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明細書 :C12A7エレクトライドの薄膜の製造方法、およびC12A7エレクトライドの薄膜

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成28年5月26日(2016.5.26)
発明の名称または考案の名称 C12A7エレクトライドの薄膜の製造方法、およびC12A7エレクトライドの薄膜
国際特許分類 C23C  14/08        (2006.01)
C04B  35/057       (2006.01)
H05B  33/26        (2006.01)
H01L  51/50        (2006.01)
FI C23C 14/08 K
C04B 35/02 A
H05B 33/26 Z
H05B 33/14 A
国際予備審査の請求
全頁数 35
出願番号 特願2014-521490 (P2014-521490)
国際出願番号 PCT/JP2013/066850
国際公開番号 WO2013/191210
国際出願日 平成25年6月19日(2013.6.19)
国際公開日 平成25年12月27日(2013.12.27)
優先権出願番号 2012139197
2012151848
2013037851
2013071163
2013071154
優先日 平成24年6月20日(2012.6.20)
平成24年7月5日(2012.7.5)
平成25年2月27日(2013.2.27)
平成25年3月29日(2013.3.29)
平成25年3月29日(2013.3.29)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】戸田 喜丈
【氏名】林 克郎
【氏名】伊藤 節郎
【氏名】渡邉 暁
【氏名】宮川 直通
【氏名】渡邉 俊成
【氏名】伊藤 和弘
出願人 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
個別代理人の代理人 【識別番号】100107766、【弁理士】、【氏名又は名称】伊東 忠重
【識別番号】100070150、【弁理士】、【氏名又は名称】伊東 忠彦
審査請求 未請求
テーマコード 3K107
4G030
4K029
Fターム 3K107AA01
3K107CC11
3K107CC45
3K107DD26
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3K107DD46Y
3K107FF06
3K107FF13
3K107FF14
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3K107FF16
3K107GG05
3K107GG28
4G030AA04
4G030AA36
4G030AA63
4G030GA08
4G030GA24
4G030GA27
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4K029DC05
4K029DC09
4K029DC35
4K029DC39
4K029FA09
要約 C12A7エレクトライドの薄膜の製造方法であって、電子密度が2.0×1018cm-3~2.3×1021cm-3の結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを用いて、低酸素分圧の雰囲気下で、気相蒸着法により、基板上に成膜を行うことにより、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜を形成することを特徴とする製造方法。
特許請求の範囲 【請求項1】
C12A7エレクトライドの薄膜の製造方法であって、
電子密度が2.0×1018cm-3~2.3×1021cm-3の結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを用いて、低酸素分圧の雰囲気下で、気相蒸着法により、基板上に成膜を行うことにより、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜を形成することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記ターゲットは、表面研磨処理されていることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記気相蒸着法は、スパッタリング法であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記スパッタリング法は、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、N(窒素)、Ar(アルゴン)、NO(一酸化窒素)、Kr(クリプトン)、およびXe(キセノン)からなる群から選定された少なくとも一つのガス種を用いて実施されることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ターゲットには、プレスパッタリング処理が実施されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記プレスパッタリング処理は、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、N(窒素)、Ar(アルゴン)、およびNO(一酸化窒素)からなる群から選定された少なくとも一つのガス種を用いて実施されることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記非晶質C12A7エレクトライドの薄膜は、10μm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項8】
前記基板は、非加熱状態で使用されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項9】
前記基板は、ガラス基板であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項10】
電子密度が2.0×1018cm-3以上2.3×1021cm-3以下の範囲であり、
4.6eVの光子エネルギー位置において光吸収を示し、
非晶質であることを特徴とするC12A7エレクトライドの薄膜。
【請求項11】
カルシウム、アルミニウム、および酸素を含み、
カルシウムとアルミニウムのモル比が、13:12~11:16の範囲にあることを特徴とする請求項10に記載の薄膜。
【請求項12】
前記4.6eVの位置での光吸収値は、100cm-1以上であることを特徴とする請求項10または11に記載の薄膜。
【請求項13】
10μm以下の厚さを有することを特徴とする請求項10乃至12のいずれか一つに記載の薄膜。
【請求項14】
当該薄膜は、ガラス基板上に形成されていることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか一つに記載の薄膜。
【請求項15】
電子密度が2.0×1018cm-3~2.3×1021cm-3の結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを用いて、低酸素分圧の雰囲気下で、気相蒸着法により成膜を行うことにより、非晶質の薄膜を形成することを特徴とする製造方法。
【請求項16】
カルシウム、アルミニウム、および酸素を含む非晶質固体物質のエレクトライドで構成される非晶質の薄膜。
【請求項17】
電子密度が2.0×1018cm-3以上2.3×1021cm-3以下の範囲であり、
4.6eVの光子エネルギー位置において光吸収を示す、請求項16に記載の薄膜。
【請求項18】
センターの濃度が5×1018cm-3未満である、請求項16または17に記載の薄膜。
【請求項19】
4.6eVの光子エネルギー位置における光吸収係数に対する、3.3eVの位置における光吸収係数の比が0.35以下である、請求項16乃至18のいずれか一つに記載の薄膜。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、C12A7エレクトライドの薄膜の製造方法、およびC12A7エレクトライドの薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶質C12A7は、12CaO・7Al(以下、「C12A7」と称する)で表される代表組成を有し、三次元的に連結された直径約0.4nmの空隙(ケージ)を有する特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は、正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため、酸素イオンによって占められている。しかしながら、このケージ内の酸素イオンは、骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を持つことから、特に、フリー酸素イオンと呼ばれている。結晶質C12A7は、[Ca24Al28644+・2O2-とも表記される(非特許文献1)。
【0003】
また、結晶質C12A7の同型化合物としては、12SrO・7Al(以下S12A7と記す)が知られており、任意のCaとSrの混合比を持つ、C12A7とS12A7の混晶化合物も存在する(非特許文献2)。
【0004】
細野らは、結晶質C12A7の粉末あるいはその焼結体を、H雰囲気中で熱処理して、ケージの中にHイオンを包接させ、次いで、紫外光を照射することにより、ケージ中に電子を包接させて、永続的な導電性を室温で誘起できることを見いだした(特許文献1)。この包接された電子は、ケージに緩く束縛されており、結晶中を自由に動くことができる。このため、この結晶質C12A7は、導電性を示すようになる。
【0005】
このような導電性を有する結晶質C12A7は、特に、結晶質C12A7エレクトライドと呼ばれる。結晶質C12A7エレクトライドは、約2.4eVという極めて低い仕事関数を有することから、冷電子放出源および有機EL素子のための電子注入電極、または化学反応を利用した還元剤等への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開第WO2005/000741号
【0007】

