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明細書 :導電性マイエナイト型化合物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4497484号 (P4497484)
登録日 平成22年4月23日(2010.4.23)
発行日 平成22年7月7日(2010.7.7)
発明の名称または考案の名称 導電性マイエナイト型化合物の製造方法
国際特許分類 C01F   7/16        (2006.01)
H01B   1/08        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
FI C01F 7/16
H01B 1/08
H01B 13/00 Z
請求項の数または発明の数 11
全頁数 12
出願番号 特願2007-519014 (P2007-519014)
出願日 平成18年5月30日(2006.5.30)
国際出願番号 PCT/JP2006/310807
国際公開番号 WO2006/129674
国際公開日 平成18年12月7日(2006.12.7)
優先権出願番号 2005157882
優先日 平成17年5月30日(2005.5.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年1月22日(2009.1.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】林 克郎
【氏名】金 聖雄
【氏名】平野 正浩
【氏名】鳴島 暁
【氏名】伊藤 節郎
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100080159、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 望稔
【識別番号】100090217、【弁理士】、【氏名又は名称】三和 晴子
審査官 【審査官】大工原 大二
参考文献・文献 国際公開第03/033406(WO,A1)
特開2004-026608(JP,A)
特開2002-316867(JP,A)
調査した分野 C01F 1/00-17/00
特許請求の範囲 【請求項1】
前駆体を熱処理する工程を含む導電性マイエナイト型化合物の製造方法であって、
前記前駆体は、
CaとAlとを含有し、酸化物換算した、CaO:Alのモル比が12.6:6.4~11.7:7.3であり、かつCaOとAlとの合計が50モル%以上である、ガラス質又は結晶質であり、
前記熱処理は、
熱処理温度Tが600~1415℃で、かつ、酸素分圧PO2が、Pa単位で、
O2≦10×exp[{-7.9×10/(T+273)}+14.4]
で表される範囲である不活性ガス又は真空雰囲気中に前記前駆体を保持する熱処理である、
ことを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項2】
前記結晶質の前駆体が、12CaO・7Alなる組成を有し三次元的に連結されたケージから構成される結晶構造を持つマイエナイト型化合物、又はマイエナイト型化合物のCa及びAlの一部が他の元素で置換された同型化合物である請求項1に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体が含有するCaの一部又はすべてが、rで置換されている請求項1又は2に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体が含有するAlの一部が、i又はGeで置換されている請求項1又は2に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体が、Si、Ge及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~17モル%;Li、Na及びKからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~5モル%;Mg及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~10モル%;(Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素)、及び(Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素あるいは典型金属元素)からなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~8モル%;を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体がガラス質であって、前記熱処理工程の前に950~1415℃に加熱する工程を含んでいるか、又は、前記熱処理工程の熱処理温度Tが950~1415℃である請求項1、3、4又は5に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項7】
