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明細書 :アンモニア合成触媒及びアンモニア合成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5820817号 (P5820817)
登録日 平成27年10月9日(2015.10.9)
発行日 平成27年11月24日(2015.11.24)
発明の名称または考案の名称 アンモニア合成触媒及びアンモニア合成方法
国際特許分類 B01J  23/58        (2006.01)
B01J  23/78        (2006.01)
C01C   1/04        (2006.01)
FI B01J 23/58 M
B01J 23/78 M
C01C 1/04 E
請求項の数または発明の数 7
全頁数 17
出願番号 特願2012-547860 (P2012-547860)
出願日 平成23年12月6日(2011.12.6)
国際出願番号 PCT/JP2011/078132
国際公開番号 WO2012/077658
国際公開日 平成24年6月14日(2012.6.14)
優先権出願番号 2010272976
優先日 平成22年12月7日(2010.12.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年10月27日(2014.10.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】原 亨和
【氏名】北野 政明
【氏名】金 聖雄
【氏名】松石 聡
【氏名】戸田 喜丈
【氏名】横山 壽治
【氏名】林 文隆
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】森坂 英昭
参考文献・文献 特開2003-190787(JP,A)
特開2003-128415(JP,A)
特開2009-208987(JP,A)
特開2007-137684(JP,A)
調査した分野 B01J 21/00 - 38/74
C01C 1/04
特許請求の範囲 【請求項1】
1015cm-3以上の伝導電子を含むマイエナイト型化合物をアンモニア合成触媒の担体とした担持金属触媒からなることを特徴とするアンモニア合成触媒。
【請求項2】
マイエナイト型化合物が、12CaO・7Al23であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記金属触媒の金属が、6族、7族、8族、及び9族金属元素から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記マイエナイト化合物の形状が、粉末、多孔体、固体焼結体、薄膜、固体単結晶のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
1015cm-3以上の伝導電子を含むマイエナイト型化合物粉末に前記金属触媒を含浸法、物理的混合法、熱分解法、液相法、又は蒸着法により担持させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の含浸法は、1015cm-3以上の伝導電子を含むマイエナイト型化合物粉末を遷移金属化合物の溶媒溶液に分散する工程、該溶媒溶液の溶媒を蒸発させて乾固した該遷移金属化合物からなる触媒前駆体を形成する工程、還元雰囲気中で加熱して該遷移金属化合物を還元して前記金属触媒を形成する工程からなることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の触媒を用い、反応装置内で、100℃から600℃以下の反応温度、10kPa~30MPaの反応圧力条件で、原料の窒素と水素を前記触媒上で反応させることを特徴とするアンモニア合成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と窒素とを反応させてアンモニアを合成するために適したアンモニア合成触媒及びその触媒の製造方法並びにその触媒を用いたアンモニア合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人類の生存を支える穀物の生産に欠かせない人工肥料(硫安、尿素肥料)は、アンモニアから作られる。窒素と水素を原料として鉄を主体とした触媒を用いてアンモニア合成を行う技術がハーバー・ボッシュ(Haber-Bosch)によって見いだされ、この技術(「ハーバー・ボッシュ法」と称される)は、1910年代に工業的に完成してから約1世紀経った現在でも、人類の生活を支える必要不可欠な技術となっている。
【0003】
ハーバー・ボッシュ法は、Fe34に数重量%のAl23とK2Oを含んだ二重促進鉄(doubly promoted iron)触媒を用いて、窒素と水素の混合気体を400~600℃、約20MPa~約100MPaの高温高圧条件で直接反応させ、N2+3H2→2NH3の反応よって生成したアンモニアを冷却して、又は水で吸収して分離する方法である。この技術は現在でも、ほぼ完成当時のままの製造工程で工業的に用いられている。
【0004】
一方、300℃以下の低温度でアンモニア合成活性をもつ遷移金属として、Mo,W,Re,Fe,Co,Ru,Osのうちの一種の元素、又はFeとRu,RuとRe、FeとMoとの組み合わせのいずれか1つを実質的に金属状態で使用する触媒が知られている(特許文献1)。Fe,Ru,Os,Co等の8族又は9族遷移金属を触媒とするアンモニア合成方法(特許文献2~4)や、特に、ルテニウムをアンモニア合成の触媒として用いる方法も開発された(特許文献5~8)。さらに、8族又は6B族遷移金属の窒化物やCo・Mo複合窒化物を触媒とするアンモニア合成方法も開発されている(特許文献9、10)。
さらに、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Fe, Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Mn,Cuの群からの少なくとも1つの遷移金属から選ばれる触媒活性成分を担体材料に含有させた触媒を用いて窒素及び水蒸気からアンモニアをプラズマ接触により製造する方法が特許出願されている(特許文献11)。
【0005】
従来、RuやFe等のアンモニア合成用触媒を高効率に利用するために、担体としてマグネシア、アルミナ、グラファイト、及びセリアなどが用いられ、促進剤となる化合物としてアルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などが用いられてきた。
【0006】
通常、アルミナ等の酸性化合物を担体として用いる場合には、電子供与能力を向上させて高活性な触媒とする目的で、電気陰性度の大きな促進剤となる化合物を多量に添加する必要があった。
【0007】
一方、CaO、Al23、SiO2を構成成分とするアルミノケイ酸カルシウム中に、鉱物名をマイエナイトと呼ぶ物質があり、その結晶と同型の結晶構造を有する化合物を「マイエナイト型化合物」という。マイエナイト型化合物は、12CaO・7Al23(以下、「C12A7」と記す)なる代表組成を有し、C12A7結晶は、2分子を含む単位胞にある66個の酸素イオンの内の2個が、結晶骨格で形成されるケージ内の空間に「フリー酸素」として包接されているという、特異な結晶構造を持つことが報告されている(非特許文献1)。
【0008】
2003年以降、このフリー酸素イオンが種々の陰イオンで置換できることが本発明者らにより明らかにされた。特に、強い還元雰囲気にC12A7を保持すると、全てのフリー酸素イオンを電子で置換することができる。フリー酸素イオンを電子で置換したC12A7は、化学式で、[Ca24Al2864]4+(e-4(以下、「C12A7:e-」と記すことができる。また、このように、陰イオンに対し電子が置き換わった物質をエレクトライドと呼び、エレクトライドは良好な電子伝導特性を示す特徴を有する(非特許文献2)。
【0009】
さらに、本発明者らは、導電性マイエナイト型化合物であるC12A7:e-及びC12A7と同型化合物である12SrO・7Al23やC12A7と12SrO・7Al23との混晶化合物とその製造法を見出した(特許文献12)。さらに、Alの一部をGa又はInで置換したマイエナイト型化合物に係わる発明の出願がなされており(特許文献16)、これは、PDP保護膜材料や、有機ELデバイスにおける電荷注入材料など、高温加熱処理が必要とされる電極材料として適する。また、C12A7単結晶を(イ)アルカリ金属又はアルカリ土類金属蒸気中で高温でアニールする方法、(ロ)不活性イオンをイオン打ち込みする方法、又は、(ハ)還元雰囲気で融液から直接固化する方法で、1×1019/cm3以上の濃度の伝導電子を有するC12A7:e-及びC12A7と同型化合物が得られることを見出した(特許文献13)。
【0010】
さらに、C12A7単結晶をチタン金属(Ti)蒸気中でアニールし、金属電気伝導性を示すC12A7:e-を得ることに成功し、その製法及び電子放出材料としてのその用途に関する発明を特許出願した(特許文献14)。金属電気伝導性を示すC12A7:e-に関しては、CaCO3及びAl23を11:7で混合して、1300℃ で加熱した生成物を金属Ca蒸気雰囲気中で加熱することで粉末を直接合成することもできる(非特許文献3)。
【0011】
C12A7:e-に包接される電子は、陽イオンである結晶骨格のケージ内に緩く結合しているために、電場印加又は化学的な手段により外部に取り出すことができる。本発明者らは、外部に取り出された電子を還元反応に用いることができると考え、C12A7:e-に包接される電子でケトン化合物を還元し、2級アルコール及びジケトン化合物を製造する方法を発明し、これを特許出願した(特許文献15)。
【先行技術文献】
【0012】