【非特許文献1】F.M.Lea,C.H.Desch,The Chemistryof Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold&Co.,London,1956
【非特許文献2】O.Yamaguchi,A.Narai,K.Shimizu,J.Am.Ceram.Soc.1986,69,C36.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、結晶質C12A7エレクトライドのバルク体は、結晶質C12A7エレクトライドの粉末を高温の還元雰囲気下で焼結処理することにより製造される(特許文献1)。この焼結処理の温度は、例えば、1200℃程度である。
【0009】
しかしながら、このような従来の方法は、バルク状の結晶質C12A7エレクトライドの製造方法としては有効であっても、薄膜状の結晶質C12A7エレクトライドの製造方法としては適さない場合がある。
【0010】
すなわち、例えば1200℃以上のような、高い温度での処理が必要となる従来の方法で、結晶質C12A7エレクトライドの薄膜を製造しようとした場合、薄膜の支持基板となる材料が、ごく一部の耐熱材料に限られてしまう。その結果、薄膜と基板の組み合わせの種類が著しく限定されてしまうという問題が生じる。
【0011】
例えば、各種電気的な装置および/または素子には、しばしば、汎用性のある基板として、ガラス基板が使用されている。しかしながら、汎用のガラス基板の耐熱温度は高くとも700℃程度であり、従来の方法では、ガラス基板の耐熱温度の関係上、結晶質C12A7エレクトライドの薄膜をガラス基板上に成膜することは難しい。
【0012】
従って、このような問題を回避または抑制するため、低いプロセス温度でC12A7エレクトライドの薄膜を製造することができる技術に対して、大きな要望がある。
【0013】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、比較的低いプロセス温度で、C12A7エレクトライドの薄膜を製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、結晶質C12A7エレクトライドの薄膜とは異なる、新規な非晶質の薄膜、およびその製造方法を見出した。
【0015】
本発明では、C12A7エレクトライドの薄膜の製造方法であって、
電子密度が2.0×1018cm-3~2.3×1021cm-3の結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを用いて、低酸素分圧の雰囲気下で、気相蒸着法により、基板上に成膜を行うことにより、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜を形成することを特徴とする製造方法が提供される。
【0016】
ここで、本発明による製造方法において、前記ターゲットは、表面研磨処理されても良い。
【0017】
また、本発明による製造方法において、前記気相蒸着法は、スパッタリング法であっても良い。
【0018】
この場合、前記スパッタリング法は、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、N(窒素)、Ar(アルゴン)、NO(一酸化窒素)、Kr(クリプトン)、およびXe(キセノン)からなる群から選定された少なくとも一つのガス種を用いて実施されても良い。
【0019】
また、本発明による製造方法において、前記ターゲットには、プレスパッタリング処理が実施されても良い。
【0020】
この場合、前記プレスパッタリング処理は、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、N(窒素)、Ar(アルゴン)、およびNO(一酸化窒素)からなる群から選定された少なくとも一つのガス種を用いて実施されても良い。
【0021】
また、本発明による製造方法において、前記非晶質C12A7エレクトライドの薄膜は、10μm以下の厚さを有しても良い。
【0022】
また、本発明による製造方法では、前記基板は、非加熱状態で使用されても良い。
【0023】
また、本発明による製造方法において、前記基板は、ガラス基板であっても良い。
【0024】
さらに、本発明では、
電子密度が2.0×1018cm-3以上2.3×1021cm-3以下の範囲であり、
4.6eVの光子エネルギー位置において光吸収を示し、
非晶質であることを特徴とするC12A7エレクトライドの薄膜が提供される。
【0025】
ここで、本発明による薄膜は、カルシウム、アルミニウム、および酸素を含み、
カルシウムとアルミニウムのモル比は、13:12~11:16の範囲にあっても良い。
【0026】
また、本発明による薄膜において、前記4.6eVの位置での光吸収値は、100cm-1以上であっても良い。200cm-1以上であっても良い。
【0027】
また、本発明による薄膜は、10μm以下の厚さを有しても良い。
【0028】
また、本発明による薄膜は、ガラス基板上に形成されていても良い。
【0029】
さらに、本発明では、電子密度が2.0×1018cm-3~2.3×1021cm-3の結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを用いて、低酸素分圧の雰囲気下で、気相蒸着法により成膜を行うことにより、非晶質の薄膜を形成することを特徴とする製造方法が提供される。
【0030】
さらに、本発明では、カルシウム、アルミニウム、および酸素を含む非晶質固体物質のエレクトライドで構成される非晶質の薄膜が提供される。
【0031】
また、本発明による非晶質の薄膜において、電子密度が2.0×1018cm-3以上2.3×1021cm-3以下の範囲であり、4.6eVの光子エネルギー位置において光吸収を示しても良い。
【0032】
また、本発明による非晶質の薄膜において、Fセンターの濃度は5×1018cm-3未満であっても良い。
【0033】
また、本発明による非晶質の薄膜において、4.6eVの光子エネルギー位置における光吸収係数に対する、3.3eVの位置における光吸収係数の比は、0.35以下であっても良い。
【発明の効果】
【0034】
本発明では、比較的低いプロセス温度で、C12A7エレクトライドの薄膜を製造することが可能な方法を提供することができる。また、本発明では、新規な、非晶質の薄膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】非晶質C12A7エレクトライドの概念的な構造を示した模式図である。
【図2】本発明の一実施例による、C12A7エレクトライドの薄膜の製造方法のフローを概略的に示した図である。
【図3】サンプル5におけるX線回折測定の結果である。
【図4】サンプル1~5における内部透過率の測定結果を示したグラフである。
【図5】サンプル1~5の吸収係数曲線(実線)と、サンプル5の熱処理後の吸収係数曲線(破線)とを合わせて示したグラフである。
【図6】サンプル5のTaucプロットを示した図である。
【図7】サンプル6において得られた内部透過率の測定結果を、サンプル5の同結果と合わせて示したグラフである。
【図8】サンプル7について、紫外光電子分光法により測定した仕事関数を示すグラフである。
【図9】結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを用いて、低酸素分圧の雰囲気下で、気相蒸着法により成膜された非晶質の薄膜の光吸収係数を示したグラフである。
【図10】結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを用いて、低酸素分圧の雰囲気下で、気相蒸着法により成膜された非晶質の薄膜の紫外光電子分光法における光電子の運動エネルギースペクトルを示したグラフである。
【図11】結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを用いて、低酸素分圧の雰囲気下で、気相蒸着法により成膜された非晶質の薄膜の光吸収係数を示したグラフである。
【図12】結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを用いて、低酸素分圧の雰囲気下で、気相蒸着法により成膜された非晶質の薄膜の断面のSTEM像を示したグラフである。
【図13】実施例において作製した有機エレクトロルミネッセンス素子の構成を概略的に示した図である。
【図14】有機エレクトロルミネッセンス素子404、405における、発光特性の評価試験結果をまとめて示したグラフである。
【図15】有機エレクトロルミネッセンス素子406、407における、発光特性の評価試験結果をまとめて示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
まず、本願で使用される用語の定義について説明する。

【0037】
(結晶質C12A7)
本願において、「結晶質C12A7」とは、12CaO・7Alの結晶、およびこれと同等の結晶構造を有する同型化合物を意味する。本化合物の鉱物名は、「マイエナイト」である。

【0038】
本発明における結晶質C12A7は、結晶格子の骨格により形成されるケージ構造が保持される範囲で、C12A7結晶骨格のCa原子および/またはAl原子の一部乃至全部が他の原子に置換された化合物、ならびにケージ中のフリー酸素イオンの一部乃至全部が他の陰イオンに置換された同型化合物であっても良い。なお、C12A7は、Ca12Al1433またはCa24Al2866と表記されることがある。

【0039】
同型化合物としては、これに限られるものではないが、例えば、下記の(1)~(4)の化合物が例示される。
(1)結晶中のCa原子の一部乃至全部が、Sr、Mg、およびBaからなる群から選択される一種以上の金属原子に置換された同型化合物。例えば、Ca原子の一部乃至全部がSrに置換された化合物としては、ストロンチウムアルミネートSr12Al1433があり、CaとSrの混合比が任意に変化された混晶として、カルシウムストロンチウムアルミネートCa12-xSrAl1433(xは1~11の整数;平均値の場合は0超12未満の数)などがある。
(2)結晶中のAl原子の一部乃至全部が、Si、Ge、Ga、In、およびBからなる群から選択される一種以上の原子に置換された同型化合物。例えば、Ca12Al10Si35などが挙げられる。
(3)12CaO・7Alの結晶(上記(1)、(2)の化合物を含む)中の金属原子および/または非金属原子(ただし、酸素原子を除く)の一部が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、およびCuからなる群から選択される一種以上の遷移金属原子もしくは典型金属原子、Li、Na、およびKからなる群から選択される一種以上のアルカリ金属原子、またはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbからなる群から選択される一種以上の希土類原子と置換された同型化合物。
(4)ケージに包接されているフリー酸素イオンの一部乃至全部が、他の陰イオンに置換された化合物。他の陰イオンとしては、例えば、H、H、H2-、O、O、OH、F、Cl、およびS2-などの陰イオンや、窒素(N)の陰イオンなどがある。
(5)ケージの骨格の酸素の一部が、窒素(N)などで置換された化合物。

【0040】
(結晶質C12A7エレクトライド)
本願において、「結晶質C12A7エレクトライド」とは、前述の「結晶質C12A7」において、ケージに包接されたフリー酸素イオン(ケージに包接された他の陰イオンを有する場合は、当該陰イオン)の一部乃至全部が電子に置換された化合物を意味する。

【0041】
結晶質C12A7エレクトライドにおいて、ケージに包接された電子は、ケージに緩く束縛され、結晶中を自由に動くことができる。このため、結晶質C12A7エレクトライドは、導電性を示す。特に、全てのフリー酸素イオンが電子で置き換えられた結晶質C12A7は、[Ca24Al28644+(4e)と表記されることがある。

【0042】
(非晶質C12A7エレクトライド)
本願において、「非晶質C12A7エレクトライド」とは、結晶質C12A7エレクトライドと同等の組成を有し、非晶質C12A7を溶媒とし、電子を溶質とする溶媒和からなる非晶質固体物質を意味する。