前記前駆体が、マイエナイト型化合物以外の結晶構造をもつ結晶質であって、前記熱処理工程の前に1000~1415℃に加熱する工程を含んでいるか、又は、前記熱処理工程の熱処理温度Tが1000~1415℃である請求項1、3、4又は5に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項8】
前記前駆体が、粉末、粉末をプレス成形したプレス成型体、又は粉末を成形したプレス成型体を焼結した焼結体である請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体が、板状である請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項10】
前記前駆体を、炭素、Al及びTiからなる群から選ばれるいずれかの還元剤とともに容器中に密閉した雰囲気中で熱処理がおこなわれる請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項11】
導電率が100S/cm超である、請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法で製造された導電性マイエナイト型化合物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性マイエナイト型化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイエナイト型化合物は12CaO・7Al(以下C12A7と記す)なる代表組成を有し、三次元的に連結された、直径約0.4nmの空隙すなわちケージから構成される特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため、酸素イオンによって占められているが、この酸素イオンは、骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を持つことから、特に、フリー酸素イオンと呼ばれている。前記のことから、C12A7結晶は、[Ca24Al28644+・2O2-と表記される(非特許文献1)。
【0003】
また、マイエナイト型化合物としては、12SrO・7Al(以下S12A7と記す)が知られており、任意のCaとSrの混合比を持つ、C12A7とS12A7の混晶化合物も存在する(非特許文献2)。
【0004】
細野らは、C12A7結晶の粉末あるいはその焼結体を、H雰囲気中で熱処理してケージの中にHイオンを包接させ、次いで、紫外光を照射することにより、ケージ中に電子を包接させて、永続的な導電性を室温で誘起できることを見いだした(特許文献1)。この包接された電子はケージに緩く束縛されていて、結晶中を自由に動くことができるので、マイエナイト型化合物のC12A7結晶に導電性が付与される。しかしながら、この方法で得られる導電性マイエナイト型化合物は、十分な量の電子を包接させることができないため、導電性が十分でない。
【0005】
細野らは、また、C12A7単結晶をアルカリ金属蒸気を用いて還元処理すると、ケージ中のフリー酸素イオンを電子で置き換えて、単結晶の導電性マイエナイト型化合物を作製できることを見いだした(特許文献1)。しかしながらこの方法では、単結晶の作製と、カルシウムによる還元処理に長時間を要するため、工業的に用いるのは困難である。
【0006】
従来、一般的なガラスの作製法である溶融急冷法によって、C12A7組成をもつガラスが得られることが知られていて(非特許文献3参照)、該ガラスを再加熱して結晶化させると、マイエナイト型化合物のC12A7が生成することが知られていた。Liらは、空気中での溶融急冷によって得られたC12A7ガラスの再結晶化に必要な温度は、940~1040℃であり、また、生成する主な結晶相がマイエナイト型化合物のC12A7結晶であり、副生成物としてCaAl結晶が得られることを報告している(非特許文献4)。しかしながら、このようにして得られたマイエナイト型化合物はケージ中にフリー酸素を有する絶縁体であった。
【0007】
細野らは、C12A7結晶をカーボン坩堝中で溶解して作製した透明なガラスを、酸素分圧が10-11Paと極めて低い雰囲気中1600℃で1時間又は真空中1000℃で30分間の再加熱処理により結晶化させて、導電性マイエナイト型化合物が生成することを見出した(非特許文献5)。しかしながら、再加熱処理に、ガラスが再溶解する高温度かつ極低酸素分圧の雰囲気中、あるいは真空中、での再熱処理を要するため、この方法を用いて工業的に安価に大量に生産するのは困難であった。
【0008】

【特許文献1】WO2005-000741号公報
