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明細書 :導電性マイエナイト型化合物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4495757号 (P4495757)
登録日 平成22年4月16日(2010.4.16)
発行日 平成22年7月7日(2010.7.7)
発明の名称または考案の名称 導電性マイエナイト型化合物の製造方法
国際特許分類 C01F   7/16        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
H01B   1/08        (2006.01)
FI C01F 7/16
H01B 13/00 Z
H01B 1/08
請求項の数または発明の数 8
全頁数 12
出願番号 特願2007-519015 (P2007-519015)
出願日 平成18年5月30日(2006.5.30)
国際出願番号 PCT/JP2006/310808
国際公開番号 WO2006/129675
国際公開日 平成18年12月7日(2006.12.7)
優先権出願番号 2005157881
優先日 平成17年5月30日(2005.5.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年1月21日(2009.1.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】林 克郎
【氏名】金 聖雄
【氏名】平野 正浩
【氏名】鳴島 暁
【氏名】伊東 節郎
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100080159、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 望稔
【識別番号】100090217、【弁理士】、【氏名又は名称】三和 晴子
審査官 【審査官】大工原 大二
参考文献・文献 国際公開第03/033406(WO,A1)
特開2004-026608(JP,A)
国際公開第01/079115(WO,A1)
調査した分野 C01F 1/00-17/00
H01B 1/00-1/24
特許請求の範囲 【請求項1】
前駆体を熱処理する工程を備えた導電性マイエナイト型化合物の製造方法であって、
前記前駆体は、Ca及び/またはSrと、Alとを含有し、酸化物換算した、(CaOとSrOの合計:Al)のモル比が(12.6:6.4)~(11.7:7.3)であり、CaO、SrOおよびAlの合計の前記前駆体中の含有率が50モル%以上であり、ガラス質または結晶質であり、かつ該前駆体と還元剤とを混合して、この混合物を、酸素分圧10Pa以下の不活性ガスまたは真空雰囲気中で600~1415℃に保持する熱処理をおこなう工程を含むことを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体が、12CaO・7Alなる代表組成を有し三次元的に連結された空隙(ケージ)から構成される結晶構造を持つマイエナイト型化合物、またはマイエナイト型化合物のCaおよびAlの一部またはすべてが他の元素で置換された同型化合物である請求項1に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体が含有するAlの一部が、iまたはGeで置換されている請求項1または2に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体が、Si、Ge及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~17モル%;Li、Na及びKからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~5モル%;Mg及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~10モル%;(Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素)及び(T、i、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素または典型金属元素)からなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~8モル%;を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体および前記還元剤が、平均粒子径が100μm以下の粉末である請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項6】