【0043】
図1には、非晶質C12A7エレクトライドの構造を概念的に示す。

【0044】
一般に、結晶質C12A7エレクトライドでは、それぞれのケージが面を共有して3次元的に積み重なることにより、結晶格子が構成され、それらのケージの一部に電子が包接される。これに対して、非晶質C12A7エレクトライドの場合、図1に示すように、非晶質C12A7からなる溶媒2中に、バイポーラロン5と呼ばれる特徴的な部分構造が分散された状態で存在する。バイポーラロン5は、2つのケージ3が隣接し、さらにそれぞれのケージ3に、電子(溶質)4が包接されて構成されている。ただし、非晶質C12A7エレクトライドの状態は上記に限られず、ひとつのケージ3に2つの電子(溶質)4が包接されてもよい。
また、これらのケージが複数凝集した状態でもよく、凝集したケージは微結晶とみなすこともできるため、非晶質中に微結晶が含まれた状態も本発明において非晶質とみなす。

【0045】
非晶質C12A7エレクトライドは、半導体的な電気的特性を示し、低い仕事関数を有する。仕事関数は2.4~4.5eVであっても良く、3~4eVであっても良い。非晶質C12A7エレクトライドの仕事関数は、2.8~3.2eVであるのが好ましい。また、非晶質C12A7エレクトライドは、高いイオン化ポテンシャルを有する。イオン化ポテンシャルは7.0~9.0eVであっても良く、7.5~8.5eVであっても良い。

【0046】
バイポーラロン5は、光子エネルギーが1.55eV~3.10eVの可視光の範囲では光吸収がほとんどなく、4.6eV付近で光吸収を示す。従って、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜は可視光において透明である。また、サンプルの光吸収特性を測定し、4.6eV付近の光吸収係数を測定することにより、サンプル中にバイポーラロン5が存在するかどうか、すなわちサンプルが非晶質C12A7エレクトライドを有するかどうかを確認することができる。

【0047】
また、バイポーラロン5を構成する隣接する2つのケージ3は、ラマン活性であり、ラマン分光測定の際に186cm-1付近に特徴的なピークを示す。

【0048】
(C12A7エレクトライド)
本願において、「C12A7エレクトライド」とは、前述の「結晶質C12A7エレクトライド」および「非晶質C12A7エレクトライド」の両方を含む概念を意味する。

【0049】
なお、結晶質C12A7エレクトライド」は、Ca原子、Al原子、およびO原子を含み、Ca:Alのモル比が13:13~11:15の範囲であり、Ca:Alのモル比は、12.5:13.5~11.5:14.5の範囲であることが好ましく、12.2:13.8~11.8:14.2の範囲であることがより好ましい。

【0050】
また、「非晶質C12A7エレクトライド」は、Ca原子、Al原子、およびO原子を含み、Ca:Alのモル比が13:12~11:16の範囲であり、Ca:Alのモル比は、13:13~11:15の範囲であることが好ましく、12.5:13.5~11.5:14.5の範囲であることがより好ましい。また、後述する「非晶質C12A7エレクトライド」の薄膜は、全体の67%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは95%以上が上記組成範囲にあるCa、Al、およびOで構成されることが好ましい。

【0051】
(本発明について)
本発明の一実施例では、C12A7エレクトライドの薄膜の製造方法であって、
(a)電子密度が2.0×1018cm-3~2.3×1021cm-3の結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを準備するステップと、
(b)前記ターゲットを用いて、酸素分圧が0.1Pa未満の雰囲気下で、気相蒸着法により、基板上に成膜を行うことにより、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜が形成されるステップと、
を有することを特徴とする製造方法が提供される。

【0052】
前述のように、従来のC12A7エレクトライドの製造方法は、バルク体を製造することを主眼としており、例えば1200℃以上のような、高温の熱処理プロセスを有する。従って、この製造方法は、基板上に薄膜状のC12A7エレクトライドを製造する方法としては、適さない場合がある。

【0053】
特に、従来の方法では、高温耐熱性のない材料を基板として使用することは難しく、基板材料が著しく制限されるという問題がある。

【0054】
これに対して、本発明による薄膜の製造方法では、結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを使用し、酸素分圧を制御した条件下での気相蒸着法により、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜を形成する。

【0055】
このような本発明の一実施例による製造方法では、従来のような、例えば1200℃以上の高温での熱処理工程が不要となる。すなわち、本発明の一実施例による製造方法では、比較的低いプロセス温度で、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜を製造することができ、これにより、基板の耐熱性に関する制約が緩和または解消され、様々な基板の上に、C12A7エレクトライドの薄膜を形成することが可能となる。

【0056】
(本発明による製造方法の一例について)
以下、図面を参照して、本発明の一実施例による、C12A7エレクトライドの薄膜の製造方法について、詳しく説明する。

【0057】
図2には、本発明の一実施例による、C12A7エレクトライドの薄膜の製造方法のフローを概略的に示す。

【0058】
図2に示すように、この製造方法は、
電子密度が2.0×1018cm-3~2.3×1021cm-3の結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを準備する工程(S110)と、
前記ターゲットを用いて、酸素分圧が0.1Pa未満の雰囲気下で、気相蒸着法により、基板上に成膜を行う工程(S120)と、
を有する。

【0059】
以下、それぞれの工程について詳しく説明する。

【0060】
(工程S110)
まず、以降の工程で使用される成膜用のターゲットが準備される。

【0061】
ターゲットは、結晶質C12A7エレクトライドで構成される。

【0062】
結晶質C12A7エレクトライド製のターゲットの製造方法は、特に限られない。ターゲットは、例えば、従来のバルク状の結晶質C12A7エレクトライドの製造方法を用いて製造しても良い。例えば、結晶質C12A7の焼結体を、Ti、Al、CaまたはCなどの還元剤の存在下で、1150~1460℃程度、好ましくは、1200℃~1400℃程度に加熱処理することにより、結晶質C12A7エレクトライド製のターゲットを製造しても良い。結晶質C12A7の粉体を圧縮して成形した圧粉体をターゲットとして用いてもよい。結晶質C12A7の焼結体を、カーボンおよび金属アルミニウムの存在下で、焼結体と金属アルミニウムが接触しない状態に保ちながら、1230~1415℃で加熱処理することにより、効率的に大面積の結晶質C12A7エレクトライド製のターゲットを作製できる。好ましくは、直径3インチ(76.2mm)以上の面積、2mm以上の厚みを有するターゲットを作製でき、より好ましくは、直径4インチ(101.6mm)以上の面積、3mm以上の厚みを有するターゲットを作製できる。

【0063】
ここで、このターゲット、すなわち結晶質C12A7エレクトライドの電子密度は、2.0×1018cm-3~2.3×1021cm-3の範囲である。結晶質C12A7エレクトライドの電子密度は、1×1019cm-3以上であることが好ましく、1×1020cm-3以上がより好ましく、5×1020cm-3以上がさらに好ましく、1×1021cm-3以上が特に好ましい。ターゲットを構成する結晶質C12A7エレクトライドの電子密度が高いほど、低い仕事関数を有する非晶質C12A7エレクトライドが得られやすくなる。特に、仕事関数が3.0eV以下である非晶質C12A7エレクトライドを得るには、結晶質C12A7エレクトライドの電子密度は、1.4×1021cm-3以上がより好ましく、1.7×1021cm-3以上がさらに好ましく、2×1021cm-3以上が特に好ましい。特に、すべてのフリー酸素イオン(他の陰イオンを有する場合は当該陰イオン)が電子で置換された場合、結晶質C12A7エレクトライドの電子密度は、2.3×1021cm-3となる。結晶質C12A7エレクトライドの電子密度が2.0×1018cm-3を下回ると、成膜によって得られる非晶質C12A7エレクトライド薄膜の電子密度が小さくなる。

【0064】
なお、C12A7エレクトライドの電子密度は、ヨウ素滴定法により、測定することができる。

【0065】
このヨウ素滴定法は、5mol/lのヨウ素水溶液中にC12A7エレクトライド製サンプルを浸漬し、塩酸を加えて溶解させた後、この溶液中に含まれる未反応ヨウ素の量を、チオ硫酸ナトリウムで滴定検出する方法である。この場合、サンプルの溶解により、ヨウ素水溶液中のヨウ素は、以下の反応によりイオン化する:

+e→2I (1)式

また、チオ硫酸ナトリウムでヨウ素水溶液を滴定した場合、

2Na+I→2NaI+Na (2)式

の反応により、未反応のヨウ素がヨウ化ナトリウムに変化する。最初の溶液中に存在するヨウ素量から、(2)式で滴定検出されたヨウ素量を差し引くことにより、(1)式の反応で消費されたヨウ素量が算定される。これにより、C12A7エレクトライドのサンプル中の電子濃度を測定することができる。ヨウ素滴定法は、C12A7エレクトライドが結晶質または非晶質のいずれにおいても適用可能である。

【0066】
結晶質C12A7エレクトライドの電子密度は、光吸収測定法により、測定することができる。結晶質C12A7エレクトライドは、2.8eV付近に特有の光吸収を有するので、その吸収係数を測定することにより、電子密度を求めることができる。特に、試料が焼結体である場合は、焼結体を粉砕して、粉末としたのち、拡散反射法を用いると簡便である。

【0067】
得られたターゲットは、次工程でC12A7エレクトライドの薄膜を成膜する際の原料ソースとして使用される。

【0068】
なお、ターゲットの表面は、使用前に、機械的手段等により研磨されても良い。

【0069】
一般に、従来の方法で得られた結晶質C12A7エレクトライドのバルク体は、表面に、ごく薄い被膜(異物)を有する場合がある。表面にこのような被膜が形成されたターゲットをそのまま使用して、成膜処理を実施した場合、得られる薄膜の組成が所望の組成比から逸脱する可能性がある。しかしながら、ターゲット表面の研磨処理を実施しておくことにより、このような問題を有意に抑制することができる。

【0070】
(工程S120)
次に、前述の工程S110において作製されたターゲットを用いて、気相蒸着法により、基板上に成膜が行われる。

【0071】
本願において、「気相蒸着法」とは、物理気相成膜(PVD)法、PLD法、スパッタリング法、および真空蒸着法を含む、ターゲット原料を気化させてからこの原料を基板上に堆積させる成膜方法の総称を意味する。

【0072】
「気相蒸着法」の中でも、特に、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法では、大面積領域に、比較的均一に薄膜を成膜することができる。なお、スパッタリング法には、DC(直流)スパッタリング法、高周波スパッタリング法、ヘリコン波スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、およびマグネトロンスパッタリング法等が含まれる。

【0073】
以下、スパッタリング法により成膜を行う場合を例に、工程S120について説明する。

【0074】
本発明の実施例では、基板温度は、特に限られず、室温~例えば700℃までの範囲の、いかなる基板温度を採用しても良い。特に、本発明の実施例では、基板を必ずしも「積極的に」加熱する必要はないことに留意する必要がある。(ただし、スパッタリング現象そのものにより、基板温度が「付随的に」上昇する場合はあり得る。)例えば、基板温度は、500℃以下(例えば200℃以下)であっても良い。

【0075】
基板を「積極的に」加熱しない場合、基板の材料として、例えばガラスやプラスチックのような、700℃を超える高温側で耐熱性が低下する材料を使用することが可能になる。

【0076】
なお、基板には、いかなる寸法および形状のものを使用しても良い。また、エレクトライドの薄膜を成膜する前に被成膜基板を真空雰囲気で加熱処理してもよい。例えば、大気に暴露した基板を、真空度10-6Paで300℃、10分保持することで、基板に吸着した水分などが脱離するため、下地表面を清浄化することができる。

【0077】
成膜時の酸素分圧は、0.1Pa未満である。酸素分圧は、0.01Pa以下であることが好ましく、1×10-3Pa以下であることがより好ましく、1×10-4Pa以下であることがさらに好ましく、1×10-5Pa以下であることが特に好ましい。酸素分圧が0.1Pa以上になると、成膜された薄膜に酸素が取り込まれ、電子密度が低下するおそれがある。

【0078】
一方、成膜時の水素分圧は、0.004Pa未満であることが好ましい。0.004Pa以上であると、成膜された薄膜中に水素またはOH成分が取り込まれ、非晶質C12A7エレクトライド薄膜の電子密度が低下する可能性がある。

【0079】
使用されるスパッタガスとしては、特に限られない。スパッタガスは、不活性ガスまたは希ガスであっても良い。不活性ガスとしては、例えば、Nガスが挙げられる。また、希ガスとしては、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)、およびXe(キセノン)が挙げられる。これらは、単独で使用しても、他のガスと併用しても良い。あるいは、スパッタガスは、NO(一酸化窒素)のような還元性ガスであっても良い。

【0080】
スパッタガスの圧力(チャンバー内の圧力)は、特に限られず、所望の薄膜が得られるように、自由に選定することができる。特に、スパッタガスの圧力(チャンバー内の圧力)P(Pa)は、基板とターゲットの間の距離をt(m)とし、ガス分子の直径をd(m)としたとき、

8.9×10-22/(td)<P<4.5×10-20/(td) (3)式

を満たすように選定されても良い。この場合、スパッタ粒子の平均自由行程が、ターゲット~基板間の距離とほぼ等しくなり、スパッタ粒子が残存酸素と反応することが抑制される。また、この場合、スパッタリング法の装置として、背圧が比較的高く、安価で簡易的な真空装置を用いることが可能となる。

【0081】
以上の工程により、基板上に、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜を形成することができる。

【0082】
非晶質C12A7エレクトライドの薄膜の厚さは、特に限られないが、膜厚は、例えば50μm以下である。膜厚は、10μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。1nm以上であっても良い。

【0083】
なお、得られた薄膜がC12A7の組成を有することは、薄膜の組成分析により確認することができる。例えば、XPS法、EPMA法またはEDX法等を用いて薄膜のCa/Al比を測定することにより、薄膜がC12A7の組成を有するかどうかを評価することができる。膜厚が100nm以下の場合はXPS法、100nm以上の場合はEPMA法、3μm以上の場合はEDX法による分析が可能である。また、薄膜が非晶質C12A7エレクトライドであることは、前述のように、サンプルの光吸収特性を測定し、4.6eVの光子エネルギー付近での光吸収の有無を判定することにより確認することができる。

【0084】
なお、膜厚が比較的厚い場合は、ラマン分光測定において、186cm-1付近における特徴的なピークの有無を判定することによっても、薄膜が非晶質C12A7エレクトライドであるかどうかを確認することができる。

【0085】
以上、スパッタリング法を例に、本発明の一実施例による、非晶質C12A7エレクトライド薄膜の製造方法について、簡単に説明した。しかしながら、本発明の製造方法は、これに限られるものではなく、前述の2つの工程(工程S110およびS120)を適宜変更したり、あるいは各種工程を追加しても良いことは明らかである。

【0086】
例えば、前述の工程S120において、スパッタリング法により、基板上に非晶質C12A7エレクトライドの薄膜を形成する前に、ターゲットに対して、プレスパッタリング処理(ターゲットのドライエッチング処理)が実施されても良い。

【0087】
プレスパッタリング処理を実施することにより、ターゲットの表面が清浄化され、その後の成膜処理(本成膜)において、所望の組成の薄膜を形成することが容易となる。

【0088】
例えば、ターゲットを長時間使用すると、ターゲットの表面に酸素が取り込まれ、ターゲットを構成する結晶質C12A7エレクトライドの電子密度が低下する場合がある。このようなターゲットを使用した場合、成膜された薄膜においても、電子密度が低下するおそれがある。また、ターゲットを長時間使用すると、ターゲット(すなわち結晶質C12A7エレクトライド)を構成する各成分のスパッタ速度の違いにより、ターゲットの組成が、最初の組成から逸脱するおそれがある。このようなターゲットを使用した場合、成膜された薄膜においても、組成が所望の値から逸脱するおそれがある。

【0089】
しかしながら、プレスパッタリング処理を実施することにより、このような問題が抑制される。

【0090】
プレスパッタリング処理は、例えば、新たな成膜を実施する前、あるいはターゲットの使用時間が所定の値に到達する度に、実施されても良い。

【0091】
なお、プレスパッタリング処理に使用されるガスは、本成膜の際に使用されるスパッタガスと同一であっても異なっていても良い。

【0092】
特に、プレスパッタリング処理に使用されるガスは、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、N(窒素)、Ar(アルゴン)、および/またはNO(一酸化窒素)であることが好ましい。

【0093】
この他にも、工程S110およびS120の各種変更、ならびに新たな工程の追加が可能である。

【0094】
(本発明による非晶質C12A7エレクトライドの薄膜について)
さらに、本発明の一実施例では、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜が提供される。

