粒子9aを埋没させた構成を有する。この場合、金属ナノ粒子9aは、平坦面がデバイス本体28の一面と一致させてデバイス本体28内に埋め込まれており、デバイス本体28の一面から露出した平坦面が試料Sと近接する近接面となり得る。このような光学デバイス25aでも、金属ナノ粒子9aの平坦面に表面プラズモンPが励起し、当該表面プラズモンPの電界増強効果によって試料Sのラマン散乱光を増強し得る。また、このような光学デバイス25aでも、対物レンズ4により、金属ナノ粒子9aと試料Sの界面近傍に励起光L1の焦点をもうけることにより、試料Sの深さ方向zの分子構造を高い深さ分解能で測定することができる。

【0065】
(2-4-2)ファイバ状の光学デバイスを用いたチューニングフォーク方式の分析装置
図21Bは、他の実施の形態であるチューニングフォーク方式の分析装置31を示し、ファイバ状のデバイス本体からなる光学デバイス33を用い、光学デバイス33がチューニングフォーク32に固定されている。分析装置31は、チューニングフォーク32の振動周波数を共振周波数に維持することにより、光学デバイス33の一端面と試料Sとの間の間隔を、1[nm]以下の一定の間隔に制御し得る。また、このようなチューニングフォーク方式の分析装置31でも、ファイバ状のデバイス本体中に設置した対物レンズ4により、デバイス本体先端に配置した金属ナノ粒子と、試料Sとの界面近傍に、励起光L1の焦点をもうけることにより、試料Sの深さ方向zの分子構造を高い深さ分解能で測定することができる。

【0066】
この光学デバイス33でも、上述したように、例えば半球状の単独または複数の金属ナノ粒子9(図示せず)が一端面に必要に応じて規則的に配置されており、他端面から励起光L1が入射されることで、金属ナノ粒子9において試料Sに近接された近接面に表面プラズモンPが励起し、試料Sのラマン散乱光を増強し得、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。

【0067】
ここで、図22Bは、埋没型の金属ナノ粒子9aを設けたファイバ状の光学デバイス33を示す概略図である。図22Bに示すように、このファイバ状の光学デバイス33は、柱状に形成され、内部に対物レンズ4を備えたデバイス本体を有し、試料Sと近接する一面に円錐状の金属ナノ粒子9aを設けた構成を有する。この場合、金属ナノ粒子9aは、平坦面がデバイス本体の一面と一致するようにしてデバイス本体内に埋め込まれており、露出した平坦面が試料Sと近接する近接面となり得る。このようなファイバ状の光学デバイス33でも、金属ナノ粒子9aの平坦面に表面プラズモンPが励起し、当該表面プラズモンPの電界増強効果によって試料Sのラマン散乱光を増強し得る。

【0068】
(2-4-3)導波管に光学デバイスを設けたチューニングフォーク方式の分析装置
図21Cは、他の実施の形態であるチューニングフォーク方式の分析装置41を示し、導波管42の先端に凸レンズ状の光学デバイス43が設けられており、導波管42がチューニングフォーク32に固定されている。分析装置41は、チューニングフォーク32の振動周波数を共振周波数に維持することにより、導波管42の先端に設けた光学デバイス43の一端面と試料Sとの間の間隔を、1[nm]以下の一定の間隔に制御し得る。また、このようなチューニングフォーク方式の分析装置41では、光学デバイス43の形状を先端凸状レンズ形状とし、金属ナノ粒子と試料Sの界面近傍に励起光L1の焦点をもうけることにより、試料Sの深さ方向zの分子構造を高い深さ分解能で測定することができる。

【0069】
この光学デバイス43でも、上述したように、例えば半球状の単独または複数の金属ナノ粒子9(図示せず)が一面に必要に応じて規則的に配置されており、導波管42から他面側に向けて励起光L1が入射されることで、金属ナノ粒子9において試料Sに近接された近接面に表面プラズモンPが励起し、試料Sのラマン散乱光を増強し得、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。

【0070】
ここで、図22Cは、他の構成の導波路薄膜型の光学デバイス44を示す概略図である。図22Cに示すように、この導波路薄膜型の光学デバイス44は、柱状に形成されたデバイス本体を有し、試料Sと近接する一面に円錐状の金属ナノ粒子9aを設けた構成を有する。この場合、金属ナノ粒子9aは、平坦面がデバイス本体の一面と一致するようにデバイス本体内に埋め込まれており、露出した平坦面が試料Sと近接する近接面となり得る。このような導波路薄膜型の光学デバイス44でも、金属ナノ粒子9aの平坦面に表面プラズモンPが励起し、当該表面プラズモンPの電界によって試料Sのラマン散乱光を増強し得る。また、このような光学デバイス44でも、外部にもうけた対物レンズ4により、金属ナノ粒子9aと試料Sの界面近傍に励起光L1の焦点をもうけることにより、試料Sの深さ方向zの分子構造を高い深さ分解能で測定することができる。

【0071】
なお、上述した「(2-4-1)カンチレバー方式の分析装置」、「(2-4-2)ファイバ状の光学デバイスを用いたチューニングフォーク方式の分析装置」および「(2-4-3)導波管に光学デバイスを設けたチューニングフォーク方式の分析装置」においては、各光学デバイスの構成として、図14や、図15等の構成のように被覆膜を設けた構成としてもよい。

【0072】
また、上述した図21A、図21B、図22A~図22Cにおいては、固定した対物レンズ4を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、焦点移動手段を設けて対物レンズ4を移動させ、試料Sの深さ方向zに対物レンズ4の焦点を自由に移動可能な構成としてもよい。

【0073】
(2-4-4)本発明の分析装置による磁気ディスク媒体の保護膜の分析
図1に示すような本発明の分析装置1は、燃料電池、Liイオン電池、めっき等において使用される触媒反応の解析にも用いることができる。また、この分析装置1は、太陽電池、EL素子、液晶ディスプレイ等の薄膜デバイス等の構造分析にも用いることができる。さらに、この分析装置1は、サブナノメー卜ル厚の薄膜の分子構造及び分布の測定を行うことができ、例えば、磁気ディスク媒体(HDD:Hard Disc Drive)の保護膜や潤滑膜の分析に用いることができる。

【0074】
例えば、図23は、図1に示した本発明の分析装置1を用いて、磁気ディスク媒体の保護膜を分析した分析結果を示すグラフである。本発明の分析装置1により、磁気ディスク媒体の厚さ2[nm]の保護膜(ダイヤモンド状炭素(DLC:Diamond Like Carbon)膜)を分析すると、図23Aに示すように、Dバンド及びGバンドのラマンスペクトルが良好に観測された。図23Cは、分析装置1により測定できたGバンド強度のヒストグラムを示している。図23Bは、本発明の光学デバイスを設置していない分析装置により観測されたラマンスペクトルであり、本発明の分析装置1を用いたときのようなDバンド及びGバンドが特定できないことが確認できた。
【符号の説明】
【0075】
1,21,31,41 分析装置
3 ハーフミラー(導光手段)
4 対物レンズ
5,17,5a,5b,5c,5d,25a,33,43,44 光学デバイス
6 デバイス本体
9,9a,9b 金属ナノ粒子
12 基台(焦点移動手段)
18 被覆膜
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22