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明細書 :複合型ターゲット、複合型ターゲットを用いる中性子発生方法、及び複合型ターゲットを用いる中性子発生装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5751673号 (P5751673)
公開番号 特開2013-054889 (P2013-054889A)
登録日 平成27年5月29日(2015.5.29)
発行日 平成27年7月22日(2015.7.22)
公開日 平成25年3月21日(2013.3.21)
発明の名称または考案の名称 複合型ターゲット、複合型ターゲットを用いる中性子発生方法、及び複合型ターゲットを用いる中性子発生装置
国際特許分類 H05H   6/00        (2006.01)
H05H   3/06        (2006.01)
H05H   9/00        (2006.01)
G21K   5/08        (2006.01)
G21K   5/02        (2006.01)
FI H05H 6/00
H05H 3/06
H05H 9/00 A
G21K 5/08 C
G21K 5/02 N
G21K 5/08 N
請求項の数または発明の数 6
全頁数 21
出願番号 特願2011-192030 (P2011-192030)
出願日 平成23年9月2日(2011.9.2)
審査請求日 平成26年8月14日(2014.8.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
発明者または考案者 【氏名】松本 浩
【氏名】小林 仁
【氏名】吉岡 正和
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100090516、【弁理士】、【氏名又は名称】松倉 秀実
【識別番号】100113608、【弁理士】、【氏名又は名称】平川 明
【識別番号】100138357、【弁理士】、【氏名又は名称】矢澤 広伸
審査官 【審査官】林 靖
参考文献・文献 特開2009-47432(JP,A)
特開2009-204428(JP,A)
調査した分野 G21K 1/00-3/00
G21K 5/00-7/00
H05H 3/00-15/00
特許請求の範囲 【請求項1】
陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、ベリリウム材料及びリチウム材料のいずれか一つの材料と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体であることを特徴とする複合型ターゲット。
【請求項2】
前記複合型ターゲットが、該複合型ターゲットの表面に真空シールを付帯することを特徴とする請求項1に記載の複合型ターゲット。
【請求項3】
前記複合型ターゲットが、該複合型ターゲットの表面に真空シールを付帯し、且つ、該複合型ターゲットに冷媒流路を有する冷却機構を付帯することを特徴とする請求項1に記載の複合型ターゲット。
【請求項4】
陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるための中性子発生方法において、
陽子が2MeV以上11MeV未満の陽子であり、
ターゲットが請求項3の複合型ターゲットであり、
該複合型ターゲットに前記陽子を真空下で衝突させることによって核反応による中性子を発生させると共に該複合型ターゲットの冷却機構によってターゲットを冷却することを特徴とする中性子発生方法。
【請求項5】
陽子発生のための水素イオン発生部と、
水素イオン発生部で発生する陽子を加速するための加速器と、
加速器によって加速された陽子を照射するための陽子照射部と、
陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットと、を備え、
前記加速器が線形加速器であり、
前記ターゲットが請求項3の複合型ターゲットであることを特徴とする中性子発生装置。
【請求項6】
線形加速器が陽子を2MeV以上11MeV未満の範囲に加速することができる線形加速器であることを特徴とする請求項5に記載の中性子発生装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子をターゲットに衝突させることによって中性子を発生させるためのターゲットに関するものである。さらに詳しくは、低エネルギーの陽子を用いて中性子を発生させるための新規のターゲットを提供するものであり、ターゲットの熱問題の解決、及び陽子・中性子によるターゲット部材等の放射化の低減のためのターゲットを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、選択的ながん治療として期待されているホウ素中性子捕捉療法(BNCT: Boron Newtron Capture Therapy)のための中性子発生方法及び装置の研究開発が盛んに行わ
れている。これらは、例えば、特許文献1~12に開示されている。
【0003】
特許文献1は、高周波四重極線形加速器(RFQライナック:Radio Frequency Quadrupole Linac)の例えば30MeV~40MeVの重陽子線をリチウムに衝突させてLi(d,n)反応
を起こさせ中性子を発生させ、中性子減速材を介して治療用の熱中性子・熱外中性子を発生させることを特徴としている。
【0004】
特許文献2は、中性子を発生させるためのターゲットに関し、大強度陽子線を衝突させるターゲットの冷却材に対する耐食性を改善するために、低水素吸収体であるNb、Pt、Au、Al、Be、Cr、ステンレス鋼又はその合金で被覆されたタングステンを用いることを特徴としている。
【0005】
特許文献3は、液体状のリチウム、又は核融合反応の触媒作用を持つ金属との合金の表面に重水素イオンビームを衝突させることによって非熱核融合反応を誘発することによって中性子を発生させることを特徴としている。
【0006】
特許文献4は、サイクロトロン等で発生させる20MeV以上のエネルギーを有する陽子
線をタンタル、タングステン等の重金属に衝突させることによって核破砕反応物質を含む中性子を発生させ、同中性子を中性子減速部及び鉛で構成されるフィルターを介して有害な核破砕反応物質及び高速中性子を除去することによって治療用の熱中性子・熱外中性子を発生させることを特徴としている。
【0007】
特許文献5は、固定磁場強収束(FFAG:Fixed Field Alternating Gradient)-内
部標的(ERIT:Emittance Recovery Internal Target)方式による中性子発生方法及び装置を開示している。そして、特許文献5は、サイクロン型の陽子貯蔵リングで周回増強された11MeV以上15MeV未満のエネルギーを有する陽子線又は重陽子線を同リング内に設けたベリリウム製のターゲットに衝突させることによって発生させた中性子を重水等の減速材を介して治療用の熱中性子・熱外中性子に調整することを特徴としている。
【0008】
特許文献6は、RFQライナックやドリフトチューブライナックで加速された出力30kW程度、11MeV程度以上の陽子線を金属ターゲットに衝突させて中性子を発生させるためのターゲットを開示している。また、該ターゲットが金属ターゲットであり、好ましくはベリリウムであることが開示されている。そして、特許文献6は、該ターゲットの厚みが同ターゲット中における陽子線の飛程と略同等又はそれよりもわずかに大きくし、又、ターゲットを冷却するためにターゲットの伝熱面積と同程度以上の伝熱面積を有する金属板を介して冷却することを特徴としている。
【0009】
特許文献7は、線形加速器を用いて例えば11MeVの陽子線をベリリウム製のターゲッ
トに衝突させることによって10keV以上の速中性子を発生させ、該速中性子を重水等の
減速材を通過させることによって10keV未満の熱外中性子又は0.5eV以下の熱中性子
に調整することを特徴としている。
【0010】
特許文献8は、リチウムターゲットを製造する方法が、圧延されたリチウム薄膜を銅製の基板上に圧着する方法であることを特徴としている。
【0011】
特許文献9は、Li(p,n)反応の閾値(約2MeV)よりもやや大きいエネルギーの陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるためのリチウム製ターゲットについて、リチウムの溶融防止のためのターゲットの構造が、冷却機構を有するブロックに円錐形状の切り込みを施し、該円錐形状の切り込み表面にバッキングホイル基板上に付着させたベリリウム被覆のリチウム薄膜を付着させた構造であることを特徴としている。
【0012】
特許文献10は、中性子発生用リチウム製ターゲットについて、リチウム粒子の溶融防止及び発熱によって液状化したリチウムの漏れ防止のためのリチウム粒子の構造が、リチウム粒子を焼結カーボン、炭化ケイ素、炭化ジルコニウムの順番で順次被覆した構造であることを特徴としている。
【0013】
特許文献11は、BNCT用のリチウム製ターゲットについて、リチウムターゲットが鉄基板、タンタル基板、またはバナジウム基板上に付着させたリチウムであることを特徴としている。
【0014】
特許文献12は、出力20mA-50kW、2.5MeV程度のエネルギーの陽子をターゲッ
トに衝突させて中性子を発生させるためのリチウム製ターゲットについて、リチウムの溶融防止のためのターゲットの構造が、冷却機構を有する円錐形状の伝熱板の表面にパラジウム薄膜を設け、該パラジウム薄膜上にリチウム薄膜を付着させた構造であることを特徴としている。
【0015】
しかしながら、以上の特許文献1~7に開示された方法及び装置は、ターゲットに衝突させる陽子線又は重陽子線の加速エネルギーが少なくとも11MeVの高エネルギー陽子線
を必要としている。そのため、以上の特許文献1~7に開示された方法及び装置では、陽子線又は重陽子線発生のための大型の加速器が必要であること、高エネルギー陽子線によるターゲット等の部材の著しい放射化が生じること、ターゲットを冷却するための大型の冷却装置が必要であること、液体ターゲットの場合には取り扱いが容易ではないこと、固体状ターゲットの場合にはターゲットの溶断を防止するために比較的厚めのターゲット材料を熱伝導性の金属製支持体に付着させていること、中性子発生用のターゲット材料が重金属などの金属製の場合には、人体に極めて有害であり且つ装置部材の放射化能も高い高速中性子がかなり混在して発生しているので一次発生中性子を減速するための大がかりな減速装置が必要であること、有害且つ放射化能の高い陽子線、中性子及び核反応副生物質を吸収又は除去するための特殊な安全管理システムが必要であること、反応副生物である活性水素によるターゲット材料の脆化防止対策、等の実用上における問題があった。特に陽子線及び中性子によるターゲット等の部材による放射化の問題は、放射化部材から受ける放射線被曝の問題であるので、解決すべき重要な課題であった。また、特許文献6にみられるように、ベリリウムの固体ターゲットを用いる場合には、ターゲットで発生する熱の除熱が必須であることから、ターゲットを支持するための金属製支持材の伝熱面積を大きくする工夫が提案されたが、熱応力による接着界面の剥離や活性水素による支持材の脆化及び剥離を防止することは困難であった。また、以上の特許文献8~12に開示されたリチウム製の固体ターゲットの場合には、低融点であるリチウム(融点が約180℃)の
溶融防止のために、リチウム薄膜の支持体である伝熱板の構造に関する工夫やリチウム粒子を高融点材料で被覆する方法が提案されているが、これらの方法では冷却効率の飛躍的な向上は期待されないので、リチウムの溶融を防止することは困難であると考えられる。以上の問題を解決するためには、陽子の衝突によって生じるターゲットの熱問題の解決、及び陽子・中性子によるターゲット等の部材の放射化の低減のためのターゲットの開発が切望されていたが、これまで上記問題を解決するようなターゲットは知られていないのが現状である。そのため、本発明者らは、先に、特願2010-264724号、特願2011-048187号、及び特願2011-113950号を出願し、上記問題を解決することが可能な複合型の新規ターゲットを提案した。該複合型ターゲットは、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と非金属材料から成る複合型ターゲットであるので、陽子との衝突による核反応を上記二種類の材料で分担して行うことができる。そして、該複合型ターゲットは、ターゲットを構成するベリリウム材料(又はリチウム材料)及び非金属材料が持つ陽子及び中性子に対する特有の物性によって、陽子及び中性子による放射化を低減できること、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子の吸収が低いこと、非金属材料が持つ中性子の減速機能によって速中性子の発生が抑制されること、ターゲットで発生する熱の除熱が容易であること、非金属材料がベリリウム材料(又はリチウム材料)の支持材及び冷却材として機能しうるので、従来ターゲットとして用いられてきたベリリウム(又はリチウム)よりも薄いベリリウム(又はリチウム)を用いてもベリリウム(又はリチウム)の切断や溶融を防止できること、等の顕著な効果を有するものである。
【先行技術文献】
【0016】