【非特許文献1】F.M.Lea and C.H.Desch,The Chemistry of Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold & Co.,London,1956.
【非特許文献2】O.Yamaguchi,A.Narai,K.Shimizu,J.Am.Ceram.Soc.1986,69,C36.
【非特許文献3】今岡稔、ガラスハンドブック(昨花、高橋、境野編)、朝倉書店、880頁(1975)
【非特許文献4】W.Li,B.S.Mitchell,J.Non-Cryst.Sol.1999,255(2,3),199.
【非特許文献5】S.W.Kim,M.Miyakawa,K.Hayashi,T.Sakai,M.Hirano,and H.Hosono,J.Am.Chem.Soc.,http://pubs.acs.org/journals/jacsat/,Web Release Date:15-Jan-2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来技術が有する前述の欠点を解消することにある。すなわち従来技術では、導電性マイエナイト型化合物を製造するためには、高価な設備、複雑な反応条件の制御や、高温あるいは長時間の反応を要していた。そのため、良好な特性をもつ導電性マイエナイト型化合物を、安定してかつ低コストで製造することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決するために、本発明は、前駆体を熱処理する工程を備えた導電性マイエナイト型化合物を製造する製造方法であって、
前駆体を熱処理する工程を含む導電性マイエナイト型化合物の製造方法であって、
前記前駆体は、CaとAlとを含有し、酸化物換算した、(CaO:Al)のモル比が(12.6:6.4)~(11.7:7.3)であり、CaOとAlとの合計が50モル%以上である、ガラス質又は結晶質であり、
前記熱処理は、熱処理温度Tが600~1415℃で、かつ、酸素分圧PO2が、Pa単位で、
O2≦10×exp[{-7.9×10/(T+273)}+14.4]
で表される範囲である不活性ガス又は真空雰囲気中に前記前駆体を保持する熱処理である、ことを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供する。
【0011】
この場合、前記前駆体は、12CaO・7Alなる代表組成を有し三次元的に連結されたケージから構成される結晶構造を持つマイエナイト型化合物、又はマイエナイト型化合物のCa、Alの一部又はすべてが他の元素で置換された同型化合物とすることが好ましい。
【0012】
前記前駆体は、含有するCaの一部又はすべてが、rで置換されていてもよく、あるいは、含有するAlの一部が、i又はGeで置換されていてもよい。
【0013】
さらに、前記前駆体は、Si、Ge及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~17モル%;Li、Na及びKからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~5モル%;Mg及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~10モル%;(Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素)、及び(Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素あるいは典型金属元素)からなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~8モル%;を含有していてもよい。
【0014】
本発明において、前記前駆体は、ガラス質であって、前記熱処理工程の前に950~1415℃に加熱する工程を含んでいるか、又は、前記熱処理工程の熱処理温度Tを950~1415℃としてもよい。あるいは、前記前駆体は、マイエナイト型化合物以外の結晶構造をもつ結晶質であって、前記熱処理工程の前に1000~1415℃に加熱する工程を含んでいるか、又は、前記熱処理工程の熱処理温度Tを1000~1415℃としてもよい。
また本発明において、前記前駆体は、粉末、粉末をプレス成形したプレス成型体、又は粉末を成形したプレス成型体を焼結した焼結体としてもよく、板状としてもよい。
【0015】
また、本発明においては、前記前駆体を、炭素、Al、Tiのいずれかの還元剤とともに容器中に密閉した雰囲気中で、熱処理をおこなうことが好ましい。
