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明細書 :複合型ターゲット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5700536号 (P5700536)
公開番号 特開2012-186012 (P2012-186012A)
登録日 平成27年2月27日(2015.2.27)
発行日 平成27年4月15日(2015.4.15)
公開日 平成24年9月27日(2012.9.27)
発明の名称または考案の名称 複合型ターゲット
国際特許分類 H05H   6/00        (2006.01)
G21K   5/08        (2006.01)
G21G   1/10        (2006.01)
G21K   5/02        (2006.01)
H05H   3/06        (2006.01)
FI H05H 6/00
G21K 5/08 C
G21G 1/10
G21K 5/02 N
H05H 3/06
請求項の数または発明の数 5
全頁数 13
出願番号 特願2011-048187 (P2011-048187)
出願日 平成23年3月4日(2011.3.4)
審査請求日 平成26年2月28日(2014.2.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
発明者または考案者 【氏名】松本 浩
【氏名】小林 仁
【氏名】吉岡 正和
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100090516、【弁理士】、【氏名又は名称】松倉 秀実
【識別番号】100113608、【弁理士】、【氏名又は名称】平川 明
【識別番号】100138357、【弁理士】、【氏名又は名称】矢澤 広伸
審査官 【審査官】林 靖
参考文献・文献 特開2009-204428(JP,A)
特開昭64-035898(JP,A)
調査した分野 G21K 1/00-3/00
G21K 5/00-7/00
H05H 3/00-15/00
G21G 1/00-5/00
特許請求の範囲 【請求項1】
陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、ベリリウムと非金属材料の張り合わせによる複合、ベリリウムと非金属材料の混合による複合、多孔性の非金属材料にベリリウムを担持する複合、ベリリウムと非金属材料の化合による複合のいずれかの複合、又はこれらの組み合わせによる複合を施して成る複合型ターゲットであり、前記非金属材料が等方性黒鉛、多孔性カーボン、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブ、フラーレン、ポリアセチレン、カルビン、グラフェン、窒化炭素、炭化ケイ素、ケイ素、窒化ケイ素のいずれか又はこれらの複合材料であり、前記ベリリウムが、ベリリウム表面に凹凸を施す、多孔性の非金属材料にベリリウムを担持させる、非金属材料にベリリウムをコーティングする、ベリリウムを粉末加工する、ベリリウムに傾斜面を施すことのいずれか、又はこれらの組み合わせによって、陽子線の進行方向に対して垂直なベリリウムの照射平面積以上の表面積を有することを特徴とする複合型ターゲット。
【請求項2】
凹凸表面を持つ非金属材料の前記凹凸表面上にベリリウムを付着させたことを特徴とする請求項1に記載の複合型ターゲット。
【請求項3】
前記非金属材料が、嵩密度1.5g/cm3~3.5g/cm3の範囲にある等方性黒鉛とこれ以外の少なくとも一つの非金属材料を複合して成る非金属系の複合材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合型ターゲット。
【請求項4】
陽子の照射面を除く複合型ターゲットの表面をチタン、窒化チタン、マグネシウム、アルミニウム、スズ、亜鉛、ケイ素のいずれかである放射化しにくい軽金属材料を用いて被覆したことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合型ターゲット。
【請求項5】
少なくともターゲットの内部にヘリウムを含む熱伝導性の高い気体冷媒の流路を設けた冷却機構を付帯することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の複合型ターゲット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子をターゲットに衝突させることによって中性子を発生させるための中性子発生用ターゲットに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、陽子による放射化能の低減、及び有害且つ放射化能の高い速中性子の低減が可能であり、且つ陽子とターゲット材料の衝突によって発生する熱を効率的に除熱することが可能な新規の中性子発生用ターゲットを提供するものであり、特に医療用の中性子を発生させるためのコンパクト性に優れた中性子発生用ターゲットを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、選択的ながん治療として期待されているホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)のための中性子の発生方法及び装置の研究開発が盛んに行
われている。これらは、例えば、特許文献1、2、3、4、5、6、及び7に開示されている。
【0003】
