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明細書 :植物体の種子における目的タンパク質の発現

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年2月16日(2017.2.16)
発明の名称または考案の名称 植物体の種子における目的タンパク質の発現
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12Q   1/32        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 103
A01H 5/00 A
A01H 1/00 A
C12Q 1/68 A
C12Q 1/32
国際予備審査の請求
全頁数 31
出願番号 特願2015-511174 (P2015-511174)
国際出願番号 PCT/JP2014/057567
国際公開番号 WO2014/167968
国際出願日 平成26年3月19日(2014.3.19)
国際公開日 平成26年10月16日(2014.10.16)
優先権出願番号 2013082247
優先日 平成25年4月10日(2013.4.10)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】金井 雅武
【氏名】西村 幹夫
【氏名】山田 健志
出願人 【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2B030
4B024
4B063
4B065
Fターム 2B030AA02
2B030AB03
2B030AD20
2B030CA17
2B030CB02
4B024AA08
4B024BA80
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4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA53
要約 植物体の種子における目的タンパク質の増大に寄与するDNA材料を新たに見出したので、これらの利用を開示する。この目的のために、本開示では、植物体の種子において目的タンパク質の発現を促進する、下記(a)~(d)のいずれかに記載のDNAを植物体に導入する。
(a)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列を有するDNA;
(b)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(c)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(d)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA
特許請求の範囲 【請求項1】
植物体の種子において目的タンパク質の発現を促進する、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAを含む目的タンパク質発現促進剤。
(a)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列を有するDNA;
(b)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(c)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(d)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA
【請求項2】
前記DNAは、以下のいずれかである、請求項1に記載の目的タンパク質発現促進剤。
(a1)配列番号1で表される塩基配列を有するDNA;
(b2)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(c2)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(d2)配列番号1で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA
【請求項3】
請求項1又は2に記載のDNAを含む、発現カセット。
【請求項4】
前記DNAの上流側に目的タンパク質をコードするDNAの挿入部位を備える、請求項3に記載の発現カセット。
【請求項5】
さらに、以下のいずれかに記載のDNAを含む、請求項3又は4に記載の発現カセット。
(a)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列を有するDNA;
(b)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(c)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(d)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA
【請求項6】
請求項3~5のいずれかに記載の発現カセットを備えるベクター。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のDNAを、外来性の目的タンパク質をコードするDNAの下流に保持する形質転換植物細胞。
【請求項8】
前記種子における1種又は2種以上の内在性タンパク質の発現が抑制されている、請求項7に記載の形質転換細胞。
【請求項9】
前記内在性タンパク質は、12S1グロブリン遺伝子及び12S4グロブリン遺伝子からなる群から選択される1種又は2種である、請求項8に記載の形質転換細胞。
【請求項10】
請求項7~9のいずれかに記載の形質転換細胞を含む形質転換植物体。
【請求項11】
前記外来性の目的タンパク質発現増大機能が付与された請求項10に記載の形質転換植物体。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項13】
シロイヌナズナである、請求項10~12のいずれかに記載の形質転換植物体。
【請求項14】
請求項10~13のいずれかに記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項15】
請求項10~13のいずれかに記載の形質転換植物体の製造方法であって、
請求項6に記載のベクターであって外来性の目的タンパク質のコードするDNAを含むベクターを植物細胞に導入して請求項7~9のいずれかに記載の形質転換細胞を取得し当該形質転換細胞から植物体を再生させる工程を含む方法。
【請求項16】
請求項10~13のいずれかに記載の植物体を栽培する工程を備える、植物体の生産方法。
【請求項17】
請求項10~13のいずれかに記載の植物体を栽培する工程を備える、植物体種子の生産方法。
【請求項18】
請求項10~13のいずれかに記載の植物体を栽培する工程を備える、前記目的タンパク質の生産方法。
【請求項19】
植物体の種子において目的タンパク質の発現を促進させるためのDNA材料のスクリーニング方法であって、
前記種子において発現するタンパク質の1又は2以上の3’-UTR領域を前記DNA材料の候補として、
任意のプロモーターの制御下で評価用タンパク質をコードするDNAの下流に前記候補を連結させたDNAを保持する形質転換細胞から植物体を再生し、
前記植物体から収穫した種子における前記評価用タンパク質の発現量を評価する工程と、
を備える、方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本出願は、2013年4月10日に出願された特願2013-82247に基づく優先権を主張するものであり、この日本出願に記載された全ての内容を援用するものである。
本明細書は、植物体の種子において目的タンパク質の発現や蓄積を促進させることができるDNA材料及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
植物体を利用してタンパク質を生産することは多くの利点がある。動物トランスジェニックによる場合に比較したコストの低減、生産規模調節の容易性、動物由来の病原体の混入の回避等が挙げられる。
【0003】
植物体の種子においてタンパク質の発現を促進させる技術については種々試みられている。例えば、所望のタンパク質と窒素トランスポーターの同時発現や種子特異的なプロモーターの利用が報告されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2012-24052号公報
【特許文献2】特開2012-139238号公報
【発明の概要】
【0005】
本明細書は、植物体の種子における目的タンパク質の発現の増大に寄与するDNA材料を新たに見出したので、これらの利用を開示する。
【0006】