【特許文献1】特開平11-169470号公報
【特許文献2】特開2000-162399号公報
【特許文献3】特開2003-130997号公報
【特許文献4】特開2006-47115号公報
【特許文献5】特開2006-155906号公報
【特許文献6】特開2006-196353号公報
【特許文献7】特開2008-22920号公報
【特許文献8】特開2007-303983号公報
【特許文献9】特開2009-047432号公報
【特許文献10】米国特許第4597936号明細書
【特許文献11】国際公開第08/060663号
【特許文献12】米国特許出願第2010/0067640号明細書
【0017】

【非特許文献1】M. A. Lone, et. al., Nucl. Instr. Meth. 143 (1977) 331.
【非特許文献2】タイトル:結合型液体水素冷中性子源の中性子特性、著者:鬼柳善明、小林英樹、岩佐浩克、Bulletin of the Faculty of Engineering, Hokkaido University, 151:101-109 (1990-07-30)
【非特許文献3】放射線施設のしゃへい計算実務マニュアル、2007、(財)原子力安全技術センター監修
【非特許文献4】K. Shibata, O. Iwamoto, T. Nakagawa, N. Iwamoto, A. Ichihara, S. Kunieda, S. Chiba, K. Furutaka, N. Otuka, T. Ohsawa, T. Murata, H. Matsunobu, A. Zukeran, S. Kamada, and J. Katakura,“JENDL-4.0 : A New Library for Nuclear Science and Engineering", J. Nucl. Sci. Technol. 48 (2011) 1-30.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記の事情に鑑み、低エネルギーの陽子を用いて中性子を発生させるための新規のターゲットを提供することを目的としている。さらに詳しくは、低エネルギーの陽子の照射によって中性子の発生が可能であり、陽子及び中性子によるターゲット等の部材の放射化の低減が可能であり、及びターゲット材料の熱問題や水素脆化の問題を根本的に解決することが可能な新規の中性子発生用ターゲットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、先に本発明者等が提案した複合型ターゲットを構成する非金属材料として結晶配向性炭素材料を用い、ターゲットをベリリウム材料(又はチウム材料)と上記結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体とすることによって、陽子及び中性子による部材の放射化の低減や有害且つ放射化能の高い速中性子の低減が可能であるだけでなく、先に本発明者等が提案した発明の効果よりもさらに効果的にターゲット材料の熱問題や水素脆化の問題を根本的に解決することが可能であることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、
1.陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、ベリリウム材料及びリチウム材料のいずれか一つの材料と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体であることを特徴とする複合型ターゲット。
2.前記複合型ターゲットが、該複合型ターゲットの表面に真空シールを付帯することを特徴とする上記1に記載の複合型ターゲット。
3.前記複合型ターゲットが、該複合型ターゲットの表面に真空シールを付帯し、且つ、該複合型ターゲットに冷媒流路を有する冷却機構を付帯することを特徴とする上記1に記載の複合型ターゲット。
4.陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるための中性子発生方法において、
陽子が2MeV以上11MeV未満の陽子であり、
ターゲットが上記3の複合型ターゲットであり、
該複合型ターゲットに前記陽子を真空下で衝突させることによって核反応による中性子を発生させると共に該複合型ターゲットの冷却機構によってターゲットを冷却することを特徴とする中性子発生方法。
5.陽子発生のための水素イオン発生部と、
水素イオン発生部で発生する陽子を加速するための加速器と、
加速器によって加速された陽子を照射するための陽子照射部と、
陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットと、を備え、
前記加速器が線形加速器であり、
前記ターゲットが上記3の複合型ターゲットであることを特徴とする中性子発生装置。6.線形加速器が陽子を2MeV以上11MeV未満の範囲に加速することができる線形加速器であることを特徴とする上記5に記載の中性子発生装置、に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一つは、ターゲットをベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体とする複合型ターゲットであり、一つは、該複合型ターゲットが真空シールを付帯する複合型ターゲットであり、一つは、該複合型ターゲットが真空シール及び冷却機構を付帯する複合型ターゲットであり、一つは、中性子発生源として真空シール及び冷却機構を付帯させた上記複合型ターゲットを用いる中性子発生方法であり、もう一つは、中性子発生源として真空シール及び冷却機構を付帯させた上記複合型ターゲットを用いる中性子発生装置である。本発明複合型ターゲットの機能は、主要機能としての「核反応による中性子発生」の他に、「陽子及び中性子による部材の放射化の低減」、及び「ターゲットの効率的な冷却」である。本発明は、上記二種類の材料から成る複合型ターゲットであるので、上記ターゲットの機能を二種類の材料で役割分担して行うこ
とが可能である。すなわち、ベリリウム材料(又はリチウム材料)が持つ陽子に対する特有の性質によって低エネルギーの陽子を用いて低エネルギーの中性子を発生可能である、結晶配向性炭素材料が持つ陽子及び中性子に対する特有の性質によって陽子及び中性子によるターゲット等の部材の放射化を顕著に低減可能である、結晶配向性炭素材料の配向面における高い熱伝導性及び熱拡散性によってターゲットで発生する熱を配向面に沿って速やかに伝導させることが可能である、さらには上記複合体を両材料が交互に重なるように複数個積層させることが可能なので、ターゲットの熱負荷を各複合体に分散可能である。すなわち該複合体の積層数を増やすことによって伝熱面積の飛躍的な向上が可能なので、ターゲットで発生する熱をさらに効果的に配向面に沿って速やかに伝導させることが可能であり、又、伝熱された熱をターゲットが付帯する冷却機構によって系外に排熱することによってターゲットの効率的な冷却が可能である。また、この効率的な冷却によって従来固体ターゲットとしての利用が困難であった低融点のリチウム(融点:約180℃)でも利用可能であること、ターゲット材料の水素脆化を防止できること、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料の接着界面での剥離を防止できること、結晶配向性炭素材料がベリリウム材料(又はリチウム材料)の支持材及び冷却材として機能しうるので、従来用いられてきたベリリウム(又はリチウム)よりも薄いベリリウム(又はリチウム)を用いてもベリリウム(又はリチウム)の溶断や溶融を防止できること、等の副次的効果が得られる。また、前記複合型ターゲットが付帯する真空シールによって真空下での核反応が可能であり、更には大気との接触によるターゲット材料の酸化劣化を防止可能である。また、前記複合型ターゲットに設けた冷却機構によってターゲットで発生する熱の系外への実際上の排熱によるターゲットの冷却を可能にする。これらの効果によって、本発明複合型ターゲットは、ターゲットの熱問題を解決し、ターゲット等の部材の放射化を低減しつつ低エネルギーの中性子を安定的に発生しうる。
【0022】
また、本発明複合型ターゲットに衝突させる陽子の発生源として従来のシンクロトロンやサイクロトロンに比べると飛躍的に小型の加速器である線形加速器を用いることが可能であるので、本発明複合型ターゲットを小規模の医療機関に設置可能な小型線形加速器に設けることによってBNCT等の医療用中性子を発生することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態に係るターゲットが、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素系材料を重ね合わせて成る複合体とするターゲット、該ターゲットの表面に真空シールが施され、該ターゲットに冷媒流路を有する冷却機構を付帯している複合型ターゲットであることを例示する断面図である。そして、冷媒流路を設けた冷却機構がターゲットの側面に付帯され、ターゲットの内部にも冷媒流路が独立に設けられている複合型ターゲットを例示する断面図である。
【図2】実施の形態に係るターゲットが、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体とするターゲット、該ターゲットの表面に真空シールが施され、該ターゲットに冷媒流路を有する冷却機構を付帯している複合型ターゲットであることを例示する断面図である。そして、冷媒流路を有する冷却機構がターゲットの側面に付帯され、ターゲットの内部にも冷媒流路が設けられており、該内部の冷媒流路が上記冷却機構の冷媒流路と連結している複合型ターゲットを例示する断面図である。
【図3】実施の形態に係るターゲットが、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体を両材料が交互に重なり合うように複数個積層させた複合体とするターゲット、該ターゲットの表面に真空シールが施され、該ターゲットに冷媒流路を設けた冷却機構を付帯している複合型ターゲットであることを例示する断面図である。そして、冷媒流路を設けた冷却機構がターゲットの側面に付帯している複合型ターゲットを例示する断面図である。
【図4】実施の形態に係る本発明複合型ターゲットを用いた中性子発生方法を例示する概略図である。
【図5】実施の形態に係る本発明複合型ターゲットを用いた中性子発生装置を例示する概略図である。
【図6】比較のためのターゲットを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
前記説明の如く本発明複合型ターゲットをベリリウム材料(又はリチウム材料)と配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体とする主な理由は、前記説明の如くターゲットの機能を上記二種類の材料で機能分担させることにある。ベリリウム材料及びリチウム材料を用いる理由は、主として、低エネルギーの陽子との衝突によって低エネルギーの中性子を発生させるためであり、ベリリウム材料は、4MeV~11MeVの陽子によって9Be(p,n)反応を起こさせることが可能であり、リチウム材料は、2MeV~4MeVの陽子によって9Li(p,n)反応を起こさせることが可能である。また、ターゲットのもう一つの材料として結晶配向性炭素材料を用いる理由は、主として、陽子及び中性子による放射化を低減し、結晶配向性炭素材料が有する配向面における高い熱伝導性及び熱拡散性を利用することによってターゲットで発生する熱を速やかに配向面に沿って伝導するためである。また、結晶配向性炭素材料は、ベリリウム材料やリチウム材料に比べて中性子発生効率は小さいものの陽子との衝突によって中性子を発生することが可能であるためである。