本発明はさらに、前述の製造方法により製造された、導電率が100S/cm超である導電性マイエナイト型化合物を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、良好な導電性を有する導電性マイエナイト型化合物を、高価な設備や、複雑な制御を要することなく、収率良く合成することが可能であり、該化合物を安価に大量に製造することができる。また、バルク状、粉状、膜状の導電性マイエナイト型化合物を安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】例1における、熱処理前のC12A7結晶粉末試料(A)と、熱処理後の導電性C12A7結晶粉末試料(B)の、光吸収スペクトルを示すグラフである。
【図2】例5における、熱処理後の導電性C12A7結晶粉末試料(C)の、ESRシグナルを示すグラフである。
【図3】本発明の熱処理において、熱処理雰囲気中の許容される酸素分圧PO2(縦軸)を、熱処理温度(横軸)に対してプロットしたグラフである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明では、導電性マイエナイト型化合物を製造するための前駆体として、下記の(1)~(4)などを用いることができる。
(1)代表組成が12CaO・7Alである絶縁性マイエナイト型化合物、
(2)この結晶格子の骨格と骨格により形成されるケージ構造が保持される範囲で、骨格又はケージ中の陽イオン又は陰イオンの一部又はすべてが置換された同型化合物(以下、代表組成が12CaO・7Alである、絶縁性あるいは導電性のマイエナイト型化合物、その陽イオン又は陰イオンが置換された同型化合物を、単にC12A7化合物という)、
(3)前記C12A7化合物と同等の組成を有するガラス、
(4)前記C12A7化合物に相当する組成で混合された、マイエナイト型化合物以外の結晶構造を持つ混合酸化物、単成分の酸化物、炭酸化物及び水酸化物、などの粉末の混合物(以下単に、混合原料という)。
【0019】
前記C12A7化合物と同等の組成を有するガラスを前駆体として用いるときには、前記熱処理工程の前に、前駆体を950~1415℃に加熱する工程を施して、前駆体のガラス中にC12A7化合物を析出させた後に、前記熱処理をおこなうことが好ましい。あるいは、前記熱処理温度を950~1415℃として、熱処理工程において、ガラスからC12A7化合物を析出させるとともに、導電性マイエナイト型化合物を生成させてもよい。
【0020】
前記混合原料を前駆体として用いるときには、前記熱処理工程の前に、前駆体を1000~1415℃に加熱する工程を施して、混合粉末の固相反応によりC12A7化合物を生成させた後に、前記熱処理をおこなうことが好ましい。あるいは、前記熱処理温度を1000~1415℃として、熱処理工程において、固相反応により混合原料からC12A7化合物を生成させるとともに、導電性マイエナイト型化合物を生成させてもよい。
【0021】
前記酸素分圧下、600~1415℃の熱処理により、前駆体として用いたC12A7化合物、又はガラス質あるいは混合原料から生成されたC12A7化合物から、フリー酸素が引き抜きかれる反応が起きて導電性マイエナイト型化合物が生成される。次いで、表面近傍にフリー酸素イオンが輸送され、フリー酸素又は生成した電子が拡散されて、前駆体全体が導電性マイエナイト型化合物に変化される。
【0022】
前記混合原料としては、前記C12A7化合物を構成する単体元素の化合物、例えば炭酸カルシウム、酸化アルミニウムを、所定の組成比で混合して用いてもよい。また、CaとAlの比が例えば3:1や1:1のカルシウムアルミネート化合物(それぞれC3A化合物、CA化合物という)を用いてもよい。また、種々のCa/Al比のカルシウムアルミネート化合物同士、又はこれと同等組成のガラスを混合して用いてもよい。
【0023】
本発明で用いる前駆体は、CaとAlとを含有する。CaOとAlとは、マイエナイト型化合物を形成する主たる成分である。前記前駆体は、酸化物換算した、CaO:Alのモル比が12.6:6.4~11.7:7.3であり、好ましくは12.3:6.7~11.9:7.1である。また、CaOとAlとの合計が50モル%以上、好ましくは75~100モル%である。前駆体をこのような組成とすると、熱処理により生成される導電性マイエナイト型化合物の割合、すなわち収率を高めることができて好ましい。
【0024】
また、前記前駆体は本発明の効果を損なわない範囲で、Ca及びAl以外に他の元素を含有してもよく、例えばCaは、一部又はすべてをrと置換してもよい。
【0025】
すなわち、前記C12A7化合物として、具体的には、下記の(1)~(4)などのマイエナイト型化合物及び同型化合物が例示されるが、これらに限定されない。
(1)C12A7化合物の骨格の一部又はすべての陽イオンが置換されたストロンチウムアルミネートSr12Al1433や、CaとSrの混合比が任意に変化された混晶であるカルシウムストロンチウムアルミネートCa12-xSrAl1433
(2)シリコン置換型マイエナイトであるCa12Al10Si35