前記還元剤粉末は炭素からなる粉末であって、前記前駆体粉末と、前記前駆体粉末中のCa、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比が0.2~11%となる量の炭素粉末を混合し、この混合物を熱処理する請求項5に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項7】
前記還元剤粉末が金属からなる粉末である請求項5に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項8】
前記金属がアルミニウムであり、不活性ガスが少なくともArまたはHeを含む請求項7に記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性マイエナイト型化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイエナイト型化合物は12CaO・7Al(以下C12A7と記す)なる代表組成を有し、三次元的に連結された、直径約0.4nmの空隙(ケージ)から構成される特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため、酸素イオンによって占められているが、この酸素イオンは、骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を持つことから、とくに、フリー酸素イオンと呼ばれている。前記のことから、C12A7結晶は、[Ca24Al28644+・2O2-と表記される(非特許文献1)。
【0003】
また、マイエナイト型化合物としては、12SrO・7Al(以下S12A7と記す)が知られており、任意のCaとSrの混合比を持つ、C12A7とS12A7の混晶化合物も存在する(非特許文献2)。
【0004】
細野らは、C12A7結晶の粉末あるいはその焼結体を、H雰囲気中で熱処理してケージの中にHイオンを包接させ、次いで、紫外光を照射することにより、ケージ中に電子を包接させて、永続的な導電性を室温で誘起できることを見いだした(特許文献1)。この包接された電子はケージに緩く束縛されていて、結晶中を自由に動くことができるので、マイエナイト型化合物のC12A7結晶に導電性が付与される。しかしながらこの方法で得られる導電性マイエナイト型化合物は、十分な量の電子を包接させることができないため、導電性が十分でない。
【0005】
細野らは、また、C12A7単結晶を、アルカリ金属蒸気を用いて還元処理すると、ケージ中のフリー酸素イオンを電子で置き換えて、単結晶の導電性マイエナイト型化合物を作製できることを見いだした(特許文献1)。しかしながらこの方法では、単結晶の作製と、カルシウムによる還元処理に長時間を要するため、工業的に用いるのは困難である。
【0006】
従来、一般的なガラスの作製法である溶融急冷法によって、C12A7組成をもつガラスが得られることが知られていて(非特許文献3)、該ガラスを再加熱して結晶化させると、マイエナイト型化合物のC12A7が生成することが知られていた。Liらは、空気中での溶融急冷によって得られたC12A7ガラスの再結晶化に必要な温度は、940~1040℃であり、また、生成する主な結晶相がマイエナイト型化合物のC12A7結晶であり、副生成物としてCaAl結晶が得られることを報告している(非特許文献4)。しかしながらこのようにして得られたマイエナイト型化合物はケージ中にフリー酸素を有する絶縁体であった
細野らは、C12A7結晶をカーボン坩堝中で溶解して作製した透明なガラスを、酸素分圧が10-11Paと極めて低い雰囲気中1600℃で1時間または真空中1000℃で30分間再加熱処理して結晶化させることにより、導電性マイエナイト型化合物が生成することを見出した(非特許文献5)。しかしながら、再加熱処理に、上記した如く、ガラスを再溶融するための高温度かつ極低酸素分圧の雰囲気、あるいは真空、を要するため、この方法を用いて工業的に安価で大量に生産するのは困難であった。
【0007】

【特許文献1】WO2005-000741号公報
【非特許文献1】F.M.Lea and C.H.Desch,The Chemistry of Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold & Co.,London,1956.
【非特許文献2】O.Yamaguchi,A.Narai,K.Shimizu,J.Am.Ceram.Soc.1986,69,C36.
【非特許文献3】今岡稔、ガラスハンドブック(昨花、高橋、境野編)、朝倉書店、880頁(1975)
【非特許文献4】W.Li,B.S.Mitchell,J.Non-Cryst.Sol.1999,255(2,3),199.