【0025】
本発明におけるベリリウム材料とは、周期律表における二族元素の中から選ばれたベリリウム元素の単一元素材料(ベリリウム元素の単体金属であり、以後、ベリリウムという)、ベリリウム化合物、及びベリリウム複合材料のことである。また、本発明におけるリチウム材料とは、周期律表における一族元素の中から選ばれたリチウム元素の単一元素材料(リチウム元素の単体金属であり、以後、リチウムという)、リチウム化合物、及びリチウムの複合材料のことである。本発明で、ベリリウム、ベリリウム化合物、及びベリリウム複合材料をベリリウム材料と総称し、リチウム、リチウム化合物、及びリチウム複合材料をリチウム材料と総称したのは、中性子発生の原理が、特定元素に特有の核反応に基づいているからである。すなわち、ターゲットへの加速陽子の照射による中性子発生の原理は、陽子とターゲットに含まれている特定元素の原子との物理的な核反応に基づくものであるので、ターゲットが特定元素の化合物及び複合材料である場合も該特定元素の単体の場合と同様の核反応によって中性子を生ずるからである。すなわち、本発明では、ベリリウムやリチウム以外に、ベリリウム化合物及びベリリウム複合材料、リチウム化合物及びリチウム複合材料を用いることができる。ターゲットとして上記特定元素の化合物や複合材料を用いる場合には、該化合物や複合材料に含まれる特定元素(ベリリウム元素及びリチウム元素のこと)以外の元素が陽子や中性子による放射化を受けないような、また副生水素原子との反応によって有害物質を生じないような元素であることが望ましい。このような元素としては、ホウ素、炭素、ケイ素、窒素、りん、酸素、硫黄等を挙げることができる。

【0026】
本発明におけるベリリウム材料とは、ベリリウム、ベリリウム化合物、及びベリリウム複合材料のことである。ベリリウム化合物としては、例えば、酸化ベリリウム(BeO)、
窒化ベリリウム(Be3N2)、炭化ベリリウム、水酸化ベリリウム(Be(OH)2)、酢酸ベリリウム(Be(CH3CO2)2)、炭酸ベリリウム(BeCO3)、硫酸ベリリウム(BeSO4)、硝酸ベリ
リウム(Be(NO3)2)、リン酸ベリリウム(Be3(PO4)2)、ケイ酸ベリリウム(Be2SiO4)、アルミン酸ベリリウム(Be(AlO2)2)、チタン酸ベリリウム(BeTiO3)、ニオブ酸ベリリウム(Be(NbO3)2)、タンタル酸ベリリウム(Be(TaO2)2)、等を挙げることができるがこれらに限定するものではない。また、ベリリウム複合材料としては、ベリリウムホウ酸塩ガラスやメタリン酸ベリリウムガラス等のベリリウムガラス、ベリリウムガラスを主成分として含むベリリウムガラスセラミック、マグネシウムベリリウム合金やアルミニウムベリリウム合金等のベリリウム合金、酸化ベリリウムを主成分として含むベリリウムセラミッ
ク、ベリリウム元素を固溶しているベリリウム固溶セラミック、ベリリウム原子内包フラーレン、等を挙げることができるがこれらに限定するものではない。以上のベリリウム材料の中でベリリウム及び酸化ベリリウムは9Be(p,n)反応の閾値(約4MeV)が比較的高
いものの高融点(ベリリウムの融点:約1278℃、酸化ベリリウムの融点:2570℃)であるので最も好ましい。ベリリウムガラス、ベリリウムセラミック、ベリリウム原子内包フラーレンは、ベリリウムの単体が溶出することがないので好ましい。