(3)ケージ中のフリー酸素がOH、F、S2-、Clなどの陰イオンによって置換された、たとえばCa12Al1432:2OH又はCa12Al1432:2F
(4)陽イオンと陰イオンがともに置換された、たとえばワダライトCa12Al10Si32:6Cl
【0026】
前記前駆体にSi、Ge又はBを含有させると、前記前駆体の溶融温度が下がって溶融が容易になって、融液を固化させるときにガラス化させて均質化させたり、成形したりできるようになる。そのため、所望の大きさ、形状のバルク体の導電性マイエナイト型化合物が得られるようになる。また、ガラス粉末の作製が容易になって好ましい。Si、Ge及びBは、いずれか1種以上を酸化物換算した合計で1.5モル%以上、好ましくは3~17モル%含有させると前述の効果が得られて好ましい。
また、Si又はGeは、生成された導電性マイエナイト型化合物中のAlの位置を置換させて含有させてもよく、この場合、ドーピング効果により該結晶に包接される電子密度を増大させる効果がある。ドーピング効果を得るためには、好ましくは6モル%以上とされる。Si、Ge又はBの含有量が過多では溶融温度が再び上昇する。また、Si又はGeの含有量が過多ではドーピング効果が得られなくなる。そのため、Si、Ge又はBの含有量は好ましくは17モル%以下とされる。
【0027】
Li、Na、Kは溶融温度を低下させる成分であって、いずれか1種以上を酸化物換算した合計で0~5モル%含有させることが好ましく、より好ましくは0~3モル%とする。5モル%超では導電性が低下する。
【0028】
Mg、Baは、溶融温度を低下させる成分であって、いずれか1種以上を酸化物換算した計で0~10モル%含有させることが好ましく、より好ましくは0~5モル%とする。5モル%超では導電性が低下する。
【0029】
また、前記原料物質は、不純物として、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選ばれる少なくとも一種の希土類元素、及び、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素あるいは典型金属元素、からなる群から選ばれるいずれか一種以上を酸化物換算した合計で0~8モル%、好ましくは1モル%以下を含有していてもよい。本発明で製造される導電性マイエナイト型化合物は、陽イオン、陰イオンの一部又は全部が置換されていたり、他の化合物等が添加されたり、不純物が含有されていたりしてもよい。前駆体は、石灰石、消石灰、生石灰、アルミナ、水酸化アルミナ、ボーキサイトなどの工業用原料や、アルミ残灰、ガラス、あるいは、天然に産出する鉱物である、マイエナイト型岩石等を用いることも可能である。
【0030】
本発明における熱処理は、フリー酸素イオンの引き抜き反応を進行させるために、熱処理温度Tが600~1415℃、好ましくは1200~1415℃で、かつ、酸素分圧PO2が、Pa単位で、

O2≦10×exp[{-7.9×10/(T+273)}+14.4](1)

で表される範囲である不活性ガス又は真空雰囲気中に前記前駆体を保持しておこなわれる。すなわち、横軸を熱処理温度、縦軸を熱処理雰囲気中の酸素分圧PO2として(1)式をプロットした図3のグラフにおいて、ハッチングをかけた領域の熱処理温度及び酸素分圧PO2の条件で熱処理がおこなわれる。
【0031】
上記の熱処理条件とすることにより、前駆体表面におけるフリー酸素の引き抜き反応が促進されるとともに、前駆体中でのフリー酸素の自己拡散係数が大きくなってフリー酸素イオンの輸送が促進され、前駆体全体を、導電性が良好な導電性マイエナイト型化合物とすることができる。
本発明では、フリー酸素を電子に置換することにより、マイエナイト型化合物に導電性を付与するが、この置換反応は、バルクから表面へのフリー酸素イオンの移動と、表面における、フリー酸素の引き抜き反応を経由する。マイエナイト型化合物の代表組成である、C12A7化合物について、次の酸化反応、Ca12Al14O32:2e-+1/2O2=Ca12Al14O32:O2--ΔGC12A7を仮定すれば、雰囲気の酸素分圧が、概略、PO2=(1/K)=exp(ΔGo/RT)以下のときは、K<1であって、表面での引き抜き反応が進行する。酸素分圧が前記の値を超えると、高温状態においては、導電性マイエナイト化合物が雰囲気中の酸素を取り込んで、ケージ中の電子がフリー酸素イオンに置換される反応が進行するため、作製されるマイエナイト型化合物の導電性が低下する。熱処理温度が1415℃を超えると前駆体が溶融するため好ましくない。1415℃以下とすると、融液を経由しないので、安価な装置での製造が可能になる。600℃未満では、フリー酸素の引き抜き反応の進行速度が遅くなって導電性マイエナイト型化合物の生成に長時間を要する。1200℃以上とすると、フリー酸素の引き抜き反応が促進されるとともに、前駆体中でのフリー酸素の自己拡散係数が著しく大きくなって、導電性マイエナイト型化合物生成に要する時間が短縮されるので好ましい。
