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明細書 :抗菌剤を含む医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年2月2日(2017.2.2)
発明の名称または考案の名称 抗菌剤を含む医薬組成物
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61K  31/63        (2006.01)
A61K  31/505       (2006.01)
A61K  31/635       (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
FI A61K 45/00 ZNA
A61K 31/63
A61K 31/505
A61K 31/635
A61P 25/28
A61P 31/04
国際予備審査の請求
全頁数 30
出願番号 特願2015-501434 (P2015-501434)
国際出願番号 PCT/JP2014/053559
国際公開番号 WO2014/129411
国際出願日 平成26年2月14日(2014.2.14)
国際公開日 平成26年8月28日(2014.8.28)
優先権出願番号 2013032631
優先日 平成25年2月21日(2013.2.21)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】▲高▼嶋 博
【氏名】出雲 周二
出願人 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100101904、【弁理士】、【氏名又は名称】島村 直己
【識別番号】100176197、【弁理士】、【氏名又は名称】平松 千春
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C086
Fターム 4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA152
4C084ZB352
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086DA19
4C086DA20
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZB35
4C086ZC41
要約 【課題】
本発明は、認知症の原因の1つを解明し、その治療に有効な医薬組成物を提供することを課題とした。
【解決手段】
本発明は、抗菌剤を含む、認知症治療用医薬組成物を提供する。また、本発明は、葉酸合成阻害剤を含む、高度好塩菌感染症治療用医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
抗菌剤を含む、認知症治療用医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
前記認知症が、脳炎または脳脊髄炎を伴う認知症である、
医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
前記認知症が、古細菌の感染に起因する認知症である、
医薬組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
前記抗菌剤が、葉酸合成阻害剤である、
医薬組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の医薬組成物であって、
前記葉酸合成阻害剤が、サルファ剤、および/または、2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤である、
医薬組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の医薬組成物であって、
前記サルファ剤がプロントジル、スルファモノメトキシン、スルファジアジン、スルファジメトキシン、スルファセタミド、スルファドキシン、スルファニルアミド、スルフィソミジン、スルフィソキサゾール、スルファメトキサゾール、スルファジミジン、スルファメラジン、スルファキノキサリン、および、これらの薬理学的に許容される塩からなる群から選択され、
前記2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤が、ブロジモプリム、テトロキソプリム、トリメトプリム、および、これらの薬理学的に許容される塩からなる群から選択される、
医薬組成物。
【請求項7】
請求項3に記載の医薬組成物であって、
前記古細菌が、メタン菌、高度好塩菌、好熱好酸菌、超好熱菌からなる群から選択される、
医薬組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の医薬組成物であって、
前記古細菌が、高度好塩菌である、
医薬組成物。
【請求項9】
葉酸合成阻害剤を含む、高度好塩菌感染症治療用医薬組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の医薬組成物であって、
前記葉酸合成阻害剤が、サルファ剤、および/または、2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤である、
医薬組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の医薬組成物であって、
前記サルファ剤がプロントジル、スルファモノメトキシン、スルファジアジン、スルファジメトキシン、スルファセタミド、スルファドキシン、スルファニルアミド、スルフィソミジン、スルフィソキサゾール、スルファメトキサゾール、スルファジミジン、スルファメラジン、スルファキノキサリン、および、これらの薬理学的に許容される塩からなる群から選択され、
前記2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤が、ブロジモプリム、テトロキソプリム、トリメトプリム、および、これらの薬理学的に許容される塩からなる群から選択される、
医薬組成物。
【請求項12】
認知症の治療方法であって、
治療上有効量の抗菌剤を、対象に投与するステップ、を含む、
治療方法。
【請求項13】
請求項12に記載の治療方法であって、
前記認知症が、脳炎または脳脊髄炎を伴う認知症である、
治療方法。
【請求項14】
請求項12に記載の治療方法であって、
前記認知症が、古細菌の感染に起因する認知症である、
治療方法。
【請求項15】
高度好塩菌感染症の治療方法であって、
治療上有効量の葉酸合成阻害剤を、対象に投与するステップを含む、
治療方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古細菌(アーキア)とは、真核生物、細菌(真正細菌)と並んで、生物全体を3つに分類した場合の1ドメインを形成する生物群であり、その形態は細菌にやや近いものの、系統学的にはむしろ真核生物に近い生物であることが知られている。古細菌は通常、火口などの高熱環境、酸性環境、塩水など、極めて特殊な環境に多く存在することが確認されている。これまで、古細菌が、歯肉炎を患うヒトの口腔内などから検出された報告(非特許文献1)はあるが、いまだかつて古細菌が動物の疾患の原因となることを示した報告はなく、古細菌はヒトを含む動物に対して病原性を有しないと考えられてきた。それゆえ、古細菌と動物の疾患との関係については、これまでほとんど研究が行われてこなかった。
【0003】
認知症は、かつては「痴呆」と呼ばれていた概念であり、認知障害により、社会生活や職業上の機能に支障をきたす状態・症状である。認知症の患者においては、記憶機能の低下のほか、失語(言語障害)、失行(運動機能が正常にもかかわらず、運動活動を遂行することができない)、失認(感覚機能が正常にもかかわらず、物体を認知同定することができない)、実行機能障害(計画を立てて、それを実行することができない)などの中核症状が見られる。また、記憶障害などの中核症状から、感情・意欲の障害などのような精神症状、ならびに幻覚、妄想、徘徊、および介護への抵抗などのような行動障害が生じる。日本における認知症の患者数は2010年現在で約200万人程度といわれており、2020年には300万人以上に増加するといわれている。
【0004】