本発明者らは、シロイヌナズナの種子のタンパク質組成について検討していたところ、種子におけるタンパク質含有量は25~35質量%であり、そのうち、12S1α、β;12S3α、β;12S4α、βの12Sグロブリンと2S3アルブミンで全体の90%を占めているという知見を得た。さらに、検討を進めてタンパク質が由来するmRNA量を測定したところ、タンパク質組成とは相関していないという知見を得た。そこで、含有量の高い12S1タンパク質のmRNA上の5’-UTR領域、コード領域及び3’-UTR領域の各領域について発現量、すなわち、翻訳量への影響を評価した。その結果、3’-UTR領域がそのmRNAの翻訳効率に大きく寄与しているという知見を得た。本明細書の開示によれば、これらの知見に基づき、以下の手段が提供される。
【0007】
(1)植物体の種子において目的タンパク質の発現を促進する、下記(a)~(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列を有するDNA;
(b)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(c)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(d)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA
(2)前記DNAは、以下のいずれかである、(1)に記載のDNA。
(a1)配列番号1で表される塩基配列を有するDNA;
(b1)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(c1)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(d2)配列番号で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA
(3)植物体の種子において目的タンパク質の発現を促進する、下記(a)~(d)のいずれかに記載のDNAを含む目的タンパク質発現促進剤。
(a)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列を有するDNA;
(b)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(c)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(d)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA
(4)前記DNAは、以下のいずれかである、(3)に記載の目的タンパク質発現促進剤。
(a1)配列番号1で表される塩基配列を有するDNA;
(b1)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(c1)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(d1)配列番号で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA
(5)(1)又は(2)に記載のDNAを含む、発現カセット。
(6)前記DNAの上流側に目的タンパク質をコードするDNAの挿入部位を備える、(5)に記載の発現カセット。
(7)さらに、以下のいずれかに記載のDNAを含む、(5)又は(6)に記載の発現カセット。
(a)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列を有するDNA;
(b)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(c)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(d)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA
(8)(5)~(7)のいずれかに記載の発現カセットを備えるベクター。
(9)(1)又は(2)に記載のDNAを、外来性の目的タンパク質をコードするDNAの下流に保持する形質転換植物細胞。
(10)前記種子における内在性タンパク質の発現が抑制されている、(9)記載の形質転換細胞。
(11)(9)又は(10)に記載の形質転換細胞を含む形質転換植物体。
(12)前記外来性の目的タンパク質発現増大機能が付与された(11)に記載の形質転換植物体。
(13)(11)又は(12)に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
(14)シロイヌナズナである、(11)~(13)のいずれかに記載の形質転換植物体。
(15)(11)~(13)のいずれかに記載の形質転換植物体の繁殖材料。
(16)(11)~(14)のいずれかに記載の形質転換植物体の製造方法であって、
(8)記載のベクターであって外来性の目的タンパク質のコードするDNAを含むベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法。
(17)(11)~(14)のいずれかに記載の植物体を栽培する工程を備える、植物体の生産方法。
(18)(11)~(14)のいずれかに記載の植物体を栽培する工程を備える、植物体種子の生産方法。
(19)(11)~(14)のいずれかに記載の植物体を栽培する工程を備える、前記目的タンパク質の生産方法。
(20)植物体の種子において目的タンパク質の発現を促進させるためのDNA材料のスクリーニング方法であって、
種子において発現するタンパク質の1又は2以上の3’-UTR領域を前記DNA材料の候補として、種子で作動可能なプロモーターの制御下でレポータータンパク質をコードするDNAの下流に前記候補を連結させたDNAを保持する形質転換細胞から植物体を再生する工程と、
前記植物体から収穫した種子における前記レポータータンパク質の発現量を評価する工程と、を備える方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】シロイヌナズナ種子中のタンパク質含有量とmRNA量とを示す図である。を示す図である。
【図2】12S1遺伝子、12S2遺伝子、12S3遺伝子及び12S4遺伝子の各遺伝子破壊株におけるT-DNAの挿入部位を示す図である。
【図3】シロイヌナズナ種子のグロブリン遺伝子の単一ノックアウト株(12s1株、12s2株、12s3株及び12s4株)における各種グロブリンタンパク質の発現状態を示す図である。
【図4】シロイヌナズナ種子のグロブリン遺伝子のダブルノックアウト株(12s1.3株及び12s1.4株)における各種グロブリンタンパク質の発現状態を示す図である。
【図5】12S1mRNA構造と、12s1破壊株に導入したコード領域を含むDNAコンストラクトの構造を示す図である。
【図6】コンストラクトを作製するために用いたプライマーを示す図である。
【図7】実施例3で作製した各種形質転換植物体から得た種子におけるグロブリンタンパク質の発現状態を示す図である。
【図8】実施例4で用いた導入コンストラクトを示す図である。
【図9】導入コンストラクトを作製するために用いたプライマーを示す図である。
【図10】シロイヌナズナ種子のICL、12S3、12S4及び2S3遺伝子の3’UTRのコード領域についての種子発現/蓄積促進効果について評価した結果を示す図である。
【図11】シロイヌナズナ種子におけるpMDH1遺伝子の発現に対する12S1遺伝子の3’UTRの効果の評価のためのDNAコンストラクトを示す図である。
【図12】導入コンストラクトを作製するために用いたプライマーを示す図である。
【図13】シロイヌナズナ種子におけるpMDH1遺伝子の発現に対する12S1遺伝子の3’UTRの効果の評価結果を示す図である。
【図14】シロイヌナズナ種子において12S1 3’UTRで発現させたpMDH1の活性の評価結果を示す図である。
【図15】シロイヌナズナ種子で発現させたpMDH1と市販のブタ由来のMDHとの活性の比較結果を示す図である。
【図16】シロイヌナズナ種子の常温での貯蔵期間における活性の変化を示す図である。
【図17】シロイヌナズナ種子に鉄貯蔵タンパク質Fer2の発現に対する3’UTRの効果を評価するためのDNAコンストラクトを示す図である。
【図18】導入コンストラクトを作製するために用いたプライマーを示す図である。
【図19】シロイヌナズナ種子に鉄貯蔵タンパク質Fer2の発現に対する3’UTRの効果の評価結果を示す図である。
【図20】シロイヌナズナ種子におけるヒトインターフェロンの発現を評価するためのDNAコンストラクトを示す図である。
【図21】シロイヌナズナ種子におけるヒトインターフェロンの発現の評価結果を示す図である。
【図22】シロイヌナズナ種子における12S1グロブリン遺伝子と12S4グロブリン遺伝子の破壊とヒトインターフェロンの発現の評価結果を示す図である。
【図23】実施例5で取得した種子におけるpMDH1タンパク質の細胞内局在性を確認した電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書の開示は、植物体の種子における目的タンパク質の発現の促進に関するDNA材料及びその利用に関連する。本明細書の開示は、本発明者らが植物体の種子における目的タンパク質の発現促進に関する3’-UTRを新たに見出したことに基づいている。