【0027】
本発明におけるリチウム材料とは、リチウム、リチウム化合物、及びリチウム複合材料のことである。リチウム化合物としては、例えば、酸化リチウム(Li2O)、窒化リチウム(Li3N)、炭化リチウム、水酸化リチウム(LiOH)、酢酸リチウム(LiCH3CO2)、炭酸リチウム(Li2CO3)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硝酸リチウム(LiNO3)、リン酸リチウム
(Li3PO4)、ケイ酸リチウム(Li4SiO4)、アルミン酸リチウム(LiAlO2)、リン酸鉄リ
チウム(LiFePO4)、フッ化リン酸鉄リチウム(Li2FePO4F)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、チタン酸リチウム(Li2TiO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO2)、等を挙げることができるがこれらに限定するものではない。また、リチウム複合材料としては、リチウムホウ酸塩ガラス、リチウムケイ酸塩ガラス、二ケイ酸リチウムガラス等のリチウムガラス、リチウムガラスを主成分として含むリチウムガラスセラミック、リチウムマグネシウム合金やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、酸化リチウムを主成分として含むリチウムセラミック、リチウム元素を固溶しているリチウム固溶セラミック、リチウム原子内包フラーレン、等を挙げることができるがこれらに限定するものではない。以上のリチウム材料の中でリチウムは低融点ではあるものの7Li(p,
n)反応の閾値(約2MeV)が低いので最も好ましい。リチウムガラス、リチウムガラスセラミック、リチウム原子内包フラーレンは、リチウムの単体が溶出することがないので好ましい。

【0028】
本発明複合型ターゲットのもう一つの材料を結晶配向性炭素材料とする主な理由は、金属類に比べて陽子及び中性子による放射化を軽減するために有効であること、及び金属類と同様又はそれ以上にターゲットで発生する熱の熱伝導性及び熱拡散性に優れているからである。また、有害且つ放射化能の高い速中性子が低減された低エネルギー中性子を発生させる上で結晶配向性炭素材料が金属類に比べて好ましいからである。

【0029】
上記結晶配向性炭素材料は、放射化されにくい材料であることが好ましく、熱中性子及び熱外中性子の吸収が少ないことが好ましく、中性子減速効果が高いことが好ましく、放射線耐久性が高いことが好ましく、熱負荷に耐えるために高融点であることが好ましく、ターゲットで発生した熱を伝導、拡散するための熱伝導性、熱拡散性が優れていることが好ましく、ベリリウム材料(又はリチウム材料)との接着性に優れていることが好ましく、中性子発生可能な材料であることが好ましい。

【0030】
一般に、炭素材料とは、周期律表における十四族元素の中から選ばれた炭素元素の単一元素材料(以下、炭素という)のことであるので、本発明における炭素材料もこの定義に従う。また、一般に、結晶性とは、物質を構成する原子や分子が空間的に繰り返しパターンを持って配列していることをいい、配向性とは、分子や結晶の向きが揃っていることをいうので、本発明における結晶配向性もこの定義に従う。すなわち、本発明における結晶配向性炭素材料とは、炭素原子又は炭素分子から成る結晶性の炭素であり、且つ、結晶の向きが揃っている炭素のことである。本発明における結晶配向性炭素材料としては、以下に説明する単結晶黒鉛、高配向熱分解黒鉛(HOPG:highly-oriented pyloritic graphite)、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維(VGCF:vapor-grown carbon fiber)、カーボンウイスカー、カーボンナノチューブ類、グラフェン類、単結晶ダイヤモンド、エピタキシャルダイヤモンド、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。単結晶黒鉛は、炭素原子の六員環(一部に五員環を含む
場合も含まれる)が平面的に連なったハニカム形状の層(グラファイト層と言う)が、弱いファンデルワールス力で結合して層状構造を形成し、この層状構造が結晶の如く規則性をもって配列しており、グラファイト層の面(以下、グラファイト面と言う)が秩序よく同一の方向に向いている。HOPGは、単結晶黒鉛のような完全な結晶配向性ではないものの単結晶黒鉛に類似するような高い結晶配向性を有する黒鉛材料である。カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、VGCF、及びカーボンウイスカーは、黒鉛の微結晶が繊維状に凝集しておりその繊維軸方向にグラファイト層が配向している黒鉛材料である。カーボンナノチューブ類は、分子の中心に中空がありこの中空を覆うように一層乃至複数層のグラファイト層で構成されている炭素材料である。グラフェン類は、分子が一層乃至数層のグラファイト層から構成されている炭素材料である。単結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド構造が途切れることなく連続しているダイヤモンドである。エピタキシャルダイヤモンドは、基板となる結晶の上にダイヤモンドの結晶を成長させた薄膜状のダイヤモンド結晶であり、その結晶成長が、下地の基板の結晶面に揃えて配列しているダイヤモンドである。上記本発明における結晶配向性炭素材料のうち、単結晶黒鉛は、通常、グラファイト面における熱伝導率の値が、1500Wm-1-1、熱拡散率(比熱容量当たりの熱伝導率で与えられる)が、3.4m2-1程度である。一方、熱伝導性の高い金属材料としてよく知られている銅の熱伝導率は、400Wm-1-1であり、熱拡散率は、0.42m2-1程度である。したがって、本発明における結晶配向性炭素材料のうち、単結晶黒鉛や単結晶黒鉛に準ずる結晶配向性を有するHOPG、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、VGCF、カーボンウイスカー、カーボンナノチューブ類、及びグラフェン類は、ターゲットで発生する熱をグラファイト面に沿って速やかに伝導・拡散させるための熱伝導材料として好ましい。また、単結晶ダイヤモンドは、熱伝導率の値が、2300Wm-1-1、熱拡散率が、4.6m2-1程度である。したがって、本発明における結晶配向性炭素材料のうち、単結晶ダイヤモンドや結晶配向性が単結晶ダイヤモンドに準ずるエピタキシャルダイヤモンドは、ターゲットで発生する熱を等方的(3次元的)に速やかに伝導・拡散させるための熱伝導材料として好ましい。本発明における結晶配向性炭素材料は、通常、嵩密度が1.5g
cm-3~3.5gcm-3の範囲にあるものが使用可能である。本発明においては、嵩密度が1.5gcm-3未満の結晶配向性炭素材料は使用不可能ではないが、嵩密度が1.5gcm-3
満であると炭素原子と陽子及び中性子との衝突が不十分になることもあるので、嵩密度は1.5gcm-3以上であることが好ましい。また、嵩密度が3.5gcm-3を超えると常圧下における安定相はダイヤモンドであるので、物質として存在する炭素材料の嵩密度の最大値は3.5gcm-3程度である。本発明で用いる結晶配向性炭素材料は、従来の工業材料とし
て用いられている結晶配向性炭素材料が使用可能であり、より高密度に改良された結晶配向性炭素材料はより好ましい。

【0031】
上記結晶配向性炭素材料の中で、単結晶黒鉛、HOPG、カーボンファイバー、単結晶ダイヤモンド、及びエピタキシャルダイヤモンドは、工業材料として製造されており、バランスのとれた前記の物性を有するだけでなく、とりわけ熱伝導及び熱拡散性に優れており、放射性核種を生成しにくい材料であり、意外にも水素脆化を起こしにくいという性質も有するのでさらに好ましい。

【0032】
また、本発明における結晶配向性炭素材料は、上記に挙げた単結晶黒鉛、HOPG、カーボンファイバー、単結晶ダイヤモンド、及びエピタキシャルダイヤモンドの中の少なくとも一つの材料とこれ以外の炭素系材料を複合して成る炭素系複合材料とすることができる。複合させる炭素系材料は、一つでもよいし複数でもよい。このような炭素系材料としては、例えば、等方性黒鉛、多孔性カーボン、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン、フラーレン、ポリアセチレン、窒化炭素、炭化ケイ素、等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。例えば、等方性黒鉛との複合は、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体と等方性黒鉛のブロック状の成形体の張り合わせによって行うことができる。等方性黒鉛の
成分比率は、特に限定するものではないが、通常50%以上である。こうすることによって、ターゲットで発生する熱をターゲットの底面に伝導させることも可能なので、さらに効率的なターゲットの冷却が可能である。