認知症の原因となる主な疾患には、脳血管障害、アルツハイマー病などの変性疾患、正常圧水頭症、ビタミンなどの代謝・栄養障害、甲状腺機能低下などが知られているが、明確な原因が特定できない場合も多く、また、それぞれの原因に応じた有効な治療方法が確立されていない場合が多い。それゆえ、認知症の原因を解明し、その治療方法を開発することは社会的に大きなニーズがある。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Methanogenic Archaea and human periodontal disease. Proc Natl Acad Sci USA. 2004 Apr 20;101(16):6176-81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、認知症の原因の1つを解明し、その治療に有効な医薬組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、認知症の原因を探るべく研究を重ねた結果、驚くべきことに、認知症の原因の一つが古細菌の感染によって引き起こされることを見出した。そして、古細菌の感染に起因する認知症が、抗菌剤の投与により治療可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、一実施形態において、抗菌剤を含む、認知症治療用医薬組成物を提供する。
また、本発明の一実施態様においては、前記認知症が、脳炎または脳脊髄炎を伴う認知症であることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態においては、前記認知症が、古細菌の感染に起因する認知症であることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態においては、前記抗菌剤が、葉酸合成阻害剤であることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態においては、前記葉酸合成阻害剤が、サルファ剤、および/または、2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤であることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態においては、前記サルファ剤がプロントジル、スルファモノメトキシン、スルファジアジン、スルファジメトキシン、スルファセタミド、スルファドキシン、スルファニルアミド、スルフィソミジン、スルフィソキサゾール、スルファメトキサゾール、スルファジミジン、スルファメラジン、スルファキノキサリン、および、これらの薬理学的に許容される塩からなる群から選択され、前記2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤が、ブロジモプリム、テトロキソプリム、トリメトプリム、および、これらの薬理学的に許容される塩からなる群から選択されることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態においては、前記古細菌が、メタン菌、高度好塩菌、好熱好酸菌、超好熱菌からなる群から選択されることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態においては、前記古細菌が、高度好塩菌であることを特徴とする。
【0009】
本発明の別の実施形態においては、葉酸合成阻害剤を含む、高度好塩菌感染症治療用医薬組成物を提供する。
また、本発明の一実施形態においては、前記葉酸合成阻害剤が、サルファ剤、および/または、2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤であることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態においては、前記サルファ剤がプロントジル、スルファモノメトキシン、スルファジアジン、スルファジメトキシン、スルファセタミド、スルファドキシン、スルファニルアミド、スルフィソミジン、スルフィソキサゾール、スルファメトキサゾール、スルファジミジン、スルファメラジン、スルファキノキサリン、および、これらの薬理学的に許容される塩からなる群から選択され、前記2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤が、ブロジモプリム、テトロキソプリム、トリメトプリム、および、これらの薬理学的に許容される塩からなる群から選択されることを特徴とする。
【0010】
本発明の別の実施態様においては、認知症の治療方法であって、治療上有効量の抗菌剤を、対象に投与するステップを含む、治療方法を提供する。
本発明の一実施態様においては、前記認知症が、脳炎または脳脊髄炎を伴う認知症であることを特徴とする。
本発明の一実施態様においては、前記認知症が、古細菌の感染に起因する認知症であることを特徴とする。
【0011】
本発明の別の実施態様においては、高度好塩菌感染症の治療方法であって、治療上有効量の葉酸合成阻害剤を、対象に投与するステップを含む治療方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、治療前の、FLAIR法による患者頭部のMRI画像を示す。図1A-図1Cは患者1のMRI画像を示し、図1D-図1F、および、図1Mは患者2のMRI画像を示し、図1G-図1Iは患者3のMRI画像を示し、図1J-図1Lは患者4のMRI画像を示す。図中、矢印は病変部位を示す。
【図2】図2は、治療の経過にともなう頭部MRI画像の変化を示す。図2A-図2Cは、患者1のMRI画像を示し、図2Aはプレドニゾロン投与後のMRI画像、図2Bは脳生検後のMRI画像、図2CはST合剤による治療後のMRI画像を示す。図2Dは患者2のMRI画像を示し、図2Eは患者3のMRI画像を示し、図2Fは患者4のMRI画像を示す。図2D-図2Fはそれぞれ、左側に治療前のMRI画像を示し、右側にST合剤による治療後のMRI画像を示す。図中、矢印は病変部位を示し、矢頭は脳生検部位を示す。
【図3】図3は、脳生検によって採取された組織の、組織学的/免疫組織化学的所見、および、電子顕微鏡所見を示す。図3A-図3Hは患者1の所見を示している。図3AはHE染色像を示し、図3BはPAS染色像を示し、図3Cはグロコット染色像を示し、図3Dは抗CD4抗体による免疫染色像を示し、図3Eは抗CD8抗体による免疫染色像を示し、図3Fは抗CD68抗体による免疫染色像を示し、図3Gおよび図3Hは電子顕微鏡像を示す。図3Iは患者2の組織のPAS染色像および電子顕微鏡像を示し、図3Jは患者3の組織のPAS染色像および電子顕微鏡像を示し、図3Kは患者4の組織のPAS染色像および電子顕微鏡像を示す。図中、矢頭は病原体の構造物を示す。図中、スケールバーは5μmを示す。
【図4】図4は、患者1の治療経過をまとめた図を示す。図の横軸は発症からの年数を示す。図中、星印は、ST合剤による治療により、患者1の症状が回復した時期を示し、二重星印は、ST合剤単独による治療により、再び患者1の症状が回復した時期を示す。図中、「Dementia/Psychosis」は、認知症/精神異常の症状を呈していることを示す。図中、「mPSL pulse」はメチルプレドニゾロンのパルス投与を示す。図中、「IVIg」は、免疫グロブリン大量療法を示す。図中、「CTRX」は、セフトリアキソンの投与を示す。図中、「TMP-SMX」は、ST合剤の投与を示す。図中、「PSL」は、プレドニゾロンの投与を示す。図中、「CSF protein」は、髄液中のタンパク質量を示す。図中、「CSF cell」は、髄液中の細胞数を示す。
【図5】図5は、患者4の末期の脳MRI所見を示す。図5AはFLAIR法によるMRI所見を示し、図5Bはガドリニウム造影によるMRI所見を示し、図5Cは拡散強調画像による所見を示す。
【図6】図6は、シーケンス結果のバイオインフォマティクス解析手法の概略を示す。
【図7】図7は、シーケンス結果のバイオインフォマティクス解析手法の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、認知症とは、かつては「痴呆」と呼ばれていた概念であり、後天的な脳の器質的障害により引き起こされる疾患である。狭義の認知症は、いったん正常に発達した知能が低下した状態を指すが、本発明における認知症はこれに限定されず、「知能」の他に「記憶」「見当識」を含む認知の障害や、「人格変化」など、脳の認知機能に関する症状を広く含む概念である。認知症の症状は、例えば、初期には、物忘れ、不安、意欲の低下、複雑な作業の忌避などが出現し、進行すると生活に必要な多くの行動が施行不能となり、徘徊、被害妄想、攻撃的言動などがみられるようになる。