【0010】
本明細書の開示によれば、植物体の種子において目的タンパク質を意図的に発現させ、好ましくは主要なタンパク質として発現し蓄積させることができる。また、このため、収穫した種子からの目的タンパク質の精製が可能となり、好ましくは精製が容易である。さらに、植物体を用いた発現系は、動物系よりも生産コストの低減やスケールアップ等の生産量調節においてメリットが大きい。さらに、種子は、本来的にその成分の長期の保存ないし貯蔵を意図しているため、発現/蓄積させたタンパク質の活性を保持させた状態で安定的に保存するのに適している。特に、種子は、過酷な状況において、植物の発芽や生育のためのタンパク質や他の成分の活性を維持することを意図しているため、目的タンパク質は種子の形態で容易に保存することができる。

【0011】
また、本明細書の開示によれば、種子におけるタンパク質組成を変更することができるため、新たな植物品種の育種や改良にも有用である。

【0012】
さらに、本明細書の開示によれば、動物等において栄養上、疾患など健康障害の予防又は治療上有用なタンパク質を大量発現させた種子を供給できるようになる。すなわち、種子を食糧あるいは医薬品原料等として供給できるようになる。さらにまた、本明細書の開示によれば、風味や栄養素(アミノ酸のスコア)が改善された種子を提供できるようになる。

【0013】
さらに、本明細書の開示によれば、有用なタンパク質をその本来の生理活性を維持したまま、その本来の細胞内局在性を維持して種子において発現させ蓄積させることができる。有用タンパク質の本来に近い形で維持して蓄積できることから、有用タンパク質を生産し蓄積させるのに好適な種子となっている。

【0014】
本明細書において、「植物体」とは、特に制限はなく、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。単子葉植物としては、例えばイネ、コムギ、オオムギ、ハトムギ、エンバク、トウモロコシ、ソルガム、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、チモシー、メドーフェスク、ヒエ、キビ、アワ、サトウキビ等のイネ科植物が挙げられる。また、本明細書における単子葉植物として、より好ましくは、イネを挙げることができる。また、コムギ、オオムギも好ましい。さらに、ソルガム、トウモロコシも好ましい。また、双子葉植物としては、シロイヌナズナ、ナタネ等のアブラナ科植物、エゴマ、ラベンダー等のシソ科植物、ゴマ等のゴマ科植物、ヒマワリ、ベニハナ等のキク科植物、アマなどのアマ科植物、ケナフ、ワタ、カカオ(アオギリ科に分類されることもある。)等のアオイ科植物、カボチャ等のウリ科植物、ダイズ、アズキ、インゲンマメ、ライマメ、エンドウ、ベニハナインゲン、ソラマメ、ササゲ、ヒヨコマメ、リョクトウ、レンズマメ、イナゴマメ、クラスタマメ、ナタマメ、キマメ、ラッカセイ等のマメ科植物、アーモンド等のバラ科植物、カシューやピスタチオなどのウルシ科植物、ヘーゼル等のカバノキ科植物、マカダミア等のヤマモガシ科植物、クリ等のブナ科植物等が挙げられる。ダイズ、クローバーなどのマメ科植物、ナタネなどのアブラナ科植物も挙げられる。また、ポプラなどのヤナギ科植物も挙げられる。スパイクモスなどのイワヒバ科植物も挙げられる。本明細書においては、好ましくはシロイヌナズナが挙げられる。

【0015】
本明細書において「種子」とは、植物体の種子のほか、果実、頴花を含んでいる。

【0016】
本明細書において「目的タンパク質」とは、特に由来や機能が限定されるものではない。単子葉植物及び双子葉植物を含む植物、ヒトを含む動物のほか、微生物、ウイルスなどのいずれかの生物に由来するものであってもよい。また、生物由来のタンパク質を改変し、あるいは部分的に利用し、あるいは完全に人工的に創製された人工タンパク質であってもよい。また、目的タンパク質は、植物体に本来的に内在しない外来性のものであってもよいし、植物体に内在するが意図的に種子において発現促進させるものであってもよい。

【0017】
以下、本開示の代表的かつ非限定的な実施形態について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された「植物体の種子における目的タンパク質の発現」を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。

【0018】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。

【0019】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。

【0020】
以下、本明細書の開示に関し、種子における目的タンパク質の発現促進に関連するDNA、種子におけるタンパク質の発現促進剤、発現カセット、ベクター、形質転換細胞、形質転換植物体、その生産方法等に関し順次説明する。

【0021】
(植物体の種子において目的タンパク質の発現を促進するDNA)
植物体の種子において目的タンパク質の発現を促進するDNAとしては、本発明者らが、シロイヌナズナから見出した以下の塩基配列が挙げられる。
(a)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列を有するDNA

【0022】
配列番号1で表される塩基配列は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の12S1グロブリンα及びβをコードする12S1グロブリン遺伝子の3’UTRとして本発明者らが特定している。この塩基配列は、5’側から40bpの5’UTR、1575bpのCDS及び179bpの3’UTRからなる12S1遺伝子のmRNAの3’UTRである。

【0023】
配列番号2で表される塩基配列は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の12S3グロブリンα及びβをコードする12S3グロブリン遺伝子の3’UTRとして本発明者らが特定している。この塩基配列は、5’側から35bpの5’UTR、1368bpのCDS及び230bpの3’UTRからなる12S3遺伝子のmRNAの3’UTRである。

【0024】
配列番号3で表される塩基配列は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の12S4グロブリンα及びβをコードする12S4グロブリン遺伝子の3’UTRとして本発明者らが特定している。この塩基配列は、5’側から42bpの5’UTR、1419bpのCDS及び196bpの3’UTRからなる12S4遺伝子のmRNAの3’UTRである。

【0025】
配列番号4で表される塩基配列は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の2S3アルブミンをコードする2S3アルブミン遺伝子の3’UTRとして本発明者らが特定している。この塩基配列は、5’側から35bpの5’UTR、495bpのCDS及び233bpの3’UTRからなる2S3遺伝子のmRNAの3’UTRである。

【0026】
これらのDNAは、3’UTRとして連結されるタンパク質のコード領域でコードされるタンパク質を種子において発現させることができ、好ましくは、種子においてより優勢的に発現させることができる。

【0027】
さらに、本明細書の開示によれば、上記以外の他の態様(b)のDNAも包含される。
(b)配列番号1~4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA

【0028】
こうしたDNAであっても、植物体の種子において目的タンパク質の発現促進活性を有していればよい。目的タンパク質の発現促進活性は、例えば、以下の方法で取得できる。すなわち、任意のプロモーターの制御下にレポータータンパク質をコードする遺伝子を保持するとともに当該遺伝子の下流に上記(b)に相当するDNA、さらにその下流に任意のターミネーターを備える評価用カセットを保持する評価用の形質転換細胞を取得し、当該形質転換細胞から再生した植物体の種子においてレポータータンパク質の発現量を測定する。他方、上記(b)に相当するDNAを保持しない以外は同様の形態のコントロールカセットを保持する形質転換細胞を取得し、当該形質転換細胞から再生した植物体の種子におけるレポータータンパク質の発現量を測定する。コントロールカセットを保持する植物体の種子におけるレポータータンパク質の発現量と評価用カセットを保持する植物体の種子質の発現量とを比較することで、目的タンパク質の発現促進活性を評価できる。なお、ストリンジェントな条件については後述する。