【0033】
熱処理温度が600~1415℃であっても、熱処理雰囲気中の酸素分圧PO2が(1)式の右辺より大きいときには、所望の導電性マイエナイト型化合物は得られない。熱処理雰囲気中の酸素分圧は低ければ低いほど好ましいが、10-34Pa未満としても、得られる導電性マイエナイト型化合物の導電性の改善効果は薄く、またコスト増を招くおそれがある。
【0034】
前記前駆体は、粉状、塊状、板状、フレーク状、又は粉末のプレス体などのいずれの形態であってもよいが、粉末とすると、短時間の熱処理で良好な導電率の導電性マイエナイト型化合物が得られて好ましい。そのためには粉末の平均粒子径は1~100μmとすることが好ましい。また良好な導電性を得るためにはより好ましくは10μm以下である。平均粒子径が1μm以下では、熱処理により粉末が凝集するおそれがある。
【0035】
本発明における熱処理温度では、フリー酸素イオンの輸送が促進されるため、塊状や板状のガラス、粉末の成形体及び焼結体の前駆体を用いてもよく、板状又は塊状の導電性マイエナイト型化合物が得られる。また、C12A7化合物の板状の単結晶を用いてもよい。厚さが約1cmのガラスブロックを用いてもよい。
【0036】
この低酸素分圧雰囲気は、前記原料物質を、還元剤とともに閉じられた容器中に入れて、電気炉内に保持して、アルゴンガス、窒素ガス、又は、一酸化炭素ガスなどの、酸素ガスを含まないガスを通じたり、真空引きしたりして熱処理をおこなうと、残留あるいは混入した酸素ガスが還元剤と反応して低減されるため容易に実現可能であるが、これに限定されず他の方法を用いてもよい。
【0037】
還元剤としては、金属、金属間化合物、金属化合物、非金属、又は非金属化合物などを用いることができるが、金属又は炭素を用いると、容易に低い酸素分圧が実現されるので好ましい。特に、炭素は本発明の熱処理温度では融解しないので、使用が容易で好ましい。炭素で蓋付き容器などの密閉可能な容器を作成し、前駆体をこの容器内で熱処理すると、簡単な構成で前述の熱処理雰囲気を実現することができて好ましい。
【0038】
還元剤として炭素を用いる場合には、良好な導電性の導電性マイエナイト型化合物を得るために熱処理温度は900℃以上とすることが好ましい。また、還元剤としてアルミニウム又はチタンを用いると、低い酸素分圧の雰囲気が容易に実現されて導電性の優れた導電性マイエナイト型化合物が得られるため好ましい。
【0039】
還元剤としてAlを用いる場合に、雰囲気ガスとして窒素ガスを用いると、熱処理温度においてAlと窒素ガスが反応するため、好ましくない。すなわち、熱処理雰囲気は、用いる還元剤に応じて適宜選ぶことが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法を用いると、以上述べたように、導電性の良好な導電性マイエナイト化合物を、高価な設備、複雑な反応条件の制御を用いることなく、また、高温あるいは長時間の反応を要することなく、収率良く合成することができる。
【実施例】
【0041】
例1、例4、例5~8は実施例であって、例2、例3は比較例である。
【0042】
[例1]
酸化物換算したCaO:Alのモル比が12:7となるように炭酸カルシウムと酸化アルミニウムとを調合し、大気雰囲気下、1300℃で6時間保持したのち室温まで冷却して、得られた焼結物を粉砕して、粒子径50μmの粉末を得た。得られた粉末(以下粉末Aという)は白色の絶縁体であって、X線回折によるとマイエナイト型構造をもつC12A7化合物であった。
【0043】
粉末Aを蓋付きのカーボン容器に入れ、酸素濃度が10体積ppmの窒素ガス雰囲気とされた窒素フロー炉中で1300℃まで昇温させ2時間保持する熱処理をおこなった。熱処理中の容器内の雰囲気は、容器のカーボンによる酸素の吸収により酸素分圧PO2は10-12Paであって、前述の(1)式の関係を満足する。
【0044】
得られた粉末(以下粉末Bという)は濃緑色を呈し、X線回折測定によりマイエナイト型構造のピークをもつことが確認された。また、熱処理前の絶縁性のC12A7結晶粉末試料(A)と、熱処理後の結晶粉末試料(B)の、光拡散反射スペクトルを測定し、クベルカムンク法により変換して得られた光吸収スペクトルを、図1のグラフに示す。これより粉末Bでは、導電性マイエナイト型化合物に特有な2.8eVを中心とする強い光吸収バンドが誘起されていることが確認され、この光吸収の強度から、電子密度が1.6×1020/cmで、van der Pauwの方法により、1S/cm超の電気伝導率を有することがわかった。以上により、導電性マイエナイト型化合物粉末が得られたことが確認された。
【0045】
[例2~4]