【0014】
本発明において、認知症の確認方法は特に限定されず、公知の手法を単独で、または、組み合わせて用いてよい。例えば、認知機能の確認方法として、ミニメンタルステート検査(MMSE)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を用いることができる。例えば、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を用いる場合、スコアが30点満点中、20点以下である場合に認知機能が低下していると判断することができる。

【0015】
本発明において、脳炎とは、脳における炎症性疾患の総称であり、脳脊髄炎とは、脳および脊髄における炎症性疾患の総称である。なお、本発明における脳炎または脳脊髄炎は、古細菌の感染によって引き起こされるものも含まれる。

【0016】
脳炎および脳脊髄炎が起こっていることの確認方法は特に限定されないが、例えば、患者の髄液を採取し、髄液中の白血球数(/mm3)が正常値(0-5)以上であること、および/または、髄液中のタンパク質の量(mg/dL)が正常値(15-40)以上であることを測定することにより、確認することができる。また、例えば、脳炎および脳脊髄炎が起こっていることの確認方法として患者から採取した髄液についてCXCLアッセイを行ってもよい。CXCL13はいくつかの慢性脳感染症において上昇することが知られており、CXCL13の数値が高いと脳脊髄において感染性の炎症が起きていることが示唆される。また、MRIによって脳炎および脳脊髄炎を確認する場合には、例えば、ガドリニウムによる造影を用いたMRIを行うことができる。ガドリニウムは炎症が続いている部分や腫瘍に集まるため、ガドリニウム造影を用いたMRIにおいて強調される部分が存在する場合は、脳炎または脳脊髄炎が起こっていると判断することができる。

【0017】
本発明において、抗菌剤とは、細菌の増殖を抑制(静菌)、または、細菌を死滅(殺菌)する作用を有する化学療法剤を意味するが、必ずしも主に静菌または殺菌を目的として用いられているものに限定されず、細菌に対して静菌または殺菌の効果があれば、主に他の用途に用いられているものをも含む概念である。また、本発明において、抗菌剤とは、微生物から単離された天然抗菌剤(抗生物質ともいう)、および、人工的に合成された合成抗菌剤を含む概念である。

【0018】
本明細書において、天然抗菌剤とは、例えば、βラクタム系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系、クロラムフェニコール系、マクロライド系、ケトライド系、ポリペプチド系、および、グリコペプチド系の抗菌剤が挙げられる。また、本明細書において、合成抗菌剤とは、例えば、ピリドンカルボン酸(キノロン)系、ニューキノロン系、および、オキサゾリジノン系の抗菌剤、ならびに、サルファ剤、トリメトプリムが挙げられる。

【0019】
本発明において、葉酸合成阻害剤とは、微生物の葉酸合成経路を阻害することにより、微生物の増殖を抑制させる、または、微生物を死滅させる作用を有する薬剤の総称である。本発明において用いられる葉酸合成阻害剤は、一連の葉酸合成経路のうち、どの部分を阻害するものであってもよいが、例えばサルファ剤のように、パラアミノ安息香酸(PABA)の競合阻害物質としてジヒドロプテロイン酸の合成を阻害するものや、2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤のようにジヒドロ葉酸レダクターゼを阻害し、テトラヒドロ葉酸の合成を阻害するものを好適に用いることができる。

【0020】
本発明において、サルファ剤とは、スルホンアミド(-S(=O)-NR)部位を持つ合成抗菌剤の総称である。本発明におけるサルファ剤は、パラアミノ安息香酸(PABA)の競合阻害物質としてジヒドロプテロイン酸の合成を阻害する作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくは、プロントジル、スルファモノメトキシン、スルファジアジン、スルファジメトキシン、スルファセタミド、スルファドキシン、スルファニルアミド、スルフィソミジン、スルフィソキサゾール、スルファメトキサゾール、スルファジミジン、スルファメラジン、スルファキノキサリン、および、これらの薬理学的に許容される塩を用いることができ、さらに好ましくは、スルファメトキサゾールおよびその薬理学的に許容される塩を用いることができる。

【0021】
本発明において、2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤とは、2位および4位にアミノ基を有するピリミジン系の合成抗菌剤をいう。本発明における2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤は、ジヒドロ葉酸レダクターゼを阻害し、テトラヒドロ葉酸の合成を阻害する作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくは、ブロジモプリム、テトロキソプリム、トリメトプリム、および、これらの薬理学的に許容される塩を用いることができ、さらに好ましくは、トリメトプリムおよびその薬理学的に許容される塩を用いることができる。

【0022】
本発明において用いられる葉酸合成阻害剤は、1つの葉酸合成経路を阻害するものであってもよく、葉酸合成経路の異なる部分を阻害する阻害剤を組み合わせたものであってもよい。葉酸合成経路の異なる部分を阻害する阻害剤を組み合わせたものとしては、好ましくは、サルファ剤および2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤を組み合わせたものを用いることができ、より好ましくは、スルファメトキサゾールおよびトリメトプリムを組み合わせたものを用いることができる。