【特許文献1】特公昭51-47674号公報
【特許文献2】特公昭54-37592号公報
【特許文献3】特公昭59-16816号公報
【特許文献4】WO96/38222号公報
【特許文献5】特開平2-258066号公報
【特許文献6】特開平9-239272号公報
【特許文献7】特開2004-35399号公報
【特許文献8】特開2006-231229号公報
【特許文献9】特開2000-264625号公報
【特許文献10】特開2008-13435号公報
【特許文献11】特開2001-151507号公報
【特許文献12】再表WO2005/000741号公報
【特許文献13】特開2005-314196号公報
【特許文献14】再表WO2007/060890号公報
【特許文献15】特開2008-214302公報
【特許文献16】特開2009-203126号公報
【0013】

【非特許文献1】H.B.Bartl,T.Scheller and N.Jarhrb“Mineral Monatch”,547,(1970)
【非特許文献2】S.Matsuishi,Y.Toda,M.Miyakawa,K.Hayashi,T.Kamiya,M.Hirano,I.Tanaka and H.Hosono,“Science”,301,626-629,(2003)
【非特許文献3】S.Matsuishi,T.Nomura,M.Hirano,K.Kodama,S.Shamoto and H. Hosono,“Chemistry of Materials”,21,2589-2591,(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ハーバー・ボッシュ法は、減容反応であるので、反応効率を高めるためには、約20MPa以上の高圧下で反応させると有利である。また、ハーバー・ボッシュ法では、Feを主体とした触媒の活性を得るために、高温で反応させる必要があることから、合成装置が大型化するとともに熱エネルギーの損失が大きい欠点を有する。更に、既存のアンモニア製造技術では、ワンパス転化率が低いため、未反応ガスのリサイクルを必要とし、これに伴うエネルギー使用量が増加する欠点を有する。
【0015】
一方、Ruをアンモニア合成の触媒として用いると、低圧で反応が進行することが知られており、第2世代のアンモニア合成触媒として注目されている。しかし、Ru単体での触媒能は非常に小さく、その能力を発揮させるには担体や促進剤化合物を用いる必要がある。最近になって、炭素上に担持された、促進された(promoted)Ru触媒が、商業的なプロセスに導入されたが、このRu触媒は高い活性を有するものの、アンモニア合成条件下において担体と水素の反応によりメタンが生成するため、担体としての機能が失われ、プロセスの操業上の困難な障害が発生する欠点を有することが知られている。従って、工業的なアンモニア合成条件においては、安定な触媒の出現が望まれて来た。
【0016】
本発明の課題は、肥料の原料等として最も重要な化学物質の一つであるアンモニアを合成するための安定で高性能な触媒物質であり、高圧を必要としない緩やかな合成条件で触媒活性を発揮し、加えて資源の観点からも有利な触媒物質及びその触媒物質の製造方法並びにその触媒を用いたアンモニア合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、伝導電子を含むマイエナイト型化合物にRu、Feなどの遷移金属を担持させて担持金属触媒を形成すると、アンモニア合成活性が飛躍的に向上し、不安定なアルカリ金属やアルカリ土類金属及びそれらの化合物を促進剤化合物に用いることなく、長時間の反応においても安定であり、従来よりも著しく高性能なアンモニア合成触媒となることを見出した。
【0018】
本発明は、1015cm-3以上の伝導電子を含むマイエナイト型化合物をアンモニア合成触媒の担体とした担持金属触媒からなることを特徴とするアンモニア合成触媒に関する。
【0019】
マイエナイト型化合物は、構造中に内包する酸化物イオン(O2-,O22-)を置換した電子が伝導電子となり、C12A7の場合、組成式([Ca24Al28644+(O2-2-x(e-2x)(0<x≦2)で示される。電子で置換させることにより、伝導電子を1×1015cm-3以上含ませることができる。したがって、伝導電子を含むマイエナイト型化合物は、「導電性マイエナイト型化合物」と称することができる。伝導電子の理論的最大濃度はC12A7の場合、2.3×1021cm-3であり、前記の方法により、理論値に等しい量の伝導電子濃度を持つマイエナイト型化合物を得ることができる。
【0020】
C12A7は伝導電子を含まないものであっても触媒機能を有するが、従来の触媒よりも高いアンモニア合成活性を得るには、本発明の触媒において、マイエナイト型化合物は、1015cm-3以上の伝導電子を含むことが必要である。より多量の伝導電子を含むマイエナイト型化合物ほどアンモニア合成効率が大きくなり、本発明の触媒において、マイエナイト型化合物は、1017cm-3以上の伝導電子を含むものが好ましく、1018cm-3以上の伝導電子を含むものがさらに好ましい。
【0021】
マイエナイト型化合物は、2.8eV及び0.4eVに光吸収を生じる。この光吸収係数を測定することにより電子密度が得られる。試料が粉末体であるときは、拡散反射法を用いると簡便に電子密度が得られる。また、ケージ中の電子はスピン活性があるので、電子スピン共鳴(ESR)を用いてケージ中の電子密度を測定することも可能である。さらに、伝導電子を含むマイエナイト型化合物は、ヨウ素を含む溶液中に溶かすことでヨウ素を還元する。この作用を利用し、酸化還元滴定を行うことでケージ中の電子密度を測定することも可能である。