特許文献1は、高周波四重極線形加速器(RFQライナック:Radio Frequency Quadrupole Linac)の例えば30~40MeVの重陽子線を液体状のリチウムターゲットに衝突させてLi(d,n)反応を起こさせ中性子を発生させ、中性子減速材を介して治療用の熱中性子・熱外中性子を発生させることを特徴としている。
【0004】
特許文献2は、中性子を発生させるためのターゲットに関し、大強度陽子線を衝突させるターゲットの冷却材に対する耐食性を改善するために、低水素吸収体であるNb、Pt、Au、Al、Be、Cr、ステンレス鋼又はその合金で被覆されたタングステンを用いることを特徴としている。
【0005】
特許文献3は、液体状のリチウム、又は核融合反応の触媒作用を持つ金属との合金の表面に重水素イオンビームを衝突させることによって非熱核融合反応を誘発することによって中性子を発生させることを特徴としている。
【0006】
特許文献4は、サイクロトロン等で発生させる20MeV以上のエネルギーを有する陽子線をタンタル、タングステン等の重金属に衝突させることによって核破砕反応物質を含む中性子を発生させ、同中性子を中性子減速部及び鉛で構成されるフィルターを介して有害な核破砕反応物質及び高速中性子を除去することによって治療用の熱中性子・熱外中性子を発生させることを特徴としている。
【0007】
特許文献5は、固定磁場強収束(FFAG:Fixed Field Alternating Gradient)-内部標的(ERIT:Emittance Recovery Internal Target)方式による中性子発生方法及び装置を開示している。そして、特許文献5は、サイクロトロン型の陽子貯蔵リングで周回増強された11MeV以上15MeV未満のエネルギーを有する陽子線又は重陽子線を同リング内に設けたベリリウム製のターゲットに衝突させることによって発生した中性子を重水等の減速材を介して治療用の熱中性子・熱外中性子に調整することを特徴としている。
【0008】
特許文献6は、RFQライナックやドリフトチューブライナックで加速された11MeV程度以上の陽子線を金属ターゲットに衝突させて中性子を発生させるための金属製ターゲットを開示しており、該ターゲットが、好ましくはベリリウムであることが開示されている。そして、特許文献6は、該ターゲットの厚みが同ターゲット中における陽子線の飛程と略同等又はそれよりもわずかに大きくし、又、ターゲットを冷却するためにターゲッ
トの伝熱面積と同程度以上の伝熱面積を有する金属板を介して冷却することを特徴としている。
【0009】
特許文献7は、線形加速器を用いて例えば11MeVの陽子線をベリリウム製のターゲットに衝突させることによって10KeV以上の速中性子を発生させ、該速中性子を重水等の減速材を通過させることによって10KeV未満の熱外中性子又は0.5eV以下の熱中性子に調整することを特徴としている。
【0010】
しかしながら、以上の特許文献1~7に開示された方法及び装置は、ターゲットに衝突させる陽子線又は重陽子線の加速エネルギーが少なくとも11MeVの高エネルギー陽子線を必要としている。そのため、以上の特許文献1~7に開示された方法及び装置では、陽子線又は重陽子線発生のための大型の加速器が必要であること、高エネルギー陽子線による部材の著しい放射化が生じること、ターゲットを冷却するための大型の冷却装置が必要であること、固体状ターゲットの場合にターゲットの溶断を防止するために厚さ1mm以上の高融点金属材料を中性子発生材料又はその支持材として用いていること、金属製支持材が核反応によって生じる活性水素によって脆化し、中性子発生材料が剥離すること、中性子発生用のターゲット材料が重金属等の金属製であるために人体に極めて有害であり且つ装置部材の放射化能も高い速中性子がかなり混在して発生しているので一次発生中性子を減速するための大がかりな減速装置が必要であること、有害且つ放射化能の高い陽子線、中性子及び核反応副生物質を吸収又は除去するための特殊な安全管理システムが必要であること、等の実用上における問題があった。特に、特許文献6にみられるように、固体状ターゲットを用いる場合にはターゲットで発生する熱の除熱が必須であることから、ベリリウム製ターゲットを支持するための金属製支持材の伝熱面積を大きくする工夫が提案されたが、熱応力による接着界面の剥離や活性水素による支持材の脆化及び剥離を防止することは困難であった。
【0011】
以上の問題を解決するためには、従来よりも加速エネルギーの低い低放射化能の陽子線と薄いターゲット材料を用いて有害性の低い低エネルギーの熱中性子・熱外中性子を効率的に発生させるためのターゲットの開発が切望されていたが、これまで上記問題を解決するようなターゲットは殆ど知られていないのが現状である。そのため、本発明者らは、先に、特願2010-264724号を出願し、上記問題を解決することが可能な複合型の新規ターゲットを提案した。該複合型ターゲットは、ベリリウムと非金属材料から成る複合型ターゲットであるので、陽子との衝突による核反応を上記二種類の材料で分担して行うことができる。そして、該複合型ターゲットは、ターゲットを構成するベリリウム及び非金属材料が持つ陽子及び中性子に対する特有の物性によって、陽子及び中性子による放射化を低減できること、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子の吸収が低いこと、非金属材料が持つ中性子の減速機能によって速中性子の発生が抑制されること、核反応の分担によって核反応熱の除熱が容易であること、非金属材料がベリリウムの支持材及び冷却材として機能しうるので、従来ターゲットとして用いられてきたベリリウムよりも薄いベリリウムを用いてもベリリウムの切断や溶融を防止できる、等の顕著な効果を有するものである。
【先行技術文献】
【0012】