【0029】
なお、「植物体の種子において目的タンパク質の発現促進活性を有している」とは、種子において作動可能なプロモーターの制御下において、目的タンパク質又はレポータータンパク質のコード領域及び3’UTRを有する3’UTR保持植物体の種子において、3’UTRを有しない以外は同一の構成を有する3’UTR非保持植物体の種子よりも目的タンパク質又はレポータータンパク質の発現量が多いことをいう。種子において作動可能なプロモーターとしては、例えば、後述する12S1遺伝子のプロモーターを利用できる。好ましくは、目的タンパク質又はレポータータンパク質が種子における全タンパク質の3%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは8%以上であり、一層好ましくは10%以上であり、さらに一層好ましくは12%以上である。

【0030】
さらに、本明細書の開示によれば、さらに他の態様(c)のDNAも包含される。
(c)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列と90%以上の同一性の塩基配列を有するDNA

【0031】
こうしたDNAであっても、上記(b)と同様、植物体の種子において目的タンパク質の発現促進活性を有していればよい。配列同一性は、好ましくは95%以上であり、より好ましくは97%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、一層好ましくは99%以上である。配列の同一性については、後述する。

【0032】
さらに、本明細書の開示によれば、さらに他の態様(d)のDNAも包含される。
(d)配列番号1、2、3又は4で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA

【0033】
こうしたDNAであっても、上記(b)と同様、植物体の種子において目的タンパク質の発現促進活性を有していればよい。なお、塩基の置換、欠失、挿入又は付加は、好ましくは、20個以下であり、より好ましくは15個以下であり、さらに好ましくは10個以下であり、一層好ましくは5個以下である。

【0034】
本明細書において塩基配列又はアミノ酸配列の同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性 ”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。

【0035】
ストリンジェントな条件とは、たとえば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち、所定の塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、より一層好ましくは98%以上、さらに一層好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNA又はその一部の相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15~750mM、好ましくは50~750mM、より好ましくは300~750mM、温度が25~70℃、好ましくは50~70℃、より好ましくは55~65℃、ホルムアミド濃度が0~50%、好ましくは20~50%、より好ましくは35~45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15~600mM、好ましくは50~600mM、より好ましくは300~600mM、温度が50~70℃、好ましくは55~70℃、より好ましくは60~65℃である。なお、以上のことから、さらなる他の一態様として、所定の塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、より一層好ましくは98%以上、さらに一層好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列を有する。

【0036】
本明細書の開示によれば、12S1、12S3、12S4の各グロブリン遺伝子及び2S3アルブミン遺伝子のうち、好ましくは、12S1グロブリン遺伝子及び2S3遺伝子の3’UTR(すなわち、配列番号1及び4で表される塩基配列)を含むDNAを用いる。より好ましくは配列番号1で表される塩基配列を含むDNAを用いる。これらの3’UTRが種子におけるタンパク質発現促進活性が優れる傾向があるからである。なお、これらのDNAについては、以下に示すように、既に説明した各種態様のDNAも好ましく用いられる。

【0037】
(a)配列番号1又は4で表される塩基配列を有するDNA;
(b)配列番号1又4はで表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(c)配列番号1又は4で表される塩基配列と90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、一層好ましくは99%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(d)配列番号1又は4で表される塩基配列において1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA

【0038】
(発現カセット)
本明細書に開示される発現カセットは、以上で説明した各種態様のDNAを3’UTRとして含むことができる。上記各種態様のDNAは、3’UTRとして連結されるタンパク質のコード領域によってコードされるタンパク質を種子において発現させることができ,好ましくはより優勢に発現させることができる。

【0039】
発現カセットは、適当なプロモーターを備えることができる。プロモーターとしては、植物体において利用可能な公知の各種プロモーターを採用できる。また、公知の種子特異的プロモーターも利用できる。さらに、発現カセットは、適当なターミネーターを備えることができる。ターミネーターとしては、植物体において利用可能なNOSターミネーター等の各種のターミネーターを用いることができる。

【0040】
また、発現カセットは、既に説明した3’UTRとともに、又は3’UTRを備えることなく、以下のいずれかに記載のDNAを種子においてプロモーター機能を備える限りプロモーターとして含むことができる。これらのプロモーターは、それぞれ、それぞれ種子において目的タンパク質を発現させるのに有利なプロモーターとして利用できる。

【0041】
(e)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列を有するDNA;
(f)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(g)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、一層好ましくは99%以上の同一性の塩基配列を有するDNA;及び
(h)配列番号5、6、7又は8で表される塩基配列において1又は複数個、好ましくは、20個以下であり、より好ましくは15個以下であり、さらに好ましくは10個以下であり、一層好ましくは5個以下の塩基の置換、欠失、挿入又は付加を有する塩基配列からなるDNA

【0042】
配列番号5で表される塩基配列は、シロイヌナズナの12S1グロブリン遺伝子のプロモーターとして本発明者らが特定している。配列番号6で表される塩基配列は、12S3グロブリン遺伝子のプロモーターとして本発明者らが特定している。配列番号7で表される塩基配列は、シロイヌナズナの12S4グロブリン遺伝子のプロモーターとして本発明者らが特定している。配列番号8で表される塩基配列は、シロイヌナズナの2S3アルブミン遺伝子のプロモーターとして本発明者らが特定している。

【0043】
これらのプロモーターは、既に説明した同じ遺伝子に由来する3’UTRの上流側でプロモーターとして機能させるように発現カセットに備えていてもよい。また、これらのプロモーターは、プロモーターが由来する遺伝子とは異なる遺伝子に由来する3’UTRの上流側でプロモーターとして機能させるように発現カセットに備えられていてもよい。例えば、12S1グロブリン遺伝子のプロモーターを、12S3グロブリン遺伝子、12S4グロブリン遺伝子及び2S3アルブミン遺伝子の3’UTRの上流側で機能させるように備えていてもよい。