【非特許文献5】S.W.Kim,M.Miyakawa,K.Hayashi,T.Sakai,M.Hirano,and H.Hosono,J.Am.Chem.Soc.,http://pubs.acs.org/journals/jacsat/,Web Release Date:15-Jan-2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術が有する前述の欠点を解消することにある。すなわち従来技術では、導電性マイエナイトを製造するためには、高価な設備、複雑な反応条件の制御や、高温あるいは長時間の反応を要していた。そのため、良好な特性をもつ導電性マイエナイト型化合物を、安定してかつ低コストで製造することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前述の課題を解決するために鋭意検討し、下記を要旨とする本発明を完成した。
(1)前駆体を熱処理する工程を備えた導電性マイエナイト型化合物の製造方法であって、前記前駆体は、Ca及び/またはSrと、Alとを含有し、酸化物換算した、(CaO:SrOの合計):Alのモル比が(12.6:6.4)~(11.7:7.3)であり、CaO、SrOおよびAlの合計の前記前駆体中の含有率が50モル%以上であり、ガラス質または結晶質であり、前記前駆体と還元剤とを混合して、この混合物を、酸素分圧10Pa以下の不活性ガスまたは真空雰囲気中で600~1415℃に保持する熱処理をおこなう工程を含むことを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【0010】
(2)前記前駆体が、12CaO・7Alなる代表組成を有し三次元的に連結された空隙(ケージ)から構成される結晶構造を持つマイエナイト型化合物、またはマイエナイト型化合物のCaおよびAlの一部またはすべてが他の元素で置換された同型化合物である上記(1)に記載の製造方法。
【0011】
(3)前記前駆体が含有するAlの一部が、iまたはGeで置換されている上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)前記前駆体が、Si、Ge及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~17モル%;Li、Na、Kからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~5モル%;Mg、Baからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~10モル%;(Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素)及び(Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuからなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素、または典型金属元素)からなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算した合計で0~8モル%;を含有する上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0012】
(5)前記前駆体および前記還元剤が、平均粒子径が100μm以下の粉末である上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0013】
(6)前記還元剤粉末が炭素からなる粉末であって、前記前駆体粉末と、前記前駆体粉末中のCa、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比が0.2~11%となる量の炭素粉末を混合し、この混合物を熱処理する上記(5)に記載の製造方法。
【0014】
(7)前記還元剤粉末が、金属からなる粉末である上記(5)に記載の製造方法。
(8)前記金属がアルミニウムであり、不活性ガスが少なくともArまたはHeを含んでなる上記(7)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、良好な導電性を有する導電性マイエナイト型化合物を、高価な設備や、複雑な制御を要することなく、収率良く製造することが可能であり、安価で大量に製造することができる。また、バルク状、粉状、膜状の導電性マイエナイト型化合物を安価に得ることができる。1415℃以下とすると、融液を経由しないので、安価な装置での製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】例1における、C12A7粉末の熱処理前の成型体試料(A)及び熱処理後の成型体試料(B)の光吸収スペクトルを示すグラフである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、導電性マイエナイト型化合物を製造するための前駆体として、下記の(1)~(4)等を用いることができる。