【0023】
本発明において、葉酸合成阻害剤として、サルファ剤および2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤を組み合わせたものを用いる場合、例えば、サルファ剤と2,4-ジアミノピリミジン系合成抗菌剤をそれぞれ2対1~10対1の比率で配合した合剤を用いることができる。スルファメトキサゾールおよびトリメトプリムを組み合わせたものを用いる場合、好ましくは、スルファメトキサゾールとトリメトプリムをそれぞれ2対1~10対1の比率で配合した合剤を用いることができ、さらに好ましくは、スルファメトキサゾールとトリメトプリムをそれぞれ5対1の比率で配合した合剤を用いることができる。本明細書においては、スルファメトキサゾールとトリメトプリムをそれぞれ5対1の比率で配合した合剤を「ST合剤」、または、「TMP-SMX」ということもある。ST合剤は、作用機序の異なる2種類の葉酸合成阻害剤を用いることで、相乗効果を発揮する。

【0024】
本発明において、古細菌(Archaea)とは、sn-グリセロール-1-リン酸のイソプレノイドエーテルより構成される細胞膜を有することを特徴とする生物群、または、そこに含まれる生物を意味する。古細菌は高塩、高温、高ph、低phなどの極限環境に対応し、深海、塩湖、温泉の噴出口などから分離されることが多く、動物の生体から分離されることもある。本発明の範囲に含まれる古細菌の種類は特に限定されないが、例えば、メタン菌、高度好塩菌、好熱好酸菌、超好熱菌を挙げることができる。

【0025】
本発明において、メタン菌とは、嫌気条件でメタンを合成する古細菌の総称であり、メタン生成菌またはメタン生成古細菌と呼ばれることもある。本発明におけるメタン菌は、前述のような特徴を有する古細菌であれば特に限定されないが、例えば、ユリアーキオータ門のメタノバクテリウム綱、メタノコックス綱、メタノミクロビウム綱、または、メタノピュルス綱に属する古細菌を挙げることができる。

【0026】
高度好塩菌とは、増殖に高い塩化ナトリウム濃度を要求する古細菌の総称であるが、本発明の高度好塩菌には、広義に、増殖に高い塩化ナトリウム濃度を要求する真正細菌を含むこともある。高度好塩菌は、高度好塩古細菌、好塩性細菌またはハロアーキアと呼ばれることもある。例えば、高度好塩菌は、食塩の濃度が2.5M(15w/v%)以上の条件で好適に生育する古細菌であってよく、好ましくは食塩の濃度が3.3M(20w/v%)以上の条件で好適に生育する古細菌であってもよい。

【0027】
本発明における高度好塩菌は、前述のような特徴を有する古細菌であれば特に限定されないが、例えば、ユリアーキオータ門のハロバクテリウム網に属する古細菌を挙げることができる。

【0028】
本発明において、好熱好酸菌とは、至適生育条件が酸性、または、至適生育温度が45℃以上の古細菌の総称である。本発明における好熱好酸菌は、前述のような特徴を有する古細菌であれば特に限定されないが、例えば、ユリアーキオータ門のテルモプラズマ網、および、クレンアーキオータ門のテルモプロテウス網に属する古細菌を挙げることができる。

【0029】
本発明において、超好熱菌とは、好熱菌のうち、特に至適生育温度が80℃以上の古細菌の総称である。本発明における超好熱菌は、前述のような特徴を有する古細菌であれば特に限定されないが、例えば、ユリアーキオータ門のテルモコックス網、アルカエオグロブス網、または、メタノピュルス網に属する古細菌、もしくは、クレンアーキオータ門、アイグアーキオータ門、ナノアーキオータ門に属する古細菌を挙げることができる。

【0030】
本発明において、病原体が古細菌であることの確認方法は特に限定されず、公知の手法を単独で、または、組み合わせて用いることができる。例えば、患者から採取した組織に、古細菌の特徴的な形態がみられる場合には組織学的に確認しうる。また、患者から採取した組織から古細菌の核酸を検出することによって確認でき、この方法が最も確実な確認方法である。患者から採取した組織から、組織学的に古細菌を確認する場合には、例えばトルイジンブルー・サフラニン染色および透過型電子顕微鏡検査で、核を含む内部構造がほとんどなく、クロマチン陽性物質が膜様構造物に囲まれて存在する、1~7μm程度の円形または球形の一般的な細菌より大きな構造物を確認することによって、古細菌であることを確認することができる。また、組織学的に古細菌を確認する別の方法としては、例えば、PAS染色やグロコット染色に陽性であるが、真核生物のような複雑な内部構造がないことを確認することで、原虫や真菌と鑑別しうる。

【0031】
さらに、最も確実な古細菌の同定方法は、DNA配列を確認することである。患者から採取した組織から古細菌の核酸を検出することによって確認する場合には、例えば、患者から採取した組織から公知の方法で核酸を抽出し、公知の古細菌のゲノム配列から作製したプライマーを用いてPCRを行うことによって、古細菌の存在を確認することができる。また、患者から採取した組織から核酸を抽出し、公知の古細菌のゲノム配列から作製したプライマーを用いて、公知の方法でシーケンス(例えば、サンガー法)を行い、解読された配列をデータベースで照合することにより、古細菌の存在を確認することもできる。また、患者から採取した組織から核酸を抽出し、そこに含まれる核酸の塩基配列を、公知の次世代シーケンシングシステム(例えば、イルミナ社のMiSeq(登録商標))を用いて解読し、これまでに解読された塩基配列のデータベースを照合して古細菌由来の塩基配列の存在を確認することにより、古細菌の存在を確認することができる。さらに、公知のシーケンス方法または公知の次世代シーケンシングシステムによって解読された古細菌の塩基配列からプライマーを作成し、PCRを行うことによって、さらに確実に古細菌の存在を確認することができる。

【0032】
本発明に係る治療方法の対象は、動物であれば特に限定されず、どのような動物に対しても用いることができるが、好ましくない場合は、ヒトを対象から除くことができる。本発明に係る治療方法の対象は、例えば、哺乳動物(マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、サル、ヒト等)、非哺乳動物(魚類、爬虫類、両生類、鳥類)であってよい。