【0095】
本発明の一実施例による非晶質C12A7エレクトライドの薄膜は、電子密度が2.0×1018cm-3以上2.3×1021cm-3以下の範囲であり、4.6eVの光子エネルギー位置において光吸収を示す。電子密度は1×1019cm-3以上がより好ましく、1×1020cm-3以上がさらに好ましい。

【0096】
このような非晶質C12A7エレクトライドの薄膜は、前述の製造方法により製造されても良い。

【0097】
なお、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜の電子密度は、前述のヨウ素滴定法により測定することができる。ちなみに、非晶質C12A7エレクトライドの薄膜において、バイポーラロンの密度は、測定された電子密度を1/2倍することにより算定することができる。

【0098】
非晶質C12A7エレクトライドの薄膜の膜厚は、これに限られるものではないが、例えば、10μm以下(例えば2μm以下)であっても良い。1nm以上であっても良い。

【0099】
また、非晶質C12A7エレクトライド薄膜は、単独で提供されても、基板上に形成された状態で提供されても良い。

【0100】
後者の場合、基板の材質は、特に限られない。基板は、例えばガラスのような、700℃を超える高温であまり良好な耐熱性を有さない材料で構成されても良い。

【0101】
本発明による非晶質C12A7エレクトライド薄膜は、例えば、有機EL素子における電極および電子注入層等の層部材、放電電極、ならびに化学合成用の触媒等に適用することができる。

【0102】
本発明による非晶質C12A7エレクトライド薄膜は、ケージ中の電子のホッピング伝導により、導電性を有する。非晶質C12A7エレクトライド薄膜の、室温での直流電気伝導率は、10-9~10-1S・cm-1であっても良く、また、10-7~10-3S・cm-1であっても良い。

【0103】
本発明による非晶質C12A7エレクトライド薄膜は、バイポーラロン5のほかに、部分構造として、酸素欠損に電子が一つ捕獲された、Fセンターを有することがある。Fセンターは複数のCa2+イオンに1つの電子が取り囲まれて構成されており、ケージは有さない。Fセンターは3.3eVを中心として、1.55eV~3.10eVの可視光の範囲で光吸収を有する。

【0104】
センターの濃度が5×1018cm-3未満であると、薄膜の透明性が高まるため、好ましい。Fセンターの濃度が、1×1018cm-3以下であるとより好ましく、1×1017cm-3以下であるとさらに好ましい。なお、Fセンターの濃度は、ESRにおける、g値1.998の信号強度により測定できる。

【0105】
本発明による非晶質C12A7エレクトライド薄膜において、4.6eVの光子エネルギー位置における光吸収係数に対する、3.3eVの位置における光吸収係数の比は、0.35以下であっても良い。

【0106】
非晶質C12A7エレクトライド薄膜は、多結晶薄膜と比較して、結晶粒界を有さないため、平坦性に優れている。本発明による非晶質C12A7エレクトライド薄膜の表面の自乗平均面粗さ(RMS)は、0.1~10nmであってもよく、また、0.2~5nmであってもよい。RMSが2nm以下であると、有機EL素子の層部材として用いたときに、素子の特性が向上するため、より好ましい。また、RMSが10nm以上であると素子の特性が低下するおそれがあるため、研磨工程などを追加する必要が生じる。上記のRMSは、たとえば、原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。

【0107】
(他の実施形態)
また、本発明の他の実施形態として、電子密度が2.0×1018cm-3~2.3×1021cm-3の結晶質C12A7エレクトライドのターゲットを用いて、低酸素分圧の雰囲気下で、気相蒸着法により、基板上に成膜を行うことにより、非晶質の薄膜を形成する製造方法が提供される。

【0108】
得られる非晶質の薄膜は、カルシウム、アルミニウム、および酸素を含む非晶質固体物質で構成されて良い。すなわち、非晶質の薄膜は、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドであって良い。非晶質中に微結晶が含まれた状態も本発明において非晶質とみなす。非晶質の薄膜において、Al/Caのモル比は、好ましくは0.5~4.7であり、より好ましくは0.6~3であり、さらに好ましくは0.8~2.5である。薄膜の組成分析は、XPS法、EPMA法またはEDX法等により行うことができる。

【0109】
非晶質の薄膜の組成は、C12A7の化学量論比と異なっていても良く、製造の際に用いたターゲットの組成比と異なっていても良い。結晶質の場合は、その組成がC12A7の化学量論比と異なる場合は、C12A7結晶と、C3A(3CaO・Al)結晶および/またはCA(3CaO・Al)結晶との混合物となる。C3A結晶およびCA結晶は絶縁体であり、仕事関数も大きいので、結晶質の部位によって電気的な特性が不均質となる。また、これらの結晶はそれぞれ熱的・機械的特性が異なり、不連続な結晶粒界をつくりやすく表面の平坦性も低い。一方、非晶質の薄膜は、その組成がC12A7の化学量論比と異なっていても、C3A結晶およびCA結晶などの異相を生じないので、均質であり、表面の平坦性も高い。

【0110】
非晶質の薄膜は、電子密度が2.0×1018cm-3以上2.3×1021cm-3以下の範囲で電子を含むことが好ましい。電子密度は1×1019cm-3以上がより好ましく、1×1020cm-3以上がさらに好ましい。また、非晶質の薄膜は、4.6eVの光子エネルギー位置において光吸収を示すことが好ましい。

【0111】
非晶質の薄膜は、半導体的な電気的特性を示し、低い仕事関数を有する。仕事関数は2.4~4.5eVであっても良く、2.8~3.2eVであっても良い。また、非晶質の薄膜は、高いイオン化ポテンシャルを有する。イオン化ポテンシャルは7.0~9.0eVであっても良く、7.5~8.5eVであっても良い。本発明の非晶質の薄膜は、5×018cm-3未満のFセンターを有するため、透明性が高い。Fセンターの濃度が、1×1018cm-3以下であるとより好ましく、1×1017cm-3以下であるとさらに好ましい。本発明の非晶質の薄膜において、4.6eVの光子エネルギー位置における光吸収係数に対する、3.3eVの位置における光吸収係数の比は、0.35以下であっても良い。