(1)代表組成が12CaO・7Alである絶縁性マイエナイト型化合物、
(2)上記絶縁性マイエナイト型化合物の結晶格子の骨格と骨格により形成されるケージ構造が保持される範囲で、骨格またはケージ中の陽イオンまたは陰イオンの一部またはすべてが置換された同型化合物(以下、代表組成が12CaO・7Alである、絶縁性あるいは導電性のマイエナイト型化合物、その陽イオンまたは陰イオンが置換された同型化合物を、単にC12A7化合物という)、
(3)前記C12A7化合物と同等の組成を有するガラス、
(4)前記C12A7化合物に相当する組成で混合された、酸化物、炭酸化物、水酸化物などの粉末の混合物(以下単に、混合原料という)。
【0018】
前記C12A7化合物として、具体的には、下記の(1)~(4)などのマイエナイト型化合物および同型化合物が例示されるが、これらに限定されない。
(1)C12A7化合物の骨格の一部またはすべての陽イオンが置換されたストロンチウムアルミネートSr12Al1433や、CaとSrの混合比が任意に変化された混晶であるカルシウムストロンチウムアルミネートCa12-xSrAl1433
(2)シリコン置換型マイエナイトであるCa12Al10Si35
(3)ケージ中のフリー酸素がOH、F、S2-、Clなどの陰イオンによって置換された、たとえばCa12Al1432:2OHまたはCa12Al1432:2F
(4)陽イオンと陰イオンがともに置換された、たとえばワダライトCa12Al10Si32:6Cl
【0019】
前記混合原料としては、前記C12A7化合物を構成する単体元素の化合物、例えば炭酸カルシウム、酸化アルミニウムを、所定の組成比で混合して用いてもよく、また、種々のCaとAlの比をもつカルシウムアルミネート化合物(以下、CaOとAlの比が3:1、1:1の該化合物をそれぞれC3A化合物、CA化合物という)、これらと同等組成のガラス、およびこれらの混合物を用いてもよい。
【0020】
すなわち、本発明で用いる前記前駆体は、Ca及び/またはSrとAlとを含有し、酸化物換算した(CaOとSrO)のモル数の合計:Alのモル数との比が(12.6:6.4)~(11.7:7.3)であり、好ましくは(12.3:6.7)~(11.9:7.9)である。また、CaO、SrOおよびAlの合計の前駆体中の含有率が50モル%以上、好ましくは75~100モル%の範囲である。前駆体をこのような組成とすると、熱処理により生成される導電性マイエナイト型化合物の割合、すなわち収率を高めることができるので好ましい。
【0021】
また、前記前駆体は、Ca、Srと、Al以外に、本発明の効果を損なわない範囲で他の元素を含有してもよい。
Si、Ge及び/またはBを含有させると、前記前駆体の溶融温度が下がって溶融が容易になり、融液を固化させるときにガラス化させて均質化させたり、成形したりできるようになる。そのため、所望の大きさ、形状のバルク体の導電性マイエナイト型化合物が得られるようになる。また、ガラス粉末の作製が容易になって好ましい。Si、Ge及びBは、それらのいずれか1種以上を酸化物換算した合計のモル濃度で、前記前駆体中に1.5モル%以上、好ましくは3~19モル%の範囲で含有させると前述の効果が得られて好ましい。また、SiまたはGeは、生成する導電性マイエナイト型化合物中のAlの位置に置換させ含有させてもよく、この場合、ドーピング効果により該化合物に包接される電子密度を増大させる効果がある。ドーピング効果を得るためには、3~17モル%の範囲内で前記前駆体中に含有させることが好ましく、より好ましくは5~10モル%の範囲である。Si、Ge及び/またはBの含有量が17モル%超では溶融温度が再び上昇したり、SiまたはGeのドーピング効果が得られなくなるおそれがある。そのため、Si、Ge及び/またはBの含有量は19モル%以下が好ましい。
【0022】
Li、Na、Kは溶融温度を低下させる成分であって、いずれか1種以上を酸化物換算した合計で0~5モル%の範囲内で含有させることが好ましく、より好ましくは0~3モル%である。5モル%超では導電性が低下するので好ましくない。
【0023】
Mg、Baは、溶融温度を低下させる成分であって、いずれか1種以上を酸化物換算した合計で0~10モル%の範囲内で含有させることが好ましく、より好ましくは0~5モル%である。5モル%超では導電性が低下するので好ましくない。
【0024】