【0044】
上記プロモーターのうち、好ましくは12S1グロブリン遺伝子及び2S3アルブミン遺伝子のプロモーター(すなわち、配列番号5及び8で表される塩基配列)を含むDNAを用いる。より好ましくは配列番号5で表される塩基配列を含むDNAを用いる。これらのプロモーターが種子におけるタンパク質発現促進活性が優れる傾向があるからである。なお、これらのDNAについては、上記配列番号で表される塩基配列を有するDNAに関して既に説明した各種態様のDNAも好ましく用いられる。

【0045】
発現カセットは、上記した各種の発現のための要素を目的タンパク質のコード領域に対して配置できるように、適宜、制限酵素等による組換え部位(クローニング部位)を備えることができる。

【0046】
本明細書に開示される3’UTRや発現カセットを用いることにより、目的タンパク質を種子において発現させ、好ましくは優勢に発現させて蓄積させることができる。

【0047】
目的タンパク質の発現をより促進するには、種子における内在性のタンパク質の発現を抑制しておくことが好ましい。より好ましくは、種子における内在性の主要タンパク質の発現を抑制しておく。例えば、シロイヌナズナにおいて、種子における主要タンパク質をコードする12S1、12S3,12S4及び2S3の各遺伝子の3’UTRを用いて目的タンパク質の発現を意図する場合、内在性のこれら遺伝子のいずれかあるいは2以上を破壊し抑制しておくことが好ましい。特に、使用しようとする3’UTRが由来する内在性の遺伝子を破壊しておくことが好ましい。こうすることで、同種の3’UTRを備えるmRNAの競合を抑制でき、より効果的に目的タンパク質を発現、蓄積させることができる。

【0048】
例えば、シロイヌナズナにおいては、12S1遺伝子及び12S4遺伝子のいずれかあるいは双方を破壊してこれらの遺伝子の発現を抑制しておくことが好ましい。これらはシロイヌナズナ種子の最も主要なタンパク質であるからである。

【0049】
植物細胞における特定遺伝子のノックアウトには、T-DNA挿入による方法、アンチセンス法、コサプレッション法及びRNAi法等を適宜選択して使用できる。これらの方法は当業者に周知であり、当業者であれば、必要に応じて意図した遺伝子の破壊株を得ることができるほか、商業的に特定遺伝子が破壊された株(細胞や種子等)を入手できる。

【0050】
以上のことから、本明細書に開示されるベクターと、種子において発現する内在性タンパク質をコードする内在性遺伝子をノックアウトするためのベクターとを、キットとしてもよい。特に、ベクターにおいて使用される3’UTRが由来する内在性遺伝子をノックアウトするDNAコンストラクトを含むベクターをキット化することが好ましい。

【0051】
(べクター)
本明細書の開示によれば、上記DNAやこうした発現カセットを備えるベクターも提供される。本ベクターは、上記DNAのほか、植物細胞内で本DNAの発現を増強するための要素を含んだ発現ベクターとすることができる。本ベクターは、適当な媒体を介して染色体に組み込み可能に設けられていることが好ましい。

【0052】
本ベクターは、当業者であれば、例えば、当業者に公知の各種プラスミドなど商業的に入手可能な材料を利用して構築することができる。例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)などのほか、形質転換植物体作製のために植物細胞内で本遺伝子を発現させるベクターを用いて構築することができる。本ベクターの植物細胞への導入等については後述する。

【0053】
(植物体の種子における目的タンパク質の発現促進剤)
本明細書の開示によれば、既に開示した3’UTR、プロモーター、発現カセット及びベクターのいずれかを有効成分とする、植物体の種子における目的タンパク質の発現促進剤が提供される。

【0054】
(形質転換細胞及び形質転換植物体並びにこれらの作製方法)
本明細書の開示によれば、目的タンパク質をコードするコード領域を保持する本ベクターが導入されて得られる形質転換細胞も提供される。本明細書に開示される形質転換植物体は、こうした形質転換細胞を含んでいる。本形質転換植物体は、その種子において目的タンパク質が発現され、好ましくは優勢に発現され蓄積されている。

【0055】
本ベクターが導入される宿主細胞としての植物細胞としては特に制限はない。例えば、既に記載した各種の単子葉植物及び双子葉植物に由来の植物細胞を用いることができる。また、穀物植物由来の細胞であってもよい。植物細胞としては、懸濁培養細胞等の培養細胞の他、プロトプラスト、カルスも含まれる。また、植物細胞には、苗条原基、多芽体、毛状根などのほか、葉の切片等の植物体中の細胞も含まれる。

【0056】
本形質転換植物体は、本形質転換細胞から植物体を再生させることにより得ることができる。植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。例えば、ポリエチレングリコールによるプロトプラストへ遺伝子導入(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによるプロトプラストへ遺伝子導入(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)等の各種方法が挙げられる。また、転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et al. (1995) Plant Physiol. 100:1503-1507参照)。例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))が挙げられ、シロイヌナズナであればAkamaら(Plant Cell Reports12:7-11 (1992))の方法が挙げられる。

【0057】
形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et al. (1995) Plant Physiol. 100:1503-1507参照)。イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。なお、例えば、シロイヌナズナにおいては、受粉前の花序をアグロバクテリウムバクテリウム液に浸すことでカルス細胞を経由しないで形質転換個体を得ることができる花序浸し法がある(Clough et al.(1998), Plant J. 16:735-43)。

【0058】
ゲノム上に目的タンパク質のコード領域を含み、本明細書に開示される3’UTR等が組み込まれた形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本明細書の開示には、既に説明した(1)植物細胞、(2)該細胞を含む植物体のほか、(3)該植物体の子孫およびクローン、並びに(4)該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。

【0059】
このようにして作出された植物体は、種子における目的タンパク質の発現/蓄積促進機能が付与又は増大されている。

【0060】
(植物体、その種子、及び目的タンパク質の生産方法)
本明細書に開示される植物体の生産方法は、本形質転換植物体又はその子孫等(以下、本植物体という。)を栽培する工程を備えることができる。本生産方法によれば、種子において目的タンパク質を含有する、好ましくは優勢に含有する植物体を得ることができる。栽培工程は、いずれも、当業者であれば、本植物体の種類に応じて適宜設定することができる。