【0022】
この担持金属触媒は、含浸法、物理的混合法、熱分解法、液相法、蒸着法などの方法で製造できる。好ましくは、1015cm-3以上の伝導電子を含ませたマイエナイト型化合物粉末を遷移金属化合物の溶媒溶液に分散し、次いで、溶媒を蒸発させ、乾固した触媒前駆体を還元雰囲気中で加熱して該遷移金属化合物を還元して触媒金属を形成することにより製造される。この触媒を用いて、反応装置内で、100℃から600℃以下の反応温度、10kPaから30MPaの反応圧力条件で、原料の窒素と水素を触媒上で反応させることによってアンモニアを高効率に合成することができる。
【0023】
[マイエナイト型化合物の定義]
本発明において、「マイエナイト型化合物」とは、鉱物のマイエナイトそれ自体、マイエナイト型岩石、及び鉱物のマイエナイト結晶と同型の結晶構造を有する複合酸化物をいう。マイエナイト型化合物の結晶は、内径0.4nm程度の籠状の構造(ケージ)がその壁面を共有し、三次元的に繋がることで構成されている。通常、マイエナイト型化合物のケージの内部にはO2-などの負イオンが含まれているが、アニールによってそれらを伝導電子に置換することが可能である。アニール時間を長くすることにより、マイエナイト型化合物中の伝導電子濃度は多くなる。
【0024】
導電性マイエナイト型化合物の代表組成は、式[Ca24Al28644+(O2-2-x(e-2x(0<x≦2)で示される。導電性マイエナイト型化合物は、例えば、焼結法で製造したC12A7を、例えば、Ca又はTiの金属蒸気中で、1100℃付近でアニールすることで得ることができる。導電性マイエナイト型化合物の製造方法自体は種々の方法が公知であり、本発明では、これらの方法で得られた該化合物を適宜使用できる。
【0025】
マイエナイト型化合物をTi金属蒸気中でアニールする場合は、24時間程度アニールすれば、3mm厚の単結晶マイエナイト型化合物でも、理論的最大の伝導電子濃度(C12A7の場合2.3×1021cm-3)を有するマイエナイト型化合物を得ることができる。また、化学量論組成のマイエナイト型化合物の融液を還元雰囲気中で固化しても良い。還元雰囲気中の固化で得られたマイエナイト型化合物の伝導電子濃度は、1021cm-3未満である。
【0026】
また、マイエナイト型化合物にAr+イオンを高濃度にイオン打ち込みすることによっても導電性マイエナイト型化合物を作製できる。得られた導電性マイエナイト型化合物中の伝導電子濃度は、光吸収帯の強度から求めることができる(12CaO・7Al23の場合2.8eV)。導電性マイエナイト型化合物の伝導電子濃度が小さいときは、電子スピン共鳴吸収帯の強度からも伝導電子濃度を求めることができる。
【0027】
導電性マイエナイト型化合物は、上記の代表組成の式を構成するCaの一部又は全てがLi、Na、K、Mg、Sr、Ba、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ir、Ru、Rh、Ptからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の典型金属元素、又は遷移金属元素で置換されていてもよい。また、上記の代表組成の式を構成するAlの一部又は全てがB、Ga、C、Si、Fe、Geからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の典型金属元素、又は遷移金属元素で置換されていてもよい。さらに、上記の代表組成の式を構成するOの一部又は全てがH、F、Cl、Br、Auからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の典型元素又は金属元素で置換されていてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の方法により、カルシウム、アルミニウム、酸素といったクラーク数の順位が上位の元素のみで構成された安価で無毒性の化合物を用い、かつ、10kPa~30MPa、より好ましくは10kPa~20MPaの低い反応圧力で少ないエネルギー消費をもって、かつ合成反応を繰り返しても触媒活性の低下が見られないので、高効率に長期の安定性をもって水素と窒素の反応によりアンモニアを合成できる。また、Ruのような高価な希少金属以外の遷移金属元素、例えば、FeやCoなどを坦持物に用いることも可能であり、資源の有効利用の観点からも有用である。また、従来のアルミナ等の担体のようにアルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等の促進化合物を添加しないでもよいので、製造が簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例2におけるRu/C12A7:e-(伝導電子濃度1021cm-3)を繰り返しアンモニア合成反応に用いた時のアンモニア生成量(Yieldof NH3/μmolg-1)の経時変化(Reactiontime/h)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の触媒及び該触媒の製造方法並びに該触媒を用いたアンモニア合成方法(以下、「本発明の方法」という)について詳細に説明する。

