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明細書 :複合型ターゲット、複合型ターゲットを用いる中性子発生方法、及び複合型ターゲットを用いる中性子発生装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5697021号 (P5697021)
公開番号 特開2012-119062 (P2012-119062A)
登録日 平成27年2月20日(2015.2.20)
発行日 平成27年4月8日(2015.4.8)
公開日 平成24年6月21日(2012.6.21)
発明の名称または考案の名称 複合型ターゲット、複合型ターゲットを用いる中性子発生方法、及び複合型ターゲットを用いる中性子発生装置
国際特許分類 H05H   6/00        (2006.01)
G21K   5/08        (2006.01)
H05H   3/06        (2006.01)
H05H   9/00        (2006.01)
A61N   5/10        (2006.01)
FI H05H 6/00
G21K 5/08 C
G21K 5/08 N
H05H 3/06
H05H 9/00 A
A61N 5/10 H
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2010-264724 (P2010-264724)
出願日 平成22年11月29日(2010.11.29)
審査請求日 平成25年10月11日(2013.10.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
発明者または考案者 【氏名】松本 浩
【氏名】小林 仁
【氏名】吉岡 正和
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100090516、【弁理士】、【氏名又は名称】松倉 秀実
【識別番号】100113608、【弁理士】、【氏名又は名称】平川 明
【識別番号】100138357、【弁理士】、【氏名又は名称】矢澤 広伸
審査官 【審査官】林 靖
参考文献・文献 特開2009-204428(JP,A)
特開2007-163393(JP,A)
特表平03-504639(JP,A)
特開2009-047432(JP,A)
特開昭64-035898(JP,A)
調査した分野 G21K 1/00-3/00
G21K 5/00-7/00
H05H 3/00-15/00
A61N 5/10
特許請求の範囲 【請求項1】
陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、等方性黒鉛、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン、炭化ケイ素、窒化ケイ素のいずれか、またはこれらの複合材料からなる放射化を低減させる非金属材料及びベリリウムから構成されることを特徴とする複合型ターゲット。
【請求項2】
前記ターゲットが前記放射化を低減させる非金属材料製の基板及び該基板の片面に付着された厚さ0.01mm以上1mm未満のベリリウムから構成されることを特徴とする請求項1に記載の複合型ターゲット。
【請求項3】
前記放射化を低減させる非金属材料が、かさ密度1.5g/cm~3.5g/cm3の範囲に
ある等方性黒鉛であることを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項に記載の複合型ターゲット。
【請求項4】
前記ターゲットの側部及び又は内部に冷媒の流路を設けた冷却機構を付帯することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合型ターゲット。
【請求項5】
陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、かさ密度1.5g/cm3~3.5g/cm3の範囲にある等方性黒鉛製の基板及び該基板の片面に付着された厚さ0.01m
m以上1mm未満のベリリウムから構成されており、少なくともターゲットの側部又は内部のうちのどちらか一方に冷媒の流路を設けた冷却機構を付帯することを特徴とする複合型ターゲット。
【請求項6】
陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるための中性子発生方法において、
陽子が4MeV以上11MeV未満の陽子であり、
ターゲットが請求項5の複合型ターゲットであり、
該ターゲットに前記陽子を真空下で衝突させることによって、核反応による中性子を発生させると共に核反応に伴って発生する熱を該ターゲットの冷却機構によって除熱することを特徴とする中性子発生方法。
【請求項7】
複合型ターゲットのベリリウム面が陽子の進行方向に対面していることを特徴とする請
求項6に記載の中性子発生方法。
【請求項8】
陽子発生のための水素イオン発生部と、
水素イオン発生部で発生する陽子を加速するための加速器と、
加速器によって加速された陽子を照射するための陽子照射部と、
照射部の陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットと、を備え、
前記加速器が線形加速器であり、
前記ターゲットが請求項5の複合型ターゲットであり、
該ターゲットのベリリウム表面が陽子の進行方向に対面するように前記陽子照射部の端部に配置されていることを特徴とする中性子発生装置。
【請求項9】
線形加速器が陽子を4MeV以上11MeV未満の範囲に加速することができる線形加速器であることを特徴とする請求項8に記載の中性子発生装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子をターゲットに衝突させることによって中性子を発生させるためのターゲット、陽子をターゲットに衝突させる中性子発生方法、及び陽子をターゲットに衝突させることによる中性子発生装置に関するものである。さらに詳しくは、従来よりも低エネルギーの陽子を用いて中性子を発生させるための新規のターゲット、新規のターゲットを用いた中性子発生方法、及び新規のターゲットを用いた中性子発生装置を提供するものであり、特に医療用の中性子を発生させるためのコンパクト性に優れた装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、選択的ながん治療として期待されているホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron
Neutron Capture Therapy)のための中性子の発生方法及び装置の研究開発が盛んに行わ
れている。これらは、例えば、特許文献1、2、3、4、5、6、及び7に開示されている。
【0003】
特許文献1は、高周波四重極線形加速器(RFQライナック:Radio Frequency Quadrupole Linac)の例えば30~40MeVの重陽子線をリチウムに衝突させてLi(d,n
)反応を起こさせ中性子を発生させ、中性子減速材を介して治療用の熱中性子・熱外中性子を発生させることを特徴としている。
【0004】
特許文献2は、中性子を発生させるためのターゲットに関し、大強度陽子線を衝突させるターゲットの冷却材に対する耐食性を改善するために、低水素吸収体であるNb、Pt、Au、Al、Be、Cr、ステンレス鋼又はその合金で被覆されたタングステンを用いることを特徴としている。