【0061】
また、本明細書に開示される植物体の種子の生産方法は、本植物体を栽培する工程を備えることができる。本生産方法によれば、目的タンパク質を発現した、好ましくは優勢に発現し蓄積した種子を得ることができる。本生産方法は、本植物体の種子を収穫する工程備えていてもよい。収穫工程は、いずれも、当業者であれば、本植物体の種類に応じて適宜設定することができる。

【0062】
また、本明細書に開示される目的タンパク質の生産方法は、本植物体を栽培する工程を備えることができる。さらに、本植物体の種子を収穫する工程を備え、さらに、種子から目的タンパク質を分離する工程を備えていてもよい。目的タンパク質を効率的に得ることができる。種子からの目的タンパク質の分離工程は、当業者であれば、目的タンパク質の種類等に応じて適宜設定することができる。

【0063】
(スクリーニング方法)
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、植物体の種子において目的タンパク質の発現を促進させるためのDNA材料のスクリーニング方法である。このスクリーニング方法は、種子において発現するタンパク質の1又は2以上の3’-UTR領域を前記DNA材料の候補として、種子で作動可能なプロモーターの制御下でレポータータンパク質をコードするDNAの下流に前記候補を連結させたDNAを保持する形質転換細胞から植物体を再生する工程と、前記植物体から収穫した種子における前記レポータータンパク質の発現量を評価する工程と、を備えることができる。好ましくは、種子において優勢に、より好ましくは主要なタンパク質の3’UTRを候補とする。レポータータンパク質、形質転換細胞、及び形質転換植物体の再生については、当業者であれば既出の記載事項ほか本願出願時の技術常識に基づいて容易に実施できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0065】
本実施例は、シロイヌナズナの種子中のタンパク質とそのmRNA量とを測定した。結果を図1に示す。図1に示すシロイヌナズナ種子中の12S1, 12S3, 12S4, 2S3は主要タンパク質であり、これらでおおよそ全タンパク質の90%を占めている。一方、ICL(イソクエン酸リアーゼ), pMDH1(リンゴ酸脱水素酵素1), LEA1(グアニンヌクレオシド交換因子)は種子に比較的少量、またはほとんど発現/蓄積しないタンパク質である。シロイヌナズナの種子の主要なタンパク質である12S1, 12S3, 12S4, 2S3のmRNA量は発現/蓄積しないタンパク質であるICL, pMDH1, LEA1のmRNA量に大きな違いがないことがわかった。このことから、シロイヌナズナ種子において12S1, 12S3, 12S4, 2S3が独占的に発現/蓄積するためにはそれらのmRNAが優先的に翻訳されてタンパク質となるシステムが想定された。
【実施例2】
【0066】
本実施例では、シロイヌナズナ種子に主要に発現するタンパク質のうち、12S1, 12S2, 12S3, 12S4の各遺伝子について4種のT-DNA挿入による単一破壊株をそれぞれに入手した(GK-283D09(NASC)、SALK_010957(ABRC)、SALK_085866(ABRC)、SALK_002668(ABRC))。さらに、12s1破壊株と12s3破壊株を交配して12S1及び12S3の2重破壊株(12s1.3)を作製した。また、12S1破壊株と12S4破壊株を交配して12S1及び12S4の2重破壊株(12s1.4)を作製した。なお、使用した各破壊株におけるT-DNA挿入部位を図2に示す。
【実施例2】
【0067】
収穫した種子からタンパク質を常法により抽出し、各種の単一破壊株(12s1、12s2、12s3,12s4)については12.5%アクリルアミドゲル電気泳動により、2種類の2重破壊株(12s1.3、12s1.4)については15%アクリルアミドゲル電気泳動にてタンパク質を分離した。結果を図3及び図4に示す。
【実施例2】
【0068】
図3及び図4に示すように、単一破壊株の12s1,12s3,12s4及び2重破壊株の12s1.3、12s1.4ではそれぞれノックアウトされた遺伝子由来のタンパク質のバンドが消失していた。なお、12S2タンパク質は種子で発現しないことから、12s2破壊株の種子のタンパク質のバンドパターンは野生型(WT)と同じであった。
【実施例3】
【0069】
本実施例では、野生型、実施例2で作製した12s1破壊株、当該破壊株にA;12S1遺伝子のコード領域(配列番号9)のみ、B;(5’UTR(配列番号10)+コード領域)、C:(コード領域+3’UTR)、D;(5’UTR+コード領域+3’UTR)をそれぞれ12S1遺伝子のプロモーター(配列番号5)の作動下に連結するとともにNOSターミネーター(配列番号11)を付加したコンストラクトを作製しアグロバクテリウム法により導入して得た形質転換植物体を取得した。
【実施例3】
【0070】
12S1mRNA構造と、破壊株に導入したコード領域を含むDNAコンストラクトの構造を図5に示す。それぞれのコンストラクトに用いるDNA断片は以下のようにして調製した。
【実施例3】
【0071】
シロイヌナズナの開花後9日目の種子より全RNAを抽出し、PCR法により12S1mRNAを取得した。取得した12S1mRNAに対し、5’, 3’UTRをともに含まず12S1CDSのみを含むよう設計されたプライマーセットを用いてPCRを行うことで1CDSを、5’UTRと12S1CDSを含むよう設計されたプライマーセットを用いてPCRを行うことで5’-1CDSを、12S1CDSと3’UTRを含むよう設計されたプライマーセットを用いてPCRを行うことで1CDS-3’を、5’UTR, 12S1CDS, 3’UTRをすべて含むよう設計されたプライマーセットを用いてPCRを行うことで5’-1CDS-3’を得た。さらにこれらを12s1プロモーター(12S1pro)(配列番号5)およびNOSターミネーター(NOSter)(配列番号11)を含むプラスミドベクターへ導入した。以上のPCRに用いたプライマーを図6に示す。
【実施例3】
【0072】
こうして作製したコンストラクトをアグロバクテリウムに導入した。プラスミドを保持しているアグロバクテリウムをYEB液体培地で培養し、菌体を回収、0.05%のSilwet L-77、0.044 μMのベンジルアミノプリンおよび5%のショ糖と添加したムラシゲ・スクーグ液体培地に懸濁し、600nmにおける吸光度が0.8~1.2となるよう調整した。この懸濁溶液にシロイヌナズナの花序を30秒ほど浸すことでアグロバクテリウムを感染させた。アグロバクテリウムを感染させた植物体を生育させて種子を収穫し、40μMのハイグロマイシンB、1%ショ糖を含むムラシゲ・スクーグ寒天固形培地に播種した。播種後7日目でハイグロマイシンB耐性を示す個体を選抜した。