【0031】
<マイエナイト型化合物に伝導電子を含ませる工程>
本発明の触媒の製造方法の出発材料に用いるマイエナイト型化合物は、粉末、多孔体、固体焼結体、薄膜、固体単結晶など、その形状はいずれでもよい。また、他の物質からなる担体に担持されているマイエナイト型化合物を用いてもよい。薄膜、固体単結晶以外はマイエナイト型化合物を経由することなく、原料から直接伝導電子を含んだマイエナイト型化合物を製造できる。また、原料として、マイエナイト型鉱物、マイエナイトを含有するスラグや焼却灰等も使用できる。

【0032】
伝導電子を含んだマイエナイト型化合物の粉末の作製は、化学当量組成のマイエナイト型化合物の原料の粉末を還元雰囲気下で加熱すればよい。また、伝導電子を含んだマイエナイト型化合物の固体焼結体の作製は、化学当量組成のマイエナイト型化合物の原料粉末を還元雰囲気下で1300℃程度で加熱焼結し固化すれば良い。

【0033】
伝導電子を含んだマイエナイト型化合物の薄膜の作製は、マイエナイト型化合物の固体焼結体をターゲットに用い、パルスレーザー堆積法(PLD)、スパッタ法、プラズマ溶射法などによりMgO、Y3Al512などの基板上に成膜したマイエナイト型化合物の薄膜を500℃以上で加熱しながら再度PLDによりマイエナイト型化合物薄膜を堆積して一体化させればよい。再度のPLDではプラズマ化されたマイエナイト型化合物が還元剤として働き該薄膜に伝導電子が含まれる。

【0034】
また、伝導電子を含んだマイエナイト型化合物の固体単結晶は、マイエナイト型化合物の原料粉末を1600℃程度で融解した融液を引き上げること(CZ法)によりマイエナイト型化合物単結晶を作製し、真空にしたガラス管中に該単結晶を金属Ca粉末又はTi粉末などと共に封入し還元雰囲気下で加熱して該固体単結晶に伝導電子を含ませればよい。

【0035】
固体焼結体又は固体単結晶の導電性マイエナイト型化合物を粉末に加工することも可能である。粉末加工は、乳鉢中での粉砕、ジェットミルによる粉砕などを用いることができる。粉末の大きさは特に限定されないが、これらの方法により粒子径が100nm~1mm程度の範囲に分布する粒子が得られる。これらの方法により、伝導電子を1×1015cm-3以上含むマイエナイト型化合物を作製する。

【0036】
なお、作製法により粉末、多孔体、固体焼結体、薄膜、固体単結晶に関わらずそれらの表面から伝導電子が抜けていることがある。その場合は、真空、不活性ガス中、又は還元雰囲気下において900℃以上~該化合物の融点(1250℃)未満で加熱し、最表面まで伝導電子を含ませることが望ましい。

【0037】
<遷移金属の担持工程>
遷移金属元素は均一系・不均一系の触媒として各種の合成反応に使用されており、特に、Fe,Ru,Os,Co,Mo等の6族、8族又は9族遷移金属は水素と窒素との直接反応によりアンモニアを合成する触媒として適することが知られている。本発明においては、遷移金属元素として、Cr,Mo,Wから選ばれる6族金属、Mn,Tc,Reから選ばれる7族、Fe,Ru,Osから選ばれる8族、Co,Rh,Irから選ばれる9族の各元素を単独又は組み合わせて用いることができる。また、これらの元素の化合物、例えばCo3Mo3N,Fe3Mo3N,Ni2Mo3N,Mo2Nを用いることもできる。

【0038】
マイエナイト型化合物粉末や多孔体を担体として用いる場合は、前記工程で得られた伝導電子を1×1015cm-3以上含むマイエナイト型化合物粉末や多孔体を、遷移金属化合物と含浸法や物理的混合法で混合する。固体焼結体、薄膜、固体単結晶などを用いる場合は、粉末や多孔体と同様に含浸法や、遷移金属化合物をその表面にCVD法(化学蒸着法)、スパッタ法等で堆積させ、該遷移金属化合物を熱分解して遷移金属を析出させるなどの方法を使用できる。前記の遷移金属の化合物を用いる場合は、例えば、それぞれの金属原料をマイエナイト上にCVD法等で堆積させ、熱分解した後にアンモニアガスにより窒化させる方法を使用することができる。

【0039】
前記遷移金属化合物は特に限定されないが、例えば、トリルテニウムドデカカルボニル[Ru3(CO)12]、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)[RuCl2(PPh3)4]、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)[RuCl2(PPh3)3]、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)[Ru(acac)3]、ルテノセン[Ru(C5H5)]、塩化ルテニウム[RuCl3]、ペンタカルボニル鉄[Fe(CO)5]、テトラカルボニル鉄ヨウ化物[Fe(CO)4I2)]、塩化鉄[FeCl3]、フェロセン[Fe(C5H5)2]、トリス(アセチルアセトナト)鉄(III)[Fe(acac)3]、ドデカカルボニル三鉄[Fe3(CO)12]、塩化コバルト[CoCl3]、トリス(アセチルアセトナト)コバルト(III)[Co(acac)3]、コバルト(II)アセチルアセトナト[Co(acac)2]、コバルトオクタカルボニル[Co2(CO)8]、コバルトセン[Co(C5H5)2]、トリオスミウムドデカカルボニル[Os3(CO)12]、モリブデンヘキサカルボニル[Mo(CO)6]、などの熱分解し易い無機金属化合物又は有機金属錯体などを例示できる。