また、前記原料物質は、不純物として、(Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbからなる群から選ばれる少なくとも一種以上の希土類元素)及び(Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種以上の遷移金属元素または典型金属元素)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を酸化物換算した合計で0~8モル%含有していてもよく、好ましくは1モル%以下である。すなわち、本発明における前駆体を作製するための原料としては、高純度の試薬を調合する等して用いてもよいが、カルシウムアルミネートの原料となる石灰石、消石灰、生石灰、アルミナ、水酸化アルミナ、ボーキサイトなどの工業用原料や、アルミ残灰、ガラス、あるいは、天然に産出する鉱物である、マイエナイト型岩石等を用いることも可能である。
【0025】
本発明においては、前述の組成をもつ前駆体と還元剤粉末とを混合し、この混合物に対して、酸素分圧10Pa以下の雰囲気中、600~1415℃の範囲内に保持する熱処理を施すことにより、導電性マイエナイト型化合物を製造する。前駆体として絶縁性のC12A7結晶化合物を用いる場合は、前記熱処理により、還元剤と固相反応して、C12A7化合物表面からフリー酸素が引き抜きかれるとともに、前駆体内部から表面近傍にフリー酸素イオンが輸送される。これに伴い、表面近傍でフリー酸素が拡散され、また生成した電子が前駆体内部に拡散される。以上により、前駆体全体が、導電性マイエナイト型化合物に変化される。
【0026】
前駆体として、C12A7化合物に相当する組成をもつ前記混合原料を用いて、この前駆体と還元剤とを混合し、この混合物を熱処理して、導電性マイエナイト型化合物を製造する場合には、熱処理により、まず、混合原料間の固相反応によりC12A7化合物が生成し、次いで、還元剤との固相反応により、C12A7化合物からフリー酸素が引き抜きかれる反応が起きて、導電性マイエナイト型化合物が生成される。とくに炭酸カルシウムと酸化アルミニウムとを混合した混合原料を用いる場合は、C12A7化合物を生成させる反応を充分におこなわせるために、いったん混合原料を1000℃以上に加熱して前駆体のガラス中にC12A7化合物を析出させた後、前記熱処理をおこなうことが好ましい。または、C12A7化合物の生成反応と、還元剤によるフリー酸素の引き抜き反応を同時に行うには、前記熱処理における加熱温度を1000~1415℃とすることが好ましい。
【0027】
前駆体として、C12A7化合物と同等組成のガラスを用いたときは、いったん950℃以上に加熱して混合物に含有される前駆体のガラス中にC12A7化合物を析出させた後、前記熱処理をおこなうことが好ましい。または、前記熱処理における加熱温度を950~1415℃とすることが好ましい。
【0028】
熱処理温度は600℃未満では、フリー酸素の引き抜き反応の反応速度やフリー酸素の拡散が遅くなって導電性マイエナイト型化合物の生成に長時間を要する。1200℃以上とすると、フリー酸素の引き抜き反応が促進されるとともに、前駆体中でのフリー酸素の自己拡散係数が著しく大きくなって、導電性マイエナイト型化合物生成に要する時間が短縮されるので好ましい。熱処理温度が1415℃を超えると前駆体が溶融するため好ましくない。1415℃以下とすると、融液を経由しないので、安価な装置での製造が可能になる。
【0029】
本発明の製造方法における熱処理温度は、フリー酸素イオンの輸送を促進するため、拡散によって前駆体全体を導電性マイエナイト型化合物に変化させることができるので、前駆体は、粉状、塊状、板状、フレーク状、粉末のプレス体、成形した粉末の焼結体、または、塊状、板状などのいずれの形態であってもよい。C12A7化合物の板状の単結晶を用いてもよい。厚さが約1cmのガラスブロックを用いてもよい。
【0030】
とくに、粉末とすると、短時間の熱処理で良好な導電率の導電性マイエナイト型化合物が得られて好ましい。そのためには粉末の平均粒子径は1~100μmの範囲内にあることが好ましく、また良好な導電性を得るためにより好ましくは10μm以下である。平均粒子径が1μm以下では、熱処理により粉末が凝集するおそれがある。粒子径が100μm以上の前駆体粒子が混入しても、導電性マイエナイト型化合物が得られるが、還元剤粉末と混合するときに不均一な混合状態となって、とくに熱処理時間が短い場合に得られる導電性が不均一となるおそれがある。
【0031】
塊状や板状のガラス、粉末の成形体および焼結体の前駆体を用いる場合は、前駆体の表面に還元剤粉末を接触させて熱処理をおこなってもよく、前駆体中でのフリー酸素の拡散により前駆体全体を導電性マイエナイト型化合物に変化させることができ、板状または塊状の導電性マイエナイト型化合物が得られる。
【0032】