【0005】
特許文献3は、液体状のリチウム、又は核融合反応の触媒作用を持つ金属との合金の表面に重水素イオンビームを衝突させることによって非熱核融合反応を誘発することによって中性子を発生させることを特徴としている。
【0006】
特許文献4は、サイクロトロン等で発生させる20MeV以上のエネルギーを有する陽子線をタンタル、タングステン等の重金属に衝突させることによって核破砕反応物質を含む中性子を発生させ、同中性子を中性子減速部及び鉛で構成されるフィルターを介して有害な核破砕反応物質及び高速中性子を除去することによって治療用の熱中性子・熱外中性子を発生させることを特徴としている。
【0007】
特許文献5は、固定磁場強収束(FFAG:Fixed Field Alternating Gradient)-内部標的(ERIT:Emittance Recovery Internal Target)方式による中性子発生方法及び装置を開示している。そして、特許文献5は、サイクロトロン型の陽子貯蔵リングで周回増強された11MeV以上15MeV未満のエネルギーを有する陽子線又は重陽子線を同リング内に設けたベリリウム製のターゲットに衝突させることによって発生した中性子を重水等の減速材を介して治療用の熱中性子・熱外中性子に調整することを特徴としている。
【0008】
特許文献6は、RFQライナックやドリフトチューブライナックで加速された11MeV程度以上の陽子線を金属ターゲットに衝突させて中性子を発生させるためのターゲットを開示している。また、該ターゲットが金属ターゲットであり、好ましくはベリリウムで
あることが開示されている。そして、特許文献6は、該ターゲットの厚みが同ターゲット中における陽子線の飛程と略同等又はそれよりもわずかに大きくし、又、ターゲットを冷却するためにターゲットの伝熱面積と同程度以上の伝熱面積を有する金属板を介して冷却することを特徴としている。
【0009】
特許文献7は、線形加速器を用いて例えば11MeVの陽子線をベリリウム製のターゲットに衝突させることによって10keV以上の速中性子を発生させ、該速中性子を重水などの減速材を通過させることによって10keV未満の熱外中性子又は0.5eV以下の熱中性子に調整することを特徴としている。
【0010】
しかしながら、以上の特許文献1~7に開示された方法及び装置は、ターゲットに衝突させる陽子線又は重陽子線の加速エネルギーが少なくとも11MeVの高エネルギー陽子線を必要としている。そのため、以上の特許文献1~7に開示された方法及び装置では、陽子線又は重陽子線発生のための大型の加速器が必要であること、高エネルギー陽子線による部材の著しい放射化が生じること、ターゲットを冷却するための大型の冷却装置が必要であること、中性子発生用のターゲットの厚さが1mm以上であること、中性子発生用のターゲット材料が重金属等の金属製であるために人体に極めて有害であり且つ装置部材の放射化能も高い速中性子がかなり混在して発生しているので一次発生中性子を減速するための大がかりな減速装置が必要であること、有害且つ放射化能の高い陽子線、中性子及び核反応副生物質を吸収又は除去するための特殊な安全管理システムが必要であること、等の実用上における問題があった。
以上の問題を解決するためには、従来よりも加速エネルギーの低い低放射化能の陽子線を用いて有害性の低い低エネルギーの熱中性子・熱外中性子を効率的に発生させるためのターゲットの開発が切望されていたが、これまで上記問題を解決するようなターゲットは知られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開平11-169470号公報
【特許文献2】特開2000-162399号公報
【特許文献3】特開2003-130997号公報
【特許文献4】特開2006-47115号公報
【特許文献5】特開2006-155906号公報
【特許文献6】特開2006-196353号公報
【特許文献7】特開2008-22920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑み、従来よりも低エネルギーの陽子を用いて中性子を発生させるための新規のターゲット、従来よりも低エネルギーの陽子を新規のターゲットに衝突させることによる中性子発生方法、及び中性子発生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、従来よりも低エネルギーの陽子を用いることによって陽子による部材の放射化が顕著に低減されること、及び従来よりも低エネルギーの陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットとして非金属材料及びベリリウムを備えた複合型ターゲットが非常に有効であることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
1.陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、放射化を低減させる非金属材料及びベリリウムから構成されることを特徴とする複合型ターゲット。
2.ターゲットが非金属材料製の基板及び該基板の片面に付着された厚さ0.01mm以上1mm未満のベリリウムから構成されることを特徴とする上記1に記載の複合型ターゲット。
3.放射化を低減させる非金属材料が、かさ密度1.5g/cm~3.5g/cm3の範囲にあ
等方性黒鉛であることを特徴とする上記1及び2のいずれか一つに記載の複合型ターゲット。
4.ターゲットの側部及び又は内部に冷媒の流路を設けた冷却機構を付帯することを特徴とする上記1~3のいずれか一つに記載の複合型ターゲット。
5.陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、かさ密度1.5g/cm~3.5g/cm3の範囲にある等方性黒鉛製の基板及び該基板の片面に付着された厚さ0.0
1mm以上1mm未満のベリリウムから構成されており、ターゲットの側部及び又は内部に冷媒の流路を設けた冷却機構を付帯することを特徴とする複合型ターゲット。
6.陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるための中性子発生方法において、陽子が4MeV以上11MeV未満の陽子であり、ターゲットが上記5の複合型ターゲットであり、該ターゲットに前記陽子を真空下で衝突させることによって、核反応による中性子を発生させると共に核反応に伴って発生する熱を該ターゲットの冷却機構によって除熱することを特徴とする中性子発生方法。
7.複合型ターゲットのベリリウム面が陽子線の進行方向に対面していることを特徴とする上記6に記載の中性子発生方法。
8.陽子発生のための水素イオン発生部、水素イオン発生部で発生する陽子を加速するための加速器、加速器によって加速された陽子を照射するための陽子照射部、照射部の陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットを備える中性子発生装置において、前記加速器が線形加速器であり、前記ターゲットが上記5の複合型ターゲットであり、該ターゲットのベリリウム表面が陽子の進行方向に対面するように前記陽子照射部の端部に配置されていることを特徴とする中性子発生装置。
9.線形加速器が陽子を4MeV以上11MeV未満の範囲に加速することができる線形加速器であることを特徴とする上記8に記載の中性子発生装置に関する。