【0033】
本発明に係る治療方法において、抗菌剤を対象に投与する方法は特に限定されず、抗菌剤の種類に応じて当業者が適切な投与方法を選択することができる。例えば、経口投与であれば、口腔内投与、舌下投与などを用いることができ、非経口投与であれば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与などを用いることができる。また、例えば、対象にST合剤を投与する場合には、経口投与を好適に用いることができる。

【0034】
本発明に係る治療方法において、抗菌剤の投与量は特に限定されず、当業者がそれぞれの薬剤種類、および、患者の状態に応じて適切な量を選択して投与することができる。例えば、患者にST合剤を投与する場合には、例えば、1日あたり、有効成分としてスルファメトキサゾールが1600~6400mg、トリメトプリムが320~1280mgの範囲となるように投与することができる。より好ましくは、1日あたり、有効成分としてスルファメトキサゾールが3200~4800mg、トリメトプリムが640~960mgの範囲となるように投与することができる。

【0035】
本発明に係る治療方法による治療期間は特に限定されず、例えば、6カ月以上、好ましくは1年以上、さらに好ましくは2年以上の長期間に渡って治療を行うことができる。

【0036】
本発明に係る治療方法において、治療期間における対象への抗菌剤の投与量は常に一定であることに限定されず、髄液検査やガドリニウム造影MRI検査などの検査所見により、症状の改善を確認しながら、投与量を減量していくことが望ましい。

【0037】
本発明に係る治療方法は、対象に抗菌剤を単独で投与する方法に限定されず、当業者であれば、抗菌剤の投与とともに、炎症の抑制やアレルギーの抑制のために、一般的に投与される薬剤を対象に投与する場合も、本発明の範囲に含まれることを理解するであろう。炎症の抑制やアレルギーの抑制のために、一般的に投与される薬剤とは、例えば、公知のステロイド系抗炎症剤(例えば、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、コハク酸ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、ベタメタゾン)が挙げられる。

【0038】
なお、本明細書において用いられる用語は、特定の実施形態を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。

【0039】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。

【0040】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。

【0041】
第一の、第二のなどの用語が種々の要素を表現するために用いられる場合があるが、これらの要素はそれらの用語によって限定されるべきではないことが理解される。これらの用語は一つの要素を他の要素と区別するためのみに用いられているのであり、例えば、第一の要素を第二の要素と記し、同様に、第二の要素は第一の要素と記すことは、本発明の範囲を逸脱することなく可能である。

【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、しかしながら、本発明はいろいろな形態により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0043】
(1)研究対象
発明者らは、鹿児島大学病院において、原因不明の進行性の認知症を呈する4症例を対象として研究を行った。本研究は、患者へのインフォームドコンセントに基づいて行われた。また、本研究は、鹿児島大学の倫理審査委員会の承認のもと行われた。
【実施例】
【0044】
(2)患者
【実施例】
【0045】
(2-1)患者の特徴
すべての患者の特徴を表1に記載した。すべての患者が1年以内に、徐々に進行する認知症を持っていた。発症年齢は、年齢47から70歳であった。すべての患者に神経症状や舌の不随意運動があった。他の症状は様々で、錐体路症状、パーキンソニズム、小脳性運動失調などが認められた。認知症の評価は、ミニメンタルステート検査(MMSE)と同様の方法である、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を使用して行った。各症例のMMSEスコアは14~18(最大30)であり、HDS-R得点は9~17(最大30)であった。すべての患者は、脳脊髄液検査で髄液細胞増加とタンパク質レベルの上昇を示した。髄液細胞数は7-64/μLの範囲内で、すべての患者で増加しており(正常値:0-5/μL)、これらの細胞は、主に単核細胞であった。CSF中のタンパク質レベルは、45~78mg/dL(正常値:15~40mg/dL)であり、すべての患者で上昇していた。脳脊髄MRI検査では、T2強調画像またはFLAIR画像で、異常な、高い信号強度の病変が観察された。病変は、一部ガドリニウムによって増強され、活動性を示し、炎症所見が観察された。脳障害は脳全体に広がっていたが、側頭葉の皮質下白質には特に目立った病変がみられた。大脳皮質、大脳基底核、脳幹、脊髄の障害も認められた(図1)。これらのMRI異常所見は治療により改善された(図2)。