本発明の導電性マイエナイト型化合物の製造方法で用いられる還元剤としては、金属、金属間化合物、金属化合物、典型元素、または典型元素化合物が好ましく用いられる。さらに、還元剤がこれらの材料からなる粉末状である場合には、とくに前駆体として、粉末状とした前駆体を用いる際に、短時間の熱処理で良好な導電率の導電性マイエナイト型化合物が得られて好ましい。還元剤粉末は、平均粒子径を100μm以下とすることにより、前駆体粉末と均一な混合が容易になり、導電性がより優れた導電性マイエナイト型化合物が得られるので好ましい。さらに、平均粒子径を50μm以下とすると、より均一な混合が可能となりさらに好ましい。
【0033】
前記典型元素としては炭素が例示される。炭素は前記前駆体を還元すると気体となって前記前駆体から抜けて製品中に混入しにくいため、高純度の導電性マイエナイト型化合物が得られるので、好ましく用いられる。炭素としては、無定形炭素、黒鉛、ダイアモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、あるいはこれらの混合物を用いることができる。還元剤として混合する炭素の割合は、Ca、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比で0.2~11%とすることが好ましい。より好ましくは1.9~7.6%である。1.9%未満では不均一な還元が起きるおそれがある。7.6%超では局部的にマイエナイト型化合物が分解するおそれがある。炭素を用いる場合には、良好な導電性の導電性マイエナイト型化合物を得るために熱処理温度は900℃以上とすることが好ましい。
【0034】
前記金属としては、Al、Tiが、炭素よりも還元性が高く容易に低酸素分圧を実現することができるとともに、入手が容易で低コストなため好ましく例示されるが、これらに限定されない。とくに還元剤としてAlを用いる場合は、前駆体中に含有させるAlの量を、還元剤として加えるAlと同じ原子数だけ減じて、前駆体と還元剤の混合物の組成が、前述の前駆体の組成の範囲内となるようにすることが好ましい。還元剤として用いるAlの好ましい割合は、前駆体中に含有させるCa、SrおよびAlの合計原子数に対する還元剤として用いるAlの原子数の比で0.65~7.4%である。1.3%未満では不均一な還元が起きるおそれがあり、また5.1%超では局部的にマイエナイト型化合物が分解するおそれがあるため、1.3~5.1%とすることがより好ましい。上記の、前駆体中に含有させるAlの量を、還元剤として用いるAlと同じ原子数だけ減じる方法としては、C12A7化合物の結晶粉末と生石灰などの混合物を前駆体として、該前駆体に還元剤として用いるAlを加えることによってもよいが、カルシウムアルミネート化合物またはアルミナの混合物を前駆体として、該前駆体と還元剤として用いるAlを、目的の組成になるように混合すると、混合原料が、生石灰、消石灰などの吸湿性材料を含まないことから、取り扱いが容易で、工業上有利である。前記のことから、前駆体と還元剤として用いるAlから成る混合原料の作製方法としては、C12A7化合物、C3A化合物、および還元剤として用いる金属アルミニウムを、モル比で、4:2:3の割合で調合することが例示される。あるいは、C3A、Al、Alを、モル比で、6:4:1の割合で調合することが例示されるが、これらに限定されない。前記の混合原料を、プレス機などを用いて成型体とすると、フリー酸素の引き抜き反応が促進されるため、好ましい。
【0035】
前記熱処理をおこなう雰囲気は、酸素分圧が10Pa以下とする。酸素分圧が10Paを超えると、熱処理中にフリー酸素の引き抜き反応を充分におこなわせることができないため、得られる導電性マイエナイト型化合物の導電率が低下する。10-2Pa以下とすると前述の熱処理温度においてフリー酸素の引き抜き反応がさらに促進され、より良好な導電性をもつ導電性マイエナイト型化合物が得られて好ましい。また、酸素分圧を10-11Pa未満では、得られる導電性マイエナイト型化合物の導電性改善の効果が小さくなる。また、10-9Pa以上とすると、低酸素分圧での熱処理をおこなうための高価な設備や雰囲気ガスの脱酸素処理が不要になってより好ましい。
【0036】
この熱処理雰囲気は、熱処理炉内にアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス、及び一酸化炭素ガスなどからなる群から選ばれる1種乃至複数の、酸素分子を含まないガスを通じることにより実現できる。また、真空炉を用いて真空度を50Pa以下とすることにより実現できる。前駆体と混合する還元剤として、金属、とくにアルミニウムを用いる場合は、熱処理をおこなう雰囲気を窒素ガス以外とすることが好ましく、前述の真空下とすることが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法を用いると、導電性の良好な導電性マイエナイト化合物を、高価な設備、複雑な反応条件の制御を用いることなく、また、高温あるいは長時間の反応を要することなく、収率良く合成することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。例1~3、例5~13、例15は実施例であって例4、例14は比較例である。