【発明の効果】
【0015】
本発明ターゲットは、ベリリウム及び非金属材料から構成される複合型ターゲットであるので、陽子との衝突による核反応を上記二種類の材料で分担して行うことがきる。複合型ターゲットを構成するベリリウム及び非金属材料が持つ陽子及び中性子に対する特有の物性によって、陽子及び中性子による放射化を低減できること、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子の吸収が低いこと、中性子の減速による速中性子の発生が抑制されること、核反応の分担によって核反応熱の除熱が容易であること、等の効果が得られる。また、本発明の複合型ターゲットでは、非金属材料が、ベリリウムの支持材及び冷却剤として機能しうるので、従来ターゲットとして用いられてきたベリリウムよりも薄いベリリウムを用いてもベリリウムの切断や溶融を防止できる副次的効果が得られる。これらの特徴によって、本発明の複合型ターゲットは、従来よりも低エネルギーの陽子を用いて、放射化を低減し且つ低エネルギーの中性子を安定的に発生しうる。
【0016】
また、本発明の中性子発生方法は、中性子発生用の陽子として従来よりも低エネルギーの陽子を用い、ターゲットとして非金属材料をベースにした複合型ターゲットを用いる。このため、本発明の中性子発生方法は、陽子による部材の放射化を著しく低減できること、及び小規模の方法によってBNCT等の医療用に適した中性子を選択的に発生できるという特長を有する。
【0017】
また、本発明の中性子発生装置は、従来のシンクロトロンやサイクロトロンに比べると
飛躍的に小型の加速器である線形加速器、及び線形加速器によって発生させる従来よりも低エネルギー・大電流の陽子線を用いて有害性の低い医療用中性子を効率的に発生可能な新規の複合型ターゲットを用いている。これにより、本発明の中性子発生装置は、有害且つ放射化能の高い速中性子(高速中性子)を防除するための大がかりな減速装置や大がかりな放射化防止装置を必ずしも必要としないという特長を有する。そのため、本発明の中性子発生装置は、小規模の医療機関に設置可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態に係る複合型ターゲットの構成を例示する断面構成図である。
【図2】冷却機構を付帯した複合型ターゲットの構成を例示する断面構成図である。
【図3】実施の形態に係る中性子発生方法を例示する概略図である。
【図4】実施の形態に係る中性子発生装置を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、従来よりも低エネルギーの陽子をベリリウム及び非金属材料から構成される複合型ターゲットに衝突させることによって中性子を発生させる。複合型ターゲットのベリリウム側では核反応9Be(p,n)反応が起きる。複合型ターゲットの非金属材料側
では、非金属材料が炭素である場合には、12C(p,n)反応が起きる。