【特許文献1】特開平11-169470号公報
【特許文献2】特開2000-162399号公報
【特許文献3】特開2003-130997号公報
【特許文献4】特開2006-47115号公報
【特許文献5】特開2006-155906号公報
【特許文献6】特開2006-196353号公報
【特許文献7】特開2008-22920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑み、従来よりも、陽子による放射化能の低減、及び有害且つ放射化能の高い速中性子の低減が可能であり、且つターゲット材料の熱問題や水素脆化の問題を根本的に解決することが可能な中性子発生用ターゲットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、先に本発明者等が提案したベリリウム及び非金属材料から成る複合型ターゲットを構成するベリリウム及び非金属材料の表面形状等を工夫することによって、従来よりも、陽子による放射化能の低減、及び有害且つ放射化能の高い速中性子の低減が可能であるだけでなく、且つターゲット材料の熱問題や水素脆化の問題を根本的に解決することが可能であることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の複合型ターゲットは、陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、ベリリウム及び非金属材料を複合して成る複合型ターゲットであり、該ベリリウムが、陽子線の進行方向に対して垂直な平面積以上の表面積を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の別態様として、上記複合型ターゲットは、凹凸表面を持つ非金属材料上にベリリウムを付着させてもよい。
【0017】
また、本発明の別態様として、上記複合型ターゲットの非金属が、嵩密度1.5g/c
3~3.5g/cm3の範囲にある等方性黒鉛とこれ以外の少なくとも一つの非金
属材料を複合して成る非金属系の複合材料であってもよい。
【0018】
また、本発明の別態様として、陽子の照射面を除く上記複合型ターゲットの表面が被覆されていてもよい。
【0019】
また、本発明の別態様として、上記複合型ターゲットは、少なくともターゲットの側部又は内部のうちのどちらか一方に冷媒の流路を設けた冷却機構を付帯させてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、前記に述べたように、ベリリウム及び非金属材料が持つ陽子及び中性子に対する特有の物性によって、陽子及び中性子による放射化を従来よりも顕著に低減できるだけでなく、ターゲット材料の水素脆化を防止できること、ベリリウム及び非金属材料の表面形状等を工夫することによってベリリウムで発生する熱の除熱が容易であること、付着ベリリウムの剥離を防止できること、等の効果が得られる。これらの特徴によって、本発明は、従来よりも低エネルギーの陽子を用いて、放射化を低減し且つ低エネルギーの中性子を安定的に発生しうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係るベリリウム及び非金属材料を複合して成る複合型ターゲットを例示する断面図である。
【図2】実施の形態に係るベリリウム及び非金属材料の複合がベリリウムと非金属材料の混合による複合である複合型ターゲットを例示する断面図である。
【図3】実施の形態に係るベリリウム及び非金属材料の複合が非金属材料にベリリウムを担持させる複合である複合型ターゲットを例示する断面図である。
【図4】実施の形態に係る非金属材料が凹凸表面を有する非金属材料である複合型ターゲットを例示する断面図である。
【図5】実施の形態に係る非金属材料が等方性黒鉛と他の非金属材料の複合材料である複合型ターゲットを例示する断面図である。
【図6】実施の形態に係るターゲットの表面を被覆した複合型ターゲットを例示する断面図である。
【図7】実施の形態に係るターゲットの側部及び内部に冷却機構を備えた複合型ターゲットを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、ベリリウム及び非金属材料から成る中性子発生用複合型ターゲットであり、ベリリウムの部分では、核反応9Be(p, n)反応を起こさせ、非金属材料の部分では
、非金属材料が炭素である場合には、核反応12C(p, n)反応を起こさせる。反応によって副生する活性水素によるターゲット材料の脆化の問題やターゲットの発熱による熱問題を根本的に解決することが可能である。