【実施例3】
【0073】
この形質転換植物体から種子を収穫し、当該種子から常法に従い全タンパク質を抽出し、その10μgを、12.5%のSDSアクリルアミドゲル電気泳動に供した。これらの結果を図7に示す。
【実施例3】
【0074】
図7に示すように、導入コンストラクトが3’UTRを備えるとき(図中、C及びD)のとき、12S1タンパク質(α及びβ)が発現されることがわかった。すなわち、12S1mRNAの翻訳には、12S1の3’UTRが必要であることがわかった。
【実施例4】
【0075】
本実施例では、シロイヌナズナ種子のICL、12S3、12S4及び2S3遺伝子の3’UTRのコード領域(それぞれ配列番号20、配列番号2,配列番号3及び配列番号4)についての種子発現/蓄積促進効果について評価した。図8に示すように、ICL、12S1, 12S3, 12S4, 2S3の3’UTRを12S1CDSに付加させたものを実施例3と同様に12S1プロモーターの下流に連結したコンストラクトを構築し、実施例3と同様の手法で形質転換体を取得し、その種子を収穫した。以上のPCRに用いたプライマーを図9に示す。
【実施例4】
【0076】
これらの種子につき、実施例3と同様にしてタンパク質を抽出し、SDSポリアクリルアミド電気泳動に供した。なお、結果を図10に示す。
【実施例4】
【0077】
図10に示すように、ICLの3’UTRは12S1タンパク質を種子に発現させる機能がなく、それ以外の12S1, 12S3, 12S4, 2S3の3’UTRは発現させる機能を有することがわかった。以上の結果から、種子に主要なタンパク質として発現しているタンパク質をコードする遺伝子の3’UTR領域にはそのmRNAを優先的にタンパク質に翻訳させ、発現させる機能があることがわかった。
【実施例5】
【0078】
本実施例では、通常、シロイヌナズナの種子には発現しないペルオキシソーム型リンゴ酸脱水素酵素をコードするpMDH1遺伝子の種子での発現について評価した。
【実施例5】
【0079】
まず、図11に示すように、12S1プロモーター下流にpMDH1遺伝子のコード領域(配列番号39)を連結したDNAコンストラクト(pMDH1)と、pMDH1遺伝子にシロイヌナズナ12S1遺伝子の3’UTR領域を連結させて12S1プロモーター下流に連結したDNAコンストラクト(pMDH1-3’ )を作製した。なお、pMDH1遺伝子の最初の32アミノ酸(遺伝子上では先頭の96塩基)はペルオキシソームという細胞内小器官への移行シグナルとして機能し、ペルオキシソーム内で切断されることが分かっている。移行シグナルの影響を排除するため、予め先頭の96塩基を削ったものを作成した(pMDH1(+96)CDS)。これらのコンストラクトを実施例3と同様の方法で12s1.4形質転換細胞に導入し、形質転換植物体を取得した。得られた形質転換体はpMDH1が導入されたものをpMDH1/12s1.4, pMDH1-3’が導入されたものをpMDH1-3’/12s1.4と記す。以上のPCRに用いたプライマーを図12に示す。
【実施例5】
【0080】
野生株WTのほか、親株となる12s1.4、pMDH1/12s1.4の独立系統1~4、pMDH1-3’/12s1.4の独立系統1~4の種子をすりつぶし、全タンパク質を抽出した。各タンパク質10μgについてのSDSポリアクリルアミド電気泳動の結果を図13に示す。
【実施例5】
【0081】
図13に示すように、pMDH1/12s1.4の独立系統1~4では種子で強力に発現を促進させる12S1プロモーターを使用しているにも関わらず、pMDH1タンパク質は種子中の主要なタンパク質とはなりえていなかった。一方、pMDH1-3’/12s1.4の独立系統1~4ではすべての系統において多量のpMDH1タンパク質の発現が確認でき、pMDH1タンパク質が種子中で最も主要なタンパク質(全タンパク質の約40%)であった。これにより組み換えタンパク質を種子中の主要なタンパク質として多量に発現/蓄積させることが可能であることを確認した。
【実施例5】
【0082】
pMDH1はリンゴ酸脱水素酵素なので酵素活性を測定することで、種子に発現/蓄積させたpMDH1タンパク質が活性を保持したまま蓄積しているかどうかを確認した。すなわち、それぞれの種子からタンパク質を抽出し、酵素活性を測定した。結果を図14に示す。
【実施例5】
【0083】
図14に示すように、12S13’UTRを付加してpMDH1を蓄積させた種子ではMDH1活性は12S13’UTRを付加させなかったものに比べ、40~50倍の活性を示した。これは種子に発現/蓄積させた組換えタンパク質は活性を保持した状態で蓄積していることを示す。
【実施例5】
【0084】
さらに、種子に蓄積させたpMDH1タンパク質の活性が市販のブタ心臓由来のMDHの活性と比較して、妥当な値かどうか(実は大部分が不活性で、活性が極端に低くないか)を検討した。結果は図15に示すように、pMDH1タンパク質は、市販のMDH1と同程度の活性を有していることがわかった。
【実施例6】
【0085】
種子は内部に蓄積されたタンパク質を常温で安定的に保持することが予測される。そこで、本実施例では、組換えタンパク質であるpMDH1が種子内で常温で安定的に保持されるかどうかを検討した。実施例5で取得した種子を収穫後、90日間室温で放置し、pDH1の活性を経時的に測定した。結果を図16に示す。
【実施例6】
【0086】
図16に示すように、収穫した種子を室温で保存しても、pMDH1の活性は変化しないことが分かった。これは種子に発現させた組換えタンパク質は室温で安定的に保持されることを示している。
【実施例7】
【0087】
本実施例では、これはこの方法がpMDH1だけでなく他のタンパク質にも適応できるかどうかを確認した。
【実施例7】
【0088】
図17に示すように、シロイヌナズナの鉄貯蔵タンパク質であるFer2のコード領域(配列番号40)に12S1の3’UTRを付加し、形質転換体を作成し、実施例5と同様にして種子から抽出した全タンパク質をポリアクリルアミドSDS電気泳動に供した。以上のPCRに用いたプライマーを図18に示し、結果を図19に示す。なお、Fer2が導入されたものをFer2/12s1.4, Fer2-3’が導入されたものをFer2-3’/12s1.4と記す。
【実施例7】
【0089】