【表1】
JP2014129411A1_000003t.gif
【実施例】
【0046】
(2-2)患者1:47歳男性
患者1は、2005年2月9日に鹿児島大学病院神経内科に外来受診し、2月中旬に入院した。主訴は進行性の認知症であった。患者は、入院する8ヶ月前に尿の頻度の増加に気づいた。その5ヵ月後、患者1は過食の症状を呈した。会話や日常的な活動は、記憶障害や見当識障害の発現とともに減少した。2カ所の病院の専門医は、患者をアルツハイマー病と診断した。入院から3ヶ月の間に撮影された磁気共鳴画像法(MRI)や血液分析では、異常は観察されなかった。
【実施例】
【0047】
しかし、鹿児島大学神経内科、受診後、頭部MRIにおいて、橋背側、両側島皮質、および皮質下領域でのFLAIR法での異常信号の検出(図1A-C)、また、脳脊髄液(CSF)中の細胞数の上昇がみられた。身体所見は正常であるにもかかわらず、神経学的検査からは、重度の見当識障害、計算の喪失、記憶障害が明らかであった。上肢の断続的なミオクローヌスと舌の異常運動も観察された。歩行は正常であった。身体診察では、四肢に軽度の反射亢進、吸引反射陽性、バビンスキー反射およびチャドック反射陽性であった。また、頻尿、残尿感を示した。
【実施例】
【0048】
血液データは正常であったが、髄液中の白血球細胞(WBC)数(27細胞/μL)およびタンパク(78mg/dL)の上昇が認められた。これらの結果から、患者は感染症や自己免疫疾患であると考えられた。
【実施例】
【0049】
当初、感染症や自己免疫性脳炎に対する治療として、患者にセフトリアキソンとメチルプレドニゾロンを投与したところ、投与後2週間で症状が若干改善された。しかし、症状はその後悪化傾向となり、脳MRIでは特に側頭葉底部で、病変の拡大を呈した(図2A)。脳生検の結果より、過ヨウ素酸シッフ(PAS)陽性マクロファージが認められたことから、特殊な神経感染症と判断された(図3B)。
【実施例】
【0050】
脳生検により楕円形の病原体が確認された後、TMP-SMX(12g/日最大投与量)の投与による治療を開始した。TMP-SMX12g中には、スルファメトキサゾールが4800mg、トリメトプリムが960mg含まれる。TMP-SMXは1日2-3回に分けて、患者に経口投与した。TMP-SMX治療開始後、患者の症状は顕著に改善し、3ヶ月の治療後、執筆能力、記憶、気力、および計算能力が回復した。TMP-SMX治療開始から5ヶ月後、患者はほとんど毎日の活動を自分で管理することができる程度に回復した。TMP-SMX治療開始から7ヶ月後、彼はインターネットを使用しての作業を行うことができるまでに回復した。
【実施例】
【0051】
7年後、記憶障害や見当識障害が再発したため、TMP-SMXを単独で(8g/日)投与し行ったところ、再び回復した。TMP-SMX8g中には、スルファメトキサゾールが3200mg、トリメトプリムが640mg含まれる。図4に、患者の臨床経過をまとめた。
【実施例】
【0052】
(2-3)患者2:72歳女性
進行性の認知症や四肢麻痺をもつ72歳の女性。症例は人格変化、抑うつ、食欲不振、重度の栄養失調があり、次の6ヶ月間に、歩行、認識、書字が徐々に悪化した。さらに会話と嚥下困難がおこり、意識レベルは少しずつ低下した。神経学的検査では、半昏睡、頸部のこわばり、適度な筋力低下、振戦、硬直、反射亢進、バビンスキー反射陽性などの所見が得られた。脳MRIでは大脳白質内にびまん性白質の変化がみられた(図1D-F)。また、頸部および胸部脊髄のMRI T2強調画像では、脊髄(図1M)の中心部に高輝度病変がみられた。ガドリニウム造影MRIでは、白質内に散在性に、点状、ガドリニウム造影された病変が描出された。また、髄液検査で、白血球数は上昇していた。
【実施例】
【0053】
患者2の臨床データが患者1のものと似ていることから、血管内リンパ腫または患者1と同じ感染症が鑑別診断として考えられた。これは、患者の家がおおよそ20キロメートルの距離で、海沿いに住んでいたという事実によってもサポートされていた。静脈内メチルプレドニゾロン(1000mg/日)の投与により、意識レベルや運動障害が改善した。患者2の会話能力は、メチルプレドニン治療により一時的に回復したが、再び悪化した。その後、脳生検を行ったところ、病理学的所見は患者1のものと酷似していた(図3I)。そこで我々は、1例目に準じてTMP-SMX(6g/日)とデキサメタゾンによる治療を開始した。彼女の意識は急速に改善し、見当識および運動障害が2ヶ月間で改善した。しかし、TMP-SMXによる肝機能障害が発生したため、一時治療を中止したところ、症状が再発した。その後、TMP-SMXによる肝機能障害を回避するために、短期間の治療を繰り返し行うことにより、症状を抑えることができた。
【実施例】
【0054】
(2-4)患者3:57歳女性
進行性の認知症と微熱を呈する57歳の女性。患者3は東京で働いており、年2回、患者1の親の家を訪れていた。その家は患者1の家の10キロ南の海沿いに位置する小さな漁村である。来院の1年前に、患者1は全身倦怠感と食欲不振を経験し始めた。次の2ヶ月の間、見当識障害、短期記憶喪失、構音障害の症状があった。来院し、検査を行ったところ、MRIのT2強調画像では両側視床枕で高信号を示した。その後、症状は少しずつ進行し、パニック発作、うつ病、および自殺傾向などの精神症状がみられた。神経学的検査では、動作緩慢と前述の精神医学的症状がみられた。髄液検査では、リンパ球増加を示し、タンパク質のレベルを上昇、IL-6レベルの増加がみられた(表1)。治療として、静脈内メチルプレドニゾロン(3日間連続で1g/日)を投与したところ、脳MRI所見が悪化し、病変が広がった(図1G-I)。症状として仮面様顔貌、筋強剛、そして舌の不随意運動がみられた。これらの症状は、血管内リンパ腫などの脳腫瘍や原因不明の脳炎、もしくは患者1、2の疾患と類似しており、確定診断のため脳生検を行った。脳の病理学的所見では、患者1および2と同じ疾患と考えられた(図3J)。
【実施例】
【0055】
抗生物質のセフトリアキソン(4g/日、静脈内)の2週間投与を行ったが、改善はみられなかった。しかし、TMP-SMXとコルチコステロイドの3ヶ月間投与により、患者3の病的症状や異常検査などが明らかに改善した。患者は再発することなく、3年間の治療後、飛行機で一人旅をする事が出来るなど、十分に回復した。TMP-SMXの継続投与で、この状態を維持している。
【実施例】
【0056】
(2-5):患者4
微熱と進行性認知症を呈する70歳の女性。患者4は前の患者1~3と近い町に住んでいた。入院2年前に、全身倦怠感、食欲不振、体重減少、微熱がみられた。入院の1年前、彼女には近時記憶と注意力の低下がみられた。脳MRIでは脳室の近くの白質内に、FLAIR法にて信号強度が高い領域がみられた(図1J-L)。入院半年前に、彼女は徐々に不安定な歩行となった。神経学的検査では、見当識障害と構成失行があった。眼球運動障害、舌の不随意運動、および近位下肢の筋肉の軽度低下がみられた。髄液検査では、単核球増加とタンパク質上昇(表1)がみられた。慢性脳脊髄炎および脳MRI異常が確認されたが、その原因は不明であった。画像的にも、臨床症状も前の3人の患者との類似性が高いと思われた。脳生検では、患者1~3と類似した病理組織学的検査が、観察された(図3K)。そのため、TMP-SMX(8g/日)とデキサメタゾンの経口投与を開始した。