【0023】
本発明は、ベリリウム及び非金属材料を複合して成る複合型ターゲットである。本発明の複合とは、ベリリウムの表面と非金属材料の表面が境界面を介して接している構造をなすことをいう。複合は、例えば、ベリリウムと非金属材料の張合せによる複合、ベリリウムと非金属材料の混合による複合、多孔性の非金属材料にベリリウムを担持する複合、ベリリウムと非金属材料の化合による複合、等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、本発明で用られる非金属材料は、単一材料でもよいし、複数の非金属材料を適宜複合して成る非金属系の複合材料とすることもできる。こうすることによって、陽子の衝突による核反応を複数の材料で分担させることができる。複合型ターゲットを構成する一つの材料としてベリリウムを選んだ理由は、放射化のレベルが重金属に比べて非常に低いこと、陽子との核反応による有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子の発生率が比較的高いこと、従来の水銀や液体リチウム等の液状ターゲットに比べて取扱が容易であること、及びベリリウムの融点が1278℃と比較的高いこと、等による。なお、本発明でいう低エネルギー中性子とは、0.5MeV以上の速中性子が低減された中性子のことをいう。

【0024】
本発明複合型ターゲットにおけるベリリウムの厚さは、陽子のベリリウム中での理論的飛程よりもかなり薄くすることができる。なぜなら、非金属材料がベリリウムの支持材及び冷却材として機能しうるからである。また、上記理由により各材料が負担する熱負荷を軽減されるからである。例えば、11MeVの陽子のベリリウム中での理論的飛程は、約0.94mmであるので、従来のベリリウムだけから構成されているターゲットの場合には、1mm以上の厚みが必要であった。しかし本発明複合型ターゲットにおけるベリリウムは、1mmよりもかなり薄くすることが可能である。本発明複合型ターゲットにおけるベリリウムの厚さは、好ましくは0.01mm以上であり、1mm未満である。耐熱性を維持し、且つ陽子の衝突による核反応の一部をベリリウムで分担させるためには、ベリリウムの厚さは、0.1mm以上であり0.5mm以下である。ベリリウムの厚さが0.01mm未満であると耐熱性が低下するので0.01mm以上であることが好ましい。また陽子の衝突による核反応の一部をベリリウムで分担させるためには、ベリリウムの厚さは1mm未満であることが好ましい。

【0025】
本発明複合型ターゲットにおけるベリリウム面の表面積は、特に限定するものではないが、陽子線の進行方向に対して垂直な平面積以上の表面積にする。通常、ターゲットの単位面積当たりの熱負荷の最大値は、陽子の出力をターゲットの表面積で割った値とみなされるので、ベリリウム表面からの除熱能力は、ターゲットの熱負荷以上に設計しなければ
ならない。例えば、BNCT等の医療用の中性子を発生させるために必要な陽子の出力は、最大約30kWであると試算されているので、例えば、ターゲットの表面積が30cm2であるとすると、熱負荷は10MW/m2にもなる。この熱負荷は、例えば、厚み1mm
、底面積30cm2の板状のベリリウムを用いた場合には、ベリリウムの温度を毎秒約3
000度上昇させるに等しい熱負荷である。従来は、一種類のターゲット材料を用いていたので、例えば、厚み1mm、表面積30cm2のベリリウムを用いた場合には、ベリリ
ウム表面の水冷による直接冷却法が困難であるために、ベリリウムよりも表面積の大きい熱伝導板を介した直接冷却法が提案されている(特許文献6)。しかし、本発明は、複数の材料を複合して成る複合型ターゲットを用いることでベリリウムの熱負荷を軽減できるので、ベリリウムの表面積の限定を必要としないが、このような大きな熱負荷を低減させるために、ベリリウムの表面積を陽子の進行方向に対して垂直な平面積以上の値にする。好ましくは、ベリリウムの表面積を陽子の進行方向に対して垂直な平面積の2倍以上の値にする。こうすることによって、ベリリウムの照射平面積当たりの熱負荷を2分の1以下に軽減することができるので、特別大きな熱伝導板を用いなくても容易に除熱が可能となる。ベリリウムの表面積を大きくするには、例えば、ベリリウム表面に凹凸を施す、多孔性の非金属材料にベリリウムを担持させる、非金属材料にベリリウムをコーティングする、ベリリウムを粉末加工する、ベリリウムに傾斜面を施す、等によって可能である。例えば、ベリリウム表面を四角錐形状にすることによって、表面積を平面積の4倍大きくすることができる。多孔性の非金属材料にベリリウムを担持させることによって、ベリリウムの表面積を飛躍的に大きくすることができるだけでなく、非金属材料の伝熱面積も飛躍的に大きくすることが可能である。ベリリウムの表面加工は、例えば、レーザーアブレーション、エッチング、鋳型成形、等の方法によって可能である。