【0040】
含浸法としては、次の工程を採用できる。例えば、担体粉末を遷移金属化合物溶液(例えば、Ruカルボニル錯体のヘキサン溶液)に分散し、撹拌する。この際、遷移金属化合物は、担体粉末に対して0.01~40wt%、好ましくは0.02~30wt%、より好ましくは0.05~20wt%程度である。その後、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス気流中、又は真空下、50~200℃で30分から5時間の間、加熱して溶媒を蒸発させ乾固する。次に、乾固した遷移金属化合物からなる触媒前駆体を還元する。以上の工程により担体粉末に数nm~数百nmの粒子径の微粒子として遷移金属を坦持した担持金属触媒が得られる。

【0041】
この担持金属触媒の比表面積は0.1~100m2/g程度であり、遷移金属の量は担体粉末に対して0.01~30wt%、好ましくは0.02~20wt%、より好ましくは0.05~10wt%である。遷移金属が担持された担体粉末は、担持工程後も当初と同程度の電子を包接しており、担体として仕事関数が小さいので遷移金属への電子供与能力が大きく、遷移金属上での窒素及び水素の活性化を著しく促進する結果、高性能なアンモニア合成触媒として機能する。この高性能は、水素と窒素の解離の際にエレクトライドの担体表面に密に接触している遷移金属への電子の注入が十分に生じるためと推測される。本発明の触媒は、アルカリ金属やアルカリ土類金属及びそれらの化合物を促進剤化合物に用いないでも高性能なアンモニア合成触媒となるが、必要に応じてこれらの促進剤化合物を用いてもかまわない。

【0042】
また、上記の方法に代えて、同様の条件で伝導電子を1×1015cm-3以上含むマイエナイト型化合物粉末と遷移金属化合物粉末とを物理的混合法により固相混合した後に加熱して、遷移金属化合物を遷移金属に還元分解することによっても同様の形態の担持金属触媒を得ることができる。

【0043】
また、担持金属触媒は通常の成型技術を用い成型体として使用することができる。具体的には、粒状、球状、タブレット、リング、マカロニ、四葉、サイコロ、ハニカム状などの形状が挙げられる。また、適当な支持体にコーティングしてから使用することもできる。

【0044】
<アンモニアの合成>
本発明のアンモニア合成方法は、前記の担持金属触媒を触媒として用い、水素と窒素とを触媒上で反応させてアンモニアを合成する方法である。反応の代表的一形態は、従来のハーバー・ボッシュ法と同じく、窒素と水素の混合気体を加熱加圧下で直接反応させ、N2+3H2→2NH3の反応よって生成したアンモニアを冷却又は水で吸収して分離する方法である。窒素及び水素ガスは、反応器内に設置した担持金属触媒に接触するように供給する。未反応窒素及び水素ガスは生成アンモニアを除去後、反応器にリサイクル循環される。窒素及び水素ガスを供給する前に担持金属触媒の表面を水素ガス又は水素と窒素の混合ガスで還元処理を行い、担持された遷移金属に付着している酸化物等を還元除去する前処理をすることが好ましい。

【0045】
マイエナイト型化合物は大気中では、水の吸着が優先されてしまい、また、過剰な水分下では化合物自体が分解してしまうので、アンモニア合成反応はできるだけ水分を含有しない雰囲気、すなわち、水分含有量が100ppm以下、好ましくは、50ppm以下の、窒素、及び水素ガスを使用することが好ましい。

【0046】
次に、原料の窒素と水素の混合ガス雰囲気下で担持金属触媒を加熱することによって、アンモニアを合成する。窒素と水素のモル比約1/10~1/1、好ましくは1/5~1/1の条件で行うことが好ましい。反応温度は好ましくは100℃以上~600℃未満、好ましくは200℃以上~500℃程度、より好ましくは250℃以上~500℃程度がよい。反応温度が低いほど平衡はアンモニア生成に有利であり、十分なアンモニア生成速度を得ると同時に平衡をアンモニア生成に有利にするには上記範囲が好ましい。

【0047】
合成反応を行う際の窒素と水素の混合ガスの反応圧力は特に限定されないが、好ましくは10kPa~30MPa、実用的な利用を考えると、加圧条件下で反応することが好ましく、実用上は、100kPa~30MPa程度がより好ましい。

【0048】
反応形式は、バッチ式反応形式、閉鎖循環系反応形式、流通系反応形式のいずれでもかまわないが、実用的な観点からは流通系反応形式が最も好ましい。アンモニア合成反応は平衡の関係で、高圧でかつ低温条件が有利である。また、発熱反応のため、反応熱を除去しながら反応させると有利であり、工業的には収率をあげるため、様々な工夫がなされている。例えば、流通系反応装置を用いる場合、触媒が充填された反応器を直列に複数個連結し、各反応器の出口にインタークーラーを設置して除熱することで、各反応器の入り口温度を下げ、高いアンモニア収率を得る方法が提案されている。また、鉄触媒とRu系触媒を充填した触媒層複数個を内部に有する反応器を使用し、各反応層の出口温度を精密制御する方法も提案されている。

【0049】
本発明においては、従来行われている方法と同様に、触媒を充填した一種類の反応器、又は複数の反応器を用いて、アンモニア合成を行うことができる。使用する触媒は本発明の触媒単独、又は本発明の触媒から選ばれる二種類以上の触媒の組み合わせ、若しくは本発明の触媒と公知触媒とを組み合わせの何れも使用することができる。また、複数反応器を連結させる方法や、同一反応器内に複数の反応層を有する反応器の何れも方法も使用することができる。