【0112】
この実施形態における構成、好適態様について、すでに上述した構成、好適態様(例えば、上記工程S110、工程S120にて説明した内容)、分析方法と同じ内容については、説明を省略する。
【実施例】
【0113】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0114】
(例1)
(ターゲットの作製)
まず、CaO粉末およびAl粉末をモル比が12:7となるように調合、混合し、原料粉末を得た。この原料粉末を、空気中で1350℃まで加熱して、結晶質C12A7のバルク体を作製した。
【実施例】
【0115】
次に、結晶質C12A7のバルク体を粉砕して粉末状にした後、この粉末を冷間静水等方圧プレスにより成形して、結晶質C12A7の成形体を得た。さらに、この成形体を金属アルミニウムとともにカーボンるつぼに入れ、真空炉中で熱処理を実施した。カーボンるつぼの中で、成形体と金属アルミニウムは、離間して配置した。熱処理温度は、1300℃とし、保持時間は、6時間とした。これにより、結晶質C12A7エレクトライドの焼結体が得られた。
【実施例】
【0116】
この焼結体を、厚さ5mm、直径3インチの円盤状に切削加工した後、Inを用いてCuバッキングプレートに固定し、スパッタリング用ターゲット(以下、単に「ターゲット」と称する)を得た。
【実施例】
【0117】
光吸収測定から、ターゲットの電子密度を測定した。測定の結果、ターゲットの電子密度は、8.5×1020cm-3であった。
(非晶質C12A7エレクトライドの薄膜の形成)
次に、前述の方法で作製したターゲットを用いてスパッタリング法により、基板の表面に非晶質C12A7エレクトライドの薄膜を成膜した。
【実施例】
【0118】
基板には、直径80mmφ、厚さ2.3mmの石英基板を使用した。
【実施例】
【0119】
成膜装置には、RFマグネトロンスパッタ装置(ANELVA社製)を使用した。成膜は、以下の方法により実施した。
【実施例】
【0120】
まず、装置のカソードに、ターゲットを装着した。次に、装置内部を2.7×10-3Pa以下まで排気した後、Heガス(プレスパッタリング処理用ガス)を導入した。Heガス圧力は、2.66Paとした。
【実施例】
【0121】
次に、ターゲットと基板の間にシャッターを配置し、ターゲットの蒸気が基板の方に搬送されることを防止した。この状態で、ターゲットのプレスパッタリング処理のため、パワー100Wで、カソードに13.56MHzの高周波を印加し、カソード周辺にプラズマを発生させた。放電は、1.5時間の間継続した。これにより、ターゲットの表面がHeスパッタされ、新生表面が露出された。
【実施例】
【0122】
放電を停止し、装置内部を排気した後、装置内にArガス(本スパッタリング処理用ガス)を導入した。Arガス圧力は、2.13Paとした。なお、導入ガスの酸素分圧は、約4.3×10-7Pa未満であり、水素分圧は、1.1×10-6Pa未満であった。チャンバー内の酸素分圧は10-2Pa未満と推定される。
【実施例】
【0123】
次に、前述のプレスパッタリング処理の場合と同様の高周波印加条件によりプラズマを発生させ、ターゲットと基板の間のシャッターを排除した。
【実施例】
【0124】
その後、放電を1時間継続し、スパッタリングによる基板上への成膜処理(本スパッタリング処理)を実施した。なお、基板は、加熱していない。
【実施例】
【0125】
これにより、基板上に薄膜が形成された。薄膜は基板の全面を被覆していた。
【実施例】
【0126】
このプレスパッタリング処理~本スパッタリング処理までの工程を1サイクルとし、サイクル数を変えて、膜厚の異なる複数の薄膜を作製した。
【実施例】
【0127】
触針式の表面粗さ計を用いて、各薄膜の厚さを測定した。1サイクル処理後の薄膜の厚さは、約180nmであった。また、2サイクル処理後の薄膜の厚さは、約400nmであった。同様に、3サイクル処理後、4サイクル処理後、および5サイクル処理後の薄膜の厚さは、それぞれ、約690nm、770nm、および1050nmであった。
【実施例】
【0128】
以下、薄膜の厚さが約180nmの試料を「サンプル1」と称し、薄膜の厚さが約400nmの試料を「サンプル2」と称し、薄膜の厚さが約690nmの試料を「サンプル3」と称し、薄膜の厚さが約770nmの試料を「サンプル4」と称し、薄膜の厚さが約1050nmの試料を「サンプル5」と称する。
【実施例】
【0129】
(評価)
サンプル1~5の薄膜に対して、EDX法により、Ca(カルシウム)/Al(アルミニウム)比を測定した。結果を、以下の表1に示す。
【実施例】
【0130】
【表1】
JP2013191210A1_000003t.gif
表1に示すように、サンプル1~5の薄膜は、いずれも、約12:14のCa:Al比を有することがわかった。このことから、各サンプルにおける薄膜は、C12A7の組成を有することが確認された。
【実施例】
【0131】
サンプル5について、薄膜の電子密度を評価するため、ヨウ素滴定を行った。滴定の結果、サンプル5の薄膜の電子密度は、約(8.8±1.6)×1020cm-3であった。他のサンプルにおいても、サンプル5と同一のターゲットを使用していることから、サンプル1~4の薄膜の電子密度も、サンプル5と同程度であると推定される。
【実施例】
【0132】
以上の評価から、サンプル1~5の薄膜は、いずれもC12A7エレクトライドであることが確認された。
【実施例】
【0133】
次に、得られたサンプル1~5のX線回折測定を実施した。その結果、いずれのサンプルにおいても、ピークは観察されず、ハローのみが観察された。この結果から、サンプル1~5の薄膜は、いずれも非晶質であることがわかった。図3には、一例として、サンプル5において測定されたX線回折パターンを示す。
【実施例】
【0134】
以上の分析結果から、サンプル1~5の薄膜は、いずれも非晶質C12A7エレクトライドであることが推認された。
【実施例】
【0135】
次に、各サンプル1~5の内部透過率を測定した。
【実施例】
【0136】
図4には、各サンプル1~5の内部透過率の測定結果を示す。内部透過率は、各サンプルの光透過率と反射率の測定結果から算定した。より具体的には、光透過率をTとし、反射率をRとしたとき、内部透過率Iは、以下の式で表される:

I=T/(1-R) (4)式

図4から、光子エネルギーが約4.6eVの付近で、透過率が低下していることがわかる。この透過率の低下は、サンプル1からサンプル5の順、すなわち薄膜の膜厚の増加とともに顕著となっている。従って、透過率の低下は、プラズマによる基板表面の損傷のような基板側の影響ではなく、薄膜に起因した影響、すなわち薄膜の光吸収によるものであると言える。また、可視光領域の1.55eVから3.10eVにおける内部透過率はほぼ1であり、可視光において透明である。
【実施例】
【0137】
前述のように、非晶質C12A7エレクトライドのバイポーラロンは、4.6eVの光子エネルギー付近で光吸収を示す。従って、図4の結果は、各サンプルが薄膜中にバイポーラロンを有することを示唆するものである。
【実施例】
【0138】
このように、内部透過率の測定結果から、サンプル1~5の薄膜は、いずれも非晶質C12A7エレクトライドであることがわかった。
【実施例】
【0139】
図5には、サンプル1~5の吸収係数曲線(実線)を示す。この吸収係数曲線は、前述の内部透過率の測定結果を膜厚で規格化することにより算定される。なお、サンプル1~5における吸収係数曲線は、ほぼ一致するため、図5には、サンプル3の結果(実線)のみを示した。また、図5には、サンプル3の熱処理後の吸収係数曲線(破線)を合わせて示している。サンプル3の熱処理条件は、大気中、600℃、1時間とした。
【実施例】
【0140】
この図5の結果から、熱処理によって、約4.6eVの光子エネルギー位置での吸収ピークが観測されなくなることがわかる(同位置での吸収率は、100cm-1未満)。これは、熱処理によってサンプルの薄膜が酸化され、ケージ内の電子が消滅したことを示している。すなわち、熱処理によって、図1に示したような特徴的な構造が失われ、薄膜がエレクトライド(導電性)ではなくなったことがわかる。なお、吸収係数測定の精度は、測定条件によっては、±100cm-1程度であり、そのような場合では、約4.6eVの光子エネルギー位置での吸収係数は200cm-1未満となることで、ほぼ吸収はなくなったとみなせる。
【実施例】
【0141】
図6に示すように、サンプル5のTaucプロットから光学バンドギャップを求めたところ、5.1eVとなった。この値は、結晶質C12A7の光学バンドギャップである5.9eVと比較して、妥当な値であった。
【実施例】
【0142】
以上のように、サンプル1~5の薄膜は、図1に示すような、隣接する2つのケージのそれぞれに電子が包接されたバイポーラロンを有する、非晶質C12A7エレクトライドであることが確認された。
【実施例】
【0143】
(例2)
前述の例1と同様の方法により、基板上に非晶質C12A7エレクトライドの薄膜を形成し、サンプル6を作製した。ただし、この例2では、Heガスによるプレスパッタリング処理は、実施しなかった。その代わり、使用前に、結晶質C12A7エレクトライドのターゲットの表面を、ダイヤモンドやすりで研磨した。なお、Arガスによる本スパッタリング処理の時間は、2時間とした。その他の条件は、例1のサンプル1の場合と同様である。
【実施例】
【0144】
図7には、サンプル6において得られた内部透過率の測定結果を示す。なお、同図には、前述のサンプル2における同結果が合わせて示されている。
【実施例】
【0145】
図7から、サンプル6においても、4.6eVの光子エネルギー位置において、大きな透過率の低下が観測された。
【実施例】
【0146】
このように、サンプル6においても、基板表面に、非晶質C12A7エレクトライドが形成されていることが確認された。
【実施例】
【0147】
(例3)
(非晶質C12A7エレクトライド薄膜の仕事関数)
本スパッタの時間を4分として、シリカガラス基板に代えてITO付きのガラス基板を用いたこと以外は、例1と同様な方法で、ITO上に厚み10nmの非晶質C12A7エレクトライド薄膜が担持された試料を作製した(サンプル7)。
【実施例】
【0148】
このサンプル7の仕事関数を紫外光電子分光法により測定した。清浄な表面を得るため、測定は超高真空下(10-7Pa)で行い、測定前にArスパッタリングにより表面の有機物などを除去した。また、Arスパッタリングの前後でX線光電子分光を行い、薄膜試料に損傷のないことを確認した。さらに、サンプル7に直流電圧(バイアス電圧)を印加して、測定器に対して負電位とした。このようなバイアス電圧の印加により、表面のポテンシャルの影響を排除することができる。
【実施例】
【0149】
図8には、紫外線を照射したサンプル7から放出された電子の運動エネルギー分布を示す。図に示すように、バイアス電圧を5Vから10Vに変化させても、ほぼ同等のスペクトルが得られることから、サンプル7は、チャージアップしておらず、スペクトル形状は仕事関数を反映するものであることが分かる。また、この結果は、サンプル7が導電性を有していることを示している。図中の光電子の最低の運動エネルギーより、サンプル7の仕事関数は、約3.1eVであることが分かった。
【実施例】
【0150】
サンプル7の非晶質C12A7エレクトライド薄膜の表面について、原子間力顕微鏡を用いて、20×20μmの範囲での自乗平均面粗さ(RMS)を測定したところ、約1.9nmであった。一方、非晶質C12A7エレクトライド薄膜を形成する前のITO付きのガラス基板のITO膜(多結晶体薄膜)の表面について同様な測定を行ったところ、RMSは約4.6nmであった。以上の結果より、非晶質C12A7エレクトライド薄膜は、高い平坦性を示し、薄膜素子用途に好適であることが分かった。また、多結晶体薄膜上に非晶質C12A7エレクトライド薄膜を形成することにより、表面の平坦性が向上することが分かった。
【実施例】
【0151】
(例4)
光吸収測定から得られる電子密度が1.5×1021cm-1の結晶質C12A7エレクトライドをターゲットに用いて、スパッタリング法により、基板の表面に非晶質C12A7エレクトライドの薄膜を成膜した。ターゲットの直径は2インチである。
【実施例】
【0152】
成膜装置には、RFマグネトロンスパッタ装置(ULVAC社製)を使用した。成膜は、以下の方法により実施した。
【実施例】
【0153】
まず、装置のカソードに、ターゲットを装着した。次に、装置内部を1×10-5Pa以下まで排気した後、装置内にArガスを導入した。Arガス圧力は、0.21Paとした。導入ガスの酸素分圧は、約4.3×10-7Pa未満である。スパッタガス導入前後のチャンバー内の雰囲気について、質量分析計(堀場エステック社製 残留ガス分析計 MICROPOLE System)を用いて、各ガス成分の分圧を測定した。スパッタガス導入前は、HOの分圧は3×10-6Paであり、酸素分圧は1×10-6Paであった。Arガス導入後は、HOの分圧は測定限界値以下であり、酸素分圧は9×10-6Paであった。
【実施例】
【0154】
次に、パワー50Wで高周波を印加してプラズマを発生させ、ターゲットと基板の間のシャッターを排除し、成膜を行った。なお、ターゲットと基板の間隔は10cmとした。
【実施例】
【0155】
成膜した薄膜の光吸収係数は、サンプルの光透過率と反射率の測定結果から算定した。より具体的には、光透過率をT、反射率をR、膜厚をtとしたとき、光吸収係数Aは、以下の式で表される:

A=Ln(T/(1-R))/t (5)式

図9から、光子エネルギーが約4.6eVの付近で、光吸収が認められる。前述のように、非晶質C12A7エレクトライドのバイポーラロンは、4.6eVの光子エネルギー付近で光吸収を示す。従って、図9の結果は、薄膜中にバイポーラロンを有することを示唆するものである。また、4.6eVの位置の光吸収係数に対する、3.3eVの位置の光吸収係数の比は、0.35以下であった。
【実施例】
【0156】
次に、同じスパッタ条件でITO基板に非晶質の薄膜を成膜し、紫外光電子分光法(UPS)を用いて、薄膜の仕事関数を測定した。非晶質の薄膜の厚みは10nmとした。
【実施例】
【0157】
清浄な表面を得るため、測定は超高真空下(10-7Pa)で行い、測定前にArスパッタリングにより表面の有機物などを除去した。また、Arスパッタリングの前後でX線光電子分光を行い、薄膜試料に損傷のないことを確認した。さらに、サンプルに直流電圧(バイアス電圧)を印加して、測定器に対して負電位とした。このようなバイアス電圧の印加により、表面のポテンシャルの影響を排除することができる。
【実施例】
【0158】
図10には、紫外線を照射したサンプルから放出された電子の運動エネルギー分布を示す。このとき、バイアス電圧を5Vから10Vに変化させても、ほぼ同等のスペクトルが得られることから、サンプルは、チャージアップしておらず、スペクトル形状は仕事関数を反映するものであることが分かる。また、この結果は、サンプルが導電性を有していることを示している。図中の光電子の最低の運動エネルギーより、仕事関数は、約2.9eVであることが分かった。
【実施例】
【0159】
(例5)
ターゲットの電子密度が1.4×1021cm-3である以外は例4と同じスパッタ条件で石英基板とニッケル板上に非晶質の薄膜を成膜した。ただし、分析を容易にするため上記素子を作製した条件とは成膜時間を変え、膜厚を厚くして分析した。得られたサンプルの膜厚は202nmであった。
【実施例】
【0160】
まず、石英基板に成膜したサンプルについて、前述の(5)式を用いて、薄膜の光吸収係数を測定した。図11から、光子エネルギーが約4.6eVの付近で、光吸収が認められる。前述のように、非晶質C12A7エレクトライドのバイポーラロンは、4.6eVの光子エネルギー付近で光吸収を示す。従って、図11の結果は、薄膜中にバイポーラロンを有することを示唆するものである。また、4.6eVの位置の光吸収係数に対する、3.3eVの位置の光吸収係数の比は、0.35以下であった。
【実施例】
【0161】
次に、ニッケル基板に成膜したサンプルについて、EPMAで組成を分析した。チャージアップを避けるためカーボンを50nm成膜した。また、下地ニッケルの影響を避けるため、加速電圧を5kVとした。得られた薄膜は、EPMA分析より、Ca、Al、Oを含み、Al/Caのモル比は1.76であった。
【実施例】
【0162】
(例6)
光吸収測定から得られる電子密度が1.4×1021cm-1の結晶質C12A7エレクトライドをターゲットに用いて、スパッタリング法により、基板の表面に非晶質の薄膜を成膜した。ターゲットの直径は2インチである。
【実施例】
【0163】
成膜装置には、RFマグネトロンスパッタ装置(ULVAC社製)を使用した。成膜は、以下の方法により実施した。
【実施例】
【0164】
まず、ジオマテック製のFlat-ITO基板を用意した。これは、ガラス基板上に150nmのITOが成膜されている。次に、装置のカソードに、ターゲットを装着した。次に、装置内部を5×10-4Pa以下まで排気した後、装置内にArガスを導入した。Arガス圧力は、0.5Paとした。導入ガスの酸素分圧は、約4.3×10-7Pa未満であり、チャンバー内の酸素分圧は10-3Pa未満と推定される。
【実施例】
【0165】
パワー50Wで高周波を印加しよりプラズマを発生させ、ターゲットと基板の間のシャッターを排除し、成膜を行った。なお、ターゲットと基板の間隔は10cmとし、90秒間スパッタ成膜した。
【実施例】
【0166】
図12に、断面のSTEM像を示す。ITOの上に、スパッタ処理により成膜された層が約10nm堆積しているのがわかる。この層からはTEM-EDXによりAl-Ca-Oが検出された。
【実施例】
【0167】
(例7)
以下の方法により、有機EL素子を作製し、その特性を評価した。有機EL素子は、ガラス基板上に、ボトム電極として陰極を配置し、その上に順に、電子注入層、電子輸送層兼発光層、ホール輸送層、ホール注入層およびトップ電極としての陽極を配置し、陰極側から光を取り出す構造とした。
【実施例】
【0168】
(サンプルの作製)
以下の手順で、有機EL素子404および405を作製した。
まず、基板として、縦30mm×横30mmのジオマテック社製Flat-ITO基板を用意した。この基板は、無アルカリガラス上に厚み150nmのITOが成膜してある。
【実施例】
【0169】
ITO上に幅1mmにカットしたカプトンテープを張り付け、エッチング液に2分間浸漬し、カプトンテープを張り付けていない部分のITOを除去した。エッチング液はFeCl・6HOとイオン交換水を重量で1:1とした水溶液を作製し、さらに水溶液と同重量の濃塩酸を加えたものを使用した。エッチング液の温度は45℃とした。
【実施例】
【0170】
その後、カプトンテープを取り除き、中性洗剤で5分間超音波洗浄し、純水で5分間の超音波洗浄を2回実施した。さらに、アセトン中で5分間超音波洗浄し、IPA中で5分間の超音波洗浄を2回実施した。最後に、煮沸したIPA中に浸漬し、ゆっくり取り出した。
【実施例】
【0171】
この幅1mmのITO(陰極420)が配線されたガラス基板410を、スパッタ製膜室と真空蒸着室とグローブボックスが連結した装置に導入し、約3×10-5Paまで排気した。その後、陰極420の上に、電子注入層430として、非晶質の薄膜を成膜した。
【実施例】
【0172】
非晶質の薄膜は、電子密度が1.4×1021cm-3の結晶質C12A7エレクトライドを直径2インチのターゲットとし、スパッタリング法により成膜した。スパッタガスはArとし、導入ガスの圧力は、0.5Paとした。導入ガスの酸素分圧は、約4.3×10-7Pa未満の酸素分圧とした。チャンバー内の酸素分圧は10-3Pa未満と推定される。サンプルとターゲットの間隔(TS距離)は10cmとした。また、RF電源の出力は50Wとした。なお、本成膜の前に、Arガスを用いてプレスパッタリング処理を実施した。ガラス基板410は積極的に加熱しなかった。
得られた非晶質の薄膜の厚さは、約5nmである。
【実施例】
【0173】
その後、この電子注入層430(および陰極420)付きのガラス基板410を同装置内の真空蒸着室に導入し、電子輸送層兼発光層440としてのAlq3層を成膜した。Alq3層の厚さは、約50nmである。次に、ホール輸送層450として、α-NPD層を成膜した。α-NPD層の厚さは、約50nmである。さらに、ホール注入層460としてMoOを製膜した。MoO層の厚さは、約0.8nmである。
【実施例】
【0174】
なお、Alq3層、α-NPD層およびMoO層は、電子注入層430を完全に覆うように、メタルマスクを用いて、20mm×20mmの領域として形成した。蒸着時の真空度は約8×10-6Paであった。