【0026】
複合型ターゲットのもう一つの材料を非金属材料とする理由は、主として、陽子及び中性子による放射化を軽減して、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子を発生させる上で非金属材料が金属類に比べて好ましいからである。本発明の非金属材料とは、周期律表における三族元素であるホウ素、四族元素である炭素及びケイ素、五族元素である窒素及び燐、六族元素である酸素及び硫黄、及び七族元素であるハロゲンなどの非金属元素を元にした材料のことをいう。本発明で用いる非金属材料は、中性子発生効率が高く且つ放射化されにくい材料であることが好ましく、熱・熱外中性子の吸収が少ないことが好ましく、中性子減速効果が高いことが好ましく、陽子との核反応を効率的に行うために高密度であることが好ましく、放射線耐性が高いことが好ましく、熱負荷に耐えるために高融点であることが好ましく、ベリリウムで発生した熱を除熱するために熱伝導性に優れていることが好ましく、ベリリウムとの付着性に優れていることが好ましい。このような非金属材料としては、例えば、等方性黒鉛、多孔性カーボン、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブ、フラーレン、ポリアセチレン、カルビン、グラフェン、窒化炭素、炭化ケイ素、ケイ素、窒化ケイ素、及びこれらの複合材料を挙げることができるが、これらに限定するものではない。
これらの材料の中で、等方性黒鉛はバランスのとれた上記の物性を有するだけでなく、意外にも水素脆化を起こしにくいという性質も有するので最も好ましい。本発明における等方性黒鉛は、通常、嵩密度が1.5g/cm3~3.5g/cm3の範囲にあるものが使用可能である。本発明においては、嵩密度が1.5g/cm3未満の等方性黒鉛は使用不可能ではないが、嵩密度が1.5g/cm3未満であると炭素原子と陽子及び中性子との衝突が不十分になることもあるので、嵩密度は1.5g/cm3以上であることが好ましい。また、嵩密度が3.5g/cm3を超えると、常圧下における安定相はダイヤモンドであるので、物質として存在する等方性黒鉛の嵩密度の最大値は3.5g/cm3である。従来の等方性黒鉛材料が使用可能であり、より高密度に改良された等方性黒鉛はより好ましい。

【0027】
本発明は、複合型ターゲットにおけるベリリウムと非金属材料の厚さ方向の比率を限定
するものではない。本発明は、当該比率を、用いる非金属材料や照射陽子の加速エネルギーに応じて適宜設定することができるが、通常は、非金属材料の厚さをベリリウムの厚さの10倍以上に設定する。この主な理由は、非金属材料を構成する原子核の陽子衝突断面積が、通常、ベリリウム原子核の陽子衝突断面積に比べて一ケタ小さいことによる。

【0028】
本発明複合型ターゲットは、前述の通り、ベリリウム表面と非金属材料表面が境界面を介して接している構造を有する。このような構造には、例えば、ベリリウムと非金属材料の張合せ構造、ベリリウムと非金属材料の混合構造、多孔性の非金属材料にベリリウムを担持した構造、ベリリウムと非金属材料の化合構造、等を挙げることができる。ベリリウムと非金属材料の張合せ構造は、比較的厚い板状のベリリウムの場合には、例えば、非金属材料の片面にベリリウムをホットプレスやHIP処理を施すことによって作製することができる。他方、比較的薄いベリリウムの場合には、例えば、非金属材用の片面にベリリウムを蒸着することによって作製することができる。

【0029】
本発明においては、ホットプレスやHIP処理及び蒸着の際の加工条件は、ベリリウムの厚さや用いる非金属材料によって適宜定められる。よって、本発明は、加工条件によって限定されるものではない。なお、ホットプレスは、通常、200℃~1278℃(常圧におけるベリリウムの融点)までの温度下、103パスカル~105パスカルの圧力下で行うことができる。HIP処理は、通常、100℃~1278℃までの温度下、104パス
カル~106パスカルの圧力下で行うことができる。蒸着は、非金属材料基板の温度が室
温~1278℃までの温度下、10-3パスカル~10-6パスカルの圧力下で行うことができる。