【0033】
ターゲットで発生する中性子の平均エネルギーは、入射陽子のエネルギーの約5分の1であることが知られている(非特許文献1)。したがって、例えば、8MeVの陽子をベリ
リウム材料に衝突させて発生させる中性子の平均エネルギーは約1.6MeVであり、3MeV
の陽子をリチウム材料に衝突させて発生させる中性子の平均エネルギーは約0.6MeVであることが予想される。この中性子の平均エネルギー値は、高速中性子のエネルギー範囲であるので、上記発生中性子をBNCT等の医療用に用いるためには、減速材によって熱中性子乃至熱外中性子のエネルギーにまで減速させる必要がある。軽水(H2O)、重水(D2O)、ベリリウム(Be)、酸化ベリリウム(BeO)、及び黒鉛(C)等の炭素系材料は、鉄などの鉄系金属、銅などの非鉄金属、及びタングステン等の重金属が中性子を減速する性質をほとんど示さないことに比べて、中性子減速比(中性子の減速能の値を中性子の吸収能で割った値であり、この値が大きいほど良い減速材である)が上記金属の減速比の1000倍以上大きいことから、原子炉等の中性子減速材として一般的に使用されている。中でも黒鉛等の炭素系材料は、軽水の中性子減速比よりも大きく、また中性子減速距離(高速中性子が減速して熱中性子になるまでの移動距離であり、フェルミ年齢τcm2の平方根
として与えられる)が、約20cmと比較的短いことから(軽水の中性子減速距離の約4倍、重水の中性子減速距離の約2倍)(非特許文献2)、熱中性子乃至熱外中性子を得るための中性子減速材として好適な材料である。また、黒鉛等の炭素系材料は、水と同様の中性子透過性を有するものと予想されることから、黒鉛等の炭素系材料中の中性子透過率(I/I0:入射中性子の強さに対する透過後の中性子の強さの比率)は、水の中性子透過率の測定データ(I/I0=10-0.08T、ここでTcmは中性子の透過距離であり、入射中性子は
1MeVである)(非特許文献3)に基づき、例えば、本発明における黒鉛材料の厚みを3
cmとすると中性子透過率は、約60%であると見積もられるので、約40%の高速中性
子の透過を抑止できることが予想される。また、例えば、本発明における黒鉛材料の厚みを20cm以上とすると、高速中性子の透過をほぼ完全に抑止し、熱中性子及び熱外中性子として得られることが予想される。

【0034】
また、本発明における結晶配向性炭素材料は、使用に際しての機械的強度等を向上させるために、所望に応じて、適宜、補強材の添加が可能である。補強材としては、放射化されにくい材料であることが好ましい。このような材料としては、例えば、エポキシ樹脂、ガラス繊維、各種のセラミック材料を挙げることができるが、これらに限定するものではない。

【0035】
陽子とターゲットの衝突による中性子発生においては、ターゲットで発生する熱を如何にして効率的に排熱するかが非常に重要である。通常、ターゲットの単位表面積当たりの熱負荷の最大値は陽子の出力をターゲットの表面積で割った値とみなされるので、ターゲット表面からの排熱能力は、ターゲットの熱負荷以上に設計しなければならない。例えば、BNCT等の医療用の中性子を発生させるために必要な陽子の出力は少なくとも30kW程度であると試算されているので、例えばターゲットの表面積が30cm2であるとすると熱負荷は10MWm-2にもなる。陽子の出力は、出力が高いほど中性子の発生線量が多くなるので、可能な限り高い値に設定することに越したことはないのであるが、従来は一種類のターゲット材料を用いていたので、例えば、出力30kWの陽子線を表面積30c
2のターゲット材料に照射する場合には、ターゲット材料表面の水冷による直接冷却が
困難であるために、ターゲット材料よりも表面積の大きい金属製の熱伝導板を介した冷却法が提案されている(特許文献6)。しかし、この方法ではリチウム等の融点の低い材料を用いた固体ターゲットの使用は殆ど困難であった。これに対して、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体である本発明複合型タ
ーゲットは、結晶配向性炭素材料がもつ高い熱伝導性及び熱拡散性を利用することによってターゲットで発生する熱を速やかに系外に排熱することが可能であるので、陽子の出力を従来の出力値よりも大きくすることが可能であり、例えば100kW程度の出力の陽子
でも使用可能である。本発明複合型ターゲットは、上記のようなターゲットの熱問題を解決するために有効である。

【0036】
本発明において、ターゲットをベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体とする理由は、ターゲットで発生する熱を上記結晶配向性炭素材料が持つ高い熱伝導率・熱拡散率を利用して系外に排熱するために両材料の重ね合わせが有効であるためである。例えば、結晶配向性炭素材料として単結晶黒鉛のようなグラファイト面の熱伝導性がグラファイト面に直交する面の熱伝導性よりも桁違いに高い材料を用いる場合には、単結晶黒鉛のグラファイト面とベリリウム材料(又はリチウム材料)を重ね合わせて成る複合体とすることによって、ターゲットで発生する熱をグラファイト層に沿って速やかにターゲット表面に伝導・拡散させることが可能である。このようにして伝導された熱は、該ターゲットに設けた冷却機構によって速やかに排熱され、その結果、ターゲットの効率的な冷却が可能である。この場合には冷却機構をグラファイト面に直交するような位置、すなわち、ターゲットの側面、に設けるのが有効である。また、例えば、結晶配向性炭素材料として単結晶ダイヤモンドのような金属材料よりも高い熱伝導性を持ち、且つ金属材料の様に熱伝導が等方的に行われるような材料を用いる場合でも、単結晶ダイヤモンドの表面とベリリウム材料(又はリチウム材料)を重ね合わせた複合体とすることによって、ターゲットで発生する熱をダイヤモンドの結晶面のあらゆる方向からターゲット表面に伝導・拡散させることが可能である。このようにしてあらゆる方向に伝導された熱は、該ターゲットに設けた冷却機構によって速やかに排熱され、その結果、ターゲットの効率的な冷却が可能である。この場合には冷却機構をターゲットの側面や、ターゲットの内部や、ターゲットの低面に設けることが可能である。また、例えば、結晶配向性炭素材料としてカーボンファイバーのような繊維軸方向に結晶配向性を有する材料を用いる場合には、カーボンファイバーを繊維軸方向に揃えて結束させたシート状のカーボンファイバーの表面にベリリウム材料(又はリチウム材料)を重ね合わせた複合体とすることによって、ターゲットで発生する熱をカーボンファイバーの繊維軸に沿ってターゲット表面に伝導・拡散させることが可能である。このようにして伝導された熱は、該ターゲットに設けた冷却機構によって速やかに排熱され、その結果、ターゲットの効率的な冷却が可能である。この場合には冷却機構をターゲットの側面に設けるのが有効である。また、本発明複合型ターゲットに用いる複合体の個数は、限定するものではない。複合体を両材料が交互に重なり合うように複数個積層させた複合体とすることによって、伝熱面積を飛躍的に大きくすることが可能であるので、こうすることによってターゲットで発生する熱をより効率的にターゲット表面に伝導することが可能である。上記のようにして熱伝導や熱拡散によって速やかにターゲット表面に伝導された熱は、ターゲットの側面、内部、又は底面に設けられた間接的又は直接的な冷却機構によって、実際上の系外への排熱が可能になり、それによってターゲットの冷却が可能になるわけである。

【0037】
本発明複合型ターゲットの具体的態様としては、例えば、一枚のベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせた後、ターゲットに成形する、厚みの薄いベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体を両材料が交互に重なり合う様に複数個積層後、ターゲットに成形する、等を挙げることができるがこれらに限定するものではない。積層個数は限定するものではないが、積層個数を多くすることによって伝熱面積を飛躍的に大きくすることが可能である。

【0038】
本発明複合型ターゲットの成形方法は、用いる材料の種類や厚み等に応じて適宜決められるものであり、特定の加工方法に限定するものではない。例えば、ベリリウム材料と結晶配向性炭素材料の重ね合わせよる複合体の形成は、ホットプレス、HIP処理(熱間静
水圧成形:Hot-Isostatic-Pressing)、蒸着法、等によって行うことができる。比較的厚いベリリウム材料と結晶配向性炭素材料の重ね合わせに成る複合体は、ホットプレスやHIP処理が好ましく、比較的薄いベリリウム材料と結晶配向性炭素系材料の重ね合わせに成る複合体の形成は、蒸着法が好ましい。ベリリウム材料と結晶配向性炭素材料のホットプレスは、通常、200℃~常圧におけるベリリウム材料の融点までの温度下、103
ロパスカル~105キロパスカルの圧力下で行うことができ、HIP処理は、通常、10
0℃~常圧におけるベリリウム材料の融点までの温度下、104キロパスカル~106キロパスカルの圧力下で行うことができ、蒸着は、炭素系材料基板の温度が室温~ベリリウム材料の融点までの温度下、10-3パスカル~10-6パスカルの圧力下で行うことができる。例えば、ベリリウムと結晶配向性炭素材料を900℃以上のHIP処理によって重ね合わせることによって、接合界面にベリリウムカーバイドを生じさせることができるので、これによって接着力を向上させることができる。また、例えば、リチウム材料と結晶配向性炭素材料の重ね合わせに成る複合体の形成は、ホットプレス、HIP処理、蒸着法、等によって行うことができる。比較的厚いリチウム材料と結晶配向性炭素材料の重ね合わせに成る複合体の形成は、ホットプレスやHIP処理が好ましく、比較的薄いリチウム材料と結晶配向性炭素材料の重ね合わせに成る複合体の形成は、蒸着法が好ましい。リチウム材料と結晶配向性炭素材料のホットプレスは、通常、室温(23℃)~常圧におけるリチウム材料の融点までの温度下、103キロパスカル~105キロパスカルの圧力下で行うことができ、HIP処理は、通常、室温~常圧におけるリチウム材料の融点までの温度下、104キロパスカル~106キロパスカルの圧力下で行うことができ、蒸着は、結晶配向性炭素材料基板の温度が室温~リチウム材料の融点までの温度下、10-3パスカル~10-6パスカルの圧力下で行うことができる。厚みの薄いベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料の重ね合わせに成る複合体を複数個積層したターゲットは、例えば、厚みの薄い結晶配向性炭素材料上にベリリウム材料(又はリチウム材料)を蒸着することによって作製されるシートや、厚みの薄い結晶配向性炭素材料に厚みの薄いベリリウム材料(又はリチウム材料)を圧延接着して作成されるシートを、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料が交互に接するように積層し、ホットプレスやHIP処理等によってターゲット形状に圧着成形することによって作製することができる。ベリリウム材料やリチウム材料の結晶配向性炭素材料へのコーティングは、例えばCVD法(化学蒸着法:chemical vapor deposition)によって可能である。