【実施例】
【0175】
次に、幅1mmの陽極470を、陰極と直交するように蒸着した。すなわち、陰極と陽極の重複する1mm×1mmの領域が電圧印加により通電される領域である。陽極470として、銀を厚み80nm成膜した。
【実施例】
【0176】
以上の工程を経て、ガラス基板410、ITOからなる陰極420、非晶質の薄膜からなる電子注入層430、Alq3からなる電子輸送層兼発光層440、α-NPDからなるホール輸送層450、MoOからなるホール注入層460、銀からなる陽極470を備える有機EL素子404を作製した。
【実施例】
【0177】
また、次に、比較例として、電子注入層430を有しないこと以外は同様に有機EL素子405を作製した。
【実施例】
【0178】
(有機EL素子の特性評価)
次に、前述の有機EL素子404および405を用いて、電圧および輝度を測定した。測定は、窒素パージしたグローブボックス内において、各有機EL素子404または405の陰極420と陽極470の間に所定の値の電圧を印加した際に得られる輝度を測定することにより実施した。輝度測定には、TOPCOM社製の輝度計(BM-7A)を使用した。
【実施例】
【0179】
得られた電圧および輝度を図14に示す。非晶質の薄膜からなる電子注入層を有する有機EL素子404では約6.8V以上で発光が確認され、約12Vで2000cd/mの発光が確認された。一方、電子注入層を有しない有機EL素子405では、約7.5V以上で発光が確認され、約9.4Vで60cd/mであった。両者の違いは、電子注入層の有無であることから、非晶質の薄膜によってAlq3への電子注入が増加し、発光特性が改善することが確認できた。
【実施例】
【0180】
(例8)
以下の方法により、有機EL素子を作製し、その特性を評価した。有機EL素子は、ガラス基板上に、ボトム電極として陰極を配置し、その上に順に、電子注入層、電子輸送層兼発光層、ホール輸送層、ホール注入層および
トップ電極としての陽極を配置し、陽極側から光を取り出す構造とした。
【実施例】
【0181】
(サンプルの作製)
以下の手順で、有機EL素子406および407を作製した。
基板として、縦30mm×横30mm×厚み0.7mmの無アルカリガラス基板を用意した。この基板を、中性洗剤で5分間超音波洗浄し、純水で5分間の超音波洗浄を2回実施した。さらに、アセトン中で5分間超音波洗浄し、IPA中で5分間の超音波洗浄を2回実施した。最後に、煮沸したIPA中に浸漬し、ゆっくり取り出した。
【実施例】
【0182】
洗浄後のガラス基板410を、スパッタ製膜室と真空蒸着室とグローブボックスが連結した装置に導入し、約3×10-5Paまで排気した。次に、ガラス基板410を真空蒸着室に導入した。
【実施例】
【0183】
その後、メタルマスクを用いて、ガラス基板410に陰極420として幅1mmのアルミニウムを真空蒸着法にて厚み80nm成膜した。
【実施例】
【0184】
次に、陰極420付きのガラス基板410をスパッタ製膜室に導入し、陰極420の上に、電子注入層430として、非晶質の薄膜を成膜した。
【実施例】
【0185】
非晶質の薄膜は、電子密度が1.4×1021cm-3の結晶質C12A7エレクトライドを直径2インチのターゲットとし、スパッタリング法により成膜した。スパッタガスはArとし、導入ガスの圧力は、0.5Paとした。導入ガスの酸素分圧は、約4.3×10-7Pa未満の酸素分圧とした。チャンバー内の酸素分圧は10-3Pa未満と推定される。サンプルとターゲットの間隔(TS距離)は10cmとした。また、RF電源の出力は50Wとした。なお、本成膜の前に、Arガスを用いてプレスパッタリング処理を実施した。ガラス基板410は積極的に加熱しなかった。
得られた非晶質の薄膜の厚さは、約2nmである。
【実施例】
【0186】
その後、この電子注入層430(および陰極420)付きのガラス基板410を同装置内の真空蒸着室に導入し、電子輸送層兼発光層440としてのAlq3層を成膜した。Alq3層の厚さは、約50nmである。次に、ホール輸送層450として、α-NPD層を成膜した。α-NPD層の厚さは、約50nmである。さらに、ホール注入層460としてMoOを製膜した。MoO層の厚さは、約0.8nmである。
【実施例】
【0187】
なお、Alq3層、α-NPD層およびMoO層は、電子注入層430を完全に覆うように、メタルマスクを用いて、20mm×20mmの領域として形成した。蒸着時の真空度は約8×10-6Paであった。
【実施例】
【0188】
次に、幅1mmの陽極470を、陰極と直交するように蒸着した。すなわち、陰極と陽極の重複する1mm×1mmの領域が電圧印加により通電される領域である。陽極470として、金を厚み5nm成膜した。
【実施例】
【0189】
以上の工程を経て、ガラス基板410、アルミニウムからなる陰極420、非晶質の薄膜からなる電子注入層430、Alq3からなる電子輸送層兼発光層440、α-NPDからなるホール輸送層450、MoOからなるホール注入層460、金からなる陽極470を備える有機EL素子406を作製した。
【実施例】
【0190】
また、次に、比較例として、電子注入層430としてLiFを用いたこと以外は同様に有機EL素子407を作製した。LiFは真空蒸着法にて厚み0.5nm成膜した。
【実施例】
【0191】
(有機EL素子の特性評価)
次に、前述の有機EL素子406および407を用いて、電圧および輝度を測定した。測定は、窒素パージしたグローブボックス内において、各有機EL素子406または407の陰極420と陽極470の間に所定の値の電圧を印加した際に得られる輝度を測定することにより実施した。輝度測定には、TOPCOM社製の輝度計(BM-7A)を使用した。
【実施例】
【0192】
得られた電圧および輝度を図15に示す。非晶質の薄膜からなる電子注入層を有する有機EL素子406では約10Vで1600cd/mの発光が確認された。一方、電子注入層にLiFを用いた有機EL素子407では、約10Vで600cd/mであった。両者の違いは、電子注入層であることから、非晶質の薄膜によってAlq3への電子注入が増加し、発光特性が改善することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明は、例えば、有機EL素子の電極層および電子注入層等に利用することができる。
【0194】
本願は、2012年6月20日に出願した日本国特許出願2012-139197号、2012年7月5日に出願した日本国特許出願2012-151848号、2013年2月27日に出願した日本国特許出願2013-037851号、2013年3月29日に出願した日本国特許出願2013-071154号、および2013年3月29日に出願した日本国特許出願2013-071163号に基づく優先権を主張するものであり、これらの日本国出願の全内容を本願の参照として援用する。
【符号の説明】
【0195】
2 溶媒(非晶質C12A7)
3 ケージ
4 電子(溶質)
5 バイポーラロン
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14