【0030】
本発明は、凹凸表面を持つ非金属材料上にベリリウムを付着させた複合型ターゲットとすることができる。こうすることによって、ベリリウムと非金属材料との接着力の強化、発熱がもたらす熱応力の緩和、等の効果が与えられる。その結果、非金属材料に付着しているベリリウムの剥離が防止できる。非金属材料表面の凹凸加工は、例えば、レーザーアブレーション、エッチング、鋳型成形、等の方法によって可能である。

【0031】
本発明における非金属材料は、非金属材料の中で最も好ましい嵩密度1.5g/cm3~3.5g/cm3の範囲にある等方性黒鉛と他の非金属材料との複合に成る非金属系複合材料とすることができる。複合させる非金属材料は、一つでもよいし複数でもよい。このような非金属材料としては、例えば、前記に挙げた多孔性カーボン、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブ、フラーレン、ポリアセチレン、カルビン、グラフェン、窒化炭素、炭化ケイ素、ケイ素、窒化ケイ素、及びこれらの複合材料を挙げることができるが、これらに限定するものではない。等方性黒鉛との複合は、例えば、等方性黒鉛の成形体と他の非金属材料の成形体の張合せ、等方性黒鉛と他の非金属材料の混合、等方性黒鉛と他の非金属材料の化合、等によって行うことができる。等方性黒鉛の成分比率は、特に限定するものではないが、通常、50質量%以上である。こうすることによって、等方性黒鉛と非金属材料の効果の好ましい協働効果を与えることが可能である。例えば、等方性黒鉛と熱伝導性に優れたダイヤモンドやカーボンナノチューブ及びこれらの複合材料を複合することによって、ターゲットの熱伝導性を向上させることが可能である。

【0032】
本発明は、陽子の照射面を除く複合型ターゲットの表面を被覆した複合型ターゲットとすることができる。被覆材料として、軽金属材料は、重金属類に比べて放射化しにくい性質を持つので好ましい。軽金属材料としては、例えば、チタン、窒化チタン、マグネシウム、アルミニウム、スズ、亜鉛、ケイ素、等を挙げることができる。この中で、チタンは放射線耐性、耐腐食性が優れているので好ましい。こうすることによって複合型ターゲット全体を真空下に置くことで、大気に接することによる酸化性の雰囲気での酸化劣化を防
止することができる。

【0033】
本発明は、ターゲットで発生する熱を除熱するために冷却機構を付帯した複合型ターゲットとすることができる。冷却機構は、複合型ターゲットにおける少なくともターゲットの側部又は内部のうちのどちらか一方に冷媒の流路を設けた冷却機構であることが冷却効率を高める上で好ましい。複合型ターゲットの側部に冷却機構を設ける場合には、熱伝導性の高い伝熱板を介して水冷するのが好ましい。また、複合型ターゲットの内部に冷却機構を設ける場合には、該複合型ターゲットの非金属材料の内部に流路を設けるのが好ましく、冷媒としてヘリウムガス等の熱伝導性の高い気体を用いるのが好ましい。また、本発明は、ターゲットと冷却機構が一体化したカートリッジ型構造とすることが可能である。こうすることによってターゲットで発生した熱を効率的に排熱することが可能であり、ターゲットの劣化に際して、新品との着脱交換を遠隔操作によって簡易に行うことが可能である。

【0034】
以下、図面を参照しつつ本発明の一側面を実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)として詳細に説明する。

【0035】
陽子を衝突させて中性子を発生させるための本実施形態に係る複合型ターゲットは、非金属材料及びベリリウムを複合して成るものであり、ベリリウム表面と非金属材料表面が境界面を介して接している構造を有する。ベリリウムと非金属材料を複合して成る複合型ターゲットは、例えば、ベリリウムと非金属材料を張合わせた構造を有する複合型ターゲット、ベリリウムと非金属材料の混合物を成形して作られる複合型ターゲット、多孔性の非金属材料にベリリウムを担持したものを成形して作られる複合型ターゲット、ベリリウムと非金属材料の化合による複合型ターゲットとすることができる。非金属材料は、単一材料でもよいし、複数の非金属材料を複合した非金属系の複合材料とすることもできる。例えば、図1に示す複合型ターゲット3は、非金属材料2とベリリウム1とを張合わせた構造を有する複合型ターゲットであり、ベリリウム1の表面は、凹凸形状をしており、表面積は、陽子線の進行方向に対して垂直な平面積よりも大きい。