【実施例】
【0057】
治療後、患者4は、テレビを見たり、外に行くのに十分な気力を取り戻した。舌の不随意運動は沈静化した。また、造影剤で見られる異常な病変が完全に消失し、脳脊髄液中のIL-6濃度は正常範囲内まで減少した。しかし患者2と同様に、患者4は薬物性肝機能障害の結果として、高用量TMP-SMXを投与することができなかったため、症状は悪化した。発症後4年で、患者4は植物状態に入った。MRIでは病変が脳内に広がり(図5)、患者は死亡した。
【実施例】
【0058】
(3)脳病理学検査
【実施例】
【0059】
(3-1)脳病理学検査の方法
4人の患者から病的組織を得るため、脳生検を行った。脳生検により採取された組織ブロックを、10%中性緩衝ホルマリン加4%パラホルムアルデヒド(Wako、Osaka、Japan)で固定し、パラフィン包埋した。パラフィン切片は、その後ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色、グラム染色、Grocott染色およびPAS染色を行った。また、組織の連続切片を、抗CD4抗体(ニチレイ、東京、日本)および抗CD8、および抗CD68抗体(DAKO、Glostrup、デンマーク)を用いて、免疫組織学染色を行った。試料の小片を3%グルタルアルデヒドで固定し、エポン812に包埋した。光学顕微鏡用のSemithin切片はトルイジンブルーとサフラニンで染色した。Semithin切片の観察で目的とする組織が表面に露出されていることを確認した後、電子顕微鏡用の超薄切片を作製した。超薄切片を酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色した後、日立7100型電子顕微鏡で観察した。
【実施例】
【0060】
(3-2)脳病理学検査の結果
4人の患者から得られた脳生検組織のすべてが、単核細胞の増多(CD4陽性Tリンパ球(図3D)、CD8陽性Tリンパ球(図3E)、CD68陽性単球(図3F))、血管周囲での病原体の浸潤(図3A~図3C)などの、同じような病理組織学的な変化を示した。(図3A~図3Hは患者1の脳生検から得られた病理組織像を示している。)
皮質下の病変は、皮質の病変より優勢であった。マクロファージ(泡沫なし)の集合は見られなかったが、微小膿瘍形成が患者3において観察された。さらに、これらの炎症性細胞の浸潤は、くも膜下腔でも観察された。壊死、出血、脱髄は明らかでは無かった。1-7μmのおおよそ球系の病原体は、通常のヘマトキシリン・エオシン染色切片では、発見しにくいものであった(図3A)が、PAS染色により血管周囲の空間に浸潤が確認され(図3B)、Grocott染色でも濃染された(図3C)。グラム染色、トキソプラズマ抗原に対する免疫染色では陰性であった。これらの病原体のほとんどは細胞外空間に局在した。電子顕微鏡による観察では、病原体は、様々な大きさがあり、無核の細胞であることが明らかになった(図3Gおよび図3H)。これらの病原体には、核膜や細胞壁が観察されなかったが、膜様の細胞質内構造物が観察された。
また、患者2(図3I)、患者3(図3J)、および患者4(図3K)においても、患者1と同様の病理組織学的所見が見られた。
【実施例】
【0061】
(4A)次世代シーケンシングシステム(MiSeq(登録商標))を用いた病原体核酸の探索-1
【実施例】
【0062】
(4A-1)DNAまたはRNAの抽出
DNAの抽出はDNA抽出キット(Qiagen、東京、日本)を用いて行い、RNAの抽出はRecoverAll(登録商標)全核酸アイソレーションキット(Ambion社、オースティン、アメリカ)を用いて行った。患者の生検脳組織からDNAおよびRNAサンプル、髄液からDNAサンプルを分離した。製造業者のプロトコルに従って、相補的DNA(cDNA)を、ランダムプライマーを用いて増幅した。
(4A-2)シーケンスの準備
無菌的に脳生検標本を採取することができた患者3および4の脳サンプルから、(4-1)に記載の方法でcDNAを抽出した。Nextera DNAサンプル調製キット(イルミナ)を用いて、50ngのcDNAを断片化し、Nextera transpositionを用いて同時にタグ付けを行った。次にAMPure PCR精製システム(Agencourt Bioscience、Beverly、MA、USA)を用いて小さなDNA断片(約300bpより短い)を除去した。MiSeq次世代シーケンサー(イルミナ)を用い、逆鎖を決定するためのペアエンドシーケンシングアプローチを使用し、シーケンス・データの量を倍化した。
【実施例】
【0063】
(4A-3)次世代シーケンス法による病原体シーケンス検出
各リードの高品質部分の平均品質値が20以下まで低下した時点で、3’側の配列をトリミングした。読み取り配列のマッピングは、2つの解析方法で行った。(i)rRNA指向性の検索では、BLASTNは1e-3以下のカットオフE値とSILVA database(リリース111)に含まれるrRNA配列を対象にして算出された。(ii)非ヒトcDNAの同定については、Burrows‐Wheeler Aligner(BWA)を用いて、人間のゲノムに対して使用される参照配列である(UCSC:hg19)およびヒトのRefSeq(リリース54)を用い、ほとんどのヒトmRNA配列を除去しうる。読み込みされたマッピングされていない配列については、1e-3以下のカットオフE値を用い、NCBIの塩基配列データベース(GenBankのリリース191)を用いたBLASTN解析によって分析した。(i)および(ii)の解析をまとめたフローチャートを図6に示した。
【実施例】
【0064】
(4A-4)シーケンス結果
患者3の脳組織から1104450リードのcDNA配列を得た。そのうち25リードが古細菌由来の配列であった(図6)。本実験で得られた古細菌由来の塩基配列に相同性の高い塩基配列を持つ生物種をデータベースから検索した。その結果を表2および表3に示す。表2はデータベースにおけるBLASTN検索の結果を、表3はデータベース上の他の高度好塩菌の塩基配列との比較結果を示す。これらのうち、1リードは古細菌の一種であるHalorubrum lacusprofundi(E-value: 2E-19、アイデンティティ/長さ:76/85)の高度好塩菌にみられるGTPアーゼ(GenBank Accession Number:YP_002566123.1)の遺伝子に著しい相同性を示した(表2、表3)。このシーケンスは、細菌や真核生物の配列(E値1E-3以上)に相同ではない。古細菌由来と思われる残りの24リードは低複雑性配列であり、決定的な証拠とはならなかった。
また、陰性対象として行った他疾患(血管内リンパ腫)患者の脳生検試料由来1034377リードの cDNA配列には、古細菌のゲノムまたはmRNA配列(データは図示せず)に有意な相同性を示す配列は見つからなかった。
【実施例】
【0065】
さらに、患者4においても、同様に脳組織からcDNAを抽出し、患者3の場合と同様にシーケンスをおこなったところ、患者3の結果と同様に、Halobacteriumに相同性の高い配列が、2リ-ド発見された。