【0039】
「例1」
炭酸カルシウムと酸化アルミニウムとを、酸化物換算のモル比で12:7となるように調合して、大気雰囲気下、1300℃で6時間保持したのち室温まで冷却し、得られた焼結物を粉砕して平均粒子径が50μmの粉末を得た。得られた粉末(以下粉末Aという)は白色の絶縁体であって、X線回折によるとマイエナイト型構造をもつC12A7化合物であった。
【0040】
粉末Aの100質量部に対して0.4質量部の炭素粉末(平均粒子径:10μm)を混合した混合粉末を、200kg/cmの圧力でプレス成型して直径3cm、高さ3cmの成型体(試料A)とした。この成型体中のCa、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比は1.9%である。この成型体を蓋付きカーボン容器に入れ、酸素濃度0.6体積%の窒素ガス雰囲気の窒素フロー炉中で、1300℃まで昇温させ2時間保持する熱処理を施した。
【0041】
熱処理後の成型体(試料B)は濃緑色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物と同定された。光拡散反射スペクトルを測定し、クベルカムンク法により変換して得られた、光吸収スペクトルを図1に示す。この光吸収スペクトルから、導電性マイエナイト型化合物に特有な2.8eVを中心とする強い光吸収バンドが誘起されていることが確認され、また、この光吸収の強度から試料Bの電子密度は1.5×1020/cmで、1S/cm超の電気伝導率を有することがわかった。以上により、導電性マイエナイト型化合物が得られたことが確認された。
【0042】
[例2、3]
100質量部の粉末Aに対してそれぞれ0.8、1.6質量部の炭素粉末(平均粒子径:10μm)を混合し、この混合粉末に対して、蓋付きカーボン容器中で例1と同様の熱処理をおこなった。この混合粉末中のCa、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比はそれぞれ3.8%、7.6%であった。熱処理後の粉末は濃緑色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物と同定された。光拡散反射測定により求めた電子密度は1.3×1020/cm、7.6×1019/cmであった。
【0043】
[例4]
100質量部の粉末Aに対して4.0質量部の炭素粉末(平均粒子径:10μm)を混合し、この混合粉末に対して蓋付きカーボン容器中で例1と同様の熱処理をおこなった。この混合粉末中のCa、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比はそれぞれ19.4%である。熱処理後の粉末は白色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物は検出されずCaO-AlとCaO-3Alの混合物と同定された。光拡散反射測定により求めた電子密度は1019/cm以下であった。
【0044】
[例5~7]
炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの粉末を常法に従い調合し空気中1300℃で溶融し、双ローラを用いて冷却して、CaOとAlとのモル比が12:7であるC12A7組成のカルシウムアルミネートガラスのガラスフレークを作製した。得られたガラスフレークを粉砕して得られた平均粒子径が100μmのガラス粉末(以下粉末Bという)100質量部に対して、それぞれ0.4、0.8、1.6質量部の炭素粉末(平均粒子径:10μm)を混合し、この混合粉末を、蓋付きアルミナ容器を用いた以外は例1と同様の熱処理をおこなった。この混合粉末中のCa、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比はそれぞれ1.9%、3.8%、7.6%である。熱処理後の粉末は濃緑色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物と同定された。また、光拡散反射測定により求めた電子密度は3.4×1019/cm、1.5×1020/cm、4.6×1019/cmであった。以上により、カルシウムアルミネートガラス粉末を開始原料として導電性マイエナイト型化合物が得られたことがわかった。
【0045】
[例8]