【0036】
図2に示すように、本実施形態に係る複合型ターゲットは、ベリリウムと非金属材料の混合物4を成形して作られる複合型ターゲット5とすることができる。

【0037】
図3に示すように、本実施形態に係る複合型ターゲットは、ベリリウムを担持した多孔性非金属材料6を成形して作られる複合型ターゲット7とすることができる。

【0038】
図4に示すように、本実施形態に係る複合型ターゲットは、凹凸表面を有する非金属材料8にベリリウム1を付着させた複合型ターゲット9とすることができる。

【0039】
図5に示すように、本実施形態に係る複合型ターゲットは、等方性黒鉛と他の非金属材料とを複合して成る非金属系の複合材料10にベリリウム1を付着させた複合型ターゲット11とすることができる。

【0040】
図6に示すように、本実施形態に係る複合型ターゲットは、表面被覆12した非金属材料2にベリリウム1を付着させた複合型ターゲット13とすることができる。

【0041】
図7に示すように、本実施形態に係る冷却機構を付帯した複合型ターゲット17は、ターゲットと冷却機構とが一体化したカートリッジ型構造とすることができる。複合型ターゲットの側部に冷却機構16を設ける場合には、熱伝導性の高い伝熱板15を介して設ける。複合型ターゲットの内部に冷却機構を設ける場合には、該複合型ターゲットの非金属材料の内部に冷媒の流路14を設ける。