熱処理温度を1000℃、1100℃、及び1200℃とした以外は例1と同様に、カーボンによる酸素の吸収により低酸素分圧に保たれた雰囲気中で、結晶粉末試料(A)を熱処理して、それぞれ例2~4の熱処理物を得た。熱処理時の酸素分圧PO2は、例2、3ではそれぞれ10-14Pa、10-13.5Paで、(1)式の関係を満足しなかった。例4では10-13Paであって、(1)式の関係を満足した。
【0046】
得られた試料は全て、X線回折によりマイエナイト型構造のピークを持つことが確認された。1000℃及び1100℃で熱処理をおこなった試料は白色で、キャリア密度がそれぞれ1.4×1017/cm、8.7×1017/cmで絶縁性であった。1200℃で熱処理をおこなった試料はフリー酸素の引抜きが起きて薄い緑色を呈し、キャリア密度は7.3×1018/cmと導電性であった。
【0047】
[例5]
粉末Aをプレス成形して、縦×横×高さが約2cm×2cm×1cmの成型体とし、金属アルミニウムと一緒に蓋付きアルミナ容器に入れ、ロータリーポンプで真空引きした真空炉中で1300℃まで昇温させ10時間保持する熱処理をおこなった。熱処理中の容器内は、容器に一緒に入れたアルミニウムによる酸素の吸収により酸素分圧が10-21Paと低酸素分圧であり、(1)式を満足する条件の雰囲気であった。
【0048】
得られた熱処理物(結晶粉末試料(C))は黒茶色を呈し、X線回折測定によりマイエナイト型構造のピークをもつことが確認された。また、光吸収スペクトルから、電子密度が1.4×1021/cmで、van der Pauwの方法により120S/cmの電気伝導率を有することがわかった。また、図2に示すように、得られた熱処理物のESRシグナルは、1021/cm超の高い電子濃度の導電性マイエナイト型化合物に特徴的な、g値1.994を有する非対称形であることがわかった。以上により、導電性マイエナイト型化合物が得られたことが確認された。
【0049】
[例6]
アーク放電溶融法により、(59.69CaO-32.21Al-5.01SiO-0.33Fe-1.79TiO-0.96MgO)なる組成の1cm角の立方体形状のバルクガラスを作製した。これを前駆体として、例1と同様にして(1)式を満足する条件下で熱処理をおこなった。熱処理後の試料は緑色で、X線回折によりマイエナイト型構造のピークを持つことが確認された。光吸収スペクトルより求めたキャリア密度は2.5×1019/cmであり、導電性を有していた。以上により、導電性マイエナイト型化合物が得られたことが確認された。
【0050】
[例7、8]
帯域溶融法により作製したC12A7単結晶体を加工して、厚み0.5mm、1cm角の板状試料を2枚作成した。それぞれの板状のC12A7単結晶体を、金属Tiと一緒にシリカガラス管に入れ、ロータリーポンプで真空引きしたのち封止して、電気炉中で、それぞれ700℃で12時間、1000℃で120時間保持する熱処理をおこなった。熱処理中の容器内の雰囲気は、容器に一緒に入れた金属Tiによる酸素の吸収により、酸素分圧が、700℃においては10-33Pa、1000℃においては10-22Paの低酸素分圧であり、ともに(1)式の関係を満足する。
【0051】
得られた熱処理物は黒茶色を呈し、X線回折測定によりマイエナイト型構造のピークをもつことが確認された。van der Pauwの方法、光拡散散乱スペクトル測定により、700℃保持試料の電気伝導率は2S/cm、電子密度は3.8×1019/cm、1000℃保持試料の電気伝導率は930S/cm、電子密度は1.6×1021/cmであることがわかった。以上により、導電性マイエナイト型化合物が得られたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、高価な設備を用いることなく、また迅速に、低コストなプロセスで、導電性マイエナイト型化合物を製造することができる。また、還元剤として炭素を用いると、炭素は製品中に混入しにくいため、高純度の導電性マイエナイト型化合物が得られ、精製の過程が不要となる。
【0053】
また、原料として、C12A7又はS12A7結晶化合物を合成して用いる必要がなく、安価な、石灰石、消石灰、生石灰、アルミナ、水酸化アルミナ、ボーキサイト、アルミ残灰、ガラス体などや、天然に産出するマイエナイト型岩石を用いて、収率良く導電性マイエナイト型化合物が作製できるため、産業上有利である。
【0054】
また、導電性マイエナイト型化合物は、電界効果型の電子放出材料として用いることができるので、本発明の製造方法で製造された導電性マイエナイト型化合物を用いると、小型の電子放出装置、表示装置、あるいはX線源が実現される。また、電極材料としては、有機ELデバイスにおける電荷注入材料のように、特殊な接合特性が要求される導電体として利用できる。

なお、2005年5月30日に出願された日本特許出願2005-157882号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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