【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の一側面を実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)として詳細に説明する。

【0021】
図1は、本実施形態に係る複合型ターゲットの構成を例示する概略図である。図1において、陽子を衝突させて中性子を発生させるための本実施形態に係る複合型ターゲット3は、非金属材料2及びベリリウム1から構成されるものであり、ベリリウム1の表面と非金属材料2の表面が境界面を介して接している構造を有する。こうすることによって、陽子の衝突による核反応を二種類の材料で分担させることができる。複合型ターゲット3を構成する一つの材料としてベリリウム(ベリリウム1)を選んだ理由は、放射化のレベルが重金属に比べて非常に低いこと、陽子との核反応による有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子の発生率が比較的高いこと、従来の水銀や液体リチウム等の液状ターゲットに比べて取扱が容易であること、及びベリリウムの融点が1278℃と比較的高いこと、等による。

【0022】
例えば、図1に示されるとおり、陽子の進行方向に対面するようにベリリウム1の表面を向けた場合、ベリリウム1の厚さを陽子の理論的飛程よりも薄くすることによって、陽子がベリリウム1を通過する過程で一部の陽子による核反応を起こさせ、残りの陽子による核反応を非金属材料2の通過過程で起こすように設計することができる。したがって、核反応による熱負荷が一種類の材料に集中することがないので、材料が負担する熱負荷を軽減することができる。

【0023】
複合型ターゲット3におけるベリリウム1の厚さは、陽子のベリリウム中での理論的飛程よりもかなり薄くすることができる。なぜなら、非金属材料2がベリリウム1の支持材及び冷却剤として機能しうるからである。また、上記理由により各材料が負担する熱負荷を軽減されるからである。例えば、11MeVの陽子のベリリウム中での理論的飛程は約0.94mmであるので、従来のベリリウムだけから構成されているターゲットの場合には、ベリリウムは1mm以上の厚みが必要であった。しかし、本実施形態に係る複合型ターゲット3におけるベリリウム1は、1mmよりもかなり薄くすることが可能である。本発明の複合型ターゲットにおけるベリリウムの厚さは、好ましくは0.01mm以上であり1
mm未満である。さらに好ましくは、ベリリウムの厚さは、0.1mm以上であり0.5mm以下である。ベリリウムの厚さが0.01mm未満であると耐熱性が著しく低下するので0.01m
m以上であることが好ましい。また、陽子の衝突による核反応の一部をベリリウムで分担させるためには、ベリリウムの厚さは1mm未満であることが好ましい。