【0050】
本発明において触媒を組み合わせて使用する場合、本発明の触媒は低温での活性が高いことから、最後の反応器で使用することが好ましい。すなわち、最終的な反応を平衡的に有利な低温で行うことにより高いアンモニア収率を得ることができる。

【0051】
工業的なアンモニア合成の平衡反応条件下において、平衡制約のため反応器の出口の反応ガス中のアンモニア濃度は20%以下であるので、反応ガス中の生成アンモニアを冷却除去後、未反応原料は反応ガスや未反応原料中に含まれる不純物の一部を膜分離などで分離して系外にパージした後、原料としてリサイクル使用される。

【0052】
アンモニア合成法の水素原料は、石炭や石油又は天然ガスを原料に用いて、水蒸気改質、部分酸化改質法や自己熱改質法酸素やシフト反応の組み合わせで製造する方法、バイオマスを原料に用いる方法、水の電気分解による方法、光触媒による水分解の方法など各種の方法で製造される水素原料のいずれの原料も使用することができる。

【0053】
アンモニア合成法の原料として天然ガス原料を用いる場合、水素ガスと窒素ガスは天然ガスの水蒸気改質工程及び部分酸化改質工程、COのシフト反応工程、CO2除去工程、引き続くCOメタネーションによるCO除去工程を経て製造される。前記水蒸気改質反応は吸熱であるためオートサーマル反応で発生する反応熱を利用しており、窒素ガス原料として空気を用いる場合のH/N比は、1.7-2.5モル比程度である。水蒸気改質の未反応ガスは水素ガスを含むため改質工程にリサイクルガスとして循環使用することが好ましく、フレッシュガスとリサイクルガスの比をコントロールすることによって効率的に反応を行う方法が開発されており、本発明においても、同様に前述の方法を使用することができる。

【0054】
一方、高いH/N比の原料を得る方法として、酸素富化した空気を用いる方法が開発されており、このような原料を用いるとリサイクルガス量が減るのでエネルギー的に好ましい方法である。更に、空気を圧縮分離後、酸素はオートサーマル法による水素製造に使用し、窒素を反応ガスやプロセス窒素に使用する方法は、エネルギー節約の観点から好ましい方法であり、本発明における原料製造法としていずれも使用できる。