炭酸カルシウム、酸化アルミニウムおよび二酸化珪素粉末を常法に従い調合し空気中1300℃で溶融し、双ローラを用いて冷却して、CaOとAlとSiOとのモル比が12:7:1であるC12A7の95モル%及びSiOの5モル%からなる組成のカルシウムアルミネートガラスのガラスフレークを作製した。得られたガラスフレークを粉砕して得られた平均粒子径100μmのガラス粉末の100質量部に対して、0.8質量部の炭素粉末(平均粒子径:10μm)を混合した。この混合粉末に対して、熱処理温度を960℃とした以外は例5~7と同様の、蓋付きアルミナ容器を用いた熱処理をおこなった。この混合粉末中のCa、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比は3.6%である。熱処理後の粉末は濃緑色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物と同定され、また、光拡散反射測定により求めた電子密度は1.1×1019/cmで、導電性マイエナイト型化合物が得られたことがわかった。
【0046】
[例9]
100質量部の粉末Aに対して0.8質量部の炭素粉末(平均粒子径:10μm)を混合した混合粉末に対して、例5~7と同様の熱処理をおこなった。この混合粉末中のCa、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比は3.8%である。熱処理後の粉末は暗緑色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物と同定された。また光拡散反射測定により求めた電子密度は9.2×1019/cmで、導電性マイエナイト型化合物が得られたことが確認された。
【0047】
[例10]
例9と同様に、100質量部の粉末Aに対して0.8質量部の炭素粉末(平均粒子径:10μm)を混合した混合粉末に対して、熱処理温度を1200℃に変えた以外は例5~7と同様の熱処理をおこなった。熱処理後の粉末は暗緑色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物と同定され、電子密度は2.2×1019/cmで、導電性マイエナイト型化合物が得られたことが確認された。
【0048】
[例11~13]
100質量部の粉末Bに対し、それぞれ0.4、0.8、1.6質量部の炭素粉末(Ca、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比はそれぞれ1.9%、3.8%、7.6%、平均粒子径:10μm)を混合し、この混合粉末に対して、例5~7と同様の熱処理をおこなった。
【0049】
熱処理後の粉末は暗緑色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物と同定され、光拡散反射測定により求めた電子密度は、それぞれ3.4×1019/cm、1.5×1020/cm、4.6×1019/cmで、導電性マイエナイト型化合物が得られたことが確認された。
【0050】
[例14]
炭素粉末を添加しない粉末Aに対して、例5~7と同様の熱処理をおこなった。熱処理後の粉末は白色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物と同定されたが、光拡散反射測定により求めた電子密度は1017/cm以下で絶縁性であった。
【0051】
[例15]
100質量部の粉末Aに対して1.3質量部の金属Al粉末(平均粒子径:約50μm)を混合した混合粉末を、例1と同様にプレス成型した成型体を、カーボン容器に入れ、蓋をせずに、ロータリーポンプで真空引きした真空炉中で1300℃まで昇温させ2時間保持する熱処理を施した。熱処理時の真空度は1Paである。この成型体中のCa、SrおよびAlの合計原子数に対する金属アルミニウム原子数の比は2.6%である。
【0052】
熱処理後の成型体は黒茶色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物と同定された。また、光拡散反射スペクトルから、電子密度は1.3×1021/cmで、83S/cmの電気伝導率を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、高価な設備を用いることなく、また迅速で、低コストなプロセスで、導電性マイエナイト型化合物を製造することができるため、産業上有用である。また、本発明の製造方法で製造された導電性マイエナイト型化合物は、小型の電子放出装置、表示装置、あるいはX線源に、さらにまた、有機ELデバイスにおける電荷注入材料のような、特殊な接合特性が要求される導電体等に利用できる。

なお、2005年5月30日に出願された日本特許出願2005-157881号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図面
【図1】
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