【0042】
上述のように、本発明は、陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるための新規の複合型ターゲットである。該複合型ターゲットは、ターゲットを構成するベリリウム及び非金属材料が持つ陽子及び中性子に対する特有の物性によって、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子の発生が可能であること、ベリリウムの表面積が大きいので単位面積当たりの熱負荷を低減できること、ベリリウムと接する非金属材料の表面積を大きくすることができるのでベリリウムの剥離を防止できること、複合型ターゲットの表面を被覆することができるので酸化雰囲気におけるターゲットの劣化の防止が可能であること、冷却機構がターゲットに付帯されているので、効率的な冷却が可能であるという特色を持っている。したがって、本発明は、BNCT等の医療用の中性子を発生するための医療用中性子発生用ターゲットとして有用である。
【実施例】
【0043】
以下に実施例などを挙げて本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
図1に示すような複合型ターゲットを用いて中性子発生実験を行った。複合型ターゲットとして、直径165mm、厚さ30mmの等方性黒鉛(東洋炭素株式会社製造品:IG15、嵩密度1.9g/cm3)の片面に厚さ0.3mmのベリリウムを付着させ、ベリリウム表面にレーザーアブレーションを施すことによって、該表面を凹凸形状にした。この表面加工によって、ベリリウムの使用量は、約2%減少したが、表面積は、約4倍大きくなった。該複合型ターゲットを長さ約6.5mの常伝導線形加速器の先端部分にある陽子照射部にフランジを介して取り付け、ベリリウム面に出力30kW,加速エネルギー8MeVの加速陽子を10-6パスカルの真空下で衝突させ、中性子を発生させた。ターゲットの冷却は、複合型ターゲットの側面に厚さ1mmの銅板を巻き付けその上に環状の水冷ジャケットを取り付け、ターゲット全体を水冷した。100時間連続の中性子発生実験を行い、実験後のターゲットの放射化の程度をサーベイメーターによって測定し、ターゲットの状態を観察した。
【実施例】
【0044】
[実施例2]
図2に示すような複合型ターゲットを用いて中性子発生実験を行った。複合型ターゲットは、ベリリウム粉末と粉末状カーボンナノチューブ(シーナノテクノロジー社製造品)の混合物(ベリリウム粉末:粉末状カーボンナノチューブの質量比=1:100)をHI
P処理することによって作製した直径165mm、厚さ30mmの複合型ターゲットである。粉末加工によって、ベリリウムの表面積は、約100倍大きくなった。実施例1と同様の方法で中性子発生実験を行い、実験後のターゲットの放射化の程度及びターゲットの状態を調べた。
【実施例】
【0045】
[実施例3]
図3に示すような複合型ターゲットを用いて中性子発生実験を行った。複合型ターゲットは、ベリリウムを担持した多孔性カーボン材料(ベリリウムの担持量=1質量%)をHIP処理することによって作製した直径165mm、厚さ30mmの複合型ターゲットである。担持加工によって、ベリリウムの表面積は、約1000倍大きくなった。実施例1と同様の方法で中性子発生実験を行い、実験後の部材の放射化の程度、及びターゲットの状態を調べた。
【実施例】
【0046】
[実施例4]
図4に示すような複合型ターゲットを用いて中性子発生実験を行った。複合型ターゲットは、直径165mm、厚さ30mmの等方性黒鉛(東洋炭素株式会社製造品:IG15
、嵩密度1.9g/cm3)の片面全体にレーザーアブレーションを施すことによって、格子状の凹凸(凹部:8mm×8mm×窪み0.3mm、凸部:幅1mm)を作り、HIP処理によって凹部に厚み0.3mmのべリリウムを付着させた複合型ターゲットである。実施例1と同様の方法で中性子発生実験を行い、実験後のターゲットの放射化の程度及びターゲットの状態を調べた。
【実施例】
【0047】
[実施例5]
図5に示すような複合型ターゲットを用いて中性子発生実験を行った。複合型ターゲットは、嵩密度2.2g/cm3等方性黒鉛粉末、工業用ダイヤモンド粉末、及び粉末状カーボンナノチューブの混合物(等方性黒鉛粉末:工業用ダイヤモンド粉末:粉末状カーボンナノチューブの質量比=0.8:0.1:0.1)をHIP処理することによって、直径165mm、厚さ30mmのカーボン成形体を作成した後、該成形体の片面に厚さ0.3mmのベリリウムをHIP処理によって付着させた複合型ターゲットである。実施例1と同様の方法で中性子発生実験を行い、実験後のターゲットの放射化の程度及びターゲットの状態を調べた。
【実施例】
【0048】
[実施例6]
図6に示すような複合型ターゲットを用いて中性子発生実験を行った。複合型ターゲットは、実施例1で用いたものと同様の複合型ターゲットを用い、このベリリウムの部分を除くターゲットの表面に厚み0.1mmのチタン箔をHIP処理によって被覆した複合型ターゲットである。実施例1と同様の方法で中性子発生実験を行い、実験後のターゲットの放射化の程度及びターゲットの状態を調べた。
【実施例】
【0049】
[実施例7]
図7に示すような複合型ターゲットを用いて中性子発生実験を行った。複合型ターゲットは、実施例1で用いたものと同様の複合型ターゲットを用い、このターゲットの側部及び非金属材料の内部に冷却機構を施した、冷却機構とターゲットが一体化したカートリッジ型の複合型ターゲットである。ターゲットの側部は水冷し、非金属材料の内部は冷媒としてヘリウムを用いて冷却した。実施例1と同様の方法で中性子発生実験を行い、実験後のターゲットの放射化の程度及びターゲットの状態を調べた。
【実施例】
【0050】
[比較例1]
比較のために、直径165mm、厚さ30mmの銅板にHIP処理によって厚さ1mmのベリリウムを付着させたターゲットを用いて、実施例1と同様の方法で中性子発生実験を行い、実験後のターゲットの放射化の程度及びターゲットの状態を調べた。
【実施例】
【0051】
実施例1~7及び比較例1によって観測された実験結果を表1に示す。
【表1】
JP0005700536B2_000002t.gif
【実施例】
【0052】
以上の結果から、本発明は、従来のターゲットよりも耐熱性及び水素脆化に対する耐久
性が優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、ベリリウム及び非金属材料を複合して成る複合型ターゲットであるので陽子及び中性子による部材の放射化を低減することができる、該複合型ターゲットにおけるベリリウムが陽子線の進行方向に対して垂直な平面積以上の表面積を有するのでターゲットの単位面積当たりの熱負荷を低減することができる、該複合型ターゲットにおける非金属材料の表面に凹凸を施しているので熱応力や水素発生に起因するターゲット材料の剥離を防止できる、冷却機構を付帯した複合型ターゲットであるのでターゲットで発生した熱の効率的な除熱が可能であり、ターゲットの劣化に際して、新品との着脱交換を遠隔操作によって簡易に行うことが可能である、等の特徴を有する。したがって、本発明は、BNCT等の医療用の中性子発生用ターゲットとして非常に有益である。
【符号の説明】
【0054】
1 表面積を大きくしたベリリウム
2 非金属材料
3 複合型ターゲット
4 ベリリウムと非金属材料の混合材料
5 複合型ターゲット
6 ベリリウムを担持させた非金属材料
7 複合型ターゲット
8 凹凸表面を持つ非金属材料
9 複合型ターゲット
10 等方性黒鉛と他の非金属材料の複合材料
11 複合型ターゲット
12 ターゲット表面の被覆
13 複合型ターゲット
14 冷媒の流路
15 伝熱板
16 冷却機構
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6