【0024】
図1(本実施形態に係る複合型ターゲット3)は、本発明の複合型ターゲットにおけるベリリウム面の表面積を特に限定するものではない。通常、ターゲットの単位面積当たりの熱負荷の最大値は、陽子の出力を陽子の照射面積で割った値とみなされるので、ベリリウム表面からの除熱能力は、ターゲットの熱負荷以上に設計しなければならない。例えば、BNCT等の医療用の中性子を発生するために必要な陽子の出力は、最大約30kWであると試算されているので、例えば、陽子の加速エネルギーが12MeVであり、陽子の照射面積が直径60mmであるとすると、熱負荷は、約10MW/m2にもなる。従来は、一種類のターゲット材料を用いていたので、例えば、厚み2mm、直径60mmのベリリウムを
用いた場合には、ベリリウム表面の水冷による直接冷却法が困難であるために、ベリリウムよりも表面積の大きい熱伝導板を介した直接冷却法が提案されている(特許文献6)。しかし、本発明では、二種類の材料から構成される複合型ターゲットを用いることでベリリウムの熱負荷を軽減できるので、ベリリウムの表面積の限定を必要としない。

【0025】
複合型ターゲットのもう一つの材料を非金属材料とする理由は、主として、照射陽子及び発生中性子による放射化を軽減して、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子を発生させる上で非金属材料が金属類に比べて好ましいからである。本発明の複合型ターゲットを構成する非金属材料は、中性子発生効率が高く且つ放射化されにくい材料であることが好ましく、熱・熱外中性子の吸収が少ないことが好ましく、中性子減速効果が高いことが好ましく、陽子との核反応を効率的に行うために高密度であることが好ましく、放射線耐性が高いことが好ましく、熱負荷に耐えるために高融点であることが好ましく、ベリリウムで発生した熱を除熱するために熱伝導性に優れていることが好ましく、ベリリウムとの付着性に優れていることが好ましい。このような非金属材料としては、例えば、等方性黒鉛、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、及びこれらの複合材料を挙げることができる。これらの材料の中で、等方性黒鉛はバランスのとれた上記の物性を有するので最も好ましい。本発明における等方性黒鉛は、通常、かさ密度が1.5g/cm3~3.5g/cm3の範囲にあるものが使用可能である。従来の等方性黒鉛が使用可能であり、より高密度に改良された等方性黒鉛はより好ましい。


【0026】
なお、本発明は、複合型ターゲットにおけるベリリウムと非金属材料の厚さ方向の比率を特に限定するものではない。本発明は、当該比率を、用いる非金属材料や照射陽子の加速エネルギーに応じて適宜設定することができるが、通常は、非金属材料の厚さをベリリウムの厚さの10倍以上に設定する。

【0027】
図1に示すように、本実施形態に係る複合型ターゲット3は、ベリリウム1の表面と非金属材料2の表面が境界面を介して接している構造を有する。このような構造は、比較的厚いベリリウム1の場合には、例えば、非金属材料2の片面にベリリウム1をホットプレスやHIP処理を施すことによって作製することができる。他方、比較的薄いベリリウムの場合には、例えば、非金属材料の片面にベリリウムを蒸着することによって作製することができる。

【0028】
また、本発明に係る複合型ターゲットにおける非金属材料の全面を所望に応じてチタン等の放射線耐性・耐腐食性の金属材料を用いて被覆することによってターゲット全体を真空下に置くことで、大気に接することによる酸化性の雰囲気での酸化劣化を防止することができる。

【0029】
図2は、実施の形態に係る冷却機構を付帯した複合型ターゲットを例示する概略図であ
る。図2に示されるとおり、本実施形態に係る冷却機構を付帯した複合型ターゲット7は、ベリリウム1、非金属材料2、複合型ターゲットの側部に設けられた冷却機構4、複合型ターゲットの内部に設けられた冷却機構5、及び伝熱板6を備える。