【表2】
JP2014129411A1_000004t.gif
【表3】
JP2014129411A1_000005t.gif
【実施例】
【0066】
(4B)次世代シーケンシングシステム(MiSeq(登録商標))を用いた病原体核酸の探索-2
【実施例】
【0067】
マイクロダイセクションによって患者3のサンプルから採取した36スポットから、次世代シーケンシングシステム(MiSeq(登録商標))を用いて、7292715リードのDNA配列を取得した。これらのDNA配列から、CLC Genomics Workbenchを用いて、ヒトゲノムおよびヒトmRNAにマップされない配列を選別した。選別されたDNA配列に対して、E値1E-20以下、hit length>80、相同性70%以上の条件で検索したところ、130リードがHalobacteriumの配列に極めて高い相同性を示した(図7)。これらの配列は、細菌の配列や真核生物の配列(E値1E-3以上)とは相同ではなかった。
【実施例】
【0068】
さらに、マイクロダイセクションによって患者4のサンプルから採取した36スポットから、次世代シーケンシングシステム(MiSeq(登録商標))を用いて、303698リードのDNA配列を取得した。これらのDNA配列から、CLC Genomics Workbenchを用いて、ヒトゲノムおよびヒトmRNAにマップされない配列を選別した。選別されたDNA配列に対して、患者3と同様の条件で検索を行ったところ、144リードがHalorubrum lacusprofundiおよびHalophilic archaeonを含むHalobacteriumの配列に極めて高い相同性を示した(図7)
【実施例】
【0069】
他の疾患(乳頭状髄膜腫(papillary meningioma)、血管内リンパ腫(intravascular lymphomatosis)、グリア芽腫(glioblastoma))の患者からそれぞれ採取した脳生検サンプルから得た、それぞれ4760858リード、5259934リード、5027830リードのcDNA配列には、古細菌のゲノムまたはmRNAと有意な相同性を有する配列は検出されなかった(データは図示せず)。
【実施例】
【0070】
(5)CXCL13アッセイ
【実施例】
【0071】
(5-1)CXCL13アッセイの方法
CXCL13は、ヒトB-リンパ球に対しての走化性因子であり、また、血液中のヒトBリンパ球のための非常に効果的誘引物質である。CXCL13は、ELISAキット(R&D Systems、アビングドン、イギリス)を用いて測定した。分析は、製造業者の推奨する方法に従って行った。
【実施例】
【0072】
(5-2)CXCLアッセイの結果
4名の患者の髄液について、ケモカインであるCXCL13の値を測定した。治療開始前、CXCL13値は、すべての患者において500pg/mL以上に上昇していた。TMP-SMXとコルチコステロイドとの併用治療後により、これらの値は466pg/mL(患者1)、211pg/mL(患者2)、30.7pg/mL(患者3)、22.2pg/mL(患者4)に減少した。
【実施例】
【0073】
(6)結果のまとめ
本疾患の原因となる病原体は、直径が1-7ミクロンの円形または球形であり、内部構造がほとんど無く、核構造はみられないがクロマチン陽性物質が膜様構造物に囲まれて細胞内に存在しており、この所見により細菌や真核生物と鑑別できる。また、本疾患の原因となる病原体は、PAS染色陽性、グロコット染色陽性であるが、原虫のような内部構造もなく、細胞壁もないことから、真菌や原虫とも鑑別できる。さらに、神経細胞の膨化、核の破壊像、細胞内封入体がないことから、ウイルス感染とも鑑別できる。加えて、本疾患は、抗菌剤であるST合剤による治療に反応を示した。そのような形態的、病理学的特徴を示す生物は、古細菌しかありえないことから、本疾患の原因となる病原体が古細菌であることが確認された。
【実施例】
【0074】
さらに、無菌的に抽出した患者2例(患者3、患者4)の脳から、RNAを抽出し、そのcDNAを次世代シークエンサーで配列を解析した結果、患者2例の両方から高度好塩菌(Halobacteriumaea科)の遺伝子配列を検出した。すなわち、本疾患の原因となる病原体が、やはり古細菌であることが裏付けられた。この解析で2名の患者の脳から得た古細菌のDNA配列は、これまで報告された菌と相同性はあるものの、新規の配列であった。これらの結果から、本疾患の原因となる病原体は、高度好塩菌、または、高度好塩菌に近縁の古細菌であることがわかった。
(7)結論
以上の研究から発明者らは、驚くべきことに、認知症の原因の一つとして、古細菌の感染によるものが存在することを初めて見出した。そして、古細菌の感染に起因する認知症が、対象への抗菌剤の投与によって治療可能であることを初めて見出した。
【実施例】
【0075】
さらに、発明者らは、本研究によって、これまで哺乳動物に対して病原性がないとされていた古細菌が、動物の疾患の原因となることを初めて見出した。そして、古細菌に起因する疾患が、対象への抗菌剤の投与によって治療可能であることを初めて見出した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によって、これまで治療不可能であった、一部の認知症の治療が可能となった。
また、本発明によって、これまで全く知られていなかった「古細菌の感染に起因する疾患」という新しい概念が見出され、これらの疾患が、抗菌剤の投与により治療可能となった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6