【0039】
本発明複合型ターゲットにおけるベリリウム材料(又はリチウム材料)の厚さは、陽子の衝突による中性子発生反応を結晶配向性炭素材料にも分担させることが可能なので、特に限定するものではないが、ベリリウム材料(又はリチウム材料)中での陽子の理論的飛程よりもかなり薄くすることができる。なぜなら、結晶配向性炭素材料がベリリウム材料(又はリチウム材料)の支持材及び冷却材として機能するからである。また、上記理由により各材料が負担する熱負荷を軽減されるからである。上記理論的飛程は、陽子の入射エネルギーと物質の阻止能によって計算できる。例えば、ターゲット材料がベリリウムの場合、11MeVの陽子のベリリウム中での理論的飛程は、約0.94mmであるので、従来のベリリウムだけから構成されているターゲットの場合には、1mm以上の厚みが必要であった。しかし、本発明ターゲットにおけるベリリウムは、1mmよりもかなり薄くすることが可能である。本発明ターゲットにおけるベリリウム材料がベリリウムである場合のベリリウムの厚さは、好ましくは、0.01mm以上であり1mm未満である。さらに好ま
しくは、ベリリウムの厚さは0.1mm以上であり0.5mm以下である。ベリリウムの厚さが0.01mm未満であると耐熱性が著しく低下するので0.01mm以上であることが好ましい。また、陽子の衝突による核反応の一部をベリリウムで分担させるためには、ベリリウムの厚さは1mm未満であることが好ましい。同様にしてターゲット材料がリチウムの場合、11MeVの陽子のリチウム中での理論的飛程は、約2mmであるので、従来の
リチウムだけから構成されているターゲットの場合には、2mm以上の厚みが必要であった。しかし、本発明複合型ターゲットにおけるリチウム材料がリチウムである場合のリチ
ウムの厚みは、2mmよりもかなり薄くすることが可能である。本発明複合型ターゲットにおけるリチウムの厚さは、好ましくは、0.01mm以上、1mm以下である。さらに
好ましくは、0.05mm以上0.5mm以下である。リチウムの厚さが0.01mm未満
であると耐熱性が低下するので0.01mm以上であることが好ましい。また、陽子の衝
突による反応の一部をリチウムで分担させるためにはリチウムの厚さは1mm以下であることが好ましい。耐熱性を維持し、且つ陽子の衝突による核反応の一部をリチウムで分担させるためには、リチウムの厚さは0.05mm以上であり0.5mm以下であることがより好ましい。

【0040】
本発明複合型ターゲットは、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料の厚さ方向の比率を限定するものではない。本発明複合型ターゲットは、当該比率を用いるターゲット材料や照射陽子の加速エネルギーに応じて適宜設定することが可能であり、通常は結晶配向性炭素材料の厚さをベリリウム材料(又はリチウム材料)の厚さの10倍以上に設定する。この主な理由は、結晶配向性炭素材料の中性子発生効率が、通常、ベリリウム材料(又はリチウム材料)の中性子発生効率に比べて一ケタ以上小さいことによる。

【0041】
本発明複合型ターゲットは、該複合型ターゲットの表面に真空シールを付帯することができる。真空シールを付帯することの主な理由は、本発明ではターゲットへの陽子照射を真空下で行うので、真空下でのターゲットの取扱・操作を行うためである。また、真空シールを付帯することによる副次的な効果として、大気に接触することによる酸化性の雰囲気での酸化劣化を防止する効果がある。真空シールは、ターゲットが大気と接する部分だけのシールであってもよいし、あるいはターゲット全体のシールであってもよい。真空シールのためのシール材料は、特に限定するものではないが、軽金属材料や非金属材料は重金属類に比べて放射化されにくい性質を持つので好ましい。軽金属材料としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、スズ、亜鉛、ケイ素、これらの軽金属材料の合金、各種のセラミック材料、等を挙げることができるがこれらに限定するものではない。また、非金属材料としては、例えば、ガラス、エポキシ樹脂、ガラス繊維強化プラスチック、等を挙げることができるがこれらに限定するものではない。

【0042】
また、本発明複合型ターゲットは、該複合型ターゲットの表面に真空シールを付帯し、且つ該複合型ターゲットに冷媒流路を有する冷却機構を付帯することができるのであるが、上記冷却機構を付帯することの主な理由は、ターゲットで発生する熱を実際上、効率的に系外に排熱することによってターゲットを冷却するためである。上記冷却機構を複合型ターゲットに設ける個所は、特に限定するものではないが、複合型ターゲットの側面に冷却機構を設ける場合には、必要に応じて熱伝導性の高い伝熱板を介して水冷することが可能である。複合型ターゲットの内部に冷却機構を設ける場合には、結晶配向性炭素材料の内部に冷媒流路を設けることが可能であり、また、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体を複数個積層し、隣り合う複合体の隙間に冷媒流路を設けることも可能である。この場合の冷媒としては、例えば、冷却水等の液体、ヘリウムガス等の熱伝導率の高い気体を用いるのが好ましい。また、複合型ターゲットの底面に冷却機構を設けることも可能である。この場合には、中性子による放射化の問題が殆ど生じないような材料を用いることが好ましい。このような材料としては、例えば本発明における結晶配向性炭素材料を挙げることができる。また、本発明複合型ターゲットは、ターゲットと冷却機構が一体化したカートリッジ型構造とすることが可能である。こうすることによって、ターゲットで発生した熱を効率的に系外に排熱することが可能であり、ターゲットの劣化に際して、新品との着脱交換を遠隔操作によって簡易に行うことが可能である。

【0043】
本発明複合型ターゲットを用いて発生させることができる中性子は、熱中性子乃至熱外
中性子を多く含む低エネルギー中性子である。低エネルギー中性子とは、有害且つ放射化能の高い高速中性子が低減された中性子のことである。高速中性子は、熱中性子又は熱外中性子に比べてエネルギーが二桁以上高いので生物学的に有害であり且つ放射化能が極めて高い。中性子の種類には、高速中性子(速中性子ともいう)、熱外中性子、熱中性子、及び冷中性子があるが、これらの中性子は、エネルギー的に明確に区分されているものではなく、炉物理、遮へい、線量計測、分析、医療などの分野によってエネルギー区分が異なる。例えば、原子力防災基礎用語によれば、「速中性子とは、中性子のうち、大きな運動量をもつものを速中性子(高速中性子)とよび、炉物理、遮へい、線量計測などの分野によってこの値は異なるが、0.5MeV以上を速中性子というのが一般的である」と記述されている。また、医療分野では、熱外中性子とは、1eV~10keVの範囲の中性子という
のが一般的であり、熱中性子とは、0.5eV以下の中性子というのが一般的である。本発
明でいう低エネルギー中性子とは、0.5MeV以上の高速中性子が低減された中性子のことをいう。本発明で用いる加速エネルギーが2MeV以上4MeV以下の陽子を本発明複合型ターゲット(リチウム材料と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体とするターゲット)に照射すると、平均エネルギーが0.3MeV程度の中性子を発生することができる。また、本発明で用いる加速エネルギーが6MeV以上8MeV以下の陽子を本発明複合型ターゲット(ベリリウム材料と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体とするターゲット)に照射すると、0.5MeV以上の高速中性子の発生量を、従来のベリリウムだけのターゲットに比べて少なくとも30%程度低減可能である。