【0030】
本発明の複合型ターゲットは、ターゲットでの核反応に伴って発生する反応熱を除熱するために冷却機構を付帯することが好ましい。冷却機構は、複合型ターゲットの側部及び又は内部に冷媒の流路を設けた冷却機構であることが冷却効率を高める上で好ましい。図2に示すように、複合型ターゲットの側部に冷却機構(冷却機構4)を設ける場合には、熱伝導性の高い金属板(伝熱板6)を介して水冷する方法が好ましい。また、複合型ターゲットの内部に冷却機構(冷却機構5)を設ける場合には、該複合型ターゲットの非金属材料の内部に冷媒の流路を設けるのが好ましく、冷媒としてヘリウムガス等の熱伝導性の高い気体を用いるのが好ましい。また、本発明の複合型ターゲットは、ターゲットと冷却機構とが一体化したカートリッジ型構造とすることが可能である。

【0031】
図3は、実施の形態に係る中性子発生方法を例示する概略図である。図3における矢印8は、複合型ターゲット7に衝突させる陽子の流れを示す。また、図3における矢印9は、発生した中性子の流れを示す。

【0032】
本実施形態に係る中性子発生方法では、図2に示される複合型ターゲット7に従来よりも低エネルギーの陽子を真空下で衝突させることによって有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子を発生させる。本実施形態では、ターゲットとして、等方性黒鉛製の基板(非金属材料2)及び該基板の片面に付着された厚さ0.01mm以上1mm未満のベリリウム1から構成される複合型ターゲット7を用いる。これにより、本実施形態に係る中性子発生方法では、放射化のレベルが重金属に比べて非常に低いこと、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子の発生効率が重金属に比較して小さいこと、核反応に伴う熱負荷をベリリウムだけに負担させることを防止することができるので除熱のための冷却機構をコンパクトにすることができる等の効果が得られる。また、ターゲットの側部及び又は内部に冷媒の流路を設けた冷却機構を付帯しているので、複合型ターゲット7の冷却効率を高めることができる。図3に示すように、複合型ターゲット7の側部に冷却機構4を設ける場合には、熱伝導性の高い金属板(伝熱板6)を介して水冷する方法が好ましい。また、複合型ターゲット7の内部に冷却機構5を設ける場合には、該複合型ターゲット7の非金属材料2の内部に冷媒の流路を設けるのが好ましく、冷媒としてヘリウムガス等の熱伝導性の高い気体を用いるのが好ましい。


【0033】
本発明における中性子発生方法において使用する陽子の加速エネルギーは4MeV以上11MeV未満であることが好ましく、より好ましくは6MeV以上8MeV以下である。陽子の加速エネルギーが4MeV未満であると中性子の発生効率が著しく低下するので、本発明において使用する陽子の加速エネルギーは4MeV以上であることが好ましい。また、陽子の加速エネルギーが11MeV以上であると部材の放射化が著しくなるだけでなく速中性子の発生が多くなり、毒性の高いトリチウム等の放射性物質が副生することもあるので、本発明において使用する陽子の加速エネルギーは11MeV未満であることが好ましい。部材の放射化を低減させ、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子を選択的に発生するためにより好ましい陽子の加速エネルギーは、6MeV以上8MeV以下である。

【0034】
なお、本実施形態に係る中性子発生方法において、陽子と複合型ターゲット7の衝突を真空下で行うのは、陽子の空気散乱及び空気汚染を防止するためである。

【0035】
本実施形態において、図3に示すように、複合型ターゲット7のベリリウム1の表面を
陽子の進行方向に対面するように設けるのは、陽子との核反応の多くの部分を最初の反応で発生させる上でベリリウムが好ましいからである。非金属材料の表面を陽子の進行方向に向けることも可能ではあるが、非金属材料は密度が低いので照射陽子の減速のためには肉厚の材料が必要となり、ベリリウムの表面を陽子の進行方向に向ける場合と比べて好ましくない。

【0036】
本発明における中性子発生方法によって発生させることができる中性子は、熱中性子又は熱外中性子を多く含む低エネルギー中性子である。低エネルギー中性子とは、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された中性子のことである。速中性子は、熱中性子又は熱外中性子に比べてエネルギーが二桁以上高いので生物学的に有害であり且つ放射化能が極めて高い。中性子の種類には、速中性子、熱外中性子、熱中性子、及び冷中性子があるが、これらの中性子は、エネルギー的に明確に区分されているものではなく、炉物理、遮へい、線量計測、分析、医療などの分野によってエネルギー区分が異なる。例えば、原子力防災基礎用語によれば、「速中性子とは、中性子のうち、大きな運動量をもつものを速中性子(高速中性子)とよび、炉物理、遮へい、線量計測などの分野によってこの値は異なるが、0.5MeV以上を速中性子というのが一般的である」と記述されている。また、医療分野では熱外中性子とは、1eV~10keVの範囲の中性子というのが一般的であり、熱中性子とは、0.5eV以下の中性子というのが一般的である。本発明でいう低エネルギー中性子とは、0.5MeV以上の速中性子が低減された中性子のことをいう。照射陽子のエネルギーが8MeVを超えると0.5MeV以上の中性子が含まれることもあるが、その程度は従来の一次中性子に比べてかなり低減することができる。