図19に示すように、Fer2-3’/12s1.4の独立系統1~4でのみ種子中の最も主要なタンパク質としてFer2タンパク質の発現/蓄積が確認できた。すなわち、12S1の3’UTRを付加することでFer2も種子において主要タンパク質として発現/蓄積(全体の約15%)していることがわかった。以上のことから、タンパク質の種類を問わず、組み換えタンパク質を種子の主要なタンパク質として発現/蓄積させることが可能であることを確認した。
【実施例8】
【0090】
本実施例では、ヒト由来タンパク質であるヒトインターフェロンをシロイヌナズナの種子の主要タンパク質としての発現/蓄積を確認した。
【実施例8】
【0091】
既に作製した12s1.4二重欠損株に、図20に示すヒトインターロイキン28Bを発現させるためのコンストラクト12S1pro::IL28B-3’UTRを導入した遺伝子組換え体IL28B-3’UTR/12s1.4を実施例3に準じて作製した。なお、ヒトインターロイキン28Bのコード領域は、配列番号41で表され、このためのプライマーは、配列番号42及び43で表される。また、12s1.4二重欠損株に図20に示すヒトインターロイキン29を発現させるためのコンストラクト12S1pro::IL29-3’UTRを導入した遺伝子組換え体IL29-3’UTR/12s1.4を実施例3に準じて作製した。なお、ヒトインターロイキン29のコード領域は、配列番号44で表され、このためのプライマーは、配列番号45及び46で表される。12s1.4二重欠損株、IL28B-3’UTR/12s1.4株及びIL29-3’UTR/12s1.4株から種子を収穫し、タンパク質を抽出した。これらのタンパク質(15μg/レーン)を、12.5%のポリアクリルアミドゲルに負荷して電気泳動した。泳動後、CBB染色にてタンパク質を染色した。結果を図21に示す。
【実施例8】
【0092】
図21に示すようにIL28B-3’UTR/12s1.4株及びIL29-3’UTR/12s1.4株について、IL28B及びIL29をそれぞれ確認できた。なお、IL28B、IL29の分子量がほとんど同じであるため、同じ高さのところにバンドが確認できている。以上のことから、本明細書に開示する3’-UTR領域を用いることで、植物種子中にヒトのインターフェロンを主要タンパク質の1つとして発現/蓄積させることが可能であることがわかった。
【実施例9】
【0093】
本実施例では、12S1グロブリン遺伝子及び12S4グロブリン遺伝子の欠損の目的タンパク質の発現に対する影響を確認した。
【実施例9】
【0094】
野生株に図20に示すコンストラクト12S1pro::IL29-3’UTRを導入した遺伝子組換え体IL29-3’UTR/WT)を実施例に準じて作製した。次いで、WT(野生株)、12s1.4二重欠損株、実施例8で作製したIL29-3’UTR/12s1.4 株及び作製したIL29-3’UTR/WT株から種子を収穫し、タンパク質を抽出した。これらのタンパク質(15μg/レーン)を、12.5%のポリアクリルアミドゲルで電気泳動した。泳動後、CBB染色にてタンパク質を染色した。結果を図22に示す。
【実施例9】
【0095】
図22に示すように、IL29のタンパク質発現が確認できたのはIL29-3’UTR/12s1.4株のみで、 IL29-3’UTR/WT株ではCBB染色によるバンドは確認できなかった。以上のことから、12S1グロブリン遺伝子及び/又は12S4グロブリン遺伝子の2重欠損株を使用することが種子における組換えタンパク質の大量発現/蓄積に重要であることがわかった。
【実施例10】
【0096】
本実施例では、シロイヌナズナ種子のICL遺伝子の3’UTRのコード領域(配列番号47)についての種子発現/蓄積促進効果について確認した。導入コンストラクトとしては、実施例4と同様、ICLを12S1CDSに付加させたものを実施例3と同様に12S1プロモーターの下流に連結したコンストラクトを構築し、実施例3と同様の手法で形質転換体を取得し、その種子を収穫した。ICLの3'UTRのクローニングには配列番号48、配列番号49で表される塩基配列からなるプライマーを用い、12S1CDSにICLの3’UTRを付加するには、配列番号50で表される塩基配列からなるプライマーを用いた。
【実施例10】
【0097】
この種子につき、実施例3と同様にしてタンパク質を抽出し、SDSポリアクリルアミド電気泳動に供したところ、ICLの3’UTRは12S1タンパク質を種子に発現させる機能がないことを確認できた。
【実施例11】
【0098】
本実施例では、実施例5で得た種子においてpMDH1の局在性を電子顕微鏡にて確認した。Hayashi et al. (1998) Plant Cell 10, 183-195に従い、種子の電子顕微鏡用切片を作製し、ペルオキシソームマーカー酵素であるカタラーゼに対する抗体を付加した25nmの金粒子及びpMDH1の抗体を付加した15nmの金粒子をスライド上の切片に添加し反応させた後、過剰の金粒子を洗浄して除去して顕微鏡観察用とした。結果を図23に示す。
【実施例11】
【0099】
図23においては、白抜きの矢頭はペルオキシソームマーカー酵素であるカタラーゼに対する抗体を付加した25nmの金粒子、黒の矢頭はpMDH1の抗体を付加した15nmの金粒子の局在を示す。OBはオイルボディ、PBはプロテインボディをそれぞれ示す。図23に示すように、カタラーゼ抗体が付加した25nmの金粒子が写真中心のオルガネラに局在し、さらにpMDH1の抗体を付加した15nmの金粒子も同じオルガネラに局在したことを示している。すなわち、実施例5で本開示に従い作製した種子中に生産したpMDH1がペルオキシソームに局在していることを細胞において確認することができた。
【実施例11】
【0100】
通常、種子の大部分はOBとPBで占められているが、本開示に従い蓄積させたpMDH1タンパク質はOBやPBには蓄積せず、PERに蓄積していた。pMDH1タンパク質は、それ自体ペルオキシソームに局在するタンパク質である。以上のことから、本開示によれば、外来タンパク質をその本来的な細胞内局在性を保ったまま生産しかつ蓄積させることができることがわかった。
【配列表フリ-テキスト】
【0101】
配列番号12~19、21~38、42、43、45、46、48~50:プライマー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
19
【図21】
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【図22】
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【図23】
22