【0055】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。NH3の生成量をガスクロマトグラフにより定量してアンモニア生成速度を求めることによりアンモニア合成活性の評価行った。
【実施例1】
【0056】
<伝導電子を含むマイエナイト型化合物の調製>
CaCO3及びAl23の各粉末をCaとAlの割合が11:7となるように混合し、アルミナ坩堝中にて1300℃で6時間加熱した。得られた粉末をシリカガラス管内に挿入し1×10-4Paの真空中で1100℃で15時間加熱した。これによって得た粉末3gを、シリカガラス管内に金属Ca粉末0.18gとともに挿入し、700℃で15時間加熱することにより内部を金属Ca蒸気雰囲気として、伝導電子濃度が約2×1021cm-3のC12A7:e-(C12A7e21と表記する)の粉末を得た。
【実施例1】
【0057】
<担体粉末へのRuの担持>
得られたC12A7e21の粉末1gをヘキサン溶媒中に溶かしたRu3(CO)12と混ぜ、溶媒を蒸発させて乾固させた。この時、Ruの担持量がC12A7e21の粉末に対して6wt%となるように溶媒中のRu3(CO)12の量を調節した。得られた粉末を100℃で4時間真空加熱により残余の溶媒成分を除去して触媒前駆体を形成し、次いで前駆体を水素ガス(26.7kPa)雰囲気下で400℃で3時間加熱処理を行いRu3(CO)12を還元した。これによりRu金属を担持したエレクトライド(Ru/C12A7e21)粉末からなる担持金属触媒が得られた。この触媒のBET表面積は、約3m2-1であった。
【実施例1】
【0058】
<アンモニア合成反応>
窒素ガス(N2)と水素ガス(H2)を反応させてアンモニアガス(NH3)を生成する反応を行った。得られた触媒0.3gをU字状のガラス管に詰め、ガラス製閉鎖循環系に取り付けて反応を行った。なお、U字状のガラス管を付けたガラス製閉鎖循環系の内容積は200mlであった。反応前に閉鎖循環系にH226.7kPaを導入し400℃で3時間、Ru/C12A7e21表面の前処理を行った。その後、N26.7kPaとH220.0kPaを導入し、400℃で反応させた。反応は4時間,8時間,12時間行い、経時的にNH3の生成量を測定した。生成物の定量はガスクロマトグラフにより行った。表1にアンモニア生成速度を示す。
【実施例2】
【0059】
1×1019cm-3の電子を含む化学当量組成のC12A7(C12A7e19)を用いた以外は実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。表1にアンモニア生成速度を示す。
【実施例2】
【0060】
[比較例1]
実施例1の導電性マイエナイト型化合物に代えて伝導電子を含まない化学当量組成のC12A7(non-doping)を用いた以外は、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。
【実施例2】
【0061】
[比較例2]
実施例1の導電性マイエナイト型化合物に代えてγ-Al23(BET表面積170 m2g-1)を用いた以外は、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。
【実施例2】
【0062】
[比較例3]
実施例1の導電性マイエナイト型化合物に代えてCaO(BET表面積4 m2g-1)を用いた以外は、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。
【実施例2】
【0063】
[比較例4]
実施例1の導電性マイエナイト型化合物に代えて活性炭(BET表面積800 m2g-1)を用いた以外は、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。表1にアンモニア生成速度を示す。
【実施例2】
【0064】
【表1】
JP0005820817B2_000002t.gif
【実施例2】
【0065】
表1に示すアンモニア生成速度からみて、γ-Al23、CaO、活性炭(Active carbon;AC)などの担体にRuを担持した触媒と、Ruを担持したC12A7(non-doping)とはほぼ同じ性能であることが分かった。一方、電子ドープ量を多くしていくと触媒活性は著しく向上し、Ruを担持したC12A7e21では、既存の触媒の10倍程度高い性能を示すことが分かった。この高い性能は、水素と窒素の解離の際にエレクトライドの担体表面に密に接触しているRu金属への電子の注入が十分に生じるためと推測される。
【実施例3】
【0066】
実施例1と同様の条件により、十数時間合成反応を行った後、反応系内を真空排気し、その後、N26.7kPaとH220.0kPaを反応系内に導入し、400℃で再び十数時間合成反応させた。この操作をさらに3回繰り返すことにより、触媒の安定性を評価した。図1に、Ru/C12A7e21を触媒として用いて、繰り返し合成反応を行った結果について示す。左側から1回目、2回目、3回目、4回目、5回目である。5回合成反応を繰り返しても触媒活性の低下は全く見られず、この合成反応は触媒的に進行していることが明らかとなった。このことから、本触媒は合成反応中に劣化は見られず、長時間使用しても安定であることが示された。
【実施例4】
【0067】
実施例1の担体粉末へのRuの担持方法に代えて、担体粉末とRu3(CO)12とを溶媒を用いずにボールミルを用いて物理的に混合し、450℃で2時間、真空加熱処理を行ってRu担持触媒を形成した。実施例1と同様にアンモニア合成反応を行ったところ実施例1と同様な結果が得られた。
【実施例5】
【0068】
実施例1のRu3(CO)12に代えて鉄カルボニルを用いた以外は実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。なお、Feを担持したエレクトライド粉末からなる触媒のBET表面積は、約3m2-1であった。アンモニア生成速度は、38μmolg-1-1(13μmolm-2h-)であった。従来の鉄を用いた触媒に比べて低温、低圧でアンモニアを合成できることが分かった。この反応条件では、従来のFeを担持した酸化カルシウム、γアルミナ、カーボンではアンモニアが生成しなかった。
【実施例6】
【0069】
<担体粉末へのRuの担持>
C12A7e21の粉末1gとRu3(CO)120.042gをパイレックス(登録商標)ガラス管に入れ、真空封管した。真空封管したものを電気炉内で回転させながら以下のプログラムで加熱処理をした。
[40℃、20min昇温→40℃、60min維持→70℃、120min昇温→70℃、60min維持→120℃、120min昇温→120℃、60min維持→250℃、150min昇温→250℃、120min維持]
その後、真空封管を破り、水素ガス(26.7kPa)雰囲気下、300℃で5時間昇温、2時間加熱処理をすることで、2wt%のRuを担持したエレクトライド(2wt%Ru/C12A7e21)を得た。
【実施例6】
【0070】
<アンモニア合成反応>
窒素ガス(N2)と水素ガス(H2)を反応させてアンモニアガス(NH3)を生成する反応を行った。得られた触媒0.2gを石英ガラス管に詰め、流通系反応装置に取り付けて反応を行った。ガスの流量は、N2:15mL/min,H2:45mL/min,計60mL/minに設定し、圧力:大気圧、反応温度:400℃で反応を行った。流通系の反応器から出てきたガスを0.005M硫酸水溶液中にバブリングさせ、生成したアンモニアを溶液中に溶解させ、生じたアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフにより定量した。表2に反応結果を示す。
【実施例6】
【0071】
<TOFの計算方法>
ターンオーバー頻度(TOF)とは、触媒反応において、1つの活性点が単位時間当たりに平均何回反応に寄与したかを表す数であり、単位時間当たりに生成した反応分子数を触媒活性点数で割り算することで得られる。本触媒反応において、活性点はRuであるため、触媒表面に露出しているRu原子数をCO吸着により求め、単位時間当たりに生成したアンモニア分子数を、Ru原子数で割り算することで求めた。
【実施例7】
【0072】
<担体粉末へのRuの担持>
Ru3(CO)120.0105gを使用した以外は実施例6と同じ条件で触媒の合成を実施し、0.5wt%のRuを担持したエレクトライド(0.5wt%Ru/C12A7e21)を得た。
【実施例7】
【0073】