【0037】
図4は、実施の形態に係る中性子発生装置の構成を例示する概略図である。図4に示されるとおり、本実施形態に係る中性子発生装置は、複合型ターゲット7、水素イオン発生器13、線形加速器14、及び陽子照射部15を備える。

【0038】
図4において、本実施形態に係る中性子発生装置における陽子を発生させるための加速器は、線形加速器(線形加速器14)である。従来は、ターゲットに衝突させるための陽子として11MeV以上の高エネルギー陽子を用いるためにシンクロトロンやサイクロトロン等の大型加速器を用いていたが、本発明は4MeV以上11MeV未満の陽子を用いるので、線形加速器でも十分に所要とする大電流の陽子を発生することができる。なお、図4における矢印11は、加速陽子の流れを示す。

【0039】
上記線形加速器の一端には水素イオン発生器13が設けられ、該水素イオン発生器13からの水素イオンは荷電粒子変換膜を通して加速空洞に入射し、加速される。図4における矢印10は、該水素イオンの流れを示す。本発明の水素イオン発生部(本実施形態では、水素イオン発生器13)は、特に限定されるものではなく、従来のプロトン発生器、負水素イオン発生器、等を用いることができる。加速空洞としては、高周波加速空洞、DC加速空洞、常伝導加速空洞、超伝導加速空洞等を用いることができる。

【0040】
本発明の陽子照射部(本実施形態では、陽子照射部15)としては、特に限定されるものではなく、従来の四重極電磁石及び偏向電磁石を備える陽子照射部を用いることができる。なお、図4における矢印12は、照射陽子の流れを示す。また、図4における矢印は、発生した中性子の流れを示す。

【0041】
上記線形加速器14で加速された陽子は、同線形加速器14の先端部に連結された陽子照射部15に導かれ、同陽子照射部15の先端に設けられた複合型ターゲット7に衝突して、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子を発生させる。複合型ターゲット7は、図2に示すような冷却機構を付帯した複合型ターゲットである。すなわち、該複合型ターゲット7のベリリウム面は、陽子の進行方向に対面するように設け
られている。また、複合型ターゲット7に付帯される冷却機構は、図2に示すように複合型ターゲットの側部及び又は内部に冷媒の流路を設けた冷却機構である。前記記載のように、複合型ターゲット7は、ターゲットと冷却機構とが一体化したカートリッジ型構造とすることが可能である。本実施形態に係る中性子発生装置は、これを半自動脱着構造を有する真空フランジを介して加速器の先端部分に設けるので、ターゲットの劣化に際して、新品との着脱交換を遠隔操作によって簡易に行うことができるという特長を持っている。

【0042】
以上のように、本発明は、陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるための新規の複合型ターゲット、該複合型ターゲットを用いる中性子発生方法及び装置である。以上までにおいて説明した実施の形態は、照射陽子の加速エネルギーが4MeV以上11MeV未満の低エネルギーの陽子であるので陽子による部材の放射化が著しく低減されること、有害な速中性子の発生が抑制されること、加速陽子を小型の線形加速器で発生可能であること、ターゲットとしてベリリウム及び非金属材料から構成される複合型ターゲットを用いるので、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子の選択的な発生が可能であること、核反応に伴う反応熱の除熱が容易であること、冷却機構がターゲットに付帯されているので、効率的な冷却が可能であること、ターゲットと冷却機構とが一体化したカートリッジ型構造とすることが可能であるので、上記ターゲットを陽子照射部の先端部分に設け、ターゲットの劣化に際して、新品との着脱交換を遠隔操作によって簡易に行うことができるという特色を持っている。