【0044】
本発明複合型ターゲットを用い、これに低エネルギーの陽子を真空下で衝突させることによって中性子を発生させることができる。上記低エネルギーの陽子とは、ターゲットとの衝突によって核反応を生じさせることができる陽子エネルギーの閾値(核反応の閾値という)乃至閾値の数倍程度の範囲のエネルギーを有する陽子のことである。また、照射陽子の加速エネルギーを上記核反応の閾値乃至閾値の数倍程度とするのは、高速中性子が低減された低エネルギー中性子を発生させるためである。上記陽子の加速エネルギーは、本発明複合型ターゲットを構成しているターゲット材料の種類によって適宜設定する必要がある。ターゲット材料としてベリリウム材料を用いる場合の照射陽子の加速エネルギーは、好ましくは4MeV以上11MeV未満であり、さらに好ましくは6MeV以上8MeV以下である。7Be(p,n)反応の閾値が約4MeVであるので、陽子の加速エネルギーが4MeV未満であると中性子の発生効率が著しく低下するので、本発明において使用する陽子の加速エネルギーは4MeV以上であることが好ましい。また、陽子の加速エネルギーが11MeV以上であるとターゲット等の部材の放射化が著しくなるだけでなく高速中性子の発生が多くなるので、陽子の加速エネルギーは11MeV未満であることが好ましい。有害且つ放射化能の高い
高速中性子が低減された低エネルギー中性子を発生させるためにより好ましい陽子は、6MeV以上8MeV以下である。また、ターゲット材料としてリチウム材料を用いる場合の照射陽子の加速エネルギーは、好ましくは2MeV以上4MeV以下である。7Li(p,n)反応の閾値が約2MeVであるために陽子の加速エネルギーが2MeV未満であると中性子の発生効率が著しく低下するので、本発明において使用する陽子の加速エネルギーは2MeV以上であるこ
とが好ましい。また、陽子の加速エネルギーが4MeVを超えるとターゲット等の部材の放
射化が著しくなるだけでなく高速中性子の発生が多くなるので、陽子の加速エネルギーは4MeV以下であることが好ましい。有害且つ放射化能の高い高速中性子が低減された低エ
ネルギー中性子を発生させるためにより好ましい陽子は、2MeV以上4MeV以下である。また、真空下で陽子を複合型ターゲットに衝突させるのは、照射陽子の強度低下の防止や大気汚染防止のためである。したがって高真空であることに越しこしたことはないのであるが、通常、真空度は、10-4パスカル~10-8パスカルの範囲である。

【0045】
本発明複合型ターゲットと、陽子発生のための水素イオン発生部と、水素イオン発生部で発生する陽子を加速するための加速器と、加速器によって加速された陽子をターゲットに照射するための陽子照射部とを備えた中性子発生装置によって中性子を発生することが
可能である。前記加速器として線形加速器を設け、前記ターゲットとして本発明複合型ターゲットを用い、複合型ターゲットを前記陽子照射部に配置した中性子発生装置とすることができる。前記水素イオン発生部は、水素イオンを発生させるための水素イオン発生器を設けている。水素イオン発生器は、特に限定するものではなく、従来の水素イオン発生器を用いることができる。発生水素イオンは、加速するための加速器に送られる。前記加速器は、直線加速器であるが、直線加速器であれば、特に限定するものではなく、従来の直線加速器を用いることができる。このような直線加速器として、例えば、高周波四重極線形加速器、静電直線加速器、常伝導直線加速器、超伝導直線加速器、等を挙げることができる。高周波四重極直線加速器は、静電加速器に比べて小型の装置で大電流の陽子を発生することができるだけでなく、ガンマ線、X線等の放射線の発生が非常に少ないので、
静電直線加速器よりも好ましい。前記線形加速器として、陽子を2MeV以上11MeV未満の範囲に加速することができる線形加速器は、比較的小型の直線加速器によって有害且つ放射化能の高い高速中性子が低減された低エネルギーの中性子を発生させるために有効である。前記陽子照射部は、加速器によって加速された陽子をターゲットに照射するためであり、中性子を発生させるためのターゲットと、通常、陽子の収束・拡散・走査や陽子エネルギーの分級等を行うための陽子ビームの調整手段が設けられている。該陽子照射部は、特に限定するものではなく、従来の四重極電磁石又は偏向電磁石を備える陽子照射部を用いることができる。

【0046】
以下に図面を参照しつつ本発明の一側面を実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)として詳細に説明する。

【0047】
陽子を衝突させて中性子を発生させるための本実施形態に係る複合型ターゲットは、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体とする複合型ターゲットである。該複合型ターゲットにおける各材料は、界面を介して接している構造を有する。このようなターゲットとしては、下記のような形状を有するターゲットが可能である。例えば、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶性配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体をターゲット形状に成形したターゲット、該複合体を複数個積層させて成る複合体をターゲット形状に成形したターゲット、等を例示することができるが、これらに限定するものではない。結晶配向性炭素材料は、単一材料でもよいし、複数の結晶配向性炭素材料を複合した炭素系複合材料とすることもできる。また、前記複合型ターゲットが真空シールを付帯した複合型ターゲット、前記複合型ターゲットが真空シールを付帯し、且つ、冷媒流路を有する冷却機構を付帯するカートリッジ型構造の複合型ターゲットとすることが可能である。また、必要に応じて、複合型ターゲットにおけるベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料との剥離防止等のために複合型ターゲットの表面に切り込み溝を入れることが可能であり、ターゲットで発生する熱を冷却機構に確実に伝導させるために冷却機構とターゲットの中間に伝熱板を設けることも可能である。

【0048】
図1は、本実施形態に係る複合型ターゲットの概略図である。図に示すように本発明複合型ターゲット8は、ベリリウム材料(又はリチウム材料)1と結晶配向性炭素材料2を重ね合わせて成る複合体の形状を有するターゲット3、及び該ターゲットの側面及び内部に冷媒の流路5を有する冷却機構6を付帯している複合型ターゲット8である。上記冷媒の流路5としては、液体の冷媒の流路だけでなく、気体の冷媒の流路も設けることができる。そしてターゲット3には、大気側に位置する炭素材料の表面をシールするための真空シール4が施されている。また、必要に応じて、炭素材料の片面にベリリウム材料(又はリチウム材料)を仕切って付着させるための溝7を設けることができる。

【0049】
図2は、本実施形態に係る複合型ターゲットの概略図である。図に示すように複合型ターゲット8は、ベリリウム材料(又はリチウム材料)1と結晶配向性炭素材料2を重ね合
わせて成る複合体の形状を有するターゲット3、及び該ターゲットの側面及び内部に冷媒の流路5を設けた冷却機構6を付帯している複合型ターゲット8である。上記冷媒の流路5としては、ターゲットの内部とターゲットの側面に共通の冷媒の流路を設けることができる。そしてターゲット3には、大気側に位置する炭素材料の表面をシールするための真空シール4が施されている。また、必要に応じて、炭素材料の片面にベリリウム材料(又はリチウム材料)を仕切って付着させるための溝7を設けることができる。

【0050】
図3は、本実施形態に係る複合型ターゲットの概略図である。図に示すように本発明複合型ターゲット8は、ベリリウム材料(又はリチウム材料)1と結晶配向性炭素材料2を重ね合わせて成る複合体を両材料が交互に重なり合うように複数個積層させた形状を有するターゲット3、及び該ターゲットに冷媒の流路5を設けた冷却機構6を付帯している複合型ターゲット8である。上記冷媒の流路5としては、液体の冷媒の流路を設けることができる。そしてターゲット3には、大気側に位置する炭素系材料の表面をシールするための真空シール4が施されている。

【0051】
図4は、実施の形態に係る本発明複合型ターゲットを用いる中性子発生方法を例示する概略図である。図に示すように、本発明複合型ターゲット9に所定の加速エネルギー(2MeV以上11MeV未満)を有する陽子10を真空下で衝突させることによって低エネルギーの中性子11を発生させることが可能である。