<アンモニア合成反応>
0.5wt%Ru/C12A7e21を用いた以外は実施例6と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。表2に反応結果を示す。
【実施例8】
【0074】
<担体粉末へのRuの担持>
Ru3(CO)120.0021gを使用した以外は実施例6と同じ条件で触媒の合成を実施し、0.1wt%のRuを担持したエレクトライド(0.1wt%Ru/C12A7e21)を得た。
【実施例8】
【0075】
<アンモニア合成反応>
0.1wt%Ru/C12A7e21を用いた以外は実施例6と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。表2に反応結果を示す。
【実施例8】
【0076】
[比較例5]
実施例6の導電性マイエナイト型化合物に代えて伝導電子を含まない化学当量組成のC12A7(non-doping)を用いた以外は、実施例6と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。
【実施例8】
【0077】
[比較例6]
実施例6~8の導電性マイエナイト型化合物に代えて6wt%Ruを担持したγ-Al23(BET表面積170 m2g-1)を用いた以外は、実施例6~8と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。
【実施例8】
【0078】
[比較例7]
実施例6~8の導電性マイエナイト型化合物に代えて2wt%Ruを担持したCaO(BET表面積4 m2g-1)を用いた以外は、実施例6~8と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。
【実施例8】
【0079】
[比較例8]
実施例6~8の導電性マイエナイト型化合物に代えて9.1wt%RuとBa(Ba/Ru=6.2)を担持した活性炭(BET表面積310 m2g-1)を用いた以外は、実施例6~8と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。
【実施例8】
【0080】
[比較例9]
実施例6~8の導電性マイエナイト型化合物に代えて6wt%RuとCs(Cs/Ru=1)を担持したMgO(BET表面積12 m2g-1)を用いた以外は、実施例6~8と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。
【実施例8】
【0081】
【表2】
JP0005820817B2_000003t.gif
【実施例8】
【0082】
表2に示すアンモニア生成速度からみて、C12A7(non-doping)をエレクトライド(C12A7e21)にすることで大幅に活性が向上することが分かった。また、既存の触媒として最も高活性であると言われている9.1wt%Ru-Ba/Active carbonや、6wt%Ru-Cs/MgOと比較すると、エレクトライドの単位重量当たりの活性はこれらの触媒に匹敵する性能であることが分かった。エレクトライドの表面積は1m2/gと非常に小さく、表面積当たりの活性で比較すると、既存の触媒の10倍程度高い性能を示すことが分かった。さらに、Ruの活性点当たりの性能(TOF)で比較すると、エレクトライドの性能は他の触媒を遙かに凌駕する性能であることが明らかとなった。この高い性能は、水素と窒素の解離の際にエレクトライドの担体表面に密に接触しているRu金属への電子の注入が十分に生じるためと推測される。
【実施例9】
【0083】
<アンモニア合成反応>
窒素ガス(N2)と水素ガス(H2)を反応させてアンモニアガス(NH3)を生成する反応を行った。実施例7で合成した触媒(0.5wt%Ru/C12A7e21)0.2gをステンレス鋼製反応管に詰め、流通系反応装置に取り付けて反応を行った。ガスの流量は、N2:15mL/min,H2:45mL/min,計60mL/minに設定し、圧力:0.1~1.0MPa、反応温度400℃で反応を行った。流通系の反応器から出てきたガスを0.005M硫酸水溶液中にバブリングさせ、生成したアンモニアを溶液中に溶解させ、生じたアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフにより定量を行った。表3に反応結果を示す。
【実施例9】
【0084】
表3に反応ガスの圧力を0.1MPa~1.0MPaに変化させたときのRu担持エレクトライドの触媒活性を示す。加圧することで触媒活性は向上するが、0.7MPa又は1MPaに加圧すると、触媒活性は低下した。これは活性点であるRuへの水素被毒の影響が考えられ、N2分圧を代えることでさらなる活性の向上が見込まれる。
【実施例9】
【0085】
【表3】
JP0005820817B2_000004t.gif
【実施例10】
【0086】
<担体粉末へのFeの担持>
C12A7e21の粉末1gとFe(acac)30.063gをパイレックス(登録商標)ガラス管に入れ、真空封管した。真空封管したものを電気炉内で回転させながら以下のプログラムで加熱処理をした。
[100℃、120min昇温→100℃、60min維持→200℃、120min昇温→200℃、60min維持→350℃、150min昇温→300℃、120min維持]
その後、真空封管を破り、真空排気しながら450℃で5時間昇温、2時間加熱処理を行い、1wt%のFeを担持したエレクトライド(1wt%Fe/C12A7e21)を得た。
【実施例10】
【0087】
<アンモニア合成反応>
1wt%Fe/C12A7e21を用いた以外は実施例6と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。表4にアンモニア生成速度を示す。
【実施例11】
【0088】
<担体粉末へのCoの担持>
C12A7e21の粉末1gとCo2(CO)80.029gをパイレックス(登録商標)ガラス管に入れ、真空封管した。真空封管したものを電気炉内で回転させながら以下のプログラムで加熱処理をした。
[100℃、120min昇温→100℃、60min維持→200℃、120min昇温→200℃、60min維持→350℃、150min昇温→300℃、120min維持]
その後、真空封管を破り、真空排気しながら450℃で5時間昇温、2時間加熱処理を行い、1wt%のCoを担持したエレクトライド(1wt%Co/C12A7e21)を得た。
【実施例11】
【0089】
<アンモニア合成反応>
1wt%Co/C12A7e21を用いた以外は実施例6と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。表4にアンモニア生成速度を示す。
【実施例11】
【0090】
[比較例10]
実施例10の導電性マイエナイト型化合物に代えて伝導電子を含まない化学当量組成のC12A7(non-doping)を用いた以外は、実施例10と同じ条件でFe担持触媒を合成し、アンモニア合成反応を実施した。
【実施例11】
【0091】
[比較例11]
実施例11の導電性マイエナイト型化合物に代えて伝導電子を含まない化学当量組成のC12A7(non-doping)を用いた以外は、実施例11と同じ条件でCo担持触媒を合成し、アンモニア合成反応を実施した。
【実施例11】
【0092】
表4にRu以外の金属としてFeやCoを担持したエレクトライドの触媒活性を示す。電子ドープする前のC12A7(non-doping)にFeやCoを担持した触媒と比較すると、電子をドープしたC12A7e21にFeやCoを担持した触媒の方が10倍以上高い触媒活性を示すことが明らかとなった。このことからFeやCoに対してもエレクトライドからの電子の注入効果があることが確認された。
【実施例11】
【0093】
【表4】
JP0005820817B2_000005t.gif

【産業上の利用可能性】
【0094】
現在、アンモニア製造で多用されているFe34に数重量%のAl23とK2Oを含んだ二重促進鉄触媒を用いる合成方法(ハーバー・ボッシュ法)では約20MPa以上の高圧を要するのに対し、本発明の方法では高圧を必要とせず比較的低圧での合成反応が可能であり、製造過程の簡便化、エネルギー消費の削減からも好ましい方法といえる。また、従来のRu触媒と比べて安価で、著しく高効率でアンモニアを製造できる。
図面
【図1】
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