【0043】
また、上述のとおり、該複合型ターゲットに含まれる非金属材料は、中性子減速効果を備えうる。そして、該複合型ターゲットでは、速中性子の発生が低減される。これにより、以上までにおいて説明した実施の形態では、発生中性子を減速するための減速機構を小型化することができる。

【0044】
したがって、本発明に係る中性子発生装置は、BNCT等の医療用の中性子を発生するための医療用中性子発生装置として、小規模の医療機関においても設置可能である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例などを挙げて本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
図1~4に示す方法及び装置を用いて中性子発生実験を行った。水素イオン発生器によって発生させた水素イオンを長さ約6.5mの常伝導線形加速器に導入し、10-6パスカルの真空下、4MeVに加速し、照射部に送り、複合型ターゲットに衝突させることによって中性子を発生させた。複合型ターゲットとしては、直径165mm、厚さ30mmの等方性黒鉛(東洋炭素株式会社製造品:IG15、かさ密度1.90g/cm3)の片面に厚さ0.1mmのベリリウムを付着させた複合型ターゲットを用い、これをベリリウム面が陽子の進行方向に対して垂直になるように陽子照射部の先端部分にフランジを介して取り付けた。冷却は、複合型ターゲットの側面に厚さ1mmの銅板を巻き付けその上に環状の水冷ジャケットを取り付け、ターゲット全体を水冷した。100時間運転後に中性子発生装置全体の放射化の程度をサーベイメーターによって測定した。また、発生した中性子のエネルギー分布を特開2008-243634号公報に成るガス放射線検出器を用いて測定した。
【実施例】
【0046】
[実施例2]
照射陽子の加速エネルギーを8MeVとし、複合型ターゲットにおけるベリリウムの厚みを0.5mmとした以外には、実施例1と同様の方法で中性子を発生させ、放射化の程度及び中性子のエネルギー分布を測定した。
【実施例】
【0047】
[実施例3]
照射陽子の加速エネルギーを10MeVとし、複合型ターゲットにおけるベリリウムの厚みを0.6mmとした以外には、実施例1と同様の方法で中性子を発生させ、放射化の程度及び中性子のエネルギー分布を測定した。
【実施例】
【0048】
[比較例1]
比較のために、実施例1の線形加速器を用いて加速した12MeVの陽子をターゲットに照射して中性子を発生させた。ターゲットとして、直径165mm厚さ2mmのベリリウム製ターゲットを用いた。該ベリリウム製ターゲットは、ベリリウムの片面に直径165mm厚さ1mmの銅板を張り付け、該銅板の上に水冷ジャケットを取り付けて水冷した。このターゲットを陽子照射部の先端部分にフランジを介して取り付けた。放射化の程度及び中性子のエネルギー分布を実施例1と同様の測定器を用いて測定した。
【実施例】
【0049】
実施例1~3及び比較例1によって測定された放射化の程度及び中性子のエネルギー分布から得られた実験結果を表1に示す。
【表1】
JP0005697021B2_000002t.gif
【実施例】
【0050】
以上の結果から、本発明方法及び装置を用いて、従来の方法及び装置に比べて陽子による部材の放射化を著しく低減できること、及び減速材を使用しなくても速中性子の発生を著しく低減させることが可能であることが確認された。本発明の中性子発生装置は線形加速器を備える小型の陽子発生装置に複合型ターゲットを装着した小型の中性子発生装置であるので、小規模の医療機関においても容易に設置可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、4MeVから11MeV未満の範囲にある低エネルギーの陽子を用いるので陽子による部材の放射化を低減することができる。そして、本発明は、この陽子を、冷却機構を付帯した非金属材料及びベリリウムから構成される複合型ターゲットに衝突させることによって核反応の一部を非金属材料に分担させることが可能であり、且つ有害な速中性子が低減された低エネルギー中性子の安定した発生が可能である。したがって、本発明は、BNCT等の医療用の中性子発生方法及び装置として非常に有益であり、小規模の医療機関においても容易に設置可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 ベリリウム
2 非金属材料
3 複合型ターゲット
4 側部に設けた冷却機構
5 内部に設けた冷却機構
6 伝熱板
7 冷却機構を付帯した複合型ターゲット
8 陽子の流れ
9 中性子の流れ
10 水素イオンの流れ
11 加速陽子の流れ
12 照射陽子の流れ
13 水素イオン発生器
14 線形加速器
15 陽子照射部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3