【0052】
図5は、実施の形態に係る本発明複合型ターゲットを用いる中性子発生装置を例示する概略図である。図に示すように、本実施形態に係る中性子発生装置は、水素イオン発生部17、線形加速器18、及び陽子照射部19がフランジ20を介して連結している。そして、陽子照射部内には複合型ターゲット12を備える。水素イオン発生部17には水素イオン発生器が設けられており、発生水素イオン13は、線形加速器18に導入され、加速される。線形加速器19によって所定のエネルギーまで加速された陽子14は、同線形加速器15の先端部に連結された陽子照射部18に導入され、同陽子照射部19に設けられた複合型ターゲット12に衝突して、低エネルギーの中性子15を発生させる。上記線形加速器18は、2MeV以上11MeV未満の陽子を発生することができる直線加速器であれば特に限定するものではない。また、陽子照射部19には、通常、四重極電磁石又は偏向電磁石が設けられる。

【0053】
図6は、ベリリウム(又はリチウム)21が金属製の支持体22に付着している従来のターゲットを例示する断面の概略図である。

【0054】
以上のように、本発明は、陽子をターゲットに衝突させて中性子を発生させるための新規のターゲットである。以上までにおいて説明した実施の形態のように、ターゲットがベリリウム材料又はリチウム材料と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体であるので、有害且つ放射化能の高い高速中性子が低減された低エネルギーの中性子の発生が可能であること、ターゲットで発生する熱の排熱が容易であること、冷却機構がターゲットに付帯されているので効率的な冷却が可能であること、ターゲットと冷却機構とが一体化したカートリッジ型構造とすることが可能であるので、このターゲットを陽子照射部の先端部分に設け、ターゲットの劣化に際して新品との着脱交換を遠隔操作によって簡易にできるという特長を有する。

【0055】
また、上述の通り、本発明複合型ターゲットの構成材料である結晶配向性炭素材料は、中性子減速効果を備えうるので、高速中性子の発生が低減される。これにより、以上までにおいて説明した実施の形態では、発生中性子を減速するための減速機構を小型化することが可能である。

【0056】
また、照射陽子の加速エネルギーが2MeV以上11MeV未満の比較的低エネルギーの陽子であるので、陽子によるターゲット等の部材の放射化が著しく低減されること、有害な高速中性子の発生が抑制されること、加速陽子を小型の線形加速器で発生可能であること、等の効果が得られる。

【0057】
したがって、本発明複合型ターゲットは、小規模の医療機関に設置可能なBNCT等の医療用の中性子を発生するための中性子発生装置の中性子源として有効である。

【0058】
以上の説明によって、本発明複合型ターゲットにおける結晶配向性炭素材料は、ターゲットで発生する熱を金属類以上乃至金属類と同様に速やかにターゲット表面に伝導・拡散することが可能であるので、このことによって、もう一つのターゲット材料であるベリリウム材料(又はリチウム材料)の溶融や溶断を防止することが可能であることは明らかであるが、本発明複合型ターゲットにおける結晶配向性炭素材料のもう一つの役割であるターゲット材料の放射化の低減効果についても以下に理論的に証明することができる。
[理論計算によるシミュレーション]
ターゲット材料の放射化を予測するために、シミュレーションを行った。該シミュレーションは、中性子核反応の核反応断面積の理論計算プログラムであるJENDL-4.0(非特許
文献4)を用いて行った。計算結果の概略を以下に説明する。(1)6MeV陽子とベリリ
ウムの衝突によって生じる核反応は、9Be(p,γ)10B、9Be(p,n)9B、9Be(p,pn)8Be、及び9Be(p,α)6Liであり、これらの核種の半減期は短く、又これらの核種の実効線量当量率定数Γe(放射性核種から放射されるガンマ線の線量を示す尺度:単位であるμSvm2MBq-1h-1
のμSvはマイクロシーベルト、mはメートル、MBqはメガベクレル、hはhourである)は、
ゼロである。(2)6MeV以下の中性子とベリリウムの衝突によって生じる核反応は、9Be(n,γ)10Be、9Be(n,2n)8Be、及び9Be(n,α)6Heであり、これらの核種の半減期は短く、又これらの実効線量当量率定数Γeは、ゼロであった。なお、中性子の加速エネルギーを6MeV以下としたのは、8MeV陽子とベリリウムの衝突によって発生する中性子の最大エネル
ギーが6.1MeVであることによる。(3)3MeV陽子とリチウムの衝突によって生じる核反
応は、6Li(p,γ)7Be、6Li(p,α)3He、7Li(p,γ)8Be、7Li(p,n)7Be、及び 7Li(p,α)4Heであり、これらの生成放射性核種のなかで7Be以外の核種の半減期は短く、また7Be以外の核種の実効線量当量率定数Γeは、ゼロ又は0.00847であった。(4)3MeVの中性子とリチ
ウムの衝突で生じる核反応は、6Li(n,γ)7Li、6Li(n,p)6He、6Li(n,t)4He、6Li(n,α)3H
、及び 7Li(n,γ)8Liであり、これらの生成放射性核種のなかでトリチウム(t又は3H)以外の放射性核種の半減期は短く、またトリチウム以外の放射性核種の実効線量当量率定数Γeは、ゼロ又は0.00847であった。(5)6MeV中性子と周期律表における0族元素、及
び1族元素~8族元素の各元素との衝突によって比較的長い半減期及び比較的高い実効線量当量率定数Γeを有する放射性核種を生じる元素は、Sc、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及
びPt等であった。これらの中で、鉄材の放射化によって生成する放射性核種は、54Fe(n,p)54Mn(半減期312days,Γe0.111)、54Fe(n,α)51Cr(半減期27.7days,Γe0.0046)、56Fe(n,p)56Mn(半減期2.58hours,Γe0.203)、及び58Fe(n,γ)59Mn(半減期44.6days,Γe0.147)で
あり、銅材の放射化によって生成する放射性核種は、63Cu(n,γ)64Cu(半減期12.7hours,
Γe0.0259)、63Cu(n,γ)60Co(半減期5.27years,Γe0.305)、及び 65Cu(n,p)65Ni(半減期2.52hours,Γe0.0671)であった。

【0059】
以上の理論計算シミュレーションの結果から、本発明複合型ターゲットに用いる結晶配向性炭素材料は、照射陽子及び発生中性子との核反応による放射性核種の生成は起こらないことが予想された。一方、従来、ターゲット材料に用いられている銅材や鉄材などの金属材料は、照射陽子及び発生中性子との核反応によって各種の放射性核種の生成及びこれによるターゲット材料の放射化が予想された。

【0060】
以上、本発明複合型ターゲットにおける材料構成の熱特性及び陽子・中性子による放
射化特性に関する理論計算結果から、本発明複合型ターゲットは、従来の金属製ターゲットよりも放射化を著しく低減することが可能であり、また、ターゲットで発生する熱を金属材料と同程度乃至それ以上に速やかにターゲット表面に伝導・拡散することが可能であり、ターゲット表面に伝導・拡散した熱は、該複合型ターゲットに付帯する冷却機構によって系外に排熱することが可能であることから、本発明複合型ターゲット及び本発明複合型ターゲットを用いる中性子発生方法及び中性子発生装置は、小規模の医療機関に設置可能なBNCT等の医療用の中性子を発生するための中性子発生源、中性子発生方法、及び中性子発生装置として有効である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明複合型ターゲットは、ターゲット部分がベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体であるので陽子及び中性子による部材の放射化を低減できる、従来よりも比較的低エネルギーの陽子を用いることができるので高速中性子の生成を低減できる、ターゲットの熱問題を解決することができる、該ターゲット部分と冷却機構が一体化したカートリッジ型構造の複合型ターゲットは、ターゲットで発生する熱の実際上の系外への排熱が可能であり、ターゲットの劣化に際して新品との着脱交換を遠隔操作によって安全・簡易に行うことができる、等の特徴を有する。また、本発明複合型ターゲットを用いた中性子発生方法、及び中性子発生装置によって、小型の直線加速器を用いて低エネルギーの中性子を生成可能であるので、本発明複合型ターゲットは、BNCT等の医療用中性子を生成する上で非常に有益である。
【符号の説明】
【0062】
1 ベリリウム材料(又はリチウム材料)
2 結晶配向性炭素材料
3 ターゲット
4 真空シール
5 冷媒流路
6 冷却機構
7 溝
8 複合型ターゲット
9 複合型ターゲット
10 陽子の流れ
11 中性子の流れ
12 複合型ターゲット
13 水素イオンの流れ
14 加速陽子の流れ
15 照射陽子の流れ
16 発生中性子の流れ
17 水素イオン発生部
18 線形加速器
19 陽子照射部
20 フランジ
21 ベリリウム(又はリチウム)
22 金属製支持体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5